説明

MHC非拘束性細胞傷害性細胞の製造方法

【課題】 NK細胞などのMHC非拘束性の細胞傷害性細胞を効率よく培養する。
【解決手段】 がん患者などヒトから採取された末梢血単核球細胞(PBMC)を、IL−2とIL−18とゾレドロネートなどのビスホスホネートとTNF−α、さらにはレトロネクチン(登録商標)などのフィブロネクチンの存在下、好ましくは100IU/ml以上4,000IU/ml以下のIL−2、1ng/ml以上500ng/ml以下のIL−18、0.01μM以上10μM以下のビスホスホネート、0.01ng/ml以上500ng/ml以下のTNF−αの存在下において、7〜21日間培養する。培養された細胞集団は採取された患者に投与され、がん治療用の細胞製剤として用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はMHC非拘束性細胞傷害性細胞の拡大培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年がん治療の一方法として、体外で増幅させた末梢血細胞を体内に再び輸注する免疫細胞治療法が着目されている。がん細胞に対する患者の応答免疫を増強することによりがん治療を行う方法である。
【0003】
キラー細胞の有する細胞傷害活性を利用した免疫療法として、リンホカイン活性化キラー細胞(Lymphokine activated killer cells)を利用したLAK療法が知られている(特許文献1:特開2001−314183号公報)。このLAK療法は、患者の末梢血単核細胞(peripheral blood mononuclear cells:PBMC)から分離した細胞を、インターロイキン−2(IL−2)の存在下で培養し、活性化された細胞をIL−2と共に患者体内に輸注する方法である。また、がん組織から分離したリンパ球をIL−2の存在下で培養し、活性化された細胞をIL−2と共に患者体内に輸注するがん浸潤性リンパ球(tumor infiltration lymphocytes)療法も知られている。さらに、がん特異的に発現する抗原(がん抗原)を分子標的とし、細胞傷害性を示すCD8陽性のキラー細胞を利用する細胞傷害性Tリンパ球(cytotoxic T lymphocytes)療法(CTL療法)やがん患者の末梢血から分離したリンパ球から、がん細胞を特異的に傷害する細胞を選択し、その細胞傷害性をIL−2及びINF−αによって高めた後、当該リンパ球を患者体内に戻す生物製剤(Biological response modifiers)活性化キラー細胞(BRM activated killer cells)療法(BAC療法)も知られている(例えば特許文献1)。
【0004】
T細胞は、がん細胞等の表面に発現する抗原を認識するT細胞レセプター(T cell receptor:TcR)をその表面に有している。T細胞には、α鎖とβ鎖で構成されるTcRを有するαβT細胞(TcRαβ陽性細胞)、γ鎖とδ鎖で構成されるTcRを有するγδT細胞(TcRγδ陽性細胞)、NK細胞(natural killer cells)様の性質を併せもつNKT細胞などが知られている。αβT細胞は、主要組織適合遺伝子複合体(major histocompatibitily complex:MHC)拘束性に抗原を認識し、IL−2の刺激により活性化され、キラーT細胞として機能する。キラーT細胞は認識した標的がん細胞に作用し、LAK療法やCTL療法などに利用するにはサイトカインによる刺激並びに抗原提示するがん細胞の認識が必要である。また、αβT細胞は、自己細胞を傷害するおそれもある。
【0005】
γδT細胞は、NK細胞と同様に、がん細胞に対してMHC非拘束性に細胞傷害性(ナチュラルキラー活性)を示す。αβT細胞が特定のがん特異抗原を発現するがん細胞を1種類のTcRにより認識し、高い特異性を持って細胞傷害性を発揮するのに対し、γδT細胞は、γδTcRや活性化NKレセプターである2B4(CD244)、NKG2D(CD314)、NKp44(CD336)によりがん細胞を認識し、高い多様性を持って細胞傷害性を発揮する。NKT細胞、とりわけinvariant NKT細胞は、その表面に抗原受容体であるVα14Vβ8TcRと代表的なNK細胞受容体であるCD161を併せ持ち、CD1d拘束性にαガラクトシルセラミドを認識することで強力なサイトカイン産生能、とくにIFN−γ産生能、およびFasやパーフォリンを介した細胞傷害性等の機能を持つことで知られている。また、MHC−クラスIを発現した細胞に結合する抑制性受容体を有しているので正常な細胞を認識せず、MHC分子を失った標的がん細胞を認識する。
