説明

Jmjd3遺伝子改変非ヒト哺乳動物、Jmjd3遺伝子改変骨髄キメラ非ヒト哺乳動物、及びその利用

【課題】M2マクロファージへの分化を制御する物質のスクリーニング、寄生虫感染応答、創傷治癒、アレルギー、癌、動脈硬化等のM2マクロファージ関連疾患の治療薬のスクリーニング等に有用な、Jmjd3遺伝子改変非ヒト哺乳動物、Jmjd3遺伝子改変骨髄キメラ非ヒト哺乳動物、及びこれらの動物由来のJmjd3遺伝子改変骨髄細胞、Jmjd3遺伝子改変マクロファージ、並びにM2マクロファージの分化を制御する物質のスクリーニング方法を提供する。
【解決手段】ゲノム中のJmjd3遺伝子が改変されているJmjd3遺伝子改変非ヒト哺乳動物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Jmjd3遺伝子が改変された非ヒト哺乳動物、Jmjd3遺伝子が改変された骨髄キメラ非ヒト哺乳動物、及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
自然免疫は、細菌、ウイルス、寄生虫等の感染病原体の初期認識及びその後の炎症反応の惹起、並びに獲得免疫の誘導に重要な役割を果たしている生体防御メカニズムである。近年、自然免疫は、動脈硬化、抗腫瘍免疫等においても重要であることが明らかとなってきている。自然免疫の中核を担う細胞であるマクロファージは、病原体固有に存在する構造(PAMPs)を認識するパターン認識受容体(PRRs)を発現しており、このPRRsを介して活性化シグナルが伝達される。トール様受容体(TLR)ファミリーは、様々な病原体のPAMPs(リポ多糖、リポ蛋白、核酸など)を認識するPRRsとして機能しており、PRPsファミリーの中で、最もよく調べられているものの1つである。TLRは、炎症性サイトカイン、ケモカイン、インターフェロン等を含む炎症性メディエーターの生成をもたらす様々な病原体による感染に対する自然応答の惹起において重要な役割を果たす。
【0003】
マクロファージの形成には、感染や自己免疫疾患において炎症性サイトカインが産生されることが病態形成に重要であることが分かっている。また、微生物等の感染に対する応答において、マクロファージがM1マクロファージ及びM2マクロファージに機能的に分化することが知られている。
【0004】
M1マクロファージは、細菌及びウイルス感染応答に重要である。M2マクロファージは、選択的活性化マクロファージとも呼ばれるマクロファージであり、寄生虫感染応答、創傷治癒、癌や動脈硬化の進展に関与する。M2マクロファージは、選択的活性化のマーカーであるアルギナーゼ1(Arg1)、キチナーゼ様Ym1(Chi313)、炎症帯1におけるfound(Fizzl、Retnlaとしても知られる)、マンノース受容体(MR、CD206としても知られる)、CCL17等1のケモカインの高発現によって特徴付けられる。
【0005】
M2マクロファージは、上述したように、寄生虫感染応答、創傷治癒、並びに癌及び動脈硬化の進展に関与することから、M2マクロファージの分化を調節できれば、M2マクロファージが関与する疾患又は症状の予防、改善又は治療に有効であると考えられる。マクロファージをインターロイキン4(IL4)又はインターロイキン13(IL13)で刺激すると、M2マクロファージが誘導されることが報告されている(非特許文献1及び2)。しかしながら、M2マクロファージへの分化のメカニズムは、未だ明らかにされていない。このため、マクロファージM2への分化を調節する物質のスクリーニング方法等の評価系も、未だ開発されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Mantovani, A. et al., Trends Immunol 23, 549-555 (2002).
【非特許文献2】Gordon, S., Nat Rev Immunol 3, 23-35 (2003).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題に鑑み、M2マクロファージへの分化を制御する物質のスクリーニング、寄生虫感染応答、創傷治癒、アレルギー、癌、動脈硬化等のM2マクロファージ関連疾患の治療薬のスクリーニング等に有用な、Jmjd3遺伝子改変非ヒト哺乳動物、Jmjd3遺伝子改変骨髄キメラ非ヒト哺乳動物、及びこれらの動物由来のJmjd3遺伝子改変骨髄細胞、Jmjd3遺伝子改変マクロファージ、並びにM2マクロファージの分化を制御する物質のスクリーニング方法等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために研究を重ね、Jmjd3遺伝子改変マウス及びJmjd3遺伝子改変骨髄キメラマウスを作製し、これらのマウスを解析することにより、以下の知見を得た。本発明者らが作製したJmjd3遺伝子ホモ改変マウス(ホモノックアウトマウス:Jmjd3-/-マウス)は、肺の障害のため生後すぐに死亡したが、該ホモ改変マウス胎児の肝細胞を採取して胎児肝細胞移植を行ない、Jmjd3遺伝子ホモ改変骨髄細胞を有する骨髄キメラマウスを作製して、Jmjd3遺伝子ホモ改変骨髄由来細胞(Jmjd3遺伝子ホモ改変マクロファージ)を得た。得られたJmjd3遺伝子ホモ改変マクロファージ(Jmjd3欠損マクロファージ)におけるJmjd3タンパク質の役割を調べたところ、以下の知見が得られた。なお、本明細書中、Jmjd3遺伝子にコードされるタンパク質を、Jmjd3タンパク質ともいう。
(i) Jmjd3欠損マクロファージは、M1マクロファージへの分化、抗細菌応答には異常が認められなかった。
(ii) Jmjd3欠損マクロファージは、寄生虫であるNippostrongylus brasiliensis及び寄生虫構成成分であるキチン刺激に対するM2マクロファージへの分化に顕著な障害が認められた。また、Jmjd3遺伝子ホモ改変骨髄由来のマクロファージのM2マクロファージへの分化も障害されており、これは、Jmjd3タンパク質の酵素活性をもつヒストン脱メチル化酵素領域をマクロファージに発現させることにより回復した。
(iii)ChIP-Seq解析の結果、Jmjd3タンパク質は、IRF4遺伝子のプロモーター領域のヒストン脱メチル化を制御していることが明らかとなった。
(iv) IRF4欠損マウスも、Jmjd3欠損マウスと同様にM2マクロファージへの分化が障害されていた。
(v) 上記結果より、Jmjd3タンパク質が、M2マクロファージへの分化、抗寄生虫応答に必須の分子であることが明らかとなった。また、Jmjd3タンパク質は、ヒストンH3の27残基目のリジン(H3K27)を脱メチル化する酵素領域をもつ(アミノ酸残基1141−1641番目)が、この酵素活性がM2マクロファージへの分化に重要であることが明らかとなった。また、Jmjd3タンパク質がIFN調節因子4(IRF4)の遺伝子発現を調節し、IRF4の発現がM2マクロファージへの分化に重要であることも明らかとなった。
(vi) M2マクロファージは、寄生虫感染応答、創傷治癒、癌の進展、動脈硬化、メタボリックシンドローム等の様々な疾患と関わっていることが知られている。従って、Jmjd3遺伝子改変非ヒト哺乳動物、Jmjd3遺伝子改変骨髄キメラ非ヒト哺乳動物及びJmjd3遺伝子改変マクロファージは、M2マクロファージ関連疾患研究における有用なモデルとなる。
例えば、Jmjd3タンパク質又はJmjd3タンパク質標的分子をより活性化する物質を、Jmjd3遺伝子改変動物を用いてスクリーニングする(M2マクロファージ関連分子発現をモニターする)ことにより、寄生虫感染応答、アレルギー応答、創傷治癒促進等に有益な治療薬の開発が可能となる。また、Jmjd3タンパク質の脱メチル化酵素活性を抑制する薬剤は、M2マクロファージへの分化を抑制し、癌の転移の抑制、動脈硬化等の治療に有用である。
【0009】
本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、以下の発明を提供する。
項1. ゲノム中のJmjd3遺伝子が改変されていることを特徴とするJmjd3遺伝子改変非ヒト哺乳動物。
項2. Jmjd3遺伝子における対立遺伝子の双方が不活化された、Jmjd3遺伝子ホモ改変動物である項1に記載の非ヒト哺乳動物。
項3. 骨髄中に、項2に記載の非ヒト哺乳動物由来のJmjd3遺伝子ホモ改変骨髄細胞を有することを特徴とするJmjd3遺伝子改変骨髄キメラ非ヒト哺乳動物。
項4. 非ヒト哺乳動物が、マウス又はラットである項1〜3のいずれか一項に記載の非ヒト哺乳動物。
項5. 非ヒト哺乳動物が、マウスである項1〜4のいずれか一項に記載の非ヒト哺乳動物。
項6. 項1〜5のいずれか一項に記載の非ヒト哺乳動物に由来するJmjd3遺伝子改変骨髄細胞。
項7. 項1〜5のいずれか一項に記載の非ヒト哺乳動物又は項6に記載の骨髄細胞由来のJmjd3遺伝子改変マクロファージ。
項8. (I)項1〜5のいずれか一項に記載の非ヒト哺乳動物に候補物質を投与する工程、(II)(a)該非ヒト哺乳動物におけるM2マクロファージ及び/又はM2マクロファージのマーカーの発現、又は(b)Jmjd3タンパク質及び/又はJmjd3タンパク質標的分子の活性をモニターする工程、及び(III)候補物質を投与しない場合と比較して、工程(II)において(a)M2マクロファージ及び/又はM2マクロファージのマーカーの発現の上昇が検出された、又は(b)Jmjd3タンパク質及び/又はJmjd3タンパク質標的分子の活性上昇が検出された候補物質を選択する工程を含むことを特徴とするM2マクロファージへの分化促進剤のスクリーニング方法。
項9. (I)項7に記載のJmjd3遺伝子改変マクロファージに候補物質を接触させる工程、(II)(a)Jmjd3遺伝子改変マクロファージのM2マクロファージへの分化、(b)M2マクロファージのマーカーの発現、又は(c)Jmjd3遺伝子改変マクロファージにおけるJmjd3タンパク質及び/又はJmjd3タンパク質標的分子の活性をモニターする工程、及び(III)候補物質を接触させない場合と比較して、工程(II)において(a)M2マクロファージへの分化が誘導された、(b)M2マクロファージのマーカーの発現の上昇が検出された、又は(c)Jmjd3タンパク質及び/又はJmjd3タンパク質標的分子の活性上昇が検出された候補物質を選択する工程を含むことを特徴とするM2マクロファージへの分化促進剤のスクリーニング方法。
項10. (I)in vitro又は非ヒト哺乳動物中でJmjd3遺伝子及び/又はJmjd3タンパク質に候補物質を接触させる工程、(II)Jmjd3遺伝子発現及び/又はJmjd3タンパク質の脱メチル化酵素活性の変化をモニターする工程、及び(III)候補物質を接触させない場合と比較して、工程(II)においてJmjd3遺伝子発現及び/又は脱メチル化酵素活性の変化が検出された候補物質を選択する工程を含むことを特徴とするM2マクロファージの分化を制御する物質のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、M2マクロファージ関連疾患研究における有用なモデル動物等が提供される。本発明によれば、M2マクロファージの制御に関わる物質をスクリーニングすることができるため、寄生虫感染応答、創傷治癒、アレルギー、癌、動脈硬化、メタボリックシンドローム等のM2マクロファージが関わる疾患又は症状の予防、改善又は治療に有効な医薬等を開発することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、マウスJmjd3遺伝子(上)、ターゲティングベクター(中央)、及び標的対立遺伝子の模式図である。
【図2】図2aは、ヘテロ接合体の異系交配から得られた仔のサザンブロット解析の結果を示す図であり、図2bは、一定時間LPS(1μg/ml)で刺激した野生型(WT) 及びJmjd-/-MEFs由来のRNAのRT−PCR解析結果を示す図である。
【図3】図3(a)及び(b)は、野生型マウス(WT)(図3(a))とJmjd3-/-マウス(図3(b))の肺切片のH&E染色を示す図である。
【図4】図4a及び図4bは、野生型マウス(WT)及びJmjd3-/-BMキメラマウス由来の内因性腹腔滲出細胞(PEC)を各TLRリガンドで刺激し、TNFの生産(図4a)及びIL-6の生産(図4 b)をELISAで測定した結果を示し、図4c及び図4dは、野生型(WT)及びJmjd3-/-BMキメラマウス由来のチオグリコール酸誘発PECを各TLRリガンドで刺激し、TNFの生産(図4c)及びIL-6の生産(図4d)をELISAで測定した結果を示す。
【図5】図5は、刺激なし(図5(a))、チオグリコール酸(図5(b))又はリステリア菌(図5(c))で処理した3日後にWT及びJmjd3-/-キメラマウスから採取した腹腔滲出細胞(PEC)中のマクロファージを分析した結果を示す図である。
【図6】図6(a)〜(d)は、刺激なし(図6(a))、チオグリコール酸(図6(b))又はリステリア菌(図6(c)及び6(d))で処理したWT及びJmjd3-/-キメラマウスから採取されたPEC 中のF4/80+CD11b+マクロファージの数を調べた結果を示す図である。
【図7】図7(a)〜(d)は、リステリア菌に感染したWT及びJmjd3-/-キメラマウスの血清におけるTNF(図7(a))、IFN-γ (図7(b))、IL-6 (図7(c))及びIL-12p40(図7(d))濃度である。
【図8】図8(a)〜(d)は、リステリア菌を感染させたマウスのPECにおけるTNF(図8(a))、 iNOS(図8(b))、IL-6(図8(c))及びIL-12p40 (図8(d))の発現をQ-PCR 分析で調べた結果を示す図である。
【図9】図9(a)〜(d)は、キチンを腹腔に注入した2日後のWT及びJmjd3-/-キメラマウスから採取したPECをCD11b及びF4/80(図9(a) 及び図9(b))、又はCD11b及び Siglec-F(図9(c)及び図9(d))で染色し、フローサイトメトリーにより分析した結果を示す図である。図9(a)及び図9(c)はWT、図9(b)及び図9(d)はJmjd3-/-キメラである。
【図10】図10a及びbは、キチンを腹膜に注入した2日後のWT及びJmjd3-/-キメラマウスから採取したPEC 中のF4/80+CD11b+マクロファージの数(図10a)及びSiglec-F+好中球の数(図10b)を示す図である。
