説明

IL−15とIL−15Rαとの複合体の結晶

【課題】IL-15とIL-15受容体(R)αの複合体の構造解析を行うため、IL-15/IL-15Rα複合体結晶を調製すること。
【解決手段】IL-15とIL-15Rαとの複合体の結晶。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IL-15とIL-15Rαとの複合体の結晶、及び上記結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インターロイキン-15 (IL-15) は炎症性サイトカインであり、14〜15kDaの糖タンパク質で、単球、マクロファージ、線維芽細胞、ケラチノサイト、樹状細胞などで発現することが知られている。IL-15の遺伝子は既にクローニングされている(特許文献1)。IL-15の発現は、炎症状態で上昇することが知られている。特に、リウマチ性関節炎などの慢性炎症性疾患では、局所的に産生したIL-15 が、滑膜T細胞の動員及び活性化によって炎症を増幅していることが示唆されている。IL-15は、リウマチ性関節炎患者の滑液中に多量に検出され、その滑膜T細胞はIL-15の添加によりTNF-αの産生を誘導する。これらから、IL-15はリウマチ性関節炎の病態形成に重要な役割を果たしていることが示唆される。
【0003】
IL-15受容体(R)α鎖は、分子量58から60kDaの膜結合型糖タンパク質で、シグナルペプチド、細胞外領域、膜貫通領域及び細胞内領域から構成され、N型糖鎖結合部位が1カ所存在する。IL-15Rα鎖は生体内で広範囲に発現が認められ、心臓、脾臓、肺、骨格筋、肝臓に発現が分布することが示され、更にNK細胞、マクロファージ 、B細胞、好中球などでも発現していることが報告されている。IL-15Rαについては、IL-15Rαの遺伝子を種々の細胞に導入することにより発現させたもの、およびIL-15Rαと同等の活性をもつ変異体が報告されている(特許文献2)。
【0004】
IL-15Rαは、2006年にNMRによって解析された構造が報告された。しかしながら、IL-15の構造は未知であり、またIL-15とIL-15Rαの認識機構に関しても、3次元構造を基にした知見は得られていなかった。
【0005】
【特許文献1】特表平9−512165号公報
【特許文献2】国際公開WO95/30695号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、IL-15とIL-15Rαの複合体の構造解析を行うため、IL-15/IL-15Rα複合体結晶を調製することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
IL-15の大腸菌を用いた発現および構造解析のための濃縮は、困難である。そこで、本発明者らは、IL-15とIL-15Rαを各々発現・精製し、混ぜて複合体を形成させてから濃縮することにより安定なIL-15/IL-15Rα複合体を得た。これらのタンパク質の収量が低かったため、Fluidigm社製のTOPAZを用いてnano Lスケールで結晶化条件の検索を行った。その後、蒸気拡散法により、構造解析に適した質および大きさの結晶を調製することに成功した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
【0008】
即ち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1) IL-15とIL-15Rαとの複合体の結晶。
(2) 空間群P21212に属し、結晶の格子定数がa=78.2±2.0オングストローム、b=119.9±2.0オングストローム、c=49.4±2.0オングストロームであることを特徴とする、IL-15とIL-15Rαとの複合体の結晶。
(3) 空間群P212121に属し、結晶の格子定数がa=81.8±2.0オングストローム、b=127.0±2.0オングストローム、c=191.3±2.0オングストロームであることを特徴とする、IL-15とIL-15Rαとの複合体の結晶。
(4) IL-15とIL-15Rαを各々精製した後に混合して複合体を形成させ、上記で得たIL-15とIL-15Rαとの複合体を蒸気拡散法を用いて結晶化させることにより得られる、請求項1から3の何れかに記載の結晶。
