説明

HTLV抗原を発現する組換え弱毒化ポックスウイルスを含有する免疫原性組成物

【課題】安全性の向上した変性組換えウイルスを使用し、短時間に動物の生体内でウイルス感染に十分な防御免疫反応を誘発できる抗原および抗体を提供する。
【解決手段】腫瘍ウイルスの1つであるHTLV-Iの菌株1171のエンベロープタンパク質をコードする外来DNAを非必須領域に組み込んだ、弱毒化された変性組換えウイルスのインビトロ発現からHTLVウイルス抗原を調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、1993年8月12日付で出願された米国特許出願第08/105,483号の一部係属出願であり、該08/105,483号出願は、1992年3月6日付で出願された米国特許出願第07/847,951号出願の係属出願であり、該07/847,951号出願は、1991年6月11日付で出願された米国特許出願第07/713,967号の一部係属出願であり、該07/713,967号出願は、1991年3月17日付で米国特許出願第07/666,056号として出願され、1993年3月24日付で米国特許出願第08/036,217号として許可され、そして1994年11月15日付で米国特許第5,364,773 号として特許付与された出願の一部係属出願である。また、1994年4月6日付で出願された米国特許出願第08/223,842号を参照するが、該08/223,842号出願は、1992年6月11日付で出願された米国特許第07/897,382号の一部係属出願として出願されたものであり、該07/897,382号出願は、1991年6月14日付で出願された米国特許第07/715,921の一部係属出願である。さらに、1993年1月20日付で出願された米国特許出願第08/007,115号の一部係属出願として、1994年11月19日付で出願された継続中の出願第08/184,009号についても言及する。本明細書中ではこれらの各出願および特許が参照されるものとする。
【0002】
本発明は、変性ポックスウイルスならびにそれを製造する方法および使用する方法に関し、例えば、「HTLV」で変性された組換えポックスウイルス−ヒトT細胞白血病ウイルス(例えば、弱毒化組換え体、特にNYVAC系またはALVAC系HTLV組換え体)のようなワクシニアウイルスまたはトリポックス(例えば、カナリアポックスまたは家禽ポックス)に関する。さらに詳細には、本発明は、外来遺伝子を挿入し発現させて、HTLVウイルスに対して免疫応答を誘起するための安全な免疫化媒体として用いられる改良ベクターに関する。すなわち、本発明は、HTLVの遺伝子産物を発現する組換えポックスウイルス、および、宿主またはインビトロ(例えば、半ビボモダリティ)投与されたHTLV感染に対して免疫応答を誘起する免疫原性組成物に関し、さらには、該ポックスウイルスの発現産物であって、それ自身が免疫応答を誘起、例えば抗体を産生するのに有用な生成物に関し、ここで、該抗体は、血清反応陽性または血清反応陰性の個体におけるHTLV感染に対して有用であり、また、該発現産物またはそれから誘起される抗体は、動物またはヒトまたは培養細胞から単離されることにより、ウイルスもしくは感染細胞またはその他の系における抗原または生成物の発現の検出用の診断キット、試験または分析法を構築するのに有用なものである。そのような単離された発現産物は、各種の系、宿主、血清もしくはサンプルにおける抗体の検出、または抗体の産生に特に有用である。
【0003】
本出願においては、幾つかの刊行物を参照している。これらの参考文献は、本明細書の末尾の特許請求の範囲の前にまとめて引用しているか、あるいは、刊行物について言及している個所においてそれぞれの刊行物を引用しており、それらの内容を本明細書中に包含させることとする。
【背景技術】
【0004】
外来遺伝子を挿入し発現させるためにはワクシニアウイルス、および最近は、その他のポックスウイルスが用いられている。生きた感染性ポックスウイルス内に外来遺伝子を挿入する基本的な手法は、ドナープラスミド内の外来遺伝子をはさむ(フランキングする)ポックスDNA配列と、レスキューウイルスであるポックスウイルス内に存在する相同配列との間で組換えを起こすことである(Piccini 他、1987)。
【0005】
詳述すれば、組換えポックスウイルスは、当該技術分野で既知であり、また、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4および特許文献5に記載のワクシニアウイルスまたはトリポックスウイルスのようなポックスウイルスの合成組換体を創製する方法(これらの特許の開示を参考のために本明細書に引用しておく。)に類似の2つの工程で構築される。
【0006】
第1の工程として、当該ウイルスに挿入すべきDNA遺伝子配列、特に、非ポックス源からのオープンリーディングフレームが、ポックスウイルスDNAの一部に相同的なDNAが予め挿入されている大腸菌プラスミド構造体に導入される。これとは別に、挿入されるべきDNA遺伝子配列をプロモータに連結しておく。プラスミド構造体におけるプロモータ−遺伝子の連結部の位置は、非必須(nonessential)遺伝子座を含有するポックスDNAの領域をはさむDNA配列に相同的なDNAにより、該プロモータ−遺伝子連結部が両端にあるようにしておく。このようにして得られたプラスミド構造体は、次いで、大腸菌内で培養、増幅され(Clewell 、1972)、単離される( Clewell 他、1969;Maniatis他、1982)。第2の工程として、挿入されるべきDNA遺伝子配列を含有する単離後のプラスミドは、ポックスウイルスとともに、培養細胞、例えば、ニワトリ肺線維芽細胞に形質転換(トランスフェクト)される。プラスミド内の相同的ポックスDNAと、ウイスルゲノムとの間の組換えにより、ポックスウイルスのゲノムの非必須領域に外来DNA配列が存在する変性ポックスウイルスが得られる。「外来(foreign)」DNA配列という語は、外因性DNA、特に非ポックス源からのDNAであって、該外因性DNAが導入されているゲノムによって通常は産生されない遺伝子産物をコードするDNAを指称する。
【0007】
遺伝子組換えは、一般に、2つのDNA鎖間の相同的DNA部分の交換である。ウイルスによっては、DNAの代わりにRNAとなることもある。核酸の相同的部分とは、同じ配列の核酸塩基を有する核酸(DNAまたはRNA)の一部分である。
【0008】
遺伝子組換えは、本来、感染宿主細胞内で新しいウイルスゲノムが複製または産生される間に起こり得る。すなわち、2種またはそれ以上の異なるウイルスまたは遺伝子構造体で共感染された(co-infected)宿主細胞内で起こるウイルス複製サイクル中に、ウイルス遺伝子間の遺伝子組換えが起こり得る。第1のゲノム由来のDNAの一部を交換させることにより、この第1のウイルスゲノムに相同的なDNAを有する第2の共感染性ウイルスのゲノムの一部が構成される。
【0009】
しかしながら、組換えは、完全に相補的でない異なるゲノムにおけるDNA部分間でも起こり得る。第1のゲノム由来のそのようなDNAの一部分が別のゲノムの一部分に相同的であるが、その第1のDNA部分に、例えば、遺伝子マーカーや抗原決定基をコードする遺伝子が挿入されて存在されているような場合には、組換えが起こり、その組換え産物は組換えウイルスゲノム内のそのような遺伝子マーカーや遺伝子の存在により検出され得るようになる。最近は、組換えワクシニアウイルスを調製するためにその他の戦略も報告されている。
【0010】
変性された感染性ウイルスにより、挿入されたDNA遺伝子配列の発現を成功させるためには2つの条件が要求される。第1に、ウイルスの非必須領域に挿入を行い、変性ウイルスの生存性が維持されるようにしなければならない。挿入DNAの発現に関する第2の条件は、該挿入DNAに対して至適な関係でプロモータが存在しているということである。プロモータの位置は、発現されるべきDNA配列の上流にあるようにしなければならない。
【0011】
ワクシニアウイルスは天然痘に対する免疫処置に使用されて成功をおさめ、1980年には世界的に天然痘を撲滅させた。その歴史の過程でワクシニアの多くの菌株が出現した。これらの異なる菌株は、種々の免疫原性を示し、また、程度の差はあるが、いろいろな合併症に関連する可能性があるとされ、その最も深刻なものはワクチン接種後の脳炎と全身性ワクシニアである(Behbehani 、1993)。
【0012】
天然痘の撲滅に伴い、ワクシニアの新しい役割、すなわち、外来遺伝子を発現させるための遺伝子工学用ベクターとして役割が重要となった。きわめて多くの異種抗原をコードする遺伝子がワクシニア内で発現され、その結果、対応する病原体による攻撃に対する防御免疫をもたらしたことも多い(Tartaglia他による総説、1990a)。
【0013】
ワクシニアウイルスの遺伝学的経歴は、発現される外来免疫原の防御効能に影響を与えることが示されている。例えば、ワクシニアウイルスのWyeth ワクチン株内でエプスタインバーウイルス(EBV)gp340 が発現されても、EBVウイルスで引き起こされるリンパ腫に対してタマリンを防御しなかったが、ワクシニアウイルスのWR研究室株内で同じ遺伝子を発現させると防御効果があった(Morgan他、1988)。
【0014】
ワクシニアウイルスに基づき組換えワクチンを得ようとする場合には効力と安全性との間に精密なバランスをとることがきわめて重要である。組換えウイルスが与える免疫原は、ワクチン投与された動物内で防御能のある免疫応答を誘起するが、実質的に病原性が無いものでなければならない。したがって、ベクター株を弱毒化することが、現在の技術状況では最も望ましいであろう。
【0015】
多くのワクシニア遺伝子が、組織培養におけるウイルスの成長に非必須であることが確認されており、それらを削除し不活化することにより、いろいろな動物系におけるビルレンス(毒性)が減少される。
【0016】
ワクシニアウイルス チミジンキナーゼ(TK)をコードする遺伝子についてはマッピングが行われ(Hruby 他、1982)、また、配列決定も行われている(Hruby 他、1993;Weir他、1993)。チミジキナーゼ遺伝子が不活化または完全に欠失しても、広範な組織培養中でワクシニアウイルスの増殖は妨げられない。また、TK− ワクシニアウイルスは各種の投与法により各種の宿主における接種部位においてインビボ複製する能力を有する。
【0017】
単純ヘルペスウイルス2型については、TK− ウイルスをモルモットに膣内投与すると、TK+ ウイルスの投与の場合よりも脊髄中のウイルス力価がかなり低くなることが示された(Stanberry 他、1985)。ヘルペスウイルスではインビトロでのTK活性は、代謝の活発な細胞中ではウイルスの増殖に重要でないが、静止細胞中ではウイルス増殖に必須であることが示された(gamieson他、1974)。
【0018】
マウスに脳内投与および腹膜内投与することによりTK− ワクシニアが弱毒化されることが示された(Buller他、1985)。神経毒性のあるWR実験室株およびWyeth ワクチン株の双方について弱毒化が認められた。皮膚内投与されたマウスにおいては、TK− 組換えワクシニアが、親株のTK+ ワクシニアウイルスと同等の抗ワクシニア中和抗体を産生したが、これは、この試験系では、TK機能の喪失がワクシニアウイルスベクターの免疫原性を有意に減少させないことを示唆している。TK− およびTK+ の組換えワクシニアウイルス(WR株)をマウスに鼻内接種すると、他の部位(脳を含む)へのウイルスの伝播が有意に減少したことが見出された(Taylor他、1991a)。
【0019】
ヌクレオチドの代謝に関連する別の酵素は、リボヌクレオチドレダクターゼである。単純ヘルペスウイルス(HSV)内でコードされているリボヌクレオチドレダクターゼの活性が、その大サブユニットをコードしている遺伝子を欠失させることにより喪失しても、インビトロの分裂細胞中でのウイルス増殖やDNA合成は影響されないが、無血清細胞でのウイルスの増殖能力は極めて損なわれることが示された(Goldstein 他、1988)。眼部の急性HSV感染および三叉神経ガングリオンにおける再活性性潜伏感染に関するマウスモデルを用いた場合、リボヌクレオチドレダクターゼの大サブユニットを欠失したHSVについては、野生型HSVに比べてビルレンスが減少することが示された(Jacobson他、1989)。
【0020】
ワクシニアウイルスにおいては、リボヌクレオチドレダクターゼの小サブユニット(Slabaugh他、1988)および大サブユニット(Schmidtt他、1988)のいずれも同定されている。ワクシニアウイルスのWR株においてリボヌクレオチドレダクターゼを挿入不活化すると、ウイルスの弱毒化がもたらされ、これはマウスに頭蓋内接種することによって測定される(Child 他、1990)。
【0021】
ワクシニアウイルスの血球凝集素(HA)遺伝子についてはマッピングおよび配列決定が行われている(Shida 、1986)。ワクシニアウイルスのHA遺伝子は、組織培養中の増殖にとって非必須なものである(Ichihashi 他、1971)。ワクシニアウイルスのHA遺伝子を不活化すると、頭蓋内投与されたラビットにおいては神経毒性化が減少し、また、皮膚内投与部位におけるラビットの損傷は小さくなっていた(Shida 他、1988)。HAの遺伝子座を利用して、ワクシニアウイルスのWR株(Shida 他、1987)、Lister株の誘導体(Shida 他、1988)およびCopenhagen株(Guo 他、1989)に外来遺伝子を挿入している。外来遺伝子を発現する組換えHA− ワクシニアウイルスは、免疫原性があり(Guo 他、1989;Itamura 他、1990;Shida 他、1988;Shida 他、1987)、また、関連する病原体による攻撃に対して防御効果を有する(Guo他、1989;Shida他、1987)ことが示された。 牛痘ウイルス(Brighton赤色株)は、鶏卵の漿尿膜上に赤色(出血性)痘瘡を生じさせる。牛痘ゲノム内で自然欠失すると白色痘瘡を生じる変異体となる(Pichup他、1984)。出血性機能()は、初期遺伝子によってコードされた38kDaのタンパク質によることがマッピングされている(Pickup他、1986)。この遺伝子は、セリンプロテアーゼインヒビターと相同性を有し、牛痘ウイルスに対する宿主の炎症応答を阻害し(Palumbo 他、1989)、また、血液凝固のインヒビターである。
【0022】
この遺伝子は、ワクシニアウイルスのWR株中に存在する(Kotwal他、1989b)。外来遺伝子を挿入することにより領域が不活化されているWRワクシニアウイルス組換え体が接種されたマウスは、遺伝子がインタクトのままである類似の組換えワクシニアウイルスが接種されたマウスよりも、該外来遺伝子に対して高い抗体レベルを産生する(Zhou他、1990)。この領域は、ワクシニアウイルスのCopenhagen株内で欠陥性非機能形態として存在する(Goebel他による報告(1990a,b)においてB13およびB14と称されているオープンリーディングフレーム)。
【0023】
感染細胞内において牛痘ウイルスは、細胞質A型封入体(ATI)として局在化している(Kato他、1959)。ATIの機能は、動物から動物への伝播に際して牛痘ウイルスビリオンを防護することにあると考えられている(Bevgoin 他、1971)。牛痘ゲノムのATI領域は160kDaのタンパク質をコードしており、これがATI封入体のマトリックスを形成する(Funahashi 他、1988;Patel 他、1987)。ワクシニアウイルスは、そのゲノムに相同領域を含有するが、一般にATIを産生しない。ワクシニアのWR株においては、ゲノムのATI領域は94kDaのタンパク質として翻訳される(Patel 他、1988)。ワクシニアウイルスのCopenhagen株においては、ATI領域に相応するDNA配列の大部分は欠失されており、該領域の残存する3´末端はATI領域の上流にある配列と融合して、オープンリーディングフレーム(ORF)A26Lを形成する(Goebel他、1990a,b)。
【0024】
ワクシニアウイルスの左末端近傍については、各種の自然欠失(Altenburger 他、1989;Drillien他、1981;Lai 他、1989;Moss他、1981;Paez他、1985;Panicali他、1981)や人為的欠失が報告されている。10kbが自然欠失したワクシニアウイルスのWR株(Moss他、1981;Panicali他、1981)は、マウスに頭蓋内接種することにより弱毒化されることが示された(Buller他、1985)。後に、この欠失部は17ヶのORFを含む可能性が示された(Kotwal他、1988b)。該欠失部内にある特別の遺伝子としては、ビロカインN1Lおよび35kDaタンパク質(Goebel他による1990a,b の報告でC3Lと称されたもの)が挙げられる。N1Lを挿入不活化すると、通常のマウスおよびヌードマウスのいずれについても、頭蓋内接種によりビルレンスが減少する(Kotwa 他、1989a)。上記の35kDaタンパク質は、ワクシニアウイルス感染細胞の培地にN1Lと同様に分泌される。このタンパク質は、補体コントロールタンパク質群、特に補体4B結合タンパク質(C4bp)に相同性である(Kotwal他、1988a)。細胞性C4bpと同様に、ワクシニアの35kDaタンパク質は補体の第4成分と結合し、古典的補体カスケードを阻害する(Kotwal他、1990)。このように、ワクシニアの35kDaタンパク質は、該ウイルスが宿主の防御機構を回避するのを助けることに関与しているものと考えられる。
【0025】
ワクシニアゲノムの左末端は、宿主域遺伝子として同定された2つの遺伝子、K1L(Gillard 他、1986)およびC7L(Perkus他、1990)を含む。これらの遺伝子の双方が欠失すると、各種のヒト細胞系でワクシニアウイルスの増殖能が減少する(Perkus他、1990)。
【0026】
この他に、本来的に宿主が制限されているポックスウイルスであるトリポックスウイルスを使用する2つのワクチンベクター系がある。すなわち、家禽ポックスウイルス(FPV:fowlpoxvirus)およびカナリアポックスウイルス(canarypoxvirus)の両者に工夫を施して外来遺伝子産物を発現させてきた。家禽ポックスウイルス(FPV)は、ポックスウイルス科のトリポックス(Avipox)属の基本ウイルスである。このウイルスは、家禽類に経済的に重要な疾病を引き起こすが、1920年代から弱毒化生ワクチンを使用することにより良好な対策が講じられてきた。トリポックスウイルスの複製は鳥類に限られ(Matthews他、1982)、ヒトを含む非鳥類においてトリポックスウイルスの感染が起こったという文献の報告は存しない。このように宿主が制限されているので、他の種にウイルスが伝染することに対する本質的な安全性が確保され、トリポックスウイルス由来のワクチンベクターは魅力ある手段として動物やヒトへ応用される。
【0027】
FPVは、家禽類病原体由来の抗原を発現する優れたベクターとして使用されてきた。ビルレントトリインフルエンザウイルスの血球凝集素タンパク質がFPV組換え体で発現された(Taylor他、1988a)。この組換え体をニワトリおよび七面鳥に接種すると、同種または異種のビルレントインフルエンザウイルスのいずれの攻撃に対しても防御能のある免疫応答が誘起された(Taylor他、1988a)。ニューカッスル病ウイルスの表面糖タンパクを発現するFPV組換え体も開発された(Taylor他、1990;Edbauer 他、1990)。
【0028】
宿主制限によりFPVおよびCPVの複製はトリ系に限られているにも拘わらず、これらのウイルスから誘導された組換え体は、非トリ源細胞において外来遺伝子を発現することが見出された。さらに、そのような組換え体ウイルスは、該外来遺伝子産物に対する免疫応答を引き起こし、場合によっては、相応する病原体による攻撃に対する防御能を有することが示された(Tartaglia 他、1993a,b ;Taylor他、1992;1991b ;1988b)。
【0029】
ヒトT細胞白血病/リンパ腫ウイルスタイプI(HTLV−I)ならびにヒト免疫不全症ウイルス(HIV)は、それぞれ、成人T細胞白血病(ATL)および熱帯性痙性不全対麻痺/HTLV−I関連ミエロパーシー(TSP/HAM)ならびに後天性免疫不全症候群を引き起こすレトロウイルスであり(Gallo, 1987 ; Poiesz, 1980 ; Hinuma, 1981 ; Barre-Siniuss, 1983 ; Popovic, 1984 ; Gallo, 1986)、密着接触(例えば、性交、母子間など)および血液または血液製剤の輸注によって伝染される。しかしながら、HIV−1とは対照的に、HTLV−Iは汚染された冷凍保存第VIII因子製剤によってはあまり伝染されないということが明らかにされていることから、HTLV−Iの伝染は無細胞ウイルスからよりは、主として感染細胞を介して起こるものと考えられる。このことは、無細胞HTLV−Iのインビトロ伝染は、標的細胞とともに感染細胞を共培養する場合に比べてきわめて効率が悪いという以前の結果(DeRossi, 1985)、および、HTLV−Iの変異は比較的少なく(Gallo, 1987 ; Gessain, 1992)、ウイルス伝染ではなくプロウイルスであることを示唆していることからも裏づけられる。HTLV−Iは、他の動物性腫瘍ウイルスよりも遺伝学的に複雑であり、そして、HTLV−IIの他に知られた唯一のヒト腫瘍ウイルスである(Kalyanaraman, 1982)。HTLV−Iの遺伝学的複雑さは、HIVのそれと酷似している(Gallo,1986) 。事実、HTLVとHIVは、類似の機能を有する調節タンパク質を共有しており(tax / tat, rex / rev)、また、多数の補助遺伝子を共有し[HTLV−Iのvpf, vif, nef, vpu ( Haseltine, 1989 ), HTLV−Iのp12I 、p13II、p30IIおよびp21rex (Kiyokawa, 1985 ; Koralnik, 1993) ]、これらは、ヒトT細胞に感染する際して当該病原体を適応化するのに関与するものと考えられる。両方のウイルスとも、インビボおよびインビトロ(6、13、14)においてCD4+ T細胞に感染するが、HTLVは他のT細胞サ
ブタイプにも感染する。
【0030】
HIVに関する製剤の開発(例えば、ワクチンの開発)においては遺伝学的および免疫学的変異(LaRosa, 1990 ; Ruxche, 1988)が関心事であるが、HTLV−Iの場合は、遺伝学的変異は非常に少ない(Gassain, 1992 ; Paine, 1991 ; Schulz, 1991 ; Komourian, 1991)。しかしながら、全世界的に共通(コスモポリタン)タイプのHTLV−IおよびHTLV−IIに加えて、ザイール(Gessain,1992) およびメラネシア(Gessain, 1993 ; Sherman, 1992)のような赤道地域から遺伝学的に区別されるHTLV−Iの他のタイプが発見されたことにより、免疫されたウサギの誘発試験(チャレンジ)に使用され得る広範な遺伝学的変異体(エンベロープ遺伝子における変異範囲3〜30%)が得られるようになった。予備試験によると、アフリカ型、コスモポリタン型およびメラネシア型のHTLV間の交差中和は検出され得る。異種のウイルスに対する力価は低い。このことは、天然のHTLV感染に対する防御において中和抗体が重要であるとすれば、1種より多くの変異体からワクチンを構成すべきことを示唆している。HTLV−I生成物を発現させる効果的な手段が得ることができれば、例えば、免疫組成物ないしはワクチン組成物として、または、そのような組成物を調製する手段として、または、HTLV−I生成物もしくは該生成物に対する抗体を調製して分析系、キットもしくはテスト系を構築するのに有用であり、特に、HTLV−Iが風土病化している世界の諸地域、例えば、日本の一部、カリブ海、アフリカおよび南米の一部に貢献することができるであろう。例えば、高度に弱毒化したポックスウイルスHTLV−Ienv を単独、または、これと組合わせて、精製したHTLV−I前駆体エンベロープ蛋白(gp63)から成るサブユニットをブースターとして使用すれば、免疫組成物ないしはワクチン組成物として、また、抗原や抗体を調製して、分析系、キット、テスト系を構築するのに有用であろう。ウサギは、HTLV−I感染に対する感受性が非常に高いが、ヒトのATLまたはTSP/HAMに類似する疾病を出現させない(Miyoshi, 1985)。しかし、ウサギのHTLV−I感染は、ワクチン研究における経済的で効率的な動物モデルを提供する。
【0031】
かくして、HTLV組換えポックスウイルスならびにそれから得られる組成物および生成物、特にNYVACまたはALVACに基づくHTLV組換え体ならびにそれから得られる組成物および生成物、特に、HTLVenv の一部または全部をコードするような該組換え体ならびにそれから得られる組成物および生成物が提供されれば、現在の技術レベルを前進させるきわめて望ましいものとなるであろう。
【特許文献1】米国特許第4769330号明細書
【特許文献2】米国特許第4772848号明細書
【特許文献3】米国特許第4603112号明細書
【特許文献4】米国特許第5100587号明細書
【特許文献5】米国特許第5179993号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0032】
したがって、本発明の目的は、安全性の向上した変性組換えウイルスを提供し、且つ、そのような組換えウイルスを製造する方法を提供することにある。
【0033】
本発明の別の目的は、既知の組換えポックスウイルスワクチンに比べて安全性のレベルが高くなった組換えポックスウイルス抗原、ワクチンまたは免疫学的組成物を提供することにある。
【0034】
本発明のさらに別の目的は、宿主内で遺伝子産物を発現するための変性ベクターであって、該宿主内で弱毒化されたビルレンスを有するように変性されたベクターを提供することにある。
【0035】
本発明の他の目的は、安全性のレベルが高くなった変性組換えウイルスまたは変性ベクターを用いて、インビトロ培養細胞内で遺伝子産物を発現させる方法を提供することにある。
【0036】
本発明のこれらの目的およびその他の目的ならびに効果は、以下の記述から一層明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0037】
一つの態様として、本発明は、変性組換えウイルスであって、該ウイルスにコードされている遺伝子機能が不活化されていることによりビルレンスが弱毒化され安全性が高められた組換えウイルスに関する。その遺伝子機能は、非必須的なものである場合もあれば、ビルレンスに関連している場合もある。
【0038】
ウイルスとしてはポックスウイルスが有利であり、特にワクシニアウイルスまたはトリポックスウイルス、例えば家禽ポックスウイルスまたはカナリアポックスウイルスである。この変性組換えウイルスは、そのウイルスゲノムの非必須領域に、HTLV由来の抗原またはエピトープ(例えば、HTLVenv)をコードする外来DNA配列を含むことができる。
【0039】
他の態様として、本発明は、接種された宿主動物内に免疫応答を誘起する抗原性、免疫原性、ないしはワクチン組成物または治療用組成物に関し、該ワクチンは、担体と変性組換えウイルスとを含み、該組換えウイルスは、ウイルスにコードされている非必須遺伝子機能が不活化されていることによりビルレンスが弱毒化され安全性が向上している。本発明に従うこの組成物に用いられるウイルスはポックスウイルスが有利であり、特にワクシニアウイルスまたはトリポックスウイルス、例えば、家禽ポックスウイルスまたはカナリアポックスウイルスである。この変性組換えウイルスは、そのウイルスゲノムの非必須領域に、抗原性タンパク質(例えば、HTLVenv のようなHTLV由来のもの)をコードする外来DNA配列を含むことができる。
【0040】
さらに別の態様として、本発明は、変性組換えウイルスを含有する免疫原性組成物に関し、該変性組換えウイルスは、ウイルスにコードされている非必須遺伝子機能が不活化されていることによりビルレンスが弱毒化され安全性が高められている。この変性組換えウイルスは、そのウイルスゲノムの非必須領域に、抗原性タンパク質(例えば、HTLVenv のようなHTLV由来のもの)をコードする外来DNA配列を含み、該組成物は、宿主に投与されると、該抗原に特異的な免疫応答を誘起する能力を有する。
