説明

ICP分析装置

【課題】プラズマ炎の発光光を分光器まで導く光導入管を内容積の相違する他のものに交換した場合に、光導入管内をパージするパージガスの使用量を抑制して且つパージに要する時間も短縮化する。
【解決手段】予め各種の光導入管に対応した初期目標流量値と定常目標流量値とを求めてメモリ24aに記憶しておく。装置起動時には光導入管識別部29により装着されている光導入管の種類を判別し、それに応じた目標流量値をメモリ24aから読み出す。そして、元供給路270とパージガス供給路272とに設けた圧力センサ271、274の検出値から実流量を求め、実流量が初期流量目標値になるように流量調節弁275の開度を制御する。所定時間が経過して光導入管内がパージ状態になった後に流量目標値を定常目標流量値に変更して、パージ状態を維持できる程度まで流量を減らして分析を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合プラズマ)発光分光分析装置やICP質量分析装置など、液体試料をプラズマ発光させる或いはイオン化させるICP光源を用いたICP分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ICP発光分光分析装置では、液体試料をネブライザで霧化させアルゴンガスなどのキャリアガスに乗せてプラズマトーチへと運ぶ一方、このプラズマトーチの外周に配設した誘導コイルに高周波電力を供給しトーチに導入されたガスをプラズマ状態にする。このプラズマ炎中を上記霧化された試料が通過すると、試料分子(又は原子)は加熱・励起されて発光する。この発光光を取り出して分光器により波長分散させて検出器で検出することにより発光スペクトルを取得し、その発光スペクトルに現れているスペクトル線(輝線スペクトル)の波長から試料に含まれる元素の定性分析(同定)を、スペクトル線の強度からその元素の定量分析を行う。
【0003】
こうしたICP発光分光分析装置では、従来より、プラズマ炎から分光器に至るまでの光路を覆う筒状の光導入管にパージガスを供給するような構成が採られている(例えば特許文献1、2など参照)。光導入管内にパージガスを充満させる主要な理由は、空気が光路上に存在すると空気中の酸素が185nm以下の波長の深紫外線を吸収してしまい正確な分光測定が行えなくなるためであり、酸素を光路上から排除するためにパージを行う。また、光導入管の空間は高温になるプラズマ炎と温度変化に対し精度が低下し易い分光器とを熱的に遮断するための断熱空間でもあり、比較的温度の低いパージガスを光導入管内に供給し続けることで断熱性を保つことができる。一般にパージガスとしては化学的に安定でプラズマ発光光を吸収しないアルゴンなどの希ガスが利用されることが多い。
【0004】
上記のように光導入管内をパージする場合に、パージ実行前にはそれぞれの内部空間に大気が充満しているから迅速にパージを実行し、分析に十分な程度にガスが置換されたならばパージガスの消費を抑えることが望ましい。そこで、従来、ICP発光分光分析装置などでは、分光器をパージする際に、大流量でパージガスを供給し得る流路と小流量でパージガスを供給し得る流路とを並設していずれの流路を通して選択的にパージガスを供給できるようにし、装置の起動時から所定時間t(例えばt=5分)の間、大流量で流路を通してパージガスを供給し、所定時間が経過したならば流路を小流量流路に切り替えて分析を実行するという制御が行われている(特許文献3など参照)。
【0005】
ICP発光分光分析装置の場合、プラズマ炎から分光器に至る光路構成の相違から光導入管にも複数のタイプのものが用意されている。例えば特許文献1には、プラズマ炎の軸方向から取り出した光を略垂直に反射させる光路を形成する光導入管やプラズマ炎の軸方向に直交する方向から取り出した光をそのまま案内する光路を形成する光導入管が開示され、特許文献2には、プラズマ炎の軸方向から取り出した光と軸方向に直交する方向から取り出した光のいずれかを選択する光路を形成する光導入管が開示されている。このように分析目的や試料の種類などによって、光導入管が交換可能であるようなICP発光分光分析装置が開発されている。
【0006】