(5) IL-15とIL-15Rαを各々精製した後に混合して複合体を形成させる工程、及び上記で得たIL-15とIL-15Rαとの複合体を蒸気拡散法により結晶化させる工程を含む、IL-15とIL-15Rαとの複合体の結晶を製造する方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、IL-15/IL-15Rα複合体結晶の調製法が確立された。その結晶を用いて構造解析を行い、IL-15とIL-15Rαの認識機構が原子レベルで明らかになった。IL-15は関節リウマチ患者の炎症部位で異常発現しており、IL-15とIL-15Rαの結合を阻害した場合、炎症が抑制される。IL-15/IL-15Rα複合体の結晶化・構造解析を行うことにより、その構造を基にした抗リウマリ薬の開発が可能になる。上記の通り、本発明のIL-15/IL-15Rα複合体結晶を用いた構造解析により得られるIL-15とIL-15Rαの認識機構に関する知見は、抗リウマチ薬として機能するIL-15とIL-15Rαの結合阻害剤の開発に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明は、IL-15とIL-15Rαとの複合体の結晶に関するものであり、より具体的には、IL-15とIL-15Rαを各々精製した後に混合して複合体を形成させ、上記で得たIL-15とIL-15Rαとの複合体を蒸気拡散法を用いて結晶化させることにより得られる上記の結晶に関するものである。
【0011】
本発明では、精製したIL-15と精製したIL-15Rαを用いて、両者を混合して複合体を形成させる。本発明で用いるIL-15とIL-15Rαの由来は特に限定されず、天然由来のタンパク質、遺伝子組み換えタンパク質、化学合成タンパク質の何れでもよいが、好ましくは遺伝子組み換えタンパク質である。
【0012】
IL-15遺伝子とIL-15Rα遺伝子の塩基配列は公知であり、例えば、特表平9−512165号公報、国際公開WO95/30695号公報などに記載されている。上記塩基配列の情報に基づいて、当業者であれば、IL-15遺伝子とIL-15Rα遺伝子をクローニングすることができる。例えば、細胞培養から全RNAを抽出し、抽出した全RNA を鋳型とし、逆転写反応を行ってcDNAを合成する。このcDNAを含む反応溶液と、目的の遺伝子(即ち、IL-15遺伝子とIL-15Rα遺伝子)を増幅できるように設計したプライマーを用いてPCR反応を行うことによって、IL-15遺伝子とIL-15Rα遺伝子を増幅することができる。増幅産物を常法に従ってクローニングすることにより、IL-15遺伝子とIL-15Rα遺伝子をクローニングすることができる。
【0013】
IL-15遺伝子とIL-15Rα遺伝子を用いて組み換えタンパク質を作製する方法も、当業者に公知の常法に従って行うことができる。先ず、IL-15遺伝子とIL-15Rα遺伝子は、適当な発現ベクター中に挿入する。発現ベクターにおいてIL-15遺伝子とIL-15Rα遺伝子は、転写に必要な要素(例えば、プロモーター等)が機能的に連結されている。プロモータは宿主細胞において転写活性を示すDNA配列であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。
【0014】
次に、IL-15遺伝子又はIL-15Rα遺伝子を含む発現ベクターを適当な宿主に導入することによって形質転換体を作製する。宿主細胞は、IL-15遺伝子又はIL-15Rα遺伝子を発現できれば任意の細胞でよく、細菌、酵母、真菌および高等真核細胞等が挙げられる。細菌細胞の例としては、バチルスまたはストレプトマイセス等のグラム陽性菌又は大腸菌等のグラム陰性菌が挙げられる。これら細菌の形質転換は、プロトプラスト法、または公知の方法でコンピテント細胞を用いることにより行えばよい。哺乳類細胞の例としては、HEK293細胞、HeLa細胞、COS細胞、BHK細胞、CHL細胞またはCHO細胞等が挙げられる。哺乳類細胞を形質転換し、該細胞に導入されたDNA配列を発現させる方法も公知であり、例えば、エレクトロポーレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等を用いることができる。酵母細胞の例としては、サッカロマイセスまたはシゾサッカロマイセスに属する細胞が挙げられ、例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevis1ae)またはサッカロマイセス・クルイベリ(Saccharomyces kluyveri)等が挙げられる。酵母宿主への組み換えベクターの導入方法としては、例えば、エレクトロポレーション法、スフェロブラスト法、酢酸リチウム法等を挙げることができる。他の真菌細胞の例は、糸状菌、例えばアスペルギルス、ニューロスポラ、フザリウム、またはトリコデルマに属する細胞である。宿主細胞として糸状菌を用いる場合、DNA構築物を宿主染色体に組み込んで組換え宿主細胞を得ることにより形質転換を行うことができる。DNA構築物の宿主染色体への組み込みは、公知の方法に従い、例えば相同組換えまたは異種組換えにより行うことができる。昆虫細胞を宿主として用いる場合には、組換え遺伝子導入ベクターおよびバキュロウイルスを昆虫細胞に共導入して昆虫細胞培養上清中に組換えウイルスを得た後、さらに組換えウイルスを昆虫細胞に感染させ、タンパク質を発現させることができる。
【0015】
上記の形質転換体は、導入されたIL-15遺伝子又はIL-15Rα遺伝子の発現を可能にする条件下で適切な栄養培地中で培養する。形質転換体の培養物から、IL-15又はIL-15Rαを単離精製するには、通常のタンパク質の単離、精製法を用いればよい。
