説明

MNTFペプチドおよび組成物ならびに使用の方法

【課題】神経細胞における生存性および増殖を調節し得る新規のペプチドおよび組成物、ならびに新規のペプチドおよび組成物を用いて神経細胞の生存性および増殖を調節する方法の提供。
【解決手段】「WMLSAFS」か「FSRYARドメイン」かのどちらかを含み、神経障害性機能もしくは神経向性機能のために十分である運動神経栄養因子1の新規ペプチドアナログであって、運動神経栄養因子の作用に対して一般的な有意性を有し、MNTF1分子の二つの短い部分的に重複する配列にマッピングされている新規タンパク質ドメイン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、出典明示により全体が本明細書に取り込まれる2003年1月21日に出願された米国仮出願番号60/441,772の利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
(背景)
神経栄養因子(NTF)は、神経の選択された集団の生存、増殖、維持および機能的な能力を促進するために機能する、タンパク質の特定の群である。最近の研究は、ニューロン死が、増殖および発達の特定の期間の間、脊椎動物の神経系において生じることを証明している。しかし、関連する標的組織由来の可溶性神経栄養因子の添加は、このニューロン死の現象を減ずるために役に立つ。以下の引用は、神経栄養因子について開示し、それらの開示は、出典明示により本明細書に取り込まれる:Chau,R.M.W.ら、Neurotrophic Factor、6 Chin.J.Neuroanatomy 129(1990);Kuno,M.、Target Dependence of Motoneuronal Survival:The Current Status、9 Neurosci.Res.155(1990);Band,Y.A.、Trophic Factors and Neuronal Survival、2 Neuron 1525(1989);Oppenheim,R.W.、The Neurotrophic Theory and Naturally Occurring Motoneuron Death、12 TINS 252(1989):Bard,Y.A.、What,If Anything,is a Neurotrophic Factor?、11 TINS 343(1988);ならびにThoenen,H.、およびEdgar,D.、Neurotrophic Factors、229 Science 238(1985)。
【0003】
脊椎動物の神経筋系において、胚の運動ニューロンの生存は、関連する発達している骨格筋由来の特定の栄養物質に依存することが見出されている。骨格筋は、インビボでの研究とインビトロでの研究の両方で、変性および続いて生じる自然な細胞死から胚の運動ニューロンを防御することにより、運動ニューロンの生存および発達を促進し得る物質を生成することが示されている。O’Brian、R.J.およびFischbach,G.D.、Isolation of Embryonic Chick Motoneurons and Their Survival In Vitro、6 J.Neurosci.3265(1986);Hollyday,M.およびHamburgar,V.、Reduction of the Naturally Occurring Motor Neuron Loss by Englargement of the Periphery、170 J.Comp.Neurol.311(1976)(これらの開示は、本明細書中で参考として援用される)を参照のこと。同様に、何人かの研究者は、ニワトリおよびラットの骨格筋が、インビボとインビトロの両方で、胚の運動ニューロンの自然な細胞死を防御し得る特定の栄養因子を有することを報告している。McManaman,J.L.ら、Purification of skeletal Muscle Polypeptide Which Stimulates Choline Acetyltransferase Activity in Cultured Spinal Cord Neurons、263 J.Biol.Chem.5890(1988);Oppenheim,R.W.ら、Reduction of Naturally Occurring Motoneuron Death In Vitro by a Target Derived Neurotrophic Factor、240 Science 919(1988);およびSmith,R.G.ら、Selective Effects of Skeletal Muscle Extract Fractions on Motoneurons Development In Vivo、6 J.Neurosci.439(1986)(これらの開示は、本明細書中で参考として援用される)を参照のこと。
【0004】
さらに、インビボにおける胚のニワトリの運動ニューロンの生存、ならびにこれらの運動ニューロンにおけるコリンアセチルトランスフェラーゼの活性を選択的に高めることが見出されているラットの骨格筋から、ポリペプチドが単離されている。このポリペプチドは、コリンアセチルトランスフェラーゼ因子(Choline Acetyltransferase Development Factor)(CDF)と呼ばれ、そしてその生物学的機能は、神経増殖因子(Nerve Growth Factor)(NGF)、毛様体神経節神経栄養因子(Ciliary Ganglion Neurotrophic Factor)(CNTF)、脳由来神経栄養因子(Brain−Derived Neurotrophic Factor)(BDNF)、および網膜神経節神経栄養因子(Retinal Ganglion Neurotrophic Factor)(RGNTF)のような他の栄養因子とは異なることが証明されている。Levi−Montalcini,R.、「Developmental Neurobiology and the Natural History of Nerve Growth Factor」、5 Ann.Rev.Neurosci.341(1982);Varon,S.ら、Growth Factors.In:Advances in Neurology、Vol.47:Functional Recovery in Neurological Disease、Waxman,S.G.(編)、Raven Press、New York、493頁−521頁(1988);Barde,Y.A.、Trophic Factors and Neuronal Survival、2 Neuron 1525(1989);Chau,R.M.W.ら、The Effect of a 30kD Protein from Tectal Extract of Rat on Cultured Retinal Neurons、34 Science in China、Series B、908(1991)を参照のこと(これらの開示は、参考により本明細書中で援用される)。
【0005】
35kDおよび22kDの見かけの分子量を有する、ラット筋組織由来の二つの運動神経栄養因子の単離および特徴付けは、Chauらにより報告されている。Chau,R.M.W.ら、Muscle Neuronotrophic Factors Specific for Anterior Horn Motoneurons of Rat Spinal Cord.In:Recent Advances in Cellular and Molecular Biology、Vol.5、Peeters Press、Leuven、Belgium、89頁−94頁(1992)(これらの開示は、出典明示により本明細書に取り込まれる)を参照のこと。35kDタンパク質は、Dr.Chauにより運動神経栄養因子1(MNTF1)として規定されており、そして見かけの22kDタンパク質は、運動神経栄養因子2(MNTF2)として規定されている。これらの二つの栄養因子は、インビトロで、ラット腰部脊髄の単離された前角運動ニューロンと脊髄の移植片の両方の増殖および/もしくは再生を支持することが証明されている。
【0006】
その後、1993年に、Chauらは、免疫プローブとしてMNTF1に対するモノクローナル抗体を用いて、ヒト網膜芽腫cDNAライブラリー由来のλgt11クローンの免疫学的スクリーニングを報告した。免疫陽性クローン由来の抽出物の免疫ブロット法は、55kDの見かけの分子量を有するMNTF1タンパク質を染色した。Chau,R.M.W.ら、Cloning of Genes for Muscle−Derived Motoneurotrophic Factor1(MNTF1) and Its Receptor by Monoclonal Antibody Probes、(要約)19 Soc.for Neurosci.part1、252(1993)(これらの開示は、本明細書により参考として援用される)を参照のこと。クローン化されたヒトMNTF1を含む抽出物は、それが、ラット前角運動ニューロンのインビトロでの増殖を支える点で、「天然の」MNTF1タンパク質の生物学的活性と同様の生物学的活性を有することが示されている。
【0007】
より最近になって、米国特許第6,309,877号は、運動ニューロンに栄養効果を与える能力を有する神経栄養因子のファミリーを開示した。この運動神経栄養因子は、単離され、これらの因子をコードする核酸配列は、クローン化され、そして発現され、そして核酸配列とポリペプチド配列の両方が提供された。詳細には、それぞれ、1443塩基対および972塩基対の挿入物によりコードされる組換えタンパク質、MNTF1−F3およびMNTF1−F6は、融合タンパク質か精製されたフラグメントかのどちらかとして発現された。単離された因子および発現された組換え因子は、運動ニューロンの持続した生存能力および神経突起伸長を誘導可能であった。そのため、これらの因子は、「運動神経栄養因子」もしくは「MNTF」として分類されている。