【0006】
また、NK細を利用したがん免疫細胞治療も知られている。NK細胞は、TcRを有しない細胞傷害性細胞である。NK細胞は、主にMHCクラスIを発現しない細胞を認識し、がん細胞を攻撃する。
【0007】
がん免疫細胞治療においては、がん細胞に対する細胞傷害性を示す細胞の拡大培養(増幅)並びに細胞傷害活性の増強が重要な課題である。PBMCから、MHC非拘束性の細胞傷害性細胞を拡大する方法として、例えば、特許文献2(特開2006−340698号公報)には、CD3アゴニストとCD52アゴニスト及びIL−2を用いて、T細胞の増幅に比べて優位となるNK細胞の増幅方法が開示されている。この方法によると3週間の培養で、PBMC1×10個から1.1×1011個のCD16NK細胞が拡大培養される。
【0008】
特許文献3(特開2006−115826号公報)には、グリコサミノグリカンなどのCD56リガンドを用いて、PBMCからNK細胞を増幅させる方法が開示されている。この方法によると、培養前のNK細胞の比率が8.5%から約50%近くまで増加し、約20〜100倍程度に拡大培養される。
【0009】
非特許文献1(Young-Ik Son, et al., Cancer Research 61, 884-888)には、PMBCをIL−2とIL−18の存在下で培養すると、それぞれ単独の存在下で培養した場合に比べてNK細胞の存在率が高められたことが記載されている。この方法によると、両者を併用した場合には、NK細胞は約14倍に拡大培養され、NK細胞が占める割合も34%にまで高められる。
【0010】
特許文献4(国際公開WO2008/111430号公報)には、PBMCからフィブロネクチンやフィブロネクチンフラグメント及びIL−2の存在下に培養を行ってγδT細胞を含む細胞集団を拡大培養する方法が記載されている。この方法によると、培養開始後14日でγδT細胞(CD3及びγδT細胞陽性群)の比率がPBMC中8.9%から約30〜50%に上昇し、約5〜16倍程度に拡大培養されたことが記載されている。
【0011】
特許文献5(国際公開WO2006/006720号公報)には、PBMCをパミドロネートやゾレドロネートなどのビスホスホネート及びIL−2の存在下で培養し、γδT細胞を選択的に増幅させる方法が開示されている。この方法によると、14日程度の培養でγδT細胞が単核球中に占める割合が90%近くまで上昇させることができ、約100倍程度に拡大培養される。
【0012】
また、非特許文献2(Kiyoshi Sato et al., Int. J. Cancer, 116, p.94-99(2005))には、ビスホスホネートの1種であるゾレドロネート(ZOL)の存在下又はZOLとIL−2の存在下でPBMCを培養したところ、γδT細胞の存在比が高められたことが記載されている。この方法によると、培養前にはγδT細胞の存在比が約3.8%であったところ、14日の培養でその存在比が約13%程度に高められる。また、γδT細胞は、300〜800倍程度に拡大培養される。
【0013】
非特許文献3(Wen Li et al., J. Immunother. 33(3), P287-206 2010)や特許文献6(特開2010−17134号公報)には、IL−2とゾレドロネートとIL−18の存在下において、PBMCを培養することが試みられている。これによるとPBMC中のγδT細胞(Vγ9Vδ2T細胞)の存在比が、14日の培養で培養前の1%から75%に高められ、γδT細胞は約25倍程度に拡大培養される。
【0014】
さらに、特許文献7(国際公開WO01/94553公報)には、G−CSF(顆粒球コロニー刺激因子)を投与した後、末梢血単核画分(G−PBMC)をα−ガラクトシルセラミド(α−GalCer)とIL−2、IL−12、IL−18などのサイトカインの存在下に培養して、NKT細胞を増幅させることが開示されている。これによると、G−CSFを投与なくしても、α−ガラクトシルセラミドとIL−2の存在により、PBMC中のNKT細胞(Vα24NKT細胞)は約4倍に増加し、その存在比は約16倍程度に増大する。
【0015】
