説明

ICタグ通信装置

【課題】誘電体で構成された搬送路部分により、RFIDタグの内蔵アンテナの周波数特性が変化し、中心周波数における通信性能が悪化して通信エラーが発生する。
【解決手段】ICタグ通信装置の1つであるサーマルプリンタ10は、RFIDタグを有する感熱媒体100を搬送路に沿って搬送し、そのRFIDタグと通信する装置である。サーマルプリンタ10は、RFIDタグと通信するRFIDアンテナ11を有している。前記搬送路は、RFIDアンテナ11と対向する領域を、低誘電領域としての空間エリアbにしている。空間エリアbには、ギャップ12が形成されている。又、空間エリアbには、低誘電体が配置されている。空間エリアbは、RFIDタグ幅より広くなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触型ICタグと通信可能なICタグ通信装置、特にラベル又はシート状の印刷用紙内に内蔵されたRFID(Radio frequency identification)タグに代表される非接触型ICタグに電気的な書き込みを行い、更にラベル又はシート状印刷用紙の表面に印刷を行うことが可能なICタグ通信機能付き印刷装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ICタグ通信装置の1つであるサーマルプリンタにおいて、記録媒体の搬送路上にサーマルヘッドと平行してICタグの読み書き用のアンテナを配設し、記録媒体に埋め込まれたICタグのアンテナとの間の電磁結合を利用して通信する技術が知られている。
【0003】
特許文献1には、ICタグ処理機能付き印刷装置において、搬送路を長くすることなく単一のアンテナでICタグへの読み書きが可能な技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−203487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のICタグ通信装置では、例えばRFIDタグであるICタグに内蔵されたアンテナは、誘電体が近づくと周波数特性が変化する特性を有している。記録媒体の搬送路部分はABS(Acrylonitrile butadiene styrene)樹脂等の誘電体で形成されているため、RFIDタグの内蔵アンテナの周波数特性が変化した状態で装置側アンテナと通信する事になる。この周波数特性の変化により、通信性能が悪化し、よって通信エラーが発生するという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のICタグ通信装置は、ICタグを有する媒体を搬送路に沿って搬送し、前記ICタグと通信するICタグ通信装置であって、前記ICタグと通信するアンテナ部を有し、前記搬送路は、前記アンテナ部と対向する領域を低誘電領域としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のICタグ通信装置によれば、搬送路において、アンテナ部と対向する領域を低誘電領域としたので、ICタグに内蔵されたアンテナの周波数特性のシフトを低減し、最適な周波数特性のまま通信する事が可能となり、安定した通信が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本発明の実施例1におけるIC通信機能を有するサーマルプリンタの構造を示す三面図である。
【図2】図2は、図1のIC通信機能を有するサーマルプリンタを示す斜視図である。
【図3】図3は、図1のIC通信機能を有するサーマルプリンタを示す概略の構成図である。
【図4】図4は、図1のIC通信機能を有するサーマルプリンタにおける感熱媒体と搬送路とを示す三面図である。
【図5】図5は、図1から感熱媒体を除いたIC通信機能を有するサーマルプリンタの構造を示す三面図である。
【図6】図6は、空間エリアbにおけるRFIDタグのアンテナ誘起電圧の中心周波数を示す図である。
【図7】図7は、空間エリアbと搬送路エリアaにおけるRFIDタグのアンテナ誘起電圧の中心周波数を示す図である。
【図8】図8は、本発明の実施例1におけるIC通信機能を有するサーマルプリンタの動作を示すフローチャートである。
【図9】図9は、本発明の実施例2のIC通信機能を有するサーマルプリンタの構造を示す三面図である。
