説明

FSAP活性の差異的調節に基づく第VII因子活性化プロテアーゼ(FSAP)のマールブルグI変異の保因者を同定するための診断方法

【課題】 遺伝的関連性のある第VII因子活性化プロテアーゼ(FSAP)のマールブルクI変異体のヘテロ−またはホモ接合型発現を有するヒトを同定するための診断方法の提供。
【解決手段】 MR I多形のヘテロ−またはホモ接合型の存在は、FSAP活性の差異的調節により同定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、西欧人口の約5〜10%で見られる、凝固第VII因子活性化プロテアーゼ(FSAP)のマールブルグI(MR I)変異の診断の技術分野に関する。Willeit等の研究によれば、FSAP MR I変異のヘテロ接合型保因者は平均的人口集団より頚動脈狭窄を発症するより高い危険性を有する(Willeit et al. (2003): Marburg I polymorphism of factor VII-activating protease: a prominent risk predictor of carotid stenosis. Circulation 107, 667-670)。FSAP MR I変異の存在はアテローム硬化性障害を発症する遺伝的素因の潜在的な指標を表すので、FSAP MR I変異のヘテロ−またはホモ接合型保因者の信頼性のある同定については、個人の健康維持の関連から特に関心がもたれている。
【背景技術】
【0002】
FSAPは、PHBSP(血漿ヒアルロナン結合セリンプロテアーゼ)という名前でも記述されてきた血漿セリンプロテアーゼである。FSAPはヒト血漿中に約12μg/mLの濃度で存在し、そして自己触媒化により一本鎖プロ酵素(一本鎖−、sc-FSAP)から活性のある二本鎖プロテアーゼ(二本鎖−、tc-FSAP)へと転換されうる。活性プロテアーゼは種々の機能および活性を有する。FSAPは一方では凝固第VII因子ならびに一本鎖プラスミノゲン・アクチベーター、例えばscuPA(一本鎖ウロキナーゼ・プラスミノゲン・アクチベーター)のようなプラスミノゲン活性化プロウロキナーゼ、およびsctPA(一本鎖組織プラスミノゲン・アクチベーター)を活性化する能力を有している。他方、FSAPは凝固第V/Va因子および第VIII/VIIIa因子を不活化する能力を有している。
【0003】
これらのFSAPの生物学的活性を用いるFSAPの定性的または定量的測定のための各種の試験方法がEP 952 215 A2に記載されている。同様に前記の特許文献ならびにRoemisch等(1999):The FVII activating protease cleaves single-chain plasminogen activators. Haemostasis 29, 292-299およびHunfeld等(1999):Detection of a novel plasma serine protease during purification of vitamin K-dependent coagulation factors. FEBS Letters 456, 290-294に記載されている、活性プロテアーゼを測定することを可能にするさらなるFSAP活性は、低分子量基質に関連する、特に発色性基質S-2288(HD-Ile-Pro-Arg-pNA)に関連する、FSAPのアミド分解活性である。
【0004】
ヒトFSAP遺伝子の野生型配列の他に、各種のヌクレオチド多形が知られており、そして2つのケースではアミノ酸配列の変化が導かれている(EP1182258A1)。いわゆるマールブルグI変異(またはマールブルグI多形、対立遺伝子または変異体)は、シグナルペプチドを含むプロ酵素の位置534でGly/Gluアミノ酸変換を導き(Gly/Glu 534)、それによりプロウロキナーゼ活性化活性が50〜80%減少し、他方、第VII因子を活性化する能力は変わらないままである。他のマールブルグII(MR II)変異(またはMR II多形、対立遺伝子または変異体)とよばれる変異は、シグナルペプチドを含むプロ酵素の位置370でGlu/Glnアミノ酸変換を導く(Glu/Gln 370)。しかし、このマールブルグII変異はプロウロキナーゼ活性化FSAP活性には影響を与えない。
【0005】
少なくとも1コピーのFSAP MR I変異体を持っているヒトは、従来技術に従って、2つの異なった方法論的アプローチを通して同定することができる。プロ酵素の位置534でのGly/Gluアミノ酸変換(Gly/Glu 534)の信頼できる検出は、現在のところ、ゲノムDNAまたはmRNA中の対応するコーデング領域の配列決定でのみ可能である。cDNA中のヌクレオチド位置1601で検出できるゲノム配列中のG/A塩基変換は、FSAP MR I変異体の遺伝的原因を作り出す(EP1182258A1)。たとえDNA配列解析が信頼できる結果を与えるとしても、日常業務の検査室では、可能な限り費用効果が良く迅速で信頼できる試験方法であって、さらに利用可能な診断機器で自動的に実施できる方法を必要としている。好ましいのは、これらの述べられた選定基準を満たしそして既に検査室の診断手順で広範に使用されていることから、主として免疫化学的検出および試験方法である。
【0006】
FSAP MR I変異体の測定のための他の方法は、試料中のプロウロキナーゼ活性化FSAP活性の大きさの測定に基づいている。この目的のために、野生型FSAPと公知のFSAP変異体との間を識別できない特異的抗体を固相に結合させ、そして試料液体とインキュベーションする。FSAP基質としてプロウロキナーゼおよび発色性ウロキナーゼ基質を添加した後、変換した発色素量をプロウロキナーゼ活性化FSAP活性の指標として測定する。マールブルグI変異の保因者は、プロウロキナーゼ活性化活性が50〜80%減少していることを示す。しかし、プロウロキナーゼ活性化活性の減少は試料中のFSAPの低濃度によっても生じるだろう。それゆえに、これまでは、試料中のプロウロキナーゼ活性化活性だけではなくさらにFSAP抗原濃度もまた測定する必要があった(EP1348761A1)。FSAPを免疫学的に検出するようにできるモノクローナル抗体は当該技術分野では公知である。EP1182258A1には、FSAPタンパク質でマウスを免疫した後に得られたマウスハイブリドーマ細胞株のDSMACC2453およびDSMACC2454に由来する2つのモノクローナル抗体が記載されている。いずれの抗体も野生型FSAPタンパク質だけでなくマールブルグIおよびII変異体にも結合する。さらに公知のFSAP抗体が野生型FSAPおよび公知の突然変異体に対して同程度に結合し、それにより試料中のFSAP抗原の総量が例えばサンドイッチELISAで測定される(DE100 23923A1をも参照されたい)。