GLP−1を用いる高血糖症の治療方法
対象における高血糖症および/または糖尿病の治療方法が提供される。特に、本方法は、約8mM超の空腹時血糖値を有する2型糖尿病患者の治療方法であって、乾燥粉末吸入システムを用いる肺吸入によってGLP−1分子およびジケトピペラジンを含む製剤を患者に投与する方法に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、35U.S.C.§119(e)により、2009年1月8日に出願された米国仮特許出願第61/143,358号の優先権を主張するものであり、かつ2008年10月24日に出願された米国特許出願第12/258,340号の一部継続出願であり、米国特許出願第12/258,340号は、35U.S.C.§119(e)により、2007年10月24日に出願された米国仮出願第60/982,368号、2007年11月5日に出願された第60/985,620号、2008年3月4日に出願された第61/033,740号、および2008年5月9日に出願された第61/052,127号の優先権を主張するものである。これらの出願の各開示内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本明細書には、グルカゴン様ペプチド1(GLP−1)分子療法による高血糖症および/または糖尿病の治療方法が開示されている。特に、本方法は、乾燥粉末薬物送達システムを用いる経口吸入によるGLP−1分子の肺循環への投与を含む。
【背景技術】
【0003】
有効成分を循環に導入する疾患の治療のための薬物送達システムは数多く存在し、経口、経皮、皮下および静脈内投与が挙げられる。これらのシステムは非常に長い間使用されており、多くの疾患を治療するのに十分な薬物を送達することができるが、薬物送達機構に関連する多くの課題がある。特に、標的疾患を治療するための有効量のタンパク質およびペプチド類の送達には多くの問題が含まれている。多くの要因は、正しい量の活性剤を導入すること、例えば、製剤が有効量でその標的作用部位(1箇所または複数箇所)に到達することができる量の活性剤を含むように適切な薬物送達製剤を調製することに関わっている。
【0004】
活性剤は薬物送達製剤中で安定でなければならず、製剤は、活性剤を循環に吸収させることができ、かつ有効な治療レベルで作用部位(1箇所または複数箇所)に到達することができるように活性な状態を維持するものでなければならない。従って、薬理学分野では、安定な活性剤を送達することができる薬物送達システムが最も重要である。
【0005】
疾患の治療のために治療上適した薬物送達製剤の製造は、患者に送達される有効成分または活性剤の特性によって異なる。そのような特性としては、溶解度、pH、安定性、毒性、放出速度、および正常な生理学的プロセスによる体内からの除去容易性などが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、経口投与では、活性剤が酸に弱い場合に活性剤が胃の低いpH(酸)で放出することを防止することができる薬学的に許容される材料を用いて腸溶コーティングが開発されている。従って、酸に弱い活性剤を含有する用量を製剤化してpHが中性である小腸に送達するために、酸性のpHで溶解しないポリマーが使用される。中性のpHでポリマーコーティングは溶解して活性剤を放出することができ、次いで、活性剤は腸壁から体循環に吸収される。経口投与される活性剤は、体循環に入り、肝臓を通過する。標的組織に到達する前に、用量の一部が肝臓で代謝および/または失活する場合もある。場合によっては、代謝物は患者に有毒であったり、望ましくない副作用を引き起こしたりする可能性がある。
【0006】
同様に、薬学的活性剤の皮下および静脈内投与でも、分解や失活が起こる。薬物の静脈内投与により、薬物または有効成分が標的組織に到達する前に、例えば肝臓で代謝される可能性がある。さらに、各種タンパク質およびペプチド類を含むある活性剤の皮下投与により、薬物送達部位において、および静脈血流に乗って移動中に、末梢および血管組織の酵素によって分解や失活が起こる。活性剤の皮下および静脈内投与による疾患の治療のために許容可能な量を与える用量を送達するために、投与計画は常に、末梢および血管静脈組織、および最終的には肝臓による活性剤の失活を考慮したものでなければならないであろう。
【発明の概要】
【0007】
本明細書には、グルカゴン様ペプチド1(GLP−1)の皮下および静脈内投与療法に通常関連する大量発汗、悪心および嘔吐などの有害作用を予防または減少させる方法が開示されている。特に、該方法は、例えば、乾燥粉末薬物送達システムを用いる肺の肺胞毛細血管への吸入によるGLP−1分子の肺循環への投与を含む。
【0008】
一態様では、患者における高血糖症および/または糖尿病の治療方法であって、治療を必要としている患者に、治療的有効量のGLP−1分子を含む吸入可能な乾燥粉末製剤を摂食時に投与する工程を含み、該投与によって、悪心、嘔吐および大量発汗からなる群から選択される少なくとも1つの副作用が生じない方法が提供される。
【0009】
別の態様では、該患者は、2型糖尿病に罹患している哺乳類である。別の態様では、該乾燥粉末製剤は、該製剤中に約0.01mg〜約5mgまたは0.5mg〜約3mgのGLP−1を含む。いくつかの態様では、該乾燥粉末製剤は、単回用量または複数回用量として投与することができ、該複数回用量は、該患者の必要に応じて間隔をおいて投与することができる。さらに別の態様では、該吸入可能な乾燥粉末製剤は、DPP−IV阻害剤をさらに含む。
【0010】
一態様では、高血糖症に罹患している2型糖尿病患者における血糖値を減少させる方法であって、該方法は、治療を必要としている該患者に、治療的有効量のGLP−1およびジケトピペラジンまたはその薬学的に許容される塩を含む肺投与のための吸入可能な乾燥粉末製剤を投与する工程を含む方法が提供される。
【0011】
別の態様では、該吸入可能な乾燥粉末製剤は、ジケトピペラジンを含む。別の態様では、該ジケトピペラジンは2,5−ジケト−3,6−ジ(4−X−アミノブチル)ピペラジン(式中、Xは、スクシニル、グルタリル、マレイル、およびフマリルからなる群から選択される)またはその薬学的に許容される塩である。
【0012】
別の態様では、該GLP−1分子は天然のGLP−1、GLP−1代謝物、GLP−1誘導体、長時間作用性GLP−1、GLP−1模倣体、エキセンジンもしくはその類似体、またはそれらの組み合わせからなる群から選択され、該GLP−1分子は天然のGLP−1の少なくとも生物活性を有する。別の態様では、該生物活性はインスリン分泌活性である。
【0013】
別の態様では、該方法は患者に治療的量のインスリン分子を投与することをさらに含む。別の態様では、該吸入可能な乾燥粉末製剤はインスリン分子と同時に製剤化されるGLP−1分子を含む。さらに別の態様では、インスリン分子は吸入可能な乾燥粉末製剤として別に投与される。別の態様では、インスリンは速効性もしくは長時間作用性インスリンである。
【0014】
別の態様では、該方法は長時間作用性GLP−1類似体を含んでなる製剤を投与することをさらに含む。
別の態様では、該吸入可能な乾燥粉末製剤は胃内容排出阻害がない。
【0015】
一態様では、糖尿病および/または高血糖症の治療のためのキットであって、a)乾燥粉末吸入器内に嵌合するように操作可能に構成され、かつGLP−1分子および式:2,5−ジケト−3,6−ジ(4−X−アミノブチル)ピペラジン(式中、Xは、スクシニル、グルタリル、マレイルおよびフマリルからなる群から選択される)のジケトピペラジンまたはその塩を含む乾燥粉末製剤を含有する薬物カートリッジ、およびb)該カートリッジを受け入れ、保持しかつ確実に係合するように操作可能に構成された吸入装置を含んでなるキットが提供される。
【0016】
別の態様では、2型糖尿病患者における高血糖症の治療のためのキットであって、a)乾燥粉末吸入器内に嵌合するように操作可能に構成され、かつGLP−1分子および式:2,5−ジケト−3,6−ジ(4−X−アミノブチル)ピペラジン(式中、Xは、スクシニル、グルタリル、マレイルおよびフマリルからなる群から選択される)のジケトピペラジンまたはその塩を含む乾燥粉末製剤を含有および送達することができる薬物カートリッジ、およびb)該カートリッジに適合して確実に係合しかつ使用時に該患者に該乾燥粉末製剤を送達するように操作可能に構成された吸入装置を含んでなる肺薬物送達システムを含むキットが提供される。
【0017】
別の態様では、対象における高血糖症の治療方法であって、GLP−1分子を含む吸入可能な製剤を対象に投与することを含み、該対象の血糖値が、該患者への該吸入可能な製剤の投与から約4時間後までの期間に、約0.1mmol/L〜約3mmol/Lだけ減少する方法が提供される。他の態様では、該吸入可能な製剤は、2型糖尿病患者に、摂食時、食前または食後に、あるいは絶食状態で投与される。別の態様では、該吸入可能な製剤は、該製剤中に約0.01〜約5mgまたは約0.02mg〜約3mgのGLP−1を含む。
【0018】
さらに別の態様では、高血糖症の治療方法であって、例えば、7mmol/L超、8mmol/L超、9mmol/L超、10mmol/L超または11mmol/L超のより非常に上昇した空腹時血糖値を有する対象に、治療的有効量のGLP−1分子およびジケトピペラジンを含んでなる吸入可能な乾燥粉末製剤を投与することを含む方法が提供される。一態様では、高血糖症の治療方法は、乾燥粉末製剤中にGLP−1分子を含んでなる単回もしくは複数回用量の吸入可能な乾燥粉末製剤を対象に投与することを含み、該対象が、2型糖尿病および7mmol/L超の血糖値を有し、該GLP−1が該製剤中に0.5mg〜約3mgで含まれる。本明細書における一態様では、該方法は、投与される該GLP−1分子が天然のGLP−1もしくはGLP−1(7−36)アミド、GLP−1の組み換え型、合成型またはその類似体である製剤を用いて対象に投与することができる。別の態様では、該方法で使用される該乾燥粉末製剤は、天然のGLP−1もしくはGLP−1(7−36)アミドおよびフマリルジケトピペラジンを含む。
【0019】
別の態様では、高血糖症の治療方法は、より非常に上昇した異常な空腹時血糖値を有する対象に、GLP−1分子およびフマリルジケトピペラジンを含む吸入用製剤を投与することを含む。一態様では、該GLP−1分子は、該製剤の約10%〜約30%を構成し、かつ乾燥粉末吸入器を用いる肺吸入によって投与される。一態様では、有効な投与量はカートリッジで提供され、かつ該製剤中に約0.01mg〜約5mgまたは約0.5mg〜約3mgのGLP−1量で投与することができる。一態様では、高血糖症の該治療方法は、GLP−1およびフマリルジケトピペラジンを含んでなる該乾燥粉末製剤を対象に投与することを含み、これにより、肺投与から約30〜約45分後に、空腹時血糖値が約0.5mmol/L〜約1.5mmol/Lだけ減少する。
【0020】
一態様では、2型糖尿病と診断された患者における高血糖症の治療方法であって、GLP−1およびジケトピペラジンを含んでなる有効量の粉末製剤を経口吸入によって該患者に投与すること、および該患者において第1段階のインスリン応答すなわち初期段階のインスリン分泌を回復させることを含み、該患者が7mmol/L超、9mmol/L超、10mmol/L超または11mmol/L超の血糖値を有する方法が提供される。
【0021】
別の態様では、2型糖尿病に罹患している対象において拍動性インスリン放出を誘発する方法が提供される。該方法は、2型糖尿病と診断され、かつ7mmol/L超、9mmol/L超、10mmol/L超または11mmol/L超の血糖値を示す対象に、治療的有効量のGLP−1分子およびジケトピペラジンを含んでなる吸入可能な乾燥粉末製剤を投与することを含み、ここで、該乾燥粉末製剤中の該GLP−1分子は、該製剤の投与により該対象の膵島B細胞からのインスリン分泌を誘発するのに有効な単回または複数回用量で該患者に投与される。該乾燥粉末製剤が複数回用量で投与される態様では、投与の間隔は、該患者によって決まり、最初の用量を0時における摂食時の時間〜食後の約8時間までの範囲とすることができる。一態様では、例えば、該方法は、該乾燥粉末製剤の最初の用量を摂食時に患者に投与し、かつ該製剤の別の用量を食後の15、30、45および/または60分後に投与することを含む。この態様および他の態様では、該吸入可能な乾燥粉末製剤は、該乾燥粉末製剤を含有するカートリッジに適合する乾燥粉末吸入システムを用いて、該患者に与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、吸入後の種々の時間に測定した、1.5mgのグルカゴン様ペプチド1(GLP−1)用量を含有する吸入可能な乾燥粉末製剤で治療した対象における血漿中の活性GLP−1の平均濃度を示す。
【図2A】図2Aは、吸入後の種々の時間に測定した、1.5mgのGLP−1用量を含有する吸入可能な乾燥粉末製剤で治療した対象における血漿中の平均インスリン濃度を示す。
【図2B】図2Bは、GLP−1の皮下投与で治療した対象と比較して、吸入後の種々の時間に測定した、1.5mgのGLP−1用量を含有する吸入可能な乾燥粉末製剤で治療した対象における血漿中GLP−1濃度を示す。
【図2C】図2Cは、50μgの静脈内GLP−1用量で治療した対象および皮下GLP−1用量で治療した対象と比較して、吸入後の種々の時間に測定した、1.5mgのGLP−1用量を含有する吸入可能な乾燥粉末製剤で治療した対象における血漿中インスリン濃度を示す。
【図3】図3は、吸入後の種々の時間に測定した、1.5mgのGLP−1用量を含有する吸入可能な乾燥粉末製剤で治療した対象における血漿中の平均C−ペプチド濃度を示す。
【図4】図4は、吸入後の種々の時間に測定した、0.05mg、0.45mg、0.75mg、1.05mgおよび1.5mgのGLP−1用量を含有する吸入可能な乾燥粉末製剤で治療した対象における血漿中の平均グルコース濃度を示す。
【図5】図5は、0.05mg、0.45mg、0.75mg、1.05mgおよび1.5mgのGLP−1用量を含有する吸入可能な乾燥粉末製剤で治療した患者における血漿中の平均インスリン濃度を示す。データは、肺のGLP−1投与に応答するインシュリン分泌が用量に依存することを示す。
【図6】図6は、0.05mg、0.45mg、0.75mg、1.05mgおよび1.5mgのGLP−1用量を含有する吸入可能な乾燥粉末製剤で治療した患者における血漿中の平均グルカゴン濃度を示す。
【図7】図7は、皮下投与したエキセンジン−4に対して肺ガス注入によってエキセンジン−4/FDKP(フマリルジケトピペラジン)粉末を投与した雄のズッカー糖尿病肥満(ZDF)ラットの血漿中の平均エキセンジン濃度を示す。黒四角は、エキセンジン−4/FDKP粉末の肺ガス注入後の応答を表わす。白四角は、エキセンジン−4の皮下投与後の応答を表わす。データは平均±標準偏差としてプロットされている。
【図8】図8は、皮下投与したエキセンジン−4に対して肺ガス注入によって空気対照、エキセンジン−4/FDKP粉末またはGLP−1/FDKP粉末のいずれかを投与した雄のZDFラットのベースラインからの血糖値の変化を示す。グラフは、ラットにGLP−1/FDKPを含む吸入粉末を肺ガス注入によって投与した後、エキセンジン−4/FDKPを含む吸入粉末を投与する組み合わせ実験も示す。グラフでは、黒菱形は、エキセンジン−4/FDKP粉末の肺ガス注入後の応答を表わす。黒丸は、エキセンジン−4の皮下投与後の応答を表わす。三角は、GLP−1/FDKP粉末投与後の応答を表わす。四角は、空気単独の肺ガス注入後の応答を表わす。星は、ガス注入によってラットに2mgのGLP−1/FDKPを与えた後、同じくガス注入によって2mgのエキセンジン−4/FDKP粉末を与えて得られた応答を表わす。
【図9A】図9Aは、静脈内(IV)オキシントモジュリンに対して肺ガス注入によってオキシントモジュリン/FDKP粉末を投与した雄のZDFラットの血漿中の平均オキシントモジュリン濃度を示す。四角は、オキシントモジュリン単独の静脈内投与後の応答を表わす。上向き三角は、5%のオキシントモジュリン/FDKP粉末(オキシントモジュリン0.15mg)の肺ガス注入後の応答を表わす。丸は、15%のオキシントモジュリン/FDKP粉末(オキシントモジュリン0.45mg)の肺ガス注入後の応答を表わす。下向き三角は、30%のオキシントモジュリン/FDKP粉末(オキシントモジュリン0.9mg)の肺ガス注入後の応答を表わす。データは平均±標準偏差としてプロットされている。
【図9B】図9Bは、(1)肺ガス注入による30%オキシントモジュリン/FDKP粉末(オキシントモジュリン0.9mg)、(2)静脈注射によるオキシントモジュリン単独(オキシントモジュリン1mg)または(3)空気対照を投与した雄のZDFラットの累積摂食量を示す。
【図10A】図10Aは、空気対照に対して肺ガス注入によってオキシントモジュリン/FDKP粉末を投与した雄のZDFラットの血漿中の平均オキシントモジュリン濃度を示す。四角は、空気対照の投与後の応答を表わす。丸は、オキシントモジュリン/FDKP粉末(オキシントモジュリン0.15mg)の肺ガス注入後の応答を表わす。上向き三角は、オキシントモジュリン/FDKP粉末(オキシントモジュリン0.45mg)の肺ガス注入後の応答を表わす。下向き三角は、オキシントモジュリン/FDKP粉末(オキシントモジュリン0.9mg)の肺ガス注入後の応答を表わす。データは平均±標準偏差としてプロットされている。
【図10B】図10Bは、(4)空気対照と比較して、肺ガス注入によって(1)オキシントモジュリン0.15mgを含む異なる用量での30%オキシントモジュリン/FDKP粉末、(2)オキシントモジュリン0.45mg、または(3)オキシントモジュリン0.9mgを投与した雄のZDFラットにおける累積摂食量を示す実験からのデータを示す。データは平均±標準偏差としてプロットされている。アスタリスク(*)は、統計的に有意であることを示す。
【図11】図11は、種々の時点における、単回用量のGLP−1を含有する吸入可能な乾燥粉末製剤投与後の6人の絶食した2型糖尿病患者から得られた血糖値を示す。
【図12】図12は、図11の6人の絶食した2型糖尿病患者の群についての平均血糖値を示し、ここで、血糖値は、6人の患者全員について、0時(投与)からの血糖値の変化として表わす。
【図13】図13は、実験から得られたデータを示す。この実験では、ジケトピペラジンまたはジケトピペラジンの塩を含む製剤としてエキセンジン−4をZDFラットに投与し、エキセンジン−4を、腹腔内グルコース負荷試験(IPGTT)において様々な投与経路(液体点滴注入(LIS)、皮下、肺ガス注入(INS))で与える。1つの群では、肺ガス注入によってGLP−1を併用したエキセンジン−4でラットを治療した。
【図14】図14は、肺ガス注入による空気対照、静脈注射によるタンパク質YY(3−36)(PYY)単独、肺点滴注入によるPYY単独、肺ガス注入による10%PYY/FDKP粉末(PYY0.3mg)、肺ガス注入による20%PYY/FDKP粉末(PYY0.6mg)を投与した雄のZDFラットにおける累積摂食量を示す。群ごとに、投与から30分後、投与から1時間後、投与から2時間後および投与から4時間後に摂食量を測定した。データは平均±標準偏差としてプロットされている。
【図15】図15は、用量投与後の種々の時間における、静脈内投与したPYYに対して肺ガス注入によってPYY/FDKP粉末を投与した雌のZDFラットにおける血糖値を示す。
【図16】図16は、静脈内投与したPYYに対して肺ガス注入によってPYY/FDKP粉末を投与した雌のZDFラットにおける血漿中の平均PYY濃度を示す。四角は、PYY単独(0.6mg)の静脈内投与後の応答を表わす。丸は、PYY単独(1mg)の液体点滴注入後の応答を表わす。下向き三角は、20%PYY/FDKP粉末(0.6mgのPYY)の肺ガス注入後の応答を表わす。上向き三角は、10%PYY/FDKP粉末(0.3mgのPYY)の肺ガス注入後の応答を表わす。左向きの三角は、空気単独の肺ガス注入後の応答を表わす。データは平均±標準偏差としてプロットされている。
【図17】図17は、皮下および静脈内投与と比較して、肺吸入によって投与され、かつインスリン、エキセンジン、オキシントモジュリンまたはPYYを含有する製剤の相対的な薬物曝露および相対的な生体効果を示す
【図18】図18は、種々の吸入用GLP−1および対照製剤を投与した患者の血漿中の平均GLP−1濃度を示す。
【図19】図19は、種々の吸入用GLP−1および対照製剤を投与した患者の血漿中インスリン濃度を示す。
【図20】図20は、種々の吸入用GLP−1および対照製剤を投与した患者の吸入用GLP−1製剤に応答する胃内容排出を示す。
【図21】図21は、絶食中の正常な対象および吸入用GLP−1製剤またはプラセボを与えた2型糖尿病に罹患している対象の血漿中の平均グルコース濃度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
用語の定義
本発明について説明する前に、以下で使用されるいくつかの用語についての理解を与えることが有用である。
【0024】
活性剤:本明細書で使用されている「活性剤」は、薬物、医薬物質および生物活性剤を指す。活性剤は、核酸、合成有機化合物、ポリペプチド類、ペプチド類、タンパク質、多糖類および他の糖類、脂肪酸類および脂質類などの有機巨大分子であってもよい。ペプチド類、タンパク質およびポリペプチド類は全て、ペプチド結合によって結合したアミノ酸の鎖である。ペプチド類は一般に、30個未満のアミノ酸残基であると考えられているが、より多くを含んでいてもよい。タンパク質は、30個超のアミノ酸残基を含むことができるポリマーである。当該技術分野で知られており、かつ本明細書で使用されているポリペプチド類という用語は、ペプチド、タンパク質、または一般に少なくとも10個のアミノ酸を含有するが複数のペプチド結合を含む任意の長さの任意の他のアミノ酸の鎖を指すことができる。活性剤は、血管作用薬、神経活性剤、ホルモン類、抗凝血剤、免疫調節剤、細胞毒性薬、抗生物質、抗ウイルス薬、抗原および抗体などの種々の生物活性種に分類することができる。より詳細には、活性剤としては、インスリンおよびその類似体、成長ホルモン、副甲状腺ホルモン(PTH)、グレリン、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、グルカゴン様ペプチド1(GLP−1)、テキサスレッド(Texas Red)、アルキン類、シクロスポリン、クロピドグレルおよびPPACK(D−フェニルアラニル−L−プロリル−L−アルギニンクロロメチルケトン)、ヒト化抗体もしくはキメラ抗体、F(ab)、F(ab)2、または短鎖抗体単独または他のポリペプチド類に融合した短鎖抗体、癌抗原に対する治療もしくは診断モノクロナール抗体、サイトカイン、感染性病原体、炎症性メディエーター、ホルモン類および細胞表面抗原など(これらに限定されない)の抗体およびその断片が挙げられるが、これらに限定されない。場合によっては、「薬物」および「活性剤」という用語は同義で使用される。
【0025】
類似体:本明細書で使用されている「類似体」としては、別の化合物との構造上の類似性を有する化合物が挙げられる。例えば、抗ウイルス性化合物であるアシクロビルは核酸系類似体であり、塩基のグアニンから誘導された核酸系グアノシンに構造上類似している。従って、アシクロビルはグアノシンを模倣し(生物学的にそれに類似しており)、ウイルス核酸中のグアノシン残基を置換する(すなわち、それと競合する)ことによってDNA合成を阻害し、翻訳/転写を妨げる。従って、親化合物の生物学的もしくは化学的活性を模倣する、別の化合物(親化合物)との構造上の類似性を有する化合物は類似体である。類似体が、親化合物の生物学的もしくは化学的特性について、同じように、相補的に、あるいは競合的に、いくつかの関連した様式で摸倣可能である限り、化合物を類似体とみなすために必要とされる最小もしくは最大の基本的基または官能基の置換は存在しない。類似体は、親化合物の誘導体(以下の「誘導体」を参照)であってもよく、そうである場合が多い。本明細書に開示されている化合物の類似体は、それらの親化合物と同等の活性、それより小さい活性または大きい活性を有していてもよい。
【0026】
誘導体:本明細書で使用されている誘導体は、天然または合成的に親化合物から製造された(または誘導された)化合物である。誘導体は類似体(上記「類似体」を参照)であってもよく、従って、類似した化学的または生物学的活性を有していてもよい。但し、類似体とは異なり、誘導体は親化合物の生物学的もしくは化学的活性を必ずしも模倣している必要はない。化合物を誘導体とみなすために必要とされる最小もしくは最大の元素または官能基の置換は存在しない。例えば、抗ウイルス性化合物ガンシクロビルはアシクロビルの誘導体であるが、ガンシクロビルはアシクロビルとは異なる範囲の抗ウイルス活性および異なる毒性を有する。本明細書に開示されている化合物の誘導体は、それらの親化合物と比較した場合、同等の活性、それより小さい活性または大きい活性を有していてもよい。
【0027】
ジケトピペラジン:本明細書で使用されている「ジケトピペラジン」または「DKP」としては、一般式1の範囲に含まれるジケトピペラジン類およびその塩、誘導体、類似体および修飾体が挙げられる。式中、1および4位の環原子E1およびE2はOまたはNのいずれかであり、3および6位にそれぞれ位置する側鎖R1およびR2のうちの少なくとも1つはカルボン酸(カルボキシラート)基を含有する。式1に係る化合物としては、ジケトピペラジン類、ジケトモルホリン類およびジケトジオキサン類およびそれらの置換類似体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
【化1】
【0029】
ジケトピペラジン類は、空気力学的に好適な微小粒子を製造するだけでなく、循環への吸収速度を上げることによって、薬物の送達を容易にもする。ジケトピペラジン類は薬物を吸着することができる薬物または粒子を組み込む粒子に形成することができる。薬物とジケトピペラジンとの組み合わせによって薬物安定性を向上させることができる。これらの粒子は様々な投与経路によって投与することができる。これらの粒子は粒径によっては乾燥粉末として呼吸器系の特定の領域に吸入によって送達することができる。さらに、これらの粒子は静脈内懸濁液剤形に組み込むのに十分な程小さく製造することができる。懸濁液、錠剤またはカプセルに組み込まれる粒子によって、経口送達も可能である。ジケトピペラジン類は関連する薬物の吸収も容易にすることができる。
【0030】
一態様では、ジケトピペラジンは3,6−ジ(フマリル−4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジン(フマリルジケトピペラジンまたはFDKPともいう)である。FDKPは、エアロゾル化したり、懸濁液で投与したりすることができるその酸の形態または塩の形態の微小粒子を含むことができる。
【0031】
別の態様では、DKPは、3,6−ジ(4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジンの誘導体であり、アミノ酸のリジンの(熱)縮合によって形成することができる。例示的な誘導体としては、3,6−ジ(スクシニル−4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジン、3,6−ジ(マレイル−4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジン、3,6−ジ(グルタリル−4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジン、3,6−ジ(マロニル−4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジン、3,6−ジ(オキサリル−4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジン、および3,6−ジ(フマリル−4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジンが挙げられる。薬物送達のためのDKPの使用は当該技術分野で知られている(例えば、米国特許第5,352,461号、第5,503,852号、第6,071,497号および第6,331,318号を参照、ジケトピペラジン類およびジケトピペラジン媒介性の薬物送達に関する全ての教示についての各開示内容は、参照により本明細書に組み込まれる)。DKP塩の使用については、2005年8月23日に出願された同時係属中の米国特許出願第11/210,710号に記載されており、ジケトピペラジン塩に関する全教示についての開示内容は、参照により本明細書に組み込まれる。DKP微小粒子を用いる肺の薬物送達については、米国特許第6,428,771号に開示されており、その開示内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる。活性剤の結晶性DKP粒子への吸着に関するさらなる詳細は、同時係属中の米国特許出願第11/532,063号および第11/532,065号に記載されており、その開示内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0032】
薬物送達システム:本明細書で使用されている「薬物送達システム」とは、1種または2種以上の活性剤を送達するためのシステムを指す。
乾燥粉末:本明細書で使用されている「乾燥粉末」とは、推進剤、担体または他の液体に懸濁または溶解されていない微粒子組成物を指す。これは、必ずしもあらゆる水分子が全く存在しないことを意味するものではない。
【0033】
初期段階:本明細書で使用されている「初期段階」とは、食事に応答した血中インスリン濃度の急激な上昇を指す。食事に応答したインスリンのこの初期の上昇は、第1段階と呼ばれる場合もある。より最近の情報源では、第1段階という言葉は、食事に関連する応答とは対照的に、グルコースのボーラス静脈注射によって達成可能な動力学的プロファイルの血中インスリン濃度のより急激な上昇を指すように使用される場合もある。
【0034】
内分泌疾患:内分泌系は、腺類からホルモン類を放出して生体の多くの様々な機能、例えば、気分、成長および発達、組織機能および代謝を調節し、メッセージを送り、かつそれに基づいて作用する特異的な化学伝達物質を与える情報伝達系である。内分泌系の疾患としては、糖尿病、甲状腺疾患および肥満症が挙げられるが、これらに限定されない。内分泌疾患は、ホルモン放出の調節不全(増殖性下垂体腺腫)、情報伝達に対する不適切な応答(甲状腺機能低下症)、腺の欠如もしくは破壊(1型糖尿病、慢性腎不全における赤血球生成の低下)、情報伝達に対する応答の減少(2型糖尿病のインスリン抵抗性)、または首などの重要な部位における構造の肥大(中毒性多結節性甲状腺腫)を特徴とする。内分泌腺の機能低下は、貯蔵の減少、分泌過少、非形成、萎縮または能動的破壊によって生じ得る。機能亢進は、過分泌、抑制の喪失、増殖性もしくは腫瘍性変化または過刺激によって生じ得る。内分泌疾患という用語は代謝異常を包含する。
【0035】
エキセンジン:本明細書で使用されている「エキセンジン」とは、エキセンジン1〜エキセジン4を含むGLP−1受容体作用薬であるペプチド類を指す。エキセンジン[9−39]、カルボキシアミド化分子、および断片3−39から断片9−39などのエキセンジンのカルボキシル末端断片も意図されている。
【0036】
逸脱(excursion):本明細書で使用されている「逸脱」は食前のベースラインまたは他の開始点の上または下の範囲に含まれる血糖値を指すことができる。逸脱は一般に、経時的な血中グルコースのプロットの曲線下面積(AUC)として表わされる。AUCは様々な方法で表すことができる。場合によっては、ベースラインの上または下まで減少および上昇し、正および負の領域が作成される。いくつかの計算では、正のAUCから負のAUCを減算するが、他の計算では、それらの絶対値を加算する。正および負のAUCは別々に検討することもできる。より高度な統計的評価を使用することもできる。場合によっては、逸脱は正常な範囲外に上昇または減少した血糖値を指すこともできる。正常な血糖値は通常、絶食中の個体では70〜110mg/dL、食後2時間では120mg/dL未満、食後では180mg/dLである。逸脱は、本明細書では血中グルコースに関して記載されているが、他の文脈ではこの用語を他の分析物に同様に適用してもよい。
【0037】
グルカゴン様ペプチド1:本明細書で使用されているグルカゴン様ペプチド1およびGLP−1という用語は、天然のGLP−1活性を有するタンパク質またはペプチド、配列番号1のアミノ酸配列を有するポリペプチドを指す。配列番号2のアミノ酸配列を有するGLP−1(7−36)アミドも含まれる。GLP−1とは、任意の供給源から産生されたか、あるいは例えば固相合成を用いて化学的に合成された、単離、精製および/または組換えられたGLP−1を含む配列番号1の配列を有する任意の供給源からのGLP−1を指す。天然のGLP−1の保存的アミノ酸置換体もここに含まれている。例えば、タンパク質またはペプチドの一次配列を変更するが通常はその機能を変更しない保存的アミノ酸の変形を製造してもよい。保存的アミノ酸置換体としては典型的に、グリシン、アラニン;バリン、イソロイシン、ロイシン;アスパラギン酸、グルタミン酸;アスパラギン、グルタミン;セリン、トレオニン;リジン、アルギニン;およびフェニルアラニン、チロシンの群に含まれる置換体が挙げられる。ある態様では、GLP−1分子は、天然のGLP−1と80%の相同性、天然のGLP−1と85%の相同性、90%の相同性、92%の相同性、95%の相同性、96%の相同性、97%の相同性、98%の相同性または99%の相同性を有すると共に、天然のGLP−1の少なくとも1種の生物活性を保持する。
【0038】
GLP−1分子:本明細書で使用されている「GLP−1分子」という用語は、天然のGLP−1の少なくとも1種の生物活性を保持するGLP−1タンパク質、ペプチド類、ポリペプチド類、類似体、模倣体、誘導体、イソ型、断片などを指す。一態様では、天然のGLP−1の少なくとも1種の生物活性はインスリン分泌活性である。そのようなGLP−1分子としては、天然に生じるGLP−1ポリペプチド類(GLP−1(7−37)OH、GLP−1(7−36)NH2)およびGLP−1(9−37)などのGLP−1代謝物が挙げられる。GLP−1分子としては、天然のGLP−1、GLP−1類似体、GLP−1誘導体、ジペプチジルペプチダーゼ−IV(DPP−IV)で保護されたGLP−1、GLP−1模倣体、GLP−1ペプチド類似体および生合成のGLP−1類似体も挙げられる。長時間作用性GLP−1分子とは、リラグルチド(Novo Nordisk社、デンマークのコペンハーゲン)、エクセナチド(エキセンジン−4;BYETTA(登録商標))(Amylin社、カリフォルニア州サンディエゴ)、およびエクセナチド−LAR(Eli Lilly社、インディアナ州インディアナポリス)を指し、分解に強くかつ「インクレチン模倣体」と呼ばれている。短時間作用性のGLP−1分子とは、即時組成物(instant composition)を指す。
【0039】
修飾(通常は一次配列を変更しない)としては、ポリペプチド類の生体内もしくは生体外での化学的誘導体化、例えば、アセチル化またはカルボキシル化が挙げられる。例えば、ポリペプチド類を、グリコシル化に影響を与える酵素、例えば、哺乳類のグリコシル化もしくは脱グリコシル化酵素に曝露することによって、その合成および処理中またはさらなる処理工程時に、例えば、ポリペプチドのグリコシル化パターンを修飾することによってなされるグリコシル化修飾も含まれる。リン酸化されたアミノ酸残基、例えば、ホスホチロシン、ホスホセリンまたはホスホトレオニンを有する配列も包含される。
【0040】
また、タンパク質分解に対するそれらの抵抗性を改善するか、あるいは溶解度特性を最適化するために、通常の分子生物学的技術を用いて修飾されるポリペプチド類も含まれる。そのようなポリペプチド類の類似体としては、天然に生じるL−アミノ酸以外の残基(例えば、D−アミノ酸または天然に生じない合成アミノ酸)を含有するものが挙げられる。本発明のペプチド類は、本明細書に記載されている具体的な例示的プロセスのいずれの生成物にも限定されない。
【0041】
実質的な全長ポリペプチド類に加えて、ポリペプチド類の生物学的に活性な断片も含まれる。生物学的に活性な断片は、天然のGLP−1の少なくとも一部に相同的であり、かつ天然のGLP−1の少なくとも1種の生物学的活性を保持する。
【0042】
グルコース排出速度:本明細書で使用されている「グルコース排出速度」とは、グルコースが血液から消失する速度である。グルコース排出速度は一般に、調査期間中に安定な血中グルコース、すなわち多くの場合約120mg/dLを維持するために必要とされるグルコース注入量によって決定される。このグルコース排出速度はグルコース注入速度(GIRと略す)と等しい。
【0043】
高血糖症:本明細書で使用されている「高血糖症」は、正常な空腹時血糖値よりも高く、通常は126mg/dL以上である。いくつかの研究では、高血糖症の症状の発現は、280mg/dL(15.6mM)を超える血糖値として定義された。
【0044】
低血糖症:本明細書で使用されている「低血糖症」は正常な血糖値よりも低く、通常は63mg/dL(3.5mM)未満である。臨床的に関連する低血糖症は63mg/dL未満、または認識される低血糖症の症状であって適当なカロリー摂取によって消失する低血圧、紅潮および脱力感などの患者の症状を引き起こす血糖値として定義されている。重度の低血糖症は、グルカゴン注射、グルコース注入または他者の助けを必要とする低血糖症の症状の発現として定義されている。
