説明

HIV−1免疫原性組成物

本発明は、HIVに対するワクチン及び/又は免疫原性組成物、並びにHIV感染及びAIDSを予防及び/又は治療するためのそれらの使用方法を包含する。このワクチン及び/又は免疫原性組成物は、単離されたHTVタンパク質又はそれらの断片、サポニンと組み合わせてToll様受容体(TLR)4リガンドを含むアジュバントを含有してよい。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている米国特許仮出願第60/798718号(2006年5月9日出願)の利益を主張するものである。
【発明の分野】
【0002】
本発明は、HIV感染及び/又はAIDSの予防及び治療に関する。
【連邦支援の謝辞】
【0003】
本発明は、一部がNIH助成金AI37438及びAI064070によって資金援助を受けた研究から生じた。
【発明の背景】
【0004】
ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV−1)は、後天的免疫不全症候群(AIDS)の病原体である。世界的流行の原因であるHIV−1株は、グループM系統(主系統)と呼ばれ、およそ10種類の遺伝的サブタイプ又はクレイドに分類される。HIV−1グループMサブタイプは、HIV−1配列の系統学的に関連した群であり、A、B、C、D、F1、F2、G、H、J及びK並びに16種の組換え型流行株に分類される(Korber他(1999)Human Retroviruses and AIDS(vol.III)492〜505)。いずれか1つのサブタイプ内の配列は、ゲノム全体にわたってその他のサブタイプの配列よりも互いに類似している。これらのサブタイプは、HIVの様々な系列を表し、いくつか地理的関連を有する。従来のサブタイプE及びIの両方は、現在では組換え型流行株(CRF)と定義されている(Korber他(1999)Human Retroviruses and AIDS(vol.III)492〜505)。未治療のHIV−1感染は一般的に、CD4+リンパ球数の漸進的不可逆的減少(Pantaleo他(1993)N.Eng.J.Med.328、327〜335)及びウイルス負荷の増加(Pantaleo他(1993)Nature 362、355〜358;Piatak他(1993)Lancet 341、1099)が特徴である。
【0005】
HIV感染に有効なワクチン又はHIV疾患の進行を防ぐことができるワクチンの開発は、15年にわたって公衆衛生学の目標となってきた。HIV感染に対する防御免疫応答を惹起するのに必要となり得る免疫応答の1つは、ウイルスを中和する抗体の生成である。
【0006】
gp120又はgp160の単量体型を使用する従来のサブユニットHIV−1エンベロープワクチンの取り組みは、小動物、霊長類及びヒトにおいて免疫原性があることが示されているが、この抗体応答は、TCLA HIV−1分離株を中和することはできるが、霊長類HIV−1分離株に対する中和活性は限られている(Belshe他(1994)JAMA 272、475〜480;Hanson(1994)AIDS Res.Hum.Retrovir.10、645〜648;Kahn他(1994)J.Infect.Dis.170、1288〜1291;Mascola他(1996)J.Infect.Dis.173、340〜348;Matthews(1994)AIDS Res.Hum.Retrovir.10、631〜632;Schwartz他(1993)Lancet 342、69〜73;Wrin他(1994)AIDS 8、1622〜1623)。さらに、候補単量体gp120サブユニットワクチンの臨床試験に登録された数名は、ワクチン接種計画を十分に受けたにもかかわらず、HIV−1に感染し(Connor他(1998)J.Virol.72、1552〜1576;Kahn他(1995)J.Infect.Dis.171、1343〜1347;McElrath他(1996)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93、3972〜3977)、これらの感染と感染株との相関はなかった(Connor他(1998)J.Virol.72、1552〜1576)。これらの結果は、抗体の大部分が直鎖状エピトープを主に目標としており、gp120/gp41を発現した細胞表面に十分接近できないので、これらの単量体gp120ワクチンは、保存された不連続なエピトープに特異的な抗体を惹起することができないことが原因である可能性がある(VanCott他(1995)J.Immunol.155、4100〜4110)。これらのデータは、TCLA分離株をベースにした単量体gp120には、広範な反応性を有する中和抗体を誘導する能力に必須の重要な構造的特徴が欠如している可能性があることを示唆している。これらの構造的特性は、TCLA及び主要分離株は補助受容体利用(Alkhatib他(1996)Science 272、1955〜1958;Deng他(1996)Nature 381、661〜666;Drajic他(1996)Nature 381、667〜673;Feng他(1996)Science 272、872〜877)、及び、抗体又は血清媒介中和に対する感受性(Ashkenazi他(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88、7056〜7060;Brighty他(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88、7802〜7805;Daar他(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87、6574〜6578;Moore他(1995)J.Virol.69、101〜109;Robb他(1992)J.Acquired Immune Defic.Syndr.5、1224〜1229;Sawyer他(1994)J.Virol.68、1342〜1349)に関して顕著に異なる表現型を有することが示されたので、ワクチン株の選択に関与する可能性がある。しかし、MN株及びSF2株から得られた単量体gp120はまた、類似の初代分離株HIV−1SF2曝露に対してチンパンジーを防御することが示された(Berman他(1996)J.Infect Dis.173、52〜59;Girard他(1995)J.Virol.69、6239〜6248;el−Amad他(1995)AIDS 9、1313〜1322)。最近、gp160を発現するアデノウイルスで初回刺激を受け、rgp120SF2で追加免疫されたチンパンジーが、CXCR4補助受容体及び非PHA刺激PBMCを使用して、主要分離株に対する中和抗体を生じた(Zolla−Pazner他(1998)J.Virol.72、1052〜1059)。後者のことから、初回−追加免疫計画に関して使用すると、機能的抗体特性が高まる可能性が示唆される。
【0007】
単量体gp120に接近可能な領域に位置する潜在的中和モノクローナル抗体がいくつかあり(Trkola他(1995)J.Virol.69、6609〜6617;Trkola他(1996)J.Virol.70、1100〜1108;Tilley他(1991)Res.Virol.142、247〜259;Thali他(1992)J.Virol.66、5635〜5641;Thali他(1991)J.Virol.65、6188〜6193;Gorny他(1992)J.Virol.66、7538〜7542;Gorny他(1993)J.lmmunol.150、635〜643;Gorny他(1994)J.Virol.68、8312〜8320;Conley他(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91、3348〜3352;Conley他(1994)J.Virol.68、6994〜7000;Burton他(1994)Science 266、1024〜1027;Barbas他(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91、3809〜3813;Moore他(1995)J.Virol.69、122〜130;Posner他(1993)J.Acquired Immune Defic.Syndr.6、7〜14;Muster他(1993)J.Virol.67、6642〜6647)、単量体gp120に存在するこれらの中和エピトープがなぜワクチンの状態で存在すると免疫原性がなくなるのか依然として解っていない。広範な抗gp120中和モノクローナル抗体の大部分は、単量体HIV−1サブユニットワクチンを使用して惹起することが特に困難な立体構造的エピトープに特異的である。抗体結合性と機能的能力とを関連づけるために考案された研究によって、単量体gp120は、中和能力の予測においてオリゴマーのgp160のように予測的ではなく(Moore他(1995)J.Virol.69、101〜109;Moore他(1994)J.Virol.68、469〜484;Sattentau他(1995)J.Exp.Med.182、185〜196;Stamatatos他(1995)J.Virol.69、6191〜6198;Sullivan他(1995)J.Virol.69、4413〜4422;Fouts他(1997)J.Virol.71、2779〜2785)、膜発現オリゴマーgp120/gp41の状況では、gp120上の多くのエピトープが隠れてしまうことが原因であるらしいことが示された。
【0008】
保存された立体構造的エピトープに対して中和抗体を誘導することが困難であることの説明として、単量体型gp120が構造的に不安定であること等が挙げられ、このことはおそらく、HIV−1エンベロープ糖タンパク質の適切な4次元構造の状況において安定化されるためであろう。HIV−1エンベロープ糖タンパク質gp160は、ウイルス粒子の表面上に多量体(三量体又は四量体)として存在することが知られている(Earl他(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87、648〜652;Pinter他(1989)J.Virol.2674〜2679;Schawaller他(1989)Virology 172、367〜369;Thomas他(1991)J.Virol.65、3797〜3803)。gp41に関する最近の構造データは、実質的にアルファヘリックスの内容物を有するgp41の2領域に対応するペプチドがアルファヘリックスコイルドコイル三量体を形成することを示しており、機能的にはヘマグルチニン融合タンパク質と類似しており(Chan他(1997)Cell 89、263〜273;Weissenhorn他(1997)Nature 387、426〜430)、gp41は、gp120がないと顕著なアルファヘリックス量を有するオリゴマー(三量体)を形成することを示す以前の生化学的データと一致している(Weissenhorn他(1996)EMBO J15、1507〜1514)。別の最近の研究は、哺乳類細胞におけるgp160発現から得られたgp41は四量体を形成することを示しており、アルファヘリックスgp41配列の外側の領域が、gp41の全体的な4次構造に影響を及ぼし得る可能性を示唆している(McInerney他(1998)J.Virol.72、1523〜1533)。オリゴマーのgp140でマウスを免疫すると、gp41内のオリゴマー特異的又は感受性のエピトープに特異性を有するいくつかのmAbの誘導が生じることが示された(Broder他(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91、11699〜11703;Earl他(1994)J.Virol.68、3015〜3026)。これらの応答をさらに位置づけすると、6個の抗原決定基が示され、そのうち3個はオリゴマー構造に左右される立体構造的エピトープであった(Earl他(1997)J.Virol 71、2674〜2694)。これらのmAbは、HIV−1血清と競合することが発見され、大きく異なった分離株から得られたHIV−1gp41と交差反応性があるので、これらのエピトープは実質的に保存されていることが示唆された。しかし、これらのmAbのHIV−1中和活性は測定されておらず、以前の研究では、多くのgp41特異的mAbは、おそらくエピトープの大部分がgp120との関連することによって遮断されるために、あまり中和活性がないことが示されている(Sattentau他(1995)Virology 206、713〜717)。
