説明

ICP−OES及びICP−MS誘導電流

サンプルを分光法で分析する方法においては、プラズマが生成される。磁気双極子によって磁場が生成され、ここでプラズマは磁場内に閉じ込められる。サンプル原子がプラズマ内に導入され、サンプルの励起された原子がプラズマ内に閉じ込められる。励起されたサンプル原子の質量体電荷比又はスペクトル成分が分析される。分光分析システムにおいては、磁気双極子は関連した磁場をもつ。プラズマは磁場内に閉じ込められ、励起された原子のサンプルがプラズマ中に導入される。分光計は、質量対電荷比を得るために、又はそれらのスペクトル成分を得るために、励起された原子を分析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2002年12月12日に提出された米国仮特許出願第60/432,963号及び2003年12月9日に提出された米国通常特許出願第10/730,779号に係る優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、プラズマ中の材料サンプルを分光法で分析するための方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0003】
従来の誘導結合プラズマ・発光分析(ICP−OES)システム及び誘導結合プラズマ・原子発光分析(ICP−MS)システムは、典型的には、分析のための関連した磁場中にプラズマと材料サンプルを閉じ込めるために、高周波電流(RF electrical current)を受け入れるソレノイドを利用している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、かかる装置は、ソレノイドの螺旋構造に起因して、ソレノイドの内部にその全長にわたって不均一な磁場を生成する。これは、サンプルの励起とプラズマ中でのイオンの軌道(trajectory)に影響を与える、プラズマ中の不均一な温度分布を生じさせる結果となる。さらに、ソレノイドは単一の素子であり、関連した磁場とプラズマ/サンプルの励起とを制御する上で柔軟性に欠ける。
【課題を解決するための手段】
【0005】
サンプルを分光法で分析する方法においては、プラズマが生成される。磁気双極子によって磁場が生成され、ここでプラズマは磁場内に閉じ込められる。材料サンプルの原子がプラズマ中に導入され、サンプルの励起された原子(energized atoms)が少なくとも一時的にプラズマ中に閉じ込められる。励起されたサンプル原子の質量含有率(mass content)又はスペクトル成分(spectral content)が分析される。
【0006】
分光分析システムにおいては、磁気双極子は関連した磁場(associated magnetic field)を有する。プラズマは磁場内に閉じ込められ、材料サンプルの原子がプラズマ中に導入される。分光計は、質量対電荷比を得るために、又はそれらの発光スペクトル(emission spectra)を得るために、励起された原子を分析する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1は、誘導結合プラズマ・発光分析(ICP−OES)システム100の模式的な図である。ICP−OES100は、普通、キャリアガス102をトーチ114に導くためのシステムを含んでいる。トーチ114では、キャリアガス102はイオン化されてホットプラズマ116(5000〜10000K)を生成する。プラズマ116は、前加熱ゾーン190と、誘導ゾーン192と、初期放射ゾーン194(initial radiation zone)と、プラズマ尾部198(plasma tail)とを含んでいる。また、霧化されたサンプル(atomized sample)は、ポンプ106と、ネブライザ108(nebulizer)と、スプレーチャンバ162とを経由して、プラズマ116に導かれる。高周波数(RF)電源110は、負荷コイル112(load coil)により、プラズマ116にRF電力を供給する。
【0008】
プラズマ116においては、励起されたサンプルの原子104が、より低い状態に減衰する(decay)のに伴って、光134を放射する。光134は集光器118によって集められ、分光器120に導かれ、そこでスペクトルに分離される(spectrally resolved)。検出器122は、スペクトルに分離された光134を検出し、信号138、140を、マイクロプロセッサ122と分析用コンピュータネットワーク124とに送る。図1において、プラズマ116は、該プラズマ116に対して直角の方向からみたものである。しかしながら、図1によれば、プラズマ116はまた軸126に沿った方向からみてもよいということが理解されるであろう。ここで実施される誘導結合プラズマ・発光分析は、図2に示すような誘導結合プラズマ・質量分光分析(ICP−MS)システム100における4極の質量分析器などの質量分析計(MS)で実施されてもよいということも理解されるであろう。RF電源110は、普通、10ないし100MHzの範囲、とくに20ないし50MHzの範囲、例えば27ないし40MHzの範囲で動作する。
【0009】