【0045】
近接して:本明細書で使用され、かつ食事との関連で使用される「近接して」とは、食事または軽食の開始に時間的に近い期間を指す。
代謝物:本明細書で使用されている「代謝物」は代謝の任意の中間体または生成物であり、大分子および小分子の両方を含む。本明細書で使用され、かつ適切な場合には、この定義は、一次および二次代謝物の両方に適用される。一次代謝物は、生体の正常な成長、発達および生殖に直接関与している。二次代謝物はそれらのプロセスに直接関与していないが、典型的には、重要な生態学的機能(例えば、抗生作用(antibaiotic))を有する。
【0046】
微小粒子:本明細書で使用されている「微小粒子」という用語は、一般に直径が0.5〜100ミクロン、特に直径が10ミクロン未満の粒子を含む。様々な態様は、より具体的な大きさの範囲を含むであろう。微小粒子は、DKP酸のpH制御された沈殿によって製造された粒子では典型的なように、不規則な表面および内部空隙を有する結晶性板の集合であってもよい。そのような態様では、活性剤を沈殿プロセスによって封入したり、微小粒子の結晶表面にコーティングしたりすることができる。微小粒子は、活性剤が全体に分散したDKP塩からなる球状シェルまたは陥没した球状シェルであってもよい。典型的には、そのような粒子は、DKPと活性剤との共溶液を噴霧乾燥することによって得ることができる。そのような粒子中のDKP塩は非晶質であってもよい。上の記載は、例示として理解されるべきである。その用語によって、他の形態の微小粒子も意図および包含される。
【0047】
肥満症:本明細書で使用されている「肥満症」は、健康に悪影響を与え得る程度まで過剰な体脂肪が蓄積している状態である。肥満症はBMI(肥満度指数)によって評価され、典型的にはそのBMIは30kg/m2超である。
【0048】
末梢組織:本明細書で使用されている「末梢組織」とは、臓器または血管に関連する任意の結合すなわち間質組織を指す。
摂食前後の(periprandial):本明細書で使用されている「摂食前後の」とは、食事または軽食の摂取の少し前に開始してから、その少し後に終了するまでの期間を指す。
【0049】
食後の:本明細書で使用されている「食後の」とは、食事または軽食の摂取後の期間を指す。本明細書で使用されている「遅い食後」とは、食事または軽食の摂取から3、4時間後以降の期間を指す。
【0050】
増強作用:一般に増強作用とは、薬剤が増強作用なしで達成するレベル以上にいくつかの薬剤の有効性または活性を増加させる状態または作用を指す。同様に、この言葉は、作用または活性の増加を直接的に指す場合もある。本明細書で使用されている「増強作用」は特に、それに続くインスリン濃度の有効性を高めて、例えばグルコース排出速度を上昇させる、上昇した血中インスリン濃度の能力を指す。
【0051】
摂食の:本明細書で使用されている「摂食の」とは、食事または軽食を指す。
食前の:本明細書で使用されている「食前の」とは、食事または軽食の摂取前の期間を指す。
【0052】
肺吸入:本明細書で使用されている「肺吸入」は、肺および、特定の態様では肺の肺胞領域に到達するように、吸入による医薬品の投与を指すように使用される。典型的には、吸入は口からであるが、他の態様では鼻からの吸入を含むことができる。
【0053】
副作用の低下:本明細書で使用されている「低下」という用語は、副作用に関して使用される場合、患者または患者を看護する医療従事者にとって顕著な1つまたは2つ以上の副作用の重症度の低下、あるいは副作用がもはや患者を衰弱させることがない、または患者にとって顕著でないような1つまたは2つ以上の副作用の回復を指す。
【0054】
副作用:本明細書で使用されている「副作用」という用語は、活性剤療法によって生じる予期していない望ましくない結果を指す。非限定的な例では、GLP−1の一般的な副作用としては、悪心、嘔吐および大量発汗が挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
治療的有効量:本明細書で使用されている、組成物の「治療的有効量」という用語は、ヒトもしくはヒト以外の患者に投与される場合、症状の回復などの治療効果を与える量、例えば、内因性インスリンの分泌を促進するのに有効な量を指す。ある環境では、疾患に罹患している患者は、影響を受けているという症状を呈しない場合もある。従って、組成物の治療的有効量は、疾患の症状の発現を予防するのに十分な量でもある。
【0056】
発明の詳細な説明
グルカゴン様ペプチド1(GLP−1)は、様々な投与経路による2型糖尿病に関連する高血糖症のための治療方法として研究されている。文献に開示されているように、GLP−1は、脂肪、炭水化物およびタンパク質の摂取に応答して腸内分泌L細胞から放出される30または31個のアミノ酸からなるインクレチンホルモンである。GLP−1はプログルカゴンのタンパク質切断によって生成され、その活性形態はGLP−1(7−36)アミドとして同定されている。このペプチドホルモンの分泌は2型糖尿病に罹患している個体では損なわれており、そのため、このペプチドホルモンはこの疾患および他の関連疾患の有望な治療方法の主要な候補となることが見い出された。
【0057】
非疾患状態では、GLP−1は、経口的に摂取された栄養分(特に糖類)に応答して腸のL細胞から分泌される。GLP−1は、食事によって誘発される膵臓からのインスリン放出を刺激することを含む、消化管(GI)および脳に対する影響を有する。膵臓におけるGLP−1の作用はグルコースに依存するため、ホルモンが外因的に投与された場合、GLP−1によって誘発される低血糖症のリスクは非常に小さい。また、GLP−1は、インスリン生合成におけるすべての工程を促進し、かつβ細胞増殖、生存および分化を直接刺激する。これらの作用の組み合わせによって、膵島内にβ細胞塊が増加する。さらに、GLP−1受容体の情報伝達によって、β細胞のアポトーシスが減少し、さらにβ細胞塊が増加する。
【0058】
消化管では、文献中に報告されているように、GLP−1は運動性を阻害し、グルコースに応答してインスリン分泌を増加させ、かつグルカゴン分泌を減少させる。これらの作用は組み合わさって食後のグルコースの逸脱を小さくする。GLP−1を中枢(脳室内すなわちicv)投与した齧歯類での実験では、GLP−1が食物摂取を阻害することが示され、これによって、末梢で放出されたGLP−1が体循環に進入することができ、かつ脳に作用し得ることが示唆されている。この作用は、循環GLP−1が脳弓下器官および最後野においてGLP−1受容体にアクセスすることによって生じることができる。脳のこれらの領域は食欲およびエネルギー恒常性の調節に関与していることが知られている。興味深いことに、胃拡張によって孤束の尾側核内のニューロンを含有するGLP−1が活性化されるため、中枢で発現されるGLP−1の食欲抑制薬としての役割が予測される。このような仮説は、反対の作用が認められたGLP−1受容体拮抗薬であるエキセンジン(9−39)を用いた研究によって支持されている。ヒトにおいては、投与されたGLP−1は満腹効果を有し、6週間の投与計画での連続皮下注入によってGLP−1が投与された場合、糖尿病患者は食欲の低下を示し、これにより体重が著しく減少した。
【0059】
GLP−1は、2型糖尿病患者への連続静脈内注入として投与された場合、インスリン分泌を増加させ、かつ空腹時および食後の血中グルコースの両方を正常化することも知られている。さらに、GLP−1注入は、以前に非インスリン経口薬物で治療された患者およびスルホニル尿素療法に失敗した後にインスリン療法を必要としている患者の血糖値を低下させることが知られている。しかし、当該技術分野で注目されかつ本明細書において以下に述べるように、GLP−1の単回皮下注射の作用によって期待外れの結果が得られた。免疫反応性GLP−1の高血漿中濃度は達成されたが、インスリン分泌は急速に治療前の値に戻り、血糖値は正常化されなかった。反復皮下投与は静脈内投与で観察されたものに匹敵する空腹時血糖値を達成することが求められた。6週間にわたるGLP−1の連続皮下投与によって、空腹時および食後の血糖値を低下させ、かつHbA1c濃度を低下させることが示された。GLP−1の単回皮下注射の短期的有効性はその循環の不安定性に関係していた。GLP−1は、生体外においてジペプチジルペプチダーゼ−IV(DPP−IV)によって血漿中で代謝される。GLP−1は、N−末端からアミノ酸7および8を除去することで、DPP−IVによって急速に分解される。分解生成物のGLP−1(9−36)アミドは活性でない。DPP−4は血管内を循環し、消化管および腎臓の脈管構造では膜結合型であり、肺のリンパ球上で同定されている。
【0060】
2型糖尿病に関連する高血糖症の治療としてのGLP−1およびGLP−1類似体の有用性は20年にわたって研究されている。臨床的には、GLP−1は、血中グルコース、食後のグルコースの逸脱および食物摂取を減少させる。GLP−1は満腹感も増加させる。これらをもとに、これらの作用は、体重の減少を促進する可能性を有する抗糖尿病薬の固有かつ非常に望ましいプロファイルを示す。このような利点にも関わらず、GLP−1は注射による投与を必要とし、かつジペプチジルペプチダーゼ(DPP)−IV酵素によって急速に失活するために非常に短い循環半減期を有するという理由から、糖尿病の治療方法としてのGLP−1の有用性は妨げられている。従って、GLP−1の治療的に有効な濃度を達成するためには、より高いGLP−1用量が必要とされる。しかし、広範囲な文献評価によれば、血漿中の活性GLP−1の濃度が100pmol/Lを超える場合は、大量発汗、悪心および嘔吐などの副作用/有害作用の組み合わせが典型的に観察される。
【0061】
GLP−1の限られた半減期という課題に取り組むために、いくつかの長時間作用性GLP−1類似体が開発されたことがあり、現在も開発されている。分解に強い、リラグルチド(Novo Nordisk社、デンマークのコペンハーゲン)、エクセナチド(エキセンジン−4;BYETTA(登録商標))(Amylin社、カリフォルニア州サンディエゴ)およびエクセナチド−LAR(Eli Lilly社、インディアナ州インディアナポリス)などの長時間作用性GLP−1類似体は「インクレチン模倣体」と呼ばれており、臨床試験で調査されている。エクセナチドは2型糖尿病の治療方法として認可されている。これらの製品は皮下投与用の製剤であり、これらの製剤は、末梢組織、血管組織および/または肝臓における分解により、著しい限界を有することが知られている。例えば、GLP−1と約50%のアミノ酸相同性を有する化合物であるエクセナチド(BYETTA(登録商標))は、GLP−1よりも長い循環半減期を有する。この製品は、2型糖尿病に関連する高血糖症の治療のために米国食品医薬品局(FDA)によって認可されている。エクセナチドの循環半減期はGLP−1よりも長いが、患者は依然として1日2回の薬物注射を必要とする。エクセナチド療法は、悪心、膵炎、腎機能障害の顕著な発生率を含む望ましくない副作用プロファイルによって、さらに難しいものとなっている。さらに、この長時間作用性治療手法によって患者は利便性が得られ、かつ服薬遵守が容易になるが、注射によって投与される長時間作用性GLP−1類似体の薬物動態学的プロファイルは、内因的に分泌されるホルモン類の薬物動態学的プロファイルとは根本的に異なり得る。この投与計画は有効かもしれないが、正常な生理を模倣していない。
【0062】
皮下注射によって投与される長時間作用性GLP−1類似体を用いて糖尿病および/または高血糖症を治療するための現在の手法/進歩は糖尿病のための許容可能な治療を提供できているが、この治療は体の自然な生理を模倣していない。例えば、健常な個体では、内因性GLP−1は食後にのみ、かつ必要に応じてのみ一気に分泌される。対照的に、長時間作用性GLP−1類似体では、食後段階を過ぎた期間にわたって薬物曝露が行われる。従って、理想的なGLP−1療法は、食事の時間に薬物を投与し、かつ曝露を食後の期間に限定する療法であってもよい。薬物の肺投与経路はそのような治療を提供する可能性を有するが、我々の知る限りでは、肺にDPP−IVが存在するという理由から、これまで調査されていない。
【0063】
GLP−1の循環半減期を延長する他の手法では、DPP−IVがGLP−1の代謝に関与する酵素であるという理由から、DPP−IV阻害剤が開発されている。DPP−IVの阻害とは、内因性GLP−1の循環半減期を増加させることを示している。ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害剤としては、Novartis社(スイスのバーゼル)によって開発されたビルダグリプチン(GALVUS(登録商標))およびMerck社(ニュージャージー州ホワイトハウスステーション)によって開発されたJANUVIA(登録商標)(シタグリプチン)が挙げられる。
【0064】
健常な個体とは対照的に、高血糖症および2型糖尿病に罹患している患者の現在の治療方法は、食後段階を過ぎた期間にわたって薬物曝露が行われる長時間作用性GLP−1類似体およびDPP−IV阻害剤を使用する。従って、これらの現在の方法には、大量発汗、悪心および嘔吐などの有害または負の副作用があり、患者の生活の質に対して影響を与える。従って、本発明者らは、望ましくない副作用を回避しながら、少ない全身曝露で薬物に対する薬力学的応答を増加させる薬物送達システムを用いる疾患の新しい治療方法の開発が必要であることが分かった。さらに、本発明者らは、非侵襲的方法を用いて、動脈循環に直接薬物を送達することが必要であることが分かった。
【0065】
本明細書中の態様では、糖尿病、高血糖症および肥満症などの内分泌疾患を含む疾患の治療方法が開示されている。本発明者らは、薬物が静脈系を介して戻る前に標的臓器(1つまたは2つ以上)に到達するように、薬物を体循環、特に動脈循環に非侵襲的に直接送達することが必要であることが分かった。この手法によって、逆説的に、静脈内、皮下または他の非経口経路を介する匹敵する投与よりも高い最大曝露で標的臓器を活性剤に曝露することができる。消化管内での分解からの保護を与える製剤であっても、吸収時に活性剤が静脈循環に進入すると、経口投与に対して同様の利点を得ることができる。
【0066】
一態様では、薬物送達システムは、経口、静脈内、経皮および皮下投与などの他の投与経路に遭遇する末梢もしくは血管静脈組織において、局所分解酵素または他の分解機構(例えば、タンパク質またはペプチドの酸化、リン酸化または任意の修飾)との直接的な接触によって、急速に代謝および/または分解する任意の種類の活性剤と共に使用することができる。この態様では、本方法は、その活性が経口、皮下もしくは静脈内投与によって代謝または分解される活性剤を同定しかつ選択する工程を含むことができる。例えば、不安定性のために、GLP−1の皮下注射は、血液中のGLP−1の有効な濃度に至らなかった。これは、そのような投与様式によって効果的に送達することができるインスリンなどのペプチド類とは対照的である。
【0067】
ある態様では、疾患または障害の治療方法は、吸入に適した担体を選択し、かつ肺の肺胞に活性な物質を送達する工程を含む。この態様では、担体は、1種または2種以上の活性剤と結合させて、肺の末梢および血管静脈組織での活性剤の急速な分解を回避する組成物として投与することができる薬物/担体複合体を形成することができる。一態様では、担体はジケトピペラジンである。
【0068】
本明細書に記載されている方法は、生物学的製剤を含む多くの種類の活性剤を送達するために利用することができる。特定の態様では、本方法は、動脈循環に急速に治療量のペプチドホルモン類を含む活性剤を効果的に送達する薬物送達システムを利用する。一態様では、1種または2種以上の活性剤としては、分解または失活に対する感受性が高いグルカゴン様ペプチド1(GLP−1)、タンパク質、リポカイン、小分子医薬品、核酸などのペプチド類が挙げられるが、これらに限定されず、ジケトピペラジンを含む乾燥粉末組成物に活性剤を製剤化し、かつカートリッジおよび乾燥粉末吸入器を用いる肺吸入によって活性剤(1種または2種以上)を体循環に送達する。一態様では、本方法は、例えば、真皮および肺の局所的な血管もしくは末梢組織内の酵素に対する感受性が高いペプチドを選択することを含む。本方法によって、活性剤が、末梢組織、静脈もしくは肝臓の代謝/分解との接触を回避または減少させることができる。別の態様では、全身送達のために、活性剤は肺の中に特異的な受容体を有していてはならない。
【0069】
他の態様では、薬物送達システムは、障害または疾患を治療するために、天然に生じるか、組み換え型もしくは合成由来の治療用ペプチド類またはタンパク質を送達するためにも使用することもでき、これらとしては、アディポネクチン、コレシストキニン(CCK)、セクレチン、ガストリン、グルカゴン、モチリン、ソマトスタチン、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、副甲状腺ホルモン、副甲状腺ホルモン関連ペプチド(PTHrP)、IGF−1、成長ホルモン放出因子(GHRF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、抗IL−8抗体、ABX−IL−8などのIL−8拮抗薬;インテグリンβ4前駆体(ITB4)受容体拮抗薬、エンケファリン、ノシセプチン、ノシスタチン、オルファニンFQ2、カルシトニン、CGRP、アンジオテンシン、P物質、ニューロキニンA、膵臓ポリペプチド、ニューロペプチドY、デルタ睡眠誘発ペプチド、PG−12などのプロスタグランジン類、LY29311、BIIL284、CP105696などのLTB受容体遮断薬;血管作用性小腸ペプチド;スマトリプタンなどのトリプタンおよびC16:1n7すなわちパルミトレイン酸などのリポカインが挙げられるが、これらに限定されない。さらに別の態様では、活性剤は小分子薬物である。
【0070】
一態様では、本治療方法は、例えば、GLP−1分子、オキシントモジュリン(OXN)またはペプチドYY(3−36)(PYY)を単独で、または互いに組み合わせて、あるいは1種または2種以上の活性剤と組み合わせて含む製剤を用いた糖尿病、高血糖症および/または肥満症の治療方法に関する。
【0071】
例示的な態様では、肥満症、糖尿病および/または高血糖症の治療方法は、治療を必要としている患者にGLP−1分子を含む乾燥粉末組成物もしくは製剤を投与し、それにより、大量発汗、悪心および嘔吐などの望ましくない副作用を引き起こすことなく膵臓β細胞からの内因性インスリンの急速な分泌を促進することを含む。一態様では、疾患の治療方法は、単回用量において本製剤中に約0.02〜約3mgの範囲のGLP−1投与量で、肥満症、2型糖尿病および/または高血糖症に罹患している哺乳類などの患者に適用することができる。高血糖症、糖尿病および/または肥満症の治療方法は、患者が食事または軽食に近接して少なくとも1回の用量のGLP−1製剤を服用できるように設計することができる。この態様では、患者の必要に応じてGLP−1の用量を選択することができる。一態様では、GLP−1の肺投与は、例えば2型糖尿病患者を治療する際に、3mg超のGLP−1用量を含むことができる。
【0072】
本発明の態様では、GLP−1製剤は肺投与などの吸入によって投与することができる。この態様では、肺投与は、吸入用の乾燥粉末製剤としてGLP−1分子を提供することによって達成することができる。乾燥粉末製剤は安定な組成物であり、吸入に適しかつ肺で急速に溶解してGLP−1分子を肺循環に急速に送達する微小粒子を含むことができる。肺投与に適した粒径は、直径が10μm未満、好ましくは5μm未満であってもよい。肺の肺胞に到達することができる例示的な粒径は、直径が約0.5μm〜約5.8μmの範囲である。そのような大きさは特に空気力学的直径を指すが、実際の物理的な直径にも対応する場合が多い。そのような粒子は肺毛細管に投与することができ、肺の末梢組織との広範囲な接触を回避することができる。この態様では、薬物を急速に動脈循環に送達し、体内のその標的または作用部位に到達する前に酵素または他の機構による有効成分の分解を回避することができる。一態様では、GLP−1分子およびFDKPを含む肺吸入用の乾燥粉末組成物は、約35%〜約75%の微小粒子が5.8μm未満の空気力学的直径を有する微小粒子を含むことができる。
【0073】
一態様では、本方法で使用される乾燥粉末製剤は、GLP−1分子およびジケトピペラジンまたはその薬学的に許容される塩を含む粒子を含む。この態様および他の態様では、本発明の乾燥粉末組成物は、天然のGLP−1、GLP−1代謝物、長時間作用性GLP−1、GLP−1誘導体、GLP−1模倣体、エキセンジンまたはそれらの類似体からなる群から選択される1種または2種以上のGLP−1分子を含む。GLP−1類似体としては、GLP−1融合タンパク質、例えばGLP−1に結合したアルブミンが挙げられるが、これに限定されない。
【0074】
例示的な態様では、本方法は、高血糖症および/または糖尿病および肥満症の治療のために、ペプチドホルモンであるGLP−1の患者への投与を含む。本方法は、治療を必要としている患者に、GLP−1分子を含む乾燥粉末製剤を含む有効量の吸入可能な組成物もしくは製剤を投与して、それにより、大量発汗、悪心および嘔吐などの望ましくない副作用を引き起こすことなく膵臓β細胞からの内因性インスリンの急速な分泌を促進することを含む。一態様では、疾患の治療方法は、患者に応じて乾燥粉末製剤中に約0.01mg〜約5mg、約0.5mg〜約3mgまたは約0.2mg〜約2mgの範囲のGLP−1投与量で、2型糖尿病および/または高血糖症に罹患している哺乳類などの患者に適用することができる。一態様では、治療される患者または対象はヒトである。GLP−1分子は、食事の直前(食前)、食事の時間(摂食時)、および/または食事の約15、30、45および/または60分後(食後)に投与することができる。一態様では、単回用量のGLP−1分子は食事の直前に投与することができ、別の用量は食後に投与することができる。特定の態様では、約0.5mg〜約1.5mgのGLP−1を食事の直前に投与した後、0.5mg〜約1.5mgのGLP−1を食事の約30分後に投与することができる。この態様では、GLP−1分子は、医薬用担体および賦形剤の有無に関わらず、ジケトピペラジン類などの吸入粒子と共に製剤化することができる。一態様では、GLP−1製剤の肺投与は、患者に大量発汗、悪心および嘔吐などの望ましくない有害な副作用を引き起こすことなく、100pmol/L超の血漿中GLP−1濃度を提供することができる。
【0075】
別の態様では、2型糖尿病および高血糖症に罹患しているヒトなどの患者の治療方法が提供され、本方法は、FDKP微小粒子中に約0.5mg〜約3mgの濃度でGLP−1分子を含む吸入可能なGLP−1製剤を患者に投与し、患者に悪心または嘔吐を引き起こすことなく、投与後約20分以内に患者の血糖値を85〜70mg/dLの空腹時血漿中グルコース濃度まで低下させることを含む。一態様では、FDKP微小粒子を含む製剤中に0.5mg超の濃度でのGLP−1の肺投与には胃内容排出の阻害がない。
【0076】
一態様では、GLP−1分子は、組成物中の有効成分として単独で、またはシタグリプチンもしくはビルダグリプチンなどのジペプチジルペプチダーゼ(DPP−IV)阻害剤と共に、あるいは1種または2種以上の他の活性剤と共に投与することができる。DPP−IVは、ポストプロリンもしくはアラニンペプチダーゼ活性を示す遍在的に発現するセリンプロテアーゼであり、従って、X−プロリンまたはX−アラニン(式中、Xは任意のアミノ酸を指す)後のN末端領域における切断によって生物学的に不活性なペプチド類が生成される。GLP−1およびGIP(グルコース依存性インスリン分泌性ペプチド)はどちらも2位にアラニン残基を有するため、それらはDPP−IVの基質である。DPP−IV阻害剤はインクレチンホルモン類の急速な分解を防止し、それにより、生物学的に活性なそのままの状態のGLP−1およびGIPの食後の濃度を上昇させることによって血糖管理を向上させる経口投与用の薬物である。
【0077】
この態様では、GLP−1分子の作用は、必要に応じてDPP−IV阻害剤を用いて生体内でさらに延長または増大させることができる。高血糖症および/または糖尿病の治療のためのGLP−1およびDPP−IV阻害剤の併用療法によって、患者のβ細胞からの適当なインスリン応答を誘発するのに必要とされ得る活性GLP−1の量を減少させることができる。別の態様では、GLP−1分子は、例えばメトホルミンなどの例えばペプチド以外の他の分子と組み合わせることができる。一態様では、DPP−IV阻害剤またはメトホルミンなどの他の分子は、共製剤としてGLP−1分子を組み合わせた乾燥粉末製剤として、あるいはGLP−1の投与と同時または投与前に投与することができるそれ自体の乾燥粉末製剤として別々に、吸入によって投与することができる。一態様では、DPP−IV阻害剤またはメトホルミンなどの他の分子は、経口投与を含む他の投与経路によって投与することができる。一態様では、DPP−IV阻害剤は、患者の必要に応じて約1mg〜約100mgの範囲の用量で患者に投与することができる。GLP−1分子と同時投与または同時に製剤化される場合、より低濃度のDPP−IV阻害剤を使用してもよい。この態様では、GLP−1療法の有効性は、現在の剤形と比較した場合、より少ない用量範囲で向上させることができる。
【0078】
本明細書に記載されている態様では、GLP−1分子は、食事の時間に(食事または軽食に時間的に近接して)投与することができる。この態様では、現在の治療方法の長時間の作用効果が生じないように、GLP−1曝露を食後の期間に限定することができる。DPP−IV阻害剤が同時投与される態様では、DPP−IV阻害剤は、食事の時間におけるGLP−1の投与前に患者に投与してもよい。投与されるDPP−IV阻害剤の量は、選択した投与経路に応じて、例えば、約0.10mg〜約100mgの範囲にすることができる。さらなる態様では、GLP−1分子の単回または複数回用量を、食事または軽食の開始に近接して投与される用量の代わりに、あるいはそれに追加して、食事の開始後に投与することができる。例えば、単回または複数回用量を、食事の開始から15〜120分後、例えば、30、45、60または90分後などに投与することができる。
【0079】
一態様では、薬物送達システムは、哺乳類などの動物の摂食量を制御または減少させるための肥満症の治療方法で利用することができる。この態様では、治療を必要としている患者または肥満症に罹患している患者は、当該技術分野で知られているさらなる食欲抑制薬の有無に関わらず、GLP−1分子、エキセンジン、オキシントモジュリン、ペプチドYY(3−36)またはそれらの組み合わせ、あるいはそれらの類似体を含む治療的有効量の吸入可能な組成物もしくは製剤が投与される。この態様では、本方法は、患者の摂食量を減少させ、食物摂取を阻害し、食欲を減少もしくは抑制しかつ/または体重を制御することを目的としている。
【0080】
一態様では、吸入可能な製剤は、2,5−ジケト−3,6−ジ(4−X−アミノブチル)ピペラジン(式中、Xは、スクシニル、グルタリル、マレイルおよびフマリルからなる群から選択される)などのジケトピペラジンまたはジケトピペラジンの塩と共に上述した有効成分を含む乾燥粉末製剤を含む。この態様では、吸入可能な製剤は、上記のような空気力学的な特性を有する有効成分を含む吸入用の微小粒子を含むことができる。一態様では、有効成分の量は当業者が決定することができるが、本微小粒子は、患者の必要に応じて様々な量の有効成分を負荷することができる。例えば、オキシントモジュリンでは、その微小粒子は、製剤中に約1%(w/w)〜約75%(w/w)の有効成分を含むことができる。ある態様では、吸入可能な製剤は、約10%(w/w)〜約30%(w/w)の医薬用組成物を含むことができ、かつ薬学的に許容される担体または界面活性剤(例えば、ポリソルベート80)などの賦形剤も含むことができる。この態様では、オキシントモジュリンは、製剤中に約0.05mg〜約5mgの範囲の用量で、1日1回〜約4回または患者の必要に応じて患者に投与することができる。特定の態様では、対象に投与される投与量は、オキシントモジュリンを約0.1mg〜約3.0mgの範囲とすることができる。一態様では、吸入可能な製剤は、製剤中に約50pmol〜約700pmolのオキシントモジュリンを含むことができる。
【0081】
PYYが有効成分として使用される本明細書に開示されている態様では、肺送達用の乾燥粉末製剤は、用量当たり約0.10mg〜約3.0mgのPYYを含めて製造することができる。ある態様では、本製剤は、製剤中に約1%〜約75%(w/w)の量のペプチドでPYYを含む乾燥粉末を含むことができる。特定の態様では、製剤中のPYYの量を5%、10%、15%または20%(w/w)とすることができ、かつジケトピペラジンをさらに含む。一態様では、PYYは、FDKPなどのジケトピペラジンまたはナトリウム塩などのその塩を含む製剤として投与することができる。ある態様では、PYYは、投与後のPYYの血漿中濃度が約4pmol/L〜約100pmol/Lまたは約10pmol/L〜約50pmol/Lとなるような剤形で対象に投与することができる。別の態様では、PYYの量は、例えば、製剤中に約0.01mg〜約30mgまたは約5mg〜約25mgの範囲の量で投与することができる。PYYの他の量は、例えば、Savageら、Gut 1987 Feb;28(2):166〜70頁に記載されているように決定することができ、その開示内容は参照により本明細書に組み込まれる。PYYおよび/または類似体あるいはオキシントモジュリンおよび/または類似体製剤は、食前、摂食時、摂食前後または食後に、あるいは必要に応じかつ患者の生理的状態に応じて対象に投与することができる。
【0082】
一態様では、有効成分を含む製剤は、例えば、米国特許第7,305,986号および米国特許出願第10/655,153号(US2004/0182387)に開示されている吸入器のような乾燥粉末吸入器を用いる吸入によって、乾燥粉末製剤として患者に投与することができ、それらの開示内容は、参照により本明細書に組み込まれる。当該有効成分を含む乾燥粉末製剤の反復吸入は、毎日必要に応じて食間に投与することもできる。いくつかの態様では、本製剤は、1日1回、2回、3回または4回投与することができる。
【0083】
なおさらなる態様では、高血糖症および/または糖尿病の治療方法は、式:2,5−ジケト−3,6−ジ(4−X−アミノブチル)ピペラジン(式中、Xは、スクシニル、グルタリル、マレイルおよびフマリルからなる群から選択される)を有するジケトピペラジンを含む吸入可能な乾燥粉末組成物の投与を含む。この態様では、乾燥粉末組成物は、ジケトピペラジン塩を含むことができる。本発明のなお別の態様では、薬学的に許容される担体または賦形剤の有無に関わらず、ジケトピペラジンが2,5−ジケト−3,6−ジ−(4−フマリル−アミノブチル)ピペラジンである乾燥粉末組成物が提供される。
【0084】
ある態様では、本治療方法は、天然のGLP−1であるGLP−1分子またはGLP−1(7−36)アミドであるアミド化GLP−1分子あるいはその組み合わせを含む吸入用の乾燥粉末製剤を含むことができる。一態様では、GLP−1はエクセナチドなどの類似体であってもよい。
【0085】
一態様では、患者は、GLP−1の量が製剤の約0.01mg〜約5mg、約0.02mg〜約3mg、約0.02mg〜約2.5mgまたは約0.2mg〜約2mgである用量範囲で、吸入可能なGLP−1製剤が投与される。一態様では、2型糖尿病に罹患している患者に3mg超のGLP−1用量を投与することができる。この態様では、GLP−1は、医薬用担体および賦形剤の有無に関わらず、ジケトピペラジン類などの吸入粒子と共に製剤化することができる。一態様では、GLP−1製剤の肺投与によって、患者に大量発汗、悪心および嘔吐などの望ましくない有害な副作用を引き起こすことなく、100pmol/L超の血漿中GLP−1濃度を与えることができる。
【0086】
別の態様では、GLP−1分子は、高血糖症および/または糖尿病、例えば2型糖尿病の治療のために、併用療法としてインスリンと共に投与し、かつ摂食時に投与することができる。この態様では、GLP−1分子およびインスリンは、乾燥粉末製剤に同時に製剤化するか、あるいはそれら独自の製剤として患者に別々に投与することができる。GLP−1分子およびインスリンが同時投与される一態様では、両方の有効成分を同時に製剤化することができ、例えば、GLP−1分子およびインスリンを上記のようにジケトピペラジン粒子を用いて吸入用の乾燥粉末製剤に調製することができる。あるいは、GLP−1分子およびインスリンは、各製剤が吸入用であり、かつジケトピペラジン粒子を含むように、別々に製剤化することができる。一態様では、GLP−1分子およびインスリン製剤は、投与前に適切な投与のためにそれらの個々の粉末形態で一緒に混合することができる。この態様では、インスリンは、短時間、中時間もしくは長時間作用性のインスリンであってもよく、かつ摂食時に投与することができる。
【0087】
GLP−1分子およびインスリンの同時投与を用いる2型糖尿病の治療のための一態様では、GLP−1分子の吸入可能な製剤は、インスリン/FDKPなどのインスリンの吸入可能な製剤と同時または連続的に、摂食時に患者に投与することができる。この態様では、2型糖尿病において、GLP−1は、患者の膵臓からのインスリン分泌を刺激し、それによりβ細胞の機能を維持する(例えばβ細胞増殖を促進する)ことによって疾患の進行を遅らせることができるだけでなく、摂食時に投与されたインスリンを食事に対する体の正常な応答を模倣するインスリン代替物としても使用することができる。併用療法のある態様では、インスリン製剤は他の投与経路で投与することができる。この態様では、併用療法は、正常な血糖状態を維持するための患者のインスリン必要量を減少させるのに有効となり得る。一態様では、併用療法は、10年に満たない期間で糖尿病に罹患しており、かつ食事制限および運動または分泌促進物質では十分に制御されない肥満症および/または2型糖尿病に罹患している患者に適用することができる。一態様では、GLP−1およびインスリンの併用療法を受ける患者集団は、正常で健常な個体の約25%超のβ細胞の機能および/または約8%未満のインスリン抵抗性を有することを特徴としかつ/または正常な胃内容排出を有することができる。一態様では、吸入可能なGLP−1分子およびインスリンの併用療法は、インスリングルリジン(APIDRA(登録商標))、インスリンリスプロ(HUMALOG(登録商標))もしくはインスリンアスパルト(NOVOLOG(登録商標))などの速効性インスリンまたは長時間作用性インスリン、あるいはインスリンデテミル(LEVEMIR(登録商標))またはインスリングラルギン(LANTUS(登録商標))などの長時間作用性インスリンを含むことができ、これらは、FDKPも含む吸入粉末または他の投与経路で投与することができる。
【0088】
別の態様では、2型糖尿病を治療するための併用療法は、治療を必要としている患者に、インスリン(天然のインスリンペプチドまたは組換え型インスリンペプチドであってもよい)およびジケトピペラジンを含む有効量の吸入可能なインスリン製剤を投与すること、およびジケトピペラジンを含む製剤として吸入または皮下注射などの別の投与経路で提供することができる長時間作用性インスリン類似体を患者に投与することをさらに含むことができる。本方法は、有効量のDPPIV阻害剤を患者に投与する工程をさらに含むことができる。一態様では、本方法は、治療を必要としている患者に、別々および/または連続的に投与することができる長時間作用性GLP−1を含む製剤と併用して、速効性もしくは長時間作用性インスリン分子およびジケトピペラジンを含む製剤を投与することを含むことができる。糖尿病(特に2型糖尿病)を治療することためのGLP−1療法は、吸入可能な乾燥粉末製剤としてのGLP−1分子の単独投与またはインスリンもしくは非インスリン療法との併用投与によって低血糖症のリスクを低下させることができるため有利となり得る。
【0089】
別の態様では、速効性GLP−1分子およびジケトピペラジン製剤は、糖尿病の治療のためのエキセンジンなどの長時間作用性GLP−1と併用投与することができ、どちらも肺吸入によって投与することができる。この態様では、例えば2型糖尿病に罹患している糖尿病患者に、インスリン分泌を刺激するためにGLP−1分子を含む有効量の吸入可能な製剤を摂食時に投与すると共に、その後、連続的にあるいは食事の時間から約45分後までのように暫くしてからエキセンジン−4の用量を投与することができる。吸入可能なGLP−1分子の投与によって、β細胞の機能を維持することで疾患の進行を防止すると共に、エキセンジン−4を約10時間の間隔を空けて1日に2回投与することができるため、患者におけるインクレチン系の正常な生理を模倣することができるGLP−1の基礎濃度を提供することができる。速効性GLP−1および長時間作用性GLP−1はどちらも、別個の吸入可能な製剤として投与することができる。あるいは、長時間作用性GLP−1は、例えば、経皮、静脈内または皮下などの他の投与方法で投与することができる。一態様では、摂食時の短時間作用性および長時間作用性GLP−1との併用投与によって、単独で投与される長時間作用性GLP−1と比較して、インスリン分泌を増加させ、グルカゴン抑制を高め、かつ胃内容排出時間をさらに遅らせてもよい。投与される長時間作用性GLP−1の量は投与経路に応じて変更することができる。例えば、肺送達では、長時間作用性GLP−1は、患者に投与されるGLP−1の形態に応じて食事の直前または食事の時間に、1回の投与につき約0.1mg〜約1mgの用量で投与することができる。
