説明

L−アスパラギナーゼIIを産生する組換え宿主

本発明は、大腸菌L−アスパラギナーゼII酵素を産生する組換え大腸菌宿主細胞を提供する。宿主細胞は、大腸菌の染色体、および組換え染色体外ベクターの少なくとも1つのコピーを含み、組換え染色体外ベクターは、L−アスパラギナーゼII酵素をコードし、宿主細胞の染色体もまた、同じL−アスパラギナーゼII酵素をコードし、宿主染色体は、L−アスパラギナーゼIIの他のイソ型のいずれもコードしない。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本出願は、2006年6月30日に出願された米国仮特許出願第60/817,817号明細書の利益を主張しており、全体を参照することにより、その内容を本明細書に援用する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、均一な純度の特異的な組換え大腸菌(E.coli)L−アスパラギナーゼII酵素を産生する、新規のベクター、宿主細胞および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
L−アスパラギナーゼは、アミノ酸L−アスパラギンをL−アスパラギン酸とアンモニアとに加水分解する酵素であり、すなわち、それは脱アミノ化酵素である。大腸菌は、2種のアスパラギナーゼイソ酵素:L−アスパラギナーゼIおよびL−アスパラギナーゼIIを含有する。L−アスパラギナーゼIは、サイトゾルに位置し、アスパラギンに対して低親和性を有する。L−アスパラギナーゼIIは、ペリプラズムに位置し、L−アスパラギンに対して高親和性を有する。
【0004】
L−アスパラギナーゼIIは、細胞外アスパラギンを除去することにより、タンパク質合成をL−アスパラギンに依存する腫瘍または癌を治療するのに有用である。L−アスパラギナーゼIIは、急性リンパ性白血病などの白血病を治療するのに特に有用である。L−アスパラギナーゼは、特定の臨床的症状において単独で使用することができるが、一般には、他の抗腫瘍療法または抗癌療法と併用される。L−アスパラギナーゼは当初、大腸菌(Escherichia coli(「E.coli」))およびエルウィニア・カロトボラ(Erwinia carotovora)など、数種の有機体から精製された。L−アスパラギナーゼIIは、哺乳動物の中でも、モルモット(テンジクネズミ上科(Cavioidea))および特定の新世界サルにのみ、微量よりも多い量で見出されている。
【0005】
大腸菌L−アスパラギナーゼIIは、優れたkcatおよびKmを示す同一のサブユニットの四量体である。大腸菌L−アスパラギナーゼII(L−アスパラギンアミドヒドロラーゼ、タイプEC−2、EC3.5.1.1としても当該技術分野で知られている)は、Elspar(登録商標)(メルク社(Merck&Co.,Inc.))として市販されており、また、協和発酵工業株式会社(Kyowa Hakko Kogyo Co.,Ltd.)からも入手できる。
【0006】
L−アスパラギナーゼIIはそれ自体により、患者にとって異質なタンパク質の高いクリアランス率、およびこの酵素で治療を受けた患者に免疫応答を誘導する可能性など、タンパク質療法の通常の不利益を受ける。これらの欠点に対処するために、L−アスパラギナーゼIIのポリエチレングリコール複合化誘導体が開発され、エンゾン・ファーマシューティカルズ社(Enzon Pharmaceuticals,Inc.)によりペガスパルガーゼ(pegaspargase)またはOncaspar(登録商標)として市販されている。ペガスパルガーゼは、メルク(Merck)社により供給される、大腸菌から抽出されたL−アスパラギナーゼIIを用いて産生される。ペガスパルガーゼ(モノメトキシポリエチレングリコールスクシンイミジルL−アスパラギナーゼとしても知られている)は、実質的に非抗原性であり、循環系からのクリアランス率の減少を示すという利点を有する。
【0007】
しかしながら、これらの成功にもかかわらず、大腸菌L−アスパラギナーゼIIタンパク質が、好適な染色体外発現ベクター、例えば、プラスミドを使用して組換え宿主細胞により産生され得る場合は、さらにより効率的かつ経済的であると考えられる。このような発現ベクターは、天然の大腸菌株からの産生により入手可能なものよりも効率的にタンパク質を産生するように設計することができる。このような組換え産生の利点の可能性にもかかわらず、現在まで、商業的L−アスパラギナーゼII酵素に関して正確なポリペプチド配列が公表されておらず、その酵素をコードするポリヌクレオチドに関する核酸配列もまた公表されてないと考えられる。例えば、L−アスパラギナーゼIIのペプチド配列は、以前に非特許文献1、および非特許文献2により報告された。しかしながら、下記に検討されるように、この初期の研究では、配列決定について多くの誤りがあった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】マイタ(Maita)ら、1980年、Hoppe Seyler’s Z.Physiol.Chem.361(2)、105−117頁
【非特許文献2】マイタ(Maita)ら、1974年、J.Biochem.76、1351−1354頁[Tokyo]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
L−アスパラギナーゼII酵素のサブユニットのプラスミド発現に対して障害となる別の可能性は、宿主細胞として使用される可能性のある大腸菌株の染色体に特有のL−アスパラギナーゼIIサブユニットをコードする遺伝子の存在である。したがって、染色体外発現ベクターを保持する大腸菌宿主細胞から回収されたL−アスパラギナーゼIIは、L−アスパラギナーゼの2種以上のイソ型を表すサブユニットを含み得るという懸念がある。十分に特性化された酵素産物でなければならないことを考えると、臨床目的および制御目的の双方にとって、この可能性は、今まで、大腸菌L−アスパラギナーゼIIタンパク質の産生効率改善に対する重大な技術的な課題となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、組換え形態で効率的かつ経済的に産生される大腸菌L−アスパラギナーゼIIに必要とされる上記の要求を満たし、一方では、検出できる量の別のL−アスパラギナーゼIIのイソ型もまた存在せず、「Oncaspar」として市販されている大腸菌L−アスパラギナーゼIIと同じペプチド構造を有する酵素産物を提供する。
【0011】
したがって、本発明は、大腸菌の染色体および組換え染色体外ベクターの少なくとも1つのコピーを含んでなる大腸菌宿主細胞を提供し、ここで、染色体外ベクターは、L−アスパラギナーゼIIタンパク質のサブユニットをコードし、大腸菌宿主細胞の染色体は、L−アスパラギナーゼタンパク質の同じサブユニットをコードし、大腸菌宿主の染色体は、L−アスパラギナーゼIIの他のいずれのイソ型もコードしない。染色体外ベクターは、大腸菌における複製および発現に好適なプラスミドであることが好ましい。
【0012】
発現されたL−アスパラギナーゼタンパク質は、「Oncaspar」を製造するのに用いられたL−アスパラギナーゼII酵素のサブユニットの配列に相当する配列番号1に従ったポリペプチド配列を有する4つのサブユニットを含んでなり、プラスミドベクターは、好適なプロモーターに機能的に連結されるL−アスパラギナーゼタンパク質のサブユニットをコードする核酸分子を含んでなることが好ましい。プロモーターは、任意の好適なプロモーターであるが、場合によってはT7、araB、trp、tac、lac、λP、λP、aroHおよびphoAのプロモーターからなる群より選択される。プラスミドベクターは、随意的に、効率的発現および/または産物精製の必要に応じて、L−アスパラギナーゼのオープンリーディングフレームおよび/またはプロモーターに機能的に連結される、さらなるベクター要素を含む。これらのベクター要素としては、例えば、適合性オペレーター配列、リボソーム結合部位、転写ターミネーター、シグナル配列、薬物耐性マーカー、および複製の起点が挙げられる。関連するレプレッサー遺伝子、例えば、lacIのプラスミド由来のコピーもまた存在し得る。
【0013】
L−アスパラギナーゼIIタンパク質のサブユニットをコードするプラスミドDNA分子は、配列番号2を含んでなり、L−アスパラギナーゼIIタンパク質をコードする染色体DNA分子は、配列番号3を含んでなることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】pEN537プラスミドベクターのマップを例示する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
したがって、「Oncaspar」に対応するL−アスパラギナーゼIIおよび協和発酵のL−アスパラギナーゼの産生における所望の改良を提供するために、酵素をコードするベクターを得ること、また、L−アスパラギナーゼIIの単一のイソ型のみを発現する宿主細胞を提供することが必要である。したがって、メルク社からのL−アスパラギナーゼII酵素、ならびに協和発酵工業株式会社から入手したL−アスパラギナーゼII酵素の配列を決定し、得られた配列を、参照することにより本明細書に援用される、ジェニングス(Jennings)ら、1990年、J Bacteriol 172:1491−1498頁により報告されている大腸菌K−12から得られたL−アスパラギナーゼII酵素の配列と比較した。K12L−アスパラギナーゼII酵素は、ansB遺伝子(参照することにより本明細書に援用される、GeneBank番号M34277)にコードされている。
【0016】
上記のとおり、L−アスパラギナーゼII酵素が4つの同一サブユニットを含んでなることは、当業者に認識されよう。したがって、この酵素をコードする遺伝子またはDNA分子およびこの酵素タンパク質配列への言及は、これら同一のサブユニットの1つをコードする遺伝子のことを指している。
【0017】
ペプチドの配列決定は、下記の実施例1に要約されるように、当該技術分野における標準的方法により実施された。メルク社および協和発酵工業株式会社双方のサブユニットのタンパク質配列は、意外にも、同一であることが判明した(配列番号1を参照)。このデータにより、非特許文献1および非特許文献2によるメルク社のL−アスパラギナーゼ配列についての以前の報告が、実際に多くの誤りを含んでいたことを、今現在、認識することができる。
【0018】
得られた配列についても、K12L−アスパラギナーゼII酵素のサブユニット構造と比較した。K12L−アスパラギナーゼII酵素のサブユニットは、4つの特異的な残基位置においてメルク社のL−アスパラギナーゼII酵素のサブユニットとは異なることが判明した。メルク社のL−アスパラギナーゼII酵素と比較して、K12酵素のサブユニットは、Ala27の代わりにVal27、Asp64の代わりにAsn64、Thr252の代わりにSer252およびAsn263の代わりにThr263を有する。
