MOS−1トランスポゾンの高活性組換え誘導体の転移のためのシステム
本発明は、Mos−1トランスポゾンの高活性組換え誘導体の転移のためのシステムであって、少なくとも以下の2つのパートナー:a)目的外来塩基配列が本来のMos−1トランスポゼースをコードする塩基配列を置換してなるMos−1シュードトランスポゾン、および、b)上記シュードトランスポゾンにイン・トランスで提供されるMos−1トランスポゼースを含んでなり、前記パートナーの少なくとも1つが上記目的外来塩基配列の転移頻度を向上させるように適切に遺伝的に改変されているシステムに関する。このようなシステムに加え、本発明は、高活性Mos−1トランスポゾン、高活性Mos−1トランスポゼース、キットに関する。本発明はさらに、配列の転移、より具体的には効率的な遺伝子導入を行うための、1つまたは2つ以上の上記手段の使用に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転移因子と関連した分子生物学の分野に関する。より具体的には、本発明は、バイオテクノロジーにおけるその利用目的のため、マリナー可動遺伝因子(mariner mobile genetic elements)由来の天然転移システムの特性を強化することに関する。
【0002】
本発明は、Mos−1トランスポゾンの高活性組換え誘導体の転移のためのシステムであって、少なくとも以下の2つのパートナー:
a)目的外来塩基配列が本来のMos−1トランスポゼースをコードする塩基配列を置換している、Mos−1シュードトランスポゾン(pseudo-transposon)、および
b)前記シュードトランスポゾンにイン・トランス(in trans)で提供されるMos−1トランスポゼース
を含んでなり、前記パートナーの少なくとも1つが前記目的外来塩基配列の転移頻度を向上させるように適切に遺伝的に改変されているシステムに関する。
【0003】
このようなシステムに加え、本発明は高活性Mos−1トランスポゾン、高活性Mos−1トランスポゼース、キットに関する。
【0004】
本発明はさらに、配列の転移、およびより具体的には効率的な遺伝子導入を行うための、1つまたは2つ以上の上記手段の使用に関する。
【0005】
転移因子(TE)または可動遺伝因子(MGE)は、ある染色体部位から他の部位へ移動しうる短いDNA断片である(Renault et al., 1997)。該DNA断片は5’および3’末端部位に位置する逆方向反復配列(ITR)によって特徴付けられる。TE自身によりコードされる酵素であるトランスポゼースは、その転移プロセスを触媒する。
【0006】
TEは原核生物および真核生物の両者において同定されている(この分野の参考文献を参照のこと:Craig et al., 2002)。
【0007】
TEはその転移機構により2種類に分けられる。第1に、クラスIエレメント、すなわちレトロトランスポゾンは、RNA中間体の逆転写を介して転移する。第2に、クラスIIエレメントは、DNA中間体を介してある染色体部位から他の部位へ「カットアンドペースト」型の機構により直接転移する。
【0008】
原核生物においては、これまでに数多くのTEが報告されてきた。それらの中には、例えばIS1等の挿入配列、およびTn5等のトランスポゾンが含まれる。
【0009】
真核生物においては、クラスIIエレメントは2つのファミリーを含んでなる:P、PiggyBac、hAT、ヘリトロン(helitron)、Harbinger、En/Spm、ミューテーター(Mutator)、Transib、PogoおよびTc1−マリナー。
【0010】
マリナー可動遺伝因子(またはマリナー様エレメント、MLE)はクラスIIのTEの主要なグループを形成しており、Tc−1マリナースーパーファミリーに属している(Plasterk et al., 1999)。
【0011】
標的核酸、具体的には宿主の染色体中の標的核酸に挿入するために、目的の配列を含んでなる、多かれ少なかれ長く、相同または非相同なDNA断片を可動化するTEトランスポゼースの能力は、これまでに、および現在でも、バイオテクノロジーの分野、特に遺伝子工学の分野において広く利用されている。
【0012】
TEの中でも、MLEはバイオテクノロジー、特に遺伝子工学および機能ゲノミクスにおける利用に対して特に有利な特性を示す。例えば、限定されない態様において、以下の特性を挙げることができる:
(i)MLEは短く扱いやすいトランスポゾンである。
(ii)MLEの転移機構は単純である。事実上、トランスポゼースは単独でMLE転移の全工程を触媒することができる。さらに、これは宿主因子の非存在下でMLEの可動性を保証するのに必要かつ十分である(Lampe et al., 1996)。
(iii)MLEは原核生物および真核生物における極めて広範な遍在性により特徴付けられる。Mos−1とも呼ばれる最初のMLEであるDmmar1は、JacobsonおよびHartl (1985)によりDrosphila mauritianaにおいて発見された。続いて、多数の関連するエレメントが、特にバクテリア、原生動物、菌類、植物、無脊椎動物、変温脊椎動物および哺乳類に属するゲノムにおいて同定された。
(iv)MLEの転移活性は高度に特異的であり、メチル化干渉現象(methylation interference phenomena)[MIP;Jeong et al. (2002); Martienssen and Colot (2001)]のような、またはRNA[RNAi;Ketting et al. (1999); Tabara et al. (1999) ]による、宿主ゲノムの「耐性」機構を誘発しない。転移事象は温度、特定の2価陽イオンの存在およびpH等の各種要因により制御されうる。
【0013】
構造的には、マリナーMos−1エレメントは354アミノ酸のトランスポゼースをコードする単一のオープンリーディングフレーム(ORF)を含む、コンパクトな1286bpのエレメントである。該トランスポゼースは、DNAとの結合、2量体形成および4量体形成に関わるN末端ドメインと、DDE(D)パターンが触媒金属イオンに配位する活性部位を含むC末端ドメインとからなる。リーディングフレームには28±2bpの2つの逆方向末端配列(ITR)が隣接する。ITRとORFとの間に位置する2つの領域は翻訳されず、UTR(「非翻訳末端領域」)と呼ばれる。Mos−1の2つのITRは4個のヌクレオチドで配列が相違しており、これは本エレメントの天然の構造が転移に対して最適ではないことを示している。さらにこれは、Mos−1の3’側のITRが2つ隣接したシュードトランスポゾンでは、天然の構造であって5’側および3’側のITRが隣接したものよりも、イン・ビボでバクテリアにて10,000倍良好に転移することを示す実験によって確認されている(Auge-Gouillou et al., 2001b)。
【0014】
バイオテクノロジー、特に非ウイルスの遺伝子組み換えツールにおけるMLEの潜在的用途は注目に値する。
【0015】
典型的には、イン・ビトロでの挿入突然変異の用途においては、トランスポゼースをコードするトランスポゾンの遺伝子が、「標識された」DNAに置き換えられる。トランスポゼースはイン・トランスでタンパク質の形態で提供される。イン・ビボまたはイン・ビトロでの遺伝子導入用途においては、トランスポゼースをコードする遺伝子は導入されるべき外来DNAに置き換えられる(このようにして「シュードトランスポゾン」が得られる)。この場合、トランスポゼースはイン・トランスで発現プラスミド、メッセンジャーRNAまたはタンパク質そのものを介して供給される。しかし、現存の手段を用いた、すなわちマリナーシュードトランスポゾンを用いた外来DNAの導入には困難が伴い、特にこれは導入遺伝子の組み込み効率および特異性が極めて限定的であることによるものである。
【0016】
しかし、これら用途のそれぞれにおいては効率的な転移システムを有することが不可欠である。
【0017】
しかし、天然MLEの転移効率は他のTEと比べて低いままである。特に、MLEは他のクラスII MGEよりも真核生物において活性が低いと思われる。製造業者または研究者にとっては必要な転移を行うのに要する手順の数、費用および時間を減らすような効率的な転移ツールを有することが重要であるため、今日まで天然MLEに対する実際的な関心は非常に限られたものであった。利用可能な転移システムでは十分な効率が得られず、MLEトランスポゾンを用いて構築された組換え転移システムには不利益に鑑み、製造業者または研究者は現在のところ可能な限りウイルスによる遺伝子導入システムをその欠点にも関わらず利用することを優先する傾向がある。
【0018】
従って、現在、(i)遺伝子を効率的に導入することができ、(ii)宿主に対する免疫原性において十分な安全性を示し、(iii)宿主および環境の安全性を保証し(コンタミネーション、特に組換えウイルスの発生が起こらないこと)、(iV)作成が容易である、システムが必要とされている。
【0019】
本発明は、具体的には、Mos−1エレメントの利点(遍在性、転移活性、作成および使用の容易さ等)を利用し、同時に野生型の状態の該エレメントの低い転移効率と関連する欠点を改善した組換え転移システムを提供することにより、この要求を満たすことを可能にする。
