説明

ICチップ内蔵シートおよび製造方法

【課題】偽造防止効果が高いICチップ内蔵シートと、紙シートにシワが入ることなく、ICチップ回路を破損することなく、効率的かつ大量に生産することができる製造方法を提供。
【解決手段】
プラスチックフィルム1層から成るスレッド基材に、外部アンテナの片面上に複数ビットのメモリを内蔵するICチップを搭載・接続した構造のインレットが接着されているスレッドであり、該インレッドが配置されていない領域に、該スレッド幅に対して最大幅の割合が25%〜75%である穿孔が設けられており且つ穿孔面積の割合がインレットが配置されていない領域の10%以下であるスレッドを、3層以上の層にて構成される紙の中層のうちの1層以上の中に設けられた溝状の空隙部分に収まるように抄き込まれてなるICチップ内蔵シートであり、抄紙時のトータルドローを5%以内にして製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はICチップを内蔵したシートおよびその製造方法に関する。さらに詳しくは、シワのない偽造防止効果の高いICチップ内蔵シート及びICチップの破損を生じることのないICチップ内蔵シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紙幣や商品券等には、変造又は偽造を防止するため、透かし、着色、蛍光発色繊維若しくは紙片若しくは粒子状物の抄き込み又はケミカルリアクション等の偽造防止対策が施されている。偽造防止対策の考え方の一つは、容易に製造できないように高度な製造技術を用いて用紙を製造することである。その一例として、プラスチックフィルムや薄葉紙等をマイクロスリッターで数mm程度の細巾にスリットしたスレッドを紙層内に抄き込んだ「スレッド入り紙」と呼ばれる偽造防止用紙があり、各国の紙幣等で多く使用されている(特許文献1乃至4)。
【0003】
一方、電波を用いてデータの読み出しや書き込みを行い、非接触で対象物を自認する技術(RFID:Radio Frequency Identification)が実用化され、微細なICチップを紙またはフィルム状の媒体中に挿入することが提案されている。このようなICチップとして、例えば、複数ビットのメモリを内蔵しかつアンテナ配線を備えた一辺0.5mm以下のICチップが使用されている。
【0004】
ICチップ回路を載置又は内部保持したスレッドを紙層間に抄き込む技術が知られている(特許文献5乃至7)。この技術を用いれば、ICチップに記録された情報に基づいて個別認証が行われるので、さらなる偽造防止効果が期待できる。
【0005】
しかし、ICチップ、例えば、外部アンテナ接続型チップにおいては、チップと外部アンテナとの接続部分の強度は大きくない。また、一般的に、外部アンテナは、金属等の薄膜で形成されているので、外部アンテナ自体の強度も大きくない。したがって、ICチップ内蔵シートを製造工程において、ICチップ内蔵シートが応力を受けると、前記接続部分や外部アンテナ自体が破損し、所望の機能を発揮し得ない場合がある。
また、プラスチックフィルム製スレッドと紙とには、伸縮率の差があり、ICチップ及びアンテナの接続分は、基材のプラスチックフィルムとも伸縮率が異なるため、シートにしたときのシワ製や、造時の応力の負荷により、接続部分や外部アンテナ自体が破損するという問題が生じているのが、現状である。
【0006】
また偽造防止の目的の為、スレッド基材に目視で認識可能な複数の穿孔が施される技術が開示されている(特許文献8)。しかしながら、この技術はRFIDのICまたはアンテナ破損対策ではなく、模様や文字を認識するためのものであり、実際の応力の負荷対策としては使用できない技術である。
【0007】
スレッドの形状については、スレッドロールとして巻取り処理された状態において、スレッドに大きな貫通孔を設け、巻取時に貫通孔にチップを貫通孔に収めICチップによる凹凸が出ないようにする技術が開示されている(特許文献9)。しかしながら、実際にスレッドを抄紙の際に抄き込む際にはロール状の状態から巻き戻しをする際に、ICチップが貫通孔が引っかかる、あるいはテープガイドに穴が引っかかる等により、スレッドが断線してしまい抄き込みができない、というトラブルが生じてしまう。
【0008】
【特許文献1】特開昭48−75808号公報
【特許文献2】特開昭50−88377号公報