【0009】
いくつかの研究によって、受動伝達されたエンベロープ特異的中和抗体は、非ヒト霊長類におけるSHIV疾患及び/又は感染を防御できることが実証されおり、(Parren他(2001)J.Virol.75、8340〜8347;Mascola他:(2000)Nature Medicine 6、207〜210;Mascola他(1999)J.Virol.73、4009〜4018;Baba他(2000)Nature Medicine 6、200〜206;Shibata他(1999)Nature Medicine 5、204〜210)、ワクチン効力におけるHIV特異的中和抗体の潜在的に重要な役割が強調される。極めて重要な抗体の機能特性は、曝露ウイルスに対する中和能力である。ワクチンが誘発する広範な中和抗体は(受動伝達研究で使用されたHIV感染に対して惹起された抗体とは異なり)実現が困難であった。最近の開発によって、DNA及び組換えウイルスワクチンの戦略にはウイルス特異的CD8T細胞応答を引き起こす能力があるという朗報がもたらされた(Amara他(2001)Science 292、69〜74;Barouch他(2001)J.Virol.75、5151〜5158;Barouch他(2000)Science 290、486〜492)。これらの応答は、測定可能な中和抗体がなくても、病原体曝露後の疾患からのある程度の防御(無菌化はしない)をもたらした。より強力な中和抗体を誘導し、これらとCD8T細胞応答を誘導するワクチン戦略とを併用するという最近の目標によって、レベルの高い防御をもたらすことができる。中和抗体の誘導に向けて新たなサブユニットエンベロープワクチンの研究を続けることは、依然として残されている目標である。
【0010】
既に、単離されたHIV−1エンベロープ配列をウサギに投与すると、in vitroにおいてHIV−1の複数株に対して広範な交差反応応答性を備えた抗体の産生がもたらされることが確認されている(国際公開第00/07631号パンフレット)。本発明は、交差反応性の高い中和応答の改善された予期せぬ知見をもたらすために、これらのエンベロープタンパク質と併用できるアジュバント系を同定することによって、以前のこれらの発見を前進させる。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、in vitroにおいてHIV−1の複数株に対する交差反応性中和抗血清の産生を誘導することができる単離HIVエンベロープタンパク質であって、HIVエンベロープタンパク質のV3領域が配列番号1のアミノ酸313から325を含むHIVエンベロープタンパク質又はその免疫原性断片と、サポニンと組み合わせたToll様受容体(TLR)4リガンドとを含むワクチン及び/又は免疫原性組成物を包含する。
【0012】
本発明の他の実施形態では、in vitroにおいてHIV−1の複数株に対する交差反応性中和抗血清の産生を誘導することができる単離HIVエンベロープタンパク質であって、配列番号1と少なくとも92%の同一性を有するアミノ酸配列を含むHIVエンベロープタンパク質と、サポニンと組み合わせたToll様受容体(TLR)4リガンドを含むワクチン及び/又は免疫原性組成物を提供する。
【0013】
いくつかの実施形態では、Toll様受容体(TLR)4リガンドは、限定はしないが、モノホスホリルリピドAを含むリピドA誘導体である。モノホスホリルリピドAの例には、限定はしないが、3脱アシル化モノホスホリルリピドA(3D−MPL)が含まれる。いくつかの実施形態では、サポニンはQS−21である。いくつかの実施形態では、サポニンはリポソーム、ISCOM又は水中油エマルジョンの形で提供される。
【0014】
ワクチン及び/又は免疫原性組成物のいくつかの実施形態では、HIVエンベロープタンパク質は、配列番号1と少なくとも92パーセント、少なくとも95パーセント、又は少なくとも99パーセントの配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、HIVエンベロープタンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列を含む。
【0015】
本発明は、前述のワクチン及び/又は免疫原性組成物のいずれかをそれを必要とするヒトに投与することによって免疫応答を誘導する方法を包含する。本発明は、HIV感染及び後天性免疫不全症候群(AIDS)の予防及び/又は治療のための医薬品の製造における前述のワクチン及び/又は免疫原性組成物の使用を包含する。
【0016】
前述の概要並びに以下の本発明の詳細な説明は、添付の図面と併せて読むと、よりよく理解されるだろう。本発明を例示する目的で、図には本発明の実施形態を示す。しかし、本発明は、示した正確な配列、実施例及び手段に限定されないことを理解されたい。
【詳細な説明】
【0017】
引用した特許、特許出願、出版物及びこの出願で引用したその他の書類は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている。本発明は、本出願で記載した特定の実施形態に関して限定するものではなく、本発明の個々の態様を単に例示するものである。本明細書で列記したものに加えて、本発明の範囲内で機能的に同等の方法及び装置は、前述の説明及び添付の図面から当業者には明らかであろう。このような変更及び変化は、添付の特許請求の範囲の範囲内に入るものとする。
【0018】
HIVに対する免疫の目標は、様々なウイルス株に対して広く反応する中和抗体(NA)応答を誘導することである。本発明者等は、ウサギをある種のアジュバントで賦活化したHIV−1R2株のオリゴマーgp140で免疫すると、強力で、広範な交差反応性のある中和抗体応答の誘導が生じることを発見した。gp140で免疫した動物の血清は、45種類の異なるHIV−1株のエンベロープ糖タンパク質のそれぞれでシュードタイプ化したウイルスの感染性を阻害した。この株には、19種のサブタイプB株、14種類のサブタイプC株、及びサブタイプA、D、AE、F、AG、H及び複合CRFエンベロープが含まれる。この結果は、実に広範な交差反応性を有し、非ヒト霊長類の免疫及び曝露研究を考案するための新たな原動力となり、HIV−1を高い交差反応性で中和するための基礎を吟味するためのモデル系を確立する、免疫に対するHIV−1中和応答を最初に示したものである。本発明は、ワクチン及び免疫原性組成物、提供した組成物を使用した免疫応答の誘導方法、並びに、HIV感染及びAIDSを予防、及び/又は、治療するための医薬品の製造における本発明の組成物の使用を包含する。
【0019】
本明細書で記載したものと類似又は同等の任意の方法及び材料は本発明の実施又は試験で使用することができるが、適切な方法及び材料の例を記載する。特記しなければ、本明細書で使用した技術用語及び科学用語は全て、本発明の属する業界の当業者によって通常理解されるのと同一の意味を有する。
【0020】
ポリペプチドについての「同定する」の意味を以下に挙げる。ポリペプチドの実施形態はさらに、ポリペプチド参照配列と少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99又は100%の同一性を有するポリペプチドを含む単離ポリペプチドを含み、前記ポリペプチド配列は参照配列と同一であってよく、又は参照配列と比較してある整数の数までのアミノ酸変化を含んでよく、前記変化は、少なくとも1個のアミノ酸欠失、保存的及び非保存的置換を含む置換、又は挿入からなる群から選択され、前記変化は、参照ポリペプチド配列のアミノ末端若しくはカルボキシ末端の位置又はそれらの末端位置の間のどこか、参照配列のアミノ酸の中に個々に分散しているか、又は参照配列内の1個又は複数の連続した群に生じてよく、アミノ酸変化の前記数は、アミノ酸の総数に、パーセント同一性を表す整数を100で除したものを乗じ、次にアミノ酸の前記総数からその結果を差し引くことによって決定されるか、又は、na xa−(xa y)によって決定され、式中、naはアミノ酸変化の数であり、xaは配列中のアミノ酸の総数であり、yは95%の場合0.95、97%の場合0.97、又は100%の場合1.00であり、 はかけ算操作の印であり、xa及びyの任意の非整数の結果は、xaから差し引く前に最も近い整数に切り捨てられる。
【0021】
ヌクレオチド又はアミノ酸配列レベルでの相同性又は配列同一性はまた、配列類似性検索用に個別化されたblastp、blastn、blastx、tblastn及びtblastxプログラム(Altschul他(1997)Nucleic Acids Res.25、3389〜3402及びKarlin他(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87、2264〜2268、いずれも参照として全体が組み込まれている)によって用いられるアルゴリズムを使用してBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)分析によって測定することができる。BLASTプログラムによって使用される取り組みとは、検索配列とデータベース配列との間の、ギャップを有する(非隣接)、及びギャップを有さない(隣接)類似部分を最初に考察し、次に同定された一致全部の統計学的有意性を評価し、最終的に予め選択した有意性の閾値を満たす一致のみをまとめることである。配列データベースの類似性検索における基本的問題の考察については、参照として全体を組み込んだAltschul他(1994)Nature Genetics 6、119〜129を参照のこと。ヒストグラム、説明、アラインメント、期待値(すなわち、データベース配列に対して報告された一致の統計学的に有意な閾値)、カットオフ、マトリクス及びフィルター(低複雑性)の検索パラメータは、初期設定にする。blastp、blastx、blastn及びtblastxによって使用される初期設定スコアリングマトリクスは、ヌクレオチド長又はアミノ酸長が85個を上回る検索配列のために推奨されるBLOSUM62マトリクス(参照として全体を組み込んだHenikoff他(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA89、10915〜10919)である。
【0022】
blastnでは、スコアリングマトリクスは、N(すなわち、不一致残基のペナルティースコア)に対するM(すなわち、一致残基対のリワードスコア)の比によって設定され、M及びNの初期設定値はそれぞれ、+5及び−4である。4種類のblastnパラメータは、以下のように調節した。Q=10(ギャップ生成ペナルティー)、R=10(ギャップ伸長ペナルティー)、wink=1(検索に沿ってwink番目の位置毎にワードヒットが生じる)及びgapw=16(ギャップ付きアラインメントが生じる範囲内のウインドウ幅に設定する)。同等のBlastpパラメータの設定は、Q=9、R=2、wink=1及びgapw=32であった。GCGパッケージバージョン10.0で利用可能な配列間のBestfit比較では、DNAパラメータGAP=50(ギャップ生成ペナルティー)及びLEN=3(ギャップ伸長ペナルティー)を使用し、タンパク質の比較では同様にGAP=8及びLEN=2に設定した。
【0023】
「単離された」とは、「人の手によって」天然の状態から変化したことを意味し、すなわち、天然に生じるならば、元の環境から変化させるか、又は取り出すこと、或いはその両方である。例えば、生きている生物に天然に存在するポリヌクレオチド又はポリペプチドは、「単離されて」いないが、その天然の状態で一緒に存在する物質から分離された同ポリヌクレオチド又はポリペプチドは、限定はしないが、このようなポリヌクレオチド又はポリペプチドが細胞に再度導入されるときを含めて「単離されて」いる。
【0024】
