説明

IgE抗体産生抑制剤、及びIgE抗体産生抑制方法

【課題】 安全性が高く、経口摂取が容易で、摂取することによりIgE抗体産生のみを特異的に抑制し、炎症やアレルギー疾患の治療又は予防に好適なIgE抗体産生抑制剤、及び該IgE抗体産生抑制方法を提供する。
【解決手段】 杉(Cryptomeria japonica D.Don)の葉抽出物を有効成分とするIgE抗体産生抑制剤である。該IgE抗体産生抑制剤を経口投与するIgE抗体産生抑制方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杉の葉抽出物を有効成分とするIgE抗体産生抑制剤、及びそれを用いたIgE抗体産生抑制方法に関し、特に、IgG抗体産生に影響を与えることなく特異的にIgE抗体産生を抑制するIgE抗体産生抑制剤、及びそれを用いたIgE抗体産生抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
喘息、花粉症、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎等のアレルギー疾患は、I型アレルギー(アナフィラキシー型)に分類される疾患であり、該疾患の発症までのアレルギー反応において、IgE抗体、マスト細胞、及びFcR陽性細胞が関与することが知られており、アレルギー疾患の患者の血清中又は組織におけるIgE抗体濃度は、健常人よりも高いことが知られている。
【0003】
I型アレルギー疾患の発症は、抗原(アレルゲン)の侵入により、該抗原(アレルゲン)特異的なIgE抗体の産生が開始される段階と、再度の抗原(アレルゲン)の進入により抗原抗体反応が惹起され、ケミカルメディエータ、並びにIL−4、IL−5、IL−6、及びIL−13等のTh2型サイトカインが放出され、好酸球浸潤等を誘導して標的組織に炎症を引惹き起こす段階とからなる。
【0004】
従来、I型アレルギー症状の抑制剤としては、ケミカルメディエータであるヒスタミンの拮抗剤、遊離抑制剤、及び合成阻害剤、自律神経作用薬、並びにステロイド剤等が知られているが、これらは抗コリン作用や眠気等の副作用を生じるという問題があり、また、I型アレルギーの治療法としては、アレルゲンを主成分とする注射剤を定期的に投与する減感作療法等が知られているが、該治療法は2〜3年の長期間の通院が必要となり、負担が大きいという問題がある。
【0005】
アレルギー症状を抑制する、より効率的な方法としては、最初の段階で起こるIgE抗体産生を抑制する方法が考えられる。これまでに、多くのIgE抗体産生抑制剤が提案されており、合成薬剤のみならず、安全性の高い天然の植物由来の抽出物からなるIgE抗体産生抑制剤が提案されている(特許文献1及び2参照)。しかしながら、これらの文献には、IgG抗体産生に影響を与えることなく、IgE抗体産生を特異的抑制することは開示されておらず、さらに、杉の葉抽出物が、IgE抗体産生抑制に有効であることは、開示も示唆もされていない。
【0006】
よって、安全性が高く、経口摂取が容易で、摂取することによりIgE抗体産生のみを特異的に抑制し、炎症やアレルギー疾患の治療又は予防に好適なIgE抗体産生抑制剤、及び該IgE抗体産生抑制方法は、未だ提供されていないのが現状であり、これらの開発が切に望まれている。
【0007】
【特許文献1】特開2003−2811号公報
【特許文献2】特開2004−43359号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来における問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明は、安全性が高く、経口摂取が容易で、摂取することによりIgE抗体産生のみを特異的に抑制し、炎症やアレルギー疾患の治療又は予防に好適なIgE抗体産生抑制剤、及び該IgE抗体産生抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、杉(Cryptomeria japonica D.Don)の葉抽出物が、IgG抗体産生に影響を与えることなく、またTh1/Th2バランスの改善によるものではなく、IgE抗体産生を特異的に抑制するとの新知見を得た。