したがって、従来技術はプロウロキナーゼ活性化活性の減少とFSAP抗原の正常範囲濃度とが同時に検出された場合のみ、FSAP MR I変異体の存在が特異的に示されることを教唆している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、MR I変異の信頼できる診断のため、およびMR I変異のヘテロ−またはホモ接合型保因者の同定のための方法であって、それによりFSAP抗原測定をなしですますことが出来るような、さらなる方法を提供しようという目的に基づいていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、MR I多形のヘテロ−またはホモ接合型保因者を非保因者から確実に識別することを可能にする、請求の範囲に記載された本発明の方法を提供することによって達成される。FSAP MR I変異体の活性の差異的調節を用いる本発明の方法の利点は、FSAP MR I変異の保因者と非保因者との間の信頼できる識別から成っており、そして特に、試料中の抗原量の追加測定をなしですますことが可能であることである。
【0009】
差異的活性調節剤(differential activity modulator)と呼ばれる適切な活性調節剤を用いることによって、FSAP活性、特に低分子量のペプチド基質に関するFSAPのアミド分解活性およびプラスミノゲン・アクチベーター活性化FSAP活性が、MR I多形の非保因者由来の試料中では、MR I多形のヘテロ−またはホモ接合型保因者由来の試料中のFSAP活性とは差異的に調節され、それによりFSAP活性調節の異なる程度に基づいてMR I多形の非保因者と保因者との間を識別することが可能であることが見出された。
【0010】
差異的活性調節剤は本発明の文脈中では、以下の:
i)FSAP MR I変異体の保因者由来の試料中のおよびFSAP MR I変異体の非保因者由来の試料中のFSAP活性の両方を阻害もしくは亢進するがその程度は異なるものであるか、または
ii)FSAP MR I変異体の保因者由来の試料中のFSAP活性を阻害しそしてFSAP MR I変異体の非保因者由来の試料中のFSAP活性を亢進するか、もしくはその逆であり、または
iii)試料型の1つではFSAP活性を亢進もしくは阻害するが、他の試料型ではFSAP活性の変化は無視し得る、
ようないずれかの物質または物質の混合物を意味する。
【0011】
したがって、差異的活性調節剤として使用するために適切な物質または物質の混合物は以下の:
a)FSAP MR I変異体の非保因者および保因者それぞれ由来の試料中のFSAP活性の阻害(減少)もしくは亢進(増加)において定量的な差異をもたらす、すなわち両方の試料型でFSAP活性を、例えば増加もしくは減少させるかが、その程度は異なるものであるかまたは
b)FSAP MR I変異体の非保因者および保因者それぞれ由来の試料中のFSAP活性の調節における定量的な差異をもたらす、すなわち試料型の1つでは活性を亢進させすなわち増加させ、他の試料型では活性を減少させすなわち阻害する、
ものである。
【0012】
FSAP MR I変異体の保因者および非保因者由来の試料中のFSAP活性の異なる(差異的)調節は2つの試料型のより優れた差異化を可能にする。図6に示したように、このことによりMR I多形の非保因者および保因者の群由来の試料のFSAP活性分布の重複度が減少する。したがって、非保因者と各種の保因者との間のより優れた差異化が可能となり、それにより診断の感度および/または特異性が増大する[Vitzthum, F.等 (2005) Proteomics: from basic research to diagnostic application. A review of requirements & needs. J. Proteome Res. 4(4): 1086-97]。
【0013】
例えば、差異的活性調節剤としてアプロチニンを使用する場合に、定量的な差異が観察される:すなわち、非保因者由来の試料中のプラスミノゲン・アクチベーター活性化FSAP活性は、FSAP MR I変異の保因者由来の試料中のプラスミノゲン・アクチベーター活性化FSAP活性より強く阻害される。したがって、野生型およびFSAP MR I変異体のヘテロ−またはホモ接合型の保因者は互いに差別化でき、かくして同定できる。
【0014】
したがって本発明は遺伝的関連性のあるFSAP MR I変異のヘテロ−またはホモ接合型発現を有するヒトを同定するためのインビトロの診断方法に関し、この方法では試料中に存在するFSAP活性の変化の程度が測定される。この目的のために、差異的活性調節剤の不在下および存在下で試料中に存在するFSAP活性が測定され、このことにより不在下および存在下でのFSAP活性の測定の実施が、以下のいずれかの様式:
1)並行して、すなわち2つの別々の反応混合液中にて、または
2)連続して、すなわち単独の反応混合液中で、最初に不在下で、そして続いて差異的活性調節剤を添加して、該差異的活性調節剤の存在下にて、
可能となる。
【0015】
FSAP活性の変化の程度を測定するために適した2つの好ましい試験原理を区別できる:
1.2つの反応混合物中の活性の変化の測定
この試験原理では、試料中に存在するFSAP活性を、第一の反応混合液中すなわち試料の第一アリコット中でFSAP活性の差異的活性調節剤の存在下で測定し、次に第二の反応混合液中すなわち試料の第二アリコット中で該差異的活性調節剤の不在下で測定することによって、該FSAP活性の変化の程度が決定される。2つの反応結果を比較して活性調節剤の存在下でのFSAP活性の変化の程度に関する情報が与えられる。
【0016】
生物試料中、好ましくは血液または血漿試料のプラスミノゲン・アクチベーター活性化FSAP活性を、プラスミノゲン・アクチベーターとその基質との反応速度に基づいて、差異的活性調節剤の不在下に一度および存在下に一度、プロウロキナーゼ活性化FSAP活性を測定することによって、該FSAP活性の変化の程度を決定することが好ましい。
【0017】
他の実施態様では、低分子量のFSAP基質の反応速度(kinetics)に基づいて、差異的活性調節剤の不在下に一度および存在下に一度、FSAPのアミド分解活性を測定することによって、生物試料、好ましくは血液または血漿試料中のFSAPのアミド分解活性の変化の程度を測定することが好ましい。
【0018】
2.単一反応混合物中の活性の変化の測定
この試験原理では、試料を1つまたはそれ以上の試薬と共にインキュベーションしFSAP活性を単一反応混合物中で測定できるようにし、次に反応中に差異的活性調節剤を添加し、続いて反応中での変化を知ることで、試料中に存在するFSAP活性の変化の程度を決定する。