ところで、TNF−αは腫瘍細胞を壊死させる作用を有する物質である。TNF−αが、INF−γ、IL-6、IL-8の産生を誘導することは公知である。これまでに、拡大培養されたNK細胞又はNKT細胞を含む細胞集団に対してTNF−αを添加し、細胞傷害性を増強することは、例えば特許文献8(特開2000−245451号公報)において開示されている。また、TNF−αを用いて、NK細胞やNKT細胞などのMHC非拘束性の細胞傷害性細胞を拡大培養することは、例えば、非特許文献4(小林泰信ら、Jpn J Cancer Chemother 30(11), p.1776-1779)や特許文献9(特表2002−515756号公報)、特許文献10(特表2010−505845号公報)に開示されている。また、特許文献10には、核酸架橋剤で不活化した人工抗原提示細胞と接触したTリンパ球を、IL−2、IL−21、TNF−αなどのサイトカインの存在下に培養して活性化Tリンパ球の増幅を促進させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2001−314183号公報
【特許文献2】特開2006−340698号公報
【特許文献3】特開2006−115826号公報
【特許文献4】国際公開WO2008/111430号公報
【特許文献5】国際公開WO2006/006720号公報
【特許文献6】特開2010−17134号公報
【特許文献7】国際公開WO01/94553公報
【特許文献8】特開2000−245451号公報
【特許文献9】特表2002−515756号公報
【特許文献10】特表2010−505845号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Young-Ik Son, et al., Cancer Research 61, 884-888
【非特許文献2】Kiyoshi Sato et al., Int. J. Cancer, 116, p.94-99(2005)
【非特許文献3】Wen Li et al., J. Immunother. 33(3), P287-206 2010
【非特許文献4】小林泰信ら、Jpn J Cancer Chemother 30(11), p.1776-1779
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
がん免疫細胞治療においては大量のMHC非拘束性の細胞傷害性細胞をがん患者に輸注する必要がある。がん免疫細胞治療においては、これまで、上記の先行技術文献に記載されたようにγδT細胞やNK細胞、NKT細胞など各細胞種に合わせてサイトカインを選択することが行われてきた。
【0019】
しかしながら、末梢血中におけるこれらの細胞の頻度は個人差が大きく、ある患者ではNK細胞の比率が大きくγδT細胞の比率が小さいが、別の患者ではγδT細胞の比率が大きくNK細胞の比率が小さいことはよく知られている。また、非特許文献3や特許文献6に記載されているように、IL−18によるγδT細胞の増幅倍率は個人差が多く、各がん患者の細胞頻度を測定した上で目標とする細胞種を選択し、当該細胞種に適したサイトカインを選択するのも困難である。また、γδT細胞やNK細胞など、細胞種に応じたサイトカインを選択したとしても、あるがん患者の場合には期待したような細胞数が得られず、改めてサイトカインの選択を行った上で再培養を行う必要もあった。従って、細胞種に関係なく、MHC非拘束性の細胞傷害性を有する細胞を拡大培養するだけでなく、細胞頻度が異なるいずれの患者の末梢血からでも、一様の増幅倍率が期待される培養方法が望まれる。
【0020】
さらに、非特許文献3や特許文献6では複数のサイトカインが用いられているが、これらの方法では細胞数の増大には十分であるとは言えず、さらに大きな増幅倍率を望める拡大培養法が望まれていた。
【0021】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、本発明者らは、IL−2とゾレドロネートとIL−18に、TNF−α又はレトロネクチン(登録商標)、さらにはその両者の存在下において、PBMCを培養したところ、NK細胞などのMHC非拘束性の細胞傷害性細胞を効率よく培養することができ、本願発明を完成するに至った。
【0022】
