説明

M.ツベルクローシス(M.TUBERCULOSIS)群、およびマイコバクテリア(MYCOBACTERIA)属を検出するための組成物と、同組成物を用いたマルチプレックスリアルタイムPCRによりM.ツベルクローシス(M.TUBERCULOSIS)群、およびマイコバクテリア(MYCOBACTERIA)属を同時に検出する方法

M.ツベルクローシス(M.tuberculosis)およびマイコバクテリア(mycobacteria)属を検出するための組成物であって、(i)M.ツベルクローシス(M.tuberculosis)特異的遺伝子、IS6110を標的とするプライマーおよび/またはプローブ、(ii)マイコバクテリア(mycobacteria)属特異的遺伝子、インタートランスクリプショナルスペーサー(ITS)を標的とするプライマーおよび/またはプローブ、並びに、任意選択により、(iii)内部対照としての植物由来の遺伝子を標的とするプライマーおよび/またはプローブを含む、組成物を開示する。本組成物を用いてリアルタイムマルチプレックスポリメラーゼ連鎖反応を実施すると、単一反応により非結核性マイコバクテリア(nontuberculosis mycobacteria)およびマイコバクテリア(mycobacteria)属を検出することができ、従って臨床診断を高い信頼性で迅速かつ容易に実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、M.ツベルクローシス(M.tuberculosis)群およびマイコバクテリア(mycobacteria)属を識別可能に検出する組成物と、同組成物を用いたリアルタイムマルチプレックスポリメラーゼ連鎖反応(RT PCR)によるM.ツベルクローシス(M.tuberculosis)およびマイコバクテリア(mycobacteria)属の同時解析とに関する。更に詳しくは、本発明は、M.ツベルクローシス(M.tuberculosis)およびマイコバクテリア(mycobacteria)属を検出するための組成物であって、(i)M.ツベルクローシス(M.tuberculosis)特異的遺伝子、IS6110を標的とするプライマーおよび/またはプローブ、(ii)マイコバクテリア(mycobacteria)属特異的遺伝子、インタートランスクリプショナルスペーサー(ITS:inter−transcriptional spacer)を標的とするプライマーおよび/またはプローブ、並びに、任意選択により、(iii)内部対照としての植物由来の遺伝子を標的とするプライマーおよび/またはプローブを含む、組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
結核は、人類史上最も高い死亡率を示す感染症であり、幅0.2〜0.5μm、長さ1〜4μmの桿状をしたマイコバクテリア(mycobacteria)属の各菌が原因で起こる。
【0003】
マイコバクテリア(Mycobacteria)属には、様々なヒトおよび動物に感染し、結核などの呼吸器疾患、および癩などの疾患を引き起こす多様な菌種のマイコバクテリア(mycobacteria)があり、これまでに約100菌種が知られている(Shinnick TM et al.,Mycobacterial taxonomy.Eur.J.Clin.Microbiol.Infect Dis.1994;13(11):884−901)。
【0004】
ヒトの結核の原因となる最も重要なマイコバクテリウム(mycobacterium)として知られるマイコバクテリウム・ツベルクローシス(mycobacterium tuberculosis)には、マイコバクテリウム・ツベルクローシス(mycobacterium tuberculosis)、稀にしか出現しないマイコバクテリウム・ボビス(mycobacterium bovis)、および同種のものがある。マイコバクテリウム・レプラエ(Mycobacterium leprae)は、癩の原因として知られている(Shinnick,T.M.and Good,R.C.Mycobacterial taxonomy.Eur.J.Clin.Microbiol.Infect.Dis.1994;13(11):884−901)。
【0005】
結核は、発展途上国で有病率が高い疾患である、Koreaでは毎年120,000例のM.ツベルクローシス(M.tuberculosis)症例が新たに認められ、2003年に報告された新たな結核感染は、30,687例(10万人あたり64例に相当)にのぼり、Koreaは、OECD加盟国30カ国のうち結核死亡率が1位という汚名を受けている(2004年、大韓民国統計庁(National Statistical Office)の統計データ)。
【0006】
近年、後天性免疫不全症候群(AIDS)および他の免疫不全症候群の患者、免疫系が比較的弱い乳児などが、非結核性のマイコバクテリア(nontuberculous mycobacteria)(NTM)に感染し、M.ツベルクローシス(M.tuberculosis)感染症に関連した症状に類似した臨床症状を呈する非定型結核患者が増加している。
【0007】
NTMの例として、マイコバクテリウム・アビウム(Mycobacterium avium)(M.アビウム・イントラセルラーレ(M.avium−intracellulare)またはM.アビウム・コンプレックス(M.avium complex))、M.フォーチュイタム(M.fortuitum)、M.ケロネー(M.chelonae)、M.ゴルドナエ(M.gordonae)、M.ツラガイ(M.szulagai)、M.カンサシ(M.kansasii)、M.ゲナベンス(M.genavense)などの非結核性のマイコバクテリア(nontuberculous mycobacteria)が挙げられる(Barnes,P.F.et al.,Tuberculosis in patients with human immunodeficiency virus infection.N.Engl.J.Med.1991;324(23):1644−1650)。
【0008】
これらのNTM菌種の多くは、M.ツベルクローシス(M.tuberculosis)治療薬に対して多剤耐性を示し、処置するのが難しい(Kam,K.M.et al.,Trends in Multidrug−Resistant Mycobacterium tuberculosis in Relation to Sputum Smear Positivity in Hong Kong,1989−1999.Clin.Infect.Dis.2002;34(3):324−329)。
【0009】
NTMのうち最も多く見られるマイコバクテリウム・アビウム・コンプレックス(Mycobacterium avium complex)(MAC)は、主要な結核治療薬の有効性がM.ツベルクローシス(M.tuberculosis)の1/10〜1/100の低さであることが知られており、米国胸部疾患学会(ATS:American Thoracic Society)は、非結核性のマイコバクテリア(nontuberculous mycobacteria)の各菌種の疾患が原因となる疾患の診断および処置に関するガイドラインを示している(American Thoracic Society,Diagnosis and treatment of disease caused by nontuberculous mycobacteria.Am J Respir Crit Care Med.1997;156(2):S1−S25)。