【0019】
プラスミノゲン・アクチベーター基質またはウロキナーゼ基質の反応速度に基づいて、最初に差異的活性調節剤の不在下にプロウロキナーゼ活性化FSAP活性を測定することで、生物試料中、好ましくは血液または血漿試料のプラスミノゲン・アクチベーター活性化FSAP活性の変化の程度を決定することが好ましい。次に、反応の間に差異的活性調節剤を反応混合物中に加えて、得られる反応の変化を追跡する。
【0020】
他の実施態様では、低分子量のFSAP基質の反応速度に基づいて、最初に差異的活性調節剤の不在下にFSAPのアミド分解活性を測定することによって、生物試料中、好ましくは血液または血漿試料のFSAPのアミド分解活性の変化の程度を決定する。次に、反応の間に差異的活性調節剤を反応混合物中に加えて、得られる反応の変化を追跡する。
【0021】
本発明の文脈中では「試料」は、FSAPまたはFSAP MR I変異形を含んでいると考えられる材料を意味する。この表現「試料」には、生物学的液体または組織、特にヒトおよび動物由来の、FSAPまたはFSAP MR I変異体を含んでいると考えられる血液、血漿、血清および他の体液、排泄物または抽出物が包含されている。場合によっては、アナライト(analytes)を検出方法にて利用可能にするためまたは干渉する試料成分を除去するために、試料の予備処理が必要である。そうした試料の予備処理には、細胞の除去および/または溶解、沈殿、例えばタンパク質のような試料成分の加水分解または変性、試料の遠心分離、例えばアルコール類、特にメタノールのような有機溶媒による試料の処理、試料の界面活性剤による処理が含まれる。試料はしばしば、該検出方法に可能な限りわずかしか干渉しないような異なった通常水性の媒体に移される。
【0022】
FSAP活性を測定するための好ましい実施態様において、生物学的試料、好ましくは血液または血漿試料は、FSAPに親和性を有する結合パートナーが予め結合されている固相と共にインキュベーションされる。好ましいのは、MR I変異を有するFSAPタンパク質と同じ親和性で野生型FSAPタンパク質と結合する結合パートナーである。FSAPに親和性を示しそして血漿試料のような複合タンパク質溶液からFSAPタンパク質を富化するかまたは分離するために適する結合パートナーは、例えば、ヘパリン、ヘパラン硫酸、硫酸デキストランおよびヒアルロン酸の群由来の物質である。同様に適しているのは、FSAPに対するモノクローナル抗体もしくはポリクローナル抗体またはF(ab')もしくはF(ab')2断片のような抗体断片である。特に好ましいのはハイブリドーマ細胞株のDSMACC2453およびDSMACC2454の1つによって産生されるモノクローナル抗体であり、これらの細胞株はドイツ国のDSMZ −Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH, Mascheroder Weg 1b, 38124 ブラウンシュバイヒ(ブルンスビック)に寄託されている。
【0023】
本発明の文脈中での「固相」という表現は、多孔および/または無孔の、通常は水不溶性の材料から成り、そして、例えば容器、管、マイクロタイタープレート、ビーズ、微粒子、棒、薄片、濾紙またはクロマトグラフィー用紙のような広範囲の形状を有することができる物体を包含する。固相の表面は通常親水性であるかまたは親水性になるように作ることができる。固相は、例えば、無機および/または有機材料のもの、合成のもの、天然由来のものおよび/または修飾された天然由来の材料のような広範囲の材料から成ることができる。固相の例には、重合体、例えばセルロース、ニトロセルロース、酢酸セルロース、塩化ポリビニル、ポリアクリルアミド、架橋デキストラン分子、アガロース、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメタクリレートもしくはナイロン;セラミック;ガラス;金属、特に金および銀のような貴金属;磁鉄鉱;それらの混合物または組合せ物が挙げられる。例えば試料成分の固相への非特異的な結合を減少させもしくは防止するためまたは例えば粒子状固相の懸濁安定性、保存安定性、形状安定性、もしくは紫外線、微生物もしくは他の破壊的作用を有する作用物質に対する抵抗性に関しての改良を行うために、固相は1つまたはそれ以上の層、例えば、タンパク質、炭水化物、親油性物質、バイオ重合体、有機重合体またはそれらの混合物で被覆することができる。微粒子はしばしば固相として使用される。本発明の文脈において「微粒子」という表現は、少なくとも20nm、そして20μmを超えず、通常は40nmから10μmの間、好ましくは0.1から10μmの間、特に好ましくは0.1から5μmの間、なお特に好ましくは0.15から2μmの間の概直径を有する粒子を意味する。微粒子は規則的なまたは不規則な形状を有する。これらは球状、長球状、より大きなまたはより小さな溝または孔を有する球状で表される。微粒子は有機、無機またはこれら2つの混合物もしくは組合せから成ることができる。これらは有孔または無孔のもの、膨張性または非膨張性のものから成ることができる。原則として微粒子はいかなる密度を有することも可能である。微粒子は、多数の層、例えば、1つのコアおよび1つまたはそれ以上の被覆層を有するいわゆるコア−シェル粒子から成ることができる。微粒子という表現には、例えば、色素結晶、金属ゾル、シリカ粒子、ガラス粒子、磁性粒子、重合体粒子、油滴、液体粒子、デキストランおよびタンパク質凝集体、重合性材料、特にポリエチレンから成る粒子、ラテックス粒子、例えばポリスチレンンの、アクリル酸重合体、メタクリル酸重合体、アクリルニトリル重合体、アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン、ポリ酢酸ビニルアクリレート、ポリビニルピロリドン、塩化ビニル−アクリレートが包含される。特に興味のある粒子はその表面に反応性基、例えばカルボキシ、アミノまたはアルデヒド基を有し、それにより例えば結合パートナーとラテックス粒子の共有結合を可能にする。
【0024】