【特許文献3】特開昭51−130308号公報
【特許文献4】特開平10−292297号公報
【特許文献5】特開2002−319006号公報
【特許文献6】特開2004−139405号公報
【特許文献7】特開2005−350823号公報
【特許文献8】特開2003−286693号公報
【特許文献9】特開2005−284389号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、従来技術の問題を解決すべく、偽造防止効果が高いICチップ内蔵シートおよび、紙シートにシワが入ることなく、また、ICチップ回路を破損することなく、ICチップ内蔵シートを効率的かつ大量に生産することができる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するべく、本発明らは紙シートとICチップを搭載・接続したスレッドとの伸縮性について検討し、スレッドを穿孔により意識的にICチップ及びアンテナ部より基材の強度を弱くすることにより、製造時の応力の負荷により、接続部分や外部アンテナ自体が破損することを防ぐことを見出したものである。
本発明は以下の発明を包含する。
(1)プラスチックフィルムから成るスレッド基材に、外部アンテナの片面上に複数ビットのメモリを内蔵するICチップを搭載・接続した構造のインレットが接着されているスレッドであり、該スレッドのインレッドが配置されていない領域に、該スレッド幅に対して最大幅の割合が25%〜75%である穿孔が設けられており且つ穿孔面積の割合がインレットが配置されていない領域の10%以下であるスレッドを、3層以上の層にて構成される紙の中層中に設けられた溝状の空隙部分に収まるように抄き込まれてなることを特徴とするICチップ内蔵シート。
【0011】
(2)前記最大幅の割合がスレッド幅の25%〜75%である穿孔の形状が、正方形・長方形、または円形・楕円の穿孔である(1)に記載のICチップ内蔵シート。
【0012】
(3)プラスチックフィルムから成るスレッド基材に、外部アンテナの片面上に複数ビットのメモリを内蔵するICチップを搭載・接続した構造のインレットが接着されているスレッドのインレッドが配置されていない領域に、該スレッド幅に対して最大幅の割合が25%〜75%であるであり且つ穿孔面積の割合がインレットが配置されていない領域の10%以下になるように穿孔し、該スレッドを3層以上の層にて構成される紙の中層のうちの1層以上の中に設けられた溝状の空隙部分に収まるように抄き込み、且つ、抄き込み時のトータルドローを5%以内にすることを特徴とするICチップ内蔵シートの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、紙に抄込まれているスレッドは、抄紙の際に応力が負荷しても、意識的に設けられたスレッドの穿孔部でスレッドが伸びる、または切断されるため、ICチップ回路部へ応力が集中せず、ICチップ回路の破損のないICチップ内蔵シートを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のICチップ内蔵シートは、複数ビットのメモリを内蔵し、かつ、アンテナ配線を備えたICチップを有するスレッドに、スレッドのうちICチップ及びアンテナが配置されていない部分に穿孔部が設けられていることを特徴とする。
【0015】
前記ICチップとしては、アンテナ内蔵型チップ又は外部アンテナ接続型チップを挙げることができ、前記外部アンテナ接続型チップとしては、(1)複数ビットのメモリを内蔵した一辺0.5mm以下のチップに、外部アンテナを接合したもの、又は(2)複数ビットのメモリを内蔵し、かつ、アンテナ配線を備えた一辺0.5mm以下のチップに、さらに外部アンテナを接合したものを挙げることができる。この様な外部アンテナ付きチップは、バッテリレス非接触認識方式によりメモリ内に記憶させた情報をアンテナ配線を介して読みとることができるものである。
【0016】
本発明によれば、紙に抄き込まれたスレッドは、穿孔により意識的にICチップ及びアンテナ部より基材の強度を弱くしている為、抄紙時のドロー(引張)、または加熱等によって紙が延伸しても、IC回路部分の破損を回避することができる。すなわち、加熱等によって紙が延伸すると、二つのIC回路部分の間の部分の基材は延伸し、または切断されるが、スレッドが配置された部分は延伸しなくなるので、チップの破損、特に、チップと外部アンテナとの接続部分や外部アンテナ自体の破損を回避することができる。