「ポリヌクレオチド」とは一般的に、未修飾RNA若しくはDNA、又は、修飾RNA若しくはDNAであってよい任意のポリリボヌクレオチド又はポリデオキシリボヌクレオチドのことである。「ポリヌクレオチド」には、限定はしないが、1本鎖及び2本鎖DNA、1本鎖及び2本鎖領域又は1本鎖、2本鎖及び3本鎖領域の混合物であるDNA、1本鎖及び2本鎖RNA、1本鎖及び2本鎖領域の混合物であるRNA、1本鎖若しくはより一般的には2本鎖、若しくは3本鎖領域、又は1本鎖及び2本鎖領域の混合物であってよいDNA及びRNAを含むハイブリッド分子が含まれる。さらに、本明細書で使用したような「ポリヌクレオチド」とは、RNA若しくはDNA、又は、RNA及びDNAの両方を含む3本鎖領域のことである。このような領域の鎖は、同一分子又は異なる分子から得ることができる。この領域には、1種又は複数の分子の全てが含まれてよいが、より一般的には分子のいくつかの領域のみが関与してよい。3本鎖ヘリカル領域の分子の1つは、オリゴヌクレオチドであることが多い。本明細書で使用したように、「ポリヌクレオチド」という用語にはまた、1個又は複数の修飾塩基を含む前述のようなDNA又はRNAが含まれる。したがって、安定性若しくはその他の理由のために修飾された主鎖を有するDNA若しくはRNAは、その用語が本明細書で企図されているとき、「ポリヌクレオチド」である。さらに、ほんの2、3の例を挙げると、イノシン等の普通にはない塩基又はトリチル化塩基等の修飾された塩基を含むDNA又はRNAは、その用語が本明細書で使用されているとき、ポリヌクレオチドである。当業者に公知の多くの有用な目的に使える非常に様々な変更がDNA及びRNAに行われていることは理解されよう。本明細書で使用するとき、「ポリヌクレオチド」という用語は、ポリヌクレオチドのこのような化学的、酵素的又は代謝的に変更された形態、並びに、ウイルス及び、例えば、単純及び複雑な細胞を含む細胞に特徴的なDNA及びRNAの化学的形態を包含する。「ポリヌクレオチド」はまた、オリゴヌクレオチドと呼ばれることが多い短いポリヌクレオチドを包含する。
【0025】
「ポリペプチド」とは、互いにペプチド結合又は修飾されたペプチド結合によって結合した2個以上のアミノ酸を含む任意のペプチド又はタンパク質のことである。「ポリペプチド」とは、一般的にペプチド、オリゴペプチド及びオリゴマーと呼ばれる短鎖、並びに、一般的にタンパク質と呼ばれる長鎖の両方を意味する。ポリペプチドは、20個の遺伝子がコードするアミノ酸以外のアミノ酸を含むことができる。「ポリペプチド」には、天然のプロセス、例えば、プロセシング及びその他の翻訳的修飾によって修飾されたものだけでなく、化学的修飾技術によって修飾されたものも含まれる。このような修飾は、基本的教科書によく説明されており、学術文献及び詳しい研究文献ではさらに詳細に説明されており、当業者には周知である。同種の修飾は、所与のポリペプチド中のいくつかの部位に同様の、又は、様々な程度で存在することができることは理解されよう。また、所与のポリペプチドは多くの種類の修飾を含んでよい。修飾は、ペプチド主鎖、アミノ酸側鎖及びアミノ末端若しくはカルボキシル末端を含むポリペプチドのどこでも生じることが可能である。修飾には、例えば、アセチル化、アシル化、ADP−リボシル化、アミド化、フラビンの共有結合、ヘム部分の共有結合、ヌクレオチド若しくはヌクレオチド誘導体の共有結合、脂質若しくは脂質誘導体の共有結合、ホスファチジルイノシトールの共有結合、架橋結合、環化、ジスルフィド結合形成、脱メチル化、共有架橋結合の形成、システインの形成、ピログルタメートの形成、ホルミル化、ガンマ−カルボキシル化、GPIアンカー形成、ヒドロキシル化、ヨウ素化、メチル化、ミリストイル化、酸化、タンパク質プロセシング、ホスホリル化、プレニル化、ラセミ化、グリコシル化、脂質結合、硫酸化、グルタミン酸残基のガンマ−カルボキシル化、ヒドロキシル化及びADP−リボシル化、セレノイル化、硫酸化、転移RNA媒介によるアミノ酸のタンパク質への付加、例えば、アルギニル化及びユビキチン化が含まれる。例えば、Proteins−Structure and Molecular Properties、第2版、Creighton(編)、W.H.Freeman and Company、New York(1993)及びPosttranslational Covalent Modification of Proteins、Johnson編、Academic Press、New York(1983)のWold、Posttranslational Protein Modifications:Perspectives and Prospects、pp.1〜12;Seifter他(1990)Meth:Enzymol.182、626〜646及びRattan他(1992)Ann.N.Y.Acad.Sci.663、48〜62を参照のこと。ポリペプチドは、分枝していてもよく、分枝を含む、又は含まない環式であってよい。環式、分枝及び分枝環式ポリペプチドは、翻訳後の天然のプロセスによって生じることができ、同様に、合成法によって完全に作製することもできる。
【0026】
ワクチン及び/又は免疫原性組成物
本発明のワクチン及び/又は免疫原性組成物は、その組成物を投与されたヒトにおいて、いくつかの体液性及び/又は細胞性免疫応答の少なくとも1つを誘導するか、又は、少なくとも1種のHIV株に対して少なくとも1種の免疫応答を高めるのに効果的であり、したがって、投与はワクチン接種の目的及び/又は1種又は複数のHIV−1株によるHIV感染の予防に適している。本発明の組成物は、1種又は複数のHIV−1由来のgp120、gp140、及び/又は、gp160及びアジュバントを含む組換えenvタンパク質をそれを必要とする対象に送達する。いくつかの実施形態では、gp120及びgp140は、国際公開第00/07631号パンフレットに記載のようにHIV−1R2株から得られる。
【0027】
いくつかの実施形態では、ワクチン及び/又は免疫原性組成物は、本明細書に記載の1種又は複数のHIV−1エンベロープタンパク質を含む。本発明のエンベロープタンパク質には、配列番号1を含むアミノ酸配列を有する完全長エンベロープタンパク質、配列番号1のアミノ酸1から520に対応するアミノ酸配列を含むgp120、配列番号1のアミノ酸521から866に対応するアミノ酸配列を含むgp41、並びに、V3ドメイン及びV1/V2、C3、V4、C4及びV5等のその他のドメインに対応するポリペプチド及びペプチドが含まれる。これらのドメインは、配列番号1の以下のアミノ酸残基に対応する。
【0028】
【表1】

【0029】
本発明の組成物は、任意の単一ドメインを含むタンパク質及び/又はポリペプチドを含有してよく、長さは様々であってよいが、以前に配列決定したエンベロープタンパク質とは異なる配列番号1のアミノ酸残基313から325を含む。例えば、V3ドメインの全部又は一部を含む本発明のペプチドは、配列PMX10Qを含むことができ、XからX10は任意の天然又は非天然アミノ酸(Pはプロリンを意味し、Mはメチオニンを意味し、Qはグルタミンを意味する)を含むことができる。本発明の一実施形態では、本発明のエンベロープタンパク質は、配列番号1のHIVエンベロープタンパク質のV3領域(アミノ酸301から336)と少なくとも約90、91、92、93、94、95、96、97、98若しくは99%同一である。したがって、本発明のV3ペプチドは、約13個のアミノ酸を含むが、アミノ酸長は少なくとも14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、30、35、36、37、38、39、40、45、50又はそれ以上であってよい。一実施形態では、V3ドメインは、アミノ酸配列PMGPGRAFYTTGQ(配列番号1のアミノ酸313から325)(配列番号2)を含む。
【0030】
本発明の別の実施形態では、V1/V2ドメインの全て又は一部を含むエンベロープタンパク質には、配列番号1のアミノ酸167に対応する位置のアラニン残基を有するアミノ酸配列が含まれる。例えば、V1/V2ドメインにわたる本発明のペプチドは、アミノ酸配列FNIATSIG(配列番号1のアミノ酸164から171)(配列番号3)を含むことができ、アミノ酸長は約8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50個以上であってよい。本明細書で使用したように、「対応する位置の」とは、周囲の残基の状況で、又は特定の配列のアラインメントによって、配列番号1の配列の所与のアミノ酸残基と同等である本発明のHIVエンベロープタンパク質又はペプチドにおけるアミノ酸の位置を意味する。
【0031】
本発明では、ワクチン及び/又は免疫原性組成物は、アジュバントを含む。本明細書で使用したように、「アジュバント」とは、それ自身にはいかなる特定の抗原作用も有さないが、免疫系を刺激してワクチンに対する応答を高めることができる薬剤のことである。いくつかの実施形態では、アジュバントは、サポニンと組み合わせてToll様受容体(TLR)4リガンドを含む。Toll様受容体(TLR)4リガンドは、例えば、リピドA誘導体、特にモノホスホリルリピドA、又は、より特定の3脱アシル化モノホスホリルリピドA(3D−MPL)等のアゴニストであってよい。3D−MPLは、Corixa Corporation社から登録商標MPL(登録商標)として販売されており、主にIFN−g(Th1)表現型のCD4+T細胞応答を促進する。GB2220211Aで開示された方法によって製造することができる。化学的に、3−脱アシル化モノホスホリルリピドAと3、4、5又は6本のアシル化鎖との混合物である。一実施形態では、本発明の組成物において、小粒子3D−MPLを使用する。小粒子3D−MPLは、0.22μmフィルターによって滅菌濾過され得るような粒径を有する。このような調製は、国際公開第94/21292号パンフレットに記載されている。
【0032】
アジュバントにはまた、限定はしないが、以下に含まれるTLR4アゴニストとして知られているリピドAの1種又は複数の合成誘導体を含めることができる。
【0033】
国際公開第95/14026号パンフレットに記載のOM174(2−デオキシ−6−o−[2−デオキシ−2−[(R)−3−ドデカノイルオキシテトラ−デカノイルアミノ]−4−o−ホスホノ−β−D−グルコピラノシル]−2−[(R)−3−ヒドロキシテトラデカノイルアミノ]−α−D−グルコピラノシルジヒドロゲンホスフェート)。
【0034】
国際公開第99/64301号パンフレット及び国際公開第00/0462号パンフレットに記載のOM294DP(3S、9R)−3−[(R)−ドデカノイルオキシテトラデカノイルアミノ]−4−オキソ−5−アザ−9(R)−[(R)−3−ヒドロキシテトラデカノイルアミノ]デカン−1、10−ジオール、1、10−ビス(ジヒドロゲノホスフェート)。
【0035】
国際公開第01/46127号パンフレットに記載のOM197MP−AcDP(3S−,9R)−3−[(R)−ドデカノイルオキシテトラデカノイルアミノ]−4−オキソ−5−アザ−9−[(R)−3−ヒドロキシテトラデカノイルアミノ]デカン−1、10−ジオール、1−ジヒドロゲノホスフェート10−(6−アミノヘキサノエート)。
【0036】
使用できるその他のTLR4リガンドには、限定はしないが、国際公開第98/50399号パンフレット又は米国特許第6303347号(AGP調製方法も開示されている)に開示されているもの等のアルキルグルコサミニドホスフェート(AGP)、又は、米国特許第6764840号に開示されたようなAGPの薬学的に許容される塩が含まれる。いくつかのAGPは、TLR4アゴニストであり、いくつかはTLR4アンタゴニストである。いずれも、本発明の組成物において1種又は複数のアジュバントとして使用することができる。
【0037】
本発明で使用するために好ましいサポニンは、QuilA及びその誘導体である。QuilAは、南アメリカの樹木Quillaja Saponaria Molinaから単離されたサポニン調製物であり、Dalsgaard他(1974)Saponin adjuvants、Archiv.fur die gesamte Virusforschung、Vol.44、Springer Verlag、pp.243〜254によってアジュバント活性を有することが最初に記載された。QuilA、例えば、QS7及びQS21(QA7及びQA21としても知られている)に関連した毒性を有さずアジュバント活性を保持するQuilAの精製された断片は、HPLCによって単離された(欧州特許第0362278号)。QS21は、CD8+細胞傷害性T細胞(CTL)、Th1細胞及び優性なIgG2a抗体応答を誘導するQuillaja saponaria Molinaの樹皮から得られた天然サポニンであり、本発明の場合好ましいサポニンである。
【0038】
特に好ましいQS21の特定の調製物が記載されており、これらの調製物はさらにステロールを含む(国際公開第96/33739号パンフレット)。本発明の一部を形成するサポニンは、ミセル、混合ミセル(好ましいが、胆汁酸塩に限定しない)の形態で分離することもでき、或いはISCOMマトリクス(欧州特許第0109942B1号)、リポソーム又はらせん状若しくは環状の多量体複合体等の関連するコロイド状構造の形、又はコレステロール及び脂質と共に調製するときは脂質/層構造及びラメラの形、又は(例えば、国際公開第95/17210号パンフレットにあるように)水中油エマルジョンの形でもよい。サポニンは、金属塩、例えば、水酸化アルミニウム又はリン酸アルミニウムと結合し得る(国際公開第98/15287号パンフレット)。いくつかの実施形態では、サポニンはリポソーム、ISCOM又は水中油エマルジョンの形で提供される。