【0020】
このように、現存する要求を十分な方法で満たすため、本発明者らは、ファミリー内で特に特徴が明らかになっているメンバーであり、唯一天然で活性のある、Drosophila mauritianaのMos−1 MLEエレメントに着目した。さらに、該Mos−1エレメントは真核細胞およびバクテリアの両者において活性があるという注目すべき利点を示しており、従って、効率的で遍在性の転移システムの開発におけるその重要性は明らかである。
【0021】
以下の詳細に記載される本発明の各種態様から明らかになるように、本発明者らは天然のMos−1転移システムを改善するいくつかのツールを提供する。これらのツールは単独で、または予想される用途に応じて組み合わせて用いてもよく、
i)高活性変異型Mos−1トランスポゼース、
ii)高活性組換えMos−1シュードトランスポゾン
を含んでなる。
【0022】
ここで、「シュードトランスポゾン」とは、トランスポゼースをコードする遺伝子が外来の塩基配列により置換されたトランスポゾンと定義される。従って、シュードトランスポゾンはITRおよびUTR末端を含んでなるがトランスポゼース活性を欠く。その結果、これには外部のトランスポゼースを伴わない限り転移の能力が無い。
【0023】
このように、本発明者らは、Mos−1トランスポゾンの高活性組換え誘導体の転移のためのシステムであって、少なくとも以下の2つのパートナー:
a)目的外来塩基配列が本来のMos−1トランスポゼースをコードする塩基配列を置換しているMos−1シュードトランスポゾン、および
b)上記シュードトランスポゾンにイン・トランスで提供されるMos−1トランスポゼース
を含んでなり、上記パートナーの少なくとも1つが目的外来塩基配列の転移頻度を少なくとも5に等しい倍率、好ましくは少なくとも10に等しい倍率で向上させるように適切に遺伝的に改変されているシステムに着目した。
【0024】
提供された組換え転移システムにおいて、2つのパートナー、すなわちシュードトランスポゾンおよびトランスポゼースは、遺伝的に改変されてもよい。このように、これらパートナーのどちらか、または両パートナーは、遺伝的に改変され、高活性であってもよい。
【0025】
本発明の「塩基配列」または「核酸」は、生物学分野における通常の意味に従ったものである。これら2つの表現はDNAまたはRNAのどちらも包含し、前者は例えばゲノムDNA、プラスミドDNA、組換えDNA、相補的DNA(cDNA);後者はメッセンジャーRNA(mRNA)、リボソームRNA(rRNA)、トランスファーRNA(tRNA)でありうる。好ましくは、本発明の塩基配列および核酸はDNAである。
【0026】
「活性」「機能」「生物活性」および「生物学的機能」という語および表現は同等であり、本発明の技術分野における通常の意味に従ったものである。本発明の範囲内において、問題となる活性は転移活性である。
【0027】
ここで、「高活性」とは、
a)目的外来塩基配列が本来のMos−1トランスポゼースをコードする塩基配列を置換しているMos−1シュードトランスポゾン、および
b)前記シュードトランスポゾンにイン・トランスで提供される野生型のMos−1トランスポゼース
を含んでなる天然のMos−1転移システムを用いて観察されるものよりも高い活性に相当する。
【0028】
さらに、本発明の「高活性」とは、
a)Mos−1シュードトランスポゾンであって、
(i)目的外来塩基配列が本来のMos−1トランスポゼースをコードする塩基配列を置換しており、
(ii)野生型の5’側に位置する逆方向末端反復配列(ITR 5’)が、3’側に位置する野生型の逆方向末端反復配列(ITR 3’)の完全なコピーであるように変異しているもの、および
b)上記シュードトランスポゾンにイン・トランスで提供される野生型のMos−1トランスポゼース
を含んでなる組換えMos−1を転移させるためのシステムを用いて観察されるものよりも高い転移活性を意味する。
【0029】
従って、前記シュードトランスポゾンは2つのITR 3’に境される(「シュードトランスポゾン 2 ITR 3’」または「シュードトランスポゾン3T3」)。ITR 3’の存在は天然のMos−1トランスポゾンに対して転移効率を向上させうることが既に報告されており(Auge-Gouillou et al., 2001b)、そのため、ある組換え転移システムが本発明による「高活性」であるかどうかを決定するための基準として、上記の組換えシステムがここで用いられる。以下、上記の基準組換えシステムを「基準(転移)システム」または「3T3(転移)システム」という。
【0030】
「転移効率」は転移頻度に従って決定される。転移効率は従って転移頻度が増加すると向上する。以下、「(転移)活性の向上」「転移の向上」または「(転移)効率の向上」という語は互換的に用いられ、これら全ての表現が「転移頻度の向上」、すなわちその増加を表す。
【0031】
「高活性」を定量するために、「倍率」又は「高活性倍率」がここでは用いられ、それは次の式に従った転移頻度の割合に等しい:
【0032】
高活性倍率(F)=(任意の組換え転移システムで観察された転移頻度)/(上記定義された3T3基準転移システムで観察された転移頻度)。
【0033】
すなわち、イン・トランスで提供されたMos−1トランスポゼースの存在下における、Mos−1シュードトランスポゾンに含まれる外来塩基配列の転移頻度と、イン・トランスで提供されたMos−1トランスポゼースの存在下における、基準Mos−1シュードトランスポゾンに含まれる場合の上記外来塩基配列の転移頻度(3T3システム)とが比較される。この転移活性の評価方法はこの分野における最も一般的な実践の一つである。
【0034】
本発明の範囲の目的とする組換え転移システムは、従って、転移を少なくとも5に等しい倍率で向上させうる。好ましくは、高活性倍率は少なくとも10に等しく、また好ましくは、それは少なくとも15に等しい。さらに好ましくは、それは少なくとも20、25、30、35、40、45、55、60およびそれ以上に等しい。
【0035】
以下の実施例から明らかになるように、シュードトランスポゾンおよび/またはトランスポゼースの遺伝的改変は、転移の高活性を誘導するその能力のために特異的に選択される。トランスポゼースおよび/またはシュードトランスポゾンおよび/または転移システムを高活性にする変異および組み合わせまたは変異はランダムでも予測可能でもない。適した変異の選択のため、本発明者らは当該分野において周知の転移試験を用いた。この試験は既に文献に(具体的にはAuge-Gouillou et al., 2001bにおいて)開示されており、所望により任意の他の好適な試験を適宜用いうる当業者の一般的な知識に属する。
【0036】
本発明の第1の態様は、Mos−1トランスポゾンの高活性組換え誘導体を転移させるためのシステムに関するものであり、該システムは少なくとも1つのMos−1シュードトランスポゾンと、イン・トランスで提供される1つのMos−1トランスポゼースとを含んでなる。
【0037】
第1の態様によれば、Mos−1トランスポゾンの高活性組換え誘導体を転移させるためのシステムは以下の2つのパートナー:
a)高活性Mos−1シュードトランスポゾンであって、
i)2つの非翻訳末端反復配列(UTR)のうちの少なくとも1つおよび/または2つの逆方向末端反復配列(ITR)のうちの少なくとも1つが遺伝的に改変されており、かつ
ii)目的外来塩基配列が本来のMos−1トランスポゼースをコードする塩基配列を置換しているものであり、
上記シュードトランスポゾンが、以下のシュードトランスポゾン:
α)ITR3’−UTR3’−目的外来塩基配列−UTR3’−ITR3’(シュードトランスポゾン33seq33)、
β)ITR3’−目的外来塩基配列−UTR3’−ITR3’(シュードトランスポゾン3seq33)、
γ)ITR3’−UTR5’−目的外来塩基配列−UTR3’−ITR5’(シュードトランスポゾン35seq35)、
δ)配列番号39の配列を有する少なくとも1つのITR40を含んでなるシュードトランスポゾン、および
ε)配列番号38の配列を有する少なくとも1つのITR46を含んでなるシュードトランスポゾン
から選択される、シュードトランスポゾン、
b)上記シュードトランスポゾンにイン・トランスで提供されるMos−1トランスポゼース
を含んでなり、上記システムの目的外来塩基配列の転移頻度が少なくとも5に等しい倍率、好ましくは少なくとも10に等しい倍率で向上する。
【0038】
本発明の範囲において、シュードトランスポゾンは次のように記載される:ITR−UTR−目的外来塩基配列−UTR−ITR。ITR3’−UTR3’−目的外来塩基配列−UTR3’−ITR3’という具体例の場合、33seq33または33T33という省略形となる。より具体的には、33T33という用語は、目的外来塩基配列がテトラサイクリン耐性遺伝子であるシュードトランスポゾンを指してもよい(具体的には下記実施例を参照)。必然的に、これは文脈から明瞭に明らかになるであろう。
【0039】