【0090】
一態様では、本方法は、肥満症の治療に適用することができる。上記のようなGLP−1分子およびジケトピペラジンを含む治療的有効量の吸入可能な乾燥粉末GLP−1製剤を、治療を必要としている患者に投与することができる。この態様では、吸入可能なGLP−1製剤は、単独で、あるいは肥満症の治療のための1種または2種以上の内分泌ホルモンおよび/または抗肥満活性剤と併用して投与することができる。例示的な内分泌ホルモンおよび/または抗肥満活性剤としては、ペプチドYY、オキシントモジュリン、アミリン、酢酸プラムリンチドなどのアミリン類似体などが挙げられるが、これらに限定されない。一態様では、抗肥満薬は、吸入可能な乾燥粉末組成物の同時製剤として単独で、GLP−1分子と併用して、あるいは吸入用の別個の吸入可能な乾燥粉末組成物で投与することができる。あるいは、GLP−1分子と1種または2種以上の抗肥満薬もしくは満腹感を生じさせることができる薬剤との併用では、GLP−1製剤は乾燥粉末製剤として投与することができ、抗肥満薬は他の投与経路で投与することができる。この態様では、DPP−IV阻害剤は、GLP−1の肺動脈循環への送達を向上または安定化させるために投与することができる。別の態様では、DPP−IV阻害剤は、ジケトピペラジンを含むインスリン製剤と併用して提供することができる。この態様では、DPP−IV阻害剤は、吸入のためにジケトピペラジン中に製剤化するか、あるいは皮下注射または経口投与などの他の投与経路のための他の製剤として投与することができる。
【0091】
一態様では、GLP−1製剤を含む吸入用の薬物カートリッジとこのカートリッジに適合または確実に係合するように構成された吸入装置とを含む糖尿病および/または高血糖症を治療するためのキットが提供される。この態様では、本キットは、GLP−1分子と同時に製剤化されたか、あるいは上記のように吸入または経口投与のための別個の製剤のDPP−IV阻害剤をさらに含むことができる。この態様の変形では、本キットは、別々に提供することができる吸入装置を含んでいない。
【0092】
一態様では、本薬物送達システムを用いる併用療法は、代謝異常またはメタボリック症候群を治療するために適用することができる。この態様では、薬物送達製剤は、メタボリック症候群を治療することを目的とした、ジケトピペラジンおよびGLP−1分子および/または長時間作用性GLP−1などの活性剤を含む製剤を、単独で、あるいはDPP−IV阻害剤およびエキセンジンなどの1種または2種以上の活性剤と組み合わせて含むことができる。この態様では、治療を必要とし、かつインスリン抵抗性を示し得る対象に提供される少なくとも1種の活性剤を肺吸入によって投与することができる。
【0093】
別の態様では、GLP−1分子およびジケトピペラジンを含む吸入可能な乾燥粉末製剤の肺投与は、治療される患者に適した特定の治療投与計画を特定するために、糖尿病に罹患している患者における2型糖尿病の進行のレベルもしくは程度を診断するための診断ツールとして使用することができる。この態様では、糖尿病に罹患していると同定された患者における糖尿病の進行レベルを診断するための方法は、GLP−1分子およびジケトピペラジンを含む所定の量の吸入可能な乾燥粉末製剤を患者に投与すること、および内因性インスリン産生もしくは応答を測定することを含む。患者に必要とされる治療投与計画を決定するために、GLP−1分子を含む吸入可能な乾燥粉末製剤の投与は、その患者のために適当なレベルのインスリン応答が得られるまで所定の量のGLP−1分子で繰り返すことできる。この態様では、患者のインスリン応答が不十分な場合、患者は他の治療方法を必要とするかもしれない。感受性が高いまたはインスリン応答性の患者は、治療方法としてジケトピペラジンを含むGLP−1製剤で治療することができる。このようにして、適当なインスリン応答を達成して低血糖症を回避するために、具体的な量のGLP−1分子を患者に投与することができる。この態様および他の態様では、GLP−1は、患者におけるインスリン放出の正常な生理を模倣する急速な内因性インスリン放出を誘発することができる。
【0094】
一態様では、本薬物送達システムは、代謝異常またはメタボリック症候群を治療するために適用することができる。この態様では、薬物送達製剤は、メタボリック症候群の治療を目的とした、ジケトピペラジンおよびGLP−1分子および/または長時間作用性GLP−1などの活性剤を含む製剤を、単独であるいはDPP−IV阻害剤およびエキセンジンなどの1種または2種以上の活性剤と組み合わせて含むことができる。この態様では、治療を必要とし、かつインスリン抵抗性を示し得る対象に提供される少なくとも1種の活性剤を肺吸入によって投与することができる。
【実施例】
【0095】
以下の実施例は、本発明のある態様を実証するために含まれている。実施例に開示されている技術は、本発明の実施において十分に機能する代表的な技術の説明であることが当業者によって理解されるべきである。但し、当業者は、本開示を考慮して、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、開示されている具体的な態様における変形が可能であり、それによって同様または類似した結果をなお得ることができることを理解すべきである。
【0096】
実施例1
健常な成人男性に対する吸入可能な乾燥粉末としてのGLP−1の投与
GLP−1は、静脈内(iv)もしくは皮下(sc)注入または複数の皮下注射によって投与した場合、ヒトの血中グルコースの上昇を制御することが知られている。ホルモンの循環半減期が極めて短いため、臨床的有効性を達成するためには連続皮下注入または複数回の毎日の皮下注射が必要とされるであろう。これらの経路はどちらも、長期にわたる臨床的使用にとって実用的でない。出願人らは、GLP−1を吸入によって投与すると治療レベルを達成し得ることを動物実験において見出した。これらの研究の結果は、例えば、米国特許出願第11/735,957号に記載されており、これらの開示内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0097】
健常な個体では、胃内容排出の低下、満腹感の増加および不適当なグルカゴン分泌の抑制などのGLP−1のいくつかの作用は、食事の開始に伴って放出されるGLP−1の突発(burst)に関連していると思われる。吸入粉末としてのGLP−1(GLP−1(7−36)アミド)および2,5−ジケト−3,6−ジ(4−フマリル−アミノブチル)ピペラジン(FDKP)からなる製剤を用いてこの初期のGLP−1の急増を抑制することによって、糖尿病の動物における内因性インスリン産生、グルカゴン濃度や血糖値の低下などの薬力学的応答を誘発することができる。さらに、インスリン分泌の増加に関連づけられる天然のGLP−1の遅い急増は、GLP−1/FDKP吸入粉末の食後の投与によって摸倣することができる。
【0098】
GLP−1/FDKP吸入粉末の第1a相臨床試験は、ヒトの対象において選択した用量の新しい吸入用血糖管理治療薬の安全性および耐性を試験するために初めて設計した。GLP−1/FDKP吸入粉末は、以前に試験したMEDTONE(登録商標)吸入装置を用いて投与した。この実験は、種々の用量のGLP−1/FDKP吸入粉末の肺吸入による安全性および耐性を確認するために設計した。ヒトへの使用のための用量は、米国特許出願第11/735,957号(この開示内容は参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているように吸入によって投与されるGLP−1/FDKPを用いたラットおよび霊長類における非臨床的研究からの動物安全性試験の結果に基づいて選択した。
【0099】
26人の対象が参加し、彼らを5つの群に分け、群1および2のそれぞれで最高4人、群3〜5のそれぞれで最高6人の評価可能な対象を用意した。彼らは適格基準を満たし、かつ調査を完了した。群1:0.05mg、群2:0.45mg、群3:0.75mg、群4:1.05mgおよび群5:1.5mgのGLP−1の用量レベルで、GLP−1/FDKP吸入粉末としてGLP−1を各対象に1回投与した。脱落者の交代はなかった。これらの投与量は体重70kgを仮定していた。当業者は、本明細書に開示されている調査に基づいてさらなる投与量レベルを決定することができる。
【0100】
これらの実験では、健常な成人男性対象における上昇する用量のGLP1/FDKP吸入粉末の安全性および耐性を決定した。上昇する用量のGLP−1/FDKP吸入粉末の耐性は、報告された有害事象(AE)、バイタルサイン、身体検査、臨床検査および心電図(ECG)などの変数に対する薬理学的もしくは有害作用を監視することによって決定した。
【0101】
さらなる肺の安全性および薬物動態パラメータも評価した。肺および他の有害事象の発生率および訪問1(スクリーニング)と訪問3(経過観察)との間での肺機能の変化によって表わされる肺の安全性を調査した。GLP−1/FDKP吸入粉末投与後の血漿中GLP−1および血清中フマリルジケトピペラジン(FDKP)の薬物動態(PK)パラメータをAUC0〜120分血漿中GLP−1およびAUC0〜480分血清中FDKPとして決定した。さらなる血漿中GLP−1の薬物動態パラメータには、血漿中GLP−1最高濃度に到達する時間(Tmax血漿中GLP−1)、血漿中GLP−1最高濃度(Cmax血漿中GLP−1)および血漿中GLP−1最高濃度に到達する全時間の半分(T1/2血漿中GLP−1)が含まれていた。血清中FDKPのさらなるPKパラメータには、Tmax血清中FDKP、Cmax血清中FDKPおよびT1/2血清中FDKPが含まれていた。臨床試験の終点は、試験対象集団において決定した以下の薬理学的および安全性パラメータの比較に基づいていた。一次終点には、咳および呼吸困難、悪心および/または嘔吐などの報告された有害事象の発生率および重症度ならびにバイタルサイン、臨床検査および身体検査でのスクリーニングからの変化が含まれていた。二次終点には、血漿中GLP−1および血清中FDKP(AUC0〜120分血漿中GLP−1およびAUC0〜480分血清中FDKP)、血漿中GLP−1(Tmax血漿中GLP−1、Cmax血漿中GLP−1、T1/2血漿中GLP−1)、血清中FDKP(Tmax血清中FDKP、Cmax血清中FDKP)、肺機能検査(PFT)およびECGの薬物動態学的性質が含まれていた。
【0102】
臨床試験は、3回の病院訪問:1)1回のスクリーニング訪問(訪問1)、2)1回の治療訪問(訪問2)、および3)訪問2から8〜14日後の1回の経過観察訪問(訪問3)からなっていた。単回用量のGLP−1/FDKP吸入粉末は、訪問2の際に投与した。
【0103】
5種類の用量のGLP−1/FDKP吸入粉末(0.05、0.45、0.75、1.05および1.5mgのGLP−1)を評価した。すべての用量に対応するように、製剤化したGLP−1/FDKPを、活性剤を含まない粒子を含有するFDKP吸入粉末と混合した。そのまま、あるいは適量のFDKP吸入粉末と混合したGLP−1/FDKP吸入粉末(15%w/wのGLP−1/FDKP)からなる10mgの乾燥粉末を含有する単回用量カートリッジを使用して、所望の用量のGLP−1(0.05mg、0.45mg、0.75mg、1.05mgおよび1.5mg)を提供した。最初の2種類の最も低い用量レベルはそれぞれ4人の対象からなる2つの群で評価し、3種類のより高い用量レベルはそれぞれ6人の対象からなる3つの群で評価した。各対象に評価される5種類の用量レベルのうちの1種で1回の用量のみを投与した。GLP−1(活性GLP−1および総GLP−1)およびFDKP測定のために採血した血に加えて、グルカゴン、グルコース、インスリンおよびC−ペプチドの測定のために試料を採取した。これらの実験からの結果について、以下の図および表を参照しながら説明する。
【0104】
図1は、1.5mgのGLP−1用量の肺投与後の群5における血漿中活性GLP−1濃度を示す。データは、GLP−1ピーク濃度が3分で最初の試料採取時点前に生じ、静脈内(IV)ボーラス投与に酷似していることを示した。幾人かの対象における血漿中GLP−1濃度は、アッセイ限界の500pmol/Lよりも高かった。血漿中活性GLP−1ピーク濃度は約150pmol/L〜約500pmol/Lの範囲である。文献(Vilsbollら、2000年)に報告されているようなGLP−1の静脈内ボーラス投与では、総GLP−1:活性GLP−1の比は、この調査の群5における比の1.5と比較して、3.0〜5.0であった。匹敵する活性濃度では、代謝物のピークは、肺投与と比較して、静脈内投与後は8〜9倍高く、これは、肺送達によりGLP−1が急速に送達され、かつ分解が少ないことを示した。
【0105】
【表1】
【0106】
健常な個体では、生理学的な食後の静脈血漿中GLP−1濃度は、典型的に10〜20pmol/Lの範囲である(Vilsbollら, J. Clin. Endocr. & Metabolism. 88(6):2706-13, 2003年6月)。これらの濃度は、0.45mgのGLP−1を投与した群2の幾人かの対象によって達成された。より高い用量のGLP−1によって、生理学的な静脈ピーク濃度よりも実質的に高い血漿中GLP−1ピーク濃度が生じた。しかし、GLP−1の循環半減期が短いために(約1〜2分)、活性GLP−1の血漿中濃度は投与から9分後までに生理学的範囲に低下した。ピーク濃度は静脈循環に生理学的に認められるものよりもはるかに高いが、GLP−1の局所的な濃度が全身で認められるものよりもはるかに高い場合があるという証拠もある。
【0107】
表1は、この調査からのFDKPを含む製剤を用いたGLP−1の薬物動態学的プロファイルを示す。
また、群4および5については、FDKP薬物動態パラメータも表1に示す。他の群は分析しなかった。データは、1.05mgおよび1.5mgのGLP−1で治療した対象の血漿中の平均FDKP濃度がそれぞれ約184および211pmol/Lであったことも示す。FDKP血漿中最高濃度は、各用量の投与から約4.5および6分後に達成され、循環半減期は約2時間(127分および123分)であった。
【0108】
図2Aは、1.5mgの用量においてGLP−1の吸入可能な乾燥粉末製剤で治療した対象における平均インスリン濃度を示す。データは、インスリン濃度がすべての対象において検出されたため、1.5mgのGLP−1用量がβ細胞からの内因性インスリン放出を誘発し、かつ約380pmol/Lの平均インスリンピーク濃度が投与から6分後までに生じたことを示す。インスリン放出は急速であったが、GLP−1への最初の応答後に血漿中インスリン濃度が急速に低下したため、持続的でなかった。図2Bは、GLP−1用量の皮下投与と比較して、肺吸入によって投与された1.5mg用量のGLPで治療した対象の血漿中GLP−1濃度を示す。データは、GLP−1の肺投与が比較的速く生じ、かつ血漿中GLP−1ピーク濃度が皮下投与よりも速く生じることを示す。さらに、GLP−1の肺吸入によって、血漿中GLP−1濃度は皮下投与の場合よりもはるかに速く基礎濃度に戻る。従って、本薬物送達システムを用いる肺吸入によって提供される患者のGLP−1への曝露は、皮下投与による曝露よりも時間が短く、かつAUCによって決定されるようなGLP−1への総曝露は、吸入用インスリンの場合、より少ない。図2Cは、GLP−1の乾燥粉末製剤の肺投与が、GLP−1の静脈内投与後に得られる応答に類似しているがGLP−1の皮下投与によって産生される内因性インスリンのピーク時間および量において異なるインスリン応答を誘発することを示し、これは、本製剤を用いるGLP−1の肺投与がインスリン応答を誘発する際により有効であることを示している。
【0109】
図3は、吸入後の種々の時間に測定した、1.5mgのGLP−1用量を含有する吸入可能な乾燥粉末製剤で治療した対象における血漿中C−ペプチド濃度を示す。データは、C−ペプチドがGLP−1吸入後に放出されることを示し、これは内因性インスリン放出を確証している。
【0110】
健常な個体では、空腹時血糖値は約3.9mmol/L〜約5.5mmol/Lまたは約70mg/dL〜約99mg/dLの範囲である(米国糖尿病協会推奨)。図4は、GLP−1を含有するGLP−1製剤で治療した対象における空腹時血漿中グルコース濃度を示す。空腹時血漿中グルコース(FPG)の平均濃度は、1.5mgのGLP−1で治療した対象では約4.7mmol/Lであった。GLP−1媒介性インスリン放出はグルコースに依存していた。低血糖症は、正常血糖の対象では歴史的に観察されていない。この実験では、データは、これらの正常血糖の健常な対象における血糖値はGLP−1の肺投与後に低下したことを明確に示している。1.5mgのGLP−1用量では、6人のうち2人の対象の血糖値が、GLP−1によって、低血糖症を定義する臨床検査値の3.5mmol/L未満まで低下した。血漿中グルコースは、1.5mgのGLP−1用量を投与した6人のうちの2人の対象において1.5mol/Lを超えて低下した。さらに、血漿中グルコースの低下はGLP−1用量に相関していた。血糖値の最も小さい低下は0.05mg用量を用いた際に認められ、最も大きい低下は1.5mg用量を用いた際に認められた。GLP−1の3種類の中間用量によって、血漿中グルコースのおよそ等しい低下が生じた。データは、GLP−1のグルコース依存性が生理学的範囲を超えるGLP−1濃度によって克服されたことを示す。正常な個体におけるGLP−1(7−36)アミドの生理学的範囲は空腹時に5〜10pmol/Lの範囲であり、食後に15〜50pmol/Lまで急速に上昇することが報告されている(Drucker, D.およびNauck, M. The Lancet 368:1696-1705, 2006年)。
【0111】
図5は、GLP−1の肺投与後の血漿中インスリン濃度が用量に依存することをさらに示す。ほとんどの対象においてインスリン放出は持続的でなかったが、それはGLP−1投与への最初の応答後に血漿中インスリン濃度が急速に低下するためである。ほとんどの対象において、血漿中インスリンのピーク応答は200〜400pmol/Lの範囲であり、1人の対象が700pmol/Lを超える血漿中インスリンピーク濃度を示した。従って、データは、インスリン応答がGLP−1用量に依存することを示している。
【0112】
図6は、種々の用量群におけるGLP−1の肺投与後の血漿中グルカゴン濃度を示す。ベースラインのグルカゴン濃度は、種々の用量群において13.2pmol/L〜18.2pmol/Lの範囲であった。血漿中グルカゴンにおける最大の変化が投与から12分後に認められた。血漿中グルカゴンの最大の減少は約2.5pmol/Lであり、1.5mgの用量群で認められた。グルカゴン分泌の最大の抑制は、最低値が常に12分で生じなかったため、過小評価された可能性があった。
【0113】
表2および表3は、この調査時に患者集団について記録された有害事象または副作用症状を報告するものである。注射によって投与されるGLP−1に関する文献に報告されている有害事象の一覧は広範囲なものではなく、報告されている有害事象は、軽度または中程度および許容可能のように記載されている。報告された主要な有害事象は、活性GLP−1の濃度が100pmol/Lを超えた場合の大量発汗、悪心および嘔吐である。表1および表3および図1に示すように、1.05mgおよび1.5mgの用量での肺投与によって、非経口(皮下、静脈内[ボーラスまたは注入のいずれか])GLP−1によって通常観察される副作用なしに活性GLP−1濃度が100pmol/Lを大きく超えた。この調査における対象の中に、悪心、大量発汗または嘔吐の症状を報告したものは全くいなかった。群5の対象は、対象の大部分が顕著な有害事象を報告した50μg/kgの静脈内ボーラスのデータ(Vilsbollらが2000年に報告)に見られるものに匹敵するCmaxに到達した。
【0114】
【表2】
【0115】
【表3】
【0116】
表2および表3は、肺吸入によってGLP−1を投与した調査においていずれの対象からも深刻な有害事象または重度の有害事象が報告されなかったことを示す。最もよく報告された有害事象は、乾燥粉末の吸入に関連するもの、すなわち咳および喉の炎症であった。驚くべきことに、肺吸入によって治療した患者の中に悪心または身体違和感を報告した対象は一人もおらず、かつこれらの対象のいずれに関わる嘔吐も全く認められなかった。本発明者らは、乾燥粉末製剤としてのGLP−1の肺投与には上記対象における胃内容排出の阻害がないことも見出した(データは示さず)。胃内容排出の阻害は、注射用の標準的なGLP−1製剤に関連する一般に見られる望ましくない副作用である。
【0117】
要約すると、臨床的GLP−1/FDKP粉末は最大15重量%のGLP−1を含み、10mgの粉末で最大用量の1.5mgのGLP−1を提供した。アンダーセンカスケード測定では、35〜70%の粒子の空気力学的な直径が5.8μm未満であることが示された。1.5mgのGLP−1用量によって、1回目の試料採取時間(3分)では300pmol/L超の活性GLP−1の平均ピーク濃度が得られ、その結果、1回目の測定時点(6分)における平均インスリンピーク濃度は375pmol/Lとなり、投与から20分後に、血漿中の空腹時平均グルコースは85〜70mg/dLに低下し、十分に耐用され、かつ悪心も嘔吐も引き起こさなかった。
【0118】
実施例2
雄のズッカー糖尿病肥満ラットへのGLP−1およびエクセナチドの肺投与とエクセナチドの皮下投与との比較
臨床的に有用な治療に到達するために、より長い循環半減期を有するGLP−1類似体の開発に多大な労力が費やされている。ここに実証されているように、GLP−1(GLP−1(7−36)アミド)の肺投与によって臨床的に重要な活性も提供される。従って、これらの2つの手法を比較することは興味深かった。
【0119】
FDKP粒子の調製
フマリルジケトピペラジン(FDKP)およびポリソルベート80を希釈したアンモニア水に溶解して、2.5重量%のFDKPおよび0.05重量%のポリソルベート80を含有する溶液を得た。次いで、FDKP溶液を、ポリソルベート80含有酢酸溶液と混合して粒子を形成した。この粒子を洗浄し、クロスフロー濾過で濃縮して約11重量%の固体を得た。
【0120】
GLP−1原液の調製
60mgのGLP−1の固体(86.6%のペプチド)と451mgの脱イオン水とを一緒にして10重量%のGLP−1を脱イオン水に溶解した原液を調製した。約8μLの氷酢酸を添加してペプチドを溶解した。
【0121】
GLP−1/FDKP粒子の調製
FDKP懸濁原液の一部1g(粒子108mg)を2mLのポリプロピレン試験管に移した。適量のGLP−1原液(表1)をこの懸濁液に添加し、穏やかに混合した。50%(v/v)の水酸化アンモニウムの分割量1μLを添加して、この懸濁液のpHを約3.5〜約4.5に調整した。次いで、GLP−1/FDKP粒子の懸濁液を液体窒素に入れてペレット化し、凍結乾燥した。この乾燥粉末を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した結果、理論値と同程度であることが分かった。
【0122】
エクセナチド原液の調製
281mgのエキセンジンの固体(88.9%のペプチド)と2219mgの2重量%酢酸とを一緒にして2重量%酢酸に溶解した10重量%のエキセンジンの原液を調製した。
【0123】
エクセナチド/FDKP粒子の調製
FDKP懸濁原液の一部1533mg(粒子171mg)を4mLのガラス瓶に移した。エキセンジン原液の一部304mgをこの懸濁液に添加し、穏やかに混合した。25%(v/v)の水酸化アンモニウムの分割量3〜5μLを添加して、この懸濁液のpHを約3.7〜約4.5に調整した。次いで、エクセナチド/FDKP粒子の懸濁液を液体窒素に入れてペレット化し、凍結乾燥した。この乾燥粉末を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した結果、理論値とほぼ同程度であることが分かった。
【0124】
ラットにおける薬物動態学的および薬力学的評価
雄のズッカー糖尿病肥満(ZDF)ラット(5匹/群)を4つの試験群のうちの1つに割り当てた。動物を一晩絶食させた後、被験物質の投与の直前に腹腔内注射によってグルコース(1g/kg)を投与した。対照群の動物には肺ガス注入によって空気を投与した。群1の動物には皮下(SC)注射によってエクセナチド(0.3mg)の食塩水(0.1mL)を投与した。群2の動物には肺ガス注入によって15重量%のエクセナチド/FDKP(2mg)を投与した。群3の動物には肺ガス注入によって15重量%のGLP−1/FDKP(2mg)を投与した。投与前および投与から15、30、45、60、90、120、240および480分後に血液試料を尾部から採取した。血漿を回収した。血中グルコースおよび血漿中GLP−1または血漿中エクセナチドの濃度を測定した。
【0125】
エクセナチドの薬物動態は図7Aに報告されている。これらのデータは、エクセナチドがエクセナチド/FDKP粉末のガス注入後に急速に吸収されることを示した。吸入用エクセナチドの生物学的利用能は皮下注射と比較して94%であった。これは、肺投与はエクセナチドに特に有利であることを示しているかもしれない。循環エクセナチドの最大ピーク濃度までの時間(Tmax)は、吸入用エクセナチドを投与したラットにおける15分未満と比較して、皮下用エクセナチドを投与したラットでは30分であった。このTmaxは、ガス注入用GLP−1/FDKPのTmaxに類似していた(データは示さず)。
【0126】
比較した薬力は図8に報告されている。これらのデータは4つの試験群すべてについての血中グルコースの変化を示した。グルコース負荷試験後のグルコースの逸脱は、皮下用エクセナチドを投与した動物と比較すると、吸入用エクセナチド/FDKPを投与した動物では小さかった。エクセナチドの曝露は両群で同程度であるため(図7)、これらのデータは、エクセナチド/FDKP群におけるエクセナチドのピーク濃度までの時間がより短いことから、より良好なグルコース制御が得られることを示している。さらに、グルコースの逸脱は、GLP−1/FDKPまたはエクセナチド/FDKPのいずれか一方を投与した動物において同程度であった。エクセナチドの循環半減期(89分)はGLP−1の循環半減期(15分)よりもかなり長いため、これらのデータは驚くべきものである。実際、エクセナチドは、有効性を高める目的で、循環半減期を最大にするために開発された。これらのデータは、肺投与を用いた場合、エクセナチドのより長い循環半減期によって、高血糖症の制御において何も利点が得られないことを示している。さらに、いずれか一方の分子の肺投与によって、皮下用エクセナチドよりも優れた血中グルコース制御が得られた。
【0127】
図7は、皮下用エキセンジン−4に対して肺ガス注入によって投与されるエキセンジン−4/FDKP粉末製剤を投与した雄のZDFラットにおける血漿中の平均エキセンジン濃度を示す。黒四角は、エキセンジン−4/FDKP粉末の肺ガス注入後の応答を表わす。白四角は、皮下投与用エキセンジン−4の投与後の応答を表わす。データは±標準偏差としてプロットされている。データは、0.12、0.17および0.36mgのGLP−1用量を提供する粉末をガス注入したラットにより、それぞれ2.3、4.9および10.2nMの血漿中GLP−1最高濃度(Cmax)および57.1nM/分、92.6nM/分および227.9nM/分の曝露(AUC)が得られたことを示している(tmax=10分、t1/2=10分)。4日間連続の1日あたり0.3mgのGLP−1の投与後に行われた腹腔内グルコース負荷試験では、治療した動物は対照群よりも有意に低い血糖値を示した(p<0.05)。負荷から30分後に、グルコースは、対照動物において47%も上昇したが、治療した動物では17%のみの上昇であった。
【0128】
図8は、皮下用エキセンジン−4および肺ガス注入によって投与されるエキセンジン−4に対して、肺ガス注入による空気対照、エキセンジン−4/FDKP粉末またはGLP−1/FDKP粉末のいずれかを投与した雄のZDFラットにおけるベースラインからの血中グルコースの変化を示す。黒菱形はエキセンジン−4/FDKP粉末の肺ガス注入後の応答を表わす。黒丸は皮下用エキセンジン−4の投与後の応答を表わす。黒三角はGLP−1/FDKP粉末の投与後の応答を表わす。黒四角は空気単独の肺ガス注入後の応答を表わす。白四角は、ラットにガス注入による2mgのGLP−1/FDKPを与えた後にガス注入による2mgのエキセンジン−4/FDKP粉末も投与して得られた応答を表わす。
【0129】
実施例3
オキシントモジュリン/FDKP粉末の調製
グルカゴン−37としても知られているオキシントモジュリンは、37個のアミノ酸残基からなるペプチドである。このペプチドは、カリフォルニア州サニーヴェールのAmerican Peptide社で製造されており、そこから入手した。FDKP粒子の懸濁液を、オキシントモジュリン溶液と混合した後、液体窒素中でペレットとして急速冷凍し、凍結乾燥して試料粉末を生成した。
【0130】
5%〜30%の標的ペプチド含有量を有する6種類の粉末を調製した。HPLCで測定した実際のペプチド含有量は4.4%〜28.5%であった。10%のペプチドを含有する粉末の空気力学的特性を、カスケード衝突を用いて分析した。
【0131】
次いで、FDKP溶液をポリソルベート80含有酢酸溶液と混合して粒子を形成した。この粒子を洗浄し、クロスフロー濾過で濃縮して約11重量%の固体を得た。
FDKP粒子の懸濁液(1885mg×11.14%の固体=FDKP粒子210mg)を4mLの透明のガラス瓶に秤量した。この瓶に蓋をし、磁気撹拌器を用いて混合して沈降を防止した。オキシントモジュリン溶液(10%ペプチドの2重量%酢酸溶液909mg)をこの瓶に添加し、混合し続けた。最終的な組成物の比は約30:70=オキシントモジュリン:FDKP粒子であった。オキシントモジュリン/FDKP懸濁液の最初のpHは4.00であり、1:4(v/v)水酸化アンモニウム/水を2〜10μLずつ添加することによってpHを4.48に調整した。この懸濁液を液体窒素の入った小型の結晶皿に入れてペレット化した。この皿を凍結乾燥器に入れ、200mTorrで凍結乾燥した。棚温度を0.2℃/分で−45℃から25℃に上昇させた後、約10時間25℃に維持した。得られた粉末を4mLの透明のガラス瓶に移した。瓶へ移した後の粉末の全収率は309mg(103%)であった。オキシントモジュリン調製物を炭酸水素ナトリウムで希釈し、かつ220および280nmでの波長検出装置を備え、かつ移動相として0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)を含む脱イオン水および0.1%のTFAを含むアセトニトリルを用いるWaters 2695分離システムの高圧液体クロマトグラフィーで分析することにより、オキシントモジュリン含有量について試料を試験した。WATERS EMPOWER(商標)ソフトウエアプログラムを用いてデータを分析した。
【0132】
ラットにおける薬物動態学的および薬力学的評価
雄のZDFラット(10匹/群)を4つの群のうちの1つに割り当てた。1つの群の動物には静脈内注射によってオキシントモジュリンを投与した。他の3つの群の動物には、肺ガス注入によって5%オキシントモジュリン/FDKP粉末(0.15mgのオキシントモジュリンを含有)、15%オキシントモジュリン/FDKP粉末(0.45mgのオキシントモジュリンを含有)または30%オキシントモジュリン/FDKP粉末(0.9mgのオキシントモジュリンを含有)を投与した。血漿中オキシントモジュリン濃度の測定のために、投与前およびの投与後の種々の時間に尾部から血液試料を採取した(図9A)。オキシントモジュリン投与後の種々の時間に摂食量も監視した(図9B)。
【0133】
図9Aは、静脈内注射によってオキシントモジュリンを投与した対照のラットと種々の量での吸入可能な乾燥粉末製剤投与後の雄のZDFラットのオキシントモジュリンの血漿中濃度を比較するグラフである。これらのデータは、オキシントモジュリンがオキシントモジュリン/FDKP粉末のガス注入後に急速に吸収されることを示している。循環オキシントモジュリンの最大ピーク濃度までの時間(Tmax)は、吸入用オキシントモジュリンを投与したラットでは15分未満であった。この調査により、オキシントモジュリンの循環半減期が肺投与から約22〜約25分後であることが分かる。
【0134】
図9Bは、空気流を投与した対照動物と比較して、静脈内オキシントモジュリンまたは肺ガス注入によって投与されるオキシントモジュリン/FDKP粉末で治療した雄のZDFラットにおける累積摂食量を示す棒グラフである。データは、オキシントモジュリン/FDKPの肺投与によって、単回用量による静脈内オキシントモジュリンまたは空気対照のいずれか一方よりも大きく摂食量が減少したことを示している。
【0135】
同様の一連の実験において、肺ガス注入によって対照としての空気流(群1)または30%オキシントモジュリン/FDKP粉末をラットに投与した。オキシントモジュリン/FDKP吸入粉末を投与したラットには、上記のように調製した0.15mgのオキシントモジュリン(0.5mgのオキシントモジュリン/FDKP粉末として、群2)、0.45mgのオキシントモジュリン(1.5mgのオキシントモジュリン/FDKP粉末として、群3)または0.9mgのオキシントモジュリン(3mgのオキシントモジュリン/FDKP粉末として、群4)のうちのいずれかの用量を投与した。この調査は、実験の開始の24時間前から絶食させたZDFラットで行なった。ラットは実験用量の投与後に摂食が許可された。所定の量の食物をラットに与え、実験開始後の種々の時間にラットが消費した食物の量を測定した。オキシントモジュリン/FDKP乾燥粉末製剤を肺ガス注入によってラットに投与し、食物の測定および血液試料の採取を投与後の種々の時点で行なった。
【0136】
図10Aおよび図10Bはそれぞれ、すべての試験動物についての循環オキシントモジュリン濃度および対照からの摂食量の変化を示す。オキシントモジュリンを投与したラットの食物消費は、投与から最長6時間後まで、対照のラットよりも著しく少なかった。より高用量のオキシントモジュリンによって、より低用量のオキシントモジュリンよりも有意に食欲が抑制されるようであり、これは、より高用量を投与したラットの食物消費が投与後に測定されたすべての時点において最少であったため、食欲の抑制が用量に依存していることを示していた。
【0137】
オキシントモジュリンの血中最高濃度は10〜30分で検出され、1.5mgのオキシントモジュリンを投与したラットの血漿中最高濃度が311μg/mLであり、かつ3mgのオキシントモジュリンを投与したラットの血漿中最高濃度が660μg/mLであったため、オキシントモジュリンのその最高濃度は用量に依存していた。肺ガス注入による投与後のSDラットにおけるオキシントモジュリンの循環半減期(t1/2)は約25〜51分の範囲であった。
【0138】
実施例4
2型糖尿病患者への吸入可能な乾燥粉末としてのGLP−1の投与
肺吸入によるGLP−1乾燥粉末製剤を用いて治療前後の患者の血糖値を評価するために、2型糖尿病に罹患している患者においてGLP−1/FDKP吸入粉末の第1相臨床試験を行なった。これらの調査は、実施例1に従って、かつ本明細書に記載されているように行なった。米国特許出願第11/735,957号(この開示内容は参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているように、GLP−1吸入粉末を調製した。乾燥吸入粉末は、単回用量カートリッジ内にFDKPを含有する乾燥粉末製剤計10mg中に1.5mgのヒトのGLP−1(7−36)アミドを含有していた。この調査のために、成人男性および閉経後の女性を含む2型糖尿病に罹患している20人の患者を一晩絶食させ、GLP−1吸入粉末投与から4時間後まで絶食させ続けた。乾燥粉末製剤は、MEDTONE(登録商標)乾燥粉末吸入器(MannKind社)を用いて投与し、それについては、米国特許出願第10/655,153号に記載されており、その開示内容全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0139】
血清中グルコース濃度を評価するための血液試料を、投与の30分前、投与時(0時)、およびGLP−1投与から約2、4、9、15、30、45、60、90、120および240分後に、治療される患者から入手した。各試料の血清中グルコース濃度を分析した。
【0140】
図11は、これらの調査の結果を示すグラフであり、GLP−1を含有する単回用量の吸入可能な乾燥粉末製剤投与後の種々の時点における6人の絶食した2型糖尿病患者から得られた血糖値を示す。6人の患者全員の血糖値はGLP−1投与後に低下し、この調査の終了時点の投与から少なくとも4時間後まで低下し続けた。
【0141】
図12は、図11に血糖値が示されている6人の絶食した2型糖尿病患者の群についての平均血糖値を示すグラフである。図12では、血糖値は、6人の患者全員について、0時(投与)からの血糖値の平均的変化として表わされている。図12は、グルコースの約1mmol/Lの平均的低下を示し、これは、約18mg/dL〜約20mg/dLにおよそ等しく、30分時点までに達成される。血糖値のこの平均的低下は120分間続いた。この変化は、より高いベースライングルコースを有する対象においてより大きく、かつより長期にわたっていたが、6人のうちの2人の対象においては、最も低いベースライン空腹時血中グルコースを有するこれらの対象は、この時間枠において血糖値の一時的な低下のみを示した(データは示さず)。より高い空腹時グルコースを有する対象は典型的に、より低い値を有する対象と同じインスリン応答を有しないため、刺激されると、より高い空腹時グルコースを有する対象は典型的に血糖値が正常により近い対象よりも大きな応答を示すことが注目された。