【0019】
前述のように、大腸菌の宿主細胞の染色体は、染色体外ベクター、すなわちプラスミドによって発現されるL−アスパラギナーゼIIのイソ型と異なるイソ型を発現しないことが好ましい。この望ましい結果は、幾つかの別法のうちの1つにより達成することができる。例えば、大腸菌の宿主染色体上に存在するL−アスパラギナーゼII遺伝子を、完全にまたは部分的に欠失させるか、またはノックアウトすることができよう。あるいは、染色体外ベクターにコードされたL−アスパラギナーゼIIのイソ型の発現に好都合な同じ培養条件下で発現させない、天然プロモーターの固有の制御特性によって、宿主染色体上に存在する別のL−アスパラギナーゼII遺伝子発現を抑制し得る。しかしながら、染色体および染色体外のL−アスパラギナーゼII遺伝子は、L−アスパラギナーゼII酵素の同じイソ型を発現することが好ましい。
【0020】
この目的のため、幾つか利用できる大腸菌株により産生されたL−アスパラギナーゼII酵素のサブユニットの配列を決定し、市販の酵素製品と比較した。大腸菌BLR(DE3)株[ノバゲン(Novagen)社製;カタログ番号69208−3]は、予想外にも市販の酵素と構造が同一の、染色体にコードされたL−アスパラギナーゼII酵素を産生することが判明したが、一方、試験に供された大腸菌GX1210株および大腸菌GX6712株は、L−アスパラギナーゼII酵素の異なるイソ型を産生することが判明した。
【0021】
好ましい大腸菌宿主の同定により、染色体外発現ベクター、すなわち染色体外に独立して存在するベクターであって、その複製が染色体の複製とは独立しているものを構築することができる。大腸菌での使用に好適な染色体外ベクターとしては、例えば、pUCまたはpBR322由来のプラスミドが挙げられる。これらには、pETおよびpBADなどのプラスミド、ならびにT7、araBAD、phoA、trc、O、O、P、Pからの発現要素を有する種々のプラスミドを含む。
【0022】
ベクターにおいて、L−アスパラギナーゼII酵素のサブユニットをコードする核酸配列は、好適なプロモーター配列に機能的に連結される。好適なプロモーターとしては、例えば、T7、araBAD、phoA、trc、O、O、PおよびPプロモーターが挙げられる。プロモーターは、T7ウィルスプロモーターであることが好ましい。
【0023】
好適な誘導因子要素としては、例えば、アラビノース、乳糖、または加熱誘導、ホスフェート制限、トリプトファン制限が挙げられる。誘導因子要素は、イソプロピルチオガラクトシド(「IPTG」)により誘導できるLacオペロンであることが好ましい。
【0024】
好適なシグナル配列(シグナルペプチド)は、pelB、fd pIII、またはompAから誘導することができる。シグナルペプチドは、ansBから誘導されることが好ましい。
【0025】
当該技術分野において周知である好適な抗生物質選択マーカーとしては、特に、例えば、アンピシリン、カナマイシン、クロラムフェニコール、リファンピシン、またはテトラサイクリン耐性のものが挙げられる。
【0026】
好適な複製配列の起点としては、以下のプラスミド:pUC19、pACYC177、pUB110、pE194、pAMB1、pIJ702、pBR322、pBR327、およびpSC101に見られるものが挙げられる。
【0027】
好適な終結配列としては、例えば、ファージfd主要ターミネーター、TΦ、およびrrnBが挙げられる。
【0028】
一般に、大腸菌に使用するためのプラスミドが好ましい。従来のプラスミドベクターは、外因性DNA配列、抗生物質選択性遺伝子、宿主細胞における自律的増殖のための複製起点、および組換え挿入DNAを含有するクローンの識別または選択のための遺伝子を挿入するために好適な酵素認識部位により操作された二本鎖環状DNA分子であることが好ましい。利用できるプラスミドベクターとしては、例えば、pET3、pET9、pET11および拡張pETシリーズ(ノバゲン社によりカタログに掲載)、pBAD、trc、phoA、trp、およびOL/R/PL/Rプラスミドが挙げられる。
【0029】
下記に例示されるように、pET27b+などのpET発現系のプラスミドが好ましい。酵素の効率的かつ制御された発現を提供するために、発現ベクターとしては、プロモーター、オペレーター、リボソーム結合部位、シグナル配列、転写ターミネーター、複製起点、レプレッサー遺伝子(例えば、lacI)の制御されたコピーもまた挙げられる。
【0030】
宿主大腸菌株は、その染色体において適合性のある制御要素を有する。例えば、lacUV5プロモーターの制御下、T7 RNAポリメラーゼに関する遺伝子は、BLR(DE3)細胞に存在する。この株は、バクテリオファージDE3のリソゲンである。BLR(DE3)の培養物へのIPTGの添加により、T7 RNAポリメラ−ゼが誘導され、次にpETプラスミド上に標的遺伝子が転写される。BLR(DE3)はまた、染色体外プラスミド上の遺伝子の安定性をさらに提供することができるrecAである。
【0031】
メルク社および協和発酵工業株式会社の酵素をコードする核酸分子を得るために、入手できるL−アスパラギナーゼIIを、好適な方法により修飾することができる。大腸菌K−12 ansBの326成熟アミノ酸配列のL−アスパラギナーゼIIのサブユニットは、ジェニングス MP(Jennings MP)およびビーチャム IR(Beecham IR)により報告された(1990年、J Bacteriol 172:1491−1498頁;GeneBank番号M34277)978塩基対セグメントにおいてコードされる。成熟タンパク質の前の22のアミノ酸シグナルペプチドを含むansB遺伝子は、従来のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法によって別の大腸菌K−12株(GX1210;ジェネックス社(Genex Corporation)から入手)からクローン化された。大腸菌K−12 ansBのL−アスパラギナーゼIIのサブユニットをコードするansB遺伝子を、部位特異的変異誘発(例えば、アマシャムスクルプター(Amersham Sculptor)法を用いて)により採用し、上記に検討された残基置換によりL−アスパラギナーゼIIを発現して以下の塩基置換:塩基530におけるTからC;塩基640におけるAからG;塩基1205におけるTからA;および塩基1239におけるCからA、を作製した。ナンバリングは、参照することにより本明細書に援用される、GeneBank番号M34277により得られたものに基づいている。生じたコドン変化[対応する位置においてGTGからGCG;AATからGAT;TCTからACTおよびACCからAAC]により、ansB遺伝子を、メルク社および協和発酵工業株式会社から入手されたものと同一のL−アスパラギナーゼII酵素のサブユニットを発現する修飾遺伝子(以後ansB*;配列番号2)に変換した。
【0032】
ansB*遺伝子は、上記に検討された大腸菌における効率的なタンパク質発現に好適な任意の染色体外ベクターに挿入することができる。下記に提供された実施例により詳述されるように、特にansB遺伝子を、プラスミドpET−27b+(ノバゲン社)に挿入し、電気穿孔法により大腸菌株BLR(DE3)に導入して、ansBプラスミドを担持し、メルク社のL−アスパラギナーゼIIに合致する均一なイソ型としてL−アスパラギナーゼIIのサブユニットを発現する大腸菌を提供した。
【0033】
株EN538(ATCC番号PTA7490として寄託された)として実施例により同定されたクローンを使用することが好ましく、大腸菌に好適な任意の当該技術分野に公知の方法を使用して培養する。好適な培養系としては、バッチ、フェドバッチおよび連続培養法が挙げられる。培養培地は、大腸菌に最適化された当該技術分野に公知の培地から選択される。培養物が、約20OD660から約200OD660の範囲で十分な密度に達したら、IPTGなどの適切な誘導因子を培養培地に加える。約0.5時間から約20時間の範囲の十分な時間後、培養培地および/または培養物から回収された細胞塊から標準的な方法により、産生されたL−アスパラギナーゼIIを精製する。
【0034】
この細胞塊は、遠心分離および/またはろ過により回収し、当該技術分野に公知の任意の方法により溶解する。細胞体の溶解は、酵素的細胞壁溶解に次いで浸透圧溶解、凍結融解、音波処理、機械的破壊(例えば、ミクロ流動化)、溶解剤の使用などを含む方法によって達成することができ、次にろ過および/または遠心分離して溶解性タンパク質の内容物から破壊された細胞塊を分離する。数サイクルの溶解、洗浄および分離を用いて、回収を最適化できる。
【0035】
次に酵素を回収して、硫酸アンモニウム沈殿、酸抽出、等電点クロマトグラフィー、アニオンまたはカチオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、FPLC(登録商標)(高速タンパク質液体クロマトグラフィー)、高性能液体クロマトグラフィーなどの周知の精製法によって、上澄液および/または培養培地から精製することができる。
【0036】
発酵工程の幾つかのパラメータにより、アスパラギナーゼ発現を最適化するか、またはペリプラズムから増殖培地へのタンパク質の漏出程度を制御するために調整することができる。これらの変数としては、培地構成物(例えば、炭素源および窒素源、ならびに添加アミノ酸または他の栄養物)、温度、pH、誘導因子濃度、および発現時間が挙げられる。大腸菌の全遺伝子系列(遺伝子型)もまた、発現および産物漏出に影響を及ぼし得る。タンパク質発現および宿主細胞からの漏出結果に依って、細胞(ペリプラズム)からのみ、または培地からのみ、または発酵槽内容物の全体からアスパラギナーゼ産物を回収することが望ましいと考えられる。
【0037】
ポリマー−L−アスパラギナーゼ複合体
本発明により調製されたL−アスパラギナーゼII酵素に関する好ましい実用性は、ポリマー複合化酵素の形態である。本発明のL−アスパラギナーゼ−ポリマー複合体は、一般に式(I):
(I)(R)z−NH−(ASN)
に相当し、
式中、
(ASN)は、L−アスパラギナーゼまたはその誘導体もしくは断片を表し;
NH−は、ポリマーへの結合のためにASN、その誘導体または断片に見られるアミノ酸のアミノ基であり;
zは、正の整数、好ましくは約1から約80であり;および
Rは、遊離性または非遊離性の形態でASNに結合される、実質的に非抗原性のポリマー残基である。
【0038】
複合体(R)の非抗原性ポリマー残基部分は、
【化1−1】

