説明

G−CSF液体製剤

本発明は、貯蔵寿命が長いG−CSF液体製剤、及びそれを生成するための方法に関する。本発明は、また、有効成分としてG−CSF、緩衝物質として酢酸塩、表面活性剤としてポリソルベート20又はポリソルベート80、及び任意選択で薬学的に許容できる補助剤を含む液体製剤に関し、製剤は4.1〜4.4の間のpHを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、G−CSFの貯蔵安定性の液体製剤、及びそれを生成するための方法に関する。特に、本発明は、有効成分としてG−CSF、緩衝物質として酢酸塩、界面活性剤としてポリソルベート20又はポリソルベート80、ならびに任意選択で薬学的に許容できる賦形剤を含む液体製剤に関し、製剤は4.1〜4.4の間の範囲のpH値を有する。
【背景技術】
【0002】
G−CSF(顆粒球コロニー刺激因子)は、天然に存在する成長因子であり、より広義にはサイトカインのファミリーに、より正確にはコロニー刺激因子のグループに属する。G−CSFは、造血において決定的な役割を果たし、造血前駆細胞の増殖及び分化、ならびに好中球の活性化を増強する。例えば、化学療法もしくは照射法の後の正常の血球集団の再構成において、又は感染性の病原体に対する免疫反応を刺激するためなど、G−CSFを様々な医薬の領域に適用するのは、上記の特徴のためである。臨床的に実践する上で、G−CSFは、このように、主に、腫瘍の防止に、特に化学療法の結果としての好中球減少症の処置に、さらに骨髄移植の経過に、及び感染性疾患の処置に適用される。
【0003】
G−CSFの組換えの生成は、1987年に、国際公開第87/01132号パンフレットにおける特許文献に最初に記載された。組換えG−CSFをベースにした、最初の市販のG−CSF調製物は、1991年にドイツで認可され、Neupogen(登録商標)の商標名の下にアムジェン(Amgen)が生成し、流通させている。
【0004】
ドイツの医師用卓上参考書であるROTE LISTE 2005によると、Neupogen(登録商標)製品(プレフィルド・シリンジ)は、以下の成分からなる:600μg/ml又は960μg/mlの濃度のG−CSF、酢酸ナトリウム、ソルビトール、ポリソルベート80、及び水。
【0005】
当技術分野では、様々な特許文献がG−CSFの薬剤調製物を扱っている。EP−A−0 373 679では、G−CSFの製剤が記載されており、この製剤では、酸、酸性のpH値、及び低伝導率の製剤の存在によって、タンパク質が安定化されている。
【0006】
特許文献1は、概ね、薬学的に許容できる表面活性剤、糖類、タンパク質、又は薬学的に許容できる高分子化合物と組み合わせたG−CSFの使用に関する。
特許文献2には、マルトース、セロビオース、ゲンチオビオース、イソマルトース、ラフィノース、ショ糖、及びG−CSFを含む調製物を安定化させるためのさらなる糖の使用が記載されている。
【0007】
特許文献3には、使用されるG−CSFの量より少ない量の界面活性剤及び緩衝物質を含む、G−CSFを含む調製物が開示されている。
特許文献4には、クロロブタノール、ベンジルアルコール、又はベンザルコニウムである保存剤を含む、G−CSFを含む製剤が記載されている。
【0008】
特許文献5には、緩衝物質として、HEPES、TES、又はトリシンを含むG−CSFを含む製剤が開示されている。
特許文献6には、酸を含み界面活性剤を含まない、4.0を超えるpH値を有するG−CSFの薬剤調製物が開示されている。
【特許文献1】ドイツ連邦共和国特許出願公開第3723781号明細書
【特許文献2】国際公開第94/14465号パンフレット
【特許文献3】国際公開第94/14466号パンフレット
【特許文献4】国際公開第93/03744号パンフレット
【特許文献5】ヨーロッパ特許出願公開第988861号明細書
【特許文献6】国際公開第2005/042024号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