【0142】
実施例5
そのままの状態のGLP−1の脳および肝臓への初回通過分布モデル
肺送達および静脈内ボーラス投与後の体循環によるGLP−1の初回通過分布を計算して、GLP−1の両投与方法についての送達の有効性を決定した。(1)肺から肺静脈へのGLP−1の吸収はゼロ次速度過程を示した、(2)GLP−1の脳および脳内への分布は即座に生じる、および(3)GLP−1の脳および肝臓分布からのクリアランスは基礎血流のみによって促進される、という仮定に基づいてモデルを開発した。これらの仮定に基づき、脳および肝臓内のGLP−1の量を測定するための分析は、ある組織および臓器によるGLP−1の抽出(Deacon, C.F.ら「Glucagon-like peptide 1 undergoes differential tissue-specific metabolism in the anesthetized pig(グルカゴン様ペプチド1は麻酔をしたブタにおいて差動的組織特異的代謝を受ける)」米国生理学会、1996年、E458〜E464頁)、ならびにヒトの研究からの心拍出量による体への血流分布および速度(Guyton Textbook of Physiology(生理学についてのガイトンの教科書)、第10版;W. B. Saunders、2000年、176頁)に関する公開データに基づいていた。安静時の血圧などの正常な生理学的パラメータを有する正常な対象(70kg)では、脳および肝臓への基礎流量はそれぞれ、700mL/分および1350mL/分である。心拍出量に基づいて、体への血流分布は、脳に14%、肝臓に27%および残りの体組織に59%と計算されている(Guyton)。
【0143】
上述したパラメータを用いて、肺および静脈内投与によって投与される1mgの用量について、脳および肝臓に分布されるGLP−1の相対量を測定した。1mgのGLP−1を60秒で割り、得られた数に脳への14%の流れ分布を乗算した。従って、毎秒、用量の一部が脳に出現する。脳内の血液が150mLに等しく、かつクリアランス速度が700mL/分であることを示す入手可能なデータから、GLP−1のクリアランスに関する計算によって約12mL/秒が得られ、これは、1秒ごとに脳から排出されている血液量の約8%に等しい。Deaconらによって報告されたブタにおける静脈内の研究では、GLP−1の40%は静脈内で即座に代謝され、10%も肺の中の脱酸素化血液中で代謝された。従って、静脈内のデータ分析に関する計算では、投与される総量から総GLP−1の40%およびその後の別の10%を減算した。
【0144】
肝臓中の推定されるGLP−1量については、静脈内および肺投与経路に対して同じ分解を仮定し、静脈内用量の40%とその後の別の10%の全損失が伴うものとした。残りのGLP−1の27%が肝臓に分配され、血液の75%が最初に門脈床を通過すると仮定した。肝臓における血液の瞬時分布を仮定した。計算は以下のとおりであった:1mgのGLP−1を60秒で割り、静脈内のデータ分析を考慮して、投与される総量から総GLP−1の40%とその後の別の10%を減算した。肺投与については全く分解を仮定しなかった。両投与経路について、得られた数に肝臓への27%の流れ分布を乗算し、この量の75%が最初に門脈床を通過するものとした。Deaconらによって報告されたブタにおける静脈内の研究では、門脈床による20%の抽出が報告され、従って、GLP−1の量の75%が肝臓への導入前に20%だけ減少した。従って、毎秒肝臓に出現するGLP−1の総量は門脈床で代謝を受けた部分で構成されていた。肝臓中の血液量が750mLに等しく、かつクリアランス速度が1350mL/分であることを示す入手可能なデータから、GLP−1のクリアランスについての計算により約22.5mL/秒が得られ、これは、1秒ごとに肝臓から排出されている血液量の約3%に等しい。Deaconらは肝臓における45%の分解を報告したため、それに応じて、総GLP−1の45%を肝臓に出現している総量から減算し、残りを総残量に加算した。
【0145】
上記計算の結果を表4および表5に示す。肺投与後の脳および肝臓における計算したGLP−1の分布(表4)を以下に示す:
【0146】
【表4】
【0147】
静脈内ボーラス投与後のGLP−1の分布を示す結果を以下の表5に示す:
【0148】
【表5】
【0149】
上のデータは、内因性酵素によるGLP−1の分解後の体の具体的な組織へのGLP−1の分布の代表的な例示である。上の測定値によれば、肺投与後の脳および肝臓におけるGLP−1量は、静脈内ボーラス投与後のGLP−1量よりも約1.82〜約1.86倍多い。従って、このデータは、GLP−1の肺送達は、投与後の種々の時間におけるGLP−1量が静脈内投与で得られる量の約2倍であるため、GLP−1の静脈内投与と比較した場合、より有効な送達経路となり得ることを示している。従って、肺投与によるGLP−1を含む疾患または障害の治療方法に必要とされる総量はより少なく、すなわち同じまたは類似の効果を生じさせるために必要な静脈内GLP−1用量のほぼ半分となる。
【0150】
実施例6
この実施例における調査は、皮下投与による種々の活性剤、および肺ガス注入によって投与されるZDFラットへのFDKP、FDK二ナトリウム塩、スクシニル置換DKP(SDKP、本明細書では化合物1ともいう)または非対称(フマリル一置換)−DKP(本明細書では化合物2ともいう)を含む製剤としての種々の活性剤の薬物動態パラメータを測定するために行なった。ラットを8群に分け、5匹のラットを各群に割り当てた。群1の各ラットには肺の液体点滴注入によって0.3mgの用量のエキセンジン−4のリン酸緩衝食塩水を投与し、群2には皮下注射によって0.3mgのエキセンジン−4のリン酸緩衝食塩水を投与した。
【0151】
群3〜8のラットには、以下のように肺ガス注入によって活性剤またはエキセンジン−4を投与した:群3のラットには肺ガス注入によって2mgのGLP−1/FDKP製剤を投与した後、2mgの用量のエキセンジン−4を投与し、群4にはエキセンジン−4/FDKP製剤を投与し、群5のラットにはFDKPの二ナトリウム塩に9.2%の負荷として製剤化された3mgの用量のエキセンジン−4を投与し、群6のラットにはFDKPの二ナトリウム塩に13.4%の負荷として製剤化された2mgの用量のエキセンジン−4を投与し、群7のラットにはSDKPに14.5%の負荷として製剤化された2mgの用量のエキセンジン−4を投与し、群8のラットには非対称(フマリル一置換)DKPに13.1%の負荷として製剤化された2mgの用量のエキセンジン−4を投与した。
【0152】
多数の対象に対応するために、2日間にわたって動物への投与を行なった。動物に種々の被験物質を投与し、投与後の種々の時間に血液試料を採取した。血漿分離株中のエキセンジン−4の濃度を測定し、その結果を図13に示す。グラフに示すように、FDKPを含有する製剤としてエキセンジン−4を投与した群4の治療したラットは、皮下投与によってエキセンジン−4を投与した群2のラットよりも30分も早くかつ高濃度で、高濃度の血中エキセンジン−4を示した。すべての群において、エキセンジン−4の濃度は、投与から約1時間に急激に低下した。
【0153】
ZDFラットにおける肺ガス注入によるエキセンジン−4/FDKPの投与は、皮下注射として投与されるエキセンジン−4と同様の用量で正規化されたCmax、AUCおよび生物学的利用能を有する。肺ガス注入によって投与されるエキセンジン−4/FDKPは、皮下注射によるエキセンジン−4と比較して、2倍超の循環半減期を示した。フマリル(一置換)DKP、またはSDKP製剤として投与されるエキセンジン−4は、皮下注射と比較して、より低い用量で正規化されたCmax、AUCおよび生物学的利用能を示したが(約50%未満)、肺の点滴注入よりも高濃度を示した。
【0154】
一晩の絶食後、ZDFラットに腹腔内注射によるグルコース負荷(IPGTT)を行なった。エキセンジン−4/FDKPでの治療は、皮下経路によるエキセンジン−4と比較して、IPGTT後の血糖値のより大きな低下を示した。空気対照動物と比較すると、皮下注射によるエキセンジン−4、肺投与によるエキセンジン−4/FDKP粉末を投与した動物のそれぞれにおいて、IPGTTから30および60分後に血糖値が有意に低下した。腹腔内グルコース投与(IPGTT)での治療後に、肺ガス注入によってエキセンジン−4/FDKPおよびGLP−1で治療した群3のZDFラットは、驚くべきことに、投与から30分後にいずれかの治療方法単独と比較して、IPGTT後により低い血糖値を示した(−28%対−24%)。
【0155】
実施例7
この実施例における調査は、静脈内注射と比較して、ZDFラットへの肺投与によるペプチドYY(3−36)製剤の薬物動態学的および薬力学的プロファイルを測定するために行なった。
【0156】
肺送達用のPYY/FDKP製剤の調製:これらの実験で使用するペプチドYY(3−36)(PYY)をAmerican Peptide社から入手し、pHの関数としてFDKP粒子に吸着させた。85.15mgのPYYを8mlの透明の瓶に秤量し、かつ最終重量が762mgになるように2%酢酸水溶液を添加して、10%ペプチド原液を調製した。このペプチドを穏やかに混合して透明の溶液を得た。PYY溶液を含む瓶にFDKP懸濁液(4968mg、424mgのFDKP既製粒子を含有)を添加し、それによりPYY/FDKP粒子懸濁液を形成した。この試料を磁気撹拌板上に置き、実験の間中ずっと入念に混合した。マイクロpH電極を使用して混合物のpHを監視した。14〜15%のアンモニア水溶液の分割量2〜3μLを使用して試料のpHを徐々に増加させた。各pH点で、試料体積(上澄み分析のために75μL、懸濁液のために10μL)を取り出した。上澄み分析のための試料を1.5mlの0.22μm濾過管に移し、遠心分離した。懸濁液および濾過した上澄み試料を50mMの炭酸水素ナトリウム溶液990μLを含むHPLCオートサンプラー瓶に移した。希釈した試料をHPLCで分析して調製物の特性を評価した。この実験は、例えば10.2%のPYY溶液をpH4.5でFDKP粒子に吸着させることができることを示した。この特定の調製物では、例えば、得られた粉末のPYY含有量が14.5%(w/w)であるとHPLCによって決定した。この粉末の空気力学的な特性のカスケード測定によって、MEDTONE(登録商標)乾燥粉末吸入器(MannKind社)によって放出される場合、98%のカートリッジの排出による呼吸可能な割合は52%であることが分かった。上記結果に基づいて、5%、10%、15%および20%のPYYを含むPYY/FDKP粉末の複数の試料を調製した。
【0157】
薬物動態学的および薬力学的調査:これらの実験では雌のZDFラットを使用し、7つの群に分けた。3匹のラットを有する群1以外は5匹のラットが各群に割り当てられた。ラットは、割り当てたられた用量の投与の24時間前から絶食させ、投与直後に食物を与え、実験の期間中、要望に応じて摂食を許可した。群1の各ラットには静脈内用量0.6mgのPYYのリン酸緩衝食塩水を投与し、群2のラットにはPYYの肺の液体点滴注入1.0mgを投与し、群3のラットは対照に指定して空気流を投与し、群4〜7のラットには、以下のように肺ガス注入によって投与される吸入用の乾燥粉末製剤を投与した:群4のラットには5%のPYY(w/w)を負荷した3mgのPYY/FDKP粉末製剤として0.15mgのPYYを投与し、群5のラットには10%のPYY(w/w)を負荷した3mgのPYY/FDKP粉末製剤として0.3mgのPYYを投与し、群6のラットには15%のPYY(w/w)を負荷した3mgのPYY/FDKP粉末製剤として0.45mgのPYYを投与し、群7のラットには20%のPYY(w/w)を負荷した3mgのPYY/FDKP粉末製剤として0.6mgのPYYを投与した。
【0158】
投与から30、60、90、120、240分および24時間後に各ラットの摂食量を測定した。投与前および投与から5、10、20、30、45、60および90分後にラットから採取した血液試料から、各ラットの血漿中PYY濃度および血糖値を測定した。これらの実験の結果を図14〜図16および以下の表6に示す。図14は、種々の用量において静脈内投与およびフマリルジケトピペラジンを含む製剤として肺投与によってPYY製剤を投与した雌のZDFラットの摂食量を測定する実験からの代表的なデータの棒グラフである。データは、対照と比較した場合、点滴注入によってPYYを投与した群2以外のPYYで治療したすべてのラットについて摂食量が減少したことを示す。ラットによる摂食量の減少は、対照と比較した場合、PYY投与から30、60、90および120分後では肺ガス注入によって治療したラットにおいて統計学的に有意であった。図14のデータは、静脈内投与(群1)はラットの摂食量の減少に比較的有効であり、FDKP製剤として肺経路によって投与した同量のPYY(0.6mg)(群7)は、より長期間の食物摂取量の減少または食欲の抑制により有効であることも示している。PYY−FDKP粉末を肺投与したPYYで治療したすべてのラットは、対照と比較した場合、食物の消費が少なかった。
【0159】
図15は、静脈内投与によるPYY製剤および肺投与によるフマリルジケトピペラジンを含む種々の製剤を投与した雌のZDFラットおよび空気対照のラットにおいて測定した血糖値を示す。データは、肺ガス注入によってPYYで治療したラットの血糖値は、PYYの静脈内投与で治療した群1のラット以外は対照と比較的類似した状態を維持していたことを示している。群1のラットは、投与から最長約15分後に、他のラットと比較した場合、最初のより低い血糖値を示した。
【0160】
図16は、投与後の種々の時間において、静脈内投与によるPYY製剤および肺投与によるフマリルジケトピペラジンを含む種々の製剤を投与した雌のZDFラットおよび空気対照のラットにおける血漿中PYY濃度を測定する実験からの代表的なデータを示す。これらの測定値を表6にも示す。データは、PYYを静脈内投与した群1のラットが肺ガス注入によって治療したラットよりも高い血漿中PYY濃度(30.7μg/mL)を達成したことを示している。PYYの血漿中ピーク濃度(Tmax)は、群1、6および7のラットでは約5分、群2、4および5のラットでは10分であった。データは、PYY/FDKP製剤を有する肺ガス注入によって治療したすべてのラットがそれらの血漿試料中に測定可能な量のPYYを有していたが、群7のラットが最も高い血漿中PYY濃度(4.9μg/mL)を有し、濃度は投与から最長約35分後まで他の群よりも高いままであったことを示している。データは、肺ガス注入によって投与されるPYYの血漿中濃度が用量に依存していることも示している。静脈内注射による投与によって、使用した投与量においてPYY/FDKPの肺投与と同様にPYYの静脈血漿中濃度が上昇したが、依然として摂食量のより大きな抑制はPYY/FDKPの肺投与において達成された。
【0161】
【表6】
【0162】
図17は、インスリン、エキセンジン、オキシントモジュリンおよびPYYなどのいくつかの活性剤について測定され、かつそれらと共に例証される本薬物送達システムの有効性を示す。具体的には、図17は、上述した活性剤の静脈内および皮下投与と比較して、肺の薬物送達システムの薬物曝露と生体効果との関係を実証する。図17のデータは、本肺薬物送達システムは静脈内もしくは皮下投与よりも少ない量の薬物曝露によって、より大きな生体効果が得られることを示している。従って、標準的な治療方法と比較した場合、所望の薬物の同様またはそれ以上の効果を得るために必要とされる薬物曝露をより少なくすることができる。従って、一態様では、糖尿病、高血糖症および肥満症などの疾患の治療のためのGLP−1、オキシントモジュリン、PYYなどのペプチド類などの活性剤の送達方法は、治療を必要としている対象に1種または2種以上の活性剤およびジケトピペラジンを含む吸入可能な製剤を投与することを含み、それにより、他の投与様式によって同様の効果を得るために必要とされるよりも活性剤に対する少ない曝露で治療効果が認められる。一態様では、活性剤としては、ペプチド類、タンパク質、リポカインが挙げられる。
【0163】
実施例8
2型糖尿病における食後のGLP−1活性の評価
この調査の目的は、食後の血糖値に対するGLP−1乾燥粉末製剤の効果を評価し、かつ有害事象、GPL−1活性、インスリン応答および胃内容排出を含むその安全性を評価することであった。
【0164】
実験計画:この調査は2つの期間に分け、20〜64歳の年齢の2型糖尿病に罹患している20人の患者が参加した。期間1は、非盲検の単回投与試験であり、ここでは、患者のうちの15人に、一晩絶食させた後に投与されるFDKP中に1.5mgのGLP−1を含む乾燥粉末製剤を投与した。対照として、5人の対象に一晩の絶食後にFDKP吸入粉末を投与した。期間2は期間1の完了後に行なった。この調査のこの部分において、患者に、それぞれ475Kcalからなり、かつマーカーとして13C−オクタン酸で標識した食事負荷を有する4種類の連続した治療を与えた。この調査は、二重盲検およびダブルダミーの交差食事負荷試験として設計し、ここでは、対照としての食塩水およびエクセナチドを注射として食事の15分前に投与し、吸入可能なGLP−1の乾燥粉末製剤またはGLP−1を含まない乾燥粉末製剤からなるプラセボを食事の直前に投与し、食後30分間繰り返した。4種類の治療は以下の通りであった:治療1は、GLP−1を含まない1.5mgの乾燥粉末製剤のプラセボが投与されるすべての患者で構成されていた。治療2では、すべての患者に、FDKPを含む乾燥粉末製剤として1回用量の1.5mgのGLP−1を投与した。治療3では、すべての患者にFDKPを含む乾燥粉末製剤として2回用量の1.5mgのGLP−1を投与し、1つの用量は食事の直前に、もう1つの用量は食後30分に投与した。治療4では、患者に皮下注射による10μgのエクセナチドを投与した。各患者からの血液試料を投与前後の種々の時間に採取し、GLP−1濃度、インスリン応答、血糖値および胃内容排出を含むいつくかのパラメータについて分析した。この調査の結果を図18〜図20に示す。
【0165】
図18は、上記のような治療群によるGLP−1の平均血中濃度を示す。データは、FDKP中に1.5mgのGLP−1を含む乾燥粉末製剤を投与した患者がパネルA、BおよびCに示すように投与直後の有意に高い血中GLP−1濃度を有し、かつGLP−1の濃度が摂食もしくは絶食した個体において投与後に急激に低下したことを示している。エクセナチドで治療した群(パネルD)または乾燥粉末製剤を投与した対照(パネルE)では測定可能なGLP−1濃度は存在しなかった。
【0166】
図19は、調査における患者の治療の前後のインスリン濃度を示す。データは、プラセボを投与した絶食した対照患者(パネルC)以外の食事負荷試験において、プラセボで治療した患者(パネルB)を含むすべての患者において治療後に内因性インスリンが産生されたことを示す。但し、インスリン応答は、FDKPを含む乾燥粉末組成物としてGLP−1を投与した患者においてより有意であり、ここでは、摂食および絶食した群(パネルD〜F)の両方に治療直後のインスリン応答が観察された。絶食した対象では、内因性インスリンの平均ピーク放出は肺送達によるGLP−1投与後に約60μU/mLであった(パネルE)。この結果は、GLP−1の乾燥粉末製剤で治療した患者の血糖値が低下したことも示していた。GLP−1の乾燥粉末製剤の投与により、血中グルコースの上昇が遅くなり、かつグルコースへの全体的な曝露(AUC)が減少した。上昇の遅れおよび曝露の減少はどちらも、GLP−1吸入粉末の2回目の投与を行なった対象においてより顕著であった(データは示さず)。インスリン放出の大きさは患者によって異なり、少量だが生理的に適切な濃度のインスリンを示すものもいれば、より多くのインスリン放出を示すものもいた。患者間のインスリン応答の差異にも関わらず、グルコース応答は類似していた。このインスリン応答の差異は、インスリン抵抗性および疾患の進行の程度の差異を反映しているのかもしれない。この応答の評価を疾患の進行の診断上の指標として使用することができ、この指標では、より多くの放出(血糖値の制御におけるより大きな有効性を欠いている)は、より大きなインスリン抵抗性および疾患の進行を示している。
【0167】
図20は、治療群による胃内容排出の割合を示す。パネルA(治療3の患者)およびパネルB(治療2の患者)の患者は、パネルDに示す対照患者(GLP−1を含まないFDKPを含む乾燥粉末製剤を用いたプラセボ治療患者)に類似した胃内容排出特性もしくは割合を有していた。データは、エクセナチドで治療した患者は、対照と比較した場合、10μgの用量でさえ胃内容排出における有意な遅れまたは阻害を示したことも示している。食事の4時間後に、摂取した13C−オクタン酸からの90%超の13Cが体内に吸収されなかった。対照的に、吸入用GLP−1/FDKPで治療した患者では、食事の4時間後に、摂取した13C−オクタン酸の60%未満が吸収されなかった。データは、FDKPおよびGLP−1などの活性剤を送達するための本システムは、胃内容排出の阻害がなく、GLP−1送達後に急速なインスリン放出を誘発し、かつグルコースAUC濃度の低下を引き起こすことも実証している。
【0168】
実施例9
GLP−1投与への応答はベースライン血糖値に依存している
この実施例では、正常な絶食中の対象および2型糖尿病に罹患している対象(T2DM)にGLP−1を投与した上記実施例1および8に示した調査からのデータを示す。すべての対象が正常な肺機能を有する非喫煙者であった。FDKPを含む製剤として1.5mgのGLP−1を吸入によって絶食中の対象に投与した。1回目の調査では、6人の正常な対象にGLP−1を投与した。2回目の調査では、T2DMに罹患している15人の対象にGLP−1を投与し、T2DMに罹患している5人の対象にプラセボを投与した。上の実施例1および8に記載されているようにすべての対象の血糖値を測定し、そのデータを図21に示す。
【0169】
正常な対象における対照は、実験の間中ずっと約4mmol/L〜約5mmol/Lの範囲のベースライン血糖値を示した。吸入によって投与されるGLP−1によって0.8mmol/Lの一時的なグルコースの減少が生じた。最小の血糖値はGLP−1製剤の吸入から約15分後に生じた。血糖値の減少後、血糖値は1時間でベースライン濃度に戻った。応答の持続期間はGLP−1のt1/2(2分以下)よりも非常に長かった。
【0170】
T2DMに罹患している対象におけるGLP−1への応答は血糖値に依存していた。GLP−1を投与したT2DMに罹患している15人の対象のうち、11人が9mmol/L超のベースライン血漿中グルコース濃度(BlGlu)を有し、4人が9mmol/L未満のBlGluを有していた。9mmol/L未満の血糖値を有する対象の平均的最大低下は0.75mmol/Lであった。最低値に到達する時間は約1/2時間であった。血糖値は回復したが、4時間後にベースライン濃度に戻らなかった。9mmol/L超の血糖値を有する対象のグルコースは1.2mmol/L低下した。応答の持続期間はより長かったが、それは吸入から45分後に最低値が生じて、最低濃度から戻らなかったためである。プラセボで治療した対象では、吸入後の最初の2時間にわたってグルコースに全く変化はなかった。
【0171】
データは、ジケトピペラジンを含む製剤としてのGLP−1の吸入によって、試験した対象において、膵臓β細胞における内因性インスリン産生を示す血漿中インスリンの急激な上昇(spike)または増加が生じることを示している。このインスリンの急速なパルスによって、より上昇した空腹時血漿中グルコース濃度を有するT2DMに罹患している対象において、長期にわたりかつより顕著な血漿中グルコース濃度の低下を生じさせることができる。
【0172】
特定の態様を参照しながら本発明について詳細に図示および説明してきたが、当然のことながら、上に開示されている特徴および機能ならびに他の特徴および機能の変形またはその代替形態は、多くの他の異なるシステムまたは用途に望ましく組み合わせてもよい。また、現時点で予期または予測されないそれらに関する様々な代替形態、修正、変形または改善が後に当業者によってなされてもよく、それらも以下の特許請求の範囲に包含されることが意図されている。
【0173】
別段の記載がない限り、本明細書および特許請求の範囲に使用されている成分の量を表わす全ての数、分子量、反応条件のような特性などは、「約」という用語によって全ての場合に修正されるものとして理解されるべきである。従って、反対の記載がない限り、本明細書および添付の特許請求の範囲に記載されている数値パラメータは、本発明によって得ることが求められている所望の特性に応じて変動し得る近似値である。少なくとも、そして、特許請求の範囲に対する均等論の適用を限定しようとするものとしてではなく、各数値パラメータは、少なくとも報告されている有効数字の数を考慮し、かつ通常の丸め技術を適用して解釈されるべきである。本発明の広い範囲を示している数の範囲およびパラメータが近似値であるにも関わらず、具体的な実施例に記載されている数値は可能な限り正確に報告されている。但し、任意の数値は、各試験測定で認められる標準偏差によって必然的に生じるある種の誤差を本質的に含む。
【0174】
本発明を説明する文脈における(特に、以下の特許請求の範囲の文脈における)「1つの(a)」、「1つの(an)」、「該(the)」という用語および類似の指示対象は、本明細書に別段の記載がない限り、あるいは文脈と明らかに矛盾しない限り、単数および複数の両方を含むように解釈されるものとする。本明細書における値の範囲の記載は、単に、その範囲に含まれる別個の値のそれぞれについて個々に述べるのを省略する方法としての役割を果たすためのものである。本明細書に別段の記載がない限り、別個の値はそれぞれ、本明細書に個々に記載されているかのように本明細書に組み込まれている。本明細書に記載されている全ての方法は、本明細書に別段の記載がない限り、あるいは文脈と明らかに矛盾しない限り、任意の好適な順番で実施することができる。本明細書に提供されているあらゆる例または例示的な言葉(例えば、「〜など」)の使用は、単に本発明をより明確にするためのものであって、他の特許請求がなされていない限り、本発明の範囲を限定するものではない。本明細書におけるいずれの言葉も、特許請求されていない要素が本発明の実施に必須であることを示していると解釈されるべきでない。
【0175】
本明細書に開示されている本発明の他の要素または態様の群は、限定として解釈されるべきではない。各群の構成要素は、個々にあるいは群の他の構成要素または本明細書に記載されている他の要素との任意の組み合わせで参照および特許請求することができる。群の1つまたは2つ以上の構成要素は便宜上および/または特許性のために、群に含めるかそこから削除する場合があると予想される。任意のそのような包含または削除が生じた場合、本明細書はその群を修正されたものとして含み、よって、添付の特許請求の範囲に使用されている全てのマーカッシュ群の記載を達成すると見なされる。
【0176】
本発明者らによって知られている本発明を実施するための最良の形態を含む本発明のある態様が本明細書に記載されている。当然ながら、これらの記載されている態様の変形は、上記説明を読めば当業者には明らかとなるであろう。本発明者は、当業者が必要に応じてそのような変形を用いることを予期しており、本発明者らは、本発明が本明細書に具体的に記載されているものとは別の方法で実施されることを意図している。従って、本発明は、準拠法によって認められるものとして、本明細書に添付されている特許請求の範囲に記載されている主題の全ての修正および均等物を含む。さらに、その全ての可能な変形における上に記載した要素の任意の組み合わせが、本明細書に別段の記載がない限り、あるいは文脈と明らかに矛盾しない限り、本発明に包含されている。
【0177】
さらに、本明細書全体にわたって特許および刊行物を何度も参照している。上で引用されている参考文献および刊行物はそれぞれ個々に、参照により全てが本明細書に組み込まれる。
【0178】
最後に、本明細書に開示されている本発明の態様は、本発明の原理の例示であることを理解されたい。用いることができる他の修正も本発明の範囲に含まれる。従って、限定ではなく例として、本明細書中の教示に従って本発明の他の形態を利用してもよい。従って、本発明は明確に図示および説明されているものに限定されない。
【0179】
本明細書に開示されている具体的な態様は、特許請求の範囲において「〜からなる(consisting of)」または「本質的に〜からなる(consisting essentially of)」という言葉を用いてさらに限定されている場合もある。出願または補正による追加であるかに関わらず、「〜からなる(consisting of)」という移行用語は、特許請求の範囲に使用されている場合、特許請求の範囲に明記されていない全ての要素、工程または成分を除外する。「本質的に〜からなる(consisting essentially of)」という移行用語は、請求項の範囲を明記されている材料または工程および基本的かつ新規な特性(1つまたは2つ以上)に実質的に影響を与えないものに限定する。そのように特許請求されている本発明の態様は、本明細書に本質的または明示的に記載されており、かつ実施可能である。
【0180】
本明細書に開示されている具体的な態様は、特許請求の範囲において「〜からなる(consisting of)」または「本質的に〜からなる(consisting essentially of)」という言葉を用いてさらに限定されている場合もある。出願または補正による追加であるかに関わらず、「〜からなる(consisting of)」という移行用語は、特許請求の範囲に使用されている場合、特許請求の範囲に明記されていないどの要素、工程または成分も排除する。「本質的に〜からなる(consisting essentially of)」という移行用語は、請求項の範囲を明記されている材料または工程および基本的かつ新規な特性(1つまたは2つ以上)に実質的に影響を与えないものに限定する。そのように特許請求されている本発明の態様は、本明細書に本質的または明示的に記載されており、かつ実施可能である。
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、35U.S.C.§119(e)により、2009年1月8日に出願された米国仮特許出願第61/143,358号の優先権を主張するものであり、かつ2008年10月24日に出願された米国特許出願第12/258,340号の一部継続出願であり、米国特許出願第12/258,340号は、35U.S.C.§119(e)により、2007年10月24日に出願された米国仮出願第60/982,368号、2007年11月5日に出願された第60/985,620号、2008年3月4日に出願された第61/033,740号、および2008年5月9日に出願された第61/052,127号の優先権を主張するものである。これらの出願の各開示内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本明細書には、グルカゴン様ペプチド1(GLP−1)分子療法による高血糖症および/または糖尿病の治療方法が開示されている。特に、本方法は、乾燥粉末薬物送達システムを用いる経口吸入によるGLP−1分子の肺循環への投与を含む。
【背景技術】
【0003】
有効成分を循環に導入する疾患の治療のための薬物送達システムは数多く存在し、経口、経皮、皮下および静脈内投与が挙げられる。これらのシステムは非常に長い間使用されており、多くの疾患を治療するのに十分な薬物を送達することができるが、薬物送達機構に関連する多くの課題がある。特に、標的疾患を治療するための有効量のタンパク質およびペプチド類の送達には多くの問題が含まれている。多くの要因は、正しい量の活性剤を導入すること、例えば、製剤が有効量でその標的作用部位(1箇所または複数箇所)に到達することができる量の活性剤を含むように適切な薬物送達製剤を調製することに関わっている。
【0004】
活性剤は薬物送達製剤中で安定でなければならず、製剤は、活性剤を循環に吸収させることができ、かつ有効な治療レベルで作用部位(1箇所または複数箇所)に到達することができるように活性な状態を維持するものでなければならない。従って、薬理学分野では、安定な活性剤を送達することができる薬物送達システムが最も重要である。
【0005】
疾患の治療のために治療上適した薬物送達製剤の製造は、患者に送達される有効成分または活性剤の特性によって異なる。そのような特性としては、溶解度、pH、安定性、毒性、放出速度、および正常な生理学的プロセスによる体内からの除去容易性などが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、経口投与では、活性剤が酸に弱い場合に活性剤が胃の低いpH(酸)で放出することを防止することができる薬学的に許容される材料を用いて腸溶コーティングが開発されている。従って、酸に弱い活性剤を含有する用量を製剤化してpHが中性である小腸に送達するために、酸性のpHで溶解しないポリマーが使用される。中性のpHでポリマーコーティングは溶解して活性剤を放出することができ、次いで、活性剤は腸壁から体循環に吸収される。経口投与される活性剤は、体循環に入り、肝臓を通過する。標的組織に到達する前に、用量の一部が肝臓で代謝および/または失活する場合もある。場合によっては、代謝物は患者に有毒であったり、望ましくない副作用を引き起こしたりする可能性がある。
【0006】
同様に、薬学的活性剤の皮下および静脈内投与でも、分解や失活が起こる。薬物の静脈内投与により、薬物または有効成分が標的組織に到達する前に、例えば肝臓で代謝される可能性がある。さらに、各種タンパク質およびペプチド類を含むある活性剤の皮下投与により、薬物送達部位において、および静脈血流に乗って移動中に、末梢および血管組織の酵素によって分解や失活が起こる。活性剤の皮下および静脈内投与による疾患の治療のために許容可能な量を与える用量を送達するために、投与計画は常に、末梢および血管静脈組織、および最終的には肝臓による活性剤の失活を考慮したものでなければならないであろう。
【発明の概要】
【0007】
本明細書には、グルカゴン様ペプチド1(GLP−1)の皮下および静脈内投与療法に通常関連する大量発汗、悪心および嘔吐などの有害作用を予防または減少させる方法が開示されている。特に、該方法は、例えば、乾燥粉末薬物送達システムを用いる肺の肺胞毛細血管への吸入によるGLP−1分子の肺循環への投与を含む。
【0008】
一態様では、患者における高血糖症および/または糖尿病の治療方法であって、治療を必要としている患者に、治療的有効量のGLP−1分子を含む吸入可能な乾燥粉末製剤を摂食時に投与する工程を含み、該投与によって、悪心、嘔吐および大量発汗からなる群から選択される少なくとも1つの副作用が生じない方法が提供される。
【0009】
別の態様では、該患者は、2型糖尿病に罹患している哺乳類である。別の態様では、該乾燥粉末製剤は、該製剤中に約0.01mg〜約5mgまたは0.5mg〜約3mgのGLP−1を含む。いくつかの態様では、該乾燥粉末製剤は、単回用量または複数回用量として投与することができ、該複数回用量は、該患者の必要に応じて間隔をおいて投与することができる。さらに別の態様では、該吸入可能な乾燥粉末製剤は、DPP−IV阻害剤をさらに含む。
【0010】
一態様では、高血糖症に罹患している2型糖尿病患者における血糖値を減少させる方法であって、該方法は、治療を必要としている該患者に、治療的有効量のGLP−1およびジケトピペラジンまたはその薬学的に許容される塩を含む肺投与のための吸入可能な乾燥粉末製剤を投与する工程を含む方法が提供される。
【0011】
別の態様では、該吸入可能な乾燥粉末製剤は、ジケトピペラジンを含む。別の態様では、該ジケトピペラジンは2,5−ジケト−3,6−ジ(4−X−アミノブチル)ピペラジン(式中、Xは、スクシニル、グルタリル、マレイル、およびフマリルからなる群から選択される)またはその薬学的に許容される塩である。
【0012】
別の態様では、該GLP−1分子は天然のGLP−1、GLP−1代謝物、GLP−1誘導体、長時間作用性GLP−1、GLP−1模倣体、エキセンジンもしくはその類似体、またはそれらの組み合わせからなる群から選択され、該GLP−1分子は天然のGLP−1の少なくとも生物活性を有する。別の態様では、該生物活性はインスリン分泌活性である。
【0013】
別の態様では、該方法は患者に治療的量のインスリン分子を投与することをさらに含む。別の態様では、該吸入可能な乾燥粉末製剤はインスリン分子と同時に製剤化されるGLP−1分子を含む。さらに別の態様では、インスリン分子は吸入可能な乾燥粉末製剤として別に投与される。別の態様では、インスリンは速効性もしくは長時間作用性インスリンである。
【0014】
別の態様では、該方法は長時間作用性GLP−1類似体を含んでなる製剤を投与することをさらに含む。
別の態様では、該吸入可能な乾燥粉末製剤は胃内容排出阻害がない。
【0015】
一態様では、糖尿病および/または高血糖症の治療のためのキットであって、a)乾燥粉末吸入器内に嵌合するように操作可能に構成され、かつGLP−1分子および式:2,5−ジケト−3,6−ジ(4−X−アミノブチル)ピペラジン(式中、Xは、スクシニル、グルタリル、マレイルおよびフマリルからなる群から選択される)のジケトピペラジンまたはその塩を含む乾燥粉末製剤を含有する薬物カートリッジ、およびb)該カートリッジを受け入れ、保持しかつ確実に係合するように操作可能に構成された吸入装置を含んでなるキットが提供される。
【0016】