【0041】
別の態様として、本発明は、インビトロ培養される細胞に、ビルレンスが弱毒化され安全性が高められた変性組換えウイルスを導入することにより該細胞内で遺伝子産物を発現させる方法に関する。この変性組換えウイルスは、そのウイルスゲノムの非必須領域に、抗原性タンパク質、例えば、HTLVenv のようなHTLV由来のタンパク質をコードする外来DNA配列を含み得る。その後、該細胞は、個体に直接再注入されるか、または、再注入のために特定の反応性を増幅するのに使用する(半ビボ治療)ことができる。
【0042】
別の態様として、本発明は、インビトロ培養される細胞に、ビルレンスが弱毒化され安全性が高められた変性組換えウイルスを導入することにより該細胞内で遺伝子産物を発現させる方法に関する。この変性組換えウイルスは、そのウイルスゲノムの非必須領域に、抗原性タンパク質、例えば、HTLVenv のようなHTLV由来のタンパク質をコードする外来DNA配列を含むことができる。得られた遺伝子産物は、ヒトまた動物に投与されて免疫応答を刺激することができる。産生された抗体は、各個体内でHTLVの予防および治療に有用であり、また、ヒトもしくは動物由来の抗体または単離されたインビトロ発現産物は、診断キット、アッセイまたはテストに用いられて、血清のようなサンプル中のHTLVもしくはHTLV由来の抗原またはそれらに対する抗体の有無(したがって、該ウイルスもしくは該産物、または該ウイルスもしくは抗原に対する免疫応答の有無)を測定するのに用いることができる。
【0043】
さらに別の態様として、本発明は変性組換えウイルスに関し、該組換えウイルスは、ウイルスにコードされている非必須遺伝子機能が不活化されていることによりビルレンスが弱毒化されており、さらに、ウイルスゲノムの非必須領域に外来源のDNAを含有している。このDNAは、HTLVenv のようなHTLVコードすることができるものである。特に、遺伝子機能は、ビルレンス因子をコードするオープンリーディングフレームを欠失させることにより、または、自然の宿主制限ウイルスを利用することによって不活化されている。本発明に従って用いるウイルスは、ポックスウイルスが有利であり、特にワクシニアウイルスまたはトリポックスウイルス、例えば家禽ポックスウイルスまたはカナリアポックスウイルスである。オープンリーディングフレームは、J2R、B13R+B14R、A26L、A56R、C7L−K1L、およびI4L(Goebel他による1990a,b の報告における名称による)から成る群、ならびにそれらの組合せより選択されるのが好ましい。ここで、オープンリーディングフレームは、チミジンキナーゼ遺伝子、出血性領域、A型封入体、血球凝集素遺伝子、宿主域遺伝子領域もしくはリボヌクレオチドレダクターゼの大サブユニット、またはそれらの組合せから成る。ワクシニアウイルスの好適な変性Copenhagen株は、NYVACとして同定されたものであり(Tartaglia 他、1992)、J2R、B13R+B14R、A26R、C7L−K11およびI4Lまたはチミジンキナーゼ遺伝子、出血性領域、A型封入体領域、血球凝集遺伝子、宿主域領域、リボヌクレオチドレダクターゼの大サブユニットが欠失されたワクシニアウイルスである(米国特許第5,364,773 号も参照されたい)。他の好適なポックスウイルスは、ALVACであり、カナリアポックスウイルス(Rentschlerワクチン株)が、例えば、ニワトリ胚繊維芽細胞による200 回以上の継代培養により弱毒化され、そのマスター種株が寒天培地下の4回の連続的なプラーク精製に供された後、5回の追加の継代培養により増幅されたものである。
【0044】
本発明は、さらに別の態様として、本発明による組換えポックスウイルスの発現産物およびその使用、例えば、治療、予防、診断または試験に用いられる抗原性組成物ないしはワクチン組成物を調製することに関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
新しいワクシニアワクチン株を開発するため、既知のまたは潜在的なビルレンス因子をコードするゲノムの6つの非必須領域を欠失させることにより、ワクシニアウイルスのCopenhagen株NYVAC(vP866)を変性した。配列の欠失に関しては以下に詳述している(米国特許第5,364,773 号参照)。ワクシニアの制限フラグメント(制限酵素断片)、オープンリーディングフレームおよびヌクレオチド位置の呼称は、Goebel他(1990a,b)の報告における用語法に基づく。
【0046】
また、挿入する外来遺伝子を受容できるように欠失位置を工夫した。
【0047】
NYVACから欠失させた領域については以下に掲記している。また、該欠失領域の略称およびオープンリーディングフレームの呼称(Geobel他、1990a,b)ならびに特定の欠失領域を含有するワクシニア組換え体の呼称(vP)も併せて掲記する:
(1) チミジンキナーゼ遺伝子(TK;J2R)vP410;
(2) 出血性領域(;B13R+B14R)vP553;
(3) A型封入体領域(ATI;A26L)vP618;
(4) 血球凝集素遺伝子(HA;A56R)vP723;
(5) 宿主域遺伝子領域(C7L−K1L)vP804;
(6) リボヌクレオチドレダクターゼ大サブユニット(I4L)vP866
(NYVAC)
NYVACは、ビルレンスおよび宿主域に関連する遺伝子産物をコードする18のオープンリーディングフレームを欠失させることにより遺伝子工学的手法で得られたワクシニアウイルス株である。NYVACは高度に弱毒化されるが、このことは以下のような多くの特徴から判る:i)新生マウスに脳内接種するとビルレンスが減少すること、ii)遺伝学的に(nu+ nu+ )または化学的(シクロホスホアミド)に免疫無防備状態マウスにおける無毒性、iii)免疫無防備状態マウスにおいて、播種性感染が起こらなくなること、iv)ウサギ皮膚の硬結や潰瘍形成がなくなること、v)接種部位からの迅速なクリアランス、vi)多くの組織培養細胞系(ヒト由来のものを含む)において複製能が激減すること。これにも拘わらず、NYVACに基づくベクターは、外来性免疫原に対して優れた応答を誘起し防御免疫を提供する。
【0048】
TROVACは弱毒化家禽ポックスであり、1日齢のヒナへのワクチン接種がライセンスされている家禽ポックスウイルスFP−1ワクチン株からプラークを単離して得られたものである。また、ALVACは弱毒化カナリアポックスを基礎とするベクターであり、ライセンスされているカナリアポックスワクチンKanapox (Tartaglia 他、1992)からプラークをクローニングして得られたものである。ALVACの一般的性質には、Kanapox の一般的性質と同じものがある。外来免疫源を発現するALVAC系組換えウイルスは、ワクチンベクターとしても有効であることが示されている(Tartaglia 他、1993a,b)。このトリポックスベクターは、その複製がトリ類に限定されている。ヒトの培養細胞においては、ウイルスのDNA合成に先行してウイルス複製サイクルの初期にカナリヤポックスウイルスの複製は中断してしまう。しかしながら、外来免疫原を発現するように工夫すれば、哺乳動物細胞中でインビトロで真正な発現とプロセシングが認められ、多くの哺乳動物種に接種すると該外来免疫原に対する抗体および細胞性免疫応答を誘発し、同種の病原体の攻撃に対する防御を与える(Taylor他、1992;Taylor他、1993)。カナリアポックス/狂犬病糖タンパク質組換え体(ALVAC−RG)に関するヨーロッパおよび米国における最近の第二相臨床試験によれば、この試験ワクチンは、充分に耐性があり、防御レベルの狂犬病ウイルス中和抗体を誘記することが示された(Cadoz 他、1992;Fries 他、1992)。さらに、ALVAC−RG被接種者由来の末梢血単核細胞(PBMCs)は、精製狂犬病ウイルスで刺激すると有意レベルのリンパ球増殖を示した(Fries 他、1992)。
【0049】
また、NYVAC、ALVACおよびTROVACは、以下の点において、あらゆるポックスウイルスの中でも独特であると考えられている。すなわち、米国公衆衛生局のNIH(Institute of Health)の組換えDNA勧告委員会(Recombinant DNA Advisory Committee)は、ウイルスやベクターのような遺伝子材料の物理的封じ込めに関するガイドライン、すなわち、特定のウイルスやベクターの病原性に基づくそれらのウイルスやベクターの利用における安全な取扱に関するガイドラインを出しているが、この物理的封じ込めのレベルをBSL2からBSL1に下げることを認めた。ここで、他のいずれのポックスウイルスもBSL1の物理的封じ込めレベルを満足していない。ワクシニアウイルスのCopenhagen株(最も一般的な天然痘ワクチンである)ですら、これよりも高い物理的封じ込みレベル、すなわち、BSL2を有する。このように、当該分野においては、NYVAC、ALVACおよびTROVACは他のポックスウイルスよりも病原性が低いことが認められている。
【0050】
高度に弱毒化されたポックスウイルスワクチンベクターALVACおよびNYVACを用いて、ヒトT細胞白血球/リンパ種ウイルスタイプI(HTLV−I)1711の全エンベロープタンパク質(西アフリカの健康なHTLV−I感染患者由来)を発現させた。
【0051】
NYVACまたはALVACを基礎とするHTLV−Ienv 組換えウイルスの調製と発現:HTLV−Ienv 配列は、SstI−Sst−I8.5kb のHTLV−IゲノムDNAを含有するプラスミドp17−11から入手した。該env 配列を、ワクシニアウイルスの初期/即時I3Lプロモータと正確にATGが対応するように融合させることにより、ポックスウイルス/HTLV−Ienv 発現カセットを構築した。このI3L/HTLV−Ienv 発現カセットを一般的な挿入プラスミドpSPHA6に挿入することにより挿入プラスミドpMAW018を調製した。このプラスミドpMAW018を用いて、レスキューウイルスとしてNYVAC(vP866)とのインビトロ組換えアッセイを行い、NYVAC、HTLV−Ienv (vP1181)を得た。このプラスミドとの組換えにより、NYVACのHA遺伝子座にI3L/HTLV−Ienv が挿入された。一般的挿入プラスミドpVQC5LSP6にI3L/HTLV−Ienv 発現カセットを挿入することにより挿入プラスミドpMAWO17を調製した。このプラスミドpMAWO17を用い、レスキューウイルスとしてのALVAC(vCPpp)とのインビトロ組換えアッセイを行いALVAC HTLV−Ienv (vCP203)を得た。この挿入により、ALVACのC5遺伝子座にI3L/HTLV−Ienv 発現カットが配置された。
【0052】
これらの組換え体を用いてニュージーランド(New Zealand)白ウサギを免疫した。免疫法としては、ポックスウイルスの組換え体を単独接種する場合の他に、サブユニットブーストとしてアラムに溶かしたgp63HTLV−Iエンベロープ前駆体タンパク質を用いて追加免疫を行う場合も含ませた。もちろん、gp63HTLVエンベロープ前駆体は、本発明の組換え体と同時にまたはその後に投与することもできる。ウサギは全て、HTLV−IBOU 分離物の初代培養由来の有細胞HTLV−Iチャレンジ(5×104 細胞)に供した。その結果、ALVACを基礎とするHTLV−Ienv ワクチンを107pfuで2回接種すると、最終免疫の5ヶ月後のウイルスのチャレンジに対して該動物を防御していた。しかしながら、驚くべきことに、ALVAC−env にgp63の2回の追加免疫を組み合わせて用いると、防御を付与することができず、サブユニット製剤の投与は有害である可能性が示唆された。さらに重要なことは、5ヶ月の防御機能が与えられるということから、本発明の組換え体、またはそのような組換え体を含有する組成物またはその発現産物を動物(例えばウサギ)またはヒトに周期的に(例えば、年3回または年2回)ワクチン接種または投与することも考えられ、かくして、家禽(例えば、ウサギ)の集団がHTLVに感染したり、HTLVキャリアになることを防止するのを助けることもでき、HTLV感染動物またはHTLVのキャリア動物がHTLVに羅病する可能性およびヒトと動物または動物間の密着接触の可能性を防ぐ。
【0053】
さらに、NYVAC HTLV−Ienv 組換え体の場合は、最初の免疫から2ヶ月後という早期に防御機能が付与された。NYVACおよびALVACによるこの臨床試験においては防御処理を受けた動物は、HTLV−IBOU に感染した動物由来の血液5mlを用いた最初のチャレンジの5ヶ月後、再チャレンジに供され、その後感染した。しかしながら、組換え体によって与えられた防御機能から、該組換え体の有用性およびその発現産物の有用性は明らかである。
【0054】
NYVAC、ALVACおよびTROVAC各ベクターの弱毒化プロフィルおよびそれらが体液性免疫応答および細胞性免疫応答を誘発する能力を有することから明らかなように(Tartaglia 他、1993a,b, Taylor 他、1992 ; Konishi他、1992)、それらの組換えウイルスは、既述のワクシニア系組換えウイルスよりも顕著な利点を有している。
【0055】
本発明の組換えウイルスまたはその発現産物による組成物、例えば、免疫原性、抗原性もしくはワクチン組成物または治療組成物は、非経口経路(皮内、筋肉または皮下)で投与することができる。そのような投与により全身性免疫応答が可能となる。
【0056】
さらに概説すれば、本発明に従う抗原性、免疫原性もしくはワクチン組成物または治療組成物(本発明のポックスウイルス組換え体を含有する組成物)は、製薬技術分野における当業者に周知の標準的な方法に従って調製することができる。それらの組成物は、患者の年齢、性別、体重、および症状、ならびに投与経路を考慮しながら、適当な投与量で医学分野の当業者に周知の方法に従って投与することができる。該組成物は、単独投与することもできるが、さらに、本発明の組成物、または他の免疫原性、抗原性もしくはワクチン組成物または治療組成物と同時に、または、それらとともに特定の順序で逐次的に、血清反応陽性のヒトに投与することもできる。また、該組成物は、単独投与することもできるが、本発明の組成物、または他の免疫原性、抗原性もしくはワクチン組成物または治療組成物と同時に、またはそれらとともに特定の順序で逐次的に、血清反応陰性のヒトに投与することもできる。他の組成物とは、HTLV由来の精製抗原または組換えポックスウイルスもしくは他のベクター系によって発現されたそのような抗原由来のものが挙げられる。他の組成物としては、また、他のHTLV抗原を発現する組換えポックスウイルスまたは生体応答調節剤が挙げられる。これらの場合においても、患者の年齢、性別、体重および症状ならび投与経路などの因子を考慮する。
【0057】
本発明の組成物は、例えば、腔部(例えば、口、鼻、肛門、膣など)投与用の液状製剤、例えば、サスペンション、シロップまたはエリキジールなど;さらには、非経口、皮下、皮内、筋肉内または静脈内投与(例えば、静注)用製剤、例えば、無菌のサスペンションまたはエマルションの形態をとる。それらの組成物においては、組換えポックスウイルスに、適当なキャリア、稀釈剤、または賦形剤、例えば無菌水、生理食塩水、ブドウ糖などを混合させてもよい。
【0058】
さらに、本発明の組換えポックスウイルスの発現産物を直接使用して、血清反応陰性もしくは血清反応陽性のヒトまたは動物における免疫応答を刺激することもできる。すなわち、上述の組成物における本発明の組換えウイルスの代わりにまたはそれとともに、該発現産物を使用して本発明に従う組成物とすることもできる。
【0059】
また、本発明の組換えポックスウイルスおよびそれに由来する発現産物は、ヒトおよび動物における免疫または抗体応答を刺激し、したがって該産物は抗原となる。これらの抗体または抗原から、当該技術分野で周知の手法により、モノクローナル抗体を調製することができ、そして、周知の抗体結合分析系、診断キットまたはテスト系においてこれらのモノクローナル抗体または抗原を使用して、特定のHTLV抗原の有無、したがって、(HTLVまたはその他の系において)該ウイルスまた抗原の発現の有無を測定したり、または、該ウイルスまたは抗原に対する免疫応答が刺激されたか否かを判定することができる。これらのモノクローナル抗体または抗原は、免疫吸着クロマトグラフィーに使用されて、HTLVまたは本発明の組換えポックスウイルスの発現産物を回収したり単離することもできる。
【0060】
さらに、詳述すれば、本発明に従う組換え体および組成物は、以下のような多くの用途を有する:
(i) 血清反応陰性のヒトにおける免疫応答の誘発(ワクチン接種またはワク チン接種の一部として);
(ii) 血清反応陽性のヒトの治療;および
(iii) ウイルス感染のリスクを伴わないインビトロでのHTLVタンパク質の 調製。
【0061】
本発明の組換えポックスウイルスの発現産物は、直接使用されて、血清反応陰性もしくは血清反応陽性のヒトまたは動物における免疫応答を刺激することができる。すなわち、本発明の組換えポックスウイルスに代えてまたはそれとともに、該発現産物を使用して本発明の組成物を調製することもできる。
【0062】
さらに、本発明の組換えポックスウイルスおよびそれに由来する発現産物は、ヒトおよび動物における免疫または抗体応答を刺激する。これらの抗体から、当該分野で周知の手法によりモノクローナル抗体を調製することができ、そして、これらのモノクローナル抗体または本発明に従うポックスウイルスの発現産物もしくは組成物を周知の抗体結合分析系、診断キットまたはテスト系に使用して、特定のHTLV抗原または抗体の有無、したがって、該ウイルスの有無を測定したり、あるいは、該ウイルスまたは抗原に対する免疫応答が刺激されたか否かを判定することができる。これらのモノクローナル抗体を免疫吸着クロマトグラフィーに使用して、HTLVまたは本発明の組換えポックスウイルスの発現産物を回収、単離または検出することもできる。モノクローナル抗体を製造する方法およびモノクローナル抗体の使用方法、ならびにHTLV抗原(本発明のポックスウイルスの発現産物および組成物)の使用法などは当該技術分野における当業者には周知である。それらは、診断法、キット、テスト系または分析系などに使用されるとともに、免疫吸着クロマトグラフィーまたは免疫沈降法による物質回収に使用され得る。
【0063】
モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ細胞により産生される免疫グロブリンである。モノクローナル抗体は、単一の抗原決定基に反応し、通常の血清由来の抗体よりも高い特異性を与える。さらに、多数のモノクローナル抗体にスクリーニングを行うことにより、所望の特異性、アビディディ(抗原結合力)およびイソタイプを有する個々の抗体を選択することができる。ハイブリドーマ細胞系は、化学的に同一の抗体の恒常的且つ安価な供給源となり、そして、そのような抗体の調製は容易に標準化できる。モノクローナル抗体を産生する方法は当該技術分野における当業者には周知であり、例えば、Koprowski 他による米国特許第4,196,265 号1983年3月8日発行)を参考に引用しておく。
【0064】
モノクローナル抗体の用途も既知である。そのような用途の一つは診断法に利用するものであり、例えば1983年3月8日付でDavid,G.およびGreene,H. に付与された米国特許第4,376,110 号を引用しておく。モノクローナル抗体は、免疫吸着クロマトグラフィーにより物質を回収するのにも利用されており、例えば、Milstein,C. による「Scientific American 243 : 66, 70 (1980) 」を引用しておく。 さらに、本発明に従う組換えポックスウイルスおよびその発現産物は、インビトロまたは半ビボ(後に患者に再注入)で細胞の応答を刺激するのに使用することができる。患者の血清反応が陰性の場合、再注入により、免疫応答、例えば能動免疫のような免疫または抗原応答を刺激する。血清反応陽性の患者においては、再注入が、HTLVに対する免疫系を刺激または増強する。
【0065】
従って、本発明の組換えポックスウイルスは以下のような幾つかの用途を有する:血清反応陰性の患者に投与されるような抗原性、免疫性またはワクシン組成物へ使用。HTLVに対する免疫系を刺激または増強して治療が必要な血清反応陽性なヒト用組成物への使用。インビトロで抗原性を産生させ、これをさらに、抗原性、免疫性もしくはワクチン組成物または治療組成物に使用すること。以下の用途に使用され得るような抗体(直接投与するか、または本発明の組換えポックスウイルスの発現産物を投与することによる)または該発現産物または抗原を産生させること:すなわち、診断系、テスト系またはキットに使用して、血清のようなサンプル中における抗原の有無を確認、例えば、血清のようなサンプル中のHTLVの有無を確認したり、あるいは、該ウイルスまたは特定の抗原に対する免疫応答が誘起されたか否かを判定したり、さらには、免疫吸着クロマトグラフィー、免疫沈降またはこれらに類似する手法に使用すること。
【0066】
分析系、キットまたはテスト系における組換え抗原の使用に関しては、ヨーロッパ特許出願第89 202 922.4(1989年11月20日出願)「エイズ用スキンテストおよびテストキット(Skin Test and Test Kit For Aids)」、NTISpublication No. p890-238429 「HTLV−III DNAのクローニングおよび発現(Cloning and Expression of HTLV−III DNA)」(1990年11月発行)(Chang により1月23日出願の米国特許出願第06/693,866号)を参考に引用し、また、抗原を利用する分析系については、Essex 他による米国特許第4,725,669 号を参考に引用しておく。
【0067】
本発明の実施態様としてはその他の用途もある。
【0068】
本発明およびその効果をさらに明らかにするため以下に実施例を示す。
【0069】
実 施 例
DNAクローニングおよび合成
標準的な方法(Maniatis他、1982;Perkus他、1985;Piccini 他、1987)によりプラスミドを構築し、スクリーニングし培養した。制限エンドヌクレアーゼは、米国メリーランド州GaithersburgのBethesda Research Laboratories, 米国マサチューセッツ州Beverly のNew England Biolabs,および米国インディアナ州IndianapolisのBoehringer Mannheim Biochemicalsから入手した。大腸菌ポリメラーゼのクレノウ断片は、Boehringer Mannheim Biochemicalsから入手した。BAL−31エクソヌクレアーゼおよびファージT4のDNAリガーゼはNew England Biolabs から入手した。各試薬は供給業者の指示に従って使用した。
【0070】
合成オリゴデオキシリボヌクレオチドは、既述のように(Perkus他、1989)Biosearch 8750またはApplied Biosystems 380B DNA合成装置を用いて調製した。DNA配列決定は、既述の手法に従い(Guo 他、1989)シークエナーゼ(Sequenase)を用いて(Tabor 他、1987)ジデオキシ−チェインターミネーション法により(Sanger他、1977)行った。配列確認のためのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によるDNA増幅(Engelke 他、1988)は、自動式Perkin Elmer Cetus DNA熱サイクル装置(DNA Thermal Cycler)によりカスタム合成オリゴヌクレオチドプライマーおよびGeneAmp DNA増幅試薬キット(米国コネチカット州Norwalk のPerkin Elmer Cetus社製)を用いて実施した。プラスミドからの過剰DNA配 列の欠失は、制限エンドヌクレアーゼ分解、その後、BAL−31エクソヌクレアーゼによる制限分解および合成オリゴヌクレオチドによる突然変異法(Mandecki,1986)により行った。
【0071】
細胞、ウイルスおよびトランスフェクション
ワクシニアウイルスのCopenhagen株の起源および培養条件は既に明らかにされている(Guo 他、1989)。組換えによる組換えウイルスの調製、ニトロセルロースフィルターを用いるインサイトウハイブリダイゼーションおよびβ−ガラクトシダーゼ活性を利用するスクリーニングについては既に明らかにされている(Piccini 他、1987)。
【0072】
ワクシニアウイルスのCopenhagen株およびNYVACの起源および培養条件は既に明らかにされている(Guo 他、1989;Tartaglia 他、1992)。組換えによる組換えウイルスの調製、ニトロセルロースフィルターを用いるインサイトウハイブリダイゼーション、およびβ−ガラクトシダーゼを利用するスクリーニングについては既に明らかにされている(Panicali他、1982;Perkus他、1989)。
【0073】
カナリアポックスウイルスの親株(Rentschler株)はカナリアのワクシニア菌株である。このワクチン株は、野生型の単離が入手され、ニワトリ胚繊維芽細胞を用いる200 回以上の継代培養により弱毒化されたものである。そのマスターウイルス種株は寒天培地下の4回の連続的なプラーク精製に供され、そのプラーククローンの1つが5回の追加の継代培養により増幅され、その後、このストックウイルスが親ウイルスとしてインビトロ組換え試験に使用されてきた。
【0074】
FP−1と命名された家禽ポックスウイルス(FPV)株については既に明らかにされている(Taylor他、1988a)。これは、日齢のヒナのワクチン接種に有用な弱毒化ワクチン株である。親ウイルス株Duvette は、フランスにおいてニワトリヒナから家禽ポックス疥癬として入手された。このウイルスが胚鶏卵での約50回の連続的な継代培養の後、ニワトリ胚繊維芽細胞における25回の継代培養により弱毒化された。該ウイルスは4回の連続的なプラーク精製に供された。プラークの1つが単離され、初代CEF細胞中で増幅され、TROVACと命名されたストックウイルスが樹立された。
【0075】
NYVAC、ALVACおよびTROVAC各ウイルスベクターおよびそれらの誘導体の増殖については既に記述されている(Piccini 他、1987;Taylor他、1988a,b)。増殖にベロ細胞やニワトリ胚繊維芽細胞(CEF)を使用することも既に明らかにされている(Taylor他、1988a,b)。
【0076】
NYVACおよび特に実施例1から6に関しては、米国特許第5,364,773 号を参照されたく、ここに引用する。
【実施例1】
【0077】
実施例1チミジンキナーゼ遺伝子(J2R)を欠失させるためのプラスミドp SD460の構築
図1に関連して、プラスミドpSD406は、pUC8にクローニングしたワクシニアHindIII J(位置83359 〜88377)を含有する。pSD406をHindIII とPvuIIで切断し、HindIII の左側の1.7kb のフラグメントを、HindIII /SmaI で切断したpUC8にクローニングしてpSD447を調製した。pSD447は、J2Rの全遺伝子を含有する(位置83855 〜84385)。開始コドンはNlaIII 部位内に含まれており、また、終止コドンはSspI 部位内に含まれている。転写の方向は図1内の矢印で示す。
【0078】
左側のフランキングアームを得るために、pSD447から0.8kb のHindIII /EcoRIフラグメントを分離し、次いでNlaIII で分解して0.5kb のHindIII /NlaIII フラグメントを分離した。以下の配列を有するアニーニングした合成オリゴヌクレオチドMPSYN43/MPSYN44(SEQID NO:1/SEQ ID NO:2)を0.5kb のHindIII /NlaIII フラグメントと連結(ライゲート)し、HindIII /EcoRIで切断したpUC18ベクタープラスミドに導入して、プラスミドpSD449を得た。
【0079】