【図11】図11(a)及び(b)は、キチン処理したマウス由来のPECの細胞型をサイトスピンスメアでDiff-Quick染色した結果を示す図である(図11(a):野生型(WT)、図11(b):Jmjd3-/-)。
【図12】図12は、キチン処理したマウス由来の腹膜F4/80+CD11b+マクロファージの表面MR 発現のレベルをフローサイトメトリーにより分析した結果を示す図である。
【図13】図13(a)〜(e)は、キチン投与後48時間のPECから調製された全RNAにおけるアルギナーゼ1(図13(a))、Ym1(図13(b))、 Fizz1(図13(c))、 MR(図13(d))及びiNOS(図13(e))のmRNAの発現をQ-PCRで分析した結果を示す図である。
【図14】図14(a)及び(b)は、Nb感染13日後にWT及びJmjd3-/-胎児肝臓 キメラマウスから BAL液を抽出し、マクロファージ及び好酸球をDiff-quik染色したサイトスピンスメア上で計測した結果を示す図である(図14(a):野生型(WT)、図14(b):Jmjd3-/-キメラマウス)。
【図15】図15(a)及び(b)は、Nb感染後5日及び13日のWT (n = 7)及びJmjd3-/- (n = 7)キメラマウス由来のBAL中のマクロファージ (図15(a))及び好酸球(図15(b))の総細胞数を示す図である。
【図16】図16(a)〜(h)は、Nb 感染5日後、感染及び非感染WT、並びに感染及び非感染Jmjd3-/-キメラマウスそれぞれから調製された全RNA中の、アルギナーゼ1、Ym1、Fizz1、MR、iNOS、L-4、IL-13及びエオタキシンの各タンパク質をコードする mRNAの発現レベルを示す図である(図16(a):アルギナーゼ1、図16(b):Ym1、図16(c):Fizz1、図16(d):MR、図16(e):iNOS、図16(f):IL-4、図16(g):IL-13、図16(h):エオタキシン)。
【図17】図17は、Nb 感染9日後、WT 及びJmjd3-/- キメラマウスから採取した肺門リンパ節細胞をCD3及び CD28で刺激して抗体で染色したときの、T 細胞における細胞内IL-4及びIFN-γ染色の代表的な結果を示す図である。
【図18】図18は、Nb 感染9日後の肺門におけるIL-4産生細胞の数を示す図である。
【図19】図19a〜dは、WT及びJmjd3-/- GM-BMMを特定のTLRリガンドで刺激し、ELISA によって培養液上澄み中のTNF(図19a及び図19c)及びIL-6(図19 b 及び図19d) を測定した結果を示す図である。
【図20】図20(a)〜(e)は、WT及びJmjd3-/- M-BMMから調製した全RNA 中のアルギナーゼ1、Ym1、Fizz、MR及びIL-13の各タンパク質をコードする mRNAの発現を Q-PCR 分析により決定した結果を示す図である(図20(a):アルギナーゼ1、図20(b):Ym1、図20(c):Fizz1、図20(d):MR及び図20(e):IL-13 )。
【図21】図21(a)及び(b)は、IL-4 (10 ng/ml)で刺激したWT及びJmjd3-/- M-BMMから調製した全RNA中のアルギナーゼ1(図21(a))及び Fizz1(図21(b))の発現を Q-PCR 分析により決定した結果を示す図である。
【図22】図22は、JmjCドメイン(aa 1141-1641) を含むJMJD3のC末端部分又はその鉄結合欠損変異体(ΔFe2+結合欠損変異体)(A1388H)を発現させたJmjd3-/- BM細胞から誘導されたM-BMMにおけるjmjd3及びBactin の発現を、RT-PCRで分析した結果を示す図である。
【図23】図23(a)〜(c)は、野生型 JMJD3 (aa 1141-1641)又はその鉄結合欠損変異体(ΔFe2+結合欠損変異体)を発現するレトロウイルスを感染させたJmjd3-/- BMから生成したM-BMMにおけるアルギナーゼ1(図23(a))、Ym1(図23(b))及びMR (図23(c))mRNA発現を Q-PCR 分析により決定した結果を示す図である。
【図24】図24(a)及び(b)は、WT 及びJmjd3-/- BMM 由来のクロマチン溶液を、抗H3K27me3抗体を使用するChIP分析に供した結果を示す図である(図24(a):WT、 図24(b):Jmjd3-/-)。
【図25】図25は、野生型 JMJD3 (aa 1141-1641) 又はその鉄結合欠損変異体(ΔFe2+結合欠損変異体)を有するレトロウイルスで再構成した Jmjd3-/- M-BMMにおけるIrf4の発現レベルをQ-PCR分析で決定した結果を示す図である。
【図26】図26(a)〜(f)は、WT及び Irf4-/- マウス由来のBM 細胞における、M2マーカー及びJMJD3をコードする遺伝子の発現をQ-PCRで調べた結果を示す図である(図26(a):アルギナーゼ1、図26(b):Ym1、図26(c):Fizz1、図26(d):MR、図26(e):IL-13、図26(f):JMJD3)。
【図27】図27は、WT及び Irf4-/- マウスから得たM-BMMの細胞数を示す図である。
【図28】図28(a)及び(b)は、キチン腹腔投与したWT及び Irf4-/- マウスから得たPECにおけるマクロファージ及び好酸球の動員を分析した結果である(図28(a):WT、図28(b):Irf4-/- マウス)。
【図29】図29(a)及び(b)は、PEC 中のキチン誘導マクロファージ及びキチン誘導好酸球の数である(図29(a):キチン誘導マクロファージ、図29(b):キチン誘導好酸球)。
【図30】図30は、キチン誘発PEC中のマクロファージにおけるMRの発現を示す図である。
【図31】図31(a)〜(d)は、キチン処置 WT及びIrf4-/- マウスから得たPECから調製したRNAを、特定のM2 マーカー遺伝子の発現のためのQ-PCR 分析に供した結果を示す図である(図31(a):アルギナーゼ1、図31(b):Ym1、図31(c):Fizz1、図31(d):MR)。
【図32】図32(a)〜(f)は、レトロウイルスを用いてIRF4 を異所的に発現させたJmjd3-/- M-BMM における、特定の遺伝子の発現をQ-PCR分析で決定した結果を示す図である(図32(a):アルギナーゼ1、図32(b):Ym1、図32(c):Fizz1、図32(d):MR、図32(e):JMJD3、図32(f):IRF4)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のJmjd3遺伝子改変非ヒト哺乳動物は、ゲノム中のJmjd3遺伝子が改変されている非ヒト哺乳動物である。
Jmjd3遺伝子は、ヒト、イヌ、ラット、マウス等の哺乳類に広く存在する遺伝子であり、ヒストンH3リジン27残基(H3K27)を脱メチル化する酵素領域を有するタンパク質(Jmjd3タンパク質)コードしていることが知られている。例えば、マウスのJmjd3遺伝子については、NCBIに、ID番号NM_001017426で登録されている。ラットのJmjd3遺伝子については、NCBIに、ID番号NM_001108829で登録されている。また、ヒトのJmjd3遺伝子については、NCBIに、ID番号NM_001080424で登録されている。マウスのJmjd3タンパク質のアミノ酸配列は、NCBIに、ID番号NP_001017426で登録されている。
【0013】
「Jmjd3遺伝子が改変されている」とは、Jmjd3遺伝子のDNA領域の一部又は全部が改変されていることを意味する。Jmjd3遺伝子のDNA領域の一部又は全部が改変されているとは、Jmjd3遺伝子のゲノムDNAの一部に塩基が付加されていること、Jmjd3遺伝子のゲノムDNAの一部又は全部が削除又は置換されていること、又は、特定の範囲の領域に逆位を生じさせていること等をいう。Jmjd3遺伝子の改変は、Jmjd3遺伝子が不活性化又は欠損されていればよい。Jmjd3遺伝子を不活性化するために、Jmjd3遺伝子に対して、付加、削除又は置換のうち2つ以上の方法を用いてもよい。「不活性化」とは、改変したJmjd3遺伝子の発現産物が機能しないか又は存在しないようにすることをいう。
【0014】
本発明において、ゲノムDNAへの塩基の「付加」とは、Jmjd3遺伝子のゲノムDNA配列中に1又はそれ以上の塩基を挿入し、当該Jmjd3遺伝子以外のDNAを挿入したJmjd3遺伝子の発現産物が機能しないか又は存在しないようにすることをいう。ゲノムDNAの「削除」とは、Jmjd3遺伝子のゲノムの一部又は全部を欠失させることにより、Jmjd3遺伝子の発現産物が機能しないか又は存在しないようにすることをいう。ゲノムDNAの「置換」とは、Jmjd3遺伝子遺伝子のゲノムの一部又は全部をJmjd3遺伝子とは関連しない別個の配列により置換し、Jmjd3遺伝子の発現産物が機能しないか又は存在しないようにすることをいう。
【0015】
本発明の非ヒト哺乳動物は、Jmjd3遺伝子における対立遺伝子の片方が不活化されたJmjd3遺伝子ヘテロ改変動物であってもよく、Jmjd3遺伝子における対立遺伝子の双方が不活化されたJmjd3遺伝子ホモ改変動物であってもよい。好ましくは、Jmjd3遺伝子における対立遺伝子の双方が不活化されたJmjd3遺伝子ホモ改変動物である。後述するように、Jmjd3遺伝子ヘテロ改変動物を1又は2世代以上交配することにより、ホモ型遺伝子改変動物を得ることができる。
【0016】
本発明の非ヒト哺乳動物の種類としては特に限定されず、例えば、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、イヌ、ブタ、ヒツジ、ヤギ等が挙げられる。これらの中でも、取扱いが容易で繁殖しやすいことかららマウス又はラットが好ましく、マウスが特に好ましい。
【0017】
本発明のJmjd3遺伝子改変非ヒト哺乳動物を作製する方法は特に限定されず、胚性幹(ES)細胞を用いる公知のノックアウト動物の製造方法等により作製することができる。例えば、ターゲティングベクターを用いてES細胞に遺伝子を導入してJmjd3遺伝子を改変する工程、該ES細胞由来のJmjd3遺伝子ヘテロ改変動物を作製する工程、及び、該Jmjd3遺伝子ヘテロ改変動物を1世代以上交配することにより、Jmjd3遺伝子における対立遺伝子の双方が不活化されたJmjd3遺伝子ホモ改変動物を得る工程を含む方法が挙げられる。なお、この方法は、本発明のJmjd3遺伝子改変非ヒト哺乳動物の作製方法の一例であり、本発明の非ヒト哺乳動物の作製方法は以下の方法に限定されるものではない。また、必要に応じて以下に示す方法に適宜修飾及び/又は変更を加えることもできる。
【0018】
前記ES細胞を用いる方法においては、まず遺伝子組換え技術を用いて、in vitroでターゲティングベクターを作製し、そのベクターをES細胞に遺伝子導入することによりJmjd3遺伝子を破壊する。遺伝子導入されたES細胞のうち、Jmjd3遺伝子が破壊されたものをサザンブロット等の方法により選択する。次にJmjd3遺伝子が破壊されたES細胞を正常非ヒト哺乳動物由来の胚盤胞に移入し、得られたキメラ動物を正常動物と交配することにより、ES細胞由来の非ヒト哺乳動物を作製することができる。このES細胞由来の非ヒト哺乳動物は、Jmjd3遺伝子における対立遺伝子の片方が不活化されているJmjd3遺伝子ヘテロ改変動物である。次いで、このJmjd3遺伝子ヘテロ改変動物を1世代以上交配することにより、一対の染色体の両方のJmjd3遺伝子が改変されたJmjd3遺伝子ホモ改変非ヒト哺乳動物を得ることができる。
【0019】
上記方法により本発明のJmjd3遺伝子改変非ヒト哺乳動物を作製する方法について、以下に具体的に示す。
(1)ターゲッティングベクターの作製
まず、DNAライブラリーから、作製しようとする変異動物のJmjd3遺伝子中の変異させる部位を含むDNA断片を得る。DNA断片は、ES細胞の相同組換えを行うためのターゲッティングベクターを構築するために使用する。このDNA断片は、相同組換えを行うときにより効率よく組換えが生じるよう、作製しようとするES細胞と同一の配列を有するDNAを単離して使用することが好ましい。例えば、変異を導入する動物としてマウスを用いる場合には、ES細胞由来のジェノミックDNAライブラリーから、Jmjd3遺伝子を削除し得るようなマウスのDNA断片を調製する。
【0020】
Jmjd3遺伝子を改変する方法としては、通常の部位特異的遺伝子変異導入法を利用することができる。例えば、BAC recombineering(Lee, E.C. et al. Genomics, vol. 73, p. 56-65 (2001) を参照)等の方法を用いて目的の変異を導入することができる。
【0021】
改変したJmjd3遺伝子を含むDNA断片をベクター中に挿入することにより、ターゲティングベクターを作製する。ターゲッティングベクターは、変異を導入した染色体DNA断片、選択マーカーをコードするDNA断片、これの転写を制御するためのプロモーター、及びターミネーターを含む選択マーカー発現ユニットを必須要素として含んでいることが好ましい。変異を導入した染色体DNA断片は、ES細胞内で相同組換えを起こすために必要な部分であり、変異を導入した箇所を挟んで前後の染色体DNA断片が必要である。すなわち、ターゲッティングベクターは、変異させた塩基のみが本来の染色体DNAとは異なるDNA断片を持っている。
【0022】
選択マーカーをコードするDNA断片としては、薬剤耐性遺伝子、レポーター遺伝子等が好適である。薬剤耐性遺伝子としては、例えばネオマイシンホスホトランスフェラーゼII(nptII)遺伝子(ネオマイシン耐性遺伝子)、ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ(hpt)遺伝子等が挙げられ、レポーター遺伝子としては、例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子、β−ガラクトシダーゼ(lacZ)遺伝子、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(cat)遺伝子等が挙げられる。また、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ等も、選択マーカーとして好適に使用される。
プロモーターとしては、CAGプロモーター、ホスホグリセリン酸キナーゼ−1(PGK−1)プロモーター、伸長因子2(EF−2)プロモーター、MC−1プロモーター等を使用することができる。
【0023】