【0016】
例えば、培養終了後、細胞を遠心分離により回収し水系緩衝液に懸濁後、超音波破砕機等により細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られた上清から、通常のタンパク質の単離精製法、即ち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、DEAE Sepharose等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、SP-Sepharose FF(GE Healthcare社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィ一法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法を単独あるいは組み合わせて用い、精製したIL-15又はIL-15Rαを得ることができる。
【0017】
本発明では、上記のようにして取得した精製したIL-15と精製したIL-15Rαを用いてIL-15/IL-15Rα複合体を調製する。具体的には、精製したIL-15と精製したIL-15Rαを1:1のモル比で混合し、Recombinant Enterokinaseで処理し、ベクター由来N末端融合配列を切断する。その後、HiLoad 16/60 Superdex 75 prep grade (GE Healthcare)を用いて精製を行い、IL-15/IL-15Rα複合体を得ることができる。
【0018】
本発明では、上記のようにして取得したIL-15/IL-15Rα複合体を用いて結晶化を行う。結晶化の方法は特に限定されるものではなく、例えば、蒸気拡散法、バルクバッチ法、マイクロバッチ法、自由界面拡散法、マイクロ透析法などを用いることができる。
【0019】
蒸気拡散法は最も用いられている方法で、結晶化溶液とリザーバー溶液の配置によりハンギングドロップ法・シッティングドロップ法・サンドイッチドロップ法に分類される。タンパク質溶液にリザーバー溶液を加えて結晶化溶液とし、これと過剰量のリザーバー溶液を同一容器中に分離密閉し、結晶化溶液がリザーバー溶液に対して蒸気平衡に近づく過程で核形成と結晶成長を図る方法である。ハンギングドロップ法では、カバーグラスに懸架できる結晶化溶液は比較的少量(数〜10μL)であるが、一般的に結晶は結晶化溶液の表面で成長し、カバーグラスなどからの物理的影響を受け難いため、比較的良質の結晶が得られる。容器としては汎用結晶化プレートが市販されているが、24穴細胞培養用プレートが一般的に使用される。カバーグラスにはシリコナイズ処理したガラス製のものが通常使用される。シッティングドロップ法では結晶化溶液量を比較的多く(数〜数十μL)設定できるため、大きな結晶が得られやすい。24穴細胞培養用プレートのウェル内にガラス或いはプラスチック製の台座を置いたものか、市販の汎用結晶化プレートやシッティングドロップ専用プレート(GystalCIcar Strips・ CrysChem)を結晶化容器として用いることができる。
【0020】
バルクバッチ法は、タンパク質溶液に沈殿が生じる直前の濃度まで沈殿剤を加えた後、密閉して静置する方法である。バルクバッチ法は操作が単純であるが、比較的多量の試料を必要とする。マイクロバッチ法は、タンパク質溶液に沈殿剤を加えた微量の結晶化溶液をパラフィン或いはシリコンオイル中に静置する方法である。マイクロバッチ法は微量試料でも適用可能なように改良されたバッチ法である。
【0021】
自由界面拡散法は、タンパク質溶液と沈殿剤溶液の比重の差を利用して両者を層積させ、 2相界面付近でのタンパク質の溶解度減少によって結晶核形成を図り、その後の2液の経時的混合過程において結晶成長を期待する方法である。試料量が多い場合には通常のガラス管を、少ない場合には薄層クロマトグラフィーに使用するスポット用ガラスキャビラリーや結晶封入用ガラスキャビラリーを、それぞれシリコナイズ処理して結晶化容器として使用することができる。
【0022】
マイクロ透析法は、微量透析用容器を用いた透析法であり、原理的には通常の透析法と同じである。マイクロ透析法では、透析膜で透析外液と隔てた結晶化溶液を様々な条件の外液に浸すことによって、同一試料による複数条件の適用が可能である。
【0023】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0024】
実施例1:クローニング
(1)IL-15のクローニング
