説明

ICタグの読み出し装置のアンテナ設置冶具、およびICタグの読み出し装置

【課題】RF−IDを導入して固有のIDを管理する場合において、複数の読み出し装置が近接して配置された場合であっても、情報の読み出しを安定して行えるようにする。
【解決手段】アンテナ設置冶具40は、電波照射面35aを有する平板状のアンテナ35を収納する筐体43と、筐体43の対向する内面に取り付けられた一対のアンテナ支持部材41と、筐体43の対向する側面に取り付けられた一対のシールド板44とを有する。アンテナ支持部材41には、筐体43内で電波照射面35aに垂直な方向へのアンテナ35の位置を可変に支持するための複数の溝42が形成されている。シールド板44は、アンテナ35から照射される電波に対するシールド効果を持つ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーソナルコンピュータ(以下、「PC」という)やその周辺装置、さらには食料品、衣料品、生活雑貨といった物品の生産ラインや倉庫等で物品の生産工程管理、在庫管理、物流管理を行ったり、駅の改札、店舗、展示会等において入退管理を行ったり、商店において購入した賞品の生産をするにあたって、固有のIDを付与したICタグを用い、そのICタグを互いに隣接した複数の作業領域で読み出す場合に使用されるICタグ読み出し装置に関し、特に、そのアンテナの設置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、PCやその周辺装置といった機器においては、ユーザのニーズに応じた多品種化が進み、外観上は同じでも内部に組み込まれるユニットが異なるというケースが増えてきている。そのため、製造ラインの切り替えに伴うユニットの管理や組立工程の管理も複雑になってきている。
【0003】
そのような状況の中、特許文献1には、住宅の外壁材として用いられるパネルを製造するに際し、型枠に、固有の型枠番号を付与したIDカードを取り付け、各工程に設置された読み取り装置でIDカードの情報を読み出し、読み出した型枠番号を生産計画データと比較することによって、その型枠を次にどの工程へ供給するかを管理することが開示されている。また、特許文献2には、完成品を構成する個々の部品にICタグを取り付けておき、製品の製造工程において、このICタグに、ICタグが取り付けられた部品に関する種々の情報を書き込んだり読み出したりすることで、製品の製造工程を管理することが開示されている。
【特許文献1】特開2000−167732号公報
【特許文献2】特開2003−271216号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、製造ラインにICタグのシステムを導入し、ICタグ内の情報に基づいて工程の管理を行うことは、製品を効率的に生産するという点で効果的である。しかし、ICタグは一般にRF−ID(Radio Frequency Identification)を利用しており、情報読み出し/書き込み装置(リーダ/ライタ)と非接触で情報の送受信を行うものなので、各工程に設置されるリーダ/ライタが互いに近接していると、リーダ/ライタから照射される電波同士が干渉し、情報の読み出しが不安定になる場合がある。また、リーダ/ライタの通信可能範囲に複数のICタグが存在していると、目的とするICタグ以外の情報も読み出してしまうことがある。特許文献1に記載されたような外壁材の製造においては、ICタグを取り付ける型枠自体が大きなサイズなので、そのような問題は生じにくいが、PCや携帯型電子機器などの製造においては、製造ラインの占有面積を小さくすることもあり、同一の製造ライン中での各工程間のピッチは、作業に支障を来たさない範囲で最小限とされる。このことは、上記の情報の読み出しに対する問題を益々顕著にする。この問題を解決するためには、サイズや形状等の違うアンテナに変更し、情報の読み出し状態に応じて通信可能距離を調整することが考えられる。しかし、読み出し状態が変わるたびに違うアンテナに変更することは、アンテナの新規導入や選定のための検証等でコストや時間が大幅に増加してしまうため好ましくない。