【0017】
前記ICチップの製造方法としては、特に制限はなく、公知の方法を使用することができる。例えば、鏡面で純度が高いシリコン単結晶ウエハを準備する。このウエハ表面に、各種酸化膜や窒化膜などの絶縁膜により絶縁する工程を経て、ホトレジスト工程によって、回路設計された各種の素子パターンが形成されたガラスマスクを通して、レジストパターンを形成する。このレジストパターンを通して、前記の絶縁膜をエッチングしたり、不純物をインプラしたりして、電気的デバイス層を形成し、最終的には各種トランジスタ、ダイオード、抵抗、容量素子となる拡散層を形成する。さらに、その上に配線パターン層を形成して、前記拡散層の素子間接続を終了して回路機能を発揮する形態とする。本発明では、さらにコイル素子およびコンデンサ素子による共振回路を形成して、マイクロ波エネルギーと信号を得るための外部アンテナを形成する。その代表的な方法について以下に述べる。
【0018】
第1の方法は、再公表特許WO2000−36555号に開示されている方法、即ち前記回路が形成された側の面に外部アンテナを接続するためのバンプを形成した後に、ダイヤモンドブレードを用いて一辺が0.5mm以下のサイズのICチップに分離し、バンプと外部アンテナとを異方導電性接着剤を使用して接続する方法である。
【0019】
第2の方法は、前記ウエハを、例えばダイヤモンドブレードを用いて一辺が0.5mm以下のサイズのICチップに分離することにより、ICチップを製造し、さらにこのICチップに、配線パターン層を利用して、コイル素子およびコンデンサ素子による共振回路を形成して、オンチップにてマイクロ波エネルギと信号を得る内部アンテナを形成する。この内部アンテナはマイクロ波であるために、時定数が小さく、たとえば、コイルのインダクタンスは2ナノヘンリー、コンデンサは2ピコファラッドとすることなどによって、小さな部品回路によって共振回路を実現することが可能である。これによって、一辺が0.5mm以下の平面寸法のICチップ上に内部アンテナを配置することが可能となる。内部アンテナを形成するコイル素子とコンデンサ素子は並列または直列に接続されて、ICチップの中に実現される高周波受信回路に接続される。
【0020】
アンテナ内蔵型のICチップは電波の到達距離が数mmであるので、電波の到達距離を大きくするためにさらに外部アンテナを接合する。具体的には、内部アンテナの先端に外部アンテナを接合するためのバンプを形成し、このバンプと外部アンテナとを異方導電性接着剤を使用して接続する方法が代表的な方法である。
【0021】
前記スレッドは、ICチップをスレッド基材上又はスレッド基材内部に搭載・接続して成る。
本発明では前記スレッドを構成するスレッド基材は、プラスチックフィルムからなる一層構造である。スレッド基材を構成する層には、電気絶縁性等の電気的特性及び硬さ又は引張り強さ等の機械的強度等に優れた材料を用いるのが好ましい。
【0022】
前記プラスチックとしては、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート又はポリイミド等を挙げることができる。また、スレッド基材の材料がプラスチックである場合、スレッド基材の形成方法としては、公知の方法、例えば、キャスティング法、Tダイ法若しくはインフレーション法等のエキストルージョン法または二軸延伸法等を用いることができる。
【0023】
ICチップ及び外部アンテナをスレッド基材上又はスレッド基材内部に配置する方法としては、例えば、接着剤でスレッド基材上に接着する方法やスレッド基材上に溝を形成し、該溝にICチップを埋没するように接着剤を用いて実装する方法等を用いることができる。
【0024】
前記接着剤としては、特に制限はなく、アクリル樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、塩化ビニル樹脂系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、フェノール樹脂系接着剤、ポリスチレン樹脂系接着剤又はポリビニルアルコール系接着剤等を用いることができる。
【0025】