【0008】
米国特許第6,309,877号に報告されているMNTF1−F6クローンは、MNTF1の33アミノ酸フラグメントをコードしている。この配列を含む組換えタンパク質は、MNTF1に対するモノクローナル抗体と反応し、運動ニューロンの生存能力を維持し、神経突起伸長を上昇させ、細胞死/アポトーシスを減少させ、運動ニューロンの伸びた成長円錐含有軸索を有する巨大な活性ニューロンの伸長と「延展」を支持した。このMNTF1フラグメントの生物学的活性をそれでも維持している「最小の」活性部位を含むペプチドが合成され得るかどうかを決定するために、その後の研究が行われた。
【発明の概要】
【0009】
(発明の要旨)
本発明は、神経細胞の生存能力および増殖を調節するために有用なMNTF分子の部分を含む新規のペプチドおよび組成物に関し、それにより容易に合成され得る神経栄養ペプチドを提供する。
【0010】
詳細には、本発明は、運動神経栄養因子の作用に対して一般的な有意性を有する新規タンパク質ドメインに関し、このタンパク質ドメインは、同定され、そしてMNTF1分子の二つの短い重複する部分配列にマッピングされている。これらの今までに認識されていないタンパク質ドメインは、本明細書中で「WMLSAFS」ドメインおよび「FSRYAR」ドメインと呼ばれるが、神経細胞の生存能力および増殖を調節するために十分である。さらに、これらのドメインを含む短縮型のMNTF1種は、それら自体、細胞増殖アッセイにおける運動ニューロン/神経芽腫細胞のハイブリッドの増殖を刺激するために十分である。
【0011】
従って、1の態様において、本発明は、WMLSAFSドメインもしくはFSRYARドメインを含む、精製および単離されたMNTFペプチドアナログ、ならびにその構造および/もしくは機能を模倣する分子に関し、これらは、神経細胞の生存能力および増殖を誘導もしくは調節するために有用である。このようなMNTFペプチドアナログの特定の実施形態は、本明細書中で配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6および配列番号7として開示される。
【0012】
本発明はまた、インビトロで細胞培養物に、またはインビボで神経傷害もしくは神経変性障害に罹患している個体にMNTFペプチドアナログを投与することによる、神経細胞の生存能力および/もしくは増殖を調節するための組成物ならびに方法にも関し、これらは、細胞増殖を促進するか、もしくは不適切な細胞死を安定化させるため、および/またはインビボもしくはインビトロのいずれの場合において、正常細胞の挙動を回復させるためのものである。本発明はまた、非神経細胞に対するその抗増殖効果のためのMNTFペプチドアナログの使用、特に、創傷治癒における抗線維症剤もしくは抗炎症剤としてのその使用にも関する。
【0013】
本発明のこれらおよび他の特徴、態様、および利点は、以下の説明および添付の図面においてより良く理解される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、種々のMNTF1ペプチドのアミノ酸配列を示す。
【図2】図2は、種々の用量のMNTF1−F6 33マーおよびそのペプチド誘導体による、VSC4.1細胞の増殖のパーセント上昇を示す。
【図3】図3もまた、種々の用量の高度に精製された(GLPg)MNTF1−F6 33マーおよびそのペプチド誘導体による、VSC4.1細胞の増殖のパーセント上昇を示す。
【図4】図4は、種々の用量のMNTF1−F6 33マーおよびさらなるペプチド誘導体による、VSC4.1細胞の増殖のパーセント上昇を示す。
【図5】図5は、種々の用量のMNTF 6マーで処置された運動ニューロンによる、標的の筋肉細胞の選択的再神経支配を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(詳細な説明)
本明細書中で使用される技術的および科学的な用語は、特に定義されなければ、本発明の属する分野の当業者により一般的に理解される意味を示すものとする。当業者に公知の種々の方法について本明細書中で参照される。参照されるこのような公知の方法について述べる刊行物および他の資料は、完全に記載されるとおり、出典明示により本明細書に取り込まれる。組換えDNA技術の一般的な原理について述べている一般的な参考文献としては、Sambrook,J.ら、Molecular Cloning:A Laboratory Mannual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Planview、N.Y.(1989);McPherson,M.J.、編、Directed Mutagenesis:A Practical Approach、IRL Press、Oxford(1991);Jones,J.、Amino Acid and Peptide Synthesis、Oxford Science Publications、Oxford(1992);Austen,B.M.およびWestwood,O.M.R.、Protein Targeting and Secretion、IRL Press、Oxford(1991)が挙げられる。当業者に知られる適切な物質および/または方法のいずれもが本発明の実施において利用することができるが、好ましい物質および/または方法は本明細書中に記載される。
【0016】
(概論)
ラット筋肉組織由来の2つの運動神経栄養因子(MNTF1およびMNTF2)の単離および特徴付け、ならびにその後のヒト網膜芽腫cDNAライブラリー由来の組換えMNTF1−F6のクローニングは、米国特許第6,309,877号(ならびに1997年9月12日出願された同時係属中の米国特許出願第09/989,481号、同第08/928,862号、1996年11月15日に出願された同第08/751,225号および1996年9月27日に出願された米国仮特許出願60/026,792;これらの全ては、出典明示により本明細書により全て援用される)に記載されている。MNTF1−F6遺伝子配列は、本明細書中で配列番号1と呼ばれる33個のアミノ酸配列をコードする。
【0017】
天然に存在するMNTF1ポリペプチドおよび組換えMNTF1ポリペプチドは、ラット腰部脊髄の移植片から単離された前角運動ニューロンのインビトロでの生存を選択的に高めることが示された。処置された培養物の顕微鏡写真は、ミエリン化された神経線維の神経突起伸長ならびに非神経細胞(例えば、グリア細胞および線維芽細胞)の増殖の顕著な減少を示した。同様に、外科的に軸索切断されたラット末梢神経へのMNTF1のインビボ投与により、未処置コントロールよりも顕著に高い割合で生存している運動ニューロンが生じ、これは、抗MNTF1モノクローナル抗体の同時投与により阻害されうる。
【0018】
MNTF1のさらなる有益な効果は、脊髄半切開に供され、末梢神経自己移植片により修復され、脊髄との神経移植片結合部に近接してMNTF1含有ゲル切片を移植されたラットにおいて証明された。MNTF1処置された動物は、より多数の生存している運動ニューロン、運動機能および感覚機能の回復の改善、炎症反応の減少(より少ない浸潤しているマクロファージおよびリンパ球)、移植片部位でのコラーゲン含有瘢痕組織の形成の減少、正常なシュワン細胞形態ならびに正常なミエリン化および非ミエリン化神経線維の形成を示した。
【0019】
神経変性疾患の処置におけるMNTFの効力はまた、wobblerマウス(よろめきマウス)動物モデルにおいても証明されている。wobblerマウスは、骨髄および脳幹の運動ニューロンの進行性変性を引き起こす常染色体二重劣性遺伝子の変異を保有している。産後約3週間のwobblerマウスは、頚運動ニューロンの同時に生じる変性を伴う「よろめく」総合症状を発症し始め(第1段階)、これは、前肢の筋肉のるいそうならびに指および爪を伸ばすことができないことの両方を引き起こした。3ヶ月齢までに、病理学的な総合症状は、前肢における全ての関連する関節(例えば、手首、肘および肩の関節)が「一緒にかたまってしまうこと」ならびに体重の大きな減少および慢性疲労をともなって第4段階に進行する。しかし、ほとんどのwobblerマウスは、3ヶ月齢に達する前に死亡する。僧帽筋と菱形筋と脊髄のC7−T3領域の間へのMNTF1含有ゲル切片の移植は、wobblerマウスの症状の進行を遅延させ、コントロール群に比べて、寿命、健康、呼吸、体重、前肢の強さの全般的な改善ならびにそれらの頚運動ニューロンの空胞形成および染色質溶解の減少をもたらした。
【0020】
MNTF1の公知の生物学的活性のために十分であるようである、MNTF1−F6分子のこれまでに認識されていなかった部分的に重複する2つのドメインが、現在では同定されている。これらのドメインの各々は、本明細書中で「WMLSAFS」ドメインおよび「FSRYAR」ドメインと呼ばれ、MNTF1−F6 33マーと同様の様式で運動ニューロン由来の細胞株の増殖を刺激するのに十分である。同様に、「FSRYAR」ドメインは、MNTF1−F6 33マーと同様の様式で、インビボにおいて、運動ニューロンにより筋肉を標的とする選択的な再神経支配を指示するのに十分である。さらに、「FSRYAR」ドメインは、「FSRYAR」配列を含む任意のMNTFペプチド(MNTF1−F6 33マーを含む)を認識する抗体を生じるのに十分な抗原エピトープを提供する。
【0021】
当該分野および本発明に精通している当業者は、WMLSAFSドメインおよび/もしくはFSRYARドメインを含む配列が、インビトロおよびインビボにおいて、非神経細胞に対する、神経細胞の生存能力および形態の選択的な調節における使用のためにMNTFペプチドアナログを提供することを理解する。さらに、WMLSAFSドメインおよび/もしくはFSRYARドメインに結合可能な化合物および組成物は、標的の細胞および組織におけるMNTF1活性の検出および/もしくは調節における使用のための薬剤を提供する。