ところが、光導入管の内容積はその種別によって異なるため、上述したように或る決まった大流量でパージガスが供給された場合に、分析に十分な程度にガスが置換されるまでの時間は光導入管の種別により相違する。したがって、装置起動時から流量を大流量から小流量に切り替えるまでの時間tは最も内容積の大きな光導入管に対応するような値に定めておく必要がある。そのため、内容積が小さな光導入管が使用される場合には、光導入管内の空気が置換されるまでに無駄なパージガスが消費されることになる。また、一般に光導入管の種別が相違すると、その内部からのパージガスの漏出量(漏出速度)も相違するため、小流量流路の流量は最も漏出量の大きな光導入管に対応するようにその値を定めておく必要がある。そのため、漏出量の小さな光導入管ではパージ状態を維持する際に必要以上のパージガスが供給されることになり、パージガスが無駄に消費されてしまう。
【0007】
パージガスとして一般に利用されているアルゴンは比較的高価であるため、上述のようにパージガスが無駄に消費されると分析の際のランニングコストが高くなるという問題がある。また、光導入管の種別に拘わらず同一のパージガス流量で初期的なパージが行われるため、内容積の大きな光導入管が使用される場合には、内部の空気が置換されるまでに時間が掛かって分析開始までの時間が長くなるという問題もある。
【0008】
【特許文献1】特開平8−43311号公報(図3及び段落[0004])
【特許文献2】特開平9−318537号公報(図1及び段落[0019])
【特許文献3】特開平9−196851号公報(図1及び段落[0010]−[0013])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その主な目的とするところは、パージガスの消費量をできるだけ節約するとともに光導入管の内容積が大きな場合でも初期的なパージの所要時間を短縮して良好な条件の下で分析を行うことができるICP分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために成された本発明は、プラズマ炎を形成するプラズマトーチと、プラズマ炎による発光光を分光する分光器と、分光された光を検出する検出器と、を具備するICP分析装置において、
a)前記プラズマ炎による発光光が前記分光器に到達するまでの光路を覆う部材であって交換可能である光導入管と、
b)前記光導入管内の空気をパージするためのパージガスの供給源と、
c)装着された前記光導入管の種別を判別する光導入管判別手段と、
d)前記パージガス供給源から前記光導入管に至るパージガスの供給路にあって該ガスの流量を検出するとともに該流量を調節する流量調節手段と、
e)前記光導入管判別手段による判別結果に応じた流量目標値を設定して前記パージガス供給路のガス流量が該目標値となるように前記流量調節手段を制御する制御手段と、
を備えることを特徴としている。
【0011】
なお、本発明に係るICP分析装置は、ICP発光分光分析装置やICP質量分析装置など、ICP光源を利用した各種分析装置に適用可能である。
【0012】
また、前記流量調節手段は、パージガス供給路に挿入された抵抗管と、該抵抗管の両端のガス圧を検知するガス検知手段と、両ガス圧の差圧と抵抗管の流量抵抗に基づいて流量を計算する演算手段と、により流量を検出する機能を達成するものとすることができる。
【0013】
また、光導入管判別手段は、装着した光導入管の情報を使用者が入力するようにしてもよいが、装着された光導入管の種別を光学的又は電気的に判別する構成とするのが望ましい。これによれば、光導入管を交換したときにそれに伴う情報を使用者が入力する作業などが不要になり、省力化が図れるとともに入力ミスや入力忘れなどに起因する不整合性を防止することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るICP分析装置では、各種の内容積の相違する、又は漏出量の相違する複数種の光導入管のそれぞれについて、例えば非パージ状態から所定時間で分析が十分に行える程度のパージ状態に至るようなパージガスの流量と、パージ状態を維持し続けるのに適当な流量とを予め調べ、それら流量を参照して各光導入管に対する流量目標値(初期的な流量目標値及び定常的な流量目標値)をそれぞれ決めて制御手段に保持させておく。
【0015】
