説明

HIV−1クレイドAのコンセンサス配列、抗原及びトランス遺伝子

本発明は、HIV−1クレイドA抗原用のヌクレオチド及びタンパク質のコンセンサス配列に関する。本発明はまた、流行HIV−1の野外分離株由来のクレイドA抗原のヌクレオチド及びタンパク質の配列に関し、前記抗原の配列は、前記コンセンサス配列と密接に関係していることを特徴とする。好ましい実施形態では、本発明は前記配列から誘導され、HIV−1クレイドAのGag、Pol(RT及びInt)及びNef(「GRIN」と呼称)、HIV−1クレイドAのGag、RT及びNef(「GRN」と呼称)、又はHIV−1クレイドAのEnvのいずれかをコードする、HIV−1クレイドAトランス遺伝子に関する。本発明はまた、前記トランス遺伝子を含むベクターに関する。前記ベクターの例としては、好ましい実施形態における前記トランス遺伝子を含むアデノウイルスベクターが挙げられる。本発明は、本発明のHIV−1クレイドA抗原、ヌクレオチド配列、ベクター又はトランス遺伝子を含む免疫原性組成物、及びこのような免疫原性組成物の有効量の投与により、対象においてHIVに対する免疫応答を生成する方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との交互参照
本出願は、2006年6月2日に出願した米国仮特許出願第60/810,816号の優先権を主張するものである。
【0002】
前記出願、並びに前記出願にて又はその審査手続中に引用された全文書(「出願引用文書」)及び出願引用文書中で引用又は参照された全文書、並びに本明細書中で引用又は参照される全文書(「本明細書引用文書」)及び本明細書引用文書中で引用又は参照される全文書は、本明細書中又は参照により本明細書に組み込まれる任意の文書中に記載の任意の製品に対する、製造業者の任意の使用説明書、解説書、製品仕様書及び製品シートと共に、ここに参照により本明細書に組み込まれ、本発明の実施の際に使用し得る。
【0003】
本発明は、HIV−1クレイドA抗原用のヌクレオチド及びタンパク質のコンセンサス配列及び流行HIV−1野外分離株由来のクレイドA抗原のヌクレオチド及びタンパク質の配列に関する。該抗原配列は、前記コンセンサス配列と密接に関係していることを特徴とする。好ましい実施形態では本発明は、このような配列から誘導され、HIV−1クレイドAのGag、Pol(RT及びInt)及びNef(「GRIN」と呼称)、HIV−1クレイドAのGag、RT及びNef((「GRN」と呼称)、又はHIV−1クレイドAのEnvのいずれかをコードする、HIV−1クレイドAトランス遺伝子に関する。本発明は、このようなトランス遺伝子を含有するベクターにも関し、好ましい実施形態における前記ベクターの例として、アデノウィルスベクターが挙げられる。本発明は、本発明のHIV−1クレイドA抗原、ヌクレオチド配列、ベクター又はトランス遺伝子を含む免疫原組成物、及びこのような免疫原組成物の有効量の投与により、対象においてHIV−1に対する免疫応答を生成する方法にも関する。
【背景技術】
【0004】
AIDS即ち後天性免疫不全症候群は、ヒト免疫不全ウィルス(HIV)により誘発され、消耗症候群、中枢神経系変性、並びに日和見感染症及び悪性腫瘍を起こす甚大な免疫抑制を含む幾つかの臨床的特徴を呈する。HIVは、ヒツジのビスナウイルス、並びにウシ、ネコ及びサルの免疫不全ウィルス(SIV)を包含する動物レトロウィルスのレンチウィルス科に属する。HIV−1及びHIV−2と称する密接に関連した2型のHIVが、これまでに同定されており、そのうちHIV−1がAIDSの圧倒的に一般的な原因である。しかし、ゲノム構造及び抗原性が異なるHIV−2も、類似の臨床的症候群を起こす。
【0005】
感染性HIV粒子は、同一の2本鎖のRNAからなり、その各々が長さ約9.2kbであってウィルスタンパク質のコア内に詰め込まれている。このコア構造は、ウィルスにコードされた膜タンパク質も含んだ宿主細胞膜に由来するリン脂質二重層エンベロープに取り囲まれている(Abbas et al., Cellular and Molecular Immunology, 4th edition, W. B. Saunders Company, 2000, p.454)。HIVゲノムは、レトロウィルス科の特徴的な5'-LTR-Gag-Pol-Env-LTR-3' 編成を有する。該ウィルスゲノムの各末端にあるLTR(長い末端反復配列)は、宿主の転写調節タンパク質に対する結合部位として機能し、宿主ゲノム中へのウィルス組込み、ウィルス遺伝子発現及びウィルス複製を調節する。
【0006】
HIVゲノムは幾つかの構造タンパク質をコードする。Gag遺伝子は、ヌクレオキャプシドコアのコア構造タンパク質及びマトリックスをコードする。Pol遺伝子は、ウィルス複製に必要な逆転写酵素(RT)、インテグラーゼ(Int)及びウィルスプロテアーゼの各酵素をコードする。tat遺伝子は、ウィルス転写産物の伸長に必要なタンパク質をコードする。rev遺伝子は、スプライシング不完全又は未実施のウィルスRNAの核輸送を促進するタンパク質をコードする。Vif遺伝子産物は、ウィルス粒子の感染力を増強する。vpr遺伝子産物は、ウィルスDNAの核輸送を促進し、G2細胞周期停止を調節する。vpu及びnef遺伝子は、宿主細胞のCD4発現を下方調節し、感染細胞からのウィルス放出を促進するタンパク質をコードする。Env遺伝子は、160キロダルトン(kDa)前駆体(gp160)として翻訳され、細胞プロテアーゼで切断されることにより、共に細胞の感染に必要である外部120kDaエンベロープ糖タンパク質(gp120)と膜貫通41kDaエンベロープ糖タンパク質(gp41)とを産生する、ウィルスエンベロープ糖タンパク質をコードする(Abbas, pp.454-456)。gp140は、外部120kDaエンベロープ糖タンパク質及びenvのgp41成分の一部を含有し、gp120、gp41双方の特性を有する。Nef遺伝子は、霊長類レンチウィルスの間で保存されており、感染後に転写される最初のウィルス遺伝子の1つである。インビトロでは、CD4及びMHCクラスIの表面発現の下方調節、T細胞のシグナル伝達及び活性化の変化、並びにウィルス感染力の増強を含めた幾つかの機能が記載されてきた。
【0007】
HIVの感染は、CD4+T細胞、マクロファージ、樹状細胞などの標的細胞の細胞膜上にあるCD4及びケモカイン受容体分子(例えば、CXCR4、CCR5)に、ウィルス粒子上のgp120が結合することで開始される。結合したウィルスは、標的細胞と融合し、そのRNAゲノムを逆転写する。生成したウィルスDNAは、細胞ゲノム中に組み込まれ、そこで新たなウィルスRNA、したがってウィルスタンパク質及び新たなビリオンの産生を指示する。これらのビリオンは、感染した細胞膜から出芽し、他の細胞において増殖感染を確立する。この過程により最初に感染した細胞の死滅も起こる。未感染T細胞上のCD4受容体は、感染細胞の表面上に発現するgp120に対して強い親和性を有するので、HIVは、間接的に細胞を死滅させることもできる。この場合には、未感染細胞が、CD4受容体−gp120の相互作用を介して感染細胞に結合し、融合して合胞体を形成するが、これは生存することができない。免疫防御にとって肝要なCD4+Tリンパ球の破壊は、AIDSの疾患進行の特質となる進行性免疫機能不全の主因である。CD4+T細胞の欠失は、大部分の侵入病原体に抗する生体能力の重大な損傷を起こすが、ウィルス、真菌、寄生虫、及びマイコバクテリアを含めた特定の細菌に対する防御力に特に重大な影響を及ぼす。
【0008】
様々なHIV−1分離株は、3群:M(主要群)、O(異常群)及びN(非M非O群)に分類されてきた。HIV−1のM群は、世界的なHIV流行病を支配している(Gaschen et al., (2002) Science 296: 2354-2360)。HIV−1 M群は、大まかに70年前人間において繁殖を開始して(Korber et al., Retroviral Immunology, Pantaleo et al., eds., Humana Press, Totowa, NJ, 2001, pp. 1-31)以来、急速に多様化してきた(Jung et al., (2002) Nature 418: 144)。HIV−1 M群は、異なる多数のクレイド(サブタイプの名でも知られている)、並びに組換え型流行株(CRF)の名で知られている、2種以上のクレイドの組合せから生じる変異体からなる。サブタイプは、少なくとも25%特異であるゲノムを有すると定義される(AIDS epidemic update, December 2002)。11種のクレイドがこれまで同定されており、1文字で各サブタイプが指定される。個人が2種のHIVサブタイプに感染している場合に起こり得るように、クレイド同士が相互に組み合わさり、環境中での確立に成功すると、生成するウィルスはCRFの名で知られる。これまでのところ、概数13種のCRFが同定されてきた。HIV−1クレイドは地理学的な好みも示す。例えば、流行率2番目のクレイドであるクレイドAは、東アフリカで流行しているが、クレイドBは欧州、南北アメリカ及びオーストラリアで流行している。最も一般的なサブタイプのクレイドCは、南部アフリカ、インド及びエチオピアで蔓延している(AIDS epidemic update, December 2002)。各クレイド内でさえ、異なる株及びウィルス分離株の間で変異性が見られる。
【0009】
HIVのこの遺伝的変異性は、ワクチン開発にとって科学的な難問となる。これまで提案された一手法は、多種のHIV株の配列に基づいてコンセンサス配列を開発し、こうしたコンセンサス配列に基づいてワクチンを開発することである。このような手法を支える論理は、コンセンサス配列が、異なるHIV株の間で保存される抗原をコードすると思われ、したがってこのような抗原は、多種のHIV株に対する免疫応答の生成に恐らく有用であることである。HIV−1クレイドAのコンセンサス配列を作製してきた者がいる。例えば、クレイドAのコンセンサス配列に由来するトランス遺伝子RENTA及びHIVAに関する、Nkolola et al. (2004) Gene Ther. 2004. Jul. 11 (13): 1068-80及び Korber B (eds) et al. Human Retroviruses and AIDS: A Compilation and Analysis of Nucleic Acid and Amino Acid Sequences. Los Alamos National Laboratory: Los Alamos, New Mexico, USA, (1997) を参照されたい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Abbas et al., Cellular and Molecular Immunology, 4th edition, W. B. Saunders Company, 2000, p.454
【非特許文献2】Gaschen et al., (2002) Science 296: 2354-2360
【非特許文献3】Korber et al., Retroviral Immunology, Pantaleo et al., eds., Humana Press, Totowa, NJ, 2001, pp. 1-31
【非特許文献4】Jung et al., (2002) Nature 418: 144
【非特許文献5】AIDS epidemic update, December 2002
【非特許文献6】Nkolola et al. (2004) Gene Ther. 2004. Jul. 11 (13): 1068-80
【非特許文献7】Korber B (eds) et al. Human Retroviruses and AIDS: A Compilation and Analysis of Nucleic Acid and Amino Acid Sequences. Los Alamos National Laboratory: Los Alamos, New Mexico, USA, (1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、これらの論文に記載のコンセンサス配列は、Los Alamos Laboratoryから得たHIV−1クレイドAのコンセンサス配列から誘導したものと思われ、本発明のコンセンサス配列と同じ方法で作製しなかった。その上、こうした参考文献では、実際に最近流行しているHIV株に由来する、前記コンセンサス配列と密接に合致している配列の使用を教示せず、コンセンサス配列自体の使用に関している。
【0012】
本出願における任意の文書の引用又は特定は、このような文書が本出願に対する先行技術として利用可能であることを認めるものではない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、HIV−1クレイドA抗原用の新規で改良されたコンセンサス配列、及びこのような新規で改良されたコンセンサス配列を産生する方法を提供する。本発明のコンセンサス配列は、多数の異なるHIV−1クレイドA株の抗原配列に基づいており、また最近分離したHIV−1クレイドA株の抗原配列に基づいているので、特に有利である。したがって、本発明のコンセンサス配列は、以前に作製されたHIV−1クレイドAコンセンサス配列と比較して優れた生物学的適合性を有している。
【0014】
本発明の別の主要な利点は、天然のHIV−1クレイドA株に由来するHIV−1クレイドA抗原、及びそのような抗原を産生する戦略を提供することである。こうした抗原は、本発明のコンセンサス配列と密接に関係し、又はその配列との「タンパク質距離」が近くなるように選択される。人工的に生成したコンセンサス配列とは異なり、そのコンセンサス配列と最も密接に合致したこうした天然の配列を使用することの利点は、こうした配列の作製のほうが必要な遺伝子操作の方が少なくて済み、重要なことには生物学的適合性が確実となることである。
【0015】
第1の態様では、本発明は、HIV−1クレイドA抗原用のコンセンサスアミノ酸配列に関する。一実施形態では、本発明は、HIV−1クレイドA抗原であるGag、Pol(RT及びIntを含む)、Nef並びにEnv用のコンセンサスアミノ酸配列に関する。好ましい実施形態では、本発明は、図1のGagコンセンサスアミノ酸配列、図3のPolコンセンサスアミノ酸配列、図5のEnvコンセンサスアミノ酸配列、及び/又は図7のNefコンセンサスアミノ酸配列に関する。
【0016】
更なる態様では、本発明は、目的とするHIV−1クレイドA抗原用のコンセンサスアミノ酸配列を同定する方法であって、数種の流行HIV−1株又は野外分離株において目的とする抗原のアミノ酸配列を決定し、そのような配列を整列させ、前記抗原用のコンセンサス配列を決定することを含む方法を対象とする。
【0017】
別の態様では、本発明は、HIV−1クレイドAの流行株又は野外分離株からHIV−1クレイドA抗原を同定する方法に関し、かかる方法は、HIV−1クレイドA抗原用のコンセンサスアミノ酸配列に類似したアミノ酸配列を有する抗原を同定する。好ましい実施形態では、HIV−1クレイドA抗原は、前記コンセンサス配列との類似度に基づいて選択され、前記コンセンサス配列との類似度が最も高い配列、又はその配列との「タンパク質距離」が最も近い配列が好ましい。更に好ましい実施形態では、HIV−1クレイドA抗原は、HIV−1クレイドAの最近の流行株又は野外分離株から選択される。更なる実施形態では、本発明は、このような方法を用いて同定されるHIV−1クレイドA抗原に関する。