【0022】
(ペプチド)
本明細書中で使用される場合、用語「WMLSAFSドメイン」もしくは「FSRYARドメイン」とは、神経細胞の選択的維持および軸索再生に十分であることが、本明細書中で証明されているポリペプチドドメインならびにそれらの構造および/もしくは機能を模倣可能なペプチドならびに/または分子をいう。本発明の好ましい実施形態は、アミノ酸配列:FSRYAR[配列番号2]もしくはWMLSAFS[配列番号3]を有するペプチド、およびその機能的な等価物を含む。
【0023】
「機能的な等価物」は、WMLSAFSドメインおよび/もしくはFSRYARドメインの生物学的活性と実質的に同様の生物学的活性を有するペプチドを意味し、このような活性もしくは特徴を有する「フラグメント」、「改変体」、「アナログ」、「ホモログ」、もしくは「化学誘導体」を含むものとされる。したがって、WMLSAFSドメインおよび/もしくはFSRYARドメインの機能的な等価物は、同一のアミノ酸配列を共有しなくてもよく、従来のアミノ酸もしくは非従来のアミノ酸の保存性または非保存性のアミノ酸置換であり得る。
【0024】
本明細書中で使用される場合、用語「生物学的に活性なペプチド」および「生物学的に活性なフラグメント」とは、上に記載の運動神経栄養因子(MNTF)に従うペプチドもしくはポリペプチドをいい、ここで、MNTFは、運動ニューロンに対する保護効果および/もしくは運動ニューロン由来の細胞株に対する増殖効果を示す。
【0025】
本発明のMNTFペプチドアナログを含むタンパク質もしくはペプチドにおけるアミノ酸残基の配列は、それらの一般的に用いられる三文字表記の使用によるか、もしくは一文字表記によるかのいずれかにより本明細書にて示されている。これらの三文字表記および一文字表記の列挙は、Biochemistry、第2版、Lehninger,A.、Worth Publishers、New York、N.Y.(1975)のごとき教科書中に見出すことができる。アミノ酸配列が水平に列挙されている場合、アミノ末端は左端にあるものとされ、一方、カルボキシ末端は右端にあるものとされる。
【0026】
本明細書における「保存性の」アミノ酸置換との言及は、同様の側鎖を有するアミノ酸残基の相互置換可能性を意味するものとされる。例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシンおよびイソロイシンは、脂肪族側鎖を有するアミノ酸の群を構成し;セリンおよびスレオニンは、脂肪族−ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸であり;アスパラギンおよびグルタミンは、アミド含有側鎖を有するアミノ酸であり;フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファンは、芳香族側鎖を有するアミノ酸であり;リジン、アルギニンおよびヒスチジンは、塩基性側鎖を有するアミノ酸であり;ならびにシステインおよびメチオニンは、硫黄含有側鎖を有するアミノ酸である。所定の群からの1つのアミノ酸と同じ群からの別のアミノ酸との相互置換は、保存性の置換と見なされる。好ましい保存性の置換群としては、アスパラギン−グルタミン、アラニン−バリン、リジン−アルギニン、フェニルアラニン−チロシンおよびバリン−ロイシン−イソロイシンが挙げられる。
【0027】
種々のMNTFペプチドアナログを含むペプチドの正確な化学構造が多くの因子に依存して変化することは、当業者によって理解される。例えば、所定のポリペプチドは、酸性もしくは塩基性の塩または中性の形態として得られ得、これは、イオン化可能なカルボキシル基およびアミノ基がこの分子にて見出されるからである。そこで、本発明の目的のために、WMLSAFSドメインおよび/もしくはFSRYARドメインを含むペプチドの任意の形態は、MNTF1 33マーペプチドの生物学的な活性を維持し、本発明の範囲内であることが意図される。
【0028】
(MNTF1−F6 33マー)
米国特許6,309,877号において、以下のアミノ酸配列を有するポリペプチド(当該文献中においては配列番号4と呼ばれる)が提供される:
【0029】
【表1】

この配列を含む組換えタンパク質は、MNTF−1に対するモノクローナル抗体と反応し、運動ニューロンの生存能力を維持し、神経突起の伸長を上昇させ、運動ニューロン細胞死/アポトーシスを減少させ、成長円錐含有軸索の伸長が伴った運動ニューロンの巨大な活性神経への伸長および「延展」を支持した。MNTF1 33マーは、本明細書中では配列番号1と呼ばれ、固相合成により合成され、以下の実施例に記載されるように、細胞増殖アッセイにおける陽性コントロールとして役割を果たした。この直鎖状の33マーは、運動ニューロン/神経芽腫細胞の増殖の増加に効果的であり、他方でこのペプチドの環化型は効果がより小さいことが見出された。
【0030】
本発明は、運動ニューロンの生存および維持を促進するMNTF1の能力を維持するMNTF1のペプチドアナログを含む。本発明に関するMNTFペプチドアナログは、典型的に、6個〜32個のアミノ酸の長さであり、配列番号1の12〜18アミノ酸残基に対応するWMLSAFSドメイン(配列番号3)、または配列番号1の17〜22アミノ酸残基に対応するFSRYARドメイン(配列番号2)と呼ばれる2つのアミノ酸配列のうちの少なくとも1つを含む。MNTFペプチドアナログの好ましい実施形態は、配列番号1の連続する6〜32アミノ酸残基のフラグメントを含む。
【0031】
別の実施形態において、運動神経栄養因子ペプチドアナログのアミノ酸配列は、BLAST分析により調べられたところ、配列番号1の連続する9〜32アミノ酸残基と少なくとも70%同一であり、配列番号1の連続する8〜32アミノ酸残基と少なくとも80%同一であり、最も好ましくは、配列番号1の連続する7〜32アミノ酸残基と少なくとも90%同一である。
【0032】
対応する配列番号1のフラグメントとポリペプチド配列を比較するために、National Center for Biotechnology Information(WWW上、ncbi.nlm.nih.govにおいて)から公的に入手可能なBLASTプログラムを用いて、配列の包括的アラインメントが実施され得る。包括的アラインメントを実施する前に、配列番号1はGenBankに提出され得る。National Center for Biotechnology Informationにより提供される初期設定パラメータは包括的アラインメントに使用され得る。
【0033】
(6マー)
特に好ましい実施形態において、以下のアミノ酸配列を有するペプチドが提供され:
【0034】
【表2】

この配列は、配列番号1のアミノ酸残基17〜22に対応し、運動ニューロン/神経芽腫細胞の細胞増殖を上昇させるために十分であることが見出された。MNTF−1分子のこの部分は、本明細書中において、以下、「FSRYAR」ドメインと記載される。
【0035】
(7マー)
他の好ましい実施形態において、以下のアミノ酸配列を有するペプチドが提供され:
【0036】
【表3】

この配列は、配列番号1のアミノ酸残基12〜18に対応する。MNTF1のこの7アミノ酸フラグメントは、FSRYARドメインのFS残基と重複する。このペプチドはまた、インビトロにおける、広範囲の投薬レベルにわたる運動ニューロン/神経芽腫細胞の強力な促進剤であることも見出された。MNTF−1分子のこの部分は、本明細書において、以下、「WMLSAFS」ドメインと呼ばれる。
【0037】
(10マー)
別の好ましい実施形態において、以下のアミノ酸配列を有するペプチドが提供され:
【0038】
【表4】

この配列は、配列番号1のアミノ酸残基13〜22に対応する。このMNTFフラグメントは、「WMLSAFS」ドメインのほとんどおよび「FSRYAR」ドメイン全体を含む。この10マーは、インビトロで、0.01μg/mlほどの低い濃度で運動ニューロン/神経芽腫細胞を刺激した場合の、完全長MNTF 33マーと少なくとも同じくらい効果的であった。
【0039】
(11マー)
別の好ましい実施形態において、以下のアミノ酸配列を有するペプチドが提供され:
【0040】
【表5】

この配列は、配列番号1のアミノ酸残基17〜27に対応する。この11マーは、FSRYARドメインを含み、さらに、運動ニューロン/神経芽腫細胞の細胞増殖を増加させるのに十分であることも見出された。
【0041】
(13マー)
別の好ましい実施形態において、以下のアミノ酸配列を有するペプチドが提供され:
【0042】
【表6】

この配列は、配列番号1のアミノ酸残基11〜23に対応する。この13マーは、WMLSAFSドメインとFSRYARドメインとの両方を含み、さらに、運動ニューロン/神経芽腫細胞の細胞増殖を上昇させるために十分であることも見出された。しかし、この13マーの環化型は、インビトロで細胞増殖を刺激した場合に効果的ではなかった。
【0043】
(21マー)
別の好ましい実施形態において、以下のアミノ酸配列を有するペプチドが提供され:
【0044】
【表7】

この配列は、配列番号1のアミノ酸残基13〜33に対応する。この21マーは、ほとんどの「WMLSAFS」ドメインおよび全ての「FSRYAR」ドメインを含み、さらに、運動ニューロン/神経芽腫細胞の細胞増殖を上昇させるために十分であることも見出された。
【0045】
(MNTFペプチドアナログ)
1つまたはそれ以上のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されている、本明細書中に記載され、かつ同定されているようなペプチドアナログは、本発明の範囲内であることが理解されるべきである。好ましい代替において、運動神経栄養因子ペプチドアナログは、配列番号1の連続する7〜32アミノ酸残基フラグメントに、1つまたはそれ以上の保存的なアミノ酸置換を含む。