上記された通り、前記システムにおいてイン・トランスで提供されるMos−1トランスポゼースは、変異型Mos−1トランスポゼース、特に高活性変異型Mos−1トランスポゼースであってよい。例えば、好適な高活性変異型Mos−1トランスポゼースは、配列番号2の配列の以下の残基:F53、Q91、E137、T126およびY237から選択される少なくとも1つの残基における少なくとも1つの変異を含んでなる。
【0040】
ここで、本発明の好ましい転移システムは少なくとも2つの以下のパートナーを含んでなる:
a)配列番号39の配列を有する少なくとも1つのITR40を含んでなる高活性Mos−1シュードトランスポゾン、ならびに変異T216AおよびY237Cを含んでなる高活性変異型Mos−1トランスポゼース、
b)配列番号38の配列を有する少なくとも1つのITR46を含んでなる高活性Mos−1シュードトランスポゾン、ならびに変異T216AおよびY237C、または、E137KおよびT216A、または、F53YおよびT216AおよびY237Cを含んでなる高活性変異型Mos−1トランスポゼース、
c)高活性Mos−1シュードトランスポゾン3seq33、ならびに変異T216AおよびY237C、または、E137KおよびT216A、または、F53YおよびQ91R、または、F53YおよびQ91RおよびE137KおよびT216Aを含んでなる高活性変異型Mos−1トランスポゼース。
【0041】
第2の態様によれば、本発明の高活性組換え体を転移させるためのシステムは少なくとも2つの次のパートナー:
a)目的外来塩基配列が本来のMos−1トランスポゼースをコードする塩基配列を置換しているMos−1シュードトランスポゾン、および、
b)前記シュードトランスポゾンにイン・トランスで提供され、少なくとも:
配列番号2の配列における以下の残基:F53、Q91およびY237から選択される少なくとも1つの残基における1つの変異、および/または
変異T216A
を含んでなる高活性Mos−1トランスポゼース
を含んでなり、上記システムの目的外来塩基配列の転移頻度が少なくとも5に等しい倍率、好ましくは少なくとも10に等しい倍率で向上するものである。
【0042】
好ましくは、高活性Mos−1トランスポゼースは、変異F53Y、Q91R、T216A、Y237C、およびこれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの変異を含んでなる。さらに、残基E137において変異、具体的には変異E137Kを含んでいてもよいが、変異Q91R+E137K+T216AまたはF53Y+E137K+T216Aの組み合わせは除外される。
【0043】
有利には、このようなシステムにおいて、Mos−1シュードトランスポゾンの2つの非翻訳末端反復配列(UTR)のうち少なくとも1つ、および/または2つの逆方向末端反復配列(ITR)のうち少なくとも1つは遺伝的に改変されていてもよい。
【0044】
本発明の転移システムにおいて、野生型または遺伝的に改変されたMos−1トランスポゼースはイン・トランスでシュードトランスポゾンに提供される。この方法では、それは、発現調節エレメントの制御下で、ベクター上に配置された塩基配列にコードされてもよい。その結果、有利には、トランスポゼースの発現が誘導可能となる。このために、当業者は従来のプロモーターを用いることができる。例えば、周知のIPTG誘導性プロモーターpLacを用いてもよい。または、トランスポゼースはタンパク質または精製された機能性タンパク質画分の形態で転移システムに添加されてもよい。また、これはメッセンジャーRNAの形態で供給されてもよい。この場合、トランスポゼースの発現はメッセンジャーRNAの不安定性のため時間的に制限(数時間まで)がある。
【0045】
特に有利には、Mos−1シュードトランスポゾンに含まれる目的外来塩基配列は機能遺伝子である。本発明によれば、遺伝子は、対応する塩基配列が、オープンリーディングフレーム(ORF)、すなわち、野生型遺伝子産物の活性を示すアミノ酸配列を産生しうるコード配列を少なくとも含んでなる場合に「機能」的であるという。好ましくは、機能遺伝子は野生型遺伝子である。それにも関わらず、これは、変異遺伝子の産物が活性を維持していれば(該変異遺伝子の産物の活性が天然の遺伝子産物のものよりも低かったとしても)、1つまたは2つ以上の変異を含んでなる遺伝子からなっていてもよい。ここで「機能遺伝子」の定義は、それに対するプロモーターを欠いたコード配列も包含する。例えば、目的外来塩基配列は、それに対するプロモーターを欠く、もしくは欠いていない、抗生物質耐性遺伝子(例えばテトラサイクリン耐性遺伝子)または他の任意の適した選択マーカーであってよい。
【0046】
本発明によれば、「変異」とはバイオテクノロジーにおける通常の意味に従ったものである。ここで、変異は塩基配列中の1つもしくは2つ以上の塩基の、またはタンパク質配列中の1つもしくは2つ以上のアミノ酸の、置換、挿入または欠失でありうる。「変異」は特に塩基配列のコドンの少なくとも1つの塩基の置換を意味してもよく、該置換は例えば問題の塩基配列の翻訳の際に、結果として生ずるタンパク質配列中に天然のアミノ酸とは異なったアミノ酸の組み込みを誘導することを包含する。原則として、変異は変異産物の生物学的機能の喪失を誘発しないものであることが好ましい。一方、活性の低下については、変異エレメント(例えばシュードトランスポゾンおよび/またはトランスポゼース)が「高活性」(活性が対応する野生型エレメントよりも高くあるべき場合)でない限りは許容されうる。
【0047】
ここで、トランスポゼースが「高活性」であるとみなされ、またはシュードトランスポゾンが「高活性」であるとみなされるのは、これらを用いた際に観察される転移効率が上昇する場合である。問題のエレメント(シュードトランスポゾンまたはトランスポゼース)の活性の上昇は、本発明の組換え体を転移させるためのシステムにおいてそれらが用いられる際に測定される。高活性倍率がこのように測定され、得られた転移活性の水準が本発明の範囲で定義された基準値に達した場合にそのエレメントが「高活性」であると称される。
【0048】
原則的に「遺伝的改変」はこの場合1つまたは2つ以上の変異に相当すると理解されるべきである。コード配列が遺伝的に改変される場合、典型的には、そこに1つまたは2つ以上の変異が含まれる。しかし、これらの変異はコードされた産物の機能の喪失をもたらさないものである必要がある。一方、例えば遺伝的に改変されたMos−1トランスポゼースの場合、好ましくは、その活性の上昇(すなわち、高活性組換えトランスポゼース)が必要である。非コード配列(例えばITRまたはUTR)が遺伝的に改変される場合、1つまたは2つ以上の変異が含まれるか;または、個々の配列それ自体は改変されないが、この配列の反復数および/または配列のつながりにおける順番および/または前記配列の他の配列に対する向きが通常の構造に対して(例えば野生型Mos−1トランスポゾンに対して)改変されるか;のいずれかである。ITRまたはUTR等の非コード配列の遺伝的改変の例としては、特に、該配列の全体または一部の欠失、その環境中に存在する他の配列による置換等が挙げられる。つまり、配列の配置が異なることは、それらがコード配列であるか否かに関わらず、本発明の「遺伝的改変」の定義に含まれる。
【0049】
上記記載に従い、本発明の組換え体を転移させるためのシステムにおいて、Mos−1シュードトランスポゾンの2つの非翻訳末端反復配列(UTR)のうちの少なくとも1つおよび/または2つの逆方向末端反復配列(ITR)のうちの少なくとも1つが遺伝的に改変されている高活性Mos−1シュードトランスポゾンを用いることが可能である。
【0050】
好ましくは、シュードトランスポゾン 2 ITR 3’は、本発明の範囲で用いられる対象のMos−1トランスポゾンから除外される。先に明記したとおり、このシュードトランスポゾンは本発明の転移システムの高活性を測定するための基準として用いられる。
【0051】
一部の例では、高活性Mos−1シュードトランスポゾンの2つの非翻訳末端反復配列(UTR)のうちの少なくとも1つは遺伝的に改変されている。代わりに、またはそれに加えて、該高活性Mos−1シュードトランスポゾンの2つの逆方向末端反復配列(ITR)のうちの少なくとも1つは遺伝的に改変されている。
【0052】
上記に従い、そして、以下の実施例に例証されるように、高活性組換えMos−1シュードトランスポゾンの遺伝的に改変されたITRは、ITR40(配列番号39)およびITR46(配列番号38)と称されるITRSelex配列から有利に選択されうる。
【0053】
または、高活性組換えMos−1シュードトランスポゾンは特に以下の組み合わせから選択されるITRおよびUTRの組み合わせを含んでなっていてもよい:ITR 3’ + UTR 3’ / UTR 3’ + ITR 3’(33T33または33seq33という)、ITR 3’ / UTR 3’ + ITR 3’(3T33または3seq33という)。
【0054】
