説明

IV族及びV族の水素化物の電解調製における最大収率を達成するための方法及び装置

【課題】水素化物ガスなどの高純度ガスの製造方法及び一定組成のガス含有生成物流の供給方法を提供すること。
【解決手段】金属M1の水素化物ガスを電気化学セルで発生させる方法であって、電気化学セルは、金属M1を含むカソードと;金属M2を含む犠牲アノードと;金属水酸化物M3OHを含む、ある初期濃度の水性電解質溶液とを含んでなり、犠牲金属アノードは水性電解質溶液の存在下で電気化学的に酸化されて金属塩を生成し、金属M1の水素化物ガスはカソードの金属M1の還元によって生成するものであり、様々なM3OH濃度にて、M3OHが消費され酸化反応によって金属酸化物が生成したときの金属塩の溶解性プロファイル曲線を決定し;消費されたときに、金属塩が電解質溶液から析出するような濃度とならないM3OHの最大濃度を決定し;さらにM3OHの最大濃度とその最大濃度より5%低い濃度との間で、M3OHの初期濃度となる濃度を選択する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は電気化学プロセス及び装置である。より詳細には、本発明は、IV族及びV族の揮発性水素化物の電気化学合成及び製造、及び本合成を行うための反応器を対象とする。本合成及び反応器は、高純度水素化物をより効率的に製造するように設計されている。
【背景技術】
【0002】
高純度ガスは半導体の作製及びドープに必要である。これらのガスは危険で有毒なことが多い。市販のガスボンベは数千ポンド/平方インチの圧力でガスを貯蔵し、ガスは1〜10ポンド入っている。従って、これらの材料を集中製造、運搬及び貯蔵することは、これらの材料を使用して仕事をする人にとって危険である。
【0003】
このような危険を回避するために、例えば半導体製造工場の化学気相堆積反応器において、これらの危険なガスを必要な時だけ発生させて供給するための装置が開発されている。例えば、W.M.Ayersの米国特許第5158656号及び第6080297号には、化学気相堆積反応器に導入するために、適当な圧力で揮発性水素化物を供給する電気化学装置及び方法が記載されている。このようなプロセスは、分割されていない電気化学セル内で、犠牲アノード(すなわち腐食して酸化物となる電極)及び水酸化物系電解質を使用することによって、対応する金属カソードから金属水素化物ガスおよび水素ガスを発生する。しかしながらこのようなプロセスは、装置内部で生じる電気化学反応の副生成物である、固体沈殿物の生成を制御できないために効率的に行われない。これらの固体沈殿物は、電気化学的に発生した水素化物ガスの全収率及び品質に悪影響を及ぼす。
【0004】
Porterの米国特許第4178224号では、溶解したヒ素の塩を酸素発生アノードと一緒に用いてアルシンガスを合成するための電気化学的方法が開示されている。しかしながら、この方法ではアルシン濃度は25%未満に制限されていた。Porterの方法の他の制約は、電気化学セルの分割されたアノード及びカソード区域内で、圧力と液面とのバランスを必要とすることである。そのため、セルに不活性ガスを供給する必要がある。
【0005】
米国特許第5427659号及び第5474659号では、酸素生成を防ぐ条件下で水性電解質を用いた、水素化物ガスを電気化学的に発生させることが開示されている。これらの方法によれば、固体沈殿物の生成は防止されるが、水素化物の収率が所望量よりかなり低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5158656号明細書
【特許文献2】米国特許第6080297号明細書
【特許文献3】米国特許第4178224号明細書
【特許文献4】米国特許第5427659号明細書