CFBE41o-細胞の細胞培養からISOGEN(ニッポンジーン)を用いて全RNAを抽出した。抽出した全RNA を鋳型とし、RNA PCR kit (AMV) Ver.2.1 (TaKaRa)を用いて逆転写反応を行った。この反応溶液を用いてPCR反応を行った。PCRで使用した酵素は、TaKaRa TaqTM(TaKaRa)であり、使用したプライマーは、forward 5'-TACCGTGGCTTTGAGTAATGAG-3'(配列番号1)、reverse 5'- CTAAGCAGCAGAGTGATGTTTG-3'(配列番号2)である。PCR条件は、94℃で2分を1サイクル、94℃で30秒、48℃で30秒、72℃で1分を40サイクル、72℃で10分を1サイクルとした。得られたPCR産物はTA cloning Kit (Invitrogen)を用いクローニングを行った。シークエンスの確認を行いIL-15 in pCR2.1 vectorを得た。
【0025】
(2)IL-15Rαのクローニング
Human Leukocyte QUICK-CLONE cDNA(CLONTECH) 250pgを鋳型としてPCR反応を行った。PCRで使用した酵素は、TaKaRa LA taq (TaKaRa)であり、使用したプライマーは、forward 5'- ATCACGTGCCCTCCCCCCATGTC-3' (配列番号3)、reverse 5'-ACAGTGGTGTCGCTGTGGCCCTG-3' (配列番号4)である。PCR条件は、94℃で9分を1サイクル、94℃で30秒、64℃で30秒、72℃で1分を40サイクル、72℃で10分を1サイクルとした。得られたPCR産物はTA cloning Kitを用いクローニングを行った。シークエンスの確認を行いIL-15Rα in pCR2.1 vectorを得た。
【0026】
実施例2:サブクローニング
クローニングで得られたIL-15 in pCR2.1 vector、IL-15Rα in pCR2.1 vectorを鋳型とし、Pyrobest DNA Polymerase (TaKaRa) を用いてPCR反応を行った。得られたPCR産物[IL-15(1-114)、IL-15Rα(1-102) )]はpET-32b(+) vectorにサブクローニングを行った。シークエンスの確認を行いIL-15 in pET-32b(+)、IL-15Rα in pET-32b(+)を得た。
【0027】
IL-15(1-114)の塩基配列と、IL-15Rα(1-102)の塩基配列を以下に示す。
IL-15(1-114)の塩基配列(配列番号5):
aactgggtgaatgtaataagtgatttgaaaaaaattgaagatcttattcaatctatgcatattgatgctactttatatacggaaagtgatgttcaccccagttgcaaagtaacagcaatgaagtgctttctcttggagttacaagttatttcacttgagtccggagatgcaagtattcatgatacagtagaaaatctgatcatcctagcaaacaacagtttgtcttctaatgggaatgtaacagaatctggatgcaaagaatgtgaggaactggaggaaaaaaatattaaagaatttttgcagagttttgtacatattgtccaaatgttcatcaacacttct
【0028】
IL-15Rα(1-102)の塩基配列(配列番号6):
atcacgtgccctccccccatgtccgtggaacacgcagacatctgggtcaagagctacagcttgtactccagggagcggtacatttgtaactctggtttcaagcgtaaagccggcacgtccagcctgacggagtgcgtgttgaacaaggccacgaatgtcgcccactggacaacccccagtctcaaatgcattagagaccctgccctggttcaccaaaggccagcgccaccctccacagtaacgacggcaggggtgaccccacagccagagagcctctccccttctggaaaagagcccgcagcttca
【0029】
実施例3:発現・精製
(1)IL-15の発現・精製
発現ベクターIL-15 in pET-32b(+)を用いて、Rosetta-gami B(DE3) pLysS (Novagen)株を形質転換した。形質転換した大腸菌株を用いて、IPTG (isopropyl-1-thio-(R)-D-galactopyranside) 0.1mM、誘導時間16時間、培養温度25℃の条件で培養を行い、集菌した。得られた菌体をバッファーに懸濁しフレンチプレスを用い粉砕した後、遠心分離により可溶性画分を得た。この可溶性画分をnickel-nitrilotriacetic acid metal-affinity resin (QIAGEN)、RESOURCE S 6ml(GE Healthcare), HiLoad 16/60 Superdex 75 prep grade (GE Healthcare)を用いて精製した。
【0030】
(2)IL-15Rαの発現・精製