【0046】
本発明の範囲内のMNTFペプチドアナログは、ペプチドの必須な活性が実質的に変化しないままであるという一般的な方向性を提供する、MNTF1ペプチドの改変形態であり得る。本明細書中で使用される場合、用語「改変形態」とは、その天然に存在する構造を変化させるように施されているペプチドをいう。改変形態は、例えば、MNTF1ペプチドフラグメントの共有結合の改変によるか、不溶性支持マトリックスにMNTF1ペプチドフラグメントを架橋することによるか、もしくはキャリアタンパク質にMNTF1ペプチドフラグメントを架橋することにより調製され得る。
【0047】
本発明の範囲内のMNTF1ペプチドアナログは、抗原性についてMNTF1ペプチドフラグメントに関連する。抗原性について関連する2つのペプチドは、免疫学的な交差反応性を示す。例えば、第一のペプチドに対する抗体はまた、第二のペプチドを認識する。
【0048】
本発明の範囲内のMNTF1ペプチドアナログは、異種タンパク質に結合されるMNTF1ペプチドフラグメントを含む、融合タンパク質であり得る。異種タンパク質は、MNTF1ペプチドフラグメントとは実質的に同じではないアミノ酸配列を有する。この異種タンパク質は、MNTF1ペプチドフラグメントのN末端もしくはC末端に融合され得る。融合タンパク質としては、ポリHis融合物、MYC標識融合物、Ig融合物および酵素融合物(例えば、β−ガラクトシダーゼ融合物)が挙げられるが、これらに限定されない。かかる融合タンパク質、特に、ポリHis融合物は、組換えMNTF1ペプチドフラグメントの精製を容易にすることができる。
【0049】
WMLSAFSドメインおよび/もしくはFSRYARドメインのペプチド模倣物もまた、本発明により提供され、そして例えば、WMLSAFSドメインおよび/もしくはFSRYARドメインを含むタンパク質の機能の阻害による、神経細胞の生存能力および増殖の調節のための薬物として作用し得る。ペプチド模倣物は、模倣されたそれらのペプチドの特性と類似の特性を有する非ペプチド薬物を含むことが、薬学産業において一般的に理解されている。例えば、Fauchere J.、Adv.Drug Res.15:29(1986);およびEvansら、J.Med.Chem.30:1229(1987)において、当業者に公知のペプチド模倣物の設計の原理および実施が記載されている。
【0050】
治療用に有用なペプチドと構造上の類似性を有するペプチド模倣物は、等価の治療効果もしくは予防効果を生成するために使用され得る。典型的に、このようなペプチド模倣物は、所望の特性(例えば、インビボにおける化学的な分解に対する耐性)に改変し得る結合によって必要に応じて置き換えられる、一つ以上のペプチド結合を有する。このような結合としては、−CHNH−、−CHS−、−CH−CH−、−CH=CH−、−COCH−、−CH(OH)CH−、および−CHSO−が挙げられ得る。ペプチド模倣物は、特に所望される治療剤としてのそれらの用途を生む、上昇した薬理学的特性(生物学的半減期、吸収率など)、異なる特異性、上昇した安定性、生成の節約性、低下した抗原性などを示し得る。
【0051】
WMLSAFSドメインおよび/もしくはFSRYARドメイン模倣分子または結合分子の合理的な設計は、模型の(または実験的に決定された)ペプチド構造に基づき、当業者によって合理的な薬物設計の公知の方法を用いて、実施され得る。合理的な薬物設計の目的は、生物学的に活性なポリペプチドまたは標的化合物の構造類似物を生成することである。そのような類似物を作製することによって、天然の分子よりもより活性が高いか、または安定である薬物を作製することが可能である。そのような類似物は、変化に対する異なった感受性を有するか、または種々の他の分子の機能に影響し得る。1つのアプローチにおいて、標的分子またはそのフラグメントのための3次元構造が作製される。これは、X線結晶学、コンピューターモデリング、または両方のアプローチの組み合わせによって達成され得る。
【0052】
(作製の方法)
本発明のMNTFペプチド組成物が、当該分野で周知の方法によって作製され得ることが理解される。それらの方法としては、固相合成による化学合成およびHPLCによる化学反応の他の生成物からの精製、またはインビトロ翻訳系または生存細胞における本発明のMNTFペプチドを含有するペプチドもしくはポリペプチドをコードする核酸配列(例えば、DNA配列)の発現による生成が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、この組成物のMNTFペプチドは、単離され、大量に透析されて1種またはそれ以上の所望されない低分子量分子を除去し、および/または、所望されるビヒクルへのより迅速な処方のために、凍結乾燥される。さらなるアミノ酸、変異、化学的改変などは、たとえMNTFペプチド成分中で作製されるにせよ、好ましくは、MNTFドッキング配列のレセプター識別を実質的に干渉しない。
【0053】
本発明のMNTF1の1以上のフラグメントに対応するペプチドまたはポリペプチドは、概して、少なくとも5または6アミノ酸残基長であるべきであり、約7残基、約8残基、約9残基、約10残基、約11残基、約12残基、約13残基、約15残基、約20残基または約30残基くらいまで含み得る。ペプチド配列は、当業者に公知の方法によって合成され得る。例えば、自動化ペプチド合成機械(例えば、Applied Biosystems(Foster City,CA)から利用可能)を用いたペプチド合成である。本発明はさらに、環式ペプチド(例えば、下記の表1に示すような(配列番号1)および(配列番号6)に由来するペプチド)の合成および使用を提供する。
【0054】
共有結合修飾は、標的のアミノ酸残基を、選択された側鎖または末端残基と反応し得る有機誘導体化薬と反応させることによって、ペプチド中に導入され得る。有機誘導体化薬を用いるポリペプチドの共有結合修飾は、当業者に周知である。例えば、システイン残基は、α−ハロアセテート(および対応するアミン)(例えば、クロロ酢酸またはクロロアセトアミド)と反応し得、カルボキシメチル誘導体またはカルボキシアミドメチル誘導体を生じ得る。ヒスチジン残基は、pH5.5〜pH7.0においてジエチルピロカーボネートと反応させることによって、またはpH6において1Mカコジル酸ナトリウム中のブロモフェナシルブロマイド(bromophenacyl bromide)と反応させることによって、誘導され得る。リジン(lysinyl)残基およびアミノ末端残基は、コハク酸無水物または他のカルボン酸無水物と反応し得る。アルギニン残基は、1つまたはいくつかの従来の試薬との反応によって改変され得、それらの試薬は、中でもフェニルグリオキサール、2,3−ブタンジオン、1,2−シクロへキサンジオン、およびニンヒドリンである。分光標識は、芳香族ジアゾニウム化合物またはテトラニトロメタンとの反応によって、チロシン残基中に導入され得る;最も一般的には、O−アセチルチロシル類および3−ニトロ誘導体を形成するために、それぞれN−アセチルイミジゾル(acetylimidizol)およびテトラニトロメタンが用いられる。カルボキシル側基(side group)(アスパルチルまたはグルタミル)は、カルボジイミド(R’−N−C−N−R’)(例えば、1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリニル−(4−エチル)カルボジイミドまたは1−エチル−3(4アゾニア(azonia)4,4−ジメチルペンチル)カルボジイミド)との反応によって、選択的に改変され得る。さらに、アスパルギン酸残基およびグルタミン残基は、アンモニウムイオンとの反応によって、アスパラギン残基およびグルタミン残基に変換される。グルタミン残基およびアスパラギン残基は、対応するグルタミン残基およびアスパルギン酸残基に脱アミド化され得る。他の改変としては、プロリンおよびリジンのヒドロキシル化、セリン(seryl)残基またはスレオニン残基のヒドロキシル基のリン酸化、リジン、アルギニン、およびヒスチジン側鎖のα−アミノ基のメチル化(T.E.Creighton,1983,Proteins:Structure and Molecule Properties,W.H.Freeman & Co.,San Francisco,pp.79−86)、N−末端アミンのアセチル化、ならびにいくつかの例においては、C−末端カルボキシル基のアミド化が挙げられる。
【0055】
本発明はさらに、アッセイおよびアッセイのためのキットにおける使用のための新規のMNTFペプチドアナログ(それらは、遊離形態またはキャリア分子(例えば、タンパク質または固体粒子)に結合する形態のいずれでもよい)ならびに、標識またはトレーサー(例えば、ビオチンもしくはフルオレセインイソチオシアネート)に結合する改変ペプチドを提供する。
【0056】
MNTF1ペプチドフラグメントの水不溶性支持マトリックスへの架橋は、当該分野で周知の二官能性薬を用いて、実施され得る。それらの二官能性薬としては、1,1−ビス(ジアゾアセチル)−2−フェニルエタン、グルタルアルデヒド、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(例えば、4−アジドサリチル酸とのエステル)、ホモ二官能性イミドエステル(ジスクシンイミジルエステル(例えば、3,3’−ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート))が挙げられる)、および二官能性マレイミド(例えば、ビス−N−マレイミド−1,8−オクタン)が挙げられる。二官能性薬(例えば、メチル−3−[(p−アジドフェニル)ジチオ]プロピオイミデート(propioimidate)は、光の存在下において架橋を形成することが可能である、光活性化可能中間体を産生する。あるいは、反応性水不溶性マトリックス(例えば、臭化シアン活性型炭水化物)は、タンパク質の固定化のために用いられ得る。