実際の装置起動時には、光導入管判別手段は装着されている光導入管の種別を判別し、制御手段はその判別結果に基づいて該光導入管に対応した初期的な流量目標値を設定してパージガスの供給開始を指示する。流量調節手段は実際のパージガス流量がその流量目標値になるように例えば弁の開度等の調節を行い、光導入管内部にパージガスを導入する。そして装置起動から所定時間が経過したならば制御手段は流量目標値を初期的なものから定常的なものに変更し、流量調節手段はこれに応じて流量を減らしてパージガスの供給を継続し、光導入管内部をパージ状態に保つ。
【0016】
本発明に係るICP分析装置によれば、光導入管の種別に応じて、つまりはその内容積やパージガス漏出量などに応じてそれぞれ異なる流量目標値を設定しておくことができ、動作時にはパージガス供給源から光導入管に供給されているパージガスの実流量をその流量目標値に応じて変えることができる。したがって、必要以上の量のパージガスを光導入管に供給することがなくなり、パージガスの無駄な使用を抑制して分析のランニングコストを低減することができる。
【0017】
また実際にパージガスの供給流量を検出しているため、パージガス供給源が空であったり供給路上流側でガス漏れが生じていたりしていて光導入管に目標量のガスの供給ができない場合に、これを迅速に検知して使用者の注意を喚起するような報知を行うことができる。
【0018】
また本発明に係るICP分析装置の一実施態様として、前記プラズマ炎による発光光が前記光導入管を通過した後の光強度を検知する光強度監視手段をさらに備え、前記制御手段は該光強度監視手段による検知結果に応じて前記流量目標値を修正する構成とすることができる。
【0019】
即ち、発光光の中で空気による吸収が大きい波長を選び、この波長光の光強度が所定値に達したならば或いはその強度増加が収まったならば、光導入管内部が十分なパージ状態になったと判断できる。そこで、制御手段はこのようにして光導入管内部が十分なパージ状態になったと判断したならば、未だ初期的な流量目標値を設定している場合でも定常的な流量目標値に切り替える。或いは、初期的な流量目標値から定常的な流量目標値に切り替えるべき所定時間が経過した場合でも、光強度監視手段の検知結果により未だ十分なパージ状態に達したとみなせないときには初期的な流量目標値の設定を継続する。
【0020】
これにより、例えば光導入管からの異常なガス漏れ、或いは光導入管の種別の判別誤りなど、予期しない事態が生じた場合であっても、可能な限り光導入管内のパージ状態を確保して良好な分析を遂行することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の一実施例であるICP発光分光分析装置について図面を参照して説明する。図1は本実施例のICP発光分光分析装置の全体構成図、図2は図1中のArガス制御部27における要部の構成図である。
【0022】
図1において、試料溶液はArガス制御部27よりキャリアガスとして供給されたArガスの助けを受けてネブライザ3から噴霧室2内に噴霧され、霧化された試料はプラズマトーチ1に導入される。プラズマトーチ1では、コイル4により発生する高周波磁場の作用によりArガスから高温のプラズマ炎5が形成され、プラズマ炎5中に試料が導入されると試料成分は発光励起されて成分に特有の波長光が発生する。プラズマ炎5による発光光は光導入管6を通して分光器11まで導かれる。この例では、光導入管6は、プラズマ炎5の軸方向(図1では上方向)に発光光を取り出す光路と、プラズマ炎5の軸方向に直交する方向(図1では右方向)に発光光を取り出す光路とが選択できる構造のものであり、光導入管6の内部には、上方向に取り出された発光光の光路を略直角に曲げる固定鏡7、右方向に取り出された発光光の光路を略直角に曲げる固定鏡8、いずれかの光路を選択する可動鏡9とが配置されている。
【0023】
この光導入管6にはパージガスとしてのArガスを導入するためのガス供給口6aが設けられている。また、光導入管には図1に記載した構造のもの以外に、プラズマ炎5の軸方向にのみ発光光を取り出す光路を形成するものや、プラズマ炎5の軸方向に直交する方向にのみ発光光を取り出す光路を形成するものなど、その形状や大きさなどが相違する複数種が用意されており、使用者が交換することができるようになっている。そして、それぞれの光導入管にはその種別を識別するための、光学的に読み取り可能な識別子6bが設けられている。