改変したJmjd3遺伝子を含むDNA断片が導入されるターゲティングベクターの基本骨格となるベクターとしては特に限定されず、形質転換を行う細胞(例えば、DH5a)中で自己複製可能なものであればよい。例えば、市販のpBluscript(Stratagene社製)、pZErO 1.1(Invitrogen社)、pGEM−1(Promega社)等を使用することができる。
【0024】
(2)ES細胞へのベクターの導入と遺伝子導入されたES細胞の選択
作製したターゲッティングベクターをES細胞に導入した後、ES細胞を培養し、出現してくるコロニーを採取する。ES細胞としては、既に樹立された細胞株及び新しく樹立した細胞株のいずれをも使用することができる。ES細胞への遺伝子導入は、リン酸カルシウム共沈殿法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、レトロウイルス感染法、凝集法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法等の方法を採用することができるが、簡便に多数の細胞を処理できる点でエレクトロポレーション法が好ましい。
【0025】
導入遺伝子が組み込まれたES細胞は、通常、単一細胞をフィーダー細胞上で培養して得られるコロニーから分離抽出した染色体DNAをサザンハイブリダイゼーション又はPCR法によりスクリーニングすることによって、Jmjd3遺伝子が破壊されたものを選択することができる。あるいは、上述したような薬剤耐性遺伝子等の選択マーカーを含むベクターを用いることによってセレクションを行ってもよい。
【0026】
(3)トランスジェニック非ヒト哺乳動物の作製
Jmjd3遺伝子の破壊が確認されたES細胞を同種の非ヒト哺乳動物由来の胚盤胞に移入することにより、該ES細胞が宿主胚の細胞塊に組み込まれてキメラ胚が形成される。このキメラ胚を仮親に移植して発生及び生育させることにより、キメラトランスジェニック動物が得られる。例えば、マウスを用いる場合には、別途、妊娠マウスから胚盤胞を取り出し、選択されたES細胞を移入した後、偽妊娠させたメスマウスの子宮に導入する。そして、仮親から生まれた子のうちキメラ動物を選ぶ。キメラ動物は、例えば、ターゲティングベクターが導入されたES細胞(組換えES細胞)を、ES細胞が由来する系統とはコートカラーが明らかな相違を有する別な系統由来の胚盤胞に導入した場合、毛色によって選択することができる。例えば、マウスであれば、アグーチ色の毛色を有する129系由来のES細胞に対しては、黒色の毛色を有し、マーカーとして利用できる各種遺伝子座が129系マウスとは異なっているC57BL/6マウス等の胚盤胞を用いることが好ましい。これにより、キメラマウスはその毛色によって、キメラ率を判断することができる。キメラ動物を正常な動物と交配し、生まれてきた仔の尾等からゲノムDNAを抽出し、PCR法によって変異の導入されたものを選択することにより、Jmjd3遺伝子が改変されたヘテロ型動物を得ることができる。
【0027】
具体的な選択方法としては、得られる仔の尾の一部を採取し、染色体DNAを抽出する。抽出した染色体DNAを基質として、Jmjd3遺伝子の突然変異部位を挟むように設計した塩基配列を持つ二本のオリゴデオキシヌクレオチドをプライマーとしたPCRを行う。PCR産物のアガロースゲル電気泳動を行い、バンドの有無、バンドのゲル上での移動度、変異部位を含む塩基配列を持つオリゴデオキシヌクレオチドを用いたハイブリダーゼーションによる変異を含むバンドの確認等により、抽出した染色体DNAに、改変されたJmjd3遺伝子が含まれているかどうかを調べることができる。PCRのプライマーに使用するオリゴヌクレオチドの塩基配列は、改変Jmjd3遺伝子を検出できるものであればいかなるものでもよい。PCRの結果に基づいて、改変Jmjd3遺伝子を持つ動物を選抜することにより、改変Jmjd3遺伝子をヘテロで持つ動物を得ることができる。
【0028】
Jmjd3遺伝子ヘテロ改変動物を2世代以上交配(インタークロス)することにより、Jmjd3遺伝子における対立遺伝子の双方が不活化されたJmjd3遺伝子ホモ改変非ヒト哺乳動物を得ることができる。
【0029】
Jmjd3遺伝子をホモで欠損すると、致死的であるが、胚又は胎児の段階のJmjd3遺伝子ホモ改変非ヒト哺乳動物から採取した細胞又は組織を他の非ヒト哺乳動物に生体移植することにより、正常細胞又は組織の一部又は全部がJmjd3遺伝子ホモ改変細胞で置換されたJmjd3遺伝子改変キメラ非ヒト哺乳動物を作製することができる。例えば、胚又は胎児の段階のJmjd3遺伝子ホモ改変非ヒト哺乳動物から採取した肝細胞を、他の非ヒト哺乳動物に生体移植することにより、骨髄細胞の一部又は全部が、Jmjd3遺伝子ホモ改変非ヒト哺乳動物由来の骨髄細胞で置換されているJmjd3遺伝子改変骨髄キメラ非ヒト哺乳動物を作製することができる。
【0030】
骨髄中に、前記非ヒト哺乳動物由来のJmjd3遺伝子ホモ改変骨髄細胞を有するJmjd3遺伝子改変骨髄キメラ非ヒト哺乳動物も、本発明の1つである。このような骨髄キメラ非ヒト哺乳動物は、骨髄中にJmjd3遺伝子ホモ改変骨髄細胞(Jmjd3遺伝子が欠損した骨髄細胞)を有する。
非ヒト哺乳動物としては、上述したマウス、ラット、ウサギ、モルモット、イヌ、ブタ、ヒツジ、ヤギ等が挙げられる。これらの中でも、マウス又はラットが好ましく、マウスが最も好ましい。
【0031】
Jmjd3遺伝子改変骨髄キメラ非ヒト哺乳動物は、胚又は胎児の段階のJmjd3遺伝子ホモ改変非ヒト哺乳動物から採取した肝細胞を用いて、胎児肝細胞移植を行なうことにより作製することができる。胎児肝細胞移植は、例えば、IkappaB kinase alpha is essential for mature B cell development and function., Kaisho T, Takeda K, Tsujimura T, Kawai T, Nomura F, Terada N, Akira S., J Exp Med. 2001 Feb 19;193(4):417-26.に記載されている方法に従って行うことができる。
【0032】
骨髄キメラ非ヒト哺乳動物が得られたことは、例えば、レシピエント(移植される側の動物)として、ドナー(胎児肝細胞を採取する動物)の血液細胞表面に発現している表面マーカーと、異なる表面マーカーを発現する動物を使用することにより、容易に確認することができる。例えば、胎児肝細胞移植(骨髄移植)完了後、レシピエントから採取した血液中のレシピエント由来表面マーカーとドナー由来表面マーカーの発現の割合をそれぞれのマーカーに対する特異的抗体を用いて染色し、フローサイトメトリーを用いて解析することにより、レシピエント由来かドナー由来の細胞を区別することが出来る。ドナー由来の血液細胞が検出されたことにより、骨髄キメラ非ヒト哺乳動物が得られたことが確認できる。
【0033】
例えば、マウスであれば、胎児肝細胞移植(骨髄移植)を行う際、レシピエントには血液細胞の表面マーカーとしてCD45.1を発現するマウスを使用し、ドナー(胎児肝細胞を採取するマウス)には表面マーカーとしてCD45.2を発現するマウスを使用することが好ましい。この場合、胎児肝細胞移植(骨髄移植)完了後、血液中のCD45.1とCD45.2の発現の割合をそれぞれのマーカーに対する特異的抗体を用いて染色しフローサイトメトリーを用いて解析することによりレシピエント由来かドナー由来の細胞を区別することが出来る。実際上は、10Gyのガンマ線をレシピエントに照射することにより、ほぼ完全に骨髄由来細胞をドナー由来に置き換えることが出来る。
【0034】
本発明のJmjd3遺伝子改変非ヒト哺乳動物は、M2マクロファージへの分化に必須の分子であるJmjd3遺伝子を欠損している。また、本発明のJmjd3遺伝子改変骨髄キメラ非ヒト哺乳動物は、Jmjd3遺伝子改変骨髄細胞を有することから、Jmjd3遺伝子が改変されたマクロファージ(Jmjd3遺伝子改変マクロファージ)等のJmjd3遺伝子改変血液細胞を産生する。このためこれらの非ヒト哺乳動物は、M2マクロファージへの分化における個体レベルでのJmjd3タンパク質の機能、その作用メカニズム等の解明、M2マクロファージが関連する症状又は疾患の研究等に有用なモデル動物である。
【0035】
例えば、本発明のJmjd3遺伝子改変非ヒト哺乳動物又はJmjd3遺伝子改変骨髄キメラ非ヒト哺乳動物に種々の候補物質を投与し、非投与群の動物又は対照物質投与動物におけるM2マクロファージ及び/又はM2マクロファージのマーカーの発現、又はJmjd3タンパク質及び/又はJmjd3タンパク質標的分子の活性の変化を比較することにより、M2マクロファージの制御に有用な物質を評価することができる。評価の代表例として候補物質のスクリーニングを挙げることができる。このような、(I)本発明の非ヒト哺乳動物に候補物質を投与する工程、(II)(a)該非ヒト哺乳動物におけるM2マクロファージ及び/又はM2マクロファージのマーカーの発現、又は(b)Jmjd3タンパク質及び/又はJmjd3タンパク質標的分子の活性をモニターする工程、及び(III)候補物質を投与しない場合と比較して、工程(II)において(a)M2マクロファージ及び/又はM2マクロファージのマーカーの発現の上昇が検出された、又は(b)Jmjd3タンパク質若及び/又はJmjd3タンパク質標的分子の活性上昇が検出された候補物質を選択する工程を含むスクリーニング方法も、本発明の1つである。
【0036】
M2マクロファージの発現は、通常、マンノース受容体の細胞表面における発現により確認することができる。また、M2マクロファージの発現、つまりマクロファージのM2マクロファージへの分化は、通常、定量PCRやフローサイトメトリーにより検出できる。M2マクロファージのマーカーとしては、例えば、M2マクロファージの発現において高発現することが知られているマーカー分子、例えば、アルギナーゼ1、キチナーゼ様Ym1(Chi313)、炎症帯1におけるfound(Fizzl、Retnlaとしても知られる)、マンノース受容体(MR、CD206としても知られる)、誘導性NOシンターゼ(iNOS)、インターロイキン4(IL4)、インターロイキン13(IL13)、エオタキシン2等の1種又は2種以上が好適である。マーカーの発現は、これらのマーカーの遺伝子、例えばmRNA等の発現量を調べればよい。遺伝子の発現の測定方法は特に限定されない。例えば、定量PCRにより行うことができる。また、これらの遺伝子発現を測定するためのPCRプライマーやキットが市販されており、該市販品を使用して遺伝子発現を測定することもできる。
【0037】
Jmjd3タンパク質の活性としては、ヒストン3の27残基目のリジン(H3K27)の脱メチル化酵素活性が挙げられる。Jmjd3タンパク質の脱メチル化酵素活性は、通常、トリメチルH3K27の細胞内量を測定することにより確認することができる。トリメチルH3K27の細胞内量は、例えば、実施例に記載されているようにクロマチンの免疫沈降−シークエンシング(ChIP-seq)及びそのデータの解析により測定することができる。また、前記スクリーニング方法においては、Jmjd3タンパク質の活性として、Jmjd3遺伝子の発現量(例えばJmjd3遺伝子のmRNA等の発現量)を測定することもできる。遺伝子の発現量の測定は、公知の方法、例えば、定量PCRにより行うことができる。
【0038】
Jmjd3タンパク質標的分子としては、Jmjd3タンパク質により活性化又は不活化される遺伝子、タンパク質等が挙げられる。Jmjd3タンパク質標的分子は、好ましくは、IFN調節因子4(IRF4)の遺伝子、C/ebpb(CCAAT/エンハンサー結合タンパク質β)遺伝子等である。
例えば、IFN調節因子4(IRF4)の遺伝子等の活性は、該遺伝子(mRNA等)の発現量又は該遺伝子にコードされるタンパク質の活性を測定することにより確認することができる。遺伝子の発現量の測定は、公知の方法、例えば、定量PCRにより行うことができる。IFN調節因子4(IRF4)やC/ebpbの活性は、DNAプローブとの結合測定などにより測定できる。
【0039】
前記スクリーニング方法は、M2マクロファージの分化促進剤のスクリーニング方法として好適に使用される。例えば、ある候補物質を投与した場合に、該候補物質を投与しない場合に比べて、(a)M2マクロファージ及び/又はM2マクロファージのマーカーの発現の上昇、及び(b)Jmjd3タンパク質及び/又はJmjd3タンパク質標的分子の活性上昇の(a)及び(b)のいずれか又は両方が検出される場合には、用いた候補物質をM2マクロファージへの分化促進剤として選択することができる。
【0040】
M2マクロファージは、寄生虫感染への抵抗性、創傷治癒促進、動脈硬化、抗アレルギー、腫瘍形成等に関与する。M2マクロファージへの分化を促進する物質は、寄生虫感染応答促進、創傷治癒促進、アレルギーの予防又は治療等に有用である。これに対し、M2マクロファージ分化を抑制する物質は、抗腫瘍効果を持つ可能性がある。このため、前記スクリーニング方法は、寄生虫感染、創傷治癒、アレルギー等のための医薬のスクリーニング方法等として好適に使用される。
【0041】
本発明における候補物質としては、例えば、核酸、ペプチド、タンパク、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、細胞培養上清、植物抽出液、哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ブタ、ウシ、ヒツジ、サル、ヒト等)の組織抽出液、血漿等が挙げられる。候補物質は、新規な物質であってもよいし、公知の物質であってもよい。これら候補物質は塩を形成していてもよく、候補物質の塩としては、生理学的に許容される酸や塩基との塩が用いられる。
【0042】
非ヒト哺乳動物に候補物質を投与する方法としては、例えば、経口投与、静脈注射、塗布、皮下投与、皮内投与、腹腔投与等が用いられ、候補物質の性質等にあわせて適宜選択することができる。また、候補物質の投与量は、投与方法、候補物質の性質等にあわせて適宜選択することができる。
【0043】
Jmjd3遺伝子改変非ヒト哺乳動物及びJmjd3遺伝子改変骨髄キメラ非ヒト哺乳動物由来の細胞は、Jmjd3遺伝子が改変されている細胞であり、例えば、脾臓細胞、骨髄細胞、及び該骨髄細胞又は脾臓細胞由来の血液細胞等は、M2マクロファージ関連疾患の研究に好適に用いられるものである。