杉の葉抽出物は、例えば、杉の葉茶等の食品が、花粉症予防等に有効であることが知られている(例えば、特開平9−20671号公報、及び特開2001−141号公報等)。しかし、杉の葉抽出物が、IgE抗体産生を特異的に抑制することについては全く知られておらず、本発明者らの新たな知見である。
【0010】
本発明は、本発明者による前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 杉(Cryptomeria japonica D.Don)の葉抽出物を有効成分とするIgE抗体産生抑制剤である。
<2> 投与後、被投与個体のIgE抗体産生を抑制し、かつIgG抗体産生を抑制しない前記<1>に記載のIgE抗体産生抑制剤である。
<3> I型アレルギー疾患の被投与個体の血清中のIgE抗体価を〔(投与後の抗体価)/(投与前の抗体価)〕≦0.5とし、かつ血清中のIgG抗体価を〔(投与後の抗体価)/(投与前の抗体価)〕≧1.0とする作用を有する前記<2>に記載のIgE抗体産生抑制剤である。
<4> 投与後、被投与個体の炎症組織におけるIL−5の産生量を抑制乃至促進しない前記<1>から<3>のいずれかに記載のIgE抗体産生抑制剤である。
<5> I型アレルギー疾患の被投与個体の炎症組織におけるIL−5量産生量を〔(投与後の量)/(投与前の量)〕=0.9〜1.0とする作用を有する前記<1>から<4>に記載のIgE抗体産生抑制剤である。
<6> 投与後、被投与個体の炎症組織における好酸球の浸潤を抑制する前記<1>から<5>のいずれかに記載のIgE抗体産生抑制剤である。
<7> I型アレルギー疾患の被投与個体の肺胞腔への好酸球の浸潤量を〔(投与後の浸潤量)/(投与前の浸潤量)〕≦0.1とする作用を有する前記<6>に記載のIgE抗体産生抑制剤である。
【0011】
<8> 杉の葉抽出物が、杉の葉の熱水抽出物である前記<1>から<7>のいずれかに記載のIgE抗体産生抑制剤である。
【0012】
<9> 前記<1>から<8>のいずれかに記載のIgE産生抑制剤を経口投与することを特徴とするIgE抗体産生抑制方法である。
【0013】
<10> 前記<1>から<8>のいずれかに記載のIgE産生抑制剤を含むことを特徴とする抗炎症剤である。
<11> 前記<1>から<8>のいずれかに記載のIgE産生抑制剤を含むことを特徴とする抗アレルギー剤である。
<12> 喘息の治療及び予防のいずれかに使用される前記<11>に記載の抗アレルギー剤である。
<13> 花粉症の治療及び予防のいずれかに使用される前記<11>に記載の抗アレルギー剤である。
【0014】
<14> 前記<1>から<8>のいずれかに記載のIgE産生抑制剤を含むことを特徴とするIgE抗体産生抑制用飲食物である。
<15> 茶飲料である前記<14>に記載のIgE抗体産生抑制用飲食物である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、安全性が高く、経口摂取が容易で、摂取することによりIgE抗体産生のみを特異的に抑制し、炎症やアレルギー疾患の治療又は予防に好適なIgE抗体産生抑制剤、及び該IgE抗体産生抑制方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(IgE抗体産生抑制剤)
本発明のIgE抗体産生抑制剤は、杉(Cryptomeria japonica D.Don)の葉抽出物を有効成分として含んでなる。該IgE抗体産生抑制剤は、必要に応じて適宜選択したその他の成分と併用してもよい。
【0017】
−杉の葉抽出物−
前記杉の葉抽出物の原料となる杉の葉としては、杉から伐採された葉部であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、9月から12月の間に杉から伐採された葉部が好適に挙げられる。
【0018】
