説明

JAK2遺伝子のexon12における変異の検出法、ならびにそのための核酸プローブおよびキット

【課題】JAK2遺伝子のexon12における変異を検出するのに有効な消光プローブ、変異を検出する方法、およびそのためのキットを提供する。
【解決手段】(a)〜(c)を特徴とする、JAK2遺伝子のexon12多型を検出するための多型検出用プローブ。(a)JAK2 exon 12遺伝子変異における野生型の特定の塩基配列において塩基番号114から132を含む19〜50塩基長の塩基配列に相補的な配列に相同的な配列からなるオリゴヌクレオチド(b)前記野生型配列の、塩基番号122から143を含む22〜50塩基長の塩基配列に相補的な配列に相同的な配列からなるオリゴヌクレオチド(c)JAK2 exon 12遺伝子変異におけるF537-K539delinsL変異型の特定の塩基配列において塩基番号41から50を含む10〜50塩基長の塩基配列に相同的な配列からなるオリゴヌクレオチド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、JAK2遺伝子のexon 12における変異の検出法、ならびにそのための核酸プローブおよびキットに関する。
【背景技術】
【0002】
JAK2遺伝子のexon 12における変異は慢性骨髄増殖性疾患の一つである真性多血症(PV)患者に見られる変異であり、本変異の有無が真性多血症の診断基準の一項目となっている(非特許文献1)。
JAK2遺伝子のexon 12における変異を検出する方法としては、ダイレクトシーケンスで検出する方法(非特許文献2)、PCR-RFLP法またはアレルスペシフィックPCR法(Allele-Specific PCR、AS-PCR法)で検出する方法がある(非特許文献3)。
【0003】
非特許文献2の方法は、DNAの抽出精製およびPCRを行った後、シークエンス反応を行い、シークエンサーで電気泳動を行わなければならないなど、手間やコストを要する。また、PCRを行った後、増幅産物を処理する必要があるため、増幅産物が次の反応系に混入する恐れがあり、自動化が困難であり、複数の核酸配列を同時に検査することができないという問題点があった。
非特許文献3のPCR-RFLP法は、DNAの抽出精製およびPCRを行った後、増幅産物に対して制限酵素処理し、電気泳動を行う必要があるなど、手間やコストを要する。また、PCRを行った後、増幅産物を処理する必要があるため、増幅産物が次の反応系に混入する恐れがあり、自動化が困難であり、複数の核酸配列を同時に検査することができないという問題点があった。
非特許文献3のAS-PCR法は、配列特異的に増幅させるプライマーでPCRを行い、増幅の有無から目的配列の有無を検出する方法である。この方法は各配列に特異的なプライマーを用いてプライマーごとに反応を行うため、調べたい変異が多数ある場合は反応数が多くなるため手間やコストを要する。さらに、AS-PCR法は未知の変異を検出することが不可能であるという問題点があった。
【0004】
一方、変異を含む領域をPCRで増幅した後、蛍光色素で標識された核酸プローブを用いて融解曲線分析を行い、融解曲線分析の結果に基づいて変異を解析する方法が知られている(特許文献1,2)。しかしながら、これらの文献においては、プローブの設計に関し、末端部が蛍光色素により標識された消光プローブが標的核酸にハイブリダイゼーションしたとき、末端部分においてプローブ−核酸ハイブリッドの複数塩基対が少なくとも一つのGとCのペアを形成するように設計するという教示があるのみである。
【0005】
非特許文献4には、末梢血または骨髄からのcDNAについて、2つのプローブを用いて融解曲線分析を行い、JAK2遺伝子のexon 12における既知の5つの変異(E543-D544del, F537-K539delinsL, H538QK539L, K539L, N542-E543del)に加えて、新たな4つの変異(D544-L545del, H538DK539LI540S, H538-K539del, V536-F547dup)を検出できたことが記載されている。
非特許文献4の2つのプローブは、融解曲線分析に用いられるものであるが、その末端は蛍光標識されたGまたはCではない。また、非特許文献4には、H538QK539L変異を検出できたことは示されているが(図1)、その感度は十分ではなく、また、他の8つの変異を検出できることについてデータは示されていない。さらに、非特許文献4では、末梢血または骨髄からのcDNAを用いるのみであり、全血から直接検査できることは教示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−286300号公報
【特許文献2】特開2002−119291号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】BLOOD, 30 JULY 2009 VOLUME 114, NUMBER 5
【非特許文献2】Haematologica 2007 Dec;92(12):1717-8.
【非特許文献3】N Engl J Med. 2007 Feb 1;356(5):459-68.
【非特許文献4】Haematologica 2009; 94(3):414-418.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、JAK2遺伝子のexon 12における変異を検出するのに有効な消光プローブを特定し、JAK2遺伝子のexon 12における変異を検出する方法、およびそのためのキットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、JAK2遺伝子のexon 12における変異を含む特定の領域に基づいて消光プローブを設計することにより、消光プローブを用いる融解曲線分析により当該変異を検出できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)JAK2 exon 12遺伝子の多型を検出するためのプローブであって、下記(a)〜(c)の少なくとも1つのオリゴヌクレオチドからなることを特徴とする多型検出用プローブ。
(a)配列番号1に示す塩基配列において塩基番号114から132を含む19〜50塩基長の塩基配列に相補的な配列に相同的な配列からなるオリゴヌクレオチド、
(b)配列番号1に示す塩基配列において塩基番号122から143を含む22〜50塩基長の塩基配列に相補的な配列に相同的な配列からなるオリゴヌクレオチド、および
(c)配列番号11に示す塩基配列において塩基番号41から50を含む10〜50塩基長の塩基配列に相同的な配列からなるオリゴヌクレオチド。
(2)前記(a)に示すオリゴヌクレオチドは、蛍光色素で標識された塩基番号114に対応する塩基を3'末端から数えて1〜3番目の位置に有し、
前記(b)に示すオリゴヌクレオチドは、蛍光色素で標識された塩基番号143に対応する塩基を5'末端から数えて1〜3番目の位置に有し、
前記(c)に示すオリゴヌクレオチドは、蛍光色素で標識された塩基番号50に対応する塩基を3'末端から数えて1〜3番目の位置に有する、
(1)記載の多型検出用プローブ。
(3)前記(a)に示すオリゴヌクレオチドは蛍光色素で標識された塩基番号114に対応する塩基を3'末端に有し、
前記(b)に示すオリゴヌクレオチドは塩基番号143に対応する塩基を5’末端に有し、および
前記(c)に示すオリゴヌクレオチドは塩基番号50に対応する塩基を3’末端に有する、
(1)または(2)に記載の多型検出用プローブ。
(4)前記オリゴヌクレオチドは、標的配列にハイブリダイズしないときと比較して標的配列にハイブリダイズしたときに蛍光強度が減少するかまたは増加する、(1)〜(3)のいずれか1項記載の多型検出用プローブ。
(5)前記オリゴヌクレオチドが、標的配列にハイブリダイズしたときに蛍光強度が減少する、(4)記載の多型検出用プローブ。
(6)前記(a)に示すオリゴヌクレオチドが24〜30塩基長であるか、
前記(b)に示すオリゴヌクレオチドが29〜35塩基長であるか、および/または