より長期の間、液体の形態で貯蔵することができ、HSA、アミノ酸、又は保存剤などの安定化の添加物を必要としないG−CSF調製物を生成することが、本発明の根底をなす問題点である。この方法で、製剤の耐容性に関するあらゆるリスクを回避することが好ましい貯蔵安定性のG−CSF液体製剤を提供しなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明にしたがい、請求項1の主題によって、この問題は解決される。好ましい実施形態は従属請求項に規定されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
HSA、アミノ酸、又は高分子の安定化剤の非存在下でも、緩衝物質として酢酸塩、ならびに界面活性剤としてポリソルベート20及び/又はポリソルベート80を含み、4.1〜4.4の間の範囲のpH値を有する液体のG−CSF組成物は、安定性を大幅に失わずに、より長期間、液体の形態で貯蔵することができることが見出された。
【0012】
したがって、本発明は、有効薬剤としての組換えのヒトG−CSFの他に、バッファとして酢酸塩、及び界面活性剤としてポリソルベート20(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、Tween20とも呼ばれる)又はポリソルベート80(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、Tween80とも呼ばれる)又はこれらの混合物を含み、4.1〜4.4の間の範囲のpH値を有する、G−CSFの、貯蔵安定性の水溶液製剤に関する。
【0013】
好ましい1実施形態では、界面活性剤はポリソルベート20である。
しかし、さらなるポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステルは、本発明の製剤において、洗浄剤としての使用にも適することも見出された。
【0014】
一般的に、界面活性剤は、溶液の全体積に関して、0.0005%(w/v)〜0.05%(w/v)の間の範囲の、好適には0.001%(w/v)〜0.01%の間の範囲の、特に好適には0.002%(w/v)〜0.008%の間の範囲の、最適には0.004%(w/v)〜0.006%(w/v)の間の範囲の濃度で含まれる。通常、本発明による製剤は、0.004%(w/v)、0.005%(w/v)、又は0.006%(w/v)の濃度の、表面活性剤であるポリソルベート20及びポリソルベート80のうちの少なくとも一方を含む。
【0015】
緩衝物質である酢酸塩の濃度は、本発明にしたがって4.1〜4.4の間の範囲のpH値で、pH安定化効果及び十分な緩衝能の両方が達成され、同時に、凝集物の形成を避けるために、イオン濃度、したがって電動度ができるだけ低く維持されるような方法で選択するのが好ましい。一般に、酢酸塩は、0.5〜150mmol/lの間の範囲の、好適には1〜100mmol/lの間の範囲の、特に好適には2〜50mmol/lの間の範囲の、最適には5〜20mmol/lの間の濃度で含まれる。通常、酢酸塩の濃度は10mmol/lである。
【0016】
緩衝物質である酢酸塩は、遊離の酸の形態、及び塩の形態の両方で使用することができ
る。塩としては、特に、生理学的に許容できる塩、例えば、アルカリ又はアンモニウムの塩、好適にはナトリウム塩が使用される。
【0017】
製剤のpH値は、4.0より大きく4.5まで、特に4.1〜4.4の間、好適には4.1〜4.3の間、又は4.15〜4.35の間、特に好適には4.2と4.3の間、又は4.25〜4.35の間、特に好適には4.25〜4.3の間の範囲内、最適には約4.25もしくは約4.3にある。
【0018】
所望により、組成物のpH値を、さらなる酸又は塩基の助けで、4.0を超え4.5まで、4.1〜4.4まで、4.1〜4.3まで、4.15〜4.35まで、4.2〜4.3まで、又は4.25〜4.35まで、4.25〜4.3まで、又は約4.25もしくは約4.3に、さらに調節することができる。適切な酸は、例えば、塩酸、リン酸、クエン酸、及びリン酸水素ナトリウム又はカリウムである。適切な塩基は、例えば、アルカリ及びアルカリ土類の水酸化物、アルカリ炭酸塩、アルカリ酢酸塩、アルカリクエン酸塩、及びリン酸水素二アルカリ、例えば、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム及び二カリウム、ならびにアンモニアである。