【0039】
いくつかの実施形態では、アジュバントは3D−MPL及びQS21(欧州特許第0671948B1号)及び3D−MPL及びQS21を含む水中油エマルジョン(国際公開第95/17210号パンフレット、国際公開第98/56414号パンフレット)の組み合わせである。
【0040】
本発明の一実施形態では、in vitroにおいてHIV−1の複数株に対する交差反応性中和抗血清の産生を誘導することができる、単離HIVエンベロープタンパク質であって、HIVエンベロープタンパク質のV3領域が配列番号1のアミノ酸313から325を含む単離HIVエンベロープタンパク質;及び、QS21及びMPLを有する水中油エマルジョンを含むアジュバントであって、トコフェロールも存在しても良く、例えば、このエマルジョンは、スクアレン5%、トコフェロール5%、Tween80 2.0%を含有し、粒径は約180nmであってよいアジュバント、を含む免疫原性組成物が提供される。或いは、アジュバントはリポソームQS21及びMPLを含んでよく、例えば、このリポソームの大きさは約100nmであり、SUV(単層小胞)と称する。
【0041】
本発明の他の実施形態では、in vitroにおいてHIV−1の複数株に対する交差反応性中和抗血清の産生を誘導することができる、単離HIVエンベロープタンパク質であって、HIVエンベロープタンパク質は配列番号1と少なくとも92%の同一性を有するアミノ酸配列、例えば、配列番号1と93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するアミノ酸配列を含む単離HIVエンベロープタンパク質;及び、QS21及びMPLを有する水中油エマルジョンを含むアジュバントであって、トコフェロールも存在しても良く、例えば、このエマルジョンは、スクアレン5%、トコフェロール5%、Tween80 2.0%を含有し、粒径は約180nmであってよいアジュバント、を含む免疫原性組成物が提供される。或いは、アジュバントはリポソームQS21及びMPLを含んでよく、例えば、このリポソームの大きさは約100nmであり、SUV(単層小胞)と称する。
【0042】
本発明のさらに他の実施形態では、in vitroにおいてHIV−1の複数株に対する交差反応性中和抗血清の産生を誘導することができる、単離HIVエンベロープタンパク質であって、HIVエンベロープタンパク質は配列番号1のアミノ酸配列からなる単離HIVエンベロープタンパク質;及び、QS21及びMPLを有する水中油エマルジョンを含むアジュバントであって、トコフェロールも存在しても良く、例えば、このエマルジョンは、スクアレン5%、トコフェロール5%、Tween80 2.0%を含有し、粒径は約180nmであってよいアジュバント、を含む免疫原性組成物が提供される。或いは、アジュバントはリポソームQS21及びMPLを含んでよく、例えば、このリポソームの大きさは約100nmであり、SUV(単層小胞)と称する。
【0043】
本明細書で記載の免疫原性断片は、抗原の少なくとも1個のエピトープを含有し、HIV抗原性を示し、適切な構築物中で提供されるとき、例えば、その他のHIV抗原と融合しているか又は担体上で提供されるとき、免疫応答を起こすことができ、この免疫応答は天然の抗原に対して誘導される。本発明の一実施形態では、免疫原性断片は、HIV抗原の少なくとも20個の連続したアミノ酸、例えば、HIV抗原の少なくとも50、75又は100個の連続したアミノ酸を含有する。
【0044】
本発明の一実施形態では、ワクチン及び/又は免疫原性組成物は、アジュバントAS02A(G1axoSmithKline Biologicals、Rixensart、Belgium)を含む。別の実施形態では、ワクチン及び/又は免疫原性組成物は、アジュバントAS03A(G1axoSmithKline Biologicals、Rixensart、Belgium)を含む。
【0045】
本発明の別の実施形態では、ワクチン及び/又は免疫原性組成物は、医薬組成物の一部であってよい。本発明の医薬組成物は、賦形剤及び補助剤を含む適切な薬学的に許容される担体を含有してよく、これは、作用部位に送達するために薬学的に使用することができる調製物中への活性化合物の加工を促進するものである。
【0046】
本発明のワクチン及び/又は免疫原性組成物はさらに、本発明の免疫方法をさらに増強することができる様々な株由来のgp120及びgp140に対応し得る他のHIV−1envタンパク質を含んでよい。
【0047】
使用方法
本発明は、本発明の組成物を投与することを含むHIV感染及び/又はAIDSの予防及び/又は治療方法を包含する。HIV−1envタンパク質gp120及び/又はgp140を本明細書で記載したアジュバントと共にワクチン接種することによって惹起された活性化免疫は、細胞性又は体液性免疫応答を刺激するか、又は追加刺激することができる。有効量のHIV−1envタンパク質、gp120及び/又はgp140又はそれらの抗原断片は、ワクチンを調製するためにアジュバントに混合して調製することができる。
【0048】
HIV−1envタンパク質、gp120及び/又はgp140を含むか、又はコードするワクチン及び/又は免疫原性組成物を本明細書で記載した1種又は複数のアジュバントと共に投与することは、「予防」又は「治療」目的のいずれかであることができる。本発明の一態様では、組成物は予防目的で有用である。予防的に用いる場合、このワクチン組成物は、HIV感染又はAIDSの症状の検出に先だって提供される。有効量の化合物の予防的投与は、その後のHIV感染の防御又は軽減に役立つ。治療的に用いる場合、このワクチンは、実際に感染の症状が検出されたとき有効量で提供される。組成物は、投与がレシピエント患者によって許容され得るならば、「薬理学的に許容される」と言われる。このような薬剤は、投与された量に生理学的な意味があれば、「治療的又は予防的に有効な量」で投与されると言われる。本発明のワクチン又は免疫原性組成物は、例えば、HIV−1の1種又は複数の株に対する広範な反応性の体液性若しくは細胞性免疫応答を増強することによって、その存在がレシピエント患者の生理に検出可能な変化をもたらすならば、生理学的な意味がある。対照集団に対して統計学的に有意な改善があるならば、もたらされた「防御」は、完全である必要はない(すなわち、HIV感染又はAIDSは、完全に防御したり根絶したりする必要はない)。防御は、疾患の症状の重症度又は発症の迅速性の緩和に限定することができる。
【0049】
本発明のワクチン又は免疫原性組成物は、HIV−1の複数株に耐性をもたらす可能性がある。したがって、本発明は、少なくとも2種類のHIV−1株による感染を防御するか、又は軽減するための手段を提供する。本明細書で使用したように、ワクチンは、個体に投与して、疾患の徴候又は症状の全体的若しくは部分的な軽減(すなわち、抑制)、或いは、疾患に対する個体の全体的若しくは部分的免疫のいずれかを引き起こすならば、疾患を防御又は軽減したと言われる。
【0050】
本発明の少なくとも1種のワクチンは、例えば、本明細書で説明した医薬組成物を使用して、企図する目的を実現する手段によって投与することができる。例えば、このような組成物の投与は、皮下、静脈内、皮内、筋肉内、腹腔内、鼻腔内、経皮的又は頬側経路等の様々な非経口経路によることができる。本発明の一実施形態では、この組成物は皮下投与される。非経口投与は、ボーラス注射又は時間をかけた持続潅流によることができる。
【0051】
積極的特異的細胞免疫治療によって細胞性免疫応答で軽減することができる疾患、又は、症状を予防、抑制若しくは治療するための一般的計画には、単一の治療薬として投与する、又は、1週間から約24ヶ月までの期間及びそれらを含む期間にわたって、繰り返し増強投与若しくは追加投与する、前述の有効量のワクチン組成物の投与が含まれる。
【0052】
本発明では、ワクチン組成物の「有効量」とは、この場合、1種又は複数のHIV−1株に対する少なくとも1種の細胞性免疫応答又は体液性免疫応答の所望する生物学的効果を実現するために十分な量である。有効投与量は、レシピエントの年齢、性別、健康状態及び体重、もし有るならば併用治療の種類、治療頻度、並びに、所望する効果の特徴に左右されると考えられる。以下に挙げた有効用量の範囲は、本発明を制限するものではなく、本発明の組成物を投与するために適切であり得る用量範囲の例を表している。しかし、過度の実験を行うことなく当業者には理解され、決定できるように、用量を個々の対象に対して調整することができる。(例えば、Beers(1999)Merck Manual of Diagnosis and Therapy、Merck & Company Press;Gennaro他(2005)、Goodman & Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics、McGraw−Hill;Katzung(1988)Clinical Pharmacology、Appleton & Lange;ここに引用されたこれらの参考文献類は、参照により全体を本明細書に組み込む)。
【0053】
本発明はさらに、本明細書で説明したポリペプチドの調製方法であって、適切な発現系において、特に、E.coli等の原核細胞系において、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを発現すること、及び、発現したポリペプチドを回収することを含む方法を提供する。好ましくは、発現は、ポリペプチドの溶解性を促進するために、37°未満の低温で誘導する。
【0054】
本発明はさらに、本明細書で説明したようなポリペプチドの精製方法を提供し、その方法は、
i.未精製ポリペプチドを含む組成物を提供するステップと、
ii.前記組成物に少なくとも2種類のクロマトグラフィーステップを行うステップと、
iii.ポリペプチドを任意選択でカルボキシアミド化するステップと、
iv.医薬製剤のために適切な緩衝液中にこのタンパク質を提供するために、緩衝液交換ステップを実施するステップと、を含む。
【0055】
カルボキシアミド化は、2回のクロマトグラフィーステップの間に実施してよい。カルボキシアミド化ステップは、ヨードアセトイミドを使用して実施してよい。一例では、本発明による方法は、2回以下のクロマトグラフィーステップを使用する。
【0056】
本発明はさらに、薬学的に許容されるアジュバント又は担体と組み合わせて、本発明によるポリペプチド及びアジュバントの組み合わせを含む医薬組成物及び免疫原性組成物及びワクチンを提供する。
【0057】
本発明によるワクチンは、HIVに対する予防的又は治療的免疫のために使用することができる。本発明はさらに、HIVに対する予防的又は治療的免疫のためのワクチンの製造における、本明細書で記載したポリペプチド組成物の使用を提供する。
【0058】
本発明のワクチンは、免疫防御又は免疫治療量のポリペプチド及びアジュバントの組み合わせを含有し、従来の技術によって調製することができる。
【0059】
ワクチン調製物は一般的に、New Trends and Developments in Vaccines、Voller他編(1978)、University Park Press、Baltimore、MDに記載されている。リポソーム内への封入は、例えば、Fullerton、米国特許第4235877号に記載されている。タンパク質の高分子への結合は、例えば、Likhite、米国特許第4372945号及びArmor他、米国特許第4474757号に開示されている。
【0060】
ワクチン用量におけるタンパク質の量は、通常のワクチン内で、重大で有害な副作用を起こすことなく免疫防御応答を誘導する量として選択される。このような量は、使用した特定の免疫原/アジュバントの組み合わせ、及び、選択したワクチン接種計画に応じて変化させる。一般的に、各用量は、各タンパク質を1から1000μg、例えば、ポリペプチドを2から200μg、又は4から40μg含むことが予測される。特定のワクチンの最適な量は、抗体力価及び対象におけるその他の免疫応答の観察が関与する標準的研究によって確認することができる。最初のワクチン接種後、対象はその後追加投与を受けることができる。このような追加投与は、最初のワクチンを接種してから約4週間後に行い、その後第2回の追加免疫を行うことができる。
