説明

IRカット機能付きNDフィルタ

【課題】赤外線カット機能を備えながらも可視光領域における光の透過率を従来以上に平坦化することが可能なIRカット機能付きNDフィルタを提供する。
【解決手段】本発明に係るNDフィルタ1は、光透過性を有する基材10と、基材10の表面に形成されて可視光の透過光量を調節するND膜20と、ND膜20が形成された基材10における基材10の表面またはND膜20の表面に形成されて赤外線の透過光量を調節するIRカット膜22と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に可視光領域において光量を調節するND(Neutral Density)フィルタに関し、特に赤外線をカットする機能を備えるIR(InfraRed)カット機能付きNDフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スチルカメラやビデオカメラといった撮像装置では、いわゆる絞りとNDフィルタを併用することによって、光量調節を行っている。絞りのみで光量調節を行う場合、例えば、快晴時等、高輝度の被写界を撮像する際には、絞りの開口を最小限にしても露出過多になってしまうことがある。また、絞りの開口を最小限にするとハンチング現象や光の回折の影響が大きくなるため、画像の品質が劣化することがある。
【0003】
このため、従来の撮像装置では、透過する光を消衰させて(吸収して)透過光量を調節するND(Neutral Density)フィルタを、絞り装置と共に組み込むことで、被写界の輝度が高い場合にも絞りの開口を大きくできるようにしている。
【0004】
このようにして使用されるNDフィルタは、絞りに代わって光量を調節するものであるため、光の透過率が可視光領域の全域にわたってできるだけ平坦(均一)になっていることが好ましい。また、透過率を平坦化することにより、特定の範囲の波長の光のみが強調されるといったことがなくなるため、色の再現性を向上させることが可能となる。
【0005】
このため、近年では、樹脂フィルム等の透明な基材の表面に光を吸収する光吸収膜(金属膜)と光を干渉させる誘電体膜とを交互に積層したNDフィルタが広く使用されており、例えば金属膜および誘電体膜を基材の中心部に部分的に形成したNDフィルタ等も提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の撮像素子を備えるデジタルカメラ等においては、これらの撮像素子の赤外線(赤外光)に対する感度が高いことから、NDフィルタに加えてさらに、不要な赤外線をカットする赤外線カットフィルタを設けることが必須となっている。しかしながら、2種類のフィルタを配置することは撮像装置のコンパクト化や低コスト化の妨げとなっていた。
【0007】
このような問題に対して、可視光の透過率を調節するND膜と共に、赤外線(赤外光)を消衰または反射させて赤外線の透過光量を調節するIR(InfraRed)カット膜を形成したIRカット機能付きNDフィルタが提案されている(例えば、特許文献2または3参照)。NDフィルタにIRカット機能を付加するようにすれば、フィルタを1つ省略することができるため、撮像装置のコンパクト化や低コスト化を実現することが可能となる。さらに、ND膜およびIRカット膜を形成する基材をできるだけ薄くすれば、よりコンパクトな撮像装置の構成が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−258494号公報
【特許文献2】特開2006−330128号公報
【特許文献3】特開2007−225735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献2および3に開示されているIRカット機能付きNDフィルタでは、ND膜の形成よりも先にIRカット膜の形成を行っているため、ND膜の膜厚制御が難しいという問題があった。
【0010】
具体的には、IRカット膜は、一般的に18〜40層の非常に厚みのある積層膜から構成されるため、樹脂フィルム等の薄手の基材にIRカット膜を形成する場合、反り(カーリング)等の変形の発生が避けられないものとなっている。そして、このように変形した基材にスパッタリング等のドライプロセスによってND膜を形成しようとする場合、変形によって基材表面各部における成膜距離(ターゲットからの距離)に差が生じるため、膜厚を適切に制御することが非常に困難となる。
【0011】
特に近年では、撮像素子の感度が著しく向上していることから、ND膜による可視光の透過率の凹凸が、色調の変化となって撮像した画像に敏感に表れるようになってきており、さらなる透過率の平坦化が望まれている。しかしながら、このような高性能なND膜を形成するには高精度な膜厚制御が必要となるため、従来のIRカット機能付きNDフィルタでは実現が困難であった。
【0012】
また、上記特許文献2では、基材の両面にIRカット膜を形成することで、反りを少なくする旨が開示されているものの、基材の変形を完全に押えることは困難であり、高精度な膜厚制御が要求される高性能なND膜を形成可能なものではなかった。
【0013】
本発明は、斯かる実情に鑑み、赤外線カット機能を備えながらも可視光領域における光の透過率を従来以上に平坦化することが可能なIRカット機能付きNDフィルタを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(1)本発明は、光透過性を有する基材と、前記基材の表面に形成されて可視光の透過光量を調節するND膜と、前記ND膜が形成された前記基材における前記基材の表面または前記ND膜の表面に形成されて赤外線の透過光量を調節するIRカット膜と、を備えることを特徴とする、IRカット機能付きNDフィルタである。
【0015】
(2)本発明はまた、前記基材は、平板状であり、前記ND膜は、前記基材の両面に形成され、前記IRカット膜は、前記基材のいずれか一方の面の前記ND膜の上に形成されることを特徴とする、上記(1)に記載のIRカット機能付きNDフィルタである。
【0016】
(3)本発明はまた、前記基材の少なくともいずれか一方の面の前記ND膜は、前記基材の表面において部分的に形成されることを特徴とする、上記(2)に記載のIRカット機能付きNDフィルタである。
【0017】
(4)本発明はまた、前記基材は、平板状であり、前記ND膜は、前記基材の一方の面に形成され、前記IRカット膜は、前記ND膜の上に形成されることを特徴とする、上記(1)に記載のIRカット機能付きNDフィルタである。
