説明

Fraxinusexcelsior種子の抽出物とその治療適用

脂肪の合成を阻止すること、PPAR−アルファを活性化すること、血糖降下活性を増大させること、体重を減少させること、高インスリン血症にならないよう空腹時血漿インスリンレベルを調整すること、およびインスリン感受性を促進し、有益な急性のインスリン分泌効果を生じさせることによって、ヒトを含む対象の治療処置のために投与することができるFraxinus excelsiorの種子の抽出物。Fraxinus excelsiorの種子の抽出物は、特に、単離された化合物である(2S,3E,4S)2H−ピラン−4−酢酸−3−エチリデン−2−[(6−O−β−D−グルコピラノシル−β−D−グルコピラノシル)オキシ]−3,4−ジヒドロ−5−(メトキシカルボニル)メチルエステルなどを含む。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
2型糖尿病(Type2 diabetes mellitus:DM−2)は、インスリンの欠乏およびインスリンの非感受性を特徴とする広く知られた全世界的な疾病である。DM−2は、高罹患率および高死亡率と関連する健康上の問題を引き起こす重大な疾病であると考えられており、米国においては主な死因の6番目である[Mininoら、2007,National Vital Statistical Report,55]。糖尿病患者の数は、2025年までに全世界で3億人にまで増加する可能性があると予測されている[Kingら、1998,Diabetes Care,21,1414−31]。米国では人口の7パーセント−2,080万人の子供および大人−が糖尿病に罹患しており[French,2007,Inside,12,46−7]、2002年の米国での医療費および生産性の損失は概算で1,320億ドルに上っている。[Hoganら、2003,Diabetes Care,26,917−32]。DM−2の処置方法は、インスリン、インスリン類似体または修飾インスリンの使用を含み、インスリンの放出およびインスリンの作用を亢進し、肝臓のグルコース産生を抑制し、グルコースの取り込みを抑制する[Moller,2001,Nature,414,821−27]。これらの治療薬のほかに、DM−2の処置には伝統薬も世界中で用いられている。DM−2の症状を処置するため、民族薬理学的にまたは実験的に1,200種を超す生物が用いられてきた[Marles and Farnsworth,1996,Protocol J.Botanical Med.,1,85−137]。
【0002】
米国において急速に上昇している肥満症の罹患率は深刻な公衆heath問題であると一般に認識されている。比較すると、1988年〜1994年に実施されたNHANES IIIの調査に記載されているように、米国の大人人口の55.9%が過体重であったのに対し、1999−2000 National Health and Nutrition Examination Survey(NHANES)のデータによると、ほぼ3分の2(64.5%)が過体重となっている。同時期に、肥満症の罹患率も22.9%から30.5%へと劇的に増加した。肥満の人々の数が増加すると、糖尿病を含む種々の肥満症に関連した疾病を発症するリスクが高くなる恐れがある。[Flegalら、2002,JAMA.288,1723−1727およびKuczmarskiら、1994,JAMA.272,205−221]。
【0003】
Oleaceae科の植物であるFraxinus excelsior L.は、温帯のアジアおよびヨーロッパの国々で、慣用的に“Common Ash”または“European Ash”という名称で知られている[Gilman and Watson,1993,Fact Sheet ST−264,November]。この植物はさらに、モロッコの南東部の地域であるTafilalet全体にわたって広く生息し、そこでは“l’ssane l’ousfour”という名で知られている。Tafilalet地域はモロッコの諸地域の中でも植物療法の知識が最も発達している所であると考えられてきた[非特許文献1]。最近の研究により、F.excelsior(FE)は抗菌作用および抗酸化作用を有することがわかっている。FEのメタノール抽出物は、定性的なα,α−ジフェニル−β−ピクリルヒドラジル(α,α−diphenyl−β−picrylhydrazyl:DPPH)アッセイにおいて、RC50が1.35×10−2という強力な抗酸化作用を示した。FEのn−ヘキサン抽出物およびジクロロメタン抽出物も、メチシリン耐性のStaphylococcus aureusを含む試験された8つの種のグラム陽性およびグラム陰性の病原細菌に対し、1.25×10−1mg/mL以内の最小発育阻止濃度(minimal inhibitory concentration:MIC)値で有効であった[非特許文献2]。正常圧のラットと自然発症高血圧のラットの両方に対するFEの降圧効果が報告された。FEの種子の水溶性抽出物を毎日経口投与すると、両方のタイプのラットにおいて、収縮期血圧の有意な低下が起こり、排尿を有意に促した[非特許文献3]。FEの種子の水溶性抽出物は、正常なラットおよびストレプトゾトシン誘発糖尿病の(streptozotocin−induced:STZ)ラットにおいて、基礎血漿インスリン濃度に影響を及ぼすことなく強力な血糖降下および抗高血糖作用を示した[非特許文献4]。腎臓のグルコース再吸収を抑制するフロリジン様の効果は、FEの血糖降下の効果に対する機序の1つである可能性がある[非特許文献5]。
【0004】
FEは主としてクマリン類、セコイリドイド類、およびフェニルエタノイド類を含むと報告されている[非特許文献6]。FEに含まれるセコイリドイド類はオレオシドから誘導される。このタイプのセコイリドイド類はOleaceae科の植物にのみ存在する[非特許文献7]。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Eddouksら、J.Ethnopharmacol.(2002)82,97−103
【非特許文献2】Middletonら、Indian J.Pharma.Res.,(2005)2,81−6
【非特許文献3】Eddouksら、J.Ethnopharmacol.,(2005)99,49−54
【非特許文献4】Maghraniら、J.Ethnopharmacol.,(2004)91,309−16
【非特許文献5】Eddouksら、J.Ethnopharmacol.,(2004)94,149−54
【非特許文献6】KostovaおよびIossifova,Fitoterapia(2007)78,85−106
【非特許文献7】Eganら、Biochem.Sys.Ecol.,(2004)32,1069−71