ICチップを備えたスレッドは、好ましくは1〜10mm幅、特に好ましくは3〜6mm幅にスリットされ、適当な長さの巻取りとしてシートへの内蔵工程に供給される。
【0026】
シートへの内蔵工程に供給された巻取りのスレッドは、紙に抄き込む前段において、穿孔手段を用いて、隣接するICチップの間で穿孔する。なお、本発明においては、穿孔される数は、1個であってもよく、2個以上であってもよい。
【0027】
穿孔手段としては、公知の穿孔機を用いることができるが、通常使用されるスレッドが長いことから、連続的に一定間隔で穿孔することのできるプレス設備を使うのが望ましい。しかし、勿論、書類保管の為に使用されるような手動式の1〜2個の丸い穿孔を空けることのできるパンチ機のようなものでも構わない。その他、電流を印加して発熱させたニクロム線をプラスチックフィルムに押し当てることにより穿孔することも可能である。
【0028】
本発明においては、穿孔の大きさは、スレッド幅に対する、穿孔の最大幅(最も幅の大きい箇所)の割合が25%〜75%の範囲が好ましい。25%未満では、穿孔部をスレッド全体に対して強度を意図的に下げることができず、抄紙時にICまたはアンテナ部で伸びる、或いは切断される可能性があるため好ましくない。75%を越える場合は、スレッド抄き込みの際に切れやすく、操作性に問題があるため好ましくない。局所的な伸び易さとスレッド挿入時の作業性のバランスを考えると、30%〜60%の範囲がさらに好ましい。
【0029】
本発明において、スレッドのICチップや外部アンテナが無い、プラスチックフィルムだけの部分に空けられる穿孔の面積としては、面積比としてプラスチックフィルムだけの部分の面積(ICチップ及び外部アンテナが搭載されている部分の両端にスレッドテープ進行方向に対して垂直な線を引いた時、その2本の線に挟まれる部分の面積)の10%以内に収まるようにするのが望ましい。面積比が10%を越えると、スレッドを紙に抄き込む際にスレッドが断線しやすくトラブルが発生するためである。尚、穿孔を1つおきに空ける、2つおきに空ける、等の場合には、面積比の平均値にて計算される。
【0030】
また、穿孔の形としては、長方形、正方形、または円形・楕円が好ましい。抄紙時にスレッド挿入する際に、ある程度強度を保つことができるためである。逆に例えばダイヤ型(頂点がスレッドの幅方向に来る場合)のような構造であると、スレッドに応力がかかった場合に頂点付近に応力集中が発生しやすく、挿入作業時に切れやすく好ましくない。抄紙時に安定して作業できるのは、応力集中による断線の生じにくい、頂点のない構造である円形・楕円である。
【0031】
本発明のICチップ内蔵シートは、ICチップを備えたスレッドを三層以上の多層構造から成る紙に抄き込むことにより形成される。その際に、表裏層以外の中層部分に原料の無い空隙部分をスレッドの幅より大きい溝状に意識的に作ることにより、出来上がったICチップ内蔵シートがスレッド部分で膨らむことなく、均一な厚さのシートを作製することができる。中層が二層以上ある場合は、通常中層の一層のみに空隙部分を作るが、二層以上にわたって作ることも可能である。
【0032】
前記の中層に溝状の空隙部分を作るための方法としては、抄紙ワイヤーの特定部分に選択的に原料を載せないようにすれば良く、具体的には、抄紙ワイヤーの一部分を初めから、金属、プラスチック、樹脂等の素材で板状の構造、またはそれらの素材でワイヤー網目を塞いだ構造にしておけばよい。簡易的には、空隙を作る所望の溝幅と同じ幅の粘着テープを抄紙ワイヤー一周分貼ることによっても達成することが可能である。円網ワイヤーの場合を例に挙げてさらに具体的に説明するならば、中層にあたる円網ワイヤーに、空隙を作りたい幅方向の特定部分に、粘着テープを円網一周分貼ることにより、紙料の載らない溝状の部分を作製することができる。但し、本発明に使用できる抄紙機は円網に限らず、どのようなタイプのものでもよく、長網・短網・傾斜ワイヤー、等についても同様の仕様とすることにより、本発明を達成可能である。
【0033】