【0010】
従って、非結核性のマイコバクテリア(nontuberculous mycobacteria)は、症状については結核性のマイコバクテリア(tuberculous mycobacteria)とかなり類似してはいるものの、処置する薬剤の点で結核性のマイコバクテリア(tuberculous mycobacteria)と異なる場合がある。結核性のマイコバクテリア(mycobacteria)および非結核性のマイコバクテリア(mycobacteria)をそれぞれ好適に処置するには、結核性のマイコバクテリア(mycobacteria)と非結核性のマイコバクテリア(mycobacteria)とを正確に識別すること、並びにその早期検出および診断が不可欠である。
【0011】
一般的な結核の診断方法には、患者の臨床症状の検査、ツベルクリン皮膚反応検査、X線イメージング、M.ツベルクローシス(M.tuberculosis)検査および同種のものがある。最も容易な方法であるツベルクリン検査は、実施しやすいが、重篤な結核、麻疹および免疫抑制により起こるアネルギーの症例で偽陰性を示すことが多い。X線像の約25%は、検出器の能力に応じて異なる場合があり、このためX線像を用いた診断は、異常な陰影を発見する検出器の能力、および異常な陰影を正確に判定する検出器の能力に左右される。
【0012】
M.ツベルクローシス(M.tuberculosis)の検出は、最も正確な結核の診断方法であり、塗抹検査、培養試験、分子診断検査および同種のものが挙げられる。
【0013】
塗抹検査は主に、チール・ネールゼン(Ziehl−Neelsen)染色により抗酸性を確認する染色を使用する。この方法は、結果を容易かつ迅速に得ることを可能にするが、結核性のマイコバクテリア(mycobacteria)と非結核性のマイコバクテリア(mycobacteria)とを識別することができず、感度が低い。
【0014】
培養試験は、1mlの検体に細菌が約10個しか存在しなくても細菌を検出できる程度に感度が高く、結核性のマイコバクテリア(tuberculous mycobacteria)の分離および正確な診断を可能にする。この方法は、長期間を要するものであり、たとえば、十分な訓練を受けた研究者が約4〜8週間培養および観察を行う必要があり、従って処置に適していないという問題がある。
【0015】
新たに開発された培養方法にBACTEC(Becton Dickinson,US)がある。この方法は、C14パルミテートを含む液体培養基にバチルス(bacillus)を接種し、放射性同位元素を用いて算出された増殖指数(growth quotient)から、バチルス(Bacillus)の代謝により生成される14COの量を推計する。この方法は、結果を平均で16日後に得ることを可能にするが、放射性同位元素を取り扱う施設および専門家を必要とするという問題がある。
【0016】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に続く電気泳動は、特定の遺伝子部位を2〜3時間以内で増幅することにより、M.ツベルクローシス(M.tuberculosis)の存在を迅速かつ正確に確認できる方法である。この方法は、1日以内に臨床検体から95%以上の感度および特異性でM.ツベルクローシス(M.tuberculosis)の検出を可能にするものであり、従って有用である(Wilson,S.M.et al.,Progress toward a simplified polymerase chain reaction and its application to diagnosis of tuberculosis.J.Clin.Microbiol.1993; 31(4):776−78)。
【0017】
しかしながら、この方法は、キャリーオーバーコンタミネーションのリスクが高く、職業専門家を必要とする(Noordhoek,G.T.et al.,Sensitivity and specificity of PCR for detection of Mycobacterium tuberculosis:a blind comparison study among seven laboratories.J.Clin.Microbiol.1994;32(2):277−284)。
【0018】
一方、結核診断の場合、PCR検査は、塗抹陽性の検体では感度および特異性がかなり高く、抗酸菌の塗抹陽性でPCR陰性の検体は、NTMに感染していると見なし得ることについて考慮すべきである。
【0019】
NTMによる肺疾患の頻度が高い米国は、抗酸菌の塗抹陽性でPCR陽性の被検体を暫定的に結核と診断し、PCR阻害剤が存在するか否かを確認し、検査対象の被検体が再び陰性である場合、抗酸菌の塗抹陽性でPCR陰性の被検体を暫定的にNTMと診断することを推奨している。最終的なNTM感染の診断を完了するには、4〜8週間の培養期間を要する(Centers for Disease Control and Prevention (CDC).Update:Nucleic acid amplification tests for tuberculosis.MMWR Morb.Mortal.Wkly.Rep.2000; 49:593−4)。最近、こうしたガイドラインによってNTM感染が検出されることがあるとはいえ、臨床的には、可能な限り、NTMを直接検出することが一層有用である。
【0020】
Koreaでは、結核の発症率が高く、NTMによる疾患の頻度は低い。このため、抗酸菌の塗抹陽性の被検体は、一般に結核に感染しているものと見なされ、抗結核剤による処置を受けるのが一般的である。しかしながら、近年、KoreaではNTM、およびNTMによる疾患の発見率が高まっており、NTMが免疫機能の弱い人に疾患を引き起こす恐れがある。NTMは、診断しにくいうえ、薬剤耐性の頻度が高いため処置が難しく、再発率も高い(Scientific committee in Korean academy of tuberculosis and respiratory disease.National survey of mycobacterial diseases other than tuberculosis in Korea.Tuberc.Respir.Dis.1995;42:277−94.)。従って、NTMを識別可能に診断する方法に対する要求が増加している。
【0021】
NTMを検出する最近の方法としてはAFB染色法があり、分子生物学的方法を用いてマイコバクテリア(mycobacteria)の菌種の識別に一般に使用される方法として、制限酵素と、特異的プローブを用いたPCR−ハイブリダイゼーションとを用いたPCR−RFLPが挙げられる。
【0022】