【特許文献5】米国特許第5474659号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、水素化物ガスを製造及び供給するための効果的な手段を提供する努力は続けられているが、供給される水素化物ガスの生成物流の品質及び量を改善することが、本技術分野では依然として要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の方法を提供することによりこの要求を満たす。その方法とは、金属M1の水素化物ガスを電気化学セルで発生させるための方法であって、その電気化学セルは、金属M1を含むカソードと;金属M2を含む犠牲アノードと;金属水酸化物M3OHを含む、ある初期濃度の水性電解質溶液とを含んでなり、ここで、その犠牲金属アノードはM3OHを含む水性電解質溶液の存在下で電気化学的に酸化されて金属塩を生成し、その金属M1の水素化物ガスはそのカソードの金属M1の還元によって生成するものであって、その方法には、様々なM3OH濃度にて、M3OHが消費され酸化反応によって金属酸化物が生成したときの、金属塩の溶解性プロファイル曲線を決定する工程と;消費されたときに、金属塩が電解質溶液から析出するような濃度とならない、M3OHの最大濃度を決定する工程と;M3OHの最大濃度とMOHの最大濃度より5%低い濃度との間で、M3OHの初期濃度となる濃度を選択する工程とが含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明で使用する反応器の横断面を図式的に示す(本発明の一部ではない)。
【図2】本発明の方法の流れ図である。
【図3】本発明の好ましい実施態様の、溶解性プロファイル曲線を描いたグラフである。
【図4】本発明の水素化物ガスの発生が改善されたことを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、例えば水素化物ガスのような超高純度ガスを製造する方法、及び長時間にわたって一定組成でそのようなガスを含むガス生成物流を供給する方法を提供する。
【0011】
ある態様では、本発明は、金属M1の水素化物ガスを電気化学セルで発生させるための方法であって、その電気化学セルは、金属M1を含むカソードと;金属M2を含む犠牲アノードと;金属水酸化物M3OHを含む、ある初期濃度の水性電解質溶液とを含んでなり、ここで、その犠牲金属アノードはM3OHを含む水性電解質溶液の存在下で電気化学的に酸化されて金属塩を生成し、その金属M1の水素化物ガスはそのカソードの金属M1の還元によって生成する。この方法には、様々なM3OH濃度にて、M3OHが消費され酸化反応によって金属酸化物が生成したときの、金属塩の溶解性プロファイル曲線を決定する工程と;消費されたときに、金属塩が電解質溶液から析出するような濃度とならない、M3OHの最大濃度を決定する工程と;M3OHの最大濃度とMOHの最大濃度より5%低い濃度との間で、M3OHの初期濃度となる濃度を選択する工程とが含まれる。
【0012】
図1に、本発明で使用する電気化学反応器を示す(本発明の一部ではない)。電気化学反応器の詳細は米国特許第5158656号に説明されており、その詳細な説明を参照することにより本明細書の一部とする。電気化学反応器は圧力容器1を含む。好ましくは、圧力容器1にはテフロン(登録商標)のような非反応性材料のライニングがある。反応器の内側には、金属M1を含むカソード2と金属M2を含む犠牲アノード3とを備えた電解セルがある。圧力容器は、ポート4及びマニホールド5を通じてCVRの注入ポート6に接続されており、その容器内で、例えば、半導体を製造及びドープするために金属M1の水素化物ガスが使用される。
【0013】
本発明で使用するのに適したカソード材料M1として、例えば、Sb、As、(セレン化水素を製造する目的で)Se、P、Ge、Zn、Pb、Cd、及び、例えば鉛ヒ素のような合金を含有するものが挙げられる。適したアノード材料M2として、例えば、モリブデン、タングステン、バナジウム、カドミウム、鉛、水酸化ニッケル、クロム、アンチモン、ヒ素、及びこれらの合金を含有するものが挙げられ、一般に水素酸化アノードが挙げられる。酸化還元アノード材料も使用でき、例えば、MnO2/MnO3、Fe(OH)2/Fe34、Ag2O/Ag22、又はCo(OH)3/Co(OH)2が挙げられる。さらに、Hg/HgO基準電極に対して酸化電位が0.4ボルト未満である、溶解性で酸化性のイオン種も、本明細書で開示するように本発明の実施態様でアノードとして使用できる。