なお、非特許文献4は、IL−2に加えてTNF−α及びIL−1βの双方の存在下においてPMBCを培養したところ、NK細胞が拡大培養されたことを開示するにすぎず、非特許文献4には、IL−1βとの協調作用の他にTNF−αの作用についての示唆は記載されていない。また、特許文献9によるとIL−2、IL−1β、INF−γ、GM−CSF及び臍帯血漿の存在下並びにこれらの因子にさらにTNF−αを加えた条件下で培養したところ、前者における細胞の増幅率が11倍、後者における増幅率が17倍であって、コンカナバリンAとIL−2の存在下で培養した場合の約2000〜3000倍の増幅率に比べて、TNF−αの添加は増幅率にほとんど影響を及ぼさないことが示されている。さらに、特許文献10は、TNF−αが人工抗原提示細胞との接触により活性化されたTリンパ球を刺激し、活性化T細胞の増幅を促進させることを目的とするものであるが、TNF−αの増幅効果については確認されていない。このように、TNF−αがそれのみでMHC非拘束性の細胞傷害性細胞の増幅に及ぼす作用は明らかにされていない。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明のMHC非拘束性の細胞傷害性細胞の拡大培養方法は、PBMCをIL−2とビスホスホネートとIL−18とTNF−αの存在下で、あるいは、IL−2とビスホスホネートとIL−18とTNF−α及びフィブロネクチン(及び/又はそのフラグメント)の存在下で培養することを特徴としている。
【発明の効果】
【0024】
本発明の拡大培養方法によると、NK細胞、NKT細胞、γδT細胞のようなMHC非拘束性の細胞傷害性細胞を効率よく培養することができる。特に、がん患者において増幅倍率において個体差が少なく、TNF−αを加えない場合で培養した場合には低い増幅率で培養できなかったがん患者でも、高い増幅率が望める。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の拡大培養方法は、末梢血単核細胞(PBMC)を、IL−2とIL−18とビスホスホネートとTNF−αの存在下で、あるいはさらにフィブロネクチン及び/又はそのフラグメントの存在下で培養する方法である。
【0026】
本明細書において、MHC非拘束性細胞傷害性細胞とは、標的細胞表面上に発現するMHCに拘束されることなく細胞傷害活性、すなわちNK活性を示す細胞を意味し、NK細胞及びγδT細胞やNKT細胞を含むCD3陰性CD56陽性細胞及びγδTcR陽性細胞の両細胞を示す意味で用いられる。
【0027】
本明細書において、拡大培養とは培養後における細胞数が培養前における細胞数に比べて増加していることを意味する。
【0028】
PBMCは、動物、特にヒトから得られた末梢血から、密度勾配などの方法により分離されたものが使用される。分離されたPBMCは、主として単球やリンパ球(T細胞、NK細胞、NKT細胞、B細胞)などの単核細胞を含み、顆粒球、赤血球ならびに血小板などはほぼ除去された細胞集団を意味する。また、PBMCはがん患者から分離された細胞集団が好ましく用いられる。
【0029】
PBMCは、PBMCの培養に適した培地で培養される。培養用の培地は、PBMCの増幅に必要な成分を含む培地であればよい。例えば市販品であるAIM−V(商標名)が例示される。培地は、少なくともサイトカインであるL−2、IL−18、ビスホスホネート、TNF−αを含む。本発明の拡大培養方法はこれら4種のサイトカインの組み合わせによって培養効率を高める方法である。
【0030】
培地に含まれる全てのサイトカインは公知である。ビスホスホネートは、骨組織に付着すると破骨細胞に取り込まれ、細胞死を誘導する。側鎖に窒素を含むビスホスホネートと窒素を含まないビスホスホネートのいずれもが使用され得る。例えば、側鎖構造が簡単であるエチドロネートやクロドロネート、アミノ基を有するゾレドロネート、パミドロネート、アレンドロネート、レセドロネート、イバンドロネート、環状構造を有するインカドロネート、リセドロネート、ミノドロネートが例示される。また、遊離のビスホスホネートやビスホスホネート塩、さらにはそれらの水和物も使用され得る。ビスホスホネート塩として、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩が例示される。ビスホスホネートの種類は限定されず、1種のビスホスホネート又は2種以上のビスホスホネートが使用され得る。増幅効果が高いことに鑑み、ゾレドロネートが好ましく使用される。
【0031】
培地中における各サイトカインの濃度は適宜定められる。培地中のIL−2の下限値は、例えば1IU(単位)/mlであり、5IU/mlであり、10IU/mlであり、20IU/mlであり、50IU/mlであり、75IU/mlであり、100IU/mlであり得る。その上限値は、例えば培地中10万IU/mlであり、5万IU/mlであり、1万IU/mlであり、5,000IU/mlであり、4,000IU/mlであり得る。