【0024】
分光器11は、略密閉され図示しないポンプにより真空排気されたハウジングの内部に、コリメータ鏡12、エシェル回折格子13、プリズム14、シュミット鏡15、及びテレメータ鏡16が光路に沿って配置され、分光器11で二次元的に波長分散された光は略密閉された容器17内に収容された二次元検出器18に導入される。二次元検出器18は例えばCCDイメージセンサなどを用いることができる。この容器17にもパージガスとしてのArガスを導入するためのガス供給口17aが設けられている。
【0025】
二次元検出器18による検出信号は増幅器20により増幅され、A/D変換器21によりデジタルデータに変換されてデータ処理部23に送られる。データ処理部23は例えば発光スペクトル等を作成し、これに基づいて試料の含有元素の同定や定量を実行する。制御部24は分析に際してArガス制御部27等の各部の動作を制御する。制御部24及びデータ処理部23は例えば、操作部25や表示部26が接続された汎用のパーソナルコンピュータ22により構成することができ、該コンピュータ22にインストールした専用の制御/処理ソフトウエアを実行することで所望の機能を達成するようにすることができる。
【0026】
図2に示すように、Arガス制御部27にあってはArガス供給源28から導出された元供給路270がArガス供給先にそれぞれ対応した複数の供給路に分岐されている。ここでは、光導入管パージガス供給路272、検出器パージガス供給路276、ネブライズガス供給路280のみを記載しているが、それ以外にプラズマトーチ1等にArガスを供給する供給路も備えられている。光導入管パージガス供給路272、検出器パージガス供給路276、ネブライズガス供給路280にはそれぞれ所定の流量抵抗を有する抵抗管273、277、281が挿入され、抵抗管273、277の下流側端部にはそれぞれ圧力センサ274、278が設置されている。また、抵抗管281の上流側端部と下流側端部との間には差圧センサ282が設置されている。さらに、元供給路270にも圧力センサ271が設置されている。また、光導入管パージガス供給路272、検出器パージガス供給路276、ネブライズガス供給路280にあって抵抗管273、277、281よりも下流側には開度を任意に調整可能な流量調節弁275、279、283が設けられている。
【0027】
それぞれの供給路272、276、280を流れるガスの実流量は、抵抗管273、277、281の両端の差圧と流量抵抗とから計算することができる。即ち、ネブライズガス供給路280に流れるガス流量は差圧センサ282による検出値と抵抗管281の流量抵抗とから求まる。一般に、こうした差圧センサ282は高価であるが高い精度で抵抗管281両端の差圧を求めることができ、それ故に供給路280を流れるガスの実流量を高い精度で算出して流量調節弁283による流量調節も正確に行える。ネブライズガスはプラズマトーチ1に導入される試料溶液の量を左右するため、このように精度の高い流量制御を行うことで高精度の分析に有効である。
【0028】
一方、供給路272、276を経て供給されるパージガスの流量の精度はネブライズガスほどは必要ない。そこで、高価な差圧センサを使用する代わりに、流量演算部284において圧力センサ274、278の検出値と圧力センサ271の検出値とからそれぞれ抵抗管273、277の両端間の差圧に相当する差圧を求め、これに基づき各供給路272、276を流れているガスの実流量を計算する。この場合、圧力センサ271によるガス圧検出位置と抵抗管273、277の上流側端部との間の距離が長いため、差圧センサを使用する場合に比べて差圧の算出精度は下がり、それ故に流量調節の精度も低くなる。しかしながら、上述のようにネブライズガスほどの流量精度を必要としないので、このような構成としても実用上問題はなく、コストを下げるのに有益である。
【0029】