【0005】
上記の問題は、機器の製造ラインだけでなく、ICタグを用いて固有のIDの管理を互いに隣接した複数の場所で同時に行う場合にも発生し得る。
【0006】
そこで本発明は、RF−IDを導入して固有のIDを管理する場合において、複数の読み出し装置が近接して配置された場合であっても情報の読み出しを安定して行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明のアンテナ設置冶具は、固有のIDが書き込まれたICタグを用いて、複数の作業領域で前記IDの管理を行う際に、前記IDを非接触で読み出すためのアンテナを前記複数の作業領域に設置するのに用いられるアンテナ設置冶具であって、
前記アンテナは、前記IDを読み出すための電波を照射する電波照射面を有する平板状のアンテナであり、
前記複数の作業領域のうち隣接する作業領域への、前記アンテナからの電波の照射を遮蔽する遮蔽部材と、
前記遮蔽部材に対する前記アンテナの位置を調整可能に支持する支持手段と、を有する。
【0008】
上記のアンテナ設置冶具において、アンテナを内部に収納する筐体をさらに有し、支持手段は、アンテナの両側端部を支持するために筐体の対向する内面に取り付けられ、それぞれアンテナの側端部が挿入される複数の溝が形成された一対の部材であってもよい。この場合、遮蔽部材は、筐体に取り付けられた金属板で構成することができる。また、筐体を作業領域の作業台に固定するための取り付け部材をさらに有していてもよい。
【0009】
本発明の読み出し装置は、固有のIDが書き込まれたICタグを用いて、複数の作業領域で前記IDの管理を行う際に、前記IDを非接触で読み出すために前記複数の作業領域に設置される読み出し装置であって、
前記IDを読み出すための電波を照射する電波照射面を有する平板状のアンテナと、
前記アンテナから電波を照射することによって前記ICタグから送られてくるRF信号をデジタルに変換する通信回路部と、
前記通信回路部で変換された信号を演算処理する演算処理部と、
前記複数の作業領域のうち隣接する作業領域への、前記アンテナからの電波の照射を遮蔽する遮蔽部材と、を有し、
前記アンテナは、前記遮蔽部材に対する位置を調整可能に設けられている。
【0010】
本発明の読み出し装置において、アンテナを内部に収納する筐体と、アンテナの両側端部を支持するために筐体の対向する内面に取り付けられ、それぞれアンテナの側端部が挿入される複数の溝が形成された一対の支持部材とを有していてもよい。この場合、遮蔽部材は、筐体に取り付けられた金属板で構成することができる。また、筐体を作業領域の作業台に固定するための取り付け部材をさらに有していてもよい。
【0011】
本発明のアンテナ設置冶具および読み出し装置では、遮蔽部材によって、アンテナから照射される電波の、隣接する作業領域への広がりが抑制され、しかもその広がりは、遮蔽部材に対するアンテナの位置を調整することによって調整可能である。
【発明の効果】
【0012】
上記のように構成された本発明によれば、隣接する作業領域への、アンテナから照射される電波の広がりが抑制され、かつ、遮蔽部材に対するアンテナの位置が調整可能であるので、隣接する作業領域の影響を受けることなく、目的とするICタグを安定して読み出すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0014】
本発明は、ICタグ、非接触データキャリア、無線ICタグ、非接触IC、非接触ICラベル、非接触ICタグなどと呼称されるRF−ID(Radio Frequency-Identification:電波方式認識)を用いるものである。本発明においては、ICタグは、無線等の非接触の通信媒体を用いてデータ交信を行い、固体識別符号などの情報を記録するメモリ付き集積回路を有する媒体を示す。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態による製造システムの概略図である。本実施形態ではノート型PCの製造システムを例に挙げて説明する。この製造システムは、RF−IDを利用して、製造される個々の製品の管理を行うもので、大きく分けて、この製造システムの各工程を管理するライン管理装置10と、作業者が各工程の作業を実際に行う組立ライン15と、各種ラベルや保証書を印刷する複数のプリンタ13a〜13dとを有する。なお、図1では1つの製造システムのみを示しているが、同様の構成を有する一つまたは複数の製造システムが、図示した製造システムに並設されている。各製造システムで製造される製品の機種は同一であることもあるし、異なることもある。