前記(c)に示すオリゴヌクレオチドが16〜22塩基長である、(1)〜(5)のいずれか1項に記載のプローブ。
(7)前記(a)に示すオリゴヌクレオチドが配列番号6に示す塩基配列からなるか、
前記(b)に示すオリゴヌクレオチドが配列番号5に示す塩基配列からなるか、および/または
前記(c)に示すオリゴヌクレオチドが配列番号4に示す塩基配列からなる、(1)〜(5)のいずれか1項に記載のプローブ。
(8)JAK2 exon 12遺伝子の多型が、K539L(sub1)、H538QK539L(sub2)、N542-E543del(del6)、およびF537-K539delinsL(del6inL)からなる群より選択される少なくとも1つの変異である、(1)〜(7)のいずれか1項に記載のプローブ。
(9)JAK2 exon 12遺伝子の多型の部位を有する核酸について、蛍光色素で標識された核酸プローブを用いて、蛍光色素の蛍光を測定することにより融解曲線分析を行い、融解曲線分析の結果に基づいて変異を検出する方法であって、核酸プローブは、(1)〜(8)のいずれか1項に記載の核酸プローブである方法。
(10)試料に含まれる核酸における多型の部位を含む領域を増幅して多型を有する核酸を得ることを含む(9)記載の方法。
(11)DNAポリメラーゼを用いる方法により増幅を行う(10)記載の方法。
(12)核酸プローブの存在下で増幅を行う(11)記載の方法。
(13)(1)〜(8)のいずれか1項に記載の多型検出用プローブを含む、JAK2 exon 12遺伝子の多型を検出するためのキット。
(14)JAK2 exon 12遺伝子の多型の部位を含む領域を、DNAポリメラーゼを用いる方法で増幅するためのプライマーをさらに含む(13)に記載のキット。
【発明の効果】
【0011】
本発明のプローブを遺伝子増幅系中に添加しておくことで、PCR反応終了後、融解曲線解析(Tm解析)を行うだけで、複数の遺伝子変異型のタイピングが可能となる。さらに、全血や口腔粘膜懸濁液を直接検査することが可能であるため、手間やコストを低減することができる。
本発明の方法を用いることにより、PCRを行う場合であっても、増幅産物を取り出す必要がないため、コンタミネーションの危険性がほぼ無い。また、本発明の方法は、機構が簡単なので自動化が容易である。
本発明のプローブは、特異性が高く、検出感度が高い。また、本発明のプローブは、検出対象の変異がプローブの範囲内であれば、未知の変異も検出できる。
本発明のプローブにより、JAK2遺伝子のexon 12における変異の有無を検出することができるため、ヘモグロビン値や赤血球量の増加などの診断項目と併せて、慢性骨髄増殖性疾患や真性多血症の診断が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(A)核酸混合物の融解曲線、及び(B)微分融解曲線の一例を示す図である。
【図2】検量線の一例を示す図である。
【図3】実施例1のWt 100%についてのTm解析における単位時間当たりの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)の変化を示す。縦軸は、単位時間当たりの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)、横軸は、温度(℃)である。
【図4】実施例1のsub1 50%についてのTm解析における単位時間当たりの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)の変化を示す。縦軸は、単位時間当たりの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)、横軸は、温度(℃)である。
【図5】実施例1のsub2 50%についてのTm解析における単位時間当たりの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)の変化を示す。縦軸は、単位時間当たりの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)、横軸は、温度(℃)である。
【図6】実施例1のdel6 50%についてのTm解析における単位時間当たりの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)の変化を示す。縦軸は、単位時間当たりの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)、横軸は、温度(℃)である。
【図7】実施例1のdel6inL 50%についてのTm解析における単位時間当たりの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)の変化を示す。縦軸は、単位時間当たりの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)、横軸は、温度(℃)である。
【図8】実施例2の野生型プラスミドに対する変異型プラスミドH538QK539L(sub2)の割合を変えたもの(0%〜100%)についてのTm解析における単位時間当たりの傾向強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)の変化を示しており、変異型プラスミドH538QK539L(sub2)に関するWTプローブ2の感度を示す。縦軸は、単位時間当たりの蛍光強度の変化量(dF/dt)、横軸は、温度(℃)である。
【図9】実施例3の全血についてのTm解析における単位時間当たりの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)の変化を示す。縦軸は、単位時間当たりの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)、横軸は、温度(℃)である。
【図10】実施例4の全血についてのTm解析における単位時間当たりの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)の変化を示す。縦軸は、単位時間当たりの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)、横軸は、温度(℃)である。
【図11】実施例4のWt 100%についてのTm解析における単位時間当たりの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)の変化を示す。縦軸は、単位時間当たりの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)、横軸は、温度(℃)である。
【図12】実施例4のsub1 50%についてのTm解析における単位時間当たりの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)の変化を示す。縦軸は、単位時間当たりの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)、横軸は、温度(℃)である。
【図13】実施例4のsub2 50%についてのTm解析における単位時間当たりの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)の変化を示す。縦軸は、単位時間当たりの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)、横軸は、温度(℃)である。
【図14】実施例4のdel6 50%についてのTm解析における単位時間当たりの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)の変化を示す。縦軸は、単位時間当たりの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)、横軸は、温度(℃)である。
【図15】実施例5のdel6inL 50%についてのTm解析における単位時間当たりの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)の変化を示す。縦軸は、単位時間当たりの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)、横軸は、温度(℃)である。