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、Fraxinus excelsior(慣用名Ash)の種子の抽出物から単離された新規なセコイリドイド類に関する。この2つの化合物は、(1)(2S,3E,4S)2H−ピラン−4−酢酸−3−エチリデン−2−[(6−O−β−D−グルコピラノシル−β−D−グルコピラノシル)オキシ]−3,4−ジヒドロ−5−(メトキシカルボニル)メチルエステルと同定され、エクセルシド(excelside)Aと命名され、C223216(図1−1)の化学式を有するもの、および(2)(2S,3E,4S)2H−ピラン−4−酢酸−3−エチリデン−2−[(6−O−β−D−グルコピラノシル−β−D−グルコピラノシル)オキシ]−3,4−ジヒドロ−5−(メトキシカルボニル)2−(4−ヒドロキシフェニル)エチルエステルと同定され、エクセルシド(excelside)Bと命名され、C304017(図1−2)の化学式を有するものである。化合物は2つとも、環外の8,9−オレフィン官能性によって特徴づけられるオレオシド−タイプのセコイリドイドである。
【0007】
本発明はさらに、単離されたFE由来の組成物を得るプロセスに関する。組成物は独特の抽出および単離のプロセスによって得られる。種子は、溶媒が接触する表面積を増やし、抽出の効率を高めるために、すりつぶして粒子の大きさが0.1mm〜30mmの範囲の顆粒にする。このプロセスの一実施形態では、抽出の温度は20℃〜100℃の範囲である。好ましい実施形態では、抽出の温度は50℃〜70℃の範囲である。抽出プロセスに用いる溶媒混合物に対する植物原料の比は、グラム対ミリリットルの基準で1:1〜1:10と様々である。このプロセスの一実施形態では、その比は1:3〜1:8である。植物材料が溶媒混合物と接触するインキュベーション時間は、約2時間〜約24時間である。抽出溶媒は、水、水−アルコール混合物(水中に1%〜99%のアルコール)、およびアルコールとすることができる。好ましいアルコールは、エタノール(EtOH)およびメタノール(MeOH)である。植物材料および溶媒がインキュベートされた後、溶媒は残留した植物材料から分離され、抽出組成物は通常約1%〜35%のF.excelsiorのセコイリドイド類を含む固形成分を有するようになるまで濃縮される。このセコイリドイド類は2つの新規なオレオシド−タイプの配糖体であるエクセルシド(excelside)Aおよびエクセルシド(excelside)B、二量体のセコイリドイド類であるヌゼニド(nuzhenide)(3)(図1−3)、GI3(4)(図1−4)、およびGI5(5)(図1−5)、ならびにリグストロシド、オレオシドジメチルエステル(6)(図1−6)、およびオレオシド−11−メチルエステルを含む。他の成分はフェノール化合物類、サリドロシド(salidroside)、クマリン類、およびフラボノイド類を含む。抽出物が完成した後、セコイリドイド類が単離される。セコイリドイド類は、クロマトグラフィーのプロセスによってFE抽出物から単離することができる。
【0008】
セコイリドイド類は、FEの乾燥した粉末状の抽出物から単離される。粉末はアルコール中で溶解し、セコイリドイド類はアルコールによって粉末から抽出される。その後アルコールを蒸発させ、セコイリドイド類を含む残留物はC−18逆相樹脂を充填したクロマトグラフィーカラムに入れられる。種々の化合物を含む数個の分画が、一連の水および10%のMeOH/90%の水、ならびにMeOH系を用いて溶出される。分画は高速液体クロマトグラフィー(high performance liquid chromatography:HPLC)分析によって比較され、同様のHPLCパターンを有する溶出物がまとめられる。まとめられた分画は、順相シリカゲルカラムクロマトグラフィーで分離され、クロロホルム(CHCl)、90%、80%のCHClから始めて100%のMeOHまでに至るCHCl−メタノール混合物で溶出し、数個の亜分画が得られる。亜分画はHPLCによって比較され、エクセルシド(excelside)Aを含む分画、およびエクセルシド(excelside)Bを含む分画が、それぞれまとめられる。まとめられた分画は、C−18樹脂、MCI GEL CHP−20P樹脂および/またはSephadex LH−20樹脂によるカラムクロマトグラフィーの組合せによってさらに精製され、純粋なエクセルシド(excelside)Aおよびエクセルシド(excelside)Bが得られる。
【0009】
エクセルシド(excelside)Aおよびエクセルシド(excelside)Bの新規な化学構造が、核磁気共鳴(nuclear magnetic resonance:NMR)、紫外(ultraviolet:UV)、赤外(infrared:IR)を含む分光法、および質量分析(mass spectroscopy:MS)を用いて解明され、物理的性質も判定される。セコイリドイド類の既知の化学構造は、NMRスペクトルを文献に記載されているNMRスペクトルと直接比較することによって同定されている。IRスペクトルはKBr板を用いてPerkin−Elmer 1600 FTIR分光光度計に記録した。NMRスペクトルは溶媒として重水素化メタノール(CDOD)を用いてVarian INOVA 400で得た。全ての2次元相関スペクトルは、Varian NMRソフトウェアの標準的な勾配パルスシーケンスを用いて得られた。相関スペクトルは、COSY(相関分光法:Correlation Spectroscopy)、TCOSY(全相関分光法:Total Correlation Spectroscopy)、HMQC(異核間多量子コヒーレンス:Heteronuclear Multiple Quantum Coherence)、HMBC(異核間多結合相関:Heteronuclear Multiple Bond Correlation)、およびROESY(回転座標系オーバーハウザー効果分光法:Rotating Frame Overhauser Enhancement Spectroscopy)を含む。HPLC分析は、クォータナリポンプ、オートサンプラ、4チャンネルオンラインデガッサ、フォトダイオードアレイ検出器、およびAgilent Chemstationソフトウェアを備えたAgilent 1100モデルHPLCシステムを用いて実施した。分子量はFinnigan LCQイオントラップ質量分析計のLC/MS ESI/APCIモードを用いて測定した。UVスペクトルはSchimadzuのUV−1700紫外可視分光光度計で得た。
【0010】
本発明はさらに、2種の二量体のセコイリドイド、すなわちGI5(5)およびヌゼニド(3)の、未分化の3T3−L1細胞に対する抑制効果に関する。体重増加の主な原因は脂肪生成のプロセスによる体内の脂肪組織の堆積である。脂肪生成は、脂肪細胞の数および大きさの増加によって特徴づけられる。脂肪細胞の合成を抑えて脂肪生成を抑制し、脂肪細胞の数および大きさを減少させると、体重の調整につながる。