【化1−2】

【0039】
などのポリマーベース系の非限定的リストの中から選択することができ、式中:
1〜2、R10〜11、およびR22〜23は、同じであっても異なっていてもよく、非抗原性ポリマー残基から独立して選択され;
3〜9、R12〜21、およびR24(下記を参照)は、同じかまたは異なり、各々独立して水素、C1〜6アルキル類、C3〜12分枝状アルキル類、C3〜8シクロアルキル類、C1〜6置換アルキル類、C3〜8置換シクロアルキル類、アリール類、置換アリール類、アラルキル類、C1〜6ヘテロアルキル類、置換C1〜6ヘテロアルキル類、C1〜6アルコキシ、フェノキシおよびC1〜6ヘテロアルコキシ類の中から選択され;
Arは、多置換芳香族炭化水素基または多置換複素環基を形成する芳香族部分であり;
1〜11およびY13は、同じであっても異なってもよく、O、SおよびNR24から独立して選択され;
Aは、水素、アルキル基、標的部分、脱離基、官能基、診断剤、および生物活性部分から選択され;
Xは、O、NQ、S、SOまたはSO2であり;式中Qは、H、C1〜8アルキル、C1〜8分枝状アルキル、C1〜8置換アルキル、アリールまたはアラルキルであり;
Zは、標的細胞内に能動的に輸送された部分、疎水性部分、二官能性結合部分およびそれらの組合せから選択され;
1〜6およびLは、同じであっても異なってもよく、二官能性結合基から独立して選択され;
a、c、d、f、g、i、j、j’、k、l、n、o、p、qおよびtは、同じであっても異なっていてもよく、独立して0または大部分の態様において正の整数であることが好ましく;
b、e、r、r’、s、h、h’およびmは、同じであっても異なってもよく、独立して0または1であり;
mPEGは、H3CO(−CH2CH2O)u−および
uは、好ましくは約10から約2,300、より好ましくは、約200から約1000の正の整数である。
【0040】
上記の中で、Y1〜11およびY13はOであり;R3〜8、R12〜21、およびR24は、各々独立して水素またはC1〜6アルキル類であり、メチルおよびエチルが最も好ましいアルキル類であり、R9は、CH3であることが好ましい。
【0041】
本発明のさらなる態様において、複合体のポリマー部分は、L−アスパラギナーゼに対して複数の結合点を与えるものであり得る。このような系の非限定的なリストとしては:
【化2】

【0042】
が挙げられ、
式中全ての変数は、上記に説明されたものと同じである。
【0043】
L−アスパラギナーゼ複合体を作製するために使用できる活性化ポリマー類は、本来、上記のポリマー部分と直接一致する。主な違いは、L−アスパラギナーゼに見られるアミノ基に対するポリマー系の遊離性結合を促進する脱離基または活性基の存在である。したがって、化合物(i)−(xiii)は、p−ニトロフェノキシ、チアゾリジニルチオン、N−ヒドロキシスクシンイミジル
【化3】

【0044】
などの脱離基もしくは活性基、またはN−ヒドロキシベンゾトリアゾリル、ハロゲン、N−ヒドロキシフタルイミジル、イミダゾリル、O−アシル尿素、ペンタフルオロフェノールまたは2,4,6−トリクロロフェノールなどの他の好適な脱離基もしくは活性基、またはL−アスパラギナーゼが、複合化反応後に結合する位置に見られる、当業者にとって明白である他の好適な脱離基を含む。
【0045】
幾つかの好ましい活性化PEG類としては、本発明と同一の譲受人に譲渡された米国特許第5,122,614号明細書、米国特許第5,324,844号明細書、米国特許第5,612,460号明細書および米国特許第5,808,096号明細書に開示されたものが挙げられ、それらの内容は、参照することにより本明細書に援用されている。当業者により認識されるように、このような複合化反応を、典型的には数倍モル過剰の活性化PEGを用いた好適な緩衝液中で実施する。上記のSC−PEGのような線状PEG類により作製された幾つかの好ましい複合体は、平均して1酵素当り約20から約80のPEG鎖を含有することができる。その結果、これらに関しては、数百倍、例えば、200〜1000倍過剰モルを使用することができる。分枝状ポリマー類および酵素に結合されるポリマー類に用いられる過剰モルはより低く、下記に説明されるものと同じ技法を記載する特許および特許出願に記載された技法を用いて測定することができる。
【0046】
本発明の目的では、脱離基は、L−アスパラギナーゼ、例えばLysに見られるアミン基(求核性基)と反応できる基として理解するべきである。
【0047】
本発明の目的では、前述のものは、活性化ポリマーリンカーとも称される。ポリマー残基は、好ましくは、ポリアルキレンオキシドベースであり、より好ましくは、線状または分枝状であるポリエチレングリコール(PEG)ベースである。
【0048】
ここで上記の活性化ポリマー類を参照すると、Arは、多置換芳香族炭化水素基または多置換複素環式芳香族基を形成する部分であることが分かる。重要な特徴は、Ar部分が本質的に芳香族であることである。一般に、芳香族であるためには、π(パイ)電子は、環式分子の平面の上部および下部双方の「雲」内に共有しなければならない。さらに、π電子数は、ヒュッケル則(4n+2)を満たさなければならない。無数の部分が、その部分の芳香族の要件を満たし、当該技術分野に共通して理解される用語であるハロゲン(類)および/または側鎖での本明細書における使用に好適であることを当業者は認識するであろう。
【0049】
本発明の幾つかの好ましい態様において、活性化ポリマーリンカーは、本発明と同一の譲受人に譲渡された米国特許第6,180,095号明細書、米国特許第6,720,306号明細書、米国特許第5,965、119号明細書、米国特許第6,624,142号明細書および米国特許第6,303,569号明細書に従って調製され、それらの内容は、参照することにより本明細書に援用されている。この文脈内で、以下の活性化ポリマーリンカーが好ましい:
【化4−1】

