説明

G−CSFの外用での創傷治療効果の増強剤

【課題】 新規なG−CSFの外用での創傷治療効果の増強剤を提供すること。
【解決手段】 本発明のG−CSFの外用での創傷治療効果の増強剤は、アルギン酸プロピレングリコールエステルを有効成分とすることを特徴とする。アルギン酸プロピレングリコールエステルは、アルギン酸ナトリウムのように酸性領域で析出してゲル化する性質を有さない。従って、アルギン酸プロピレングリコールエステルには、酸性領域で安定化が図られるG−CSFが安定に保たれた液状組成物を調製するのに適しているという利点もある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、G−CSFの外用での創傷治療効果の増強剤に関する。
【背景技術】
【0002】
G−CSF(顆粒球コロニー形成刺激因子)が外用において創傷治療効果を有することは既に公知であり、例えば、特許文献1では、創傷の1つとして位置付けられる難治性皮膚潰瘍に対するG−CSFの外用での治療効果が示されている。また、特許文献1には、G−CSFとともにアルギン酸またはその塩を創傷部位に塗布すると、これらはG−CSFの一定期間における血中存在量を増加したり血中減衰量を抑制したりし、また、患者の血流量を増加するなどして難治性皮膚潰瘍に対する治療効果の向上に寄与することが記載されている。
【特許文献1】国際公開第2007/119486号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、G−CSFの外用での創傷治療効果に対して優れた増強作用を有する新たな物質の探索は、難治性皮膚潰瘍をはじめとする各種の創傷の優れた治療方法を確立する上で意義深いことである。
そこで本発明は、新規なG−CSFの外用での創傷治療効果の増強剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、上記の点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、アルギン酸の多価アルコールエステルの1つであるアルギン酸プロピレングリコールエステルが、G−CSFの外用での創傷治療効果に対して優れた増強作用を有することを見出した。
【0005】
上記の知見に基づいてなされた本発明のG−CSFの外用での創傷治療効果の増強剤は、請求項1記載の通り、アルギン酸プロピレングリコールエステルを有効成分とすることを特徴とする。
また、本発明の創傷治療のための外用液状組成物は、請求項2記載の通り、G−CSFとアルギン酸プロピレングリコールエステルを少なくとも含んでなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、新規なG−CSFの外用での創傷治療効果の増強剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明において、G−CSFの外用での創傷治療効果の増強剤の有効成分であるアルギン酸プロピレングリコールエステルは、アルギン酸のカルボキシル基の少なくとも一部がプロピレングリコールとエステル結合した公知の物質であり、医薬品添加物(ゲル化剤や増粘剤など)などとして既に利用されている安全性が高いものである。
【0008】
本発明において、アルギン酸プロピレングリコールエステルによる外用での創傷治療効果の増強対象となるG−CSFは、顆粒球を分化増殖させる作用を有するなど、当業者にG−CSFとして認識されうるものであれば、既知のアミノ酸配列を持つヒト由来の天然体に限らず、その遺伝子工学的手法による産生体や、そのアミノ酸配列に対して1以上のアミノ酸が置換・欠失・付加・挿入した類縁体であってもよい。G−CSFの創傷治癒における主作用は、骨髄からの好中球、線維芽細胞に分化誘導される筋線維芽細胞、血小板に分化誘導される巨核球などの組織修復に必要な細胞全般の動員を助けることである。この作用は、他の血管内皮細胞の増殖因子、例えば、線維芽細胞増殖因子(FGF)などを併用することで、増強されることが期待でき、肉芽形成能をさらに増幅させうる。また、G−CSFの創傷部位への適用による効果としては、創傷部位近傍に浸潤した幹細胞などの分化程度の低い骨髄由来細胞の分化促進作用も考えられる。
【0009】