【0011】
本発明は、Fraxinus excelsior(FE)ならびにFEから単離されたセコイリドイド類であるオレオシドジメチルエステル(6)、エクセルシド(excelside)A(1)およびGI3(4)によるPPAR−アルファの活性化に関する。ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体(Peroxisome proliferator−activated receptors:PPARs)は、多くの細胞プロセスおよび代謝プロセスを調整する核内受容体である。PPAR−アルファは大部分が肝臓内に発現し、肝臓では脂肪酸の酸化の調整において重要な役割を有している[Reddy and Hashimoto,2001,Annu Rev Nutr.,21,193−230]。PPAR−アルファの活性化による脂肪酸の酸化の誘導によって、血漿脂質プロファイルが改善される。種々のマウスモデルでは、PPAR−アルファアゴニストは血漿トリグリセリドを低下させ、脂肪症を減少させ、肝臓および筋肉のsteaosisを改善し、その結果、インスリン感受性を改善し、血中グルコースを減少させる[Guerre−Milloら、2000,J.Biol.Chem.,275,16638−42およびKimら、2003,Diabetes,52,1770−8]。
【0012】
本発明はさらに、DM−2に罹患している対象の血糖を減少させ、体重の減少を助け、インスリンレベルをバランスしてDM−2患者の高インスリン血症、すなわちインスリン抵抗性による症状を予防して、メタボリックシンドロームを処置するのに有用である上記組成物に関する。オスのC57BL/6Jマウスは高脂肪食を与えられると、肥満症、高血糖症、および高インスリン血症を発症する。有効な量のFEを投与することで、大幅に、マウスのグルコース値を低下させ、体重および体脂肪を減少させ、血漿インスリンレベルを低下させることができる。
【0013】
ヒト臨床試験において、16名の空腹の健康なボランティアに50グラムのグルコースを与えて食後の血糖を誘導し、FEまたはプラセボ(コムギフスマ)を投与した。FE抽出物グループは、プラセボと比較して、上昇食後血漿グルコース濃度が低かった。このグループは統計的に(P=0.02)血糖曲線下面積(area under the curve:AUC)が小さかった。FEの種子の抽出物はさらに、グルコース投与の90分後に有意な(P=0.002)インスリンの分泌を誘導した。
【0014】
本発明のさらなる特色、利点および特徴は、添付の図面を参照してなされた以下の本発明の好ましい実施形態の詳細な記述に鑑みれば当業者には明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1−1】エクセルシド(excelside)Aの分子構造を図示する。
【図1−2】エクセルシド(excelside)Bの分子構造を図示する。
【図1−3】ヌゼニドの分子構造を図示する。
【図1−4】GI3の分子構造を図示する。
【図1−5】GI5の分子構造を図示する。
【図1−6】オレオシドジメチルエステルの分子構造を図示する。
【図2】1無処置、2、インスリン、3インスリンおよびMeOH、4濃度0.004%、0.02%、0.05%、および0.1%のヌゼニド、5濃度0.004%、0.02%、0.05%、および0.1%のGI5について、化合物GI5(5)およびヌゼニド(3)のグルコースの取り込み作用(cpm)を図示する。
【図3】DMSO(対照条件)の効果との比較における、Fraxinus excelsior L.の種子の抽出物および100μMのフェノフィブラート(陽性対照)によるGAL4/PPARα融合受容体の相対的活性化を図示する(値は平均±SD(n=4)。P<0.05、**P<0.01;***P<0.001。Studentのt検定)。
【図4】低脂肪(low−fat:LF)処置、高脂肪(high−fat:HF)処置、およびFraxinus(HF+FE抽出物)処置されたマウスの、16週間の処置後の空腹時血糖(mg/dL)の結果を図示する。
【図5】低脂肪(LF)処置、高脂肪(HF)処置、およびFraxinus(HF+FE抽出物)処置されたマウスの、処置の様々な週における平均体重(g)の結果を図示する。
【図6】10−5M〜10−9Mの範囲の濃度での選択的合成PPARαアクチベーターWY14,643、ならびに、濃度10−4Mおよび1:10のFEの種子の抽出物の水溶液として、単離された化合物を用いたときの、受容体細胞株内での相対的なPPARαの活性化能(%)を図示する。化合物のラベルは以下の通りである。FE19028(ヌゼニド、3)、FE20015(GI3、4)、FE20031(オレオシドジメチルエステル、6)、FE21008(エクセルシド(excelside)A、1)、およびFE21023(GI5、5)。
【図7】LF(n=10)グループ、HF(n=10)グループ、およびFEの種子の抽出物グループの個々のマウスの大網脂肪の重量(g)をそれぞれ図示する。
【図8】LF(n=10)グループ、HF(n=10)グループ、およびFEの種子の抽出物グループの個々のマウスの後腹膜脂肪の重量(g)をそれぞれ図示する。
【図9】LF(n=10)グループ、HF(n=10)グループ、およびFEの種子の抽出物グループの個々のマウスの空腹時血漿インスリンレベル(ng/mL)をそれぞれ図示する。
【図10】図10Aは、50gのグルコースを投与した健康なボランティアの血糖について、Fraxinus excelsior Lの種子の抽出物(FE)(1.0g)と、対応するコムギフスマプラセボ(1.0g)との比較(mmol/L対時間)を図示し、個々の時点における上昇血糖を示す。値は平均±SEMで示す。対応のあるStudentのt検定(n=16)を用いた。図10Bは、50gのグルコースを投与した健康なボランティアの血糖について、Fraxinus excelsior Lの種子の抽出物(FE)(1.0g)と、対応するコムギフスマプラセボ(1.0g)との比較(mmol/L対時間)を図示し、血糖曲線下面積(AUC)を示す。値は平均±SEMで示す。P=0.02。対応のあるStudentのt検定(n=16)を用いた。