固相を洗浄した後、結合パートナーに結合したFSAPと不活性一本鎖プラスミノゲン・アクチベーター、例えばプロウロキナーゼまたはsct-PAおよびウロキナーゼ基質またはsct-PA基質とをインキュベーションすることによって、プラスミノゲン・アクチベーター活性化FSAP活性が測定される。例えば、プロウロキナーゼからウロキナーゼへのFSAP依存性の活性化が、ウロキナーゼ基質の変換または分解に基づいて測定される。好ましい基質は、シグナル発生基を有する低分子量ペプチド基質である。基質の分解はシグナル発生基の遊離をもたらす。遊離したシグナル発生基の物理的または化学的性質は、ペプチドに結合した該基の性質とは異なっており、そして適切な方法によって定量的に測定できる。適切なシグナル発生基の例は、当業者に知られており、光学的方法、例えば発光、蛍光または吸収測定によって測定できる発光団、蛍光団または発色団である。シグナル強度は分解した基質の量と関連するから、それによりプラスミノゲン・アクチベーター活性化FSAP活性を測定することが可能である。S-2444(Glu-Gly-Arg-パラ-ニトロアニリン; Chromogenix Instrumentation Laboratory S.p.A.、ミラノ、イタリア)、Pefachrom(R) uPA(Ala-Gly-Arg-パラ−ニトロアニリン[Pefa-5221];Pentapharm Ltd.、バーゼル、スイス)およびChromozym U(Roche Applied Science、インジアナポリス、米国)の群由来の低分子量基質を使用することが好ましい。
【0025】
固相を洗浄した後、結合パートナーに結合したFSAPと低分子量基質とをインキュベーションし、そして基質の変換または分解を測定することによって、FSAPのアミド分解活性を測定する。本発明の文脈での低分子量基質とは、2から100、好ましくは2から50、特に好ましくは3から10の天然または非天然アミノ酸の配列から成るペプチド基質であり、さらにシグナル発生基を有しそしてFSAPにより分解される。低分子量基質の分解によりシグナル発生基の遊離がもたらされる。遊離したシグナル発生基の物理的または化学的性質は、ペプチドに結合した該基の性質とは異なっており、そして適切な方法によって定量的に測定できる。適切なシグナル発生基の例は、当業者に知られており、光学的方法、例えば発光、蛍光または吸収測定によって測定できる発光団、蛍光団または発色団である。シグナル強度は分解した基質の量と関連するから、それによりFSAPのアミド分解活性を測定することが可能である。Pefa-3297, Pefa-5114, Pefa-5523, Pefa-5773, Pefa-5979, Pefa-3107, Pefa-5329(全てはPefachromシリーズから、Pentapharm Ltd., バーゼル、スイス)、S-2288, S-2765, S-2366, S-2238, S-2222, S-2302 (全てはSシリーズから、Chromogenix Instrumentation Laboratory S.p.A., ミラノ、イタリア)[Romisch等 (1999) Haemostasis 29, 292-299およびHunfeld等 (1999) FEBS Letters 456, 290-294も参照する]の群由来の低分子量基質を使用することが好ましい。
【0026】
基質分解反応の測定は、平衡が達成されるまでの反応の全ての時間間隔で、または少なくとも1つの定められた時間間隔または少なくとも1つの時間内の点で、行うことができる。活性は光度測定データ、例えばスペクトルまたは定められた波長での吸収値を、それ自体でまたは時間間隔と関連させて用いて測定できる。活性が、時間間隔と関連させた光度測定データにより測定された場合、すなわち変換または反応速度が確認された場合、その変換または反応速度を測定するための各種の方法を採用することが可能である。例えば、変換速度は、時間−変換プロットを用いて測定することができる。時間−変換プロットでは、分解生成物濃度が時間に対してプロットされる。変換速度を決定するために、時間‐変換プロット中でゼロ次反応の範囲内で、通常酵素反応の測定の開始時に、直線を適合させる。次に該直線の勾配が変換速度、すなわち定められた時間間隔内での基質または生成物濃度変化が与えられる[文献:Bisswanger, H., Enzymkinetik: Theorie und Methoden, 2nd completely revised edition, VCH Verlagsgesellschaft mbH, 1994, ワインハイム、ニューヨーク、バーゼル、ケンブリッジ、東京;特に66-67頁]。
【0027】
反応速度を評価するために適当な実測(measured)変数またはパラメータは、例えば、反応速度を記述する全てのパラメータ、例えば曲線スケッチングそれ自体であるが、特に反応速度の個々のパラメータ、例えば最大勾配すなわち反応速度(vmax)、シグモイド(sigmoidity)パラメータ、直線性パラメータ、曲線下面積等が挙げられる。また試験評価に適したパラメータの例には、絶対的な測定の読み取り、例えば定められた時間で測定した吸収、または定められた吸収、例えば最大値に達した時間が挙げられる。
【0028】
2つの反応混合物中のFSAP活性変化の測定において、FSAP活性中の変化の程度を測定するために、好ましくは、活性調節剤の不在下で一度測定されそしてその存在下で一度測定された試験パラメータの差異または商(quotient)が求められる。MR I保因者由来の試料より非保因者由来の試料中のFSAP活性をより強く阻害する阻害剤を用いたときには、例えば、阻害剤不在下での基質変換速度(vmax0)の反応速度(vmax)と阻害剤存在下での基質変換速度(vmax阻害剤)の反応速度との差異または商を求めることによって、MR I保因者と非保因者を識別することが可能である。FSAP MR I変異のヘテロ‐またはホモ接合型保因者は、それぞれ、非保因者より小さい差異および低い商を示す。他のアルゴリズム、例えばその合計(total)またはその積(product)も、それらが識別を可能にすれば同様に適切である。
【0029】
反応速度の他に、絶対的な試験シグナルまたは測定の読み取り、例えば定められた時間で到達した吸収を用いることも可能である(参考:例えば、図1および図2:この場合の適切な時間は、アプロチニン含有および不含混合物の間の最大の差異がここに存在するので、好ましくは10と70分の間、特に好ましくは30と45分の間の時間間隔、特に40分と定めることができる。)。
【0030】
FSAP活性変化を単一反応混合物中で測定した場合には、差異的活性調節剤の添加の前および後での基質分解反応を測定する必要がある。差異的活性調節剤の添加の前の少なくとも1時点でまたは別々の時間間隔で、および添加の後の少なくとも1時点でまたは別々の時間間隔で、反応を測定することが少なくとも必要である。
【0031】
本発明の方法で使用するための好ましいFSAP活性の差異的活性調節剤はアプロチニンである。アプロチニンはMR I保因者由来の試料中に比べて非保因者由来の試料中のFSAP活性をより強く阻害する(表3を参照)。
【0032】