【0014】
本発明で使用可能なM3OHを含む水性電解質は、例えば、M3がアルカリ又はアルカリ土類金属からなる群から選択されるものである。M3OHを含む水性電解質の例として、例えば、NaOH、KOH、LiOH、CsOH、NH4OH及びこれらの組み合わせが挙げられる。水、重水(D2O)及びこれらの混合物も電解質に使用できる。
【0015】
犠牲アノードにおける電気化学反応の結果、アノードを構成する金属M2の金属塩が生成する。そのような金属塩として、アノード及び電解質の組成に応じて、金属酸化物塩、金属ハロゲン化物塩、金属硝酸塩、金属硫酸塩又はこれらの混合物を挙げることができる。例えばある実施態様では、ヒ素を含むカソードとモリブデンを含む犠牲アノードとを、水酸化カリウムを含む電解質溶液中で用いることにより、アルシン(金属ヒ素の水素化物)が製造される。この実施態様では、以下の電気化学酸化反応が生じている。
Mo+2KOH+2H2O→6e-+K2MoO4+6H+
【0016】
アルシンの生成は、ヒ素カソードにて以下の電気化学還元反応により起こっている。
2As+6H2O+6e-→2AsH3+6OH-
【0017】
消費された水酸化物1モルはそれぞれ理論的に1モルのアルシンを生成可能である。限られた容積の電気化学セルにおいて、化学量論のみに基づけば、液体の水酸化カリウム水溶液を最大濃度にすれば、最大量のアルシンが生成すると予想される。しかしながら実際はそうではない。
【0018】
実際は、化学量論に基づいて最大量のアルシンを理論的に生成するはずの初期濃度を水酸化カリウムについて選択すると、プロセスが進行するにつれてモリブデン酸カリウムの固体結晶が生成する。固体金属塩の生成は、適切な電流分布及び適切なセルの動作を妨げるため純度及び収率が制約される。一方で、低濃度の水酸化カリウムを選択すると、固体は生成しないが、アルシンを製造するセルの最終収率に限界が生じる。この例では、水酸化カリウムについて、高濃度及び低濃度の両方ともアルシンの製造を制約する。本発明の方法によれば、生成する水素化物ガスの収率及び純度は驚くほど高く、アノード酸化プロセスの反応生成物を溶解性にすることにより電解質中に固体が析出生成しないために、高濃度の水酸化物電解質を使用する動作条件下でも動作電圧は安定である。
【0019】
図2を参照すると、本発明の方法には、401 様々なM3OH濃度にて、M3OHが消費され酸化反応によって金属酸化物が生成したときの、金属塩の溶解性プロファイル曲線を決定する工程と;402 消費されたときに、金属塩が電解質溶液から析出するような濃度とならない、M3OHの最大濃度を決定する工程と;403 M3OHの最大濃度とMOHの最大濃度より5%低い濃度との間で、M3OHの初期濃度となる濃度を選択する工程とが含まれる。
【0020】
これから説明する次の本発明の方法では、水酸化カリウムを含む電解質溶液中で、ヒ素を含むカソードとモリブデンを含む犠牲アノードとを用いるが、当業者であれば、例えば上述したもののような他のカソード材料M1、アノード材料M2及びM3OHを含む電解質溶液を用いて本発明に使用できるため、本発明の応用範囲が広いことを理解するであろう。
【0021】
様々なM3OH濃度にて、M3OHが消費され酸化反応によって金属酸化物が生成したときの、金属塩の溶解性プロファイル曲線を決定する工程401は、アノードからの金属M2を含む金属塩について溶解性プロファイル曲線を用意することによって好ましくは行われる。溶解性プロファイル曲線を用意するため、溶解性の調査を一通り行って、電解の様々な段階の最中の電解質組成をシミュレートするのが好ましい。溶解性の調査は、水素化物の電気化学発生について観察された挙動を説明する、次の3つの基本的な電気化学反応に従うのが好ましい。
【0022】
例として、その反応には、KOH電解質中の犠牲アノードM2及びヒ素カソードが関与しうる。
アノード酸化反応
2+2(n−m)OH-→M2(n-m)(n-2m)-+ne-+(n−m)H2O(式1)
(式中、m及びnは、犠牲アノード金属M2の性質に左右される化学量論係数である。)
アルシン(水素化物)を作るカソード還元反応