【0018】
別の態様では、本発明は、当該HIV−1クレイドA抗原用のコンセンサスアミノ酸配列に類似したアミノ酸配列を有する、HIV−1クレイドAの流行株又は野外分離株からHIV−1クレイドA抗原を同定し、次いでその配列に変異を起こして、配列の生物学的機能を無効にする方法に関する。必要最低限手法を使用すること、即ち、機能を無効にし、行政当局の認可取得を促進するのに必要な変異だけを行い、元のHIV−1遺伝子配列の不必要な変更を回避するように、変異の回数を最低限に維持することが好ましい。例えば、一実施形態では、GRINのNef成分を変更するのではなく、むしろNefのN末端をIntのC末端と融合することにより、Nefの元のヌクレオチド配列を完全に維持しながら、Nef機能が無効化される。
【0019】
更に別の態様では、本発明は、HIV−1クレイドAトランス遺伝子の遺伝子安定性を改善する方法に関する。PR(プロテアーゼ)成分をGag−全長Pol−Nef(全長Polは、PR並びにInt及びRTを含有する)から除去することにより、PolのInt及びRT部分だけが残される。これは、特にAd35及び/又はAd11を用いた、遺伝子安定性の改良、並びにクローニング及びウィルス救済特性の改良という利点を有する。このようなPRの除去は、POLのこの最小の機能サブユニットだけを除去することにより、大型のIN及びRTの機能サブユニットは保持されるので、必要最低限手法である。本発明は、このような方法を用いて選択、産生されるHIV−1クレイドA抗原にも関する。
【0020】
一実施形態では該抗原は、表1及び図2に列挙した株の1つ由来のGag抗原である。好ましくは、Gag抗原は、Gagコンセンサス配列からの「タンパク質距離」が、0.07%未満、又はより好ましくは0.06%未満、又はより好ましくは更に0.05%未満である株から選択される。好ましい実施形態では、Gag抗原は、HIV−1クレイドAのTZA173株、97TZ02株、KNH1144株、又はSE7535UG株に由来する。
【0021】
別の実施形態では、該抗原は、表2及び図4に列挙した株の1つ由来のPol抗原である。好ましくは、Pol抗原は、Polコンセンサス配列からの「タンパク質距離」が、0.03%未満、又はより好ましくは0.025%未満である株から選択される。好ましい実施形態では、Pol抗原は、HIV−1クレイドAのMSA4070株、SE7245SO株、又はSE8538株に由来する。
【0022】
更なる実施形態では、該抗原は、表3及び図6に列挙した株の1つ由来のEnv抗原である。好ましくは、Env抗原は、Gagコンセンサス配列からの「タンパク質距離」が、0.1未満、又はより好ましくは0.08%未満、又はより好ましくは0.07%未満、又はより好ましくは更に0.065%未満である株から選択される。好ましい実施形態では、Env抗原は、HIV−1クレイドAのKEQ23株、TZA341株、又はKNH1088株に由来する。
【0023】
別の実施形態では、該抗原は、表4及び図8に列挙した株の1つ由来のNef抗原である。好ましくは、Nef抗原は、Gagコンセンサス配列からの「タンパク質距離」が、0.1%未満、又はより好ましくは0.08%未満、又はより好ましくは0.07%未満、又はより好ましくは0.06未満、又はより好ましくは更に0.05%未満である株から選択される。好ましい実施形態では、Nef抗原は、HIV−1クレイドAのMSA4070株、又はKNH1211株、又は97TZ03株、又は99UGA070株、又はSE8891UG株に由来する。
【0024】
更に別の態様では、本発明は、本発明のHIV−1クレイドA抗原をコードするヌクレオチド配列を対象とする。本発明は、こうしたヌクレオチド配列を含むベクターにも関する。本発明のヌクレオチド配列、及びそれらを含むベクター、並びに本発明のヌクレオチド配列にコードされる抗原も、HIVクレイドA抗原に対して免疫応答をインビボで生成するのに有用であり、HIV−1クレイドA株に対するワクチンの作製に有用である。本発明のヌクレオチド配列は、例えば細胞中又はインビトロでHIV−1クレイドA抗原を発現、産生し、それにより該抗原を生産、単離、及び/又は精製するのにも有用となり得る。
【0025】
本発明のヌクレオチド配列は、ヌクレオチドコンセンサス配列と比較して、又はかかるコンセンサス配列と密接に関係する、流行HIV−1分離株由来の配列と比較して、変化させてもよい。例えば一実施形態では、前記ヌクレオチド配列は、コードされるタンパク質のインビボでの活性が無効化されるように変異させてもよい。別の実施形態では、前記ヌクレオチド配列はコドンを最適化してもよい、例えば人間の使用向けにコドンを最適化してもよい。好ましい実施形態では、本発明のヌクレオチド配列は、コードされたタンパク質の正常なインビボ機能を無効化するために変異させ、また人間の使用向けにコドンの最適化も行う。例えば、本発明のGag、Pol、Env、Nef、RT及びInt配列は、このようにして各々変化させてもよい。
【0026】
好ましい実施形態では、単一のヌクレオチド配列が、本発明のGag、RT(Polの一部)及びNef抗原を含む融合タンパク質をコードする。本明細書で使用する場合、略号「GRN」及び「GRtN」は、Gag、RT及びNef抗原を含むHIV−1クレイドA融合タンパク質を指す場合と、こうした融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を指す場合とがあり、互換的に使用される。更に好ましい実施形態では、GRNをコードするヌクレオチド配列は、GRN融合タンパク質の発現の実現に適切なベクター中に挿入される。好ましくは、前記ベクターは、Ad5、Ad35、Ad11、C6及びC7からなる群から選択されるアデノウィルスベクターである。
【0027】
別の好ましい実施形態では、単一のヌクレオチド配列が、本発明のGag、Pol(RT及びIntを含む)並びにNef抗原を含む融合タンパク質をコードする。本明細書で使用する場合、略号「GRIN」及び「GRtIN」は、Gag、Pol及びNef抗原を含むHIV−1クレイドA融合タンパク質を指す場合と、こうした融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を指す場合とがあり、互換的に使用される。一層好ましい実施形態では、GRINは、図16A〜16Jに例示したアミノ酸配列を有し、図16A〜16Jに例示したヌクレオチド配列によりコードされる。更により好ましい実施形態では、GRINをコードするヌクレオチド配列は、GRIN融合タンパク質の発現の実現に適切なベクター中に挿入される。好ましくは、該ベクターは、アデノウィルスベクターであり、より好ましくは、Ad5、Ad35、Ad11、C6及びC7からなる群から選択されるアデノウィルスベクターである。
【0028】
更に別の好ましい実施形態では、本発明の単一のヌクレオチド配列が、本発明によるHIV−1クレイドAのEnv抗原をコードする。好ましい実施形態では、Env抗原は、図17A〜17Dに例示したアミノ酸配列を有し、図17A〜17Dに例示したヌクレオチド配列によりコードされる。更により好ましい実施形態では、Envをコードするヌクレオチド配列は、Envタンパク質の発現の実現に適切なベクター中に挿入される。好ましくは、該ベクターは、アデノウィルスベクターであり、より好ましくは、Ad5、Ad35、Ad11、C6及びC7からなる群から選択されるアデノウィルスベクターである。
【0029】
別の実施形態では、本発明は、HIV−1クレイドA抗原に対する免疫応答を生成する方法であって、本発明によるヌクレオチド配列又は抗原を、対象に投与することを含む方法を提供する。好ましい実施形態では、HIV−1クレイドAに対する免疫応答を生成するその方法は、GRIN、GRNのいずれかをコードし、Ad5、Ad35、Ad11、C6及びC7からなる群から選択されるアデノウィルスベクター中に含有されるヌクレオチド配列の投与を含む。更なる好ましい実施形態では、GRIN又はGRNを含むベクターは、本発明のEnv抗原をコードするヌクレオチド配列を含むベクターと同時投与される。
【0030】
更なる実施形態では、本発明は、本発明のヌクレオチド配列を含む免疫原組成物又はワクチン組成物を提供する。
【0031】
本開示、特に特許請求の範囲及び/又は段落では、「comprises」、「comprised」、「comprising」などの用語は、米国特許法に規定した意味を有することができ、例えば、それらは「includes」、「included」、「including」などを意味することができ、また、「consisting essentially of」、「consists essentially of」などの用語は、米国特許法に規定した意味を有し、例えば、それらは明確に記載していない要素を受容するが、従来技術に見出される、又は本発明の基本若しくは新規の特性に影響する要素を除外する。
【0032】
以上及び他の実施形態は、以下の詳細な説明から明白であり、その説明に包含される。
【0033】
例証しているが、記載する特定の実施形態に本発明を限定する意図のない、以下の詳細な説明は、添付した図を共に用いて最も良く理解し得る。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】HIV−1クレイドAのGagタンパク質のコンセンサスアミノ酸配列を示す図である。
【図2】循環HIVクレイドA株のGagタンパク質配列の、HIV−1クレイドAのGagタンパク質コンセンサス配列までの「距離」を例示するグラフである。
【図3】HIV−1クレイドAのPolタンパク質のコンセンサスアミノ酸配列を示す図である。
【図4】循環HIVクレイドA株のPolタンパク質配列の、HIV−1クレイドAのPolタンパク質コンセンサス配列までの「距離」を例示するグラフである。
【図5】HIV−1クレイドAのEnvタンパク質のコンセンサスアミノ酸配列を示す図である。
【図6】循環HIVクレイドA株のEnvタンパク質配列の、HIV−1クレイドAのEnvタンパク質コンセンサス配列までの「距離」を例示するグラフである。
【図7】HIV−1クレイドAのNefタンパク質のコンセンサスアミノ酸配列を示す図である。
【図8】循環HIVクレイドA株のNefタンパク質配列の、HIV−1クレイドAのNefタンパク質コンセンサス配列までの「距離」を例示するグラフである。
【図9】GRIN及びGRNトランス遺伝子の概略表示図である。
【図10】Genbank受託番号AY253305を有するHIV−1クレイドA TZA173株からのGagタンパク質のアミノ酸配列を例示する図である。
【図11】Genbank受託番号AF457081を有するHIV−1クレイドA MSA4070株からのPolタンパク質のアミノ酸配列を例示する図である。
【図12】Genbank受託番号AF457081を有するHIV−1クレイドA MSA4070株からのNefタンパク質のアミノ酸配列を例示する図である。
【図13】Genbank受託番号AY253314を有するHIV−1クレイドA TZA341株からのEnvタンパク質のアミノ酸配列を例示する図である。
【図14A】図14A〜14Cは、Ad35ベクター中に挿入する際のGRINの配列を示す図である。
【図14B】図14A〜14Cは、Ad35ベクター中に挿入する際のGRINの配列を示す図である。
【図14C】図14A〜14Cは、Ad35ベクター中に挿入する際のGRINの配列を示す図である。
【図15A】図15A〜15Bは、Ad35ベクター中に挿入する際のEnvの配列を示す図である。
【図15B】図15A〜15Bは、Ad35ベクター中に挿入する際のEnvの配列を示す図である。
【図16A】図16A〜16Jは、コドン最適化GRINトランス遺伝子のヌクレオチド及びアミノ酸の配列を示す図である。
【図16B】図16A〜16Jは、コドン最適化GRINトランス遺伝子のヌクレオチド及びアミノ酸の配列を示す図である。
【図16C】図16A〜16Jは、コドン最適化GRINトランス遺伝子のヌクレオチド及びアミノ酸の配列を示す図である。
【図16D】図16A〜16Jは、コドン最適化GRINトランス遺伝子のヌクレオチド及びアミノ酸の配列を示す図である。
【図16E】図16A〜16Jは、コドン最適化GRINトランス遺伝子のヌクレオチド及びアミノ酸の配列を示す図である。
【図16F】図16A〜16Jは、コドン最適化GRINトランス遺伝子のヌクレオチド及びアミノ酸の配列を示す図である。
【図16G】図16A〜16Jは、コドン最適化GRINトランス遺伝子のヌクレオチド及びアミノ酸の配列を示す図である。
【図16H】図16A〜16Jは、コドン最適化GRINトランス遺伝子のヌクレオチド及びアミノ酸の配列を示す図である。
【図16I】図16A〜16Jは、コドン最適化GRINトランス遺伝子のヌクレオチド及びアミノ酸の配列を示す図である。
【図16J】図16A〜16Jは、コドン最適化GRINトランス遺伝子のヌクレオチド及びアミノ酸の配列を示す図である。
【図17A】図17A〜17Dは、コドン最適化Envトランス遺伝子のヌクレオチド及びアミノ酸の配列を示す図である。
【図17B】図17A〜17Dは、コドン最適化Envトランス遺伝子のヌクレオチド及びアミノ酸の配列を示す図である。
【図17C】図17A〜17Dは、コドン最適化Envトランス遺伝子のヌクレオチド及びアミノ酸の配列を示す図である。
【図17D】図17A〜17Dは、コドン最適化Envトランス遺伝子のヌクレオチド及びアミノ酸の配列を示す図である。
【図18】IFN−γのELIspot アッセイで測定した場合のマウスにおけるAd5−GRIN及びAd5−GRNの免疫原性を例示するグラフである。
【図19】IFN−γのELIspot アッセイで測定した場合のマウスにおけるC7−GRIN及びC7−GRNの免疫原性を例示するグラフである。
【図20】IL−2のELIspot アッセイで測定した場合のマウスにおけるC7−GRIN及びC7−GRNの免疫原性を例示するグラフである。
【図21】IFN−γのELIspot アッセイで測定した場合のマウスにおけるC6−GRIN及びC6−GRNの免疫原性を例示するグラフである。
【図22】IL−2のELIspot アッセイで測定した場合のマウスにおけるC6−GRIN及びC6−GRNの免疫原性を例示するグラフである。
【図23A】マカクザルにおける1月0〜6回の免疫スケジュール後のAd35−GRIN/ENV1010vp用量でのIFN−γ ELISpot 免疫原性を例示する図である。陽性応答の定義:単一試料の単一ペプチドプールに対して、応答=(ペプチドカウント数平均値−非ペプチドカウント数平均値)。陽性となるためには、単一ペプチドの応答が、1.同じプレートに対して、ペプチドカウント数平均値>非ペプチドカウント数平均値の4倍、2.反復カウント数間の変動係数≦70%、及び3.応答>55SFC/106。各抗原成分(Gag、RT、IN及びENV)に対するPBMC百万個当たりのスポット形成細胞(SFC)の相乗平均応答が、y軸上に示され、採血時点がx軸上に週単位で示されている。