本発明の方法で使用するためのさらに好ましいFSAP活性の差異的活性調節剤はモノクローナルまたはポリクローナル抗FSAP抗体である。特に好ましいモノクローナル抗体は、ドイツ国のDSMZ−Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH, Mascheroder Weg 1b, 38124 Brunswickに寄託番号DSMACC2454(EP1182258A1)、DSMACC2726およびDSMACC2674(共にEP1630175A1)で寄託されているハイブリドーマ細胞株の1つによって産生されるものである。同様に好ましいのは、直前に述べた抗体の1つまたはそれ以上により結合するFSAPのエピトープに結合する抗FSAPモノクローナル抗体であり、それはハイブリドーマ細胞株DSMACC2454、DSMACC2726およびDSMACC2674の1つにより産生される。それらのモノクローナル抗体はFSAPに結合しそしてMR I保因者由来の試料中より異なった程度非保因者由来の試料中のFSAP活性を調節する(表3を参照)。
【0033】
ある物質または物質の組み合わせが本発明の文脈中で差異的活性調節剤として使用するために適切であるかどうかを確定するための、可能な方法は以下のようでものある:
【0034】
プラスミノゲン・アクチベーター活性化FSAP活性に対する試験すべき物質または試験すべき物質の組み合わせの影響を、FSAP MR I変異体を含むことが知られている試料およびFSAP MR I変異体は含まないがFSAP野生型を含むことが知られている試料を用いて測定される。これに関する試料は、例えばFSAP遺伝型が知られている1人またはそれ以上のヒトからのものである。さらに、決められた量のFSAP野生型タンパク質またはFSAP MR Iタンパク質を含有する試料を使用することも可能である。そうした試料を調製するために使用できるFSAPタンパク質またはFSAP MR Iタンパク質は、例えばヒトの生物学的材料から富化もしくは分離できるし、または組み換え法もしくはトランスジェニック的に製造してもいい。FSAPタンパク質の豊富化、分離、調製または安定化のための方法は、例えば文献EP1226829A2、EP1074 615A1およびEP1074616A1に記載されている。
【0035】
次に、各種の試料中に存在するプラスミノゲン・アクチベーター活性化FSAP活性を、調べる物質の不在下および存在下で測定される。差異的活性調節剤としての適合性を調べる物質または物質の組み合わせは、この場合少なくとも1つの濃度で、しかし好ましくは種々の濃度で、アプロチニンについての例として示した図1および2のように用いられる。
【0036】
FSAP MR I変異体を含まずFSAP野生型の活性を示す試料とFSAP MR I変異体を有する試料を比較して試料のプラスミノゲン・アクチベーター活性化FSAP活性の変化の程度により、差異的活性調節剤として使用できる物質または物質の組み合わせの同定が可能になる。これに関して、FSAP MR I変異体の活性およびFSAP野生型の活性の両方での阻害または亢進の異なった程度により、差異的活性調節剤としての物質を同定することが可能である。しかしながら、FSAP MR I変異体の活性を阻害しそしてFSAP野生型の活性を亢進させるか、またその逆である物質もまた差異的活性調節剤である。
【0037】
物質が差異的活性調節剤として適切かどうかの最初の試験は、比較的少数の試料で、例えば各場合に少なくとも1つのFSAP MR I変異体で、しかし好ましくは各場合に2から10の試料で実施される。この場合に顕著な好ましくは統計的に有意なFSAP野生型およびFSAP MR Iを有する試料の識別を可能にする物質は、より多い数の試料を用いた追加の試験で有効性を評価できる。
【0038】
物質または物質の組み合わせの有効性評価に用いられる追加の試験で、FSAP MR I変異体の存在または不在を測定するための試験の効率性について十分な診断的特異性および感受性を有する現実的な情報を得るためには、好ましくは知られた遺伝型を有するヒト由来の試料を使用する。そうした第I相試験において調べられる試料の数は、該試験で予期される正確度およびFSAP MR I変異体を含むおよび含まない試料の数の割合に依存している[Obuchowski, N.A.等 (2004) ROC Curves in Clinical Chemistry: Uses, Misuses and Possible Solutions, Clinical Chemistry, 50:7, 1118-1125]。試験の正確度がほとんど完璧で、FSAP MR I変異体を含むおよび含まない試料の数の比が1に等しい場合は、統計学的に有意な値を得るためには各場合に10個の試料で十分である。FSAP MR I変異体を含むおよび含まない試料の数の比が増加および減少するにつれてそして試験の正確度が減少するにつれて、試料の数は増加する。この場合、例えば各場合に100個を越える試料を調べる必要がある。
【0039】
差異的活性調節剤としての適合性に関連する物質または物質の組み合わせの試験は、例えばそれらの物質の存在下および不在下での、好ましくは種々の濃度でのプロウロキナーゼ活性化FSAP活性を測定することで行うことができる。例えば、FSAPに親和性を有する固相に結合した結合パートナー、特にハイブリドーマ細胞株DSMACC2453により産生された抗FSAP抗体が実施例1で用いられており、そして実施例1に記載したように活性のアッセイを行う。FSAP MR I変異体の保因者と非保因者との間の識別は、物質を加えない試料の反応速度のvmaxであるvmax0と物質を加えたvmax物質との商を求めることで決定される。
【0040】
FSAPのアミド分解活性の差異的活性調節剤としての適合性に関連して物質または物質の組み合わせを調べる目的の場合にも、類似した手順を用いることが可能である。実施例2に記載されたようなFSAPのアミド分解活性を測定するための試験方法は、一度目は調べる物質の不在下および一度はその存在下で行うことができ、そして試験結果は、直前で記載したように物質の適合性を評価するための類似の様式で用いることができる。
【0041】
FSAP活性の差異的活性調節剤としての適合性について調べるために、特に適した物質のクラスの例には以下のものが挙げられる:
a)イオン類(塩化物、カーボネート、サルフェート、ホスフェート等のような陰イオン、またはナトリウム、リチウム、アンモニウム、マグネシウム、カルシウム、マンガン等のような陽イオン);
b)キレート剤、例えばエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレングリコールビス(β−アミノエチルエーテル)−N,N,N',N'−四酢酸、クエン酸等;