一部の態様においては、組換え体を転移させるためのシステムにおいてイン・トランスで提供されるMos−1トランスポゼースは、配列番号2の配列の以下の残基:F53、Q91、E137、T126およびY237から選択される少なくとも1つの残基における少なくとも1つの変異を含んでなるが、変異Q91R+E137K+T216AまたはF53Y+E137K+T216Aの組み合わせは除外される、高活性トランスポゼースである。本発明者らにより行われた実験の結果は、Mos−1トランスポゼースにどのような変異または変異の組み合わせを与えても高活性トランスポゼースを得ることは不可能であるということを示している。特に、今回除外された2つの変異の組み合わせでは転移が起こらなくなることが明らかである(下記の実験セクションを参照のこと)。従って、上記の除外された組み合わせにおいては、変異は拮抗的であると考えられうる。
【0055】
有利には、高活性Mos−1トランスポゼースは、変異F53Y、Q91R、E137K、T216A、Y237C、およびこれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの変異を含んでいてよく、変異Q91R+E137K+T216AまたはF53Y+E137K+T216Aの組み合わせは除外される。
【0056】
好ましくは、高活性Mos−1トランスポゼースは、T216残基における少なくとも1つの変異を含んでいてもよい。より好ましくは、少なくとも変異T216Aを含んでいてもよい。有利には、このような高活性トランスポゼースは、変異F53Y、Q91R、E137K、Y237Cおよびこれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの変異も含んでなっていてよく、変異Q91R+E137K+T216AまたはF53Y+E137K+T216Aの組み合わせは除外される。
【0057】
下記実験部分から明らかなように、特に有利な高活性Mos−1トランスポゼースは、以下の変異の組み合わせのうち少なくとも1つを含んでなる:
T216A+Y237C;F53Y+T216A+Y237C:少なくとも20に等しい高活性倍率;
F53Y+Q91R+E137K+T216A+Y237C:少なくとも30に等しい高活性倍率;
F53Y+E137K+T216A+Y237C:少なくとも45に等しい高活性倍率。
【0058】
別の態様、あるいはさらなる態様によれば、本発明の組換え体を転移させるためのシステムにおいてイン・トランスで供給されるMos−1トランスポゼースは、リン酸化可能な残基における少なくとも1つの変異を含んでなる高活性トランスポゼースであり、該変異は真核細胞(例えば植物、脊椎動物または無脊椎動物細胞)におけるリン酸化部位を抑制するものである。ここでまた、真核細胞において1つまたは2つ以上のリン酸化部位を抑制する、想定される変異は、明らかにタンパク質酵素機能に対し保存的である。好適な高活性変異型トランスポゼースが2003年1月28日付のフランス特許出願第03 00905号に記載されている。具体的には、前記トランスポゼースでは変異したリン酸化可能な残基が、配列番号2の以下の残基から選択される:T11、T24、S28、T42、T88、S99、S104、T135、S147、T154、S170、T181、S200、T216、T255およびS305。好ましくは、高活性トランスポゼースは、リン酸化可能残基T88における少なくとも1つの変異を含んでなる。有利には、リン酸化可能残基T11、T24、S28、T42、S99、S104、T135、S147、T154、S170、T181、S200、T216、T255およびS305における少なくとも1つの変異も含んでなる。具体的には、上記リン酸化可能な残基が、ここで真核細胞における1つまたは2つ以上の非リン酸化可能残基で置換される。
【0059】
原則として、本発明の範囲において、高活性組換え体または野生型Mos−1トランスポゼースは、安定に、原核細胞において有利に産生されうる。この場合、活性(または高活性)Mos−1および安定なトランスポゼースの原核宿主細胞による産生に適した方法は、少なくとも以下の工程を含んでなる:
a)活性トランスポゼースをコードする塩基配列の、発現ベクターへのクローニング、
b)cAMP依存性プロテインキナーゼ(pKa)の活性触媒サブユニットをコードする塩基配列の、発現ベクターへのクローニング;
c)上記発現ベクターによる上記宿主細胞の形質転換;
d)上記宿主細胞による上記塩基配列の発現;および
e)pKaによるリン酸化によって安定化された活性トランスポゼースの入手。
【0060】
または、工程a)およびb)のクローニングは単一の発現ベクターにおいて行われる。
【0061】
興味深いことに、このような方法はトランスポゼース精製工程も含んでなる。
【0062】
上記方法と関連するさらなる詳細については、当業者は2005年11月30日付のフランス特許出願第0512180号を参照してもよい。
【0063】
本発明の第2の態様は、高活性Mos−1シュードトランスポゾンに関するものであり、該高活性Mos−1シュードトランスポゾンは、
a)2つの非翻訳末端反復配列(UTR)のうちの少なくとも1つおよび/または2つの逆方向末端反復配列(ITR)のうち少なくとも1つが遺伝的に改変され、
b)目的外来塩基配列が本来のMos−1トランスポゼースをコードする塩基配列を置換してなり、
上記シュードトランスポゾンは、以下のシュードトランスポゾンから選択される:
α)ITR3’−UTR3’−目的外来塩基配列−UTR3’−ITR3’(シュードトランスポゾン33seq33)、
β)ITR3’−目的外来塩基配列−UTR3’−ITR3’(シュードトランスポゾン3seq33)、
γ)ITR3’−UTR5’−目的外来塩基配列−UTR3’−ITR3’(シュードトランスポゾン35seq35)、
δ)配列番号39の配列を有する、少なくとも1つのITR40を含んでなるシュードトランスポゾン、および
ε)配列番号38の配列を有する、少なくとも1つのITR46を含んでなるシュードトランスポゾン。
【0064】
このようなシュードトランスポゾンは、上記の高活性組換え体を転移させるためのシステムにおいて特に有用である。
【0065】
本発明の第3の態様は、本発明のシュードトランスポゾンを少なくとも1つ含んでなるベクターに関する。
【0066】
第4の態様においては、本発明は、
a)上記の組換え体を転移させるための1つのシステム、または
b)本発明の1つのシュードトランスポゾン、または
c)本発明の1つのベクター、または
d)それらの組み合わせ
を少なくとも含んでなる宿主細胞に関する。
【0067】
このような宿主細胞は原核細胞(例えばバクテリア、特にEscherichia coli)および真核細胞(特に植物、脊椎動物および無脊椎動物細胞)から選択される。
【0068】
本発明の第5の態様は、
a)本発明の1つの転移システム、または
b)本発明の1つのシュードトランスポゾン、または
c)本発明の1つのベクター、または
d)本発明の1つの宿主細胞、または
e)それらの組み合わせ
を少なくとも含んでなるキットに関する。
【0069】
例えば、このようなキットは特に、トランスポゼースに適合する緩衝液、転移反応を停止する「停止」緩衝液、1または2つ以上の対照DNA(反応対照)、反応後のシークエンシングに有用なオリゴヌクレオチド、コンピテントバクテリア、使用説明書等から選択される1つまたは2つ以上のエレメントも含んでいてもよい。
【0070】
第6の態様において、本発明は、上記手段、すなわち少なくとも:
a)1つの転移システム、または
b)1つのシュードトランスポゾン、または
c)1つのベクター、または
d)1つの宿主細胞、または
e)1つのキット、または
f)それらの組み合わせ
のうち少なくとも1つを用いることに関する。
【0071】
1つの態様において、これらの手段のうち少なくとも1つは、目的外来塩基配列の効率的なイン・ビトロまたはイン・ビボ(特に植物宿主細胞)またはエクス・ビボでの転移のために用いられる。
【0072】
他の態様によれば、これら手段のうち少なくとも1つは、目的外来塩基配列の効率的なイン・ビボでの転移を可能にすることを意図した医薬品の製造のために用いられる。
【0073】
または、これら手段のうち少なくとも1つは、目的転移性DNA配列(目的外来塩基配列)のイン・ビトロまたはエクス・ビボによる標的DNA配列内への転移により産生される医薬品の製造のために用いられる。例えば、本発明は、目的転移性DNA配列を標的DNA配列中に(例えばイン・ビトロまたはエクス・ビボで)転移させるすくなくとも1つの工程を含んでなり、該転移が本発明の少なくとも1つの手段により媒介される、医薬品の製造方法を提供する。従って、該医薬品は、転移がイン・ビトロで行われる場合はエクス・ビボで、または転移がイン・ビボで起こる場合はin situで製造されてもよい。
【0074】
本発明の範囲内で提供される手段は、例えば細胞を医薬品タンパク質(すなわち、治療的または予防的関心の対象であるタンパク質、例えばインシュリン、特定の抗体等)を発現するように改変しうるようにするものであってよい。上記手段は、欠損した生体機能を回復させるために細胞を「矯正(correct)」しうるようにするものであってもよい。さらなる態様によれば、これらの手段のうち少なくとも1つは、挿入突然変異のため、または核酸のシークエンシングおよび/もしくはクローニングのために用いられる。
【0075】