【図23B】マカクザルにおける1月0〜6回の免疫スケジュール後のAd35−GRIN/ENV1011vp用量でのIFN−γ ELISpot 免疫原性を例示する図である。陽性応答の定義:単一試料の単一ペプチドプールに対して、応答=(ペプチドカウント数平均値−非ペプチドカウント数平均値)。陽性となるためには、単一ペプチドの応答が、1.同じプレートに対して、ペプチドカウント数平均値>非ペプチドカウント数平均値の4倍、2.反復カウント数間の変動係数≦70%、及び3.応答>55SFC/106。各抗原成分(Gag、RT、IN及びENV)に対するPBMC百万個当たりのスポット形成細胞(SFC)の相乗平均応答が、y軸上に示され、採血時点がx軸上に週単位で示されている。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明は、HIV−1クレイドA抗原用のヌクレオチド及びタンパク質のコンセンサス配列、並びにこれらのコンセンサス配列と密接に合致する流行HIV−1野外分離株に関する。本発明は、遺伝子産物のインビボでの機能を無効化するように変化させ得るこうした配列の変異型、本発明の配列を含む構築体及びベクター、並びに本発明の配列を使用して作製した免疫原、免疫原性組成物及びワクチンにも関する。本発明は、対象においてHIV−1クレイドA抗原に対する免疫応答を生成する方法、及びHIV−1の侵入に対して防御免疫を誘発する方法にも関する。本発明の多様な実施形態は、「課題を解決するための手段("Summary of the Invention")」と題する既出の項に概説されている。本発明の更なる詳細は、以下の詳細なる説明及び実施例、並びに図面において示される。
【0036】
既出の「課題を解決するための手段("Summary of the Invention")」及び以下の「実施例」に記載のように、本発明は、HIV−1クレイドAのコンセンサス抗原を提供し、これらのコンセンサス配列と密接に合致する、流行HIV−1クレイドA株由来の抗原も提供する。本発明は、HIV−1トランス遺伝子、及びかかるトランス遺伝子がコードする抗原も提供する。こうしたトランス遺伝子は、本発明のHIV−1クレイドA抗原、例えば、本発明のGag、Pol、Env、Nef、RT及びInt各抗原をコードする配列を含む。例えば、好ましい一実施形態では、本発明は、本発明のGag、Pol(RT、Intの両方)及びNef各抗原を含むGRIN(GRtINとも呼称される)トランス遺伝子を提供する。別の好ましい実施形態では、本発明は、本発明のGag、RT及びNef各抗原を含むGRN(GRtNとも呼称される)トランス遺伝子を提供する。別の実施形態では、本発明は、本発明のEnv抗原を含むEnvトランス遺伝子を提供する。
【0037】
用語「タンパク質」、「ペプチド」、「ポリペプチド」及び「アミノ酸配列」は、長さ任意のアミノ酸残基の高分子を指すために、本明細書では互換的に使用される。前記高分子は、線状でも分岐してもよく、修飾アミノ酸又はアミノ酸類縁体を含んでもよく、アミノ酸以外の成分が割り込んでもよい。該用語は、自然に又は介入により、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化、又は標識成分若しくは生物活性成分との複合などの他の任意の操作若しくは修飾により、修飾されたアミノ酸高分子も包含する。
【0038】
本発明で使用する場合、用語「抗原」又は「免疫原」は、対象において免疫応答を誘発できる物質、通常はタンパク質を指すために、互換的に使用される。該用語は、対象に投与されると(直接的に、又はタンパク質をコードするヌクレオチド配列若しくはベクターを対象に投与することにより)、そのタンパク質に対する体液性及び/又は細胞性の免疫応答を誘発できるという意味において、免疫活性であるタンパク質も指す。
【0039】
本発明のタンパク質及び抗原は、本明細書に例示し、記載する配列そのものとは異なり得ることを理解されたい。したがって、本発明では、示した配列が本発明の方法に従って機能する限り、その配列に対する欠失、付加及び置換を想定している。これに関しては、特に好ましい置換は、一般に特質が保存的、即ち、あるアミノ酸族の内部で起こる置換となろう。例えば、アミノ酸は、一般に4族:(1)酸性・・・アスパラギン酸及びグルタミン酸、(2)塩基性・・・リシン、アルギニン、ヒスチジン、(3)非極性・・・アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、並びに(4)非荷電極性・・・グリシン、アスパラギン、グルタミン、シスチン、セリン、スレオニン、チロシン、に区分される。フェニルアラニン、トリプトファン及びチロシンは、芳香族アミノ酸と分類される場合もある。ロイシンをイソロイシン若しくはバリンで、又はその逆、アスパラギン酸をグルタミン酸で、又はその逆、スレオニンをセリンで、又はその逆に孤立させて置換すること、或いはあるアミノ酸を関連構造のアミノ酸で同様に保存的に置換することは、生物活性に大きな効果を及ぼすことはないとかなりの程度予測できる。したがって、例示し、記載する配列と実質的に同じアミノ酸配列を有するが、そのタンパク質の免疫原性に実質的に影響しない些細なアミノ酸置換を有するタンパク質は、本発明の範囲に入る。
【0040】
一実施形態では、本発明は、HIV−1クレイドA抗原用の「コンセンサス」アミノ酸配列に関する。一実施形態では、本発明は、HIV−1クレイドAの抗原Gag、Pol(RT及びIntを含む)、Nef並びにEnv用のコンセンサスアミノ酸配列に関する。好ましい実施形態では、本発明は、図1のコンセンサスGagアミノ酸配列、図3のコンセンサスPolアミノ酸配列、図5のコンセンサスEnvアミノ酸配列、及び/又は図7のコンセンサスNefアミノ酸配列に関する。更なる態様では、本発明は、目的のHIV−1クレイドA抗原用のコンセンサスアミノ酸配列を同定する方法であって、数種の流行HIV−1株又は野外分離株において目的抗原のアミノ酸配列を取得し、そのような配列を整列させ、その抗原用のコンセンサス配列を決定することを含む方法を対象とする。例えば、一実施形態では、HIV−1クレイドAの非組換え流行株のための利用可能な配列を用いてデータベースを生成し、次いで、そのデータベースにある全配列由来の個々のHIV−1遺伝子(例えば、gag、pol、nef及びenv)を整列させ、その際、配列中の挿入又は欠失のある領域において整列を維持するために、破線を挿入し、次いで50%コンセンサス配列を誘導することができる。
【0041】
本発明は、天然のHIV−1クレイドA株から、その抗原のコンセンサスアミノ酸配列との「タンパク質距離」が近いアミノ酸配列を有する抗原を同定する方法にも関する。「タンパク質距離」とは、2つのアミノ酸配列間の類似性又は差異の程度の尺度である。非常に類似している2つのアミノ酸配列は、短いタンパク質距離を有する。非常に相違している2つのアミノ酸配列は、長いタンパク質距離を有する。タンパク質距離は、生化学的類似度に従って置換に加重するDayhoff PAM250置換行列(M.O. Dayhoff, ed., 1978, Atlas of Protein Sequence and Structure, Vol. 5)を用いて計算するのが好ましい。しかし、タンパク質距離を決定する他の方法も使用することができる。
【0042】
本明細書で使用する場合、用語「ヌクレオチド配列」及び「核酸配列」とは、デオキシリボ核酸(DNA)又はリボ核酸(RNA)を指し、それだけに限らないが、メッセンジャーRNA(mRNA)、DNA/RNAハイブリッド、又は合成核酸を含む。該核酸は、1本鎖、又は部分的若しくは完全な2本鎖(2重鎖)の場合もある。2重鎖核酸は、ホモ2重鎖又はヘテロ2重鎖でもよい。
【0043】
既出の「課題を解決するための手段("Summary of the Invention")」及び以下の「実施例」に記載のように、本発明は、HIV−1クレイドAのコンセンサス抗原、及びこれらのコンセンサス抗原をコードするヌクレオチド配列を提供する。本発明は、これらのコンセンサス配列、及びそうした配列をコードするヌクレオチド配列に密接に合致する、流行HIV−1クレイドA株由来の抗原にも関する。本発明は、本発明のHIV−1クレイドA抗原をコードする配列を含むHIV−1クレイドAトランス遺伝子も提供する。本明細書で使用する場合、用語「トランス遺伝子」は、本発明のHIV−1クレイドAのコンセンサスヌクレオチド配列、又はこうしたコンセンサス配列に密接に合致すると確認された、最近の流行HIV−1クレイドA株のいずれかに由来する、「組換え」ヌクレオチド配列を指すために使用される。用語「組換え」とは、「人間により」操作されたものであり、自然においては生じない、又は自然において別のヌクレオチド配列に連結され、若しくは異なる配置で見出されるヌクレオチド配列を意味する。「人間による」操作とは、機械、コドン最適化、制限酵素などの使用による操作を含め、何らかの人工的手段による操作を意味すると理解される。例えば、好ましい実施形態では、本発明はGRIN、GRN及びEnvトランス遺伝子を提供する。
【0044】
本発明のヌクレオチドは、コンセンサスヌクレオチド配列と比較して、又はこのようなコンセンサス配列に密接に関連する流行HIV−1分離株由来の配列と比較して、変化させ得る。例えば、一実施形態では、該ヌクレオチド配列は、コードするタンパク質のインビボ活性が無効化されるように、変異させ得る。別の実施形態では、該ヌクレオチド配列に、コドン最適化を施し得る、例えば、人間用途向けにそのコドンを最適化し得る。好ましい実施形態では、本発明のヌクレオチド配列は、コードするタンパク質の正常なインビボ機能を無効化するために変異させ、さらにヒト用途向けにコドンを最適化させる。例えば、本発明のGag、Pol、Env、Nef、RT及びInt各配列は、このようにして変化させ得る。
【0045】
抗原のインビボ機能を無効化するためになし得る変異の型には、それだけに限らないが、実施例7にも記載される以下の型:即ち、Gag中のGly2のAlaへの変異による、ミリスチル化部位の除去及びウィルス様粒子(VLP)の形成防止;Gagの変異による自然フレームシフト配列におけるスリップの回避、それによる保存アミノ酸配列(NFLG)の完全性保持、及び全長GagPolタンパク質産物以外の翻訳排除;RT Asp185のAlaへの変異、及びAsp186のAlaへの変異による活性酵素残基の不活性化が挙げられる。Int Asp64のAlへの変異、及びAsp116のAlaへの変異、更にGlu152のAlaへの変異による活性酵素残基の不活性化が挙げられる。
【0046】
コドン最適化に関しては、本発明の核酸分子は、本発明の抗原をコードするヌクレオチド配列を有し、その抗原を産生しようとする対象の遺伝子中で使用されるコドンを採用するように設計することができる。HIV及び他のレンチウィルスを含む多くのウィルスは、多数の希少コドンを使用し、所望の対象において汎用されるコドンに一致するようにこれらのコドンを変化させることにより、該抗原の発現強化を実現することができる。好ましい実施形態では、使用するコドンは、「ヒト化」コドン、即ち、HIVが繁用するコドンの代わりに、高度に発現するヒト遺伝子(Andre et al., J. Virol. 72:1497-1503, 1998)中に頻繁に出現するコドンである。このようなコドンの使用は、ヒト細胞において、トランスジェニックHIVタンパク質を効率的に発現する。任意の適当なコドン最適化法を使用し得る。例えば、実施例8に例示するように、ヒトの使用のためにコドンを最適化してもよい。しかし、他の任意の適当なコドン最適化法を使用してもよい。このような方法及びこのような方法の選択は、当業者に周知のことである。その上、Geneart社(geneart.com)のように配列のコドンを最適化すると見込まれる会社が数社存在する。したがって、本発明のヌクレオチド配列に、容易にコドン最適化を施すことができる。
【0047】
本発明は更に、本発明の抗原に機能性及び/又は抗原性が等価な変異体及び誘導体をコードするヌクレオチド配列、並びに機能的に等価なその断片も包含する。こうした機能的に等価な変異体、誘導体及び断片は、抗原活性を保持する能力を示す。例えば、コードするアミノ酸配列を変化させないDNA配列の変化、並びに、アミノ酸残基の保存的置換、アミノ酸1個又は少数個の欠失又は付加、及びアミノ酸類縁体によるアミノ酸残基の置換を起こすDNA配列の変化は、コードされるポリペプチドの性質にさほど影響しないと思われる変化である。保存的アミノ酸置換は、グリシン/アラニン、バリン/イソロイシン/ロイシン、アスパラギン/グルタミン、アスパラギン酸/グルタミン酸、セリン/スレオニン/メチオニン、リシン/アルギニン、及びフェニルアラニン/チロシン/トリプトファンである。一実施形態では、変異体は、対象とする抗原、エピトープ、免疫原、ペプチド又はポリペプチドと、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の相同性又は同一性を有する。
【0048】
本発明の目的のために、配列の同一性又は相同性は、重複及び一致を最大限にすると同時に、配列ギャップを最小限にするように、配列同士を整列させたときに、配列同士を比較することにより決定される。特に、幾種もの数学アルゴリズムのいずれかを使用して、配列同一性を決定し得る。2つの配列を比較するために使用される数学アルゴリズムの非限定的一例は、Karlin & Altschul, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1990; 87: 2264-2268、及びその改良版であるKarlin & Altschul, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1993; 90: 5873-5877のアルゴリズムである。
【0049】
配列の比較に使用される数学アルゴリズムの別の例は、Myers & Miller, CABIOS 1988;4: 11-17のアルゴリズムである。このようなアルゴリズムは、GCG配列整列ソフトウェアパッケージの一部をなすALIGNプログラム(バージョン2.0)中に組み込まれる。アミノ酸配列の比較のためにALIGNプログラムを利用する際、PAM120重量残基表、12のギャップ長ペナルティー、及び4のギャップペナルティーを使用することができる。局所的な配列の類似性及び整列の領域を特定するための更に別の有用なアルゴリズムは、Pearson & Lipman, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1988; 85: 2444-2448に記載されるようなアルゴリズムである。
【0050】
WU−BLAST(Washington University BLAST)バージョン2.0ソフトウェアは、本発明に従った使用にとって有利である。数種のUNIX(登録商標)プラットフォーム用のWU−BLASTバージョン2.0の実行可能プログラムは、ftp://blast.wustl.edu/blast/executablesからダウンロードすることができる。このプログラムはWU−BLASTバージョン1.4に基づき、そのバージョンは、パブリックドメインのNCBI−BLASTバージョン1.4に順に基づいている(その全てが参照により本明細書に組み込まれる、Altschul & Gish, 1996, Local alignment statistics, Doolittle ed., Methods in Enzymology 266: 460-480; Altschul et al., Journal of Molecular Biology 1990; 215: 403-410; Gish & States, 1993;Nature Genetics 3: 266-272; Karlin & Altschul, 1993; Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 5873-5877)。