このような、前記非ヒト哺乳動物由来し、Jmjd3遺伝子が改変されている骨髄細胞も、本発明の1つである。
【0044】
Jmjd3遺伝子改変非ヒト哺乳動物由来の骨髄細胞は、例えば、前記Jmjd3遺伝子改変骨髄キメラ非ヒト哺乳動物から骨髄細胞を採取することにより、Jmjd3遺伝子ホモ改変骨髄細胞を得ることができる。Jmjd3遺伝子改変骨髄キメラ非ヒト哺乳動物から骨髄細胞を採取する方法は特に限定されず、通常の方法により該非哺乳動物から骨髄液を採取することにより行うことができる。採取したJmjd3遺伝子改変骨髄細胞を適当な培地で培養することにより、前記骨髄細胞からJmjd3遺伝子改変マクロファージを誘導することができる。このような骨髄細胞由来のJmjd3遺伝子改変マクロファージも、本発明に包含される。Jmjd3遺伝子改変マクロファージは、好ましくは、Jmjd3遺伝子ホモ改変マクロファージである。マクロファージにおいてJmjd3遺伝子が改変されていることは、公知の方法、例えば、マクロファージから抽出した遺伝子を用いて、PCRを行なうことにより容易に確認できる。
【0045】
In vitroで骨髄細胞からJmjd3遺伝子改変マクロファージを誘導する方法は特に限定されないが、通常、Sequential control of Toll-like receptor-dependent responses by IRAK1 and IRAK2., Kawagoe T, Sato S, Matsushita K, Kato H, Matsui K, Kumagai Y, Saitoh T, Kawai T, Takeuchi O, Akira S., Nat Immunol. 2008 Jun;9(6):684-91.に記載の方法に従って行うことができる。
【0046】
Jmjd3遺伝子改変マクロファージは、前記Jmjd3遺伝子改変非ヒト哺乳動物及びJmjd3遺伝子改変骨髄キメラ非ヒト哺乳動物から直接取得することもできる。
Jmjd3遺伝子改変非ヒト哺乳動物及びJmjd3遺伝子改変骨髄キメラ非ヒト哺乳動物から該マクロファージを採取する場合には、通常、腹腔洗浄や脾細胞から容易に採取することができる。Jmjd3遺伝子改変骨髄キメラ非ヒト哺乳動物、又はJmjd3遺伝子改変非ヒト哺乳動物由来のJmjd3遺伝子改変マクロファージも、本発明の1つである。
【0047】
例えば、Jmjd3遺伝子改変骨髄キメラ非ヒト哺乳動物、又は胚又は胎児の段階のJmjd3遺伝子ホモ改変非ヒト哺乳動物から採取した脾臓細胞を適当な条件で培養することにより、Jmjd3遺伝子改変マクロファージを誘導することができる。脾臓細胞からマクロファージへの誘導は、例えば、脾臓細胞をM-CSF存在下に5日間培養することによりマクロファージを誘導することが出来る。
【0048】
前記Jmjd3遺伝子改変マクロファージ等の細胞も、M2マクロファージへの分化におけるJmjd3タンパク質の機能、その作用メカニズム等の解明、M2マクロファージが関連する症状又は疾患に関する種々の研究、スクリーニング系等に有用である。
【0049】
例えば、ある候補物質をJmjd3遺伝子改変マクロファージに接触させた場合に、該候補物質を接触させない場合に比べて、該Jmjd3遺伝子改変マクロファージのM2マクロファージへの分化、M2マクロファージのマーカーの発現、又はJmjd3遺伝子改変マクロファージにおけるJmjd3タンパク質若しくはJmjd3タンパク質標的分子の活性のいずれか1つ又は2以上が上昇する場合には、用いた候補物質をM2マクロファージへの分化促進剤として選択することができる。このような、(I)Jmjd3遺伝子改変マクロファージに候補物質を接触させる工程、(II)(a)Jmjd3遺伝子改変マクロファージのM2マクロファージへの分化、(b)M2マクロファージのマーカーの発現、又は(c)Jmjd3遺伝子改変マクロファージにおけるJmjd3タンパク質及び/又はJmjd3タンパク質標的分子の活性をモニターする工程、及び(III)候補物質を接触させない場合と比較して、工程(II)において(a)M2マクロファージへの分化が誘導された、(b)M2マクロファージのマーカーの発現の上昇が検出された、又は(c)Jmjd3タンパク質及び/又はJmjd3タンパク質標的分子の活性上昇が検出された候補物質を選択する工程を含むM2マクロファージの分化促進剤のスクリーニング方法も、本発明の1つである。このようなスクリーニング方法により、寄生虫感染、創傷、アレルギー等の治療剤等として有用なM2マクロファージの分化促進剤をスクリーニングすることができる。
【0050】
Jmjd3遺伝子改変マクロファージのM2マクロファージへの分化は、通常、定量PCRやフローサイトメトリーにより検出できる。M2マクロファージのマーカー及びJmjd3タンパク質標的分子は、前記と同様である。
【0051】
候補物質をJmjd3遺伝子改変マクロファージに接触させる方法として、前記非ヒト哺乳動物に候補物質を投与する方法、in vitroでJmjd3遺伝子改変マクロファージに候補物質を添加する方法等が挙げられる。上記スクリーニング方法においては、候補物質の接触により、候補物質を接触させない場合と比較して、(a)M2マクロファージへの分化誘導、(b)M2マクロファージのマーカーの発現の上昇、及び(c)Jmjd3遺伝子改変マクロファージにおけるJmjd3タンパク質及び/又はJmjd3タンパク質標的分子の活性上昇のいずれか1つ又は2以上が検出された候補物質を、M2マクロファージの分化促進剤として選択すればよい。候補物質は特に限定されず、上述した候補物質等を使用できる。
【0052】
Jmjd3タンパク質は、M2マクロファージの分化に必須の分子であることから、Jmjd3タンパク質又はJmjd3遺伝子を用いても、M2マクロファージへの分化を制御する物質をスクリーニングすることができる。
(I)in vitro又は非ヒト哺乳動物中でJmjd3遺伝子及び/又はJmjd3タンパク質に候補物質を接触させる工程、(II)Jmjd3遺伝子発現及び/又はJmjd3タンパク質の脱メチル化酵素活性の変化をモニターする工程、及び(III)候補物質を接触させない場合と比較して、工程(II)においてJmjd3遺伝子発現及び/又は脱メチル化酵素活性の変化が検出された候補物質を選択する工程を含むM2マクロファージの分化を制御する物質のスクリーニング方法も、本発明の1つである。
【0053】
例えば、ある候補物質をJmjd3遺伝子及び/又はJmjd3タンパク質に接触させた場合に、該候補物質を接触させない場合と比較して、該Jmjd3遺伝子発現及びJmjd3タンパク質の脱メチル化酵素活性のいずれか又は両方が抑制される場合には、用いた候補物質をM2マクロファージへの分化抑制剤として選択することができる。
M2マクロファージの分化を抑制する作用を有する物質は、癌の転移抑制や、動脈硬化、メタボリックシンドローム等の疾患又は症状の予防、改善又は治療に有用である。
【0054】
また、ある候補物質をJmjd3遺伝子発現及び/又はJmjd3タンパク質に接触させた場合に、該候補物質を接触させない場合と比較して、該Jmjd3遺伝子発現及びJmjd3タンパク質の脱メチル化酵素活性のいずれか又は両方が上昇する場合には、用いた候補物質をM2マクロファージへの分化促進剤として選択することができる。
【0055】
候補物質をJmjd3遺伝子又はJmjd3タンパク質に接触させる方法として、非ヒト哺乳動物に候補物質を投与する方法、in vitroでJmjd3遺伝子及び/又はJmjd3タンパク質に候補物質を添加する方法等が挙げられる。
【0056】
前記Jmjd3タンパク質又はJmjd3遺伝子を用いるスクリーニング方法において用いられる非ヒト哺乳動物は、Jmjd3遺伝子及び/又はJmjd3タンパク質を有する非ヒト哺乳動物が好ましく、正常非ヒト哺乳動物を用いることができる。好ましくは、ラット又はマウスであり、より好ましくはマウスである。
【0057】
In vitroの方法において用いられるJmjd3タンパク質は、哺乳動物から単離・精製することにより得られる。また、Zc3h12a is an RNase essential for controlling immune responses by regulating mRNA decay., Matsushita K, Takeuchi O, Standley DM, Kumagai Y, Kawagoe T, Miyake T, Satoh T, Kato H, Tsujimura T, Nakamura H, Akira S., Nature. 2009 Apr 30;458(7242):1185-90.に記載の方法に従って、ベクターに導入したJmjd3遺伝子を宿主細胞に導入して発現させることによりJmjd3タンパク質を有する細胞を得ることができる。Jmjd3タンパク質の精製は、公知の方法により行うことができる。
Jmjd3タンパク質の発現を測定する方法は特に限定されず、例えば、ウェスタンブロットの方法により測定することができる。
【0058】
本発明の非ヒト哺乳動物、該非ヒト哺乳動物由来のJmjd3遺伝子改変マクロファージ、及びスクリーニング方法等を使用することにより、M2マクロファージへの分化を制御する物質を選択することができる。M2マクロファージへの分化を促進する物質は、寄生虫感染応答、創傷治癒促進、アレルギーの予防又は治療等に有用である。Jmjd3遺伝子発現及び/又はJmjd3タンパク質の脱メチル化酵素活性を抑制してM2マクロファージの分化を抑制する物質は、癌(例えば、大腸癌、肺癌等)の転移の抑制、動脈硬化等の治療に有用である。
スクリーニング方法により選択された物質は、他の成分と混合等して医薬等とすることができる。
【実施例】
【0059】
I. 実験方法
(i) Jmjd3-/-マウス(Jmjd3遺伝子ホモ改変マウス)の作製
jmjd3遺伝子は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、ES細胞(GSI-I)より抽出されたゲノムDNAから単離された。ターゲティングベクターはネオマイシン耐性遺伝子カセット(neo)を用いて、Jmjd3のORF(JmjC 領域コードするエクソンを含むエクソン14-21)をコードする4kbフラグメントを置換することにより構築し、PGKプロモーターによって誘導される単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼは、ネガティブセレクションのためにゲノム断片に挿入された。
【0060】
ターゲティングベクターをES細胞にトランフェクトした後、G418とガンシクロビルの両耐性コロニーをポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって選択し、スクリーニングした。さらに遺伝子組み換えはサザンブロット法によって確かめられた。これらの相同組み換えクローンは、C57BL/6マウスから生成された胚盤胞に、個別にマイクロインジェクトされ、偽妊娠した雌に移殖された。雄のキメラマウスをC57BL/6の雌のマウスへ交配することで、生殖細胞系列へ変異対立遺伝子を伝達した。そして、作製したJmjd3+/-マウスを異系交配(インタークロス)させ、Jmjd3-/-マウスを作製した。これらの動物実験は全て、微生物病研究所の動物実験委員会の許可を得て行われた。なお、実施例中のJmjd3遺伝子は、すべてマウスJmjd3遺伝子である。
【0061】
(ii) マウス、細胞及び試薬
Irf4-/-マウスは先行研究に記述されている方法で作製した(Honma, K. et al. Proc Natl Acad Sci U S A 102, 16001-16006 (2005))。BM(骨髄細胞)誘導マクロファージは、10%のFCS、50μMの2‐メルカプトエタノール及び10ng/ml のGM-CSF (ペプロテック社)又は10ng/ml M‐CSF (ペプロテック社)を含むRPMI1640培地で生成された。Pam3CSK4とR‐848は以前記載した方法(Pam はTakeuchi O et al., J Immunol. 2002 Jul 1;169(1):10-4、R-848はHemmi H et al., Nat Immunol. 2002 Feb;3(2):196-200)で作製された。LPS (Salmonella minnesota Re595)は、シグマ社から購入した。CpG‐DNA(ODN1668)はインビトロジェン社にて合成された。
【0062】
(iii) BM(骨髄細胞)キメラマウスの作製
胎児肝細胞移植を行ない、BMキメラマウスを作製した。胎児肝移植を行う際、レシピエント(移植される側)には血液細胞の表面マーカーとしてCD45.1を発現するマウスを使用し、ドナー(肝細胞を採取するマウス)には表面マーカーとしてCD45.2を発現するマウスを使用した。
胎児肝細胞は、野生型及びJmjd3-/-胚(e15.5)より調製した。調製した細胞懸濁液は、致死量の放射線(10Gyのガンマ線)を浴びたCD45.1 C57BL/6マウスの静脈内に注射された。得られたキメラマウスはネオマイシンとアンピシリンを含んだ飲料水を4週間与えられた。マウスは、再構成後、少なくとも8週間の間、検査された。
キメラマウスの骨髄細胞がJmjd3-/-胚由来のJmjd3-/-骨髄細胞で置換されたことは、胎児肝細胞移植完了後、血液中のCD45.1とCD45.2の発現の割合をそれぞれのマーカーに対する特異的抗体を用いて染色し、フローサイトメトリーを用いて解析することによりレシピエント由来かドナー由来の細胞を区別した。なお、実際上は、10Gyのガンマ線をレシピエントに照射後、胎児肝細胞移植を行うことにより、ほぼ完全に骨髄由来細胞をドナー由来に置き換えることが出来た。結果、キメラマウス由来の脾細胞は90%以上CD45.2陽性であった。
【0063】
(iv) 定量的なPCR分析
全RNAはTRIzol (インビトロジェン社)を用いて単離され、逆転写は使用説明書に従い、ReverTra Ace (東洋紡社)を用いて行なわれた。定量的なPCRのためには、cDNA断片は、リアルタイムPCRマスターミックス(東洋紡社)によって増幅され、それぞれのサイトカインに対するタックマンプローブ由来の蛍光は、7500リアルタイムPCRシステムで検出された。様々な刺激に応答したサイトカインのmRNAの相対的な誘導を決定するため、それぞれの遺伝子のmRNA発現レベルは、18sRNAの発現レベルに対して標準化した。実験は少なくとも2回繰り返して行った。
【0064】
(v) 免疫プロット分析