発現ベクターIL-15Rα in pET-32b(+)を用いて、Rosetta-gami B(DE3) pLysS (Novagen)株を形質転換した。形質転換した大腸菌株を用いて、IPTG 0.1mM、誘導時間5時間、培養温度25℃の条件で培養を行い、集菌した。得られた菌体をバッファーに懸濁しフレンチプレスを用い粉砕した後、遠心分離により可溶性画分を得た。この可溶性画分をnickel-nitrilotriacetic acid metal-affinity resin (QIAGEN)、RESOURCE Q 6ml(GE Healthcare)を用いて精製した後, Recombinant Enterokinase (Novagen)で処理し、ベクター由来N末端融合配列を切断した。その後、RESOURCE S 6ml(GE Healthcare)を用いて精製した。
【0031】
(3)IL-15/IL-15Rα複合体の調製
(1)及び(2)で得られたタンパク質を1:1のモル比で混合し、Recombinant Enterokinaseで処理し、ベクター由来N末端融合配列を切断した。その後、HiLoad 16/60 Superdex 75 prep grade (GE Healthcare)を用いて精製を行い、IL-15/IL-15Rα複合体を得た。得られたタンパク質溶液は結晶化を目的とし、6mg/mlの濃度に調製した。
【0032】
実施例4:結晶化
スクリーニングはTOPAZ system (Fluidigm社)を用いて行った。得られた情報をもとに、ハンギングドロップ法により結晶化条件の精密化を行った。IL-15/IL-15Rα複合体の結晶はタンパク質溶液とリザーバー溶液(0.85M sodium malonate, 0.15mM sodium citrate, pH 5.5) を等量混合し、シッティングドロップ法により得られた。
【0033】
実施例5:X線回折実験
X線回折実験は高エネルギー加速器研究機構放射光実験施設(PF-AR NW12A)およびSPring-8 BL41XUで行った。結晶はクライオループにマウントし、フラッシュクーリング法により100Kで凍結後、液体窒素中に保存したものを測定に用いた。測定は全てクライオ条件(100K)で行った。
【0034】
クライオ条件でX線回折実験を行うためには、結晶を不凍液中に浸しておく必要があ
る。測定で使用したクライオプロテクタントは、実施例に記載のリザーバー溶液に10%のグリセロールを添加したものを用いた。結晶構造の解析結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
2種類の結晶は両方共、斜方晶系に属し、空間群P21212およびP212121であった。空間群P21212の結晶の格子定数はa=78.2, b=119.9, c=49.4(オングストローム)、空間群P212121の格子定数はa=81.8, b=127.0, c=191.3(オングストローム)であった。これらの構造解析を行った結果、空間群P21212と空間群P212121の結晶は、各々IL-15/IL-15Rα複合体を非対称単位中に2個および8個含むことが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は、IL-15/IL-15Rα複合体のゲルろ過のチャートを示す。メインピークが複合体である。
【図2】図2は、図1中のメインピークの電気泳動を示す。主要ピークは2種類のタンパク質からなる複合体である。
【図3】図3は、図1の試料を用いて調製したIL-15/IL-15Rα複合体の結晶を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
IL-15とIL-15Rαとの複合体の結晶。
【請求項2】
空間群P21212に属し、結晶の格子定数がa=78.2±2.0オングストローム、b=119.9±2.0オングストローム、c=49.4±2.0オングストロームであることを特徴とする、IL-15とIL-15Rαとの複合体の結晶。
【請求項3】
空間群P212121に属し、結晶の格子定数がa=81.8±2.0オングストローム、b=127.0±2.0オングストローム、c=191.3±2.0オングストロームであることを特徴とする、IL-15とIL-15Rαとの複合体の結晶。
【請求項4】
IL-15とIL-15Rαを各々精製した後に混合して複合体を形成させ、上記で得たIL-15とIL-15Rαとの複合体を蒸気拡散法を用いて結晶化させることにより得られる、請求項1から3の何れかに記載の結晶。
【請求項5】
IL-15とIL-15Rαを各々精製した後に混合して複合体を形成させる工程、及び上記で得たIL-15とIL-15Rαとの複合体を蒸気拡散法により結晶化させる工程を含む、IL-15とIL-15Rαとの複合体の結晶を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−273864(P2008−273864A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−118112(P2007−118112)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】