【0051】
本発明の多様な組換えヌクレオチド配列及びトランス遺伝子は、標準的な組換えDNA及びクローニングの技法を用いて作製される。このような技法は当業者に周知のことである。例えば、"Molecular Cloning: A Laboratory Manual", second edition (Sambrook et al. 1989) を参照されたい。
【0052】
本発明のヌクレオチド配列は「ベクター」中に挿入し得る。用語「ベクター」は、当業者により広範に使用され、理解されており、本明細書で使用する場合、用語「ベクター」は、当業者にとっての意味に合致して使用される。例えば、用語「ベクター」は、1つの環境から別の環境への核酸分子の移動を可能とし、若しくは促進する、又は核酸分子の操作を可能とし、若しくは促進する媒体を指すために、当業者に汎用されている。
【0053】
本発明のHIV−1クレイドAトランス遺伝子の発現を可能とする任意のベクターを、本発明に従って使用し得る。ある種の実施形態では、本発明のHIV−1クレイドAトランス遺伝子は、インビトロ(無細胞発現系など)及び/又はインビトロで増殖した培養細胞で使用することにより、タンパク質性ワクチンの製造などの多様な用途に後で使用し得るコードされたHIV−1抗原を産生し得る。このような用途のために、インビトロ及び/又は培養細胞でHIV−1クレイドAトランス遺伝子の発現を可能とする任意のベクターを使用し得る。
【0054】
トランス遺伝子をインビボで発現させるのが望ましい用途のために、例えば、本発明のトランス遺伝子をDNAワクチン又はDNA含有ワクチンに使用する場合、本発明のHIV−1クレイドAトランス遺伝子の発現を可能とし、インビボでの使用にとって安全である任意のベクターを使用してもよい。好ましい実施形態では、使用するベクターは、人間、哺乳類及び/又は実験動物における使用にとって安全である。
【0055】
本発明のトランス遺伝子を発現させるためには、そのタンパク質コード配列が、該タンパク質の転写及び翻訳を指示する調節配列又は核酸制御配列と、「作動可能に連結」されるべきである。本明細書で使用する場合、コード配列、及び核酸制御配列又はプロモーターは、コード配列の発現或いは転写及び/又は翻訳を核酸制御配列の影響下又は制御下に入るように共有結合で連結されるとき、「作動可能に連結」されると言われる。「核酸制御配列」には、それだけに限らないが、プロモーター、エンハンサー、IRES、イントロン、及びこの配列に作動可能に連結される核酸配列又はコード配列の発現を指示する本明細書記載の他の要素などの任意の核酸要素がなり得る。用語「プロモーター」は、RNAポリメラーゼIIの開始部位の回りに集合し、本発明のタンパク質コード配列と作動可能に連結されるとき、被コードタンパク質の発現を起こす、一群の転写制御モジュールを指すために、本明細書では使用するものとする。本発明のトランス遺伝子の発現は、限定することなく、テトラサイクリンなどの抗生物質、エクジソンなどのホルモン、又は重金属など、特定の何らかの外部刺激に曝された場合にしか転写を開始しない、構成プロモーター又は誘導プロモーターの制御下におくことができる。該プロモーターは、特定の細胞型、組織又は器官に特異的となることもできる。多数の適切なプロモーター及びエンハンサーが、当技術分野で知られており、本発明のトランス遺伝子を発現するために、このような任意の適切なプロモーター又はエンハンサーを使用し得る。例えば、適切なプロモーター及び/又はエンハンサーは、真核細胞プロモーターデータベース(EPDB)から選択することができる。
【0056】
本発明に従って使用されるベクターは、プロモーター又はエンハンサーなどの適切な遺伝子調節領域を含有し、本発明のトランス遺伝子を発現できるように通常、選定すべきである。
【0057】
例えば、その目的が、本発明のトランス遺伝子がコードするタンパク質(複数も)を産生するために、インビトロで、又は培養細胞で、又は任意の原核系若しくは真核系でそのトランス遺伝子を発現することである場合、その用途に応じて適切な任意のベクターを使用することができる。例えば、プラスミド、ウィルスベクター、細菌ベクター、原虫ベクター、昆虫ベクター、バキュロウィルス発現ベクター、酵母ベクター、哺乳動物細胞ベクターなどを使用することができる。適切なベクターは、ベクターの特性、及び確認した状況下でトランス遺伝子を発現する要件を考慮して、当業者が選択することができる。
【0058】
その目的が、例えば、HIV−1抗原に対する免疫応答、及び/又はHIV−1に対する防御免疫を生成するために、対象においてインビボで本発明のトランス遺伝子を発現することである場合、その対象上での発現に適切であり、インビボでの使用に安全である発現ベクターを選定すべきである。例えば、幾つかの実施形態では、本発明のHIV−1免疫原組成物及びワクチンを前臨床試験するなどのために、実験動物において本発明のトランス遺伝子を発現させることが望ましいこともある。他の実施形態では、本発明の免疫原組成物及びワクチンの臨床試験及び実際の臨床使用などのために、人間対象において本発明のトランス遺伝子を発現させることが望ましいこととなろう。このような使用に適している任意のベクターを使用することができ、適切なベクターを選択することは、当業者の能力内に十分入る。幾つかの実施形態では、こうしたインビボ用途に使用するベクターは、対象において増幅することから弱毒化されることが好ましいこともある。例えば、プラスミドベクターが使用される場合、対象におけるインビボ使用のために安全性を高めるように、それらのベクターは、対象において機能する複製起点を欠くことが好ましかろう。ウィルスベクターが使用される場合、対象におけるインビボ使用のために安全性をやはり高めるように、それらのベクターは、対象において弱毒化されるか、複製不良であることが好ましい。
【0059】
本発明の好ましい実施形態では、ウィルスベクターが使用される。ウィルス発現ベクターは、当業者に周知であり、例えば、アデノウィルス、アデノ随伴ウィルス(AAV)、アルファウィルス、ヘルペスウィルス、レトロウィルス、及びアビポックスウィルス、弱毒化ポックスウィルス、ワクシニアウィルス、特に修飾ワクシニアアンカラウィルス(MVA;ATCC受託番号VR−1566)を含むポックスウィルスなどのウィルスを包含する。このようなウィルスは、発現ベクターとして使用される際、人間などの選択した対象において生来非病原性であり、又は選択した対象において非病原化するように修飾されてきた。例えば、複製不良のアデノウィルス及びアルファウィルスは、周知であり、遺伝子送達ベクターとして使用することができる。
【0060】
特に好ましい実施形態では、アデノウィルスベクターが使用される。多くのアデノウィルスベクターが、当技術分野で公知であり、適当なこのような任意のベクターを使用し得る。好ましい実施形態では、使用するアデノウィルスベクターは、Ad5、Ad35、Ad11、C6及びC7ベクターからなる群から選択される。
【0061】
アデノウィルス5(「Ad5」)ゲノムの配列は公表されてきた。(その内容が参照により本明細書に組み込まれる、Chroboczek, J., Bieber. F., and Jacrot, B. (1992) The Sequence of the Genome of Adenovirus Type 5 and Its Comparison with the Genome of Adenovirus Type 2, Virology 186, 280-285)。Ad35ベクターは、米国特許第6974695号明細書、第6913922号明細書、及び第6869794号明細書に記載されている。Ad11ベクターは、米国特許第6913922号明細書に記載されている。C6アデノウィルスベクターは、米国特許第6780407号明細書、第6537594号明細書、第6309647号明細書、第6265189号明細書、第6156567号明細書、第6090393号明細書、第5942235号明細書、及び第5833975号明細書に記載されている。C7ベクターは、米国特許第6277558号明細書に記載されている。
【0062】
E1欠損若しくは欠失、E3欠損若しくは欠失、及び/又はE4欠損若しくは欠失をしているアデノウィルスベクターも、使用し得る。E1領域に変異を有するある種のアデノウィルスは、E1欠損アデノウィルス変異体が、非許容性細胞において複製不良であるか、又はごく控えめに言っても高度に弱度化されているので、改善された安全域を有する。E3領域に変異を有するアデノウィルスは、アデノウィルスがMHCクラスI分子を下方調節する機構の破壊により、免疫原性を既に高めていることもある。E4変異を有するアデノウィルスは、後期遺伝子発現の抑制のために、アデノウィルスベクターの免疫原性が低下していることもある。このようなベクターは、同じベクターを利用する反復的再ワクチン接種が望ましい場合、特に有用となり得る。E1、E3、E4、E1及びE3、並びにE1及びE4が欠失又は変異しているアデノウィルスベクターは、本発明に従って使用することができる。
【0063】
更に、全てのウィルス遺伝子を欠失している「ガットレス(gutless)」アデノウィルスベクターも、本発明に従って使用することができる。このようなベクターは、複製のためにヘルパーウィルスを必要とし、自然環境中には存在しない条件である、E1a、Creの双方を発現する特殊なヒト293細胞系を必要とする。このような「ガットレス」ベクターは非免疫原性であり、したがって再ワクチン接種のためにそのベクターを何度も接種し得る。該「ガットレス」アデノウィルスベクターは、本発明のトランス遺伝子などの異種の挿入配列/遺伝子の挿入に使用することができ、多数の異種挿入配列/遺伝子の同時送達にさえ使用することができる。
【0064】
本発明は、Envの導入が、細胞性免疫(CMI)及び防御効果から見て有益又は有害であるかの評価を可能とするために、別々のベクター上にEnv及びGRINを配置する設計も包含する。EnvのCMI及び防御効果に対する有益性及び/又は有害性は、HIVワクチン分野においてなお未解決の問題である。したがって、本発明は、EnvのCMI及び防御効果に関する評価を提供する。EnvのCMI及び防御効果に対する作用を決定するために、本発明のトランス遺伝子及びベクターを利用することは、当業者の範囲に入る。
【0065】
本発明のヌクレオチド配列及びベクターは、例えばその目的が、細胞中にHIV−1抗原を発現させることにより、その発現タンパク質を産生し、培養物中に増殖した細胞などからそれを単離することである場合に、細胞に送達することができる。細胞中にトランス遺伝子を発現させるために、トランスフェクション、形質転換又は遺伝子送達の適当な任意の方法を使用することができる。このような方法は、当業者に周知されており、当業者であれば、使用するヌクレオチド配列、ベクター及び細胞型の特質に応じて適切な方法を容易に選択することができよう。例えば、トランスフェクション、形質転換、マイクロインジェクション、感染、電気穿孔、リポフェクション、又はリポソーム媒介送達を使用することができよう。抗原の発現は、細菌細胞、酵母、昆虫細胞、哺乳類細胞などの適当な任意の型の宿主細胞中で実施することができる。本発明のHIV−1クレイドA抗原は、インビトロの転写/翻訳系を含めて使用して発現させることもできる。このような方法は全て、当業者に周知されており、当業者であれば、使用するヌクレオチド配列、ベクター及び細胞型の特質に応じて適切な方法を容易に選択することができよう。
【0066】
発現の後、本発明の抗原は、当技術分野で公知の適当な任意の技法を使用して単離及び/又は精製或いは濃縮することができる。例えば、陰イオン若しくは陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水相互作用クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、免疫アフィニティクロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、レクチンクロマトグラフィー、分子篩クロマトグラフィー、等電点電気泳動、ゲル電気泳動、又は他の任意の適当な方法、又は併用法を使用することができる。
【0067】
好ましい実施形態では、本発明のヌクレオチド配列及び/又は抗原は、例えば、その目的が対象において免疫応答を生じることである場合に、インビボで投与される。本発明に関する「対象」には、任意の動物がなり得る。例えば、幾つかの実施形態では、本発明のHIV−1免疫原組成物及びワクチンの前臨床試験などのために、実験動物中に本発明のトランス遺伝子を発現させることが望ましいこともある。他の実施形態では、本発明の免疫原組成物及びワクチンの臨床試験及び実際の臨床使用などのために、人間対象中に本発明のトランス遺伝子を発現させることが望ましかろう。好ましい実施形態では、該対象は人間であり、例えば、HIV−1に感染している、又は感染する危険性がある人である。
【0068】
このようなインビボ用途に対して、本発明のヌクレオチド配列及び/又は抗原は、薬学的に許容される担体との混合物として本発明のヌクレオチド配列及び/又は抗原を含む、免疫原組成物の成分として投与するのが好ましい。本発明の免疫原組成物は、HIV−1に対する免疫応答の刺激に有用であり、AIDSを予防、改善又は治療するために、HIV−1に対する予防又は治療ワクチンの1種又は複数の成分として使用し得る。本発明の核酸及びベクターは、人間などの対象に遺伝子ワクチン、即ち本発明のHIV−1クレイドA抗原をコードする核酸を送達するためのワクチンを提供し、その後免疫応答を誘発するように、HIV−1クレイドA抗原を対象中で発現させるのに特に有用である。
【0069】
本発明の組成物は、注射用の懸濁液、溶液、噴霧液、凍結乾燥粉末、シロップ、エリキシルなどとしてもよい。適切な任意形態の組成物を使用してもよい。このような組成物を調製するために、所望の純度を有する本発明の核酸及びベクターは、1種又は複数の薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤と混合される。この担体及び賦形剤は、組成物の他の成分に適合するという意味で「許容され」なければならない。許容される担体、賦形剤及び安定剤は、使用される用量及び濃度で受容対象に無毒であり、それだけに限らないが、水、塩水、リン酸緩衝塩水、デキストロース、グリセロール、エタノール若しくはそれらの組合せ;リン酸、クエン酸及び他の有機酸などの緩衝剤;アスコルビン酸、メチオニンを含めた抗酸化剤;防腐剤(塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ヘキサメトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、フェノール、ブチル若しくはベンジルアルコール、メチル若しくはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン、カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノール、3−ペンタノール、m−クレゾールなど);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、リシンなどのアミノ酸;グルコース、マンノース、デキストリンを含めた単糖類、二糖類及び他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロース、ソルビトールなどの糖類;ナトリウムなどの塩形成対イオン;金属錯体(例えば、Zn−タンパク質錯体)、及び/又はTWEEN(商標)、PLURONICS(商標)、ポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン界面活性剤を包含する。