別の態様では、2型糖尿病患者における高血糖症の治療のためのキットであって、a)乾燥粉末吸入器内に嵌合するように操作可能に構成され、かつGLP−1分子および式:2,5−ジケト−3,6−ジ(4−X−アミノブチル)ピペラジン(式中、Xは、スクシニル、グルタリル、マレイルおよびフマリルからなる群から選択される)のジケトピペラジンまたはその塩を含む乾燥粉末製剤を含有および送達することができる薬物カートリッジ、およびb)該カートリッジに適合して確実に係合しかつ使用時に該患者に該乾燥粉末製剤を送達するように操作可能に構成された吸入装置を含んでなる肺薬物送達システムを含むキットが提供される。
【0017】
別の態様では、対象における高血糖症の治療方法であって、GLP−1分子を含む吸入可能な製剤を対象に投与することを含み、該対象の血糖値が、該患者への該吸入可能な製剤の投与から約4時間後までの期間に、約0.1mmol/L〜約3mmol/Lだけ減少する方法が提供される。他の態様では、該吸入可能な製剤は、2型糖尿病患者に、摂食時、食前または食後に、あるいは絶食状態で投与される。別の態様では、該吸入可能な製剤は、該製剤中に約0.01〜約5mgまたは約0.02mg〜約3mgのGLP−1を含む。
【0018】
さらに別の態様では、高血糖症の治療方法であって、例えば、7mmol/L超、8mmol/L超、9mmol/L超、10mmol/L超または11mmol/L超のより非常に上昇した空腹時血糖値を有する対象に、治療的有効量のGLP−1分子およびジケトピペラジンを含んでなる吸入可能な乾燥粉末製剤を投与することを含む方法が提供される。一態様では、高血糖症の治療方法は、乾燥粉末製剤中にGLP−1分子を含んでなる単回もしくは複数回用量の吸入可能な乾燥粉末製剤を対象に投与することを含み、該対象が、2型糖尿病および7mmol/L超の血糖値を有し、該GLP−1が該製剤中に0.5mg〜約3mgで含まれる。本明細書における一態様では、該方法は、投与される該GLP−1分子が天然のGLP−1もしくはGLP−1(7−36)アミド、GLP−1の組み換え型、合成型またはその類似体である製剤を用いて対象に投与することができる。別の態様では、該方法で使用される該乾燥粉末製剤は、天然のGLP−1もしくはGLP−1(7−36)アミドおよびフマリルジケトピペラジンを含む。
【0019】
別の態様では、高血糖症の治療方法は、より非常に上昇した異常な空腹時血糖値を有する対象に、GLP−1分子およびフマリルジケトピペラジンを含む吸入用製剤を投与することを含む。一態様では、該GLP−1分子は、該製剤の約10%〜約30%を構成し、かつ乾燥粉末吸入器を用いる肺吸入によって投与される。一態様では、有効な投与量はカートリッジで提供され、かつ該製剤中に約0.01mg〜約5mgまたは約0.5mg〜約3mgのGLP−1量で投与することができる。一態様では、高血糖症の該治療方法は、GLP−1およびフマリルジケトピペラジンを含んでなる該乾燥粉末製剤を対象に投与することを含み、これにより、肺投与から約30〜約45分後に、空腹時血糖値が約0.5mmol/L〜約1.5mmol/Lだけ減少する。
【0020】
一態様では、2型糖尿病と診断された患者における高血糖症の治療方法であって、GLP−1およびジケトピペラジンを含んでなる有効量の粉末製剤を経口吸入によって該患者に投与すること、および該患者において第1段階のインスリン応答すなわち初期段階のインスリン分泌を回復させることを含み、該患者が7mmol/L超、9mmol/L超、10mmol/L超または11mmol/L超の血糖値を有する方法が提供される。
【0021】
別の態様では、2型糖尿病に罹患している対象において拍動性インスリン放出を誘発する方法が提供される。該方法は、2型糖尿病と診断され、かつ7mmol/L超、9mmol/L超、10mmol/L超または11mmol/L超の血糖値を示す対象に、治療的有効量のGLP−1分子およびジケトピペラジンを含んでなる吸入可能な乾燥粉末製剤を投与することを含み、ここで、該乾燥粉末製剤中の該GLP−1分子は、該製剤の投与により該対象の膵島B細胞からのインスリン分泌を誘発するのに有効な単回または複数回用量で該患者に投与される。該乾燥粉末製剤が複数回用量で投与される態様では、投与の間隔は、該患者によって決まり、最初の用量を0時における摂食時の時間〜食後の約8時間までの範囲とすることができる。一態様では、例えば、該方法は、該乾燥粉末製剤の最初の用量を摂食時に患者に投与し、かつ該製剤の別の用量を食後の15、30、45および/または60分後に投与することを含む。この態様および他の態様では、該吸入可能な乾燥粉末製剤は、該乾燥粉末製剤を含有するカートリッジに適合する乾燥粉末吸入システムを用いて、該患者に与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、吸入後の種々の時間に測定した、1.5mgのグルカゴン様ペプチド1(GLP−1)用量を含有する吸入可能な乾燥粉末製剤で治療した対象における血漿中の活性GLP−1の平均濃度を示す。
【図2A】図2Aは、吸入後の種々の時間に測定した、1.5mgのGLP−1用量を含有する吸入可能な乾燥粉末製剤で治療した対象における血漿中の平均インスリン濃度を示す。
【図2B】図2Bは、GLP−1の皮下投与で治療した対象と比較して、吸入後の種々の時間に測定した、1.5mgのGLP−1用量を含有する吸入可能な乾燥粉末製剤で治療した対象における血漿中GLP−1濃度を示す。
【図2C】図2Cは、50μgの静脈内GLP−1用量で治療した対象および皮下GLP−1用量で治療した対象と比較して、吸入後の種々の時間に測定した、1.5mgのGLP−1用量を含有する吸入可能な乾燥粉末製剤で治療した対象における血漿中インスリン濃度を示す。
【図3】図3は、吸入後の種々の時間に測定した、1.5mgのGLP−1用量を含有する吸入可能な乾燥粉末製剤で治療した対象における血漿中の平均C−ペプチド濃度を示す。
【図4】図4は、吸入後の種々の時間に測定した、0.05mg、0.45mg、0.75mg、1.05mgおよび1.5mgのGLP−1用量を含有する吸入可能な乾燥粉末製剤で治療した対象における血漿中の平均グルコース濃度を示す。
【図5】図5は、0.05mg、0.45mg、0.75mg、1.05mgおよび1.5mgのGLP−1用量を含有する吸入可能な乾燥粉末製剤で治療した患者における血漿中の平均インスリン濃度を示す。データは、肺のGLP−1投与に応答するインシュリン分泌が用量に依存することを示す。
【図6】図6は、0.05mg、0.45mg、0.75mg、1.05mgおよび1.5mgのGLP−1用量を含有する吸入可能な乾燥粉末製剤で治療した患者における血漿中の平均グルカゴン濃度を示す。
【図7】図7は、皮下投与したエキセンジン−4に対して肺ガス注入によってエキセンジン−4/FDKP(フマリルジケトピペラジン)粉末を投与した雄のズッカー糖尿病肥満(ZDF)ラットの血漿中の平均エキセンジン濃度を示す。黒四角は、エキセンジン−4/FDKP粉末の肺ガス注入後の応答を表わす。白四角は、エキセンジン−4の皮下投与後の応答を表わす。データは平均±標準偏差としてプロットされている。
【図8】図8は、皮下投与したエキセンジン−4に対して肺ガス注入によって空気対照、エキセンジン−4/FDKP粉末またはGLP−1/FDKP粉末のいずれかを投与した雄のZDFラットのベースラインからの血糖値の変化を示す。グラフは、ラットにGLP−1/FDKPを含む吸入粉末を肺ガス注入によって投与した後、エキセンジン−4/FDKPを含む吸入粉末を投与する組み合わせ実験も示す。グラフでは、黒菱形は、エキセンジン−4/FDKP粉末の肺ガス注入後の応答を表わす。黒丸は、エキセンジン−4の皮下投与後の応答を表わす。三角は、GLP−1/FDKP粉末投与後の応答を表わす。四角は、空気単独の肺ガス注入後の応答を表わす。星は、ガス注入によってラットに2mgのGLP−1/FDKPを与えた後、同じくガス注入によって2mgのエキセンジン−4/FDKP粉末を与えて得られた応答を表わす。
【図9A】図9Aは、静脈内(IV)オキシントモジュリンに対して肺ガス注入によってオキシントモジュリン/FDKP粉末を投与した雄のZDFラットの血漿中の平均オキシントモジュリン濃度を示す。四角は、オキシントモジュリン単独の静脈内投与後の応答を表わす。上向き三角は、5%のオキシントモジュリン/FDKP粉末(オキシントモジュリン0.15mg)の肺ガス注入後の応答を表わす。丸は、15%のオキシントモジュリン/FDKP粉末(オキシントモジュリン0.45mg)の肺ガス注入後の応答を表わす。下向き三角は、30%のオキシントモジュリン/FDKP粉末(オキシントモジュリン0.9mg)の肺ガス注入後の応答を表わす。データは平均±標準偏差としてプロットされている。
【図9B】図9Bは、(1)肺ガス注入による30%オキシントモジュリン/FDKP粉末(オキシントモジュリン0.9mg)、(2)静脈注射によるオキシントモジュリン単独(オキシントモジュリン1mg)または(3)空気対照を投与した雄のZDFラットの累積摂食量を示す。
【図10A】図10Aは、空気対照に対して肺ガス注入によってオキシントモジュリン/FDKP粉末を投与した雄のZDFラットの血漿中の平均オキシントモジュリン濃度を示す。四角は、空気対照の投与後の応答を表わす。丸は、オキシントモジュリン/FDKP粉末(オキシントモジュリン0.15mg)の肺ガス注入後の応答を表わす。上向き三角は、オキシントモジュリン/FDKP粉末(オキシントモジュリン0.45mg)の肺ガス注入後の応答を表わす。下向き三角は、オキシントモジュリン/FDKP粉末(オキシントモジュリン0.9mg)の肺ガス注入後の応答を表わす。データは平均±標準偏差としてプロットされている。
【図10B】図10Bは、(4)空気対照と比較して、肺ガス注入によって(1)オキシントモジュリン0.15mgを含む異なる用量での30%オキシントモジュリン/FDKP粉末、(2)オキシントモジュリン0.45mg、または(3)オキシントモジュリン0.9mgを投与した雄のZDFラットにおける累積摂食量を示す実験からのデータを示す。データは平均±標準偏差としてプロットされている。アスタリスク(*)は、統計的に有意であることを示す。
【図11】図11は、種々の時点における、単回用量のGLP−1を含有する吸入可能な乾燥粉末製剤投与後の6人の絶食した2型糖尿病患者から得られた血糖値を示す。
【図12】図12は、図11の6人の絶食した2型糖尿病患者の群についての平均血糖値を示し、ここで、血糖値は、6人の患者全員について、0時(投与)からの血糖値の変化として表わす。
【図13】図13は、実験から得られたデータを示す。この実験では、ジケトピペラジンまたはジケトピペラジンの塩を含む製剤としてエキセンジン−4をZDFラットに投与し、エキセンジン−4を、腹腔内グルコース負荷試験(IPGTT)において様々な投与経路(液体点滴注入(LIS)、皮下、肺ガス注入(INS))で与える。1つの群では、肺ガス注入によってGLP−1を併用したエキセンジン−4でラットを治療した。
【図14】図14は、肺ガス注入による空気対照、静脈注射によるタンパク質YY(3−36)(PYY)単独、肺点滴注入によるPYY単独、肺ガス注入による10%PYY/FDKP粉末(PYY0.3mg)、肺ガス注入による20%PYY/FDKP粉末(PYY0.6mg)を投与した雄のZDFラットにおける累積摂食量を示す。群ごとに、投与から30分後、投与から1時間後、投与から2時間後および投与から4時間後に摂食量を測定した。データは平均±標準偏差としてプロットされている。
【図15】図15は、用量投与後の種々の時間における、静脈内投与したPYYに対して肺ガス注入によってPYY/FDKP粉末を投与した雌のZDFラットにおける血糖値を示す。
【図16】図16は、静脈内投与したPYYに対して肺ガス注入によってPYY/FDKP粉末を投与した雌のZDFラットにおける血漿中の平均PYY濃度を示す。四角は、PYY単独(0.6mg)の静脈内投与後の応答を表わす。丸は、PYY単独(1mg)の液体点滴注入後の応答を表わす。下向き三角は、20%PYY/FDKP粉末(0.6mgのPYY)の肺ガス注入後の応答を表わす。上向き三角は、10%PYY/FDKP粉末(0.3mgのPYY)の肺ガス注入後の応答を表わす。左向きの三角は、空気単独の肺ガス注入後の応答を表わす。データは平均±標準偏差としてプロットされている。
【図17】図17は、皮下および静脈内投与と比較して、肺吸入によって投与され、かつインスリン、エキセンジン、オキシントモジュリンまたはPYYを含有する製剤の相対的な薬物曝露および相対的な生体効果を示す
【図18】図18は、種々の吸入用GLP−1および対照製剤を投与した患者の血漿中の平均GLP−1濃度を示す。
【図19】図19は、種々の吸入用GLP−1および対照製剤を投与した患者の血漿中インスリン濃度を示す。
【図20】図20は、種々の吸入用GLP−1および対照製剤を投与した患者の吸入用GLP−1製剤に応答する胃内容排出を示す。
【図21】図21は、絶食中の正常な対象および吸入用GLP−1製剤またはプラセボを与えた2型糖尿病に罹患している対象の血漿中の平均グルコース濃度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
用語の定義
本発明について説明する前に、以下で使用されるいくつかの用語についての理解を与えることが有用である。
【0024】
活性剤:本明細書で使用されている「活性剤」は、薬物、医薬物質および生物活性剤を指す。活性剤は、核酸、合成有機化合物、ポリペプチド類、ペプチド類、タンパク質、多糖類および他の糖類、脂肪酸類および脂質類などの有機巨大分子であってもよい。ペプチド類、タンパク質およびポリペプチド類は全て、ペプチド結合によって結合したアミノ酸の鎖である。ペプチド類は一般に、30個未満のアミノ酸残基であると考えられているが、より多くを含んでいてもよい。タンパク質は、30個超のアミノ酸残基を含むことができるポリマーである。当該技術分野で知られており、かつ本明細書で使用されているポリペプチド類という用語は、ペプチド、タンパク質、または一般に少なくとも10個のアミノ酸を含有するが複数のペプチド結合を含む任意の長さの任意の他のアミノ酸の鎖を指すことができる。活性剤は、血管作用薬、神経活性剤、ホルモン類、抗凝血剤、免疫調節剤、細胞毒性薬、抗生物質、抗ウイルス薬、抗原および抗体などの種々の生物活性種に分類することができる。より詳細には、活性剤としては、インスリンおよびその類似体、成長ホルモン、副甲状腺ホルモン(PTH)、グレリン、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、グルカゴン様ペプチド1(GLP−1)、テキサスレッド(Texas Red)、アルキン類、シクロスポリン、クロピドグレルおよびPPACK(D−フェニルアラニル−L−プロリル−L−アルギニンクロロメチルケトン)、ヒト化抗体もしくはキメラ抗体、F(ab)、F(ab)2、または短鎖抗体単独または他のポリペプチド類に融合した短鎖抗体、癌抗原に対する治療もしくは診断モノクロナール抗体、サイトカイン、感染性病原体、炎症性メディエーター、ホルモン類および細胞表面抗原など(これらに限定されない)の抗体およびその断片が挙げられるが、これらに限定されない。場合によっては、「薬物」および「活性剤」という用語は同義で使用される。
【0025】
類似体:本明細書で使用されている「類似体」としては、別の化合物との構造上の類似性を有する化合物が挙げられる。例えば、抗ウイルス性化合物であるアシクロビルは核酸系類似体であり、塩基のグアニンから誘導された核酸系グアノシンに構造上類似している。従って、アシクロビルはグアノシンを模倣し(生物学的にそれに類似しており)、ウイルス核酸中のグアノシン残基を置換する(すなわち、それと競合する)ことによってDNA合成を阻害し、翻訳/転写を妨げる。従って、親化合物の生物学的もしくは化学的活性を模倣する、別の化合物(親化合物)との構造上の類似性を有する化合物は類似体である。類似体が、親化合物の生物学的もしくは化学的特性について、同じように、相補的に、あるいは競合的に、いくつかの関連した様式で摸倣可能である限り、化合物を類似体とみなすために必要とされる最小もしくは最大の基本的基または官能基の置換は存在しない。類似体は、親化合物の誘導体(以下の「誘導体」を参照)であってもよく、そうである場合が多い。本明細書に開示されている化合物の類似体は、それらの親化合物と同等の活性、それより小さい活性または大きい活性を有していてもよい。
【0026】
誘導体:本明細書で使用されている誘導体は、天然または合成的に親化合物から製造された(または誘導された)化合物である。誘導体は類似体(上記「類似体」を参照)であってもよく、従って、類似した化学的または生物学的活性を有していてもよい。但し、類似体とは異なり、誘導体は親化合物の生物学的もしくは化学的活性を必ずしも模倣している必要はない。化合物を誘導体とみなすために必要とされる最小もしくは最大の元素または官能基の置換は存在しない。例えば、抗ウイルス性化合物ガンシクロビルはアシクロビルの誘導体であるが、ガンシクロビルはアシクロビルとは異なる範囲の抗ウイルス活性および異なる毒性を有する。本明細書に開示されている化合物の誘導体は、それらの親化合物と比較した場合、同等の活性、それより小さい活性または大きい活性を有していてもよい。
【0027】
ジケトピペラジン:本明細書で使用されている「ジケトピペラジン」または「DKP」としては、一般式1の範囲に含まれるジケトピペラジン類およびその塩、誘導体、類似体および修飾体が挙げられる。式中、1および4位の環原子E1およびE2はOまたはNのいずれかであり、3および6位にそれぞれ位置する側鎖R1およびR2のうちの少なくとも1つはカルボン酸(カルボキシラート)基を含有する。式1に係る化合物としては、ジケトピペラジン類、ジケトモルホリン類およびジケトジオキサン類およびそれらの置換類似体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
【化1】
【0029】
ジケトピペラジン類は、空気力学的に好適な微小粒子を製造するだけでなく、循環への吸収速度を上げることによって、薬物の送達を容易にもする。ジケトピペラジン類は薬物を吸着することができる薬物または粒子を組み込む粒子に形成することができる。薬物とジケトピペラジンとの組み合わせによって薬物安定性を向上させることができる。これらの粒子は様々な投与経路によって投与することができる。これらの粒子は粒径によっては乾燥粉末として呼吸器系の特定の領域に吸入によって送達することができる。さらに、これらの粒子は静脈内懸濁液剤形に組み込むのに十分な程小さく製造することができる。懸濁液、錠剤またはカプセルに組み込まれる粒子によって、経口送達も可能である。ジケトピペラジン類は関連する薬物の吸収も容易にすることができる。
【0030】
一態様では、ジケトピペラジンは3,6−ジ(フマリル−4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジン(フマリルジケトピペラジンまたはFDKPともいう)である。FDKPは、エアロゾル化したり、懸濁液で投与したりすることができるその酸の形態または塩の形態の微小粒子を含むことができる。
【0031】
別の態様では、DKPは、3,6−ジ(4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジンの誘導体であり、アミノ酸のリジンの(熱)縮合によって形成することができる。例示的な誘導体としては、3,6−ジ(スクシニル−4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジン、3,6−ジ(マレイル−4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジン、3,6−ジ(グルタリル−4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジン、3,6−ジ(マロニル−4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジン、3,6−ジ(オキサリル−4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジン、および3,6−ジ(フマリル−4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジンが挙げられる。薬物送達のためのDKPの使用は当該技術分野で知られている(例えば、米国特許第5,352,461号、第5,503,852号、第6,071,497号および第6,331,318号を参照、ジケトピペラジン類およびジケトピペラジン媒介性の薬物送達に関する全ての教示についての各開示内容は、参照により本明細書に組み込まれる)。DKP塩の使用については、2005年8月23日に出願された同時係属中の米国特許出願第11/210,710号に記載されており、ジケトピペラジン塩に関する全教示についての開示内容は、参照により本明細書に組み込まれる。DKP微小粒子を用いる肺の薬物送達については、米国特許第6,428,771号に開示されており、その開示内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる。活性剤の結晶性DKP粒子への吸着に関するさらなる詳細は、同時係属中の米国特許出願第11/532,063号および第11/532,065号に記載されており、その開示内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0032】
薬物送達システム:本明細書で使用されている「薬物送達システム」とは、1種または2種以上の活性剤を送達するためのシステムを指す。
乾燥粉末:本明細書で使用されている「乾燥粉末」とは、推進剤、担体または他の液体に懸濁または溶解されていない微粒子組成物を指す。これは、必ずしもあらゆる水分子が全く存在しないことを意味するものではない。
【0033】
初期段階:本明細書で使用されている「初期段階」とは、食事に応答した血中インスリン濃度の急激な上昇を指す。食事に応答したインスリンのこの初期の上昇は、第1段階と呼ばれる場合もある。より最近の情報源では、第1段階という言葉は、食事に関連する応答とは対照的に、グルコースのボーラス静脈注射によって達成可能な動力学的プロファイルの血中インスリン濃度のより急激な上昇を指すように使用される場合もある。
【0034】
内分泌疾患:内分泌系は、腺類からホルモン類を放出して生体の多くの様々な機能、例えば、気分、成長および発達、組織機能および代謝を調節し、メッセージを送り、かつそれに基づいて作用する特異的な化学伝達物質を与える情報伝達系である。内分泌系の疾患としては、糖尿病、甲状腺疾患および肥満症が挙げられるが、これらに限定されない。内分泌疾患は、ホルモン放出の調節不全(増殖性下垂体腺腫)、情報伝達に対する不適切な応答(甲状腺機能低下症)、腺の欠如もしくは破壊(1型糖尿病、慢性腎不全における赤血球生成の低下)、情報伝達に対する応答の減少(2型糖尿病のインスリン抵抗性)、または首などの重要な部位における構造の肥大(中毒性多結節性甲状腺腫)を特徴とする。内分泌腺の機能低下は、貯蔵の減少、分泌過少、非形成、萎縮または能動的破壊によって生じ得る。機能亢進は、過分泌、抑制の喪失、増殖性もしくは腫瘍性変化または過刺激によって生じ得る。内分泌疾患という用語は代謝異常を包含する。
【0035】
エキセンジン:本明細書で使用されている「エキセンジン」とは、エキセンジン1〜エキセジン4を含むGLP−1受容体作用薬であるペプチド類を指す。エキセンジン[9−39]、カルボキシアミド化分子、および断片3−39から断片9−39などのエキセンジンのカルボキシル末端断片も意図されている。
【0036】
逸脱(excursion):本明細書で使用されている「逸脱」は食前のベースラインまたは他の開始点の上または下の範囲に含まれる血糖値を指すことができる。逸脱は一般に、経時的な血中グルコースのプロットの曲線下面積(AUC)として表わされる。AUCは様々な方法で表すことができる。場合によっては、ベースラインの上または下まで減少および上昇し、正および負の領域が作成される。いくつかの計算では、正のAUCから負のAUCを減算するが、他の計算では、それらの絶対値を加算する。正および負のAUCは別々に検討することもできる。より高度な統計的評価を使用することもできる。場合によっては、逸脱は正常な範囲外に上昇または減少した血糖値を指すこともできる。正常な血糖値は通常、絶食中の個体では70〜110mg/dL、食後2時間では120mg/dL未満、食後では180mg/dLである。逸脱は、本明細書では血中グルコースに関して記載されているが、他の文脈ではこの用語を他の分析物に同様に適用してもよい。
【0037】
グルカゴン様ペプチド1:本明細書で使用されているグルカゴン様ペプチド1およびGLP−1という用語は、天然のGLP−1活性を有するタンパク質またはペプチド、配列番号1のアミノ酸配列を有するポリペプチドを指す。配列番号2のアミノ酸配列を有するGLP−1(7−36)アミドも含まれる。GLP−1とは、任意の供給源から産生されたか、あるいは例えば固相合成を用いて化学的に合成された、単離、精製および/または組換えられたGLP−1を含む配列番号1の配列を有する任意の供給源からのGLP−1を指す。天然のGLP−1の保存的アミノ酸置換体もここに含まれている。例えば、タンパク質またはペプチドの一次配列を変更するが通常はその機能を変更しない保存的アミノ酸の変形を製造してもよい。保存的アミノ酸置換体としては典型的に、グリシン、アラニン;バリン、イソロイシン、ロイシン;アスパラギン酸、グルタミン酸;アスパラギン、グルタミン;セリン、トレオニン;リジン、アルギニン;およびフェニルアラニン、チロシンの群に含まれる置換体が挙げられる。ある態様では、GLP−1分子は、天然のGLP−1と80%の相同性、天然のGLP−1と85%の相同性、90%の相同性、92%の相同性、95%の相同性、96%の相同性、97%の相同性、98%の相同性または99%の相同性を有すると共に、天然のGLP−1の少なくとも1種の生物活性を保持する。
【0038】
GLP−1分子:本明細書で使用されている「GLP−1分子」という用語は、天然のGLP−1の少なくとも1種の生物活性を保持するGLP−1タンパク質、ペプチド類、ポリペプチド類、類似体、模倣体、誘導体、イソ型、断片などを指す。一態様では、天然のGLP−1の少なくとも1種の生物活性はインスリン分泌活性である。そのようなGLP−1分子としては、天然に生じるGLP−1ポリペプチド類(GLP−1(7−37)OH、GLP−1(7−36)NH2)およびGLP−1(9−37)などのGLP−1代謝物が挙げられる。GLP−1分子としては、天然のGLP−1、GLP−1類似体、GLP−1誘導体、ジペプチジルペプチダーゼ−IV(DPP−IV)で保護されたGLP−1、GLP−1模倣体、GLP−1ペプチド類似体および生合成のGLP−1類似体も挙げられる。長時間作用性GLP−1分子とは、リラグルチド(Novo Nordisk社、デンマークのコペンハーゲン)、エクセナチド(エキセンジン−4;BYETTA(登録商標))(Amylin社、カリフォルニア州サンディエゴ)、およびエクセナチド−LAR(Eli Lilly社、インディアナ州インディアナポリス)を指し、分解に強くかつ「インクレチン模倣体」と呼ばれている。短時間作用性のGLP−1分子とは、即時組成物(instant composition)を指す。
【0039】
修飾(通常は一次配列を変更しない)としては、ポリペプチド類の生体内もしくは生体外での化学的誘導体化、例えば、アセチル化またはカルボキシル化が挙げられる。例えば、ポリペプチド類を、グリコシル化に影響を与える酵素、例えば、哺乳類のグリコシル化もしくは脱グリコシル化酵素に曝露することによって、その合成および処理中またはさらなる処理工程時に、例えば、ポリペプチドのグリコシル化パターンを修飾することによってなされるグリコシル化修飾も含まれる。リン酸化されたアミノ酸残基、例えば、ホスホチロシン、ホスホセリンまたはホスホトレオニンを有する配列も包含される。
【0040】
また、タンパク質分解に対するそれらの抵抗性を改善するか、あるいは溶解度特性を最適化するために、通常の分子生物学的技術を用いて修飾されるポリペプチド類も含まれる。そのようなポリペプチド類の類似体としては、天然に生じるL−アミノ酸以外の残基(例えば、D−アミノ酸または天然に生じない合成アミノ酸)を含有するものが挙げられる。本発明のペプチド類は、本明細書に記載されている具体的な例示的プロセスのいずれの生成物にも限定されない。
【0041】
実質的な全長ポリペプチド類に加えて、ポリペプチド類の生物学的に活性な断片も含まれる。生物学的に活性な断片は、天然のGLP−1の少なくとも一部に相同的であり、かつ天然のGLP−1の少なくとも1種の生物学的活性を保持する。
【0042】
グルコース排出速度:本明細書で使用されている「グルコース排出速度」とは、グルコースが血液から消失する速度である。グルコース排出速度は一般に、調査期間中に安定な血中グルコース、すなわち多くの場合約120mg/dLを維持するために必要とされるグルコース注入量によって決定される。このグルコース排出速度はグルコース注入速度(GIRと略す)と等しい。
【0043】
高血糖症:本明細書で使用されている「高血糖症」は、正常な空腹時血糖値よりも高く、通常は126mg/dL以上である。いくつかの研究では、高血糖症の症状の発現は、280mg/dL(15.6mM)を超える血糖値として定義された。
【0044】
低血糖症:本明細書で使用されている「低血糖症」は正常な血糖値よりも低く、通常は63mg/dL(3.5mM)未満である。臨床的に関連する低血糖症は63mg/dL未満、または認識される低血糖症の症状であって適当なカロリー摂取によって消失する低血圧、紅潮および脱力感などの患者の症状を引き起こす血糖値として定義されている。重度の低血糖症は、グルカゴン注射、グルコース注入または他者の助けを必要とする低血糖症の症状の発現として定義されている。
【0045】
近接して:本明細書で使用され、かつ食事との関連で使用される「近接して」とは、食事または軽食の開始に時間的に近い期間を指す。
代謝物:本明細書で使用されている「代謝物」は代謝の任意の中間体または生成物であり、大分子および小分子の両方を含む。本明細書で使用され、かつ適切な場合には、この定義は、一次および二次代謝物の両方に適用される。一次代謝物は、生体の正常な成長、発達および生殖に直接関与している。二次代謝物はそれらのプロセスに直接関与していないが、典型的には、重要な生態学的機能(例えば、抗生作用(antibaiotic))を有する。
【0046】
微小粒子:本明細書で使用されている「微小粒子」という用語は、一般に直径が0.5〜100ミクロン、特に直径が10ミクロン未満の粒子を含む。様々な態様は、より具体的な大きさの範囲を含むであろう。微小粒子は、DKP酸のpH制御された沈殿によって製造された粒子では典型的なように、不規則な表面および内部空隙を有する結晶性板の集合であってもよい。そのような態様では、活性剤を沈殿プロセスによって封入したり、微小粒子の結晶表面にコーティングしたりすることができる。微小粒子は、活性剤が全体に分散したDKP塩からなる球状シェルまたは陥没した球状シェルであってもよい。典型的には、そのような粒子は、DKPと活性剤との共溶液を噴霧乾燥することによって得ることができる。そのような粒子中のDKP塩は非晶質であってもよい。上の記載は、例示として理解されるべきである。その用語によって、他の形態の微小粒子も意図および包含される。
【0047】
肥満症:本明細書で使用されている「肥満症」は、健康に悪影響を与え得る程度まで過剰な体脂肪が蓄積している状態である。肥満症はBMI(肥満度指数)によって評価され、典型的にはそのBMIは30kg/m2超である。
【0048】
末梢組織:本明細書で使用されている「末梢組織」とは、臓器または血管に関連する任意の結合すなわち間質組織を指す。
摂食前後の(periprandial):本明細書で使用されている「摂食前後の」とは、食事または軽食の摂取の少し前に開始してから、その少し後に終了するまでの期間を指す。
【0049】
食後の:本明細書で使用されている「食後の」とは、食事または軽食の摂取後の期間を指す。本明細書で使用されている「遅い食後」とは、食事または軽食の摂取から3、4時間後以降の期間を指す。
【0050】
増強作用:一般に増強作用とは、薬剤が増強作用なしで達成するレベル以上にいくつかの薬剤の有効性または活性を増加させる状態または作用を指す。同様に、この言葉は、作用または活性の増加を直接的に指す場合もある。本明細書で使用されている「増強作用」は特に、それに続くインスリン濃度の有効性を高めて、例えばグルコース排出速度を上昇させる、上昇した血中インスリン濃度の能力を指す。
【0051】
摂食の:本明細書で使用されている「摂食の」とは、食事または軽食を指す。
食前の:本明細書で使用されている「食前の」とは、食事または軽食の摂取前の期間を指す。
【0052】
肺吸入:本明細書で使用されている「肺吸入」は、肺および、特定の態様では肺の肺胞領域に到達するように、吸入による医薬品の投与を指すように使用される。典型的には、吸入は口からであるが、他の態様では鼻からの吸入を含むことができる。
【0053】
副作用の低下:本明細書で使用されている「低下」という用語は、副作用に関して使用される場合、患者または患者を看護する医療従事者にとって顕著な1つまたは2つ以上の副作用の重症度の低下、あるいは副作用がもはや患者を衰弱させることがない、または患者にとって顕著でないような1つまたは2つ以上の副作用の回復を指す。
【0054】
副作用:本明細書で使用されている「副作用」という用語は、活性剤療法によって生じる予期していない望ましくない結果を指す。非限定的な例では、GLP−1の一般的な副作用としては、悪心、嘔吐および大量発汗が挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
治療的有効量:本明細書で使用されている、組成物の「治療的有効量」という用語は、ヒトもしくはヒト以外の患者に投与される場合、症状の回復などの治療効果を与える量、例えば、内因性インスリンの分泌を促進するのに有効な量を指す。ある環境では、疾患に罹患している患者は、影響を受けているという症状を呈しない場合もある。従って、組成物の治療的有効量は、疾患の症状の発現を予防するのに十分な量でもある。
【0056】
発明の詳細な説明
グルカゴン様ペプチド1(GLP−1)は、様々な投与経路による2型糖尿病に関連する高血糖症のための治療方法として研究されている。文献に開示されているように、GLP−1は、脂肪、炭水化物およびタンパク質の摂取に応答して腸内分泌L細胞から放出される30または31個のアミノ酸からなるインクレチンホルモンである。GLP−1はプログルカゴンのタンパク質切断によって生成され、その活性形態はGLP−1(7−36)アミドとして同定されている。このペプチドホルモンの分泌は2型糖尿病に罹患している個体では損なわれており、そのため、このペプチドホルモンはこの疾患および他の関連疾患の有望な治療方法の主要な候補となることが見い出された。
【0057】
非疾患状態では、GLP−1は、経口的に摂取された栄養分(特に糖類)に応答して腸のL細胞から分泌される。GLP−1は、食事によって誘発される膵臓からのインスリン放出を刺激することを含む、消化管(GI)および脳に対する影響を有する。膵臓におけるGLP−1の作用はグルコースに依存するため、ホルモンが外因的に投与された場合、GLP−1によって誘発される低血糖症のリスクは非常に小さい。また、GLP−1は、インスリン生合成におけるすべての工程を促進し、かつβ細胞増殖、生存および分化を直接刺激する。これらの作用の組み合わせによって、膵島内にβ細胞塊が増加する。さらに、GLP−1受容体の情報伝達によって、β細胞のアポトーシスが減少し、さらにβ細胞塊が増加する。
【0058】
消化管では、文献中に報告されているように、GLP−1は運動性を阻害し、グルコースに応答してインスリン分泌を増加させ、かつグルカゴン分泌を減少させる。これらの作用は組み合わさって食後のグルコースの逸脱を小さくする。GLP−1を中枢(脳室内すなわちicv)投与した齧歯類での実験では、GLP−1が食物摂取を阻害することが示され、これによって、末梢で放出されたGLP−1が体循環に進入することができ、かつ脳に作用し得ることが示唆されている。この作用は、循環GLP−1が脳弓下器官および最後野においてGLP−1受容体にアクセスすることによって生じることができる。脳のこれらの領域は食欲およびエネルギー恒常性の調節に関与していることが知られている。興味深いことに、胃拡張によって孤束の尾側核内のニューロンを含有するGLP−1が活性化されるため、中枢で発現されるGLP−1の食欲抑制薬としての役割が予測される。このような仮説は、反対の作用が認められたGLP−1受容体拮抗薬であるエキセンジン(9−39)を用いた研究によって支持されている。ヒトにおいては、投与されたGLP−1は満腹効果を有し、6週間の投与計画での連続皮下注入によってGLP−1が投与された場合、糖尿病患者は食欲の低下を示し、これにより体重が著しく減少した。
【0059】
