L−及びD−脂肪族アミノ酸水酸化物の製造方法
【課題】基質特異性の低い脂肪族アミノ酸水酸化酵素を開発し、該酵素を用いて、基質分子を替えるだけでさまざまな脂肪族アミノ酸の水酸化物を製造することができる脂肪族アミノ酸の水酸化物の製造方法を提供する。
【解決手段】2−オキソグルタル酸及び2価の鉄イオンの存在下で脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を触媒するL−及びD−脂肪族アミノ酸ジオキシゲナーゼと、L−及びD−脂肪族アミノ酸の水酸化物の製造方法。L−及びD−脂肪族アミノ酸の水酸化物の製造方法は、特定のアミノ酸配列からなるL−及びD−脂肪族アミノ酸ジオキシゲナーゼを、脂肪族アミノ酸に対して作用させて、該脂肪族アミノ酸の水酸化物を得るステップとを含む。
【解決手段】2−オキソグルタル酸及び2価の鉄イオンの存在下で脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を触媒するL−及びD−脂肪族アミノ酸ジオキシゲナーゼと、L−及びD−脂肪族アミノ酸の水酸化物の製造方法。L−及びD−脂肪族アミノ酸の水酸化物の製造方法は、特定のアミノ酸配列からなるL−及びD−脂肪族アミノ酸ジオキシゲナーゼを、脂肪族アミノ酸に対して作用させて、該脂肪族アミノ酸の水酸化物を得るステップとを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、L−及びD−脂肪族アミノ酸水酸化物の製造方法に関し、より具体的には、脂肪族アミノ酸水酸化酵素を利用する、脂肪族アミノ酸水酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
4-ヒドロキシ−L−イソロイシンをはじめとする脂肪族アミノ酸の水酸化物には、2型糖尿病治療薬としての薬効があるものが知られている。これらのうち最も有名なものは生薬胡廬巴(コロハ)又はスパイスのフェヌグリークとして知られるマメ科植物トリゴネラ・フォエナム−グラエクム(Trigonella foenum−graecum L.)から精製された4−ヒドロシキ−L−イソロイシン(以下、「4−HI」という。)である(非特許文献1)。4−HIはラット膵臓及びヒト膵島でインスリン分泌を促進する活性を示す。
【非特許文献1】Broca、C.ら、Am. J. Physiol. 、277: E617−E623(1999).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
4−HIは、フェヌグリーク抽出液中のイソロイシン水酸化酵素を用いて製造することができる(非特許文献2)。しかし、当該酵素は同定されておらず、酵素はフェヌグリークの抽出液からしか得られないため、大量に取得できない。また、当該酵素は不安定であるため、フェヌグリーク抽出液中のイソロイシン水酸化酵素を用いる4−HIの製造方法は、工業的生産法としては不十分である。
【非特許文献2】Haefeleら、Phytochemistry、 44: 563−566 (1997). 4−HIの製造方法として報告されているものは、他に、4−ヒドロキシ−3−メチル−2−ケトペンタン酸アルドラーゼと分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼをカップリングさせ、アセトアルデヒドと2−オキソブタン酸から4−ヒドロキシ−3−メチル−2−ケトペンタン酸を経由し、4−HIを合成する方法がある(特許文献1、非特許文献3及び4)。さらに、原料である2−オキソブタン酸をスレオニンデヒドラターゼによって、スレオニンから供給する方法も公開されている(特許文献2)。しかしこれらの酵素は、基質の光学的特異性が低いため、医薬品として有用な4−ヒドロキシイソロイシン:2S,3R,4Sのほかに生理活性がない2S,3R,4R体を副生すること、多段階反応であるため反応効率が低いこと等の課題がある。
【特許文献1】特開2008−109924号公報
【非特許文献3】Ogawa,J.ら、Biosci. Biotechnol. Biochem., 71: 1607−1615 (2007).
【非特許文献4】Smirnov,S.V.ら、FEMS Microbiol.Lett., 273:70−77 (2007)
【特許文献2】特開2008−073037号公報 バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiensis)由来のL−イソロイシン4−ヒドロキシラーゼ(イソロイシン ジオキシゲナーゼ)はL−イソロイシンを基質として4−HIを合成することができるが、この酵素は基質特異性が厳格で、L−イソロイシン以外のアミノ酸(L−ロイシン、L−バリン、L−グルタミン酸、L−リジン及びD−イソロイシン)と反応しないとの報告(特許文献3)がある。4−HIと類似の構造を有する化合物である、γ−ヒドロキシノルバリン及びγ−ヒドロキシバリンの一部の立体異性体についても、ラット膵島でのインスリン分泌を促進する活性が示されている(非特許文献5)。今後、脂肪族アミノ酸の水酸化物の生物活性を広範に調べるためには、基質特異性の低い脂肪族アミノ酸水酸化酵素を開発し、該酵素を用いて、基質分子を替えるだけでさまざまな脂肪族アミノ酸の水酸化物を製造することができる脂肪族アミノ酸の水酸化物の製造方法を開発する必要がある。
【非特許文献5】Broca、C.ら、Eur. J. Pharmacol. 、390:339−45(2000).
【特許文献3】特開2008−173116号公報
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明はL−及びD−脂肪族アミノ酸ジオキシゲナーゼを提供する。本発明の脂肪族アミノ酸ジオキシゲナーゼは、2−オキソグルタル酸及び2価の鉄イオンの存在下で脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を触媒する。
【0005】
本発明のL−及びD−脂肪族アミノ酸ジオキシゲナーゼは、(1)配列番号2、4又は6のアミノ酸配列からなるタンパク質と、(2)配列番号2、4又は6に記載のアミノ酸配列に1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を触媒する2−オキソグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質と、(3)配列番号2、4又は6のアミノ酸配列と80%以上の相同性を示すアミノ酸配列からなり、かつ、脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を触媒する2−オキソグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質と、(4)配列番号1、3又は5のヌクレオチド配列と80%以上の相同性を示すヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドによってエンコードされるアミノ酸配列からなり、かつ、脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を触媒する2−オキソグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質と、(5)配列番号1、3又は5のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってエンコードされるアミノ酸配列からなり、かつ、脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を触媒する2−オキソグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質と、(6)特異的結合タグペプチドが前記(1)ないし(5)のいずれかのタンパク質に連結した、融合タンパク質とからなるグループから選択される場合がある。
【0006】
本発明は脂肪族アミノ酸の水酸化物の製造方法を提供する。本発明の脂肪族アミノ酸の水酸化物の製造方法は、2−オキソグルタル酸及び2価の鉄イオンの存在下で脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を触媒するL−及びD−脂肪族アミノ酸ジオキシゲナーゼと、脂肪族アミノ酸とを用意するステップと、前記L−及びD−脂肪族アミノ酸ジオキシゲナーゼを前記脂肪族アミノ酸に対して作用させて、該脂肪族アミノ酸の水酸化物を得るステップとを含む。
【0007】