c)洗剤、例えばドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、トリトン(R) X100、ツイーン(R)等;
d)酸化還元活性物質、例えばジチオエリスロール、ジチオスレイトール、β−メルカプトエタノール、グルタチオン、リポ酸、ビタミンC、ビタミンE等;
e)核酸、特にアプタマー;
f)抗体;
g)タンパク質、ペプチドおよびオリゴペプチド類、例えば、アンチトロンビンIII、C1−エステラーゼ阻害インヒビター、組織因子経路インヒビター(TFPI)、ヘパリン補因子II、α2−マクログロビン、α2−アンチプラスミン、インター−α−トリプシンインヒビター、α1−アンチトリプシン、α1−アンチキモトリプシン、2型プラスミノゲン・アクチベーター・インヒビター(PAI-2)、3型プラスミノゲン・アクチベーター・インヒビター(PAI-3)、キニノゲン、高分子量キニノゲン(HMWK)等;
h)合成セリンプロテアーゼ阻害剤、例えばFOY-305[N,N−ジメチル−カルバモイルメチル−4−(4−グアニジノベンゾイルオキシ)フェニルアセテート・メタン−スルホネート]および対応する誘導体;
i)低分子量プロテアーゼ阻害剤、例えばフォイパン(FOIPAN)(カモシタットメシレート)。
【0042】
次に願書に添付した図面について説明する。
図1は、非保因者(野生型)の血漿試料について見られた、アプロチニンの存在下でのプロウロキナーゼ活性化FSAP活性の阻害を示す。
図2は、MR I多形のヘテロ接合型保因者の血漿試料について見られた、アプロチニンの存在下でのプロウロキナーゼ活性化FSAP活性の阻害を示す。
図3は、FSAP MR I変異体の非保因者(野生型)の血漿プールの試料について見られた、アプロチニンの存在下でのアミド分解FSAP活性の阻害を示す。
図4は、MR I多形のヘテロ接合型保因者の血漿試料について見られた、アプロチニンの存在下でのアミド分解FSAP活性の阻害を示す。
図5は、非保因者(野生型;白い円)およびMR I多形のヘテロ接合型保因者(黒い四角)の血漿試料について、アプロチニンの不在下および、約1時間の反応時間で添加した(矢印)後のアプロチニンの存在下でのアミド分解FSAP活性の変化を示し、該活性は単一反応混合物中で測定された。両方の試料共、最初はアプロチニンの不在下で同じFSAP活性を示すために識別はできないが、アプロチニンの存在下で活性は変化し、FSAP活性が非保因者の試料ではより強く阻害されるので2つの試料は識別できる。
例として、図6は、例えば野生株ホモ接合型保因者(破線)とMR Iへテロ接合型保因者(実線および点線)の群由来の試料中のFSAP活性のような、実側変数の可能な頻度分布を示す。この場合に用いた点線の調節剤は野生型ホモ接合型保因者のFSAP活性への影響はないが、MR Iへテロ接合型ではFSAP活性をさらに減少させる。野生型とMR Iへテロ接合型の保因者の群由来の試料のFSAP活性の分布の重なりは、活性調節剤の存在下ではその不在下より小さかった。したがって、各種の保因者および形態の間で、活性調節剤の存在下ではその不在下に比べてより良い識別が可能であり、したがって診断の感受性および/または特異性は増加する。
【0043】
以下に記載した実施例は本発明の個々の局面の例示的に説明するためのものであって、本発明を制限するものとして理解されるべきではない:
【0044】
実施例1
差異的活性調節剤のアプロチニンの存在下および不在下でのプロウロキナーゼ活性化FSAP活性の測定
ハイブリドーマ細胞株DSM ACC2453により産生された抗FSAP抗体を、固相に結合させたFSAPに親和性を有する結合パートナーとして用いた。ポリスチレンミクロタイタープレート(MTP)を、不均一系検出方法を行うための固相として用いた。50mM NaHCO3, pH8.2中の抗FSAP抗体を、MTPのウエル当たり120μlのコーティング容積および1mL当たり抗体20μgのコーティング濃度を用いて、室温でポリスチレン固相へ終夜結合させた。非結合抗体を50mM リン酸ナトリウム緩衝化等張NaCl溶液、0.02% ツイーン(R)20, pH6.5を用いて三回洗浄して除去した。
【0045】
各場合に、測定すべき血漿試料の100μlを、試料緩衝液(20mM クエン酸, pH6.0, with 150mM NaCl, 100mM L−アルギニン一塩酸, 1% ウシ血清アルブミン, 0.1% ツイーン(R)80, 100I.U. /mlのヘパリンを含む)中で1:80に希釈してウエルにピペットで注入した。+37℃で1時間インキュベーションした後、非結合成分を50mM リン酸ナトリウム緩衝化等張NaCl溶液、0.02% ツイーン(R)20, pH6.5を用いて三回洗浄して除去した。
【0046】
プロウロキナーゼ活性化FSAP活性を測定するために、試料の除去および固相の洗浄の後、
a)30μlの試験緩衝液I(50mM トリス塩酸, pH7.2, 150mM NaCl, 0.2% ツイーン(R)80, 15mM CaCl2 および50I.U./ml のヘパリンを含む)、または
b)30μlの、追加的にアプロチニンを、反応混合液中で最終アプロチニン濃度が0.055 KIU/mlになるような濃度で加えた試験緩衝液I(1U=1カリクレイン−阻害単位[KIU];アプロチニンはウシ肺由来、Sigma-Aldrich Laborchemikalien GmbH, タウフキルヘン、ドイツ)、
そして各場合、組み換えプロウロキナーゼ(Landing Biotech Inc., ブライトン、マサチューセッツ州、米国;試験緩衝液I中5μg/ml)、および各場合、試験緩衝液II(100mM トリス塩酸, 150mM NaCl, 15mM アジ化ナトリウム, 0.1% ツイーン(R)80, pH8.2)中の発色性基質S-2444(0.6mM)をMTPウエル中に注入し、そして+37℃でインキュベーションした。反応混合物の吸収(OD)の変化を405nmの波長で追跡した。結果を表1にまとめて示した。FSAP MR I変異体の保因者と非保因者との間の識別が、アプロチニンを加えない試料の反応速度のvmaxであるvmax0とアプロチニンを加えたvmaxアプロチニンとの商を求めることで可能である。以下の式がそれに適用される:
FSAP野生型vmax0/FSAP野生型vmaxアプロチニン>FSAP MR Ivmax0/FSAP MR Ivmaxアプロチニン
【0047】
さらにFSAP MR I試料(MR I)では、vmax0とvmaxアプロチニンとの差異がFSAP野生型試料(WT)よりはっきりと小さいことを示している(表1を参照)。3つの別々の測定の平均を平均(Av.)の列に示した。