これらの用途は、原則的に(特に植物宿主細胞において)イン・ビトロまたはイン・ビボでの転移を利用することを伴うものであり、これは本発明の分野の当業者における一般的な知識の範囲内に含まれる(Ausubel et al., 1994; Craig et al., 2002)。イン・ビボ転移に関して、より具体的には、標的DNA配列は典型的には宿主のゲノムであり、該宿主は真核生物(例えば植物宿主細胞)もしくは原核生物といった生物、または、生物由来の組織、または、生物もしくは組織由来の細胞であってよい。
【0076】
いずれの場合も、本発明の手段が重要であると認められる多くの用途において、当業者に周知の従来の分子生物学的手法が利用される。
【0077】
本発明の第7の態様は、
配列番号2の配列の以下の残基:F53、Q91およびY237、から選択される少なくとも1つの残基における1つの変異、および/または
変異T216
を少なくとも含んでなる、高活性Mos−1トランスポゼースの使用であって、Mos−1シュードトランスポゾンに含まれる目的外来塩基配列の転移頻度を少なくとも5に等しい倍率、好ましくは少なくとも10に等しい倍率で向上し、上記Mos−1シュードトランスポゾンにおいて、上記目的外来塩基配列が本来のMos−1トランスポゼースをコードする塩基配列を置換している、使用に関する
【0078】
このようなトランスポゼースの使用は、具体的には上記の高活性組換え体を転移させるためのシステムにおいて行われる。
【0079】
具体的には、上記高活性Mos−1トランスポゼースは、変異F53Y、Q91R、T216A、Y237C、およびこれらの組み合わせから選択される、少なくとも1つの変異を含んでなる。さらに、残基E137における変異、具体的には変異E137Kを含んでいてもよいが、変異Q91R+E137K+T216AまたはF53Y+E137K+T216Aの組み合わせは除外される。
【0080】
実際には、高活性Mos−1トランスポゼースは一般的に発現調節エレメントの制御下の、ベクター上に配置された塩基配列によりコードされる。トランスポゼースの発現はこのように有利に誘導可能である。
【0081】
上記に従えば、高活性Mos−1トランスポゼースは、好ましくは高活性組換え転移システムに属し、ここで上記Mos−1シュードトランスポゾンにイン・トランスで提供される。具体的には、Mos−1シュードトランスポゾンに含まれる目的外来塩基配列は機能遺伝子である。さらに、Mos−1シュードトランスポゾンの2つの非翻訳末端反復配列(UTR)のうち少なくとも1つ、および/または2つの逆方向末端反復配列(ITR)のうち少なくとも1つは遺伝的に改変されている。実際には、ベクターに含まれるMos−1シュードトランスポゾンを用いるのが有利である。
【0082】
下記の実験部分において、本発明を、実施例および図面を用いて説明するが、これらに限定されない。
【実施例】
【0083】
第I部:高活性変異型Mos−1トランスポゼース(Tnp)
I− 材料および方法
I−A− 用いたベクター
I−A−1− 用いたプラスミドの記載
pGEM−T−Easyベクター(3.1kb)(Promega Charbonnieres France; cat. #A1360)は、PuおよびPrevシークエンシングプライマー(Ausubel et al., 1994)ならびにアンピシリン耐性遺伝子を含んでなる。これは、X−GalおよびIPTGの存在下、LBアンピシリンプレート上に得られたバクテリアのコロニーの青/白スクリーニングを可能にするLacZ遺伝子中に、PCR産物をクローニングするように考案されたものである。これを用いてpGEM−T(Tnp)(Auge-Gouillou et al, 2001)を生じさせた。これはpKK−233−2およびpCS2+ベクターにそれをサブクローニングする前にトランスポゼース突然変異生成のための鋳型として働く。
【0084】
pKK−Tnpベクター(5.6kb)は、IPTG誘導性Placプロモーターによりトランスポゼースの強い発現を可能にする。該プロモーターは調節不可能であり、天然の発現リーク(expression leakage)を示す。pKK−TnPはアンピシリン耐性遺伝子も含んでなる。このプラスミドはpKK−233−2ベクターから得られる(Clontech, Ozyme, Saint Quentin en Yvelines、フランス)。
【0085】
pMalC2x−TnpベクターはpMalC2x(New England Biolabs, Ozyme, Saint Quentin en Yvelines、フランス)から得られ、N末端でMBPタンパク質(マルトース結合タンパク質)と融合したトランスポゼースの発現を可能にする。これはアンピシリン耐性遺伝子を含んでなる。
【0086】
pCS2+−TnpベクターはpCS2+ベクター(Turner DL et al., 1994)から得られ、CMVieプロモーターの調節下で真核細胞においてトランスポゼースの発現を可能にする。このベクターはトランスポゼースをコードするメッセンジャーRNAに相当するイン・ビトロRNAを合成することも可能にする。転写はSP6プロモーターの調節下で行われ、RNAはポリアデニル化されている。
【0087】
pBC 3T3はMos−1マリナー様ドナープラスミドである(Auge-Gouillou et al, 2001)。これは2つのITR3’が隣接する「OFF」(すなわちプロモーターの無い)テトラサイクリン耐性遺伝子を有する。このため、転移したシュードトランスポゾンをプロモーター(「タギング(tagging)」プロモーター)下流に有するバクテリアのみがLBテトラサイクリンプレート上で選択される。該ベクターはクロラムフェニコール耐性遺伝子を含んでなる。
【0088】
pBC3Neo3(図3)はMos−1マリナー様ドナープラスミドである。これは2つのITR3’が隣接するSV40プロモーターの調節下のネオマイシン耐性遺伝子を有する。これは細胞ゲノム中にネオマイシン耐性遺伝子が組み込まれた真核細胞の選択を可能にする。この選択はG418(800μg/ml)を2週間用いて行われる。該ベクターはクロラムフェニコール耐性遺伝子を含んでなる。
【0089】
従って、プラスミドpBC 3T3およびpBC3Neo3は、5’に位置する野生型逆方向末端反復配列(ITR 5’)を、それが3’に位置する野生型逆方向末端反復配列(ITR 3’)の完全なコピーとなるように変異させたMos−1シュードトランスポゾンを有する。従って、このシュードトランスポゾンは2つのITR3’により境されている(「シュードトランスポゾン 2 ITR3’」)。該シュードトランスポゾンは野生型Mos−1トランスポゼースとともに基準転移頻度を決定するために用いられ、ここから本発明のシステムの使用と関連した高活性倍率が決定された。
【0090】
一般に、このタイプの構築物(シュードトランスポゾン)においては、「T」という文字がテトラサイクリン耐性をもたらすレポーター遺伝子を表す。
【0091】
pBC KS NeoはSV40プロモーター調節下のネオマイシン耐性遺伝子を有するプラスミドである。該ベクターはクロラムフェニコール耐性遺伝子を含んでなる。
【0092】
pGL3−Controlベクター(Promega;Cat.#E1741)はSV40プロモーター調節下のルシフェラーゼをコードする遺伝子を有するプラスミドである。これはアンピシリン耐性遺伝子も含んでなる。
【0093】
I−A−2− ベクターの構築
I−A−2−1− ベクターDNAの製造
各種構築物に対し、全てのアガロースゲルからのDNA溶出をWizard SV Gel and PCR Clean−Up system kit(Promega、フランス)を用いて行った。バクテリア培養液を用いたプラスミド少量調製を全てWizard Plus miniprep kit(Promega)を用いて行った。大量DNA調製をPureyield plasmid midiprep system(Promega)またはMidiprepもしくはMaxiprep kit(Qiagen)を用いて行った。
【0094】
I−A−2−2− 変異体を得るための特異的突然変異誘発
特異的突然変異誘発を、Quikchange site directed mutagenesis kit(Stratagene)のプロトコルに従って行った。変異を導入するのに用いたオリゴヌクレオチドはMWG Biotech(Roissy CDG)により合成された。PfuポリメラーゼおよびDpn1酵素はPromega(フランス)より供給された。手短に述べると、導入すべき変異は2つの相補的なオリゴヌクレオチドに含まれている。プラスミド全体をPCR(95℃1分の後、16サイクルの95℃30秒間、55℃1分間、68℃2分間/プラスミドkb)によって増幅した。PCRの鋳型として用いたプラスミドをDpn1で消化した(37℃1時間、2−3u/50μlのPCR)。次いで、Dpn1処理後の2−3μlのPCRでケモコンピテントXL1BlueまたはエレクトロコンピテントJM109バクテリアを形質転換した。
【0095】
特異的突然変異誘発に用いたオリゴヌクレオチド配列を下の表1に示し、該変異を太字のヌクレオチドで明示する。
【表1】
【0096】
I−A−2−3− トランスポゼース配列の確認