前記2−オキソグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼは、(1)配列番号2、4、6又は8のうちいずれか1つのアミノ酸配列からなるタンパク質と、(2)配列番号2、4、6又は8のうちいずれか1つに記載のアミノ酸配列に1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を触媒する2−オキソグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質と、(3)配列番号2、4、6又は8のうちいずれか1つのアミノ酸配列と80%以上の相同性を示すアミノ酸配列からなり、かつ、脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を触媒する2−オキソグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質と、(4)配列番号1、3、5又は7のうちいずれか1つのヌクレオチド配列と80%以上の相同性を示すヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドによってエンコードされるアミノ酸配列からなり、かつ、脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を触媒する2−オキソグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質と、(5)配列番号1、3、5又は7のうちいずれか1つのヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってエンコードされるアミノ酸配列からなり、かつ、脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を触媒する2−オキソグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質と、(6)特異的結合タグペプチドが前記(1)ないし(5)のいずれかのタンパク質に連結した融合タンパク質とからなるグループから選択される場合がある。
【0008】
本発明は、本発明のL−及びD−脂肪族アミノ酸ジオキシゲナーゼをエンコードするポリヌクレオチドを含む組換えベクターを提供する。
【0009】
本発明は、本発明の組換えベクターを含む形質転換体を提供する。
【0010】
本発明のタンパク質は、本発明のタンパク質のアミノ酸配列をエンコードするヌクレオチド配列からなるDNAを、無生物発現系か、宿主生物及び発現ベクターを使用する発現系かで発現させることにより産生される。前記宿主生物は、大腸菌、枯草菌等のような原核生物と、酵母、菌類、植物、動物等のような真核生物とを含む。本発明の宿主生物及び発現ベクターを使用する発現系は、細胞や組織のような生物の一部か、生物の個体全体かの場合がある。本発明のタンパク質は、脂肪族アミノ酸に対するヒドロキシラーゼ活性を有することを条件として、無生物発現系又は宿主生物及び発現ベクターを使用する発現系の他の成分が混在する状態で本発明のL−及びD−脂肪族アミノ酸の水酸化物の製造方法に使用されてもよく、あるいは、精製された状態で本発明のL−及びD−脂肪族アミノ酸の水酸化物の製造方法に使用されてもよい。
【0011】
本明細書において、ジオキシゲナーゼ又はヒドロキシラーゼとは、基質分子のいずれかの原子を水酸化する酵素活性(以下、「ヒドロキシラーゼ活性」という。)を有するいずれかのタンパク質をいう。本発明のL−及びD−脂肪族アミノ酸に対してヒドロキシラーゼ活性を有するタンパク質は、いかなる生物種に由来するタンパク質であってもよい。本発明のL−及びD−脂肪族アミノ酸に対してヒドロキシラーゼ活性を有するタンパク質は、グレオバクター・ビオラセウス(Gloeobacter violaceus)等のグレオバクター(Gloeobacter)属と、シュードモナス・シリンゲ・パソバー・ファセオリコラ(Pseudomonas syringae pv. phaseolicola)等のシュードモナス(Pseudomonas)属と、クロモバクテリウム・ビオラセウム(Chromobacterium violaceum)等のクロモバクテリウム(Chromobacterium)属と、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)、バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiensis)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス・スフェリクス(Bacillus sphaericus)等のバチルス(Bacillus)属と、大腸菌(Escherichia coli)その他のエシェリシア(Escherichia)属と、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属と、アースロバクター(Arthrobacter)属とを含む細菌と、アスペルギルス(Aspergillus)属を含む糸状菌又は菌類と、古細菌と、植物と、動物とを含むいずれかの生物から由来する場合がある。本発明のヒドロキシラーゼ活性を有するタンパク質は、グレオバクター・ビオラセウス(Gloeobacter violaceus)PCC 7421由来のGenBank登録番号glr2602のタンパク質(以下、「glr2602タンパク質」という。)と、シュードモナス・シリンゲ・パソバー・ファセオリコラ(Pseudomonas syringae pv. phaseolicola)1448A由来のGenBank登録番号PSPPH_3986のタンパク質(以下、「PSPPH_3986タンパク質」という。)と、クロモバクテリウム・ビオラセウム(Chromobacterium violaceum)NBRC 12614T由来のGenBank登録番号CV_3308のタンパク質(以下、「CV_3308タンパク質」という。)と、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)ATCC14579由来のGenBank登録番号BC_1061のタンパク質(以下、「BC_1061タンパク質」という。)とを含むが、これに限られない。
【0012】
glr2602タンパク質をエンコードする654個の塩基からなるヌクレオチド配列は配列番号1に列挙され、glr2602タンパク質の217個のアミノ酸からなるアミノ酸配列は配列番号2に列挙される。PSPPH_3986タンパク質をエンコードする720個の塩基からなるヌクレオチド配列は配列番号3に列挙され、PSPPH_3986タンパク質の239個のアミノ酸からなるアミノ酸配列は配列番号4に列挙される。CV_3308タンパク質をエンコードする924個の塩基からなるヌクレオチド配列は配列番号5に列挙され、CV_3308タンパク質の307個のアミノ酸からなるアミノ酸配列は配列番号6に列挙される。BC_1061タンパク質をエンコードする753個の塩基からなるヌクレオチド配列は配列番号7に列挙され、BC_1061タンパク質の250個のアミノ酸からなるアミノ酸配列は配列番号8に列挙される。
【0013】
本明細書においてヌクレオチド配列の相同性は、本発明のヌクレオチド配列と、比較対象のヌクレオチド配列との間でヌクレオチド配列が一致する部分が最も多くなるように整列させて、ヌクレオチド配列が一致する部分のヌクレオチドの数を本発明のヌクレオチド配列のヌクレオチドの総数で割った商の百分率で表される。同様に、本明細書においてアミノ酸配列の相同性は、本発明のアミノ酸配列と、比較対象のアミノ酸配列との間で配列が一致するアミノ酸残基の数が最も多くなるように整列させて、配列が一致するアミノ酸残基の数の合計を本発明のアミノ酸配列のアミノ酸残基の総数で割った商の百分率で表される。本発明のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列の相同性は、当業者に周知の配列整列プログラムCLUSTALWを使用することにより算出することができる。
【0014】
本明細書において「ストリンジェントな条件」とは、Sambrook、J.及びRussell、D.W.、Molecular Cloning A Laboratory Manual 3rd Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(2001)に説明されるサザンブロット法で以下の実験条件で行うことを指す。比較対象のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドをアガロース電気泳動によりバンドを形成させた上で毛管現象又は電気泳動によりニトロセルロースフィルターその他の固相に不動化する。6× SSC及び0.2% SDSからなる溶液で前洗浄する。本発明のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドを放射性同位元素その他の標識物質で標識したプローブと前記固相に不動化された比較対象のポリヌクレオチドとの間のハイブリダイゼーション反応を6× SSC及び0.2% SDSからなる溶液中で65°C、終夜行う。その後前記固相を1× SSC及び0.1% SDSからなる溶液中で65°C、各30分ずつ2回洗浄し、0.2× SSC及び0.1% SDSからなる溶液中で65°C、各30分ずつ2回洗浄する。最後に前記固相に残存するプローブの量を前記標識物質の定量により決定する。本明細書において「ストリンジェントな条件」でハイブリダイゼーションをするとは、比較対象のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドを不動化した固相に残存するプローブの量が、本発明のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドを不動化した陽性対照実験の固相に残存するプローブの量の少なくとも25%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも75%以上であることを指す。