また、本発明では抄紙の際のドローの管理が特に重要である。ドローとは、抄紙の際にワイヤー上に紙料が載った時(ワイヤーパート)から、プレスパート、ドライヤーパートを経て、紙が乾燥されてスプールでロール状に巻かれるまでに、紙が伸ばされる割合のことである(トータルドローと称す)。本発明ではトータルドローを5%以内に収めることが重要である。その理由は、抄紙の際に紙が必ず伸ばされるのに伴い、抄き込まれるスレッドも同じ伸び率で伸ばされ、IC接続部または外部アンテナが破壊されることにより、ICの通信性に支障を来たす可能性があるためである。本発明では抄紙の際には、ワイヤーパートからプレスパートを通過するまでのドロー管理が特に重要である。ワイヤーパートからプレスパートへの受け渡しは、フェルトを介して受け渡しをするサクションピックアップタイプのものが望ましいが、オープンドローの場合でもドローを弱めることで達成が可能である。本発明では、いずれの受け渡しの場合でも、プレスのドローを極力弱め、プレスの圧力も弱めにすることにより達成できる。但し、ドローを弱めすぎるとプレスで喰いこみが発生したり、ドライヤで紙シワが発生したりするため、現実的にはトータルドローを3〜5%の範囲にするのが望ましい。
【0034】
本発明では、抄紙時、平滑を上げるためのオンマシンカレンダーを使用しないか、若しくは極力線圧を下げることが望ましい。その理由は、カレンダーで線圧を掛け過ぎるとスレッドに搭載されたICチップを破損してしまう場合が考えられるためである。
【0035】
前記紙の製造方法としては、特に制限はないが、木本若しくは草本等の植物繊維及び/又は合成繊維を適当な方法により分離して、水中に分散させて得られる原料パルプを抄紙機で抄紙する方法を用いることができる。抄紙機の形式も特に限定するものではなく、一般的な長網式、丸網式、傾斜網式などのフォーマーに、プレス脱水装置や、乾燥装置を備えた抄紙機を用いることができる。抄紙機により製造されたシートは、スリッターやカッターにより目的用途に応じた寸法に加工される。
【0036】
本発明においては、ICチップを備えたスレッドが、紙の幅方向に複数本配置されていてもよい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これらによって何ら制限されることはない。尚、ICチップ内蔵シートの製造方法、ICチップ内蔵シートのシワ評価方法、ICチップの存命率の算定方法、の詳細は下記の通りである。
【0038】
<ICチップ内蔵シートの製造方法>
下記実施例及び比較例においては、図1に示すように、抄紙機として円網式フォーマーを用いてスレッド抄き込みを実施した。図1に示される構成を有する円網式フォーマーにより、スレッド1を複数の湿紙(図1の例では3層)に挟み込んだICチップ内蔵シートを得ることができる。円網式フォーマーは、紙料4を貯留したバットと第一円網2とを備え、第一円網2を回転させながら、第一クーチロール3で脱水することにより毛布5の下部に第一湿紙(図示せず)が形成される。次に、紙料4を貯留したバットに第二円網6を浸して回転させながら、第二円網6表面に第二湿紙(図示せず)を形成し、第二クーチロール7で脱水することにより第一湿紙側に移し取る。さらに、紙料4を貯留したバットに第三円網8を浸して回転させながら、第三円網8表面に第三湿紙(図示せず)を形成し、第三クーチロール9で脱水することにより、第一・第二湿紙側に移し取る。これらの操作の間に、スレッド1を第一湿紙と第二湿紙の間に挟みこむように入れることにより、湿紙の状態のICチップ内蔵シート10を形成できる。その後、プレス処理、乾燥工程を経て、ICチップ内蔵シートを得ることができる。
また、第二円網の一部を連続的に塞ぎ、その部分だけ脱水させないことにより、図2に示すような断面構造のICチップ内蔵シートを得ることが可能である。即ち、表層11と裏層13の間の中層12の一部にパルプ層を形成させないことで、丁度この部分にICチップ及び外部アンテナの配置されたスレッド1を抄き込むことができる。このような断面構造にすることにより、スレッド部分だけが厚くなることを防止し、紙の厚さを均一化することが可能となる。尚、本発明の実施例・比較例では、本製造方法により3層抄にてIC内蔵シート抄造し、表層の付け量を60g/m、中層の付け量を60g/m、裏層の付け量を60g/mとした。尚、抄紙時のドロー(湿紙の状態から脱水・プレス・乾燥を経て紙となった時のトータル伸び)は4.6%であった。
【0039】
<ICペーパー内蔵シートのシワ評価>
下記実施例及び比較例にて得られたICペーパー内蔵シートのシワ状態を以下の基準で評価した。
○・・・ICペーパー内蔵シートのスレッド付近にシワが全く無い