GLP−1は、2型糖尿病患者への連続静脈内注入として投与された場合、インスリン分泌を増加させ、かつ空腹時および食後の血中グルコースの両方を正常化することも知られている。さらに、GLP−1注入は、以前に非インスリン経口薬物で治療された患者およびスルホニル尿素療法に失敗した後にインスリン療法を必要としている患者の血糖値を低下させることが知られている。しかし、当該技術分野で注目されかつ本明細書において以下に述べるように、GLP−1の単回皮下注射の作用によって期待外れの結果が得られた。免疫反応性GLP−1の高血漿中濃度は達成されたが、インスリン分泌は急速に治療前の値に戻り、血糖値は正常化されなかった。反復皮下投与は静脈内投与で観察されたものに匹敵する空腹時血糖値を達成することが求められた。6週間にわたるGLP−1の連続皮下投与によって、空腹時および食後の血糖値を低下させ、かつHbA1c濃度を低下させることが示された。GLP−1の単回皮下注射の短期的有効性はその循環の不安定性に関係していた。GLP−1は、生体外においてジペプチジルペプチダーゼ−IV(DPP−IV)によって血漿中で代謝される。GLP−1は、N−末端からアミノ酸7および8を除去することで、DPP−IVによって急速に分解される。分解生成物のGLP−1(9−36)アミドは活性でない。DPP−4は血管内を循環し、消化管および腎臓の脈管構造では膜結合型であり、肺のリンパ球上で同定されている。
【0060】
2型糖尿病に関連する高血糖症の治療としてのGLP−1およびGLP−1類似体の有用性は20年にわたって研究されている。臨床的には、GLP−1は、血中グルコース、食後のグルコースの逸脱および食物摂取を減少させる。GLP−1は満腹感も増加させる。これらをもとに、これらの作用は、体重の減少を促進する可能性を有する抗糖尿病薬の固有かつ非常に望ましいプロファイルを示す。このような利点にも関わらず、GLP−1は注射による投与を必要とし、かつジペプチジルペプチダーゼ(DPP)−IV酵素によって急速に失活するために非常に短い循環半減期を有するという理由から、糖尿病の治療方法としてのGLP−1の有用性は妨げられている。従って、GLP−1の治療的に有効な濃度を達成するためには、より高いGLP−1用量が必要とされる。しかし、広範囲な文献評価によれば、血漿中の活性GLP−1の濃度が100pmol/Lを超える場合は、大量発汗、悪心および嘔吐などの副作用/有害作用の組み合わせが典型的に観察される。
【0061】
GLP−1の限られた半減期という課題に取り組むために、いくつかの長時間作用性GLP−1類似体が開発されたことがあり、現在も開発されている。分解に強い、リラグルチド(Novo Nordisk社、デンマークのコペンハーゲン)、エクセナチド(エキセンジン−4;BYETTA(登録商標))(Amylin社、カリフォルニア州サンディエゴ)およびエクセナチド−LAR(Eli Lilly社、インディアナ州インディアナポリス)などの長時間作用性GLP−1類似体は「インクレチン模倣体」と呼ばれており、臨床試験で調査されている。エクセナチドは2型糖尿病の治療方法として認可されている。これらの製品は皮下投与用の製剤であり、これらの製剤は、末梢組織、血管組織および/または肝臓における分解により、著しい限界を有することが知られている。例えば、GLP−1と約50%のアミノ酸相同性を有する化合物であるエクセナチド(BYETTA(登録商標))は、GLP−1よりも長い循環半減期を有する。この製品は、2型糖尿病に関連する高血糖症の治療のために米国食品医薬品局(FDA)によって認可されている。エクセナチドの循環半減期はGLP−1よりも長いが、患者は依然として1日2回の薬物注射を必要とする。エクセナチド療法は、悪心、膵炎、腎機能障害の顕著な発生率を含む望ましくない副作用プロファイルによって、さらに難しいものとなっている。さらに、この長時間作用性治療手法によって患者は利便性が得られ、かつ服薬遵守が容易になるが、注射によって投与される長時間作用性GLP−1類似体の薬物動態学的プロファイルは、内因的に分泌されるホルモン類の薬物動態学的プロファイルとは根本的に異なり得る。この投与計画は有効かもしれないが、正常な生理を模倣していない。
【0062】
皮下注射によって投与される長時間作用性GLP−1類似体を用いて糖尿病および/または高血糖症を治療するための現在の手法/進歩は糖尿病のための許容可能な治療を提供できているが、この治療は体の自然な生理を模倣していない。例えば、健常な個体では、内因性GLP−1は食後にのみ、かつ必要に応じてのみ一気に分泌される。対照的に、長時間作用性GLP−1類似体では、食後段階を過ぎた期間にわたって薬物曝露が行われる。従って、理想的なGLP−1療法は、食事の時間に薬物を投与し、かつ曝露を食後の期間に限定する療法であってもよい。薬物の肺投与経路はそのような治療を提供する可能性を有するが、我々の知る限りでは、肺にDPP−IVが存在するという理由から、これまで調査されていない。
【0063】
GLP−1の循環半減期を延長する他の手法では、DPP−IVがGLP−1の代謝に関与する酵素であるという理由から、DPP−IV阻害剤が開発されている。DPP−IVの阻害とは、内因性GLP−1の循環半減期を増加させることを示している。ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害剤としては、Novartis社(スイスのバーゼル)によって開発されたビルダグリプチン(GALVUS(登録商標))およびMerck社(ニュージャージー州ホワイトハウスステーション)によって開発されたJANUVIA(登録商標)(シタグリプチン)が挙げられる。
【0064】
健常な個体とは対照的に、高血糖症および2型糖尿病に罹患している患者の現在の治療方法は、食後段階を過ぎた期間にわたって薬物曝露が行われる長時間作用性GLP−1類似体およびDPP−IV阻害剤を使用する。従って、これらの現在の方法には、大量発汗、悪心および嘔吐などの有害または負の副作用があり、患者の生活の質に対して影響を与える。従って、本発明者らは、望ましくない副作用を回避しながら、少ない全身曝露で薬物に対する薬力学的応答を増加させる薬物送達システムを用いる疾患の新しい治療方法の開発が必要であることが分かった。さらに、本発明者らは、非侵襲的方法を用いて、動脈循環に直接薬物を送達することが必要であることが分かった。
【0065】
本明細書中の態様では、糖尿病、高血糖症および肥満症などの内分泌疾患を含む疾患の治療方法が開示されている。本発明者らは、薬物が静脈系を介して戻る前に標的臓器(1つまたは2つ以上)に到達するように、薬物を体循環、特に動脈循環に非侵襲的に直接送達することが必要であることが分かった。この手法によって、逆説的に、静脈内、皮下または他の非経口経路を介する匹敵する投与よりも高い最大曝露で標的臓器を活性剤に曝露することができる。消化管内での分解からの保護を与える製剤であっても、吸収時に活性剤が静脈循環に進入すると、経口投与に対して同様の利点を得ることができる。
【0066】
一態様では、薬物送達システムは、経口、静脈内、経皮および皮下投与などの他の投与経路に遭遇する末梢もしくは血管静脈組織において、局所分解酵素または他の分解機構(例えば、タンパク質またはペプチドの酸化、リン酸化または任意の修飾)との直接的な接触によって、急速に代謝および/または分解する任意の種類の活性剤と共に使用することができる。この態様では、本方法は、その活性が経口、皮下もしくは静脈内投与によって代謝または分解される活性剤を同定しかつ選択する工程を含むことができる。例えば、不安定性のために、GLP−1の皮下注射は、血液中のGLP−1の有効な濃度に至らなかった。これは、そのような投与様式によって効果的に送達することができるインスリンなどのペプチド類とは対照的である。
【0067】
ある態様では、疾患または障害の治療方法は、吸入に適した担体を選択し、かつ肺の肺胞に活性な物質を送達する工程を含む。この態様では、担体は、1種または2種以上の活性剤と結合させて、肺の末梢および血管静脈組織での活性剤の急速な分解を回避する組成物として投与することができる薬物/担体複合体を形成することができる。一態様では、担体はジケトピペラジンである。
【0068】
本明細書に記載されている方法は、生物学的製剤を含む多くの種類の活性剤を送達するために利用することができる。特定の態様では、本方法は、動脈循環に急速に治療量のペプチドホルモン類を含む活性剤を効果的に送達する薬物送達システムを利用する。一態様では、1種または2種以上の活性剤としては、分解または失活に対する感受性が高いグルカゴン様ペプチド1(GLP−1)、タンパク質、リポカイン、小分子医薬品、核酸などのペプチド類が挙げられるが、これらに限定されず、ジケトピペラジンを含む乾燥粉末組成物に活性剤を製剤化し、かつカートリッジおよび乾燥粉末吸入器を用いる肺吸入によって活性剤(1種または2種以上)を体循環に送達する。一態様では、本方法は、例えば、真皮および肺の局所的な血管もしくは末梢組織内の酵素に対する感受性が高いペプチドを選択することを含む。本方法によって、活性剤が、末梢組織、静脈もしくは肝臓の代謝/分解との接触を回避または減少させることができる。別の態様では、全身送達のために、活性剤は肺の中に特異的な受容体を有していてはならない。
【0069】
他の態様では、薬物送達システムは、障害または疾患を治療するために、天然に生じるか、組み換え型もしくは合成由来の治療用ペプチド類またはタンパク質を送達するためにも使用することもでき、これらとしては、アディポネクチン、コレシストキニン(CCK)、セクレチン、ガストリン、グルカゴン、モチリン、ソマトスタチン、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、副甲状腺ホルモン、副甲状腺ホルモン関連ペプチド(PTHrP)、IGF−1、成長ホルモン放出因子(GHRF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、抗IL−8抗体、ABX−IL−8などのIL−8拮抗薬;インテグリンβ4前駆体(ITB4)受容体拮抗薬、エンケファリン、ノシセプチン、ノシスタチン、オルファニンFQ2、カルシトニン、CGRP、アンジオテンシン、P物質、ニューロキニンA、膵臓ポリペプチド、ニューロペプチドY、デルタ睡眠誘発ペプチド、PG−12などのプロスタグランジン類、LY29311、BIIL284、CP105696などのLTB受容体遮断薬;血管作用性小腸ペプチド;スマトリプタンなどのトリプタンおよびC16:1n7すなわちパルミトレイン酸などのリポカインが挙げられるが、これらに限定されない。さらに別の態様では、活性剤は小分子薬物である。
【0070】
一態様では、本治療方法は、例えば、GLP−1分子、オキシントモジュリン(OXN)またはペプチドYY(3−36)(PYY)を単独で、または互いに組み合わせて、あるいは1種または2種以上の活性剤と組み合わせて含む製剤を用いた糖尿病、高血糖症および/または肥満症の治療方法に関する。
【0071】
例示的な態様では、肥満症、糖尿病および/または高血糖症の治療方法は、治療を必要としている患者にGLP−1分子を含む乾燥粉末組成物もしくは製剤を投与し、それにより、大量発汗、悪心および嘔吐などの望ましくない副作用を引き起こすことなく膵臓β細胞からの内因性インスリンの急速な分泌を促進することを含む。一態様では、疾患の治療方法は、単回用量において本製剤中に約0.02〜約3mgの範囲のGLP−1投与量で、肥満症、2型糖尿病および/または高血糖症に罹患している哺乳類などの患者に適用することができる。高血糖症、糖尿病および/または肥満症の治療方法は、患者が食事または軽食に近接して少なくとも1回の用量のGLP−1製剤を服用できるように設計することができる。この態様では、患者の必要に応じてGLP−1の用量を選択することができる。一態様では、GLP−1の肺投与は、例えば2型糖尿病患者を治療する際に、3mg超のGLP−1用量を含むことができる。
【0072】
本発明の態様では、GLP−1製剤は肺投与などの吸入によって投与することができる。この態様では、肺投与は、吸入用の乾燥粉末製剤としてGLP−1分子を提供することによって達成することができる。乾燥粉末製剤は安定な組成物であり、吸入に適しかつ肺で急速に溶解してGLP−1分子を肺循環に急速に送達する微小粒子を含むことができる。肺投与に適した粒径は、直径が10μm未満、好ましくは5μm未満であってもよい。肺の肺胞に到達することができる例示的な粒径は、直径が約0.5μm〜約5.8μmの範囲である。そのような大きさは特に空気力学的直径を指すが、実際の物理的な直径にも対応する場合が多い。そのような粒子は肺毛細管に投与することができ、肺の末梢組織との広範囲な接触を回避することができる。この態様では、薬物を急速に動脈循環に送達し、体内のその標的または作用部位に到達する前に酵素または他の機構による有効成分の分解を回避することができる。一態様では、GLP−1分子およびFDKPを含む肺吸入用の乾燥粉末組成物は、約35%〜約75%の微小粒子が5.8μm未満の空気力学的直径を有する微小粒子を含むことができる。
【0073】
一態様では、本方法で使用される乾燥粉末製剤は、GLP−1分子およびジケトピペラジンまたはその薬学的に許容される塩を含む粒子を含む。この態様および他の態様では、本発明の乾燥粉末組成物は、天然のGLP−1、GLP−1代謝物、長時間作用性GLP−1、GLP−1誘導体、GLP−1模倣体、エキセンジンまたはそれらの類似体からなる群から選択される1種または2種以上のGLP−1分子を含む。GLP−1類似体としては、GLP−1融合タンパク質、例えばGLP−1に結合したアルブミンが挙げられるが、これに限定されない。
【0074】
例示的な態様では、本方法は、高血糖症および/または糖尿病および肥満症の治療のために、ペプチドホルモンであるGLP−1の患者への投与を含む。本方法は、治療を必要としている患者に、GLP−1分子を含む乾燥粉末製剤を含む有効量の吸入可能な組成物もしくは製剤を投与して、それにより、大量発汗、悪心および嘔吐などの望ましくない副作用を引き起こすことなく膵臓β細胞からの内因性インスリンの急速な分泌を促進することを含む。一態様では、疾患の治療方法は、患者に応じて乾燥粉末製剤中に約0.01mg〜約5mg、約0.5mg〜約3mgまたは約0.2mg〜約2mgの範囲のGLP−1投与量で、2型糖尿病および/または高血糖症に罹患している哺乳類などの患者に適用することができる。一態様では、治療される患者または対象はヒトである。GLP−1分子は、食事の直前(食前)、食事の時間(摂食時)、および/または食事の約15、30、45および/または60分後(食後)に投与することができる。一態様では、単回用量のGLP−1分子は食事の直前に投与することができ、別の用量は食後に投与することができる。特定の態様では、約0.5mg〜約1.5mgのGLP−1を食事の直前に投与した後、0.5mg〜約1.5mgのGLP−1を食事の約30分後に投与することができる。この態様では、GLP−1分子は、医薬用担体および賦形剤の有無に関わらず、ジケトピペラジン類などの吸入粒子と共に製剤化することができる。一態様では、GLP−1製剤の肺投与は、患者に大量発汗、悪心および嘔吐などの望ましくない有害な副作用を引き起こすことなく、100pmol/L超の血漿中GLP−1濃度を提供することができる。
【0075】
別の態様では、2型糖尿病および高血糖症に罹患しているヒトなどの患者の治療方法が提供され、本方法は、FDKP微小粒子中に約0.5mg〜約3mgの濃度でGLP−1分子を含む吸入可能なGLP−1製剤を患者に投与し、患者に悪心または嘔吐を引き起こすことなく、投与後約20分以内に患者の血糖値を85〜70mg/dLの空腹時血漿中グルコース濃度まで低下させることを含む。一態様では、FDKP微小粒子を含む製剤中に0.5mg超の濃度でのGLP−1の肺投与には胃内容排出の阻害がない。
【0076】
一態様では、GLP−1分子は、組成物中の有効成分として単独で、またはシタグリプチンもしくはビルダグリプチンなどのジペプチジルペプチダーゼ(DPP−IV)阻害剤と共に、あるいは1種または2種以上の他の活性剤と共に投与することができる。DPP−IVは、ポストプロリンもしくはアラニンペプチダーゼ活性を示す遍在的に発現するセリンプロテアーゼであり、従って、X−プロリンまたはX−アラニン(式中、Xは任意のアミノ酸を指す)後のN末端領域における切断によって生物学的に不活性なペプチド類が生成される。GLP−1およびGIP(グルコース依存性インスリン分泌性ペプチド)はどちらも2位にアラニン残基を有するため、それらはDPP−IVの基質である。DPP−IV阻害剤はインクレチンホルモン類の急速な分解を防止し、それにより、生物学的に活性なそのままの状態のGLP−1およびGIPの食後の濃度を上昇させることによって血糖管理を向上させる経口投与用の薬物である。
【0077】
この態様では、GLP−1分子の作用は、必要に応じてDPP−IV阻害剤を用いて生体内でさらに延長または増大させることができる。高血糖症および/または糖尿病の治療のためのGLP−1およびDPP−IV阻害剤の併用療法によって、患者のβ細胞からの適当なインスリン応答を誘発するのに必要とされ得る活性GLP−1の量を減少させることができる。別の態様では、GLP−1分子は、例えばメトホルミンなどの例えばペプチド以外の他の分子と組み合わせることができる。一態様では、DPP−IV阻害剤またはメトホルミンなどの他の分子は、共製剤としてGLP−1分子を組み合わせた乾燥粉末製剤として、あるいはGLP−1の投与と同時または投与前に投与することができるそれ自体の乾燥粉末製剤として別々に、吸入によって投与することができる。一態様では、DPP−IV阻害剤またはメトホルミンなどの他の分子は、経口投与を含む他の投与経路によって投与することができる。一態様では、DPP−IV阻害剤は、患者の必要に応じて約1mg〜約100mgの範囲の用量で患者に投与することができる。GLP−1分子と同時投与または同時に製剤化される場合、より低濃度のDPP−IV阻害剤を使用してもよい。この態様では、GLP−1療法の有効性は、現在の剤形と比較した場合、より少ない用量範囲で向上させることができる。
【0078】
本明細書に記載されている態様では、GLP−1分子は、食事の時間に(食事または軽食に時間的に近接して)投与することができる。この態様では、現在の治療方法の長時間の作用効果が生じないように、GLP−1曝露を食後の期間に限定することができる。DPP−IV阻害剤が同時投与される態様では、DPP−IV阻害剤は、食事の時間におけるGLP−1の投与前に患者に投与してもよい。投与されるDPP−IV阻害剤の量は、選択した投与経路に応じて、例えば、約0.10mg〜約100mgの範囲にすることができる。さらなる態様では、GLP−1分子の単回または複数回用量を、食事または軽食の開始に近接して投与される用量の代わりに、あるいはそれに追加して、食事の開始後に投与することができる。例えば、単回または複数回用量を、食事の開始から15〜120分後、例えば、30、45、60または90分後などに投与することができる。
【0079】
一態様では、薬物送達システムは、哺乳類などの動物の摂食量を制御または減少させるための肥満症の治療方法で利用することができる。この態様では、治療を必要としている患者または肥満症に罹患している患者は、当該技術分野で知られているさらなる食欲抑制薬の有無に関わらず、GLP−1分子、エキセンジン、オキシントモジュリン、ペプチドYY(3−36)またはそれらの組み合わせ、あるいはそれらの類似体を含む治療的有効量の吸入可能な組成物もしくは製剤が投与される。この態様では、本方法は、患者の摂食量を減少させ、食物摂取を阻害し、食欲を減少もしくは抑制しかつ/または体重を制御することを目的としている。
【0080】
一態様では、吸入可能な製剤は、2,5−ジケト−3,6−ジ(4−X−アミノブチル)ピペラジン(式中、Xは、スクシニル、グルタリル、マレイルおよびフマリルからなる群から選択される)などのジケトピペラジンまたはジケトピペラジンの塩と共に上述した有効成分を含む乾燥粉末製剤を含む。この態様では、吸入可能な製剤は、上記のような空気力学的な特性を有する有効成分を含む吸入用の微小粒子を含むことができる。一態様では、有効成分の量は当業者が決定することができるが、本微小粒子は、患者の必要に応じて様々な量の有効成分を負荷することができる。例えば、オキシントモジュリンでは、その微小粒子は、製剤中に約1%(w/w)〜約75%(w/w)の有効成分を含むことができる。ある態様では、吸入可能な製剤は、約10%(w/w)〜約30%(w/w)の医薬用組成物を含むことができ、かつ薬学的に許容される担体または界面活性剤(例えば、ポリソルベート80)などの賦形剤も含むことができる。この態様では、オキシントモジュリンは、製剤中に約0.05mg〜約5mgの範囲の用量で、1日1回〜約4回または患者の必要に応じて患者に投与することができる。特定の態様では、対象に投与される投与量は、オキシントモジュリンを約0.1mg〜約3.0mgの範囲とすることができる。一態様では、吸入可能な製剤は、製剤中に約50pmol〜約700pmolのオキシントモジュリンを含むことができる。
【0081】
PYYが有効成分として使用される本明細書に開示されている態様では、肺送達用の乾燥粉末製剤は、用量当たり約0.10mg〜約3.0mgのPYYを含めて製造することができる。ある態様では、本製剤は、製剤中に約1%〜約75%(w/w)の量のペプチドでPYYを含む乾燥粉末を含むことができる。特定の態様では、製剤中のPYYの量を5%、10%、15%または20%(w/w)とすることができ、かつジケトピペラジンをさらに含む。一態様では、PYYは、FDKPなどのジケトピペラジンまたはナトリウム塩などのその塩を含む製剤として投与することができる。ある態様では、PYYは、投与後のPYYの血漿中濃度が約4pmol/L〜約100pmol/Lまたは約10pmol/L〜約50pmol/Lとなるような剤形で対象に投与することができる。別の態様では、PYYの量は、例えば、製剤中に約0.01mg〜約30mgまたは約5mg〜約25mgの範囲の量で投与することができる。PYYの他の量は、例えば、Savageら、Gut 1987 Feb;28(2):166〜70頁に記載されているように決定することができ、その開示内容は参照により本明細書に組み込まれる。PYYおよび/または類似体あるいはオキシントモジュリンおよび/または類似体製剤は、食前、摂食時、摂食前後または食後に、あるいは必要に応じかつ患者の生理的状態に応じて対象に投与することができる。
【0082】
一態様では、有効成分を含む製剤は、例えば、米国特許第7,305,986号および米国特許出願第10/655,153号(US2004/0182387)に開示されている吸入器のような乾燥粉末吸入器を用いる吸入によって、乾燥粉末製剤として患者に投与することができ、それらの開示内容は、参照により本明細書に組み込まれる。当該有効成分を含む乾燥粉末製剤の反復吸入は、毎日必要に応じて食間に投与することもできる。いくつかの態様では、本製剤は、1日1回、2回、3回または4回投与することができる。
【0083】
なおさらなる態様では、高血糖症および/または糖尿病の治療方法は、式:2,5−ジケト−3,6−ジ(4−X−アミノブチル)ピペラジン(式中、Xは、スクシニル、グルタリル、マレイルおよびフマリルからなる群から選択される)を有するジケトピペラジンを含む吸入可能な乾燥粉末組成物の投与を含む。この態様では、乾燥粉末組成物は、ジケトピペラジン塩を含むことができる。本発明のなお別の態様では、薬学的に許容される担体または賦形剤の有無に関わらず、ジケトピペラジンが2,5−ジケト−3,6−ジ−(4−フマリル−アミノブチル)ピペラジンである乾燥粉末組成物が提供される。
【0084】
ある態様では、本治療方法は、天然のGLP−1であるGLP−1分子またはGLP−1(7−36)アミドであるアミド化GLP−1分子あるいはその組み合わせを含む吸入用の乾燥粉末製剤を含むことができる。一態様では、GLP−1はエクセナチドなどの類似体であってもよい。
【0085】
一態様では、患者は、GLP−1の量が製剤の約0.01mg〜約5mg、約0.02mg〜約3mg、約0.02mg〜約2.5mgまたは約0.2mg〜約2mgである用量範囲で、吸入可能なGLP−1製剤が投与される。一態様では、2型糖尿病に罹患している患者に3mg超のGLP−1用量を投与することができる。この態様では、GLP−1は、医薬用担体および賦形剤の有無に関わらず、ジケトピペラジン類などの吸入粒子と共に製剤化することができる。一態様では、GLP−1製剤の肺投与によって、患者に大量発汗、悪心および嘔吐などの望ましくない有害な副作用を引き起こすことなく、100pmol/L超の血漿中GLP−1濃度を与えることができる。
【0086】
別の態様では、GLP−1分子は、高血糖症および/または糖尿病、例えば2型糖尿病の治療のために、併用療法としてインスリンと共に投与し、かつ摂食時に投与することができる。この態様では、GLP−1分子およびインスリンは、乾燥粉末製剤に同時に製剤化するか、あるいはそれら独自の製剤として患者に別々に投与することができる。GLP−1分子およびインスリンが同時投与される一態様では、両方の有効成分を同時に製剤化することができ、例えば、GLP−1分子およびインスリンを上記のようにジケトピペラジン粒子を用いて吸入用の乾燥粉末製剤に調製することができる。あるいは、GLP−1分子およびインスリンは、各製剤が吸入用であり、かつジケトピペラジン粒子を含むように、別々に製剤化することができる。一態様では、GLP−1分子およびインスリン製剤は、投与前に適切な投与のためにそれらの個々の粉末形態で一緒に混合することができる。この態様では、インスリンは、短時間、中時間もしくは長時間作用性のインスリンであってもよく、かつ摂食時に投与することができる。
【0087】
GLP−1分子およびインスリンの同時投与を用いる2型糖尿病の治療のための一態様では、GLP−1分子の吸入可能な製剤は、インスリン/FDKPなどのインスリンの吸入可能な製剤と同時または連続的に、摂食時に患者に投与することができる。この態様では、2型糖尿病において、GLP−1は、患者の膵臓からのインスリン分泌を刺激し、それによりβ細胞の機能を維持する(例えばβ細胞増殖を促進する)ことによって疾患の進行を遅らせることができるだけでなく、摂食時に投与されたインスリンを食事に対する体の正常な応答を模倣するインスリン代替物としても使用することができる。併用療法のある態様では、インスリン製剤は他の投与経路で投与することができる。この態様では、併用療法は、正常な血糖状態を維持するための患者のインスリン必要量を減少させるのに有効となり得る。一態様では、併用療法は、10年に満たない期間で糖尿病に罹患しており、かつ食事制限および運動または分泌促進物質では十分に制御されない肥満症および/または2型糖尿病に罹患している患者に適用することができる。一態様では、GLP−1およびインスリンの併用療法を受ける患者集団は、正常で健常な個体の約25%超のβ細胞の機能および/または約8%未満のインスリン抵抗性を有することを特徴としかつ/または正常な胃内容排出を有することができる。一態様では、吸入可能なGLP−1分子およびインスリンの併用療法は、インスリングルリジン(APIDRA(登録商標))、インスリンリスプロ(HUMALOG(登録商標))もしくはインスリンアスパルト(NOVOLOG(登録商標))などの速効性インスリンまたは長時間作用性インスリン、あるいはインスリンデテミル(LEVEMIR(登録商標))またはインスリングラルギン(LANTUS(登録商標))などの長時間作用性インスリンを含むことができ、これらは、FDKPも含む吸入粉末または他の投与経路で投与することができる。
【0088】
別の態様では、2型糖尿病を治療するための併用療法は、治療を必要としている患者に、インスリン(天然のインスリンペプチドまたは組換え型インスリンペプチドであってもよい)およびジケトピペラジンを含む有効量の吸入可能なインスリン製剤を投与すること、およびジケトピペラジンを含む製剤として吸入または皮下注射などの別の投与経路で提供することができる長時間作用性インスリン類似体を患者に投与することをさらに含むことができる。本方法は、有効量のDPPIV阻害剤を患者に投与する工程をさらに含むことができる。一態様では、本方法は、治療を必要としている患者に、別々および/または連続的に投与することができる長時間作用性GLP−1を含む製剤と併用して、速効性もしくは長時間作用性インスリン分子およびジケトピペラジンを含む製剤を投与することを含むことができる。糖尿病(特に2型糖尿病)を治療することためのGLP−1療法は、吸入可能な乾燥粉末製剤としてのGLP−1分子の単独投与またはインスリンもしくは非インスリン療法との併用投与によって低血糖症のリスクを低下させることができるため有利となり得る。
【0089】
別の態様では、速効性GLP−1分子およびジケトピペラジン製剤は、糖尿病の治療のためのエキセンジンなどの長時間作用性GLP−1と併用投与することができ、どちらも肺吸入によって投与することができる。この態様では、例えば2型糖尿病に罹患している糖尿病患者に、インスリン分泌を刺激するためにGLP−1分子を含む有効量の吸入可能な製剤を摂食時に投与すると共に、その後、連続的にあるいは食事の時間から約45分後までのように暫くしてからエキセンジン−4の用量を投与することができる。吸入可能なGLP−1分子の投与によって、β細胞の機能を維持することで疾患の進行を防止すると共に、エキセンジン−4を約10時間の間隔を空けて1日に2回投与することができるため、患者におけるインクレチン系の正常な生理を模倣することができるGLP−1の基礎濃度を提供することができる。速効性GLP−1および長時間作用性GLP−1はどちらも、別個の吸入可能な製剤として投与することができる。あるいは、長時間作用性GLP−1は、例えば、経皮、静脈内または皮下などの他の投与方法で投与することができる。一態様では、摂食時の短時間作用性および長時間作用性GLP−1との併用投与によって、単独で投与される長時間作用性GLP−1と比較して、インスリン分泌を増加させ、グルカゴン抑制を高め、かつ胃内容排出時間をさらに遅らせてもよい。投与される長時間作用性GLP−1の量は投与経路に応じて変更することができる。例えば、肺送達では、長時間作用性GLP−1は、患者に投与されるGLP−1の形態に応じて食事の直前または食事の時間に、1回の投与につき約0.1mg〜約1mgの用量で投与することができる。
【0090】
一態様では、本方法は、肥満症の治療に適用することができる。上記のようなGLP−1分子およびジケトピペラジンを含む治療的有効量の吸入可能な乾燥粉末GLP−1製剤を、治療を必要としている患者に投与することができる。この態様では、吸入可能なGLP−1製剤は、単独で、あるいは肥満症の治療のための1種または2種以上の内分泌ホルモンおよび/または抗肥満活性剤と併用して投与することができる。例示的な内分泌ホルモンおよび/または抗肥満活性剤としては、ペプチドYY、オキシントモジュリン、アミリン、酢酸プラムリンチドなどのアミリン類似体などが挙げられるが、これらに限定されない。一態様では、抗肥満薬は、吸入可能な乾燥粉末組成物の同時製剤として単独で、GLP−1分子と併用して、あるいは吸入用の別個の吸入可能な乾燥粉末組成物で投与することができる。あるいは、GLP−1分子と1種または2種以上の抗肥満薬もしくは満腹感を生じさせることができる薬剤との併用では、GLP−1製剤は乾燥粉末製剤として投与することができ、抗肥満薬は他の投与経路で投与することができる。この態様では、DPP−IV阻害剤は、GLP−1の肺動脈循環への送達を向上または安定化させるために投与することができる。別の態様では、DPP−IV阻害剤は、ジケトピペラジンを含むインスリン製剤と併用して提供することができる。この態様では、DPP−IV阻害剤は、吸入のためにジケトピペラジン中に製剤化するか、あるいは皮下注射または経口投与などの他の投与経路のための他の製剤として投与することができる。
【0091】
一態様では、GLP−1製剤を含む吸入用の薬物カートリッジとこのカートリッジに適合または確実に係合するように構成された吸入装置とを含む糖尿病および/または高血糖症を治療するためのキットが提供される。この態様では、本キットは、GLP−1分子と同時に製剤化されたか、あるいは上記のように吸入または経口投与のための別個の製剤のDPP−IV阻害剤をさらに含むことができる。この態様の変形では、本キットは、別々に提供することができる吸入装置を含んでいない。
【0092】
一態様では、本薬物送達システムを用いる併用療法は、代謝異常またはメタボリック症候群を治療するために適用することができる。この態様では、薬物送達製剤は、メタボリック症候群を治療することを目的とした、ジケトピペラジンおよびGLP−1分子および/または長時間作用性GLP−1などの活性剤を含む製剤を、単独で、あるいはDPP−IV阻害剤およびエキセンジンなどの1種または2種以上の活性剤と組み合わせて含むことができる。この態様では、治療を必要とし、かつインスリン抵抗性を示し得る対象に提供される少なくとも1種の活性剤を肺吸入によって投与することができる。
【0093】
別の態様では、GLP−1分子およびジケトピペラジンを含む吸入可能な乾燥粉末製剤の肺投与は、治療される患者に適した特定の治療投与計画を特定するために、糖尿病に罹患している患者における2型糖尿病の進行のレベルもしくは程度を診断するための診断ツールとして使用することができる。この態様では、糖尿病に罹患していると同定された患者における糖尿病の進行レベルを診断するための方法は、GLP−1分子およびジケトピペラジンを含む所定の量の吸入可能な乾燥粉末製剤を患者に投与すること、および内因性インスリン産生もしくは応答を測定することを含む。患者に必要とされる治療投与計画を決定するために、GLP−1分子を含む吸入可能な乾燥粉末製剤の投与は、その患者のために適当なレベルのインスリン応答が得られるまで所定の量のGLP−1分子で繰り返すことできる。この態様では、患者のインスリン応答が不十分な場合、患者は他の治療方法を必要とするかもしれない。感受性が高いまたはインスリン応答性の患者は、治療方法としてジケトピペラジンを含むGLP−1製剤で治療することができる。このようにして、適当なインスリン応答を達成して低血糖症を回避するために、具体的な量のGLP−1分子を患者に投与することができる。この態様および他の態様では、GLP−1は、患者におけるインスリン放出の正常な生理を模倣する急速な内因性インスリン放出を誘発することができる。
【0094】
一態様では、本薬物送達システムは、代謝異常またはメタボリック症候群を治療するために適用することができる。この態様では、薬物送達製剤は、メタボリック症候群の治療を目的とした、ジケトピペラジンおよびGLP−1分子および/または長時間作用性GLP−1などの活性剤を含む製剤を、単独であるいはDPP−IV阻害剤およびエキセンジンなどの1種または2種以上の活性剤と組み合わせて含むことができる。この態様では、治療を必要とし、かつインスリン抵抗性を示し得る対象に提供される少なくとも1種の活性剤を肺吸入によって投与することができる。
【実施例】
【0095】
以下の実施例は、本発明のある態様を実証するために含まれている。実施例に開示されている技術は、本発明の実施において十分に機能する代表的な技術の説明であることが当業者によって理解されるべきである。但し、当業者は、本開示を考慮して、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、開示されている具体的な態様における変形が可能であり、それによって同様または類似した結果をなお得ることができることを理解すべきである。
【0096】
実施例1
健常な成人男性に対する吸入可能な乾燥粉末としてのGLP−1の投与
GLP−1は、静脈内(iv)もしくは皮下(sc)注入または複数の皮下注射によって投与した場合、ヒトの血中グルコースの上昇を制御することが知られている。ホルモンの循環半減期が極めて短いため、臨床的有効性を達成するためには連続皮下注入または複数回の毎日の皮下注射が必要とされるであろう。これらの経路はどちらも、長期にわたる臨床的使用にとって実用的でない。出願人らは、GLP−1を吸入によって投与すると治療レベルを達成し得ることを動物実験において見出した。これらの研究の結果は、例えば、米国特許出願第11/735,957号に記載されており、これらの開示内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0097】
健常な個体では、胃内容排出の低下、満腹感の増加および不適当なグルカゴン分泌の抑制などのGLP−1のいくつかの作用は、食事の開始に伴って放出されるGLP−1の突発(burst)に関連していると思われる。吸入粉末としてのGLP−1(GLP−1(7−36)アミド)および2,5−ジケト−3,6−ジ(4−フマリル−アミノブチル)ピペラジン(FDKP)からなる製剤を用いてこの初期のGLP−1の急増を抑制することによって、糖尿病の動物における内因性インスリン産生、グルカゴン濃度や血糖値の低下などの薬力学的応答を誘発することができる。さらに、インスリン分泌の増加に関連づけられる天然のGLP−1の遅い急増は、GLP−1/FDKP吸入粉末の食後の投与によって摸倣することができる。
【0098】
GLP−1/FDKP吸入粉末の第1a相臨床試験は、ヒトの対象において選択した用量の新しい吸入用血糖管理治療薬の安全性および耐性を試験するために初めて設計した。GLP−1/FDKP吸入粉末は、以前に試験したMEDTONE(登録商標)吸入装置を用いて投与した。この実験は、種々の用量のGLP−1/FDKP吸入粉末の肺吸入による安全性および耐性を確認するために設計した。ヒトへの使用のための用量は、米国特許出願第11/735,957号(この開示内容は参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているように吸入によって投与されるGLP−1/FDKPを用いたラットおよび霊長類における非臨床的研究からの動物安全性試験の結果に基づいて選択した。
【0099】