図3は、図1及び図2に示すプラズマ116をより詳細にあらわしている。トーチ114は、3つの同心状のチューブ114、150、148を含んでいる。最も内側のチューブ148は、霧化されたサンプルの流れ146をプラズマ116中に供給する。真ん中のチューブ150は、補助のガス流れ144をプラズマ116に供給する。最も外側のチューブ114は、プラズマ116を維持するためのキャリアガスの流れ128を供給する。キャリアガスの流れ128は、真ん中のチューブ150のまわりを層流状態でプラズマ116に供給される。補助のガスの流れ144は、真ん中のチューブ150内を通ってプラズマ116に供給され、霧化されたサンプルの流れ146は、最も内側のチューブ148に沿ってスプレーチャンバ162からプラズマ116に導かれる。負荷コイル112内のRF電流130、132は、負荷コイル112内に磁場を形成し、その中にプラズマ116を閉じ込める。
【0010】
図4〜図11は、種々の形態の電極152、156、158を示している。図4において、電極152は、互いに距離「L」を隔てて位置決めされた2つの平行なプレート152a、152bを含んでいる。これらの平行なプレート152a、152bは、それぞれ開口154を含み、トーチ114はこの開口154を通り抜けるように配置されている。ここで、トーチ114、最も内側のチューブ148、真ん中のチューブ150及び開口154は、軸126に沿って配列されている。平行なプレート152a、152bは、厚さ「t」を有している。また、電極152の開口154は、幅「w」のスロットを含んでいる。ここで、開口154は、その周囲と連通している。
【0011】
図4及び図5に示すように、電極152は、普通、正方形又は長方形の平坦な(planar)形状を備えているが、図12に示すようにワイヤであってもよい。図5に示すように、平坦な電極に供給されるRF電流は、開口154(図12参照)を通る環状の磁場182を生成する平坦な電流ループ172aを含んでいることが分かるであろう。図6及び図7に示すように、電極156は、外側の直径がDであり、内側の開口の直径がDである円形のものである。図4〜図7に示す電極152、156は、逆の極性RF電流172が独立して供給される別の素子である。電極152の一部分176にRF電力が供給される一方、電極152の第2の部分178はアース174に接続されている。かくして、プラズマ116のアーク点火(arc ignition)時において、もし点火アークが電極152に接触すれば、電極152に生成される望ましくない電流がアース点174に導かれ、RF電力供給部110には導かれない。各電極152に供給されるRF電力及び周波数は、独立して制御することができ、最適な性能となるように変化させることができる。例えば、各電極152は、プラズマの放出及び励起を最適化するために、異なる周波数で駆動することができる。さらに、1つの電極を連続電力モードで動作させる一方、他の電極を変調させることが可能である(例えば、パルス状にされ又はゲートコントロールされたもの)。さらに、電極152は互いに連結されていないので、電極152間の距離「L」を調整することができ、これによりプラズマ116内の電力分布を調整することができる。さらに、開口154の直径Dは、RF電極電力供給部110とプラズマ116との間の結合特性を調整するために、独立して調整することができる。図8〜図11において、電極158は、共通の電気アース170に接続された2つの電極166、168を有する単一の素子として示されている。
【0012】
図14では、複数のループ電流184a、184bが、単一のRF電流源110から生成されるものとして示されている。ループ電流184a、184bは、次のような態様で互いに方向付けられている。すなわち、正弦波形で交番する電流の半サイクルで交番するときに、第1のループ電流184aにおける交番する電流172aが、第2のループ電流184bにおける交番する電流172bの向きとは反対の向きに流れるようになっている。これは、複数のループ電流184a、184bが、単一の電源110から駆動されて、同一の空間的な向きを有する磁場182a、182bを生成することを可能にする。
【0013】
本発明は、前記のとおり、特定の実施の形態を参照しつつ詳細に説明されているが、当業者にとっては、本発明の技術思想及び請求項の記載の範囲内における種々の変形例及び修正例は自明なことであろう。それゆえ、本発明は、請求項及びその等価な事項によってのみ限定されることが意図されている。
【0014】
かくして、前記の説明に基づいて、サンプルを分光法で分析するための方法及び装置が開示されている。この方法は、プラズマを生成することと、磁気双極子により磁場を生成して該磁場中にプラズマを閉じ込めることと、サンプルの原子をプラズマ中に導入して励起されたサンプルの原子をプラズマ中に閉じ込めることと、励起されたサンプル原子の質量含有率又はスペクトル成分を分析することとを含む。
【0015】
さらに、分光分析システムは、関連する磁場を有する磁気双極子と、磁場内に閉じ込められたプラズマと、プラズマ中に導入された励起された原子のサンプルと、励起されたサンプル原子の質量含有率又はスペクトル成分を分析するための分光計とを含んでいる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】誘導結合プラズマ・発光分析(ICP−OES)システムの模式的な図である。
【図2】誘導結合プラズマ・質量分光分析(ICP−MS)システムの模式的な図である。
【図3】ICPトーチ及びプラズマを示す図である。
【図4】ICPトーチ及びプラズマ並びに本発明に係る2つの電極側面図である。
【図5】プラズマを制御するための、開口を含んでいる電極の正面図である。
【図6】プラズマを制御するための、開口を含んでいる電極の正面図である。