【0061】
これらの製剤は、製剤を保有するために十分な量の任意の適切な薬学的媒体又は担体中に懸濁することができる。一般的に、担体、アジュバント等を含む最終量は、通常少なくとも0.1ml、より一般的には少なくとも約0.2mlである。上限は、投与する量の実用性によって決定され、一般的に約0.5ml以下から約1.0mlである。
【0062】
本発明のワクチンのレシピエントは、HIV−1に対する細胞性又は体液性免疫応答によって特異的免疫を獲得することができる哺乳類であることができ、この細胞性応答はMHCクラスI又はクラスIIタンパク質によって媒介される。哺乳類の中でも、レシピエントは、霊長目の哺乳類(ヒト、チンパンジー、類人猿及びサルを含む)であってよい。本発明の一実施形態では、ヒトを本発明の免疫原性組成物で治療する方法を提供する。対象は、HIVに感染していてよく、又は、HIV−1感染のモデルであってよい(例えば、Hu他(1987)Nature 328、721〜723を参照のこと、この文献は、参照として全体を本明細書に組み込む)。
【実施例】
【0063】
本発明をここで以下の実施例を参照にして説明する。これらの実施例は、例示するためにのみ提供されており、本発明は、これらの実施例に決して制限されるものではなく、本明細書で提供した教示の結果として明らかなありとあらゆる変更を包含するものでなければならない。以下の材料及び方法は、その後の実施例に関して提供されているが、本発明に包含される材料及び方法の多様性を制限するものではない。
【0064】
以下の実施例では、HIV−1感染個体から得られたEnvを使用しており、この個体の血清抗体は様々なウイルスサブタイプの多くのHIV−1初代株に対して広範な中和交差反応性を表す(Dong他(2003)J.Virol 77、3119〜3130;Zhang他(2002)J.Virol.76、644〜655)。R2と称されるこのEnvは、CD4非依存性感染を媒介することができる天然に生じるHIV−1エンベロープとして非常に珍しい(Zhang他(2002)J.Virol.76、644〜655)。小動物及び非ヒト霊長類で実施された免疫原性の研究では、このEnvは複数のHIV−1に対して中和抗体を誘導することが示され、非ヒト霊長類ではサル−ヒト免疫不全ウイルス(SHIV)の異種株による静脈内曝露に対して防御を誘導することが示された(Dong他(2003)J.Virol.77、3119〜3130;Quinnan他(2005)J.Virol、79、3358〜3369)。
【0065】
gp140及びgp120の産生
gp140R2、gp14014/00/4及びgp140CM243をコードする配列は、予測gp41膜貫通領域の直前に2個の翻訳終止コドンを挿入し、産生中のオリゴマーエンベロープ糖タンパク質の生成を増加させるため、アルギニンをセリンに置換させてプロテアーゼ切断シグナルを混乱させることによって調製される(Dong他(2003)J.Virol.77、3119〜3130;Quinnan他(2005)J.Virol.79、3358〜3369)。gp120R2コード配列は、翻訳終止コドンの挿入によって調製される。この遺伝子は、ワクチンベクター、pMCO2にサブクローニングされた(Dong他(2003)J.Virol.77、3119〜3130)。組換えワクチンウイルスは、標準的方法を使用して作製された(Dong他(2003)J.Virol.77、3119〜3130;Quinnan他(2005)J.Virol、79、3358〜3369)。糖タンパク質が産生され、レンチルレクチンセファロース4Bアフィニティークロマトグラフィー、次いでサイズ排除クロマトグラフィーを使用して、血清を含まない培地で調製した培養上清から精製した(Dong他(2003)J.Virol.77、3119〜3130;Quinnan他(2005)J.Virol.79、3358〜3369)。オリゴマーgp140R2は詳細に分析されており、サイズ排除クロマトグラフィーに基づいて、約40%が三量体で、60%が二量体であることが示されている(Dong他(2003)J.Virol.77、3119〜3130;Quinnan他(2005)J.Virol.79、3358〜3369)。SDS−PAGE及びクマシーブルー染色による分析で、糖タンパク質に一般的な電気泳動移動度であり、純度が98%であることが明らかになった。内毒素濃度は、0.2〜1.1EU/μgであった。
【0066】
ウイルス株
この研究で使用したシュードタイプ化ウイルスの調製のために使用したエンベロープ遺伝子をコードするプラスミドを表1に記載する。現在の流行株の代表と考えられるサブタイプB及びCのエンベロープ糖タンパク質をコードするSVPB又はDUの文字で開始するプラスミド(Li他(2005)J.Virol.79、10108〜10125)を表1に挙げる。全て初代ウイルスである。Montefiori博士から入手したサブタイプB株及び3種類のサブタイプC株は、博士がNIHに提供したパネルに含まれている。これらの株は、流行性であり、同サブタイプの株に感染した個体の血清による中和に耐性であることが示されたことに基づいて選択された。中国新彊の個体から得られたenvクローンは、今までに記載されていない。新彊のサブタイプCに感染した個体の血清によるこれらの株の中和の結果を表2に示す。5−4、6−15、7−102、8−145及び10−35株は、試験した異種血清のほとんど又は全てによる中和に全て耐性であった。1−27株及び9−26株は、本発明の研究においてgp120誘導性抗体による中和に感受性であるものに入り、新彊のHIV−1感染個体の血清による中和に対して感受性が比較的強いものに入る。残りの株は、当研究室で様々なときにクローニングされ、記載した出版物に記載されている(Zhang他(2002)J.Virol.76、644〜655;Zhang他(1999)J.Virol.73、5225〜5230;Dong他(2003)J.Virol.77、3119〜3130;Quinnan他(2005)J.Virol.79、3358〜3369;Quinnan他(1999)AIDS Res.Hum.Retrovir.15、561〜570;Quinnan他(1998)AIDS Res.Hum.Retrovir.14、939〜949;Cham他(2005)Virology)。これらの株の特徴は、この研究で使用したものと類似のシュードタイプ化ウイルスアッセイでの試験に基づいている。
【0067】
GXE14、24/00/4、14/00/4、CA1、VI423、NYU1026、NYU1423、GXE14及びVI1793株は、Cham他(Cham他(2005)Virology)に記載された。24/00/4、14/00/4、VI423及びCA1株は、試験したヒト血清による中和に感受性であったが、NYU1026、NYU1423、GXE14及びVI1793株は耐性であった。MACS4及びMACS9株は、Zhang他(Zhang他(1999)J.Virol.73、5225〜5230)に記載された。MACS4株は、試験した多施設AIDSコホート研究の参加者の血清の大部分の血清による中和に対して感受性であったが、MACS9の株は感受性でなかった。CM243株は一般的に、非サブタイプE感染個体の血清による中和に対して耐性である。VI525株は、広い交差反応性を有する血清を除いて、ほとんどのヒト血清に対して耐性である(Beimaert他(2001)Virology 281、305〜314)。UG273及びNYU1545株のヒト血清に対する感受性に関する情報はほとんど入手できない。
【0068】
【表2】

【0069】
【表3】

【0070】
中和アッセイ
中和アッセイは、293T細胞をプラスミドpNL4−3.luc.E−R−及びenv遺伝子発現プラスミドで同時形質移入によって調製されたシュードタイプ化ウイルスを使用して実施した。アッセイは、既に記載したように、終点としてルミネセンスを使用してHOS細胞で実施した(Cham他、Virology on line 2006;Dong他(2003)J.Virol.77、3119〜3130;Zhang他(1999)J.Virol.73、5225〜5230;Quinnan他(1999)AIDS Res.Human Retrovir.15、561〜570)。本発明者等は、Montefioriによって記載されたアッセイとこのアッセイを比較する多施設検証研究に最近参加した(Montefiori(2004)「Evaluating neutralizing antibodies against HIV、SIV and SHIV in a luciferase reporter gene assay」(Li他(2005)J.Virology 79、10108))。これらの研究は、このアッセイが本質的に同一の結果をもたらすことを示した。
【0071】
中和を測定するために、3種類の1:5に希釈した対照血清の存在下で得られたルミネセンスを平均し、各個体の血清の平均と比較した。≧50%〜75%阻害する試験血清の力価を1:5と定めた。≧75%阻害する試験血清の系列希釈を同時対照血清の系列希釈と比較して試験した。この対照血清は、同じサンプリング日にそれぞれの対照ウサギから収集した血清によって調製した。
【0072】
免疫計画
成体ニュージーランド産白ウサギに、R2エンベロープ糖タンパク質(gp120−R2 30μg又はgp140−R2 30μg)を含むか、又は含まない大量のアジュバントA(実施例5にしたがって調製した)を0、3、6及び28週目に3連で接種した。免疫及び採血計画を表3に示す。
【0073】
【表4】

【0074】
免疫
用量500μlを2つに分けて250μlずつ筋肉注射として各後肢に投与する。最初の3回の免疫ではそれぞれ、免疫混合物500μl(使用したウサギ当たり500μl)であり、濃縮アジュバントA(第1ロット)300μlをPBSに溶かした抗原(30μg)200μlと混合した。4回目の免疫混合物は、アジュバントA250μl及び抗原30μgを含有するPBS250μlを使用して調製した。対象は、0、21、42及び197日目に免疫した。血清は、10、31、52及び207日目に収集した。血清は、第1回ワクチン接種前及び各ワクチン接種の10日後に、耳静脈から採血することによって収集した。さらに、採血前の血清10mlを全動物から得た。アジュバント濃度は以下の通りである。アジュバント第1ロットは約1.6×濃縮、アジュバント第2ロットは、2×濃縮であった。gp140免疫群及び対照群のウサギに、4回目の投与の3ヶ月後及び7ヶ月後の2回、さらに免疫原を投与した。これらの投与のそれぞれは、最後の投与で油エマルジョンアジュバント、AS03A(GlaxoSmithKline Biologicals、Rixensart、Belgium)を使用すること以外は、従来の投与と同じ材料から構成された。6回投与した後の血清をIgG精製用に使用した。
【0075】
酵素結合免疫吸収アッセイ(ELISA)
抗原捕捉ELISAは、既に記載されたように、血清Ig応答を測定するために使用した(Dong他(2003)J.Virol.77、3119〜3130;Quinnan他(2005)J.Virol.79、3358〜3369)。
【0076】
エンベロープ遺伝子のクローニング
中国新彊省の患者から単離されたウイルスをHIV−1陰性提供者のPBMCで1回継代した。ゲノムDNAを細胞から抽出し、env遺伝子クローニングを既に記載されたように、PCRを使用して実行した(Zhang他(2002)J.Virol.76、644〜655;Cham他(2005)Virology参照)。HIV−2の7312A株のgp160をコードする配列は、HIV−1で前述した方法を使用して、AIDS Research and Reference Reagent Program(Gao他(1994)J.Virol.68、7433〜47)によって供給された細胞を含まないウイルス保存物からPCRを使用してクローニングした。
【0077】
ウサギ血清の293T細胞による吸収及びFACS分析