【0057】
MNTF1ペプチドフラグメントの第二のタンパク質(第二のMNTF1ペプチドフラグメントを含む)への架橋は、本明細書に記載の二官能性試薬を用いて実施され得る。別の代替物には、挿入されたスペーサー(例えば、ジチオール基またはジアミノ基または複数のアミノ酸残基(例えば、グリシン))が存在する。このスペーサーはまた、ホモ二官能性架橋剤またはヘテロ二官能性架橋剤(例えば、ヘテロ二官能性架橋剤であるN−(4−カルボキシ−シクロヘキシル−メチル)−マレイミド)であり得る。
【0058】
MNTF1ペプチドフラグメントに対する抗体は、当該分野で周知の方法によって調製され得る(例えば、Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,1988を参照のこと)。広範な範囲の動物種が、抗体の作製のために用いられ得る。抗体の作製のために用いられる動物は、代表的には、ウサギ、マウス、ラット、ハムスター、モルモットおよび/またはヤギである。抗血清は、種々の適用に用いられ得る。あるいは、所望される抗体分画は、周知の方法によって精製され得る。その方法は、例えば、別の抗体を用いるアフィニティークロマトグラフィー、プロテインAクロマトグラフィーおよびプロテインGクロマトグラフィー、および固体マトリックスに結合するペプチドを用いるクロマトグラフィーである。
【0059】
免疫学的交差反応性は、当該分野で周知の標準的な免疫学的アッセイを用いて決定され得る。例えば、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)は、MNTF1ペプチドアナログを、マイクロタイタープレートのウェル表面上に固定化し、次いで固定化されたMNTF1ペプチドアナログを、MNTF1ペプチドフラグメントに対する抗体と接触させることによって実施され得る。結合していない抗体および非特異的に結合した抗体を除去するための洗浄の後に、結合した抗体が検出され得る。最初の抗体が検出可能なレベルで結合する場合、結合した抗体は、直接的に検出され得る。あるいは、結合した抗体は、一次抗体に対する結合親和性を有する二次抗体を用いて、二次抗体が検出可能なレベルで結合した状態で検出され得る。
【0060】
より長いペプチドまたはポリペプチド(例えば、融合タンパク質)は、標準的な組み換えDNA技術によって生成され得る。例えば、MNTF1ペプチドフラグメントをコードするDNAフラグメントは、既に異種タンパク質を含む市販の発現ベクター中にクローニングされ得、インフレーム(in−frame)で異種タンパク質に融合するMNTF1ペプチドフラグメントとなる結果を伴う。
【0061】
特定の実施形態において、MNTFペプチドをコードする核酸および/または本明細書中に記載される構成要素は、例えば、本発明の種々の組成物および方法のためのペプチドを、インビトロまたはインビボで生成するために用いられ得る。例えば、特定の実施形態において、MNTFペプチドをコードする核酸は、例えば、組み換え細胞中のベクターの構成要素である。その核酸は、MNTFペプチド配列を含むペプチドまたはポリペプチドを生成するために発現され得る。そのペプチドまたはポリペプチドは、細胞から分泌され得るか、またはその細胞の一部であるかもしくはその細胞内に存在し得る。
【0062】
(組成物)
本発明に従う薬学的組成物は、好ましくは、1つまたはそれ以上の本発明のMNTF1ペプチドアナログを、薬学的に受容可能な希釈剤および/またはキャリアと一緒に含有する。適切なキャリア/希釈剤は、当該分野で周知であり、生理的食塩水または他の無菌の水性媒体を含み、必要に応じて、さらなる成分(例えば、緩衝塩、防腐剤、または砂糖、デンプン、塩、もしくはこれらの組み合わせ)を含む。
【0063】
本発明の薬理学的組成物は、不活性な無毒性薬学的「キャリア」部分と共に認められた方法論に従って、哺乳動物被験体および、特にヒト被験体において所望される生理的活性を生成するために十分な無毒性濃度において、1以上のMNTFペプチドアナログを取り込むことによって、従来の投与単位形態中で調製される。好ましくは、この組成物は、生物学的に活性であるが無毒性の濃度(例えば、一投与単位あたり(例えば、被験体の体重1kgあたり)、およそ5ng〜50mgの活性成分の濃度)中に活性成分を含有する。利用される濃度は、例えば、成分の全体的な特異的生物学的活性、所望される特異的生物学的活性、ならびに被験体の状態および体重のような因子に依存する。
【0064】
使用される薬学的キャリアまたは薬学的ビヒクルは、例えば、固体または液体であり得、種々の薬学的形態が使用され得る。従って、固体キャリアが使用される場合、その調製物は、そのまま製粉され得るか、油中に微粉にされ得るか、錠剤にされ得るか、硬質ゼラチン中にか、または微粉化された粉末もしくはペレットの形態の腸溶性コートのカプセル中に配置されるか、またはトローチ、ロゼンジ剤もしくは坐薬の形態に配置される。この固体キャリアはまた、MNTFペプチドアナログを含み、使用前に挽き砕かれ得る。
【0065】
液体キャリア中で使用される場合、その調製物は、液体の形態中(例えば、アンプル、または水性懸濁剤もしくは非水性液体懸濁剤)であり得る。局所投与のために、その活性成分は、無刺激性の保湿基剤(例えば、軟膏またはクリーム)を用いて処方され得る。適切な軟膏基剤の例としては、ワクセリンを添加した揮発性シリコン、ラノリン、および水中油型エマルジョン(例えば、Eucerin(登録商標)(Beiersdorf)が挙げられるが、これらに限定されない。適切なクリーム基剤の例としては、Nivea Cream(登録商標)(Beiersdorf)、コールドクリーム(USP)、Purpose Cream(登録商標)(Johnson & Johnson)、親水性軟膏(USP)、およびLubriderm(登録商標)(Warner−Lambert)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0066】
さらに、本発明に関して、その活性成分は、作用する運動ニューロンの部位においてか、またはその部位近くで、内部で適用され得る。例えば、好ましくは、持続放出様式において、活性成分の放出を可能にするための十分な浸透性を有する固体媒体またはゲル状媒体が、このような内部適用のために利用され得る。そのようなゲルの例としては、ヒドロゲル(例えば、ポリアクリルアミド、アガロース、ゼラチン、アルギン酸塩、または他の多糖ガム)が挙げられるが、これらに限定されない。さらに、この活性成分は、固体材料(例えば、フィルター紙)中に包埋され得、それは、適切な時間および位置において、活性成分の吸収および持続的な放出を可能にする。
【0067】
本発明に従うMNTFペプチドは、投与のプロトコルおよび/または患者の必要性に適した、任意の適切な形態における使用のために提供され得る。
【0068】
上で言及した薬学的に受容可能な組成物の他に、このペプチドは、例えば、凍結乾燥した(lyophilized)固体形態もしくはフリーズドライした(freeze dried)固体形態のどちらかで、単独もしくは組み合わせのどちらかで提供され得る。
【0069】
(使用の方法)
WMLSAFSドメインおよび/またはFSRYARドメインを含む短縮MNTF分子(例えば、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7)、ならびに「最小限の」WMLSAFSドメインおよび/またはFSRYARドメインを構成する他の低分子ペプチド誘導体は、MNTF1−F6 33マーによって示される神経栄養機能および神経親和性機能を保持することが、本明細書中で実証される。これらMNTFペプチドアナログは、MNTF1の高いレベルの発現によって生成される同じ生物学的シグナルを提供することによって、神経細胞株の細胞増殖を誘導する(MNTF1は、インビトロおよびインビボで運動ニューロンの生存能力および軸索再生を、選択的に高めることが示されている)。このような薬剤は、新規の分類の神経栄養性薬および神経親和性薬を含む。
【0070】
MNTF1および/またはそのペプチドアナログは、インビトロで哺乳動物の運動ニューロンの生存を促進し、VSC4.1細胞株(運動ニューロンと神経芽細胞腫細胞との間のハイブリッド)の増殖を刺激する。従って、本発明は、神経細胞培養のための増殖因子/サプリメントとしてのMNTFペプチドアナログの使用を提供し、インビトロで、上に定義されたようなMNTFペプチドアナログの有効量と共に神経細胞を培養することによって、神経の初代培養物の生存を促進するか、または神経細胞株の細胞増殖を刺激するための方法を含む。
【0071】
外科的に軸索切断されたラットの末梢神経に対するMNTF1のインビボ投与は、未処置のコントロールよりも、顕著に高いパーセンテージの生存する運動ニューロンを生じ、この投与は、抗MNTF1モノクローナル抗体の同時投与によって、遮断され得る。MNTF1のさらなる有益な効果は、脊髄半側切除に供されたラットが、末梢神経の自己移植によって修復され、脊髄との神経移植片接合部のごく近くに、MNTF1含有ゲル切片を移植されて、実証された。MNTF1処置動物は、より多数の生存運動ニューロンを示し、運動機能および感覚機能の回復を改善された。さらに、以下の実施例でより詳細に記載された大腿神経モデルにおいて実証されたように、切除され、縫合されたラット大腿神経のMNTF1ペプチドを用いた処置は、インビボの筋肉組織を標的とする運動ニューロンの適正な投射の顕著な増加、および皮膚への不適切な投射の数の顕著な減少を生じた。従って、本発明のMNTF1ペプチドは、標的筋肉組織の選択的な神経再支配を促進することが可能である。
【0072】