【0015】
本明細書において「ヒドロキシラーゼ活性」とは、基質分子に作用し、該基質分子のいずれかの炭素原子を水酸化する反応を行う能力をいう。
【0016】
本明細書において「脂肪族アミノ酸」とは、側鎖に脂肪族炭化水素を含むアミノ酸をいう。本明細書における脂肪族アミノ酸は、L−ロイシン、L−イソロイシン、L−バリンのように、生体内でメッセンジャーRNAからリボゾームで合成されるタンパク質の翻訳に用いられる20種類のL−アミノ酸に含まれる脂肪族アミノ酸と、L−ノルバリン、L−ノルロイシンのようなL−アミノ酸と、これらの光学異性体である、D−ロイシン、D−イソロイシン、D−バリン、D−ノルバリン及びD−ノルロイシンとを含むが、これらに限定されない。
【0017】
本発明のL−及びD−脂肪族アミノ酸ジオキシゲナーゼは、2−オキソグルタル酸及び2価の鉄イオンの存在下で脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を触媒する2−オキソグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼである。本発明のL−及びD−脂肪族アミノ酸ジオキシゲナーゼは、2−オキソグルタル酸、L−アスコルビン酸及び2価の鉄イオンの存在下で脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を行うことが好ましい。
【0018】
本発明の製造方法により取得される脂肪族アミノ酸の水酸化物は、イオン交換樹脂その他の担体への特異的吸着、薄層クロマトグラフィ法、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)法その他のクロマトグラフィ法、有機溶媒による抽出、結晶化等の当業者に周知の方法により回収される。また、前記ペプチドは、HPLC又は質量分析(MS)法のような当業者に周知の分析技術を使用して生産量又は純度が評価される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下の実施例によって本発明について詳細な説明を行なうが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【実施例1】
【0020】
脂肪族アミノ酸水酸化酵素をエンコードする遺伝子のクローニング
実施例に用いた脂肪族アミノ酸水酸化酵素を表1に示す。
【0021】
【表1】
【0022】
目的とするL−及びD−脂肪族アミノ酸ジオキシゲナーゼの遺伝子の増幅は、それぞれの微生物の染色体DNAを鋳型としたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)をExpand High Fidelity PCR System(ロシュ)を用いて行った。PCRは、94°Cで180秒を1サイクルと、94°Cで15秒、50°Cで10秒及び72°Cで50秒を25サイクルと、72°Cで420秒を1サイクルとの反応条件で行なった(表2)。
【0023】
【表2】
【0024】
以下の表3に脂肪族アミノ酸水酸化酵素のそれぞれのクローニング及び発現の条件を示す。それぞれの酵素の遺伝子の単離に使うプライマーの塩基配列は配列番号9−16に列挙される。
【0025】
【表3】
【0026】
目的とする脂肪族アミノ酸水酸化酵素の遺伝子のPCR増幅DNA 1μgと、ベクターであるpET−21a(+) 1μgとが、ともに制限酵素NdeI及びXhoIで37°C、16時間消化された。その後、GFX PCR Purification Kit(GEヘルスケア)で精製された前記DNAは、DNA Ligation Kit <Mighty Mix>(タカラ)で16°C、3時間反応することによって連結され、大腸菌JM109株に導入された。前記大腸菌は、LB−A寒天培地(1% トリプトン、0.5% イーストエクストラクト、1% 塩化ナトリウム、1.5% アガー及び100μg/mL アンピシリン)上で37°C、16時間静置培養され、組換えプラスミドを保持した大腸菌の単一コロニーが単離された。単一コロニー由来の大腸菌は、LB−A液体培地(1% トリプトン、0.5% イーストエクストラクト、1% 塩化ナトリウム及び100μg/mL アンピシリン)5mL中で37°C、16時間培養され、QIAprep Spin Miniprep Kit(キアゲン)を用いてプラスミドが抽出された。抽出されたプラスミドに挿入されたDNAは、DNAシークエンサー(アプライドバイオシステムズ)で解析され、目的とする脂肪族アミノ酸水酸化酵素の遺伝子が挿入されていることが確認された。
【実施例2】
【0027】
脂肪族アミノ酸水酸化酵素の発現及び精製
実施例1で得られた組換えプラスミドで大腸菌Rosetta2(DE3)が形質転換された。前記大腸菌は、LB−AC寒天培地(1% トリプトン、0.5% イーストエクストラクト、1% 塩化ナトリウム、1.5% アガー、50μg/mL アンピシリン及び34μg/mL クロラムフェニコール)を用いて37°Cで一晩静置培養された。生育した単一コロニーは、LB−AC液体培地(1% トリプトン、0.5% イーストエクストラクト、1% 塩化ナトリウム、100μg/mL アンピシリン及び34μg/mL クロラムフェニコール)5mLに接種され、37°C、200rpmで16時間振盪培養を行った。その後前記液体培地1mLが100mLの新鮮なLB−AC液体培地に接種され、37°C、200rpmで振盪培養された。O.D.660が0.5に達した時点で、終濃度が0.1mMとなるようにイソプロピル−β−d−チオガラクトピラノシド(IPTG)が添加され、25°C及び100rpmで9時間の振盪培養により遺伝子発現が誘導された。前記液体培地から4°C及び5000×gで10分間遠心分離して回収した菌体を、20mM HEPES・NaOHバッファー(pH7.5)5mLに懸濁し、3分間の超音波破砕後、4°C及び20000×gで30分間遠心分離した。回収した上清(無細胞抽出液)はHis trap HPカラム(GEヘルスケア)を用いたアフィニティークロマトグラフィーに供され脂肪族アミノ酸水酸化酵素が分離された。その後、PD−10カラム(GEヘルスケア)により緩衝液の交換を行って、精製酵素が調製された。
【実施例3】
【0028】
各種アミノ酸に対する水酸化反応
実施例2で得られた精製酵素を用いて各種アミノ酸に対する水酸化反応が実施された。前記精製酵素は2−オキソグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼであると予測されたため、2−オキソグルタル酸を含む標準反応液(1mM アミノ酸、5mM 2−オキソグルタル酸、1mM L−アスコルビン酸、0.1mM 硫酸第一鉄、50mM リン酸カリウム緩衝液、0.5 mg/mL 各種精製酵素)を用いて酵素反応は行われた。前記標準反応液の組成は以下の表4に示す。
【0029】
【表4】
【0030】
表4に示す標準反応液を調製し、酵素添加後、25°C、170 rpmで攪拌しながら20時間インキュベーションした。その後、前記反応液は0.45μmフィルターを用いてろ過され、LC/MS分析に供された。なお、陰性対照試験として2−オキソグルタル酸非添加系試験及び酵素非添加系試験も併せて行った。
【実施例4】
【0031】
HPLC分析
HPLC分析は、高速液体クロマトグラフ L2000シリーズ(日立製作所)により、ポストカラム分析法を用いて実施された。HPLC分析装置の構成を図1に示す。また、HPLC分析条件を表5に示す。
【0032】
【表5】
【0033】
HPLC分析は、ポンプA及びポンプBのそれぞれに溶離液及び反応液を接続し、オートサンプラーで注入された試料と前記溶離液とを分析カラムに適用して分離し、溶出液と前記反応液とを反応させてから蛍光検出器で測定することによって実行された。ポンプA溶離液の組成は、20mM リン酸バッファー、5mM 1−ヘプタンスルホン酸、10%又は20%メタノール(pH2.5)であり、ポンプB反応液の組成は、22g/L ホウ酸、12g/L 水酸化ナトリウム、0.8g/L オルトフタルアルデヒド、2g/L N−アセチルシステインであった。分析カラムはコスモシール 5C18−MS−II 4.6mm×150mm 分析カラム(ナカライテスク)が用いられ、カラム温度は40°Cであった(表5−a)。HPLC分析のポンププログラムは、溶離液が0.7mL/分で20分間、反応液が0.3mL/分で20分間とした(表5−b)。蛍光は、励起波長340nm、検出波長450nmで測定された。
【0034】