【図10】図10は、本発明の実施例2における搬送路エリアaのRFIDタグのアンテナ誘起電圧を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明を実施するための形態は、以下の好ましい実施例の説明を添付図面と照らし合わせて読むと、明らかになるであろう。但し、図面はもっぱら解説のためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0010】
(実施例1の構成)
図2(a),(b)は、後述する図1のIC通信機能を有するサーマルプリンタを示す斜視図である。
【0011】
図2(a)は、サーマルプリンタ10のカバー部16を閉じた状態を示している。サーマルプリンタ10は、筐体部15と、この筐体部15の一端に開閉可能に取り付けられたカバー部16とで構成されている。図2(a)では、カバー部16は、この筐体部15の上部を覆うように閉じられている。筐体部15とカバー部16との間には、後述する図4に示す感熱媒体100を排紙する排紙口17が形成されている。矢印Aは、サーマルプリンタ10の正面方向を示している。矢印Bは、サーマルプリンタ10の右側面方向を示している。
【0012】
図2(b)は、サーマルプリンタ10のカバー部16が開いた状態を示している。
【0013】
筐体部15の最奥部には、印刷用紙等の媒体としての感熱媒体100が装着される空間が設けられている。その手前には、ABS樹脂で形成された搬送路が設けられている。搬送路には、所定の幅でギャップ12が設けられている。排紙口17に近い部分には、感熱媒体100を搬送する円筒状のプラテン14が用紙幅方向に配設されている。カバー部16には、奥から順に、後述する図4に示す、非接触型ICタグであるRFIDタグ110への情報の読み込み/書き込みに使用するRFIDアンテナ11と、感熱媒体100との接触部を発熱させることで感熱媒体100を発色させて印刷する機能を有するサーマルヘッド13とが、用紙幅方向に配設されている。カバー部16が閉じたとき、RFIDアンテナ11は搬送路を介してギャップ12と対向し、サーマルヘッド13は搬送路を介してプラテン14と対向するようにそれぞれ配設されている。
【0014】
図1(a)〜(c)は、本発明の実施例1におけるIC通信機能を有するサーマルプリンタの構造を示す三面図である。図1(a)は正面図を、図1(b)は右側面図を、図1(c)は平面図を示し、且つサーマルプリンタ10のカバー部16は図示していない。
【0015】
サーマルプリンタ10は、筐体部15と、この筐体部15を覆う図示しないカバー部16を有している。筐体部15には、図1(b),(c)右側に配設されている感熱媒体100と、その左側に設けられている高誘電領域としての平面状の第1の搬送路エリアaと、搬送路エリアaの媒体搬送方向下流側に配設された低誘電領域としての空間エリアbと、空間エリアbの媒体搬送方向下流側に配設された他の高誘電領域としての第3の搬送路エリアcとを有している。空間エリアbの下側には、ギャップ12が形成されている。搬送路エリアcの下部には、円筒状のプラテン14が設けられている。
【0016】
図示しないカバー部16は、アンテナ部としてのRFIDアンテナ11とサーマルヘッド13とを有している。RFIDアンテナ11は、空間エリアbに対応する位置に配設され、RFIDタグ110への情報の読み込み/書き込み機能を有している。サーマルヘッド13は、搬送路エリアcに対応する位置に配設され、発熱によって感熱媒体100を発色させて印刷する機能を有している。
【0017】
第1の搬送路エリアaは、一方の側である下側が第1の誘電体であるABS樹脂で構成されている。第1の距離である搬送路エリアaにおける媒体搬送方向の長さは、D1である。
【0018】
第2の距離である空間エリアbの媒体搬送方向の長さD2は、17mmである。空間エリアbは、一方の側である下側に第2の距離である長さD2の空間部であるギャップ12を有し、更に他方の側である上側にギャップ12の幅に含まれるよう配設されたRFIDアンテナ11を有している。
【0019】
第3の搬送路エリアcは、一方の側である下側が第3の誘電体であるABS樹脂で構成されている。第3の搬送路エリアcは、第3の誘電体であるABS樹脂で構成されている。第3の距離である搬送路エリアcの媒体搬送方向の長さは、D3である。
【0020】