従って、本発明は、損傷を受けた運動ニューロンもしくは罹患した運動ニューロン、または病理学的状態(例えば、神経変性疾患など)を処置するための治療方法または予防方法を提供し、その治療方法または予防方法は、神経細胞の生存能力および/または軸索再生を特異的に促進し得る治療薬の有効量を投与することによって達成される。治療指示または予防指示は、以下の神経学的状態の(重症度の阻害および/もしくは重症度の減少)の処置を含み得る:
a)神経系に対する急性損傷傷害、亜急性傷害または慢性傷害であって、外傷性、化学的、血管傷害および欠損(例えば、脳卒中に起因する虚血)、感染性傷害/炎症性傷害および腫瘍に誘導された傷害を共に含む、傷害、
b)神経系の老化、
c)神経系の慢性免疫疾患または神経系に影響する慢性免疫疾患(多発性硬化症を含む)、
d)神経系の慢性神経変性疾患および筋骨格障害(遺伝性運動ニューロン疾患(例えば、筋萎縮性側索硬化症、脊髄性筋萎縮症)を含む);
e)末梢神経傷害、脊髄傷害および頭部傷害、
f)末梢ニューロパシー、糖尿病性末梢ニューロパシー、AIDSに起因する末梢ニューロパーシー、癌に対する放射線療法に起因する末梢ニューロパシー。
【0073】
MNTF1の投与はまた、ラット脊髄の外科的切開および修復後、瘢痕形成の減少および炎症の減少に関連している。さらに、組み換えMNTF1は、インビトロの脊髄の外植片中の非神経細胞(例えば、グリア細胞および繊維芽細胞)の増殖における顕著な減少に関連していた。従って、別の態様において、本発明は、抗増殖性薬(特に、抗炎症薬または抗繊維性(antifibrotic)薬)としての使用のために、新規のMNTFペプチドアナログおよび、それらからなる組成物またはそれらを含有する組成物を提供する。さらに、本発明はまた、非神経細胞(特に、繊維芽細胞および炎症細胞)の増殖ならびに、または移動を阻害する方法を提供する。この方法は、細胞培養物(より詳細には、過剰増殖の瘢痕組織もしくはケロイド繊維芽細胞)に対して、または哺乳動物宿主中の傷害部位および/もしくは瘢痕部位に対して、MNTFペプチドアナログを投与することによって阻害する方法である。本発明はまた、そのような新規のMNTFペプチドアナログおよび、それらからなる組成物またはそれらを含む組成物を、創傷治癒および美容的適用の用途のために提供する。
【0074】
本発明のMNTFペプチドは、従って、容易に薬理学的適用に利用され得る。インビボ適用は、哺乳動物被験体および、特にヒト被験体への、この因子の投与を含む。結果として所望される細胞への治療薬の送達となる任意の投与様式は、本発明の範囲内であると企図される。投与の部位および細胞は、処置される特定の障害の理解に基づいて、当業者によって選択される。薬学的投薬および薬物の送達の原理は、公知であり、例えば、Ansel,H.C.およびPopovich,N.G.,Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems,第5版,Lea & Febiger,Publisher,Philadelphia,Pa.(1990)に記載されている。
【0075】
本明細書に記載される任意の方法での本発明のペプチドの投与は、任意の適切なプロトコルによってであり得る。投与の特定の様式はまた、当業者によって容易に選択され得、例えば、作用される部位においてか、またはその近くでの局所適用である好ましい様式により、経口、静脈内、皮下、筋肉内などが挙げられ得る。加えて、投薬量、投薬頻度、および処置の経過の長さは、処置される特定の変性障害に依存して、当業者によって決定され得、そして最適化され得る。本発明のペプチドのこのような投与は、意図される部位におけるペプチドの活性の、所望される有効な結果を与えるような量である。従って、「有効(effective)」量を構成する量は、種々のパラメータ(例えば、患者の体重、必要とされる活性の程度、意図される活性の部位、処置されるか、または予防される状態の重症度)に依存し得、それらのすべては、当業者によってよく理解され、認識される。
【0076】
本明細書中で使用される場合、用語「投与する(administer)」は、作用される部位に十分に近い神経細胞もしくは組織または非神経細胞もしくは組織への精製されたペプチドの適用を含み、このポリペプチドは、哺乳動物神経の生存能力および/または非神経細胞(例えば、繊維芽細胞もしくは炎症性細胞)の減少した増殖または浸潤の促進において有効である。
【0077】
なおさらなる態様において、本発明は、上に定義されたMNTFペプチドアナログ(詳細には、本発明の結合したペプチドアナログ)を提供する。これは、MNTF1に対するポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の生成のための免疫原としての使用のためのものであり、特に、診断用途、予後用途および治療用途のためのものである。このようなポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の生成の方法はまた、本発明の範囲内である。
【実施例】
【0078】
本発明は、一定の態様において、以下の実施例の参照とともに認識され得、この実施例は限定されるためではなく例示のために提供される。
【0079】
以下の実施例中で作製される参照の材料、試薬などは、特に示されない限り、商業的供給源から入手できる。
【0080】
(実施例1−MNTFバイオペプチドについての生成手順)
この実施例は、MNTFペプチドを製造する方法を示す。
【0081】
1.)合成−すべてのペプチドを、CS536 Automated Peptide Synthesizer(CS Bio Inc.)を用いたt−Bocケミストリを介して合成した。Boc基の脱保護を、塩化メチレン中の40% TFA(トリフルオロ酢酸)を用いて実施した。カップリング反応を、ジイソプロピルカルボジイミド(diiosopropylcarbodiimide)(DIC)を用いて2時間実施した。各カップリングサイクルの完了時にカップリング効率を確認するために、カイザー試験(ニンヒドリンベース)を実施した。
【0082】
2.)次いで、HF(フッ化水素)を用いて、このペプチドを樹脂から切り離した。HF反応の後、次いでこのペプチドをTFAと共に抽出した。次に、精製プロセスの前に正確な重量を得るために抽出した材料を凍結乾燥した。
【0083】
3.)次いで、逆相C18樹脂を詰めたHPLCカラム上に、粗製ペプチドをロードした。緩衝液A(0.1% TFA(HO中))から緩衝液B(60% アセトニトリル(0.1% TFA/HO中))への勾配に流し、溶出物の分画を回収した。結果として生じた分画を、分析用HPLCによって分析し、純度>95%の適切な材料を含む分画をプールし、凍結乾燥した。
【0084】
4.)次いで、このペプチドを凍結させ、凍結乾燥した。最終の凍結乾燥プロセスの後に、このペプチドを、HPLC純度および質量スペクトル立体構造について、CS Bioにて確認した。
【0085】
(実施例2−MNTF誘導体のインビトロアッセイ)
(導入)
運動ニューロンの機能の研究は、運動ニューロンの機能を模倣する細胞株の開発により発展してきた。感覚性−F11神経芽細胞腫細胞、運動性−VSC4.1神経芽細胞腫細胞、およびアドレナリン作動性−N1E−115神経芽細胞腫細胞、ならびにシュワン細胞を含むいくつかの神経細胞株は、プログラムされた細胞死(PCD)もしくはアポトーシスをインビトロで検出するため、および/または増殖(growth)、増殖(proliferation)、および分化におけるニューロパシーを有する筋萎縮性側索硬化症患者もしくは糖尿病患者に由来する血清の阻害効果を検出するための神経モデルとして用いられている。特に、VSC4.1細胞株は、Stanley Appel博士によって開発された運動ニューロンと神経芽腫細胞との間のハイブリッドであり、筋萎縮性側索硬化症の病原の研究において広く用いられている(Kimura Fら,Annals of Neurology 35:164−171,1994;Smith RGら,Proc Natl Acad Sci U.S.A 91:3393−3397,1994;Alexianu MEら,J Neurochem 63:2365−2368,1994;Appelら,Clin Neurosci 3:368−374,1995−1996;およびMosier DRら,Ann Neurol 37:102−109,1995(これらの全ては出典明示により本明細書中に援用される))。従って、VSC4.1細胞は、運動ニューロパシーの病原の試験において、および全身性因子を考える場合に、細胞を損傷から保護し得る因子の試験に有用である。
【0086】
この実施例は、特定の短縮MNTFペプチドが、MNTF1 33マーと比較できる方法で、VSC4.1細胞の増殖を刺激することを示す。これらの増殖効果は、運動神経の喪失をブロックするか、または逆転させるMNTFの能力に関し得る。
【0087】
(方法)
増殖の実験を、Roche Diagnostics GmbH(Mannheim,Germany)からの細胞増殖アッセイキットを利用して、96ウェルプレートにて行った。VSC4.1細胞(運動ニューロン/神経芽細胞腫細胞ハイブリッド)を、MNTFを含まないか、または10−8g/ml〜10−5g/mlの用量範囲のMNTFを含むかのいずれかである2%FBSを含有したDMEM中で培養した。3つのウェルに、各処置を適用した。この細胞を21時間培養し、このアッセイキットからの5−ブロモ−2’−デオキシウリジン(BrdU)を、各ウェルに加えた。3時間のBrdU標識の後、細胞を洗浄し、固定して乾燥させた。次いで、細胞を固定し、DNAを変性させて、その後の抗体結合への対応を向上させた。アッセイキットからのPOD標識したマウスモノクローナル抗BrdU抗体を、2時間適用し、続いて洗浄した。比色アッセイ溶液(テトラメチルベンジジン)を加え、Wallac Vector 2プレートリーダーにて450nmで読み取ることにより、このアッセイを定量化した。同じプレート上で0〜20,000細胞/ウェルの勾配の細胞でプレートしたウェルとの比較により、処理群の細胞を定量化した。プレートごとの変動を考慮するために、データをコントロールの%として表す。