【0070】
免疫原又は免疫性組成物は、水中油乳濁液の形態でも製剤化することができる。水中油乳濁液は、例えば、軽質液体パラフィン油(欧州薬局方型)、スクアラン、スクアレン、EICOSANE(商標)、テトラテトラコンタンなどのイソプレノイド油;アルケン(複数も)、例えばイソブテン若しくはデセンのオリゴマー形成から生じる油;植物油、オレイン酸エチル、プロピレングリコールジ(カプリレート/カプレート)、グリセリルトリ(カプリレート/カプレート)若しくはプロピレングリコールジオレエートなどの、直鎖アルキル基を含有する酸又はアルコールのエステル;分岐した脂肪酸又はアルコールのエステル、例えばイソステアリン酸エステルを基剤とすることができる。この油は、乳濁液を形成するために、乳濁剤と組み合わせて使用するのが有利である。該乳濁剤は、ソルビタン、マンニド(例えば、オレイン酸無水マンニトール)、グリセロール、ポリグリセロール、プロピレングリコール、及びオレイン酸、イソステアリン酸、リシノール酸若しくはヒドロキシステアリン酸のエステルで、エトキシ化されていてもよいエステル、並びにPluronic(登録商標)製品、例えばL121などのポリオキシプロピレンポリオキシエチレンコポリマーブロックなどの非イオン界面活性剤でもよい。アジュバントには、乳濁剤(複数も)と、ミセル形成剤と、Provax(登録商標)(IDEC Pharmaceuticals, San Diego, CA)の名で市販されているものなどの油との混合物がなり得る。
【0071】
本発明の免疫原組成物は、湿潤剤若しくは乳濁剤、緩衝剤、又はワクチンの有効性を高めるためのアジュバントなどの追加の物質を含有することができる(Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th edition, Mack Publishing Company, (ed.) 1980)。
【0072】
アジュバントも含め得る。アジュバントには、それだけに限らないが、無機塩(例えば、AlK(SO、AlNa(SO、AlNH(SO、シリカ、ミョウバン、Al(OH)、Ca(PO、カオリン又は炭素)、ポリヌクレオチドの免疫刺激複合体(ISCOM)入り又は無し(例えば、CpGオリゴヌクレオチドで、Chuang, T.H. et al., (2002) J. Leuk. Biol. 71(3): 538-44; Ahmad-Nejad, P. et al (2002) Eur. J. Immunol. 32(7): 1958-68に記載のものなど、ポリIC酸又はポリAU酸、ポリアルギニンのCpG入り又は無し(IC31の名でも当技術分野で知られている。Schellack, C. et al (2003) Proceedings of the 34th Annual Meeting of the German Society of Immunology; Lingnau, K. et al (2002) Vaccine 20(29-30): 3498-508を参照されたい)、Juva Vax(商標)(米国特許第6693086号明細書)、ある種の天然物質(例えば、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)のワックスD、コリネバクテリウム・パルブム(Corynebacterium parvum)、百日咳菌(Bordetella pertussis)又はブルセラ属の細菌種に見出される物質)、フラジェリン(Toll様受容体5のリガンド。McSorley, S.J. et al (2002) J. Immunol. 169(7): 3914-9を参照されたい)、QS21、QS17、QS7などのサポニン(米国特許第5057540号明細書、第5650398号明細書、第6524584号明細書、第6645495号明細書)、モノホスホリルリピドA、特に脱3−O−アシル化モノホスホリルリピドA(3D−MPL)、イミキモド(IQMの名でも当技術分野で知られており、Aldara(登録商標)の名で市販されている。米国特許第4689338号明細書、第5238944号明細書;Zuber, A.K. et al (2004) 22(13-14): 1791-8)、及びCCR5阻害剤のCMPD167(Veazey, R.S. et al (2003) J. Exp. Med. 198: 1551-1562を参照されたい)。
【0073】
水酸化又はリン酸アルミニウム(ミョウバン)は、リン酸緩衝塩水中の0.05〜0.1%溶液で通常使用される。特にDNAワクチンと共に使用できる他のアジュバントは、コレラ毒素、特にCTAl−DD/ISCOM(Mowat, A.M. et al (2001) J. Immunol. 167(6): 3398-405を参照されたい)、ポリホスファゼン(Allcock, H.R. (1998) App. Organometallic Chem. 12(10-11): 659-666; Payne, L.G. et al (1995) Pharm. Biotechnol. 6: 473-93)、サイトカインとして、それだけに限らないが、IL−2、IL−4、GM−CSF、IL−12、IL−15、IGF−1、IFN−α、IFN−β、IFN−γなど(Boyer et al., (2002) J. Liposome Res. 121:137-142; 国際公開第01/095919号パンフレット)、免疫調節タンパク質として、CD40L(ADX40、例えば国際公開第03/063899号パンフレットを参照されたい)及びナチュラルキラー細胞のCD1aリガンド(CRONY又はα−ガラクトシルセラミドの名でも知られる。Green, T.D. et al, (2003) J. Virol. 77(3): 2046-2055を参照されたい)など、免疫刺激融合タンパク質として、免疫グロブリンのFc断片に融合したIL−2(Barouch et al., Science 290:486-492, 2000)など、並びに補助刺激分子B7.1及びB7.2(Boyer)であり、以上のいずれも、タンパク質として、又は本発明の抗原をコードするベクターと同じ発現ベクター、若しくは異なる発現ベクター上のDNAの形態で投与することができる。
【0074】
該免疫原組成物は、HIV−1クレイドAの抗原、核酸又は発現ベクターを所望の作用部位へ導入し、それを適当で制御可能な速度で放出するように、設計することができる。制御放出製剤を調製する方法は、当技術分野で公知である。例えば、制御放出製剤は、免疫原及び/又は免疫原組成物と複合又は吸収するためのポリマーの使用によって、作製することができる。制御放出製剤は、所望の制御放出特性又は放出プロファイルをもたらすことが知られている、適当な巨大分子(例えば、ポリエステル、ポリアミノ酸、ポリビニル、ピロリドン、エチレンビニルアセテート、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース又は硫酸プロタミン)を用いて調製することができる。制御放出製剤により作用期間を制御する別の考え得る方法は、例えば、ポリエステル、ポリアミノ酸、ヒドロゲル、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、これらの酸のコポリマー、エチレンビニルアセテートコポリマーなどの高分子材料の粒子中に活性成分を導入することである。別法として、こうした活性成分をポリマー粒子中に導入する代わりに、例えばコアセルベーション法又は界面重合法により調製したマイクロカプセル中に、例えば、それぞれヒドロキシメチルセルロース若しくはゼラチンのマイクロカプセル中、及びポリ(メタクリル酸メチル)マイクロカプセル中に、コロイド薬物送達系(例えば、リボソーム、アルブミンミクロスフェア、ミクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル)又はマクロエマルジョンにおいて、これらの物質を捕捉することも可能である。このような技法は、New Trends and Developments in Vaccines, Voller et al. (eds.), University Park Press, Baltimore, Md., 1978及びRemington's Pharmaceutical Sciences, 16th editionに開示されている。
【0075】
本発明の免疫原組成物におけるHIV−1クレイドAの抗原、核酸及び発現ベクター(免疫原と総称)の適切な用量は、当業者により容易に決定することができる。例えば、免疫原の用量は、投与経路及び対象のサイズに応じて変化することができる。適切な用量は、例えば、従来からの免疫学的技法を使用し、投与量を適宜調節しながら、実験動物などの対象の免疫応答を測定することによって、当業者により決定することができる。対象の免疫応答を測定するためのこのような技法には、それだけに限らないが、クロム放出アッセイ、四量体結合アッセイ、IFN−γ ELISPOTアッセイ、IL−2 ELISPOTアッセイ、細胞内サイトカインアッセイ、並びに例えば、Ed Harlow及びDavid Laneによる教科書"Antibodies: A Laboratory Manual" に詳述されているような他の免疫学的検出アッセイが含まれる。
【0076】
予防的に提供する場合、本発明の免疫原組成物は、特に危険性の高い対象におけるHIV感染若しくはHIV感染の証明の前に、又はAIDSによる何らかの症状の前に、対象に投与するのが理想的である。免疫原組成物の予防投与は、HIV−1感染に対して対象を防御的に免疫し、又はHIV−1に既に感染した対象におけるAIDSの進行を予防若しくは軽減するために役立つことができる。治療的に提供する場合、該免疫原組成物は、AIDS症状を改善し、治療するのに役立つことができ、好ましくは何らかのAIDS症状が出現する前に、感染後できる限り速やかに使用するのが有利であるが、疾患症状の開始時(又はその後)にも使用してもよい。
【0077】
該免疫原組成物は、それだけに限らないが、筋肉内、静脈内、皮内、粘膜及び局所送達を含めた任意の適当な送達法を用いて投与することができる。このような技法は、当業者に周知のことである。送達法のより具体的な例は、筋肉内注射、皮内注射及び皮下注射である。しかし、送達を注射法に限定する必要はない。更に、動物組織へのDNAの送達は、陽イオンリポソーム(Watanabe et al., (1994) Mol. Reprod. Dev. 38:268-274及び国際公開第96/20013号パンフレット)、裸DNAの動物筋肉組織内への直接注射(Robinson et al., (1993) Vaccine 11:957-960; Hoffman et al., (1994) Vaccine 12:1529-1533; Xiang et al., (1994) Virology 199: 132-140; Webster et al., (1994) Vaccine 12:1495-1498; Davis et al., (1994) Vaccine 12:1503-1509及びDavis et al., (1993) Hum. Mol. Gen. 2: 1847-1851)、又は「遺伝子銃」技術を用いたDNAの皮内注射(Johnston et al., Meth. Cell Biol. 43:353-365)により、実現されてきた。或いは、送達経路は、経口、鼻腔内、又は他の任意の適当な経路でもよい。肛門、膣又は口内粘膜などの粘膜表面を介しても、送達が実現される。
【0078】
免疫接種スケジュール(又は計画)は、動物(人間を含め)に対して周知のことであり、特定の対象及び免疫原組成物に対して容易に決定することができる。したがって、免疫原を対象に1回又は複数回投与することができる。好ましくは、免疫原組成物の個別の投与間に時間間隔が設定される。この間隔は対象ごとに変動するが、通常は10日から数週の範囲にあり、しばしば2週、4週、6週又は8週である。人間については、この間隔が通常2週から6週である。免疫接種計画は、免疫原組成物の投与を通常1〜6回有するが、1回又は2回又は4回しかないこともある。免疫応答を誘発する方法には、免疫原と共にアジュバントを投与することも含むことができる。幾つかの例では、毎年、隔年又は他の長期間隔(5〜10年)のブースター免疫接種が、初期の免疫接種処方を補充することができる。
【0079】
本方法は、多様なプライム・ブースト接種計画、特にDNAプライム・アデノウィルスブースト接種計画も包含する。こうした方法では、1回又は複数回のプライム免疫接種の後、1回又は複数回のブースト免疫接種を行う。実際の免疫原組成物は、各免疫接種に対して同じでも異なってもよく、免疫原組成物の型(例えば、タンパク質又は発現ベクターを含有する)、経路、及び免疫原の製剤も変化することができる。例えば、プライム及びブースト段階のために発現ベクターを使用する場合、その型は同じでも異なってもよい(例えば、DNA又は細菌又はウィルスの発現ベクター)。1つの有用なプライム・ブースト接種計画では、プライム免疫接種を4週間隔で2回した後、最後のプライム免疫接種から4週後及び8週後にブースト免疫接種を2回行う。プライム・ブースト接種計画を提供するために、本発明のDNA、細菌及びウィルス発現ベクターを用いて包含される順列及び組合せが幾つもあることも、当業者には容易に明らかとなるはずである。
【0080】
本発明の特定の実施形態は、本発明のHIV−1クレイドA抗原(好ましくはGRIN、GRN若しくはEnv又はその組合せ)を1種又は複数コードするDNAを含有するアデノウィルスベクターを好ましくは含む、本発明の免疫原組成物を対象に1回又は複数回投与し、その対象において特定の免疫応答を誘発するのに十分なレベルでHIV−1クレイドA抗原(複数も)を発現させることにより、対象において免疫応答を誘発する方法を提供する。このような免疫接種は、所望の免疫接種計画に従って少なくとも2週、4週若しくは6週(又は、より長い)の時間間隔で何回も繰り返すことができる。
【0081】
本発明の免疫原組成物は、単独で投与することができ、或いは他のHIV免疫原及び/又はHIV免疫原組成物、例えば「他の」免疫性、抗原性若しくはワクチン性又は治療性組成物と共に同時投与又は逐次投与することにより、本発明の多価又は「カクテル」又は複合組成物、及びその組成物を使用する方法を提供することができる。成分、投与法(逐次又は同時投与)、並びに投与量は、やはり、その特定の対象の年齢、性別、体重、種別及び状態、並びに投与経路などの要因を考慮して決定することができる。
【0082】
組み合わせて使用される場合、他のHIV免疫原は、全体的な免疫接種計画の一部、例えば、プライム・ブースト接種計画又は他の免疫接種処方の一部として、同時又は異なるときに投与することができる。他の多くのHIV免疫原が当技術分野で公知であり、そのような好ましい一免疫原は、HIVAであり(国際公開第01/47955号パンフレットに記載)、タンパク質として、プラスミド(例えば、pTHr.HIVA)上で、又はウィルスベクター(例えば、MVA.HIVA)中で投与することができる。別のそのようなHIV免疫原は、RENTAであり(PCT/US第2004/037699号に記載)、やはりタンパク質として、プラスミド(例えば、pTHr.RENTA)上で、又はウィルスベクター(例えば、MVA.RENTA)中で投与することができる。