【図11】図11Aは、50gのグルコースを投与した健康なボランティアのインスリンレベルについて、Fraxinus excelsior Lの種子の抽出物(1.0g)と、対応するコムギフスマプラセボ(1.0g)との比較(mU/L対時間)を図示し、個々の時点における上昇血中インスリンを示す。値は平均±SEMで示す。**P=0.002。Studentのt検定(n=16)を用いた。図11Bは、50gのグルコースを投与した健康なボランティアのインスリンレベルについて、Fraxinus excelsior Lの種子の抽出物(1.0g)と、対応するコムギフスマプラセボ(1.0g)との比較(mU/L対時間)を図示し、血中インスリンの曲線下面積(AUC)を示す。値は平均±SEMで示す。Studentのt検定(n=16)を用いた。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図面および以下の実施例に関して、Franxinus excelsiorの種子の抽出物についての本発明の好ましい実施形態がここで記載される。
【0017】
(実施例1)
水を用いたFraxinus excelsiorからのセコイリドイド類の抽出。合計2.5kgのF.excelsiorの種子を空気中で乾燥し、その後すりつぶして粒子の大きさが約1〜2mmの粗い粉末にした。この粗い粉末を抽出器内の水中に80〜90℃で5時間浸漬し、水抽出物を抽出器から抜き取った。この抽出プロセスを3回繰り返した。水抽出物を全て一緒にまとめてロータリー真空エバポレーター内で濃縮した。水を蒸発させた後に、合計550グラムの乾燥した粉末状の抽出物が得られた。HPLC分析によると、この粉末状の抽出物は主なセコイリドイド類として2つ、すなわち11.4%(重量/重量)のヌゼニドおよび6.2%のGI3を含んでいたことを示している。この組成物はさらに0.19%のオレオシド−11−メチルエステル、0.41%のエクセルシド(excelside)B、0.63%のGI5、0.2%のサリドロシド、それに加えて量の少ないセコイリドイド類として数種、たとえばリグストロシド、オレオシドジメチルエステル、およびエクセルシド(excelside)Aなどを含んでいた。
【0018】
(実施例2)
水、水−EtOH、およびEtOHを用いたFraxinus excelsiorからのセコイリドイド類の抽出。5つの試料を調製し、各試料に5グラムのF.excelsiorの種子を含めた。各試料を粉砕して粉末にし、それぞれを200mLずつの水、25%のEtOH/75%の水、50%のEtOH/50%の水、75%のEtOH/25%の水、およびEtOHで溶媒抽出した。室温で(22〜24℃)24時間抽出した後、溶媒を蒸発させて残留固形物をHPLCで分析した。セコイリドイドの内容およびサリドロシドが表1に記載されている。
【0019】
【表1】

(実施例3)
F.excelsiorからのセコイリドイド類の単離。3.5リットルのメタノールを加えて、これを実施例1で示した手順で得られた500グラムの粉末状の抽出物と、室温で3時間混合した。濾過プロセスでメタノール溶液を粉末から分離した。同じプロセスをもう1度繰り返し、2つのメタノール抽出物をまとめて減圧下で濃縮し、合計で54グラムの乾燥したメタノール抽出物を得た。このメタノール抽出物を水中で再溶解し、濾過して非水溶性の物質を取り除いた。濾液にはさらに、水、および水中に10%のMeOHから100%のMeOHまでの勾配のあるMeOH−水溶媒系を加えたC−18樹脂による逆相カラムクロマトグラフィー分離を実施した。合計7つの分画を採取した。カラムから溶出した各分画を真空下で蒸発させ、HPLC分析によってまとめた。分画2、3および7をシリカゲル樹脂で充填したクロマトグラフィーカラムに入れ、CHClから始めて、10%のMeOH/CHCl、20%のMeOH/CHCl、100%のMeOHに至るまでのクロロホルム−メタノール系で溶出した。シリカゲルカラムから採取した分画をHPLC分析で比較し、分離した各溶出液にMCI GEL CHP−20P樹脂および/またはSephadex LH−20樹脂によるカラムクロマトグラフィーを繰り返し実施し、1つの純粋な化合物が得られるまで水−メタノール系で溶出した。2つの新規な化合物、すなわちエクセルシド(excelside)Aおよびエクセルシド(excelside)Bを、数個の既知の化合物、すなわちヌゼニド、GI3、GI5、リグストロシド、オレオシドジメチルエステル、オレオシド−11−メチルエステル、およびサリドロシドとともに発見した。その化学構造を全て、分光法によって解明した。
【0020】
(実施例4)
エクセルシド(excelside)Aおよびエクセルシド(excelside)Bの構造の解明。エクセルシド(excelside)A(1)は非晶質粉末として得られた。その分子式C223216はそのMSに基づいて判定し、Hおよび13C NMRデータ(表2)によって確証した。UVスペクトルは、カルボニル基とコンジュゲートしたイリドイドのエノールエーテル系に由来する232(sh)nmでの標準的な吸収を示した。IRスペクトルは、vmax3401cm−1でヒドロキシル基、1734、1717cm−1でエステル基、1626cm−1でα,β−不飽和エステル基の諸官能基を示した。そのH,13C−NMRの詳細な分析および2次元相関スペクトルはエクセルシド(excelside)Aがオレオシド−タイプのセコイリドイド配糖体成分を有していることを示し、このことはδ7.51(s,H−3)、5.93(s,H−1)、6.08(qd,J=7.2,0.8Hz,H−8)、1.72(d,J=7.6Hz,H−10)および4.80(d,J=8.0Hz,H−1’)でのプロトンシグナル、δ155.2(C−3)、94.8(C−1)、124.7(C−8)、13.6(C−10)および100.5(C−1’)での対応する炭素13シグナルによって裏付けられた。δ3.62(OCH,δ51.9)および3.70(OCH,δ52.3)での2つのメトキシルシグナルは、それぞれgHMBCスペクトルにおけるC−7(δ173.7)およびC−11(δ168.6)と相関を示し、エクセルシド(excelside)Aが7,11−オレオシドジメチルエステルを1ユニット有することを意味する[Boros and Stermitz,1991,J.Nat.Prod.,54,1173−246]。このほか、β−グルコピラノシル成分によるさらなるNMRシグナルの発生(δ100.6,77.6,77.8,71.6,75.3および70.1)は、エクセルシド(excelside)Aが、別のグルコシルを有する7,11−オレオシドジメチルエステルであることを示唆した。このグルコシルの位置はオレオシド成分のC−6’で付着していると判定した。同じ位置の7,11−ジメチルオレオシドのシグナルを有するエクセルシド(excelside)Aと比較したとき、C−6’でシグナルが7.5ppm低磁場シフト、ならびにC−3’およびC−5’でそれぞれ0.5ppmおよび2.6ppm高磁場シフトしたためである。この推論はgHMBC相関スペクトルによってさらに裏付けられた。gHMBC相関スペクトルでは、δ4.35ppmでH−1’’’とδ70.1ppmでC−6’との間、およびH−6’(δ4.15および3.84ppm)とC−1’’’(δ105.3ppm)との間にクロスピークが観察された。メチル基は8,9−オレフィン結合でE−配置に位置し、H−10(δ1.72)とH−5(δ3.96)との間に強い相関が観察されたROESYスペクトルによって裏付けられた。この同じスペクトルにおいて、H−1(δ5.93)とH−6(δ2.51)との間の相関は、C−1でのグルコシルがβ−配置をとっていることを示した。これをもとにして、エクセルシド(excelside)Aの構造を(2S,3E,4S)2H−ピラン−4−酢酸−3−エチリデン−2−[(6−O−β−D−グルコピラノシル−β−D−グルコピラノシル)オキシ]−3,4−ジヒドロ−5−(メトキシカルボニル)メチルエステルと判定し、エクセルシド(excelside)Aと命名した。完全なHおよび13C NMRデータの帰属を表2に示す。