293T細胞がコンフルエントになった75cmフラスコから、トリプシン処理によって得られた細胞を血清400μlに再懸濁し、最終血清希釈度を1:2.5にした。懸濁液を遮光して4℃で3時間インキュベートし、細胞を遠心によって沈降させ、新たな細胞で2回及び3回吸収を繰り返した。3回目の吸収は一晩継続した。各吸収の後、各血清5μlを取り出し、ヤギ血清3%を含むPBSで1:200及び1:1000に希釈し、それぞれ100μlを使用してFACS分析のために293T細胞1.2×10個を懸濁した。30分後、氷上で、細胞をヤギ血清3%を含むPBSで2回洗浄し、ビオチン−SP−結合抗ウサギIgG(H+L)(Jackson ImmunoResearch)、次いでストレプトアビジン−PE(Sigma)と反応させた。細胞を洗浄し、PBS中2%のパラホルムアルデヒドに再懸濁した。細胞をBeckman Coulter EPICS XL−MCLフローサイトメトリーで分析した。
【0078】
血清IgGの精製
血清を10000rpmで15分間遠心することによって清澄にし、次に、PBS(pH7.2)で1:10に希釈した。IgGは、HiTrapタンパク質GHPカラム(GE Healthcare Biosciences、Piscataway、New Jersey、USA)を使用して、製造元の指示に従って希釈した血清から精製した。精製後、IgGは、Ultracel YM−30メンブレン(Millipore、Billerica、MA)を備えたcentriprep遠心フィルターを使用して1500×gで25分間遠心することによって濃縮した。精製したIgGの濃度は、NanoDrop(登録商標)ND−1000分光光度計を使用して測定した。
【0079】
実施例1
免疫ウサギから得られた血清によるHIV−1の中和
免疫原の3回及び4回投与後に収集した血清で実施した中和抗体アッセイの結果を図1及び2に示す。図1に示した結果は、血清なしで実施したウイルス感染と比較した、1:5に希釈した血清の存在下でのルミネセンスのパーセント(%)阻害を示す。46種類の異なるHIV−1株を使用して得られた中和の結果を図1に例示する。対照血清によって計算された%阻害は、176個の可能な組み合わせのうち4種のみが50%を上回った。
【0080】
3種の血清のうち1つのみが>50%阻害したVI793ウイルス株以外、図1に示したHIV−1の株は全て、gp140を4回投与した後のウサギの2若しくは3匹から得られた血清によって>50%中和された。gp120で免疫したウサギの血清で達成された感染の阻害は、より少なかった。4回投与後、3種類の血清の2種又は3種による>50%阻害は、サブタイプBのR2、SF162、SVPB9、MACS4及びMACS9株、サブタイプCのGXC44及び10−35株、サブタイプFの14/00/4株及びCRF11のCA1株に対してのみ達成された。これらの株の中和は、gp120又はgp140のいずれかを2回又は3回投与した後に観察され、一方、その他の株の中和は、免疫原を4回投与した後にのみ主に明らかであることは注目すべきことである。
【0081】
図2に示した結果は、gp120又はgp140を3回及び4回投与した後に得られた中和終点力価を示す。結果は、以下のように計算した。3種類の1:5に希釈した対照血清の収集物と比較して、50%を上回ってルミネセンスを阻害した血清は、力価が≧1:5であると見なした。血清が1:5で80%を下回って中和する場合は、力価が1:5であると見なした。1:5で80%を上回って中和した血清は、収集した対照血清と平行して1:10で開始した系列希釈で再試験した。各血清のそれぞれの希釈について、平均ルミネセンスの結果を測定した。各試験血清から得られた結果を同希釈の収集した対照血清で得られた平均結果と比較した。同程度に希釈した収集対照血清の平均と比較してルミネセンスを≧50%(上図)又は≧80%(下図)阻害する試験血清は、その希釈で中和すると見なした。中和していると見なされた最終希釈を終点と定めた。1:5に希釈した対照血清の結果の間の変動は十分に少なく、個々の対照血清による対照平均のルミネセンス≧50%阻害が276例の可能性のある現象のうち4例においてのみ認められた。対照的に、4回免疫した後、gp120免疫ウサギの2匹又は3匹全ての血清が9株(R2、SF162、SVPB5、SVPB9、MACS4、GXC44、10−35、14/00/4及びCA1株)の場合で≧50%阻害した。中和の頻度は、カイ2乗検定によると、gp120によって免疫された血清では3回(p=1.9×10−6)及び4回(p=1.7×10−8)投与した後で、対照ウサギよりもはるかに大きかった。gp140による免疫は、gp120で免疫したよりも広い交差反応性の中和をもたらした。3回投与した後では、gp140で免疫したウサギの血清の2種又は3種はHIV−1の23株を中和し、4回投与した後では、1つを除いて全ての株が少なくとも2種類の血清によって中和された。3回投与後(p=2.98×10−6)及び4回投与後(p=4.1×10−24)の差は、統計学的に有意であった。
【0082】
中和終点力価を様々な株で比較したとき認められるパターンは、1:5の希釈での%阻害の比較で認められたものと類似していた。図2で示した結果は、gp140を投与された動物の1種又は複数の血清が各ウイルスを中和することを示している。力価は、3回投与後と比較して4回投与後で増加する傾向があった。特に、HIV−1株の43種がgp140で免疫したウサギ(特に、ウサギ4)の少なくとも1種の血清によって、力価≧1:10で中和され、39種が力価≧1:20で中和された。力価は、3回投与後と比較して、4回投与後で増加する傾向があり、gp120よりもgp140で免疫すると大きい傾向があった。gp120で免疫したウサギの血清2種又は3種によって中和された株は、gp120及びgp140で免疫されたウサギの血清によって類似の力価で中和された。gp120で免疫されたウサギの血清によって中和されたウイルス株は、2回又は3回免疫した後により頻繁に、かつこれらの血清によって中和されない株よりも高い力価で中和される傾向があった。
【0083】
実施例2
R2及び14/00/4の野生型及び変異株の中和
中和を試験した株の2種類は広範に交差反応する中和抗体を有する提供者から得られたもので、それらが生じた提供者において中和抗体の交差反応の幅に関連し得る非常に珍しいアミノ酸配列を有している。これらの株の1つはR2で、免疫用に使用した株である。R2エンベロープ糖タンパク質はCD4非依存性感染、V3ループの313〜4残基のプロリン−メチオニン配列に依存する特性を媒介する。14/00/4エンベロープ糖タンパク質は、多くのgp120エピトープに特異的なモノクローナル抗体による中和に耐性であるが、膜近接エピトープである2F5及び4E10に特異的なモノクローナル抗体による中和には非常に感受性である。これらの感受性は、662位の非常に希少なチロシン残基に左右される。これらの糖タンパク質それぞれによってシュードタイプ化されたウイルスは、gp120及びgp140で免疫したウサギ両方の血清による中和に非常に感受性であった(図1)。これらの原型株及び対応する変異株のそれぞれを、図3で示したようにウサギの血清による中和について比較した。R2エンベロープ糖タンパク質の313〜4残基の変異は、gp120で免疫したウサギの血清による中和に対して非常に耐性になり、gp140で免疫したウサギの血清に著しくはないがいくらかより耐性になる原因となった。野生型及びR2(313−4/PM)変種のgp120で免疫したウサギの血清による中和に対する感受性の違いは、3回投与後では約6倍、4回投与後では約25倍であった。gp140免疫血清によるこれら2種類の株の中和の違いは、3回投与後では約2倍、4回投与後では約3.2倍であった。14/00/4(662T/A)変異株は、野生型14/00/4株よりもgp120及びgp140両方の免疫血清による中和に著しく耐性であった。gp120免疫血清は、変異株よりも野生型14/00/4を、3回投与後で約6.4倍、4回投与後で約25倍中和し、一方、gp140免疫血清は野生型を約8倍及び6.4倍中和した。いずれの変異種もgp140免疫血清4回投与後には中和された。
【0084】
実施例3
gp140又はgp120免疫ウサギの血清は、病原性SHIV及びHIV株のエンベロープ糖タンパク質でシュードタイプ化したウイルスを中和する
病原性SHIV及びHIVのDH12、SF162及び89.6株由来のエンベロープ糖タンパク質でシュードタイプ化したウイルスの中和比較を図4に示す。示された結果は、それぞれ3連で実施した2種類の独立した実験から得られた結果の平均である。2つの実験は類似の結果をもたらした。SHIV及びHIVの3種類の株は全て、gp140免疫ウサギの血清3種全てによって中和された。3種類の株のうちの1株、SF162P3は、対応するHIV−1株よりもこれらの血清による中和に対して約4倍耐性であった。その他の2種類のSHIVは、gp140免疫ウサギの血清によって、対応するHIV−1株と同等に中和された。HIV−1/SHIV対はそれぞれ、gp120免疫血清による比較中和において異なっていた。それらの血清は、HIV−1及びSHIVの両方の変種株89.6、HIV−1のみの変種株SF162及びSHIVのみの変種株DH12を中和した。
【0085】
実施例4
gp140免疫ウサギの血清は、HIV−1のR2、14/00/4及びCMS243株に結合する
ELISAによる抗体試験の結果を図5に示す。免疫原を3回及び4回投与した後に得られた血清を、R2、14/00/4及びCM243株のgp140に対する抗体について試験した。使用した方法は、他に記載されている(Quinnan他(2005)J.Virol.79、3358〜3369)。gp120で免疫したウサギは、gp140で免疫したウサギよりも高いR2gp140結合力価を生じた。gp120を4回投与した後のR2gp140結合抗体の増加はあまり著しくないが、gp140を4回投与した後は有意に増加した(p<0.05、スチューデントt検定)。様々なエンベロープに対する結合抗体力価の等級順位は、R2>14/00/4>CM243であった。gp120免疫後に結合抗体力価が大きくなる傾向は、14/00/4糖タンパク質では明らかであったが、CM243では明らかではなかった。14/00/4結合抗体の小さいが有意な増加は、gp120を4回投与した後に認められ(p=0.03)、CM243結合抗体ではgp140を4回投与した後に認められた(p=0.003)。
【0086】
実施例5
水中油エマルジョンの調製
水中油エマルジョンの調製は、国際公開第95/17210号パンフレットで示されたプロトコルに従った。このエマルジョンは、スクアレン42.72mg/ml、トコフェロール47.44mg/ml及びTween80 19.4mg/mlを含有する。得られた油滴の大きさは約180nmであった。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)の2%溶液を得るために、Tween80をPBSに溶解した。2倍濃度の濃縮エマルジョン100mlを生成するために、DLアルファトコフェロール5g及びスクアレン5mlを、完全に混合するまでまずボルテックスした。次に、PBS/Tween溶液90mlを添加し、完全に混合した。次いで、得られたエマルジョンをシリンジに通し、最後に、M110S顕微溶液機器を使用することによって顕微溶液化した。得られた油滴の大きさは約180nmであった。
【0087】
QS21及びMPLによる水中油エマルジョンの調製(アジュバントA)
滅菌した大量のエマルジョンをPBSに添加し、最終濃度を1ml当たりエマルジョン500μl(v/v)にした。次に、最終濃度を1ml当たり100μgになるように3D−MPLを添加した。次に、最終濃度を1ml当たり100μgになるようにQS21を添加した。成分添加それぞれの間に、中間生成物を5分間撹拌した。15分後、pHを調べ、必要ならばNaOH又はHClで6.8+/−0.1に調節した。この混合物をアジュバントAと称する。
【0088】
実施例6
リポソームMPLの調製
有機溶媒に溶かした脂質(卵黄のホスファチジルコリン又は合成ホスファチジルコリン等)及びコレステロール及び3D−MPLの混合物を真空下で(或いは、不活性ガス流下で)乾燥させた。次に、水溶液(リン酸緩衝生理食塩水等)を添加し、全脂質が懸濁するまで容器を撹拌した。次いで、この懸濁液を、リポソームの大きさが約100nmまで減少するまで、顕微溶液化し、その後0.2μmのフィルターで滅菌濾過した。このステップの代わりに押し出し又は超音波処理することができる。
【0089】
通常、コレステロール:ホスファチジルコリン比は、1:4(w/w)で、最終コレステロール濃度を10mg/mlになるように水溶液を添加した。MPLの最終濃度は2mg/mlである。
【0090】
このリポソームの大きさは約100nmで、SUV(単層小胞)と称する。このリポソームはそれ自体長時間安定で、膜融合能を有さない。
【0091】
アジュバントBの調製