反応液のHPLC分析をおこなった結果、陰性対照との比較により基質アミノ酸、2−オキソグルタル酸、L−アスコルビン酸、硫酸第一鉄、精製酵素などの全てを反応系に含む場合にのみ検出されたピークを生成物のピークと判断した。glr2602タンパク質による酵素反応系においては、L−及びD−バリンと、L−及びD−ロイシンと、L−及びD−イソロイシンと、L−及びD−ノルバリンと、L−及びD−ノルロイシンとを基質とした場合に生成物が検出された。図3−12は、これらの基質を含む反応液の反応後のHPLC分析結果を示すクロマトチャートである。図の中の数値は、それぞれの基質のピークの溶出時間と、生成物の最大ピークの溶出時間とである。PSPPH_3986タンパク質による酵素反応系においては、L−及びD−ロイシンと、L−イソロイシンと、L−及びD−ノルバリンと、L−及びD−ノルロイシンとを基質とした場合に未知化合物のピークが検出された。CV_3308タンパク質による酵素反応系においては、L−及びD−ロイシンと、L−イソロイシンと、L−ノルバリンと、L−及びD−ノルロイシンとを基質とした場合に未知化合物のピークが検出された。BC_1061タンパク質による酵素反応系においては、L−ロイシンと、L−イソロイシンと、L−ノルバリンと、L−及びD−ノルロイシンとを基質とした場合に未知化合物のピークが検出された。4種類のタンパク質について検出された未知化合物の最大ピークの溶出時間を表6にまとめた。
【0035】
【表6】
【実施例5】
【0036】
MS分析
HPLC分析において未知化合物のピークが検出されたサンプルを図2に示す手順に従って固相抽出カラムにより精製し、LCQ Deca(Thermo Quest)を用いてMS分析を実施した。MS分析条件を表7に示す。
【0037】
【表7】
【0038】
イオン化法はエレクトロスプレー法を用い、サンプルはシリンジによって直接注入した。Sheath Gas Flow Rateは20 arb、Aux Gas Flow Rateは20 arb、Spray Voltageは5kV、Capillary Tempは200°C、Capillary Voltageは17V、Tube Lens offsetは5Vの設定で分析された。
【0039】
MS分析の結果、glr2602タンパク質による酵素反応系で、L−及びD−バリンと、L−及びD−ロイシンと、L−及びD−イソロイシンと、L−及びD−ノルバリンと、L−及びD−ノルロイシンとを基質とした場合に質量数が16大きいプロトン付加イオンが検出された。図13−22は、これらの基質を含む反応液の反応後のMS分析結果を示すMSチャートである。図の中の数値は、それぞれの基質の水酸化物の質量電荷比である。同様に、PSPPH_3986タンパク質による酵素反応系においては、L−及びD−ロイシンと、L−イソロイシンと、L−及びD−ノルバリンと、L−及びD−ノルロイシンとを基質とした場合に、CV_3308タンパク質による酵素反応系においては、L−及びD−ロイシンと、L−イソロイシンと、L−ノルバリンと、L−及びD−ノルロイシンとを基質とした場合に、BC_1061タンパク質による酵素反応系においては、L−ロイシンと、L−イソロイシンと、L−ノルバリンと、L−及びD−ノルロイシンとを基質とした場合に、それぞれ質量数が16大きいプロトン付加イオンが検出された。検出された生成物のプロトン付加イオンの質量電荷比を表8にまとめた。この結果から、HPLC分析で同定された未知化合物は基質に水酸基が導入された化合物といえる。
【0040】
【表8】
【0041】
L−イソロイシンからの4−HIの合成は、市販の4−HI試薬と反応産物とのクロマトチャート及びMSチャートを比較して評価された。その結果、実施例2で得られた精製酵素によってL−イソロイシンから得られる反応産物は4−HIであるとの結論に達した。
【0042】
本発明の脂肪族アミノ酸ジオキシゲナーゼは脂肪族アミノ酸のL−体だけでなくD−体の水酸化反応を触媒する点で他に例がない。したがって、本発明はL−及びD−脂肪族アミノ酸の水酸化物の工業生産にとって有用である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】HPLC構成の模式図。
【図2】イオン交換カラムによるサンプル精製手順を示す模式図。
【図3】glr2602タンパク質によるL−バリンの水酸化反応産物のHPLC分析結果を示すクロマトチャート。
【図4】glr2602タンパク質によるL−ロイシンの水酸化反応産物のHPLC分析結果を示すクロマトチャート。
【図5】glr2602タンパク質によるL−イソロイシンの水酸化反応産物のHPLC分析結果を示すクロマトチャート。
【図6】glr2602タンパク質によるL−ノルバリンの水酸化反応産物のHPLC分析結果を示すクロマトチャート。
【図7】glr2602タンパク質によるL−ノルロイシンの水酸化反応産物のHPLC分析結果を示すクロマトチャート。
【図8】glr2602タンパク質によるD−バリンの水酸化反応産物のHPLC分析結果を示すクロマトチャート。
【図9】glr2602タンパク質によるD−ロイシンの水酸化反応産物のHPLC分析結果を示すクロマトチャート。
【図10】glr2602タンパク質によるD−イソロイシンの水酸化反応産物のHPLC分析結果を示すクロマトチャート。
【図11】glr2602タンパク質によるD−ノルバリンの水酸化反応産物のHPLC分析結果を示すクロマトチャート。
【図12】glr2602タンパク質によるD−ノルロイシンの水酸化反応産物のHPLC分析結果を示すクロマトチャート。
【図13】glr2602タンパク質によるL−バリンの水酸化反応産物のMS分析結果を示すMSチャート。
【図14】glr2602タンパク質によるL−ロイシンの水酸化反応産物のMS分析結果を示すMSチャート。
【図15】glr2602タンパク質によるL−イソロイシンの水酸化反応産物のMS分析結果を示すMSチャート。
【図16】glr2602タンパク質によるL−ノルバリンの水酸化反応産物のMS分析結果を示すMSチャート。
【図17】glr2602タンパク質によるL−ノルロイシンの水酸化反応産物のMS分析結果を示すMSチャート。
【図18】glr2602タンパク質によるD−バリンの水酸化反応産物のMS分析結果を示すMSチャート。
【図19】glr2602タンパク質によるD−ロイシンの水酸化反応産物のMS分析結果を示すMSチャート。
【図20】glr2602タンパク質によるD−イソロイシンの水酸化反応産物のMS分析結果を示すMSチャート。
【図21】glr2602タンパク質によるD−ノルバリンの水酸化反応産物のMS分析結果を示すMSチャート。
【図22】glr2602タンパク質によるD−ノルロイシンの水酸化反応産物のMS分析結果を示すMSチャート。
【技術分野】
【0001】
本発明は、L−及びD−脂肪族アミノ酸水酸化物の製造方法に関し、より具体的には、脂肪族アミノ酸水酸化酵素を利用する、脂肪族アミノ酸水酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
4-ヒドロキシ−L−イソロイシンをはじめとする脂肪族アミノ酸の水酸化物には、2型糖尿病治療薬としての薬効があるものが知られている。これらのうち最も有名なものは生薬胡廬巴(コロハ)又はスパイスのフェヌグリークとして知られるマメ科植物トリゴネラ・フォエナム−グラエクム(Trigonella foenum−graecum L.)から精製された4−ヒドロシキ−L−イソロイシン(以下、「4−HI」という。)である(非特許文献1)。4−HIはラット膵臓及びヒト膵島でインスリン分泌を促進する活性を示す。
【非特許文献1】Broca、C.ら、Am. J. Physiol. 、277: E617−E623(1999).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
4−HIは、フェヌグリーク抽出液中のイソロイシン水酸化酵素を用いて製造することができる(非特許文献2)。しかし、当該酵素は同定されておらず、酵素はフェヌグリークの抽出液からしか得られないため、大量に取得できない。また、当該酵素は不安定であるため、フェヌグリーク抽出液中のイソロイシン水酸化酵素を用いる4−HIの製造方法は、工業的生産法としては不十分である。
【非特許文献2】Haefeleら、Phytochemistry、 44: 563−566 (1997). 4−HIの製造方法として報告されているものは、他に、4−ヒドロキシ−3−メチル−2−ケトペンタン酸アルドラーゼと分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼをカップリングさせ、アセトアルデヒドと2−オキソブタン酸から4−ヒドロキシ−3−メチル−2−ケトペンタン酸を経由し、4−HIを合成する方法がある(特許文献1、非特許文献3及び4)。さらに、原料である2−オキソブタン酸をスレオニンデヒドラターゼによって、スレオニンから供給する方法も公開されている(特許文献2)。しかしこれらの酵素は、基質の光学的特異性が低いため、医薬品として有用な4−ヒドロキシイソロイシン:2S,3R,4Sのほかに生理活性がない2S,3R,4R体を副生すること、多段階反応であるため反応効率が低いこと等の課題がある。
【特許文献1】特開2008−109924号公報
【非特許文献3】Ogawa,J.ら、Biosci. Biotechnol. Biochem., 71: 1607−1615 (2007).