【0019】
好適には、NaOHによってpH値を調節する。1実施形態では、NaOHでpH値を調節した結果として、本発明の製剤は、このようにナトリウムイオンをさらに含む。
1実施形態では、製剤は、薬学的に許容できる添加物として多価アルコール、特に糖アルコール、特に好適にはマンニトール又はソルビトールをさらに含む。前記の添加剤は、患者の血液と等張である本発明の組成物を作成するのに、等張化剤として特に適している。
【0020】
通常、多価アルコールの濃度は、組成物の全体積に関して、最高10.0%(w/v)である。好適には、濃度は最高8.0%(w/v)であり、特に好適には最高6.0%(w/v)である。特に好適には、5.0%(w/v)の濃度のソルビトール又はマンニトールが含まれる。
【0021】
G−CSFの濃度は、本発明による液体製剤を貯蔵し、最終的に適用する、プレフィルド・シリンジにおける薬剤のそれぞれ望ましい濃度に依存する。Neupogen(登録商標)商品(ROTE LISTE 2005、No.51 038)は、例えば、以下の濃度において入手可能である:300μg/0.5ml;480μg/0.5ml及び300μg/1.0ml。本明細書では、タンパク質10μgは、約1.0百万国際単位(IU)に相当する。グラノサイト商品(ROTE LISTE、No.51 036)の場合は、組換えのG−CSFの活性がわずかに高く、この場合、タンパク質10μgは1.28百万IUの活性に相当する。
【0022】
本発明の範囲内では、典型的なG−CSFの濃度は、0.01と3.0mg/mlの間であり、好適には0.1と2.5mg/mlの間であり、特に好適には0.5と2.0mg/mlの間の範囲であり、最適には0.6と1.5mg/mlの間である。0.6mg/ml及び0.96mg/mlの濃度が、好ましい実施形態を代表する。ここでは、通常使用するG−CSFの活性は、約1.0±0.6x10単位/mgである。
【0023】
しばしばバルク溶液と呼ばれる、より高濃度の出発溶液では、薬剤の濃度は、より高くてよく、場合によっては5μg/mlであるか、あるいはそれを超える。
本発明による組成物は、さらに慣例的な、特に生理学的に許容できる、安定化剤、及び/又は賦形剤、又は添加剤を含むことができる。例えば、さらなる界面活性剤、等張化剤、還元剤、抗酸化剤、錯化剤、共溶媒、希釈剤、及びカオトロピック剤。
【0024】
しかし、製剤があらゆる高分子の安定化剤を含まないのが好ましい。したがって、例えば、ポリエチレングリコールなどのポリアルキレングリコール、ヒドロキシエチルデンプン、デキストラン、シクロデキストリンだけではなく、HSA及び他の血漿タンパク質などのタンパク質、又はゼラチンも除外するべきである。
【0025】
注射の目的では、純水を用いるのが好ましい。しかし、薬剤調製物に適するさらなる慣例的な溶媒も使用することができる。しかし、グリセロール、ポリエチレングリコール、及びプロピレングリコールなどの溶媒は除外するのが好ましい。
【0026】
酒石酸塩、コハク酸塩、HEPES、TES、及びトリシンなどの緩衝物質の使用も除外する。
好適には、アミノ酸の安定化剤も除外する。
【0027】
全体的に、製剤における様々な賦形剤の数をできるだけ低く保つのが好ましい。それに応じて、マンニトール又はソルビトール以外の糖は避けるのが好適に、製剤に含まれる緩衝物質を、専ら酢酸塩に狭めることが好ましい。
【0028】
製剤の成分は、従来の供給源、例えば、シグマ社又はメルク社から入手できる。
組換えのG−CSFは、最先端のプロトコルにしたがって、生成し、精製することができる。
【0029】
G−CSFは、造血前駆細胞の分化及び増殖を増強することができ、造血系の成熟細胞の活性化をもたらすことができる、生物学的に活性なG−CSFである。したがって、G−CSF製剤は、G−CSFの投与が有利である場合に適応症を処置するのに適している。「生物学的に活性なヒトG−CSF」の語は、G−CSFの突然変異体及び修飾も含み、これらのアミノ酸配列は、野性型の配列に比べて変更されているが、例えば、国際公開第01/87925号及びEP0 456 200に記載されているものなどの野生型のG−CSFと同様の生物学的活性を有する。本発明の意味におけるG−CSFは、例えば、ポリアルキレングリコールなどのポリマーと、特に、いわゆるPEG化したG−CSFもしくはPEG−G−CSFのように、ポリエチレングリコールと、又はヒドロキシアルキルデンプン、特にヒドロキシエチルデンプンと、タンパク質が複合型で存在するG−CSF複合体も意味する。G−CSFは、グリコシル化されていてよく、又は非グリコシル化でもよい。大腸菌で生成される組換えのタンパク質は炭水化物構造を有さず、N末端がメチオニン残基で発現されるが、例えば、CHO細胞などの真核細胞で生成されるG−CSFは、通常グリコシル化されている。