本実施例1では、第1の搬送路エリアaを構成する第1の誘電体、及び第3の搬送路エリアcを構成する第3の誘電体は、ABS樹脂(比誘電率2.4〜4.1)である。しかし、これに限定されず、例えば、AS(Acrylonitrile Stylene)樹脂(比誘電率2.6〜3.1)、エチレン樹脂(比誘電率2.2〜2.3)、エポキシ樹脂(比誘電率2.5〜6)、アクリル樹脂(比誘電率2.7〜4.5)、アクリルニトリル樹脂(比誘電率3.5〜4.5)、ポリアセタール樹脂(比誘電率3.6〜3.7)、ナイロン6(比誘電率3.5〜4.0)、ナイロン66(比誘電率3.4〜3.5)等の樹脂材料でもよく、更に誘電率の高い物質であれば樹脂材料に限定されない。
【0021】
筐体部15における高さは50mm、媒体幅方向の長さは170mm、媒体搬送方向の長さは250mmである。サーマルヘッド13における媒体搬送方向の幅は20mm、媒体幅方向の長さは120mmである。空間エリアbにおけるギャップ12の幅方向の長さは110mm、媒体搬送方向の幅は17mm、深さは10mmである。RFIDアンテナ11の媒体搬送方向の幅は、ギャップ12の幅よりも小さく、媒体幅方向の長さは120mmである。RFIDアンテナ11は、空間部であるギャップ12の幅に含まれるよう配設されている。
【0022】
図3は、図1のIC通信機能を有するサーマルプリンタを示す概略の構成図である。
【0023】
サーマルプリンタ10は、上位装置40と通信可能に接続されている。サーマルプリンタ10は、中央処理装置(以下、「CPU」という。)20と、このCPU20に接続されている不揮発性メモリ(以下、「ROM」という。)26と、揮発性メモリ(以下、「RAM」という。)27と、サーマルヘッドコントローラ23によって制御されるサーマルヘッド13と、モータドライバ25によって制御されるプラテン用モータ24と、RFIDリーダ/ライタ21によって制御されるRFIDアンテナ11とを有している。
【0024】
図4(a)〜(c)は、図1のIC通信機能を有するサーマルプリンタにおける感熱媒体と搬送路とを示す三面図である。図4(a)は正面図を、図4(b)は右側面図を、図4(c)は平面図を示している。
【0025】
感熱媒体100は、ベースとなる長尺の剥離紙101がロール状に巻かれ、その剥離紙101上に、ほぼ正方形のラベル102(=102−1,102−2,・・・)が連続して貼り付けられて形成されている。各ラベル102の表面には、感熱剤が塗布されており、熱が印加されることによって発色する。各ラベル102には更に、中央部且つやや左側にRFIDタグ110(=110−1,110−2,・・・)がそれぞれ内蔵されており、電磁波を介してサーマルプリンタ10のRFIDアンテナ11と情報の送受信を行う機能を有している。第4の距離である各RFIDタグ110の媒体搬送方向の間隔は、長さD4(例えば、30mm)である。第5の距離であるRFIDタグ110のアンテナ形状の媒体搬送方向の長さは、D5(例えば、10mm)である。
【0026】
RFIDタグ110には、多量の情報を記録することができる。よって、電波を使って商品識別コード、商品情報等の情報を読み出し/書き込みが可能である。そのためラベル102にRFIDタグ110を埋め込み、このRFIDタグ110に情報を記録することにより、記録した情報をラベル102が貼り付けられた商品の精算や管理、及びセキュリティ管理等に利用している。
【0027】
しかし、RFIDタグ110に記録されている情報は電子情報であるため、記憶されている情報は直接には人間が認識できない。そのため、RFIDタグ110をラベル102に埋め込み、RFIDタグ110に記録した情報の一部をラベル102上に文字情報等により印刷し、人間が認識できるようにしている。更に、RFIDタグ110に記録している情報の一部又は全部を、ラベル102上にバーコード又は二次元コード等で印刷し、故障等の原因によりRFIDタグ110を読み取ることができない場合に、必要な情報をバーコードリーダ等により迅速に読み取れるようにしてもよい。
【0028】
サーマルプリンタ10は、このようなRFIDタグ110を埋め込んだ印刷用紙であるラベル102に対して、RFIDタグ110への情報の書き込み処理と、ラベル102への印刷処理とを、一台の装置で同時に行うことのできるICタグ通信機能付き印刷装置の一例である。
【0029】
図5(a)〜(c)は、図1から感熱媒体を除いたIC通信機能を有するサーマルプリンタの構造を示す三面図である。図5(a)は正面図を、図5(b)は右側面図を、図5(c)は平面図を示し、且つサーマルプリンタ10のカバー部16は図示していない。
【0030】
空間エリアbにおけるギャップ12の媒体幅方向の長さは110mmであり、媒体搬送方向の幅は17mmであり、深さは10mmである。RFIDアンテナ11の媒体搬送方向の幅は10mmである。