【0083】
例えば、人間対象においてHIVに対する免疫応答を誘発する一方法は、HIV免疫原の少なくとも1プライム用量、及びHIV免疫原の少なくとも1ブースト用量の投与を含み、各用量中の免疫原は同じでも異なってもよいが、その免疫原の少なくとも一方は、本発明のHIV−1クレイドA抗原、本発明のHIV−1クレイドA抗原をコードする核酸、又は本発明のHIV−1クレイドA抗原をコードする発現ベクター、好ましくはアデノウィルスベクターであり、しかも該免疫原が、対象においてHIV特異的免疫応答を誘発するのに十分な量で投与され、又は十分なレベルで発現される投与を含む。HIV特異的免疫応答は、HIV特異的T細胞免疫応答、又はHIV特異的B細胞免疫応答を含むことができる。このような免疫接種は、好ましくは、少なくとも2〜6週又はそれより長い週の間隔で行うことができる。
【0084】
以上記載の通り及び下記実施例に記載の通りの発明原理における変更は、当業者がなし得ると理解し、予想すべきものであり、このような改変、変更及び置換えは、本発明の範囲内に含めるべきであると意図している。
【0085】
以下の非限定的な実施例は、本発明の多様な実施形態を例示するために提示している。
[実施例]
【実施例1】
【0086】
HIVクレイドAのGagのコンセンサス配列
【0087】
【表1】

【0088】
非組換えHIVクレイドA39株のGagタンパク質のアミノ酸配列を分析した。表1に使用した39株を列挙し、各株をGenbank受託番号で示す。表1では、これらの39株各々の分離国及び分離年も特定している。そのうち20株はケニア、12株はウガンダ、6株はタンザニア、及び1株はソマリアから得た。そのうち20株は2000〜2002年の間に分離され、10株は1997〜1999年の間に分離され、6株は1994〜1996年の間に分離され、及び3株は1993年以前に分離された。
【0089】
Gagタンパク質配列は、挿入又は欠失のある領域で整列を維持するために、スペースを加えて整列させた。50%コンセンサス配列を誘導した。そのコンセンサスアミノ酸配列を図1に示す。図1では、挿入又は欠失のある領域で整列を維持するために加えたスペースは、破線で表現し、50%コンセンサスに到らなかった位置は、「X」で表現している。
【0090】
コンセンサス配列の生成に使用した39配列各々について、その配列のコンセンサス配列からの「距離」を、生化学的類似度に従って置換が加重されるDayhoff PAM250置換行列を用いて計算した。表1に示すように、各株の配列のコンセンサス配列からの距離は4〜9%の範囲に亘っていた。
【0091】
図2では、各株のアミノ酸配列のコンセンサスアミノ酸配列からの距離をグラフ形式で例示しており、コンセンサス配列に最も密接な配列を有する4株を特定している。これらの4株は、1997年、南西部タンザニアのMbeya地域の低リスク個人に由来し、Genbank受託番号AF361872を有する97TZ02株と、2001年、南西部タンザニアのMbeya地域の匿名供血者から採取し、Genbank受託番号AY253305を有するTZA173株と、2000年、南部ケニアの匿名供血者から採取し、Genbank受託番号AF4587006を有するKNH1144株と、ウガンダで感染したと考えられる個人からスウェーデンで1994年に採取し、Genbank受託番号AF069671を有するSE7535株である。
【実施例2】
【0092】
HIVクレイドAのPolのコンセンサス配列
非組換えHIVクレイドA36株のPolタンパク質のアミノ酸配列を分析した。表2に使用した36株を列挙し、各株をGenbank受託番号で示す。表2では、これらの36株各々の分離国及び分離年も特定している。そのうち20株はケニア、9株はウガンダ、6株はタンザニア、及び1株はソマリアから得た。そのうち19株は2000〜2002年の間に分離され、10株は1997〜1999年の間に分離され、4株は1994〜1996年の間に分離され、及び3株は1993年以前に分離された。
【0093】
Polタンパク質配列を整列させた。挿入も欠失もなかった。50%コンセンサス配列を誘導した。そのコンセンサスアミノ酸配列を図3に示す。図3では、50%コンセンサスに到らなかった位置を「X」で表現している。このような位置が、アミノ酸残基947個のうち4個あった。コンセンサス配列の生成に使用した36配列各々について、その配列のコンセンサス配列からの「距離」を、生化学的類似度に従って置換が加重されるDayhoff PAM250置換行列を用いて計算した。表2に示すように、各株の配列のコンセンサス配列からの距離は1.5〜4.8%の範囲に亘っていた。
【0094】
【表2】

【0095】
図4では、各株のアミノ酸配列のコンセンサスアミノ酸配列からの距離をグラフ形式で例示しており、コンセンサス配列に最も近似した配列を有する3株を特定している。これらの3株は、2000年、南部ケニアの匿名供血者に由来するMSA4070株と、ソマリアで感染したと考えられる個人からスウェーデンで1994年に採取したSE7235SO株と、タンザニアで感染したと考えられる個人からスウェーデンで1995年に採取したSE8538株である。
【実施例3】
【0096】
HIVクレイドAのEnvのコンセンサス配列
【0097】
【表3】

【0098】
非組換えHIVクレイドA36株のEnvタンパク質のアミノ酸配列を分析した。表3に使用した36株を列挙し、各株をGenbank受託番号で示す。表3では、これらの36株各々の分離国及び分離年も特定している。そのうち18株はケニア、11株はウガンダ、6株はタンザニア、及び1株はソマリアから得た。そのうち17株は2000〜2002年の間に分離され、10株は1997〜1999年の間に分離され、6株は1994〜1996年の間に分離され、及び3株は1993年以前に分離された。
【0099】
Envタンパク質配列は、挿入又は欠失のある領域で整列を維持するために、スペースを加えて整列させた。挿入/欠失の長さ中に広範な異質性のある領域が多数存在した。50%コンセンサス配列を誘導した。そのコンセンサスアミノ酸配列を図5に示す。図5では、挿入又は欠失のある領域で整列を維持するために加えたスペースは、破線で表現し、50%コンセンサスに到らなかった位置は、「X」で表現している。50%コンセンサスに到らなかったアミノ酸位置が多数あった。
【0100】
コンセンサス配列の生成に使用した36配列各々について、その配列のコンセンサス配列からの「距離」を、生化学的類似度に従って置換が加重されるDayhoff PAM250置換行列を用いて計算した。表3に示すように、各株の配列のコンセンサス配列からの距離は6.3〜12.7%の範囲に亘っていた。
【0101】
図6では、各株のアミノ酸配列のコンセンサスアミノ酸配列からの距離をグラフ形式で例示しており、コンセンサス配列に最も近似した配列を有する3株を特定している。これらの3株は、1994年、ケニアのCSWに由来するKEQ23(CSWである)と、2002年、タンザニアの匿名供血者から得たTZA341と、1999年、ケニアの匿名供血者から得たKNH1088であった。
【実施例4】
【0102】
HIVクレイドAのNefのコンセンサス配列
非組換えHIVクレイドA38株のNefタンパク質のアミノ酸配列を分析した。表4に使用した38株を列挙し、各株をGenbank受託番号で示す。これらの38株各々の分離国及び分離年は、既出の実施例の表1〜3に記載してある。その半数強の株はケニアからで、相当数がウガンダに由来し、少数の株がタンザニアに由来した。その約半数の株は、2000〜2002年の間に分離された。
【0103】
【表4】

【0104】
Nefタンパク質配列は、挿入又は欠失のある領域で整列を維持するために、スペースを加えて整列させた。50%コンセンサス配列を誘導した。そのコンセンサスアミノ酸配列を図7に示す。図7では、挿入又は欠失のある領域で整列を維持するために加えたスペースは、破線で表現し、50%コンセンサスに到らなかった位置は、「X」で表現している。50%コンセンサスに到らなかったアミノ酸位置が6個あった。
【0105】
コンセンサス配列の生成に使用した38配列各々について、その配列のコンセンサス配列からの「距離」を、生化学的類似度に従って置換が加重されるDayhoff PAM250置換行列を用いて計算した。表4に示すように、各株の配列のコンセンサス配列からの距離は3.2〜16.1%の範囲に亘り、平均距離は9.3%であった。
【0106】
図8では、各株のアミノ酸配列のコンセンサスアミノ酸配列からの距離をグラフ形式で例示しており、コンセンサス配列に最も近似した配列を有する5株を特定している。これらの5株は、共に南部ケニアの匿名供血者に由来し、2000年に採取したMSA4070及びKNH1211と、南西部タンザニアのMbeya地域の低リスク個人に由来し、1997年に採取した97TZ03株と、ウガンダの個人に由来し、それぞれ1999年及び1995年に採取したUGA070及びSE8891であった。
【実施例5】
【0107】
HIVクレイドA株中、HIVクレイドAコンセンサス配列に最も近似した株
上記の実施例1〜4に記載し、表5に要約しているように、Gag、Pol、Env及びNef配列を有し、その各配列がこれらのタンパク質各々のコンセンサス配列に最も類似している、HIVクレイドAの株を特定した。その上、個々のタンパク質のコンセンサス配列に対する近似度に従って各株を順位付けすることにより、順位1番の株をそのタンパク質の配列がコンセンサス配列に最も近似した株とし、次いで各株の順位をタンパク質全4種(即ち、Gag、Pol、Env及びNef)に亘って合計することによって、コンセンサス配列に総合的に最も近似している株を特定した。調査したタンパク質全4種に亘り、コンセンサス配列に総合的に最も近似していた6株を下記の表6に列挙してある。97TZ02株は、Gag、Pol、Env及びNef遺伝子各々のコンセンサス配列に総合的に最も近似した配列を有することが認識できる。
【0108】
【表5】

【0109】
【表6】

【実施例6】
【0110】
GRIN、GRN及びEnvトランス遺伝子の構築
最も近年に特定した流行HIV−1野外分離株に由来し、対応する各タンパク質のHIVクレイドAコンセンサス配列に最も密接に合致するHIVクレイドAタンパク質配列を用いて、トランス遺伝子構築体を作製した。この戦略は、使用するHIVクレイドA配列の生物学的適合性を最大限にするために開発された。他の配列、即ち本実施例に記載する特定の配列以外の配列も、本発明に従って使用できることを理解されたい。他の配列を使用する場合、その配列が最近の野外分離株に由来し、ここに記載のHIVクレイドAコンセンサス配列、又は今後生成し得るHIVクレイドAコンセンサス配列に近似した配列を有するように、その配列を選択するのが好ましい。
【0111】
GRIN及びGRNと称する構築体を作製した。GRIN構築体は、Gag、Pol(RT及びインテグラーゼ)並びにNefタンパク質をコードするHIVクレイドA配列を含有していた。GRNトランス遺伝子は、Gag、RT及びNefタンパク質をコードする配列を含有していた。GRIN及びGRN構築体は、図9に概略的に表現されている。GRIN及びGRNトランス遺伝子は、Genbank受託番号AY253305を有するTZA173株のGagタンパク質配列、Genbank受託番号AF457081を有するMSA4070株のPol(RT、Intの両配列を含む)配列、Genbank受託番号AF457081を有するMSA4070株のNef配列を用いて作製した。これらの配列は、それぞれ、Gag、Pol及びNef各々のコンセンサス配列に最も密接に合致する、最も近年に特定した流行HIV−1野外分離株に由来したので、選択された。これらの配列は、それぞれ図10、11及び12に例示されている。
【0112】
Envコンセンサス配列に最も密接に合致する、最も近年に特定した流行HIV−1野外分離株のEnvコード配列、即ち、Genbank受託番号AY253314を有するTZA341株のEnvタンパク質配列を含有するEnv構築体も作製した。この配列は、図13に例示されている。
【0113】
次いで、全ての配列に対して、ヒトで発現させるためにコドン最適化がGeneArt(ドイツ)によりなされた。その最適化遺伝子配列は、ヒト又は他の哺乳類細胞において高度で安定なタンパク質発現を可能にする。コドン最適化法の更なる詳細は、実施例8に示されている。該トランス遺伝子には、遺伝子産物の正常機能をインビボで無効化するために、特定の変異を組み込むように操作すること、又は特定の順序に配置することもなされた。こうした変異の詳細、及び各変異の生物学的作用は、以下の実施例7に記載されている。
【0114】
GRIN及びGRNトランス遺伝子については、Gag、Pol(RT及びInt)又はRT、並びにNefタンパク質各々のコード配列を、トランス遺伝子構築体各々(即ちGRIN、GRNのいずれか)が単一の融合タンパク質をコードするように、インフレームで結合した。ネオエピトープが連結部に形成されていないことを確認するために、Blast検索を行った。本実施例では使用していないが、最適なタンパク質ドメインの折畳みができるように、最終的な融合タンパク質の個々の成分をコードする配列間にスペーサー配列を挿入することも可能であること、例えば、GagとPolとの間にスペーサー領域を加えることにより、タンパク質ドメインをより自然な立体配置で折畳むことを可能にし得ることに留意されたい。各配列相互の結合(例えば、Nefの5”末端のPolの3’末端への結合など)を促進するために、独特な制限酵素部位も、各配列の5”末端及び3’末端に加えた。
【0115】
インビボで使用するために、GRIN、GRN及びEnvトランス遺伝子をAd5、Ad35、Ad11、C6、C7いずれかのアデノウィルスベクター中に挿入した。これらのベクター中へのクローニングを促進するために、独特な制限酵素部位を、GRIN、GRN又はEnv構築体の5”末端及び3’末端に加えた。図14A〜14Cは、Ad35ベクター中に挿入する際のGRINの配列を提示し、Ad35ベクター中にGRIN配列をクローニングするために使用する制限酵素部位を示す(下線付き及び太字体)。示した配列には、GRIN配列の上流にあるCMVプロモーター配列も含まれる。図15A〜15Bは、Ad35ベクター中に挿入する際のEnvの配列を提示し、Ad35ベクター中にEnv配列をクローニングするために使用する制限酵素部位を示す(下線付き及び太字体)。示した配列には、Env配列の上流にあるCMVプロモーター配列も含まれる。
【0116】
上記構築体の全てを生成するために、組換えDNA及びクローニングの標準技法を用いた。このような技法は当業者に周知のことである。例えば、"Molecular Cloning: A Laboratory Manual", second edition (Sambrook et al. 1989)を参照されたい。
【実施例7】
【0117】
HIVクレイドAタンパク質の正常なインビボ機能を無効化するための変異
表7では、遺伝子産物のインビボ機能を無効化するために、GRIN及びGRN配列中へ作製される変異を要約している。こうした変異は、標準的な組換えDNA技法を用いて作製した。このような技法は当業者に周知のことである。
【0118】
【表7】

【0119】
Gagタンパク質は、55kDaのポリプロテイン前駆体(Pr55gag)として発現され、HIV−1ウィルスプロテアーゼにより切断される。この切断から4種の主要なタンパク質:マトリックス(MA)、キャプシド(CA)、ヌクレオキャプシド(NC)及びp6が生じ、更に、それぞれCAとNCとの間及びNCとp6との間の配列を表す、2種のスペーサーポリペプチドが生じる。