【0048】
時間−変換プロットの最大勾配を、時間−変換プロットの十分に直線性のある領域で直線回帰法により決定し、そして反応の最大反応速度vmaxをmOD/分で得た。
【表1】

【0049】
図1および2はS-2444変換、すなわちプロウロキナーゼ活性化FSAP活性の異なった反応速度を示す。図1は、アプロチニンを不含および含有(0.036および0.055KIU/ml、最終アプロチニン濃度)する非保因者の血漿試料で見られた反応速度を示す。この関連で、0.036KIU/mlのアプロチニンは1:30000に希釈したアプロチニンに対応し、そして0.055KIU/mlは1:20000に希釈したアプロチニンに対応する。
【0050】
図2は、アプロチニンを不含および含有(0.036および0.055KIU/ml、最終アプロチニン濃度)するFSAP MR I変異体のヘテロ接合型保因者の血漿試料で見られた反応速度を示す。非保因者の試料中のプロウロキナーゼ活性化FSAP活性がアプロチニン存在下で、ヘテロ接合型保因者の試料中のプロウロキナーゼ活性化FSAP活性より実質的により強く阻害されていることが明瞭に示されている。
【0051】
実施例2
差異的活性調節剤のアプロチニンの存在下および不在下での低分子量発色性ペプチド基質S-2288に対するアミド分解FSAP活性の測定
マイクロタイタープレートは実施例1と同じものを用いた。各場合に、測定すべき血漿試料の100μlを、試料緩衝液(実施例1を参照)中で1:50に希釈してウエルにピペットで注入した。+37℃で1時間インキュベーションした後、非結合成分を50mM リン酸ナトリウム緩衝化等張NaCl溶液、0.02% ツイーン(R)20, pH6.5を用いて三回洗浄して除去した。
【0052】
アミド分解FSAP活性を測定するために、試料の除去および固相の洗浄の後、
a)30μlの試験緩衝液I(実施例1を参照)、または
b)30μlの、追加的にアプロチニンを、反応混合液中で最終アプロチニン濃度が0.055 KIU/mlになるような濃度で加えた試験緩衝液I(実施例1を参照)、
そして各場合、試験緩衝液II(実施例1を参照)中の発色性基質S-2288(1.5mmol/L;Chromogenix Instrumentation Laboratory S.p.A., ミラノ、イタリア)を試験ウエル中に注入し、そして+37℃で1時間インキュベーションした。MTP中での比較的長いインキュベーション時間の間の蒸発効果を減少させるために、上に鉱油の層を載せた。
【0053】
反応混合物の吸収(OD)の変化を405nmの波長で追跡し、そして最大反応速度vmaxを測定した(実施例1を参照)。結果を表2にまとめて示した。FSAP MR I変異体の保因者と非保因者との間の識別が、アプロチニンを加えない試料の反応速度のvmaxであるvmax0とアプロチニンを加えたvmaxアプロチニンとの比(商)を求めることで可能である。以下の式がそれに適用される:
FSAP野生型vmax0/FSAP野生型vmaxアプロチニン>FSAP MR Ivmax0/FSAP MR Ivmaxアプロチニン
【0054】
さらにFSAP MR I試料(MR I)は、vmax0とvmaxアプロチニンとの差異がFSAP野生型試料(WT)よりはっきりと小さいことを示している(表1を参照)。3つの別々の測定の平均を平均(Av.)の列に示した。
【表2】

【0055】
図3および4はS-2288変換、すなわちアミド分解FSAP活性の異なった反応速度を示す。図3は、アプロチニンを不含および含有(0.036および0.055KIU/ml、最終アプロチニン濃度)する非保因者の血漿試料で見られた反応速度を示す。図4は、アプロチニンを不含および含有(0.036および0.055KIU/ml、最終アプロチニン濃度)するFSAP MR I変異体のヘテロ接合型保因者の血漿試料で見られた反応速度を示す。非保因者の試料中のアミド分解FSAP活性がアプロチニン存在下で、ヘテロ接合型保因者の試料中のアミド分解FSAP活性より相当により強く阻害されていることがはっきり明瞭である。
【0056】
実施例3
反応中に差異的活性調節剤を添加することによる低分子量発色性ペプチド基質S-2288に対するアミド分解FSAP活性の変化の測定
マイクロタイタープレートは実施例1と同じものを用いた。各場合に、測定すべき血漿試料の100μlを、試料緩衝液(実施例1を参照)中で1:15に希釈してウエルにピペットで注入した。+37℃で1時間インキュベーションした後、非結合成分を実施例1のように三回洗浄して除去した。
【0057】
アミド分解FSAP活性を測定するために、各場合に、時間t0で、試験緩衝液Iおよび試験緩衝液II(実施例1の試験緩衝液IおよびIIを参照)の50:50混合液中の発色性基質S-2288(1.5mmol/L;Chromogenix Instrumentation Laboratory S.p.A., ミラノ、イタリア)80μlをMTPウエル中に注入し、そして光度計中で、+37℃でインキュベーションした。約60分後に、アプロチニンを2.95KIU/mlの最終濃度で加えるか、またはそれぞれのモノクローナル抗体(MAb)を反応混合物の1mL当たり約60μgの最終濃度で加えた。反応混合物の吸収(OD)の変化を405nmの波長で追跡し、そして最大反応速度vmaxを測定した(実施例1を参照)。比較的長いインキュベーション時間の間の蒸発効果を減少させるために、上に鉱油の層を載せた。
【0058】
FSAP MR I変異体の保因者と非保因者との間の識別が、例えば差異的活性調節剤を加える前の最大反応速度(vmax)と差異的活性調節剤を加えた後の最大反応速度(vmaxアプロチニン)との商を求めることで可能である。
【0059】
図5に示すように、以下の式が活性調節剤のアプロチニンに適用される:
FSAP野生型vmax0/FSAP野生型vmaxアプロチニン>FSAP MR Ivmax0/FSAP MR Ivmaxアプロチニン
【0060】
表3に、アプロチニン以外の、モノクローナル抗体(MAbs)の商vmax/vmax活性調節剤に対する影響を示している。3回の独立した測定を、FSAP MR I変異体の非保因者の試料(野生株試料;WT)を用いて行った。6回の独立した測定を、FSAP MR I変異体(MR I)のヘテロ接合型保因者の試料を用いて行った。vmax/vmax活性調節剤(vmax/vmaxA)の平均(Av.)および集団に関する標準偏差(SD)を計算した。ネガテイブ対照、すなわち活性調節剤を含まない試験緩衝液Iおよび試験緩衝液IIの50:50混合液の相当する容積の添加は、0.81±0.12の平均 vmax/vmaxAを与えた。
【0061】