M‐BMM(マウス骨髄細胞由来マクロファージ)は、M−CSF(プロテック社)を用いず、培地中で4時間培養され、回収され、再度プレートに移された。M‐BMMは、一定時間M‐CSFで刺激され、コンプリートミニ(ロシュ社)を含んだLysis 緩衝液(20mM Tris-HCL(pH7.5),150mM NaCl, 1mM EDTA and 1% NP40)を用いて溶解された。細胞溶解物は、標準的なSDS‐PAGEで分離され、免疫ブロット法で分析された。以下のタンパクに対する抗体を使用した。
細胞シグナル伝達/リン酸化ERK(♯9101)、リン酸化ATK(#9271)、リン酸化p38(#9211)、及びAKT(#9272)、サンタクルズ/p38(#C-20)、ERK(#K-23)、及びβ−アクチン(#C-11)
【0065】
(vi) フローサイトメトリー
フローサイトメトリーのための抗体は、BD社とイーバイオサイエンス(eBioscience)社から購入した。細胞懸濁液は、篩過し、穏やかに軽くピペットで採取することにより、調製された。細胞は、氷冷FACS緩衝液(2%FCS,2mM EDTA in PBS)を用いて洗浄され、次いでそれぞれの抗体と共に15分間インキュベートされ、FACS緩衝液で2回洗浄された。細胞内のサイトカインは使用説明書に従い、Cytofix/CytopermとFixation/Permeabilizationを用いて染色された。データは、FACS Caliburフローサイトメーター(BD社)を使用して取得し、FlowJo(スリースター社)を用いて解析した。
【0066】
(vii) Jmjd3の発現プラスミドの生成
Jmjd3 cDNA(aa1141-1641に相当する)は、PCRによって、マウスのcDNAライブラリーから得られ、そして、JmjCドメインにおいてA1388H変換をもたらす点変異を、部位特異的突然変異誘発法(ストタラジーンStratagene社)により導入した。全長又は変異したJmjd3 cDNAは、レトロウイルス産生のためのpMRX-irespuroベクターにクローニングされた(Saitoh, T. et al. J Biol Chem 278, 36005-36012 (2003))。
【0067】
(viii) レトロウイルス形質導入
BM(骨髄)細胞は、5mgの5‐フルオロウラシル(ナカライテスク社)を4日前に腹腔内に注射された Jmjd3-/-マウスから単離された。細胞は、幹細胞培地(15%FCS、10 mMピルビン酸ナトリウム、2μML-グルタミン、50μM β‐メルカプトエタノール、100U/mlペニシリン、100g/mlストレプトマイシン、100 ng/ml 幹細胞因子、10 ng/ml IL-6及び10 ng/ml IL‐3が添加されたRPMI)で培養した。そして48時間後に、2連日で、これらの細胞は、レトロウイルスの上清(幹細胞因子、IL-6、 IL-3、及び10 ng/mlポリブレンを付加)で形質導入された。ウイルスは、さまざまなプラスミドでトランスフェクトしたPlatEパッケージ細胞を使用して作製された。2回目の形質導入の後、細胞は、洗浄され、マクロファージ成長培地(10%FCS、50μM β‐メルカプトエタノール、100U/mlペニシリン、100g/mlストレプトマイシン、及び20 ng/ml M‐CSFが添加されたRPMI 1640培地)に再懸濁された。3.5日の培養の後、細胞を、もう一度洗浄し、2.5μg/mlプロマイシン(インビトロジェン社)入りのマクロファージ成長培地を加えた。培地を変えてから細胞を2日培養し、分析に供した。
【0068】
(ix) キチン投与
キチン(シグマ社)は、PBS中で3回洗浄され、次いでUR-20P(トミー社)を用い氷上で30分間、超音波をかけられた。100μMの細胞濾過機で濾過した後、キチンは、50ml PBSで薄められた。約800ngのキチン溶液は、腹腔内に注入され、投与2日後、PECが集められた。
【0069】
(x) ブラジル鉤虫(N.brasiliensis)感染への応答実験
胎児肝臓転移後8週間で、野生型(WT)とJmjd3-/-胎児肝臓キメラマウスは、300 third-stage larvae N. brasiliensis (Nb)を皮下に植菌された。感染5日後、Nbを植菌したマウスは、屠殺され、PBSで環流され、肺からの全RNAが抽出された。RNAは特定の遺伝子の発現の解析のため、定量的PCRに供された。感染9日後、肺門リンパ節が採取され、単細胞懸濁液が作製され、細胞数が数えられた。リンパ節細胞はCD3及びCD28抗体で刺激された。これらはCD4で染色され、cytofix(BD)で処理され、抗IL-4及びIFN-γ抗体で染色された。そして、細胞はフローサイメトリーで分析された。BALは、Nb感染後5日及び13日に行われ、マクロファージと好酸球を、Diff-quik(バクスターヘルスケア社)で染色したサイトスピンスメア上で数えた。
【0070】
(xi) マイクロアレイ分析
TRLzol RNA分離キット(インビトロジェン社)を用いて、野生型及びJmjd3-/- M-BMMから全RNAを単離し、更にRNeasyキット(キアゲンQiagen社)を用いて精製した。ビオチニル化したcDNAは、製作者プロトコールに従って、オベイションビオチンRNA増幅及びラベリングシステム(ヌジェンNugen社)を用いて、100ngの全RNAから合成された。その生産物は、DyeEx2.0スピンキット(キアゲンQIAGEN社)を用いて精製され、断片化され、製作者プロトコール(アフィメトリックス社)に従って、アフィメトリックスマウス発現アレイA430. 2.0マイクロアレーチップにハイブリダイズされた。アフィメトリックスマウスゲノム 430 2.0マイクロアレーチップの染色、洗浄、及びスキャンは、使用説明書に従って行なわれた。ロバストマルチチップ平均(RMA)発現値は、R及びバイオコンダクターアフィパッケージを使い計算された。それぞれのプローブとして、野生型及びJmjd3-/-サンプルの間の発現の変化は、野生型及びJmjd3-/- M-BMMに対するlog2値の差異と定義された。遺伝子は、それらの対応するプローブの値を割り当てられた。遺伝子が、多くのプローブと会合している場合、平均的値が採用された。
【0071】
(xii) クロマチンの免疫沈降−シークエンシング(ChIP-seq)
M-BMM(マウス骨髄細胞由来マクロファージ)が作製され、DNAに直接クロスリンクするヒストンのため、5×106マクロファージを、10%ホルムアルデヒドで固定した。細胞は、コンプリートミニを含んだ氷冷PBSで2回洗浄され、溶解緩衝液(1%SDS、10mM EDTA、50mM Tris-HCl(PH=8.1))が加えられた。コニカルチューブに細胞を採取した後、DNA断片を得るため、超音波(トミー社 UR-20P)をかけた。断片長は150から300bpsの間にピークがあった。ヒストンH3K27me3(ミリポア社07-449)に対する抗体を、PBS/BSA 0.5%中で、80μlのダイナビーズ(ベリタス社)に一晩、予備結合させた。そして、ビーズを溶解液に添加し、一晩インキュベートした。ビーズは、1回、高塩分免疫複合体洗浄緩衝液(ミリポア社)と低塩分免疫複合体洗浄緩衝液(ミリポア社)で、7回LiCl免疫複合体洗浄緩衝液(ミリポア社)を使って、そして1回50mM NaClを含んだTEを使って洗浄された。DNAは溶出緩衝液(1%SDS 10mM EDTA, 50mM Tris-HCl(pH=8.1))を用いて溶出され、65℃で終夜インキュベートすることによって架橋を切断した。DNAは、RNase A及びProteinase K処理の後、Etachinmate(ニッポンジーン社)を用いて、エタノール沈殿によって精製された。収率は、〜100ng/5x106マクロファージであった。DNAの200 ngを、フラグメントライブラリーに使用した。P1及びP2アダプターライゲーション反応、及び、それに続く全ての手順は、SOLiD3プラスシステムフラグメントライブラリー作製プロトコールに従って行われた。各ライブラリーのためのテンプレートビーズの生成は、SOLiD 3プラスシステムテンプレートビーズ作製ガイドフルスケールのプロトコールに従って行われた。各試料は、160‐200Kビーズ/パネルのターゲットビーズ密度で、スライドの6ヶ所に置かれた。ハイスループットシークエンシングは、SOLiD 3 プラスシステムを使って行われ、50bp readsの分析が行われた。
【0072】
(xiii) クロマチン免疫沈降-シークエンシング(ChIP-Seq)データの分析
各ChIP-Seqデータセットのため、最大4つまでの不一致を有する特異的にマップされたChIP標識(タグ)が、更なる分析のため考案された。タグの場所は、それぞれのタグに対応する元のDNA断片の中心を反映させるため、それらの5’末端から+100bps単位で移動させた。
【0073】
1.M-BMM内の遺伝子の異なる領域における全体のH3K27メチル化
H3K27me3分布の全体図を得るため、転写した領域(UCSC のデータベース(Rhead, B. et al., Nucleic Acids Res 38, D613-619 (2010))、http://genome.ucsc.edu/における、genomic-wide 2007年7月mm9 RefSeq マウス遺伝子注解に基づいて)、並びに上流及び下流領域(それぞれ30kb)に対してマップされたタグを収集した。上流及び下流をそれぞれ1kbにつき30binで分け、転写領域は、同じサイズの50binに分けられた。各binに対してマップされたChIP-Seqタグを、野生型及びJmjd3-/- M-BMMの両方で数えた。試料と抗免疫沈降しなかったコントロールデータにおけるタグのカウントの比を、各binに対して計算した。
【0074】
2.ChIP-Seqデータと遺伝子発現データの相関
各遺伝子Xに対して、転写された領域内でマップされたタグの数を、ChIP-Seq実験試料及びコントロール試料それぞれ(Cmod(x)とCcontrol(x))について数えた。
ヒストンの修飾の強度は次のように計算される。
【0075】
【数1】

【0076】
上記式において、Nmod及びNcontrol、はマウスゲノムにおいて特異的にマップされたタグの総カウント数である。ヒストンの修飾と遺伝子発現の相関関係は、ピアソンの相関関係で評価した。
【0077】
なお、16,090 RefSeq遺伝子は、それらの発現の変化によって遺伝子を分類することにより、20binsにクラス分けされた。修飾の平均強度は、それぞれのbinで計算された。
【0078】
3.個別の遺伝子におけるH3K27me3状態の評価
重要なタグのピークは、1e-6の評価された偽検出率(false discovery rate、FDR)に基づいたタグカウントの閾値を使って定義された。FDRは次の方法に従って、別々にそれぞれのデータセットに対して決定された。遺伝子配列は500bpsのステップで 1kbのサイズのbinに分けられた。bin毎の実際のタグカウントの分布は、それぞれのデータセットで得られ、ランダムタグカウントの分布は、全体の遺伝子に関する実際のデータにおけるのと同じ数をランダムマッピングすることによって評価された。
【0079】
これらの二つの分布から、それぞれのタグカウントpに対してFDRは、次のように計算される。
FDRp = Rp / Op
ここで、Rpは、≧Pタグを有するランダムピークの割合を表し、Opは、≧Pタグを有する観察された(実際の)ピークの割合を表す。有意なタグのピークの閾値は、FDRが≦1e-6である最低のタグカウントとして設定された。これは、野生型及びJmjd3-/- M-BMM H3K27me3に対しては、閾値のタグカウントは18という結果になった。これらの閾地と同等又はより高いタグカウントを有するどんなbinも、有意であるとみなされた。
【0080】
遺伝子は、それらの転写開始位置の周辺領域で、野生型及びJmjd3-/- M-BMMにおけるH3K27me3に対する有意なタグピークの有無を基にクラス分けされた。各RefSeq遺伝子に対して、TSSの場所は、UCSCデータベースから取得でき、-5kbから1kb領域は、500bpsのステップで1kbのサイズのbinに分けられた。それぞれのbinに対するタグカウントが数えられた。遺伝子を、次のような3クラスに分けた。
クラス1遺伝子は、1つ又はそれ以上の有意なピークを野生型に有する。
クラス2遺伝子は、野生型及びJmjd3-/-両方に有意なピークが無い。
クラス3遺伝子は、1つ又はそれ以上の有意なピークをJmjd3-/-に有するが、野生型には有さない。
【0081】
(xiv) 統計
統計的有意性は、ステューデントのt-検定(両側)で計算された。
【0082】
II. 結果
(i) Jmjd3-/- マウスの作製
免疫応答におけるJMJD3(Jmjd3タンパク質)の機能的な役割を研究するため、Jmjd3-/- マウスを作製した(図1及び図2a)。図1は、マウスJmjd3遺伝子、ターゲティングベクター、及び標的対立遺伝子の概略図である。ターゲティングベクターは、図1に示されるように、exon14からJmjC H3K27脱メチル化酵素ドメインを含むexon21を、ネオマイシン耐性遺伝子B.BglIIで置き換えるために設計された。図2aは、ヘテロ接合体の異系交配から得られた仔のサザンブロット解析の結果を示す図である。ゲノムのDNAは、MEFsから抽出し、Bgl IIで切断し、電気泳動で分離し、図1に示された放射性同位元素で標識したプローブでハイブリダイズさせた。サザンブロットで野生型(+/+)では7.0kbバンドが、ホモ接合体(-/-)では5.2kbバンドが、そしてヘテロ接合体(+/‐)マウスでは両方のバンドが検出された。逆転写(RT)-PCR分析は、Jmjd3の発現が、Jmjd3-/-マウスの胎児線維芽細胞では無くなっていることを示した(図2b)。図2bは、一定時間におけるLPS(1μg/ml)で刺激した野生型(WT) 及びJmjd3-/-MEFs由来のRNAのRT−PCR解析結果を示す図である。RNAは、Jmjd3 mRNAの発現を調べるためにRT-PCR分析に供された。β−アクチン遺伝子の発現は、同じRNAを使って分析された。Jmjd3-/-マウスは、周産期死亡を示し、成熟Jmjd3-/-マウスは得られなかった(表1)。表1に、ヘテロ接合体の異系交配から得られた生存新生児の遺伝子型解析を示す。
【0083】
【表1】

【0084】