pGEM−T−easyプラスミドにクローニングされたトランスポゼースへの変異の導入をシークエンシングによって確認した。このために、10マイクロリットルのDNA少量調製物をシークエンシングのためにMWG Biotechに送付した。用いたプライマー(Puniv −21およびPrev −49)はこの会社により供給された。
【0097】
I−A−2−4 pKK−233−2プラスミドへの変異型トランスポゼースのサブクローニング
野生型または変異型トランスポゼース(Tnp)をコードする断片をpGEM−Tベクター(Tnp)からNco1/HindIII消化により調製し、0.8%アガロースゲル(TAE1X:0.04M Tris−アセテート、1mM EDTA pH8)上で溶出した。pKK−233−2プラスミドをHindIII/Nco1により消化し、アガロースゲル上に置き、溶出し、Mos−1トランスポゼース(Tnpと呼ぶ)をコードする断片と16℃で一晩ライゲートした。トランスポゼースをコードする断片の非存在下で該プラスミドのライゲーションを行うことにより、プラスミド再環状化セルフチェックを行った。
【0098】
ライゲーション産物を用いて、E. coli JM109バクテリアを転換し、次いで該バクテリアをLB−アンピシリンプレート(100μg/ml)上で選択した。4個のアンピシリン耐性クローンを培養にかけ、プラスミド抽出を行った。DNA少量調製物をEcoR1/HindIII消化後0.8%アガロースゲル(TAE 1X)上で電気泳動することにより試験し、それらがトランスポゼースをコードする遺伝子を組み込んだことを確かめた。
【0099】
I−A−2−5− 変異型トランスポゼースのpMalC2Xプラスミドへのサブクローニング
pMalC2Xへのサブクローニングのため、トランスポゼースをコードする遺伝子を、MTP upおよび3’ HindIIIプライマー:
MTP up:5’−TACGTAATGTCGAGTTTCGTGCCG(配列番号33)
3’HindIII:5’−CCCAAGCTTATTCAAAGTATTTGC(配列番号34)
を用いたPCRによって再増幅する必要があった。
【0100】
サイクル条件:95℃5分間に続き、20サイクルの(95℃30秒間、50℃1分間、72℃1分間)の後、72℃5分間。
【0101】
次にPCR産物をゲル上に置き、50μlに溶出し、pGEM−T easy plasmidにクローニングした(1μlのベクター+2μlの溶出したPCR産物)。16℃での一晩のライゲーションの後、該ライゲーション産物をJM109細胞にエレクトロポレーションで転換し、該バクテリアを、1mM IPTG 2% X−Galを含んだLBアンピシリンプレート(100μg/ml)上で選択した。2つのアンピシリン耐性ブランククローンを培養にかけ、プラスミドDNAを抽出した。EcoR1消化および0.8%アガロースゲル(TAE 1X)上での電気泳動によりクローニングを試験後、該プラスミドをシークエンシングのためにMWG Biotechに送付した。
【0102】
配列の確認後、トランスポゼースをコードする断片をSnaB1/HindIII消化により調製し、ゲル上で溶出した。これをXmn1/HindIIIで切断したpMalC2Xプラスミドにライゲートした。JM109バクテリアを次に該ライゲーション産物で転換し、LBアンピシリンプレート(100μg/ml)上に塗布した。
【0103】
I−A−2−6− pCS2+プラスミドへの変異型トランスポゼースのサブクローニング
野生型または変異型トランスポゼース(Tnp)をコードする断片をEcoR消化によりpGEM−T(Tnp)ベクターから調製し、0.8%アガロースゲル(TAE1X:0.04M Tris−アセテート、1mM EDTA pH8)上で溶出した。pCS2+プラスミドをEcoR1で切断し、脱リン酸化し、トランスポゼースを含んだ断片とライゲートした。該ライゲーション産物をJM109バクテリアで形質転換し、クローンをLBアンピシリンプレート(100μg/ml)上で選択した。8個のクローンを培養にかけ、プラスミドDNAを抽出した。インサートの存在およびその向きを、Pvull/BamH1またはPvull単独による消化と、TAE 1X中の0.8%アガロースゲル上での電気泳動とにより判断した。該クローンは、遺伝子がセンス(sense)に挿入され、SP6プロモーターの調節下でトランスポゼースに対応するmRNAの転写が可能である際に+senseと示される。該クローンは、該遺伝子がSP6プロモーター調節下における転写とは反対のセンスに挿入される際に−senseと示される。
【0104】
I−B− バクテリアにおける変異型トランスポゼースの活性の分析:バクテリア転移試験
Escherichia coli JM109バクテリアを、pBC 3T3プラスミド(転移レポーター 2 ITR 3’マリナー様エレメントおよびクロラムフェニコール耐性遺伝子を含んでなる)、ならびにアンピシリン耐性遺伝子を含んでなりトランスポゼースをコードする誘導可能なベクター(pKK−TnpまたはpMal−Tnp)で、同時形質転換した。バクテリアの選択をアンピシリン(100μg/ml)およびクロラムフェニコールで行い、該2つのプラスミドの存在を確認した。
【0105】
pBC 3T3プラスミドおよびpKK−Tnp(またはpMalC2X−Tnp)プラスミドの両者を含んだJM109バクテリアを250μlのLB中、1時間37℃で培養にかけた。次いでこの種菌を、1mM IPTGを補った5mlのLBに注いだ。該培養物をLBプレート上(100μlの1/1000希釈物)およびLB−Tetプレート上(12.5μg/ml)(250μlの無希釈培養液)でタイター測定(titrate)した。次に、IPTGで誘導された培養物を、撹拌下(250rpm)、5時間32℃(トランスポゼースの至適温度)で培養した。次いでバクテリア懸濁液をLBプレート上(100μlの1/250,000希釈物)およびLB−tetプレート上(100μlの無希釈バクテリア懸濁液)でタイター測定した。該プレートを37℃に一晩置いた。次の日、LBおよびLB−Tetプレート上でコロニーを計数し、転移頻度(1mlの無希釈バクテリア懸濁液あたり、テトラサイクリンバクテリアの数をバクテリアの数で割ったものに等しい)を算出した。
【0106】
I−C− 真核細胞における変異型トランスポゼースの活性の分析
I−C−1− 細胞トランスフェクション
トランスフェクションの前日、6ウェルプレートにウェルあたり2.105個のHeLa細胞を分配した。次の日、該細胞を3μgのDNA(750ngのpGL3−Control、750ngのpCS2/Tnp、1500ngのpBC3T3)およびPEI(1/10比)(Eurogentec)でトランスフェクトした。各条件を二重に試験した。
【0107】
トランスフェクションの2日後、細胞を溶解してルシフェラーゼ活性を評価することにより、トランスフェクション効率を評価した。第2のウェルの細胞をトリプシン処理し、2つの10cm径の培養皿中、G418選択剤(800μg/ml)の存在下で培養にかけた。培地を2日ごとに交換し、15日間選択圧を維持した。条件当たり5個のクローンを単離し、選択圧(200μg/mlのG418)のもと15日間増やした。
【0108】
I−C−2− クローンの分子分析
各種クローンのゲノムDNAを抽出し、制限酵素処理後にサザンブロット分析にかける。この方法は各種G418抵抗性カセット挿入部位を分析するために用いられる。シークエンシング分析により、実際の転移イベントを示すジヌクレオチドTAの重複の存在を確認することができ、ランダムな、およびトランスポゼース依存の、組換え事象の頻度を評価することができる。
【0109】
II− 結果
Mos−1マリナー転移の全工程を真核細胞よりも単純なシステムにおいて分析できるように、バクテリア分析モデルを開発した。このシステムを使用することにより、様々な時点において、各種変異型トランスポゼースの転移効率を評価することが可能になった。
【0110】
単純な変異で得られた結果を、誘導後の転移時間T0について図6Aおよび6Bに示す。これらの結果は野生型トランスポゼースに対するメジアン増加倍率(median increase factor)として表されている。最も有利な変異はポジションE137、Q91、Y237、T216に位置する変異である。同様な分析を誘導後の転移時間T=5時間について行ったものは、図6Cおよび6Dに図示される結果を示した。
【0111】
最も有望な変異を組み合わせて多重変異体を作成した。7つの2重、3つの3重、2つの4重、および1つの5重の変異体を下記の表2のようにして得た。
【表2】
【0112】
多重変異体で行った転移試験の結果を図6Eないし6Hに記録する。
【0113】
一部の組み合わせ(Q91E E137K T216A;F53Y E137K T216A)においては転移の完全な喪失が引き起こされた。他の組み合わせではT0の時点で少なくとも6倍に転移が向上した(図6E)。最も有利な組み合わせはF53Y Q91R E137K T216A、F53Y E137K T216A Y237Cおよび5重の変異体の組み合わせである(図6Eおよび6F)。
同様の結果が5時間の転移時間で得られた(図6Gおよび6H)。
【0114】