【0031】
ラベル102は、媒体搬送路上を移動し、RFIDアンテナ11の下部及びサーマルヘッド13の下部を通過して排出される。本実施例1の媒体搬送路は、誘電体で構成されている。本実施例1の誘電体は、ABS樹脂であり、比誘電率は2.4〜4.1である。誘電体とは、導電性よりも誘電性が優位な物質である。誘電体は、広いバンドギャップを有し、直流電圧に対しては電気を通さない絶縁体としてふるまう。
【0032】
RFIDアンテナ11の下部且つ空間エリアbの一方の側に、誘電体を削除した空間エリアbを設け、RFIDタグ110と誘電体との間にギャップ12を設けている。ギャップ12は、誘電体を削除したことにより、誘電率が低い空気(比誘電率1.00059)で構成される事になる。しかし、媒体搬送路の強度が問題になる場合には、RFIDアンテナ11の下部且つ空間エリアbの一方の側に、第2の誘電体である低誘電部の搬送路を設けることで、同様の効果を得る事が可能である。第2の誘電体は、例えば誘電率が低いポリスチレン(比誘電率2.4〜2.6)、ポリプロピレン樹脂(比誘電率2.25)、高密度ポリエチレン(比誘電率2.2)等の物質である。
【0033】
RFIDタグ110は、誘電体が近づくと、RFIDタグ110に内蔵されたアンテナの周波数特性が低い周波数にシフトする。周波数特性がシフトすると、本来通信に使用している周波数f0において感度が低下し、外来ノイズの影響等を受けやすくなり、よって通信エラーの発生原因となる。
【0034】
RFIDアンテナ11の下部且つ空間エリアbの一方の側である下側に、ギャップ12を設ける構成としている。この構成により、RFIDアンテナ11とRFIDタグ110とが通信する空間エリアbにおいては、RFIDタグ110に内蔵されたアンテナの周波数特性を低域へシフトさせず、通信する事が可能となる。
【0035】
ギャップ12の媒体搬送方向の長さD2は、RFIDタグ110の間隔の長さD4よりも長くなければならない。複数のRFIDタグ110がギャップ12に存在することによる混信を防ぐためである。
【0036】
ギャップ12の媒体搬送方向の長さD2は、RFIDタグ110のアンテナ形状の長さD5よりも大きい事が望ましい。RFIDタグ110のアンテナの周波数シフトを確実に抑止するためである。しかし、RFIDタグ110のアンテナ形状の長さD5よりも媒体搬送方向の長さD2が小さいギャップ12を配置した場合であっても、周波数特性のシフトを減少させる効果は得られる。
【0037】
(実施例1の動作)
図3を元に、図1のサーマルプリンタの動作を説明する。
【0038】
CPU20は、通信可能に接続されている上位装置40から印刷データを受信し、受信した印刷データをサーマルヘッドコントローラ23に転送すると共に、モータドライバ25を制御することにより感熱媒体100の搬送を制御する。
【0039】
サーマルヘッドコントローラ23は、CPU20から受信した印刷データを、サーマルヘッド13用のフォーマットに変換し、サーマルヘッド13に転送する。サーマルヘッド13は、サーマルヘッドコントローラ23から転送されたデータによって指定された発熱体を発熱させ、感熱媒体100に印刷データを記録する。
【0040】
モータドライバ25は、プラテン14を駆動するプラテン用モータ24を回転させるドライバであり、CPU20から回転速度や回転量の指示を受けて、プラテン用モータ24を回転させる。ROM26には、CPU20上にて動作するプログラムやフォントデータが格納されている。RAM27には、一時的に記録が必要な印刷データ等が格納されている。RFIDリーダ/ライタ21は、CPU20の制御によりRFIDタグ110とのデータ送受信を電磁界通信によって行う。RFIDタグ110との電磁界通信は、RFIDアンテナ11経由で行われる。
【0041】
図6は、空間エリアbにおけるRFIDタグのアンテナ誘起電圧の中心周波数を示す図である。図6の横軸は周波数を示し、縦軸はRFIDタグのアンテナ誘起電圧を示している。
【0042】
図6の実線は、ギャップ12を設けて、RFIDタグ110付近に誘電体が無い場合のRFIDタグ110に内蔵されたアンテナの周波数特性を示している。中心周波数f0において、RFIDタグ110のアンテナに誘起する電圧が最大となる。RFIDリーダ/ライタ21及びRFIDアンテナ11は、この中心周波数f0を使用して通信を行う。
【0043】