前述のように各種の光導入管6の使用に対応するため、光導入管6の内容積や外部へのガス漏出部の面積などから、所定の時間(例えば5分)で非パージ状態(光導入管6の内部に空気が充満している状態)からパージ状態(十分な分析が行える程度に空気がパージガスに置換された状態)に達するようなガス流量L1と、パージ状態を維持し続けるためのガス流量L2とを、計算又は実測により光導入管6の種別毎に予め求めておく。いま、ここでは光導入管6がA、B、Cの3種類あって、それぞれのガス流量L1がLa1、Lb1、Lc1、ガス流量L2がLa2、Lb2、Lc2であるものとする。このガス流量L1を初期流量目標値として、ガス流量L2を定常流量目標値として制御部24のメモリ24aに格納しておく。この初期流量目標値及び定常流量目標値は例えば図3に示すような関係であるものとする。
【0030】
分析を実行するために本装置が起動されたとき、制御部24はまず、光導入管識別部29によりその時点で装着されている光導入管6の識別子6bを読み取ることで光導入管6の種別を判別し、上記メモリ24aからその光導入管6に対応した初期流量目標値及び定常流量目標値を読み出す。そして、上記のように流量演算部284で計算される、供給路272を通してのパージガスの実流量の値を読み込んで初期流量目標値と比較し、その差がゼロになるように流量調節弁275の開度を調節する。したがって、ガス供給口6aから光導入管6内に供給されるArガス(パージガス)の実流量は図3に示すように、装着されている光導入管6の種類によって異なるものとなる。そして、光導入管6の種類に拘わらず装置起動時から所定時間t1が経過した時点で、光導入管6はパージ状態となって分析が可能となる。
【0031】
所定時間t1が経過すると、制御部24は比較対象を初期流量目標値から定常流量目標値に変更する。その結果、流量調節弁275の開度は大幅に絞られ、ガス供給口6aから光導入管6内に供給されるArガス(パージガス)の実流量は図3に示すように、装着されている光導入管6の種類によって異なる値に切り替わる。したがって、過大な流量のガスが流れること無しに光導入管6内のパージ状態は維持され、良好な分析が可能となる。
【0032】
以上のようにして、本実施例によるICP発光分光分析装置では、いずれの種類の光導入管6が使用された場合でも、非パージ状態からパージ状態に至るまでに無駄に過大な量のパージガスが供給されることがなく、パージ状態に移行した後にも同様にパージ状態を維持するために必要な量以上の無駄なパージガスが供給され続けることを回避することができる。それによって、Arガスを節約することができる。
【0033】
なお、二次元検出器18を内装する容器17内をパージするパージガスの供給に関しても、その種別を判別してそれに応じて流量目標値を変更する点以外は同様の手法で流量制御を行うことができる。
【0034】
また、上記実施例のICP発光分光分析装置では、プラズマ炎5の発光光を利用して光導入管6内のパージの程度、つまり分析に十分な程度にパージが行われたか否かを判定する機能を追加してもよい。
【0035】
即ち、空気中に含まれるNガスはプラズマ状態において特定の複数の波長で以て発光する。そこで、その複数の波長の中で深紫外波長領域で発光強度の大きな波長、例えば174nmを基準波長として選択し、予め光導入管6の内部空間が十分にパージされた状態でのプラズマ光強度を測定して、これを基準データとしてメモリ24aに格納しておく。
【0036】
装置の起動時には、まず流量目標値をL1(La1、Lb1又はLc1)に設定してパージガスを光導入管6内に供給することによりパージを行いながら、二次元検出器18により又は別途設けた光検出器によりは上記基準波長におけるプラズマ光強度を測定する。パージが不十分であるときには、残留ガスによる深紫外波長領域での吸収が大きいため、プラズマ光強度は上記基準データに比べてかなり小さくなる。そしてパージが進行して残留ガス濃度が低下するに伴いプラズマ光強度の実測値は上昇する。そして、この実測値が上記メモリ24aに格納しておいた基準となる強度に近い値(例えば基準データの95%)に達したならば、十分にパージが達成されたと判断する。このような判断がなされるまでに所定時間t1が経過したとしても流量目標値の切り替えは実行せず、プラズマ強度に基づいて十分にパージが達成されたと判断した時点で流量目標値をL1(La1、Lb1又はLc1)からL2(La2、Lb2又はLc2)に変更し、発光分析を実行する。
【0037】