【0021】
エクセルシド(excelside)B(2)は無色の非晶質粉末として単離された。その分子式はMSによってC304017と判定し、NMRデータによって確証した。2のUVスペクトルにおいて、カルボニル基とコンジュゲートしたイリドイドのエノールエーテルの230nmでの標準的な吸収に加えて、275nmおよび283nmでのさらなる吸収によってフェノールの存在が示された。IRはvmax3400cm−1でヒドロキシル、1701cm−1、1636cm−1でα,β−不飽和エステル、および1518cm−1で芳香環を示した。エクセルシド(excelside)BのH NMRおよび13Cスペクトルは、オレオシド成分による標準的なシグナルを示した。すなわちδ7.50(s,H−3)、δ155.2(C−3)でのオレフィンシグナル、δ5.94(s,H−1)、δ94.7(C−1)でのアリルアセタール、δ4.82(d,H−1’)、δ100.3(C−1’)でのグルコシルによるアノマーのシグナル、δ6.05(d,H−8)、δ124.8(C−8)でのエチリデン基によるオレフィンプロトン、およびδ1.61(d,H−10)、δ13.6(C−10)でのエチリデンによるメチルである。フェニルエタノイドシグナルならびにδ6.71(2H,dd,J=6.8,2.8Hz)およびδ7.02(2H,dd,J=6.8,2.8Hz)での芳香環内のAA’BB’スピン系が観察されたことにより、パラ置換型のフェニルエタノイドであることがわかった。gHMBCにおいてδ4.26ppmでのH−1’’とδ67.0ppmでのC−7との間に長距離のH−13C相関が見られたことで、フェニルエタノールはC−7の位置で付着していることがわかり、このことはエクセルシド(excelside)Bの構造をリグストロシド、p−ヒドロキシフェニルエタノールメチルオレオシドエステルに関連づけた[Takenakaら、2000,Phytochemistry,55,275−84]。エクセルシド(excelside)Aと同様に、エクセルシド(excelside)B内では明らかなさらなるβ−グルコピラノシルのユニットがC−6’で付着していることがわかった。このことは、リグストロシドの磁場との比較において、エクセルシド(excelside)BのC−6’でのC−13シグナルによる7.3ppmの低磁場化学シフト、ならびにC−3’およびC−5’での、それぞれ0.7ppmおよび2.9ppmの高磁場シフトによって確証された。このような結合のさらなる確証は、δ4.31(H−1’’’およびδ70.1(C−6’)でのグルコシルによるアノマーのシグナル間の強い相関のgHMBCスペクトルにおいて観察された。gHMBCスペクトルにおいてδ3.69(OCH)およびδ168.7(C−11)でのシグナルに長距離相関のクロスピークが観察されたため、メチル基の位置をC−11に割り当てた。こうして化合物エクセルシド(excelside)Bを(2S,3E,4S)2H−ピラン−4−酢酸−3−エチリデン−2−[(6−O−β−D−グルコピラノシル−β−D−グルコピラノシル)オキシ]−3,4−ジヒドロ−5−(メトキシカルボニル)2−(4−ヒドロキシフェニル)エチルエステルとして指定し、エクセルシド(excelside)Bと命名した。Hおよび13C NMRデータの帰属を表2に示す。
【0022】
【表2−1】

【0023】
【表2−2】

化学シフトδは標準試料としてのテトラメチルシラン(tetramethylsilane:TMS)に対する百万分率(parts per million:ppm)で表している。シグナルの多重度は、シングレット(singlet:s)、ダブレット(doublet:d)、トリプレット(triplet:t)、カルテット(quartet:q)、ダブルダブレット(doublet of doublet:dd)、ダブルカルテット(doublet of quartet:dq)、およびマルチプル(multiple:m)として報告している。括弧内の結合定数はHzで表している。NMRスペクトルを得るために用いた溶媒はCDODである。
【0024】
(実施例5)
未分化の3T3−L1細胞に対するGI5(5)およびヌゼニド(3)の抑制効果。体重増加の主な原因は脂肪生成のプロセスによる体内の脂肪組織の堆積である。脂肪生成は、脂肪細胞の大きさおよび数の増加によって特徴づけられる。F.excelsiorから単離したセコイリドイド類であるGI5およびヌゼニドは、未分化の3T3−L1細胞から分化した脂肪細胞への経路を遮断することによって、かなりの、および穏やかな脂肪生成の抑制作用をそれぞれ示し、体重の調整および体脂肪の減少に対する効果を発揮した。3T3−L1前脂肪細胞の分化を、メチルイソブチルキサンシン、デキサメタゾン、およびインスリン(methylisobutylxanthine,dexamethasone,and insulin:MDI)ホルモンカクテルを用いて、化合物含有または不含で誘導した。分化誘導の10日後に、処置した細胞に対して、それぞれのグルコースの取り込み作用についてのアッセイを実施した。これは分化(脂肪生成)の間接的な測定となる。なぜなら、前脂肪細胞はインスリンに誘導されたグルコース輸送−4(glucose transport−4:GLUT4)仲介によるグルコースの取り込みができないのに対して、完全に分化した脂肪細胞はこの取り込みができるからである。化合物GI5およびヌゼニドは、4つの異なる濃度で用いた。すなわち0.004%、0.02%、0.05%、および0.1%である。無処置の(未分化の)細胞を陰性対照として用い、一方インスリンを陽性対照として用いた。化合物の溶媒であるメタノール(MeOH)を対照として用いた。結果は、F.excelsiorから単離したGI5およびヌゼニドは、未分化の3T3−L1細胞から分化した脂肪細胞への経路を遮断することによって、かなりの、および穏やかな脂肪生成の抑制作用をそれぞれ有し、体重の調整および体脂肪の減少に対する効果を発揮することを示した(図2を参照)。
【0025】
(実施例6)