図7は、空間エリアbと搬送路エリアaにおけるRFIDタグのアンテナ誘起電圧の中心周波数を示す図である。図7の横軸は周波数を示し、縦軸はRFIDタグ110のアンテナ誘起電圧を示している。
【0044】
図7の細線は、空間エリアbのように近傍に誘電体が存在しない場合のRFIDタグ110のアンテナ誘起電圧を示している。図7の太線は、搬送路エリアaのように近傍に誘電体が存在する場合のRFIDタグ110のアンテナ誘起電圧を示している。
【0045】
図7の太線は、上側や下側等の近傍に存在する誘電体の影響により、RFIDタグ110に内蔵されたアンテナの周波数特性が周波数の低い方にシフト量A〔MHz〕だけシフトし、中心周波数は(f0−A)〔MHz〕となる。
【0046】
中心周波数がシフト量A〔MHz〕だけシフトした事により、周波数f0〔MHz〕で通信した場合には、RFIDタグ110に内蔵されたアンテナの誘起電圧が低下する。この影響により、通信しにくい状態となり、通信エラー等の不具合が発生する原因となっている。中心周波数のシフト量A[MHz]は、RFIDタグ110の種類によって異なる。
【0047】
RFIDアンテナ11とRFIDタグ110とが通信する際に、媒体を搬送しながら通信する場合には、通信開始地点からギャップ12を設ける必要がある。
【0048】
ギャップ12は媒体搬送路の空間エリアbに形成しているが、搬送路エリアaにはギャップ12を配置していない。よって、搬送路エリアaでは、RFIDタグ110と媒体搬送路を形成する誘電体が近接した状態となっており、RFIDタグ110の周波数特性がシフトして通信しにくい状態にある。搬送路エリアaにあるRFIDタグ110は、現在通信対象としているRFIDタグ110ではなく、次に通信を行うRFIDタグ110である。よって、搬送路エリアaにあるRFIDタグ110は本来通信すべき対象ではないため、周波数特性がシフトした事によって通信しにくい状態にあることは、誤って次に通信を行うべきRFIDタグ110と通信してしまう不具合を防ぐ効果をもたらしている。
【0049】
搬送路エリアaの媒体搬送方向の長さD1、及び搬送路エリアcの媒体搬送方向の長さD3は、RFIDタグ110のアンテナ形状の長さD5よりも長くなければならない。誤って通信対象でないRFIDタグ110の周波数特性をシフトさせて通信しにくくし、よって通信対象でないRFIDタグ110との通信を抑止するためである。
【0050】
図8は、本発明の実施例1におけるIC通信機能を有するサーマルプリンタの動作を示すフローチャートである。
【0051】
処理が開始すると、ステップS1において、サーマルプリンタ10は、上位装置40から印刷データとタグ情報の受信を待機する。上位装置40から印刷データとタグ情報とを受信したならば、全受信データに係るラベル102について、ステップS2〜S12の処理を繰り返す。
【0052】
ステップS3において、感熱媒体100を搬送する。
【0053】
ステップS4において、サーマルプリンタ10は、ラベル102をRFIDタグ110の通信エリアまで移動させたならば、ステップS5において、ラベル102が有しているRFIDタグ110と通信し、当該ラベル102に係るタグ情報を書き込む。
【0054】
ステップS6において、サーマルプリンタ10は、感熱媒体100を搬送し、ステップS7において、印刷エリアまで媒体の搬送が完了したならば、ステップS8〜S11において、当該ラベル102に係る全ラインの印刷データの繰り返し処理を行う。ステップS9において、サーマルヘッド13に1ライン分のデータを転送し、ステップS10においてサーマルヘッド13を発熱させて、感熱媒体100上のラベル102を印刷する。ステップS11において、全ラインの印刷データの処理が終わったならば、ステップS12において、全受信データに係るラベル102についての処理が終了したか否かを判定する。全ての処理が終了したならば、図8の処理を終了する。
【0055】
(実施例1の効果)
本実施例1のサーマルプリンタ10によれば、次の(A)〜(C)のような効果がある。
【0056】
(A) 媒体搬送路にギャップ12を設けることで、RFIDタグ110に内蔵されたアンテナの周波数特性のシフトを低減し、最適な周波数特性のまま通信する事が可能となり、安定した通信が実現できる。
【0057】
(B) RFIDタグ110の種類によって誘電体の影響が異なるため、誘電体の影響が大きいRFIDタグ110は使用できない問題があったが、本実施例1を適用する事で使用が可能となる。
【0058】