As+3H2O+3e-→AsH3+3OH-(式2)
水素を作るカソード還元反応
2H2O+2e-→H2+2OH-(式3)
【0023】
これらの電気化学物質収支式から、消費されるKOHの量と、生成する犠牲金属塩M2(n-m)(n-2m)-の量とを予測できる。使用した犠牲金属がモリブデンの場合、n=6及びm=2でM2(n-m)(n-2m)-はMoO42-である。モリブデンアノードを用いたKOH溶液中で生成する塩はK2MoO4である。上式によれば、生成するK2MoO41モルあたりそれぞれKOH2モルと水2モルとを消費する。このことから、KOHが消費されたときの電解質組成をシミュレートできる。
【0024】
従って、様々なM3OH濃度にて、M3OHが消費され酸化反応によって金属酸化物が生成したときの金属塩の溶解性プロファイル曲線を決定するために、KOH、水及びK2MoO4を用いた一連の水溶液を25℃で調製し、上に列記した電気化学反応に対応した電解質組成をシミュレートした。KOH、水及びK2MoO4を一緒にして、密閉したポリエチレン瓶の中で磁気撹拌子及び磁気撹拌機を用いて25℃で24時間混合した。ろ過によって液相を固相と分離した。液相を秤量し、誘導結合プラズマ原子発光分光分析法(ICP−AES)を用いて液相及び固相の組成を測定した。KOH濃度45%及び38%の場合の組成及び結果を、表1及び表2にそれぞれ示す。
【0025】
図3は、表1のデータを表す溶解性プロファイル曲線をグラフで描いたものである。図3を参照すると、KOHの初期濃度が45%の場合、溶液中の金属塩のパーセントはKOHの減少量の関数としてプロットされている。KOHの初期濃度が38%の場合、金属塩の析出が回避されていることが表2から確認される。異なる電極及び電解質を用いた異なる系も同様の方法を用いて調べることにより、固体の析出しない領域を同定することができる。
【0026】
溶解性プロファイル曲線をM3OHの最大濃度を決定する上での指針とすることが好ましいため、工程402、すなわち消費されたときに、金属塩が電解質溶液から析出するような濃度とならない、M3OHの最大濃度を決定する工程は、溶解性プロファイル曲線(工程401)を決定した後に行うのが好ましい。好ましくは、工程402は、溶解性プロファイル曲線上の動作線を決定することにより行われる。
【0027】
動作線を決定する好ましい方法では、電気化学試験セルは、金属又は合金の選択した犠牲アノードM2と金属又は合金のカソードM1とを用いて構成される。通常は、アノードとカソードとを垂直に配向して1〜10cm離す。電解セルは密封され、カソードで発生したガスは、セルのふたにある開口部を通り、気体質量流量計を通ってそのガス発生量が監視され、ガス組成の特定可能な分析装置内に放出される。この方法に適した典型的なガス分析装置は、赤外線分析装置、質量分析装置及び飛行時間分析装置である。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
既知の量及び濃度のKOH電解質を試験セルに加える。試験セルは、電源の正及び負の端子にそれぞれ取り付けられたアノード及びカソードを備えた直流(DC)定電流電源に電気的に接続されている。ガスの量及び系を通過した正味電荷を監視しながら、定電流電源を設定して電解を開始する。電解プロセス中の様々な点で、電源からの電流を停止して電解プロセスを停止する。セル内の電解質を混合するか循環させて確実に均一として、液相及び固相の両方を採取する。固相をろ過して液体を除去し、通常の分析法、例えば原子吸光法(AA)又は誘導結合プラズマ原子発光分析法(ICP−AES)を用いて、サンプルの組成を分析する。固相及び液相の組成分析と、既知である初期の電解質組成とから、固体及び溶液の相領域の境界を定める溶解性ダイアグラムを作成できる。同様に、セルの動作線を全体の物質収支から決定できる。
【0031】
電解質の初期組成を変化させてプロセスを繰り返し、金属酸化物の溶解性プロファイル曲線に関連させて固体が現れない組成を見つけることが可能であってこれが最大である。図3を再度参照すると、KOHの初期濃度が45%のセル及びKOHの初期濃度が38%のセルについて動作線が示されている。表2の実験計画で予測されたように、セルの動作中、析出物は観察されなかった。