26人の対象が参加し、彼らを5つの群に分け、群1および2のそれぞれで最高4人、群3〜5のそれぞれで最高6人の評価可能な対象を用意した。彼らは適格基準を満たし、かつ調査を完了した。群1:0.05mg、群2:0.45mg、群3:0.75mg、群4:1.05mgおよび群5:1.5mgのGLP−1の用量レベルで、GLP−1/FDKP吸入粉末としてGLP−1を各対象に1回投与した。脱落者の交代はなかった。これらの投与量は体重70kgを仮定していた。当業者は、本明細書に開示されている調査に基づいてさらなる投与量レベルを決定することができる。
【0100】
これらの実験では、健常な成人男性対象における上昇する用量のGLP1/FDKP吸入粉末の安全性および耐性を決定した。上昇する用量のGLP−1/FDKP吸入粉末の耐性は、報告された有害事象(AE)、バイタルサイン、身体検査、臨床検査および心電図(ECG)などの変数に対する薬理学的もしくは有害作用を監視することによって決定した。
【0101】
さらなる肺の安全性および薬物動態パラメータも評価した。肺および他の有害事象の発生率および訪問1(スクリーニング)と訪問3(経過観察)との間での肺機能の変化によって表わされる肺の安全性を調査した。GLP−1/FDKP吸入粉末投与後の血漿中GLP−1および血清中フマリルジケトピペラジン(FDKP)の薬物動態(PK)パラメータをAUC0〜120分血漿中GLP−1およびAUC0〜480分血清中FDKPとして決定した。さらなる血漿中GLP−1の薬物動態パラメータには、血漿中GLP−1最高濃度に到達する時間(Tmax血漿中GLP−1)、血漿中GLP−1最高濃度(Cmax血漿中GLP−1)および血漿中GLP−1最高濃度に到達する全時間の半分(T1/2血漿中GLP−1)が含まれていた。血清中FDKPのさらなるPKパラメータには、Tmax血清中FDKP、Cmax血清中FDKPおよびT1/2血清中FDKPが含まれていた。臨床試験の終点は、試験対象集団において決定した以下の薬理学的および安全性パラメータの比較に基づいていた。一次終点には、咳および呼吸困難、悪心および/または嘔吐などの報告された有害事象の発生率および重症度ならびにバイタルサイン、臨床検査および身体検査でのスクリーニングからの変化が含まれていた。二次終点には、血漿中GLP−1および血清中FDKP(AUC0〜120分血漿中GLP−1およびAUC0〜480分血清中FDKP)、血漿中GLP−1(Tmax血漿中GLP−1、Cmax血漿中GLP−1、T1/2血漿中GLP−1)、血清中FDKP(Tmax血清中FDKP、Cmax血清中FDKP)、肺機能検査(PFT)およびECGの薬物動態学的性質が含まれていた。
【0102】
臨床試験は、3回の病院訪問:1)1回のスクリーニング訪問(訪問1)、2)1回の治療訪問(訪問2)、および3)訪問2から8〜14日後の1回の経過観察訪問(訪問3)からなっていた。単回用量のGLP−1/FDKP吸入粉末は、訪問2の際に投与した。
【0103】
5種類の用量のGLP−1/FDKP吸入粉末(0.05、0.45、0.75、1.05および1.5mgのGLP−1)を評価した。すべての用量に対応するように、製剤化したGLP−1/FDKPを、活性剤を含まない粒子を含有するFDKP吸入粉末と混合した。そのまま、あるいは適量のFDKP吸入粉末と混合したGLP−1/FDKP吸入粉末(15%w/wのGLP−1/FDKP)からなる10mgの乾燥粉末を含有する単回用量カートリッジを使用して、所望の用量のGLP−1(0.05mg、0.45mg、0.75mg、1.05mgおよび1.5mg)を提供した。最初の2種類の最も低い用量レベルはそれぞれ4人の対象からなる2つの群で評価し、3種類のより高い用量レベルはそれぞれ6人の対象からなる3つの群で評価した。各対象に評価される5種類の用量レベルのうちの1種で1回の用量のみを投与した。GLP−1(活性GLP−1および総GLP−1)およびFDKP測定のために採血した血に加えて、グルカゴン、グルコース、インスリンおよびC−ペプチドの測定のために試料を採取した。これらの実験からの結果について、以下の図および表を参照しながら説明する。
【0104】
図1は、1.5mgのGLP−1用量の肺投与後の群5における血漿中活性GLP−1濃度を示す。データは、GLP−1ピーク濃度が3分で最初の試料採取時点前に生じ、静脈内(IV)ボーラス投与に酷似していることを示した。幾人かの対象における血漿中GLP−1濃度は、アッセイ限界の500pmol/Lよりも高かった。血漿中活性GLP−1ピーク濃度は約150pmol/L〜約500pmol/Lの範囲である。文献(Vilsbollら、2000年)に報告されているようなGLP−1の静脈内ボーラス投与では、総GLP−1:活性GLP−1の比は、この調査の群5における比の1.5と比較して、3.0〜5.0であった。匹敵する活性濃度では、代謝物のピークは、肺投与と比較して、静脈内投与後は8〜9倍高く、これは、肺送達によりGLP−1が急速に送達され、かつ分解が少ないことを示した。
【0105】
【表1】
【0106】
健常な個体では、生理学的な食後の静脈血漿中GLP−1濃度は、典型的に10〜20pmol/Lの範囲である(Vilsbollら, J. Clin. Endocr. & Metabolism. 88(6):2706-13, 2003年6月)。これらの濃度は、0.45mgのGLP−1を投与した群2の幾人かの対象によって達成された。より高い用量のGLP−1によって、生理学的な静脈ピーク濃度よりも実質的に高い血漿中GLP−1ピーク濃度が生じた。しかし、GLP−1の循環半減期が短いために(約1〜2分)、活性GLP−1の血漿中濃度は投与から9分後までに生理学的範囲に低下した。ピーク濃度は静脈循環に生理学的に認められるものよりもはるかに高いが、GLP−1の局所的な濃度が全身で認められるものよりもはるかに高い場合があるという証拠もある。
【0107】
表1は、この調査からのFDKPを含む製剤を用いたGLP−1の薬物動態学的プロファイルを示す。
また、群4および5については、FDKP薬物動態パラメータも表1に示す。他の群は分析しなかった。データは、1.05mgおよび1.5mgのGLP−1で治療した対象の血漿中の平均FDKP濃度がそれぞれ約184および211pmol/Lであったことも示す。FDKP血漿中最高濃度は、各用量の投与から約4.5および6分後に達成され、循環半減期は約2時間(127分および123分)であった。
【0108】
図2Aは、1.5mgの用量においてGLP−1の吸入可能な乾燥粉末製剤で治療した対象における平均インスリン濃度を示す。データは、インスリン濃度がすべての対象において検出されたため、1.5mgのGLP−1用量がβ細胞からの内因性インスリン放出を誘発し、かつ約380pmol/Lの平均インスリンピーク濃度が投与から6分後までに生じたことを示す。インスリン放出は急速であったが、GLP−1への最初の応答後に血漿中インスリン濃度が急速に低下したため、持続的でなかった。図2Bは、GLP−1用量の皮下投与と比較して、肺吸入によって投与された1.5mg用量のGLPで治療した対象の血漿中GLP−1濃度を示す。データは、GLP−1の肺投与が比較的速く生じ、かつ血漿中GLP−1ピーク濃度が皮下投与よりも速く生じることを示す。さらに、GLP−1の肺吸入によって、血漿中GLP−1濃度は皮下投与の場合よりもはるかに速く基礎濃度に戻る。従って、本薬物送達システムを用いる肺吸入によって提供される患者のGLP−1への曝露は、皮下投与による曝露よりも時間が短く、かつAUCによって決定されるようなGLP−1への総曝露は、吸入用インスリンの場合、より少ない。図2Cは、GLP−1の乾燥粉末製剤の肺投与が、GLP−1の静脈内投与後に得られる応答に類似しているがGLP−1の皮下投与によって産生される内因性インスリンのピーク時間および量において異なるインスリン応答を誘発することを示し、これは、本製剤を用いるGLP−1の肺投与がインスリン応答を誘発する際により有効であることを示している。
【0109】
図3は、吸入後の種々の時間に測定した、1.5mgのGLP−1用量を含有する吸入可能な乾燥粉末製剤で治療した対象における血漿中C−ペプチド濃度を示す。データは、C−ペプチドがGLP−1吸入後に放出されることを示し、これは内因性インスリン放出を確証している。
【0110】
健常な個体では、空腹時血糖値は約3.9mmol/L〜約5.5mmol/Lまたは約70mg/dL〜約99mg/dLの範囲である(米国糖尿病協会推奨)。図4は、GLP−1を含有するGLP−1製剤で治療した対象における空腹時血漿中グルコース濃度を示す。空腹時血漿中グルコース(FPG)の平均濃度は、1.5mgのGLP−1で治療した対象では約4.7mmol/Lであった。GLP−1媒介性インスリン放出はグルコースに依存していた。低血糖症は、正常血糖の対象では歴史的に観察されていない。この実験では、データは、これらの正常血糖の健常な対象における血糖値はGLP−1の肺投与後に低下したことを明確に示している。1.5mgのGLP−1用量では、6人のうち2人の対象の血糖値が、GLP−1によって、低血糖症を定義する臨床検査値の3.5mmol/L未満まで低下した。血漿中グルコースは、1.5mgのGLP−1用量を投与した6人のうちの2人の対象において1.5mol/Lを超えて低下した。さらに、血漿中グルコースの低下はGLP−1用量に相関していた。血糖値の最も小さい低下は0.05mg用量を用いた際に認められ、最も大きい低下は1.5mg用量を用いた際に認められた。GLP−1の3種類の中間用量によって、血漿中グルコースのおよそ等しい低下が生じた。データは、GLP−1のグルコース依存性が生理学的範囲を超えるGLP−1濃度によって克服されたことを示す。正常な個体におけるGLP−1(7−36)アミドの生理学的範囲は空腹時に5〜10pmol/Lの範囲であり、食後に15〜50pmol/Lまで急速に上昇することが報告されている(Drucker, D.およびNauck, M. The Lancet 368:1696-1705, 2006年)。
【0111】
図5は、GLP−1の肺投与後の血漿中インスリン濃度が用量に依存することをさらに示す。ほとんどの対象においてインスリン放出は持続的でなかったが、それはGLP−1投与への最初の応答後に血漿中インスリン濃度が急速に低下するためである。ほとんどの対象において、血漿中インスリンのピーク応答は200〜400pmol/Lの範囲であり、1人の対象が700pmol/Lを超える血漿中インスリンピーク濃度を示した。従って、データは、インスリン応答がGLP−1用量に依存することを示している。
【0112】
図6は、種々の用量群におけるGLP−1の肺投与後の血漿中グルカゴン濃度を示す。ベースラインのグルカゴン濃度は、種々の用量群において13.2pmol/L〜18.2pmol/Lの範囲であった。血漿中グルカゴンにおける最大の変化が投与から12分後に認められた。血漿中グルカゴンの最大の減少は約2.5pmol/Lであり、1.5mgの用量群で認められた。グルカゴン分泌の最大の抑制は、最低値が常に12分で生じなかったため、過小評価された可能性があった。
【0113】
表2および表3は、この調査時に患者集団について記録された有害事象または副作用症状を報告するものである。注射によって投与されるGLP−1に関する文献に報告されている有害事象の一覧は広範囲なものではなく、報告されている有害事象は、軽度または中程度および許容可能のように記載されている。報告された主要な有害事象は、活性GLP−1の濃度が100pmol/Lを超えた場合の大量発汗、悪心および嘔吐である。表1および表3および図1に示すように、1.05mgおよび1.5mgの用量での肺投与によって、非経口(皮下、静脈内[ボーラスまたは注入のいずれか])GLP−1によって通常観察される副作用なしに活性GLP−1濃度が100pmol/Lを大きく超えた。この調査における対象の中に、悪心、大量発汗または嘔吐の症状を報告したものは全くいなかった。群5の対象は、対象の大部分が顕著な有害事象を報告した50μg/kgの静脈内ボーラスのデータ(Vilsbollらが2000年に報告)に見られるものに匹敵するCmaxに到達した。
【0114】
【表2】
【0115】
【表3】
【0116】
表2および表3は、肺吸入によってGLP−1を投与した調査においていずれの対象からも深刻な有害事象または重度の有害事象が報告されなかったことを示す。最もよく報告された有害事象は、乾燥粉末の吸入に関連するもの、すなわち咳および喉の炎症であった。驚くべきことに、肺吸入によって治療した患者の中に悪心または身体違和感を報告した対象は一人もおらず、かつこれらの対象のいずれに関わる嘔吐も全く認められなかった。本発明者らは、乾燥粉末製剤としてのGLP−1の肺投与には上記対象における胃内容排出の阻害がないことも見出した(データは示さず)。胃内容排出の阻害は、注射用の標準的なGLP−1製剤に関連する一般に見られる望ましくない副作用である。
【0117】
要約すると、臨床的GLP−1/FDKP粉末は最大15重量%のGLP−1を含み、10mgの粉末で最大用量の1.5mgのGLP−1を提供した。アンダーセンカスケード測定では、35〜70%の粒子の空気力学的な直径が5.8μm未満であることが示された。1.5mgのGLP−1用量によって、1回目の試料採取時間(3分)では300pmol/L超の活性GLP−1の平均ピーク濃度が得られ、その結果、1回目の測定時点(6分)における平均インスリンピーク濃度は375pmol/Lとなり、投与から20分後に、血漿中の空腹時平均グルコースは85〜70mg/dLに低下し、十分に耐用され、かつ悪心も嘔吐も引き起こさなかった。
【0118】
実施例2
雄のズッカー糖尿病肥満ラットへのGLP−1およびエクセナチドの肺投与とエクセナチドの皮下投与との比較
臨床的に有用な治療に到達するために、より長い循環半減期を有するGLP−1類似体の開発に多大な労力が費やされている。ここに実証されているように、GLP−1(GLP−1(7−36)アミド)の肺投与によって臨床的に重要な活性も提供される。従って、これらの2つの手法を比較することは興味深かった。
【0119】
FDKP粒子の調製
フマリルジケトピペラジン(FDKP)およびポリソルベート80を希釈したアンモニア水に溶解して、2.5重量%のFDKPおよび0.05重量%のポリソルベート80を含有する溶液を得た。次いで、FDKP溶液を、ポリソルベート80含有酢酸溶液と混合して粒子を形成した。この粒子を洗浄し、クロスフロー濾過で濃縮して約11重量%の固体を得た。
【0120】
GLP−1原液の調製
60mgのGLP−1の固体(86.6%のペプチド)と451mgの脱イオン水とを一緒にして10重量%のGLP−1を脱イオン水に溶解した原液を調製した。約8μLの氷酢酸を添加してペプチドを溶解した。
【0121】
GLP−1/FDKP粒子の調製
FDKP懸濁原液の一部1g(粒子108mg)を2mLのポリプロピレン試験管に移した。適量のGLP−1原液(表1)をこの懸濁液に添加し、穏やかに混合した。50%(v/v)の水酸化アンモニウムの分割量1μLを添加して、この懸濁液のpHを約3.5〜約4.5に調整した。次いで、GLP−1/FDKP粒子の懸濁液を液体窒素に入れてペレット化し、凍結乾燥した。この乾燥粉末を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した結果、理論値と同程度であることが分かった。
【0122】
エクセナチド原液の調製
281mgのエキセンジンの固体(88.9%のペプチド)と2219mgの2重量%酢酸とを一緒にして2重量%酢酸に溶解した10重量%のエキセンジンの原液を調製した。
【0123】
エクセナチド/FDKP粒子の調製
FDKP懸濁原液の一部1533mg(粒子171mg)を4mLのガラス瓶に移した。エキセンジン原液の一部304mgをこの懸濁液に添加し、穏やかに混合した。25%(v/v)の水酸化アンモニウムの分割量3〜5μLを添加して、この懸濁液のpHを約3.7〜約4.5に調整した。次いで、エクセナチド/FDKP粒子の懸濁液を液体窒素に入れてペレット化し、凍結乾燥した。この乾燥粉末を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した結果、理論値とほぼ同程度であることが分かった。
【0124】
ラットにおける薬物動態学的および薬力学的評価
雄のズッカー糖尿病肥満(ZDF)ラット(5匹/群)を4つの試験群のうちの1つに割り当てた。動物を一晩絶食させた後、被験物質の投与の直前に腹腔内注射によってグルコース(1g/kg)を投与した。対照群の動物には肺ガス注入によって空気を投与した。群1の動物には皮下(SC)注射によってエクセナチド(0.3mg)の食塩水(0.1mL)を投与した。群2の動物には肺ガス注入によって15重量%のエクセナチド/FDKP(2mg)を投与した。群3の動物には肺ガス注入によって15重量%のGLP−1/FDKP(2mg)を投与した。投与前および投与から15、30、45、60、90、120、240および480分後に血液試料を尾部から採取した。血漿を回収した。血中グルコースおよび血漿中GLP−1または血漿中エクセナチドの濃度を測定した。
【0125】
エクセナチドの薬物動態は図7Aに報告されている。これらのデータは、エクセナチドがエクセナチド/FDKP粉末のガス注入後に急速に吸収されることを示した。吸入用エクセナチドの生物学的利用能は皮下注射と比較して94%であった。これは、肺投与はエクセナチドに特に有利であることを示しているかもしれない。循環エクセナチドの最大ピーク濃度までの時間(Tmax)は、吸入用エクセナチドを投与したラットにおける15分未満と比較して、皮下用エクセナチドを投与したラットでは30分であった。このTmaxは、ガス注入用GLP−1/FDKPのTmaxに類似していた(データは示さず)。
【0126】
比較した薬力は図8に報告されている。これらのデータは4つの試験群すべてについての血中グルコースの変化を示した。グルコース負荷試験後のグルコースの逸脱は、皮下用エクセナチドを投与した動物と比較すると、吸入用エクセナチド/FDKPを投与した動物では小さかった。エクセナチドの曝露は両群で同程度であるため(図7)、これらのデータは、エクセナチド/FDKP群におけるエクセナチドのピーク濃度までの時間がより短いことから、より良好なグルコース制御が得られることを示している。さらに、グルコースの逸脱は、GLP−1/FDKPまたはエクセナチド/FDKPのいずれか一方を投与した動物において同程度であった。エクセナチドの循環半減期(89分)はGLP−1の循環半減期(15分)よりもかなり長いため、これらのデータは驚くべきものである。実際、エクセナチドは、有効性を高める目的で、循環半減期を最大にするために開発された。これらのデータは、肺投与を用いた場合、エクセナチドのより長い循環半減期によって、高血糖症の制御において何も利点が得られないことを示している。さらに、いずれか一方の分子の肺投与によって、皮下用エクセナチドよりも優れた血中グルコース制御が得られた。
【0127】
図7は、皮下用エキセンジン−4に対して肺ガス注入によって投与されるエキセンジン−4/FDKP粉末製剤を投与した雄のZDFラットにおける血漿中の平均エキセンジン濃度を示す。黒四角は、エキセンジン−4/FDKP粉末の肺ガス注入後の応答を表わす。白四角は、皮下投与用エキセンジン−4の投与後の応答を表わす。データは±標準偏差としてプロットされている。データは、0.12、0.17および0.36mgのGLP−1用量を提供する粉末をガス注入したラットにより、それぞれ2.3、4.9および10.2nMの血漿中GLP−1最高濃度(Cmax)および57.1nM/分、92.6nM/分および227.9nM/分の曝露(AUC)が得られたことを示している(tmax=10分、t1/2=10分)。4日間連続の1日あたり0.3mgのGLP−1の投与後に行われた腹腔内グルコース負荷試験では、治療した動物は対照群よりも有意に低い血糖値を示した(p<0.05)。負荷から30分後に、グルコースは、対照動物において47%も上昇したが、治療した動物では17%のみの上昇であった。
【0128】
図8は、皮下用エキセンジン−4および肺ガス注入によって投与されるエキセンジン−4に対して、肺ガス注入による空気対照、エキセンジン−4/FDKP粉末またはGLP−1/FDKP粉末のいずれかを投与した雄のZDFラットにおけるベースラインからの血中グルコースの変化を示す。黒菱形はエキセンジン−4/FDKP粉末の肺ガス注入後の応答を表わす。黒丸は皮下用エキセンジン−4の投与後の応答を表わす。黒三角はGLP−1/FDKP粉末の投与後の応答を表わす。黒四角は空気単独の肺ガス注入後の応答を表わす。白四角は、ラットにガス注入による2mgのGLP−1/FDKPを与えた後にガス注入による2mgのエキセンジン−4/FDKP粉末も投与して得られた応答を表わす。
【0129】
実施例3
オキシントモジュリン/FDKP粉末の調製
グルカゴン−37としても知られているオキシントモジュリンは、37個のアミノ酸残基からなるペプチドである。このペプチドは、カリフォルニア州サニーヴェールのAmerican Peptide社で製造されており、そこから入手した。FDKP粒子の懸濁液を、オキシントモジュリン溶液と混合した後、液体窒素中でペレットとして急速冷凍し、凍結乾燥して試料粉末を生成した。
【0130】
5%〜30%の標的ペプチド含有量を有する6種類の粉末を調製した。HPLCで測定した実際のペプチド含有量は4.4%〜28.5%であった。10%のペプチドを含有する粉末の空気力学的特性を、カスケード衝突を用いて分析した。
【0131】
次いで、FDKP溶液をポリソルベート80含有酢酸溶液と混合して粒子を形成した。この粒子を洗浄し、クロスフロー濾過で濃縮して約11重量%の固体を得た。
FDKP粒子の懸濁液(1885mg×11.14%の固体=FDKP粒子210mg)を4mLの透明のガラス瓶に秤量した。この瓶に蓋をし、磁気撹拌器を用いて混合して沈降を防止した。オキシントモジュリン溶液(10%ペプチドの2重量%酢酸溶液909mg)をこの瓶に添加し、混合し続けた。最終的な組成物の比は約30:70=オキシントモジュリン:FDKP粒子であった。オキシントモジュリン/FDKP懸濁液の最初のpHは4.00であり、1:4(v/v)水酸化アンモニウム/水を2〜10μLずつ添加することによってpHを4.48に調整した。この懸濁液を液体窒素の入った小型の結晶皿に入れてペレット化した。この皿を凍結乾燥器に入れ、200mTorrで凍結乾燥した。棚温度を0.2℃/分で−45℃から25℃に上昇させた後、約10時間25℃に維持した。得られた粉末を4mLの透明のガラス瓶に移した。瓶へ移した後の粉末の全収率は309mg(103%)であった。オキシントモジュリン調製物を炭酸水素ナトリウムで希釈し、かつ220および280nmでの波長検出装置を備え、かつ移動相として0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)を含む脱イオン水および0.1%のTFAを含むアセトニトリルを用いるWaters 2695分離システムの高圧液体クロマトグラフィーで分析することにより、オキシントモジュリン含有量について試料を試験した。WATERS EMPOWER(商標)ソフトウエアプログラムを用いてデータを分析した。
【0132】
ラットにおける薬物動態学的および薬力学的評価
雄のZDFラット(10匹/群)を4つの群のうちの1つに割り当てた。1つの群の動物には静脈内注射によってオキシントモジュリンを投与した。他の3つの群の動物には、肺ガス注入によって5%オキシントモジュリン/FDKP粉末(0.15mgのオキシントモジュリンを含有)、15%オキシントモジュリン/FDKP粉末(0.45mgのオキシントモジュリンを含有)または30%オキシントモジュリン/FDKP粉末(0.9mgのオキシントモジュリンを含有)を投与した。血漿中オキシントモジュリン濃度の測定のために、投与前およびの投与後の種々の時間に尾部から血液試料を採取した(図9A)。オキシントモジュリン投与後の種々の時間に摂食量も監視した(図9B)。
【0133】
図9Aは、静脈内注射によってオキシントモジュリンを投与した対照のラットと種々の量での吸入可能な乾燥粉末製剤投与後の雄のZDFラットのオキシントモジュリンの血漿中濃度を比較するグラフである。これらのデータは、オキシントモジュリンがオキシントモジュリン/FDKP粉末のガス注入後に急速に吸収されることを示している。循環オキシントモジュリンの最大ピーク濃度までの時間(Tmax)は、吸入用オキシントモジュリンを投与したラットでは15分未満であった。この調査により、オキシントモジュリンの循環半減期が肺投与から約22〜約25分後であることが分かる。
【0134】
図9Bは、空気流を投与した対照動物と比較して、静脈内オキシントモジュリンまたは肺ガス注入によって投与されるオキシントモジュリン/FDKP粉末で治療した雄のZDFラットにおける累積摂食量を示す棒グラフである。データは、オキシントモジュリン/FDKPの肺投与によって、単回用量による静脈内オキシントモジュリンまたは空気対照のいずれか一方よりも大きく摂食量が減少したことを示している。
【0135】
同様の一連の実験において、肺ガス注入によって対照としての空気流(群1)または30%オキシントモジュリン/FDKP粉末をラットに投与した。オキシントモジュリン/FDKP吸入粉末を投与したラットには、上記のように調製した0.15mgのオキシントモジュリン(0.5mgのオキシントモジュリン/FDKP粉末として、群2)、0.45mgのオキシントモジュリン(1.5mgのオキシントモジュリン/FDKP粉末として、群3)または0.9mgのオキシントモジュリン(3mgのオキシントモジュリン/FDKP粉末として、群4)のうちのいずれかの用量を投与した。この調査は、実験の開始の24時間前から絶食させたZDFラットで行なった。ラットは実験用量の投与後に摂食が許可された。所定の量の食物をラットに与え、実験開始後の種々の時間にラットが消費した食物の量を測定した。オキシントモジュリン/FDKP乾燥粉末製剤を肺ガス注入によってラットに投与し、食物の測定および血液試料の採取を投与後の種々の時点で行なった。
【0136】
図10Aおよび図10Bはそれぞれ、すべての試験動物についての循環オキシントモジュリン濃度および対照からの摂食量の変化を示す。オキシントモジュリンを投与したラットの食物消費は、投与から最長6時間後まで、対照のラットよりも著しく少なかった。より高用量のオキシントモジュリンによって、より低用量のオキシントモジュリンよりも有意に食欲が抑制されるようであり、これは、より高用量を投与したラットの食物消費が投与後に測定されたすべての時点において最少であったため、食欲の抑制が用量に依存していることを示していた。
【0137】
オキシントモジュリンの血中最高濃度は10〜30分で検出され、1.5mgのオキシントモジュリンを投与したラットの血漿中最高濃度が311μg/mLであり、かつ3mgのオキシントモジュリンを投与したラットの血漿中最高濃度が660μg/mLであったため、オキシントモジュリンのその最高濃度は用量に依存していた。肺ガス注入による投与後のSDラットにおけるオキシントモジュリンの循環半減期(t1/2)は約25〜51分の範囲であった。
【0138】
実施例4
2型糖尿病患者への吸入可能な乾燥粉末としてのGLP−1の投与
肺吸入によるGLP−1乾燥粉末製剤を用いて治療前後の患者の血糖値を評価するために、2型糖尿病に罹患している患者においてGLP−1/FDKP吸入粉末の第1相臨床試験を行なった。これらの調査は、実施例1に従って、かつ本明細書に記載されているように行なった。米国特許出願第11/735,957号(この開示内容は参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているように、GLP−1吸入粉末を調製した。乾燥吸入粉末は、単回用量カートリッジ内にFDKPを含有する乾燥粉末製剤計10mg中に1.5mgのヒトのGLP−1(7−36)アミドを含有していた。この調査のために、成人男性および閉経後の女性を含む2型糖尿病に罹患している20人の患者を一晩絶食させ、GLP−1吸入粉末投与から4時間後まで絶食させ続けた。乾燥粉末製剤は、MEDTONE(登録商標)乾燥粉末吸入器(MannKind社)を用いて投与し、それについては、米国特許出願第10/655,153号に記載されており、その開示内容全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0139】
血清中グルコース濃度を評価するための血液試料を、投与の30分前、投与時(0時)、およびGLP−1投与から約2、4、9、15、30、45、60、90、120および240分後に、治療される患者から入手した。各試料の血清中グルコース濃度を分析した。
【0140】
図11は、これらの調査の結果を示すグラフであり、GLP−1を含有する単回用量の吸入可能な乾燥粉末製剤投与後の種々の時点における6人の絶食した2型糖尿病患者から得られた血糖値を示す。6人の患者全員の血糖値はGLP−1投与後に低下し、この調査の終了時点の投与から少なくとも4時間後まで低下し続けた。
【0141】
図12は、図11に血糖値が示されている6人の絶食した2型糖尿病患者の群についての平均血糖値を示すグラフである。図12では、血糖値は、6人の患者全員について、0時(投与)からの血糖値の平均的変化として表わされている。図12は、グルコースの約1mmol/Lの平均的低下を示し、これは、約18mg/dL〜約20mg/dLにおよそ等しく、30分時点までに達成される。血糖値のこの平均的低下は120分間続いた。この変化は、より高いベースライングルコースを有する対象においてより大きく、かつより長期にわたっていたが、6人のうちの2人の対象においては、最も低いベースライン空腹時血中グルコースを有するこれらの対象は、この時間枠において血糖値の一時的な低下のみを示した(データは示さず)。より高い空腹時グルコースを有する対象は典型的に、より低い値を有する対象と同じインスリン応答を有しないため、刺激されると、より高い空腹時グルコースを有する対象は典型的に血糖値が正常により近い対象よりも大きな応答を示すことが注目された。
【0142】
実施例5
そのままの状態のGLP−1の脳および肝臓への初回通過分布モデル
肺送達および静脈内ボーラス投与後の体循環によるGLP−1の初回通過分布を計算して、GLP−1の両投与方法についての送達の有効性を決定した。(1)肺から肺静脈へのGLP−1の吸収はゼロ次速度過程を示した、(2)GLP−1の脳および脳内への分布は即座に生じる、および(3)GLP−1の脳および肝臓分布からのクリアランスは基礎血流のみによって促進される、という仮定に基づいてモデルを開発した。これらの仮定に基づき、脳および肝臓内のGLP−1の量を測定するための分析は、ある組織および臓器によるGLP−1の抽出(Deacon, C.F.ら「Glucagon-like peptide 1 undergoes differential tissue-specific metabolism in the anesthetized pig(グルカゴン様ペプチド1は麻酔をしたブタにおいて差動的組織特異的代謝を受ける)」米国生理学会、1996年、E458〜E464頁)、ならびにヒトの研究からの心拍出量による体への血流分布および速度(Guyton Textbook of Physiology(生理学についてのガイトンの教科書)、第10版;W. B. Saunders、2000年、176頁)に関する公開データに基づいていた。安静時の血圧などの正常な生理学的パラメータを有する正常な対象(70kg)では、脳および肝臓への基礎流量はそれぞれ、700mL/分および1350mL/分である。心拍出量に基づいて、体への血流分布は、脳に14%、肝臓に27%および残りの体組織に59%と計算されている(Guyton)。
【0143】
上述したパラメータを用いて、肺および静脈内投与によって投与される1mgの用量について、脳および肝臓に分布されるGLP−1の相対量を測定した。1mgのGLP−1を60秒で割り、得られた数に脳への14%の流れ分布を乗算した。従って、毎秒、用量の一部が脳に出現する。脳内の血液が150mLに等しく、かつクリアランス速度が700mL/分であることを示す入手可能なデータから、GLP−1のクリアランスに関する計算によって約12mL/秒が得られ、これは、1秒ごとに脳から排出されている血液量の約8%に等しい。Deaconらによって報告されたブタにおける静脈内の研究では、GLP−1の40%は静脈内で即座に代謝され、10%も肺の中の脱酸素化血液中で代謝された。従って、静脈内のデータ分析に関する計算では、投与される総量から総GLP−1の40%およびその後の別の10%を減算した。
【0144】
肝臓中の推定されるGLP−1量については、静脈内および肺投与経路に対して同じ分解を仮定し、静脈内用量の40%とその後の別の10%の全損失が伴うものとした。残りのGLP−1の27%が肝臓に分配され、血液の75%が最初に門脈床を通過すると仮定した。肝臓における血液の瞬時分布を仮定した。計算は以下のとおりであった:1mgのGLP−1を60秒で割り、静脈内のデータ分析を考慮して、投与される総量から総GLP−1の40%とその後の別の10%を減算した。肺投与については全く分解を仮定しなかった。両投与経路について、得られた数に肝臓への27%の流れ分布を乗算し、この量の75%が最初に門脈床を通過するものとした。Deaconらによって報告されたブタにおける静脈内の研究では、門脈床による20%の抽出が報告され、従って、GLP−1の量の75%が肝臓への導入前に20%だけ減少した。従って、毎秒肝臓に出現するGLP−1の総量は門脈床で代謝を受けた部分で構成されていた。肝臓中の血液量が750mLに等しく、かつクリアランス速度が1350mL/分であることを示す入手可能なデータから、GLP−1のクリアランスについての計算により約22.5mL/秒が得られ、これは、1秒ごとに肝臓から排出されている血液量の約3%に等しい。Deaconらは肝臓における45%の分解を報告したため、それに応じて、総GLP−1の45%を肝臓に出現している総量から減算し、残りを総残量に加算した。
【0145】
上記計算の結果を表4および表5に示す。肺投与後の脳および肝臓における計算したGLP−1の分布(表4)を以下に示す:
【0146】
【表4】
【0147】
静脈内ボーラス投与後のGLP−1の分布を示す結果を以下の表5に示す:
【0148】
【表5】
【0149】
上のデータは、内因性酵素によるGLP−1の分解後の体の具体的な組織へのGLP−1の分布の代表的な例示である。上の測定値によれば、肺投与後の脳および肝臓におけるGLP−1量は、静脈内ボーラス投与後のGLP−1量よりも約1.82〜約1.86倍多い。従って、このデータは、GLP−1の肺送達は、投与後の種々の時間におけるGLP−1量が静脈内投与で得られる量の約2倍であるため、GLP−1の静脈内投与と比較した場合、より有効な送達経路となり得ることを示している。従って、肺投与によるGLP−1を含む疾患または障害の治療方法に必要とされる総量はより少なく、すなわち同じまたは類似の効果を生じさせるために必要な静脈内GLP−1用量のほぼ半分となる。
【0150】
実施例6
この実施例における調査は、皮下投与による種々の活性剤、および肺ガス注入によって投与されるZDFラットへのFDKP、FDK二ナトリウム塩、スクシニル置換DKP(SDKP、本明細書では化合物1ともいう)または非対称(フマリル一置換)−DKP(本明細書では化合物2ともいう)を含む製剤としての種々の活性剤の薬物動態パラメータを測定するために行なった。ラットを8群に分け、5匹のラットを各群に割り当てた。群1の各ラットには肺の液体点滴注入によって0.3mgの用量のエキセンジン−4のリン酸緩衝食塩水を投与し、群2には皮下注射によって0.3mgのエキセンジン−4のリン酸緩衝食塩水を投与した。
【0151】
群3〜8のラットには、以下のように肺ガス注入によって活性剤またはエキセンジン−4を投与した:群3のラットには肺ガス注入によって2mgのGLP−1/FDKP製剤を投与した後、2mgの用量のエキセンジン−4を投与し、群4にはエキセンジン−4/FDKP製剤を投与し、群5のラットにはFDKPの二ナトリウム塩に9.2%の負荷として製剤化された3mgの用量のエキセンジン−4を投与し、群6のラットにはFDKPの二ナトリウム塩に13.4%の負荷として製剤化された2mgの用量のエキセンジン−4を投与し、群7のラットにはSDKPに14.5%の負荷として製剤化された2mgの用量のエキセンジン−4を投与し、群8のラットには非対称(フマリル一置換)DKPに13.1%の負荷として製剤化された2mgの用量のエキセンジン−4を投与した。
【0152】
多数の対象に対応するために、2日間にわたって動物への投与を行なった。動物に種々の被験物質を投与し、投与後の種々の時間に血液試料を採取した。血漿分離株中のエキセンジン−4の濃度を測定し、その結果を図13に示す。グラフに示すように、FDKPを含有する製剤としてエキセンジン−4を投与した群4の治療したラットは、皮下投与によってエキセンジン−4を投与した群2のラットよりも30分も早くかつ高濃度で、高濃度の血中エキセンジン−4を示した。すべての群において、エキセンジン−4の濃度は、投与から約1時間に急激に低下した。
【0153】
ZDFラットにおける肺ガス注入によるエキセンジン−4/FDKPの投与は、皮下注射として投与されるエキセンジン−4と同様の用量で正規化されたCmax、AUCおよび生物学的利用能を有する。肺ガス注入によって投与されるエキセンジン−4/FDKPは、皮下注射によるエキセンジン−4と比較して、2倍超の循環半減期を示した。フマリル(一置換)DKP、またはSDKP製剤として投与されるエキセンジン−4は、皮下注射と比較して、より低い用量で正規化されたCmax、AUCおよび生物学的利用能を示したが(約50%未満)、肺の点滴注入よりも高濃度を示した。
