説明

Feナノ粒子の製造方法

【課題】平均粒径10nm程度の粒径を有するFeナノ粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】鉄アセチルアセトナートをオレイン酸とオレイルアミンの比が1:1の均一混合物中に溶解させ、鉄アセチルアセトナートを構成する鉄イオンの還元温度以上の170℃〜300℃の温度において還元剤としてヘキサデカンジオール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ジエチレングリコール、またはステアリングリコール等のポリオールを加え、Fe粒子を析出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高密度磁気記録媒体、永久磁石等において使用することのできるFeナノ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高密度磁気記録媒体では、記録密度を向上させるため、粒子径がナノメートルオーダーまで小さくなった磁性金属ナノ粒子を用いることが検討されている。また永久磁石においては、磁化の高い軟磁性相と保磁力の高い硬磁性相が同一金属組織内に均一に分布し、交換相互作用によって両者が磁気的に結合したナノコンポジット磁石が開発されており、このナノコンポジット磁石においても磁性金属ナノ粒子が用いられている。
【0003】
この磁性金属ナノ粒子として、例えばFeナノ粒子は、Fe(CO)5を熱分解することにより製造することが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。また、溶媒中でFe(acac)3(鉄アセチルアセトナート)を加熱・還流して還元することにより製造することが報告されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
【非特許文献1】D. Farrell et al., J. Phys. Chem. B, 107(2003) 11022-11030
【非特許文献2】S. Sun et al., J. Am. Chem. Soc., 124(2002) 8204-8205
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1に記載の方法において用いられているFe(CO)5は毒性が高く、Feナノ粒子を工業的に量産するうえでは問題がある。また、非特許文献2に記載の方法で得られる粒子の粒径は4nmほどであり、ナノコンポジット磁石の軟磁性相としての適度な大きさ(10nm)を得るには、Feの還元/酸化を繰り返して粒径を大きくする必要がある。
【0006】
本発明は、このような問題を解消し、1回の還元反応によって平均粒径10nm程度の比較的大きなFeナノ粒子を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するために本発明によれば、鉄アセチルアセトナートをオレイン酸とオレイルアミンの均一混合物中に溶解させ、鉄アセチルアセトナートを構成する鉄イオンの還元温度以上の温度において還元剤を加え、Fe粒子を析出させることによりFeナノ粒子を製造している。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、1回の還元反応によって、ナノコンポジット磁性粒子における軟磁性相として適度な大きさのFeナノ粒子を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明のFeナノ粒子の製造方法を詳細に説明する。本発明のFeナノ粒子の製造方法においては、まず鉄アセチルアセトナートをオレイン酸とオレイルアミンの均一混合物中に溶解させる。鉄アセチルアセトナートは式、Fe(acac)3(式中acacはアセチルアセトンCH3COCH2COCH3のCH2基からプロトンが1個解離した陰イオンであるアセチルアセトナト配位子である)で表される錯体であり、上記混合物に溶解すると、この混合物中で鉄がイオンとして存在する。
【0010】
この鉄アセチルアセトナートを溶解させるオレイン酸とオレイルアミンの均一混合物において、オレイン酸とオレイルアミンの混合比はモル比で1:1とすることが好ましい。オレイン酸及びオレイルアミンは通常、界面活性剤として用いられることが多い。またオレイン酸及びオレイルアミンは鉄アセチルアセトナートを溶解しやすく、従って溶媒と界面活性剤の両方の役割を果たしている。
【0011】
この鉄アセチルアセトナートを溶解する場合、必要に応じて加熱してもよい。この鉄アセチルアセトナートを溶解させる際の温度は90℃〜160℃とすることが好ましい。鉄アセチルアセトナートとオレイン酸とオレイルアミンの合計量の比は、質量比で1:100〜1:10であることが好ましい。
【0012】
こうして鉄アセチルアセトナートをオレイン酸とオレイルアミンの均一混合物に溶解させた後、加熱し、還元剤を加える。この際の加熱温度は、鉄アセチルアセトナートを構成する鉄イオンの還元温度以上であり、好ましくは170℃〜300℃である。
【0013】
還元剤としてはFeイオンを還元できるものであればよいが、好ましくはポリオールを用いる。このポリオールとしてはヘキサデカンジオール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコール、又はステアリルグリコールが例示される。鉄アセチルアセトナートに対する還元剤の添加量は、モル比で0.5〜100倍とすることが好ましく、1〜10倍がさらに好ましい。