これらの方法はどれも感度が低いうえ、事前に培養するか、或いは、複雑な実験ステップを必要とするという問題があり、従って早い段階でのM.ツベルクローシス(M.tuberculosis)およびマイコバクテリア(mycobacteria)属の迅速な検出での使用に適していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
従って、本発明は、まだ解決されていない上記の問題および他の技術的問題を解決するためになされた。
【0024】
本発明の1つの目的は、M.ツベルクローシス(M.tuberculosis)を正確に診断するため、M.ツベルクローシス(M.tuberculosis)に特異的な遺伝子部位IS6110に対して優れた感度を持つプライマーおよび/またはプローブを提供することにある。
【0025】
本発明のもう1つの目的は、マイコバクテリア(mycobacteria)属(非結核性のマイコバクテリア(mycobacteria))の存在を確認するため、マイコバクテリア(mycobacteria)属に多く存在するITS遺伝子に対して高度に特異的な遺伝子部位を検出するような優れた感度を持つプライマーおよび/またはプローブを提供することにある。
【0026】
本発明のもう1つの目的は、本プライマーおよび/またはプローブを用いたリアルタイムマルチプレックスポリメラーゼ連鎖反応により、M.ツベルクローシス群(M.tuberculosis complex)および非結核性のマイコバクテリア(nontuberculous mycobacteria)を同時に検出する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
1. M.ツベルクローシス(M.tuberculosis)またはマイコバクテリア属(mycobacteria genus)を検出するためのプライマー
本発明は、結核性マイコバクテリア(tuberculosis mycobacteria)、および非結核性マイコバクテリア(mycobacteria)を識別可能に検出するための組成物であって、配列番号1の塩基配列、および配列番号2の塩基配列の1つまたは複数を含むプライマー;並びに配列番号3〜11の塩基配列の1つまたは複数を含むプライマーを含む、組成物に関する。
【0028】
好ましくは、本発明は、結核性マイコバクテリア(tuberculosis mycobacteria)、および非結核性マイコバクテリア(nontuberculosis mycobacteria)を識別可能に検出するための組成物であって、配列番号1の塩基配列を含むプライマー、および配列番号2の塩基配列を含むプライマーの両方;または、配列番号3〜9の塩基配列の1つ若しくは2つ以上を含むプライマー、および配列番号10〜11の塩基配列の1つ若しくは2つ以上を含むプライマーの両方を含む、組成物に関する。
【0029】
一層好ましくは、本発明は、結核性マイコバクテリア(tuberculosis mycobacteria)、および非結核性マイコバクテリア(nontuberculosis mycobacteria)を識別可能に検出するための組成物であって、配列番号1の塩基配列を含むプライマー;配列番号3〜9の塩基配列の1つ若しくは2つ以上を含むプライマー;並びに配列番号10〜11の塩基配列の1つ若しくは2つ以上を含む、プライマー組成物に関する。
【0030】
本明細書で使用する場合、「配列番号xの塩基配列を含むプライマー」という用語は、配列相同性が95%以上である塩基配列を含む。たとえば、プライマーが20bpである場合、20bpの2つ以上が異なると、融解温度が5度以上低下し、従って悪い結果を招くのに対して、20bpの1つのみが異なる場合、PCRにおいて若干低いアニーリング温度で試験を行っても、同一の結果を得ることができる。
【0031】
以下、本明細書では、説明しやすくするため、「配列番号xの塩基配列を含むプライマー」を単に「配列番号xのプライマー」という。
【0032】
本明細書では、配列番号1のプライマー、および配列番号2のプライマーは、M.ツベルクローシス群(M.tuberculosis complex)に特異的な遺伝子部位IS6110遺伝子部位を標的とするプライマーである。
【0033】
一般には、「M.ツベルクローシス(M.tuberculosis)」は、狭義にマイコバクテリウム・ツベルクローシス(mycobacterium tuberculosis)を意味する。本発明では、「M.ツベルクローシス(M.tuberculosis)」は、広義にマイコバクテリウム・ツベルクローシス(mycobacterium tuberculosis)だけでなく、マイコバクテリウム・ボビス(mycobacterium bovis)、マイコバクテリウム・ミクロティ(mycobacterium microti)、およびマイコバクテリウム・アフリカヌム(mycobacterium africanum)を意味する。場合によっては、M.ツベルクローシス(M.tuberculosis)は、「M.ツベルクローシス群(M.tuberculosis complex)」または「TB群(TB complex)」をいう。
【0034】
IS6110遺伝子は、マイコバクテリウム・ツベルクローシス(mycobacterium tuberculosis)およびマイコバクテリア・ボビス(mycobacteria bovis)などのM.ツベルクローシス(M.tuberculosis)群に見られる挿入配列である。M.ツベルクローシス(M.tuberculosis)群は、PCRによる結核診断に一般に使用されるIS6110を10〜12コピー含むことが知られている(Thierry D.et al.,J.Clin.Microbiol.1990;28(12):2668−2673)。しかしながら、Kentらは、IS6110はプライマーの選択位置によって偽陽性の危険性(risk ratio)に相違があることを報告した(J.Clin.Microbiol.1995;33(9):2290−2293)。
【0035】
このため、本発明の発明者らは、塩基配列の解析により偽陽性のリスクが低い部位を研究した。その結果、以下の例から分かるように、配列番号1のプライマーおよび配列番号2のプライマーは、M.ツベルクローシス群(M.tuberculosis complex)のIS6110遺伝子のみを増幅するプライマー塩基配列であり、M.ツベルクローシス(M.tuberculosis)群のIS6110遺伝子部位において97%以上のかなり高い感度と、99%以上の陽性的中率を示す。これは、偽陽性のリスクが相当に低いことを意味する。こうした高い感度および陽性的中率を示すプライマーは、これまで発見されていない。
【0036】
よって、配列番号1のプライマー、配列番号2のプライマー、またはその組み合わせを使用すると、M.ツベルクローシス群(M.tuberculosis complex)を高い信頼性を持って検出することができる。
【0037】
非結核性マイコバクテリア(mycobacteria)の存在/非存在を確認するには、マイコバクテリア(mycobacteria)の特定が重要である。これに関しては、マイコバクテリウム(Mycobacterium)属ではrpoB遺伝子が共通しており、従ってrpoBの有無を用いてマイコバクテリアの菌種を特定することができる(Lee,Hye−Young,et.al.,Korean Patent Laid−open No.10−2001−0038701)。