【0120】
MAは、ウィルス粒子アセンブリーの決定的媒介、及びウィルス様粒子(VLP)の形成を介した細胞形質膜からの発芽を含め、ウィルス複製の幾つかの段階で重要な役割を演じる(Gheysen, D., E. Jacobs, F. de Foresta, D. Thiriart, M. Francotte, D. Thines, and M. De Wilde. (1989). Assembly and release of HIV-1 precursor pr55gag virus-like particles from recombinant baculovirus-infected cells. Cell 59:103-112 を参照されたい)。
【0121】
Pr55gag、MA(p17)の双方ともミリスチル化される、即ち、ミリスチン酸へのアミド結合の形成を受ける。Veronese di Marzo, F., Copeland, T. D., Oroszlan, S., Gallo, R. C. & Sarngadharan, M. G. (1988). J. Virol. 62, 795-801 を参照されたい。ミリスチル化過程の完全な説明については実施例7内のNefに関する項も参照されたい。異なるHIV−1分離株により、ミリスチル受容体がN−末端グリシン残基(Gly2)であることが実証されている。Bryant & Ratner. (1990). Myristoylation-dependent replication and assembly of human immunodeficiency virus 1. Proc. Nadl. Acad. Sci. USA; 87: 523-527 を参照されたい。
【0122】
Bryant及びRatner(1990年)は、Gly2のAlaによる置換でHIV−1クローンのウィルス複製が排除されることを実証した。ミリスチル受容体を欠いたPr55gagは、感染Hela細胞中に蓄積し、成熟ビリオンキャプシドへプロセシングされなかった。Gly2のミリスチル化は、形質膜との安定な結合及びその後のビリオンのアセンブリーに必要であると結論された。他のグループは、MAにおけるGly2のミリスチル化の重要性を同様に実証した。Gottlinger H G, Sodrosky J G, Haseltine W A. (1989). Role of capsid precursor processing and myristoylation in morphogenesis and infectivity of human immunodeficiency virus type 1. Proc Natl Acad Sci USA; 86: 5781-5785 及びPaul Spearman, Jaang-Jiun Wang, Nancy Vander Heyden and Lee Ratner. (1994). Identification of Human Immunodeficiency Virus Type 1 Gag Protein Domains Essential to Membrane Binding and Particle Assembly. J. Virol; 68(5): 3232-3242を参照されたい。
【0123】
MA中にあるミリスチル受容体、N−末端グリシン(Gly2)が変異すると、膜結合が無効化され、粒子アセンブリーが防止される。したがって、クレイドAのGagは、Gly2→Alaの変化を起こすように操作される。この結果、Gagの生物学的機能が失われる。
【0124】
逆転写酵素は(RT)は、複製に必須のウィルス酵素である。RTは、RNA依存性及びDNA依存性ポリメラーゼ並びに該酵素のRNase H活性の触媒作用を受けて、進入してくるウィルスRNA+をdsDNAに変換する。RTは、p66及びp51サブユニットタンパク質からなるヘテロ二量体である。Alfredo Jacobo-Molina et al. (1993). Crystal structure of human immunodeficiency virus type 1 reverse transcriptase complexed with double-stranded DNA at 3.0 A resolution shows bent DNA. Proc Natl Acad Sci USA; 90: 6320-6324を参照されたい。p66は2つのドメイン、ポリメラーゼ及びRNase Hを有する。p51は同じポリメラーゼドメインを有する。
【0125】
触媒的に必須のAsp−110、Asp−185及びAsp−186残基は、高度に保存されたDNAポリメラーゼ活性部位に配置されている。「触媒三つ組残基(catalytic triad)」と称するこれらの3残基は、触媒機能に必要な二価カチオンに結合すると考えられている。Alfredo Jacobo-Molina et al. (1993). Crystal structure of human immunodeficiency virus type 1 reverse transcriptase complexed with double-stranded DNA at 3.0 A resolution shows bent DNA. Proc Natl Acad Sci USA; 90: 6320-6324を参照されたい。
【0126】
185位及び186位残基にあるアスパラギン酸のアスパラギン、グルタミンいずれかへの変異は、触媒的に不活性な変異タンパク質を生じさせることが示された。Lowe DM, Parmar V, Kemp SD, Larder BA. (1991). Mutational analysis of two conserved sequence motifs in HIV-1 reverse transcriptase. FEBS Lett.; 6;282(2):231-4を参照されたい。
【0127】
クレイドA RTにおけるAsp185→Ala及びAsp186→Alaの変異は、「触媒三つ組残基」を破壊することによりRTポリメラーゼ酵素を不活性化することになろう。これによりクレイドA RTの生物学的機能が失われよう。
【0128】
RTが生成するプロウィルスcDNAは、ウィルスインテグラーゼ(Int)酵素の作用を介して宿主細胞ゲノムに組み込まれる。Intは、異なる2種のエンドヌクレアーゼ型反応を触媒するDNAリコンビナーゼドメインを含有する。その第1の反応、3’プロセシングは、cDNAの各末端からジヌクレオチドを除き、両端に2ヌクレオチド5’伸長を生じる。第2の反応では、Intは、宿主細胞DNAを非特異的に切断し、cDNA末端の遊離3’基を切断した宿主細胞DNAの5’基へ結合する。細胞酵素はギャップを修復し、ウィルスゲノムを宿主細胞DNA中に完全に組み込む。Fields, BN. & Knipe DM. 2nd Edition Fundamental Virology. Raven Press 中のCoffin JM. Retroviridae and their Replication. Chapter 27. p.645-708 & Wong-Staal F. Human Immunodeficiency viruses and Their Replication. Chapter 28. p.709-723を参照されたい。Engelman A, Mizuuchi K, Craigie R. (1991). HIV-1 DNA integration: mechanism of viral DNA cleavage and DNA strand transfer. Cell; 67(6):1211-1221も参照されたい。触媒ドメインの50〜212位残基は、酵素活性部位を損なう残基Asp−64、Asp−116及びGlu−152の三つ組残基(D,D−35−Eモチーフと称する)を含有する。Esposito, D., and R. Craigie. (1999). HIV integrase structure and function. Adv. Virus Res. 52:319-333を参照されたい。Khan, E., J. P. G. Mack, R. A. Katz, J. Kulkosky, and A. M. Skalka. (1991). Retrovial integrase domains: DNA binding and the recognition of LTR sequences. Nucleic Acids Res. 19:851-860も参照されたい。
【0129】
多様な技法によって、各グループが、D,D−35−Eモチーフ中のAsp−64、Asp−116及びGlu−152残基の部位特異的変異を介した、INのエンドヌクレアーゼ及び/又は組込み機能の無効化を示した。Drelich M, Wilhelm R, Mous J. (1992). Identification of amino acid residues critical for endonuclease and integration activities of HIV-1 IN protein in vitro. Virology; 188(2):459-468を参照されたい。LaFemina RL, Schneider CL, Robbins HL, Callahan PL, LeGrow K, Roth E, Schleif WA, Emini EA. (1992). Requirement of active human immunodeficiency virus type 1 integrase enzyme for productive infection of human T-lymphoid cells. J. Virol; 66(12):7414-7419も参照されたい。Leavitt AD, Shiue L, Varmus HE. (1993). Site-directed mutagenesis of HIV-1 integrase demonstrates differential effects on integrase functions in vitro. J. Biol. Chem; 268(3):2113-2119も参照されたい。
【0130】
クレイドA IntにおけるAsp−64→Ala、Asp−116→Ala及びGlu−152→Alaの変異は、肝要なD,D−35−Eモチーフを破壊することにより、Int活性酵素を不活性化することになろう。これによりクレイドA Intの生物学的機能が失われよう。
【0131】
ネガティブ因子(Nef)タンパク質(27kDa)は、新たな感染細胞に蓄積する最も早期のウィルスタンパク質である。Haseltine, W. (1991). Molecular biology of the human immunodeficiency virus type 1. FASEB. Vol 5. 2349-2360を参照されたい。ミリスチル化を介して、Nefは細胞膜のサイトゾル側に局在することができる。Yu G, Felsted RL. (1992). Effect of myristoylation on p27 nef subcellular distribution and suppression of HIV-LTR transcription. Virology. 187(1):46-55を参照されたい。Kaminchik, J., N. Bashan, A. Itach, N. Sarver, M. Gorecki, and A. Panet. (1991). Genetic characterization of human immunodeficiency virus type 1 nef gene products translated in vitro and expressed in mammalian cells. J. Virol. 65:583-588も参照されたい。タンパク質のミリスチル化は、同時翻訳的事象であり、酵素N−ミリスチルトランスフェラーゼ(NMT)によるミリスチル補酵素Aからタンパク質のアミノ末端モチーフMGXXXへの転移を伴う。Towler, D.A., S. P. Adams, S. R. Eubanks, D. S. Towery, E. Jackson-Machelski, L. Glaser & J. I. Gordon (1987). Purification and characterization of yeast myristoyl CoA:protein N-myristoyltransferase. Proc Natl Acad Sci USA 84:2708-2712を参照されたい。該ポリペプチドの先導メチオニンが、翻訳中にメチオニンアミノペプチダーゼで切断され、約20残基がリボソームから遊離した後、出現してくるペプチドの新たに生成したグリシン末端アミノ基が、NMTにより認識される。NMTは、ミリスチン酸をグリシン残基(ミリスチル受容体)へ転移させ、ミリスチル化が完了する。この末端から2番目のグリシンのミリスチル受容体を他の任意のアミノ酸残基で置換すると、ミリスチル化が阻害される。Towler, D.A., S. R. Eubanks, D. S. Towery, S. P. Adams & L. Glaser (1987). Amino-terminal processing of proteins by N-myristoylation. Substrate specificity of N-myristoyltransferase. J Biol Chem 262:1030-1036を参照されたい。
【0132】