【0018】
(5)本発明はまた、光の反射を調節するためのAR膜が、前記基材の他方の面に形成されることを特徴とする、上記(4)に記載のIRカット機能付きNDフィルタである。
【0019】
(6)本発明はまた、前記基材は、平板状であり、前記ND膜は、前記基材の一方の面に形成され、前記IRカット膜は、前記基材の他方の面に形成されることを特徴とする、上記(1)に記載のIRカット機能付きNDフィルタである。
【0020】
(7)本発明はまた、前記ND膜は、前記基材の表面において部分的に形成されることを特徴とする、上記(4)乃至(6)のいずれかに記載のIRカット機能付きNDフィルタである。
【0021】
(8)本発明はまた、前記基材の厚みが、300μm以下であることを特徴とする、上記(1)乃至(7)のいずれかに記載のIRカット機能付きNDフィルタである。
【0022】
(9)本発明はまた、前記ND膜は、誘電体膜を有する基材側誘電体層と、金属膜からなる金属層と、前記基材側誘電体層よりも可視光領域における消衰係数が高く、かつ誘電体膜を有する反基材側誘電体層と、を前記基材側から順に積層して構成されることを特徴とする、上記(1)乃至(8)のいずれかに記載のIRカット機能付きNDフィルタである。
【0023】
(10)本発明はまた、前記基材側誘電体層は、複数の前記誘電体膜を有し、互いに異なる材質の前記誘電体膜同士が隣接するように積層して構成されることを特徴とする、上記(9)に記載のIRカット機能付きNDフィルタである。
【0024】
(11)本発明はまた、前記反基材側誘電体層は、互いに異なる材質の複数の前記誘電体膜を有することを特徴とする、上記(9)または(10)に記載のIRカット機能付きNDフィルタである。
【0025】
(12)本発明はまた、前記反基材側誘電体層は、前記基材側誘電体層に含まれる材質よりも可視光領域における消衰係数の高い材質から構成される高消衰膜を含むことを特徴とする、上記(9)乃至(11)のいずれかに記載のIRカット機能付きNDフィルタである。
【0026】
(13)本発明はまた、前記高消衰膜は、窒化金属または酸化金属から構成されることを特徴とする、上記(12)に記載のIRカット機能付きNDフィルタである。
【0027】
(14)本発明はまた、前記高消衰膜は、前記金属膜を構成する金属の窒化物または酸化物から構成されることを特徴とする、上記(13)に記載のIRカット機能付きNDフィルタである。
【0028】
(15)本発明はまた、前記金属膜を構成する材質は、モル比で50%以上となるチタン、クロムまたはニッケルのいずれかであることを特徴とする、上記(9)乃至(14)のいずれかに記載のIRカット機能付きNDフィルタである。
【0029】
(16)本発明はまた、前記基材側誘電体層は、基材側第1誘電体膜、基材側第2誘電体膜、および基材側第3誘電体膜を、前記基材側から順に積層して構成され、前記反基材側誘電体層は、反基材側第1誘電体膜、および反基材側第2誘電体膜を、前記基材側から順に積層して構成されることを特徴とする、上記(9)乃至(15)のいずれかに記載のIRカット機能付きNDフィルタである。
【0030】
(17)本発明はまた、前記反基材側誘電体層は、前記反基材側第1誘電体膜と前記反基材側第2誘電体膜の間に、前記基材側誘電体層に含まれる材質よりも可視光領域における消衰係数の高い材質から構成される高消衰膜を有することを特徴とする、上記(16)に記載のIRカット機能付きNDフィルタである。
【0031】
(18)本発明はまた、前記基材側第1誘電体膜、前記基材側第3誘電体膜、および前記反基材側第2誘電体膜は、第1の材質から構成され、前記基材側第2誘電体膜および前記反基材側第1誘電体膜は、前記第1の材質とは異なる第2の材質から構成されることを特徴とする、上記(17)に記載のIRカット機能付きNDフィルタである。
【0032】
(19)本発明はまた、光透過性を有する基材と、前記基材の表面中央部に部分的に形成されて可視光の透過光量を調節するND膜と、前記ND膜が形成された前記基材における前記基材の表面または前記ND膜の表面に形成されて赤外線の透過光量を調節するIRカット膜と、を備えることを特徴とする、IRカット機能付きNDフィルタである。
【0033】
(20)本発明はまた、光透過性を有する基材と、前記基材の表面中央部の一部分を除く領域に形成されて可視光の透過光量を調節するND膜と、前記ND膜が形成された前記基材における前記基材の表面または前記ND膜の表面に形成されて赤外線の透過光量を調節するIRカット膜と、を備えることを特徴とする、IRカット機能付きNDフィルタである。
【発明の効果】
【0034】
本発明に係るIRカット機能付きNDフィルタは、赤外線カット機能を備えながらも可視光領域における光の透過率を従来以上に平坦化することが可能という優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施の形態に係るIRカット機能付きNDフィルタの構成を示した概略図である。
【図2】本実施形態のIRカット膜(IRC膜)の透過率Tを示したグラフである。
【図3】本実施形態のND膜の構成を示した概略図である。
【図4】(a)Tiの可視光領域における消衰係数kおよび屈折率nを示したグラフである。(b)TiNを薄膜に形成した場合の可視光領域における消衰係数kおよび屈折率nを示したグラフである。(c)TiNを厚膜に形成した場合の可視光領域における消衰係数kおよび屈折率nを示したグラフである。
【図5】(a)SiOの可視光領域における消衰係数kおよび屈折率nを示したグラフである。(b)SiNの可視光領域における消衰係数kおよび屈折率nを示したグラフである。
【図6】屈折率を変化させた場合のNDフィルタの透過率Tおよび反射率Rのシミュレーション結果の例を示したグラフである。
【図7】屈折率を変化させた場合のNDフィルタの透過率Tおよび反射率Rのシミュレーション結果の例を示したグラフである。
【図8】屈折率を変化させた場合のNDフィルタの透過率Tおよび反射率Rのシミュレーション結果の例を示したグラフである。
【図9】屈折率を変化させた場合のNDフィルタの透過率Tおよび反射率Rのシミュレーション結果の例を示したグラフである。
【図10】屈折率を変化させた場合のNDフィルタの透過率Tおよび反射率Rのシミュレーション結果の例を示したグラフである。
【図11】(a)本実施形態のNDフィルタの構成を示した表である。(b)本実施形態のNDフィルタの透過率Tおよび反射率Rのシミュレーション結果を示したグラフである。