【化4−2】

【0050】
本発明の別の一態様において、L−アスパラギナーゼポリマー複合体は、本発明と同一の譲受人に譲渡された米国特許第7,122,189号明細書および米国特許第7,087,229号明細書、ならびに米国特許出願第10/557,522号明細書、米国特許出願第11/502,108号明細書、および米国特許出願第11/011,818号明細書に記載されたものなど、ある一定の分枝状またはビシン(bicine)ポリマー残基を用いて作製される。このような特許出願の各開示は、参照することにより本明細書に援用されている。いくつかの好ましい活性化ポリマー類としては:
【化5】

【0051】
が挙げられる。
【0052】
また、当然のことながら、上記に示された脱離基は、好適な基のうちの1つに過ぎず、本明細書に記載された他のものも、過度に実験することなく使用することができる。
【0053】
別の態様において、活性化ポリマーリンカーは、本発明と同一の譲受人に譲渡された米国特許第5,643,575号明細書;米国特許第5,919,455号明細書;米国特許第6,113,906号明細書;および米国特許第6,566,506号明細書に記載されたものなど、分枝状ポリマー残基を用いて調製され、各々の開示は、参照することにより本明細書に援用されている。このような活性化ポリマー類は、以下の代表的な:
【化6】

【0054】
を有するポリマー系(v)−(ix)に相当し、
式中Bは、L−アスパラギナーゼIIであり、他の変数の全ては、先に定義されたとおりである。
【0055】
実質的に非抗原性のポリマー類
上記のとおり、R1〜2、R10〜11、およびR22〜23は、好ましくは、各々水溶性ポリマー残基であり、それらは、好ましくは、ポリアルキレンオキシド(PAO)類、より好ましくは、mPEGなどのポリエチレングリコール類などの実質的に非抗原性のものである。説明目的のために限定せずに、R1〜2、R10〜11、およびR22〜23のポリエチレングリコール(PEG)残基部分は:
J−O−(CH2CH2O)u−、
J−O−(CH2CH2O)u−CH2C(O)−O−、
J−O−(CH2CH2O)u−CH2CH2NR25−、および
J−O−(CH2CH2O)u−CH2CH2SH−、
の中から選択することができ、
式中:
uは、重合度、すなわち、約10から約2,300であり;
25は、水素、C1〜6アルキル類、C2〜6アルケニル類、C2〜6アルキニル類、C3〜12分枝状アルキル類、C3〜8シクロアルキル類、C1〜6置換アルキル類、C2〜6置換アルケニル類、C2〜6置換アルキニル類、C3〜8置換シクロアルキル類、アリール類、置換アリール類、アラルキル類、C1〜6ヘテロアルキル類、置換C1〜6ヘテロアルキル類、C1〜6アルコキシ、フェノキシおよびC1〜6ヘテロアルコキシの中から選択され、
Jは、キャッピング基、すなわち、ポリマーの末端に見られる基であり、幾つかの態様において、NH2、OH、SH、CO2H、C1〜6アルキル類、好ましくはメチルのいずれか、またはこのような基が当業者により理解される他のPEG末端活性基から選択することができる。
【0056】
特に好ましい一実施形態において、R1〜2、R10〜11、およびR22〜23は、
CH3−O−(CH2CH2O)u−、CH3−O−(CHCHO)u−CH2C(O)−O−、およびCH3−O−(CH2CH2O)u−CH2CH2NH−、およびCH3−O−(CH2CH2O)u−CH2CH2SH−の中から選択され、
式中uは、正の整数であり、重量平均分子量が、約200Daから約80,000Daになるように選択されるのが好ましい。より好ましくは、R1〜2、R10〜11、およびR22〜23は、独立して約2,000Daから約42,000Daの平均分子量を有し、最も好ましくは、約5,000Daから約40,000Daの平均分子量を有する。他の分子量はまた、当業者のニーズに適応させるように考慮されている。
【0057】
PEGは一般に、構造:
−O−(CH2CH2O)u
により表され、R1〜2、R10〜11、およびR22〜23は、この式の残基を含んでなることが好ましい。ポリマーに関する重合度は、ポリマー鎖における反復単位の数を表し、ポリマーの分子量に依存する。
【0058】
本発明と同一の譲受人に譲渡された米国特許第5,643,575号明細書(’575特許)に記載されたものなどのポリプロピレングリコール類、分枝状PEG誘導体、シアウォーター社(Shearwater Corporation)の2001年カタログ「生物医学適用のためのポリエチレングリコールおよび誘導体(Polyethylene Glycol and Derivatives for Biomedical Application)」に記載されたものなどの「スター型PEG類」および多アームPEG類もまた有用である。前述の各開示は、参照することにより本明細書に援用されている。’575特許により得た分枝形成は、単一の結合点から生物活性分子上にポリマー添加を増加させる方法として第二級または第三級分枝形成を可能にする。当然のことながら、過度に実験することなく、必要に応じて、水溶性ポリマーを二官能性結合基への結合のために官能化することができる。
【0059】
例えば、その開示が参照することにより本明細書に援用されるNOF社(NOF Corp.)の「薬物送達系カタログ(Drug Delivery System catalog)」、第8版、2006年4月に記載されたものなどの多アームPEG−OHまたは「スターPEG」製品を、前述の米国特許第5,122,614号明細書または米国特許第5,808,096号明細書に記載された活性化技法を用いて好適に活性化されたポリマーに変換することを含む方法により、本発明の複合体を作製することができる。具体的には、PEGは、式:
【化7】

【0060】
である可能性があり
式中:
u’は、好ましくは、総分子量が約5,000から約40,000のポリマー類を提供するために、約4から約455の整数であり;3までの残基の末端部分は、メチルまたは他の低級アルキルによりキャッピングされる。
【0061】
幾つかの好ましい実施形態において、組換えタンパク質に対する結合を促進させるために、4つ全てのPEGアームを、好適な脱離基、すなわち、N−ヒドロキシスクシンイミジルカーボネート(SC)などに変換する。変換前のこのような化合物としては:
【化8−1】

【化8−2】

【0062】
が挙げられる。
【0063】
本明細書に含まれたポリマー物質は、室温で水溶性であることが好ましい。このようなポリマー類の非限定的なリストとしては、ポリエチレングリコール(PEG)またはポリプロピレングリコール類などのポリアルキレンオキシドホモポリマー類、ポリオキシエチレン化ポリオール類、それらのコポリマー類、および水溶性が維持されるという条件のそれらのブロックコポリマー類が挙げられる。
【0064】
さらなる実施形態において、PAOベースのポリマー類に対する代替物として、R1〜2、R10〜11、およびR22〜23は、デキストラン、ポリビニルアルコール類、炭水化物ベースのポリマー類、ヒドロキシプロピルメタクリルアミド(HPMA)、ポリアルキレンオキシド類、および/またはそれらのコポリマー類などの1種または複数種の事実上非抗原性の材料の中から、各々任意に選択される。また、その内容が参照することにより本明細書に援用される、本発明と同一の譲受人に譲渡された米国特許第6,153,655号明細書を参照されたい。PEGなどのPAO類に関して本明細書に記載されたものと同じ活性化タイプが使用されることは、当業者により理解されるであろう。前述のリストは単に説明するためのものであること、本明細書に説明された品質を有する全てのポリマー材料が考慮されること、ポリプロピレングリコール類などの他のポリアルキレンオキシド誘導体もまた考慮されることを当業者はさらに認識するであろう。
【0065】
二官能性リンカー基:
本発明の多くの態様において、L1〜6およびL8は、ポリマー鎖、例えば、R1〜2、R10〜11、および/またはR22〜23の結合を促進させる結合基である。提供された結合は、直接的か、または当業者に公知のさらなる結合基を介し得る。本発明のこの態様において、L1〜6およびL8は、同じであっても異なってもよく、二官能性およびヘテロ二官能性脂肪族ならびに芳香族−脂肪族基、アミノ酸類など、当業者に周知の多種多様の基から選択することができる。したがって、L1〜6およびL8は、同じであっても異なってもよく:
−[C(=O)]v’(CR3233t’−、
−[C(=O)]v’O(CR3233t’O−、
−[C(=O)]v’O(CRR3233t’NR36−、
−[C(=O)]v’O(CR3233O)t’NR36−、
−[C(=O)]v’NR31(CR3233t’−、
−[C(=O)]v’NR31(CR3233t’O−、
−[C(=O)]v’NR31(CR3233O)t’−、
−[C(=O)]v’NR31(CR3233O)t’(CR3435y’−、
−[C(=O)]v’NR31(CR3233O)t’(CR3435y’O−、
−[C(=O)]v’NR31(CR3233t’(CR3435O)y’−、
−[C(=O)]v’NR31(CR3233t’(CR3435O)y’NR36−、
−[C(=O)]v’NR31(CR3233t’NR36−、
【化9】