ワクシニアの右側のフランキングアームおよびpUCベクター配列を含有する制限酵素フラグメントを得るために、ワクシニア配列内でSspI(部分的)を用い、またpUC/ワクシニア結合部においてHindIII を用いてpSD447を切断して、2.9kb のベクターフラグメントを分離した。このベクターをフラグメントを、以下の配列を有するアニーリングした合成オリゴヌクレオチドMPSYN45/MPSYN46(SEQ ID NO:3/SEQ ID NO:4)と連結して、pSD459を得た。
【0080】

左側フランキングアームと右側フランキングアームを結合させて1つのプラスミドとするために、pSD449から0.5kb のHindIII /SmaIフラグメントを分離し、これを、HindIII /SmaIで切断されたpSD459ベクタープラスミドに連結してpSD460を調製した。このpSD460をドナープラスミドとして用い、野性型親ワクシニアウイルスCopenhagen株VC−2との組換えを実施した。鋳型としてMPSYN45(SEQ ID NO:3)およびプライマーとして相補的な20マー(20mer)オリゴヌクレオチドMPSYN47(SEQ ID NO:5)(5′TTAGTTAATTAGGCGGCCGC3′)を用いるプライマー延長法により32Pがラベルされたプローブを合成した。組換えウイルスvP410の同定はプラークハイブリダイゼーションにより行った。
【実施例2】
【0081】
実施例2出血性領域(B13R+B14R)を欠失させるためのプラスミド pSD486の構築
図2において、プラスミドpSD419は、pUC8にクローニングされたワクシニアSalI G(位置160,774 〜173,351)を含有する。pSD422は、右側に隣接するワクシニアSalIフラグメントSalI G(位置173,351 〜182,746)(pUC8にクローニングされている)を含有している。出血性領域u、B13R−B14R(位置172,549 〜173,552)が欠失されたプラスミドを構築するため、左側フランキングアーム源としてpSD419を用い、また、右側フランキングアーム源としてpSD422を用いた。領域の転写方向は図2の矢印で示す。
【0082】
pSD419から非所望配列を除去するために、NcoI/SmaIを用いてpSD419を分解し、次いで大腸菌のクレノウ断片を用いる平滑末端化および連結(ライゲーション)を行うことにより、NcoI部位(位置172,253)の左側の配列を除去してプラスミドpSD476を得た。B14Rの終結コドンにおけるHpaIを用いるpSD422の分解およびNruIによる分解によりワクシニアの右側フランキングアーム0.3kb を得た。この0.3kb のフラグメントを単離、pSD476から単離された3.4kb のHincIIベクターフラグメントに連結て、プラスミドpSD477を得た。pSD477におけるワクシニアu領域の部分血失位置は三角形で示している。pSD477における残りのB13Rコーデ配列を除去するため、ClaI/HpaIを用いる酵素分解を行い、得られたベクターフラグメントを、以下の配列を有するアニーリングされた合成オリゴヌクレオチドSD22mer /SD20mer (SEQ ID NO:6/SEQ ID NO:7)に連結して、pSD479を調製した。
【0083】

pSD479は、開始コドン(下線)を含有し、その後にBamHI部位がある。プロモーターの制御下にB13−B14()欠失位置に大腸菌ベーターガラクトシダーゼを入れるために、ベーターガラクトシダーゼ遺伝子(Shapira 他、1983)を含有する3.2kb のBamHIフラグメントをpSD479のBamHI部位に挿入して、pSD479BGを調製した。このpSD479BGをドナープラスミドとして、ワクシニアウイルスvP410との組換えを実施した。組換えワクシニアウイルスvP533を、発色性基質X−galの存在下に青色のプラークとして分離した。vP533においては、B13R−B14R領域が欠失され、ベーターガラクトシダーゼによって置換されている。
【0084】
vP533からベーターガラクトシダーゼを取り除くために、ポリリンカー領域を含有するが欠失結合部に開始コドンを有しないpSD477の誘導体であるプラスミドpSD486を用いた。先ず、上述のpSD477由来のClaI/HpaIベクターフラグメントを、以下の配列を有するアニーリングされた合成オリゴヌクレオチドSD42mer /SD40mer (SEQ ID NO:8/SEQID NO:9)に連結して、プラスミドpSD478を調製した。
【0085】

次に、pUC/ワクシニア結合部におけるEcoRI部位を破壊するため、EcoRIを用いてpSD478を酵素分解し、その後、大腸菌ポリメラーゼのクレノウ断片を用いる平滑末端化および連結(ライゲーション)を行うことにより、pSD478E− を得た。このpSD478E− をBamHIおよびHpaIを用いて分解し、以下に示す配列を有するアニーリングされた合成オリゴヌクレオチドHEM5/HEM6(SEQ ID NO:10 /SEQ ID NO:11)に連結して、プラスミドpSD486を調製した。
【0086】

pSD486をドナープラスミドとして用い、組換えワクシニアウイルスvP533との組換えを行ってvP553を得た。このvP553は、X−galの存在下に明瞭なプラークとして単離された。
【実施例3】
【0087】
実施例3ATI領域(A26L)を欠失させるプラスミドpMP494Δの構築
図3において、pSD414は、pUC8にクローニングされたSalI Bを含有する。A26L領域の左側の非所望DNA配列を取り除くために、pSD414を、ワクシニア配列内でXbaIを用いて切断し、またpUC/ワクシニア結合部においてHindIII を用いる切断を行い、次に、大腸菌ポリメラーゼのクレノウ断片を用いる平滑末端および連結を行うことにより、プラスミドpSD483を得た。A26L領域の右側の非所望ワクシニアDNA配列を除去するために、EcoRIを用いてpSD483を切断し(位置140,665 およびpUC/ワクシニア結合部)、連結処理(ライゲーション)を行ってプラスミドpSD484を形成した。A26Lコード領域を取り除くため、NdeI(部分的)を用いてA26LのORFの少し上流を切断し(位置139,004)且つHpaIを用いてA26LのORFの少し下流を切断(位置137,889)した。5.2kb のベクターフラグメントを単離し、これを以下の配列を有するアニーリングされた合成オリゴヌクレオチドATI3/ATI4(SEQ ID NO:12 /SEQ ID NO:13)と連結して、A26Lの上流領域を再構成し、下記の配列に示すようなBalII、EcoRIおよびHpaIの制限部位を含有する短いポリリンカー領域とA26LのORFを置換した。
【0088】

得られたプラスミドをpSD485と命名した。pSD485のポリリンカー領域におけるBalII部位およびEcoRI部位は唯一のものではないので、BglIIを用いる分解(位置140,136)およびpUC/ワクシニア結合部におけるEcoRIによる分解を行い、その後、大腸菌ポリメラーゼのクレノウ断片を用いる平滑末端化および連結(ライゲーション)により、プラスミド483(上述)から非所望のBalII部位およびEcoRI部位を除去した。得られたプラスミドをpSD489と命名した。pSD489由来でA26LのORFを含有する1.8kb のClaI(位置137,198)/EcoRI(位置139,048)フラグメントを対応する0.7kb でポリリンカーを含有するpSD485由来のClaI/EcoRIフラグメントと置換することによりpSD492を得た。このpSD492のポリリンカー領域におけるBglII部位およびEcoRI部位は唯一のものである。
【0089】
pSD492のBglII部位に、11kDaのワクシニアプロモーター(Bertholet 他、1985;Perkus他、1990)の制御下に大腸菌ベーターガラクトシダーゼ遺伝子(Shapira 他、1983)を含有する3.3kb のBglIIカセットを挿入して、pSD493KBGを形成した。このプラスミドpSD493KBGを用いて、レスキューウイルスvP553との組換えを行った。A26L欠失領域にベーターガラクトシダーゼを含有する組換えワクシニアウイルスvP581が、X−galの存在下に青色のプラークとして単離された。
【0090】
ワクシニア組換えウイルスvP581からベーターガラクトシダーゼを欠失させるプラスミドを調製するために、以下の配列を有する合成オリゴヌクレオチドMPSYN177(SEQ ID NO:14)を用いる突然変異法(Mandeck 、1986)によりプラスミドpSD492のポリリンカー領域を欠失させた。
【0091】

得られたプラスミドpMP494Δにおいては、位置[137,889 〜138,937 ]をカバーし、A26LのORF全体を含むワクシニアDNAが欠失されている。このpMP494Δとベーターガラクトシダーゼ含有ワクシニア組換え体vP581との間の組換えにより、ワクシニア欠失変異体vP618が得られ、X−galの存在下に明瞭なプラークとして単離された。
【実施例4】
【0092】
実施例4血球凝集素遺伝子(A56R)を欠失させるためのプラスミドpSD 467の構築
図4において、ワクシニアSalI G制限フラグメント(位置160,744 〜173,351)は、HindIII A/B結合部(位置162,539)を包含している。pSD419は、pUC8にクローニングされたワクシニアSalI Gを含有する。血球凝集素(HA)遺伝子の転写方向は図4における矢印で示されている。HindIII B由来のワクシニア配列の除去には、ワクシニア配列内およびpUC/ワクシニア結合部においてHindIII を用いるpSD419の酵素分解を行い、その後、連結処理(ライゲーション)した。得られたプラスミドpSD456は、左側が0.4kb のワクシニア配列および右側が0.4kb のワクシニア配列で挟まれたHA遺伝子(A56R)を含有する。A56Rをコードする配列を除去するために、A56Rコード配列の上流をRsaI(部分的;位置161,090)でまた、該遺伝子の末端近傍をEagl(位置162,054)でpSD456を切断した。pSD456から3.6kb のRsaI/EagIベクターフラグメントを単離し、以下の配列を有するアニーリングした合成オリゴヌクレオチドMPSYN59(SEQID NO:15)、MPSYN62(SEQ ID NO:16)、MPSYN60(SEQ ID NO:17)およびMPSYN61(SEQ ID NO:18)に連結(ライゲート)して、A56RのORFの上流のDNA配列を再構成し、A56RのORFを下記に示すようなポリリンカー領域と置換した。
【0093】

得られたプラスミドがpSD466である。このpSD466におけるワクシニア欠失は位置[161,185 〜162,053 ]を包含する。pSD466における欠失部位は図4では三角形で示されている。
【0094】
pSD466のBglII部位に、11kDaのワクシニアプロモーター(Bertholet 他、1985;Guo他、1989)の制御下に大腸菌ベーターガラクトシダーゼ遺伝子(Shapira 他、1983)を含有する3.2kb のBglII/BamHI(部分的)カセットを挿入して、pSD466KBGを形成した。このプラスミドpSD466KBGを用いて、レスキューウイルスvP618との組換えを行った。A56R欠失部位にベーターガラクトシダーゼを含有する組換えワクシニアウイルスvP708が、X−galの存在下に青色プラークとして単離された。
【0095】
ドナープラスミドpSD467を用い、vP708からベーターガラクトシダーゼ配列を除去した。pSD467はpSD466と同じであるが、但し、EcoRI/BamHIを用いるpSD466の分解、それに続く大腸菌ポリメラーゼのクレノウ断片を用いる平滑末端化および連結処理(ライゲーション)によりpUC/ワクシニア結合部からEcoRI部位、SmaI部位およびBamHI部位が取り除かれている。vP708とpSD467との間に組換えを行うことにより組み換えワクシニア欠失変異体vP723が得られ、X−galの存在下に明瞭なプラークとして単離された。
【実施例5】
【0096】
実施例5オープンリーディングフレーム[C7L−K1L]
を欠失させるためのプラスミドpMPCSK1Δの構築
図5において、次のワクシニアクローンを利用してpMPCSK1Δを構築した。pSD420は、pUC8にクローニングされたSalI Hである。pSD435は、pUC18にクローニングされたKpnI Fである。SphIでpSD435を切断してpSD451を形成した。このpSD451においては、HindIII MにおけるSphI部位(位置27,416)の左側のDNA配列が除去されている(Perkus他、1990)。pSD409は、pUC8にクローニングされたHindIII Mである。
【0097】
ワクシニアから[C7L−K1L]遺伝子群を除去する基体を得るために、先ず、以下のように、ワクシニアのM2L欠失座に大腸菌ベーターガラクトシダーゼを挿入した。pSD409においてBglII部位を取り除くために、BglIIを用いてワクシニア配列(位置28,212)およびBamHIを用いてpUC/ワクシニア結合部において該プラスミドを切断し、次いで連結処理(ライゲーション)を行い、プラスミドpMP409Bを形成した。唯一のSphI部位(位置27,416)においてpMP409Bを切断した。以下の配列の合成オリゴヌクレオチドを用いる突然変異法(Guo 他、1990;Mandecki,1986)によりM2Lのコード配列を除去した。
【0098】

得られたプラスミドpMP409Dは、上記のようにM2L欠失座に挿入された唯一のBglII部位を含有する。BglIIで切断されたpMP409Dに、11kDaのプロモーター(Bertholet 他、1985)の制御下に大腸菌ベーターガラクトシダーゼ遺伝子(Shapira 他、1983)を含有する3.2kbのBamHI(部分的)/BglIIカセットを挿入した。得られたプラスミドpMP409DBG(Guo 他、1990)をドナープラスミドとして用い、レスキューワクシニアウイルスvP723との組換えを行った。M2L欠失座に挿入されたベーターガラクトシダーゼを含有する組換えワクシニアウイルスvP784が、X−galの存在下に青色プラークとして単離された。
【0099】
ワクシニア遺伝子[C7L−K1L]が欠失されたプラスミドを、SmaI、HindIII で切断され、大腸菌ポリメラーゼのクレノウ断片で平滑末端化されたpUC8に組み込んだ。ワクシニアHindIII C配列から成る左側のフランキングアームを得るために、pSD420をXbaI(位置18,628)で分解した後、大腸菌ポリメラーゼのクレノウ断片を用いる平滑末端化およびBglII(位置19,706)を用いる分解を行った。ワクシニアHindIII K配列から成る右側のフランキングアームを選るには、pSD451をBglII(位置29,062)およびEcoRI(位置29,778)で分解した。得られたプラスミドpMP581CKは、HindIII CのBglII部位(位置19,706)とHindIII KのBglII部位との間のワクシニア配列が欠失されている。プラスミドpMP581CKにおけるワクシニア配列の欠失部位は図5に三角形で示している。
【0100】
ワクシニア欠失部の過剰なDNAを除去するため、プラスミドpMP581CKをワクシニア配列内のNcoI部位(位置18,811;19,625)において切断し、Bal−31エクソヌクレアーゼを用いて処理し、さらに、以下の配列を有する合成オリゴヌクレオチドMPSYN233(SEQ ID NO:20)を用いる突然変異法(Mandecki,1986)に供した。
【0101】