【図12】(a)〜(c)NDフィルタのその他の構成の例を示した概略図である。
【図13】(a)〜(d)NDフィルタのその他の構成の例を示した概略図である。
【図14】(a)〜(c)NDフィルタのその他の構成の例を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の例について詳細に説明する。
【0037】
図1は、本実施形態に係るIRカット機能付きNDフィルタ1の構成を示した概略図である。同図に示されるように、IRカット機能付きNDフィルタ(以下、単にNDフィルタと呼ぶ)1は、透明樹脂やガラス等の光を透過する材質からなる平板状の基材10と、基材10の両面に形成された2つのND膜20と、一方のND膜20の上からND膜20の表面に形成されたIRカット膜(以下、IRC膜と呼ぶ)22と、を備えて構成されている。
【0038】
基材10を構成する材質は、NDフィルタ1の用途に応じた波長の光を透過する材質であれば特に限定されるものではないが、本実施形態では、PET(PolyEthylene Terephthalate)シートを使用している。基材10の厚みは、特に限定されるものではないが、NDフィルタ1が組み込まれる各種装置のコンパクト化のためには、可能な限り薄く構成することが好ましい。具体的には、基材10の厚みは、300μm以下であることが好ましく、175μm以下であればより好ましく、100μm以下であることが最も好ましい。
【0039】
ND膜20は、NDフィルタ1を透過する可視光領域(波長が凡そ400〜700nmの範囲)の光を略平坦に消衰させるための薄膜であり、複数の誘電体および金属等からなる膜を積層して構成されている。なお、本実施形態では、ND膜20を基材10の両面に形成することにより、ND膜20を反射防止膜としても機能させるようにしている。
【0040】
なお、ND膜20は、真空蒸着、イオンビームアシスト、イオンプレーティング、およびスパッタリング等のドライプロセスによって基材10の表面に形成されるが、これらの成膜手法は既知の手法であるため、ここでは説明を省略する。また、ND膜20の構成の詳細については後述する。
【0041】
IRC膜22は、NDフィルタ1を透過する赤外線(波長が凡そ700nm以上)を消衰(吸収)または反射してカットするための薄膜である。IRC膜22の構成は、特に限定されるものではなく、赤外線を消衰または反射する各種材質からなる既知の構成を採用することができる。従って、IRC膜22は、例えば、TiO、SiO、またはZrO等の金属化合物を積層して構成した薄膜であってもよいし、赤外線吸収能力を備える各種無機材料や有機材料のコーティング膜であってもよい。
【0042】
本実施形態では、光学膜厚が凡そ1/4〜2/4程度(λ=550nm)のSiO膜とTiO膜を交互に積層した39層構成の積層膜からIRC膜22を構成している。また、IRC膜22は、ND膜20と同様に、真空蒸着、イオンビームアシスト、イオンプレーティング、およびスパッタリング等のドライプロセスによって形成される。
【0043】
図2は、本実施形態のIRC膜22の透過率Tを示したグラフである。同図に示されるように、本実施形態のIRC膜22によれば、可視光を透過させつつ、赤外線を効率的に反射してカットすることが可能となっている。
【0044】
なお、本実施形態のように厚膜のIRC膜22を基材10に形成する場合、基材10に反り(カーリング)が生じることとなるが、反りが生じた基材10にスパッタリング等のドライプロセスによってND膜20を形成しようとすると、基材10表面の各部において成膜距離に差が生じることとなり、膜厚を適切に制御することが困難となる。
【0045】
このため、本実施形態では、先にNDフィルタ20を基材10に形成し、その後IRC膜22をND膜20の上に形成するようにしている。換言すれば、本実施形態では、NDフィルタ20が形成された基材10にIRC膜22を形成するようにしている。
【0046】
ND膜20において可視光領域における透過率Tを適切に設定すると共に、透過率Tの平坦性を高めるためには、積層膜であるND膜20を構成する各層が適切な膜厚で形成される必要がある。特に、ND膜20を構成する各層の膜厚はIRC膜22に比して非常に薄く、膜厚誤差が品質に大きく影響するため、ND膜20の形成においては高精度な膜厚制御が要求されることとなる。
【0047】
従って、本実施形態では、ND膜20を先に形成、すなわちカーリング等の変形のない基材10にND膜20を形成することで、ND膜20を構成する各層の膜厚を高精度に制御することを可能としている。そしてこれにより、本実施形態のNDフィルタ1では、IRカット機能を備えながらも、可視光領域における透過率の平坦性を従来以上に高めることを可能としている。さらに、本実施形態によれば、基材10の厚みを従来以上に薄膜化することが可能であり、具体的には基材10の厚みを100μm以下にすることも可能となっている。
【0048】
なお、ND膜20は一般的には10層程度(本実施形態では、7層)であり、IRC膜22よりも薄膜であることからカーリングの発生は少なく、ND膜20の後に形成されるIRC膜22の膜厚制御に与える影響は少ないものとなっている。さらに、本実施形態では、基材10の両面にND膜20を形成しているため、カーリングがより生じにくいものとなっている。
【0049】
次に、ND膜20の詳細について説明する。
【0050】
図3は、本実施形態のND膜20の構成を示した概略図である。ND膜20は、基材側誘電体層30と、金属の膜からなる金属層40と、反基材側誘電体層50と、を基材10側から順に積層して構成されている。すなわち、ND膜20は、金属層40を基材側電体層30および反基材側誘電体層50で挟んだ構成となっている。
【0051】
本実施形態では、金属膜からなり光を消衰させる金属層40を、光を干渉させる基材側誘電体層30および反基材誘電体層50によって挟むことにより、光の反射率Rを低減しつつ、光の透過率Tを可視光領域の略全域にわたって略平坦にすることを可能としている。
【0052】
特に、基材側誘電体層30および反基材側誘電体層50を、異なる材質からなる複数の誘電体膜からそれぞれ構成すると共に、反基材側誘電体層50の光の消衰係数(光の消衰能力)を基材側誘電体層30よりも高く設定することで、透過率Tを可視光領域において従来以上に平坦化させることを可能としている。
【0053】