【0032】
培地中のIL−18の下限値は、例えば培地中0.001ng/mlであり、0.01ng/mlであり、0.05ng/mlであり、0.1ng/mlであり、0.5ng/mlであり、1ng/mlであり得る。その上限値は、例えば培地中100μg/mlであり、10μg/mlであり、5μg/mlであり、1μg/mlであり、750ng/mlであり、500ng/mlであり得る。
【0033】
培地中のビスホスホネートの下限値は、例えば培地中0.01nMであり、0.1nMであり、0.001μMであり、0.005μMであり、0.01μMであり得る。また、その上限値は、例えば培地中10mMであり、5mMであり、1mMであり、500μMであり、200μMであり、100μMであり、50μM、10μMであり得る。
【0034】
培地中のTNF−αの下限値は、例えば培地中0.1pg/mlであり、0.001ng/mlであり、0.002ng/mlであり、0.005ng/mlであり、0.01ng/mlであり得る。その上限値は、例えば培地中10μg/mlであり、5μg/mlであり、2μg/mlであり、1μg/mlであり、750ng/mlであり、500ng/mlであり得る。
【0035】
4種の必須サイトカインの濃度は上記範囲の中で適宜組み合わせることが可能であるが、その組み合わせとしては、例えば、IL−2を100IU/ml以上4,000IU/ml以下、IL−18を1ng/ml以上500ng/ml以下、ビスホスホネートを0.01μM以上10μM以下、TNF−αを0.01ng/ml以上500ng/ml以下を含む培地が好ましく、IL−2を4,000IU/ml±1,000IU/ml、IL−18を500ng/ml±100ng/ml、ビスホスホネートを10μM±10μM、TNF−αを500ng/ml±100ng/mlを含む培地が望ましい。この範囲において、細胞頻度の異なるいずれの患者においても数百倍程度の高い増幅倍率で細胞を拡大培養できると共に、いずれの患者においても10〜10cellsのMHC非拘束性細胞傷害性細胞が得られるからである。もちろん、当該範囲外においても、本発明の効果が期待される。
【0036】
培地は、必要により血漿、好ましくは培養の対象となるPBMCが分離された個体から得られた血漿を含む。その添加量も適宜定められる。例えば、その下限値は、培地中0.1容量%であり、0.2容量%であり、0.5容量%であり、1.0容量%であり得る。その上限値は、培地中20.0容量%であり、15.0容量であり、10容量%であり得る。
【0037】
培養時の温度やCO濃度、湿度などPBMCの培養条件についても特別な制約はなく、公知の培養条件が適用され得る。例えば、37℃、5%CO下、湿度100%の環境下の条件が例示される。培養期間も適宜定めることができ、例えば7日〜21日間程度の培養期間を設定し得る。培養は、好ましくは培地中の全細胞数がほぼプラトーに達するまで行われる。また、培養期間中、必要に応じて、適量の新鮮な培地が追加される。追加される新鮮な培地は、必要に応じて、血漿やIL−2その他の上記サイトカインを含み得る。
【0038】
本発明において使用される培地は、PBMCの拡大培養に必要なサイトカインとして、L−2、IL−18、ビスホスホネート、TNF−αの4種のサイトカインのみを含む。もっとも、当該培地は他のサイトカインを含み得る。他のサイトカインとして、フィブロネクチンが好適である。フィブロネクチンは、動物の血液中、培養細胞表面、組織の細胞外マトリックスに存在する高分子の糖タンパクである。フィブロネクチンとして、例えば特許文献3に開示されたフィブロネクチンやそのフラグメントが用いられ得る。フィブロネクチン及びそのフラグメントの種類は限定されず、1種のフィブロネクチン又はそのフラグメントあるいは2種以上のフィブロネクチン又はそのフラグメントが使用され得る。本発明では、増幅効率や入手容易性からレトロネクチン(登録商標)が好ましく使用される。
【0039】
本発明においては、上記4種の必須サイトカインに加えてフィブロネクチン及び/又はそのフラグメントを含む培地が用いられる。また、本発明においては、フィブロネクチン及び/又はそのフラグメントを含む培地に変えて、あるいは、フィブロネクチン及び/又はそのフラグメントを含む培地と共に、フィブロネクチン及び/又はそのフラグメントを含むコーティング膜を備えた培養用の容器、例えばシャーレ、フラスコ、プレートなどが用いられる。コーティング膜は、例えば、フィブロネクチン又はそのフラグメントに皮膜形成用の担体を加えた溶液を、培養用の容器基材に塗布することにより作製される。