【0016】
ライン管理装置10は、ライン制御部11と、生産指示データベース12とを有する。生産指示データベース12は、製造される各製品について、ID番号、納期、受注番号、型番、シリアルナンバーおよび構成コードなどといった事項や、各製品を製造する際の工程毎の作業手順を格納している。これらのデータはICタグ20の作製に利用される。ライン制御部11は、ICタグ20の作製に必要なデータを生産指示データベース12から読み出し、読み出したデータをプリンタ13aに送出する。プリンタ13aは、ライン制御部11から送出されたデータに応じてICタグ20に印刷を行う。
【0017】
ICタグ20は、ICチップ(不図示)を樹脂基材の中に埋め込んだカード状のタグである。また、ICタグ20は製品に取り付けるものではなく製造システム内のみで用いられるものであり、ICチップ内のデータを更新することによってリサイクル可能である。そこで、プリンタ13aもICタグ20へ繰り返し印刷が可能なものとしている。
【0018】
図2に示すように、ICタグ20の表面には、ID番号、納期、受注番号、型番、シリアルナンバーおよび構成コードが印刷されている。また、ICタグ20への繰り返し印刷によってICタグ20に反りが生じたりするのでICタグ20のリサイクル回数は制限される。そこで、ICタグ20の表面には、ICタグ20の発行回数およびリサイクル可能な回数(残度数)も印刷されている。これらの情報を印刷するのは、現在製造している製品に関する主な事項を作業者が目視で確認できるようにするためである。さらに、ICタグ20の表面には、二次元コード20aが印刷されている。二次元コード20aは、受注番号、型番、シリアルナンバー、構成コードなどの事項を示す。二次元コード20aは、製品のテスト工程における、BIOSなどの基本情報を記憶部に書き込むDMI書き込み時に必要な内容を読み込むために活用される。ICタグ20に内蔵されたICチップには、製品のID番号とICタグ20のリサイクル回数が格納されている。ICチップへの情報の書き込みは、不図示の書き込み装置によって行われる。
【0019】
再び図1を参照すると、上記のように作製されたICタグ20は、組立ライン15の最初の工程に、作業者によって、または自動で置かれる。本実施形態では、組立ライン15は、複数の作業領域である、2つの組立工程UA1,UA2、3つの検査工程UT1〜UT3、および梱包工程Pを有し、これらの各工程を順次経て作業が行われる。組立工程UA1,UA2では、組立ライン15に投入された、液晶ディスプレイユニット、キーボードユニット、電源ユニット、および光学ディスクドライブユニットなどの各種ユニットが組み付けられる。検査工程UT1〜UT3では、各種ユニットが組み付けられた製品の動作テストや外観検査が行われる。検査工程UT1〜UT3の検査で合格した製品は、次に、梱包工程Pへ行き、バッテリーやACアダプタ、その他の付属品とともに梱包箱に梱包される。
【0020】
組立ライン15では、図3に示すように、各製品25(正確には、検査工程まで終了していないものは半完成品であるが、説明の簡略化のため、半完成品も含めて製品という。)は、ホルダ21に収納されたICタグ20とともに、作業台に沿って移動可能に設けられた作業用パレット18の上に載せられる。作業台は、組立工程UA1,UA2、検査工程UT1〜UT3および梱包工程Pを連続して繋ぐものであり、作業用パレット18は、これら各工程間を順次移動可能に設けられている。製品25はICタグ20とともに、作業用パレット18に載せられたまま、組立工程UA1,UA2から検査工程UT1〜UT3を経て梱包工程Pへと、順番に移動する。
【0021】