【0032】
本方法の工程403では、M3OHの最大濃度とMOHの最大濃度より5%低い濃度との間で、M3OHの初期濃度となる濃度を選択する。通常この範囲で、電気化学セルの最も効率的な動作が可能となる。すなわち、例えばアルシンのような水素化物ガスを最も高い収率及び純度で生成させることが可能である。好ましくは、本発明の方法によるヒ素生成物のモルパーセントは、少なくとも90%、より好ましくは少なくとも92%、さらにより好ましくは少なくとも94%、最も好ましくは少なくとも95%である。好ましくは、本発明の電気化学セルの寿命全体で発生する水素化物ガスのパーセント純度は、少なくとも99%、より好ましくは少なくとも99.9%、最も好ましくは99.999%である。
【実施例】
【0033】
以下の例は、本発明をさらに説明する目的で提供するものであって、決して本発明を限定することを意図したものではない。
【0034】
表3に列記した全ての例の実験条件:それぞれのセルは、以下詳述する同様の条件下で構成し及び動作させた。
【0035】
図1を再度参照すると、そのアノード3は寸法が1/8インチ×1.5インチ×7.5インチの4枚のモリブデン板(99%)からなっていた。それらは、垂直方向に立てて中央のカソード棒の周りに対称的な四角形のパターン(2インチ×2インチ)で配置されており、普通の導電性ステンレススチール枠を介して接続されていた。それらの公称質量は1000グラムであった。導電性の枠は電解質溶液の上方に位置していた。
【0036】
直径1.5インチ×高さ6インチの一本のヒ素棒からなるカソード2は垂直に取り付けられ、モリブデン板の形成した四角形パターンの中心に配置されていた。1本の1/8インチステンレススチール棒をヒ素棒の内部中心に配置し、ヒ素棒の上端を超えて延在させて電気的接触を可能にした。カソードの公称質量は1000gであった。
【0037】
アノード3及びカソード2を円筒形のステンレス容器1の中に配置し、ポリエチレン及びテフロン(登録商標)のライニング及びスペーサを用いて導電性表面と絶縁した。
【0038】
セルに水酸化カリウム水溶液を満たした。次にセルを密封し、電気絶縁された接続部を通して電気接触を作った。セルにある1つのガス用排出ポート4はガス分析装置に向けた。2.5アンペアの定電流を外部の定電流電源から電気化学セルに供給した。Balzers Pfeiffer QMA−430 四重極質量分析計を用いたガス分析から、セル内で生成した主なガスはアルシン及び水素であることが確認された。生成したガスは、Lorexガス分析装置、型番PZN−SS−003−4を用いて組成についても分析した。生成したアルシンの質量は、電気化学セルを秤量することにより、重量測定法で確認した。
【0039】
表3に記載した様々なKOH溶液を用いて実験を6回行った。各実験において、モリブデン及びヒ素の両方とも過剰であり、限定する化学試薬は水酸化カリウムであった。水酸化カリウム1グラムは、アルシン(AsH3)1.39グラムを発生させる可能性を有する。
【0040】
例1及び2 高濃度の水酸化物:電気化学セルを上述の条件に従って構成し動作させた。表3に示す例1及び2は、高濃度の水酸化カリウム(45%)を用いて行った。これらの条件下のアルシンの収率は、限定試薬である水酸化カリウムに基づいて、65.7%及び50.0%であった。セルを調べると大量の結晶生成が明らかとなり、この結晶はアノードとカソードとの間の空間を実質的に埋めていた。
【0041】
例1では、ヒ素棒の純度は99%で、アルシンの純度は水素15%を含んで85%が上限であった。例2では、ヒ素の純度を99.999%に上げると、ガスの純度は90%に上がった。
【0042】
例3、4、5及び6 最適濃度の水酸化物:電気化学セルを例1の条件に従って構成し動作させた。例3、4及び5では、水酸化カリウムを、計算に基づいて飽和曲線のすぐ下の高濃度(39%)にして動作させた。例6では、水酸化カリウムを、計算に基づいて飽和曲線のすぐ下の高濃度(38%)にして動作させた。これらの条件下のアルシンの収率は、例1及び2と比較すると、限定試薬である水酸化カリウムに基づいて71.4%〜77.8%であった。セルを調べると、結晶が生成していなかったことが明らかとなった。