基材側誘電体層30は、基材10側から順に、基材側第1誘電体膜31、基材側第2誘電体膜32、および基材側第3誘電体膜33を積層して構成されている。このように、3つの誘電体からなる膜を積層して金属層40の基材10側に配置することで、可視光領域における透過率Tを従来以上に平坦化することができる。
【0054】
基材側第1誘電体膜31、基材側第2誘電体膜32、および基材側第3誘電体膜33を構成する材質は、特に限定されるものではなく、SiO(二酸化ケイ素、シリカ)、SiN(窒化ケイ素)、AL(酸化アルミニウム、アルミナ)、MgF(フッ化マグネシウム)、およびTiO(二酸化チタン)等、誘電体膜として従来使用されている材質を使用することができる。
【0055】
なお、ND膜20における光の透過率Tおよび反射率Rを適宜に調節するためには、基材側誘電体層30において隣り合う誘電体膜が互いに異なる材質となるように積層することが好ましい。また、可視光領域における透過率Tを従来以上に平坦化するためには、互いの屈折率の差が所定の範囲内となる誘電体膜同士を隣り合わせることが好ましい。
【0056】
従って、本実施形態では、基材側第1誘電体膜31および基材側第3誘電体膜33をSiOから構成し、基材側第2誘電体膜32をSiNから構成している。また、このように、共通の金属(Si)に異なる元素(O、N)が結合した互いに異なる金属化合物から基材側第1誘電体膜31、基材側第2誘電体膜32および基材側第3誘電体膜33を構成することにより、ドライプロセスによる成膜を効率的に行うことが可能となる。すなわち、例えばスパッタリングにより成膜する場合、ターゲットを変更することなく反応ガスを変更するだけで基材側誘電体層30を構成する誘電体膜を全て形成することができる。
【0057】
金属層40は、金属膜から構成されている。この金属層40の膜厚を適宜に調節することによって、NDフィルタ1における可視光の透過率Tを調節することができる。金属層40を構成する材質は、特に限定されるものではなく、Ti(チタン)、Cr(クロム)、およびNi(ニッケル)等、光吸収膜(光消衰膜)として従来使用されている金属を使用することができる。
【0058】
なお、光の消衰を安定させるためには、金属層40を構成する材質は、モル比で50%以上となるTi、CrまたはNiのいずれかであることが好ましい。また、本実施形態では、金属層40をTiからなる1層の金属膜から構成しているが、複数種類の金属膜を積層して金属層40を構成するようにしてもよい。
【0059】
反基材側誘電体層50は、基材10側から順に、反基材第1誘電体膜51、高消衰膜52、および反基材側第2誘電体膜53を積層して構成されている。このうち、反基材第1誘電体膜51および反基材側第2誘電体膜53は、誘電体からなる膜であり、高消衰膜52は、基材側誘電体層30に含まれる材質よりも可視光領域における消衰係数kが高い材質からなる膜である。なお、高消衰膜52は、誘電体から構成されるものであってもよいし、金属から構成されるものであってもよい。
【0060】
本実施形態では、このように高消衰膜52を2つの誘電体膜51、53で挟んだ反基材側誘電体層50を金属層40の反基材10側に配置することにより、金属層40による可視光の消衰を適宜に補完し、NDフィルタ1における可視光の透過率Tを平坦化することを可能としている。すなわち、互いに異なる光特性を有する金属層40および高消衰膜52を適宜に組み合わせて併用することにより、可視光領域における透過率Tの平坦性を従来以上に高めることを可能としている。
【0061】
高消衰膜52を構成する材質は、特に限定されるものではなく、Ti、Cr、およびNi等の金属や、これらの金属の酸化物または窒化物等の金属化合物を使用することができる。但し、高消衰膜52を構成する材質は、透過率Tを適宜に調節するためには、上述のように金属層40を構成する材質とは異なる材質(異なる光特性を有する材質)であることが好ましい。さらに、高消衰膜52を構成する材質を、金属層40を構成する金属の窒化物または酸化物とすれば、成膜を効率的に行うことが可能となる。従って、本実施形態では、高消衰膜52をTiN(窒化チタン)から構成している。
【0062】
反基材側第1誘電体膜51および反基材側第2誘電体膜53を構成する材質は、特に限定されるものではなく、基材側誘電体層30と同様に、SiO、SiN、AL、MgF、およびTiO等、誘電体膜として従来使用されている材質を使用することができる。但し、可視光領域における透過率Tの平坦性を高めるためには、反基材側第1誘電体膜51および反基材側第2誘電体膜53を互いに異なる材質から構成することが好ましい。さらに、成膜を効率的に行うためには、反基材側第1誘電体膜51および反基材側第2誘電体膜53を、基材側誘電体層30と共通する材質から構成することが好ましい。従って、本実施形態では、反基材側第1誘電体膜51をSiNから構成し、反基材側第2誘電体膜53をSiOから構成している。
【0063】
図4(a)は、Tiの可視光領域における消衰係数kおよび屈折率nを示したグラフであり、同図(b)は、TiNを薄膜に形成した場合の可視光領域における消衰係数kおよび屈折率nを示したグラフであり、同図(c)は、TiNを厚膜に形成した場合の可視光領域における消衰係数kおよび屈折率nを示したグラフである。
【0064】
これらの図に示されるように、TiおよびTiNは、それぞれ異なる光特性(消衰係数k、屈折率n)を有している。また、TiNについては、膜厚を変化させることによって屈折率の特性が大きく変化するようになっている。本実施形態では、このような特性に基づき、2つの異なる光消衰膜(金属層40および高消衰膜52)を併用すると共に、両者の膜厚を適宜に調節することで、可視光領域における透過率Tを従来以上に平坦化することを可能としている。
【0065】
なお、金属層40および高消衰膜52の膜厚は、特に限定されるものではなく、要求される平均透過率や、金属層40および高消衰膜52を構成する材質の特性に応じて、適宜に設定することができる。また、光特性のマッチングと共に膜厚を適宜に設定すれば、他の材質の組合せによっても同様の効果を得ることが可能である。
【0066】
図5(a)は、SiOの可視光領域における消衰係数kおよび屈折率nを示したグラフであり、同図(b)は、SiNの可視光領域における消衰係数kおよび屈折率nを示したグラフである。これらの図に示されるように、SiOおよびSiNは、可視光領域における光の消衰係数が略0となっている。
【0067】