各組立工程UA1,UA2、最終の検査工程UT3および梱包工程Pの作業位置にはそれぞれ、各工程での作業内容を管理する工程管理装置30が設置されている。最終の検査工程UT3の作業位置にはさらに、その工程管理装置30からの指令に基づいて、製品に貼付する銘板を印刷するプリンタ13bが設置されている。梱包工程Pの作業位置にも同様に、保証書を印刷するプリンタ13cおよび箱ラベルを印刷するプリンタ13dが設置されている。
【0022】
工程管理装置30は、図4に示すように、ライン管理装置10(図1参照)のライン制御部11と接続する工程制御部33と、その工程管理装置30が設置されている工程に固有のIDを格納するID記憶部31と、CRTやLCD等の表示部32と、ICタグ20のICチップに書き込まれている情報を非接触で読み出すための読み出し装置34とを有する。読み出し装置34は、ICタグ20に書き込まれている情報を、RF−IDを利用して非接触で読み出すためのものであり、図5に示すように、ICタグ20に電波を照射しICタグ20から送られてくるRF信号を受信するアンテナ35と、受信したRF信号をデジタル信号に変換する通信回路部36と、通信回路部36で変換された信号を演算処理して外部(ここでは工程制御部33)へ出力するための演算処理部37とを有する。
【0023】
前述したように、ICタグ20は、製品25と一緒に作業用パレット18上に載せられて各工程へ移動するが、工程管理装置30が設置された工程へ移動すると、読み出し装置34によってICタグ20からID番号が読み出され、工程制御部33へ送出される。工程制御部33は、ID番号が送られてくると、ID記憶部31に格納されている、その工程に固有のIDを読み出して、ICタグ20のID番号とライン制御部11へ送出する。
【0024】
上述したように、生産指示データベース12は組立ライン15で製造される製品25について、ID番号、納期、受注番号、型番、シリアルナンバーおよび構成コードなどの事項や、製品25を製造する際の各工程毎の作業手順を格納するものであり、製品25を製造する際の各工程毎の作業手順については、ICタグ20のID番号と各工程に固有のIDに対応して格納している。
【0025】
ライン制御部11は、ICタグ20のID番号と各工程に固有のIDとが工程管理装置30の工程制御部33から送られてくると、これらに対応して、生産指示データベース12に格納されている作業手順を読み出し、これらを送出した工程制御部33に返送する。また、その作業内容が、銘板の貼付作業、保証書の同梱作業、箱ラベルの貼付作業を含むものである場合には、ライン制御部11は生産指示データベース12に格納されている、銘板、保証書、箱ラベルを印刷するためのデータを読み出して、工程制御部33へ送出する。また、その作業内容が、製品25に組み込まれるユニットを使用し、あるいは同梱される付属品を使用するものであり、これらのIDが送られてきた場合には、ライン制御部11は生産指示データベース12のICタグ20のID番号に対応して各ユニットや付属品のIDを蓄積させる。
【0026】
ライン制御部11は、作業手順が送られてくると、作業手順を表示部32に表示させる。またこのとき、銘板、保証書、箱ラベルを印刷するためのデータも送られてきている場合には、これらの印刷をプリンタ13a〜13dに行わせる。
【0027】
作業者は、表示部32に表示されている作業手順に基づいて所定の作業を行い、また、銘板、保証書、箱ラベルを使用する工程である場合には、プリンタ13b〜13dにより印刷された銘板、保証書、箱ラベルを使用して作業を行う。
【0028】
梱包工程Pまで終了し、箱内に梱包された製品25は、出荷のためにパレット19に積載される。また、ICタグ20はこの段階で回収され、リサイクルされる。このとき、ライン制御部11は、ICタグ20のチップ内情報として格納されているリサイクル回数が予め定められている回数、例えば200回を超えているかを確認し、超えている場合はリサイクルせず廃棄対象とする。リサイクル回数が予め定められている回数の範囲内である場合には、新たな製造対象の製品25のデータを格納する。また、ICタグ20の表面に印刷されている各事項および二次元コードは、消去され、新たに書き換えられる。