(C) ギャップ12の媒体搬送方向上流側である搬送路エリアaと媒体搬送方向下流側である搬送路エリアcを誘電体で構成し、且つ搬送路エリアaの長さD1と、搬送路エリアcの長さD3をRFIDタグ110のアンテナ形状の長さD5よりも長くする構成としている。この構成により、通信対象でないRFIDタグ110に内蔵されたアンテナの周波数特性を確実にシフトさせ、誤って通信することを抑止できる。
【実施例2】
【0059】
実施例1では、搬送路エリアaの誘電体によってRFIDタグ110の周波数特性をシフトした状態としている。しかし、感熱媒体100が誘電体から離れる方向に膨らんだ場合には周波数特性のシフトは少なくなる。更に、RFIDタグ110の種類によっては誘電体の影響が少ないものも考えられる。そのため、本来の通信対象ではないRFIDタグ110と誤って通信する不具合が発生するおそれがあった。本実施例2は、この課題を解決した例である。
【0060】
(実施例2の構成)
図9(a)〜(c)は、本発明の実施例2におけるIC通信機能を有するサーマルプリンタの構造を示す三面図であり、実施例1を示す図1中の要素と共通の要素には共通の符号が付されている。図9(a)は正面図を、図9(b)は右側面図を、図9(c)は平面図を示し、且つサーマルプリンタ10Aのカバー部16Aは図示していない。
【0061】
本実施例2のサーマルプリンタ10Aは、実施例1のサーマルプリンタ10と同様の構成に加えて、図示しないカバー部16Aに、媒体ガイド部としての第4の誘電体であるブロック30を配設している。ブロック30は、搬送路エリアaの一方の側である上側に配設され、ブロック30と媒体搬送路を構成する第1の誘電体との間に、感熱媒体100が搬送されるように構成されている。ブロック30によって、感熱媒体100が媒体搬送路から離れる方向に膨らむことを規制できる。
【0062】
ブロック30における媒体搬送方向の長さは20mm、高さは5mm、媒体幅方向の長さは120mmである。
【0063】
第4の誘電体であるブロック30は、第1、第3の誘電体と同様に誘電率の高い物質によって構成されることが望ましい。
【0064】
(実施例2の動作)
図10は、本発明の実施例2における搬送路エリアaのRFIDタグのアンテナ誘起電圧を示す図である。図10の横軸は周波数を示し、縦軸はRFIDタグ110のアンテナ誘起電圧を示している。
【0065】
図10の細線は、例えば実施例1、2の空間エリアbのように近傍に誘電体が存在しない場合のRFIDタグ110のアンテナ誘起電圧を示している。図10の破線は、例えば実施例1の搬送路エリアaのように一方の側である下側に第1の誘電体であるABS樹脂が存在する場合のRFIDタグ110のアンテナ誘起電圧を示している。図10の太線は、例えば実施例2の搬送路エリアaのように一方の側である下側に第1の誘電体が存在し、且つ他方の側である上側に第4の誘電体であるブロック30が存在する場合のRFIDタグ110のアンテナ誘起電圧を示している。
【0066】
本実施例2では、ブロック30自体が第4の誘電体で構成されているため、搬送路エリアaと併せて、RFIDタグ110に対して周波数特性をシフト量B〔MHz〕だけシフトする効果を発揮する。よって、実施例1における搬送路エリアaのみで構成されている場合よりも、周波数特性のシフト量が(B−A)〔MHz〕だけ増大する。更に中心周波数がシフト量(B−A)〔MHz〕だけシフトした事により、周波数f0〔MHz〕で通信した場合には、RFIDタグ110に内蔵されたアンテナの誘起電圧が更に低下して通信しにくい状態となる。この構成により、現在通信対象としていないRFIDタグ110と誤って通信してしまう不具合を防ぐ効果をもたらしている。
【0067】
(実施例2の効果)
本実施例2のサーマルプリンタ10Aによれば、次の(D),(E)のような効果がある。
【0068】
(D) ブロック30が配置された事によって、感熱媒体100が媒体搬送路から離れる方向に膨らむことを規制できる。よって、搬送路エリアaにおけるRFIDタグ110の周波数特性を確実に低域にシフトし、周波数f0〔MHz〕で通信した場合のアンテナの誘起電圧を確実に低下させることが可能である。
【0069】
(E) 実施例1に対して追加されたブロック30により、搬送路エリアaにおけるRFIDタグ110の周波数特性は、実施例1に対してさらに低域にシフトし、周波数f0〔MHz〕で通信した場合のアンテナの誘起電圧は更に低下する。よって、本来通信対象ではないRFIDタグ110に対して誤って通信してしまう不具合を、実施例1よりも更に少なくすることが可能である。