組織学的検査から、肺胞細胞壁が組織で厚くなり、気腔がJmjd3-/-の新生肺ではほとんど観察されないことが明らかになり (図3(b))、これはJmjd3-/-マウスが、肺組織の早期発達のために出生後致死表現型を示すことを示唆していた。図3(a)及び(b)はそれぞれ、野生型 (WT)及びJmjd3-/-マウスの肺部分のH&E染色を示す図である。データは、3個体のマウスの肺のうちの典型例である。造血細胞中のJmjd3-/-の役割を分析するために、Jmjd3-/- e15.5胚から胎児肝細胞を入手し、BMキメラマウス(以下、Jmjd3-/-キメラ又はJmjd3-/-BMキメラともいう)を確立した。フローサイトメトリーによる分析では、脾臓で、T 細胞、B 細胞、標準樹状細胞(DCs)、形質細胞様樹状細胞、ナチュラルキラー細胞、好中球、F4/80+CD11b+ マクロファージ及びLy6chighCD11b+炎症性単球の割合は、野生型とJmjd3-/-キメラの間で同程度であることが明らかとなった。マイトジェン及び抗原受容体刺激に対する脾臓のT及びB細胞の増殖反応もまた変化した。さらに、Th1 及びTh2条件下培養した脾臓のT細胞は、T細胞受容体(TCR)刺激に応答して、IFN-γ及び IL-4をそれぞれ同程度に産生した。これらの結果は、Jmjd3欠損T細胞は、サイトカインに応答してTh1 及びTh2細胞に分化する能力を持っていることを示すものである。
【0085】
(ii) Jmjd3は生体内におけるM1マクロファージの活性化及び動員に必須ではない。
Jmjd3は、マクロファージにおけるTLR誘導遺伝子であるため、まず、リポペプチド(Pam3CSK4; 活性化TLR2)、リポ多糖類(LPS; TLR4)、イミダゾキノリン類縁体(R-848; TLR7)及びCpGモチーフを有するオリゴヌクレオチド(CpG-DNA; TLR9)を含むTLR リガンドに対する、内在性及びチオグリコール酸誘発腹腔滲出細胞(PEC)のサイトカイン産生を調べた。TLRリガンドに応答してTNF 及びIL-6の産生は、野生型並びに内在性及びチオグリコール酸誘発腹腔滲出細胞(PEC)の間で変化しなかった(図4a及び図4b)。野生型及びJmjd3-/-キメラからペプトン処理によって誘発された腹腔滲出細胞(PEC)もまた、TLRリガンド刺激によってTNF 及びIL-6を同程度に産生した。図4a〜図4d中、「med」は、TLRリガンドを添加しなかったコントロールであり、「N.D.」は、サイトカインの産生が検出されなかったことを意味する。また、黒はWTであり、白はJmjd3-/-である。
【0086】
フローサイトメトリーで、内在性及びチオグリコール酸誘発腹腔滲出細胞(PEC)におけるCD11b+F4/80+Gr1-マクロファージの比率は、野生型及びJmjd3-/-キメラの間で変化がないことが明らかとなった(図4c)。常在(内在)性のマクロファージ、チオグリコール酸誘発マクロファージ及びペプトン誘発マクロファージの総数は、Jmjd3-/-キメラで変化がなかった(図4c)。
【0087】
そこで、リステリア菌(Listeria monocytogenes)感染への応答におけるM1マクロファージへの分化におけるJMJD3の役割を調べた。リステリア菌が腹腔内に接種された場合、血清中の炎症反応を促進するサイトカイン、TNF、IL-6、IFN-γ 及びIL-12p40の産生は、野生型及びJmjd3-/-キメラで同程度であった(図7(a)〜(d))。図7(a)〜(d)は、WT及びJmjd3-/- キメラにリステリア菌を感染させ、一定時間後血清中のTNF、IL-6、IFN-γ 及びIL-12p40 濃度を ELISAで決定した結果である。図7(a)は、TNF、図7(b)は、IFN-γ、図7(c)は、IL-6、図7(d)は、IL-12である。図7(a)〜図7(d)において、黒四角はWTであり、白丸はJmjd3-/-キメラである。
【0088】
F4/80+CD11b+Gr1+マクロファージ、F4/80intCD11b+Gr1high好中球並びにF4/80-CD11bintB220+ 及びF4/80-CD11b-B220+ B細胞が、リステリア菌感染マウスから調製された腹腔滲出細胞(PEC)内に観測された。腹腔に動員されたマクロファージの数は、野生型及びJmjd3-/-キメラで同程度であった(図5(a)〜(c)及び図6(a)〜(d))。図5は、刺激なし(図5(a))、チオグリコール酸(図5(b))又はリステリア菌(図5(c))で処理した3日後にWT及びJmjd3-/- キメラからPECを採取し、次いで細胞を抗-CD11b及び F4/80抗体で染色し、フローサイトメトリーで分析した結果を示す図である。図5(a)は、常在マクロファージ、図5(b)はチオグリコール酸誘導マクロファージ、図5(c)は、リステリア菌感染後24時間におけるマクロファージ、図5(d)は、リステリア菌感染後48時間におけるマクロファージである。
図6(a)〜(d)は、刺激なし(図6(a))、チオグリコール酸(図6(b))又はリステリア菌(図6(c)及び6(d))で処理した3日にWT及びJmjd3-/- キメラから採取されたPEC 中のF4/80+CD11b+ マクロファージ の数を調べた結果を示す図である。図6(a)は、常在マクロファージであり、図6(b)は、チオグリコール酸誘導マクロファージであり、図6(c)は、リステリア菌感染24時間後のマクロファージ、図6(d)は、リステリア菌感染48時間後のマクロファージである。
【0089】
さらに、腹腔滲出細胞(PEC)内でTNF、IL6、IL12p40及びiNOS(誘導性NOシンターゼ)遺伝子をコードしている遺伝子の発現は、同等に亢進されていた(図8(a)〜(d))。図8(a)〜(d)は、リステリア菌を感染させたマウスのPECにおけるTnf、Il6、Il12b及びNos2の発現を調べた結果をQ-PCR 分析で調べた結果を示す図である。図8(a)は、TNF、図8(b)は、iNOS、図8(c)は、IL-6、図8(d)は、IL-12p40である。
これらの図4〜図8の結果をまとめると、これらのデータは、JMJD3(Jmjd3タンパク質)は、炎症剤や生体内での細菌感染への応答におけるM1マクロファージの生成及び動員には関与していないことを示唆するものである。なお、図4a、図4b、図7〜8における結果は、2つの独立した試験の代表例であり、図4c、図4d、図5〜6における結果は、4つの独立した試験の代表例である。図4(a)〜(d)及び図6〜8中のエラーバーは、標準偏差である。
【0090】
(iii) 生体内キチン投与に応答したM2への分化におけるJmjd3の主要な役割
キチンは重合した糖であり、寄生虫、節足動物及びカビの構成成分である(Bowman, S.M. & Free, S.J., Bioessays 28, 799-808 (2006))。キチン投与は、投与部位にM2の性質を有するマクロファージを呼び寄せることが示されており、このことは、それに続く好酸球の動員にも重要である(Reese, T.A. et al., Nature 447, 92-96 (2007) 及びKreider, T. et al., Curr Opin Immunol 19, 448-453 (2007))。実際、キチンの腹腔内投与は、F4/80+CD11b+マクロファージ(図9(a)及び図9(b))、Siglec-F+CCR3+CD4-好酸球及びCD11bintB220+ B細胞を野生型マウスでは48時間後に腹腔に動員した(図9(c)及び図9(d))。それに対し、好酸球及びB細胞の動員は、Jmjd3-/-キメラでは、大きく損なわれていた(図9(c)、図9(d)及び図10b)。キチン誘発F4/80+CD11b+マクロファージの数は、同程度であったが(図10a)、MR(マンノース受容体。CD206としても知られる)の発現は、Jmjd3-/-キメラでは、大きく損なわれていた(図12)。キチン誘発マクロファージは、好酸球又はB細胞ではそうではないのであるが、M2マクロファージの特徴であるアルギナーゼ−1(Arginase-1)、Ym1(キチナーゼ様Ym1(Chi313))、Fizz1(炎症帯1におけるfound。Retnlaとしても知られる))及び MRをコードしているmRNAを高レベルで発現していた。アルギナーゼ−1、Ym1、Fizz1 及び MRをコードしている遺伝子の発現は、Jmjd3-/-キメラから得られたキチン誘発腹腔滲出細胞(PEC)では、野生型対照に比べて有意に低いが、一方で、iNOSをコードしている遺伝子の発現は、変化していなかった(図13(a)〜(e))。注目すべきは、血液中を循環している好酸球は、野生型及びJmjd3-/-キメラマウスで同程度観察されたことで、好酸球の成長はJmjd3-/-の不足によっては、大きくは損なわれないことを示唆している(データは示さず)。これらを基に考えると、Jmjd3は、キチン投与に対する応答において、M2マクロファージへの分化に重要である。
【0091】
図9は、キチンを腹膜に注入した2日後のWT及びJmjd3-/- キメラマウスから採取したPECをCD11b及びF4/80(図9(a) 及び図9(b))、又はCD11b及び Siglec-F(図9(c)及び図9(d))で染色し、フローサイトメトリーにより分析した結果を示す図である。図9(a)及び図9(c)は野生型(WT)であり、図9(b)及び図9(d)は、Jmjd3-/-である。
図13において、*p < 0.05及び **p < 0.01 (two-tailed Student's t-test)である。図9〜13に示される結果は、5 (図9〜10)、2(図11) 又は3(図12及び13) の独立した試験の代表例である。図10a、図10b及び図13(a)〜(e) 中のエラーバーは、標準偏差である。
【0092】
(iv)マウスにおけるブラジル鉤虫(Nippostrongylus brasiliensis)感染に応答した肺病理学に関するJmjd3の主要な役割
次に、JMJD3 が生体内での寄生虫感染に対する応答の一因であるかどうかを調べた。ブラジル鉤虫(N. brasiliensis (Nb))感染モデルを用いたが、これは、肺において強い2型免疫応答を誘導するものである。感染後5日又は13日での気管支肺胞洗浄(BAL)染色は、マクロファージが野生型とJmjd3-/-BMキメラにおいて、同程度肺へ動員されていることを明らかにした(図14(a):野生型マウス、図14(b):Jmjd3-/-キメラマウス)。図14(a)及び図14(b)は、Nb感染13日後にWT 及びJmjd3-/-キメラマウスから BAL液を抽出し、マクロファージ及び好酸球をDiff-quik で染色されたサイトスピンスメル上で計測した結果を示す図である(図14(a):野生型(WT)、図14(b):Jmjd3-/-キメラマウス)。しかしながら、好酸球の動員は、Jmjd3-/-キメラマウスでは大きく損なわれていた(図15(a)〜(b))。図15(a)〜(b)において、黒はWTであり、白はJmjd3-/-キメラである。
【0093】
動員されたマクロファージの性質を調べるため、Nb感染後5日の肺組織からRNAを抽出した。アルギナーゼ−1、 Ym1、Fizz1、及びMRなどのM2マーカーの発現は、Jmjd3-/-キメラではほとんど誘導されなかった(図16(a)〜(h))。図16中、四角はコントロール(黒は野生型(WT)、白はJmjd3-/-キメラ)であり、丸はNB感染マウス(黒は野生型(WT)、白はJmjd3-/-キメラ)である。さらに、Th2を誘導するサイトカイン、IL-4及びIL-13と同様に、好酸球を動員するケモカイン、エオタキシン2をコードする遺伝子の誘導は、Jmjd3-/-キメラマウスでは大きく損なわれていた(図16)。図16(a)−(h)は、Nb 植菌5日後、感染及び非感染WT、並びに感染及び非感染Jmjd3-/-キメラそれぞれから調製された全RNA中の、特定のタンパク質をコードする mRNAの発現レベルを示す図である。図16(a)はアルギナーゼ1、図16(b)はYm1、図16(c)はFizz1、図16(d)はMR、図16(e)はiNOS、図16(f)はIL-4、図16(g)はIL-13、図16(h)はエオタキシンを、それぞれコードするmRNAの発現レベルである。
図14及び図15は、1群あたり4匹のマウスを用いた2回の試験の代表的な結果であり、図16は、1群あたり7匹のマウスを用いた1回の試験の結果である。図15中のエラーバーは、標準偏差である。
【0094】
Nb感染後9日の肺リンパ節におけるT細胞の活性化を調べた。Nb感染9日後、WT 及びJmjd3-/- キメラから採取した肺門リンパ節細胞をCD3及び CD28で4時間刺激し、抗-CD4、 CD8、IL-4及びIFN-γで染色した。T 細胞における細胞内IL-4及びIFN-γ染色の代表的な結果を図17に示す。また、Nb 感染9日後の肺門におけるIL-4産生細胞の数を、図18に示す(*p < 0.05及び**p < 0.01 (two-tailed Student's t-test))。野生型肺リンパ節から調製されたCD4+ T細胞は、IL-4を発現していたが、IFN-γは発現しておらず、IL-4を産生する CD4+ T細胞の頻度は、Jmjd3-/-キメラマウスから調製された肺のT細胞では大きく損なわれており、このことは、Jmjd3が媒介するM2マクロファージの活性化が、肺においてTh2応答を誘導するNbに重要であることを示唆していた(図17及び図18)。しかしながら、腸における組織学的変化は、Jmjd3-/-キメラマウスで、大きく損なわれてはいない(データは示さず)。
図17及び図18は、5匹のマウスを用いた1回の試験の結果である。図18中のエラーバーは、標準偏差である。
図14〜18の結果から、Jmjd3が小腸ではなく、肺において、M2マクロファージへの分化を指揮することによって寄生虫感染への免疫応答の開始に必須であることが明確に示された。
【0095】
(v)BM細胞でのM-CSFへの応答におけるM2マクロファージ生成に関するJmjd3の役割