【0040】
培地に含まれるフィブロネクチン又はそのフラグメントの下限値は、例えば培地中0.001μg/mlであり、0.01μg/mlであり、0.05μg/mlであり、0.1μg/mlであり、0.2μg/mlであり、0.5μg/mlであり得る。また、その上限値は、例えば培地中1,000μg/mlであり、100μg/mlであり、50μg/mlであり、20μg/mlであり、10μg/mlであり得る。コーティング膜を作製するための溶液に含まれるフィブロネクチン又はそのフラグメントの下限値は、当該溶液中、例えば0.001μg/mlであり、0.01μg/mlであり、0.05μg/mlであり、0.1μg/mlであり、0.2μg/mlであり、0.5μg/mlであり得る。また、その上限値は、例えば培地中1,000μg/mlであり、100μg/mlであり、50μg/mlであり、20μg/mlであり、10μg/mlであり得る。
【0041】
本発明のがん治療用の製剤は、上記の方法に従って培養されたMHC非拘束性細胞傷害性細胞からなる細胞集団を含む。当該製剤は、上記の方法に従って培養された細胞集団の他に培養に用いられた培地を含み得る。また、当該製剤は拡大培養に使用した培地から分離された細胞集団とサイトカインを含まない新鮮培地や生理食塩水を含み得る。新鮮培地としては、上記培養に用いられた培地と同じ組成を有する培地又は異なる組成の培地が使用され得る。当該製剤中の細胞濃度は、製剤1ml中1×10cells以上であり、1×10cells以上であり、1×10cellsであり、1×10cells以上であり得る。好ましくは、1×10〜1×10cells/mlである。また、当該製剤は、MHC非拘束性の細胞傷害性細胞の他に、MHC拘束性の細胞傷害性細胞を含み得る。また、これらの細胞以外に、種々の抗腫瘍剤やその他の治療剤を含み得る。
【0042】
本発明の組成物は、MHC非拘束性細胞傷害性細胞を拡大培養するための組成物であって、L−2、IL−18、ビスホスホネートを含み、さらにはフィブロネクチン又はTNF−α或いはその両者を含む4種類のサイトカイン又は5種類のサイトカインを含む。当該組成物は好ましくはサイトカインとして前記4種類又は5種類のサイトカインのみを含み、その他に、PBMC培養のための必須成分やその他の担体を含み得る。当該組成物は、培地に溶解した場合に上記培地中の濃度となる量の各サイトカインを含む。
【0043】
次に本発明について実施例に基づいてさらに説明する。なお、本発明は下記の実施例に限られることのないのは言うまでもない。
【実施例1】
【0044】
10名のがん患者から採取された末梢血からFicoll PAQUEを用いた比重遠心分離法により、単核細胞を分離した。10mlのAIM−V培地(ライフテクノロジーズジャパン社製)に、分離した単核細胞の密度が10cells/mlとなるように調整した。その後、F−25フラスコ(コーニング社製)にて、37℃、5%CO2、湿度100%の環境下で培養を開始した。培養開始時に、上記細胞を含む培地に5容量%の自己血漿、1,000IU/mlのIL−2(ノバルティス社製)、1μMのゾレドロネート(ノバルティス社製)、50ng/mlのIL−18(MBL社製)及び10ng/mlのTNF−α(セルジェニックス社)を加えた。また、TNF−αの効果を確認するために、TNF−αを添加しない場合についても同様に培養を行った。細胞の増幅に伴い、培養液をF175フラスコ(コーニング社製)に移して200mlまで増量し、必要に応じてカルチャーバッグ(ニプロ社製)に移して1000mlまで培養液を増量した。培地を増量する際には200IU/mlのIL−2のみを含むAIM−V培地を用い、12日間培養を行った。
【0045】
細胞数はトリパンブルー染色により染色されなかった生細胞数を顕微鏡下で計測することにより算出された。また、培養後の細胞について、FITC標識CD3抗体(ベクトンディッキンソン社製)、PE標識CD56抗体(ベックマンコールター社)、FITC標識TcRαβ抗体(ベクトンディッキンソン社製)、FITC標識TcRγδ抗体(ベクトンディッキンソン社製)を用いて直接抗体染色を行い、フローサイトメータ(ベクトンディッキンソン社)を用いて頻度解析を行った。その結果を表1に示す。なお、表1の細胞数は、12日間の増幅後における総細胞数である。
【0046】
【表1】

【0047】