【0070】
(変形例)
本発明は、上記実施例に限定されず、種々の利用形態や変形が可能である。この利用形態や変形例としては、例えば、次の(a)〜(d)のようなものがある。
【0071】
(a) 実施例1及び実施例2は、RFID読み込み/書き込み装置を内蔵したサーマルプリンタ10,10Aの例を説明した。しかし、これに限定されずに、インクジェット方式のプリンタや、発光ダイオード方式、レーザ方式等のプリンタであってRFIDの読み込み/書き込み機能を有する装置、又は、印刷機能を有さないRFID読み込み/書き込み装置にも適用可能である。
【0072】
(b) 実施例1は、搬送路エリアaの下側に第1の誘電体を設け、搬送路エリアcの下側に第3の誘電体を設けた例を説明した。しかし、これに限定されず、搬送路エリアaの上側に第1の誘電体を設けてもよく、搬送路エリアcの上側に第3の誘電体を設けてもよい。
【0073】
(c) 実施例1及び実施例2は、RFIDタグ110を内蔵したシート状の感熱媒体100の例を説明した。しかし、これには限定されず、カード状の媒体に組込まれたRFIDタグ110の読み込み/書き込み装置にも適用可能である。
【0074】
(d) 実施例2は、RFIDアンテナ11に対して媒体搬送方向上流側である搬送路エリアaの一方の側である上側に、誘電体で構成されているブロック30を配設し、現在通信対象としていない次のRFIDタグ110と誤って通信してしまう不具合を防ぐ例を示した。しかし、これに限定されず、RFIDアンテナ11に対して媒体搬送方向下流側である搬送路エリアcの上側に配置されたサーマルヘッド13を第5の誘電体で構成してもよい。更に、サーマルヘッド13の周囲を第5の誘電体で埋めてもよい。これらの構成により、搬送路エリアcにおけるRFIDタグ110に対して、実施例1及び実施例2よりも更に周波数特性をシフトする効果を奏する。よって、既に情報を書き込み済みのRFIDタグ110に誤って通信することを抑止できる。なお、第5の誘電体は、第1、第3、第4の誘電体と同様に高い誘電率を有する物質であることが望ましい。
【符号の説明】
【0075】
10,10A サーマルプリンタ
11 RFIDアンテナ
12 ギャップ
13 サーマルヘッド
14 プラテン
15 筐体部
16 カバー部
17 排紙口
20 CPU
21 RFIDリーダ/ライタ
23 サーマルヘッドコントローラ
25 モータドライバ
26 ROM
27 RAM
24 プラテン用モータ
30 ブロック
40 上位装置
100 感熱媒体
101 剥離紙
102 ラベル
110 RFIDタグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ICタグを有する媒体を搬送路に沿って搬送し、前記ICタグと通信するICタグ通信装置であって、
前記ICタグと通信するアンテナ部を有し、
前記搬送路は、前記アンテナ部と対向する領域を低誘電領域としたことを特徴とするICタグ通信装置。
【請求項2】
前記低誘電領域には、ギャップが形成されることを特徴とする請求項1記載のICタグ通信装置。
【請求項3】
前記低誘電領域には、低誘電体が配置されることを特徴とする請求項1記載のICタグ通信装置。
【請求項4】
前記低誘電領域は、前記ICタグ幅より広いことを特徴とする請求項1記載のICタグ通信装置。
【請求項5】
前記低誘電領域は、前記ICタグの搬送方向幅より広いことを特徴とする請求項1記載のICタグ通信装置。
【請求項6】
前記低誘電領域より搬送方向上流側に、高誘電領域を設けたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のICタグ通信装置。
【請求項7】
前記低誘電領域より搬送方向下流側に、他の高誘電領域を設けたことを特徴とする請求項6記載のICタグ通信装置。
【請求項8】
前記高誘電領域は、前記搬送路上方に設けられた媒体ガイド部を有することを特徴とする請求項6記載のICタグ通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−103942(P2012−103942A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252618(P2010−252618)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(591044164)株式会社沖データ (2,444)
【Fターム(参考)】