【0066】
式中:
31〜R37は、水素、アミノ、置換アミノ、アジド、カルボキシ、シアノ、ハロ、ヒドロキシル、ニトロ、シリルエーテル、スルホニル、メルカプト、C1〜6アルキルメルカプト、アリールメルカプト、置換アリールメルカプト、置換C1〜6アルキルチオ、C1〜6アルキル類、C2〜6アルケニル、C2〜6アルキニル、C3〜19分枝状アルキル、C3〜8シクロアルキル、C1〜6置換アルキル、C2〜6置換アルケニル、C2〜6置換アルキニル、C3〜8置換シクロアルキル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、C1〜6ヘテロアルキル、置換C1〜6ヘテロアルキル、C1〜6アルコキシ、アリールオキシ、C1〜6ヘテロアルコキシ、ヘテロアリールオキシ、C2〜6アルカノイル、アリールカルボニル、C2〜6アルコキシカルボニル、アリールオキシカルボニル、C2〜6アルカノイルオキシ、アリールカルボニルオキシ、C2〜6置換アルカノイル、置換アリールカルボニル、C2〜6置換アルカノイルオキシ、置換アリールオキシカルボニル、C2〜6置換アルカノイルオキシ、および置換アリールカルボニルオキシからなる群から独立して選択され、
置換基は、アシル、アミノ、アミド、アミジン、アラアルキル、アリール、アジド、アルキルメルカプト、アリールメルカプト、カルボニル、カルボキシレート、シアノ、エステル、エーテル、ホルミル、ハロゲン、ヘテロアリール、ヘテロシクロアルキル、ヒドロキシ、イミノ、ニトロ、チオカルボニル、チオエステル、チオアセテート、チオホルメート、アルコキシ、ホスホリル、ホスホネート、ホスフィネート、シリル、スルフヒドリル、スルフェート、スルホネート、スルファモイル、スルホンアミド、およびスルホニルからなる群より選択され;
(t’)および(y’)は、ゼロまたは正の整数から独立して選択され、好ましくは、1から6であり;および
(v’)は、0または1である。
【0067】
1〜6およびL8は:
−C(O)CH2OCH2C(O)−;
−C(O)CH2NHCH2C(O)−;
−C(O)CH2SCH2C(O)−;
−C(O)CH2CH2CH2C(O)−;および
−C(O)CH2CH2C(O)−;
の中から選択されることが好ましい。
【0068】
あるいは、好適なアミノ酸残基は、任意の公知の天然L−アミノ酸類、例えば、いくつか例を挙げれば、アラニン、バリン、ロイシンなど、および/またはそれらの組合せから選択することができる。L1〜6およびL8としては、サイズが、例えば、約2から約10のアミノ酸残基の範囲であるペプチドを挙げることもできる。
【0069】
天然アミノ酸類、ならびに種々の当該技術分野に公知の非天然アミノ酸類(DまたはL)の疎水性または非疎水性の誘導体および類縁体もまた、本発明の範囲内に入るように考慮されている。
【0070】
A部分
1.脱離基または活性化基
Aが活性化基である態様において、好適な部分としては、限定はしないが、N−ヒドロキシベンゾトリアゾリル、ハロゲン、N−ヒドロキシフタルイミジル、p−ニトロフェノキシル、イミダゾリル、N−ヒドロキシスクシンイミジル、チアゾリジニルチオン、O−アシル尿素、ペンタフルオロフェノキシル、2,4,6−トリクロロフェノキシルなどの基または当業者に明白である他の好適な脱離基が挙げられる。
【0071】
本発明の目的では、脱離基は、所望の標的、すなわち、生物活性部分、診断剤、標的部分、二官能性スペーサー、中間体などに見られる求核剤と反応することができる基であると理解される。したがって標的は、タンパク質、ペプチド、酵素、ドキソルビシンなどの天然または化学的合成治療剤分子、モノ保護ジアミンなどのスペーサーに見られるNH基などの置換のための基を含有する。Aに関して選択された部分は、生物活性求核剤の他にも他の分子とも反応できることは理解される。
【0072】
2.官能基
Aはまた、官能基であり得る。このような官能基の非限定例としては、アミン含有スペーサーを介してビシン部分に結合できるマレイミジル、ビニル、スルホン、ヒドロキシ、アミノ、カルボキシ、メルカプト、ヒドラジド、カルバゾールなどの残基が挙げられる。ビシン部分に結合したら、ポリペプチドのシステイン残基、アミノ酸またはペプチドスペーサーなどの標的に、ビシン−ポリマーを結合させるために官能基(例えば、マレイミド)を使用することができる。
【0073】
3.アルキル基
Aがアルキル基である式(I)の態様において、好適な基の非限定リストは、C1〜6アルキル類、C2〜6アルケニル類、C2〜6アルキニル類、C3〜19分枝状アルキル類、C3〜8シクロアルキル類、C1〜6置換アルキル類、C2〜6置換アルケニル類、C2〜6置換アルキニル類、C3〜8置換シクロアルキル類、アラルキル類、C1〜6ヘテロアルキル類、および置換C1〜6ヘテロアルキル類からなる。
【0074】
Z部分およびそれらの機能
本発明の一態様において、Zは、LがL1〜6を定義する基の中から選択される二官能性リンカーであり、Y12が、Y1を定義するものと同じ基の中から選択されるL7−C(=Y12)である。本発明のこの態様において、Z基は、L−アスパラギナーゼとポリマー送達系の残部との間の結合として役立つ。本発明の他の態様において、Zは、標的細胞、疎水性部分、およびそれらの組合せに能動輸送される部分である。存在する場合のZ’は、標的細胞、疎水性部分、およびそれらの組合せに能動輸送される部分である二官能性リンカーとして役立ち得る。
【0075】
本発明のこの態様において、インビボ加水分解は、L−アスパラギナーゼからポリマーを開裂し、Z部分になお結合しながら酵素を細胞外液に遊離するように、遊離性ポリマー系を調製する。例えば、1つの可能性のあるZ−Bの組合せは、ロイシン−L−アスパラギナーゼである。
【0076】
L−アスパラギナーゼ複合体の調製
例示目的のために、好適な複合化反応は、L−アスパラギナーゼと、上記の好適に活性化されたポリマー系とを反応させることを含む。この反応は、pHが約6.5〜8.5の範囲内でPBS緩衝系の使用などを含む、タンパク質修飾の当業者に周知の条件を用いて実施されることが好ましい。大部分の場合、過剰の活性化ポリマーをL−アスパラギナーゼと反応させることが考慮されている。
【0077】
この種の反応は、しばしばL−アスパラギナーゼに結合された1種または複数種のポリマーを含有する複合体形成を生じる。認識されるように、しばしば、種々のフラクションを単離し、より均一性の高い産物を提供することが望ましい。本発明の大部分の態様において、反応混合物を集め、好適なカラム樹脂に負荷し、所望のフラクションを、緩衝液の濃度を増しながら連続的に溶出させる。フラクションは、好適な分析手段により分析して複合化タンパク質の純度を測定してから、さらに処理される。合成経路および選択された活性化ポリマーに関係なく、複合体は、本明細書に定義された式(I)に一致するであろう。本明細書に記載された合成技法から生成する好ましい幾つかの化合物としては:
【化10】

【0078】
が挙げられ、
式中BはL−アスパラギナーゼである。
【0079】
本発明に従って作製されたさらに別の複合体としては:
【化11】

【0080】
が挙げられ、
式中全ての変数は、上記に説明されたものと同じである。例えば、複合体に含まれた幾つかの実施形態は:
【化12】

【0081】
からなる群より選択され、
式中BはL−アスパラギナーゼである。
【0082】
さらなる複合体としては:
【化13】

【0083】
が挙げられ、
式中BはL−アスパラギナーゼである。複合体に使用される非限定リストは、
【化14】

【0084】
の中にあり、
式中BはL−アスパラギナーゼである。
【0085】
特に好ましい複合体は:
【化15】

【0086】
であり、
mPEGの分子量は、約10,000から約40,000である。
【0087】
ビシンベースのポリマー系が用いられる場合、2種の好ましい複合体は:
【化16】