得られたプラスミドpMPCSK1Δは、12のワクシニアリーデンフレーム[C7L−K1L]を包含する18,805〜29,108位置のワクシニア配列が欠失されている。pMPCSK1Δとベーターガラクトシダーゼ含有ワクシニアウイルスvP784との間に組換えを行わせることにより、ワクシニア欠失変異体vP804が得られ、X−galの存在下に明瞭なプラークとして単離された。
【実施例6】
【0102】
実施例6リボヌクレオチドレダクターゼ大サブユニットを欠失させるための
プラスミドpSD548の構築
図6において、プラスミドpSD405は、pUC8にクローニングされたワクシニアHindIII I(位置63,875〜70,367)を含有する。このpSD405をワクシニア配列内でEcoRIにより、また、pUC/ワクシニア結合部においてはSmaIにより消化分解し、連結処理(ライゲーション)することによりプラスミドpSD518を形成した。pSD548の構築に用いたワクシニア制限フラグメントは、全て、このpSD518由来のものである。
【0103】
ワクシニアのI4L遺伝子は、67,371〜65,059の位置に延在している。I4Lの転写方向は、図6において矢印で示されている。I4Lのコード配列の一部が欠失したベクタープラスミドを得るために、pSD518をBamHI(位置65,381)およびHpaI(位置67,001)を用いて分解し、且つ、大腸菌のクレノウ断片を用いて円滑末端化した。この4.8kb のベクターフラグメントを、ワクシニアの11kDaのプロモーター(Bertholet 他、1985;Perkus他、1990)の制御下に大腸菌ベーターガラクトシダーゼ遺伝子(Shapira 他、1983)を含有する3.2kb のSmaIカセットに連結して、プラスミドpSD524KBGを得た。このpSD524KBGをドナープラスミドとして、ワクシニアウイルスvP804との組換えを行った。I4L遺伝子の部分欠失位置にベーターガラクトシダーゼを含有する組換えワクシニアウイルスvP855が、X−galの存在下に青色プラークとして単離された。
【0104】
ベーターガラクトシダーゼおよび残存するI4LのORFをvP855から欠失させるために、欠失プラスミド548を構築した。以下に詳述し且つ図6に示すように、左側および右側のワクシニアフランキングアームをそれぞれ別個にpUC8に組み込んだ。
【0105】
左側のワクシニアフランキングアームを受け入れるベクタープラスミドを構築するため、pUC8をBamHI/EcoRIで切断し、以下の配列を有するアニーリングされた合成オリゴヌクレオチド518A1/518A2(SEQ ID NO:21 /SEQ ID NO:22)に連結して、プラスミドpSD531を形成した。
【0106】

RsaI(部分的)およびBamHIでpSD531を切断し、2.7kb のベクターフラグメントを単離した。BglII(位置64,459)でpSD518を切断して0.5kb のフラグメントを単離した。これらの2つのフラグメントを互いに連結して、I4Lのコード配列の左側の完全なワクシニアフランキングアームを含有するpSD537を形成した。
【0107】
右側のワクシニアフランキングアームを受け入れるベクタープラスミドを構築するため、BamHI/EcoRIでpUC8を切断し、以下に示す配列を有するアニーリングされた合成オリゴヌクレオチド518B1/518B2(SEQID NO:23 /SEQ ID NO:24)に連結して、プラスミドpSD532WO形成した。
【0108】

このpSD532をRsaI(部分的)/EcoRIで切断して2.7kb のベクターフラグメントを単離した。pSD518を、ワクシニア配列内をRsaI(位置67,436)を用い、また、ワクシニア/pUC結合部をEcoRIを用いて切断して0.6kb のフラグメントを単離した。I4Lのコード配列の右側の完全なフランキングアームを含有するpSD538を調製した。
【0109】
右側のワクシニアフランキングアームは、pSD538から0.6kb のEcoRI/BglIIフラグメントとして単離し、EcoRI/BglIIで切断されたpSD537内に連結した。得られたプラスミドpSD539においては、I4LのORF(位置65,047〜67,836)がポリリンカー領域によって置換されており、該領域は左側を0.6kb のワクシニアDNAにより、また右側を0.6kb のワクシニアDNAにより挟まれており(フランキングされており)、こえらは全てpUCバックグランド内にある。ワクシニア配列内の欠失部は、図6において三角形で示している。pSD539のpUC誘導部分のベーターガラクトシダーゼが、組換えワクシニアウイルスvP855内のベーターガラクトシダーゼと組換えを行う可能性を回避するため、pSD539からワクシニアI4L欠失カセットを取り除いてpRC11とした。このpRC11は、すべてのベーターガラクトシダーゼが除去され、ポリリンカー領域で置換されたpUC誘導体である(Cokins他、1990)。pSDをEcoRI/PstIで切断して1.2kb のフラグメントを単離した。このフラグメントを、EcoRI/PstIで切断したpRC11(2.35kb)に連結して、pSD548を形成した。pSD548とベーターガラクトシダーゼ含有ワクシニア組換え体vP855との間に組換えを行わせることにより、ワクシニア欠失変異体vP866が得られ、X−galの存在下に明瞭なプラークとして単離された。
【0110】
組換えワクシニアウイルスvP866由来のDNAの分析は、制限酵素分解、次にアガロースゲル上の電気泳動法により行った。制限パターンは予測どおりであった。鋳型としてvP866および上で詳述した6つの欠失遺伝子座を挟む(フランキングする)プライマーを用いるポリメラーゼチェイン反応(PCR)(Engelke 他、1988)により予測された大きさのDNAフラグメントが得られた。PCRで得られたフラグメントの欠失接合領域近傍の配列分析により、接合が期待どおりであることが確認された。上述したような6つの欠失部を有するように工夫した組換えワクシニアウイルスvP866をワクシニアウイルス株「NYVAC」と命名した。
【実施例7】
【0111】
実施例7NYVACへの狂犬病糖タンパク質G遺伝子の挿入
ワクシニアH6プロモーター(Taylor他、1988a,b)の制御下に狂犬病(ウイルス)糖タンパク質Gをコードする遺伝子をTK欠質プラスミドpSD513に挿入した。pSD513は、ポリリンカーが存在している点を除いては、pSD460(図1)と同一である。
【0112】
図7に示すように、pSD460をSmaIで切断し、以下の配列を有するアニーリングされた合成オリゴヌクレオチドVQ1A/VQ1B(SEQ ID NO:25 /SEQ ID NO:26)に連結することにより該ポリリンカーを挿入することにより、ベクタープラスミドpSD513を形成した。
【0113】

このpSD513をSmaIで切断し、ワクシニアH6プロモーター(Taylor他、1988a,b)の制御下に狂犬病糖タンパク質Gをコードする遺伝子を含有し、SmaI末端から成る1.8kb のカセットに連結した。得られたプラスミドをpRW842と命名した。このpRW842をドナープラスミドとして用い、NYBACレスキューウイルス(vP866)と組換えを行った。狂犬病糖タンパク質Gのコード配列に対する32Pラベル化プローブを用いるプラークハイブリダイゼーションにより組換えワクシニアウイルスvP879を同定した。
【0114】
本発明の変性組換えウイルスは、組換えワクチンベクターとして幾つかの利点を有する。すなわち、ベクターのビルレンスが弱毒化されているので、ワクチン接種による被接種者が無制御(ランナウェー)感染する可能性が減少し、さらに、感染者から非感染者への伝染や環境の汚染も少なくするという利点を有する。
【0115】
さらに、本発明の変性組換えウイルスは、インビトロ培養される細胞内で遺伝子産物を発現させるのに用いることもでき、このためには、該細胞内で遺伝子産物をコードし発現する外来遺伝子を有する本発明の変性組換えウイルスを該細胞に導入すればよい。
【実施例8】
【0116】
実施例8狂犬病ウイルス糖タンパク質Gを発現するALVAC組換え体の構築 この実施例は、カナリアポックスウイルスベクターALVACおよびカナリアポックス−狂犬病ウイルス組換え体ALVAC−R(vCP65)の調製ならびにその安全性と効力について記述するものである。
【0117】
細胞およびウイルス 親カナリアポックスウイルス(Rentschler株)はカナリア用ワクチン株の1つである。このワクチン株は野性型の単離物から入手され、にわとり胚繊維芽細胞による200 回以上の連続的な継代培養により弱毒化されたものである。マスターウイルス種株は、寒天培地下の4回の連続的なプラーク精製に供され、さらに、プラーククローンの1つが5回の追加の継代培養により増殖された後、該保存ウイルスが親ウイルスとしてインビトロ組換え試験に用いられた。プラーク精製されたカナリアポックス単離物は、ALVACと命名されている。
【0118】
カナリアポックス挿入ベクターの構築 880bp のカナリアポックスPvuIIフラグメントを、PUC9のPvuII部位間にクローニングしてpRW764.5 を調製した。このフラグメントの配列は、図8(SEQ ID NO:27)において1372〜2251位置に示されている。オープンリーディングフレームを確認しC5と命名した。このオープンリーディングフレームは、該フラグメント内のいつ166で開始され且つ位置487で終結されていることが明らかにされた。オープンリーディングフレームを阻害することなくC5の欠失を行った。位置167から位置455までの塩基を、配列(SEQ ID NO:28)GCTTCCCGGGAATTCTAGCTAGCTAGTTT と置換した。この置換配列は、HindIII 、SmaIおよびEcoRI挿入部位と、それに後続しワクシニアウイルスRNAポリメラーゼにより認識される翻訳停止シグナルおよび転写終結シグナルを含有している(Yuen他、1987)。C5オープンリーディングフレームの欠失は以下のように行った。プラスミドpRW764.5 をRsaIで部分的に切断して線状の生成物を単離した。このRsaI線状フラグメントをBglIIで再切断し、かくして、位置156から位置462までのRsaIからBglIIまでが欠失したpRW764.5 フラグメントを単離し、以下の合成オリゴヌクレオチド用ベクターとして使用した。
【0119】

オリゴヌクレオチドRW145およびRW146をアニーリングし、上述のpRW764.5 RsaIおよびBglIIベクターに挿入した。得られたプラスミドをpRW831と命名した。
【0120】
狂犬病G遺伝子を含有する挿入ベクターの構築 以下にpRW838の構築について説明する。AからEのオリゴヌクレオチド(狂犬病ウイルスGのH6プロモーターの開始コドンと重なっている)をpUC9にクローニングしてpRW737とした。オリゴヌクレオチドA〜EはH6プロモーターを含有し、NruIで始まり、狂犬病ウイルスGのHindIII に到り、その後にBglIIがある。オリゴヌクレオチドA〜E((SEQ ID NO:31)〜(SEQ ID NO:35))の配列は以下のとおりである。
【0121】