【0088】
(結果)
以下の表は、別の機会(10−27−02、3−28−03および8−4−03)に行われた細胞増殖アッセイの3つのセットの結果をまとめたものである。
【0089】
【表8】

【0090】
提供された他のペプチドのうちで、このアッセイにおいて最も有効なものは、GLPグレードのMNTF 33マーであり、これは100ng/mlの用量でも34.3%の最大反応を刺激した(図2)。他のペプチドのうち、MNTF 6マーおよびMNTF 11マーは比較的有効であり(図2)、それぞれ35.1%および32.2%の最大反応を達成した。これらの反応はまた、試験した最も高い用量(10μg/ml)において見られた。このMNTF 7マーは、1μg/mlの用量において25.1%の最大効果を有し、若干有効性は低いが(図2)、このペプチドは他の調製物より広範な活性用量範囲を示した。この環式MNTF 13マーペプチドは、試験した全てのペプチドの中で最も有効性が低く、1μg/mlで17.3%の最大効果を示した(図2)。さらに、より高い用量において、環式MNTF 13マーペプチドは増殖を阻害するように見えた。
【0091】
これらの予備実験において報告されたパーセンテージの増加は高くなかったが、このことは、基礎条件下で、これらの細胞の高増殖速度に起因する可能性が高かった。記載によると、MNTFペプチドアナログは、そのペプチドの環式バージョンを除き、用量依存様式で比較的有効なように見える。試験されたペプチドのうち、GLPグレードの33マー(配列番号1)が、このアッセイにおいて最も生物学的に活性であり、高い増殖速度をもたらし、低い用量を誘導のために必要とした。研究グレードの6マー(配列番号2)および11マー(配列番号5)は、各々と比べてだけでなく、MNTF 33マーと比べても有効であった。環式13マー(配列番号4)は、他の誘導ペプチドよりも、顕著に有効が低かった。さらに、環式MNTF33マーペプチドは、低用量で、非常に弱い増殖活性を示した。
【0092】
本質的に上に記載されたように行われた、さらなる細胞増殖アッセイを実施し、いくつかのGLPグレードのMNTFペプチドの効果を比較した。
【0093】
このアッセイのために利用したMNTF調製物は、以下:
【0094】
【化1】

であった。
【0095】
表1および図3で示すように、すべてのMNTFペプチド調製物は、異なった程度ではあるが、VSC4.1細胞における増殖効果を発揮した。全体の用量範囲にわたって最も強力な調製物は、7マーであり、適用された最も低い用量でさえ2.5倍の増加を示した一方、最も高い用量で、ほぼ3.5倍の増殖の増加を発揮した。13マーは、最も低い用量において、いくらかの効力を示したが、この効果はより高い用量においては低下した。2種の33マーは、投薬量の増加とともに、安定した反応の増加を示し、研究グレードの33マーは、最も高用量において約3倍の増加で最高点に達した一方、GLPグレードは、10μg/mlにおいてピークである3倍反応に達し、投薬量の増加とともにさらに増加することはなかった。このアッセイのセットにおいて、より強さの劣る動作物は、6マーおよび11マーであった。これらの調製物は、1μg/mlにおいて、ほぼ2.5倍の増殖の増加を刺激したが、用量範囲全体にわたる能力は、MNTFの他のアイソフォームよりは強力でなかった。
【0096】
第二回目の実験において、このアッセイ全体はより強く、最も活性の高い増殖剤である7マーを用いて、コントロールから350%の増加をもたらした。提供された6つのMNTFアイソフォームのうちの4つは、250%またはそれを超えるVSC4.1細胞の増殖を刺激した。しかし、これらのうちの1つの13マーは、一回の投薬のみにおいて、増殖を刺激した。他の2つのMNTFアイソフォーム(すなわち、6マーおよび11マー)は、増殖を刺激したが、他と比べてより有効性が低かった。相対的効力は、以下のとおりである:7マー(配列番号3)>33マー(配列番号1)>>6マー(配列番号2)、11マー(配列番号5)>13マー(配列番号6)。
【0097】
本質的に上に記載されるように、さらなる細胞増殖研究を実施し、運動ニューロン/神経芽細胞腫細胞の、3つの新規のMNTF調製物に対する反応を試験した。これらのアッセイのために利用したMNTF調製物は、以下:
1456 33マー
1597 10マー
1616 21マー
であった。
【0098】
表1および図4に示すように、コントロールを超えるパーセンテージ増加として表される場合、3つのMNTFアイソフォームの全ては、VSC4.1細胞増殖を有意に刺激した(ANOVAで、示されるように)。さらに、10マー、21マーおよび33マーは、有意に(p<0.05)、特定の用量においてコントロールを超える増殖を刺激した。33マー:p<0.02。10マー:p<0.001。21マー:p<0.002。
【0099】
以前の実験におけるように、アッセイ全体は強力であった。最も活性な増殖剤は、10マーであるように見え、用いられた3つの最も低い用量において、コントロールを超えておよそ200%の増加をもたらす(p<0.005,ANOVA)。これら3つの用量のすべては、コントロールと有意に異なる(テューキー−クレーマー事後分析)。33マーは、低い用量で、10マーとほとんど同様(10−9g/mlおよび10−8g/ml、テューキー−クレーマー事後分析によって有意)に、細胞増殖を刺激し(p<0.01,ANOVA)、より高い用量では10マーの反応にほぼ近かった。21マーは、増殖を有意に刺激した(p<0.05,ANOVA)一方、コントロールを超えた増加は、他の2つのMNTFアイソフォームの約半分であって、いずれの用量においても有意には異ならなかった。しかし、高い用量においては、3つすべてに対する反応は、同様であった。
【0100】
従って、3つのMNTFのアイソフォームのすべては、運動ニューロン増殖を有意に刺激するが、10マー(配列番号4)および33マー(配列番号1)は、明らかに21マー(配列番号7)より優れていた。これらのパーセンテージ反応は、以前のアッセイにおいてよりもいくらか低いように見えるが、このことは、アッセイ間の変動性に起因し得、培養における異なる細胞継代の異なる活性によって引き起こされた可能性がある。
【0101】
(実施例3−神経栄養活性についてのインビボアッセイ)
(大腿神経モデル)
運動軸索再生の特異性をラットの大腿神経で調べた。近位で、神経切断および縫合の部位の近くで、皮枝および筋枝の両方に寄与する軸索は、この神経全体にわたって交錯する。これらの軸索が再生する場合、それらは、遠位の神経断端において近接する運動シュワン細胞管および感覚シュワン細胞管への等しい接近を示す。このことは、軸索レベルにおける、「選択」の要素を確信させる。遠位で、再生の特異性が測定される場合、軸索を末端の皮膚枝および筋肉枝に分けられる。運動軸索は、通常、筋枝中でのみ見出され、皮枝のいずれの運動神経再生も経路探索の失敗を表す。軸索再生の特異性は、大腿枝に対するセイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)およびもう一方に対するフルオロ−ゴールド(FG)の同時適用により評価される。運動軸索の再生は、3週においてはランダムであるが、筋肉に対する適正な投射の数は、その後において劇的に増加する。多くの神経は、最初に両方のトレーサーを含み、それにより皮枝および筋枝の両方に対する側枝を投射する。これらの二重標識された神経の数は時間と共に減少する。従って、運動軸索側枝は、皮枝から除かれ、二重標識された神経を犠牲にして、筋肉に対する適正な投射の数が増加する。従って、再生する運動軸索と筋肉および/または本発明者らがPreferential Motor Reinnervation(PMR)と名付けた筋肉神経との間で特異的な相互作用が生じる。
【0102】
(MNTFポンプ実験)
予備実験において、本発明者らは、少なくとも2週間排出するAlzet浸透圧ポンプを用いて、修復部位上にMNTF 33マーを10−4Mでポンピングすることによって、大腿神経中の運動軸索再生を改変することを試みた。ポンプの出口は、修復する神経に隣接した筋肉に縫い付けられ、その神経創傷は、継続的にこの因子をあびた。遠位の大腿の皮枝および筋枝の再神経支配を、上に記載されたようなトレーサーを用いて定量した。
【0103】
これらの予備実験のためのコントロールは、再生の3週間後に、慣用的な縫合および評価を受けた10個の神経の群であった。平均92個の運動ニューロンが、3週において、筋肉に対して適正に投射したが、一方で、多数(平均117)は、皮膚に対して不適切に投射した。しかし、3匹の動物におけるMNTF 33マー処置は、適正な投射の数を二倍以上(平均=210)にした一方、皮膚への不適切な投射の数を劇的に減少させた(平均=31)。これらの違いは、試験した動物の数が少ないにもかかわらず、非常に顕著であった。
【0104】
追跡実験において、MNTF 33マーを、本質的に上に記載のように、8個の切断し、縫合したラット大腿神経に対して、10−4Mで投与した。コントロールは、慣用的な縫合を受け、MNTFでなく生理的食塩水を送達するポンプを用いた6個の神経の群であった。6つのコントロールにおいて、平均100個の運動ニューロンは、適正に投射した一方、平均87個の運動ニューロンは、皮膚に対して不適切に投射した。MNTF処置は、適正な投射の顕著な増加(平均=173)および皮膚への不適切な投射の数の著しい減少(平均=59)という結果を再度もたらした。
【0105】