前記杉としては、例えば、スギ(オモテスギ)(Cryptomeria japonica(L.fil) D. Don)、アヤスギ、イカリスギ(Cryptomeria japonica D. Don f. lycopodioides Hort.)、エンコウスギ(Cryptomeria japonica D. Don var. araucarioides Henk. Et Hochst)、オオゴンスギ(Cryptomeria japonica D. Don var. aurea Hort.)オキナスギ、ジンダイスギ(Cryptomeria japonica D. Don var. Zindai Hort.)、タイショウタマスギ、マンキチスギ(Cryptomeria japonica D. Don f. Mankitiana Hort.)、ミドリスギ(Cryptomeria japonica D. Don f. viridis Hort.)、メジロスギ(Cryptomeria japonica D. Don f. albo-spicata Hort.)、及びヨレスギ(Cryptomeria japonica D. Don f. torta Makino)等が挙げられる。
【0019】
前記杉の葉抽出物としては、例えば、前記杉の葉の切断物、粉砕物、乾燥物、及び乾燥粉砕物のいずれかの抽出液、該抽出液の濃縮液、該抽出液の希釈液、該抽出液を乾燥して得られる乾燥物、これらの粗精製物、及び精製物などが挙げられるが、これらの中でも、前記杉の葉の乾燥粉砕物の抽出液、前記杉の葉の乾燥粉砕物の抽出液の濃縮液、及び前記杉の葉の乾燥粉砕物の抽出液の乾燥物が好ましい。
【0020】
前記杉の葉を乾燥する方法としては、例えば、伐採後に天日干しにより乾燥する方法、乾燥機を用いて加熱乾燥する方法等が挙げられ、これらを1種単独で、又は2種以上組合せて行うことができる。これらの中でも、天日干しを行った後、乾燥機を用いて乾燥する方法が好ましく、例えば、48〜72時間天日干しを行った後、乾燥機を用いて100〜120℃の温度条件下で20〜30分間乾燥する方法等が好ましい。
【0021】
前記杉の葉抽出物としては、前記杉の葉を、水系溶媒で抽出して得られる抽出物が好ましく、熱水抽出物がより好ましい。
前記水系溶媒としては、例えば、水、親水性有機溶媒、およびこれらの混合液が挙げられるが、これらの中でも水が好ましい。
前記水としては、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等の他、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、滅菌、ろ過、イオン交換、浸透圧の調整、緩衝化等が含まれる。従って、本発明において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれ、これらの中でも熱水が好ましい。
【0022】
前記杉の葉抽出物の抽出温度としては、10〜110℃が好ましく、100〜110℃がより好ましい。また、加熱しながら抽出を行うことが好ましい。
また、前記杉の葉抽出物の抽出時間としては、10分以上が好ましく、40〜60分がより好ましい。
【0023】
−IgE抗体産生抑制剤−
前記IgE抗体産生抑制剤としては、前記杉の葉抽出物を有効成分として含む限り、特に制限は無く、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記杉の葉を熱水抽出して得た抽出液の茶飲料であってもよく、前記杉の葉抽出物の濃縮物や乾燥物等であってもよく、前記杉の葉抽出物を公知の方法により製剤化したものであってもよい。
前記杉の葉抽出物を製剤化してなる前記IgE抗体産生抑制剤の剤型としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、固形剤、液剤などが挙げられる。
【0024】
前記固形剤としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、細粒剤、コーティング法により腸溶性コーティング剤などが挙げられる。前記固形剤としては、経口固形製剤の製造時に用いられる添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜配合することができる。前記添加剤としては、例えば、カリウム塩、酢酸、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、増量剤、被覆剤、酸味料・pH調整剤、品質改良剤、増粘安定剤、及び保存料などが挙げられる。