留意すべきは、Mos−1トランスポゼースの一部の特性に対して効果を有するとして文献にも記載されている変異は、高活性変異型Mos−1トランスポゼースを同定する必要がある場合においてほとんど有利ではないことである。例えば、Mos−1トランスポゼースのタンパク質相互作用生成能力を改変するとしてZhang et al. (2001)に示されている変異S104Pの場合がそうである。彼らの研究の範囲内において、本願発明者らは実際に、この変異が、バクテリアにおける転移試験を用いた際に、Mos−1トランスポゼースの転移活性の完全な消滅をもたらすことを観察した(不掲載データ)。
【0115】
第II部:高活性組換えMos−1シュードトランスポゾン
I− ITR(逆方向末端反復配列)
簡単に述べると、組み合わせ法によって1組のITRを得ることからなるSELEX法を用いて、最適化されたITR配列の検出を行った(図7)。トランスポゼースが適切に機能することに対して重要であることが公知の、一部のポジションのみを維持した。従って、他のヌクレオチドの性質はランダムに変化した。各種ITRを選択し、トランスポゼースを固定する能力を向上させた。選択されたITRの中でも、一部のみがリターデーションゲル(EMSA technique)内でトランスポゼースを遅延させることができた。改変したITRと結合したトランスポゼースをバクテリア中での転移試験において試験し、転移効率に対するITR配列の変化の影響を評価した。(例えば野生型配列に対して1または2つのヌクレオチドに影響する)一部の構成に関して、有意な倍率、具体的には少なくとも5に等しい倍率で転移効率が向上した。
【0116】
I−1− 材料および方法
a)SELEX法の開発
本発明の組換えMos−1シュードトランスポゾンおよび転移システムの性能を向上させるため、SELEX法の使用により、本発明者らはトランスポゼースに対して野生型ITRよりもより高い親和性を示すITRを選択することができた。
【0117】
1990年に記載されたSELEX法(Ellington et al., 1990; Tuerk et al., 1990)は、特異的性質、例えばタンパク質に結合する能力によって、1015超の異なる分子を含んだ混合物中の核酸を選択することを可能にする。この方法の一般的原理は、特異的な標的分子を異なる配列(RNA、1本鎖または2本鎖DNA)の混合物とともにインキュベートすることからなる。標的分子と結合しうる画分を、クロマトグラフィーカラム、免疫沈降または他の任意の適した精製法により、残りの核酸から単離する。続いて、濃縮された画分をPCRまたはRT−PCRにより増幅し、別の選択ラウンドに用いる。選択および増幅のサイクルの反復により、初期の混合物を「アプタマー」とも称される機能性オリゴヌクレオチドで富ませることが可能である。選択および増幅のサイクルの数の増加が大きくなるほど、アプタマーの量の増加が大きくなり、ひいてはオリゴヌクレオチド集団中でそれらが優勢になる(Selex法に関する概説はKlug et al., 1994を参照のこと)。
【0118】
下記の2つのSELEX法が本発明者らにより開発された。
A1)トランスポゼースの調達
トランスポゼース(Tnp)によるITR結合特性とマルトース結合タンパク質(MBP)によるマルトース結合特性とを結びつけた組換えタンパク質を用いた。バクテリアで産生され、MBP−Tnpと称されるこの組換えタンパク質は、N末端に位置するトランスポゼースの特異的結合ドメインを介してITRに結合し、MBPがマルトースカラム上でITR/トランスポゼース複合体を精製することを可能にする。
【0119】
A2)変性配列(degenerated sequence)ITRの性質
SELEXを行うため、79塩基を有するオリゴヌクレオチドの混合物がMWG Biotechにより合成された。これらオリゴヌクレオチドの一般的な構造は、各25塩基を有するRおよびFプライマー配列が各末端に隣接した、29塩基を有する変性ITRの配列を含んでなる。5’−CAGGTCAGTTCAGCGGATCCTGTCG−3’(配列番号35)および5’−GAGGCGAATTCAGTGCAACTGCAGC−3’(配列番号36)の配列をそれぞれ有するこれらのプライマーにより、SELEXの次の工程において、選択されたITR配列のPCRによる増幅が可能になった。
【0120】
2つの別々のオリゴヌクレオチド混合物を合成した;29塩基を有するITRが14箇所のポジションで変性されているもの(ITR14)、およびITRが21箇所のポジションで変性されているもの(ITR21)である。全てのマリナーサブファミリーエレメントにおいて100%保持されているポジションはITR14およびITR21において維持されたが、60/80%保持されているポジションはITR14においてのみ維持された。ITR14は2.7x108種類の配列に相当し、ITR21は4.4x1012種類の配列に相当した。
【0121】
この方法の有効性を実証するため、Mos−1 ITR3’を対照として用いた。
トランスポゼースは2本鎖DNAに結合することから、第1のSELEXラウンドの前にITR14およびITR21のそれぞれをPCRにより2本鎖にした。
【0122】
A3)SELEX法1の原理
この方法を図8に図解する。ここでは、14または21箇所のポジションが変性されている29ヌクレオチド(nt)を有するITRと、ITR14およびITR21の末端に隣接する、25ヌクレオチドを有する2つのRおよびFプライマーとから形成される、1本鎖DNA鋳型(ss)のプールが用いられる(a)。鋳型をPCRにより2本鎖(ds)にする(b)。次いで、これらを放射標識し(c)、樹脂およびMBP−Tnp融合タンパク質(図を簡単にするためにTnpという)またはMBPとともに溶液中でインキュベートする(d)。相互作用反応(interaction reaction)を24時間4℃で行う。カラムを洗浄後、マルトース溶液を用いてDNA/タンパク質複合体を精製する(e)。回収された溶出液は、鋳型がMBP−Tnpとともにインキュベートされた場合はTnp/ITR溶出液と呼び、鋳型がMBPとインキュベートされた場合はMBP溶出液という。各SELEXラウンド後の選択をモニターするために、各溶出液の一部をナイロンメンブレン上に置き、カウントする(f)。各SELEXラウンドにおいて選択された鋳型をPCRにより増幅する(g)。次いで、増幅産物をアガロース上で試験する。目的とする断片を精製し(h)、別の選択ラウンドで用いる。
【0123】
* DNA/タンパク質結合工程:
各SELEXラウンドにおけるITRの選択をモニターするため、T4ポリヌクレオチドキナーゼを用いて、またはPCRにより、塩基配列を放射標識した。MBP−Tnp、放射標識したITR14またはITR21、およびマルトース樹脂の溶液中でのインキュベーションにより、標的配列を選択した。
【0124】
並行して2つの対照実験を行った。DNAに対して特異的親和性を有しないMBPをITR14またはITR21とインキュベートすることにより、ネガティブコントロールでDNA/タンパク質相互作用の特異性が保証されうるようにした。ポジティブコントロールはITR3’を、一方でMBP−Tnpとともに、他方でMBPとともに、インキュベートすることからなった。
【0125】
*洗浄工程および溶出:
タンパク質をその標的配列に結合した後、複合体を分離させることなく全ての未結合オリゴヌクレオチドを除くために洗浄工程を行った。樹脂をマルトースで飽和させることにより、維持されている複合体の溶出を行った。2種類の溶出液を得た。Tnp/ITR溶出液は、MBP−Tnp組換えタンパク質とともに標的オリゴヌクレオチドをインキュベートする実験のシリーズを溶出することにより生成された。MBP溶出液は、前記標的ITRをMBPと相互作用させるカラムを溶出することにより生成された。
【0126】
*選択された配列の増幅工程:
ITR配列に隣接するRおよびFプライマー(配列番号35および36)の存在により、選択されたITRの増幅をTnp/ITR溶出液およびMBP溶出液に対して直接行った。選択が有効であった場合、Tnp/ITR溶出液に含まれる鋳型の増幅に対して、(79bpを有する)特異的PCRシグナルが認められるが、MBP溶出液の鋳型に対しては認められない(MBPはITRに対して親和性を有しないため)必要があった。この陽性の断片をアガロースゲルから溶出し、T4ポリヌクレオチドキナーゼで放射標識した。一部のPCRサイクルで増幅工程中に直接標識を行った。
【0127】
その後、このアンプリマ−(amplimer)を、Tnp純化配列(Tnp refined sequence)に富む標的として次のSELEXラウンドで用いた。
【0128】
A4)SELEX法2の原理
本発明者らによって行われた研究により、ITR3’およびITR5’は同一の解離定数を有するが、トランスポゼースに結合するその能力は異なっていることが証明された。ITR5’存在下における活性タンパク質の量はITR3’の存在下で観察されるものよりも10倍低い。これは、ITR3’がITRと結合するトランスポゼースの能力の活性化因子として働くことを示している。従って、情報の2つのアイテムがITRに含まれている。第1のアイテムはタンパク質活性化の効果(Bmaxに対する影響)を有しており、第2のアイテムはITRに対するトランスポゼースの親和性(Kdに対する影響)を調節する。これらのデータを説明するため、SELEX法2が本発明者らにより開発された。この方法の原理はSELEX法1のものと同一である。しかし、マルトースカラムへの結合の前に、DNA鋳型がタンパク質とともに5分間4℃でインキュベートされる。この方法はこのように、トランスポゼースを活性化し、それと結合する能力を有するITRを選択することを可能にするはずである。