【0030】
液体製剤に含まれるG−CSFが、大腸菌細胞で生成されるヒトMet−G−CSFであるのが好ましい。大腸菌細胞における発現には、様々な発現系が市販されている。適切には、例えば、誘導プロモーター、例えばIPTG誘導プロモーターのコントロール化での、ヒトG−CSFの発現である。例えば、サムブルック及びラッセル、分子クローニング−実験マニュアル、第3版、2001年、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス[コールド・スプリング・ハーバー(Cold Spring Harbor)、ニューヨーク州所在]、第15章、又は、例えばプロメガもしくはストラタジーンによる、製造元の確立されたプロトコルを参照されたい。
【0031】
宿主細胞の発酵は、それらが特許及び科学文献に記載されているように、大腸菌で過剰発現されるG−CSFを含む、いわゆる封入体を回収し、前記封入体をすすぎ、可溶化し、リフォールディングし、クロマトグラフィで精製することを含めた、その後の精製ができるように、標準のプロトコルにしたがって行うことができる。適切なプロトコルは、特
許文献及びタンパク質化学の標準の参考書の両方に、ならびに実験マニュアルに見ることができる。
【0032】
可溶化及びリフォールディングを含めたG−CSFの単離及び精製は、例えば、EP−A−0 719 860に記載されている。変性したタンパク質を可溶化し復元するための一般的な技術は、ヨーロッパ特許出願公開第512097号明細書、ヨーロッパ特許出願公開第364926号明細書、ヨーロッパ特許出願公開第219874号明細書、及び国際公開第01/87925号パンフレットに記載されており、タンパク質化学の科学文献及び標準的な参考書からさらに理解することができる。
【0033】
リフォールディングしたタンパク質を、引き続きクロマトグラフィ法によって精製する、すなわち、リフォールディングしたタンパク質を他のタンパク質、ならびに可溶化及び復元後に含まれるさらなる汚染から分離する。
【0034】
数ある中でも、上記ですでに言及し、大腸菌の宿主細胞におけるG−CSFの生成が始めて記載された特許文献である国際公開第87/01132A1号パンフレットは、クロマトグラフィの精製を扱っている。組換えのG−CSFを精製する状況では、国際公開第87/01132A1号パンフレットにおける実施例7で、CMセルロースカラムを用いて陽イオン交換クロマトグラフィを行っている。
【0035】
ヨーロッパ特許出願公開第719890A1号明細書では、G−CSFを可溶化及び酸化の後で精製し、可溶化剤をDowex処理により、その後陰イオン交換クロマトグラフィ及び陽イオン交換クロマトグラフィにより除去している。ヨーロッパ特許出願公開第719860A1号明細書では、CMセファロースを、やはり陽イオン交換クロマトグラフィに用いている。
【0036】
国際公開第03/051922A1号パンフレットには、G−CSFの精製方法が記載されており、そこでは金属親和性クロマトグラフィ、より正確には固定化金属親和性クロマトグラフィ(IMAC)を行っている。国際公開第03/051922号パンフレットでは、金属アフィニティクロマトグラフィの後、陽イオン交換クロマトグラフィ及び/又はゲルろ過を行うことができる。
【0037】
国際公開第01/04154A1号パンフレットでは、G−CSFを精製するための方法が記載されており、そこでは最初に疎水性相互作用クロマトグラフィを、その後ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィを行う。ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィの後、陽イオン交換クロマトグラフィを行う。