【0088】
であり、
mPEGの分子量は、上記と同じである。
【0089】
L−アスパラギナーゼのPEG化は、1タンパク質当りの総PEG結合体、PEGポリマーのサイズ、およびPEGリンカー設計に関して経験的に最適化されることを注記する。PEG化の最適化評価のために、PEG化L−アスパラギナーゼの重要な特徴は、インビトロアッセイ(例えば、酵素活性および安定性)およびインビボアッセイ(例えば、薬物動態学および薬力学)の双方を含む。
【0090】
治療方法
本明細書に記載されたDNA、ベクターおよび宿主細胞により産生されたL−アスパラギナーゼは、「Elspar」(メルク社)および「Oncaspar」(エンゾン・ファーマシューティカルズ社(Enzon Pharmaceuticals,Inc.))に関して当該技術分野に公知の方法および適応症の全てに有用である。したがって、本発明のL−アスパラギナーゼII酵素は、ポリアルキレンオキシドが複合化されていても、またはタンパク質が複合化されていなくても、このような治療に反応する疾患または障害または他の病態などを治療するために有効な量で、それを必要とする患者に投与される。当業者は、「Elspar」および「Oncaspar」の公知の性質から外挿された好適な量、投与経路および投与計画を認識するであろう。
【実施例】
【0091】
下記に説明される以下の非限定的な実施例は、本発明のある一定の態様を例示している。
【0092】
実施例1
L−アスパラギンアミドヒドロラーゼ、タイプEC−2、EC3.5.1.1:大腸菌−L−アスパラギナーゼIIタンパク質の配列決定
メルク社および協和発酵工業株式会社からそれぞれ市販されているL−アスパラギナーゼII酵素のアミノ酸配列を得るために、これらのタンパク質をタンパク質配列分析に供し、公表された大腸菌K−12 ansBの遺伝子配列(GenBank登録番号M34277)と比較した。
【0093】
L−アスパラギナーゼIIは、以下のとおり配列決定を行った。L−アスパラギナーゼII(80mg/mL、メルク)の2mLの一定分量を試薬グレード水で希釈し、5.0mg/mLのタンパク質濃度の希釈溶液を得た。この希釈溶液を0.22μmフィルターを通してバイアルにろ過し、細菌汚染負荷を減じてからタンパク質配列分析を実施した。同様に100mgのL−アスパラギナーゼII(協和発酵工業)を20mLの試薬グレード水に溶解し、5.6mg/mLの希釈溶液を得て滅菌ろ過した。定量的アミノ酸分析、N末端配列決定、ペプチドマッピング、および質量分析法を用いて2つのタンパク質の完全配列を決定した。トリプシン消化、キモトリプシン消化、Lys−C消化およびシアノーゲンブロミド(CnBr)断片を調製し、高圧液体クロマトグラフィー(「HPLC」)により分離し、質量分析およびアミノ酸配列決定を、単離されたペプチドに対して実施した。この完了した分析により、2つの市販のL−アスパラギナーゼII酵素間で明らかに配列同一性を示した。しかしながら、4つのアミノ酸位置は、大腸菌K−12から誘導されたアスパラギナーゼの遺伝子配列とは異なった。これら4つの異なる位置を、下表1に示す。
【表1】