【図16】比較例のWt 100%についてのTm解析における単位時間当たりの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)の変化を示す。縦軸は、単位時間当たりの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)、横軸は、温度(℃)である。
【図17】比較例のsub1 50%についてのTm解析における単位時間当たりの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)の変化を示す。縦軸は、単位時間当たりの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)、横軸は、温度(℃)である。
【図18】比較例のsub2 50%についてのTm解析における単位時間当たりの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)の変化を示す。縦軸は、単位時間当たりの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)、横軸は、温度(℃)である。
【図19】比較例のdel6 50%についてのTm解析における単位時間当たりの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)の変化を示す。縦軸は、単位時間当たりの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)、横軸は、温度(℃)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<1>本発明プローブおよび本発明検出方法
本発明のプローブは、JAK2 exon 12遺伝子の多型を検出するためのプローブであって、下記(a)〜(c)の少なくとも1つのオリゴヌクレオチドからなることを特徴とする。(a)配列番号1に示す塩基配列において塩基番号114から132を含む19〜50塩基長の塩基配列に相補的な配列に相同的な配列からなるオリゴヌクレオチド、
(b)配列番号1に示す塩基配列において塩基番号122から143を含む22〜50塩基長の塩基配列に相補的な配列に相同的な配列からなるオリゴヌクレオチド、および
(c)配列番号11に示す塩基配列において塩基番号41から50を含む10〜50塩基長の塩基配列に相同的な配列からなるオリゴヌクレオチド。
【0014】
本明細書において、相補的な塩基配列とは、対象の塩基配列の全長に対して相補的であることを意味する。
【0015】
本発明プローブは、配列番号1に示す塩基配列(JAK2 exon 12遺伝子変異における野生型(正常型)の塩基を有する配列)または配列番号11に示す塩基配列(JAK2 exon 12遺伝子変異におけるF537-K539delinsL (del6inL)変異型の塩基を有する配列)において上記(a)〜(c)に特定された配列を有する他は、特許文献1,2に記載された消光プローブと同様でよい。本発明のプローブの長さとしては、10〜50塩基長、好ましくは15〜35塩基長である。詳細には、(a)のオリゴヌクレオチドの場合には19塩基長以上、(b)のオリゴヌクレオチドの場合には22塩基長以上、(c)のオリゴヌクレオチドの場合には10塩基長以上が好ましい。より詳細には、(a)のオリゴヌクレオチドの場合には24〜30塩基長、(b)のオリゴヌクレオチドの場合には29〜35塩基長、(c)のオリゴヌクレオチドの場合には16〜22塩基長が好ましい。本発明に使用される消光プローブの塩基配列の例としては、配列番号4〜6に示すものが挙げられる。蛍光色素としては、特許文献1,2に記載されたものが使用できるが、具体例としては、Pacific Blue(商標)、FAM(商標)、TAMRA(商標)、BODIPY(商標) FL等が挙げられる。蛍光色素のオリゴヌクレオチドへの結合方法は、通常の方法、例えば特許文献1,2に記載の方法に従って行うことができる。
【0016】
本発明の(a)のプローブは、塩基番号114から132を含む19〜50塩基長の塩基配列の相補鎖に80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の同一性を有する配列を有している。すなわち、本発明の(a)のプローブは、塩基番号114から132を含む19〜50塩基長の塩基配列に相補的であるが、完全に相補的でなくてもよく、5塩基、4塩基、3塩基、2塩基、または1塩基のみ異なっていてもよい。
本発明の(b)のプローブは、塩基番号122から143を含む22〜50塩基長の塩基配列の相補鎖に80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の同一性を有する配列を有している。すなわち、本発明の(b)のプローブは、塩基番号122から143を含む22〜50塩基長の塩基配列に相補的であるが、完全に相補的でなくてもよく、5塩基、4塩基、3塩基、2塩基、または1塩基のみ異なっていてもよい。
本発明の(c)のプローブは、塩基番号41から50を含む10〜50塩基長の塩基配列と80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の同一性を有している。すなわち、本発明の(c)のプローブは、塩基番号41から50を含む10〜50塩基長の塩基配列に相同的な配列であるが、完全に同一ではなく、5塩基、4塩基、3塩基、または2塩基のみ異なっていてもよい。
【0017】
本発明プローブは、標的配列にハイブリダイゼーションしないときと比較して、標的配列にハイブリダイゼーションしたときに蛍光色素の蛍光が減少または増加することが好ましい。本発明プローブは、好ましくは、ハイブリダイゼーションしないときに蛍光色素の蛍光が発光し、ハイブリダイゼーションしたときに蛍光色素の蛍光が消光する、消光プローブである。
また、本発明プローブは、5’または3’末端から数えて1〜3番目の塩基が蛍光色素により標識化されていることが好ましく、5’または3’末端が蛍光色素により標識されていることがより好ましい。
なお、本明細書において、「5’末端から数えて1〜3番目」という場合は、5’末端を1番目として数え、「3’末端から数えて1〜3番目」という場合は、3’末端を1番目として数える。
【0018】
本実施例の表8に示されるように、本発明の(a)〜(c)のいずれか1つのオリゴヌクレオチドを用いることにより、好ましくは、(a)〜(c)の2つのオリゴヌクレオチドを用いることにより、より好ましくは、(a)〜(c)の3つのオリゴヌクレオチドを用いることにより、JAK2 exon 12遺伝子の多型を検出することができる。
本発明のオリゴヌクレオチドにより検出することのできるJAK2 exon 12遺伝子の多型は、好ましくは、E543-D544del, F537-K539delinsL, H538QK539L, K539L, N542-E543del, D544-L545del, H538DK539LI540S, H538-K539del, R541KD544N, およびH538-K539delinsLからなる群より選択される少なくとも1つ、最も好ましくは、K539L(sub1)、H538QK539L(sub2)、N542-E543del(del6)、およびF537-K539delinsL(del6inL)からなる群より選択される少なくとも1つの変異である。
また、本発明のオリゴヌクレオチドを用いることにより、非特許文献4(haematologica
2009; 94(3):414-418.)には記載されていないR541KD544NとH538-K539delinsLも検出することができる。なお、H538-K539delinsLは非特許文献2に記載されており、R541KD544Nはまだ公知となっていない。以下にR541KD544Nの配列を記載する。
【0019】
【表1】