短縮MNTFペプチドを、MNTF 33マーと置換し得るかを決定するために、本質的に上に記載のとおり、10−4M(n=8)、10−5M(n=8)および10−6M(n=8)でMNTF 6マーFSRYARを用いて、比較のための合計22個の生理的食塩水コントロールと共に、その後の実験を実施した。図5に示すように、FSRYARペプチド(配列番号2)を用いた処置は、試験したすべての用量において、適正な投射の顕著な増加、ならびに皮膚への不適切な投射の数の著しい減少という結果となった。生理的食塩水のコントロールについて、適正に筋肉に対して投射した細胞の平均数は85個であり、皮膚に対する不適当な投射の平均数は85であり、そして二重標識された神経は、平均で約41個であった。最適用量のMNTF 6マー(10−4M)において、適正な投射の平均数は125個まで増加し、不適切な投射の平均数は46個まで減少し、そして二重標識した神経の平均数は23個まで減少した。従って、6マーは、MNTF1 33マーと類似した様式で、標的筋肉の選択的な再神経支配を促進することが可能である。
【0106】
これらの結果は、MNTF 33マー、およびMNTF 6マーペプチドであるFSRYAR(配列番号2)を用いた、ラット大腿神経モデルにおける再生の劇的な刺激を実証する。本発明者らは、この顕著な効果を示す他のモデルからのデータを知らない。ほとんどの操作は、せいぜい20〜30%の変化という結果であるが、一方、これらの結果は、36%〜100%を超える変化を示す。このような劇的な結果は、MNTFおよびそのペプチドアナログが、現在利用可能な末梢神経再生の最も強力な刺激因子の1つであることを示唆する。
【0107】
(実施例4−抗MNTFペプチド抗体の生成および免疫アッセイにおけるそれらの使用)
MNTF 33マーおよびMNTF 6マーであるFSRYARに対するウサギポリクローナル抗体を、標準的生成プロトコルに従い、Harlan Bioproducts for Sciences、Inc(Indianapolis)によって生成した。このプロトコルは、ウサギへの接種の前に、MNTFペプチドとKLHとを結合する工程を含んだ。より多くのMNTFペプチドを、定期的な試験採血において、ELISAのためにOVAと結合させ、生成物の採取の前に、高い抗体力価を確認した。次いで、このポリクローナル抗体を、IgG精製およびアフィニティ精製によって精製した。
【0108】
MNTF競合性ELISAプロトコルは、Genetel Laboratories、LLC(Madison,WI)によって開発された。これは、MNTFペプチドの検出および測定のためのものであり、例えば、精製した抗MNTF 6マーを用いて、未標識のMNTFペプチド(例えば、6マーまたは10マー)が、抗体結合についてビオチン化対応部分と競合する能力を検出する。
【0109】
さらに、MNTFサンドイッチELISAプロトコルが開発され、抗MNTF 6マー抗体を用いて、6マーエピトープを含む、より大きいMNTFペプチド(例えば、21マーおよび33マー)を固定化した。このペプチドを、続いて、ビオチン化抗MNTF 33マー抗体を用いて検出した。
【0110】
本発明は、それらの特定の好ましいバージョンへの参照と共にかなり詳細に記載されているが、他のバージョンが可能である。本発明は、さらなる改変が可能であり、そして本適用は、本発明のあらゆる変数、使用、または採用(本発明が属する分野内の公知の習慣または慣行の範囲内で生じるような、本開示からの逸脱を含む)を対象とすることが意図される。従って、本発明の精神および範囲は、本明細書に含まれる好ましいバージョンの記載に限定されるべきではない。
【0111】
本明細書中に記載される全ての刊行物は、あたかも個々の刊行物の各々が、特別かつ個別に参考として援用されることが示唆されるのと同程度に出典明示により本明細書に取り込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
6個〜32個のアミノ酸の長さの運動神経栄養因子ペプチドアナログであって、該ペプチドアナログが:
(a)配列番号2;および
(b)配列番号3
からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み、ここで、該ペプチドアナログが、運動ニューロンの生存能力を高める、ペプチドアナログ。
【請求項2】
請求項1に記載の運動神経栄養因子ペプチドアナログであって、ここで、該ペプチドの前記アミノ酸配列が、配列番号1の連続する9〜32アミノ酸残基と少なくとも70%同一である、ペプチドアナログ。
【請求項3】
請求項1に記載の運動神経栄養因子ペプチドアナログであって、ここで、該ペプチドの前記アミノ酸配列が、配列番号1の連続する8〜32アミノ酸残基と少なくとも80%同一である、ペプチドアナログ。
【請求項4】
請求項1に記載の運動神経栄養因子ペプチドアナログであって、ここで、該ペプチドの前記アミノ酸配列が、配列番号1の連続する7〜32アミノ酸残基と少なくとも90%同一である、ペプチドアナログ。
【請求項5】
配列番号1の連続する7〜32アミノ酸残基に、一つ以上の保存性のアミノ酸置換を含む、請求項4に記載の運動神経栄養因子ペプチドアナログ。
【請求項6】
請求項1に記載の運動神経栄養因子ペプチドアナログであって、該ペプチドが、配列番号1の連続する6〜32アミノ酸残基のフラグメントを含む、ペプチドアナログ。
【請求項7】
請求項1に記載の運動神経栄養因子ペプチドアナログであって、該ペプチドアナログが;
(a)配列番号2、
(b)配列番号3、
(c)配列番号4、
(d)配列番号5、
(e)配列番号6、および
(f)配列番号7
からなる群より選択される、ペプチドアナログ。
【請求項8】
結合体であって、該結合体が:
(a)配列番号2および配列番号3からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、6個〜32個のアミノ酸の長さの運動神経栄養因子ペプチド;ならびに
(b)該運動神経栄養因子ペプチドに連結された固体粒子、キャリアタンパク質もしくは標識
を含む、結合体。
【請求項9】
融合タンパク質であって、該融合タンパク質が:
(a)配列番号2および配列番号3からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、6個〜32個のアミノ酸の長さの運動神経栄養因子ペプチド;ならびに
(b)該運動神経栄養因子ペプチドに融合された異種タンパク質
を含む、融合タンパク質。
【請求項10】
請求項1に記載のペプチドアナログと、キャリアとを含有する、組成物。
【請求項11】
運動ニューロンの生存能力および軸索の再生成を選択的に促進するための組成物であって、該組成物が、有効量の請求項1に記載のペプチドアナログと、薬学的に受容可能なキャリアとを含有する、組成物。
【請求項12】
標的の筋の再神経支配における使用のための組成物であって、該組成物が、有効量の請求項1に記載のペプチドアナログと、薬学的に受容可能なキャリアとを含有する、組成物。
【請求項13】
末梢神経傷害の処置における使用のための組成物であって、該組成物が、有効量の請求項1に記載のペプチドアナログと、薬学的に受容可能なキャリアとを含有する、組成物。
【請求項14】
神経変性疾患の処置における使用のための組成物であって、該組成物が、有効量の請求項1に記載のペプチドアナログと、薬学的に受容可能なキャリアとを含有する、組成物。
【請求項15】
創傷治癒における使用のための組成物であって、該組成物が、有効量の請求項1に記載のペプチドアナログと、薬学的に受容可能なキャリアとを含有する、組成物。
【請求項16】
前記有効量が、瘢痕組織の形成を減ずるために十分な量である、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記有効量が、炎症細胞の増殖および浸潤を減ずるために十分な量である、請求項15に記載の組成物。
【請求項18】
運動ニューロンの生存能力および軸索再生を選択的に促進するための方法であって、該方法が、インビボもしくはインビトロで、神経細胞に有効量の請求項1に記載のペプチドアナログを投与する工程を包含する、方法。
【請求項19】
損傷を受けた運動ニューロンおよび連結されているシュワン細胞のアポトーシスを減ずる方法であって、該方法が、創傷の部位に請求項1に記載のペプチドアナログを投与する工程を包含する、方法。
【請求項20】
線維芽細胞、マクロファージおよびリンパ球からなる群より選択される非神経細胞の増殖、生存能力もしくは移動を阻害する方法であって、該方法が、創傷の部位に有効量の請求項1に記載のペプチドアナログを投与する工程を包含する、方法。
【請求項21】
脊髄創傷を処置する方法であって、該方法が、該神経創傷に対する神経移植片部位に、有効量の請求項1に記載の運動神経栄養因子ペプチドアナログを投与する工程を包含する、方法。
【請求項22】
罹患している運動ニューロンと結合する筋が変性する、神経筋変性疾患を処置する方法であって、該方法が、影響を受けている部位に、有効量の請求項1に記載の運動神経栄養因子ペプチドアナログを投与する工程を包含する、方法。
【請求項23】
変性から運動ニューロンを防御する方法であって、該方法が、末梢神経傷害の部位に、有効量の請求項1に記載の運動神経栄養因子ペプチドアナログを投与する工程を包含する、方法。
【請求項24】
末梢神経障害および末梢神経障害性疼痛を軽減する方法であって、該方法が、神経障害性疼痛の部位に、請求項1に記載の運動神経栄養因子ペプチドアナログを投与する工程を包含する、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−42659(P2011−42659A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−215438(P2010−215438)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【分割の表示】特願2006−501057(P2006−501057)の分割
【原出願日】平成16年1月21日(2004.1.21)
【出願人】(302062403)ジェナボン バイオファーマシューティカルズ エルエルシー (6)
【Fターム(参考)】