【0029】
このように、本実施形態では、組立ライン15の各工程で、必要とされるときに、ICタグ20が読み出され、作業手順が表示され、工程に応じて銘板や保証書などが印刷される、いわゆるオンデマンド型のシステムとなるので、生産指示書、銘板、保証書、箱ラベルの欠品や重複、紛失などは発生しない。
【0030】
なお、ライン制御部11、生産指示データベース12およびプリンタ13aは、一般的なコンピュータシステムとして構成されるものであり、これらは一つの制御部として構成することとしてもよい。
【0031】
以上説明したように、本実施形態の組立ライン15では、製品25と一緒に各工程を移動するICタグ20に与えられた情報に従って所定の作業および処理が行われるので、ICタグ20を正確に読み出すことが重要である。そこで、作業用パレット18の移動および作業者による作業の邪魔にならず、かつ作業用パレット18上に置かれたICタグ20を最も読み出し易い位置として、図3に示したように、アンテナ35が作業用パレット18の下に設置される。また、アンテナ35は、平板状のものが用いられ、その主面である電波照射面が作業用パレット18のICタグ20が設置される面と平行になるように設置される。
【0032】
ここで、アンテナ35の通信可能範囲について考える。図6に示すように、アンテナ35の通信可能範囲C0は、アンテナ35の電波照射面35aに垂直な方向だけでなく、電波照射面35aに平行な方向にも広がりを持っている。特に、通信周波数が13.56MHzである場合は、通信距離CDに対して、それと垂直な方向、言い換えると、作業用パレット18の移動方向LDと平行な方向を含む方向への大きな広がりを持っている。そのため、前後の各工程が近接していると、隣同士のアンテナ35からそれぞれ照射された電波が干渉し、目的とするICタグ20を読み出せなくなったり、隣の工程のICタグ20を読み出してしまったりするおそれがある。
【0033】
そこで、本発明においては、図7に示すように、アンテナ35から照射される電波に対してシールド効果を持つ第1の遮蔽部材38aおよび第2の遮蔽部材38bを設置する。
【0034】
第1の遮蔽部材38aは、アンテナ35の両側に設置され、アンテナ35の電波照射面35aに対して垂直な方向に延びる面を有している。第1の遮蔽部材38aを設置することによって、第1の遮蔽部材38aが設置された側への、アンテナ35から照射された電波の広がりが抑制される。したがって、第1の遮蔽部材38aを、作業用パレット18の移動方向LDについてアンテナ35の両側に設置すれば、通信可能範囲C1を、前後の工程に干渉しないように抑制することができる。
【0035】
第2の遮蔽部材38bは、アンテナ35の、ICタグ20へ向けられる側と反対側に設置される。ICタグ20の読み出しのための電波は、実際には電波照射面35aの裏面(ICタグ20を向く面と反対側の面)からも照射される。仮に第2の遮蔽部材38bがなければ、アンテナ35の裏面から照射された電波は、図7に破線矢印で示すように、第1の遮蔽部材38aの外側から作業用パレット18の上方に回り込み、通信可能範囲C1を広げてしまう。そこで、第2の遮蔽部材38bを設置することで、通信可能範囲C1をより効果的に抑制することができる。
【0036】
ここで、アンテナ35の裏面から照射される読み出し用の電波を完全に遮蔽すると、通信強度が低下し、読み出し性能に影響を与えるおそれがある。そこで、図7に示したように、第1の遮蔽部材38aとアンテナ35との間に、アンテナ35の裏面から照射された電波が通過するのに必要な隙間を設けることが望ましい。このような隙間を設けることにより、アンテナ35の裏面から照射された電波は、図7の太線矢印で示すように、この隙間を通って作業用パレット18の上方に回り込むことができる。その結果、第2の遮蔽部材38bを設置することによる通信強度の低下が抑制される。また、アンテナ35と第1の遮蔽部材35aとの間隔が極端に狭いと、アンテナ35のインピーダンスが大きくずれるため、磁界強度が低下し通信距離が短くなり、最悪の場合は通信ができなくなることが考えられる。アンテナ35と第1の遮蔽部材38aとの間に隙間を設けることは、アンテナ35のインピーダンスのずれを抑制し、これにより、ICタグ20の良好な読み出しが可能となる。