【0038】
しかしながら、この特許は、PCR−RFLPを使用するものであり、従って低感度、および複雑な実験ステップのため事前に培養が必要となるなどの問題がある。このためこの特許は、早い段階でのM.ツベルクローシス群(M.tuberculosis complex)およびマイコバクテリア属(mycobacteria genus)の迅速な検出に使用するには適していない。
【0039】
そこで、これらの問題を解決するため、本発明者らは、リアルタイムPCRに好適な100bp以下のPCR増幅産物を形成する、rpoB遺伝子部位に特異的な新規なプライマーを開発した(Kang Jin Seok et al.,韓国特許出願公開第2008−0090156号明細書)。
【0040】
しかしながら、rpoBは、RNAポリメラーゼβサブユニットをコードする遺伝子であり、本出願の特異性試験の結果からは、微生物の菌種の多くの種が陽性を呈さないものの、結核に類似した肺炎の症状を示すノカルジア(Nocardia)属微生物と、マイコバクテリア(mycobacteria)属に類似したロドコッカス(rhodococcus)属微生物とは、いくつかの微生物で共通の作用を示す類似の塩基配列が存在するため、陽性を呈することが理解され得る。
【0041】
一方、非結核性マイコバクテリア(nontuberculosis mycobacteria)の存在を確認するには、マイコバクテリア(mycobacteria)属の特定が重要である。マイコバクテリア(mycobacteria)属にはITS遺伝子およびrpoB遺伝子が含まれており、従って、これらを使用して細菌の菌種を特定することが知られている(Kim In Sooら、韓国特許第0725579号明細書)。
【0042】
しかしながら、この特許は、PCR−リバースハイブリダイゼーションのため約250〜450bpのサイズのPCR産物を形成するプライマーを使用するものであり、従って迅速な検出のためのリアルタイムPCRに適していないという問題がある。
【0043】
そこで、本発明者らは、ITS部位のリアルタイムPCRに好適なサイズの増幅産物を形成するプライマーを開発した。即ち、配列番号3〜11のプライマーは、マイコバクテリア(mycobacteria)属に特異的な遺伝子部位、ITS遺伝子部位を標的とするプライマーである。これらのプライマーは、100bp以下のサイズのPCR増幅産物を形成するものである。このため、これらのプライマーは、ノカルジア(Nocardia)属微生物およびロドコッカス(rhodococcus)属微生物と反応しないことから、これらのプライマーにより、有利にはマイコバクテリア(mycobacteria)属をかなり確実かつ迅速に検出することが可能になり、以前より高い特異性を示す。
【0044】
本発明によりM.ツベルクローシス(M.tuberculosis)またはマイコバクテリア(mycobacteria)属を検出する組成物は選択的に、内部対照プライマーを更に含んでもよい。この内部対照を用いて、偽陰性の問題が起こるか否か、即ち、PCR反応が正常に行われるか否かを確認する。サンプル中のM.ツベルクローシス(M.tuberculosis)またはマイコバクテリア(mycobacteria)の有無にかかわらず、正常に発現した遺伝子をランダムに選択することができる。
【0045】
好ましい実施形態では、内部対照プライマーは、全サンプルに加えられる植物由来の遺伝子特異的プライマーであってもよい。
【0046】
この植物由来の遺伝子は、好ましくはレクチンであり、レクチン遺伝子特異的プライマーは、配列番号15の塩基配列を含むプライマーでも、または配列番号16の塩基配列を含むプライマーでもよい。
【0047】
下記表1に、本発明の配列番号1〜11のプライマー、配列番号15のプライマー、および配列番号16のプライマーの塩基配列を示す。
【0048】
【表1】

【0049】
上記の配列では、「R」および「Y」は、組み合わせた塩基配列であり、それぞれ「R=A+G」および「Y=C+T」を示す。
【0050】
上記のように、本発明は、M.ツベルクローシス(M.tuberculosis)を検出するための組成物であって、M.ツベルクローシス(M.tuberculosis)のIS6110遺伝子に特異的な新規なプライマーとして配列番号1の塩基配列を含むセンスプライマー、および配列番号2の塩基配列を含むアンチセンスプライマーの1つまたは2つ以上を含む、組成物を提供する。
【0051】
更に、本発明は、マイコバクテリア(mycobacteria)属を検出するための組成物であって、マイコバクテリア(mycobacteria)のITS遺伝子に特異的なプライマーとして配列番号3〜9の塩基配列を含むセンスプライマーの1つ若しくは2つ以上;配列番号10〜11の塩基配列を含むアンチセンスプライマーの1つ若しくは2つ以上;またはその組み合わせを含む、組成物を提供する。
【0052】
マイコバクテリア(mycobacteria)属のITS遺伝子に特異的なプライマーは、リアルタイムPCRに好適な長さ100bp以下のPCR増幅産物を形成する。
【0053】
好ましい実施形態では、マイコバクテリア(mycobacteria)は、マイコバクテリウム・ツベルクローシス(mycobacterium tuberculosis)でも、またはマイコバクテリウム・ボビス(mycobacterium bovis)でもよい。M.ツベルクローシス(M.tuberculosis)の検出の信頼性は、ITS遺伝子を用いてM.ツベルクローシス(M.tuberculosis)群のIS6110遺伝子を解析することにより、更に改善することができる。
【0054】
好ましい実施形態では、マイコバクテリア(mycobacteria)は、非結核性マイコバクテリア(mycobacteria)(NTM)であってもよい。この場合、ITS遺伝子の塩基配列の解析により有利に確認できるのは、M.ツベルクローシス(M.tuberculosis)群よりむしろ非結核性マイコバクテリア(mycobacteria)の存在および種類である。
【0055】
更に、本発明者らは、配列番号3〜11の塩基配列を含むプライマーが、以下の42菌種のマイコバクテリア(mycobacteria)の特定に有効であり、高い特異性を有することを確認した。
【0056】
【表2】

【0057】
2. M.ツベルクローシス(M.tuberculosis)またはマイコバクテリア(mycobacteria)属を検出するためのプローブ
別の態様では、本発明は、M.ツベルクローシス(M.tuberculosis)またはマイコバクテリア(mycobacteria)属を検出するための組成物であって、配列番号12の塩基配列を含むプローブ;配列番号13の塩基配列を含むプローブ;および配列番号14の塩基配列を含むプローブからなる群から選択される1つまたは2つ以上を含む、組成物を提供する。
【0058】
この組成物は任意選択により、内部対照プローブを更に含んでもよく、内部対照プローブは、好ましくは植物由来の遺伝子レクチンに特異的であり、配列番号17の塩基配列を含むプローブである。
【0059】