【非特許文献4】Smirnov,S.V.ら、FEMS Microbiol.Lett., 273:70−77 (2007)
【特許文献2】特開2008−073037号公報 バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiensis)由来のL−イソロイシン4−ヒドロキシラーゼ(イソロイシン ジオキシゲナーゼ)はL−イソロイシンを基質として4−HIを合成することができるが、この酵素は基質特異性が厳格で、L−イソロイシン以外のアミノ酸(L−ロイシン、L−バリン、L−グルタミン酸、L−リジン及びD−イソロイシン)と反応しないとの報告(特許文献3)がある。4−HIと類似の構造を有する化合物である、γ−ヒドロキシノルバリン及びγ−ヒドロキシバリンの一部の立体異性体についても、ラット膵島でのインスリン分泌を促進する活性が示されている(非特許文献5)。今後、脂肪族アミノ酸の水酸化物の生物活性を広範に調べるためには、基質特異性の低い脂肪族アミノ酸水酸化酵素を開発し、該酵素を用いて、基質分子を替えるだけでさまざまな脂肪族アミノ酸の水酸化物を製造することができる脂肪族アミノ酸の水酸化物の製造方法を開発する必要がある。
【非特許文献5】Broca、C.ら、Eur. J. Pharmacol. 、390:339−45(2000).
【特許文献3】特開2008−173116号公報
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明はL−及びD−脂肪族アミノ酸ジオキシゲナーゼを提供する。本発明の脂肪族アミノ酸ジオキシゲナーゼは、2−オキソグルタル酸及び2価の鉄イオンの存在下で脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を触媒する。
【0005】
本発明のL−及びD−脂肪族アミノ酸ジオキシゲナーゼは、(1)配列番号2、4又は6のアミノ酸配列からなるタンパク質と、(2)配列番号2、4又は6に記載のアミノ酸配列に1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を触媒する2−オキソグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質と、(3)配列番号2、4又は6のアミノ酸配列と80%以上の相同性を示すアミノ酸配列からなり、かつ、脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を触媒する2−オキソグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質と、(4)配列番号1、3又は5のヌクレオチド配列と80%以上の相同性を示すヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドによってエンコードされるアミノ酸配列からなり、かつ、脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を触媒する2−オキソグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質と、(5)配列番号1、3又は5のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってエンコードされるアミノ酸配列からなり、かつ、脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を触媒する2−オキソグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質と、(6)特異的結合タグペプチドが前記(1)ないし(5)のいずれかのタンパク質に連結した、融合タンパク質とからなるグループから選択される場合がある。
【0006】
本発明は脂肪族アミノ酸の水酸化物の製造方法を提供する。本発明の脂肪族アミノ酸の水酸化物の製造方法は、2−オキソグルタル酸及び2価の鉄イオンの存在下で脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を触媒するL−及びD−脂肪族アミノ酸ジオキシゲナーゼと、脂肪族アミノ酸とを用意するステップと、前記L−及びD−脂肪族アミノ酸ジオキシゲナーゼを前記脂肪族アミノ酸に対して作用させて、該脂肪族アミノ酸の水酸化物を得るステップとを含む。
【0007】
前記2−オキソグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼは、(1)配列番号2、4、6又は8のうちいずれか1つのアミノ酸配列からなるタンパク質と、(2)配列番号2、4、6又は8のうちいずれか1つに記載のアミノ酸配列に1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を触媒する2−オキソグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質と、(3)配列番号2、4、6又は8のうちいずれか1つのアミノ酸配列と80%以上の相同性を示すアミノ酸配列からなり、かつ、脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を触媒する2−オキソグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質と、(4)配列番号1、3、5又は7のうちいずれか1つのヌクレオチド配列と80%以上の相同性を示すヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドによってエンコードされるアミノ酸配列からなり、かつ、脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を触媒する2−オキソグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質と、(5)配列番号1、3、5又は7のうちいずれか1つのヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってエンコードされるアミノ酸配列からなり、かつ、脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を触媒する2−オキソグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質と、(6)特異的結合タグペプチドが前記(1)ないし(5)のいずれかのタンパク質に連結した融合タンパク質とからなるグループから選択される場合がある。
【0008】
本発明は、本発明のL−及びD−脂肪族アミノ酸ジオキシゲナーゼをエンコードするポリヌクレオチドを含む組換えベクターを提供する。
【0009】
本発明は、本発明の組換えベクターを含む形質転換体を提供する。
【0010】
本発明のタンパク質は、本発明のタンパク質のアミノ酸配列をエンコードするヌクレオチド配列からなるDNAを、無生物発現系か、宿主生物及び発現ベクターを使用する発現系かで発現させることにより産生される。前記宿主生物は、大腸菌、枯草菌等のような原核生物と、酵母、菌類、植物、動物等のような真核生物とを含む。本発明の宿主生物及び発現ベクターを使用する発現系は、細胞や組織のような生物の一部か、生物の個体全体かの場合がある。本発明のタンパク質は、脂肪族アミノ酸に対するヒドロキシラーゼ活性を有することを条件として、無生物発現系又は宿主生物及び発現ベクターを使用する発現系の他の成分が混在する状態で本発明のL−及びD−脂肪族アミノ酸の水酸化物の製造方法に使用されてもよく、あるいは、精製された状態で本発明のL−及びD−脂肪族アミノ酸の水酸化物の製造方法に使用されてもよい。
【0011】
本明細書において、ジオキシゲナーゼ又はヒドロキシラーゼとは、基質分子のいずれかの原子を水酸化する酵素活性(以下、「ヒドロキシラーゼ活性」という。)を有するいずれかのタンパク質をいう。本発明のL−及びD−脂肪族アミノ酸に対してヒドロキシラーゼ活性を有するタンパク質は、いかなる生物種に由来するタンパク質であってもよい。本発明のL−及びD−脂肪族アミノ酸に対してヒドロキシラーゼ活性を有するタンパク質は、グレオバクター・ビオラセウス(Gloeobacter violaceus)等のグレオバクター(Gloeobacter)属と、シュードモナス・シリンゲ・パソバー・ファセオリコラ(Pseudomonas syringae pv. phaseolicola)等のシュードモナス(Pseudomonas)属と、クロモバクテリウム・ビオラセウム(Chromobacterium violaceum)等のクロモバクテリウム(Chromobacterium)属と、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)、バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiensis)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス・スフェリクス(Bacillus sphaericus)等のバチルス(Bacillus)属と、大腸菌(Escherichia coli)その他のエシェリシア(Escherichia)属と、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属と、アースロバクター(Arthrobacter)属とを含む細菌と、アスペルギルス(Aspergillus)属を含む糸状菌又は菌類と、古細菌と、植物と、動物とを含むいずれかの生物から由来する場合がある。本発明のヒドロキシラーゼ活性を有するタンパク質は、グレオバクター・ビオラセウス(Gloeobacter violaceus)PCC 7421由来のGenBank登録番号glr2602のタンパク質(以下、「glr2602タンパク質」という。)と、シュードモナス・シリンゲ・パソバー・ファセオリコラ(Pseudomonas syringae pv. phaseolicola)1448A由来のGenBank登録番号PSPPH_3986のタンパク質(以下、「PSPPH_3986タンパク質」という。)と、クロモバクテリウム・ビオラセウム(Chromobacterium violaceum)NBRC 12614T由来のGenBank登録番号CV_3308のタンパク質(以下、「CV_3308タンパク質」という。)と、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)ATCC14579由来のGenBank登録番号BC_1061のタンパク質(以下、「BC_1061タンパク質」という。)とを含むが、これに限られない。