【0154】
一晩の絶食後、ZDFラットに腹腔内注射によるグルコース負荷(IPGTT)を行なった。エキセンジン−4/FDKPでの治療は、皮下経路によるエキセンジン−4と比較して、IPGTT後の血糖値のより大きな低下を示した。空気対照動物と比較すると、皮下注射によるエキセンジン−4、肺投与によるエキセンジン−4/FDKP粉末を投与した動物のそれぞれにおいて、IPGTTから30および60分後に血糖値が有意に低下した。腹腔内グルコース投与(IPGTT)での治療後に、肺ガス注入によってエキセンジン−4/FDKPおよびGLP−1で治療した群3のZDFラットは、驚くべきことに、投与から30分後にいずれかの治療方法単独と比較して、IPGTT後により低い血糖値を示した(−28%対−24%)。
【0155】
実施例7
この実施例における調査は、静脈内注射と比較して、ZDFラットへの肺投与によるペプチドYY(3−36)製剤の薬物動態学的および薬力学的プロファイルを測定するために行なった。
【0156】
肺送達用のPYY/FDKP製剤の調製:これらの実験で使用するペプチドYY(3−36)(PYY)をAmerican Peptide社から入手し、pHの関数としてFDKP粒子に吸着させた。85.15mgのPYYを8mlの透明の瓶に秤量し、かつ最終重量が762mgになるように2%酢酸水溶液を添加して、10%ペプチド原液を調製した。このペプチドを穏やかに混合して透明の溶液を得た。PYY溶液を含む瓶にFDKP懸濁液(4968mg、424mgのFDKP既製粒子を含有)を添加し、それによりPYY/FDKP粒子懸濁液を形成した。この試料を磁気撹拌板上に置き、実験の間中ずっと入念に混合した。マイクロpH電極を使用して混合物のpHを監視した。14〜15%のアンモニア水溶液の分割量2〜3μLを使用して試料のpHを徐々に増加させた。各pH点で、試料体積(上澄み分析のために75μL、懸濁液のために10μL)を取り出した。上澄み分析のための試料を1.5mlの0.22μm濾過管に移し、遠心分離した。懸濁液および濾過した上澄み試料を50mMの炭酸水素ナトリウム溶液990μLを含むHPLCオートサンプラー瓶に移した。希釈した試料をHPLCで分析して調製物の特性を評価した。この実験は、例えば10.2%のPYY溶液をpH4.5でFDKP粒子に吸着させることができることを示した。この特定の調製物では、例えば、得られた粉末のPYY含有量が14.5%(w/w)であるとHPLCによって決定した。この粉末の空気力学的な特性のカスケード測定によって、MEDTONE(登録商標)乾燥粉末吸入器(MannKind社)によって放出される場合、98%のカートリッジの排出による呼吸可能な割合は52%であることが分かった。上記結果に基づいて、5%、10%、15%および20%のPYYを含むPYY/FDKP粉末の複数の試料を調製した。
【0157】
薬物動態学的および薬力学的調査:これらの実験では雌のZDFラットを使用し、7つの群に分けた。3匹のラットを有する群1以外は5匹のラットが各群に割り当てられた。ラットは、割り当てたられた用量の投与の24時間前から絶食させ、投与直後に食物を与え、実験の期間中、要望に応じて摂食を許可した。群1の各ラットには静脈内用量0.6mgのPYYのリン酸緩衝食塩水を投与し、群2のラットにはPYYの肺の液体点滴注入1.0mgを投与し、群3のラットは対照に指定して空気流を投与し、群4〜7のラットには、以下のように肺ガス注入によって投与される吸入用の乾燥粉末製剤を投与した:群4のラットには5%のPYY(w/w)を負荷した3mgのPYY/FDKP粉末製剤として0.15mgのPYYを投与し、群5のラットには10%のPYY(w/w)を負荷した3mgのPYY/FDKP粉末製剤として0.3mgのPYYを投与し、群6のラットには15%のPYY(w/w)を負荷した3mgのPYY/FDKP粉末製剤として0.45mgのPYYを投与し、群7のラットには20%のPYY(w/w)を負荷した3mgのPYY/FDKP粉末製剤として0.6mgのPYYを投与した。
【0158】
投与から30、60、90、120、240分および24時間後に各ラットの摂食量を測定した。投与前および投与から5、10、20、30、45、60および90分後にラットから採取した血液試料から、各ラットの血漿中PYY濃度および血糖値を測定した。これらの実験の結果を図14〜図16および以下の表6に示す。図14は、種々の用量において静脈内投与およびフマリルジケトピペラジンを含む製剤として肺投与によってPYY製剤を投与した雌のZDFラットの摂食量を測定する実験からの代表的なデータの棒グラフである。データは、対照と比較した場合、点滴注入によってPYYを投与した群2以外のPYYで治療したすべてのラットについて摂食量が減少したことを示す。ラットによる摂食量の減少は、対照と比較した場合、PYY投与から30、60、90および120分後では肺ガス注入によって治療したラットにおいて統計学的に有意であった。図14のデータは、静脈内投与(群1)はラットの摂食量の減少に比較的有効であり、FDKP製剤として肺経路によって投与した同量のPYY(0.6mg)(群7)は、より長期間の食物摂取量の減少または食欲の抑制により有効であることも示している。PYY−FDKP粉末を肺投与したPYYで治療したすべてのラットは、対照と比較した場合、食物の消費が少なかった。
【0159】
図15は、静脈内投与によるPYY製剤および肺投与によるフマリルジケトピペラジンを含む種々の製剤を投与した雌のZDFラットおよび空気対照のラットにおいて測定した血糖値を示す。データは、肺ガス注入によってPYYで治療したラットの血糖値は、PYYの静脈内投与で治療した群1のラット以外は対照と比較的類似した状態を維持していたことを示している。群1のラットは、投与から最長約15分後に、他のラットと比較した場合、最初のより低い血糖値を示した。
【0160】
図16は、投与後の種々の時間において、静脈内投与によるPYY製剤および肺投与によるフマリルジケトピペラジンを含む種々の製剤を投与した雌のZDFラットおよび空気対照のラットにおける血漿中PYY濃度を測定する実験からの代表的なデータを示す。これらの測定値を表6にも示す。データは、PYYを静脈内投与した群1のラットが肺ガス注入によって治療したラットよりも高い血漿中PYY濃度(30.7μg/mL)を達成したことを示している。PYYの血漿中ピーク濃度(Tmax)は、群1、6および7のラットでは約5分、群2、4および5のラットでは10分であった。データは、PYY/FDKP製剤を有する肺ガス注入によって治療したすべてのラットがそれらの血漿試料中に測定可能な量のPYYを有していたが、群7のラットが最も高い血漿中PYY濃度(4.9μg/mL)を有し、濃度は投与から最長約35分後まで他の群よりも高いままであったことを示している。データは、肺ガス注入によって投与されるPYYの血漿中濃度が用量に依存していることも示している。静脈内注射による投与によって、使用した投与量においてPYY/FDKPの肺投与と同様にPYYの静脈血漿中濃度が上昇したが、依然として摂食量のより大きな抑制はPYY/FDKPの肺投与において達成された。
【0161】
【表6】
【0162】
図17は、インスリン、エキセンジン、オキシントモジュリンおよびPYYなどのいくつかの活性剤について測定され、かつそれらと共に例証される本薬物送達システムの有効性を示す。具体的には、図17は、上述した活性剤の静脈内および皮下投与と比較して、肺の薬物送達システムの薬物曝露と生体効果との関係を実証する。図17のデータは、本肺薬物送達システムは静脈内もしくは皮下投与よりも少ない量の薬物曝露によって、より大きな生体効果が得られることを示している。従って、標準的な治療方法と比較した場合、所望の薬物の同様またはそれ以上の効果を得るために必要とされる薬物曝露をより少なくすることができる。従って、一態様では、糖尿病、高血糖症および肥満症などの疾患の治療のためのGLP−1、オキシントモジュリン、PYYなどのペプチド類などの活性剤の送達方法は、治療を必要としている対象に1種または2種以上の活性剤およびジケトピペラジンを含む吸入可能な製剤を投与することを含み、それにより、他の投与様式によって同様の効果を得るために必要とされるよりも活性剤に対する少ない曝露で治療効果が認められる。一態様では、活性剤としては、ペプチド類、タンパク質、リポカインが挙げられる。
【0163】
実施例8
2型糖尿病における食後のGLP−1活性の評価
この調査の目的は、食後の血糖値に対するGLP−1乾燥粉末製剤の効果を評価し、かつ有害事象、GPL−1活性、インスリン応答および胃内容排出を含むその安全性を評価することであった。
【0164】
実験計画:この調査は2つの期間に分け、20〜64歳の年齢の2型糖尿病に罹患している20人の患者が参加した。期間1は、非盲検の単回投与試験であり、ここでは、患者のうちの15人に、一晩絶食させた後に投与されるFDKP中に1.5mgのGLP−1を含む乾燥粉末製剤を投与した。対照として、5人の対象に一晩の絶食後にFDKP吸入粉末を投与した。期間2は期間1の完了後に行なった。この調査のこの部分において、患者に、それぞれ475Kcalからなり、かつマーカーとして13C−オクタン酸で標識した食事負荷を有する4種類の連続した治療を与えた。この調査は、二重盲検およびダブルダミーの交差食事負荷試験として設計し、ここでは、対照としての食塩水およびエクセナチドを注射として食事の15分前に投与し、吸入可能なGLP−1の乾燥粉末製剤またはGLP−1を含まない乾燥粉末製剤からなるプラセボを食事の直前に投与し、食後30分間繰り返した。4種類の治療は以下の通りであった:治療1は、GLP−1を含まない1.5mgの乾燥粉末製剤のプラセボが投与されるすべての患者で構成されていた。治療2では、すべての患者に、FDKPを含む乾燥粉末製剤として1回用量の1.5mgのGLP−1を投与した。治療3では、すべての患者にFDKPを含む乾燥粉末製剤として2回用量の1.5mgのGLP−1を投与し、1つの用量は食事の直前に、もう1つの用量は食後30分に投与した。治療4では、患者に皮下注射による10μgのエクセナチドを投与した。各患者からの血液試料を投与前後の種々の時間に採取し、GLP−1濃度、インスリン応答、血糖値および胃内容排出を含むいつくかのパラメータについて分析した。この調査の結果を図18〜図20に示す。
【0165】
図18は、上記のような治療群によるGLP−1の平均血中濃度を示す。データは、FDKP中に1.5mgのGLP−1を含む乾燥粉末製剤を投与した患者がパネルA、BおよびCに示すように投与直後の有意に高い血中GLP−1濃度を有し、かつGLP−1の濃度が摂食もしくは絶食した個体において投与後に急激に低下したことを示している。エクセナチドで治療した群(パネルD)または乾燥粉末製剤を投与した対照(パネルE)では測定可能なGLP−1濃度は存在しなかった。
【0166】
図19は、調査における患者の治療の前後のインスリン濃度を示す。データは、プラセボを投与した絶食した対照患者(パネルC)以外の食事負荷試験において、プラセボで治療した患者(パネルB)を含むすべての患者において治療後に内因性インスリンが産生されたことを示す。但し、インスリン応答は、FDKPを含む乾燥粉末組成物としてGLP−1を投与した患者においてより有意であり、ここでは、摂食および絶食した群(パネルD〜F)の両方に治療直後のインスリン応答が観察された。絶食した対象では、内因性インスリンの平均ピーク放出は肺送達によるGLP−1投与後に約60μU/mLであった(パネルE)。この結果は、GLP−1の乾燥粉末製剤で治療した患者の血糖値が低下したことも示していた。GLP−1の乾燥粉末製剤の投与により、血中グルコースの上昇が遅くなり、かつグルコースへの全体的な曝露(AUC)が減少した。上昇の遅れおよび曝露の減少はどちらも、GLP−1吸入粉末の2回目の投与を行なった対象においてより顕著であった(データは示さず)。インスリン放出の大きさは患者によって異なり、少量だが生理的に適切な濃度のインスリンを示すものもいれば、より多くのインスリン放出を示すものもいた。患者間のインスリン応答の差異にも関わらず、グルコース応答は類似していた。このインスリン応答の差異は、インスリン抵抗性および疾患の進行の程度の差異を反映しているのかもしれない。この応答の評価を疾患の進行の診断上の指標として使用することができ、この指標では、より多くの放出(血糖値の制御におけるより大きな有効性を欠いている)は、より大きなインスリン抵抗性および疾患の進行を示している。
【0167】
図20は、治療群による胃内容排出の割合を示す。パネルA(治療3の患者)およびパネルB(治療2の患者)の患者は、パネルDに示す対照患者(GLP−1を含まないFDKPを含む乾燥粉末製剤を用いたプラセボ治療患者)に類似した胃内容排出特性もしくは割合を有していた。データは、エクセナチドで治療した患者は、対照と比較した場合、10μgの用量でさえ胃内容排出における有意な遅れまたは阻害を示したことも示している。食事の4時間後に、摂取した13C−オクタン酸からの90%超の13Cが体内に吸収されなかった。対照的に、吸入用GLP−1/FDKPで治療した患者では、食事の4時間後に、摂取した13C−オクタン酸の60%未満が吸収されなかった。データは、FDKPおよびGLP−1などの活性剤を送達するための本システムは、胃内容排出の阻害がなく、GLP−1送達後に急速なインスリン放出を誘発し、かつグルコースAUC濃度の低下を引き起こすことも実証している。
【0168】
実施例9
GLP−1投与への応答はベースライン血糖値に依存している
この実施例では、正常な絶食中の対象および2型糖尿病に罹患している対象(T2DM)にGLP−1を投与した上記実施例1および8に示した調査からのデータを示す。すべての対象が正常な肺機能を有する非喫煙者であった。FDKPを含む製剤として1.5mgのGLP−1を吸入によって絶食中の対象に投与した。1回目の調査では、6人の正常な対象にGLP−1を投与した。2回目の調査では、T2DMに罹患している15人の対象にGLP−1を投与し、T2DMに罹患している5人の対象にプラセボを投与した。上の実施例1および8に記載されているようにすべての対象の血糖値を測定し、そのデータを図21に示す。
【0169】
正常な対象における対照は、実験の間中ずっと約4mmol/L〜約5mmol/Lの範囲のベースライン血糖値を示した。吸入によって投与されるGLP−1によって0.8mmol/Lの一時的なグルコースの減少が生じた。最小の血糖値はGLP−1製剤の吸入から約15分後に生じた。血糖値の減少後、血糖値は1時間でベースライン濃度に戻った。応答の持続期間はGLP−1のt1/2(2分以下)よりも非常に長かった。
【0170】
T2DMに罹患している対象におけるGLP−1への応答は血糖値に依存していた。GLP−1を投与したT2DMに罹患している15人の対象のうち、11人が9mmol/L超のベースライン血漿中グルコース濃度(BlGlu)を有し、4人が9mmol/L未満のBlGluを有していた。9mmol/L未満の血糖値を有する対象の平均的最大低下は0.75mmol/Lであった。最低値に到達する時間は約1/2時間であった。血糖値は回復したが、4時間後にベースライン濃度に戻らなかった。9mmol/L超の血糖値を有する対象のグルコースは1.2mmol/L低下した。応答の持続期間はより長かったが、それは吸入から45分後に最低値が生じて、最低濃度から戻らなかったためである。プラセボで治療した対象では、吸入後の最初の2時間にわたってグルコースに全く変化はなかった。
【0171】
データは、ジケトピペラジンを含む製剤としてのGLP−1の吸入によって、試験した対象において、膵臓β細胞における内因性インスリン産生を示す血漿中インスリンの急激な上昇(spike)または増加が生じることを示している。このインスリンの急速なパルスによって、より上昇した空腹時血漿中グルコース濃度を有するT2DMに罹患している対象において、長期にわたりかつより顕著な血漿中グルコース濃度の低下を生じさせることができる。
【0172】
特定の態様を参照しながら本発明について詳細に図示および説明してきたが、当然のことながら、上に開示されている特徴および機能ならびに他の特徴および機能の変形またはその代替形態は、多くの他の異なるシステムまたは用途に望ましく組み合わせてもよい。また、現時点で予期または予測されないそれらに関する様々な代替形態、修正、変形または改善が後に当業者によってなされてもよく、それらも以下の特許請求の範囲に包含されることが意図されている。
【0173】
別段の記載がない限り、本明細書および特許請求の範囲に使用されている成分の量を表わす全ての数、分子量、反応条件のような特性などは、「約」という用語によって全ての場合に修正されるものとして理解されるべきである。従って、反対の記載がない限り、本明細書および添付の特許請求の範囲に記載されている数値パラメータは、本発明によって得ることが求められている所望の特性に応じて変動し得る近似値である。少なくとも、そして、特許請求の範囲に対する均等論の適用を限定しようとするものとしてではなく、各数値パラメータは、少なくとも報告されている有効数字の数を考慮し、かつ通常の丸め技術を適用して解釈されるべきである。本発明の広い範囲を示している数の範囲およびパラメータが近似値であるにも関わらず、具体的な実施例に記載されている数値は可能な限り正確に報告されている。但し、任意の数値は、各試験測定で認められる標準偏差によって必然的に生じるある種の誤差を本質的に含む。
【0174】
本発明を説明する文脈における(特に、以下の特許請求の範囲の文脈における)「1つの(a)」、「1つの(an)」、「該(the)」という用語および類似の指示対象は、本明細書に別段の記載がない限り、あるいは文脈と明らかに矛盾しない限り、単数および複数の両方を含むように解釈されるものとする。本明細書における値の範囲の記載は、単に、その範囲に含まれる別個の値のそれぞれについて個々に述べるのを省略する方法としての役割を果たすためのものである。本明細書に別段の記載がない限り、別個の値はそれぞれ、本明細書に個々に記載されているかのように本明細書に組み込まれている。本明細書に記載されている全ての方法は、本明細書に別段の記載がない限り、あるいは文脈と明らかに矛盾しない限り、任意の好適な順番で実施することができる。本明細書に提供されているあらゆる例または例示的な言葉(例えば、「〜など」)の使用は、単に本発明をより明確にするためのものであって、他の特許請求がなされていない限り、本発明の範囲を限定するものではない。本明細書におけるいずれの言葉も、特許請求されていない要素が本発明の実施に必須であることを示していると解釈されるべきでない。
【0175】
本明細書に開示されている本発明の他の要素または態様の群は、限定として解釈されるべきではない。各群の構成要素は、個々にあるいは群の他の構成要素または本明細書に記載されている他の要素との任意の組み合わせで参照および特許請求することができる。群の1つまたは2つ以上の構成要素は便宜上および/または特許性のために、群に含めるかそこから削除する場合があると予想される。任意のそのような包含または削除が生じた場合、本明細書はその群を修正されたものとして含み、よって、添付の特許請求の範囲に使用されている全てのマーカッシュ群の記載を達成すると見なされる。
【0176】
本発明者らによって知られている本発明を実施するための最良の形態を含む本発明のある態様が本明細書に記載されている。当然ながら、これらの記載されている態様の変形は、上記説明を読めば当業者には明らかとなるであろう。本発明者は、当業者が必要に応じてそのような変形を用いることを予期しており、本発明者らは、本発明が本明細書に具体的に記載されているものとは別の方法で実施されることを意図している。従って、本発明は、準拠法によって認められるものとして、本明細書に添付されている特許請求の範囲に記載されている主題の全ての修正および均等物を含む。さらに、その全ての可能な変形における上に記載した要素の任意の組み合わせが、本明細書に別段の記載がない限り、あるいは文脈と明らかに矛盾しない限り、本発明に包含されている。
【0177】
さらに、本明細書全体にわたって特許および刊行物を何度も参照している。上で引用されている参考文献および刊行物はそれぞれ個々に、参照により全てが本明細書に組み込まれる。
【0178】
最後に、本明細書に開示されている本発明の態様は、本発明の原理の例示であることを理解されたい。用いることができる他の修正も本発明の範囲に含まれる。従って、限定ではなく例として、本明細書中の教示に従って本発明の他の形態を利用してもよい。従って、本発明は明確に図示および説明されているものに限定されない。
【0179】
本明細書に開示されている具体的な態様は、特許請求の範囲において「〜からなる(consisting of)」または「本質的に〜からなる(consisting essentially of)」という言葉を用いてさらに限定されている場合もある。出願または補正による追加であるかに関わらず、「〜からなる(consisting of)」という移行用語は、特許請求の範囲に使用されている場合、特許請求の範囲に明記されていない全ての要素、工程または成分を除外する。「本質的に〜からなる(consisting essentially of)」という移行用語は、請求項の範囲を明記されている材料または工程および基本的かつ新規な特性(1つまたは2つ以上)に実質的に影響を与えないものに限定する。そのように特許請求されている本発明の態様は、本明細書に本質的または明示的に記載されており、かつ実施可能である。
【0180】
本明細書に開示されている具体的な態様は、特許請求の範囲において「〜からなる(consisting of)」または「本質的に〜からなる(consisting essentially of)」という言葉を用いてさらに限定されている場合もある。出願または補正による追加であるかに関わらず、「〜からなる(consisting of)」という移行用語は、特許請求の範囲に使用されている場合、特許請求の範囲に明記されていないどの要素、工程または成分も排除する。「本質的に〜からなる(consisting essentially of)」という移行用語は、請求項の範囲を明記されている材料または工程および基本的かつ新規な特性(1つまたは2つ以上)に実質的に影響を与えないものに限定する。そのように特許請求されている本発明の態様は、本明細書に本質的または明示的に記載されており、かつ実施可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高血糖症を治療するための薬剤の製造におけるグルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)分子の使用であって、該薬物が約7mmol/L超の空腹時血糖値を有する対象に投与され、かつ該薬剤が治療的有効量のGLP−1分子およびジケトピペラジンを含んでなる吸入可能な乾燥粉末製剤を含む、使用。
【請求項2】
対象が2型糖尿病に罹患している哺乳類である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
吸入可能な乾燥粉末製剤が該製剤中に約0.01mg〜約5mgまたは約0.02mg〜約3mgの量でGLP−1を含む、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
吸入可能な乾燥粉末製剤がDPP−IV阻害剤をさらに含む、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
ジケトピペラジンが、2,5−ジケト−3,6−ジ(4−X−アミノブチル)ピペラジン(式中、Xは、スクシニル、グルタリル、マレイルおよびフマリルからなる群から選択される)またはその薬学的に許容される塩である、請求項1に記載の使用。
【請求項6】
GLP−1分子が、天然のGLP−1、GLP−1代謝物、GLP−1類似体、GLP−1誘導体、長時間作用性GLP−1類似体、GLP−1模倣体、GLP−1ペプチド類似体、生合成のGLP−1類似体またはその組み合わせからなる群から選択され、かつ該GLP−1分子が天然のGLP−1の少なくとも1種の生物活性を有する、請求項1に記載の使用。
【請求項7】
2型糖尿病患者の血糖値を低下させるための薬剤の製造におけるGLP−1分子の使用であって、該薬物が治療を必要としている該患者に投与され、該薬剤が治療的有効量のGLP−1分子およびジケトピペラジンまたはその薬学的に許容される塩を含んでなる肺投与のための吸入可能な乾燥粉末製剤を含み、かつ該2型糖尿病患者が8mmol/L超の空腹時血糖値を有する、使用。
【請求項8】
2型糖尿病患者への該吸入可能な製剤の投与から約4時間後までの期間に、血糖値が約0.1mmol/L〜約3mmol/Lだけ低下する、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
吸入可能な製剤が、摂食時、食前、食後または絶食状態で2型糖尿病患者に投与される、請求項7に記載の使用。
【請求項10】
GLP−1製剤が該製剤中に約0.02mg〜約3mgのGLP−1を含む、請求項7に記載の使用。
【請求項11】
吸入可能な乾燥粉末製剤が該製剤中に約0.01mg〜約5mgの量でGLP−1を含む、請求項7に記載の使用。
【請求項12】
吸入可能な乾燥粉末製剤がDPP−IV阻害剤をさらに含む、請求項7に記載の使用。
【請求項13】
ジケトピペラジンが、2,5−ジケト−3,6−ジ(4−X−アミノブチル)ピペラジン(式中、Xは、スクシニル、グルタリル、マレイルおよびフマリルからなる群から選択される)またはその薬学的に許容される塩である、請求項7に記載の使用。
【請求項14】
対象において拍動性インスリン放出を誘発するための薬剤の製造におけるGLP−1分子の使用であって、該薬剤が約7mmol/L超の空腹時血糖値を有する対象に投与され、かつ該薬剤が治療的有効量のGLP−1分子およびジケトピペラジンを含んでなる吸入可能な乾燥粉末製剤を含む、使用。
【請求項15】
2型糖尿病に罹患しかつ7mmol/L超の空腹時血糖値を有する患者を治療するために使用される吸入可能な乾燥粉末製剤であって、治療的有効量のGLP−1分子およびジケトピペラジンを含むことを特徴とする製剤。
【請求項16】
約7mmol/L超の空腹時血糖値を有する対象に、治療的有効量のGLP−1分子およびジケトピペラジンを含んでなる吸入可能な乾燥粉末製剤を投与することを含む、高血糖症の治療方法。
【請求項17】
対象が2型糖尿病に罹患している哺乳類である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
GLP−1分子が該製剤中に約0.01mg〜約5mgまたは約0.02mg〜約3mgの量でGLP−1を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
吸入可能な乾燥粉末製剤がDPP−IV阻害剤をさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
ジケトピペラジンが、2,5−ジケト−3,6−ジ(4−X−アミノブチル)ピペラジン(式中、Xは、スクシニル、グルタリル、マレイルおよびフマリルからなる群から選択される)またはその薬学的に許容される塩である、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
GLP−1分子が、天然のGLP−1、GLP−1代謝物、GLP−1類似体、GLP−1誘導体、長時間作用性GLP−1類似体、GLP−1模倣体、GLP−1ペプチド類似体、生合成のGLP−1類似体またはその組み合わせからなる群から選択され、かつ該GLP−1分子が天然のGLP−1の少なくとも1種の生物活性を有する、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
2型糖尿病患者の血糖値を低下させる方法であって、治療を必要としている該患者に治療的有効量のGLP−1分子およびジケトピペラジンまたはその薬学的に許容される塩を含んでなる肺投与のための吸入可能な乾燥粉末製剤を投与することを含み、かつ該2型糖尿病患者が8mmol/L超の空腹時血糖値を有する、方法。
【請求項23】
2型糖尿病患者への該吸入可能な製剤の投与から約4時間後までの期間に、血糖値が約0.1mmol/L〜約3mmol/Lだけ低下する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
吸入可能な製剤が、摂食時、食前、食後または絶食状態で該2型糖尿病患者に投与される、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
GLP−1分子が製剤中に約0.02mg〜約3mgの量でGLP−1を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
吸入可能な乾燥粉末製剤が該製剤中に約0.01mg〜約5mgの量でGLP−1を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項27】
吸入可能な乾燥粉末製剤がDPP−IV阻害剤をさらに含む、請求項22に記載の方法。
【請求項28】
ジケトピペラジンが、2,5−ジケト−3,6−ジ(4−X−アミノブチル)ピペラジン(式中、Xは、スクシニル、グルタリル、マレイルおよびフマリルからなる群から選択される)またはその薬学的に許容される塩である、請求項22に記載の方法。
【請求項1】
高血糖症を治療するための薬剤の製造におけるグルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)分子の使用であって、該薬物が約7mmol/L超の空腹時血糖値を有する対象に投与され、かつ該薬剤が治療的有効量のGLP−1分子およびジケトピペラジンを含んでなる吸入可能な乾燥粉末製剤を含む、使用。
【請求項2】
対象が2型糖尿病に罹患している哺乳類である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
吸入可能な乾燥粉末製剤が該製剤中に約0.01mg〜約5mgまたは約0.02mg〜約3mgの量でGLP−1を含む、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
吸入可能な乾燥粉末製剤がDPP−IV阻害剤をさらに含む、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
ジケトピペラジンが、2,5−ジケト−3,6−ジ(4−X−アミノブチル)ピペラジン(式中、Xは、スクシニル、グルタリル、マレイルおよびフマリルからなる群から選択される)またはその薬学的に許容される塩である、請求項1に記載の使用。
【請求項6】
GLP−1分子が、天然のGLP−1、GLP−1代謝物、GLP−1類似体、GLP−1誘導体、長時間作用性GLP−1類似体、GLP−1模倣体、GLP−1ペプチド類似体、生合成のGLP−1類似体またはその組み合わせからなる群から選択され、かつ該GLP−1分子が天然のGLP−1の少なくとも1種の生物活性を有する、請求項1に記載の使用。
【請求項7】
2型糖尿病患者の血糖値を低下させるための薬剤の製造におけるGLP−1分子の使用であって、該薬物が治療を必要としている該患者に投与され、該薬剤が治療的有効量のGLP−1分子およびジケトピペラジンまたはその薬学的に許容される塩を含んでなる肺投与のための吸入可能な乾燥粉末製剤を含み、かつ該2型糖尿病患者が8mmol/L超の空腹時血糖値を有する、使用。
【請求項8】
2型糖尿病患者への該吸入可能な製剤の投与から約4時間後までの期間に、血糖値が約0.1mmol/L〜約3mmol/Lだけ低下する、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
吸入可能な製剤が、摂食時、食前、食後または絶食状態で2型糖尿病患者に投与される、請求項7に記載の使用。
【請求項10】
GLP−1製剤が該製剤中に約0.02mg〜約3mgのGLP−1を含む、請求項7に記載の使用。
【請求項11】
吸入可能な乾燥粉末製剤が該製剤中に約0.01mg〜約5mgの量でGLP−1を含む、請求項7に記載の使用。
【請求項12】
吸入可能な乾燥粉末製剤がDPP−IV阻害剤をさらに含む、請求項7に記載の使用。
【請求項13】
ジケトピペラジンが、2,5−ジケト−3,6−ジ(4−X−アミノブチル)ピペラジン(式中、Xは、スクシニル、グルタリル、マレイルおよびフマリルからなる群から選択される)またはその薬学的に許容される塩である、請求項7に記載の使用。
【請求項14】
対象において拍動性インスリン放出を誘発するための薬剤の製造におけるGLP−1分子の使用であって、該薬剤が約7mmol/L超の空腹時血糖値を有する対象に投与され、かつ該薬剤が治療的有効量のGLP−1分子およびジケトピペラジンを含んでなる吸入可能な乾燥粉末製剤を含む、使用。
【請求項15】
2型糖尿病に罹患しかつ7mmol/L超の空腹時血糖値を有する患者を治療するために使用される吸入可能な乾燥粉末製剤であって、治療的有効量のGLP−1分子およびジケトピペラジンを含むことを特徴とする製剤。
【請求項16】
約7mmol/L超の空腹時血糖値を有する対象に、治療的有効量のGLP−1分子およびジケトピペラジンを含んでなる吸入可能な乾燥粉末製剤を投与することを含む、高血糖症の治療方法。
【請求項17】
対象が2型糖尿病に罹患している哺乳類である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
GLP−1分子が該製剤中に約0.01mg〜約5mgまたは約0.02mg〜約3mgの量でGLP−1を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
吸入可能な乾燥粉末製剤がDPP−IV阻害剤をさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
ジケトピペラジンが、2,5−ジケト−3,6−ジ(4−X−アミノブチル)ピペラジン(式中、Xは、スクシニル、グルタリル、マレイルおよびフマリルからなる群から選択される)またはその薬学的に許容される塩である、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
GLP−1分子が、天然のGLP−1、GLP−1代謝物、GLP−1類似体、GLP−1誘導体、長時間作用性GLP−1類似体、GLP−1模倣体、GLP−1ペプチド類似体、生合成のGLP−1類似体またはその組み合わせからなる群から選択され、かつ該GLP−1分子が天然のGLP−1の少なくとも1種の生物活性を有する、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
2型糖尿病患者の血糖値を低下させる方法であって、治療を必要としている該患者に治療的有効量のGLP−1分子およびジケトピペラジンまたはその薬学的に許容される塩を含んでなる肺投与のための吸入可能な乾燥粉末製剤を投与することを含み、かつ該2型糖尿病患者が8mmol/L超の空腹時血糖値を有する、方法。
【請求項23】
2型糖尿病患者への該吸入可能な製剤の投与から約4時間後までの期間に、血糖値が約0.1mmol/L〜約3mmol/Lだけ低下する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
吸入可能な製剤が、摂食時、食前、食後または絶食状態で該2型糖尿病患者に投与される、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
GLP−1分子が製剤中に約0.02mg〜約3mgの量でGLP−1を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
吸入可能な乾燥粉末製剤が該製剤中に約0.01mg〜約5mgの量でGLP−1を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項27】
吸入可能な乾燥粉末製剤がDPP−IV阻害剤をさらに含む、請求項22に記載の方法。
【請求項28】
ジケトピペラジンが、2,5−ジケト−3,6−ジ(4−X−アミノブチル)ピペラジン(式中、Xは、スクシニル、グルタリル、マレイルおよびフマリルからなる群から選択される)またはその薬学的に許容される塩である、請求項22に記載の方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公表番号】特表2012−514646(P2012−514646A)
【公表日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−545442(P2011−545442)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【国際出願番号】PCT/US2010/020448
【国際公開番号】WO2010/080964
【国際公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(503208552)マンカインド コーポレイション (50)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【国際出願番号】PCT/US2010/020448
【国際公開番号】WO2010/080964
【国際公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(503208552)マンカインド コーポレイション (50)
【Fターム(参考)】
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