従って、本実施形態では、基材側誘電体層30全体としての可視光領域消衰係数kは略0となっており、基材側誘電体層30は可視光をほとんど消衰させない(吸収しない)ように構成されている。また、反基材側誘電体層50全体としての可視光領域における消衰係数kは、高消衰膜52の可視光領域における消衰係数kと略同一となっている。
【0068】
すなわち、本実施形態では、可視光領域における消衰係数kの低い(略0の)基材側誘電体層30、可視光領域における消衰係数kの高い金属層40、および可視光領域(の同一波長)における消衰係数kが基材側誘電体層30より高く、金属層40よりも低い反基材側誘電体層50を基材10側から順に積層してND膜20を構成しており、これにより、可視光領域における透過率Tの平坦性を高めることが可能となっている。
【0069】
さらに本実施形態では、ND膜20を大きく分けて基材側誘電体層30、金属層40および反基材側誘電体層50の3層構成、詳細には基材側誘電体層30および反基材側誘電体層50をさらに3層構成とした7層構成とした場合において、基材側第1誘電体膜31(1層目)、基材側第2誘電体膜32(2層目)および基材側第3誘電体膜33(3層目)、ならびに反基材側第1誘電体膜51(5層目)および反基材側第2誘電体膜53(7層目)の屈折率を適宜に設定することによって可視光領域における透過率Tの平坦性をさらに高めるようにしている。
【0070】
図6〜10は、ND膜20の基材側第1誘電体膜31(1層目)、基材側第3誘電体膜33(3層目)および反基材側第2誘電体膜53(7層目)の屈折率、ならびに基材側第2誘電体膜32(2層目)および反基材側第1誘電体膜51(5層目)の屈折率をそれぞれ変化させた場合のNDフィルタ1の透過率Tおよび反射率Rのシミュレーション結果の例を示したグラフである。
【0071】
なお、これらの例では、1、3、7層目の屈折率nおよび2、5層目の屈折率nを波長によらずそれぞれ一定と仮定している。また、1、3、7層目および2、5層目の消衰係数kを全て0と仮定している。そして、金属層(4層目)をTiから構成し、および高消衰膜(6層目)をTiNから構成している。
【0072】
これらのシミュレーション結果より、本実施形態の7層構成のND膜20では、1、3、7層目の屈折率nを1.38〜2.0の範囲内のいずれかの値に設定すると共に、2、5層目の屈折率nを1.38〜2.4の範囲内のいずれかの値に設定することにより、可視光領域における透過率Tの平坦性を30%以内にすることが可能であることが分かる。すなわち、可視光領域における透過率Tの平坦性Tflat=(Tmax−Tmin)/Tave≦0.3とすることが可能であることが分かる。ここで、Tmaxは可視光領域内における透過率Tの最大値、Tminは可視光領域内における透過率Tの最小値、Taveは可視光領域内における透過率Tの平均値である。
【0073】
なお、各層に実際の材質を適用する場合には、可視光領域における代表屈折率(波長550nmにおける屈折率)nが上記範囲内となる材質を各層に適用すればよいと考えられる。
【0074】
また、これらのシミュレーション結果からは、1、3、7層目の屈折率(代表屈折率)nの値を2、5層目の屈折率(代表屈折率)nの値以下とした方が、透過率Tの平坦性が高い傾向にあることが分かる。さらに、この場合、1、3、7層目の屈折率(代表屈折率)nの値と2、5層目の屈折率(代表屈折率)nの値との差が凡そ0.5以下、より好ましくは0.2乃至0.5の範囲内であれば、透過率Tの平坦性がさらに高まる傾向にあることが分かる。
【0075】
また、反射率Rについては、1、3、7層目の屈折率(代表屈折率)nの値を1.9以下(すなわち、真空の屈折率1.0より大きく1.9以下)とすれば、可視光領域における反射率Rを2%以下とすることが可能であり、1、3、7層目の屈折率(代表屈折率)nの値が小さいほど可視光領域における反射率Rが低減する傾向にあることが分かる。
【0076】
本実施形態では、このような考察に基づいて、ND膜20の基材側第1誘電体膜31(1層目)、基材側第3誘電体膜33(3層目)および反基材側第2誘電体膜53(7層目)を構成する材質をSiOとし、基材側第2誘電体膜32(2層目)および反基材側第1誘電体膜51(5層目)を構成する材質をSiNとしている。そして、このようにして材質を選定することにより、可視光領域における透過率Tの従来にない平坦性を得ることが可能となっている。
【0077】
図11(a)は、本実施形態のND膜20の構成を示した表である。本実施形態では、同図に示されるように、基材側誘電体層30の基材側第1誘電体膜31をSiO、基材側第2誘電体膜32をSiN、基材側第3誘電体膜33をSiNとし、金属層40をTiとし、反基材側誘電体層50の反基材側第1誘電体膜51をSiN、高消衰膜52をTiN、反基材側第2誘電体膜53をSiOとしたND膜20を、厚さ100μmのPETシートの基材10に形成している。
【0078】
また、ND膜20の厚み(膜厚)は、基材側第1誘電体膜31を0.568、基材側第2誘電体膜32を0.2187、基材側第3誘電体膜33を0.2683、金属層40を0.062、反基材側第1誘電体膜51を0.1456、高消衰膜52を0.0602、反基材側第2誘電体膜を0.2042としている(全て光学膜厚(λ=550nm))。
【0079】
図11(b)は、本実施形態のND膜20の透過率Tおよび反射率Rのシミュレーション結果を示したグラフである。同図に示されるように、本実施形態のND膜20の構成によれば、透過率Tの平坦性を従来以上に高めると共に、反射率Rについても従来以上に低減することが可能となっている。
【0080】
なお、ND膜20の構成は、上述した構成に限定されるものではなく、その他の構成であってもよいことはいうまでもない。すなわち、要求される特性や使用条件、コスト等に応じた適宜の構成のND膜20を採用することが可能である。
【0081】
次に、NDフィルタ1のその他の構成について説明する。
【0082】
図12(a)〜(c)、図13(a)〜(d)および図14(a)〜(c)は、NDフィルタ1のその他の構成の例を示した概略図である。
【0083】
図12(a)は、基材10の一方の面にND膜20を形成し、他方の面にIRC膜22を形成した例を示している。要求される可視光の透過率を1つのND膜20で達成できるような場合には、NDフィルタ1をこのように構成してもよい。なお、この場合においても、ND膜20をIRC膜22よりも先に形成することにより、ND膜20の膜厚を高精度に制御することができる。また、ND膜20を反射防止膜として機能させることができる。
【0084】