前記液剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、前記杉の葉抽出物を濃縮したもの、乳化剤を用いて水に溶解乃至分散させたもの、エチルアルコール等の可溶性溶媒に溶解させた後水に溶解させたもの、などが挙げられる。
【0025】
さらに、前記IgE抗体産生抑制剤には、IgE抗体産生抑制効果を高める目的で、その他の成分を配合することができる。
その他の成分としては、例えば、ポリフェノール、DHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタン酸)、プロポリス、アガリクス抽出物、クロレラ原末、スピルリナ原末、ビフィズス菌、乳酸菌、アミノ酸、ビタミン類、ミネラル類(亜鉛、カルシウム、マグネシウム等)などが挙げられる。
【0026】
前記IgE抗体産生抑制剤は、投与後、被投与個体のIgE抗体産生を抑制し、かつIgG抗体産生を抑制しないIgE抗体産生のみを特異的に抑制する作用を有し、前記IgE抗体産生抑制剤を投与することによって、例えば、I型アレルギー疾患の被投与個体の血清中のIgE抗体価を〔(投与後の抗体価)/(投与前の抗体価)〕≦0.5とし、かつ血清中のIgG抗体価を〔(投与後の抗体価)/(投与前の抗体価)〕≧1.0とする作用を有する。
【0027】
なお、ここで、「投与後」とは、前記杉の葉の乾燥物重量として被投与個体の体重1kgあたり0.05g以上を投与した後の状態を表す。
前記血清中の抗体価を測定する方法としては、例えば、ELISA法等が挙げられ、前記抗体価としては、OD値(光学濃度)等が挙げられる。
【0028】
また、前記IgE抗体産生抑制剤は、投与後、被投与個体の炎症組織におけるIL−5の産生量を抑制乃至促進させることがなく、前記IgE抗体産生抑制剤を投与することによって、例えば、I型アレルギー疾患の被投与個体において炎症を発症している組織、具体的には、喘息に罹患中の被投与個体の肺胞のIL−5産生量を〔(投与後の量)/(投与前の量)〕=0.9〜1.0とする作用を有する。
【0029】
なお、ここで、「投与後」とは、前記杉の葉の乾燥物重量として被投与個体の体重1kgあたり0.05g以上を投与した後の状態を表す。
前記IL−5産生量を測定する方法としては、例えば、炎症組織を生理食塩水等で洗浄して得た洗浄液中のIL−5量を、ELISA法等により定量する方法が挙げられる。
【0030】
前記IgE抗体産生抑制剤は、投与後、被投与個体の炎症部位における好酸球の浸潤を抑制する作用を有し、前記IgE抗体産生抑制剤を投与することによって、例えば、I型アレルギー疾患の被投与個体において炎症を発症している組織、具体的には、喘息に罹患中の被投与個体の肺胞腔への好酸球の浸潤量を〔(投与後の浸潤量)/(投与前の浸潤量)〕≦0.1とする作用を有する。
【0031】
なお、ここで、「投与後」とは、前記杉の葉の乾燥物重量として被投与個体の体重1kgあたり0.05g以上を投与した後の状態を表す。
前記好酸球浸潤量としては、例えば、炎症組織の洗浄液中の好酸球をギムザ液等で染色し、光学顕微鏡下で観察し計測することができる。
【0032】
前記IgE抗体産生抑制剤の使用方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、健康食品、医薬品、及び医薬部外品などとして使用することができ、後述の本発明のIgE抗体産生抑制方法に使用することができる。
また、必要に応じて他の成分を配合してなる後述の抗炎症剤、及び抗アレルギー剤の成分として使用することができる。
さらに、前記杉の葉の熱水抽出物を、茶飲料として使用することにより、また、一般食品や一般飲料に含有させることにより、後述するIgE抗体産生抑制用飲食物の成分として好適に使用することができる。
【0033】
(IgE抗体産生抑制方法)
本発明のIgE抗体産生抑制方法は、前記本発明の本発明のIgE抗体産生抑制剤を経口投与することにより、IgE抗体の産生量を抑制する方法である。