アルギン酸プロピレングリコールエステルによるG−CSFの外用での創傷治療効果に対する増強作用は、例えば、G−CSFを創傷部位に適用する際、アルギン酸プロピレングリコールエステルも同時に創傷部位に適用することで発揮させることができる。ここで、「適用」という用語は、塗布や噴霧といった創傷部位への局所投与方法を意味する。このような態様は、G−CSFとアルギン酸プロピレングリコールエステルを少なくとも含んでなる創傷治療のための外用液状組成物を用いることで容易に実現することができる。
【0010】
G−CSFとアルギン酸プロピレングリコールエステルを少なくとも含んでなる創傷治療のための外用液状組成物は、例えば、G−CSFとアルギン酸プロピレングリコールエステルを、精製水や生理食塩水や燐酸緩衝液や塩酸溶液などの溶媒に溶解して調製することができる。なお、必要に応じてポリソルベートなどの界面活性剤やマンニトールなどの安定化剤などを添加剤として添加してもよい。液状組成物中のG−CSFの濃度は1μg/mL〜2mg/mLが望ましく、5μg/mL〜1mg/mLがより望ましいが、さらに望ましくは創傷治療効果に濃度依存性が見られる7.5μg/mL〜250μg/mLである。濃度が低すぎるとG−CSFの創傷治癒効果が発揮されなくなる一方、濃度を高くしすぎてもそれほど効果は向上しない。また、液状組成物に含有せしめるアルギン酸プロピレングリコールエステルの濃度は0.001%〜5%が望ましく、0.01%〜3%がより望ましく、0.05%〜1%がさらに望ましい(重量%濃度)。濃度が高すぎると液状組成物の粘度が高くなって噴霧が困難になるといった取り扱い上の問題が生じる一方、濃度が低すぎるとG−CSFの外用での創傷治療効果に対する増強作用が十分に得られないといった問題や、液状組成物の粘度が低くなって創傷表面に対するG−CSFの保持が十分に行えないといった問題がある(従って液状組成物の粘度は1.5mPa・s〜20mPa・sが望ましく5mPa・s〜10mPa・sがより望ましい)。液状組成物のpHは、組成物中でG−CSFを安定に保つためには2.5〜5.0であることが望ましく、3.0〜4.5であることがより望ましく、3.5〜4.3であることがさらに望ましい。液状組成物のpHは、必要に応じて無機酸(塩酸など)や有機酸(クエン酸や酢酸など)をpH調整剤として用いて調整することができる。なお、アルギン酸ナトリウムを溶媒に溶解すると、溶液のpHは約7である。従って、G−CSFとアルギン酸ナトリウムを含有する液状組成物を調製する場合、組成物中でG−CSFを安定に保つためにはpH調整剤を用いてpHを酸性領域に移行させる必要があるが、アルギン酸ナトリウムは酸性領域で析出してゲル化しやすい性質を有する(特にpHが4.3以下でその傾向が顕著である)。よって、G−CSFが安定に保たれた液状組成物を調製する場合、アルギン酸ナトリウムには取り扱いが困難であるという問題がある。これに対し、アルギン酸プロピレングリコールエステルを溶媒に溶解すると、溶液のpHは約4である。アルギン酸プロピレングリコールエステルは、アルギン酸ナトリウムのように、酸性領域で析出してゲル化する性質を有さない。また、アルギン酸プロピレングリコールエステルは、アルギン酸ナトリウムよりもG−CSFの安定性に及ぼす影響が少ない。従って、アルギン酸プロピレングリコールエステルには、G−CSFが安定に保たれた液状組成物を調製するのに都合がよいという利点もある。
【0011】
G−CSFとアルギン酸プロピレングリコールエステルを少なくとも含んでなる創傷治療のための外用液状組成物は、通常行われる方法に従って、液剤やローション剤や噴霧剤(スプレー剤)などに製剤化することができる。製剤化に際しては、自体公知の安定化剤、増粘剤、溶解補助剤、保存剤、増量剤、等張化剤、殺菌剤、防腐剤、ゲル化剤などの各種成分を添加してもよいことは言うまでもない。この外用液状組成物は、例えば、1日1回〜数回や1回/1日〜7日で1週間〜1ヶ月間、G−CSFを望ましくは0.1μg/cm〜500μg/cmの割合で、より望ましくは0.5μg/cm〜100μg/cmの割合で、さらに望ましくは1μg/cm〜10μg/cmの割合で創傷部位に塗布したり噴霧したりすることで、優れた創傷治療効果を期待することができる。また、この外用液状組成物は、コラーゲンシート(コラーゲンを綿線維状に紡糸加工したもの)やアルギン酸塩シート(アルギン酸塩を線維状にして不織布にしたもの)などの基材シートに浸潤させてシート剤に製剤化して用いてもよい。このようにして用いることで、基材シートが有する保湿性や創傷治癒促進効果などとの相乗乃至相加効果を期待することができる(創傷部位へのG−CSFの投与量は上記と同様)。