同図(b)は、基材10の一方の面にND膜20を形成し、このND膜20の上(表面)にIRC膜22を形成した例を示している。基材10表面の反射を押える必要がないような場合には、NDフィルタ1をこのように構成してもよい。
【0085】
同図(c)は、基材10の一方の面にND膜20を形成し、このND膜20の上(表面)にIRC膜22を形成すると共に、基材10の他方の面に光の反射を防止(調節)するためのAR(Anti Reflection)膜24を形成した例を示している。このように、ND膜20およびIRC膜22に加えてAR膜24を備えるようにしてもよい。
【0086】
なお、AR膜24は既知のものを使用することが可能であり、例えば、SiO膜とTiO膜を交互に積層した積層膜を、AR膜24として使用することができる。このAR膜24は、ND膜20およびIRC膜22と同様に、真空蒸着、イオンビームアシスト、イオンプレーティング、およびスパッタリング等のドライプロセスによって形成することができる。
【0087】
図13(a)〜(d)は、ND膜20を基材10の表面において部分的に形成した例を示している。このように、ND膜20を部分的に形成して可視光が消衰されない領域をNDフィルタ1に設けた場合、光の透過位置を変化させることによって可視光の透過率を大きく変更することが可能となる。
【0088】
すなわち、例えばNDフィルタ1を移動させるなどして、光にND膜20を透過させる場合とさせない場合の2つの状態を設けることにより、可視光の透過率を大きく変更することができる。そして、IRC膜22を基材10の略全面(すなわち、基材10の表面およびND膜20の表面の両方)に形成するようにしておけば、いずれの状態においても不要な赤外線は確実にカットすることができる。
【0089】
このように、ND膜20を基材10表面において部分的に形成する場合、同図(a)に示されるように、基材10の両面に形成したND膜20の両方を部分的に形成するようにしてもよいし、同図(b)に示されるように、一方のND膜20のみを部分的に形成するようにしてもよい。なお、図示は省略するが、同図(a)に示す例においては、IRC膜22の反対側にAR膜24を形成するようにしてもよい。
【0090】
また、同図(c)に示されるように、基材10の一方の面のみに形成したND膜20を部分的に形成するようにしてもよく、この場合、同図(d)に示されるように、ND膜20およびIRC膜22の反対側の面にAR膜24を形成するようにしてもよい。さらに、図示は省略するが、基材10の一方の面にND膜20を部分的に形成し、他方の面にIRC膜22を形成するようにしてもよく、この場合、ND膜20側にAR膜24を形成するようにしてもよい。
【0091】
また、図14(a)に示されるように、ND膜20をNDフィルタ1の中央部に部分的に設けるようにしてもよいし、同図(b)に示されるように、NDフィルタ1の中央部にND膜20が形成されない領域を部分的に設けるようにしてもよい。このようにすることで、同図(c)に示されるように、周囲の領域1aとは可視光の透過率の異なる領域1bを中央部に備える目玉構造のNDフィルタ1を構成することができる。
【0092】
なお、同図(c)は、同図(a)または(b)のNDフィルタ1のいずれか一方の面を示した概略図(平面図)である。ここで、同図(a)に示す例においては、中央部の領域1bが周囲の領域1aよりも可視光の透過率が低い領域となり、同図(b)に示す例においては、中央部の領域1bが周囲の領域1aよりも可視光の透過率が高い領域となる。
【0093】
このように、NDフィルタ1を目玉構造に構成することにより、上記特許文献3(特開2007−225735号公報)に記載してあるように、中央部分(領域1b)とそれ以外の部分(領域1a)の使い分けをすることができる。なお、中央部の領域1bは、正確にNDフィルタ1の中央に設ける必要はなく、いずれかの方向にずれた位置に設けるようにしてもよいことは言うまでもない。また、中央部の領域1bの形状は、円形状に限定されるものではなく、例えば楕円形状や多角形状等、その他の形状であってもよい。
【0094】
以上説明したように、本実施形態に係るNDフィルタ1は、光透過性を有する基材10と、基材10の表面に形成されて可視光の透過光量を調節するND膜20と、ND膜20が形成された基材10における基材10の表面またはND膜20の表面に形成されて赤外線の透過光量を調節するIRカット膜(IRC膜)22と、を備えている。
【0095】
このような構成とすることで、ND膜20を形成する際に基材10の変形に影響されることがないため、高精度な膜厚制御を行うことが可能となる。これにより、IRカット機能を備えながらも、可視光領域における透過率の平坦性を従来以上に高めると共に、NDフィルタ1の生産時の歩留まりを向上させることができる。
【0096】
また、基材10を従来以上に薄膜化することが可能となるため、NDフィルタ1が組み込まれる機器のさらなるコンパクト化を実現することができる。なお、基材10の厚みは300μm以下であることが好ましく、175μm以下であればより好ましく、100μm以下であることが最も好ましい。
【0097】
また、基材10は平板状であり、ND膜20は、基材10の両面に形成され、IRC膜22は、基材10のいずれか一方の面のND膜20の上に形成されている。このようにすることで、NDフィルタ1に可視光および赤外線の透過光量の調節機能に加えて、IRC膜22の反対側のND膜20による反射防止機能を備えることができる。
【0098】
また、基材10の少なくともいずれか一方の面のND膜20は、基材10の表面において部分的に形成されるようにしてもよい。このようにすることで、光の透過位置の変更により、可視光の透過率を大きく変化させることが可能となる。
【0099】
なお、ND膜20は、平板状の基材10の一方の面に形成され、IRC膜22は、ND膜20の上に形成されるようにしてもよい。この場合、光の反射を調節(防止)するためのAR膜24が、基材10の他方の面に形成されるようにしてもよい。
【0100】
また、NDフィルタ1において、ND膜20は、平板状の基材10の一方の面に形成され、IRC膜22は、基材10の他方の面に形成されるようにしてもよい。
【0101】
また、ND膜20は、誘電体膜を有する基材側誘電体層30と、金属膜からなる金属層40と、基材側誘電体層30よりも可視光領域における消衰係数kが高く、かつ誘電体膜を有する反基材側誘電体層50と、を基材10側から順に積層して構成されている。このようにすることで、金属層40における光の消衰を基材側誘電体層30および反基材側誘電体層50によって適宜に調節することが可能となるため、赤外線カット機能を備えながらも可視光領域における透過率Tを従来以上に平坦化することができる。