また、アニーリングされたオリゴヌクレオチドA〜Eを図解すると次のようになる。
【0122】

オリゴヌクレオチドA〜Eをキナーゼ処理し、アニーリングし(95℃で5分間、その後、室温に冷却)、pUC9のPruII部位間に挿入した。得られたプラスミドpRW737をHindIII およびBglIIで切断し、ptg155PRO(Kieny他、1984)のHindIII −BglIIの1.6kbpフラグメント用ベクターとして使用してpRW739を調製した。ptg155PROHindIII 部位は、狂犬病Gの翻訳開始コドンの86bp下流にある。また、ptg155PROにおいて、BglIIは狂犬病G翻訳停止コドンの下流にある。pRW739をNruI用いて部分切断し、さらにBglIIを用いて完全切断し、かくして、既知のH6プロモーター(Taylor他、1988a,b ;Guo他、1989;Perkus他、1989)の3′末端から狂犬病Gの全遺伝子までを含有する1.7kbpのNruI−BglIIフラグメントをpRW824のNruI部位とBamHI部位との間に挿入した。得られたプラスミドをpRW832と命名する。pRW824に挿入することにより、NruIのH6プロモーターの5′が付加された。SmaIの前のBamHIのpRW824の配列は、GGATCCCCGGG (SEQ ID NO:36)である。pRW824は、ワクシニアウイルスのH6プロモーターに非関連遺伝子が確実に結合されたプラスミドである。NruIおよびBamHIを用いる分解によりこの非関連遺伝子を切除した。このpRW832のSmaIの1.8kbpフラグメント(H6をプロモーターとする狂犬病Gを含有している)をpRW831のSmaIに挿入して、プラスミドpRW838を調製した。
【0123】
ALVAC−RGの調製 既知のリン酸カルシウム沈降法を用いて(Panicali他、1982;Piccini 他、1987)、ALVAC感染初代CEF細胞にpRW838をトランスフェクトさせた。特定の狂犬病Gプローブに対するハイブリダイゼーションにより陽性クローンを選択し、純粋な集団が得られるまで6回の連続的なプラーク精製に供した。次に、代表プラークを増殖して、得られたALVAC組換え体をALVAC−RG(vCP65)と命名した(図9Aおよび図9B参照)。配列分析により、狂犬病G遺伝子がALVACゲノム内に正しく挿入され、その後の変更が生じていないことを確認した。
【0124】
免疫蛍光 成熟狂犬病ウイルス粒子が形成される最終段階においては、糖タンパク質成分はゴルジ体から形質膜に移送され、そこで、細胞膜質および細胞膜の外表面にあるタンパク質本体にカルボキシ末端を延ばしながら蓄積する。ALVAC−RG内で発現された狂犬病糖タンパク質が正しく存在していることを確認するために、ALVACまたはALVAC−RGで感染された初代CEF細胞上で免疫蛍光測定法を実施した。この免疫蛍光法は、既知の手法(Taylor他、1990)に従い、狂犬病Gのモノクローナル抗体を用いて行った。ALVAC−RGを感染させたCEF細胞においては強い表面蛍光が検出されたが、親のALVACには蛍光は認められなかった。
【0125】
免疫沈降 初代CEF細胞、ベロ(Vero)細胞(アフリカミドリザルの腎臓細胞由来の細胞系、ATCC#CCL81)、およびMRC−5細胞(正常なヒト胎児肺臓由来の繊維芽細胞類似の細胞系、ATCC#CCL171)から予め形成した単層に、既知の手法(Taylor他、1990)に従い、放射ラベルした35S−メチオニンの存在下に、10pfu/細胞で、親ウイルスALVACおよび組換えウイルスALVAC−RGを接種した。免疫沈降反応は、狂犬病G特異的モノクローナル抗体を用いて行った。組換えALVAC−RGの場合は、分子量がおよそ67kDa の狂犬病特異的糖タンパク質が効率的に発現していることが検出された。非感染細胞または親ウイルスであるALVACが感染された細胞においては、狂犬病特異的生成物の検出は認められなかった。
【0126】
連続継代培養実験 ALVACを広範囲の非トリ種に適用した研究では、感染の増幅や明白な病気は認められていない(Taylou他、1991b)。しかしながら、親ウイルスおよび組換えウイルスのいずれも非トリ細胞では増殖できないことを確認するため、連続的な継代培養実験を行った。
【0127】
以下の細胞基質に2種類のウイルス、すなわち、ALVACおよびALVAC−RGを接種して10代の連続的な盲検(ブラインド)継代培養を行った。
【0128】
(1) 11日齢の白色レグホーン胚由来の初代ニワトリ繊維芽(CEF)細胞;
(2) ベロ(Vero)細胞−アフリカミドリザルの腎臓細胞由来の無限増殖性細胞
(ATCC#CCL81);および
(3) MRC−5細胞−ヒト胎児の胚組織由来の二倍体細胞系(ATCC#CCL171)。
【0129】
各細胞につき3ヶの60mm培養皿を用い各皿に2×10 ヶの細胞が含有されるようにして、0.1pfu/細胞のm.o.i.で最初の接種を行った。培養皿の1つは、DNA複製の阻害剤であるシトシンアラビノシド(Ara C)40μg/mlの存在下に接種を行った。37℃で1時間の吸着期間の後、接種物を除去し、単層を洗浄して非吸着ウイルスを取り除いた。この時点で、培地の置換を行い、2つの培養皿(サンプルt0およびサンプルt7)には5mlのEMEM+2%NBCSを入れ、また、第3番目の培養皿(サンプルt7A)には40μg/mlのAra Cを含有する5mlのEMEM+2%NBCSを入れた。サンプルt0は−70℃で凍結して残存する導入ウイルスの指標とした。サンプルt7およびサンプルt7Aは37℃で7日間培養し、その後、内容物をハーベストし、間接音波処理により細胞を破砕した。
【0130】
各細胞基質のサンプルt7の1mlを同じ細胞基質の3つの培養皿に稀釈せずに接種し(サンプルt0、t7およびt7Aとする)、さらに、初代CEF細胞の1つの培養皿に接種した。サンプルt0、サンプルt7およびサンプルt7Aは継代用に処理した。CEF細胞への追加接種は、非トリ細胞中に存在し得るようなウイルスに対する高感度検出用の増殖工程に供した。
【0131】
この操作を繰り返して、10代の連続ブラインド継代培養(CEFおよびMRC−5)または8代の連続ブラインド継代培養を行った。サンプルを凍結し、3回解凍して初代CEF単層上で滴定を行うことにより分析した。
【0132】
次に、寒天培地下にCEF単層上でプラーク滴定を行うことによりウイルス収量を測定した。実験結果をまとめて図1および図2に示す。
【0133】
この結果から、親のALVACおよび組換え体のALVAC−RGの両方とも、CEF単層上で複製を持続する能力を有し力価の損失はないことが示されている。ベロ(Vero)細胞においては、ALVACについては第2代後、また、ALVAC−RGについては第1代後にウイルスのレベルは検出レベル以下に低下した。MRC−5においても同様の結果が示され、第1代後にはウイルスが検出されなかった。図1および図2には第4代までの結果しか示していないが継代培養を第9代(Vero)および第10代(MRC−5)まで行ったところ、これらの非トリ細胞においてはいずれのウイルスも検知可能となるように成長適応化していなかった。
【0134】
第1代においては、MRC−5細胞およびVero細胞のt7サンプルには比較的高レベルのウイルスが存在した。しかしながら、このレベルは、t0サンプルおよびウイルスの複製が起こり得ないようにシトシンアラビノシドの存在下に接種を行ったt7Aサンプルにおいて見られるレベルに等しかった。このことは、非トリ細胞において7日目に認められたウイルスレベルは、残存ウイルスを表し新たに複製されたウイルスではないことを示している。
【0135】
分析をさらに高感度にするため、各細胞基質から7日目にハーベストしたものの一部を、許容CEF単層に接種し、細胞変性効果(CPE)が認められた時にハーベストするか、またはCPEが示されない場合は7日目にハーベストした。この実験結果を図3に示す。許容細胞基質による増殖後においも、MRC−5細胞およびVero細胞においては、更に2代の継代でウイルスが検出されるでけであった。これらの結果から、採用した条件下では、Vero細胞またはMRC−5細胞においてはいずれのウイルスも増殖できるように適応化できないことが明らかである。
【0136】
アカゲザルへの接種 HIVに関して血清反応陽性の4匹のアカゲザルに先ずALVAC−RGを接種した(図4)。100 日後、該動物に再接種してブースター効果を調べ、さらに、追加の7匹のアカゲザルにいろいろな投与量で接種を行った。適当な間隔で血液を抜き出し、56℃において30分間の加熱不活性化後、迅速蛍光フォーカム阻止(Rapid Fluorescent Focus Inhibition:RFFI)分析法(Smith 他、1973)により狂犬病ウイルス抗体の存在を血清分析した。
【0137】
チンパンジーへの接種 オトナのオスのチンパンジー2匹(体重範囲50〜65kg)に、vCP65を1×10pfuで筋肉内また皮下接種した。該動物の反応を観察し、また、規則的な間隔で採血を行いRFFIテスト(Smith 他、1973)により抗狂犬病ウイルス抗体の存在を分析した。最初の接種から13週間後、同じ投与量で該動物に再接種した。
【0138】
マウスへの接種 グループ分けしたマウスに、異なるバッチ由来のvCP65をいろいろな希釈度で50〜100 μl接種した。マウスへの接種は肉趾に接種した。14日目に、狂犬病ウイルスのビルレント性CVS株を15〜43マウスLD50で頭蓋内接種することによりマウスのチャレンジを行った。マウスの生存率を監視し、接種から28日目における50%防御投与量(PD50)を求めた。
【0139】
イヌおよびネコへの接種 10匹のビーグル犬(5ヶ月齢)および10匹のネコ(4ヶ月齢)に、ALVAC−RGを6.7 または7.7log10TCID50で皮下接種した。4匹のイヌおよび4匹のネコには接種を行わなかった。接種後14日および28日後にそれらの動物の採血を行い、RFFIテストにより抗狂犬病ウイルス抗体を分析した。6.7log10TCID50のALVAC−RGが投与された動物については、接種後29日目に、NYGS狂犬病ウイルスチャレンジ株の3.7log10(マウスLD50)(ビーグル犬)または4.3log10(マウスLD50)(ネコ)を用いてチャレンジを行った。
【0140】
リスザルへの接種 各グループに4匹のリスザル(Saimiri Sciureus)から成る3グループのリスザルに、3種類のウイルスの1つ、すなわち、(a) ALVAC(カナリアポックス親ウイルス)、(b) ALVAC−RG(狂犬病G糖タンパク質を発現する組換体、または(c) vCP37(ネコ白血病ウイルスのエンベロープ糖タンパク質を発現するカナリアポックス組換え体)を接種した。接種はケタミン麻酔下に実施した。各動物は以下を同時に投与された:(1) 乱刺を行わずに右目の表面に滴注された20μl、(2) 口中に数滴として100 μl、(3) 右腕の外表面の毛をそった皮膚内の2つの注射部位にそれぞれ100 μl;および(4) 右大腿の前部筋肉に100 μl。
【0141】
4匹のサルに各ウイルスを接種し、2匹についてはlog10pfuとして全量5.0 とし、また、他の2匹についてはlog10pfuとして7.0 とした。規則的な間隔で該動物の採血を行い、血清を分析してRFFIテスト(Smith 他、1973)により抗狂犬病ウイルス抗体を調べた。接種に対する該動物の反応を毎日観察した。最初の接種から6ヶ月後、ALVAC−RGを投与された4匹のリスザル、vCP37が当初投与された2匹のリスザルに加えて非投与のリスザル1匹に、ALVAC−RGを6.5log10pfu で皮下接種した。血清を分析して、RFFIテスト(Smith 他、1973)により狂犬病ウイルス中和抗体の存在を調べた。
【0142】
ヒト細胞系へのALVAC−RGの接種 当該ウイルスが複製しない非トリ細胞内で外来遺伝子が効率的に発現されるか否かを判定するため、5種類の細胞系、すなわち、1種類のトリ系および4種類の非トリ系について分析を行い、ウイルス収量、外来狂犬病G遺伝子の発現およびウイルス特異的DNA蓄積を調べた。接種した細胞は次のとおりである。
【0143】
(a) Vero細胞。アフリカミドリザル腎臓細胞。ATCC#CCL81。
【0144】
(b) MRC−5細胞。ヒト胎児肺細胞。ATCC#CCL171 。
【0145】
(c) WISH細胞。ヒト羊膜由来。ATCC#CCL25。
【0146】
(d) Detroit-532 細胞。ヒト包皮由来。ダウン症候群。ATCC#CCL54。
【0147】
(e) 初代CEF細胞。
【0148】
11日齢白色レグホーン胚由来のニワトリ胚繊維芽細胞を陽性対象として用いた。接種は全て、下記のように予め調製した2×10 細胞から成る単層に実施した。
【0149】
A.DNA分析法。
【0150】
各細胞系について3ヶの培養皿を用い、被試験ウイルスを5pfu /細胞で接種し、さらに、各細胞系について1ヶの培養皿を追加し非接種用とした。培養皿の1つについては、40μg/mlのシトシスアラビノシド(Ara C)の存在下に培養を行った。37℃において60分間の吸着期間の後、接種物を除き、単層を2回洗浄して非吸着ウイルスを除去した。次いで、培地(Ara Cを含有するもの、または含有しないもの)の交換を行った。培養皿の1つ(Ara Cを含有しないもの)からは、時間ゼロにおけるサンプルとして細胞をハーベストした。残りの皿は、37℃で72時間保持した後、細胞をハーベストしてDNA蓄積の分析に用いた。2×10 細胞から成る各サンプルを40mMのEDTAを含有する0.5ml のリン酸緩衝塩溶液(PBS)に再懸濁して37℃で5分間保温した。42℃で予め加温し120 mMのEDTAを含有する等体積の1.5 %アガロースを細胞懸濁液に添加してゆっくり混合した。該懸濁液をアガロースプラグモールドに移し、少なくとも15分間放置して硬化させた。次いで、アガロースプラグを取り除き、該プラグを覆うような体積の溶解緩衝液(1%のサルコシル、100 μg/mlのプロティナーゼK10mMのトリスHCl pH7.5 、200ml のEDTA)内で50℃において12〜16時間保持した。次に、該溶解緩衝液を5.0ml の無菌0.5 ×TBE(44.5mlのトリス−ボロン酸、44.5mMのボロン酸、0.5 mMのEDTA)と置換して、TBE緩衝液を3回変えながら4℃において6時間平衡化した。
【0151】
パルス電場式電気泳動装置を用いて細胞RNAおよびDNAからプラグ内にあるウイルスDNAを分別した。電気泳動は、ランプ50〜90秒とし0.5 ×TBE内で15℃において、180vで20時間実施した。ラムダDNAの分子量を標準としてDNAを走行させた。電気泳動後、エチジウムブロミドで染色することによりウイルスDNAのバンドを可視化した。次にDNAをニトロセルロース膜に移し、精製ALVACゲノムDNAから調製した放射ラベル化プローブを用いて分析した。
【0152】
B.ウイルス収量の推定
培養皿への接種は上記と同じように行った。但し、感染多重度は0.1pfu/細胞とした。感染72時間後、凍結および解凍サイクルを3回連続的に実施することにより細胞を溶解した。CEF単層上でプラーク滴定を行うことによりウイルス収量を調べた。
【0153】
C.狂犬病G遺伝子の発現の分析
組換えウイルスまたは親ウイルスを10pfu /細胞の多重度で培養皿に接種するとともに、追加の皿を非感染ウイルス対照用とした。1時間の吸着期間の後、培地を除去し、無メチオニン培地と置換した。30分後、この培地を、25μCi/ml の35S−メチオニンを含有する無メチオニン培地と置換した。感染細胞を一晩かけて(約16時間)ラベル化し、次に、A緩衝液を添加することにより溶解した。狂犬病G特異的モノクローナル抗体を用い既知の手法に従い(Taylor他、1990)、免疫沈降を実施した。
【0154】
結果:ウイルス収量の推定
細胞当たり0.1pfuで接種した72時間後に行ったウイルス収量を求める滴定分析の結果を表5に示す。この結果が示すように、トリ細胞においては強い感染が生じ得るが、4種類の非トリ細胞系においてはこの方法ではウイルス収量の増加を検知することはできない。
【0155】
ウイルスDNAの蓄積の分析 非トリ細胞におけるウイルス複製の阻害がDNA複数の前または後に生じたか否かということを判定するために、細胞リゼイト(溶菌液)からのDNAを電気泳動法により分画し、ニトロセルロースに移し、ウイルス特異的DNAをプローブ分析した。非感染CEF細胞、時間ゼロにおけるALVAC−RG感染細胞、接種72時間後のALVAC−RG感染CEF細胞および接種72時間後のALVAC−RG感染CEF細胞(40μg/mlのシトシンアラビノシド存在下)由来のDNAはいずれもある程度のバックグランド活性を示したが、これは、おそらく、放射ラベル化ALVAC DNAプローブの調製に際して混入したCEF細胞DNAに因るものと思われる。しかしながら、接種72時間後のALVAC−RG感染CEF細胞は、約350kbpの領域にALVAC特異的ウイルスDNAの蓄積を表す強いバンドを示した。DNA合成阻害剤であるシトシンアラビノシドの存在下に培養物を培養してもそのようなバンドは検出されなかった。
【0156】
Vero細胞で得られた相応するサンプルについては、時間ゼロにおけるALVAC−RG感染Vero細胞において約350kbpにおいて非常に弱いバンドが示された。このレベルは残存ウイルスを表すものであった。接種72時間後にはバンド強さが増加されており、このことは、Vero細胞においてはある程度のレベルのウイルス特異的DNA複製が起こったが、ウイルス子孫の増加を生じさせはしなかったということを示唆している。MRC−5細胞で得られた相応するサンプルにおいては、これらの条件下でウイルス特異的DNAの蓄積は検出されなかった。この実験を広げ、追加のヒト細胞系、すなわちWISH細胞およびDetroit-532細胞についても実施した。ALVAC感染CEF細胞を陽性対照とした。ALVAC−RGが接種されたWISH細胞およびDetroit 細胞のいずれにおいてもウイルス特異的DNA蓄積は検出されなかった。なお、この方法の検出限界は完全には確認されておらず、ウイルスDNA蓄積は起こっているのかも知れないが、該方法の感度よりも低いレベルであろう。H−チミジンを導入することによりウイルスDNA複製が測定されるようにした他の実験は、Vero細胞およびMRC−5細胞に関して得られた上記の結果を支持している。
【0157】
狂犬病遺伝子の発現分析 ウイルス遺伝子、特に挿入された外来遺伝子の発現が、ウイルスDNA複製の非存在下においてもヒト細胞系で起こっているか否かを判定するために、ALVACおよびALVAC−RGを感染させたトリ系細胞および非トリ系細胞由来の35S−メチオニンラベル化リゼイトについて免疫沈降実験を実施した。狂犬病G特異的モノクローナル抗体を用いる免疫沈降実験の結果、ALVAC−RGを感染させたCEF、Vero、MRC−5、WISHおよびDetroit の各細胞において67kDaの糖タンパク質から成る特異的免疫沈降が認められた。非感染細胞および親ウイルスを感染させた細胞のリゼイトのいずれにおいても、そのような特異的狂犬病遺伝子産物は検出されなかった。
【0158】
この実験結果が示唆することは、分析したヒト細胞系においては、ALVAC−RG組換え体はH6初期/後期ワクシニアウイルスプロモータの転写制限下に感染を開始し外来遺伝子産物を発現させることはできるが、DNA複製を介する複製は進行せず、また、検知され得るようなウイルス子孫は産生しなかったということである。Vero細胞においては、ある程度のレベルのALVAC−RG特異的DNA複製は認められたが、この方法ではウイルス子孫は検出されなかった。これらの結果から、分析したヒト細胞系においてはウイルス複製の阻止はDNA複製の開始前に起こるが、Vero細胞においてはウイルスDNA複製の開始後に該阻止が起こるのであろう。
【0159】
ALVAC−RG内で発現された狂犬病糖タンパク質が免疫原性を有するか否かを判定するために、多くの動物種に該組換え体を接種してテストした。現行の狂犬病ワクチンの効力はマウスモデル系で評価されている。そこで、ALVAC−RGを用いて同様のテストを行った。感染力価が6.7 から8.4 (log10 (TCID50/ml))の範囲にある9種類のウイルス調製物(種ウイルスを10回組織培養による継代培養して得られたワクチンバッチ(J) を含む)を連続的に稀釈し、50〜100 μlの稀釈液を4週齢から6週齢のマウスの肉趾に接種した。14日後に、マウス LD50(対照用マウスグループにおける致死滴定量から求めた)が15から43の狂犬病ウイルスCVS株300 μlを頭蓋内投与してマウスをチャレンジした。PD50(50%防御投与量)として表す効力をチャレンジから14日目に計算した。実験結果を表6に示す。この結果から、ALVAC−RGは狂犬病ウイルスのチャレンジに対して恒常的にマウスを防御することができ、PD50値は、3.33から4.56の範囲にあり平均値3.73(STD0.48)であることが示されている。追加実験として、6.0log10TCIDのALVAC−RGを含有するウイルス50μlまたは等体積の非感染細胞懸濁液をオスのマウスに頭蓋内接種した。接種から1日、3日および6日目にマウスを殺し、その脳を取り出し、固定化し薄片に切断した。組織病理学検査によれば、マウス内にALVAC−RGの神経毒性の証拠は認められなかった。
【0160】
イヌおよびネコに対するALVAC−RGの安全性および効力を評価するため、14ヶ月齢および5ヶ月齢のビーグル犬、ならびに14ヶ月齢および4ヶ月齢のネコから成るグループの分析を行った。該イヌおよびネコのそれぞれについて4匹にはワクチン接種を行わなかった。該動物の5匹には6.7 log10 TCID50で皮下投与した。動物の採血を行い、抗狂犬病抗体の分析を行った。非投与または6.7log10TCIDのALVAC−RGを投与した動物に対しては、接種から29日目に、NYGS狂犬病ウイルスチャレンジ株の3.7log10(マウスLD50)(ビーグル犬、側部筋に)または4.3log10(マウスLD50)(ネコ、頸部に)を用いてチャレンジを行った。実験結果を表7に示す。
【0161】
ネコおよびイヌのいずれにおいて且ついずれの接種ウイルス投与量においても接種に対する副作用は認められなかった。6.7log10TCID50で免疫された5匹のイヌのうち4匹は、ワクチン接種14日目に抗体力価を示し、29日目には全てのイヌが抗体力価を有した。全てのイヌが、4匹の対照用イヌの3匹を殺したようなチャレンジに対して防御された。ネコの場合、6.7log10TCID50で投与された5匹のネコのうち、3匹が14日目に特異的抗体力価を有し、そして、29日目には全てが陽性となったが、平均抗体力価は低く2.9 IUであった。対照用ネコの全てを殺したようなチャレンジに対して、5匹のネコのうち3匹が生存した。7.7log10TCID50で免疫したネコは全て14日目に抗体力価を示し、29日目には幾何平均力価は8.1 国際単位(IU)であった。
【0162】
ALVAC、ALVAC−RGおよび非関連カナリアポックスウイルス組換え体の接種に対するリスザル(Saimiri Sciureus)の免疫応答を試験した。幾つかのグループに分けたリスザルに上述したように接種を行い、血清を分析して狂犬病特異的抗体の有無を調べた。皮内投与に対する軽い典型的な皮膚反応を除いては、いずれのサルにおいても副作用は認められなかった。投与から2日目および4日目だけは、皮内接種後の皮膚損傷部から少量の残留ウイルスを単離した。7日目以降は全て陰性であった。筋注に対する局部反応は認められなかった。ALVAC−RGが接種された4匹のサルは全て、RFFIテスト測定すると、抗狂犬病血清中和抗体を産生してた。最初の接種から約6ヶ月後、全てのサルおよび追加の非接種サル1匹に、左側大腿部の外表面に6.5log10TCID50のALVAC−RGを皮下経路で再接種した。血清を分析して抗狂犬病抗体の存在を調べた。結果を表8に示す。
【0163】
狂犬病ウイルス観感染の匹のサルのうち4匹は、ALVAC−RGの接種7日後に血清学的応答を示した。接種11日後には5匹のサル全てが検出可能な抗体を有した。予め狂犬病糖タンパク質に感染された4匹のサルについては、ワクチン接種から3日から7日の間に血清中和力価に有意の増加が認められた。この結果から、リスザルにALVAC−RGをワクチン接種すると副作用は生じず、一次中和抗体応答が誘起され得ることが示された。ALVACに、または非関連外来遺伝子を発現するカナリアポックス組換え体に予め感染していても、再ワクチン接種に際して、抗狂犬病免疫の誘発を妨げない。
【0164】
HIV−2に関して血清反応陽性のアカゲザルにおいてALVAC−RG接種に対する免疫応答を調べた。該動物に上述のように接種を行い、RFFIテストにより抗狂犬病血清中和抗体の有無を分析した。表9に結果を示すように、皮下接種されたHIV−2陽性アカゲザルは、1回の接種から11日目までに抗狂犬病抗体を産生した。最初の接種から約3ヶ月後に与えたブースター接種後に既往応答が検出された。該組換え体が経口投与された動物には何らかの応答も検出されなかった。更に、一連の6匹のアカゲザルに投与量を減少させながらALVAC−RGを筋肉内または皮下投与した。接種された6匹のうち5匹がワクチン接種から14日目までに応答を示したが抗体力価に有意の差は無かった。
【0165】
以前にHIV感染した2匹のチンパンジーに7.0log10pfu のALVAC−RGを皮下または筋肉内接種した。該接種から3ヶ月後に両チンパンジーに同じ方法で再ワクチン接種した。結果を表10に示す。
【0166】
筋肉内または皮下接種のいずれにおいても接種に対する副作用は見られなかった。いずれのチンパンジーも初回接種から14日目までに応答し、そして、再接種後に応答の強い増強が検出された。
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】


【表5】

【表6】

【表7】

【表8】

【表9】

【表10】

【実施例9】
【0167】
実施例9狂犬病糖タンパク質を発現するカナリアポックス
(ALVAC−RG:vCP65)を用いるヒトの免疫化
実施例9および図9Aおよび図9Bで記述したようにALBAC−RG(vCP65)を調製した。スケールアップおよびワクチン生産のため、SPF卵由来の初代CEFにおいてALVAC−RG(vCP)を増殖させた。細胞を0.1 の多重度で感染させ、37℃において3日間培養した。
【0168】
該感染細胞から成る無血清培地で超音波破砕することによりワクチンウイルスの懸濁液を得た。次に、細胞破片を遠心分離とろ過により取り除いた。得られた清澄な懸濁液に凍結乾燥安定剤(アミノ酸の混合物)を加え、単一投与用バイアル内に分散させ、凍結乾燥した。凍結乾燥の前に、無血清培地および凍結乾燥剤の混合物に入れたウイルス懸濁液を連続的に10倍稀釈することにより力価が徐々に低下した3種類のバッチを調製した。
【0169】
細胞基質、培地およびウイルス種株ならびに最終生成物には品質管理試験を行った。望ましくない特徴は見出されなかった。
【0170】
前臨床データ インビトロ試験によれば、VERO細胞またはMRC−5細胞はALVAC−RG(vCP65)の増殖を支持せず、8回の連続継代培養(VEROの場合)および10回の連続継代培養(MRCの場合)によって、これらの非トリ細胞系において当該ウイルスが検出され得るように増殖適応化されないことが示された。ALVAC−RG(vCP65)が感染または接種されたヒト細胞系(MRC−5、WISH、Detroit-532 、HEL、HNKまたはEBV形質転換リンパ芽球細胞)の分析では、ウイルス特異的DNAの蓄積は認められず、これらの細胞においてはDNA合成の前に複製の阻害が起こることが示唆された。しかしながら、重要なことには、試験された全ての細胞系において狂犬病ウイルス糖タンパク質の発現から、カナリアポックス複製サイクルにおける不稔過程はウイルスDNA複製に先行して起こることが示唆された。
【0171】
一連の動物実験においてALVAC−RG(vCP65)の安全性と効力が明らかにされた。多数の動物種、例えばカナリア、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、実験用げっ歯類(マウスの乳獣および成獣)、ハムスター、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、リスザル、アカゲザルおよびチンパンジーに、10 から10pfuの投与量範囲に接種が行われた。各種の投与経路を検討し、最も一般的には皮下、筋肉内および皮下投与であったが、経口(サル類およびマウス)や頭蓋内投与(マウス)も採用した。
【0172】
カナリアにおいては、ALVAC−RG(vCP65)は、乱刺部位に「癒着」損傷を引き起こしたが、疾病や死亡の徴候はなかった。ウサギへの皮内接種は典型的なポックスウイルス接種反応を示したが、この反応が拡がることはなく、7日から10日で治癒した。いずれの動物においてもカナリアポックスに因る副作用は無かった。げっ歯類、イヌ、ネコおよび霊長動物にALVAC−RG(vCP)を接種した後、迅速蛍光フォーカス阻害テスト(RFFIT)によって測定すると、抗狂犬病抗体が産生していることにより免疫原性があることが明らかにされた。また、ALVAC−RG(vCP65)で免疫したマウス、イヌ、およびネコに狂犬病ウイルスをチャレンジすることにより防御機能が発現することも明らかにされた。
【0173】
ボランティア 狂犬病免疫化の前略のない年齢20〜45才の25人の健康な成人を登録した。病歴調査、身体検査および血液の化学分析を行うことにより、これらのボランティアの健康状態を調べた。妊娠、アレルギー症、あらゆる種類の免疫低下症、慢性的な衰弱症、がん、過去3ヶ月以内の免疫グロブリンの投与、およびヒト免疫不全症ウイルス(HIV)またはB型肝炎表面抗原に対する血清反応陽性を有する者は排除した。
【0174】
試験計画 標準的なヒトジプロイド細胞狂犬病ワクチン(HDC)(フランスLyonのPasteur Merieux Serum & Vaccine 製)または対象ワクチンALVAC−RG(vCP65)のいずれかが投与されるようにボランティアを無作為に振り分けた。
【0175】
この試験は投与量(用量)漸増試験とした。3つのバッチ由来の試験対象ワクチンALVAC−RG(vCP65)を3グループのボランティア(グループA,BおよびC)に2週間間隔で逐次的に使用した。それらの3つのバッチの濃度は、それぞれ、1回の投与当たり、103.5 、104.5 および105.5 TCID50(Tissue Culture Infectious Dose : 50 %組織培養感染量)とした。
【0176】
各ボランティアには、2週間間隔で三角筋域に同一のワクチンを2回皮下投与(注射)した。最初の投与時にはボランティアには投与ワクチンの種類を知らせないが、研究者には分かるようにした。
【0177】
第2回目の投与時に即時過敏症を可及的に少なくするため、実験対象ワクチンの中間用量が投与されるように割り当てられたグループBのボランティアには、1時間前に低用量を投与し、また、高用量グループ(グループC)のボランティアには1時間間隔で低用量および中間用量を逐次投与した。
【0178】
6ヶ月後、最も高用量のALVAC−RG(vCP65)の被投与者(グループC)およびHDCワクチンの被投与者に第3回目のワクチン投与を行った。次に、該被投与者に無作為に分けて以前と同一のワクチンまたは別のもう一方のワクチンを投与した。このようにして、以下の免疫化スケジュールに対応する4つのグループを構成した:1.HDC、HDC−HDC;2.HDC、HDC−ALVAC−RG(vCP65);3.ALVAC−RG(vCP65)、ALVAC−RG(vCP65)−HDC;4.ALVAC−RG(vCP65)、ALVAC−RG(vCP65)、ALVAC−RG(vCP65)。
【0179】
副作用の観察 すべての被験者を投与1時間後に観察し、さらに次の5日間にわたり毎日検査した。次の3週間、局部反応および全身反応について尋ね、1週間に2度、電話により質問した。
【0180】
実験室における分析 登録前、ならびに各投与後2日目、4日目および6日目に血液標本を採取した。実施した分析には、血球数、肝臓酵素およびクレアチンキナーゼの分析を含む。
【0181】
抗体分析 最初の投与の7日前ならびに実験開始から7日、28日、35日、56日、173 日、187 日および208 日目に抗体分析を行った。
【0182】
中和抗体のレベルの測定には、迅速蛍光フォーカス阻害テスト(RFIIT)(Smith 他、1973)を採用した。カナリアポックス抗体は、直接ELISAにより測定した。これには、抗原、すなわち、0.1 %Triton×100 で破砕した精製カナリアポックスウイルスの懸濁液をマイクロプレートに被覆した。血清の固定化稀釈液を室温下で2時間反応させ、ペルオキダーゼでラベルした抗ヒトIgGヤギ抗体を用いて反応性抗体を出現させた。結果を490nm における光学密度として表した。
【0183】
分析 25名を被験者として試験を行った。男性が10名、女性が15名であり、平均年齢は31.9才(21才〜48才)であった。3名を除く全てが、以前に種痘のワクチン接種を受けていた。残りの3名の被験者は瘢痕およびワクチン接種の前歴がなかった。3名の被験者に試験対象ワクチンの低用量のそれぞれ(103.5 および104.5 TCID50)を投与し、9名の被験者には105.5 TCID50を投与し、さらに10名の被験者にHDCワクチンを投与した。
【0184】
安全性(表11) 初回免疫に際して、投与から24時間以内に37.7℃より高い熱を示したのは、HDCを投与された者の1名(37.8℃)および105.5 TCID50のvCP65を投与された者の1名(38℃)であった。ワクチン接種によるその他の全身性反応はいずれの被投与者にも見られなかった。
【0185】
皮下接種によるHDCワクチンの被投与者の9/10に、また、103.5 、104.5 および105.5 TCID50のvCP65被投与者には、それぞれ0/3 、1/3 および9/9 に局部的反応が見られた。
【0186】
痛覚が最も一般的な症状であったが、常に軽いものであった。他の局所的症状として発赤および硬結があったが、これらも軽く且つ一過性のものであった。すべての症状は一般に24時間以内におさまり、72時間以上持続することはなかった。
【0187】
血球数、肝臓酵素またはクレアチンキナーゼの値に有意の変化はなかった。
【0188】
免疫応答:狂犬病に対する中和抗体(表12) 最初の投与から28日後、HDC被投与者のすべてが(感染)防御力価(>0.5IU/ml)を有していた。これに対して、ALVAC−RG(vCP65)の被投与者においては、この防御力価に達したのは、グループAおよびB(103.5 および104.5 TCID50)の被投与者にはなく、またグループでは2/9 のみであった。
【0189】
56日目(すなわち、2回目接種(二次接種)から28日目)に、ALVAC−RG(vCP65)ワクチン被投与者においては、グループAでは0/3 、グループBでは2/3 およびグループCでは9/9 が防御力価を取得し、また、HDC被投与者においては10名の全てにおいて、この防御力価が持続されていた。
【0190】
56日目における幾何平均力価は、グループA、B、CおよびHDCにおいて、それぞれ、0.05、0.47、4.4 および11.5IU/ml であった。
【0191】
180 日目には、すべての被験者において狂犬病抗体力価はかなり低下したが、HCD被投与者のうち5/10、また、ALVAC−RG(vCP65)被投与者のうち5/9 においては、最低防御力価0.5IU/ml以上に持続されていた。HCDグループおよびグループCにおける幾何平均力価は、それぞれ、0.51および0.45IU/ mlであった。
【0192】
カナリアポックスウイルスに対する抗体(表13) 被投与者に高力価カナリアとの接触の前歴が無いにも拘わらず、0.22から1.23O.D.の広範囲にわたる前免疫(pre-immune)力価が認められた。前免疫力価とその後の第2回目の投与による力価との差の2倍以上増加した場合に血清変換(seroconversion)が起こったと定義すれば、グループBの被験者の1/3 、グループCの被験者の9/9 に血清変換が起こったが、グループAまたはHDCの被験者には血清変換はなかった。
【0193】
ブースター投与 6ヶ月後のブースター投与(追加接種)時にはワクチンは充分に耐性になった。HDCブースター被投与者の2/9 、また、ALVAC−RG(vCP65)ブースター被投与者の1/10に発熱が見られた。局部反応は、HDCブースター被投与者の5/9 、また、ALVAC−RG(vCP65)ブースター被投与者の6/10に認めれたた。
【0194】
観察結果 図11A〜図11Dは、狂犬病中和抗体力価(RFFITによる。単位IU/ml)を示すグラフであり、ボランティアに対するHDCまたはvCP65(10 5.5TCID)のブースター効果を示している(該ボランティアには以前に同一のワクチンまたはもう一方のワクチンを接種)。ワクチン接種は0日、28日および180 日目に実施した。抗体力価の測定は、0日、7日、28日、35日、56日、173 日、187 日および208 日目に行った。
【0195】
図11A〜図11Bに示すように、ブースター投与するとどの免疫スケジュールでも全ての被験者に狂犬病抗体力価の上昇をもたらした。しかしながら、ALVAC−RG(vCP65)ブースターは、全体的に、HDCブースターよりも低い免疫応答を誘発しており、また、ALVAC−RG(vCP65)、ALVAC−RG(vCP65)−ALVAC−RG(vCP65)の順序から成るグループは、他の3つのグループよりも実質的に力価が低くなっていた。さらに、ALVAC−RG(vCP65)をブースター投与すると、以前にHDCワクチンが投与された被験者の3/5 に、また、以前にALVAC−RG(vCP65)で免疫化された被験者の全てに、カナリアポックス抗体力価の上昇をもたらした。
【0196】
一般的に、vCP65の投与による局所的副作用からウイルスの局所的複製が起こっていることは示されなかった。特に、ワクチン接種後に見られるような皮膚障害はなかった。このように見かけ上はウイルスの複製が無いにも拘わらず、該投与により、カナリアポックスベクターおよび発現された狂犬病糖タンパク質の双方に対する有意量の抗体がボランティアに産生された。
【0197】
狂犬病中和抗体の分析は、迅速蛍光フォーカス阻害テスト(RFFIT)により実施したが、この方法は、マウスにおける血清中和テストと優れた相関性を有することで知られている。105.5 TCID50の被投与者9名のうち5名は、初回投与後の応答レベルが低かった。最も用量(投与量)の高い被投与者全員、また、中間用量の被投与者も3名のうち2名において、2回目の投与後に防御力価を有する狂犬病抗体が得られた。この試験においては、両ワクチンとも、生ワクチンについては、一般的に推奨されているが不活性HDCワクチンには勧められていない皮下投与により接種した。この投与経路を選択したのは、投入部位(注射部位)を入念に調べることができる点において最良であるからであるが、このために、HDC被投与者における抗体の出現が遅くなったことも考えられる:事実、HDC被投与者のいずれも7日目には抗体上昇を示さず、一方、HDCワクチン筋肉内投与する多くの試験においては、被験者の大部分に抗体上昇が認められている(Klietmann 他、国際赤十字(ジュネーブ)、1981;Kuwert他、国際赤十字(ジュネーブ)、1981)。しかしながら、本発明は必ずしも皮下投与に限定されるものではない。
【0198】
対象ワクチンにおける狂犬病中和抗体のGMT(幾何平均力価:geometric mean fiters)は、HDC対象ワクチンよりも低かったが、防御に必要な最低力価を充分に上まわるものであった。3種類の投与量を採用した本試験において得られた明瞭な用量依存性応答が示すように、投与量が高い程、強い応答を誘発する。当業者であれば本明細書の開示から、所与の患者に至適な投与量を選択できることは明らかであろう。
【0199】
本実施例の他の重要な結果は、抗体応答を増強(ブースト)する能力である。免疫スケジュールの如何に拘わらず6ヶ月目の投与後には全ての被験者に狂犬病抗体力価の上昇が見られており、このことは、カナリアポックスウイルスまたは狂犬病糖タンパク質により誘発された既存の免疫は、当該組換えワクチンまたは従来からのHDC狂犬病ワクチンによるブースター(追加接種)に対する阻害作用を有しないということを示している。このことは、ワクシニア組換え体をヒトに用いた場合、既存の免疫によって免疫応答が阻害されるという従来の知見(Cooney他;Etinger 他)とは対照的である。
【0200】
かくして、本実施例が明示するように、非複製性ポックスウイルスはヒトにおいて免疫化ベクターとして機能することができ、その際、複製性の作用物質が免疫応答に与えるような全ての利点を有しながら、完全に許容性のウイルスが引き起こすような安全上の問題はない。そして、本実施例および他の実施例の教示から、狂犬病ウイルスまたはそのコードもしくは発現産物を含有する組換え体を投与または免疫接種するに際して、至適な投与量(用量)または投与方式や投与経路を選択することは、インビトロ発現法とともに当業者には明らかであろう。
【表11】