【0012】
glr2602タンパク質をエンコードする654個の塩基からなるヌクレオチド配列は配列番号1に列挙され、glr2602タンパク質の217個のアミノ酸からなるアミノ酸配列は配列番号2に列挙される。PSPPH_3986タンパク質をエンコードする720個の塩基からなるヌクレオチド配列は配列番号3に列挙され、PSPPH_3986タンパク質の239個のアミノ酸からなるアミノ酸配列は配列番号4に列挙される。CV_3308タンパク質をエンコードする924個の塩基からなるヌクレオチド配列は配列番号5に列挙され、CV_3308タンパク質の307個のアミノ酸からなるアミノ酸配列は配列番号6に列挙される。BC_1061タンパク質をエンコードする753個の塩基からなるヌクレオチド配列は配列番号7に列挙され、BC_1061タンパク質の250個のアミノ酸からなるアミノ酸配列は配列番号8に列挙される。
【0013】
本明細書においてヌクレオチド配列の相同性は、本発明のヌクレオチド配列と、比較対象のヌクレオチド配列との間でヌクレオチド配列が一致する部分が最も多くなるように整列させて、ヌクレオチド配列が一致する部分のヌクレオチドの数を本発明のヌクレオチド配列のヌクレオチドの総数で割った商の百分率で表される。同様に、本明細書においてアミノ酸配列の相同性は、本発明のアミノ酸配列と、比較対象のアミノ酸配列との間で配列が一致するアミノ酸残基の数が最も多くなるように整列させて、配列が一致するアミノ酸残基の数の合計を本発明のアミノ酸配列のアミノ酸残基の総数で割った商の百分率で表される。本発明のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列の相同性は、当業者に周知の配列整列プログラムCLUSTALWを使用することにより算出することができる。
【0014】
本明細書において「ストリンジェントな条件」とは、Sambrook、J.及びRussell、D.W.、Molecular Cloning A Laboratory Manual 3rd Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(2001)に説明されるサザンブロット法で以下の実験条件で行うことを指す。比較対象のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドをアガロース電気泳動によりバンドを形成させた上で毛管現象又は電気泳動によりニトロセルロースフィルターその他の固相に不動化する。6× SSC及び0.2% SDSからなる溶液で前洗浄する。本発明のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドを放射性同位元素その他の標識物質で標識したプローブと前記固相に不動化された比較対象のポリヌクレオチドとの間のハイブリダイゼーション反応を6× SSC及び0.2% SDSからなる溶液中で65°C、終夜行う。その後前記固相を1× SSC及び0.1% SDSからなる溶液中で65°C、各30分ずつ2回洗浄し、0.2× SSC及び0.1% SDSからなる溶液中で65°C、各30分ずつ2回洗浄する。最後に前記固相に残存するプローブの量を前記標識物質の定量により決定する。本明細書において「ストリンジェントな条件」でハイブリダイゼーションをするとは、比較対象のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドを不動化した固相に残存するプローブの量が、本発明のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドを不動化した陽性対照実験の固相に残存するプローブの量の少なくとも25%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも75%以上であることを指す。
【0015】
本明細書において「ヒドロキシラーゼ活性」とは、基質分子に作用し、該基質分子のいずれかの炭素原子を水酸化する反応を行う能力をいう。
【0016】
本明細書において「脂肪族アミノ酸」とは、側鎖に脂肪族炭化水素を含むアミノ酸をいう。本明細書における脂肪族アミノ酸は、L−ロイシン、L−イソロイシン、L−バリンのように、生体内でメッセンジャーRNAからリボゾームで合成されるタンパク質の翻訳に用いられる20種類のL−アミノ酸に含まれる脂肪族アミノ酸と、L−ノルバリン、L−ノルロイシンのようなL−アミノ酸と、これらの光学異性体である、D−ロイシン、D−イソロイシン、D−バリン、D−ノルバリン及びD−ノルロイシンとを含むが、これらに限定されない。
【0017】
本発明のL−及びD−脂肪族アミノ酸ジオキシゲナーゼは、2−オキソグルタル酸及び2価の鉄イオンの存在下で脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を触媒する2−オキソグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼである。本発明のL−及びD−脂肪族アミノ酸ジオキシゲナーゼは、2−オキソグルタル酸、L−アスコルビン酸及び2価の鉄イオンの存在下で脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を行うことが好ましい。
【0018】
本発明の製造方法により取得される脂肪族アミノ酸の水酸化物は、イオン交換樹脂その他の担体への特異的吸着、薄層クロマトグラフィ法、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)法その他のクロマトグラフィ法、有機溶媒による抽出、結晶化等の当業者に周知の方法により回収される。また、前記ペプチドは、HPLC又は質量分析(MS)法のような当業者に周知の分析技術を使用して生産量又は純度が評価される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下の実施例によって本発明について詳細な説明を行なうが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【実施例1】
【0020】
脂肪族アミノ酸水酸化酵素をエンコードする遺伝子のクローニング
実施例に用いた脂肪族アミノ酸水酸化酵素を表1に示す。
【0021】
【表1】
【0022】
目的とするL−及びD−脂肪族アミノ酸ジオキシゲナーゼの遺伝子の増幅は、それぞれの微生物の染色体DNAを鋳型としたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)をExpand High Fidelity PCR System(ロシュ)を用いて行った。PCRは、94°Cで180秒を1サイクルと、94°Cで15秒、50°Cで10秒及び72°Cで50秒を25サイクルと、72°Cで420秒を1サイクルとの反応条件で行なった(表2)。
【0023】
【表2】
【0024】
以下の表3に脂肪族アミノ酸水酸化酵素のそれぞれのクローニング及び発現の条件を示す。それぞれの酵素の遺伝子の単離に使うプライマーの塩基配列は配列番号9−16に列挙される。
【0025】
【表3】
【0026】
目的とする脂肪族アミノ酸水酸化酵素の遺伝子のPCR増幅DNA 1μgと、ベクターであるpET−21a(+) 1μgとが、ともに制限酵素NdeI及びXhoIで37°C、16時間消化された。その後、GFX PCR Purification Kit(GEヘルスケア)で精製された前記DNAは、DNA Ligation Kit <Mighty Mix>(タカラ)で16°C、3時間反応することによって連結され、大腸菌JM109株に導入された。前記大腸菌は、LB−A寒天培地(1% トリプトン、0.5% イーストエクストラクト、1% 塩化ナトリウム、1.5% アガー及び100μg/mL アンピシリン)上で37°C、16時間静置培養され、組換えプラスミドを保持した大腸菌の単一コロニーが単離された。単一コロニー由来の大腸菌は、LB−A液体培地(1% トリプトン、0.5% イーストエクストラクト、1% 塩化ナトリウム及び100μg/mL アンピシリン)5mL中で37°C、16時間培養され、QIAprep Spin Miniprep Kit(キアゲン)を用いてプラスミドが抽出された。抽出されたプラスミドに挿入されたDNAは、DNAシークエンサー(アプライドバイオシステムズ)で解析され、目的とする脂肪族アミノ酸水酸化酵素の遺伝子が挿入されていることが確認された。
【実施例2】
【0027】
脂肪族アミノ酸水酸化酵素の発現及び精製
実施例1で得られた組換えプラスミドで大腸菌Rosetta2(DE3)が形質転換された。前記大腸菌は、LB−AC寒天培地(1% トリプトン、0.5% イーストエクストラクト、1% 塩化ナトリウム、1.5% アガー、50μg/mL アンピシリン及び34μg/mL クロラムフェニコール)を用いて37°Cで一晩静置培養された。生育した単一コロニーは、LB−AC液体培地(1% トリプトン、0.5% イーストエクストラクト、1% 塩化ナトリウム、100μg/mL アンピシリン及び34μg/mL クロラムフェニコール)5mLに接種され、37°C、200rpmで16時間振盪培養を行った。その後前記液体培地1mLが100mLの新鮮なLB−AC液体培地に接種され、37°C、200rpmで振盪培養された。O.D.660が0.5に達した時点で、終濃度が0.1mMとなるようにイソプロピル−β−d−チオガラクトピラノシド(IPTG)が添加され、25°C及び100rpmで9時間の振盪培養により遺伝子発現が誘導された。前記液体培地から4°C及び5000×gで10分間遠心分離して回収した菌体を、20mM HEPES・NaOHバッファー(pH7.5)5mLに懸濁し、3分間の超音波破砕後、4°C及び20000×gで30分間遠心分離した。回収した上清(無細胞抽出液)はHis trap HPカラム(GEヘルスケア)を用いたアフィニティークロマトグラフィーに供され脂肪族アミノ酸水酸化酵素が分離された。その後、PD−10カラム(GEヘルスケア)により緩衝液の交換を行って、精製酵素が調製された。