本発明では、「配列番号xの塩基配列を含むプローブ」という用語は、配列相同性が95%以上の塩基配列を含む。説明しやすくするため、以下本明細書では、「配列番号xの塩基配列を含むプローブ」を単に「配列番号xのプローブ」という。
【0060】
配列番号12のプローブは、IS6110遺伝子部位と特異的に反応し、配列番号13のプローブおよび配列番号14のプローブは通常、検出可能な全マイコバクテリア(mycobacteria)属のITS遺伝子と反応するプローブである。
【0061】
このため、IS6110遺伝子およびITS遺伝子に特異的なプローブにより、サンプル中のマイコバクテリア(mycobacteria)がM.ツベルクローシス(M.tuberculosis)であるか否かをより正確に検出することができ、ITS遺伝子の存在を確認することにより、マイコバクテリア(mycobacteria)の存在を確認することができる。
【0062】
特に、本発明によるIS6110遺伝子またはITS遺伝子に特異的なプローブは、taqmanアッセイまたは分子ビーコンアッセイを用いた定量PCRアッセイに有用である。
【0063】
このため、好ましい実施形態では、蛍光材料を用いてプローブをその5’末端および3’末端で標識し、5’末端で標識した蛍光材料(レポーター)、および3’末端で標識した蛍光材料(クエンチャー)は、相互に干渉してもよい。従って、プローブがサンプル中に存在するIS6110またはITS遺伝子に結合する場合、プローブの発色は抑えられているが、ポリメラーゼ連鎖反応を実施すると、プローブが分解し、その5’末端で標識した蛍光材料はクエンチされる一方、3’末端に標識した蛍光材料は発色する。
【0064】
プローブの5’末端に標識する蛍光材料は特に限定されるものではなく、たとえば、蛍光材料は、6−カルボキシフルオレセイン(FAM)、ヘキサクロロ−6−カルボキシフルオレセイン(HEX)、テトラクロロ−6−カルボキシフルオレセインおよびシアニン−5(Cy5)からなる群から選択してもよいが、これに限定されるものではない。
【0065】
更に、3’末端に標識する蛍光材料は、6−カルボキシテトラメチル−ローダミン(TAMRA)でも、またはブラックホールクエンチャー−1,2,3(BHQ−1,2,3)でもよいが、これに限定されるものではない。
【0066】
下記表2に、本発明の配列番号12〜14のプローブおよび配列番号17のプローブの塩基配列をに示す。
【0067】
【表3】

【0068】
3. リアルタイムPCRアッセイのための組成物およびキット
本発明は、リアルタイムPCRアッセイを用いてM.ツベルクローシス(M.tuberculosis)およびマイコバクテリア(mycobacteria)属の識別、検出および解析を行うための組成物であって、配列番号1の塩基配列および配列番号2の塩基配列の1つまたは2つ以上を含むプライマー;配列番号3〜11の塩基配列の1つまたは2つ以上を含むプライマー;並びに配列番号12〜14の塩基配列の1つまたは2つ以上を含むプローブを含む、組成物を提供する。
【0069】
この組成物は、偽陰性を防止するため内部対照プライマーおよび内部対照プローブを更に含んでもよい。
【0070】
内部対照プライマーは、配列番号15の塩基配列を含むセンスプライマーでも、または配列番号16の塩基配列アンチセンスプライマーでもよく、内部対照プローブは、配列番号17の塩基配列を含むプローブであってもよい。
【0071】
即ち、本発明による定量解析用組成物は、M.ツベルクローシス(M.tuberculosis)若しくは非結核性マイコバクテリア(nontuberculosis mycobacteria)を検出するためのプライマー、または、非結核性マイコバクテリア(mycobacteria)を検出するためのプローブ、並びに任意選択により内部対照プライマーおよびプローブを含む。
【0072】
臨床検体から抽出されたDNAと共に2または3菌種の遺伝子を単一チューブで増幅し、得られた産物をリアルタイムで解析および検出するリアルタイムPCRアッセイを、本発明による組成物を用いて実施することができる。
【0073】
好ましい実施形態では、この組成物は、
(i)配列番号1の塩基配列を含むセンスプライマーおよび配列番号2の塩基配列を含むアンチセンスプライマー;並びに配列番号12の塩基配列を含むプローブを含む、M.ツベルクローシス(M.tuberculosis)のIS6110遺伝子に特異的なプライマーとプローブとの混合物;
(ii)配列番号3〜9の塩基配列を含むセンスプライマーおよび配列番号10〜11の塩基配列を含むアンチセンスプライマー;並びに配列番号13の塩基配列を含むプローブおよび/または配列番号14の塩基配列を含むプローブを含む、マイコバクテリア(mycobacteria)属のITS遺伝子に特異的なプライマーとプローブとの混合物;
(iii)配列番号15の塩基配列を含むセンスプライマーおよび配列番号16の塩基配列を含むアンチセンスプライマー;並びに配列番号17の塩基配列を含むプローブを含む、内部対照遺伝子に特異的なプライマーとプローブとの混合物;並びに
(iv)緩衝液、DNAポリメラーゼ、dNTPおよび滅菌蒸留水を含む、PCR反応混合物
を含む。
【0074】
解析用組成物は、複数群のプライマー、および3群のプローブを含む。本発明の発明者らは、この組成物を用いてリアルタイムマルチプレックスPCRを行った。その結果、本発明者らは、偽陽性のリスクをほぼ完全に排除して、検体中のM.ツベルクローシス(M.tuberculosis)およびマイコバクテリア(mycobacteria)を検出および診断できることを確認した。
【0075】
具体的には、混合物(i)は、M.ツベルクローシス群(M.tuberculosis complex)のみを増幅することができ、かつ、IS6110遺伝子部位に対して97%以上のかなり高い感度、および99%以上の陽性的中率を示すプライマーと、このプライマーを用いて増幅されるIS6110遺伝子部位に特異的に結合するプローブとを含む。
【0076】
混合物(ii)は、マイコバクテリア(mycobacteria)属特異的遺伝子、ITS遺伝子を増幅することができ、かつ、リアルタイムPCRを用いた解析に好適な長さのITS遺伝子部位を形成するプライマーと、このプライマーを用いて増幅されるITS遺伝子部位に特異的に結合するプローブとを含む。
【0077】
今回のプローブは、検出可能な全マイコバクテリア(mycobacteria)属のITS遺伝子に結合し、従ってその結合によりマイコバクテリア(mycobacteria)の存在を確認することができる。
【0078】
必要に応じて、この組成物は、マイコバクテリア(mycobacteria)の異なる菌種から抽出された別の塩基配列を持つITS遺伝子部位を含む1つまたは複数のプローブを更に含んでもよい。この場合、それぞれのマイコバクテリア(mycobacteria)の菌種を確認することができる。
【0079】
このため、本組成物を含む解析キットを使用すると、結核に特異的な遺伝子を簡便かつ正確に定量的に解析することができ、非結核性のマイコバクテリア(mycobacteria)の存在を確認することも可能である。従って、結核の正確な診断のため、この解析キットを広く使用することができる。場合によっては、それぞれの混合物を別々に解析し、セットとして判断してもよい。