また紫外可視波長を併用する方法も考えられる。即ち、プラズマ光強度が十分でない原因は、パージが不十分である場合だけでなく、プラズマ炎自体での発光強度が不足している場合、光学系に異常がある場合、検出器に異常がある場合、パージガスの種類に誤りがある場合、などいくつかの要素があり得て、さらには複数要因が混在していることもあり得る。そこで、パージ状態になっていなくても検出器に十分な強度のプラズマ光が到達し得るような可視紫外波長領域での発光強度が大きな波長を選定し、予め正常動作時のプラズマ光強度を測定してこれも基準データとしてメモリ24aに格納しておく。そして、装置起動時にはまず、この可視紫外波長領域の波長でのプラズマ光強度が十分であるか否かをチェックし、十分であれば上記のように深紫外波長領域の波長でのプラズマ光強度のチェックを実行する。可視紫外波長領域の波長でのプラズマ光強度が不十分である場合には、パージ以外の不具合が考えられるので例えば表示部26にエラー表示を行えばよい。
【0038】
また、プラズマ光強度の絶対値の比較によりパージ状態を判断するのではなく、プラズマ光強度の変化の傾き(微分値)で以てパージ状態であるか否かを判断してもよい。即ち、パージが開始された当初は微分値は大きくなり、空気がパージガスに置換されて飽和してくると微分値はゼロに近づくから、微分値がゼロに近い所定値以下になったときにパージ状態であると判断してもよい。
【0039】
なお、上記実施例は本発明の一例であり、本発明の趣旨の範囲内で適宜に変更や修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施例であるICP発光分光分析装置の全体構成図。
【図2】図1中のArガス制御部における要部の構成図。
【図3】パージガスの初期流量目標値及び定常流量目標値の一例を示す図。
【符号の説明】
【0041】
1…プラズマトーチ
2…噴霧室
3…ネブライザ
4…コイル
5…プラズマ炎
6…光導入管
6a…ガス供給口
6b…識別子
7、8…固定鏡
9…可動鏡
11…分光器
12…コリメータ鏡
13…エシェル回折格子
14…プリズム
15…シュミット鏡
16…テレメータ鏡
17…容器
17a…ガス供給口
18…二次元検出器
20…増幅器
21…A/D変換器
22…パーソナルコンピュータ
23…データ処理部
24…制御部
24a…メモリ
25…操作部
26…表示部
27…Arガス制御部
270…元供給路
271、274、278…圧力センサ
272…光導入管パージガス供給路
273、277、281…抵抗管
275、279、283…流量調節弁
276…検出器パージガス供給路
280…ネブライズガス供給路
282…差圧センサ
284…流量演算部
28…Arガス供給源
29…光導入管識別部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ炎を形成するプラズマトーチと、プラズマ炎による発光光を分光する分光器と、分光された光を検出する検出器と、を具備するICP分析装置において、
a)前記プラズマ炎による発光光が前記分光器に到達するまでの光路を覆う部材であって交換可能である光導入管と、
b)前記光導入管内の空気をパージするためのパージガスの供給源と、
c)装着された前記光導入管の種別を判別する光導入管判別手段と、
d)前記パージガス供給源から前記光導入管に至るパージガスの供給路にあって該ガスの流量を検出するとともに該流量を調節する流量調節手段と、
e)前記光導入管判別手段による判別結果に応じた流量目標値を設定して前記パージガス供給路のガス流量が該目標値となるように前記流量調節手段を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とするICP分析装置。
【請求項2】
前記プラズマ炎による発光光が前記光導入管を通過した後の光強度を検知する光強度監視手段をさらに備え、前記制御手段は該光強度監視手段による検知結果に応じて前記流量目標値を修正することを特徴とする請求項1に記載のICP分析装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−322261(P2007−322261A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−153312(P2006−153312)
【出願日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】