【実施例3】
【0028】
各種アミノ酸に対する水酸化反応
実施例2で得られた精製酵素を用いて各種アミノ酸に対する水酸化反応が実施された。前記精製酵素は2−オキソグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼであると予測されたため、2−オキソグルタル酸を含む標準反応液(1mM アミノ酸、5mM 2−オキソグルタル酸、1mM L−アスコルビン酸、0.1mM 硫酸第一鉄、50mM リン酸カリウム緩衝液、0.5 mg/mL 各種精製酵素)を用いて酵素反応は行われた。前記標準反応液の組成は以下の表4に示す。
【0029】
【表4】
【0030】
表4に示す標準反応液を調製し、酵素添加後、25°C、170 rpmで攪拌しながら20時間インキュベーションした。その後、前記反応液は0.45μmフィルターを用いてろ過され、LC/MS分析に供された。なお、陰性対照試験として2−オキソグルタル酸非添加系試験及び酵素非添加系試験も併せて行った。
【実施例4】
【0031】
HPLC分析
HPLC分析は、高速液体クロマトグラフ L2000シリーズ(日立製作所)により、ポストカラム分析法を用いて実施された。HPLC分析装置の構成を図1に示す。また、HPLC分析条件を表5に示す。
【0032】
【表5】
【0033】
HPLC分析は、ポンプA及びポンプBのそれぞれに溶離液及び反応液を接続し、オートサンプラーで注入された試料と前記溶離液とを分析カラムに適用して分離し、溶出液と前記反応液とを反応させてから蛍光検出器で測定することによって実行された。ポンプA溶離液の組成は、20mM リン酸バッファー、5mM 1−ヘプタンスルホン酸、10%又は20%メタノール(pH2.5)であり、ポンプB反応液の組成は、22g/L ホウ酸、12g/L 水酸化ナトリウム、0.8g/L オルトフタルアルデヒド、2g/L N−アセチルシステインであった。分析カラムはコスモシール 5C18−MS−II 4.6mm×150mm 分析カラム(ナカライテスク)が用いられ、カラム温度は40°Cであった(表5−a)。HPLC分析のポンププログラムは、溶離液が0.7mL/分で20分間、反応液が0.3mL/分で20分間とした(表5−b)。蛍光は、励起波長340nm、検出波長450nmで測定された。
【0034】
反応液のHPLC分析をおこなった結果、陰性対照との比較により基質アミノ酸、2−オキソグルタル酸、L−アスコルビン酸、硫酸第一鉄、精製酵素などの全てを反応系に含む場合にのみ検出されたピークを生成物のピークと判断した。glr2602タンパク質による酵素反応系においては、L−及びD−バリンと、L−及びD−ロイシンと、L−及びD−イソロイシンと、L−及びD−ノルバリンと、L−及びD−ノルロイシンとを基質とした場合に生成物が検出された。図3−12は、これらの基質を含む反応液の反応後のHPLC分析結果を示すクロマトチャートである。図の中の数値は、それぞれの基質のピークの溶出時間と、生成物の最大ピークの溶出時間とである。PSPPH_3986タンパク質による酵素反応系においては、L−及びD−ロイシンと、L−イソロイシンと、L−及びD−ノルバリンと、L−及びD−ノルロイシンとを基質とした場合に未知化合物のピークが検出された。CV_3308タンパク質による酵素反応系においては、L−及びD−ロイシンと、L−イソロイシンと、L−ノルバリンと、L−及びD−ノルロイシンとを基質とした場合に未知化合物のピークが検出された。BC_1061タンパク質による酵素反応系においては、L−ロイシンと、L−イソロイシンと、L−ノルバリンと、L−及びD−ノルロイシンとを基質とした場合に未知化合物のピークが検出された。4種類のタンパク質について検出された未知化合物の最大ピークの溶出時間を表6にまとめた。
【0035】
【表6】
【実施例5】
【0036】
MS分析
HPLC分析において未知化合物のピークが検出されたサンプルを図2に示す手順に従って固相抽出カラムにより精製し、LCQ Deca(Thermo Quest)を用いてMS分析を実施した。MS分析条件を表7に示す。
【0037】
【表7】
【0038】
イオン化法はエレクトロスプレー法を用い、サンプルはシリンジによって直接注入した。Sheath Gas Flow Rateは20 arb、Aux Gas Flow Rateは20 arb、Spray Voltageは5kV、Capillary Tempは200°C、Capillary Voltageは17V、Tube Lens offsetは5Vの設定で分析された。
【0039】
MS分析の結果、glr2602タンパク質による酵素反応系で、L−及びD−バリンと、L−及びD−ロイシンと、L−及びD−イソロイシンと、L−及びD−ノルバリンと、L−及びD−ノルロイシンとを基質とした場合に質量数が16大きいプロトン付加イオンが検出された。図13−22は、これらの基質を含む反応液の反応後のMS分析結果を示すMSチャートである。図の中の数値は、それぞれの基質の水酸化物の質量電荷比である。同様に、PSPPH_3986タンパク質による酵素反応系においては、L−及びD−ロイシンと、L−イソロイシンと、L−及びD−ノルバリンと、L−及びD−ノルロイシンとを基質とした場合に、CV_3308タンパク質による酵素反応系においては、L−及びD−ロイシンと、L−イソロイシンと、L−ノルバリンと、L−及びD−ノルロイシンとを基質とした場合に、BC_1061タンパク質による酵素反応系においては、L−ロイシンと、L−イソロイシンと、L−ノルバリンと、L−及びD−ノルロイシンとを基質とした場合に、それぞれ質量数が16大きいプロトン付加イオンが検出された。検出された生成物のプロトン付加イオンの質量電荷比を表8にまとめた。この結果から、HPLC分析で同定された未知化合物は基質に水酸基が導入された化合物といえる。
【0040】
【表8】
【0041】
L−イソロイシンからの4−HIの合成は、市販の4−HI試薬と反応産物とのクロマトチャート及びMSチャートを比較して評価された。その結果、実施例2で得られた精製酵素によってL−イソロイシンから得られる反応産物は4−HIであるとの結論に達した。
【0042】
本発明の脂肪族アミノ酸ジオキシゲナーゼは脂肪族アミノ酸のL−体だけでなくD−体の水酸化反応を触媒する点で他に例がない。したがって、本発明はL−及びD−脂肪族アミノ酸の水酸化物の工業生産にとって有用である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】HPLC構成の模式図。
【図2】イオン交換カラムによるサンプル精製手順を示す模式図。
【図3】glr2602タンパク質によるL−バリンの水酸化反応産物のHPLC分析結果を示すクロマトチャート。
【図4】glr2602タンパク質によるL−ロイシンの水酸化反応産物のHPLC分析結果を示すクロマトチャート。
【図5】glr2602タンパク質によるL−イソロイシンの水酸化反応産物のHPLC分析結果を示すクロマトチャート。
【図6】glr2602タンパク質によるL−ノルバリンの水酸化反応産物のHPLC分析結果を示すクロマトチャート。
【図7】glr2602タンパク質によるL−ノルロイシンの水酸化反応産物のHPLC分析結果を示すクロマトチャート。
【図8】glr2602タンパク質によるD−バリンの水酸化反応産物のHPLC分析結果を示すクロマトチャート。
【図9】glr2602タンパク質によるD−ロイシンの水酸化反応産物のHPLC分析結果を示すクロマトチャート。
【図10】glr2602タンパク質によるD−イソロイシンの水酸化反応産物のHPLC分析結果を示すクロマトチャート。
【図11】glr2602タンパク質によるD−ノルバリンの水酸化反応産物のHPLC分析結果を示すクロマトチャート。
【図12】glr2602タンパク質によるD−ノルロイシンの水酸化反応産物のHPLC分析結果を示すクロマトチャート。
【図13】glr2602タンパク質によるL−バリンの水酸化反応産物のMS分析結果を示すMSチャート。
【図14】glr2602タンパク質によるL−ロイシンの水酸化反応産物のMS分析結果を示すMSチャート。
【図15】glr2602タンパク質によるL−イソロイシンの水酸化反応産物のMS分析結果を示すMSチャート。
【図16】glr2602タンパク質によるL−ノルバリンの水酸化反応産物のMS分析結果を示すMSチャート。
【図17】glr2602タンパク質によるL−ノルロイシンの水酸化反応産物のMS分析結果を示すMSチャート。
【図18】glr2602タンパク質によるD−バリンの水酸化反応産物のMS分析結果を示すMSチャート。
【図19】glr2602タンパク質によるD−ロイシンの水酸化反応産物のMS分析結果を示すMSチャート。
【図20】glr2602タンパク質によるD−イソロイシンの水酸化反応産物のMS分析結果を示すMSチャート。
【図21】glr2602タンパク質によるD−ノルバリンの水酸化反応産物のMS分析結果を示すMSチャート。
【図22】glr2602タンパク質によるD−ノルロイシンの水酸化反応産物のMS分析結果を示すMSチャート。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−オキソグルタル酸及び2価の鉄イオンの存在下で脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を触媒することを特徴とする、L−及びD−脂肪族アミノ酸ジオキシゲナーゼ。
【請求項2】
前記L−及びD−脂肪族アミノ酸ジオキシゲナーゼは、
(1)配列番号2、4又は6のアミノ酸配列からなるタンパク質と、
(2)配列番号2、4又は6に記載のアミノ酸配列に1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を触媒する2−オキソグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質と、
(3)配列番号2、4又は6のアミノ酸配列と80%以上の相同性を示すアミノ酸配列からなり、かつ、脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を触媒する2−オキソグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質と、