【図7】図6に示す電極の側面図である。
【図8】本発明に係る単一部材電極の3次元図である。
【図9】図8に示す単一部材電極の正面図である。
【図10】図8に示す単一部材電極の側面図である。
【図11】図8に示す単一部材電極の上面図である。
【図12】ループ電流から生成された磁場の3次元図である。
【図13】ソレノイドの螺旋状態を示しているICPトーチの図である。
【図14】正弦波形で交番する電流の半サイクルを交番しているときの、単一のRF電源によって駆動された複数のループ電流を示す図である。
【符号の説明】
【0017】
100 ICP−OES、102 キャリアガス、104 霧化されたサンプル、106 ポンプ、108 ネブライザ、110 RF電源、112 負荷コイル、114 トーチ、116 プラズマ、120 分光計。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料サンプルを分光法で分析する方法であって、
プラズマを生成することと、
ループ電流を生成して磁場を生成し、該磁場中にプラズマを閉じ込めることと、
材料サンプルの原子をプラズマ中に導入し、励起されたサンプルの原子をプラズマ中に閉じ込めることと、
励起されたサンプルの原子の特性を分析することとを含む方法。
【請求項2】
ループ電流を生成することが、正弦波形で交番する電流を生成することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
正弦波形で交番する電流を生成することが、高周波電流を生成することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
励起されたサンプルの原子の特性を分析することが、励起されたサンプルの原子の質量体電荷比又はスペクトル成分を分析することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ループ電流を電気的に接地させることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ループ電流を生成することが、平坦なループ電流を生成することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
ループが開口を形成している、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ループ電流を生成することが、複数のループ電流を生成することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
複数のループ電流を生成することが、予め設定された距離でもって離間された複数の平行又は非平行のループ電流を生成することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
第1のループ電流における交番する電流が、正弦波形で交番する電流の半サイクルを交番するときに、第2のループ電流中の交番する電流の向きとは反対の向きに流れる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
開口の面積を調整することをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
上記の予め設定された距離を調整することをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
関連した磁場を有するループ電流と、
磁場内に閉じ込められたプラズマと、
プラズマ中の励起された原子の材料サンプルと、
励起された原子の特性を分析するための分光計とを含んでいる分光分析システム。
【請求項14】
ループ電流を生成するための発電装置をさらに含んでいる、請求項13に記載の分光分析システム。
【請求項15】
ループ電流が、正弦波形で交番する電流である、請求項14に記載の分光分析システム。
【請求項16】
正弦波形で交番する電流が高周波電流である、請求項15に記載の分光分析システム。
【請求項17】
ループ電流が平坦な電流である、請求項13に記載の分光分析システム。
【請求項18】
ループ電流が開口を形成している、請求項13に記載の分光分析システム。
【請求項19】
ループ電流がプレートを含んでいる、請求項13に記載の分光分析システム。
【請求項20】
ループ電流が複数のプレートを含んでいる、請求項13に記載の分光分析システム。
【請求項21】
複数のプレートが平行である、請求項17に記載の分光分析システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2006−516325(P2006−516325A)
【公表日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−508319(P2005−508319)
【出願日】平成15年12月11日(2003.12.11)
【国際出願番号】PCT/US2003/039440
【国際公開番号】WO2004/055493
【国際公開日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【出願人】(505028129)パーキンエルマー・エルエイエス・インコーポレイテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】PerkinElmer LAS, Inc.
【Fターム(参考)】