【表12】

【表13】

【実施例10】
【0201】
実施例10ALVACおよびNYVACと各種のワクシニアウイルス株
とのLD50の比較
マウス 異系交配したオスのスイス・ウェブスター(Swiss Webster)マウスをTaconic Farms (米国ニューヨーク州Germantown)から購入し、3週齢(「標準」マウス)になって使用に供されるまで、マウス飼料と水を任意に(adlibitum)に与えて飼育した。異系交配したオスとメスのスイス・ウェブスター新生マウスはTaconic Faums によって実施された計画妊娠に従って入手した。新生マウスは全て出産から2日以内に引き渡されたものである。
【0202】
ウイルス ALVACは、カナリアポックスウイルスの集団をプラーク精製し、初代ニワトリ胚繊維芽細胞(CEF)内で調製されたものである。ショ糖密度勾配遠心により精製した後、CEF細胞内のALVACのプラーク形成単位を測定した。ワクシニアウイルスのWR(L)変異株はWRの大プラーク表現型を選択することによって得られたものである(Panicali他、1981)。ワクシニアウイルスのWyeth ワクチン株(New York State Board of Health)はPharmaceuticals Calf Lymph Type vaccine Dryvaxから管理番号302001Bとして入手したものである。ワクシニアウイルスのCopenhagen株VC−2はフランスのInstitute Merieux から入手した。ワクシニアウイルスのNYVAC株はCopenhagen株VC−2から誘導されたものである。Wyeth株をのぞき、これらの株は全て、アフリカミドリザルの腎臓由来のVero細胞で培養し、ショ糖密度勾配遠心法により精製し、そしてVero細胞上のプラーク形成単位を測定した。Wyeth株はCEF細胞内で培養し、CEF細胞内のプラーク形成単位を測定した。
【0203】
接種 各グループ10匹から成る標準マウスにウイルス稀釈液の1つの0.05mlを頭蓋内(ic)接種した。ウイルス稀釈液は保存ウイルス液を連続的に10倍稀釈することによって調製した。場合によっては、保存ウイルス液を稀釈せずに接種した。
【0204】
各グループ10匹から成る新生マウス(1日齢または2日齢)にも標準マウスと同様にic接種した。但し、接種量は0.03mlとして使用した。
【0205】
すべてのマウスについて、毎日、接種から14日間(新生マウスの場合)または21日間(標準マウスの場合)にわたって死亡率を観察した。接種の翌朝に死亡したマウスは、外傷による死亡の可能性があるので排除した。
【0206】
試験対象個体数の50%を死亡させるのに要する致死量(LD50)は、ReedおよびMuenchの比例法に従って求めた。
【0207】
若い異系交配標準マウスにおけるic投与によるALVACおよびNYVACと各種のワクシニアウイルス株とのLD50の比較 若い標準マウスにおいては、NYVACおよびALVACのビルレンス(毒力)は、試験した他のワクシニアウイルス株よりも数桁低かった(表14)。NYVACおよびALVACは、Wyeth 株よりも3,000 倍以上平常マウスにおけるビルレンスが低く;親株であるVC−2株よりも12,500倍以上ビルレンスが低く;そして、WR(L)変異株よりも63,000,000倍以上ビルレンスが低いことが見出された。これらの結果から、NYVACは他のワクシニアウイルスよりも高度に弱毒化されており、また、ALVACは頭蓋内投与された場合、若いマウスには一般に非ビルレンス性であると考えられる。但し、両者ともきわめて高投与量の場合(ALVACを3.85×10PFU、NYVACを3×10PFU)、未だ不明の機序により、この投与経路によりマウスの死亡をもたらすことがある。
【0208】
異系交配新生マウスにおけるic投与によるALVACおよびNYVACと各種のワクシニア株とのLD50の比較 新生マウスにおける5種類のポックスウイルス株の相対的ビルレンスを頭蓋内(ic)チャレンジモデル系における滴定によって調べた(表15)。LD50の値が示したところによれば、ALVACは、ワクシニアウイルスのWyeth 株よりも100,000 倍以上ビルレンスが低く;ワクシニアウイルスのCopenhagenVC−2株よりも200,000 倍以上ビルレンスが低く;そして、ワクシニアウイルスのWR(L)変異株よりも25,000,000倍以上ビルレンスが低い。但し、試験した最高投与量(6.3 ×10PFU)においては、100 %死亡率となった。6.3 ×10PFUでは33.3%の死亡率が認められた。最高投与量グループ(約6.3 LD50)の平均生存時間(MST)が6.7 ±1.5 日であることから、死因は(未だはっきりしないが)おそらく毒性または外傷性によるものではないであろう。チャレンジ投与量5LD50におけるWR(L)と比較すると、ALVACがチャレンジされたマウスのMSTは有意に長いものであった(P=0.001)。
【0209】
NYVACと比較すると、Wyeth は15,000倍以上ビルレンスが高く;VC−2は35,000倍以上ビルレンスが高く;そして、WR(L)は3,000,000 倍以上ビルレンスが高いことが見出された。ALVACの場合と同様に、NYVACの投与量が高くなる(6×10PFUおよび6×10PFU)と、100 %死亡率となった。しかしながら、そのような最高用量(380 LD50に相応)でチャレンジされたマウスのMSTは僅か2日(2日目に9匹死亡、4日目に1匹死亡)であった。これに対して、最高用量(500 LD50に等しい)のWR(L)でチャレンジされたマウスは全て4日目まで生存した。
【表14】

【表15】

【実施例11】
【0210】
実施例11.−NYVAC(vP866)およびNYVA−RG(vP879)
の評価
免疫沈降 トリ細胞または非トリ細胞から成り予め形成した単層に親ウイルスであるNYVAC(vP866)ウイルスまたはNYVA−RG(vP879)ウイルスを10pfu /細胞接種した。この接種は2%の透析したウシ胎児血清を添加した無メチオニンEMEM内に実施した。1時間保温した後、接種物を除き、培地を20μCi/ml の35S−メチオニンを含有するEMEM(無メチオニン)と置換した。一晩、約16時間培養した後、緩衝液A(1%のNonidet P-40、10mMトリス(pH7.4)、150mM のNaCl、1mMのEDTA、0.01%のアジ化ナトリウム、アプロチニン500 単位/ml、および0.02%のフェニル・メチル・スルホニル・フルオリド)を添加して細胞を溶解した。免疫沈降には、狂犬病糖タンパク質特異的モノクローナル抗体24−3F10(入手先:米国ニューヨーク州AlbanyのGriffith Laboratories, New York State Department of HealthのC. Trinarchi博士)およびラットの抗マウスコンジュゲート(入手先:Boehringer Mannheim Corporation,カタログ番号605-500)を使用した。支持マトリックスとしてプロテインAセファロースCL−48(入手先:米国ニュージャージー州PiscatawayのPharmacia LKB Biotechnology 社)を用いた。10%ポリアクリルアミドゲル上で免疫沈降物を分画した(Dreyfuss 他、1984)。ゲルを固定化し、蛍光写真に供するため1MのNa−サリシレートで1時間処理し、Kodak のXAR−2フィルムに露光して免疫沈降したタンパク質種を現像した。
【0211】
動物源 ニュージーランド(New zealand)白色ラビットをHare-Marland(米国ニュージャージー州Hewitt)から入手した。3週齢のオスの異系交配スイス・ウェブスター(Swiss Webster)マウス、計画妊娠しているメスの異系交配スイス・ウェブスターマウス、および4週齢のスイス・ウェブスターヌードマウス(nunu) Taconic Farms社(米国ニューヨーク州Germantown)から入手した。これらの動物は全てNIHのガイドラインに従って飼育した。動物のプロトコールは全てIACUCによって承認されたものである。必要と考えられた場合には、明らかに致命的な疾病を有しているマウスは安楽死させた。
【0212】
ウサギにおける障害評価 2匹のウサギのそれぞれに、10 、 10 、 10 、 10 もしくは10pfuの各被験ウイルスを含有するPBSまたはPBS単独0.1ml を複数部位に皮内接種した。4日目から障害が消散するまでウサギを毎日観察した。硬結および潰瘍形成を測定し記録した。
【0213】
接種部位からのウイルス回収 1匹のウサギに、10 、 10 もしくは10pfuの各試験ウイルスを含有するPBSまたはPBS単独0.1ml を複数の部位に皮内接種した。11日目に、ウサギを安楽死させ、各接種部位から採取した皮膚のバイオプシー標本を機械的破砕および間接音波処理により無菌的に調製してウイルスを回収した。CEF単層上のプラーク滴定により感染ウイルスを分析した。
【0214】
マウス内のビルレンス 各グループ10匹から成るマウス、または5匹から成るヌードマウスに、0.5ml の無菌PBSに溶かしたウイルスの数倍稀釈液の1つをip接種した。実施例11も参照。
【0215】
シクロホスホアミド(CY)処理 −2日目に4mg(0.02ml)のCY(SIGMA製)をマウスにip注入した後、0日目にウイルス注入を行った。ウイルス注入後、次のようにマウスにCYをip注入した:1日目に4mg;4日、7日および11日目に2mg;14日、18日、21日、25日および28日目に3mg。Coulter 計数装置を用い11日目に白血球を計数することにより免疫抑制を間接観察した。平均白血球数は、非処理マウス(n=4)については13,500白血球/μl、また、CY処理した対照マウスについては4,220白血球/μlであった。
【0216】
LD50の計算 ReedおよびMuech による比例法(ReedおよびMuench, 1938)により、50%死亡率をもたらすのに要する致死量(LD50)を求めた。
【0217】
マウス内のNYVAC−RGの効力試験 4週齢から6週齢のマウスの肉趾に、VV−RG(Kieny 他、1984)、ALVAC−RG(Taylor他、1991b)、またはNYVAC−RGのいずれかの一定範囲稀釈液(50%組織培養感染料(TCID50)として2.8 〜8.0)の50〜100 μlを接種した。各グループは8匹のマウスから構成した。ワクチン接種後14日目において、狂犬病ウイルスCVS株(0.03ml)の15LD50を頭蓋内接種することによりマウスへのチャレンジを行った。28日目に生存マウスを数え、50%防御投与量(PD50)を求めた。
【0218】
NYVAC(vP866)の誘導 ワクシニアウイルスのNYVAC株は、Copenhagenワクチン株をプラーククローニングして得られたVC−2から調製されたものである。VC−2からNYVACを調製するためには、本明細書において既述したような一連の操作を行って、18ヶのワクシニアのORF(オープンリーディングフレーム)(ビルレンスに関連する多数のウイルスの機能を含む)を正確に欠失させた。これらの欠失を行うに当たっては、非所望の新規なオープンリーディングフレームが出現しないように設計した。図10は、NYVACを調製するのに欠失させたORFを図示する。図10の上部には、ワクシニアウイルスゲノム(VC−2プラーク単離物、Cophenhagen 株)のHindIII 制限マップを示す。NYVACを調製するのに逐次欠失させたVC−2の6つの領域を拡げて示している。これらの欠失については本明細書において既述した(実施例1から実施例6)。そのような欠失位置の下に、該位置から欠失させたORFを、その遺伝子産物の機能ないしはホモロジーおよび分子量とともに掲記している。
【0219】
ヒト組織細胞系におけるNYVACおよびALVACの複製試験 ヒト由来の細胞におけるワクシニアウイルスのNYVAC株(vP866)の複製レベルを調べるため、6種類の細胞系に、液体培養条件下、導入多重度0.1pfu/細胞で接種した。親株のCophenhagen クローン(VC−2)の接種も併せて行った。初代ニワトリ胚繊維芽細胞(CEF)(10〜11日齢のSPF源の胚卵。米国コネチカット州StorrsのSpafas社製)使用して全てのウイルスに対する許容細胞基質とした。2つの基準、すなわち、産生的なウイルス複製が生じているかということ、および、外来抗原が発現しているかということに基づいて培養物の分析を行った。
【0220】
ヒト由来のいろいろな細胞におけるNYVACの複製能を表16に示す。VC−2およびNYVACのいずれもCEF細胞内で複製する能力を有するが、NYVACの方が幾分収量(産生量)が低い。VC−2も、EBV形質転換リンパ球芽細胞系JT−1(エプステインバーウイルスで形質転換されたヒトリンパ球芽細胞系。Rickinso他(1984)を参照)を除き、試験した6種類のヒト由来細胞系で産生的複製能力を有している。これに対して、NYVACは、試験したヒト由来細胞系のいずれにおいてもその複製能力が高度に減弱されている。NYVACを感染させたMRC−5(ATCC#CCL171 、ヒト胎児肺由来)、DETROIT532(ATCC#CCL54。ヒト包皮、ダウン症候群)、HEL299(ATCC#CCL137 、ヒト胎児肺細胞)、およびHNK(ヒト新生児腎臓細胞。米国メリーランド州Wakersville のWhittiker Bioproducts 社製、カタログ#70-151)から、残存ウイルスレベルを超える感染ウイルスの僅かな増加が見られている。これらの細胞系における複製は、NYVAC感染CEF細胞または親株のVC−2から得られたウイルス収量(産生量)に比較すると有意に減少していた(表16)。注目すべきことには、NYVACおよびVC−2のいずれについても、24時間におけるウイルス収量は72時間の収量に等しい。したがって、該ヒト由来細胞系培養物を更に48時間(ウイルス生成サイクルの2回分)培養させると、相対的なウイルス収量を上昇させたかも知れない。
【0221】
上記のヒト由来細胞系においては、ウイルス収量が低かったことに一致して、MRC−5およびDETROIT532においてもNYVAC特異的DNAの複製は、検出可能ではあったが、そのレベルは低かった。NYVACを感染させたMRC−5およびDETROIT532細胞系におけるDNA複製レベルは、NYVAC感染CEF細胞で見出されたレベルと比較すると、ウイルス収量において近似していた。その他のヒト由来細胞のいずれにおいてもNYVAC特異的ウイルスDNA複製は見出されなかった。
【0222】
トリポックスウイルスであるALVACを用いても同様の実験を行った。このウイルス複製の結果も表16に示す。いずれのヒト細胞系においても子孫ウイルス(子ウイルス)は検出されず、カナリアポックスウイルスの宿主域によりトリ種に制限されていることに相反しない。さらに、いずれのヒト由来細胞系においてもALVAC特異的なDNA蓄積は検出されなかったという事実も、それらのヒト由来細胞のおいてALVACの産生的複製が起こらないということに矛盾していない。
【0223】
ヒト細胞におけるNYVA−RG(vP879)による狂犬病糖タンパク質の発現 産生的ウイルス複製が実質的に起こらない場合においても外来遺伝子の効率的な発現が得られるかということを判定するために、上記と同じ細胞系に、35S−メチオニンの存在下に、狂犬病ウイルス糖タンパク質発現性のNYVAC組換え体(vP879、実施例7)を接種した。該狂犬病糖タンパク質に特異的なモノクローナル抗体を用い、放射ラベルした培養リゼイトから狂犬病糖タンパク質を免疫沈降させた。67kDaのタンパク質の免疫沈降物が得られたが、これは狂犬病糖タンパク質が完全にグリコシレートされた形態に一致する。非感染細胞リゼイトまたは親のNYVACが感染した細胞リゼイトにおいて血清学的に交差性の生成物は検出されなかった。分析した他の細胞においても同様の結果が得られた。
【0224】
ウサギ皮膚への接種 ワクシニアウイルス株の病原性の尺度として、皮内(ic)接種後のウサギの皮膚障害およびその特徴が利用されている(Buller他、1988;Child 他、1990;Fenner他、1958;Flexner 他、1987;Ghendon およびChernos 1964)。そこで、ワクシニア株WR(CV−1細胞ATCC#CCL70をプラーク精製したATCC#VR119 として、これらからL変異体として単離、選択されたプラークから成るATCC#VR2035。Panicali他(1981)参照)、WYETH(ATCC#VR325 。米国ペンシルバニア州MariettaのWyeth Laboratories社からDRYVACとして市販)、COPENHAGEN(VC−2)およびNYVACを2匹のウサギ(A069およびA128)にid接種した場合の障害の特徴を調べた。これらの2匹のウサギはウイルスに対する全体的な感度が異なっており、ウサギA128の方がウサギA069よりも応答性が低かった。ウサギA128においては障害は比較的軽くて、接種後27日目までに消散した。ウサギA069においては、障害程度は強く(特にWR接種部位)、49日経過後ようやく消散した。また、障害の強さは、リンパ液排出網状組織に対する接種部位の相対的な位置に依存していた。特に脊椎上に位置する部位の障害が強く、脾腹にある障害が消散するのに長い時間を要した。4日目から最後の障害が消えるまで全ての障害を毎日調べ、障害の最大サイズの平均値および消散までの日を求めた(表17)。対照であるPBSの注入部位には局部反応は見られなかった。WR、VC−2およびWYETHワクシニアウイルス株の注入部位には潰瘍性障害が見られた。重要なことは、NYVACの接種部位には硬結または潰瘍性障害が観察されなかったということである。
【0225】
接種部位における感染性ウイルスの残存 接種部位における各ウイルスの相対的な残存性を調べるため、10 、 10 、または10pfuのVC−2、WR、WYETHまたはNYVACを含有する0.1ml のPBSをウサギの複数部位に皮内接種した。各ウイルスについて、10pfuを脊椎上に投与し、その両側に10 および10 を投与した。接種部位を11日間にわたって毎日観察した。WRが最も強い反応を示し、次いで、VC−2およびWYETHとなった(表18)。潰瘍が最初に見出されたのは、WRおよびWYETHについては9日目、VC−2については10日目であった。NYVACまたは対照用PBSが接種された部位は硬結または潰瘍形成を示さなかった。接種後11日前に、接種部位から皮膚サンプルを切除し、機械的に破砕し、CEF細胞上でウイルスを滴定した。結果を表18に示す。いずれの場合においても、この時点では投与量よりも多量のウイルスは回収されなかった。ワクシニア株WRの回収量は、ウイルス投与量とは無関係に約10pfuであった。ワクシニア株WYETHおよびVC−2の回収量は投与量と関係なく10 から10 であった。NYVACを接種した部位からは感染性ウイルスは回収されなかった。
【0226】
遺伝的または化学的に免疫不全性のマウスへの接種 ヌードマウスに高投与量のNYVAC(5×10pfu)またはALVAC(10pfu)を腹腔内投与したが、10日間の観察期間を通じ、死亡、障害および明らかな疾病を引き起こすことはなかった。これに対して、WR(10 から10pfu)、WYETH(5×10 または10pfu)またはVC−2(10 から10pfu)を接種されたマウスは、先ず趾部に、次いで尾部にポックスウイルスに典型的な播種性障害を示し、その後、幾つかのマウスにおいては睾丸炎が見られた。WRまたはWYETHを感染させたマウスは播種性障害が出現すると、一般的に、最終的には死亡したが、VC−2を感染させたマウスは多くの場合、最終的には回復した。LD50計算値を表19に示す。 さらに詳述すると、VC−2を接種されたマウスは先ず趾部に、そして、それより1〜2日後には尾部に障害(赤色丘疹)を示す。これらの障害は、高投与量(10 、10 、10 および10pfu)を投与されたマウスについては接種後から11〜13日目、10pfuを投与されたマウスにおいては接種後16日目、また、10pfuを投与されたマウスにおいては接種後21日目に出現した。10 および10 を投与されたマウスにおいては100 日間の観察期間中障害は見出されなかった。10 および10pfuを投与されたマウスにおいては接種後23日目に、また、他のグループのマウス(10 から10pfu)においては、それより約7日後に睾丸炎が認められた。睾丸炎は10 および10 投与グループにおいて特に強く、次第に後退してはゆくが、100 日間の観察期間の終わりまで認められた。数匹のマウスの皮膚には、接種後30〜35日目に幾つかのポックス性の障害が認められた。これらのポックス障害の多くは、一般に接種後60〜90日目に治癒した。10pfuを接種されたグループのマウスのうち1匹のみが死亡し(接種後34日)、また、10pfuを投与されたグループのマウスの1匹が死亡(接種後94日)した。VC−2が接種されたマウスにその他の死亡は見られなかった。
【0227】
10pfuのWRワクシア株を接種されたマウスは、接種後17日目にポックス性障害を示し始めた。これらの障害は、VC−2接種マウスに見られた障害と同じであった(趾部、尾部の腫脹)。10pfuのWR株を接種されたマウスでは接種後34日目まで障害は出現しなかった。睾丸炎が認められたのは高用量のWR(10pfu)が接種されたマウスのみであった。観察期間の後期に口の周りに障害が現れマウスは食餌を止めた。10pfuのWRを接種したマウスは全て、接種後21日から31日目に死亡するか、必要に応じて安楽死させた。10pfuのWRを投与した5匹のうち4匹は、接種後35日から57日目に死亡するか、必要と考えられた場合は安楽死させた。低投与量のWR(1から100pfu)が接種されたマウスには死亡は認められなかった。
【0228】
高投与量(5×10 および5×10pfu)のワクシニアWYETH株を投与したマウスは、趾部および尾部に障害を示し、睾丸炎が発生し、そして死亡した。5×10pfuまたはそれ以下のWYETHを投与したマウスは疾病や障害の症状を示さなかった。
【0229】
表19に示すように、CY処理されたマウスは、ポックスウイルスのビルレンスを分析するのにヌードマウスの場合よりも高感度のモデル系を与える。WR、WYETH、およびVC−2に関するLD50値は、このモデル系においてはヌードマウスモデルの場合よりも有意に低くなっていた。さらに、WYETH、WRおよびVC−Rワクシニアウイルスをマウスに投与した場合、以下に記すように、各ウイルスをさらに高い用量で投与することにより障害が出現し、この結果、障害の形成がさらに迅速になっている。ヌードマウスにおいて見られたように、NYVACまたはALVACを注入されたCY処理マウスは障害を示さなかった。しかしながら、ヌードマウスの場合とは異なり、NYVADまたはALVACを用いてチャレンジされたCY処理マウスにおいては、投与量とは無関係に、死亡が見られたものもあった。このような不規則な発病が死因と関係するかは疑問である。
【0230】
WYETHが投与されたマウスはいずれの投与量においても(9.5 ×10 から9.5 ×10pfu)、接種後7日目から15日目の間に尾部および/または趾部にポックス性障害を示した。さらに、尾部および趾部は腫脹した。尾部での障害の出現は、ポックス性障害の典型的なものであり、丘疹の形成、潰瘍形成、そして最後には痂皮の形成を伴う。VC−2が投与されたマウスも、すべての投与量において(1.65×10 から1.65×10pfu)、WYETH投与マウスの場合に類似した尾部および/または趾部にポックス性障害を示した。これより低用量のWRウイルスを投与したマウスには障害は見られなかったが、これらのグループで死亡は生じた。
【0231】
NYVAC−RGの効力試験 ワクシニアウイルスのCOPENHAGEN株を弱毒化すすることにより、それから得られるNYVAC株のベクターとしての有用性を実質的に変化させていないことを明らかにするため、比較効力試験を行った。該ウイルスを弱毒化するのに行われた一連の遺伝子操作中の該ベクターの免疫原性能を調べるため、リポーター外来抗原として狂犬病ウイルスの糖タンパク質を利用した。該狂犬病糖タンパク質を発現するベクターの感染防御効力の評価は狂犬病に関する標準的なNIHマウス効力試験によった(Seligmann 、1973)。表20に示しているように、高度に弱毒化したNYVACベクターについて得られるPD50値は、tk遺伝子座に狂犬病遺伝子を含有するCOPENHAGEN由来組換え体を用いて得られた値(Kieny 他、1984)と同じであり、また、ALVAC−RG(トリ種に複製が制限されているカナリアポックス由来ベクター)について得られたPD50に近似している。
【0232】
考察 よく知られたビルレンス遺伝子が欠失され且つ限定されたインビトロ増殖特性を有するNYVACを動物モデル系で分析して、その弱毒化特性を調べた。これらの試験に当たって、神経毒性のあるワクシニアウイルスの実験室株、WR、2種類のワクシニアウイルスワクチン株、WYETH(New York City Board of Health)およびCOPENHAGEN株、さらには、カナリアポックスウイルス株であるALVACとの比較を行った(実施例11も参照)。さらに、マウスチャレンジモデルおよびウサギ皮膚モデルにより、これらのウイルスの相対的な免疫原性能が明らかになった。すなわち、WRが最もビルレンスの高い株であり、WYETHおよびCOPENHAGEN(VC−2)は弱毒化ワクチン株として既に利用されているような特徴を有し、そして、ALVACは複製がトリ種に制限されるようなポックスウイルスの1例であることが理解された。これらのインビボ分析は、ワクシニアウイルス株WR、WYETHおよびCOPENHAGEN(VC−2)に比べるとNYVACが高度に弱毒化された特性を有するものであることを明示している(実施例14〜20)。重要なことは、NYVACにおけるLD50値は、トリ宿主制限トリポックスウイルスであるALVACにおいて見出された値に匹敵したということである。NYVACに因る死亡は、ALVACと同様に、きわめて高用量のウイルスが頭蓋投与された場合のみ見出された(実施例11、表14、15、19)。この死亡が多量のタンパク質を接種した非特異性に因るものであるか否かは未だ明らかでない。免疫無防備状態マウスモデル(ヌードマウスおよびCY処理マウス)における分析からも、WR、WYETHおよびCOPENHAGEN株に比べてNYVACが高度に弱毒化された特徴を有することが明らかにされた。重要なことは、NYVAC接種動物またはALVAC接種モデルにおいては、観察期間を通して、ワクシニア感染の播種やワクシニア性疾病の形跡が見出されなかったということである。NYVACにおいて複数のビルレンス関連遺伝子を欠失させると、病原性に関する相乗効果が示された。NYVACの接種特性を知る別の手段としてウサギ皮膚への皮内投与を行った(表17および18)。非トリ種において複製能力を有しないウイルスであるALVACに関する結果を考察すると、接種部位における複製能力のみが反応性に相関しているのではない。ALVACの皮内接種は投与量に依存して硬結域をもたらしたからである。すなわち、ウイルスの複製能力以外の因子が障害の形成に寄与しているものと推測される。NYVACにおいてビルレンスに関連する特定の遺伝子を欠失させると障害の発生が防止される。
【0233】
さらに、本実施例および既述の実施例(実施例9を含む)の結果から、WR、ならびに既に利用されているワクシニアウイルスワクチン株であるWYETHおよびCOPENHAGENに比べてNYVACが高度に弱毒化された特性を有することが明らかである。事実、試験した動物モデル系におけるNYVACの病原性プロフィルは、トリ種においてのみ産生的複製を行うことで知られたポックスウイルスであるALVACのプロフィルに類似していた。NYVACの産生的複製能がヒト(表16)およびその他の動物(マウス、ブタ、イヌおよびウマを含む)由来の細胞において見かけ上制限されていることが重要な障壁となって、ワクチン接種されたヒトの中で播種する可能性の低いベクターを提供できることに加えて、ワクチン非接種者または一般的な環境への伝染を制限したり防止することになる。
【0234】
重要なことは、NYVAC系ワクチンが効力を有することが示されたことである。各種の病原体由来の外来遺伝子産物を発現するNYVAC組換え体は、霊長類を含む幾つかの動物種において該外来遺伝子産物に対する免疫応答を引き起こした。特に、狂犬病糖タンパク質を発現するNYVACを基礎とする組換え体は致死的な狂犬病ウイルスのチャレンジに対してマウスを防御する能力を有した。該NYVAC由来狂犬病糖タンパク質組換え体の効力は、tk遺伝子座に狂犬病糖タンパク質を含有するCOPENHAGEN由来組み換えたいのPD50に匹敵するものであった(表20)。また、NYVACを基礎とする組換え体は、ウサギにおいて麻疹ウイルス中和抗体を誘起し、ブタにおける擬狂犬病ウイルスおよび日本脳炎ウイルスのチャレンジに対して防御機能を有した。高度に弱毒化されたNYVAC株は、ヒト、動物、医学および獣医学の分野での利用において安全であるという利点を有する(Tartaglia 他、1992)。さらに、一般の実験的発現ベクター系としてNYVACを使用すれば、ワクシニアウイルスに関連する生物学的危険性(ハザード)が激減する。
【0235】
本実施例およびその他の実施例(実施例10を含む)の結果が示すように、次のような基準によりNYVACが高度に弱毒化されたものであることを明らかにした:a)接種部位に硬結または潰瘍化が検出されないこと(ウサギ皮膚);b)皮内接種部位から感染ウイルスが迅速に存在しなくなること(ウサギ皮膚);c)睾丸炎症がないこと(ヌードマウス);d)ビルレンスが激減していること(3週齢マウスおよび新生マウスの両方における頭蓋内チャレンジ);e)免疫不全被験体において病原性が激減しており播種しないこと(ヌードおよびシクロホスホアミド処理マウス);およびf)各種のヒト組織培養細胞において複製能が著しく減少していること。そして、高度に弱毒化されているのにも拘わらず、NYVACは、ベクターとして、外来遺伝子に対する強力な免疫応答を保有している。
【表16】