表1の結果に示すように、TNF−αを加えない場合に比べて、TNF−αの添加は、MHC非拘束性細胞傷害性細胞の増幅倍率を高めた。特に検体3や検体6のように、TNF−αを加えない場合において増幅倍率の低いPBMCにおいて、TNF−αの添加は高い増幅倍率の獲得に貢献する。このように、本発明によるサイトカインの組み合わせは、従来のサイトカインの組み合わせでは、増幅倍率の期待が見込めなかった患者のPBMCを、高い増幅倍率で増幅することが確認された。
【実施例2】
【0048】
次にTNF−αの用量依存性について実験を行った。3名のがん患者(実施例2と同じ)から採取された末梢血からFicoll PAQUEを用いた比重遠心分離法により、単核細胞を分離した。1mlのAIM−V培地(ライフテクノロジーズジャパン社製)に、分離した単核細胞の密度が10cells/mlとなるように調整した。その後、24穴プレート(コーニング社製)にて、37℃、5%CO2、湿度100%の環境下で培養を開始した。培養開始時に、上記細胞を含む培地に5容量%の自己血漿、1,000IU/mlのIL−2、1μMのゾレドロネート(ノバルティス社製)、50ng/mlのIL−18(MBL社製)及び表3に示す濃度のTNF−α(セルジェニックス社製)を加えた。細胞の増幅に伴い、培養液をF25フラスコ(コーニング社製)に移して30mlまで増量し、必要に応じてF175フラスコ(コーニング社製)に移して100mlまで培養液を増量した。細胞の増幅に伴い培地を増量する際には200IU/mlのIL−2のみを含むAIM−V培地を用い、12日間培養を行った。当該条件における培養結果を表2に示す。なお、表2の細胞数は、12日間の増幅後における総細胞数である。表2に示すように、TNF−αの添加量に用量依存性が見られ、TNF−αの添加による効果が確認された。
【0049】
【表2】

【実施例3】
【0050】
次にサイトカインの濃度を変えて実験を行った。3名のがん患者から採取された末梢血からFicoll PAQUEを用いた比重遠心分離法により、単核細胞を分離した。1mlのAIM−V培地(ライフテクノロジーズジャパン社製)に、分離した単核細胞の密度が10cells/mlとなるように調整した。その後、24穴プレート(コーニング社製)にて、37℃、5%CO2、湿度100%の環境下で培養を開始した。培養開始時に、上記細胞を含む培地に、低濃度条件として5容量%の自己血漿、100IU/mlのIL−2、0.01μMのゾレドロネート(ノバルティス社製)、1ng/mlのIL−18(MBL社製)及び0.01ng/mlのTNF−α(セルジェニックス社製)、又は高濃度条件として5容量%の自己血漿、4,000IU/mlのIL−2、10μMのゾレドロネート、500ng/mlのIL−18及び500ng/mlのTNF−αを加えた。細胞の増幅に伴い、培養液をF25フラスコ(コーニング社製)に移し、必要に応じて30mlまで増量した。細胞の増幅に伴い培地を増量する際には200IU/mlのIL−2のみを含むAIM−V培地を用い、12日間培養を行った。当該条件における培養結果を表3に示す。なお、表3の細胞数は、12日間の増幅後における総細胞数である。表3に示すように、4種のサイトカインを組み合わせることによって、頻度の異なる単核細胞(がん患者)からでも、大きな偏りも見られることなく、ほぼ同数の細胞数が得られることが確認された。また、TNF−αやその他のサイトカインの濃度を適宜調整することにより、高い倍率でPBMCを拡大培養することができた。また、3検体の細胞数に大きな偏りも見られなかった。
【0051】
【表3】

【実施例4】
【0052】
さらにレトロネクチンを使用して同様の実験を行った。10名のがん患者から8ml採取した末梢血からFicoll PAQUE比重遠心分離法により、単核細胞を分離した。10mlのAIM−V培地(ライフテクノロジーズジャパン社製)に、分離した単核細胞の密度が10cells/mlとなるように調整した。その後、あらかじめ5μg/mlのレトロネクチン溶液の塗布により形成されたコーティング膜を備えたF25フラスコ(コーニング社)にて、37℃、5%CO2、湿度100%の環境下で培養を開始した。培養開始時に、上記細胞を含む培地に5容量%の自己血漿、1,000IU/mlのIL−2、1 μMのゾレドロネート(ノバルティス社製)、50ng/mlのIL−18(MBL社製)及び10ng/mlのTNF−α(セルジェニックス社製)を加えた。細胞の増幅に伴い、培養液をF175フラスコ(コーニング社製)に移して200mlまで増量し、必要に応じてカルチャーバッグ(ニプロ社製)に移して1000mlまで増量した。細胞の増幅に伴い培地を増量する際には200IU/mlのIL−2のみを含むAIM−V培地を用い、14日間培養を行った。当該条件における培養結果を表4に示す。なお、表4の細胞数は、14日間の増幅後における総細胞数である。