【0037】
なお、ここでいうアンテナ35と第1の遮蔽部材38aとの間の隙間は、アンテナ35の裏面から照射された電波をICタグ20側へ回り込ませるためのものであるので、電波が通過することができれば、この隙間に絶縁体といった他の部材が介在していてもよい。
【0038】
アンテナ35の電波照射面35aに垂直な方向での、電波照射面35aからの遮蔽部材38の突出高さHは、通信可能範囲C1の、電波照射面35aに平行な面内方向への広がりの大きさ、および通信距離CDに影響する。突出高さHが大きくなれば、通信可能範囲C1は狭くなり、通信距離CDも短くなる。そこで、突出高さHを調整可能とし、通信可能範囲C1の、電波照射面35aに平行な面内方向への広がり、および通信距離CDを適宜調整可能とすることで、各工程での作業内容や各工程の配置状況に応じて通信可能範囲C1および通信距離CDを最適に調整し、アンテナ35によるICタグ20の読み出しを良好に行うことができるようになる。
【0039】
図8に、図7に示したようにアンテナを設置するのに用いるアンテナ設置治具の一例の斜視図を示す。図8に示すアンテナ設置治具40は、上面が開口した箱状に構成されてアンテナ35を内部に収納する筐体43と、筐体43の互いに対向する2つの内側面に取り付けられた一対のアンテナ支持部材41(図8では一方のみ図示)と、筐体43の外側面および底面に取り付けられたシールド板44と、このアンテナ設置治具40を作業用台に固定するための取り付けアーム45とを有する。
【0040】
筐体43およびアンテナ支持部材41は、アンテナ35からの電波の照射に影響を与えない部材、例えば樹脂や木などの絶縁体で構成される。アンテナ支持部材41は、アンテナ35の側端部が嵌め込まれる溝42が形成されており、一対のアンテナ支持部材41を筐体43の互いに対向する内側面に取り付け、各アンテナ支持部材41の溝42にアンテナ35の両側端部を挿入することで、アンテナ35は筐体43内に支持される。また、図7における遮蔽部材38の突出高さHに相当する、筐体43内での、アンテナ35の電波照射面35aに垂直な方向(アンテナ35からの電波照射方向)へのアンテナ35の位置を段階的に変えられるように、アンテナ35からの電波照射方向に複数の溝42が形成されている。アンテナ35をどの溝42に挿入するかは、その組立ライン自身の各工程のピッチや、隣接する組立ラインの位置あるいは有無などに応じて決められる。本例では、アンテナ支持部材41に6本の溝42が2cmピッチで形成されている。また、筐体43の前面または背面は、アンテナ35の位置調整の際にアンテナ35を溝42に沿ってスライドさせて筐体43から抜き差しできるようにするために、筐体43に対して着脱可能、あるいは開閉可能に設けられている。
【0041】
シールド板44は、アンテナ35から照射する電波に対するシールド効果を有する部材であり、図7に示した遮蔽部材38a,38bに相当する。シールド板44としては、アルミ、銅、ステンレス、真鍮などの金属を用いることができる。また、シールド板44は、筐体43の外面に取り付けられており、特に筐体43の側面においては、アンテナ35とシールド板44との間に筐体43およびアンテナ支持部材41が介在している。つまり、筐体43のシールド板44は、アンテナ35と間隔をあけて設置されている。
【0042】
取り付けアーム45は、先端部がフック状の形状となった部材であり、筐体43の両側面にそれぞれ2つずつ回動可能に取り付けられている。これら取り付けアーム45を適宜の向きに向けて、フック状の部分を作業台のパイプに嵌め込むことによって、アンテナ設置治具40を作業台に固定することができる。
【0043】
以上のように、筐体43にアンテナ支持部材41、シールド板44および取り付けアーム45を取り付けただけの極めて簡単な構成で、アンテナ35の通信可能範囲および通信距離を、工程での作業状況や各工程間の距離等に応じて最適に調整し、RF−IDシステムを機器の組立ラインに導入した場合における、各工程でのICタグ20の読み出しを良好に行うことができる。