【0102】
また、基材側誘電体層30は、複数の誘電体膜を有し、互いに異なる材質の誘電体膜同士が隣接するように積層して構成されている。また、反基材側誘電体層50は、互いに異なる材質の複数の誘電体膜を有している。このようにすることで、透過率Tおよび反射率Rをより細かく調節することが可能となるため、反射率Rを低減しつつ、透過率Tを従来以上に平坦化することができる。
【0103】
なお、基材側誘電体層30に含まれる誘電体膜(本実施形態では、基材側第1誘電体膜31、基材側第2誘電体膜32および基材側第3誘電体膜33)の厚み(膜厚)は、要求される特性や誘電体の材質等に応じて適宜に設定すればよく、特に限定されるものではないが、反射率Rを低減させるためには、基材側誘電体層30の厚みを略1/2波長(λ=550nm)に設定することが好ましい。
【0104】
同様に、反基材側誘電体層50に含まれる誘電体膜(本実施形態では、反基材側第1誘電体膜51、反基材側第2誘電体膜53)の厚み(膜厚)は、特に限定されるものではないが、反射率Rを低減させるためには、最表面の誘電体膜(本実施形態では、反基材側第2誘電体膜53)の厚みを略1/4波長(λ=550nm)に設定することが好ましい。
【0105】
また、本実施形態では、基材側誘電体層30を、基材側第1誘電体膜31、基材側第2誘電体膜32および基材側第3誘電体膜33の3層構成とした例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、基材側誘電体層30を1つの層から構成してもよいし、4つ以上の層から構成してもよい。すなわち、基材側誘電体層30をいくつの誘電体膜の層から構成するかは、要求される特性や誘電体の材質等に応じて適宜に設定すればよい。
【0106】
同様に、反基材側誘電体層50についても、本実施形態で示した層構成以外の層構成としてもよく、さらに高消衰膜52のみから反基材側誘電体層50を構成するようにしてもよい。
【0107】
また、反基材側誘電体層50は、基材側誘電体層30に含まれる材質よりも可視光領域における消衰係数kの高い材質から構成される高消衰膜52を含んでいる。このようにすることで、金属層40および高消衰膜52が相乗的に機能するため、透過率Tを従来以上に平坦化することができる。
【0108】
また、高消衰膜52は、窒化金属または酸化金属から構成されることが好ましい。このようにすることで、金属層40とは異なる特性の高消衰膜52を適宜に組み合わせることができる。
【0109】
また、高消衰膜52は、金属膜(金属層)40を構成する金属の窒化物または酸化物から構成されることがより好ましい。このようにすることで、例えば同一のターゲットを用いたスパッタリングにより金属層40および高消衰膜52を形成することが可能となり、成膜を効率的かつ低コストに行うことができる。
【0110】
また、金属膜(金属層)40を構成する材質は、モル比で50%以上となるチタン、クロムまたはニッケルのいずれかであることが好ましい。このようにすることで、安定的に可視光を消衰させることができる。
【0111】
また、基材側誘電体層30は、基材側第1誘電体膜31、基材側第2誘電体膜32、および基材側第3誘電体膜33を、基材10側から順に積層して構成され、反基材側誘電体層50は、反基材側第1誘電体膜51、および反基材側第2誘電体膜53を、基材10側から順に積層して構成されている。このようにすることで、ND膜20の層数(膜数)を増やすことなく、必要最低限の構成で可視光領域における透過率Tを従来以上に平坦化することができる。
【0112】
また、反基材側誘電体層50は、反基材側第1誘電体膜51と反基材側誘電体膜53の間に、基材側誘電体層30に含まれる材質よりも可視光領域における消衰係数kの高い材質から構成される高消衰膜52を有している。このようにすることで、金属層40を補完する高消衰膜52を適切に配置することができる。
【0113】
また、基材側第1誘電体膜31、基材側第3誘電体膜33、および反基材側第2誘電体膜53は、第1の材質(本実施形態では、SiO)から構成され、基材側第2誘電体膜32および反基材側第1誘電体膜51は、第1の材質とは異なる第2の材質(本実施形態では、SiN)から構成されている。このようにすることで、必要最低限の材質数で、可視光領域における透過率Tの平坦化を実現することができる。すなわち、従来以上の光特性を有するNDフィルタ1を低コストで実現することができる。
【0114】
このとき、第1の材質の可視光領域における屈折率nは、第2の材質の可視光領域における屈折率n以下となっていることが好ましい。
【0115】
また、第1の材質は、波長550nmにおける屈折率が1.38乃至2.0のいずれかとなる材質であり、前記第2の材質は、波長550nmにおける屈折率が1.38乃至2.4のいずれかとなる材質であることが好ましい。
【0116】
また、第1の材質の波長550nmにおける屈折率と、前記第2の材質の波長550nmにおける屈折率との差が0.5以下であることが好ましい。
【0117】
このように、適宜の屈折率を有する第1の材質および第2の材質を使用することで、可視光領域における透過率Tを従来以上に平坦化することが可能となる。
【0118】
また、第1の材質および第2の材質は、共通の金属に異なる元素が結合した互いに異なる金属化合物であることが好ましい。このようにすることで、成膜を効率的に行うことができる。
【0119】
また、高消衰膜52を構成する材質および第2の材質は、異なる金属に共通の元素が結合した互いに異なる金属化合物であることが好ましい。このようにすることで、成膜を効率的に行うことができる。
【0120】
また、第1の材質は、二酸化ケイ素(SiO)であり、第2の材質は、窒化ケイ素(SiN)であることが好ましい。このようにすることで、透過率Tを平坦化するために最適な材質の組合せを選定しながらも、成膜を効率化し、コストを低減することができる。
【0121】
また、金属膜(金属層)40を構成する材質は、チタン(Ti)であり、高消衰膜52を構成する材質は、窒化チタン(TiN)であることが好ましい。このようにすることで、透過率Tを平坦化するために最適な材質の組合せを選定しながらも、成膜を効率化し、コストを低減することができる。
【0122】