【0094】
実施例2
組換えL−アスパラギナーゼIIを発現する大腸菌株EN538の構築
大腸菌K−12 ansBのL−アスパラギナーゼIIをコードする遺伝子を、以下のとおり、実施例1の表1により示された残基置換によりL−アスパラギナーゼIIを発現するよう構成した。大腸菌K−12 ansBの326の成熟アミノ酸配列L−アスパラギナーゼIIは、ジェニングス MP(Jennings MP)およびビーチャム IR(Beecham IR)により報告された(1990年、J Bacteriol 172:1491−1498頁;GeneBank番号M34277)978塩基対セグメントにコードされる。次に成熟タンパク質より前の22のアミノ酸シグナルペプチドを含むansB遺伝子が、従来のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法によって別の大腸菌K−12株(GX1210;ジェネックス社(Genex Corporation)から入手)からクローン化された。具体的には、オリゴヌクレオチド
5’−TACTGAATTCATGGAGTTTTTCAAAAAGACGGCA−3’(配列番号4)および
5’−ACAGTAAGCTTAGTACTGATTGAAGATCTGCTG−3’(配列番号5)が、パーキンエルマー(Perkin Elmer)Gene Amp9600サーモサイクラー、Taqポリメラーゼ、および標準試薬を用いて、30秒94℃、30秒40℃、1分72℃を25サイクルのサイクリングパラメータで、プライマーとして使用された。
【0095】
増幅された約1kbバンドを、TBEアガロースゲル電気泳動により精製し、Eco RIおよびHind IIIで消化し、バクテリオファージベクターM13mp8にクローン化した。ansB遺伝子のDNA配列[Genebank番号M34277]は、手動でのDNAジデオキシ配列決定法により確認された。次にansB遺伝子の4つのコドンを変化させるために(塩基530においてGTGからGCに;塩基640においてAATからGATに;塩基1205においてTCTからACTに;および塩基1239においてACCからAACに)、クローン化ansB遺伝子を部位特異的変異に用い、ウィットロウ(Whitlow)およびフィルプラ(Filpula)[Single Chain Fvs、In Tumor Immunology.A Practical Approach、G.ガラガー(G.Gallagher)、R.C.リース(R.C.Rees)、およびC.W.レイノルズ(C.W.Reynolds)編、1993年、オックスフォード大学プレス(Oxford University Press)、279−291頁]により記載されたアマシャムRPN1523バージョン2変異キットを用いて代替のアミノ酸(Val27Ala;Asn64Asp;Ser252Thr;およびThr263Asn)をコードした。
【0096】
具体的には、使用された変異オリゴヌクレオチドは、
Val27Alaの変換に関して5’−CAACTTTACCCGCTGTGTAGTTAG−3’(配列番号6);
Asn64Aspの変換に関して5’−CAGCCAGACATCATCGTTCATGTC−3’(配列番号7);
Ser252Thrの変換に関して5’−GTCGAACACAGTTTTATACAGGTTGC−3’(配列番号8);
Thr263Asnの変換に関して5’−CTGCAGTACCGTTTTTCGCGGCGG−3’(配列番号9)
であった。4つの変換の全ては、単一バッチ中で行われ、DNA配列決定は、修飾ansB遺伝子配列[本明細書においてansB*遺伝子(配列番号2)と称される]を確認した。
【0097】
ansB遺伝子のプラスミドpET−27b+(ノバゲン社)へのクローニングは、PCR増幅により、それぞれ遺伝子の5’および3’末端において、フランキング制限部位、NdeIおよびBamHIを導入することによって達成された。制限酵素NdeIおよびBamHIによる合成DNAの消化後、1キロベースの遺伝子を、やはりこれら2つの酵素により消化されたプラスミドベクターpET−27b(+)プラスミドにT4 DNAリガーゼを介して結合させた。製造元の説明書に従ってBTX Electro Cell Manipulator 600を用いた電気穿孔法により、組換えプラスミドを大腸菌株BLR(DE3)に導入した。
【0098】
pETベクターの構築により、IPTG付加の結果誘導可能なT7プロモーターの後ろにansB遺伝子が置かれる。IPTGは、lacUV5プロモーターの制御下、染色体のT7RNAポリメラーゼ遺伝子発現を誘導し、次いでT7RNAポリメラーゼは、ansB遺伝子を転写して、高レベル発現のansB*タンパク質産物を得る。
【0099】
この形質転換混合物を、カナマイシン(15μg/ml)を含有するLB寒天プレートで平板培養し、プラスミドpET−27b(+)/ansB*を含有するコロニーの選択を可能にした。これは、図1に示されるようにプラスミドpEN537と称される。単離されたコロニーは、平板培養することによってさらに精製し、ノバゲン社のpETシステムマニュアル第9版に記載されたものなどの標準的な方法によりIPTG誘導性遺伝子発現に関して分析した。遺伝子発現は、Applied Biosystems Prism310 Genetic Analyzerを用いて検証された。
【0100】
実施例3
組換えL−アスパラギナーゼIIの発現およびその酵素の部分的特性化
株EN538を、カナマイシン(15μg/ml)と共にLB培地中37℃で培養した。約0.8のOD600の時点でIPTG(1mM)を培養物に加え、遺伝子発現の誘導を、2時間、3時間または4時間のいずれかで進行させた。培養物のSDS−PAGE分析により、高レベル発現の34.6kDaのansB*ポリペプチドを確認した。抗大腸菌アスパラギナーゼIIウサギポリクローナル抗体を用いたウェスタンブロット法により、SDS−PAGE上で主に誘導されたタンパク質バンドがL−アスパラギナーゼIIであることを確認した。
【0101】
シグナルペプチド除去後、L−アスパラギナーゼIIは、ペリプラズム空間に通常分泌されるので、細胞または培地中のアスパラギナーゼの所在を調べるために、さらに実験を実施した。培養物を遠心分離し、ペレット化された細胞をリゾチーム溶液中で再懸濁して細胞壁を破壊してから、可溶性および不溶性細胞関連タンパク質、さらに培養時に増殖培地に遊離されたタンパク質を、SDS−PAGEにより調べた。
【0102】
これらの分析により、37℃で3時間または4時間の誘導は、総細胞タンパク質の約30%においてほぼ最大のansB*発現を提供することが示された。少なくとも70%のアスパラギナーゼは、リゾチーム処理により細胞ペレットから溶解することができる。培養中に増殖培地内に遊離されたアスパラギナーゼの量は、発現された全アスパラギナーゼの約25%である。
【0103】
リゾチーム処理によりペリプラズムから遊離された可溶性アスパラギナーゼは、基質であるアスパラギンからのアスパラギナーゼ反応産物であるアスパラギン酸を測定するRP−HPLCアッセイを用いて、酵素活性に関してさらに調べた。IPTG誘導サンプルからの粗抽出物中の酵素活性は約60IU/mgであったが、一方、非誘導培養物から調製されたサンプル中の酵素活性はわずか約2IU/mgであった。タンパク質は、この段階では約20%しか純粋でなかったことから、これは、純粋なアスパラギナーゼII(約250〜300IU/mg)の報告された比活性に十分に匹敵する。このアスパラギナーゼ調製物のN末端配列分析もまた、アプライドバイオシステムズ(Applied BioSystems)のPROCISEタンパク質シーケンサーを用いて達成された。N末端配列のLPNITILATGGTIAGGGDSA(配列番号10)は、成熟した、正しくプロセシングされたアスパラギナーゼの予測されたN末端タンパク質の配列と正確に一致する。LC−MS分析(ジュピター(Jupiter)C−18逆相カラム)もまたこのサンプルに対して実施した。主要タンパク質種は、成熟ansB*アスパラギナーゼとして予測された質量と正確に合致する34,592の質量を示した。ノルロイシン置換を有するタンパク質種の証拠は見られなかった。
【0104】
実施例4
pEN537プラスミドおよび大腸菌BLR染色体からのL−アスパラギナーゼII(ansBおよびansB*遺伝子)のタンパク質コード配列
大腸菌BLR(DE3)[ノバゲン社;カタログ番号69208−3から入手]から、染色体DNAを調製した。カナマイシン(15μg/ml)を有するLB培地中、37℃で増殖させたBLRの2mlの培養物を、微量遠心管中2分間遠心分離し、細胞ペレットを0.5mlのSTET緩衝液中で再懸濁した。フェノール/クロロホルム(0.5ml)を加えてボルテックスし、室温で5分間遠心分離した。上澄液を集めて、50μlの3M酢酸ナトリウムおよび1mlのエタノールと混合した。氷上で10分間インキュベートした後、DNAを遠心分離によりペレットにし、100μlの水中で再懸濁した。PCRをサンプルに対して実施し、染色体ansB遺伝子を単離した。PCR反応混合物は、5μlの10×高フィデリティーPCR緩衝液、5μlの10mM dNTP混合物、1μlの50mM MgSO4、0.5μl(50pmol)のオリゴヌクレオチド
5’−GATCCATATGGAGTTTTTCAAAAAGACGGCAC−3’(配列番号11)、
0.5μl(50pmol)のオリゴヌクレオチド
5’−GTACGGATCCTCATTAGTACTGATTGAAGATC−3’(配列番号12)、
1μlのBLR DNA、36μlの蒸留水、および1μlの白金Taq高フィデリティーポリメラーゼを含有した。インビトロゲン社から入手した市販のTOPOクローニングシステムを用いてクローン化し、製造元により記載されたとおり実施した。
【0105】
PCR産物およびTOPO TAベクターを用いるクローン化反応を、6μl中室温で30分間実施した。反応のライゲーション産物を、コンピテントTOP10大腸菌細胞内で形質転換し、カナマイシン選択と共にLB寒天プレート上で平板培養した。クローン化ansB BLR染色体遺伝子およびpEN537ansB*遺伝子のDNA配列分析を、アプライドバイオシステムズのPrism 310 Genetic Analyzerを用いてプラスミドに対して実施した。双方の鎖を配列決定した。BLR ansB遺伝子およびpEN537 ansB*遺伝子のコード配列は、成熟タンパク質コード配列において29のミスマッチ塩基の配置によって異なる。しかしながら、これらの塩基置換のいずれも、コドン縮退のためのアミノ酸配列における変性を生じなかった。BLRからのコード化ansBタンパク質およびpEN537からのコード化ansB*タンパク質は、アミノ酸配列において同一であることが確認された。326位置の全ては、これら2つのアスパラギナーゼタンパク質において同一であることが示された。
【0106】
実施例5
細胞および培養培地からの精製
以下の処理は、ハームス(Harms)ら、1991年、Protein Expression and Purification 2:144−150頁から適合させた。
【0107】
上記のとおり大腸菌株EN538の培養物は、シェーカーインキュベーター内で、カナマイシン(15μg/ml)の存在下、Luriaブロス中37℃で増殖させる。0.8のOD660の時点で、IPTGを1mMの最終濃度まで加え、さらに4時間増殖を続けた。細胞を遠心分離により回収した。分析目的のために、2mlの培養物を用いる。
【0108】
細胞抽出物を作製するために、ペレットを、1mlの破壊用緩衝液(50mM KPO、pH7.5、1mM EDTA、0.5mMジチオトレイトール)中に懸濁し、細胞をミクロ流動化により破壊する。細胞デブリを遠心分離により除去し、上澄液をL−アスパラギナーゼII活性に関してアッセイし、また、ポリアクリルミドゲル電気泳動(SDS PAGE)により酵素産生を評価するために使用する。浸透圧性ショック分画化は、参照することにより本明細書に援用されるボイド(Boyd)ら、1987年、Proc.Natl.Acd.Sci.USA84:8525−8529頁により記載されたとおり実施する。手短に言うと、ペレットを、2mlのスフェロブラスト緩衝液(0.1Mトリス−HCl、pH8.0、0.5Mショ糖、0.5mM EDTA)に懸濁し、氷上で5分間インキュベートし、遠心分離する。ペレットを室温に温めて、0.3mlの氷水中に再懸濁し、5分間氷上でインキュベートし、再度遠心分離する。上澄液のペリプラズムフラクションはさらに処理せずに、活性判定および電気泳動に用いる。
【0109】
酵素精製
大スケールL−アスパラギナーゼIIの調製のために、細胞をバッチ培養(10リットル)中で増殖させ、上記の浸透圧性ショックに供する。培養容量1リットル当り50〜100mlのスフェロブラスト緩衝液および30〜40mlの水を使用する。以下のプロトコルは、2リットルの培養物から得られたペリプラズム抽出物から開始する。全てのステップを5〜10℃で実施する。
【0110】
硫酸アンモニウムによる分画化
100mlの上澄液に、29.5gの固形硫酸アンモニウムを加えて50%飽和を得る。2時間後、沈殿物を遠心分離により除去し、ペレットを廃棄する。上澄液を、硫酸アンモニウムにより90%飽和(100mlに対して27.2g)にする。ペレットを一晩放置後、遠心分離によりこれを集め、数ミリリットルの25mMのピペラジン−HCl緩衝液、pH5.5に溶解し、同じ緩衝液に対して透析する。この同じ処理をまた、残りの細胞培養物にも適用して分泌L−アスパラギナーゼIIを回収する。
【0111】
等電点クロマトグラフィー
1×30cmカラムのポリ緩衝液交換器PBE94を、200mlの上記のピペラジン−HCl緩衝液(開始緩衝液)により平衡にした。サンプル溶液(10ml)を適用した後、カラムを、30ml/時間の流速で200mlの溶出用緩衝液(Polybuffer 74、HOで10倍希釈し、HClによりpH4.0に調整)により溶出する。2mlのフラクションを集め、20μlのサンプルの適切な希釈後、L−アスパラギナーゼII活性に関してアッセイする。アスパラギナーゼ含有フラクションをプールし、飽和硫酸アンモニウム溶液に対して透析する。酵素ペレットを90%の飽和硫酸アンモニウムで洗浄し、この媒体中懸濁液として保存する。
【0112】
実施例6
細胞および培養培地からの精製
上記のとおり大腸菌株EN538の培養物を、発酵槽中25℃から37℃でカナマイシンの存在下、培養培地中で増殖させる[例えば、フィルプラ,D.(Filpula,D.)、マクガイア,J.(McGuire,J.)、およびウィットロウ,M.(Whitlow,M.)(1996年)「Production of single−chain Fv monomers and multimers,In Antibody Engineering:A Practical Approach」(J.マッカファーティ(J.McCafferty)、H.フーゲンブーム(H.Hoogenboom)、およびD.J.キスウェル(D.J.Chiswell)編;オックスフォード大学プレス、オックスフォード、英国))253−268頁]。OD660が20から200の時点で、IPTGを0.1〜1mMの最終濃度まで加え、さらに1〜12時間増殖を継続した。遠心分離により細胞を回収し、マントン−ガウリン(Manton−Gaulin)細胞ホモジナイザーを通過させた。細胞溶解液を6℃で30分間24,300gで遠心分離し、上澄液を集め、限外ろ過/ダイアフィルトレーションに供し、導電度を3mSに調整する。溶解液のpHを、25%酢酸により4.1に調整し、5mM酢酸ナトリウム、25mMのNaCl、pH4.1の緩衝液によりダイアフィルトレーションする。
【0113】
S−セファロースカチオン交換カラムクロマトグラフィー上でアスパラギナーゼを捕捉する。結合アスパラギナーゼを、12.5mMリン酸カリウム、25mM NaCl、pH6.4(緩衝液NK64)により溶出する。
【0114】
S−セファロースクロマトグラフィーから集められたアスパラギナーゼピークフラクションをプールし、0.1%ツイーン(Tween)80を加えて室温で20分間インキュベートする。1容量の緩衝液NK64を加え、サンプルをQ−セファロースカラム上に負荷する。Qカラムを、Q−25緩衝液(25mM NaCl、10mMリン酸カリウム、pH6.4)により洗浄し、次いで緩衝液Q−135(10mMリン酸カリウム中135mM NaCl、pH6.4)により溶出する。
【0115】
プールされた酵素フラクションに、0.25Mの最終濃度まで硫酸マグネシウム粉末を加え、10mMリン酸カリウム、pH7.8中の0.25M MgSOにより予め平衡にしたフェニル疎水性相互作用カラム上に負荷する。アスパラギナーゼを流液フラクション中に集め、30kDa分子量カットオフポリスルホン膜を用いたFiltronユニット中、75mM NaCl、1mMリン酸カリウム、pH7.2の緩衝液によりダイアフィルトレーションする。
【0116】
アスパラギナーゼのフラクションを、等容量の水で希釈し、ヒドロキシアパタイトカラム上に負荷する。緩衝液H15(50mM NaCl、15mMリン酸カリウム、pH7.8)で溶出して不純物を除去する。精製されたアスパラギナーゼを、緩衝液H150(50mM NaCl、150mMリン酸カリウム、pH7.8)で溶出する。
【0117】
実施例7
細胞および培養培地からの精製
実施例6に記載されたとおり、増殖、誘導、およびホモジナイズされた大腸菌株EN538の培養物を、20mM酢酸ナトリウム、40mM NaCl、pH4.6に対して、A280が0.1未満、導電度が5mSになるまで、2.9L/分の流速、16psiで50kDaのMicrogonホローファイバーで8つの産物容量を用いてダイアフィルトレーションする。0.22μm膜を用いて産物をろ過する。
【0118】
カチオン交換クロマトグラフィーを、Poros−HSカラムにより実施する。カラムを、20mM酢酸ナトリウム、pH4.6、40mM NaCl中で平衡にする。ダイアフィルトレーションした清澄媒体を、0.5カラム容量(CV)/分で負荷し、カラムを5CVの20mM酢酸ナトリウム、pH4.6、40mM NaClで洗浄する。アスパラギナーゼを20mM酢酸ナトリウム、pH4.6、135mM NaClで溶出する。
【0119】
上記の産物に、0.2Mの二塩基性リン酸ナトリウム、pH9.2を加えて6.3にpHを調整する。次に0.74L/分の流速、16.5psiで50kDaのMicrogonホローファイバーフィルターを用いて10mMリン酸ナトリウム、pH6.3に対してサンプルをダイアフィルトレーションする。
【0120】
アニオン交換クロマトグラフィーを、TMAE Fractogelに対して実施する。このカラムを、10mM酢酸ナトリウム、pH6.4中で平衡にする。ダイアフィルトレーションしたカチオンカラム溶出液を0.5CV/分で負荷し、このカラムを、5CVの10mM酢酸ナトリウム、pH6.4で洗浄する。さらにこのカラムを、5CVの10mM酢酸ナトリウム、pH6.4、25mM NaClで洗浄する。10mM酢酸ナトリウム、pH6.4、100mM NaClでアスパラギナーゼを溶出する。
【0121】
産物は、40mg/mlの濃度まで50kDa膜を用いて10mMリン酸ナトリウム、pH7.5に対してダイアフィルトレーションし、0.22μm膜を通してろ過する。
【受託番号】
【0122】
寄託に関する記載
特許手続きの目的のために、微生物の寄託に関して国際認識に対するブダペスト条約の要件を満たす条件下、以下の生物学的材料の培養物は、以下の国際寄託機関に寄託されている:
American Type Culture Collection(ATCC)
(米国20110−2209、バージニア州、マナッサス(Manassas)、University Boulevard10801所在)
国際寄託登録
生物/ベクター:大腸菌/EN538
ATCC番号 :PTA7490
寄託日 :2006年4月11日