Nefは、感染細胞の幾種もの表面分子、CD4(Garcia, J. V., and A. D. Miller. (1991). Serine phosphorylation-independent downregulation of cell-surface CD4 by nef. Nature 350:508-511、及びMariani R and Skowronski J. (1993). CD4 down-regulation by nef alleles isolated from human immunodeficiency virus type 1-infected individuals Proc. Natl. Acad. Sci. USA. Vol. 90, pp.5549-5553、及びAiken C, Konner J, Landau NR, Lenburg ME, Trono D (1994). Nef induces CD4 endocytosis: requirement for a critical dileucine motif in the membrane-proximal CD4 cytoplasmic domain. Cell. 11;76(5):853-64を参照されたい)、CD28(Swigut, T., N. Shohdy, and J. Skowronski. (2001). Mechanism for down-regulation of CD28 by Nef. EMBO J. 20: 1593-1604を参照されたい)、MHC−I(Schwartz, O., V. Marechal, S. Le Gall, F. Lemonnier, and J. M. Heard. (1996). Endocytosis of major histocompatibility complex class I molecules is induced by the HIV-1 Nef protein. Nat. Med. 2:338-342を参照されたい)、マクロファージ発現MHC 1bタンパク質HFE(Drakesmith H, Chen N, Ledermann H, Screaton G, Townsend A, Xu XN. (2005). HIV-1 Nef down-regulates the hemochromatosis protein HFE, manipulating cellular iron homeostasis. Proc Natl Acad Sci USA 102(31):11017-22を参照されたい)、MHC−II(Stumpnter-Cuvelette, P., S. Morchoisne, M. Dugast, S. Le Gall, G. Raposo, O. Schwartz, and P. Benaroch. (2001). HIV-1 Nef impairs MHC class II antigen presentation and surface expression. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 98, 12144-12149を参照されたい)などを調節し、並びにシグナル伝達経路を破壊する(Tolstrup. M., L. Ostergaard, A. L. Laursen, S. F. Pedersen, and M. Duch. (2004). HIV/SIV escape from immune surveillance: focus on Nef. Curr. HIV Res. 2:141-151を参照されたい)ことができる多機能タンパク質であるが、それは、細胞膜にある多数のキナーゼ及び他の細胞表面タンパク質との会合を介してなされる。こうした作用の機構及び関与するnefモチーフは、未だ完全には解明されていない。
【0133】
具体的には、N末端ミリスチル化シグナルを含め、N末端アミノ酸19個を欠失したNef変異体は、CD4及びMHC−Iの下方調節能を失ったが、同時に大部分のCTL、Tヘルパー及びB細胞のエピトープは維持していた(Peng B, Robert-Guroff M (2001). Deletion of N-terminal myristoylation site of HIV Nef abrogates both MHC-1 and CD4 down-regulation. Immunol. Lett. 78(3):195-200を参照されたい)。他のグループは、Nefアミノ末端グリシン(Gly2)のアラニンへの変異でミリスチル化が防止されることを示した(Liang, X. et al. (2002). Development of HIV-1 Nef vaccine components: immunogenicity study of Nef mutants lacking myrystylation and dileucine motif in mice. Vaccine 20: 3413-3421及びKaminchik, J. et al. (1991). Genetic Characterization of Human Immunodeficiency Virus Type 1 nef Gene Products Translated in vitro and Expressed in Mammalian Cells. J. of Virol. 65(2): 583-588を参照されたい)。
【0134】
クレイドA Nefのアミノ末端モチーフMGXXXがGRIN融合タンパク質内に埋め込まれているので、翻訳中にメチオニンアミノペプチダーゼによる切断を受けるメチオニンの発生は起こらない。したがって、グリシンのアミノ末端基は新たに生成せず、NMTはミリスチル化を実行することができない。結局、GRIN中のNefがミリスチル化を受けることができないので、Nefの生物学的機能が無効化される。
【実施例8】
【0135】
GRIN(GagPolNef)及びEnvのコドン最適化
GRIN及びEnv各々に対するコドン使用は、ヒト遺伝子のコドン偏寄に適合させた。コドン最適化GRIN配列のヌクレオチド及びアミノ酸配列が、図16A〜16Jに示されている。コドン最適化Env配列のヌクレオチド及びアミノ酸配列が、図17A〜17Dに示されている。
【0136】
GC含量が非常に高い(80%超)、又は非常に低い(30%未満)領域は、可能である場合回避した。最適化プロセス中では、以下のシス作用性モチーフを回避した。即ち、図16及び17に提示した配列に示した場合を除き、内部のTATAボックス、カイ部位(chi-site)、リボソーム導入部位(ribosomal entry site)、富AT又は富GC配列ストレッチ、ARE、INS又はCRS配列エレメント、反復配列、RNA二次構造、潜在性のスプライス供与及び受容部位、分岐点、並びにHindIII、NcoI、BgIII及びBgII制限酵素部位である。また、翻訳開始を増加させるために、GRIN及びEnv各々の開始ATGの上流にKozak配列を導入し、効率的な終止を保証するために、GRIN及びEnv各々に2個の終止コドンを付加した。サブクローニングを促進するための制限酵素部位も、図16及び17に示すように付加した。
【実施例9】
【0137】
非ヒト霊長類試験
ヒトアデノウィルスタイプ35(Ad35)ベクター送達系におけるGRIN及びENVの免疫原性の評価を第1目的として、非ヒト霊長類(中国産アカゲザル)試験を行った。動物は、Ad35−GRIN/ENVの増加する用量(10、1010及び1011個のウィルス粒子[vp]を筋肉内経路で)の投与を受け、0ヶ月及び6ヶ月に2回の免疫接種を受けた(第1回の免疫接種には1群当たり動物8匹、第2回の免疫接種には1群当たり動物4匹)。様々な時点で(0週から50週まで)、動物から採血し、免疫原性をIFN−γのELISpotで測定した(それぞれvp用量1010及び1011個に対して図23A及び23Bを参照されたい)。
【0138】
プライム後の応答動物のELISpot強度、頻度双方で(データは示していない)、用量応答が観察された(10個vpのデータは示していない)。GRIN/ENVの全てのワクチン抗原成分に対して応答が認められ、6ヶ月での第2回免疫接種後にIFNγのELISpot応答が増加した。
【0139】
本発明は、以下の付番段落により更に説明される。
【0140】
1.HIV−1クレイドAのGag、Pol(RT及びInt)及びNef(「GRIN)、HIV−1クレイドAのGag、RT及びNef(「GRN」)、又はHIV−1クレイドAのEnvをコードするヌクレオチド配列を含む、HIV−1クレイドA抗原用のコンセンサスヌクレオチド配列。
【0141】
2.コードされるGagタンパク質が図1のアミノ酸配列を有する、段落1に記載のコンセンサスヌクレオチド配列。
【0142】
3.コードされるPolタンパク質が図3のアミノ酸配列を有する、段落1に記載のコンセンサスヌクレオチド配列。
【0143】
4.コードされるEnvタンパク質が図5のアミノ酸配列を有する、段落1に記載のコンセンサスヌクレオチド配列。
【0144】
5.コードされるNefタンパク質が図7のアミノ酸配列を有する、段落1に記載のコンセンサスヌクレオチド配列。
【0145】
6.HIV−1クレイドA抗原用のコンセンサスアミノ酸配列に類似したアミノ酸配列を有するHIV−1の流行株又は野外分離株からHIV−1クレイドA抗原を同定する方法であって、HIV−1の流行株又は野外分離株由来の抗原のアミノ酸配列を、当該タンパク質用のコンセンサスアミノ酸配列と比較すること、及びHIV−1の流行株又は野外分離株から、前記コンセンサス配列とのタンパク質距離が近い抗原を選択することを含む方法。
【0146】
7.段落6に記載の方法を用いて同定されるHIV−1クレイドA抗原。
【0147】
8.トランスジェニックHIV−1クレイドA抗原を産生する方法であって、段落6に記載の方法を用いてHIV−1クレイドA抗原を選択すること、及び該抗原の機能を無効にするように、該抗原をコードするヌクレオチド配列を変異させることを含む方法。
【0148】
9.HIV−1に対して免疫応答を生成する方法であって、前記段落のいずれかに記載のヌクレオチド配列を含む組成物を対象に投与することを含む方法。
【0149】
本発明の好ましい実施形態をこのように詳細に説明してきたが、添付の特許請求の範囲に規定する本発明は、その多くの明らかな変形が、その趣旨又は範囲から逸脱せずに可能であるので、以上の説明で示した特定の詳細によって限定されるべきでないことは理解されたい。
【受託番号】
【0150】
Genbank受託番号AY253305
Genbank受託番号AF457081
Genbank受託番号AY253314
ATCC受託番号VR−1566
Genbank受託番号AF361872
Genbank受託番号AF4587006
Genbank受託番号AF069671

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HIV−1クレイドAのGag、Pol(RT及びInt)及びNef(「GRIN)、HIV−1クレイドAのGag、RT及びNef(「GRN」)、又はHIV−1クレイドAのEnvをコードするヌクレオチド配列を含む、HIV−1クレイドA抗原用のコンセンサスヌクレオチド配列。
【請求項2】
コードされるGagタンパク質が図1のアミノ酸配列を有する、請求項1に記載のコンセンサスヌクレオチド配列。
【請求項3】
コードされるPolタンパク質が図3のアミノ酸配列を有する、請求項1に記載のコンセンサスヌクレオチド配列。
【請求項4】
コードされるEnvタンパク質が図5のアミノ酸配列を有する、請求項1に記載のコンセンサスヌクレオチド配列。
【請求項5】
コードされるNefタンパク質が図7のアミノ酸配列を有する、請求項1に記載のコンセンサスヌクレオチド配列。
【請求項6】
HIV−1クレイドA抗原用コンセンサスアミノ酸配列に類似したアミノ酸配列を有するHIV−1の流行株又は野外分離株から、HIV−1クレイドA抗原を同定する方法であって、HIV−1の流行株又は野外分離株由来の抗原のアミノ酸配列を当該タンパク質用のコンセンサスアミノ酸配列と比較すること、及びHIV−1の流行株又は野外分離株から、前記コンセンサス配列とのタンパク質距離が近い抗原を選択することを含む方法。
【請求項7】
トランスジェニックHIV−1クレイドA抗原を産生する方法であって、請求項6に記載の方法により同定されたHIV−1クレイドA抗原を選択すること、及び前記抗原の機能を無効にするように、前記抗原をコードするヌクレオチド配列を変異させることを含む方法。
【請求項8】
HIV−1に対して免疫応答を生成する方法であって、請求項1に記載のヌクレオチド配列又は抗原を含む組成物を対象に投与することを含む方法。
【請求項9】
HIV−1に対して免疫応答を生成する方法であって、請求項2に記載のヌクレオチド配列又は抗原を含む組成物を対象に投与することを含む方法。
【請求項10】
HIV−1に対して免疫応答を生成する方法であって、請求項3に記載のヌクレオチド配列又は抗原を含む組成物を対象に投与することを含む方法。
【請求項11】
HIV−1に対して免疫応答を生成する方法であって、請求項4に記載のヌクレオチド配列又は抗原を含む組成物を対象に投与することを含む方法。
【請求項12】
HIV−1に対して免疫応答を生成する方法であって、請求項5に記載のヌクレオチド配列又は抗原を含む組成物を対象に投与することを含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14A】
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【図14B】
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【図14C】
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【図15A】
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【図15B】
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【図15C】
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【図16A】
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【図16B】
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【図16C】
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【図16D】
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【図16E】
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【図16F】
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【図16G】
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【図16H】
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【図16I】
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【図16J】
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【図17A】
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【図17B】
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【図17C】
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【図17D】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23A】
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【図23B】
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【公表番号】特表2009−539353(P2009−539353A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−513483(P2009−513483)
【出願日】平成19年6月4日(2007.6.4)
【国際出願番号】PCT/US2007/070321
【国際公開番号】WO2007/143606
【国際公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(502150764)インターナショナル エイズ バクシーン イニシアティブ (3)
【Fターム(参考)】