なお、本発明のIRカット機能付きNDフィルタは、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明のNDフィルタは、アナログカメラやデジタルカメラ、ビデオカメラ等の各種撮像装置の分野以外にも、可視光を使用する各種光学装置の分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0124】
1 NDフィルタ
10 基材
20 ND膜
22 IRカット膜(IRC膜)
24 AR膜
30 基材側誘電体層
31 基材側第1誘電体膜
32 基材側第2誘電体膜
33 基材側第3誘電体膜
40 金属層
50 反基材側誘電体層
51 反基材側第1誘電体膜
52 高消衰膜
53 反基材側第2誘電体膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性を有する基材と、
前記基材の表面に形成されて可視光の透過光量を調節するND膜と、
前記ND膜が形成された前記基材における前記基材の表面または前記ND膜の表面に形成されて赤外線の透過光量を調節するIRカット膜と、を備えることを特徴とする、
IRカット機能付きNDフィルタ。
【請求項2】
前記基材は、平板状であり、
前記ND膜は、前記基材の両面に形成され、
前記IRカット膜は、前記基材のいずれか一方の面の前記ND膜の上に形成されることを特徴とする、
請求項1に記載のIRカット機能付きNDフィルタ。
【請求項3】
前記基材の少なくともいずれか一方の面の前記ND膜は、前記基材の表面において部分的に形成されることを特徴とする、
請求項2に記載のIRカット機能付きNDフィルタ。
【請求項4】
前記基材は、平板状であり、
前記ND膜は、前記基材の一方の面に形成され、
前記IRカット膜は、前記ND膜の上に形成されることを特徴とする、
請求項1に記載のIRカット機能付きNDフィルタ。
【請求項5】
光の反射を調節するためのAR膜が、前記基材の他方の面に形成されることを特徴とする、
請求項4に記載のIRカット機能付きNDフィルタ。
【請求項6】
前記基材は、平板状であり、
前記ND膜は、前記基材の一方の面に形成され、
前記IRカット膜は、前記基材の他方の面に形成されることを特徴とする、
請求項1に記載のIRカット機能付きNDフィルタ。
【請求項7】
前記ND膜は、前記基材の表面において部分的に形成されることを特徴とする、
請求項4乃至6のいずれかに記載のIRカット機能付きNDフィルタ。
【請求項8】
前記基材の厚みが、300μm以下であることを特徴とする、
請求項1乃至7のいずれかに記載のIRカット機能付きNDフィルタ。
【請求項9】
前記ND膜は、誘電体膜を有する基材側誘電体層と、金属膜からなる金属層と、前記基材側誘電体層よりも可視光領域における消衰係数が高く、かつ誘電体膜を有する反基材側誘電体層と、を前記基材側から順に積層して構成されることを特徴とする、
請求項1乃至8のいずれかに記載のIRカット機能付きNDフィルタ。
【請求項10】
前記基材側誘電体層は、複数の前記誘電体膜を有し、互いに異なる材質の前記誘電体膜同士が隣接するように積層して構成されることを特徴とする、
請求項9に記載のIRカット機能付きNDフィルタ。
【請求項11】
前記反基材側誘電体層は、互いに異なる材質の複数の前記誘電体膜を有することを特徴とする、
請求項9または10に記載のIRカット機能付きNDフィルタ。
【請求項12】
前記反基材側誘電体層は、前記基材側誘電体層に含まれる材質よりも可視光領域における消衰係数の高い材質から構成される高消衰膜を含むことを特徴とする、
請求項9乃至11のいずれかに記載のIRカット機能付きNDフィルタ。
【請求項13】
前記高消衰膜は、窒化金属または酸化金属から構成されることを特徴とする、
請求項12に記載のIRカット機能付きNDフィルタ。
【請求項14】
前記高消衰膜は、前記金属膜を構成する金属の窒化物または酸化物から構成されることを特徴とする、
請求項13に記載のIRカット機能付きNDフィルタ。
【請求項15】
前記金属膜を構成する材質は、モル比で50%以上となるチタン、クロムまたはニッケルのいずれかであることを特徴とする、
請求項9乃至14のいずれかに記載のIRカット機能付きNDフィルタ。
【請求項16】
前記基材側誘電体層は、基材側第1誘電体膜、基材側第2誘電体膜、および基材側第3誘電体膜を、前記基材側から順に積層して構成され、
前記反基材側誘電体層は、反基材側第1誘電体膜、および反基材側第2誘電体膜を、前記基材側から順に積層して構成されることを特徴とする、
請求項9乃至15のいずれかに記載のIRカット機能付きNDフィルタ。
【請求項17】
前記反基材側誘電体層は、前記反基材側第1誘電体膜と前記反基材側第2誘電体膜の間に、前記基材側誘電体層に含まれる材質よりも可視光領域における消衰係数の高い材質から構成される高消衰膜を有することを特徴とする、
請求項16に記載のIRカット機能付きNDフィルタ。
【請求項18】
前記基材側第1誘電体膜、前記基材側第3誘電体膜、および前記反基材側第2誘電体膜は、第1の材質から構成され、
前記基材側第2誘電体膜および前記反基材側第1誘電体膜は、前記第1の材質とは異なる第2の材質から構成されることを特徴とする、
請求項17に記載のIRカット機能付きNDフィルタ。
【請求項19】
光透過性を有する基材と、
前記基材の表面中央部に部分的に形成されて可視光の透過光量を調節するND膜と、
前記ND膜が形成された前記基材における前記基材の表面または前記ND膜の表面に形成されて赤外線の透過光量を調節するIRカット膜と、を備えることを特徴とする、
IRカット機能付きNDフィルタ。
【請求項20】
光透過性を有する基材と、
前記基材の表面中央部の一部分を除く領域に形成されて可視光の透過光量を調節するND膜と、
前記ND膜が形成された前記基材における前記基材の表面または前記ND膜の表面に形成されて赤外線の透過光量を調節するIRカット膜と、を備えることを特徴とする、
IRカット機能付きNDフィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−37610(P2012−37610A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175457(P2010−175457)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(507200938)株式会社タナカ技研 (8)
【Fターム(参考)】