【0044】
図8に示した例では、アンテナ35の両側での、アンテナ35から照射される電波に対するシールド効果を、筐体43の両側面に取り付けたシールド板44によって発揮させていたが、筐体43の両側面自身をシールド板44と同様の部材で構成してもよい。または、筐体43の両側面に、金属粉を含有した塗料を塗布し、これによってシールド効果を発揮させることもできる。また、図8ではアンテナ35の位置調整を段階的に行う例を示したが、例えば歯車伝動機構やベルト伝動機構などを利用して、位置調整を無段階で行えるようにしてもよい。
【0045】
本実施形態では、ノート型PCの組立ラインを例に挙げて説明したが、本発明はデスクトップ型PCの組立ラインにも適用することができる。ただし、本発明をデスクトップ型PCの組立ラインに適用する場合は、以下の点を考慮する必要がある。
【0046】
デスクトップ型PCは、ノート型PCと比較して設置面積が大きく、作業用パレット18上での占有面積も大きくなるため、作業用パレット18にICタグ20を置くスペースがない場合がある。このような場合は、デスクトップ型PC上の、作業の邪魔にならない位置、例えばPC本体の上やディスプレイの上に置くことが考えられる。しかし、PC本体やディスプレイの上に置かれたICタグ20を、作業用パレット18の下に設置したアンテナ35で読み出すことは困難である。
【0047】
そこで、デスクトップ型PCの組立ラインに本発明を適用する場合は、図9に示すように、作業台の、作業用パレット18の上方にアンテナ35を設置し、デスクトップ型PC55の本体やディスプレイの上に置かれたICタグ20をその上方から読み出すようにする。この場合、アンテナ35の設置には、図8に示したアンテナ設置冶具40の取り付けアーム45を利用することができる。
【0048】
ここでは、アンテナ設置冶具40を作業台に固定するのに取り付けアーム45を用いたが、取り付けアーム45によらず、ボルト・ナット等の適宜固定手段によって固定してもよい。
【0049】
本実施形態では、ICタグ20を情報の読み出し用に用いていたが、ICタグ20は情報の書き込みも可能であるので、アンテナ設置冶具40の構造をリーダ/ライタ用のアンテナの設置に適用すれば、ICタグ20に書き込まれた情報を更新することにも利用することができる。
【0050】
また、本実施形態では、本発明を機器の組立ラインに適用した例を説明したが、本発明は機器の製造に限られるものではなく、食料品、衣料品、生活雑貨等の種々の物品において、その生産工程管理や、例えば倉庫における在庫管理や物流管理などを、RF−IDを利用して、個々の物品情報を複数の作業領域で読み出し、その結果に基づいて個々の物品を管理するのに適用することもできる。さらに本発明は、駅の改札、店舗、展示会等において入退管理をICタグで行ったり、商店において購入した商品の清算をICタグを利用して行ったりする場合も、そのICタグを複数の作業領域で読み出す際に適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施形態による組立ラインの概略図である。
【図2】本発明に用いられるICタグの一例を示す平面図である。
【図3】図1に示す組立ラインにおける作業台の模式的斜視図である。
【図4】工程管理装置のブロック図である。
【図5】読み出し装置のブロック図である。
【図6】アンテナ単体での通信可能範囲を説明する図である。
【図7】アンテナの両側に遮蔽部材を配置した場合の通信可能範囲を説明する図である。
【図8】本発明によるアンテナ設置治具の一例の斜視図である。
【図9】デスクトップ型パーソナルコンピュータの組立ラインにおける作業台の模式的斜視図である。
【符号の説明】
【0052】
10 ライン管理装置
13a〜13d プリンタ
15 組立ライン
18 作業用パレット
19 パレット
20 ICタグ
25 製品
30 工程管理装置
34 読み出し装置
35 アンテナ
35a 電波照射面
36 通信回路部
37 演算処理部
38 遮蔽部材
40 アンテナ設置冶具