(4)配列番号1、3又は5のヌクレオチド配列と80%以上の相同性を示すヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドによってエンコードされるアミノ酸配列からなり、かつ、脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を触媒する2−オキソグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質と、
(5)配列番号1、3又は5のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってエンコードされるアミノ酸配列からなり、かつ、脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を触媒する2−オキソグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質と、
(6)特異的結合タグペプチドが前記(1)ないし(5)のいずれかのタンパク質に連結した、融合タンパク質とからなるグループから選択されることを特徴とする、請求項1に記載のL−及びD−脂肪族アミノ酸ジオキシゲナーゼ。
【請求項3】
2−オキソグルタル酸及び2価の鉄イオンの存在下で脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を触媒するL−及びD−脂肪族アミノ酸ジオキシゲナーゼと、脂肪族アミノ酸とを用意するステップと、
前記L−及びD−脂肪族アミノ酸ジオキシゲナーゼを前記脂肪族アミノ酸に対して作用させて、該脂肪族アミノ酸の水酸化物を得るステップとを含むことを特徴とする、L−及びD−脂肪族アミノ酸の水酸化物の製造方法。
【請求項4】
前記L−及びD−脂肪族アミノ酸ジオキシゲナーゼは、
(1)配列番号2、4、6又は8のうちいずれか1つのアミノ酸配列からなるタンパク質と、
(2)配列番号2、4、6又は8のうちいずれか1つに記載のアミノ酸配列に1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を触媒する2−オキソグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質と、
(3)配列番号2、4、6又は8のうちいずれか1つのアミノ酸配列と80%以上の相同性を示すアミノ酸配列からなり、かつ、脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を触媒する2−オキソグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質と、
(4)配列番号1、3、5又は7のうちいずれか1つのヌクレオチド配列と80%以上の相同性を示すヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドによってエンコードされるアミノ酸配列からなり、かつ、脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を触媒する2−オキソグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質と、
(5)配列番号1、3、5又は7のうちいずれか1つのヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってエンコードされるアミノ酸配列からなり、かつ、脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を触媒する2−オキソグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質と、
(6)特異的結合タグペプチドが前記(1)ないし(5)のいずれかのタンパク質に連結した、融合タンパク質とからなるグループから選択されることを特徴とする、請求項3に記載のL−及びD−脂肪族アミノ酸の水酸化物の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載のL−及びD−脂肪族アミノ酸ジオキシゲナーゼをエンコードするポリヌクレオチドを含むことを特徴とする、組換えベクター。
【請求項6】
請求項5に記載の組換えベクターを含むことを特徴とする、形質転換体。
【請求項1】
2−オキソグルタル酸及び2価の鉄イオンの存在下で脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を触媒することを特徴とする、L−及びD−脂肪族アミノ酸ジオキシゲナーゼ。
【請求項2】
前記L−及びD−脂肪族アミノ酸ジオキシゲナーゼは、
(1)配列番号2、4又は6のアミノ酸配列からなるタンパク質と、
(2)配列番号2、4又は6に記載のアミノ酸配列に1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を触媒する2−オキソグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質と、
(3)配列番号2、4又は6のアミノ酸配列と80%以上の相同性を示すアミノ酸配列からなり、かつ、脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を触媒する2−オキソグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質と、
(4)配列番号1、3又は5のヌクレオチド配列と80%以上の相同性を示すヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドによってエンコードされるアミノ酸配列からなり、かつ、脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を触媒する2−オキソグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質と、
(5)配列番号1、3又は5のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってエンコードされるアミノ酸配列からなり、かつ、脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を触媒する2−オキソグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質と、
(6)特異的結合タグペプチドが前記(1)ないし(5)のいずれかのタンパク質に連結した、融合タンパク質とからなるグループから選択されることを特徴とする、請求項1に記載のL−及びD−脂肪族アミノ酸ジオキシゲナーゼ。
【請求項3】
2−オキソグルタル酸及び2価の鉄イオンの存在下で脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を触媒するL−及びD−脂肪族アミノ酸ジオキシゲナーゼと、脂肪族アミノ酸とを用意するステップと、
前記L−及びD−脂肪族アミノ酸ジオキシゲナーゼを前記脂肪族アミノ酸に対して作用させて、該脂肪族アミノ酸の水酸化物を得るステップとを含むことを特徴とする、L−及びD−脂肪族アミノ酸の水酸化物の製造方法。
【請求項4】
前記L−及びD−脂肪族アミノ酸ジオキシゲナーゼは、
(1)配列番号2、4、6又は8のうちいずれか1つのアミノ酸配列からなるタンパク質と、
(2)配列番号2、4、6又は8のうちいずれか1つに記載のアミノ酸配列に1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を触媒する2−オキソグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質と、
(3)配列番号2、4、6又は8のうちいずれか1つのアミノ酸配列と80%以上の相同性を示すアミノ酸配列からなり、かつ、脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を触媒する2−オキソグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質と、
(4)配列番号1、3、5又は7のうちいずれか1つのヌクレオチド配列と80%以上の相同性を示すヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドによってエンコードされるアミノ酸配列からなり、かつ、脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を触媒する2−オキソグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質と、
(5)配列番号1、3、5又は7のうちいずれか1つのヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってエンコードされるアミノ酸配列からなり、かつ、脂肪族アミノ酸のL−体及びD−体の水酸化反応を触媒する2−オキソグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質と、
(6)特異的結合タグペプチドが前記(1)ないし(5)のいずれかのタンパク質に連結した、融合タンパク質とからなるグループから選択されることを特徴とする、請求項3に記載のL−及びD−脂肪族アミノ酸の水酸化物の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載のL−及びD−脂肪族アミノ酸ジオキシゲナーゼをエンコードするポリヌクレオチドを含むことを特徴とする、組換えベクター。
【請求項6】
請求項5に記載の組換えベクターを含むことを特徴とする、形質転換体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2010−98975(P2010−98975A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271675(P2008−271675)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【Fターム(参考)】
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