△・・・ICペーパー内蔵シートのスレッド付近にシワが少しあるが実用上問題ないと思われるもの
×・・・ICペーパー内蔵シートのスレッド付近にシワがあり、実用上問題がある
<ICチップの存命率評価方法>
抄き込み前と、抄き込み後に、ミューチップリーダー(八木アンテナ社製)を用いて通信チェックを実施した。通信OKが確認された、外部アンテナ付IC(ミューチップ)100個分の抄き込みを行い、通信が確認されたものの個数を記録し、以下の式により存命率を算出した。
存命率(%)=(通信OKであったICの個数)/100 × 100
【0040】
実施例1
スレッドとして、日立製作所製μ(ミュー)チップを搭載した、図3に示す構造のIC搭載スレッド(ルネサステクノロジ社製)をIC100個分(スレッド幅5mm、長さ10m)準備した。図3(a)は表面から見た図であり、図3(b)は断面図、図3(c)は裏面から見た図である。スレッドは合成樹脂(PET)製であった。このスレッドに、図4に示すとおり、ICまたは外部アンテナの配置されていない箇所全てに、直径2mmの丸孔を1箇所ずつ空けた。事前にミューチップリーダーにて通信チェックを行ったが全て通信OKであった。また、穿孔面積比は、5mm幅×46mm長さのプラスチックフィルムだけの部分に直径2mmの丸孔であるため、1.4%と計算された。これを<ICチップ内蔵シートの製造方法>に従って抄き込みを行った。尚、抄造後の抄き込まれたスレッドの状態を観察すると、全ての丸孔は楕円となっていたが切れていた箇所は無かった。得られたICチップ内蔵シートのシワ評価と存命率を評価した。結果を表1に示す。
【0041】
実施例2
IC付外部アンテナとIC付外部アンテナの間に空ける孔を、図5に示す通り、縦3mm、横3mmの正方形とすること以外は、実施例1と同様にして、スレッドの抄き込みを行った。尚、抄造後の抄き込まれたスレッドの状態を観察すると、全ての正方形はテープ進行方向に長い、長方形となっていたが切れていた箇所は無かった。結果を表1に示す。
【0042】
実施例3
図6に示す通り、直径2mmの丸孔を一つ置きに空けること以外は、実施例1と同様にして、スレッドの抄き込みを行った。尚、抄造後の抄き込まれたスレッドの状態を観察すると、丸孔は楕円となるものもあり、丸孔部で切断されているものもあった。結果を表1に示す。
【0043】
実施例4
図7に示す通り、直径2mmの丸孔を、外部アンテナと外部アンテナの間に2つずつ空けること以外は実施例1と同様にして、スレッドの抄き込みを行った。尚、抄造後の抄き込まれたスレッドの状態を観察すると、全ての丸孔は楕円となっていたが切れていた箇所は無かった。結果を表1に示す。
【0044】
実施例5
図8に示す通り、丸孔の直径を3.5mmとすること以外は実施例1と同様にして、スレッドの抄き込みを行った。尚、抄造後の抄き込まれたスレッドの状態を観察すると、丸孔は楕円となるものもあり、丸孔部で切断されているものもあった。結果を表1に示す。
【0045】
比較例1
図3に示すスレッドを加工することなく、そのまま用いること以外は実施例1と同様にして、スレッドの抄き込みを行った。尚、抄造後の抄き込まれたスレッドの状態を観察すると、ICチップの配置された丸孔部が殆ど楕円となっており、この丸孔部でICとアンテナガが切断されている箇所も多数を占めていた。結果を表1に示す。
【0046】
比較例2
図9に示す通り、丸孔の直径を1mmとすること以外は実施例1と同様にして、スレッドの抄き込みを行った。尚、抄造後の抄き込まれたスレッドの状態を観察すると、ICチップの配置された丸孔部が殆ど楕円となっており、この丸孔部でICとアンテナガが切断されている箇所も多数を占めていた。アンテナとアンテナの間に空けられた直径1mmの丸孔はやや楕円に変形していた。結果を表1に示す。
【0047】
比較例3
図10に示す通り、短軸幅が4mm、長軸幅が8mmの楕円の穿孔が空いたスレッドを使用すること以外は実施例1と同様にして、抄き込みを行おうとしたが、スレッドが途中で切れてしまい、抄き込みが不可能であった。
【0048】
【表1】

【0049】
実施例1〜5より判るとおり、プラスチックフィルム製のスレッドに、外部アンテナと外部アンテナの間に、適切な大きさの孔を設けることにより、シワの少ない、且つ、ICチップが通信可能な、IC内蔵シートを作製することが可能である。