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大腸菌の染色体および組換え染色体外ベクターの少なくとも1つのコピーを含んでなる、大腸菌L−アスパラギナーゼII酵素を産生するための組換え大腸菌宿主細胞であって、
前記組換え染色体外ベクターが、L−アスパラギナーゼII酵素のサブユニットをコードし、
前記宿主細胞の染色体もまた、L−アスパラギナーゼII酵素の同じサブユニットをコードし、
前記宿主染色体が、L−アスパラギナーゼIIの他のいずれのイソ型もコードしないことを特徴とする、
組換え大腸菌宿主細胞。
【請求項2】
前記染色体外ベクターが、プラスミドであることを特徴とする請求項1に記載の組換え大腸菌宿主細胞。
【請求項3】
前記コード化L−アスパラギナーゼIIのサブユニットが、配列番号1を含んでなることを特徴とする請求項1に記載の組換え大腸菌宿主細胞。
【請求項4】
前記組換え染色体外ベクターが、好適なプロモーターに機能的に連結されているL−アスパラギナーゼタンパク質をコードするDNA分子を含んでなることを特徴とする請求項1に記載の組換え大腸菌宿主細胞。
【請求項5】
前記プロモーターが、T7、araB、PR/PL、phoA、trc、およびtrpプロモーターからなる群より選択されることを特徴とする請求項4に記載の組換え大腸菌宿主細胞。
【請求項6】
前記組換え染色体外ベクターが、オペレーター、リボソーム結合部位、シグナル配列、転写ターミネーター、抗生物質選択マーカー、複製の起点、およびレプレッサーの制御コピーをさらに含んでなることを特徴とする請求項4に記載の組換え大腸菌宿主細胞。
【請求項7】
前記L−アスパラギナーゼタンパク質IIのサブユニットをコードするDNA分子が、配列番号2を含んでなることを特徴とする請求項4に記載の組換え大腸菌宿主細胞。
【請求項8】
前記染色体が、配列番号3に従ったDNA分子を含んでなることを特徴とする請求項4に記載の組換え大腸菌宿主細胞。
【請求項9】
配列番号2および配列番号3に従った核酸分子からなる群より選択される配列番号1のL−アスパラギナーゼII酵素のサブユニットをコードすることを特徴とする単離された核酸分子。
【請求項10】
配列番号2である請求項9に記載の核酸を含んでなることを特徴とする染色体外ベクター。
【請求項11】
プラスミドであることを特徴とする請求項10に記載の染色体外ベクター。
【請求項12】
プラスミドpEN537であることを特徴とする請求項11に記載の染色体外ベクター。
【請求項13】
EN538と指定され、ATCC番号PTA7490として寄託されていることを特徴とする請求項12に記載のプラスミドを含んでなる大腸菌宿主細胞。
【請求項14】
組換えL−アスパラギナーゼII酵素の産生方法であって、
請求項13に記載の宿主細胞を培養し、
産生されたL−アスパラギナーゼII酵素を単離する、
各工程を有してなり、
他のL−アスパラギナーゼII異性体が実質的に存在しないことを特徴とする、
産生方法。
【請求項15】
請求項14に記載の組換えL−アスパラギナーゼII酵素を含んでなることを特徴とするポリアルキレンオキシド複合体。
【請求項16】
請求項14に記載のL−アスパラギナーゼII酵素を有効量で投与する工程を有してなる、
L−アスパラギナーゼII酵素反応性の疾患または障害を有する患者を治療する方法。
【請求項17】
請求項15に記載のポリアルキレンオキシド複合化L−アスパラギナーゼII酵素を有効量で投与する工程を有してなる、
L−アスパラギナーゼII酵素反応性の疾患または障害を有する患者を治療する方法。
【請求項18】
配列番号2を含んでなるL−アスパラギナーゼII酵素のサブユニットをコードすることを特徴とする単離されたDNA分子。
【請求項19】
配列番号1の同一のサブユニットを有する四量体酵素を含んでなることを特徴とする単離された組換えタンパク質分子。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2009−542219(P2009−542219A)
【公表日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−518433(P2009−518433)
【出願日】平成19年6月8日(2007.6.8)
【国際出願番号】PCT/US2007/070706
【国際公開番号】WO2008/011234
【国際公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(505354899)エンゾン ファーマスーティカルズ インコーポレイテッド (28)
【氏名又は名称原語表記】ENZON PHARMACEUTICALS, INC.
【Fターム(参考)】