【0012】
なお、本発明において、「創傷」という用語は、皮膚や粘膜といった体表の損傷を意味し、具体的には、外傷や熱傷の他、褥瘡(床ずれ)、糖尿病性皮膚潰瘍、虚血性皮膚潰瘍などの難治性皮膚潰瘍をはじめとする皮膚潰瘍などが例示される。
【実施例】
【0013】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0014】
実験例1:アルギン酸プロピレングリコールエステルによるG−CSFの外用での創傷治療効果に対する増強作用の評価(その1)
(A)サンプルとした液状組成物について
麒麟麦酒株式会社の遺伝子組換えヒトG−CSF製剤(商品名:グラン注射液150)、アルギン酸ナトリウム(株式会社キミカ)、アルギン酸プロピレングリコールエステル(株式会社キミカ)、生理食塩水、pH調整剤として10mM酢酸緩衝液を用い、以下の3種類の液状組成物を準備した。それぞれの液状組成物のpHと粘度を表1に示す。
(1)G−CSF150μg/0.6mL(商品名:グラン注射液150)
(2)G−CSF150μg/0.5%アルギン酸ナトリウム溶液1.75mL
(3)G−CSF150μg/0.5%アルギン酸プロピレングリコールエステル溶液1.75mL
【0015】
【表1】

【0016】
(B)創傷モデルの作製とこのモデルを用いたサンプルの創傷治療効果の評価について
ラット(SPF)、Crl:CD(SD)系統(日本チャールズリバー株式会社より購入)を用いて、創傷モデルとして皮膚切創モデルの作製を行った。具体的には、ペントバルビタールナトリウム(大日本住友製薬株式会社)を用いてラットに麻酔をかけた後(40mg/0.8mL/kg,i.p.)、背部を電気バリカンにて剃毛し、剃毛した部位の皮膚をアルコール綿で消毒してから外科用メスで正中線上に3.4cmの切創を作製した。切開部の中央部と、中央部から頭部側および尾部側にそれぞれ1cmの位置の計3箇所をミヘル(ミッヘル縫合鋲:大3.0×14mm、株式会社夏目製作所)で縫合した。切創作製日を1日目として、1日目に切創部位あたり50μgのG−CSFが投与されるように各サンプルを切創部位に塗布した。4日目にジエチルエーテル麻酔下でミヘルを除去した。5日目にラットの体重を測定し、ジエチルエーテル過麻酔で致死させた後、創傷部位周辺の皮膚を剥離して創傷部位を中央とした短冊形の皮膚片(短片約2cm×長片約3cm)を作製し、短片の一方を端から約0.5cmの位置で固定して、創耐張力(切創が開裂するのに要する荷重)を創傷治癒測定用引張試験機(TK−251、有限会社ユニコム)にて測定し、各サンプルの平均創耐張力のコントロール(無処置)の平均創耐張力からの増加比率を算出した(n=10)。結果を表2に示す。
【0017】
【表2】

【0018】
表2から明らかなように、G−CSFの外用での創傷治療効果は、アルギン酸ナトリウムまたはアルギン酸プロピレングリコールエステルの共存により増強されたが、増強の程度は、アルギン酸ナトリウムよりもアルギン酸プロピレングリコールエステルの方が遥かに優れていることがわかった。
【0019】
実験例2:アルギン酸プロピレングリコールエステルによるG−CSFの外用での創傷治療効果に対する増強作用の評価(その2)
実験例1と同様にして、切創部位あたり0.2mL塗布することで1.5μg,5μg,15μg,50μgのG−CSFが投与される4種類の液状組成物(G−CSF含有0.5%アルギン酸プロピレングリコールエステル溶液)を準備し、実施例1と同様にして、各サンプルの平均創耐張力のコントロール(無処置)の平均創耐張力からの増加比率を算出した(n=10)。結果を表3に示す。
【0020】
【表3】

【0021】
表3から明らかなように、アルギン酸プロピレングリコールエステルの共存により、G−CSFの外用での創傷治療効果は、少なくとも1.5μg〜50μgの投与範囲において濃度依存的に増強されることがわかった。
【0022】
実験例3:アルギン酸プロピレングリコールエステルのG−CSFの安定性に及ぼす影響の評価