【0043】
例3の99%純度のヒ素の場合、アルシンの純度は92%であり、99.999%純度のヒ素を用いた例4、5及び6の場合、アルシンの純度は94〜95%に上がった。図4に、例5の場合、アルシンが704グラム生成する障害発生点までアルシンガスの発生が改善されたことを図示する。
【0044】
比較例1〜6:水素化物の電気化学生成において水酸化物が限定試薬である場合、化学量論に基づいて、限定試薬の濃度を上げるとアルシンの収率が上がるはずであると予想される。しかしながら実際はそうではない。水酸化物濃度を45%として系を動作させた場合、固体析出物の生成が生じてアルシンの収率は50.3%〜65.7%に限られた。水酸化物濃度を高く保つが、飽和曲線のすぐ下(38〜39%)とした場合、固体析出物は生成せず、アルシンの収率は71.4%〜77.8%に上がった。水酸化物濃度を、固体が生成しない程度に高くして動作させると、固体が生成した条件と比較して、アルシンの収率が上がった(表3参照)。
【0045】
同様のヒ素純度の場合でも、固体がないことにより、このプロセスでより高純度のアルシンガスを発生することが可能である。99%のヒ素を使用した場合、固体を伴う動作では純度85%のアルシンが発生したが、固体を発生しない動作の場合、アルシンの純度は90%まで上がった。同様に99.999%のヒ素の場合、動作を固体が生成する条件から固体が生成しない条件へ変更した場合、純度は92%から95%へと上がった。
【0046】
表4(詳細)及び表5(表4の重要な結果)には、電解質の体積が1リットルに制限されている発生器について2つの重要な結果が示されている。第1に、ガスの品質はKOHが少ないほど改善する。次に、アルシンの収率の最適点はKOH39%である。KOH濃度が低いと、プロセスが効率的であるかに拘わらず、アルシンの量はその少ない量のKOHに制限される。KOHの量が多いと、プロセスで生成した固体がプロセスを妨害するためグラム収率が低い。
【0047】
【表3】

【0048】
【表4】

【0049】
【表5】

【0050】
例7〜14 アノード反応に由来する過剰な固体の影響
【0051】
例7:テフロン(登録商標)製の分割されていない温度制御された電気化学セルを、内部容積を液体で10ccとして構成する。表面積が2.8cm2のモリブデンアノード(純度99%)を、表面積が2.8cm2のアンチモンカソード(純度99%超)から3.8cmに配置する。35%水酸化カリウムを含有する水性電解質をセルに充填する。外部冷却槽を用いて水性電解質の温度を0℃に維持しながら、電位5.0Vをセルに印加する。水素と一緒にスチビンがセルから発生する。電流の範囲は0.6〜0.8アンペアとなり、生成速度が0.7mg/分でスチビンが得られる。
【0052】
例8:テフロン(登録商標)製の分割されていない温度制御された電気化学セルを、内部容積を液体で10ccとして構成する。表面積が2.8cm2のモリブデンアノード(純度99%)を、表面積が2.8cm2のアンチモンカソード(純度99%超)から3.8cmに配置する。モリブデン酸カリウムK2MoO4で飽和した35%水酸化カリウムを含有し、さらに遊離したモリブデン酸カリウムの固体を含有する水性電解質をセルに充填する。外部冷却槽を用いて水性電解質の温度を0℃に維持しながら、電位5.0Vをセルに印加する。水素と一緒にスチビンがセルから発生する。電流の範囲は0.05〜0.10アンペアとなり、生成速度が0.08mg/分でスチビンが得られる。
【0053】
例9:テフロン(登録商標)製の分割されていない温度制御された電気化学セルを、内部容積を液体で10ccとして構成する。表面積が2.8cm2のタングステンアノード(純度99%)を、表面積が2.8cm2のヒ素カソード(純度99%超)から3.8cmに配置する。35%水酸化ナトリウムを含有する水性電解質をセルに充填する。外部冷却槽を用いて水性電解質の温度を21℃に維持しながら、電位5.0Vをセルに印加する。水素と一緒にアルシンがセルから発生する。電流の範囲は1.0〜1.2アンペアとなり、生成速度が16.0mg/分でアルシンが得られる。