【0080】
こうしたリアルタイムPCRアッセイは、市販されているリアルタイムPCR装置を用いて行うことができ、リアルタイムPCR装置の例としては、SLANリアルタイムPCR検出系(LG Life Sciences,Korea)、LightCycler(商標)(Roche,Germany)、ABI PRISMTM7000/7700(Applied Biosystems,USA)、iCycler(商標)(Bio−Rad,USA)、Rotor−Gene(商標)(Corbett、Australia)、Opticon(商標)(PharmaTech,USA)および同種のものがあるが、これに限定されるものではない。
【0081】
4. M.ツベルクローシス(M.tuberculosis)またはマイコバクテリア属(mycobacteria genus)の解析方法
解析のための本発明による組成物は、M.ツベルクローシス(M.tuberculosis)またはマイコバクテリア属(mycobacteria genus)の存在を確認する定性解析に使用しても、その定量解析に使用してもよい。即ち、本発明は、解析用組成物を用いてM.ツベルクローシス(M.tuberculosis)若しくは非結核性マイコバクテリア(nontuberculosis mycobacteria)を定量解析または定性解析する方法を提供する。
【0082】
M.ツベルクローシス(M.tuberculosis)またはマイコバクテリア(mycobacteria)属の存在を確認する定性解析については、解析用組成物を用いてリアルタイムPCRを行い、ピークが観察される点を確認することにより実施してもよい。
【0083】
更に、定量解析は、標準曲線との比較により行ってもよい。好ましい実施形態では、定量解析は、解析用組成物を用いて以下のステップにより行ってもよい:
(1)サンプルから抽出された細菌のDNAと解析用組成物を混合して遺伝子解析用のサンプルを調製するステップ;
(2)遺伝子解析用のサンプルをリアルタイムPCRに供してPCR産物を得るステップ;
(3)PCR産物を定量して定量曲線を得るステップ;並びに
(4)サンプルから抽出された細菌のDNAに存在するIS6110特異的遺伝子、ITS特異的遺伝子および内部対照特異的遺伝子を、定量曲線を用いて定量するステップ。
【0084】
即ち、複数群のプライマーおよび3群のプローブ、即ち、M.ツベルクローシス(M.tuberculosis)遺伝子IS6110に特異的なプライマー対およびプローブ、マイコバクテリア属(mycobacteria genus)のITS遺伝子に特異的なプライマー対およびプローブ、並びにレクチン遺伝子などの内部対照遺伝子に特異的なプライマー対およびプローブを含む定量解析用組成物に、サンプルから抽出された細菌のDNAを加え、リアルタイムPCRを実施すると、IS6110遺伝子と、ITS遺伝子と、レクチン遺伝子などの内部対照遺伝子とに特異的なそれぞれのプライマー対およびプローブがDNAに結合し、PCR産物が増幅される。
【0085】
PCR産物の解析方法としてtaqman解析を使用する場合、IS6110遺伝子、ITS遺伝子およびレクチン遺伝子に結合したプローブが分解し、発光する現象を用いて遺伝子の増幅を確認することにより、IS6110特異的遺伝子、ITS特異的遺伝子および内部対照特異的遺伝子を解析することができる。
【0086】
本発明の上記および他の目的、特徴並びに他の利点は、以下の詳細な説明を添付図面と合わせて考えるとより明確に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明による解析用組成物を用いた、M.ツベルクローシス(M.tuberculosis)群陽性サンプルのリアルタイムマルチプレックスPCRの結果を示す画像である。
【図2】本発明による解析用組成物を用いた、マイコバクテリア(mycobacteria)属陽性サンプルのリアルタイムマルチプレックスPCRの結果を示す画像である。
【図3】本発明による解析用組成物を用いた、陰性サンプルのリアルタイムマルチプレックスPCRの結果を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0088】
次に、以下の例を参照しながら、本発明をより詳細に記載する。これらの例は、本発明の範囲および精神を限定するものと解釈してはならない。
【実施例】
【0089】
実施例1:プライマーおよびプローブの作製
日立ソフトウェアエンジニアリング株式会社製のDNAsisを用いて塩基配列を決定し、BLAST(www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)を用いて塩基配列を解析し、米国国立衛生研究所(NIH)の関連機関NCBIが管理するGenBank(www.ncbi.nlm.nih.gov)に受託番号NC000962で寄託された塩基配列を解析することにより、本発明に使用するIS6110特異的プライマーおよびプローブは、M.ツベルクローシス(M.tuberculosis)群のみを増幅できるプライマー塩基配列であることが確認された。
【0090】
更に、Genebank Entrezからマイコバクテリア(mycobacteria)ITS遺伝子を入手し、clustal Xを用いて保存部位を解析し、塩基配列を決定し、BLAST(www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)を用いて塩基配列を解析することにより、本発明に使用するITS特異的プライマーおよびプローブも、マイコバクテリア(mycobacteria)属のみを増幅できるプライマー塩基配列であることが確認された。
【0091】
植物由来の遺伝子特異的プライマーおよびプローブの塩基配列については、当該技術分野において公開された特許から入手する。
【0092】
実施例2:プライマーの合成
実施例1で解析したプライマーは、Molecular Cloning 3rd ed.の段落10.42に記載された「オリゴヌクレオチド合成」法を用いてMetabion Corporation(Germany)が合成した(Sambrook and Rusell,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York,USA,2001)。
【0093】
実施例3:臨床検体または標準株培養基からのマイコバクテリアDNAの抽出
結核と思われる患者の痰または標準株培養基の1〜2ml、および1〜2mlの4N NaOHを15mlのチューブに入れ、続いて十分に撹拌し、4,000rpmで20分間遠心分離した。上清を除去し、得られた沈殿物に10mlのPBS緩衝液(137mMのNaCl、2.7mMのKCl、10mMのNaHPO、2mMのKHPO)を加え、続いて十分に撹拌し、4,000rpmで20分間遠心分離した。上清を捨て、沈殿物を1.5mlのチューブに移し、これに1mlのPBS緩衝液を加え、続いて撹拌し、13,000rpmで5分間遠心分離した。再び上清を捨て、得られた沈殿物に50〜100uiの5%(w/v)Chelex 100樹脂(Bio−Rad Corp.)を加え、この混合物を100℃で20分間加熱し、13,000rpmで3分間遠心分離し、分離したDNAの上清をPCRの鋳型DNAとして使用した。