実験例1と同様にして、G−CSF濃度が86μg/mLの0.5%アルギン酸プロピレングリコールエステル溶液と、G−CSF濃度が86μg/mLの0.5%アルギン酸ナトリウム溶液を準備し、4℃での3週間保存後と4週間保存後のG−CSFの安定性をSDS電気泳動(SDS−PAGE)にて評価した。結果を図1に示す(レーンの詳細は以下の通り)。
1:コントロール(保存試験開始前のG−CSF)
2:4週間保存後のアルギン酸プロピレングリコールエステル溶液中のG−CSF
3:3週間保存後のアルギン酸プロピレングリコールエステル溶液中のG−CSF
4:4週間保存後のアルギン酸ナトリウム溶液中のG−CSF
5:3週間保存後のアルギン酸ナトリウム溶液中のG−CSF
図1から明らかなように、アルギン酸プロピレングリコールエステル溶液中のG−CSFは、アルギン酸ナトリウム溶液中のG−CSFに比較して劣化が生じにくいことがわかった。
【0023】
製剤例1:ローション剤(その1)
(g/100mL)
グリセリン 10
エタノール 10
1,3−ブチレングリコール 5
ヒドロキシエチルセルロース 1
セタノール 1
G−CSF 0.02
アテロコラーゲン 0.3
アルギン酸プロピレングリコールエステル 0.25
クエン酸一水和物 0.66
クエン酸三ナトリウム二水和物 0.27
パラオキシ安息香酸メチル 0.1
燐酸二水素ナトリウム 3
精製水 68.4
自体公知のローション剤の製造方法により、以上の成分組成を有する皮膚潰瘍治療用ローション剤を製造した。
【0024】
製剤例2:ローション剤(その2)
(g/100mL)
グリセリン 10
エタノール 10
1,3−ブチレングリコール 5
ヒドロキシエチルセルロース 1
セタノール 1
G−CSF 0.02
アルギン酸プロピレングリコールエステル 0.25
クエン酸一水和物 0.66
クエン酸三ナトリウム二水和物 0.27
パラオキシ安息香酸メチル 0.1
燐酸二水素ナトリウム 3
精製水 68.7
自体公知のローション剤の製造方法により、以上の成分組成を有する皮膚潰瘍治療用ローション剤を製造した。
【0025】
製剤例3:シート剤(その1)
(g/100mL)
グリセリン 7
1,3−ブチレングリコール 3
ペンチレングリコール 5
フェノキシエタノール 0.5
メチルパラベン 0.1
G−CSF 0.02
アルギン酸プロピレングリコールエステル 0.5
燐酸二水素ナトリウム 3
精製水 80.88
アテロコラーゲン(タンパク質分解酵素によって抗原性発現部位を除去したコラーゲン)を綿線維状に紡糸加工した低抗原性のコラーゲンシート(日本臓器製薬株式会社)に以上の成分組成を有する薬用原液を浸潤させることで、皮膚潰瘍治療用シート剤を製造した。
【0026】
製剤例4:シート剤(その2)
製剤例3におけるコラーゲンシートのかわりにアルギン酸塩シート(アルギン酸のカルシウム塩とナトリウム塩の混合塩を線維状にして不織布にしたConvatec社の商品名:カルトスタット)を用いたこと以外は製剤例3と同様にして皮膚潰瘍治療用シート剤を製造した。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、新規なG−CSFの外用での創傷治療効果の増強剤を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実験例3におけるアルギン酸プロピレングリコールエステルのG−CSFの安定性に及ぼす影響を示すSDS−PAGEの結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルギン酸プロピレングリコールエステルを有効成分とするG−CSFの外用での創傷治療効果の増強剤。
【請求項2】
G−CSFとアルギン酸プロピレングリコールエステルを少なくとも含んでなる創傷治療のための外用液状組成物。




【図1】
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【公開番号】特開2009−179571(P2009−179571A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−18262(P2008−18262)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(504354531)セルジェンテック株式会社 (2)
【Fターム(参考)】