GM-CSF 及びM-CSFが、BM細胞から、それぞれM1 及びM2マクロファージを誘導することが多数報告されている(Verreck, F.A. et al., Proc Natl Acad Sci U S A 101, 4560-4565 (2004)、Martinez, F.O. et al., J Immunol 177, 7303-7311 (2006)、Fleetwood, A.J. et al., J Immunol 178, 5245-5252 (2007)、Fleetwood, A.J. et al., J Leukoc Biol 86, 411-421 (2009))。GM-CSFが、マクロファージを生成するのに使われる場合、接着性のCD11b+マクロファージ(GM-BMM) に由来するTLRリガンドへの応答におけるTNF及びIL-6の産生は、野生型及びJmjd3-/-キメラマウスの間で同程度であった(図19a及び図19b)。一方、TLRリガンド 刺激に対するIL-6(TNFではない)の産生はM-CSF (M-BMM)の存在下で培養されたJmjd3-/- BMMにおいて部分的に損なわれていた(図19c及び図19d)。図19a〜dにおいて、黒はWTであり、白はJmjd3-/-キメラである。さらに、アルギナーゼ−1、Ym1、Fizz1、MR 及びIL-13をコードする遺伝子の発現は、Jmjd3-/-キメラ由来のB-BMMにおいて大きく損なわれていたが(図20(a)〜(d))、このことは、Jmjd3がM-BMMにおいてM2マーカーの遺伝子発現に対して重要であることを示している。JMJD3がIL-4刺激に対するマクロファージの応答に関与していることを示す報告がある(Ishii, M. et al., Blood 114, 3244-3254 (2009))。それにもかかわらず、アルギナーゼ−1 及びFizz1遺伝子発現は、野生型及びJmjd3-/- M-BMMの間でIL-4刺激に関して同程度であった(図 21(a):アルギナーゼ1、図21(b):Fizz1)。図21(a)〜(b)において、黒はWTであり、白はJmjd3-/-キメラである。
【0096】
このことは、IL-4への応答が、Jmjd3-/- M-BMMにおいて損なわれていないことを示唆する。そこで、LPS刺激の有無による野生型及びJmjd3-/- M-BMMにおける遺伝子発現のプロファイルをマイクロアレイ分析で調べた。1371個の遺伝子の発現が、野生型と比べて非刺激Jmjd3-/- M-BMMで2倍より多く減少していた。Arg1、Chi3l3及びRetnlaに加えて、Ccl1、Ccl17、Ccl22及びCcl24のようなケモカイン遺伝子、並びに、Il2、IL3、Il4、IL5及びIl13などのサイトカイン遺伝子の発現が、Jmjd3-/- M-BMMで大きく損なわれていた。2188の誘導された遺伝子の発現が、LPS刺激への応答において野生型BMMで2倍より多く増加しており、LPS刺激Jmjd3-/- M-BMMにおいては436遺伝子について2倍より多く減少していた。例えば、Il6及びIl12bの発現は、Jmjd3-/- M-BMMにおいて部分的に損なわれており、このことは、以前の報告と一致していた。したがって、Jmjd3は一連の遺伝子の発現を誘導するのに重要であり、Jmjd3の存在によって制御される遺伝子の中にはM-BMMにおけるM2マクロファージへの分化に関連するものがある。
【0097】
JMJD3は、JmjCドメインに加えて、N末端にテトラトリコペプチド反復と推定されるドメインを含んでいる。JmjCドメイン(aa 1141-1641)を含むJMJD3のC末端部分又はその鉄結合欠損変異体(A1388H)をレトロウイルスによってJmjd3-/- BM細胞で発現させ、M-BMMを誘導した(図22)。図22における空ベクターは、コントロールである。A1388H突然変異体(ΔFe2+結合欠損変異体)はJMJD3のH3K27脱メチル化酵素活性を失うことが示されている(De Santa, F. et al., Cell 130, 1083-1094 (2007))。野生型JMJD3 (aa 1141-1641)又はその鉄結合欠損変異体(ΔFe2+結合欠損変異体)を発現するレトロウイルスを感染させたBM から生成したJmjd3-/- M-BMMから全RNAを調製してマーカー遺伝子(アルギナーゼ1、Ym1及びMR)の発現を調べた。結果を図23(a)〜(c)に示す。図23(a)は、アルギナーゼ1であり、図23(b)は、Ym1であり、図23(c)は、MRである。JMJD3のC末端部分の発現は、例えばアルギナーゼ1、 Ym1 及びFizz1などのM2マーカーを亢進すると共に、観察されたM-BMMの数を増加させるのに十分であった(図23(a)〜(c))。一方で、JMJD3 (A1388H)の発現は、M-BMMの数又はM2マーカー遺伝子の発現を増加させなかったが、このことは、JMJD3 のH3K27me3脱メチル化酵素活性が、M-BMMにおけるM2マーカー遺伝子の発現に重要かつ十分であることを示していた。
図19〜23に示される結果は、4 (図19(a)-(d))、4 (図20及び図21) 又は2(図22及び図23) の独立した実験の代表的な結果である。図19〜21中のエラーバーは、標準偏差である。
【0098】
(vi)M-BMMでの細胞周期進行におけるJmjd3の必要性
GM-BMMの細胞数は変わらなかったが、M2マーカーの発現の障害に加えて、Jmjd3-/- キメラにおけるM-BMMの総数は、M-CSFで培養後5又は7日において、野生型にくらべて有意に低かった。チミジンの類縁体である5−ブロモ−2−デオキシウリジン(BrdU)の取り込みは、野生型の細胞に比べてJmjd3-/- M-BMMにおいて大きく損なわれていたが、一方、野生型及びJmjd3-/- GM-BMMは、BrdUを同程度に取り込んだ。これらの結果は、JMJD3がM-CSF刺激への応答における細胞周期進行を制御するために重要であることを示していた。細胞周期調節タンパクをコードしているmRNAの発現を測定したところ、c-Myc、c-Myb、cyclin D1 及びcyclin D2 mRNAの発現が、Jmjd3-/- M-BMMにおいてM-CSF培養5日で、損なわれていた。M-CSF受容体(CSF-1R)の表面発現は、Jmjd3-/- M-BMMにおいて損なわれてはいなかった(図5d)。さらに、Jmjd3欠損は、細胞内のシグナル伝達分子であるERK、p38 又はAKTの活性化には影響しなかったが、このことは、M-BMMにおけるリン酸化反応によって示された。これは、Jmjd3-/- M-BMMにおいて、細胞増殖欠損がMAPキナーゼ又はAKTの活性化が低かったためではないことを暗示していた。M-BMMにおけるJmjd3の発現は、GM-BMMにおけるそれよりもはるかに高く、このことは、M-BMM 及びGM-BMMにおけるJmjd3の発現の違いが、Jmjd3のそれらの増殖に対する貢献を決定していることを示唆していた。これらの結果から、これらのデータは、Jmjd3がCSF-1Rシグナル伝達の下流で細胞増殖を制御することによりGM-BMMではなく、M-BMMを生成するために重要であることを示している。
【0099】
(vii)M-BMMにおける JMJD3 により制御される H3K27トリメチル化のゲノム全体での解析
次に、クロマチン免疫沈降-シークエンシング(ChIP-Seq)分析によって、野生型及びJmjd3-/- M-BMMにおけるH3K27me3のゲノム全体での分布を解析した。(UCSCデータベースで、ゲノムレベルのRefSeqマウス遺伝子注解に基づいて)転写領域、並びにそれらの上流及び下流領域(それぞれ30kbずつ)におけるH3K27me3分布の全体図を得た。H3K27me3タグの高いレベルが、野生型及びJmjd3-/- キメラ由来のM-BMM でTSSs周辺に検出された。一方、H3K27me3レベルは、上流及び下流領域に比べて、ゲノムの転写座では低かった。注目すべきことに、プロモーター領域及び下流領域でのH3K27me3信号は、野生型細胞に比べて、Jmjd3-/- M-BMMにおいてより高かった。
【0100】
そこで、マイクロアレイ実験によって得られた遺伝子発現データとH3K27メチル化の状況を比較した。全体で、TSS(-5〜 +1 kb)に近い領域では、H3K27me3のレベルは、M-BMMでの遺伝子発現レベルと負に相関していた(相関係数-0.441)。そして、野生型及びJmjd3-/- M-BMMの間の発現比を基にして遺伝子を並べ替え、H3K27me3のレベルを調べた。しかしながら、野生型及びJmjd3-/- M-BMMの間の遺伝子発現レベルの差とH3K27me3の状況の間に明白な関係は見いだせなかった。これらのデータは、ほんの少しの数の遺伝子だけがJmjd3の欠損に影響されており、たいていの遺伝子座は、重複してUTX 及び/又は JMJD3によって調節されていることを示している。
【0101】
TSSの近位にある領域に対するH3K27me3タグの嗜好、及び、発現の変化とタグ数の間の全体の相関の欠如から判断して、H3K27me3のピークを示す個々の遺伝子のプロモーター領域に焦点をあてた。野生型及びJmjd3-/- M-BMMの試料中におけるピークの存在によって遺伝子を分類し、ゲノム全体の遺伝子のセットをH3K27me3の状況に応じて3つの異なるクラスに分けた。クラス1の遺伝子は、野生型M-BMMでH3K27me3のピークを保有していた。クラス2の遺伝子は、野生型にもJmjd3-/- M-BMMにもどちらにもH3K27me3のピークを有さなかった。Irf4 及びTm7sf4などのクラス3の遺伝子は、Jmjd3-/- M-BMMにH3K27me3ピークが存在するが、野生型M-BMMにはピークが存在しないことによって特徴づけられた。マイクロアレイデータから、H3K27脱メチル化の状況及び遺伝子発現を比較して、野生型及びJmjd3-/- M-BMMで発現している500の遺伝子の表を作成した(データは示さず)。
【0102】
Hox遺伝子、例えばHoxa7、Hoxa9 及びHox11並びにBmp2は、JMJD3によって調節されることが報告されているが(De Santa, F. et al., Cell 130, 1083-1094 (2007))、それらの遺伝子座のH3K27は、Jmjd3存在及び非存在の両方でM-BMMにおいて高度にトリメチル化されており、このため、これらは、クラス1に分類された。さらに、Hox 及びBmp2の遺伝子発現レベルは、Jmjd3-/- M-BMMでは減少しなかったが、このことは、これらの遺伝子が、M-BMMでJMJD3によって決定的に調節されてはいないことを示している。さらに、Arg1 、Chi3l3、Rentla 及びMrc1等のM2マーカーは、すべてクラス2に見られたが、このことは、これらの発現が、JMJD3によって直接的には調節されていないことを示すものである。したがって、JMJD3が媒介する脱メチル化により直接調節される転写因子は、マクロファージの分化を担っていると仮説を立てた。クラス3に分類される遺伝子を調べた際、Irf4 及びCebpbがこのクラスにいることを見出した。特に、Irf4 のTss近傍のプロモーター領域は、Jmjd3-/-M-BMMで高いH3K27me3タグを示したが、野生型では示さなかった。
【0103】
(viii)M2マクロファージへの分化に重要なJMJD3標的分子としてのIRF4(IFN調節因子4)の同定
WT 及びJmjd3-/- BMM 由来のクロマチン溶液を、抗H3K27me3抗体を使用するChIP分析に供し、得られたDNA を、Irf4のプロモーター領域を増幅するPCRプライマー対で分析した(図24(a):WT、図24(b):Jmjd3-/- BMM)。ChIP分析によって、野生型及びJmjd3-/-マクロファージにおいてIrf4遺伝子のプロモーター領域でH3K27のメチル化が異なることを確認した(図24(a)及び図24(b))。さらに、Jmjd3-/-マクロファージで、JMJD3のC末端領域又はその変異体をレトロウイルスで発現させたとき、Irf4の発現は、脱メチル化活性依存的に増加していた(図25)。図25は、野生型 JMJD3 (aa 1141-1641) 又はその鉄結合欠損変異体を有するレトロウイルスで再構成した Jmjd3-/- M-BMM から全RNAを抽出し、Irf4 の発現レベルをQ-PCR分析で決定した結果を示す図である。コントロールは、空ベクターを導入したレトロウイルスで再構成したJmjd3-/- M-BMMである。
【0104】
これらの結果は、Irf4が、M-BMMにおけるJMJD3の標的遺伝子のひとつであることを示している。したがって、IRF4のアルギナーゼ−1、Ym1、Fizz1 及びMRの発現に対する貢献をIrf4-/-マウスを用いることによって調べた。具体的には、WT及び Irf4-/- マウス由来のBM 細胞をM-CSFの存在下で5日間培養した。全 RNA を調製し、特定の M2マーカー及びJMJD3をコードする遺伝子の発現をQ-PCRで調べた。図26(a)は、アルギナーゼ1、図26(b)はYm1、図26(c)はFizz1、図26(d)はMR、図26(e)はIL-13、図26(f)はJMJD3のmRNAの発現量をそれぞれ示す。図26(a)〜(e)に示すように、M2関係遺伝子の誘導は、Irf4-/- M-BMMにおいて大きく損なわれていた。一方、Jmjd3の発現は、野生型及びIrf4-/- M-BMMの間で同程度であった(図26(f))。注目すべきは、M-BMMの細胞数は、Irf4-/-マウスでは、減少してはいないことであった(図27)。
【0105】
図28(a)及び図28(b)は、WT及び Irf4-/- マウスにキチンを腹腔投与し、処置の48時間後にPECを調製し、PECにおけるマクロファージ及び好酸球の動員を分析した結果である(図28(a):WT、図28(b):Irf4-/- マウス)。キチンが腹腔に投与された場合、マクロファージではなく、好酸球の呼び寄せ(動員)が、Irf4-/-マウスでは大きく損なわれていた(図28(a):WT、図28(b): Irf4-/-、及び図29)。キチンで誘発した腹膜マクロファージでMRの発現は、Irf4-/-マウスでは大きく損なわれていた(図30)。加えて、M2マクロファージマーカーであるアルギナーゼ−1、Ym1、Fizz1 及びMRの発現は、Irf4-/-マウス由来のキチン誘発マクロファージで大きく損なわれていた(図31(a)〜(d))。これらの結果は、IRF4が、M-BMMにおいて、及び生体内におけるキチンの投与への応答において、マクロファージのM2への分化に重要であることを示している。そこで、レトロウイルスでIRF4をJmjd3-/- M-BMMに発現させ、M2マーカー遺伝子の発現を調べた(図32(a)〜(f))。コントロールとして、空ベクターをJmjd3-/- M-BMMに発現させた。Jmjd3-/- M-BMMにおいてIRF4を発現させても、Jmjd3 の発現は変化しなかったが、IRF4の発現は、Jmjd3-/- M-BMMにおいてアルギナーゼ−1、Ym1、Fizz1 及びMRをコードしている遺伝子を亢進させた(図32(a)〜(f))。これらの結果は、IRF4が、JMJD3の下流にあるM2マーカーの発現の一因であることを示唆している。