【0053】
【表4】

【0054】
表4に示すように、レトロネクチンの存在下においても、MHC非拘束性の細胞傷害性細胞の細胞数を増幅させた。特に、検体2と検体3の間や検体5と検体6の間に認められるように、14日間の培養によって、細胞頻度が異なるにもかかわらず、ほぼ同程度の細胞数の細胞集団が得られた。また、すべての検体から、5×10〜2×10程度の細胞数の細胞集団が得られた。
【0055】
以上のように、本発明におけるサイトカインの組み合わせによって、細胞頻度が異なる末梢血から、ほぼ5×10〜2×10程度の一定した細胞数の細胞集団を得ることができる。この結果、がん患者ごとに異なる細胞頻度を考慮することなく、多量の細胞傷害性細胞をがん患者に投与できることになり、がん免疫細胞治療におけるがん治療効果の向上が期待される。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によると効率よくMHC非拘束性の細胞傷害性細胞を拡大培養できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
末梢血単核細胞を、IL−2と、ビスホスホネートと、IL−18と、TNF−αの存在下で培養する工程を含むMHC非拘束性細胞傷害性細胞の拡大培養方法。
【請求項2】
末梢血単核細胞を、IL−2と、ビスホスホネートと、IL−18と、TNF−αと、フィブロネクチン及び/又はそのフラグメントの存在下で培養する工程を含むMHC非拘束性細胞傷害性細胞の拡大培養方法。
【請求項3】
前記ビスホスホネートはZOLである請求項1又は2に記載のMHC非拘束性細胞傷害性細胞の拡大培養方法。
【請求項4】
前記フィブロネクチンのフラグメントはレトロネクチンである請求項1〜3の何れか1項に記載のMHC非拘束性細胞傷害性細胞の拡大培養方法。
【請求項5】
前記末梢血単核細胞はヒトから分離された末梢血単核細胞である請求項1〜4の何れか1項に記載のMHC非拘束性細胞傷害性細胞の拡大培養方法。
【請求項6】
前記末梢血単核細胞は腫瘍患者から分離された末梢血単核細胞である請求項1〜4の何れか1項に記載のMHC非拘束性細胞傷害性細胞の拡大培養方法。
【請求項7】
IL−2を100IU/ml以上4,000IU/ml以下、IL−18を1ng/ml以上500ng/ml以下、ビスホスホネートを0.01μM以上10μM以下、TNF−αを0.01ng/ml以上500ng/ml以下を含む培地で培養する請求項1〜6の何れか1項に記載の拡大培養方法。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか1項に記載のMHC非拘束性細胞傷害性細胞の増幅方法の使用により製造されたMHC非拘束性細胞傷害性細胞からなる細胞集団を含む腫瘍治療用製剤。
【請求項9】
IL−2と、ビスホスホネートと、IL−18と、TNF−αのみを必須成分とするMHC非拘束性細胞傷害性細胞を拡大培養するための組成物。
【請求項10】
IL−2と、ビスホスホネートと、IL−18と、TNF−αと、フィブロネクチン及び/又はそのフラグメントのみを必須成分とするMHC非拘束性細胞傷害性細胞を拡大培養するための組成物。
【請求項11】
前記ビスホスホネートはZOLである請求項9又は10に記載の組成物。
【請求項12】
前記フィブロネクチンのフラグメントはレトロネクチンである請求項9又は10に記載の組成物。
【請求項13】
培地に調製した際に、調整された培地がIL−2を100IU/ml以上4,000IU/ml以下、IL−18を1ng/ml以上500ng/ml以下、ビスホスホネートを0.01μM以上10μM以下、TNF−αを0.01ng/ml以上500ng/ml以下を含むように構成された請求項9〜12の何れか1項に記載の組成物。

【公開番号】特開2012−205581(P2012−205581A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76000(P2011−76000)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(511082263)株式会社グランソール免疫研究所 (1)
【Fターム(参考)】