活性調節剤の影響の有意性の指標を得るためにt試験を行った。t試験は2つの試料は等しいおよび等しくない分散を有するとの仮定に基づいている。片側検定(1つの端)を行った。このt試験は、アプロチニン、モノクローナル抗FSAP抗体MAb 2004-151/013(2)(DSMACC2726)およびモノクローナル抗FSAP抗体MAb 2004-98/016(3)が、MR I試料よりWT試料の活性を適切な有意性をもってより大きく減少させ、その結果WT/MR Iの商は>1となることを示す。反対に、モノクローナル抗FSAP抗体MAb 1102/1189-2(DSMACC2454)は、WT試料よりMR I試料の活性を大きく減少させ、その結果WT/MR Iの商は<1となる。このことはモノクローナル抗FSAP抗体MAb 2004-35/05(1)(DSMACC2674)でも同様だった。この場合のP値はいかなる有意性も示さないが、それらは相対的に小さく、そしてそれゆえに十分な測定数すなわちより多数の例数を用いれば帰無仮説は否定できると推察できる。したがって、MAb 1102/1189-2(DSMACC2454)およびMAb2004-35/05 (1)(DSMACC2674)も同様に適切な活性調節剤である。
【0062】
これに対して、モノクローナル抗FSAP抗体MAb 1102/570-09(DSMACC2533、EP1334983A2を参照)、MAb2004-9/026(2)(DSMACC2676、EP1630175A1を参照)およびMAb2004-34/08(2)(DSM ACC2725、EP1630175A1参照)は、それらのWT/MR Iの商およびt試験の値によれば、活性調節剤としては不適切である。
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】非保因者(野生型)の血漿試料について見られた、アプロチニンの存在下でのプロウロキナーゼ活性化FSAP活性の阻害を示す。
【図2】MR I多形のヘテロ接合型保因者の血漿試料について見られた、アプロチニンの存在下でのプロウロキナーゼ活性化FSAP活性の阻害を示す。
【図3】FSAP MR I変異体の非保因者(野生型)の血漿プールの試料について見られた、アプロチニンの存在下でのアミド分解FSAP活性の阻害を示す。
【図4】MR I多形のヘテロ接合型保因者の血漿試料について見られた、アプロチニンの存在下でのアミド分解FSAP活性の阻害を示す。
【図5】非保因者(野生型;白い円)およびMR I多形のヘテロ接合型保因者(黒い四角)の血漿試料について、アプロチニンの不在下および、約1時間の反応時間で添加した(矢印)後のアプロチニンの存在下でのアミド分解FSAP活性の変化を示す。
【図6】例として、図6は、例えば野生株ホモ接合型保因者(破線)とMR Iへテロ接合型保因者(実線および点線)の群由来の試料中のFSAP活性のような、実側変数の可能な頻度分布を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝的関連性のある第VII因子活性化プロテアーゼ(FSAP)MR I変異体のヘテロ−またはホモ接合型発現を有するヒトを同定するための診断方法であって、FSAPの活性を測定し、差異的活性調節剤の不在下および存在下で測定される試料中に存在するFSAP活性を含み、ここで、該差異的活性調節剤は遺伝的関連性のあるFSAP MR I変異体のヘテロ−またはホモ接合型発現を有するヒト由来の試料中の該FSAP活性を、FSAP MR I変異体を発現しないヒト由来の試料中とは異なった程度変化させる上記方法。
【請求項2】
測定されたFSAP活性がプラスミノゲン・アクチベーター活性化FSAP活性である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
測定されたFSAP活性がアミド分解FSAP活性である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
差異的活性調節剤が、FSAP MR I変異体を発現しないヒト由来の試料中のFSAP活性を、遺伝的関連性のあるFSAP MR I変異体のヘテロ−またはホモ接合型発現を有するヒト由来の試料中と比べてより大きな程度阻害または活性化する、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
アプロチニンが差異的活性調節剤として用いられる、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
モノクローナルまたはポリクローナル抗FSAP抗体が差異的活性調節剤として用いられる、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
ハイブリドーマ細胞株DSM ACC2454、DSM ACC2674およびDSM ACC2726の1つにより産生されるモノクローナル抗FSAP抗体が用いられる、請求項6記載の方法。
【請求項8】
ハイブリドーマ細胞株DSM ACC2454、DSM ACC2674およびDSM ACC2726の一つにより産生されるモノクローナル抗FSAP抗体の1つにより結合されるFSAPエピトープへ結合するモノクローナル抗FSAP抗体が用いられる、請求項6記載の方法。
【請求項9】
a)試料の第一のアリコット中のFSAP活性を差異的活性調節剤の存在下で測定し;
b)同じ試料の第二のアリコット中のFSAP活性を差異的活性調節剤の不在下で測定し;そして
c)a)およびb)中で測定された2つの活性を比較する、
ことによってFSAP活性の変化の程度が測定される、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
a)試料のアリコット中のFSAP活性を差異的活性調節剤の不在下で測定し;
b)反応混合物に差異的活性調節剤を加え;次いで
c)FSAP活性を差異的活性調節剤の存在下で測定し;そして
d)a)およびc)中で測定された2つの活性を比較する;
ことによってFSAP活性の変化の程度が測定される、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−167069(P2007−167069A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−343764(P2006−343764)
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(398032751)デイド・ベーリング・マルブルク・ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシユレンクテル・ハフツング (36)
【Fターム(参考)】