前記IgE抗体の産生量の摂取量としては、アレルギー症状等のレベルに応じて適宜選択することができるが、前記杉の葉抽出物の原料である前記杉の葉の乾燥物重量として、被投与個体の体重1kgあたり0.05g/日以上が好ましく、0.08g/日以上がより好ましい。
【0034】
前記IgE抗体産生抑制剤の経口投与方法としては、前記IgE抗体産生抑制剤の剤型等に応じて適宜選択することができ、例えば、茶飲料又は液剤として飲用する方法、食品や飲料に含有させて該食品や該飲料を飲食する方法、固形剤として飲料等とともに服用する方法等が挙げられる。
【0035】
本発明のIgE抗体産生抑制方法は、本発明の前記IgE抗体産生抑制剤を経口投与することにより容易にIgE抗体産生を抑制することが可能であり、喘息及び花粉症等のアレルギー症状、特に、アレルギー疾患による炎症等を容易に改善することができる。
【0036】
(抗炎症剤)
本発明の抗炎症剤は、本発明の前記IgE抗体産生抑制剤を含有してなり、必要に応じて適宜選択したその他の成分を含有してなる。
【0037】
前記抗炎症剤は、含有する前記IgE抗体産生抑制剤の作用によって、アレルギー性炎症において、IgE抗体が関与するケミカルメディエータの放出、及び好酸球浸潤の少なくともいずれかを抑制することにより、炎症症状を改善するものである。
【0038】
前記その他の成分としては、抗炎症効果を高める目的で、公知の抗炎症剤を添加してもよい。
【0039】
(抗アレルギー剤)
本発明の抗アレルギー剤は、本発明の前記IgE抗体産生抑制剤を含有してなり、必要に応じて適宜選択したその他の成分を含有してなる。
【0040】
前記抗アレルギー剤は、含有する前記IgE抗体産生抑制剤の作用によって、アレルギー疾患において、IgE抗体が関与するケミカルメディエータの放出、及び好酸球浸潤のいずれかを抑制することにより、アレルギー症状を改善するものである。
【0041】
前記その他の成分としては、抗アレルギー効果を高める目的で、公知の抗アレルギー剤を添加してもよい。
【0042】
(IgE抗体産生抑制用飲食物)
本発明のIgE抗体産生抑制用飲食物は、前記IgE抗体産生抑制剤を含有してなる飲食物である。
前記IgE抗体産生抑制用飲食物としては、前記IgE抗体産生抑制剤である前記杉の葉の熱水抽出物からなる茶飲料が好ましい。
【0043】
前記IgE抗体産生抑制剤を含有させる前記飲食物としては、特に制限は無く、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、清涼飲料(発泡性飲料、果実飲料、着香飲料、着香シロップ、乳酸飲料、コーヒー飲料、茶系飲料、豆乳類、等)、栄養飲料、アルコール飲料等の飲料;飴、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子、パン等の菓子類;アイスクリーム、アイスシャーベット、かき氷等の冷菓;ソース、たれ、スパイス等の調味料;加工乳、発酵乳等の乳製品;サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂及び油脂加工食品;そば、うどん、はるさめ、ぎょうざの皮、しゅうまいの皮、中華麺、即席麺等の麺類;かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品;カレー、シチュー、親子丼、お粥、雑炊、中華丼、かつ丼、天丼、うな丼、ハヤシライス、おでん、マーボドーフ、牛丼、ミートソース、玉子スープ、オムライス、餃子、シューマイ、ハンバーグ、ミートボール等のレトルトパウチ食品;種々の形態の飲料及び食品、並びに健康・栄養補助食品などが挙げられる。
【0044】
前記IgE抗体産生用飲食物における本発明のIgE抗体産生抑制剤の添加量は、対象となる飲食物の種類に応じて異なり一概には規定することができないが、飲食物本来の味を損なわない範囲で添加すれば良い。
【0045】
本発明のIgE抗体産生抑制用飲食物は、日常的に経口摂取することが可能であり、摂取することにより、添加した前記IgE抗体産生抑制剤の作用により、喘息及び花粉症等のアレルギー症状、特に、アレルギー疾患による炎症等を容易に改善することができる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこの実施例に何ら限定されるものではない。