【0020】
本発明の(a)のオリゴヌクレオチドを用いる場合には、E543-D544del, H538QK539L, K539L, N542-E543del, D544-L545del, H538DK539LI540S, H538-K539delinsL, およびR541KD544N, H538-K539delを検出することができる。
本発明の(b)のオリゴヌクレオチドを用いる場合には、H538QK539L, K539L, H538DK539LI540S, H538-K539delinsL, R541KD544N, およびH538-K539delを検出することができる。
本発明の(c)のオリゴヌクレオチドを用いる場合には、F537-K539delinsLを検出することができる。
本発明の(a)〜(c)のオリゴヌクレオチドを用いることにより、JAK2遺伝子のexon
12における変異の有無を検出することができ、ヘモグロビン値や赤血球量の増加などの診断項目と併せて、慢性骨髄増殖性疾患や真性多血症の診断が可能となる。
【0021】
本発明検出方法は、JAK2 exon 12遺伝子の多型の部位を有する核酸について、蛍光色素で標識された核酸プローブを用いて、蛍光色素の蛍光を測定することにより融解曲線分析を行い、融解曲線分析の結果に基づいて変異を検出する方法であって、核酸プローブは本発明プローブであることを特徴とする。
【0022】
本発明検出方法は、JAK2 exon 12遺伝子の多型の部位を含む領域を増幅すること、および、本発明プローブを用いることの他は、通常の核酸増幅および融解曲線分析(Tm解析)の方法に従って行うことができる。
【0023】
本発明の検出方法は、好ましくは、本発明のプローブを使用し、以下の工程を含むことを特徴とする。
(I)DNAを含有する試料に、本発明のプローブを添加して前記DNAに前記プローブをハイブリダイズさせる工程、
(II)温度を変化させて前記DNAと前記プローブとのハイブリッド形成体を解離させ、ハイブリッド形成体の解離に基づくシグナルの変動を測定する工程、
(III)前記シグナルの変動を解析してTm値を決定する工程、および
(IV)前記Tm値から目的の多型の有無または多型を有する塩基配列の存在比を決定する工程。
【0024】
本発明検出方法は、本発明プローブを用いることの他は、通常の核酸増幅および融解曲線分析(Tm分析)の方法に従って行うことができる。また、本発明の検出方法は、前記工程(I)の前または工程(I)と同時に核酸を増幅することを含んでいてもよい。
【0025】
核酸増幅の方法としては、ポリメラーゼを用いる方法が好ましく、その例としては、PCR、ICAN、LAMP等が挙げられる。ポリメラーゼを用いる方法により増幅する場合は、本発明プローブの存在下で増幅を行うことが好ましい。用いるプローブに応じて、増幅の反応条件等を調整することは当業者であれば容易である。これにより、核酸の増幅後にプローブのTmを解析するだけなので、反応終了後増幅産物を取り扱う必要がない。よって、増幅産物による汚染の心配がない。また、増幅に必要な機器と同じ機器で検出することが可能なので、容器を移動する必要すらない。よって、自動化も容易である。
【0026】
なお、工程(III)でTm値を決定することには、Tmの温度を決定することだけでなく、Tmのピークの高さを決定することを含む。ピークの高さにより、多型を有する塩基配列の存在比を決定することができる。なお、多型を有する塩基配列の存在比をより定量的に決定するには、下記に示すような検量線を作成し、それに基づいて存在比を決定することが好ましい。
【0027】
多型を有する塩基配列の存在比を定量的に決定する方法について、野生型と特定の変異型の存在比の決定を例に挙げて以下に示す。ただし、この方法は一例にすぎず、多型を有する塩基配列の存在比の決定の仕方はこれに限定されない。
【0028】
まず、野生型の核酸Wtと変異型の核酸Mtとの2種類の核酸の存在比を各々異ならせた複数の核酸混合物を作製し、複数の核酸混合物の各々について、融解曲線解析装置等を用いて融解曲線を得る。
図1(A)に、ある1つの核酸混合物の温度と蛍光強度との関係で表された融解曲線、及び図1(B)に温度と蛍光強度の微分値との関係で表された融解曲線(微分融解曲線ともいう)を示す。この微分融解曲線からピークを検出することにより、核酸Wtの融解温度TmW及び核酸Mtの融解温度TmMを検出して、TmW及びTmMを含む温度範囲の各々を設定する。TmWを含む温度範囲ΔTWとしては、例えば、TmWとTmMとの間で蛍光強度の微分値が最小となる温度を下限、蛍光強度のピークの裾野に対応する温度を上限とする温度範囲を設定することができる。また、TmMを含む温度範囲ΔTMとしては、例えば、TmWとTmMとの間で蛍光強度の微分値が最小となる温度を上限、蛍光強度のピークの裾野に対応する温度を下限とする温度範囲を設定することができる。なお、温度範囲ΔTW及び温度範囲ΔTMは、同一の幅(例えば、10℃)または異なる幅(例えば、温度範囲