Fraxinus excelsiorのPPAR−アルファの活性化。ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体(PPARs)は、多くの細胞プロセスおよび代謝プロセスを調整する核内受容体である。PPAR−アルファは大部分が肝臓内に発現し、肝臓では脂肪酸の酸化の調整において重要な役割を有している(Reddy and Hashimoto,2001,Annu Rev Nutr.,21,193−230)。PPAR−アルファの活性化による脂肪酸の酸化の誘導によって、血漿脂質プロファイルが改善される。種々のマウスモデルでは、PPAR−アルファアゴニストは血漿トリグリセリドを低下させ、脂肪症を減少させ、肝臓および筋肉のsteaosisを改善し、その結果、インスリン感受性を改善し、血中グルコースを減少させる[Guerre−Milloら、2000,J. Biol.Chem.,275,16638−42およびKimら、2003,Diabetes,52,1770−8]。
【0026】
実施例2に記載した溶媒として水を用いることによって得られたFraxinus excelsiorの種子の抽出物(FE抽出物)が、PPAR−アルファを活性化することを実証した。DMSO(対照条件)との比較におけるFE抽出物およびフェノフィブラート(陽性対照)によるPPAR−アルファの相対的な活性化を、GAL4/PPAR−アルファ受容体をトランスフェクトした細胞とともにインキュベーションした後の活性化合物から得られたルシフェラーゼ(遺伝子レポーター)の発光シグナルとして算出した。最初に、COS−7細胞(DMEM+10%FCS中で培養)に融合タンパク質GAL4/PPAR−アルファおよびルシフェラーゼを有するDNA構築物を一時的にトランスフェクトした。トランスフェクションでは、まず、GAL4(酵母転写因子)のDNA結合部位の5つのコピーをpTK−pGL3プラスミドのチミジンキナーゼプロモーターの前に挿入することによってプラスミドpGAL5−TK−pGL3を得た。その後、hPPAR−アルファDEFドメイン(aa180−464)をPCR増幅することによって、プラスミドpGAL4−hPPAR−アルファを構築した。得られたPCR産物をpBD−GAL4(Stratagene,La Jolla,USA)でクローン化し、引き続いてキメラをpCDNA3ベクターにサブクローン化した。トランスフェクションした後、COS−7細胞を0μg/mL(対照条件)、1μg/mL、3μg/mL、10μg/mL、30μg/mL、100μg/mL、300μg/mL、および1,000μg/mLのFE抽出物、または100μMのフェノフィブラート(陽性対照)で24時間インキュベートした。溶媒としてDMSOを用いた。インキュベーションの後、細胞を採取し、ルシフェラーゼアッセイを実施した。FE抽出物およびフェノフィブラートによるPPAR−アルファの活性化はルシフェラーゼの発現およびそれによって生じる発光シグナルの増大という結果をもたらした。これはTecan Ultra Spectrophotometer(Tecan, Austria)を用いて測定した。結果は、対照(DMSO)の発光作用との比較におけるFE抽出物およびフェノフィブラートの結果として、発した発光のシグナルに比例するGAL4/PPAR−アルファの相対的な活性化として表した。結果は各試験につき4回の試行の平均±SDで報告している(図3)。グループ間の差異はStudentのt検定(XLSTAT2008,Addinsoft(商標),USA)を用いて算出した。FE抽出物によるPPAR−アルファの活性化の結果は図3に示されている。FE抽出物は1.000μg/mLで18%のPPAR−アルファの活性化を達成した。この結果は、基準化合物として用いたPPAR−アルファのアクチベーターであるフェノフィブラートに対するパーセンテージで表したものである。
【0027】
PPAR−アルファを活性化するFE抽出物の能力によって、動物実験で観察された血糖低下の効果をある程度説明することができるであろう。
【0028】
(実施例7)
オスのC57BL/6Jマウスに対するFE抽出物の血糖降下活性(hypoglycemic activity)。オスのC57BL/6Jマウスを3つのグループに分けた。すなわち1)陰性対照グループで、20匹のオスのマウスに1日当たりの摂取量が約10kcalの低脂肪食(LF)を与えた;2)陽性対照グループで、20匹のマウスに1日当たりの摂取量が約60kcalの高脂肪食(HF)を与えた。高脂肪給餌が原因で、このマウスのグループは肥満症、高血糖症、および高インスリン血症を発症した;3)0.5%のFE抽出物グループで、10匹のオスのマウスにグループ2のマウスと同じく高脂肪食を与えたが、その餌にはさらに0.5%のFE抽出物を混合した。食物および液体の摂取量ならびに体重を毎週測定した。異常および場合によってはあり得る毒性の兆候をモニターした。血液を尾静脈から試料採取し、血糖測定器を用いて空腹時血糖値を測定した。基礎データを実験前に測定した。3つのグループの間に統計的な差異はなかった。
【0029】
16週間の処置の後、FE抽出物で処置したグループのマウスは、高脂肪対照グループのマウスより空腹時血糖値が有意に低かった(p<0.001)。これにより、FE抽出物の強力な血糖降下の効果が示された(図4)。
【0030】
(実施例8)
オスのC57BL/6Jマウスに対するFE抽出物による体重減少作用。実施例7と同じグループの個々のマウスの体重を測定した。基礎体重について、3つのグループの間に統計的な差異はなかった。16週間の処置の後、高脂肪の処置をしたグループ(グループ2および3)のマウスは全て、低脂肪の処置をしたグループのマウスより有意に体重が増えた。しかしFEグループの体重増加の程度は陽性対照グループと比較して非常に低く、このことは体重の調整に対するFE抽出物の作用を示すものである(図5)。
【0031】
(実施例9)
エクセルシド(excelside)A(1)、GI3(4)、およびオレオシドジメチルエステル(6)によるPPAR−アルファの活性。PPAR−アルファの活性について、Fraxinus excelsior(FE)の種子の水抽出物から単離された5種の単一化合物を試験した。このアッセイでは合成の選択的なPPARアルファアクチベーターであるWY14,643を陽性対照とし、これらの化合物を溶解するために用いたDMSOを陰性対照とした。5つの純粋なセコイリドイドは濃度10−4Mである程度有効であった。化合物のエクセルシド(excelside)A、オレオシドジメチルエステルおよびGI3では良好な活性を示した(図6)。
【0032】
(実施例10)
オスのC57BL/6Jマウスに対するFraxinus excelsior(FE)の種子の抽出物による脂肪の減少。16週間の処置の後、実験の終了時(実施例7からの)に、全てのグループのマウスを麻酔して屠殺した。個々のマウスの大網脂肪および後腹膜脂肪を採取し重量を測定した。結果によると、FEの種子の抽出物は大網脂肪の増加を18.3%、後腹膜脂肪の増加を17.8%、それぞれ減少させた(図7および8)。