【0047】
(実施例1、比較例1)
−喘息モデルマウスの調製−
7週齢の雌性BALB/cマウス6匹に、卵白アルブミン(OVA)0.1mgと、水酸化アルミニウム1.6mgとの混合物を、試験開始0日目及び7日目に皮下投与し、さらに、前記卵白アルブミン0.01mgを、14、15、及び16日目に点鼻投与して喘息モデルマウスを調製した。
前記喘息モデルマウスは、試験開始0日目からIgE抗体産生抑制剤(実施例1)又は水(比較例1)を投与して飼育した。
【0048】
−IgE抗体産生抑制剤の調製及び投与−
杉の葉茶(株式会社金子園製)25gを1Lの熱水中で加熱しながら40分間抽出して得た抽出液を凍結乾燥し、得られた乾燥物8.27gを1Lの水に懸濁して、IgE抗体産生抑制剤とした。
前記喘息モデルマウスへの投与量は、前記乾燥物4.14mg/日(前記杉の葉の乾燥重量として12.5mg/日)とし、毎日投与した。
【0049】
−評価−
前記喘息モデルマウスを、18日目に解剖し、血清および肺洗浄液を採取し、血清中のIgE抗体価及びIgG抗体価、肺胞洗浄液中の全白血球数及び肺胞腔への好酸球浸潤量、並びに、サイトカイン産生量(IL−5)を以下の方法により測定した。結果を図1〜7、及び表1に示す。
【0050】
<血清中のIgE抗体価及びIgG抗体価>
卵白アルブミン(OVA)をコートした96穴プレートに、段階希釈した血清を添加し、AP標識抗マウスIgG抗体(ZYMED社製)、AP標識抗マウスIgG1抗体(ICN社製)、及びAP標識抗マウスIgG2a抗体(ZYMED社製)、並びにAP標識streptavidin(43−4822、ZYMED製)を用いてIgG抗体、IgG1抗体、及びIgG2a抗体を検出した。p‐nitrophenyl phosphateを基質として発色させ、3N NaOHで反応を停止した後、マイクロプレートリーダーで405/540nmの吸光度を測定し、得られたOD値をそれぞれの抗体価とした。なお、前記IgG抗体及び前記IgG1抗体の抗体価は、100倍希釈で測定して得られたOD値であり、前記IgG2a抗体の抗体価は、10倍希釈して測定して得られたOD値である。
IgE抗体価は、ラット抗マウスIgE heavy chain(日本ベクトンディッキンソン株式会社製)をコートし、段階希釈した血清を添加し、biotin標識OVAと、streptavidin標識HPRTとを用いて検出し、TMB Microwell Peroxidase(フナコシ株式会社製)で発色させ、2N H2SO4で反応停止後、450/540nmの吸光度を測定し、得られたOD値をIgE抗体価とした。なお、前記IgE抗体価は、10倍希釈で測定して得られたOD値である。
【0051】
<肺胞洗浄液中の全白血球数、及び肺胞腔への好酸球浸潤量>
肺胞洗浄液は、肺を1mLの生理食塩水で洗浄し、回収して調製した。前記肺胞洗浄液中の全白血球数及び好酸球数を測定した。全白血球数はチュルク液(和光純薬工業製)で染色し、血球計算板を用いて計測し、好酸球はギムザ液(メルク株式会社製)で染色し、光学顕微鏡下で観察して細胞数を計測した。
【0052】
<サイトカイン量>
IL−5量は、前記肺胞洗浄液を試料として、OptEIA(登録商標)Set(日本ベクトン・ディッキソン株式会製)を用いて、ELISA法により測定した。
【0053】
【表1】

*1:健常マウス
【0054】
表1の結果から、本発明のIgE抗体産生抑制剤を経口投与した実施例1の喘息モデルマウスは、Th1/Th2バランスに依存せず、IgE抗体産生のみが特異的に抑制されていることがわかった。
【0055】
(実施例2)
花粉症の自覚症状を持っている人で、いずれも医師による投薬を受けていない被験者8名に、下記の方法で調製したIgE抗体産生抑制飲食物(茶飲料)600〜1000mLを毎日摂取してもらい、摂取開始から30日目に、症状の変化について下記の評価基準に基づき評価してもらった。結果を表2に示す。
【0056】
−IgE抗体産生抑制飲食物(茶飲料)−
1Lの水道水を入れた薬缶を直火にかけ、沸騰したところで、杉の葉茶(株式会社金子園製)5gを投入し、弱火で40分間煮て、茶飲料を調製した。
【0057】
−評価基準−
○:症状が改善した