3D−MPLの最終濃度を100μg/mlになるように大量の滅菌したSUVをPBSに添加した。PBSの組成は、NaHPO:9mM、KHPO:48mM、NaCl:100mM及びpH6.1であった。QS21の最終濃度を100μg/mlになるようにQS21の水溶液をSUVに添加した。この混合物をアジュバントBと称する。成分の添加それぞれの間に、中間生成物を5分間撹拌した。pHを調べ、必要ならばNaOH又はHClで6.1+/−0.1に調節した。
【0092】
実施例7
gp140及びgp120並びにアジュバントBで免疫したウサギの血清は、HIV−1初代分離株を中和できる抗体を生じる
ウサギは、表3に示したように免疫した。アジュバントAは、実施例6に記載したように調製した。
【0093】
【表5】

【0094】
免疫は、0、21及び42日目に実施し、血清試料は56日目に採取した(14dpIII)。これらの血清は、一連のクレイドB及びCのHIV−1初代分離株に対する中和抗体活性の存在及び力価を試験するために、Monogram Biosceinces(San Francisco、USA)に送った。
【0095】
表5に示したように、CHO産生R2gp120特異的血清は、11種のクレイドBウイルスのうち3種を中和することができたが、クレイドCウイルスは中和できなかった。このことは同様に、CHO産生R2gp140特異的血清でも認められる。ワクシニア産生R2gp140特異的血清は、11種のクレイドBウイルスのうち3種を中和することができ、6種のクレイドCウイルスのうち1種も中和できた。
【0096】
表5のデータは、特定のウイルスについて50%中和が認められる力価として表した。陽性(下線付き太字で示す)は、特定のウイルスについてのPre+3sdカットオフを上回る場合と定義した。
【0097】
【表6】

【0098】
実施例8
HIV−1 R2株のgp140及びgp120、並びに、アジュバントBで免疫したモルモットの血清は、HIV−1初代分離株を中和できる抗体を産生する
モルモットは、表6に示したように免疫した。免疫は、0、21及び42日目に実施し、血清試料は56日目に採取した(14dpIII)。これらの血清は、一連のクレイドB及びCのHIV−1初代分離株に対する中和抗体活性の存在及び力価を試験するために、Monogram Biosceinces(San Francisco、USA)に送った。
【0099】
【表7】

【0100】
表7に示したように、CHO産生R2gp120特異的血清は、11種のクレイドBのうち2及び4種を中和することができたが、クレイドCは中和できなかった。CHO産生R2gp140特異的血清は、11種のクレイドBウイルスのうち6種と8種の間を中和することができたが、クレイドCウイルスは中和できなかった。
【0101】
ワクシニア産生R2gp140特異的血清は、11種のクレイドBウイルスのうち3種を中和することができ、6種のクレイドCウイルスは中和できなかった。ワクシニア産生R2gp120特異的血清は、11種のクレイドBウイルスのうち7種を中和することができ、2匹のモルモットのうち1匹はクレイドCウイルス6種のうち2種を中和した。
【0102】
表7のデータは、特定のウイルスについて50%中和が認められる力価として表した。陽性(下線付き太字で示す)は、特定のウイルスについてのPre+3sdカットオフを上回る場合と定義した。
【0103】
【表8】

【0104】
実施例7及び実施例8のデータは、アジュバントBで製剤化したR2タンパク質がHIV−1初代分離株を中和することができる抗体の産生を誘導することができることを示している。
【0105】
実施例9
gp120誘導抗体に感受性及び耐性のウイルスを中和する抗体の差次的な出現
以下でさらに説明し、図6に示したように、gp120誘導抗体に感受性の9株を中和した抗体は、gp140誘導抗体にのみ感受性の株を中和した抗体よりも迅速に発生した。ウイルスがgp120免疫ウサギの血清によって中和される頻度は、3回若しくは4回免疫した後でも同様であるが、gp140を3回投与したときと比較して、4回投与の後は頻度が実質的に増加した(X、p=4.3×10−9)。gp120によって誘導される中和応答は、免疫原を2回投与した後、免疫計画プロトコルを開始してちょうど4.5週間後に、実際に最大レベルに接近した。
【0106】
実施例10
抗体応答を中和するHIV−1特異性
図7Aで示したように、いずれも293T細胞の形質移入によって生じるHIV−2Env及びVSVGタンパク質でシュードタイプ化したウイルスの中和について、血清を試験した。対照血清と比較して、免疫したウサギの4回投与後の血清は、HIV−2もVSVも中和しなかった。類似の結果が繰り返し実験で認められた。示さなかった実験において、NipahウイルスF及びGタンパク質でシュードタイプ化したウイルスを調製し、同一血清による中和を試験した。有意差は認められなかった。
【0107】
ウサギ血清におけるウイルス阻害活性が細胞抗原に特異的な抗体によるものである可能性を調べた。蛍光表示式細胞分取器(FACS)を使用した予備実験では、BSC−1及び293T細胞の両方に対する著しい結合活性が、gp120及びgp140免疫ウサギの血清で見出されたが、そのレベルはgp140免疫血清でより大きかった。より少ない交差反応性中和活性を誘導する計画で免疫したウサギの血清中における細胞結合IgGのレベルを調べた。gp140R2免疫血清のレベルは、RiBiアジュバントに溶かしたHIV−1gp140CM243で免疫したウサギの血清と同様で、中和抗体は誘導しなかった(データは示さず)。それらはまた、gp160R2を発現するベネズエラウマ脳炎ウイルスレプリコン粒子で初回刺激し、その後RiBiアジュバントに溶かしたgp140R2で追加免疫することを含む計画で免疫したウサギの血清と同様であった(Dong他(2003)J.Virol.77、3119〜3130)。これら後者のウサギの血清は、HIV−1のいくつかの株を中和する抗体を有するが、図6に示した中和耐性株のいくつかを中和しない抗体を有する(Dong他(2003)J.Virol.77、3119〜3130)。これらの結果は、血清中の293T細胞結合イムノグロブリンの存在が、gp140に対する中和応答の交差反応性と相関しなかったことを示している。
【0108】
これらの予備的FACSデータを考慮して、図7B及び7Cで示した実験を実施した。gp140R24回投与後の血清及び同ウサギの免疫前に収集した収集血清を293T細胞で吸収し、FACSにおける細胞結合活性及び中和活性について試験した。血清を、その後中和アッセイで使用することができるように、高濃度の血清で吸収を実施した。このような高濃度の血清では、細胞結合活性の徹底的な除去は実現不可能であった。しかし、FACSアッセイで試験するために血清を1:1000に希釈するとき、残存する活性はほとんどなく、ウサギ血清の1:200希釈を使用して実施したアッセイにおいて著しい減少が反映される(図7B)ので、細胞結合活性の実質的な減少を、3回連続して吸収することによって実現した。興味深いことに、免疫前の血清もまた、著しい細胞結合活性を有し、1:200に希釈した血清でも検出され、吸収によって除去された。中和アッセイは、図7Cで示したように、ウサギ4の3回吸収血清を使用して実施した。この吸収方法は、試験したサブタイプB又はサブタイプCのウイルスのどちらに対しても、すなわち、いずれもgp120R2によって誘導された抗体による中和に耐性であるSVPB11株及びDU123株のどちらに対しても、中和活性にはあまり減少をもたらなかった。
【0109】
実施例11
初代ウイルスの中和はイムノグロブリンG(IgG)によって媒介される
4回投与後の採血では、IgG画分の精製及び中和試験を可能にするために十分な量の血清は得られなかった。したがって、既に記載したように、2回以上免疫した後に収集した血清を、この目的のために使用した。血清及びIgG画分は、図7Dで示したウイルスの中和と並行して試験した。IgG濃度は、ウサギ血清中のIgG濃度とほぼ同等になるように調節した(すなわち、未希釈の血清1ml当たり10μg)。血清及びIgGの中和活性は、R2株に対して同一で、IgGは、さらに5種類のサブタイプB株、2種類のサブタイプC株及びサブタイプC、D及びE株の1種に対して血清と同等であるか、優れていた。R2を除いて図10Aに示した株は全て、gp120誘導抗体による中和に対して耐性であった。中和活性は、対照ウサギのIgGには存在しなかった。
【0110】
6回投与後の血清中における中和活性のHIV−1特異性は、以下に説明し、図8及び9に示したように評価した。ウサギ4の血清及びIgGの両方は、293T細胞結合活性及びVSV中和活性を含有した。293T細胞で連続的に吸収すると、IgGでは細胞結合活性のほとんど及びVSV中和活性の全部が除去され、血清では両方が著しく減少した。吸収は、試験したHIV−1株の中和には影響を及ぼさなかった。したがって、この事実は、IgGが一般的に中和耐性株であるHIV−1株を特異的に中和する抗体を含有することを示唆している。
【0111】
6回投与した後のウサギ血清中におけるHIV−1特異的IgG中和活性
ウサギ血清に6回投与した後のIgGの細胞、VSV及びHIV−1との反応性を、IgGが媒介するHIV−1の中和の特異性を評価するために試験した。図8に示したように、ウサギ4の血清及びIgGは著しい細胞結合活性を有していたが、対照血清ではほとんど検出されなかった。293T細胞で連続吸収すると、両方の結合活性の漸進的な著しい減少がもたらされ、IgG画分の結合活性がほとんど完全に除去された。図9に示したように、吸収した及び吸収していない血清及びIgGのVSV、SVPB19(サブタイプB)及びDU422(サブタイプC)の中和を試験した。未吸収の血清及びIgGの両方はVSVの感染性を阻害したが、その阻害効果は、293T細胞に対する吸収によってIgGから完全に除去され、血清では減少した。対照的に、吸収は、血清でもIgGでもHIV−1中和活性には何ら影響を及ぼさなかった。この結果は、6回投与する免疫計画は、293T細胞表面上の抗原に対してIgG応答を誘導し、293T細胞に吸収させることによってそれらの抗体を除去すると、293T細胞に対する結合並びにVSVの中和が排除されることを示している。しかし、細胞結合性及びVSV中和活性を除去してもHIV−1のIgG中和に影響を及ぼさないので、このデータは、免疫計画が広範な交差中和活性を備えたHIV−1特異的IgGを誘導するという考え方を支持している。
【0112】
実施例から明らかなように、gp140R2免疫原は、試験した様々なHIV−1サブタイプの48/48初代株において50%中和、43/46初代株において80パーセント中和を実現する抗体を誘導した。試験した株には、サブタイプB及びC株の標準的パネルの構成要素及び中和耐性があることが知られているその他の様々な株が含まれる。gp120R2は、同株の9/48を中和する抗体を誘導した。中和はIgGに媒介され、HIV−1特異的であった。
【0113】
本発明は、様々な特定の材料、方法及び実施例を参照することによって本明細書で説明し、例示したが、本発明は、それらの目的のために選択された材料及び方法の特定の組み合わせに制限されないことを理解されたい。このような細かい数多くの変更が含まれ得ることは、当業者には理解されよう。明細書及び実施例は単なる例として見なされるものであり、本発明の本当の範囲及び趣旨は以下の特許請求の範囲によって示される。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】様々な株のエンベロープ糖タンパク質でシュードタイプ化したHIV−1ウイルスの阻害を示した図である。3種類のウサギにそれぞれ、アジュバントAに入れたHIV−1R2株envタンパク質であるgp120若しくはgp140、又は、アジュバントA単独を投与した。3回又は4回投与した後で血清を収集し、HIV−1シュードタイプの中和のために1:5に希釈して3連で試験した。各ウイルスに対する3種類の対照血清の平均ルミネセンスを計算した。それぞれの免疫及び対照血清について対照血清の平均と比較することによって、パーセント阻害を計算した。図1では、黒丸は、個々の血清の結果を示し、水平線は収集した血清の平均及び標準偏差を示す。
【図2】ウサギの血清の中和力価を示した図である。血清は、アジュバントAに入れたR2gp120又はgp140を3回又は4回投与した後のウサギから収集し、上記に説明したように中和アッセイで使用した。終点は、同時対照ウサギの血清収集物の同一希釈度の存在下で培養したウイルスの平均に対して観察されたレベルの50%未満までルミネセンスを阻害する最終希釈度として決定した。結果は、相乗平均及び標準偏差による3連の測定値をベースにして試験したHIV−1の様々な株に対して、個々の免疫血清について示した。