【0054】
例10:テフロン(登録商標)製の分割されていない温度制御された電気化学セルを、内部容積を液体で10ccとして構成する。表面積が2.8cm2のタングステンアノード(純度99%)を、表面積が2.8cm2のヒ素カソード(純度99%超)から3.8cmに配置する。タングステン酸カリウムNaWO4で飽和した35%水酸化ナトリウムを含有し、さらに遊離したタングステン酸カリウムの固体を含有する水性電解質をセルに充填する。外部冷却槽を用いて水性電解質の温度を21℃に維持しながら、電位5.0Vをセルに印加する。水素と一緒にアルシンがセルから発生する。電流の範囲は0.15〜0.2アンペアとなり、生成速度が2.5mg/分でアルシンが得られる。
【0055】
例11:テフロン(登録商標)製の分割されていない温度制御された電気化学セルを、内部容積を液体で10ccとして構成する。表面積が2.8cm2のタングステンアノード(純度99%)を、表面積が2.8cm2の黒リンカソード(純度99%超)から3.8cmに配置する。35%水酸化カリウムを含有する水性電解質をセルに充填する。外部冷却槽を用いて水性電解質の温度を21℃に維持しながら、電位5.0Vをセルに印加する。水素と一緒にホスフィンがセルから発生する。電流の範囲は1.0〜1.2アンペアとなり、生成速度が2.0mg/分でホスフィンが得られる。
【0056】
例12:テフロン(登録商標)製の分割されていない温度制御された電気化学セルを、内部容積を液体で10ccとして構成する。表面積が2.8cm2のタングステンアノード(純度99%)を、表面積が2.8cm2の黒リンカソード(純度99%超)から3.8cmに配置する。タングステン酸カリウムK2WO4で飽和した35%水酸化カリウムを含有し、さらに遊離したタングステン酸カリウムの固体を含有する水性電解質をセルに充填する。外部冷却槽を用いて水性電解質の温度を21℃に維持しながら、電位5.0Vをセルに印加する。水素と一緒にホスフィンがセルから発生する。電流の範囲は0.15〜0.2アンペアとなり、生成速度が0.3mg/分でホスフィンが得られる。
【0057】
例13:テフロン(登録商標)製の分割されていない温度制御された電気化学セルを、内部容積を液体で10ccとして構成する。表面積が2.8cm2のモリブデンアノード(純度99%)を、表面積が2.8cm2のゲルマニウム(Ge)カソード(純度99%超)から3.8cmに配置する。35%水酸化カリウムを含有する水性電解質をセルに充填する。外部冷却槽を用いて水性電解質の温度を21℃に維持しながら、電位5.0Vをセルに印加する。水素と一緒にゲルマン(GeH4)がセルから発生する。電流の範囲は1.0〜1.2アンペアとなり、生成速度が0.5mg/分でゲルマンが得られる。
【0058】
例14:テフロン(登録商標)製の分割されていない温度制御された電気化学セルを、内部容積を液体で10ccとして構成する。表面積が2.8cm2のモリブデンアノード(純度99%)を、表面積が2.8cm2のゲルマニウムカソード(純度99%超)から3.8cmに配置する。モリブデン酸カリウムK2MoO4で飽和した35%水酸化カリウムを含有し、さらに遊離したモリブデン酸カリウムの固体を含有する水性電解質をセルに充填する。外部冷却槽を用いて水性電解質の温度を21℃に維持しながら、電位5.0Vをセルに印加する。水素と一緒にゲルマン(GeH4)がセルから発生する。電流の範囲は0.15〜0.2アンペアとなり、生成速度が0.08mg/分でゲルマンが得られる。
【0059】
例7〜14は、アノード反応に由来する過剰な固体と一緒に電解質を用いて動作させたセルは、固体で飽和していない電解質を用いた動作と比較して、水素化物ガスの生成速度が低くなることを示している。
【0060】