ΔTWが10℃、温度範囲ΔTMが7℃)となるように設定することができる。また、温度範囲ΔTW及び温度範囲ΔTMは、それぞれの融解温度TmからプラスX℃、マイナスX℃の幅(X℃は例えば15℃以内、望ましくは10℃以内)というように設定することができる。
【0029】
次に、温度範囲ΔTW及び温度範囲ΔTMの各々について、微分融解曲線の温度範囲の下限に対応する点と上限に対応する点とを通る直線と微分融解曲線とで囲まれた面積(図1(B)の斜線部分)を求める。面積の求め方の一例として、具体的に以下のように求めることができる。温度Tにおける蛍光強度の微分値をf(T)とし、温度Tにおけるベース値をB(T)として、下記(1)式により求める。
面積S={f(Ts+1)−B(Ts+1)}+{f(Ts+2)−B(Ts+2)}
+・・・+{f(Te-1)−B(Te-1)} ・・・(1)
ただし、Tsは各温度範囲における下限値、Teは上限値である。また、各温度Tにおけるベース値B(T)は、下記(2)式により求まる値であり、蛍光強度の検出信号に含まれるバックグラウンドレベルを表すものである。このベース値を蛍光強度の微分値から減算することにより、蛍光強度の検出信号に含まれるバックグラウンドの影響を除去する。
B(T)=a×(T−Ts)+f(Ts) ・・・(2)
ただし、a={f(Te)−f(Ts)}/(Te−Ts) である。
【0030】
上記(1)式及び(2)式に従って、各核酸混合物について、温度範囲ΔTWにおける面積SW及び温度範囲ΔTWにおける面積SMを求め、面積比と各核酸混合物の存在比との関係を表す検量線を作成する。図2に、横軸に存在比(核酸混合物の総量に対する核酸Mtの割合)をとり、縦軸に面積比(SM/SW)をとった検量線の一例を示す。なお、面積比はSW/SMで定めてもよい。
実際の試料を用いて得られた融解曲線と微分融解曲線から面積比を算出し、上記のようにしてあらかじめ作成した検量線に基づいて、実際の試料中に含まれる多型を有する塩基配列の存在比を決定することができる。
【0031】
本発明において、試料中のDNAは、一本鎖DNAでもよいし二本鎖DNAであってもよい。前記DNAが二本鎖DNAの場合は、例えば、前記ハイブリダイズ工程に先立って、加熱により前記試料中の二本鎖DNAを解離させる工程を含むことが好ましい。二本鎖DNAを一本鎖DNAに解離することによって、次のハイブリダイズ工程において、検出用プローブとのハイブリダイズが可能となる。
【0032】
本発明において、前記試料中のDNAに対する、本発明のプローブの添加割合(モル比)は、制限されないが、検出シグナルを十分に確保できることから、試料中のDNAに対して1倍以下が好ましく、0.3倍以下がより好ましい。この際、試料中のDNAとは、例えば、検出目的の多型が発生している検出対象DNAと前記多型が発生していない非検出対象DNAとの合計でもよいし、検出目的の多型が発生している検出対象配列を含む増幅産物と前記多型が発生していない非検出対象配列を含む増幅産物との合計でもよい。なお、試料中のDNAにおける前記検出対象DNAの割合は、通常、不明であるが、結果的に、前記プローブの添加割合(モル比)は、検出対象DNA(検出対象配列を含む増幅産物)に対して100倍以下となることが好ましく、より好ましくは50倍以下、さらに、好ましくは30倍以下である。また、その下限は特に制限されないが、例えば、0.001倍以上であり、好ましくは0.01倍以上であり、より好ましくは0.2倍以上である。
【0033】
前記DNAに対する本発明のプローブの添加割合は、例えば、二本鎖DNAに対するモル比でもよいし、一本鎖DNAに対するモル比でもよい。
【0034】
Tm値について説明する。二本鎖DNAを含む溶液を加熱していくと、260nmにおける吸光度が上昇する。これは、二本鎖DNAにおける両鎖間の水素結合が加熱によってほどけ、一本鎖DNAに解離(DNAの融解)することが原因である。そして、全ての二本鎖DNAが解離して一本鎖DNAになると、その吸光度は加熱開始時の吸光度(二本鎖DNAのみの吸光度)の約1.5倍程度を示し、これによって融解が完了したと判断できる。この現象に基づき、融解温度Tmとは、一般に、吸光度が、吸光度全上昇分の50%に達した時の温度と定義される。
【0035】