【図3】R2及び14/00/4の野生型及び変異株の中和を示した図である。ウイルスは、野生型R2株、野生型14/00/4株、R2変異株(313−4PM/HI)又は14/00/4変異株(162T/A)の糖タンパク質でシュードタイプ化した。アジュバントAに入れたR2gp120又はgp140を3回投与した後のウサギから収集した血清を、上記に説明したように、前述の株の中和アッセイに使用した。力価は、図2に説明したように測定した。野生型R2及び14/00/4株は、黒丸で表し、対応する変異株R2(313−4PM/HI)及び14/00/4(162T/A)は白丸で表す。結果は、個々の血清(円)、相乗平均(横線)及び標準偏差で示す。一連のデータ点の上に示された数字は、野生型及び変異株の中和を比較したスチューデントt検定による確率を示す。
【図4】病原性SHIV及びHIV株の中和を比較した図である。ウイルスは、病原性SHIV及びHIV株DH12、SF162及び89.6のエンベロープ糖タンパク質でシュードタイプ化した。アジュバントAに入れたR2gp120又はgp140を3回投与した後のウサギから収集した血清を、上記で説明したように、前述の株による中和アッセイに使用した。力価は、図2に説明したように計算した。HIV株は黒丸で表し、一致する病原性SHIV株は白丸で表す。
【図5】免疫したウサギ血清から得られた抗体は、病原性HIV株のgp140に結合する。gp120又はgp140で免疫したウサギから収集した血清は、R2、14/00/4及びCM243株のgp140に結合する抗体について試験した。3回及び4回免疫した後に得られた血清は、酵素結合免疫測定法を使用してアッセイした。背景の2倍を上回って得られた光学密度を、抗体結合について陽性であると見なした。終点は、回帰分析によって計算した。
【図6】ルシフェラーゼレポーター遺伝子発現のレベルによって表したように、gp120R2及びgp140R2で免疫したウサギの血清によるHOS−CD4+CCR5+細胞培養物のHIV−1感染阻害の比較を示した図である。ウイルスは、HIV株及び指示したサブタイプのエンベロープ糖タンパク質でシュードタイプ化した。ウイルスは、細胞培養物に接種する前に、1:5に希釈した試験血清又は対照血清の存在下でインキュベートした。対照血清の存在下で感染させた後の平均ルミネセンスを計算した。個々の試験血清及び対照血清の存在下で得られたルミネセンスを計算し、対照平均と比較したパーセント阻害を決定するために使用した。個々の対照血清によるパーセント阻害は、観察された変動を例示するために示す。
【図7】gp120誘導性抗体に対して感受性の株の潜在的中和が短期免疫計画後に生じることを示した図である。アジュバントのみを投与されたウサギ(白四角)と比較した、AS02Aアジュバントに入れたgp120(黒ひし形)又はgp140(黒丸)でウサギを免疫した後の中和抗体応答の発生率を示す。gp120又はgp140のいずれかで免疫したウサギの血清は、gp140のみで免疫したウサギの血清がDU151−2、SVPB4及びSVPB12株を中和した一方、R2、SF162、MACS4、SVPB9及び14/00/4株を中和した。パーセント阻害は、図6に説明したように計算した。血清は、0、3、6及び28週目にそれぞれ免疫原を投与して、10日後に試験用に収集した。
【図8】gp140によって誘導された抗体が、病原性SHIV及びそれらが得られたHIV−1の親株を中和することを示した図である。免疫原を3回又は4回投与した後に採取したウサギ血清の系列希釈を、アジュバントのみを投与したウサギの収集血清の系列希釈と比較した。中和終点は、同様の希釈の対照血清と比較してルミネセンスの≧50%阻害を生じた試験血清の最高希釈度と定めた。
【図9】gp120R2及びgp140R2で免疫したウサギの血清の様々なHIV−1株に対する中和終点力価を示した図である。結果は、免疫原を3回又は4回投与して得られた血清について示している。<50%阻害する血清の力価を<1:5と定めた。≧50〜74%阻害する血清の力価を1:5と定めた。≧75%阻害する血清の中和終点を試験した。試験血清の系列希釈を収集した、同時対照血清の系列希釈と比較した。終点は、同様の希釈の対照血清収集物と比較してルミネセンスの≧50%又は≧75%阻害を生じる最高希釈度と見なした。
【図10】中和抗体応答のHIV−1特異性を示した図である。図10Aは、gp120R2−及びgp140R2−免疫ウサギから得られた血清がHIV−2Env及びVSVGシュードタイプ化ウイルスを中和しないことを示している。gp120R2又はgp140R2を4回投与して得られたウサギ血清(白丸及び波線の両方)及び収集した同時対照血清(黒丸)は、系列希釈を1:5から開始し3連で試験した。図10B及び図10Cは、293T細胞でgp140免疫ウサギ血清を十分に吸収しても初代HIV−1中和活性はなくならないことを示している。図10Bは、gp140を4回投与したウサギ血清4(黒三角)、5(黒四角)及び6(黒丸)並びに同ウサギの前採血収集血清(黒ひし形)を、293T細胞で吸収する前、1、2若しくは3回連続して吸収した後のFACS分析の結果を示す。PBS及びウサギ血清を含まないヤギ血清を使用して得られた陰性対照結果と比較したパーセント陽性細胞を示す。図10Cは、ウサギ4から得られた4回投与後血清(白い印)のHIV−1の中和耐性サブタイプB株(SVPB11)及びC株(DU123)の阻害を、同時点で対照ウサギの収集血清(黒い印)と比較して、293T細胞で3回連続吸収する前(黒四角、白四角)及び後(黒丸、白丸)で示した図である。標準偏差は、各データ点に関して示す。図10Dは、血清中の中和活性がIgG媒介性であることを示す。IgGは、ウサギ4の6回投与後血清及び対照ウサギから精製し、中和のための同血清と比較して試験した。IgGを使用して得られた結果は、黒い印で示し、血清を使用して得られた結果は、白い印で示す。免疫血清及びIgGを使用して得られた結果は実線で示し、一方、対照IgGを使用して得られた結果は破線で示す。IgG(黒三角)及び血清(白三角)によるR2ウイルスの中和は、本質的に同一であった。試験した5種類の別のサブタイプB株(上図)は、SVPB5、SBPB11、SVPB14、SVPB16及びSVPB19であった。残りの株(サブタイプ)は、DU422(C)、DU165.12(C)、UG273(A)、NYU1545(D)及びCM243(E)(下図)であった。
【図11】gp140免疫ウサギから得られた血清及びIgGと293T細胞との反応性は、293T細胞で吸収することによって除去されることを示した図である。血清は、gp140又は対照で6回免疫した後に収集し、IgGを精製し、IgGは293T細胞で3回連続的に吸収した。1:200又は1:1000に希釈した免疫血清(黒四角)及び対照血清(白四角)並びに50又は10ng/mlの免疫IgG(黒丸)及び対照IgG(白丸)は、図10で説明したように、293T細胞に対する結合についてFACS分析によって試験した。
【図12】gp140を6回投与した後のウサギから得られたIgGが、HIV−1特異的中和を媒介することを示した図である。図11で示したように、免疫したウサギ(黒四角、黒丸)及び対照のウサギ(白四角、白丸)の血清(四角)及びIgG(丸)を293T細胞で吸収した。吸収した及び吸収していない血清及びIgGを、VSV及びHIV−1株SVPB19及びDU422の中和について比較した。未吸収免疫血清及びIgGはそれぞれ、1:10及び1:20の希釈でVSVの中和≧50%を実現したが、吸収した血清は1:5希釈でのみ中和を実現し、吸収したIgGはVSVを中和しなかった。個々のデータ点の周りに標準偏差を示す。
【図13】株特異性の高い抗体は、gp140よりもgp120によって誘導されることを示した図である。HIV−1のR2株、14/00/4株(サブタイプF)及びCM243株(サブタイプE)のgp140を使用してELISAを実施した。血清は、1:200から開始して2倍の系列希釈で試験し、その希釈で陰性である血清は、相乗平均力価の計算及び表示のために、1:100の力価を割り当てた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
in vitroにおいてHIV−1の複数株に対する交差反応性中和抗血清の産生を誘導することができる単離HIVエンベロープタンパク質であって、前記HIVエンベロープタンパク質のV3領域が配列番号1のアミノ酸313から325又はその免疫原性断片を含む単離HIVエンベロープタンパク質;及び
Toll様受容体(TLR)4リガンドをサポニンと組み合わせて含むアジュバント、
を含む免疫原性組成物。
【請求項2】
in vitroにおいてHIV−1の複数株に対する交差反応性中和抗血清の産生を誘導することができる単離HIVエンベロープタンパク質であって、配列番号1と少なくとも92%の同一性を有するアミノ酸配列を含むHIVエンベロープタンパク質;及び
Toll様受容体(TLR)4リガンドをサポニンと組み合わせて含むアジュバント、
を含む免疫原性組成物。
【請求項3】
前記Toll様受容体(TLR)4リガンドがリピドA誘導体である、請求項1又は2に記載の免疫原性組成物。
【請求項4】
前記リピドA誘導体がモノホスホリルリピドAである、請求項3に記載の免疫原性組成物。
【請求項5】
前記モノホスホリルリピドAが3脱アシル化モノホスホリルリピドA(3D−MPL)である、請求項4に記載の免疫原性組成物。
【請求項6】
前記リピドA誘導体がOM174、OM294DP及びOM197MP−AcDPからなる群から選択される、請求項3に記載の免疫原性組成物。
【請求項7】
前記Toll様受容体(TLR)4リガンドがアルキルグルコサミニドホスフェートである、請求項1又は2に記載の免疫原性組成物。
【請求項8】
前記サポニンがQS−21又はQS−7である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の免疫原性組成物。
【請求項9】
前記サポニンがリポソーム、ISCOM又は水中油エマルジョンの形で提供される、請求項8に記載の免疫原性組成物。
【請求項10】
前記HIVエンベロープタンパク質が配列番号1と少なくとも95パーセントの同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項2〜9のいずれか一項に記載の免疫原性組成物。
【請求項11】
前記HIVエンベロープタンパク質が配列番号1のアミノ酸配列を含む、請求項2〜10のいずれかに記載の免疫原性組成物。
【請求項12】
前記アジュバントが水中油エマルジョン中にQS21、MPL及びトコフェロールを含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載の免疫原性組成物。
【請求項13】
前記アジュバントがリポソームQS21及びMPLを含み、前記リポソームの大きさが約100nmである、請求項1〜12のいずれか一項に記載の免疫原性組成物。
【請求項14】
水酸化アルミニウム又はリン酸アルミニウムをさらに含む、請求項1〜13のいずれか一項に記載の免疫原性組成物。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の免疫原性組成物を、それを必要とするヒトに投与することによって免疫応答を誘導する方法。
【請求項16】
HIVを予防するための医薬品の製造における、請求項1〜14のいずれか一項に記載の組成物の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2009−536653(P2009−536653A)
【公表日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−509829(P2009−509829)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【国際出願番号】PCT/US2007/011161
【国際公開番号】WO2007/133573
【国際公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(501051125)ザ ヘンリー エム. ジャクソン ファウンデーション フォー ザ アドヴァンスメント オブ ミリタリー メディシン インコーポレイテッド (9)
【Fターム(参考)】