【0106】
図32(a)〜(f)においては、*p < 0.05及び**p < 0.01 (two-tailed Student's t-test)である。図24〜32に示される結果は、2 (図24)、3 (図26〜図31) 又は2(図25及び図32) の独立した実験の代表的な結果である。図26及び図31中のエラーバーは、標準偏差である。
【0107】
III. 考察
本研究では、抗菌及び、抗寄生虫に対する応答を開始するマクロファージにおけるJMJD3の役割に焦点をあてた。JMJD3はM1マクロファージへの分化には重要でなかったのに対し、jmjd3欠損マウスでは寄生虫感染又はキチン投与に対する適切なM2反応が起こらなかった。さらに、M-CSFによって誘導されたBMマクロファージは脱メチル化酵素活性依存的に、M2マクロファージマーカー類を含む様々な遺伝子発現に明らかな欠損を示した。それにも関わらず、遺伝子のサブセットのH3K27me3レベルはJmjd3の有無によって異なった態様で調節されている。これらの遺伝子の中で、Irf4が、JMJD3が媒介する脱メチル化の直接の標的の一つであることを見出した。そして、IRF4がM2マクロファージ応答の誘導に重要な転写因子であることを見出した。
【0108】
Jmjd3はTLR誘導遺伝子であるが、Jmjd3-/-マウスはリステリア菌接種対する応答において、強いM1マクロファージの活性化を示した。これらの結果は、Jmjd3は、細菌感染に対するM1マクロファージの生成及び動員に対しては、必要不可欠なものではないということを示唆している。我々のデータは、LPS刺激への応答における遺伝子発現がJmjd3欠損マクロファージにおいて穏やかにしか変化していないこと、JMJD3がこの場合に転写生産を微調整しているということを示した以前の報告とは一致している(De Santa, F. et al., EMBO J 28, 3341-3352 (2009))。TLRシグナル伝達は、炎症の促進だけでなく、停止又は組織再構築に関与する遺伝子を亢進させる。例えば、ATF3とZc3h12aはTLR刺激への応答において急速に誘導され、炎症性サイトカインの産生を抑制する(Charo, I.F., Cell Metab 6, 96-98 (2007)及びMatsushita, K. et al., Nature 458, 1185-1190 (2009))。M2マクロファージはTh2応答の促進と共に、組織再構築を促進させるということが示されている。したがって、Jmjd3の誘導は、TLR刺激により惹起される炎症性の損傷を修復するために作用するフィードバックメカニズムの部分として機能している。
【0109】
キチンは寄生虫、甲殻類、カビに多く含まれる構成成分であり、キチンの投与は、M2マクロファージを強く誘導する。キチンの腹腔内投与は、Jmjd3及びIrf4依存的にM2マクロファージや好酸球を動員した。これらの結果は、JMJD3-IRF4軸が、寄生蠕虫感染に対するM2マクロファージへ分化に重要であることを示している。しかしながら、マクロファージの培養におけるキチンの添加は、M2のマーカー遺伝子発現を亢進する細胞を刺激しなかった。TLR2は、キチンへの応答において急性炎症を媒介すると報告されていたが、他の報告では、キチンに媒介されたM2マクロファージの活性化は、MyD88に無関係であることが報告されていた(Reese, T.A. et al., Nature 447, 92-96 (2007)及びDa Silva et al., J Immunol 181, 4279-4286 (2008))。現在、どのようにキチンがマクロファージを活性化するかというメカニズムは、あまり良く理解されていない。さらには、キチンや寄生虫感染への応答においてJMJD3が、どのようにM2マクロファージの産生に対してユニークな働きをしているのかもまだ明らかではない。キチン受容体の同定は、近い将来、寄生蠕虫感染への応答における自然免疫活性化メカニズムを明らかにするために肝要であろう。
【0110】
Jmjd3-/- マウスは、ブラジル鉤虫(N. brasiliensis) 感染において、M2マクロファージの動員に重大な欠陥があることを示した。ブラジル鉤虫のどの成分が、自然免疫細胞を活性化するかということは分からないが、JMJD3媒介H3K27me3脱メチル化は、この寄生虫へのマクロファージの応答には欠かせないもののようだ。さらなる研究が、ヒトに病原因子となる他の寄生虫による感染を制御するJMJD3の役割を同定することになろう。M2マクロファージは、寄生虫感染に対する応答に加えて、癌細胞の生存又は炎症応答への応答における組織再構築に対して重要であることはよく知られている(Mantovani, A .et al., Curr Opin Immunol (2010))。したがって、マクロファージにおけるどのように非遺伝的な調節が、癌の進行又は創傷治癒に対して重要なのか、このマウスのモデルを使用することにより探求されることは興味深い。
【0111】
以前の報告は、Jmjd3の発現はIL-4に対する応答において亢進され、H3K27me3のレベルは、IL-4刺激に応答して減少することを示していた(Ishii, M. et al., Blood 114, 3244-3254 (2009))。M-BMM(マウス骨髄細胞由来マクロファージ)又はキチン誘導腹膜マクロファージは、Jmjd3が存在しない場合、M2マクロファージマーカーの発現に重篤な欠陥を示したが、Jmjd3-/- M-BMMは、IL-4刺激への応答においてM2マクロファージの代表的な遺伝子の発現を亢進できた。これらの知見は、JMJD3媒介H3K27脱メチル化がIL-4の効果に関係なくM2への分化の生成のために重要であることを示唆している。同じ報告で、種々のM2マーカー遺伝子のH3K27me3レベルは、転写を活性化するJMJD3によって直接制御されていることが示されていた。しかしながら、我々のChIP-Seqデータは、例えばArg1(アルギナーゼ1)などのほとんどのM2マーカー遺伝子のH3K27me3レベルは、Jmjd3が存在しない場合でも変わらないことを証明した。さらには、JMJD3 の標的遺伝子の1つであるIrf4の欠損が、キチン投与又はM-CSF培養へのM2応答を欠損させた。したがって、JMJD3は、二次的に一連の転写因子の発現を制御することによってM2マクロファージへの分化を調節している可能性が高い。
【0112】
M2マーカー遺伝子発現に加え、Jmjd3欠損M-BMMは、M-CSF刺激に対する応答において増殖欠損を示した。これは、正常に機能しなくなったM-CSF受容体発現又は初期のシグナル分子の活性化の欠落のせいではない。c-Myc、cyclin D1、cyclin D2などの細胞周期進行に関与する遺伝子の発現が、Jmjd3-/- M-BMMで正常に機能しなくなったが、これらの遺伝子のH3K27me3レベルは、野生型(wild-type) とJmjd3-/- M-BMM の間で変化していない。さらには、Irf4-/- M-BMMは、細胞周期に不具合は示さなかった(データは示さず)。したがって、その他のJMJD3標的遺伝子が、M-BMMの増殖の制御を担っている可能性がある。
【0113】
ChIP-Seq分析は、概して、遺伝子プロモーター領域における野生型とJmjd3-/- M-BMMの間のH3K27me3レベルの違いが、わずかであることを明らかにした。それにもかかわらず、マイクロアレイ分析によって調べられた遺伝子発現のプロファイルは、野生型とJmjd3-/- M-BMM の間で相当な違いがあり、生体内(in vivo)でのキチン又は寄生虫感染に対する応答には、Jmjd3-/-マウスでは、大きな障害があった。Hoxa とBmp2遺伝子は、JMJD3の潜在的な標的であることが知られているが(De Santa, F. et al., Cell 130, 1083-1094 (2007))、これらの遺伝子の発現レベルは、Jmjd3-/-細胞では減少しておらず、H3K27me3のレベルは、野生型とJmjd3-/- M-BMMの間で同程度であった。これらの結果は、他のH3K27脱メチル化酵素、例えばUTX やUTYが、マクロファージにおけるJmjd3の欠損を補っていることを示唆するものである。一方、我々は、IRF4を直接的なJMJD3特異的標的転写因子の1つとして同定した。IRF4は、血漿細胞の分化やB 細胞におけるクラススイッチ組み換え、及びTh2細胞の分化に関与していることが示されている(Ahyi, A.N. et al., J Immunol 183, 1598-1606 (2009)及びKlein, U. et al., Nat Immunol 7, 773-782 (2006))。IRF4がTh2応答を調節するために制御性T細胞内で機能していることも報告されている(Zheng, Y. et al., Nature 458, 351-356 (2009))。実際、Irf4-/-マウスは、ブラジル鉤虫感染に対するTh2応答に欠陥を示すことが示されている(Honma, K. et al., Proc Natl Acad Sci U S A 105, 15890-15895 (2008))。Irf4-/-マウスにおいて、キチン投与に対するM2マクロファージの誘導がされないとすると、Irf4-/-マウスにおけるマクロファージの欠損もブラジル鉤虫感染への異常な応答の一因であるようである。マクロファージにおいては、IRF4は、MyD88と会合することにより、TLRシグナル伝達の負の調節因子として機能している(Honma, K. et al., Proc Natl Acad Sci U S A 102, 16001-16006 (2005)及びNegishi, H. et al., Proc Natl Acad Sci U S A 102, 15989-15994 (2005))。
【0114】
Jmjd3-/-マウスは、肺組織の発育不全により新生児死亡を示した。JMJD3は、マクロファージのIRF4の発現を直接調節する一方で、Irf4-/-マウスは、発育不全を示さなかった。したがって、JMJD3は、肺組織において正常な組織発育のためのIRF4以外の遺伝子を制御しており、我々は、マクロファージにおけるこの分子の役割だけに焦点をあてた。
【0115】
非遺伝的な状況におけるこの変化は、マクロファージの分化を決定するのに重要な段階であるようである。JMJD3脱メチル化活性を特異的に調節する手段を将来開発することは、抗寄生虫宿主防衛及び組織修復を獲得するために、マクロファージを操作するために役立つかもしれない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲノム中のJmjd3遺伝子が改変されていることを特徴とするJmjd3遺伝子改変非ヒト哺乳動物。
【請求項2】
Jmjd3遺伝子における対立遺伝子の双方が不活化された、Jmjd3遺伝子ホモ改変動物である請求項1に記載の非ヒト哺乳動物。
【請求項3】
骨髄中に、請求項2に記載の非ヒト哺乳動物由来のJmjd3遺伝子ホモ改変骨髄細胞を有することを特徴とするJmjd3遺伝子改変骨髄キメラ非ヒト哺乳動物。
【請求項4】
非ヒト哺乳動物が、マウス又はラットである請求項1〜3のいずれか一項に記載の非ヒト哺乳動物。
【請求項5】
非ヒト哺乳動物が、マウスである請求項1〜4のいずれか一項に記載の非ヒト哺乳動物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の非ヒト哺乳動物に由来するJmjd3遺伝子改変骨髄細胞。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の非ヒト哺乳動物又は請求項6に記載の骨髄細胞由来のJmjd3遺伝子改変マクロファージ。
【請求項8】
(I)請求項1〜5のいずれか一項に記載の非ヒト哺乳動物に候補物質を投与する工程、(II)(a)該非ヒト哺乳動物におけるM2マクロファージ及び/又はM2マクロファージのマーカーの発現、又は(b)Jmjd3タンパク質及び/又はJmjd3タンパク質標的分子の活性をモニターする工程、及び(III)候補物質を投与しない場合と比較して、工程(II)において(a)M2マクロファージ及び/又はM2マクロファージのマーカーの発現の上昇が検出された、又は(b)Jmjd3タンパク質及び/又はJmjd3タンパク質標的分子の活性上昇が検出された候補物質を選択する工程を含むことを特徴とするM2マクロファージへの分化促進剤のスクリーニング方法。
【請求項9】
(I)請求項7に記載のJmjd3遺伝子改変マクロファージに候補物質を接触させる工程、(II)(a)Jmjd3遺伝子改変マクロファージのM2マクロファージへの分化、(b)M2マクロファージのマーカーの発現、又は(c)Jmjd3遺伝子改変マクロファージにおけるJmjd3タンパク質及び/又はJmjd3タンパク質標的分子の活性をモニターする工程、及び(III)候補物質を接触させない場合と比較して、工程(II)において(a)M2マクロファージへの分化が誘導された、(b)M2マクロファージのマーカーの発現の上昇が検出された、又は(c)Jmjd3タンパク質及び/又はJmjd3タンパク質標的分子の活性上昇が検出された候補物質を選択する工程を含むことを特徴とするM2マクロファージへの分化促進剤のスクリーニング方法。
【請求項10】
(I)in vitro又は非ヒト哺乳動物中でJmjd3遺伝子及び/又はJmjd3タンパク質に候補物質を接触させる工程、(II)Jmjd3遺伝子発現及び/又はJmjd3タンパク質の脱メチル化酵素活性の変化をモニターする工程、及び(III)候補物質を接触させない場合と比較して、工程(II)においてJmjd3遺伝子発現及び/又は脱メチル化酵素活性の変化が検出された候補物質を選択する工程を含むことを特徴とするM2マクロファージの分化を制御する物質のスクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【公開番号】特開2012−19768(P2012−19768A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−162295(P2010−162295)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】