【0038】
本発明の製剤に配合されるG−CSFの純度は、少なくとも95%、好適には少なくとも97%、特に好適には少なくとも99%、最適には99%を超える量でなければならない。ここでは、純度はHPLC分析によって調べることができる。したがって、rp−SEC及びIEX分析が適切である。当業者であれば、バイダック(http://www.vydac.com)又は東ソーバイオサイエンス(http://www.tosohbiosep.de)などの供給業者が供給する製品情報から、rpHPLC又はSEC−HPLCを行うのに適する材料及びプロトコルを得ることができる。
【0039】
本発明による調製物では、99%を超える、好適には99.5%を超える純度のG−CSFが、通常用いられる。 好適には、使用するG−CSFの活性は、50000IU/μgより低くてはならず、80000IU/μgの活性を有するG−CSFが特に適切であり、最も適切であるのは約100000IU/μg又はそれを超える活性を有するG−CSFである。
【0040】
Met−G−CSFの収量の決定は、ハーマン(Herman)ら、(1996年)Pharm.Biotechnol.、9巻、303〜328頁にも記載されている。ここでは、Met−G−CSFの抽出率を、ピーク面積を積分し、消衰係数に基づいて変換することによって決定する。
【0041】
精製の後、G−CSFをその量及び活性に関して分析することができる。SDS−PAGEとその後クーマシー・ブリリアント・ブルー染色により、又はrpHPLCにより、定性分析を行うことができる。市販のG−CSF調製物を、分析用の標準として用いることができる。さらに、ペプチドマップ又は質量分析を行うことができる。精製したG−CSFの活性を、例えば、シラフジら、(1989年)Exp.Hematol.、17巻(2)、116〜119頁;オーエダ(Oh−Eda)ら、(1990年)J.Biol.Chem.、265巻(20)、11432〜11435頁;スチュート(Stute)ら、(1992年)Blood、79巻(11)、2849〜2854頁、及びオシマ(Oshima)ら、(2000年)Biochem.Biophys.Res.Commun.、267巻(3)、924〜927頁に記載されているものなど、様々な生物学的試験方法によって決定することができる。
【0042】
ちなみに、クロマトグラフィは全て、(例えば、流速、洗浄又は溶出に用いるカラム容積、カラムの直径及びベッド高さなどに関して)マトリックス又はカラムの供給業者の推奨及びプロトコルにしたがって行われる。
【0043】
得られた組換えのG−CSFの生物学的活性を、バイオアッセイにより決定することができ、標準の、すなわち市販のG−CSF(Neupogen(登録商標))の生物学的活性と比較することができる。この目的では、G−CSFに反応性である、マウス細胞株NFS−60を用いることができる。この目的では、前記細胞株を、1.5g/l炭酸ナトリウム、4.5g/lグルコース、10mM Hepes、及び1.0mMピルビン酸ナトリウムを含み、2mMグルタミン、10%FCS、0.05mM 2−メルカプトエタノール、及び60ng/mlG−CSFを補ったRPMI 1640培地(バッヘム(Bachem)、[ドイツ、ハイデルベルグ所在])で培養する。
【0044】
活性試験用に、G−CSFを含まない培地で細胞を2回洗浄し、1ウェルあたり2x10細胞の濃度で96ウェルプレートに接種し、様々な濃度の、精製G−CSF及びスタンダードで、37℃、4.5%COで3日間培養した。引き続き、細胞をXTT試薬で染色し、マイクロタイター・プレート・リーダーで450nmの吸光度を測定した。この場合は、2つのG−CSFサンプルの等しい生物学的活性が想定できるので、得られたG−CSFで処理した細胞が、スタンダード(例えば、Neuporgen商品(登録商標))で処理した細胞と同様に増殖するのが望ましい。
【0045】
製剤の生成も、当技術分野では慣例的な方法にしたがって行う。