本発明において、Tm値を決定するための温度変化に伴うシグナル変動の測定は、前述のような原理から260nmの吸光度測定により行うこともできるが、本発明のプローブに付加した標識のシグナルに基づくシグナルであってDNAとプローブとのハイブリッド形成の状態に応じて変動するシグナルを測定することが好ましい。このため、本発明のプローブとして、前述の標識化プローブを使用することが好ましい。前記標識化プローブとしては、例えば、標的配列にハイブリダイズしないときに蛍光を発し、且つ標的配列にハイブリダイズしたときに蛍光強度が減少(消光)する蛍光標識オリゴヌクレオチドプローブ、または標的配列にハイブリダイズしないときに蛍光を発し、且つ標的配列にハイブリダイズしたときに蛍光強度が増加する蛍光標識オリゴヌクレオチドプローブが挙げられる。前者のようなプローブであれば、検出対象配列とハイブリッド(二本鎖DNA)を形成している際にはシグナルを示さないか、シグナルが弱いが、加熱によりプローブが遊離するとシグナルを示すようになるか、シグナルが増加する。また、後者のプローブであれば、検出対象配列とハイブリッド(二本鎖DNA)を形成することによってシグナルを示し、加熱によりプローブが遊離するとシグナルが減少(消失)する。したがって、この標識に基づくシグナルの変化をシグナル特有の条件(吸光度等)で検出することによって、前記260nmの吸光度測定と同様に、融解の進行ならびにTm値の決定を行うことができる。標識化プローブにおける標識化物質は、例えば、前述のとおりであるが蛍光色素標識化プローブが好ましい。
【0036】
以下、PCRを用いる場合を例として、さらに説明する。PCRに用いるプライマー対は、本発明プローブがハイブリダイゼーションできる領域が増幅されるようにする他は、通常のPCRにおけるプライマー対の設定方法と同様にして設定することができる。プライマーの長さおよびTmは、通常には、12mer〜40merで40〜70℃、好ましくは16mer〜30merで55〜60℃である。プライマー対の各プライマーの長さは同一でなくてもよいが、両プライマーのTmはほぼ同一(通常には、相違が2℃以内)であることが好ましい。なお、Tm値は最近接塩基対(Nearest Neighbor)法により算出した値である。プライマー対の例としては、配列番号2および3に示す塩基配列を有するプライマーからなるものが挙げられる。
【0037】
PCRは、本発明で使用される本発明プローブの存在下で行うことが好ましい。これにより、増幅反応終了後に増幅産物を取り扱う操作を行うことなくTm解析を行うことができる。用いるプローブに応じて、プライマーのTmやPCRの反応条件を調整することは当業者であれば容易である。
【0038】
また、代表的な温度サイクルを挙げれば、以下の通りであり、この温度サイクルを通常25〜50回繰り返す。
(1) 変性、90〜98℃、1〜60秒
(2) アニーリング、50〜70℃、10〜60秒
(3) 伸長、60〜75℃、10〜180秒
【0039】
アニーリングおよび伸長を一ステップで行う場合には、55〜70℃、10〜180秒の条件が挙げられる。
【0040】
Tm解析は、本発明プローブの蛍光色素の蛍光を測定する他は通常の方法に従って行うことができる。蛍光の測定は、蛍光色素に応じた波長の励起光を用い発光波長の光を測定することに行うことができる。Tm解析における昇温速度は、通常には、0.1〜1℃/秒である。Tm解析を行うときの反応液の組成は、プローブとその塩基配列に相補的な配列を有する核酸とのハイブリダイゼーションが可能であれば特に制限されないが、通常には、一価の陽イオン濃度が1.5〜5 mM、pHが7〜9である。PCR等のDNAポリメラーゼを用いる増幅方法の反応液は、通常、この条件を満たすので、増幅後の反応液をそのままTm解析に用いることができる。
【0041】
Tm解析の結果に基づくJAK2 exon 12遺伝子の変異の検出は通常の方法に従って行うことができる。本発明における検出とは、変異の有無の検出を包含する。なお、本発明のプローブおよび方法により、変異の有無の検出が可能であるため、慢性骨髄増殖性疾患や真性多血症の診断も本発明に含まれる。
【0042】
<2>本発明キット
本発明キットは、本発明の検出方法に用いるためのキットである。このキットは、本発明の多型検出用プローブを含むことを特徴とする。なお、本発明のキットは、慢性骨髄増殖性疾患や真性多血症の診断にも使用できる。
【0043】
消光プローブについては、本発明プローブに関し、上記に説明した通りである。
【0044】
本発明検出キットは、消光プローブの他に、本発明の検出方法における核酸増幅を行うのに必要とされる試薬類、特にDNAポリメラーゼを用いる増幅のためのプライマーをさらに含んでいてもよい。
【0045】
本発明検出キットにおいて消光プローブ、プライマーおよびその他の試薬類は、別個に収容されていてもよいし、それらの一部が混合物とされていてもよい。
【0046】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明する。
【実施例】
【0047】
実施例1(3つのプローブを用いてプラスミドを検出対象とする場合)
JAK2 exon 12遺伝子の多型の部位を含む塩基配列(配列番号1(野生型))に基づき、多型の部位を増幅できるように表2に示すプライマーを設計した。表2中、位置は、配列番号1に示す塩基配列における塩基番号を示す。
【0048】
【表2】