【0014】
こうしてオレイン酸とオレイルアミンの均一混合物中においてFeイオンを還元することによりFeナノ粒子を得ることができる。このFeナノ粒子の粒径は5〜15nmであることが好ましい。本発明の方法により得られるFeナノ粒子は、磁気記録媒体用材料、永久磁石材料、生体分子標識剤、薬剤キャリヤ等に用いることが好ましい。
【0015】
上記のように、オレイン酸及びオレイルアミンは通常、界面活性剤として用いられることが多く、また鉄アセチルアセトナートを溶解しやすく、従ってオレイン酸及びオレイルアミンは溶媒と界面活性剤の両方の役割を果たしている。さらにオレイルアミンは正の極性を、オレイン酸は負の極性を持っており、ごく弱いものではあるが極性を持っている。そのため、この弱い極性が溶媒中での金属イオンを核とした錯イオンの再形成を促し、自由エネルギーが低下する。このため、核生成時の臨界核半径が大きくなり、粒子の成長を促進する可能性がある。従って、オレイン酸及びオレイルアミンを溶媒として用いることにより、1度の還元反応で粒子径の成長したFeナノ粒子を合成することが可能になると考えられる。
【実施例】
【0016】
実施例1
石英製3口フラスコ中のオレイン酸8.0mLとオレイルアミン8.5mLの混合溶液に鉄アセチルアセトナート1.413g(5mmol)を加え、窒素雰囲気において160℃に加熱し、鉄アセチルアセトナートを溶解させて均一溶液を調製した。次いでこの溶液を230℃に加熱し、還元剤としてヘキサデカンジオール1.94gを加えた。230℃に1時間保持した後、室温まで冷却し、ヘキサンを加えて希釈し、測定試料を製造した。
【0017】
比較例1
オレイン酸とオレイルアミンの混合物液に代えてオクチルエーテルを用いることを除き、実施例1と同様にして測定試料を製造した。
【0018】
実施例1において得られた粒子のSAXS測定結果を図1及び図2に示す。また、得られた粒子のTEM観察結果を図3(実施例1)及び図4(比較例1)に示す。さらに、得られた粒子の230℃での保持時間に対する平均粒子径及び分散度の関係のグラフを図5に示す。
【0019】
SAXSの測定結果より、反応時間1時間では平均粒径10.7nm、規格化分散度18.1%の単分散Feナノ粒子を得ることができた。反応時間15分のものは、平均粒径は10.1nm、規格化分散度39.3%であり、反応時間が1時間のものと比べて分散性が悪かった。これは、図1において小粒側に裾をひいていた数ナノメートルのFeナノ粒子が時間の経過とともの成長し、平均粒径10.7nmの単分散Feナノ粒子に成長したものと考えられる。また、反応時間に撚らず平均粒径が10nm程度で大きく変化しないことからも、核生成時の臨界核半径が大きく、1度の還元反応で10nm程度の大きさのFeナノ粒子が生成できることがわかった。
【0020】
図3〜5の結果から明らかなように、溶媒に界面活性剤作用を有するオレイン酸とオレイルアミンを用いることにより、比較例と比べ単分散性が向上し、平均粒子径が低下した。これは、粒子が生成しはじめたとき(保持時間15分)では平均粒径が変わらないが、オストワルド成長により、大きい粒子は成長し、小さい粒子は消滅していく過程で、十分な界面活性剤により粒子成長が抑制され、結果として単分散性の向上、及び平均粒子径の低下が起こったものであると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例1において反応時間15分での粒子のSAXS測定結果を示すグラフである。
【図2】実施例1において反応時間60分での粒子のSAXS測定結果を示すグラフである。
【図3】実施例1において得られた粒子のTEM写真である。
【図4】比較例1において得られた粒子のTEM写真である。
【図5】得られた粒子の230℃での保持時間に対する平均粒子径及び分散度の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Feナノ粒子の製造方法であって、鉄アセチルアセトナートをオレイン酸とオレイルアミンの均一混合物中に溶解させ、鉄アセチルアセトナートを構成する鉄イオンの還元温度以上の温度において還元剤を加え、Fe粒子を析出させることを含む方法。
【請求項2】
還元剤がポリオールである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ポリオールがヘキサデカンジオール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコール、又はステアリルグリコールである、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
170℃〜300℃において還元を行う、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
オレイン酸とオレイルアミンの混合比がモル比で1:1である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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