慣例的には、バッファ及び界面活性剤の成分、ならびに、任意選択でさらなる薬学的に許容できる賦形剤を、最初に、水性溶媒、通常は滅菌水に適量溶解する。所望により、pH値を、酢酸塩溶液により、又は上記に記載した例示のものなどの他の酸もしくは塩基で調節する。慣例的な滅菌ステップの後、例えば、滅菌フィルターによりろ過し、望ましい濃度のG−CSFを添加する。しかし、水溶液のG−CSFを提供し、その後pHを酢酸塩及び/又は適切な酸もしくは塩基で、好適にはNaOHで所望の値に調節することも容易に可能である。
【0046】
最終的には、調製した液体製剤を、適切な容器中に充填し、それを適用まで貯蔵する。特に、容器はプレフィルド・シリンジ、バイアル、又はアンプルである。
本発明による組成物を、様々な投与形態で用いることができる。本発明による製剤は、例えば、特に、静脈内、筋肉内、又は皮下投与のための、注射又は注入の溶液として適している。しかし、組成物を、トランスフェルソーム、リポソーム、又はヒドロゲルなどの他の投与形態を生成するためにも用いることができる。
【0047】
本発明による液体製剤は、免疫原性の可能性のある化合物を除外し、全体で可能な最小の数の成分を含むという利点を提供するだけではなく、あらゆる段階の生成過程で凍結乾燥を必要としないという利点も提供する。したがって、一方では、凍結乾燥に関する費用を省き、他方では、例えば、凍結乾燥物が完全に、又は十分に再構成できない場合などの、機械的な問題のリスクが回避される。
【0048】
本発明の範囲内では、「貯蔵安定性」は、G−CSF液体製剤を25℃で3カ月貯蔵した後、活性なG−CSF分子の含有量が、依然として最初の濃度の80%又はそれを超えていることを意味することが理解される。好適には、G−CSF活性の残留の含有量は、25℃で3カ月間貯蔵後、依然として、最初の活性の少なくとも85%であり、より好適には少なくとも90%であり、最適には少なくとも95%である。G−CSFの活性を、当技術分野においてG−CSFに対してすでに記載したような慣例的な活性試験によって決定することができる。
【0049】
本発明の範囲内では、「液体製剤」の語は、G−CSFの製剤は、製剤に含まれるさらなる物質と一緒に、生成過程のあらゆる段階において、すなわち、物質を混合する前、又は間、又は後に凍結乾燥せず、また製剤は、注射溶液又は注入溶液として、静脈内又は皮下に適用するよう企図されることを意味することが理解される。
【0050】
好ましい1実施形態では、製剤は、薬剤であるG−CSF;ポリソルベート20、ポリソルベート80、又はそれらの混合物から選択される界面活性剤;酢酸塩、ソルビトール、ナトリウムイオン、及び水以外のさらなる成分を含まず、4.2〜4.3の間の範囲の、又は4.25〜4.35の間の範囲の、特に4.25〜4.3の間の範囲のpH値を有する。製剤における唯一の界面活性剤としてポリソルベート20を用いるのが、特に好ましい。
(実施例)
以下の実施例を用いて本発明を説明するが、それらによって本発明は限定されない。
【0051】
G−CSFを含む組成物を、まず、緩衝物質であるナトリウム塩の形態の酢酸塩を、ポリソルベート20又はポリソルベート80及びソルビトールと一緒に、蒸留かつ滅菌した水に溶解し、その後、pH値をNaOHで、4.2と4.3の間の望ましい値に調節することによって調製した。望ましい濃度の非グリコシル化の組換えヒトG−CSF(フィルグラスチム、Met−G−CSF)を加えた。プレフィルド・シリンジにおける、製剤の調製及び充填は、好適には、窒素雰囲気下で行った。
【0052】
本発明にしたがって調製した組成物の具体的な処方、及びそのpH値を、以下の表に示す。ポリソルベート20の代わりにポリソルベート80を使用しても、匹敵する結果がもたらされた。同様のことが、ソルビトールの代わりにマンニトールを使用することにも適用される。
【0053】
【表1】

【0054】
本発明による製剤を、様々な温度で、様々な期間、pH値4.0を有する対応する製剤と一緒に貯蔵したが、これらは最新技術を代表するものであり、比較製剤として役割を果たした。
【0055】
長期間安定性の分析からのデータをいくつか、添付の図に表す(各場合においてG−CSF濃度0.6mg/ml)。図1,2はSEC分析を示し、図3,4はIEX分析を表し、各場合とも、それぞれ30℃及び40℃で、貯蔵時間は最高6カ月である。
【0056】