【表17】

【表18】

【表19】

【表20】

【実施例12】
【0236】
実施例12HTLV−1 ENVを発現するNYVAC組換え体の調製
西アフリカ患者の初代細胞培養から得たHTLV−I1711分子クローン由来のDNAプラスミドを用いて、NYVACおよびALVAC HTLV−I エンベロープ組換えワクチンを構築した。系統発生学的には、HTLV−I1711は、HTLV−Iのコスモポリタン(cosmopolitan)科に属する。
【0237】
I3LをプロモーターとするヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV−I)のエンベロープの遺伝子を含むドナー遺伝子は次にような手法により調製した。I3LプロモーターがHTLV−Iエンベロープ遺伝子の5′末端に融着した100bp のPCRフラグメントPCR−HTLV18は、オリゴヌクレオチドプライマーMW093(SEQ ID NO:37 ;5′−ATCATCGGTACCACATCATGCAGTGGTTAAAC−3′)およびMW110(SEQ ID NO:38 ;5′−GGCGAGAAACTTACCCATGATTAAACCTAAATAATTG −3′)を用いて、プラスミドpMM102から調製した。I3Lプロモーターの3′末端がHTLV−Iエンベロープの全遺伝子に融合した1,500bp のPCRフラグメントpCR−HTLV21は、オリゴヌクレオチドプライマーMW113(SEQ ID NO:39 ;5′−CAATTATTTAGGTTTAATCATGGGTAAGTTTCTCGCC −3′)およびMW116(SEQ ID NO:40 ;5′−ATCATCTCTAGAATAAAAATTACAGGGATGACTCAGGG−3′)を用いて、プラスミドp17−SST(全HTLV−Iヌクレオチド配列を含有する)から調製した。I3Lをプロモーターとするエンベロープ遺伝子を含有する1600bpのPCRフラグメントPCR−HTLV24は、PCRフラグメントPCR−HTLV18およびPCR−HTLV21を鋳型とし、オリゴヌクレオチドプライマーMW093(SEQ ID NO:37)およびMW116(SEQ ID NO:40)を用いるPCR反応により調製した。次に、I3Lをプロモーターとするエンベロープ遺伝子をpBSK内にクローニングした。この操作は次に3つの工程で実施した。1)I3Lプロモーターおよび当該エンベロープ遺伝子の5′末端をpBSK内にクローニングした。これは、1600bpのPCRフラグメントPCR−HTLV24をKpnIを用いて酵素分解し、得られた1,100bpのフラグメントをpBSKのKpnI部位にクローニングすることにより行った。この操作によって調整したプラスミドをpMAW015と命名した。2)エンベロープ遺伝子の3′末端をpBSK内にクローニングした。これは、1600bpのPCRフラグメントPCR−HTLV24をKpnIおよびXbaIを用いて分解し、得られた530bp のフラグメントを、pBSKの2900bpのKpnI−XbaIフラグメント内にクローニングすることのより行った。この操作によって得られたプラスミドをpMAW013と命名した。3)次に、I3Lプロモーターおよびエンベロープ遺伝子の5′末端を、エンベロープ遺伝子の3′末端の上流にクローニングした。これは、pMAW015のKpnI1,000bp フラグメント(I3Lプロモーターおよびエンベロープ遺伝子の5′末端を含有する)をpMAW013のKpnI部位にクローニングすることにより行った。この操作によって調整したプラスミドをpMAW016と命名した。
【0238】
次に、I3Lをプロモーターとするエンベロープ遺伝子をカナリアポックスのC5フランキングアーム間にクローニングした。これは、pMAW16のKpnI−XbaI部分分解1,600bp フラグメント(I3Lをプロモーターとするエンベロープ遺伝子を含有)を、pVQC5LSP6の4,800bP のXpnI−XbaIフラグメントにクローニングすることにより行った。この操作により調製したプラスミドをpMAW017と命名した。
【0239】
pVQC5LSP6を調製するためには、BamHIによりpC5LSPを酵素分解し、アニーリングされたオリゴヌクレオチドCP32(SEQ ID NO:41)(5′−GATCTTAATTAATTAGTCATCAGGCAGGGCGAGAACGAGACTATCTGCTCGTTAATTAATTAGGTCGACG−3′)およびCP33(SEQ ID NO:42)(5′−GATCCGTCGACCTAATTAATTAACGAGCACATAGTCTCGTTCTCGCCCTGCCTGATGACTAATTAATTAA−3′)に連結(ライゲート)した。
【0240】
プラスミドpC5LSPを調製するには、Asp718およびNotIを用いてポリリンカー内でpC5Lを分解し、アルカリホスファターゼで処理した後、キナーゼ処理されアニーリングしたオリゴヌクレオチドCP26(SEQ ID NO:43)(5′−GTACGTGACTAATTAGCTATAAAAAGGATCCGGTACCCTCGAGTCTAGAATCGATCCCGGGTTTTTATGACTAGTTAATCAC−3′)およびCP27(SEQ ID NO:44)(5′−GGCCGTGATTAACTAGTCATAAAAACCCGGGATCGATTCTAGACTCGAGGGTACCGGATCCTTTTTATAGCTAATTAGTCAC−3′)(無能化したAsp718部位、6つのリーディングフレームにおける翻訳停止コドン、ワクシニア初期転写終結シグナル(YuenおよびMoss、1987)、BamHI、KpnI、XhoI、XbaI、ClaI、およびSmaI制限部位、ワクシニア初期転写終結シグナル、6つのリーディングフレームにおける翻訳停止コドン、ならびに無能化NotI部位を含有する)に連結した。
【0241】
C5L挿入ベクターは次のように誘導した。コスミドベクターpVK102(Knauf およびNester、1982)を用い、vCP65(C5遺伝子座に狂犬病配列を有するALVACを基礎とする狂犬病G組換え体)のゲノムライブラリーを構築した。このライブラリーに、pRW764.5 内に含有された(C5遺伝子座)0.9kb のPvuIIカナリアポックスウイルスゲノムフラグメントを用いてプロービングを行った。該カナリアポックスDNA配列は当初の挿入座を含有するものである。29kbのインサートを含有するクローンの1つを増殖してpHCOS1と命名した。C5配列を含有するこのコスミドから、3.3kb のClaIフラグメントをサブクローニングした。このClaIフラグメントの配列分析を用いて、C5遺伝子座のマップ(1〜1372)を拡大した。
【0242】
C5挿入ベクターは次のような2つの工程から構築した。オリゴヌクレオチドC5A(SEQ ID NO:45)(5′−ATCATCGAATTCTGAATGTTAAATGTTATACTTTG)およびC5B(SEQ ID NO:46)(GGGGGTACCTTTGAGAGTACCACTTCAG−3′)を用いるPCR増幅により1535bpの左側のアームを調製した。鋳型としたDNAはvCP65ゲノムDNAであり、このフラグメントをEcoRI/SmaIで分解したpUC8にクローニングした。標準的な配列分析法に配列を確認した。404bp の右側アームはオリゴヌクレオチドC5C(SEQ ID NO:47)(5′−ATCATCCTGCAGGTATTCTAAACTAGGAATAGATG −3′)およびC5DA(SEQ ID NO:48)(5′−ATCATCCTGCAGGTATTCTAAACTAGGAATAGATG −3′)を用いるPCR増幅により調製した。次に、予め調製しSmaI/PstI分解左側アームを含有するベクターにクローニングした。標準的な配列分析により全体の構成を確認し、pC5Lと命名した。この挿入プラスミドは、C5遺伝子座に外来遺伝子を挿入する能力を有する。
【0243】
次に、I3Lをプロモーターとするエンベロープ遺伝子をHAフランキングアーム間にクローニングした。これは、pMAW017のKpnI/XbaIによる部分分解1,600bp フラグメント(I3Lをプロモーターとするエンベロープ遺伝子を含有する)を、pSPAHAH6の3,600bp KpnI−XbaIフラグメントにクローニングすることにより行った。この操作により構築したプラスミドをpMAW018と呼称する。
【0244】
ここで、pSPHAH6の調製は次のように行った。プラスミドpMP2VCL(K1L宿主域遺伝子の上流のワクシニア配列内にポリリンカー領域を含有する)を該ポリリンカー内でHindIII およびXhoIにより酵素分解し、アニーリングされたSPHPRHAのAからDに連結して、pSP126(HindIII 、H6プロモーター(−124 〜−1)(Perkus他、1989)ならびにXhoI、KpnI、SmaI、SaCIおよびEcoRI制限部位を含有する)を調製した。ここで、SPHPRHA A〜Dの配列は以下のとおりである。
【0245】