【0033】
(実施例11)
オスのC57BL/6Jマウスに対するFraxinus excelsior(FE)の種子の抽出物による空腹時血漿インスリンレベルの低減。実験の終了時(実施例7からの)に、マウスElisaキットを用いて空腹時血漿インスリンレベルを測定した。Fraxinusの種子の抽出物で処置したマウスは高脂肪対照グループのマウスの値と比較して空腹時血漿インスリンレベルが有意に低かった。(P<0.05)(図9)。
【0034】
(実施例12)
ヒトにおけるFraxinus excelsior(FE)の種子の抽出物の血糖低下作用。ヒトにおける本発明の組成物の効果を評価するために、無作為、二重盲検、プラセボ対照、かつクロスオーバーデザインの試験をヒトに対して実施した。合計16名の健康な個体(男性11名および女性5名)をインドで採用した。対象には、年齢が25〜55歳であること、ボディ・マス・インデックスが26±2.2kg/mであること、空腹時血糖が4.4±0.09mmol/Lであることを条件とした。FEの種子の抽出物を処置グループに用い、コムギフスマの粉末をプラセボグループに用いた。この試験において1人1日当たりの投与量はFEの種子の抽出物1gとした。対象には、血糖反応の評価のためのグルコースチャレンジ(100mLの水中に50g)の前に、2カプセルのFEの種子の抽出物(各500mg)、または2カプセルのプラセボ(各500mgのコムギフスマ)のどちらか一方を経口の単回投与で摂取するように指示した。1週間のウォッシュアウト期間の後、この2つのグループを交換した。試験期間中、指穿刺による血液試料を、0分、15分、30分、45分、60分、90分および120分の時点で採取した。試験用の抽出物/プラセボは、空腹時の血液を採取した後0分で速やかに100mLの水で与えた。その後対象は5〜8分以内にグルコース飲料を摂取した(100mLの水中に50g、D−グルコース、Qualigens Co.,Glaxo India)。この時点でタイマーをスタートさせた。追加の指穿刺による血液試料を、グルコース飲料の摂取から15分後、30分後、45分後、60分後、90分後および120分後に採取した。グルコース濃度はBayerのglucometerおよびEssentiaのglucotripを用いて毛細血管中の全血液中で測定した。プラセボグループとFEで処置したグループの両方について、種々の時間間隔での血糖濃度に対して正上昇(positive incremental)曲線下面積(AUC)を算出した。グループ間の有意差は、対応のあるStudentの両側t検定を用いて算出した。分析はXLSTAT2008ソフトウェア(Addinsoft(商標)、USA)を用いて実施した。統計的な有意性はP<0.05に設定した。全てのデータは平均±SEMで報告している。
【0035】
上昇血糖のグラフを対比較すると、15分(2.0±0.26mmol/L対1.7±0.21mmol/L)から、30分(4.0±0.41mmol/L対3.7±0.33mmol/L)、45分(4.2±0.41mmol/L対3.7±0.47mmol/L)、60分(3.4±0.46mmol/L対3.4±0.41)、90分(1.8±0.38mmol/L対1.6±0.31mmol/L)、120分(0.58±0.29mmol/L対0.21±0.27mmol/L)に至るまでの実験時間の間、対応するコムギフスマプラセボと比較してFEの種子の抽出物による食後のグルコース値が低いことがわかった。(図10A)。対応のあるStudentのt検定により、平均AUCについての、処置(FE対プラセボ)の効果における差異(299.8±28.8min.mmol/L対273.2±25.2min.mmol/L)は統計的に有意である(P=0.02)ことが示された。結果は図10Bに記載している。
【0036】
(実施例13)
ヒトに対するFraxinus excelsior(FE)の種子の抽出物の急性のインスリン分泌効果。この組成物のインスリン分泌効果を、実施例12に記載した臨床試験のさらなる目的として評価した。FE/プラセボ試験における0分、30分、60、90分および120分の時点で、処置した健康な対象の静脈の血液の試料(7〜8mL)を採取して血清分離管に入れた。血液は15分放置して凝固させ、その後10分間1,500×gで遠心分離した。その後、得られた血清で、電気化学発光免疫測定法(electro chemiluminescence immunoassay:ECLIA)を用いてインスリンを分析した。プラセボで処置されたグループおよびFEで処置されたグループの両方について種々の時間間隔でのインスリンレベルに対する正上昇(positive incremental)血中インスリン曲線下面積(AUC)を算出した。グループ間の有意差は、対応のあるStudentの両側t検定を用いて算出した。分析はXLSTAT2008ソフトウェア(Addinsoft(商標)、USA)を用いて実施した。統計的な有意性はP<0.05に設定した。全てのデータは平均±SEMで報告している。FE(55.5±4.6mU/L)はプラセボ(43.5±5.0mU/L)と比較して、90分の時点で有意な(P=0.002)インスリンの分泌を示した(図11A)。FEで処置したグループ(6,041.6±340.5min.mU/L)は、プラセボ(5,996.3±594.58min.mU/L)と比較して、平均血中インスリンAUC(0〜120分)には有意差が見られなかった(図11B)。
【0037】
90分時点でのインスリン分泌の刺激は、膵島細胞へのFEの直接的な作用であると考えられ、試験終了時(120分)には平常に戻った。これは、このようなケースにおいてインスリン抵抗性を減少させ、インスリン感受性を改善する可能性がある。さらには、処置とプラセボの間で平均血中インスリンAUCに有意差がないので、抽出物を使用しても、処置後の数時間に高インスリン血症がそれによって起こることはなく、安全である。
【0038】
当然のことながら当業者には周知であるように、FE抽出物の有効な量は処置を受ける動物またはヒトの体重によって変更可能である。さらには、FE抽出物はあらゆる従来の媒体によって、一般用医薬品および栄養補助品に通常用いられているような増量剤、添加剤、結合剤、賦形剤、香料および同類のものと一緒に、液体、粉末、または、カプレット、タブレットもしくはカプセル、あるいは他の従来の薬物の形状などの剤形で送達されてもよい。
【0039】
本発明は、記載された実施形態ならびに所与の数量および数値の範囲以外によって保護されうることを当業者なら理解できるであろう。これらは説明する目的で供給されているのであり、限定する目的ではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量で約1%〜約15%のヌゼニドと、