【0094】
実施例4:プライマーおよびプローブを用いたリアルタイムマルチプレックスPCR反応の解析
以下の表3に示すPCR反応組成物の処方に従いPCR反応組成物を調製し、以下の表4に示す反応条件下、SLANリアルタイムPCR検出系(LG Life Sciences Ltd.,Korea)を用いてPCR反応を行った。
【0095】
反応産物をリアルタイムで測定し、反応の終了後、SLAN 7.0プログラムを用いて結果を解析した。
【0096】
以下の通り判定された:図1:M.ツベルクローシス(M.tuberculosis)群陽性、図2:マイコバクテリア属陽性、および図3:陰性。
【0097】
【表4】

【0098】
【表5】

【0099】
実施例6:従来の培養方法(MGIT,BD Corp.,USA)と本発明のキットとを用いたM.ツベルクローシス(M.tuberculosis)およびマイコバクテリア(mycobacteria)属の診断効果の比較試験
従来の培養方法(MGIT,BD Corp.,US)と本発明のキットとの間でM.ツベルクローシス(M.tuberculosis)およびマイコバクテリア属(mycobacteria genus)の診断効果を比較した。
【0100】
比較に使用した培養方法は、製造者の指示に従って実施し、培養した陽性検体の菌種については、amplicor MTBキット(Roche−diagnosis,USA)および塩基配列解析を用いて確認した。結果を表5に示す。
【0101】
【表6】

【0102】
本明細書で使用する場合、「感度」という用語は、検査結果が陽性である疾患患者の割合、即ち、疾患に罹患している人が疾患であると判定される割合をいう。本明細書で使用する場合、「特異性」という用語は、健康な人が陰性と検出される割合、即ち、正常な人が正常であると判定される割合をいう。「陽性的中率」という用語は、ある診断法により陽性と見なされた人が、それに対応する疾患である確率をいう。「陰性的中率」という用語は、ある診断方法により陽性と検出された人が、それに対応する疾患ではない確率をいう。
【0103】
上記の表5の結果によれば、本発明による組成物を用いてRT−PCRを実施すると、結核性マイコバクテリア(tuberculosis mycobacteria)および非結核性のマイコバクテリア(mycobacteria)について現時点で信頼性が最も高いアッセイ培養方法と比較して、実質的に同等の信頼性が得られることが明確に確認された。特に、M.ツベルクローシス(M.tuberculosis)に対する感度が97%以上、特異性が99%であることから、M.ツベルクローシス(M.tuberculosis)を正確に特定できることが示唆される。
【0104】
実施例7:結核に類似した肺炎の症状を呈するノカルジア属(nocardia genus)微生物と、マイコバクテリア属に類似したロドコッカス(rhodococcus)属微生物との診断効果の比較試験
結核に類似した症状を呈するノカルジア(nocardia)属微生物と、ロドコッカス(rhodococcus)属微生物とについて、韓国特許出願第2008−0090156号明細書によるキットを使用して得られた結果を、本発明によるキットを用いたRT−PCRにより得られた結果と比較した。それらの結果を表6に示す。
【0105】
【表7−1】

【表7−2】

【0106】
表6から分かるように、本発明は、従来の特許組成物に見られる偽陽性の確率を完全に排除する。
【0107】
本発明の組成物を用いることにより、従来技術の特許と比較してかなり高い特異性でNTMを検出し得ることが、前述の結果から理解できる。
【0108】
実施例8:様々なマイコバクテリアを用いた本発明のRT−PCRの結果
実施例3および4の方法に従い42菌種のマイコバクテリア(mycobacteria)をRT−PCRに供した。その結果を以下の表7に示す。
【0109】
【表8−1】

【表8−2】

【0110】
(表7では、マイコバクテリウムの値が35未満である場合、マイコバクテリウムを「陽性」と定義し、ICは、内部対照を意味する。更に、Ctは閾値サイクルであり、これは、RT−PCRの結果、臨界値(critical value)を超えるサイクル数を意味し、No Ctは、閾値サイクルがないことを意味する。)
【0111】
表7から分かるように、本発明によるRT−PCRの結果、M.ツベルクローシス(M.tuberculosis)群に属するM.ツベルクローシスH37Rv(M.tuberculosis H37Rv)、M.ボビス(M.bovis)、M.ボビスBCG(M.bovis BCG)、M.アフリカヌム(M.africanum)、およびM.ミクロティ(M.microti)の検査はすべて、M.ツベルクローシス(M.tuberculosis)陽性であり、残りのマイコバクテリア(mycobacteria)の検査はマイコバクテリア(mycobacteria)陽性であった。従って、本発明による解析組成物を用いたRT−PCRは、M.ツベルクローシス(M.tuberculosis)およびマイコバクテリア(mycobacteria)属の検出に有用である。
【産業上の利用可能性】
【0112】
前述から明らかなように、本発明による解析用組成物を用いてリアルタイムPCRを行う場合、M.ツベルクローシス(M.tuberculosis)およびマイコバクテリア(mycobacteria)属の検出を、従来の方法と比較して短期間に高い感度および特異性で実現することができる。
【0113】
説明を目的として本発明の好ましい実施形態を開示してきたが、当業者であれば、添付の特許請求の範囲に開示される本発明の範囲および精神を逸脱することなく、様々な修正、付加および置換が可能であることを理解するであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結核性マイコバクテリア(tuberculosis mycobacteria)および非結核性マイコバクテリア(nontuberculosis mycobacteria)を識別可能に検出するための組成物であって、
配列番号1の塩基配列および配列番号2の塩基配列の1つまたは複数を含むプライマー;および
配列番号3〜11の塩基配列の1つまたは複数を含むプライマー
を含む組成物。
【請求項2】
前記組成物は、
配列番号1の塩基配列を含むプライマー;および
配列番号2の塩基配列を含むプライマー
の両者を含むことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物は、
配列番号3〜9の塩基配列の1つ若しくは2つ以上を含むプライマー;および
配列番号10〜11の塩基配列の1つ若しくは2つ以上を含むプライマー
の両者を含むことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物は、
配列番号1の塩基配列を含むプライマー;
配列番号2の塩基配列を含むプライマー;
配列番号3〜9の塩基配列の1つ若しくは2つ以上を含むプライマー;および
配列番号10〜11の塩基配列の1つ若しくは2つ以上を含むプライマー