プラスミドpSD554(ポリリンカー置換されたHA遺伝子部位の前後のワクシニア配列、および6つのリーディングフレームにおける翻訳終結コドンを含有する)をポリリンカー内でXhoIにより分解し、DNAポリメラーゼIのクレノウ断片を用いて空所を満たし、そして、アルカリホスファターゼで処理した。HindIII を用いてsp126 を分解し、クレノウ断片で処理した後、SmaIを用いる酵素分解によりH6プロモーターを単離した。このH6プロモーターフラグメントをpSD544に連結すると、ポリリンカー領域にH6プロモーターH6を含有する(HA転写方向)pSPHAH6が得られた。この挿入プラスミドは、ワクシニアHA遺伝子(A56;Goebel他、1990a,b)を外来遺伝子と置換させる能力を有する。
【0246】
pMAW018を用いて、レスキューウイルスとしてNYVACとインビトロ組換え実験を行うことによりvP1181を得た。
【実施例13】
【0247】
実施例13HTLV−I ENVを発現するNYVAC組換え体の調製
実施例12において記述したようにして得られたpMAW017を用いて、レスキューウイルスとしてALVACとインビトロ組換え実験を行うことによりvCP203を得た。
【実施例14】
【0248】
実施例14HTLV-のエンベロープ(gP46、gP21)全体を発現する ALVACおよびNYVAC組換え体の分析
HTLV−IBOU (HTLVのコスモポリタンタイプに属し西インド由来)を感染させたヒトさい帯血細胞の短期共培養により、HTLV−Iの細胞結合性(cell-associated)チャレンジを行った。表22に示すように、4対のウサギに、8×10 、4×10 、2×10 および1×10 のHTLV−IBOU 感染ヒト細胞を静脈(I.V.)接種した。被接種動物をウイルス感染させた後のウイルス学的状態を確認するため、精製した末梢血単核細胞(PBMC)から、直接培養またはヒトさい帯血細胞との共培養により数回にわたりウイルスの単離を実施した。
【0249】
表22に示すように、8×10 または4×10 の細胞が接種された各対のウサギはウイルスとの接触後、感染状態になっていた。2×10 細胞を用いると2匹のウサギのうち1匹のみが感染し、一方、1×10 を用いるといずれのウサギも感染状態になっていないことが、ウイルス単離およびポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により判断された。したがって、ワクチン接種されたウサギをチャレンジする投与量(用量)として5×10 細胞を選定した。インビトロ滴定試験に用いたHTLV−IBOU 感染ヒト細胞の30%のみが、免疫沈降分析において、HTLV−Iのp19 gag 抗原に対するモノクローナル抗体により染色されたので、該チャレンジ投与量は、大略、ウイルス発現細胞1.5 ×10 に相当する。
【0250】
12匹のウサギを用いてALVAC HTLV−Ienv (vCP203)の試験を行った(表21)。8匹のウサギ(グループ1およびグループ2)には、組換え体ALVAC HTLV−Ienv (「R−ALVAC」)(vCP203)を1ヶ月間隔で2回、筋肉内(I.M.)接種した。対照として残りの4匹のウサギ(グループ3)には、非組換えALVACベクターを投与した。さらに、グループ1のウサギには、最初の接種から4ヶ月目および5ヶ月目に2回、各回100 μgのバキュロウイルスで発現された(Arp、1993)HTLV−Iのエンベロープ前駆体を精製してアラムに溶かした製剤を投与した(表12)。最初の接種から6ヶ月後に、12匹のウサギの全てに、5×10 のHTLV−IBOU 感染細胞をI.V.接種してチャレンジした。ウイルスの感染を調べるため、初代ウサギ培養からのウイルス単離またはヒトさい帯血細胞との共培養を行い、併せて、ウサギPBMCのDNAのPCR分析を行った。PCRに用いたプライマー対は、T1ER:5′TATCCTTGCAGGACCATGCATC3′(SEQ ID NO:53)およびtler:AAGCAGGAAGAGCAGGAGCG3′(SEQ ID NO:54)であり、これによりヌクレオチド6569から6921にわたるHTLV−Iのエンベロープ遺伝子フラグメントが増幅された。非組換えALVACを接種された対照用ウサギ4匹のうち3匹が感染状態になっていた。R−ALVAC(vCP203)を用いる初回接種とgp46サブユニット製剤を用いる追加接種(ブースター)の組合せから成るグループ1においては、4匹のウサギのうち3匹が感染状態になったことが、ウイルス単離およびPCR分析により判定された。しかしながら、0日目および28日目において2回のR−ALVAC(vCP203)のみが投与されたグループ2においては4匹のウサギの全てが感染防御されていたことが、ウイルス単離およびPCRによりHTLV−Iを検出し得ないことから明らかにされた(表21)。ウサギ34438 はPCR陽性になったことが1度あったが、そのPBMCまたは脾臓(死後採取)のいずれからもウイルスは分離されなかった。
【0251】
これらのデータは、HTLV−Iのチャレンジに対してウサギに防御免疫応答を誘発するにはR−ALVAC(vCP203)による免疫化のみで十分であることを示している。さらに、R−ALVAC(vCP203)を用いてHTLV−Iに特異的な免疫応答を当初誘発した後、ブースターとしてバキュロウイルスgp63サブユニット製剤を接種する初回/追加免疫プロトコールは感染防御を付与するよう機能しておらず、そして、このことは(必ずしも特定の理論に拘束されることを意図するものではないが)グループ1に見られるように該gp63サブユニット製剤の投与がR−ALVAC(vCP203)の感染防御能を打ち消してしまうことを示唆している。このプロトコールにおけるウサギの血清分析(図14)は、ウイルス単離およびPCRのデータと矛盾していなかった。事実、HTLV−Iに対する血清変換(seroconversion)は、グループ1および3の感染ウサギにおいてのみ認められた(図14)。
【0252】
ALVAC envを初回投与した後、追加免疫(ブースト)を行ったプロトコールにおいてウサギの血清中の抗HTLV−I抗体を検出した結果を図14に示す。図14の上方に各ウサギグループに対するワクチン接種プロトコールを示す。数字は、それぞれの接種の時期(月)を示すものである。Cellular Products 社(米国ニューヨーク州Baffalo)から入手したストリップを用いてウェスタンブロット法を実施した。免疫接種から採取した血清は次のとおりである:A、最初のALVACブーストから1週間後;B、第2回目のタンパク質ブースト後;C、チャレンジ時;D、生きたウイルスのチャレンジから4ヶ月後。
【0253】
NYVAC HTLV−Ienv (vP1181)の性能を調べるために、4匹のウサギに、2回、すなわち0ヶ月目および1ヶ月目に、10pfuのR−NYVAC(vP1181)をI.M.投与した。対照用として別の4匹のラビットに同一の投与スケジュールで非組換えNYVACを投与した。第2回の接種から1ヶ月後にすべてのウサギにチャレンジを行った。5×10 のHTLV−IBOU 感染細胞にチャレンジ接触させた後のウイルス単離およびPCR分析が示したところによれば、ワクチン接種されたウサギは全て、該細胞結合性ウイルスチャレンジに対して感染防御されていたが、対照用ウサギは全て感染していた。予想されたように、対照用ウサギのみにおいて血清変換が認められた(図15)。このように、NYVAC組換え体は、免疫接種後短期間に、HTLV−Iと接触した動物内にウイルス感染を取り除くのに充分な免疫応答を誘起させる(表23および図15参照)。
【0254】
NYVAC envが接種されチャレンジを受けたウサギの血清学的応答を図15に示す。ワクチン接種プロトコールの概略は図13の上方に示されている。数字はそれぞれの接種の時期(月)を示すものである。ウェスタンブロット法で試験された血清は次の時期に採取されたものである:A、免疫接種前;B、最初のブーストから1週間後;C、チャレンジから4ヶ月後。
【0255】
R−ALVACおよびR−NYVAC(vCP203およびvP1181)によって付与される免疫期間を評価する1つの手段として、最初のチャレンジ後に感染防御されたと考えられるウサギの全てに対して、HTLV−IBOU 感染細胞による最初のチャレンジから5ヶ月後に再チャレンジを行った。この第2回目のチャレンジは、HTLV−IBOU 感染したウサギ34549 由来のヘパリン化血液5mlで行った(表21参照)。大まかに言えば、1から10%のウサギPBMCがHTLV−Iにより感染されるのが一般的であり、そして該チャレンジ用血液がこの範囲にあるとすれば、2回目のチャレンジ投与量は最初のチャレンジ投与量よりも対数で1から2高いことになろう。HTLV−IBOU 感染したヒト細胞ではなくウサギ血液をチャレンジに用いて、ヒト細胞そのものに対する免疫応答が実験で表示されることを回避するようにした。対照として4匹の未感染ウサギを用いた。ウイルス単離およびPCR分析が示したところによれば、ワクチン接種されたウサギならびに対照用ウサギの全てが、このHTLV−Iチャレンジ接触により感染状態になった(表21および23)。C91/PLおよび8166細胞を用いる既知のシンシチウム阻害分析法(Benson、1994)に従って、ALVACおよびNYVAC組換え体がワクチン接種されたウサギ、ならびに対照用ウサギの全てにおける中和抗体を測定した。ウイルスチャレンジ前にはどのウサギにも中和抗体は検出さらず、そして、(ウイルス単離およびPCRによる判定に従い)感染状態になったウサギのみが、検出され得るHTLV−I特異的中和抗体を示した。以上の結果は、NYVACおよびALVACを基礎とする組換え体はレトロウイルスのチャレンジに対して防御免疫応答を効果的に誘発する能力があるという従来の知見(Tartaglia, 1992 ; Piccini, 1987 ; Tartaglia, 1993)を裏付けている。例えば、ネコ白血病ウイルス(FeLV)のenvタンパク質およびgagタンパク質を発現するALVAC系組換え体は、偶発的にFeLVにチャレンジ接触したネコにおいて持続的ウイルス血症が進行するのを防止することが示されている(Trataglia 、 1993)。さらに、NYVACおよびALVAC系HIV−2組換え体をアカゲザルに使用したパイロット試験では、生のHIV−2チャレンジに対する感染防御が付与されることが示されており(Franchini)、同様に、NYVACおよびALVAC系HIV−2組換え体が免疫接種された動物においてはHIV−2によるチャレンジ後に部分的感染防御が認められている(Abimiku)。本発明による上記の結果は、さらに、HTLV−Iのエンベロープ遺伝子を 発現し、おだやかに弱毒化された組換えワクシニアウイルスは、HTLV−I感染ヒト細胞によるチャレンジに対してウサギを感染防御できるという従来の報告(Shida 、1987)とも矛盾しない。すなわち、驚くべきことに、本発明のHTLV組換え体において採用されたようにNYVACおよびALVACポックスウイルスベクターを高度に弱毒化して安全性を高めても、NYVACおよびALVAC系HTLV組換え体効力は影響されていない。
【0256】
組換えgp63をブースト(追加接種)してもウサギに感染防御を生じさせないという観測結果は、(特定の説に拘泥するよう意図するものではないが)おそらく、該組み換えgp63タンパク質がプロセッシングを受け、NYVACおよびALVACポックスウイルス感染細部によって発現されたエンベロープタンパク質とはかなり異なる形態で存在したためかも知れない。別の可能性(やはりこの考え方に拘泥するものではないが)は、非天然性(non-native)である組換えgp63免疫原トランスメンブレン内にある免疫抑制領域が、NYVACまたはALVACベクターにより誘発された抗HTLV−I細胞媒介性免疫応答に対して強い阻害効果を及ぼしたということである。しかしながら、gp63のアミノ末端側またはカルボキシ末端側の半部分を含有し組換えによる非天然性の大腸菌由来β−ガラクトシダーゼ(β−gal)融合タンパク質を用いる従来の試験では、混合物として免疫接種した場合、カニクイザルに感染防御を付与していた(Nakamura、1987)。但し、試験対象種が異なり、また、免疫接種プロトコールとしてフロイント完全アジバンドに溶かした組換えタンパク質1〜2mgを用いた後、フロイント不完全アジバンドに溶かしたものでブーストを行っており、接種経路もI.V.投与が含まれている点で異なっている。したがって、免疫化の方法を直接比較することはできない。しかしながら、興味深いのは、大腸菌由来β−gal融合タンパク質は、極めて低い抗HTLV−I中和抗体しか産生させなかったということである。このことは、生のHTLV−I感染細胞のチャレンジに対する感染防御には強い抗体応答は必要でないかも知れないということを示唆しているが、必ずしも特定の説に拘泥するものではない。
【0257】
上で引用したようなレトロウイルスに関する多くの免疫化試験によって報告され、そして、(必ずしも特定の説に拘泥するものではないが)本明細書において強く裏付けられているように、これらの研究のすべて(引用したものおよび本発明によるもの)から認められる一般的な傾向として、レトロウイルスによるチャレンジからの感染防御は、チャレンジ時には非常に低いまたは検出され得ないようなウイルス特異的中和活性の存在下において果たされ得るということかも知れない(Clark, 1991 ; Pedersen, 1986 ; Earl, 1986 ; Miyazawa, 1992 ; Issel, 1992);すなわち、レトロウイルスに対する感染防御には、免疫系に、当初、至適な細胞性応答を引き起こすことで充分であるということである。
【0258】
当初感染防御されたウサギが、感染ウサギから輸注された血液による後のチャレンジに抗しなくなるという事実は、おそらく、輸注されたチャレンジ用投与液にはウサギの感染防御能を超える10〜100 以上の感染細胞が含有されていたことに因るのであろう。しかしながら、(この説に拘泥するものではないが)HTLV−Iは、ウサギ内で継代されたときさらに効率的に複製し得るように適応化した可能性もある;但し、これは証明されていない単なる仮説であり、感染細胞の量が多すぎたということが事実であろう。
【0259】
本明細書において記述した結果から示されるように、NYVAC−HTLVおよびALVAC−HTLV組換え体ならびにそれらから得られる生成物は、既述したような組成物や用途に用いられることができ、例えば、免疫原性、抗原性ないしはワクチン組成物として使用され、あるいは分析系、キットまたは試験系に利用される抗原や抗体を調製するのに用いれれ、さらには、例えば、HTLV−Iのような細胞媒介性ウイルスによる感染を防止することのできるワクチンもしくは免疫化に使用されるのに好適である。
【表21】

【表22】

【表23】

【0260】
以上のように本発明を好ましい実施態様にそって詳述したが、本発明はそのような特定のものに限定されるものではなく、本発明の技術思想または請求の範囲から逸脱しない多くの変更が可能である。
【参考文献】
【0261】






























【図面の簡単な説明】
【0262】
【図1】チミジンキナーゼ遺伝子を欠失させ組換えワクシニアウイルスvP410を形成するためのプラスミドpSD460の構築法を図示する
【図2】出血性領域を欠失させ組換えワクシニアウイルスvP553を形成するためのプラスミドpSD486の構築法を図示する
【図3】ATI領域を欠失させ組換えワクシニアウイルスvP618を形成するためのプラスミドpMP494Δの構築法を図示する
【図4】血球凝集遺伝子を欠失させ組換えワクシニアウイルスvP723を形成するためのプラスミドpSD467の構築法を図示する
【図5】遺伝子群[C7L−K1L]を欠失させ組換えワクシニアウイルスvP804を形成するためのプラスミドpMPCK1Δの構築法を図示する
【図6】リボヌクレオチドレダクターゼの大サブユニットを欠失させ組換えワクシニアウイルスvP866(NYVAC)を形成するためのプラスミドpSD548の構築法を図示する
【図7】TK欠失遺伝子座に狂犬病糖タンパク質G遺伝子を挿入し組換えワクシニアウイルスvP879を形成するためのプラスミドpRW842の構築法を形成する
【図8】C5オープンリーディングフレームを含有するカナリアポックスPvuIIフラグメントのDNA配列(配列識別番号27)を示す
【図9A】組換えカナリアポックスウイルスvCP65(ALVAC−RG)の構築法を図示する
【図9B】組換えカナリアポックスウイルスvCP65(ALVAC−RG)の構築法を図示する
【図10】NYVACを形成するために欠失させるオープンリーディングフレームを図示する
【図11A】同一のワクチンを接種するかまたはワクチンを替えて免疫したボランティンの中和抗体力価を表すグラフであり、HDCおよびvCP65(105.5 TCID50)のブースター効果を示す(なお、ワクチン接種は0日、28日および180 日目に行い、抗体力価の測定は0日、7日、28日、35日、56日、173 日、187 日および208 日目に行った)
【図11B】同一のワクチンを接種するかまたはワクチンを替えて免疫したボランティンの中和抗体力価を表すグラフであり、HDCおよびvCP65(105.5 TCID50)のブースター効果を示す
【図11C】同一のワクチンを接種するかまたはワクチンを替えて免疫したボランティンの中和抗体力価を表すグラフであり、HDCおよびvCP65(105.5 TCID50)のブースター効果を示す
【図11D】同一のワクチンを接種するかまたはワクチンを替えて免疫したボランティンの中和抗体力価を表すグラフであり、HDCおよびvCP65(105.5 TCID50)のブースター効果を示す
【図12】vP1181およびvCP203を調整するためのプラスミドにおける、C5フランク/I3Lプロモーター/HTLV−Ienv /C5フランクの配列を示す
【図13】vP1181およびvCP203を調整するためのプラスミドにおける、HAフランク/I3Lプロモーター/HTLV−Ienv /HAフランクの配列を示す
【図14】ALVAC、R−ALVAC(ALVAC−HTLV;vCP203)、NYVAC、R−NYVAC(NYVAC−HTLV;vP1181)を接種し、且つ、HTLVが感染された細胞または血液でチャレンジした動物の血清学的分析を示す
【図15】ALVAC、R−ALVAC(ALVAC−HTLV;vCP203)、NYVAC、R−NYVAC(NYVAC−HTLV;vP1181)を接種し、且つ、HTLVが感染された細胞または血液でチャレンジした動物の血清学的分析を示す

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性組換えウイルスのインビトロ発現から調製されるHTLVウイルス抗原であって、前記変性組換えウイルスが、ウイルスにコードされる遺伝子機能が不活化されることによりビルレンスが弱毒化されており、前記変性組換えウイルスがさらに、該ウイルスゲノムの非必須領域に外来DNAを含み、該外来DNAが、HTLV-I1171のエンベロープタンパク質をコードすることを特徴とするHTLVウイルス抗原。
【請求項2】
前記変性組換えウイルスがポックスウイルスであることを特徴とする請求項1記載の抗原。
【請求項3】
前記ポックスウイルスがワクシニアウイルスであることを特徴とする請求項2記載の抗原。
【請求項4】
前記ワクシニアウイルスの遺伝子機能が、少なくとも1つのオープンリーディングフレームを欠失させることにより不活化されることを特徴とする請求項3記載の抗原。
【請求項5】
前記ワクシニアウイルスの前記欠失された遺伝子機能が、C7L-K1Lオープンリーディングフレーム、または宿主域領域を含むことを特徴とする請求項4記載の抗原。
【請求項6】
前記ワクシニアウイルスの少なくとも1つの追加のオープンリーディングフレームが欠失されており、該追加のオープンリーディングフレームが、J2R、B13R+B14R、A26L、A56R、およびI4Lからなる群より選択されることを特徴とする請求項5記載の抗原。
【請求項7】
前記ワクシニアウイルスの少なくとも1つの追加のオープンリーディングフレームが欠失されており、該追加のオープンリーディングフレームが、チミジンキナーゼ遺伝子、出血性領域、A型封入体領域、血球凝集素遺伝子、およびリボヌクレオチドレダクターゼ大サブユニットからなる群より選択されることを特徴とする請求項5記載の抗原。
【請求項8】
J2R、B13R+B14R、A26L、A56R、C7L-K1LおよびI4Lが、前記ワクシニアウイルスから欠失されることを特徴とする請求項6記載の抗原。
【請求項9】
チミジンキナーゼ遺伝子、出血性領域、A型封入体領域、血球凝集素遺伝子、宿主域領域、およびリボヌクレオチドレダクターゼ大サブユニットが、前記ワクシニアウイルスから欠失されることを特徴とする請求項7記載の抗原。
【請求項10】
前記ワクシニアウイルスがNYVAC組換えウイルスであることを特徴とする請求項8記載の抗原。
【請求項11】
前記ワクシニアウイルスがNYVAC組換えウイルスであることを特徴とする請求項9記載の抗原。
【請求項12】
前記NYVAC組換えウイルスがvP1181であることを特徴とする請求項8または9記載の抗原。
【請求項13】
変性により宿主内におけるビルレンスが弱毒化された変性組換えトリポックスウイルスのインビトロ発現から調製されるHTLVウイルス抗原であって、該変性組換えウイルスが、該ウイルスゲノムの非必須領域に外来DNAを含み、該外来DNAが、HTLV-I1171のエンベロープタンパク質をコードすることを特徴とするHTLVウイルス抗原。
【請求項14】
前記変性組換えトリポックスウイルスが、カナリアポックスウイルスであることを特徴とする請求項13記載の抗原。
【請求項15】
前記カナリアポックスウイルスが、ニワトリ胚繊維芽細胞における200回以上の連続継代により弱毒化されたRentschlerワクチン株であり、そのマスター種株は、寒天培地下の4回の連続的なプラーク精製に供された後、そのプラーククローンが5回の追加の継代により増幅されることを特徴とする請求項14記載の抗原。
【請求項16】
前記カナリアポックスウイルスが、ALVAC組換えウイルスであることを特徴とする請求項15記載の抗原。
【請求項17】
前記ALVAC組換えウイルスが、vCP203であることを特徴とする請求項16記載の抗原。
【請求項18】
請求項1から17いずれか1項記載のHTLVウイルス抗原の投与により誘発される抗体。
【請求項19】
変性組換えウイルス由来の抗原のインビボ発現から誘発される抗体であって、前記変性組換えウイルスが、ウイルスにコードされる遺伝子機能が不活化されることによりビルレンスが弱毒化されており、前記変性組換えウイルスがさらに、該ウイルスゲノムの非必須領域に外来DNAを含み、該外来DNAが、HTLV-I1171のエンベロープタンパク質をコードすることを特徴とする抗体。
【請求項20】
前記変性組換えウイルスがポックスウイルスであることを特徴とする請求項19記載の抗体。
【請求項21】
前記ポックスウイルスがワクシニアウイルスであることを特徴とする請求項20記載の抗体。
【請求項22】
前記ワクシニアウイルスの遺伝子機能が、少なくとも1つのオープンリーディングフレームを欠失させることにより不活化されることを特徴とする請求項21記載の抗体。
【請求項23】
前記ワクシニアウイルスの前記欠失された遺伝子機能が、C7L-K1Lオープンリーディングフレーム、または宿主域領域を含むことを特徴とする請求項22記載の抗体。
【請求項24】
前記ワクシニアウイルスの少なくとも1つの追加のオープンリーディングフレームが欠失されており、該追加のオープンリーディングフレームが、J2R、B13R+B14R、A26L、A56R、およびI4Lからなる群より選択されることを特徴とする請求項22記載の抗体。
【請求項25】
前記ワクシニアウイルスの少なくとも1つの追加のオープンリーディングフレームが欠失されており、該追加のオープンリーディングフレームが、チミジンキナーゼ遺伝子、出血性領域、A型封入体領域、血球凝集素遺伝子、およびリボヌクレオチドレダクターゼ大サブユニットからなる群より選択されることを特徴とする請求項22記載の抗体。
【請求項26】
J2R、B13R+B14R、A26L、A56R、C7L-K1LおよびI4Lが、前記ワクシニアウイルスから欠失されることを特徴とする請求項24記載の抗体。
【請求項27】
チミジンキナーゼ遺伝子、出血性領域、A型封入体領域、血球凝集素遺伝子、宿主域領域、およびリボヌクレオチドレダクターゼ大サブユニットが、前記ワクシニアウイルスから欠失されることを特徴とする請求項25記載の抗体。
【請求項28】
前記ワクシニアウイルスがNYVAC組換えウイルスであることを特徴とする請求項26記載の抗体。
【請求項29】
前記ワクシニアウイルスがNYVAC組換えウイルスであることを特徴とする請求項27記載の抗体。
【請求項30】
前記ワクシニアウイルスがvP1181であることを特徴とする請求項26または27記載の抗体。
【請求項31】
変性により宿主内におけるビルレンスが弱毒化された変性組換えトリポックスウイルス由来の抗原のインビボ発現から誘発される抗体であって、該変性組換えウイルスが、該ウイルスゲノムの非必須領域に外来DNAを含み、該外来DNAが、HTLV-I1171のエンベロープタンパク質をコードすることを特徴とする抗体。
【請求項32】
前記組換えトリポックスウイルスが、カナリアポックスウイルスであることを特徴とする請求項31記載の抗体。
【請求項33】
前記カナリアポックスウイルスが、ニワトリ胚繊維芽細胞における200回以上の連続継代により弱毒化されたRentschlerワクチン株であり、そのマスター種株は、寒天培地下の4回の連続的なプラーク精製に供された後、そのプラーククローンが5回の追加の継代により増幅されることを特徴とする請求項32記載の抗体。
【請求項34】
前記カナリアポックスウイルスが、ALVAC組換えウイルスであることを特徴とする請求項33記載の抗体。
【請求項35】
前記ALVAC組換えウイルスが、vCP203であることを特徴とする請求項34記載の抗体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図11D】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−254489(P2007−254489A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−165148(P2007−165148)
【出願日】平成19年6月22日(2007.6.22)
【分割の表示】特願平8−521863の分割
【原出願日】平成8年1月16日(1996.1.16)
【出願人】(398007818)ヴァイロジェネティクス コーポレイション (6)
【Fターム(参考)】