【0049】
次に、表3に示す、末端部にCを有するプローブを設計した。表3中、WTプローブ1,2の位置は、配列番号1に示す塩基配列における塩基番号を示す。del6inLプローブの位置は、配列番号11に示す塩基配列における塩基番号を示す。
3’末端のPは、リン酸化されていることを示す。Pacific Blue、BODIPY FL及びTAMRA
による標識は、常法に従って行った。
【0050】
【表3】

【0051】
表5に示すサンプルを104コピー含み、表4に示すPCR反応液の各成分を、以下の濃度となるように混合した50μLを、全自動SNPs検査装置(商品名i-densy(商標)、アークレイ社製)を用いてPCRおよびTm解析を行った。PCRおよびTm解析の条件は下記の通りである。Tm解析における励起波長および検出波長は、365〜415nmおよび445〜480nm (Pacific Blue)、それぞれ420〜485 nmおよび520〜555 nm(BODIPY FL)、または、それぞれ520〜555 nmおよび585〜700 nm(TAMRA)であった。
【0052】
【表4】

【0053】
【表5】

【0054】
【表6】

【0055】
【表7】

【0056】
表3の3つのプローブを用いてPCRおよびTm解析を行った結果、Wt 100%のサンプルについては、TAMRA(WTプローブ2)のピークが63℃付近に見られ、BODIPY FL(WTプローブ1)のピークが66℃付近に見られ、Pacific Blue(del6inLプローブ)のピークは見られなかった(図3)。
sub1 50%のサンプルについては、WTのプラスミドについて見られたピークに加えて、TAMRA(WTプローブ2)のピークが55℃付近に見られ、BODIPY FL(WTプローブ1)のピークが60℃付近に見られ、Pacific Blue(del6inLプローブ)のピークは見られなかった(図4)。
sub2 50%のサンプルについては、WTのプラスミドについて見られたピークに加えて、TAMRA(WTプローブ2)のピークが50℃付近に見られ、BODIPY FL(WTプローブ1)のピークが57℃付近に見られ、Pacific Blue(del6inLプローブ)のピークは見られなかった(図5)。
del6 50%のサンプルについては、WTのプラスミドについて見られたピークに加えて、TAMRA(WTプローブ2)のピークが54℃付近に見られたが、新たなBODIPY FL(WTプローブ1)のピークは見られず、Pacific Blue(del6inLプローブ)のピークも見られなかった(図6)

del6inL 50%のサンプルについては、WTのプラスミドについて見られたピークに加えて、新たなBODIPY FL(WTプローブ1)のピークが52℃付近に見られ、Pacific Blue(del6inLプローブ)のピークが53℃付近に見られたが、新たなTAMRA(WTプローブ2)のピークは見られなかった(図7)。
これらの結果を、以下の表8に示す。
【0057】
【表8】

【0058】
配列番号4−6の3つのプローブを同時に用いたとき、sub1, sub2, del6, およびdel6inLの変異について、Tm解析で解析の可能な蛍光強度の変化が認められ、これらの変異について、それぞれ異なるパターンの変化が認められた。すなわち、各変異について、固有の蛍光強度の変化量のパターンの変化が存在する。
【0059】
実施例2(検出感度)
また、変異型プラスミドH538QK539L(sub2)の野生型プラスミドに対する割合を変えて(100%〜0%)Tm解析を行った結果を図8に示す。H538QK539L(sub2) 100%の場合は、50℃付近に明確な高いピークが見られ、H538QK539L(sub2) 5〜20%の場合(すなわち、wt95〜80%)、63℃付近にピークが見られると同時に50℃付近にもピークが見られた。また、1%、0%の場合(すなわち、wt99%、100%)63℃付近に明確なピークが見られた。この結果から、この定量方法は、感度が高いことがわかる。
なお、サンプルとして、H538QK539L(sub2)1%の場合のみ104コピーのサンプルを反応液に添加し、その他の場合は103コピーのサンプルを反応液に添加したことを除き、先の実施例1と同様にして行った。
【0060】
実施例3(3つのプローブを用いて全血を検出対象とする場合)
サンプルとして健常人の全血を用い、全自動SNPs検査装置(商品名i-densy(商標)、アークレイ社製)とi-densy Pack UNIVERSAL(商標、アークレイ社製)を用いて上記全血の前処理PCRおよびTm解析を行った。i-densy Pack UNIVERSAL(商標、アークレイ社製)に分注するプライマー・プローブ溶液は表9の通りである。また、PCRおよびTm解析の条件は上記の通りである。
【0061】
【表9】

【0062】
表3の3つのプローブを用いてPCRおよびTm解析を行った結果、全血については、WTのプラスミドの場合と同様に、TAMRA(WTプローブ2)のピークが63℃付近に見られ、BODIPY
FL(WTプローブ1)のピークが66℃付近に見られ、Pacific Blue(del6inLプローブ)のピークは見られなかった(図9)。
従って、野生型についてはプラスミドと全血の両方について同様のパターンの変化が見られるため、本発明のプローブは、プラスミドだけでなく、全血の変異検出についても適用可能であることが理解される。
【0063】
実施例4(WTプローブ2のみを用いて全血またはプラスミドを検出対象とする場合)
表5に示すサンプル(WT100%、sub1 50%、sub2 50%、またはdel6 50%)を104コピー含み、表10に示すPCR反応液の各成分を、以下の濃度となるように混合した50μLを、全自動SNPs検査装置(商品名i-densy(商標)、アークレイ社製)を用いてPCRおよびTm解析を行った。また、PCRおよびTm解析の条件は上記の通りである。
全血については、表10に示すPCR反応液を用いたことを除き、実施例3と同様にして行った。
【0064】
【表10】

【0065】
表3のWTプローブ2のみを用いてPCRおよびTm解析を行った結果、全血については、実施例3の場合と同様に、TAMRA(WTプローブ2)のピークが63℃付近に見られた(図10)。
Wt 100%のサンプルについては、実施例1の場合と同様に、TAMRA(WTプローブ2)のピークが63℃付近に見られた(図11)。
sub1 50%のサンプルについては、実施例1の場合と同様に、WTのプラスミドについて見られたピークに加えて、TAMRA(WTプローブ2)のピークが55℃付近に見られた(図12)。
sub2 50%のサンプルについては、実施例1の場合と同様に、WTのプラスミドについて見
られたピークに加えて、TAMRA(WTプローブ2)のピークが50℃付近に見られた(図13)。
del6 50%のサンプルについては、実施例1の場合と同様に、WTのプラスミドについて見られたピークに加えて、TAMRA(WTプローブ2)のピークが54℃付近に見られた(図14)。
従って、1つのプローブ(WTプローブ2)のみ使用した場合にも、実施例1および3と同様の結果が得られたため、本発明のプローブは、単独でも変異を検出可能であることが理解される。
【0066】
実施例5(del6inLプローブのみを用いてプラスミドを検出対象とする場合)
表5に示すサンプル(del6inL 50%)を104コピー含み、表11に示すPCR反応液の各成分を、以下の濃度となるように混合した50μLを、全自動SNPs検査装置(商品名i-densy(商標)、アークレイ社製)を用いてPCRおよびTm解析を行った。また、PCRおよびTm解析の条件は上記の通りである。
【0067】
【表11】