を含むことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
内部対照プライマーを更に含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
前記内部対照プライマーは、植物由来の遺伝子特異的プライマーであることを特徴とする請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記植物由来の遺伝子は、レクチンであり、
前記植物由来の遺伝子特異的プライマーは、配列番号15の塩基配列を含むプライマーおよび配列番号16の塩基配列を含むプライマーの1つまたは2つ以上を含む
ことを特徴とする請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
M.ツベルクローシス(M.tuberculosis)のIS6110遺伝子に特異的なプライマーとしての、配列番号1の塩基配列を含むセンスプライマー、および
配列番号2の塩基配列を含むアンチセンスプライマー
の1つまたは2つ以上を含むM.ツベルクローシス(M.tuberculosis)を検出するための組成物。
【請求項9】
マイコバクテリア(mycobacteria)属のITS遺伝子に特異的なプライマーとしての、配列番号3〜9の塩基配列を含むセンスプライマーの1つ若しくは2つ以上;
配列番号10〜11の塩基配列を含むアンチセンスプライマーの1つ若しくは2つ以上;または
これらの組み合わせ
を含むマイコバクテリア(mycobacteria)属を検出するための組成物。
【請求項10】
マイコバクテリア(mycobacteria)属のITS遺伝子に特異的な前記プライマーは、長さ100bp以下のPCR増幅産物を形成することを特徴とする請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
配列番号12の塩基配列を含むプローブ;
配列番号13の塩基配列を含むプローブ;および
配列番号14の塩基配列を含むプローブ
からなる群から選択される1つまたは2つ以上を含むM.ツベルクローシス(M.tuberculosis)またはマイコバクテリア(mycobacteria)属を検出するための組成物。
【請求項12】
前記プローブは、その5’末端および3’末端で蛍光材料を用いて標識され、
5’末端で標識される前記蛍光材料(レポーター)および3’末端に標識される前記蛍光材料(クエンチャー)は相互に干渉する
ことを特徴とする請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
5’末端に標識される前記蛍光材料は、6−カルボキシフルオレセイン(FAM)、ヘキサクロロ−6−カルボキシフルオレセイン(HEX)、テトラクロロ−6−カルボキシフルオレセインおよびシアニン−5(Cy5)からなる群から選択され、
3’末端に標識される前記蛍光材料は、6−カルボキシテトラメチル−ローダミン(TAMRA)またはブラックホールクエンチャー−1,2,3(BHQ−1,2,3)である
ことを特徴とする請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
リアルタイムPCRアッセイを用いてM.ツベルクローシス(M.tuberculosis)およびマイコバクテリア(mycobacteria)属の識別、検出および解析を行うための組成物であって、
配列番号1の塩基配列および配列番号2の塩基配列の1つまたは2つ以上を含むプライマー;
配列番号3〜11の塩基配列の1つまたは2つ以上を含むプライマー;並びに
配列番号12〜14の塩基配列の1つまたは2つ以上を含むプローブ
を含む組成物。
【請求項15】
内部対照プライマー;および
内部対照プローブ
を更に含むことを特徴とする請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記内部対照プライマーは、配列番号15の塩基配列を含むセンスプライマー、または配列番号16の塩基配列を含むアンチセンスプライマーであり、
前記内部対照プローブは、配列番号17の塩基配列を含むプローブである
ことを特徴とする請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記組成物は、
(i)M.ツベルクローシス(M.tuberculosis)のIS6110遺伝子に特異的なプライマーとプローブの混合物であって、
配列番号1の塩基配列を含むセンスプライマーおよび配列番号2の塩基配列を含むアンチセンスプライマー;並びに
配列番号12の塩基配列を含むプローブ
を含む混合物;
(ii)マイコバクテリア(mycobacteria)属のITS遺伝子に特異的なプライマーとプローブの混合物であって、
配列番号3〜9の塩基配列を含むセンスプライマーおよび配列番号10〜11の塩基配列を含むアンチセンスプライマー;並びに
配列番号13の塩基配列を含むプローブおよび/または配列番号14の塩基配列を含むプローブ
を含む混合物;
(iii)内部対照遺伝子に特異的なプライマーとプローブの混合物であって、
配列番号15の塩基配列を含むセンスプライマーおよび配列番号16の塩基配列を含むアンチセンスプライマー;並びに
配列番号17の塩基配列を含むプローブ
を含む混合物;並びに
(iv)緩衝液、DNAポリメラーゼ、dNTPおよび滅菌蒸留水を含む、PCR反応混合物
を含むことを特徴とする請求項14に記載の組成物。
【請求項18】
請求項17に記載の解析用組成物を含む、M.ツベルクローシス(M.tuberculosis)解析キット。
【請求項19】
請求項17に記載の組成物を用いて、M.ツベルクローシス(M.tuberculosis)またはマイコバクテリア(mycobacteria)属を解析する方法であって、
(1)サンプルから抽出された細菌のDNAと解析用組成物を混合して、遺伝子解析用のサンプルを調製する工程;
(2)前記遺伝子解析用のサンプルをリアルタイムPCRに供して、PCR産物を得る工程;
(3)前記PCR産物を定量して定量曲線を得る工程;並びに
(4)前記サンプルから抽出された前記細菌のDNAに存在するIS6110特異的遺伝子、ITS特異的遺伝子および内部対照特異的遺伝子を、前記定量曲線を用いて定量する工程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項20】
配列番号3〜11の塩基配列の1つを含むITS遺伝子特異的プライマー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−502922(P2013−502922A)
【公表日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−526652(P2012−526652)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【国際出願番号】PCT/KR2010/005703
【国際公開番号】WO2011/025262
【国際公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(507274777)エルジー ライフ サイエンス リミテッド (5)
【Fターム(参考)】