重量で約1%〜約17%のGI3と、
重量で約0.5%〜約1%のオレオシドメチルエステルと、
重量で約0.03%〜約0.12%のエクセルシド(excelside)Bと、
重量で約0.1%〜約1.7%のGI5と、
重量で約0.08%〜約0.7%のサリドロシドと
を含むFraxinus excelsiorの種子の抽出物。
【請求項2】
(2S,3E,4S)2H−ピラン−4−酢酸−3−エチリデン−2−[(6−O−β−D−グルコピラノシル−β−D−グルコピラノシル)オキシ]−3,4−ジヒドロ−5−(メトキシカルボニル)メチルエステルの単離された化合物。
【請求項3】
(2S,3E,4S)2H−ピラン−4−酢酸−3−エチリデン−2−[(6−O−β−D−グルコピラノシル−β−D−グルコピラノシル)オキシ]−3,4−ジヒドロ−5−(メトキシカルボニル)2−(4−ヒドロキシフェニル)エチルエステルの単離された化合物。
【請求項4】
Fraxinus excelsiorの種子の抽出物を投与することによって対象を治療処置する方法。
【請求項5】
対象を処置するのに有効な量のFraxinus excelsiorの種子の抽出物を投与することによって脂肪の合成を阻止する方法。
【請求項6】
前記Fraxinus excelsiorの種子の抽出物がGI5を含む請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記Fraxinus excelsiorの種子の抽出物がヌゼニドを含む請求項5に記載の方法。
【請求項8】
対象を処置するのに有効な量のFraxinus excelsiorの種子の抽出物を投与することによってPPAR−アルファを活性化する方法。
【請求項9】
前記Fraxinus excelsiorの種子の抽出物がGI3である請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記Fraxinus excelsiorの種子の抽出物がオレオシドジメチルエステルである請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記Fraxinus excelsiorの種子の抽出物がエクセルシド(excelside)Aである請求項8に記載の方法。
【請求項12】
対象を処置するのに有効な量のFraxinus excelsiorの種子の抽出物を投与することによって血糖降下活性を生じさせる方法。
【請求項13】
対象を処置するのに有効な量のFraxinus excelsiorの種子の抽出物を投与することによって体重を減少させる方法。
【請求項14】
対象を処置するのに有効な量のFraxinus excelsiorの種子の抽出物を投与することによって体脂肪を減少させる方法。
【請求項15】
対象を処置するのに有効な量のFraxinus excelsiorの種子の抽出物を投与することによって、高インスリン血症にならないように空腹時血漿インスリンレベルを調整するための方法。
【請求項16】
対象を処置するのに有効な量のFraxinus excelsiorの種子の抽出物を投与することによってインスリン感受性を促進し、有益な急性のインスリン分泌効果を生じさせるための方法。
【請求項17】
対象を処置するのに有効な量のFraxinus excelsiorの種子の抽出物を投与することによってメタボリックシンドロームを処置するための方法。
【請求項18】
対象を処置するのに有効な量のFraxinus excelsiorの種子の抽出物を投与することによって2型糖尿病を処置するための方法。
【請求項19】
対象を処置するのに有効な量のFraxinus excelsiorの種子の抽出物を投与することによって高インスリン血症を予防するための方法。
【請求項20】
前記対象がヒトである請求項4、5、8、または12〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
Fraxinus excelsiorの種子をすりつぶして粒子にするステップと、
すりつぶした該粒子を溶媒混合物に接触させるステップと、
該溶媒混合物からすりつぶした該粒子を分離するステップと、
アルコール中で粉末を溶解するステップと、
該アルコールを蒸発させるステップと、
を含むプロセスによって、Fraxinus excelsiorの種子からセコイリドイドを抽出し、単離する方法。
【請求項22】
すりつぶした前記粒子が約0.1mm〜30mmの直径を有する請求項21に記載の方法。
【請求項23】
抽出の温度が20℃〜100℃である請求項21に記載の方法。
【請求項24】
抽出の温度が50℃〜70℃である請求項21に記載の方法。
【請求項25】
すりつぶした粒子 体 溶媒混合物の比が約1グラム対1ミリリットルから約1グラム対10ミリリットルである請求項21に記載の方法。
【請求項26】
すりつぶした粒子 体 溶媒混合物の比が約1グラム対3ミリリットルから約1グラム対8ミリリットルである請求項21に記載の方法。
【請求項27】
すりつぶした前記粒子が前記溶媒混合物に約2時間〜約24時間接触する請求項21に記載の方法。
【請求項28】
前記溶媒混合物が水、水−アルコール混合物、またはアルコールである請求項21に記載の方法。
【請求項29】
前記溶媒混合物がエタノールを含む請求項21に記載の方法。
【請求項30】
前記溶媒混合物がメタノールを含む請求項21に記載の方法。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図1−3】
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【図1−4】
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【図1−5】
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【図1−6】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2011−503009(P2011−503009A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−532337(P2010−532337)
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【国際出願番号】PCT/US2008/082524
【国際公開番号】WO2009/061849
【国際公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(510122304)ナチュレックス, インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】