41 アンテナ支持部材
42 溝
43 筐体
44 シールド板
45 取り付けアーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固有のIDが書き込まれたICタグを用いて、複数の作業領域で前記IDの管理を行う際に、前記IDを非接触で読み出すためのアンテナを前記複数の作業領域に設置するのに用いられるアンテナ設置冶具であって、
前記アンテナは、前記IDを読み出すための電波を照射する電波照射面を有する平板状のアンテナであり、
前記複数の作業領域のうち隣接する作業領域への、前記アンテナからの電波の照射を遮蔽する遮蔽部材と、
前記遮蔽部材に対する前記アンテナの位置を調整可能に支持する支持手段と、を有するアンテナ設置冶具。
【請求項2】
前記遮蔽部材は、前記アンテナから照射される電波に対するシールド効果を持つ、前記アンテナを間において対向配置された一対の第1部材と、前記アンテナの前記ICタグへ向けられる側と反対側に配置された第2部材とを有し、
前記支持手段は、前記アンテナの、前記電波照射面に垂直な方向への位置を可変に支持する請求項1に記載のアンテナ設置冶具。
【請求項3】
前記アンテナを内部に収納する筐体をさらに有し、
前記支持手段は、前記アンテナの両側端部を支持するために前記筐体の対向する内面に取り付けられ、それぞれ前記アンテナの側端部が挿入される複数の溝が形成された一対の部材である請求項1または2に記載のアンテナ設置冶具。
【請求項4】
前記筐体は絶縁体からなり、前記遮蔽部材は、前記筐体に取り付けられた金属板からなる請求項3に記載のアンテナ設置冶具。
【請求項5】
前記筐体を前記作業エリアの作業台に固定するための取り付け部材をさらに有する請求項3または4に記載のアンテナ設置冶具。
【請求項6】
固有のIDが書き込まれたICタグを用いて、複数の作業領域で前記IDの管理を行う際に、前記IDを非接触で読み出すために前記複数の作業領域に設置される読み出し装置であって、
前記IDを読み出すための電波を照射する電波照射面を有する平板状のアンテナと、
前記アンテナから電波を照射することによって前記ICタグから送られてくるRF信号をデジタルに変換する通信回路部と、
前記通信回路部で変換された信号を演算処理する演算処理部と、
前記複数の作業領域のうち隣接する作業領域への、前記アンテナからの電波の照射を遮蔽する遮蔽部材と、を有し、
前記アンテナは、前記遮蔽部材に対する位置を調整可能に設けられている読み出し装置。
【請求項7】
前記遮蔽部材は、前記アンテナから照射される電波に対するシールド効果を持つ、前記アンテナを間において対向配置された一対の第1部材と、前記アンテナの前記ICタグへ向けられる側と反対側に配置された第2部材とを有し、
前記アンテナは、前記遮蔽部材に対する前記電波照射面に垂直な方向への位置が調整可能に設けられている請求項6に記載の読み出し装置。
【請求項8】
前記アンテナを内部に収納する筐体と、
前記アンテナの両側端部を支持するために前記筐体の対向する内面に取り付けられ、それぞれ前記アンテナの側端部が挿入される複数の溝が形成された一対の支持部材とを有する請求項6または7に記載の読み出し装置。
【請求項9】
前記筐体は絶縁体からなり、前記遮蔽部材は、前記筐体に取り付けられた金属板からなる請求項8に記載の読み出し装置。
【請求項10】
前記筐体を前記作業領域の作業台に固定するための取り付け部材をさらに有する請求項8または9に記載の読み出し装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−115330(P2006−115330A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−302018(P2004−302018)
【出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【出願人】(302069930)NECパーソナルプロダクツ株式会社 (738)
【出願人】(000227205)NECインフロンティア株式会社 (1,047)
【Fターム(参考)】