実施例1と比較例2、比較例3との比較から、孔の幅方向の最大長さは、25%〜75%の範囲であることがわかる。
実施例1、2の通り、孔の形状は如何様でも良いが、丸孔や正方形・長方形が好適に利用される。
また、実施例3のように外部アンテナと外部アンテナとの間に設置される孔は、一つ置きでも、実施例4のように1箇所につき2つずつでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のICチップ内蔵シートは、ICチップの存在を隠匿しつつ、ICチップに隠匿情報又は偽造防止情報を保持させることが可能なため、偽造防止を要する製品、例えばチケット、商品券又は小切手等の紙製品に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の製造方法に使用される装置の例を示す図であって、抄紙機に円網式フォーマーを用いた図である。
【図2】本発明の製造方法により製造されたICチップ内蔵シートの構造の例を示す図である。
【図3】本発明の製造方法に使用されるスレッドの、好適に穿孔される前のスレッドの状態を示したものである。(a)は表側から見た図を示したもの(b)は断面図を示したもの(c)は裏面から見た図を示したもの
【図4】本発明の実施例に用いたスレッドの構造の、表面から見た図を示したものである。
【図5】本発明の実施例に用いたスレッドの構造の、表面から見た図を示したものである。
【図6】本発明の実施例に用いたスレッドの構造の、表面から見た図を示したものである。
【図7】本発明の実施例に用いたスレッドの構造の、表面から見た図を示したものである。
【図8】本発明の実施例に用いたスレッドの構造の、表面から見た図を示したものである。
【図9】本発明の比較例に用いたスレッドの構造の、表面から見た図を示したものである。
【図10】本発明の比較例に用いたスレッドの構造の、表面から見た図を示したものである。
【符号の説明】
【0052】
1・・・スレッド
2・・・第一円網
3・・・第一クーチロール
4・・・クーチロール
5・・・毛布
6・・・第二円網
7・・・第二クーチロール
8・・・第三円網
9・・・第三クーチロール
10・・・ICチップ内蔵シート(湿紙)
11・・・表層
12・・・中層
13・・・裏層
14・・・スレッド(基材テープ)
15・・・ICチップ
16・・・外部アンテナ
17・・・丸孔(直径2mm)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックフィルムから成るスレッド基材に、外部アンテナの片面上に複数ビットのメモリを内蔵するICチップを搭載・接続した構造のインレットが接着されているスレッドであり、該スレッドのインレットが配置されていない領域に、該スレッド幅に対して最大幅の割合が25%〜75%である穿孔が設けられており且つ穿孔面積の割合がインレットが配置されていない領域の10%以下であるスレッドを、3層以上の層にて構成される紙の中層の中に設けられた溝状の空隙部分に収まるように抄き込まれてなることを特徴とするICチップ内蔵シート。
【請求項2】
前記最大幅の割合がスレッド幅の25%〜75%である穿孔の形状が、正方形・長方形、または円形・楕円の穿孔であることを特徴とする、請求項1に記載のICチップ内蔵シート。
【請求項3】
プラスチックフィルムから成るスレッド基材に、外部アンテナの片面上に複数ビットのメモリを内蔵するICチップを搭載・接続した構造のインレットが接着されているスレッドのインレッドが配置されていない領域に、該スレッド幅に対して最大幅の割合が25%〜75%であるであり且つ穿孔面積の割合がインレットが配置されていない領域の10%以下になるように穿孔を設け、該スレッドを3層以上の層にて構成される紙の中層の中に設けられた溝状の空隙部分に収まるように抄き込み、且つ、抄き込み時のトータルドローを5%以内にすることを特徴とするICチップ内蔵シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−252191(P2009−252191A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−102989(P2008−102989)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】