全般的に見て、本発明による製剤は、比較製剤に匹敵する結果を示し、本発明による試験した製剤とは、より酸性のpH値、すなわちpH4.0を示すことだけが異なっていた。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】SEC分析を示すグラフ。
【図2】SEC分析を示すグラフ。
【図3】IEX分析を示すグラフ。
【図4】IEX分析を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分としてG−CSF、バッファとして酢酸塩、表面活性剤としてポリソルベート20及びポリソルベート80のうちの少なくとも一方、ならびに任意選択で薬学的に許容できる賦形剤を含み、4.1〜4.4の間の範囲のpH値を有する、G−CSFの液体製剤。
【請求項2】
4.1〜4.3の間の範囲のpH値を有する、請求項1に記載の液体製剤。
【請求項3】
4.2〜4.3の間の範囲のpH値を有する、請求項1又は2に記載の液体製剤。
【請求項4】
4.25のpH値を有する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項5】
前記酢酸バッファの濃度が2mmol/lと50mmol/lの間である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項6】
前記酢酸バッファの濃度が10mmol/lである、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項7】
薬学的に許容できる賦形剤としてソルビトール及びマンニトールのうちの少なくとも一方を含む、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項8】
ソルビトールを含む、請求項7に記載の製剤。
【請求項9】
保存剤を含まない、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項10】
アミノ酸を含まない、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項11】
高分子の安定化剤を含まない、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項12】
前記pHをNaOHで調節した、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項13】
ナトリウムイオンを含む、請求項1乃至12のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項14】
G−CSF、ポリソルベート20及び/又はポリソルベート80、ソルビトール、酢酸塩、及びナトリウムを含み、他の成分を含まない、請求項1乃至13のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項15】
前記表面活性剤が、専らポリソルベート20である、請求項1乃至13に記載の製剤。
【請求項16】
前記G−CSFタンパク質を、バッファとして酢酸塩、表面活性剤としてポリソルベート20及び/又はポリソルベート80、ならびに任意選択で薬学的に許容できる賦形剤を含む溶液と混合することを含む、請求項1乃至15のいずれかに記載のG−CSFの液体製剤を生成するための方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−528327(P2009−528327A)
【公表日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−556785(P2008−556785)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際出願番号】PCT/EP2007/051947
【国際公開番号】WO2007/099145
【国際公開日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(506292996)ビオシューティカルズ アールツナイミテル アクチェンゲゼルシャフト (3)
【氏名又は名称原語表記】BIOCEUTICALS ARZNEIMITTEL AG
【Fターム(参考)】