上述の例及び好ましい実施態様の記載は、特許請求の範囲に定義する本発明を限定するものではなく、本発明を説明するものとして理解しなければならない。容易に理解されることだが、上記の特徴の無数の変形及び組み合わせを、特許請求の範囲に記載した本発明から逸脱することなく利用できる。そのような変形は本発明の精神及び範囲から逸脱するものとは見なされず、全てのそのような変形は添付した特許請求の範囲に包含されることが意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属M1の水素化物ガスを電気化学セルで発生させるための方法であって、該電気化学セルは、金属M1を含むカソードと;金属M2を含む犠牲アノードと;金属水酸化物M3OHを含む、ある初期濃度の水性電解質溶液とを含んでなり、ここで、該犠牲金属アノードは該水性電解質溶液の存在下で電気化学的に酸化されて金属塩を生成し、該金属M1の水素化物ガスは該カソードの該金属M1の還元によって生成するものであって、該方法が、
様々なM3OH濃度にて、M3OHが消費され酸化反応によって金属酸化物が生成したときの、該金属塩の溶解性プロファイル曲線を決定する工程と;
消費されたときに、金属塩が該電解質溶液から析出するような濃度とならない、M3OHの最大濃度を決定する工程と;
該M3OHの最大濃度と該MOHの最大濃度より5%低い濃度との間で、M3OHの初期濃度となる濃度を選択する工程と
を含む、方法。
【請求項2】
1が、Sb、As、Se、P、Ge、Zn、Pb、Cd及びこれらの合金からなる群から選択される、請求項1に記載の、金属M1の水素化物ガスを電気化学セルで発生させるための方法。
【請求項3】
前記犠牲アノードが、水素酸化アノード、酸化還元アノード、及びHg/HgO基準電極に対して酸化電位が0.4ボルト未満である、溶解性で酸化性のイオン種からなる群から選択される、請求項1に記載の、金属M1の水素化物ガスを電気化学セルで発生させるための方法。
【請求項4】
前記犠牲アノードが水素酸化アノードであり、M2が、モリブデン、タングステン、バナジウム、カドミウム、鉛、水酸化ニッケル、クロム、アンチモン、ヒ素、及びこれらの合金からなる群から選択される、請求項1に記載の、金属M1の水素化物ガスを電気化学セルで発生させるための方法。
【請求項5】
前記犠牲アノードが酸化還元アノードであり、MnO2/MnO3、Fe(OH)2/Fe34、Ag2O/Ag22、及びCo(OH)3/Co(OH)2からなる群から選択される、請求項1に記載の、金属M1の水素化物ガスを電気化学セルで発生させるための方法。
【請求項6】
前記金属水素化物M3OHのM3が、アルカリ及びアルカリ土類金属からなる群から選択される、請求項1に記載の、金属M1の水素化物ガスを電気化学セルで発生させるための方法。
【請求項7】
3OHが、NaOH、KOH、LiOH、CsOH、NH4OH及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項6に記載の、金属M1の水素化物ガスを電気化学セルで発生させるための方法。
【請求項8】
KOHを約35質量%〜約39質量%含む電解質溶液と;
ヒ素を少なくとも99.0質量%含むカソードと;
モリブデンを含む少なくとも1つのアノードと;
を含む、ヒ素金属の水素化物ガスを発生するための電気化学容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−137241(P2011−137241A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−56443(P2011−56443)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【分割の表示】特願2007−105115(P2007−105115)の分割
【原出願日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(591035368)エア プロダクツ アンド ケミカルズ インコーポレイテッド (452)
【氏名又は名称原語表記】AIR PRODUCTS AND CHEMICALS INCORPORATED
【住所又は居所原語表記】7201 Hamilton Boulevard, Allentown, Pennsylvania 18195−1501, USA
【Fターム(参考)】