【0068】
表3のdel6inLプローブのみを用いてPCRおよびTm解析を行った結果、del6inL 50%のサンプルについては、Pacific Blue(del6inLプローブ)のピークが53℃付近に見られた(図15)。
従って、1つのプローブのみ使用した場合にも、実施例1と同様の結果が得られたため、本発明のプローブは、単独でも変異を検出可能であることが理解される。
【0069】
比較例(WTプローブ3のみを用いてプラスミドを検出対象とする場合)
表5に示すサンプル(WT100%、sub1 50%、sub2 50%、またはdel6 50%)を104コピー含み、表12に示すPCR反応液の各成分を、以下の濃度となるように混合した50μLを、全自動SNPs検査装置(商品名i-densy(商標)、アークレイ社製)を用いてPCRおよびTm解析を行った。また、PCRおよびTm解析の条件は上記の通りである。
すなわち、プローブが異なる以外は、実施例4と同様にして行った。
【0070】
【表12】

【0071】
【表13】

【0072】
表13のWTプローブ3のみを用いてPCRおよびTm解析を行った結果、Wt 100%、sub1 50%、sub2 50%、del6 50%のどのサンプルについても同じような波形が見られた(図16〜19)。すなわちどの変異も検出することが出来なかった。
従って、プローブの5’または3’末端のCが蛍光標識されていればどんなプローブ配列でもよいというわけではなく、配列番号5,6のプローブのように、143番目または114番目のCが蛍光標識されていることが重要であることが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
JAK2 exon 12遺伝子の多型を検出するためのプローブであって、下記(a)〜(c)の少なくとも1つのオリゴヌクレオチドからなることを特徴とする多型検出用プローブ。
(a)配列番号1に示す塩基配列において塩基番号114から132を含む19〜50塩基長の塩基配列に相補的な配列に相同的な配列からなるオリゴヌクレオチド、
(b)配列番号1に示す塩基配列において塩基番号122から143を含む22〜50塩基長の塩基配列に相補的な配列に相同的な配列からなるオリゴヌクレオチド、および
(c)配列番号11に示す塩基配列において塩基番号41から50を含む10〜50塩基長の塩基配列に相同的な配列からなるオリゴヌクレオチド。
【請求項2】
前記(a)に示すオリゴヌクレオチドは、蛍光色素で標識された塩基番号114に対応する塩基を3'末端から数えて1〜3番目の位置に有し、
前記(b)に示すオリゴヌクレオチドは、蛍光色素で標識された塩基番号143に対応する塩基を5'末端から数えて1〜3番目の位置に有し、
前記(c)に示すオリゴヌクレオチドは、蛍光色素で標識された塩基番号50に対応する塩基を3'末端から数えて1〜3番目の位置に有する、
請求項1記載の多型検出用プローブ。
【請求項3】
前記(a)に示すオリゴヌクレオチドは蛍光色素で標識された塩基番号114に対応する塩基を3'末端に有し、
前記(b)に示すオリゴヌクレオチドは塩基番号143に対応する塩基を5’末端に有し、および
前記(c)に示すオリゴヌクレオチドは塩基番号50に対応する塩基を3’末端に有する、
請求項1または2に記載の多型検出用プローブ。
【請求項4】
前記オリゴヌクレオチドは、標的配列にハイブリダイズしないときと比較し標的配列にハイブリダイズしたときに蛍光強度が減少するかまたは増加する、請求項1〜3のいずれか1項記載の多型検出用プローブ。
【請求項5】
前記オリゴヌクレオチドが、標的配列にハイブリダイズしたときに蛍光強度が減少する、請求項4記載の多型検出用プローブ。
【請求項6】
前記(a)に示すオリゴヌクレオチドが24〜30塩基長であるか、
前記(b)に示すオリゴヌクレオチドが29〜35塩基長であるか、および/または
前記(c)に示すオリゴヌクレオチドが16〜22塩基長である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のプローブ。
【請求項7】
前記(a)に示すオリゴヌクレオチドが配列番号6に示す塩基配列からなるか、
前記(b)に示すオリゴヌクレオチドが配列番号5に示す塩基配列からなるか、および/または
前記(c)に示すオリゴヌクレオチドが配列番号4に示す塩基配列からなる、請求項1〜5のいずれか1項に記載のプローブ。
【請求項8】
JAK2 exon 12遺伝子の多型が、K539L(sub1)、H538QK539L(sub2)、N542-E543del(del6)、およびF537-K539delinsL(del6inL)からなる群より選択される少なくとも1つの変異である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のプローブ。
【請求項9】
JAK2 exon 12遺伝子の多型の部位を有する核酸について、蛍光色素で標識された核酸プロ
ーブを用いて、蛍光色素の蛍光を測定することにより融解曲線分析を行い、融解曲線分析の結果に基づいて変異を検出する方法であって、核酸プローブは、請求項1〜8のいずれか1項に記載の核酸プローブである方法。
【請求項10】
試料に含まれる核酸における多型の部位を含む領域を増幅して多型を有する核酸を得ることを含む請求項9記載の方法。
【請求項11】
DNAポリメラーゼを用いる方法により増幅を行う請求項10記載の方法。
【請求項12】
核酸プローブの存在下で増幅を行う請求項11記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の多型検出用プローブを含む、JAK2 exon 12遺伝子の多型を検出するためのキット。
【請求項14】
JAK2 exon 12遺伝子の多型の部位を含む領域を、DNAポリメラーゼを用いる方法で増幅するためのプライマーをさらに含む請求項13に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−244815(P2011−244815A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100827(P2011−100827)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)
【Fターム(参考)】