△:症状がやや改善した
×:変化なし
【0058】
【表2】

なお、症状の改善が観られた日数について、被験者Bは1日目、被験者Dは7日目、被験者Fは5日目という回答を得た。
【0059】
(参考例)
実施例1と同様にして飼育した喘息モデルマウスに、杉の葉茶(株式会社金子園製)を5倍量使用した以外は、実施例1と同様にしてIgE抗体産生抑制剤を調製し、投与して、肺胞洗浄液中の全白血球数、及び肺胞腔への好酸球浸潤量を測定した。結果を図8及び9に示す。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のIgE抗体産生抑制剤は、安全性が高く、経口摂取が容易で、摂取することによりIgE抗体産生のみを特異的に抑制し、炎症やアレルギー疾患の治療又は予防に好適であり、経口的に摂取される一般食品、健康食品、保健機能食品、医薬部外品及び医薬品等に幅広く適用できるものである。また、前記IgE抗体産生抑制剤を経口投与する本発明のIgE抗体産生抑制方法は、安全性が高く、経口摂取することにより容易にIgE抗体産生のみを特異的に抑制することができ、炎症やアレルギー疾患の治療法又は予防法に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】図1は、実施例1及び比較例1の喘息モデルマウス血清中のIgE抗体価を示すグラフである。
【図2】図2は、実施例1及び比較例1の喘息モデルマウス血清中のIgG抗体価を示すグラフである。
【図3】図3は、実施例1及び比較例1の喘息モデルマウス血清中のIgG1抗体価を示すグラフである。
【図4】図4は、実施例1及び比較例1の喘息モデルマウス血清中のIgG2抗体価を示すグラフである。
【図5】図5は、実施例1及び比較例1の喘息モデルマウスの肺胞洗浄液中の全白血球数を示すグラフである。
【図6】図6は、実施例1及び比較例1の喘息モデルマウスの肺胞腔への好酸球浸潤量を示すグラフである。
【図7】図7は、実施例1及び比較例1の喘息モデルマウス、並びに対照としての健常マウスの肺洗浄液中のIL−5量を示すグラフである。
【図8】図8は、参考例の喘息モデルマウス、及び健常マウスの肺胞洗浄液中の全白血球数を示すグラフである。
【図9】図9は、参考例の喘息モデルマウス、及び健常マウスの肺胞腔への好酸球浸潤量を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
杉(Cryptomeria japonica D.Don)の葉抽出物を有効成分とするIgE抗体産生抑制剤。
【請求項2】
投与後、被投与個体のIgE抗体産生を抑制し、かつIgG抗体産生を抑制しない請求項1に記載のIgE抗体産生抑制剤。
【請求項3】
I型アレルギー疾患の被投与個体の血清中のIgE抗体価を〔(投与後の抗体価)/(投与前の抗体価)〕≦0.5とし、かつ血清中のIgG抗体価を〔(投与後の抗体価)/(投与前の抗体価)〕≧1.0とする作用を有する請求項2に記載のIgE抗体産生抑制剤。
【請求項4】
I型アレルギー疾患の被投与個体の炎症組織におけるIL−5産生量を〔(投与後の量)/(投与前の量)〕=0.9〜1.0とする作用を有する請求項1から3に記載のIgE抗体産生抑制剤。
【請求項5】
杉の葉抽出物が、杉の葉の熱水抽出物である請求項1から4のいずれかに記載のIgE抗体産生抑制剤。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のIgE産生抑制剤を経口投与することを特徴とするIgE抗体産生抑制方法。
【請求項7】
請求項1から5のいずれかに記載のIgE産生抑制剤を含むことを特徴とするIgE抗体産生抑制用飲食物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−265115(P2006−265115A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−81763(P2005−81763)
【出願日】平成17年3月22日(2005.3.22)
【出願人】(598041566)学校法人北里学園 (180)
【出願人】(500563153)株式会社金子園 (2)
【Fターム(参考)】