【0129】
A5)プロトコル
原則として、本発明者らによって用いられる実験手順は当業者に周知の常法を基盤としている(Ausubel et al., 1994; Sambrook and Russel, 2001)。
【0130】
(i)鋳型調製
* 追加の鎖(Supplementary strand)の合成
トランスポゼースは2本鎖の形態のDNAにのみ結合する。標的オリゴヌクレオチドであるITR14およびITR21の追加の鎖の合成を、プライマー伸長法により行った。反応はSELEX法1および2について行った。
【0131】
* DNA断片の精製
PCR産物を1XTAE緩衝液中の3%Nusieveアガロースゲル(FMC)上で分析した。次いであらゆる微量のコンカテマーを除去するために、DNA断片をアガロースゲルを用いて精製した。
【0132】
* ITR14およびITR21の放射標識
配列の放射標識により、各SELEXサイクルで選択の進行をモニターすることが可能になった。[γ32 P]ATP(4500Ci/mmol超の比放射能)による標識を、T4ファージポリヌクレオチドキナーゼ(PNK)を用いて行い、[α32 P]ATP(3000Ci/mmol超の比放射能)による標識を、RおよびFプライマー(配列番号35および36)の存在下でPCRによって行った。
【0133】
(ii)トランスポゼースによる標的の選択
* DNA/タンパク質結合工程
マルトース樹脂(New−England Biolabs)を緩衝液1(20 mM Tris pH9、50mM NaCl、1mM DTT)で平衡化した。溶液中でのインキュベーションを、最終容量1mlの緩衝液1中で、200μlの樹脂とともに、50μgのMBP−TnpまたはMBPタンパク質;200ngのITR14、ITR21またはITR3’;競合物としての2μgのITR5’;5mMのMgCl2および2μgのサケ精子DNAを順次加えて行った。SELEX法1の相互作用反応を、24時間4℃において持続的な撹拌(300rpm)の下で維持した。SELEX法2においては、DNA鋳型およびMBP−TnpまたはMBPタンパク質を、マルトースカラムに通す前に、5分間4℃でインキュベートし、相互作用反応を1時間だけ4℃で維持した。
【0134】
* 樹脂洗浄工程および複合体溶出
インキュベーションの終わりに、樹脂を洗浄し、タンパク質/ITR複合体を溶出した。全ての複合体を回収するため、2回の連続した溶出を行った。
【0135】
(iii)選択された配列の増幅工程
各SELEXラウンドの後、次のSELEXラウンドで用いる前に、Tnp/ITRおよびMBP溶出液中に含まれる選択された鋳型を増幅した。
【0136】
PCR反応は15ないし30サイクル、典型的には20サイクル(寄生的な(parasitic)断片増幅の場合は15サイクル)を含んでなった。
【0137】
ITR14およびITR21の増幅のために用いられた反応媒質は、50μlの最終容量中に、鋳型:10μlのTnp/ITR溶出液または10μlのMBP溶出液、5μlの10X緩衝液の存在下;200μMのdNTP;2.5mMのMgCl2;1μMのRおよびFプライマーならびに5Taqポリメラーゼユニットを含んでいた。アガロースゲル上では、Tnp/ITR溶出液を用いた増幅は79bp、およびITR3’(ポジティブコントロール)については300bpのバンドを生成する必要がある。PCR産物を、アガロースゲルを用いて精製し、PNKを用いて標識し、別のSELEXラウンドに用いた。
【0138】
第5のSELEXラウンドにおいて、[α32 P]ATPによる標識のために放射性物質の存在下でPCRを行った。
【0139】
b)選択された配列のクローニングおよびシークエンシング
SELEX法1のラウンド数7およびSELEX法2のラウンド数8からの精製されたPCR産物を、供給業者が推薦する条件下でpGEMT−Easyプラスミド(pGEMT−Easy Vector system kit、Promega)中にクローニングした。pGEMT−easyへのライゲーションを、SELEX法1のITR14断片、SELEX法2のITR14断片、SELEX法1のITR21断片およびSELEX法2のITR21断片を用いて生成した。このライゲーションを用いてDH5αコンピテントバクテリアを形質転換した。各ライゲーションの20個の組換えクローンのプラスミドDNAを1本鎖シークエンシングにより分析した。配列のアラインメントはwww.infobiogen.frのサイトで入手可能なCLUSTALWソフトウェアを用いて行った。
【0140】
c)クローン配列の迅速なスクリーニング
潜在的なITRのそれぞれを、トランスポゼースへの結合の能力について、ゲルリターデーションにより試験した。そのために、ITRをMBP−Tnp存在下でインキュベートした。これはトランスポゼースがITRに結合している場合に移動の遅延をもたらすはずである。第1に、PCRによって放射標識されたDNAを、精製することなく、タンパク質の存在下でインキュベートすることにより、迅速ITRスクリーニングを行った。第2に、人為的な配列増幅によって生ずるバックグラウンドノイズを除くためにゲルリターデーションを行った。
【0141】
C1)クローニングした配列の放射標識
(i)PCR標識
80個のITRを選択した。これらのITRを、[α32 P]ATPおよびpUおよびpREVユニバーサルプライマーの存在下で、プラスミドDNA少量調製物を用いて、PCRにより標識した。
期待される増幅断片の長さは79bpであった。
【0142】
(ii)Klenowフィル(Klenow fill)標識
迅速スクリーニング後の陽性ITRを、EcoRI酵素による消化後にアガロースゲル上で精製した。これによりRおよびFプライマーを除くことができた。ITR3’をpBluescript−ITR3’プラスミドのEcoRIおよびBamHI酵素による消化後に精製した。前記の精製断片を、Klenowサイトフィル(Klenow site fill)法を用いて[α32 P]ATPで放射標識した。
【0143】
C2)DNA/タンパク質複合体形成
(i)迅速スクリーニング
迅速スクリーニングを行うため、ITR/タンパク質複合体を、最後のSELEX反応サイクル後にPCRにより標識された配列を用いて、あらかじめ精製することなく、形成させた。該配列はRおよびFプライマーにより隣接されたITRを含んでいた。相互作用反応は、最終容量20μlで:40μgのMBP−TnpまたはMBPタンパク質;1μlの放射性PCR反応;1μgのサケ精子DNA;2μlの50%グリセロール;5mMのMgCl2および0.5μMのpRevを含んでいた。遊離プローブを1μlの放射性PCR、2μlの50%グリセロールおよび17μlの緩衝液を用いて調製した。相互作用反応を15分間4℃で維持した後、ポリアクリルアミド上での分析を行った。
【0144】
(ii)精製したプローブに対するゲルリターデーション
Tnpとのインキュベーション後に移動の遅延が生ずる配列(陽性ITR)を、精製DNA断片を用いたさらなるゲルリターデーションにかけた。ITR/タンパク質複合体を:40μgのMBP−Tnpタンパク質;1nMのITRプローブ;1μgのサケ精子DNA;2μlの50%グリセロール;5mMのMgCl2および0.5μMのpRevを含んだ最終容量20μl中で形成した。ITRのみのものは2μlの50%グリセロールおよび17μlの緩衝液を含んだ混合物中で1nMの最終濃度で用いた。相互作用反応を15分間4℃で維持した後、ポリアクリルアミドゲル上での分析を行った。
【0145】
d)競合試験
これらの試験の原理を図9に図解する。この試験により、放射標識ITR3’のトランスポゼース結合をシフトさせるITRSelexの能力が証明されうる。シフトが大きいほど、ITR3’に対するITRSelex配列の「向上」も大きい。実際には、トランスポゼース結合反応は、10 mMのTris pH9緩衝液、0.5mMのDTT、5mMのMgCl2、5%(容量/容量)のグリセロール、1μgのニシン精子DNAおよび100ngのBSAを含んだ20μl中で、15nMの放射標識ITR3’および非放射標識ITRSelexの存在下で行う。試験した非放射標識ITRSelexの濃度は、0nM、15nM、75nM、150nM、300nM、750nM、1500nMであった。
【0146】
e)pBC3TSelexプラスミド構築
8個のSelex ITRの挙動をバクテリア中でイン・ビボで分析するため、pBC3T5プラスミドから一連の8個のプラスミドを構築した。pBC3T5プラスミドは、Mos−1 ITR3’および5’が隣接する、プロモーターの無いTet(テトラサイクリン耐性遺伝子)ORFを含んでいる。このTet遺伝子(Xba1およびHindIII制限酵素部位の間にクローニングされている)は、クロラムフェニコール耐性遺伝子およびLacZタンパク質をコードする遺伝子に対して逆方向となっている。ITR3’はpBCKS+プラスミドのKpnI制限酵素部位によって5’を、SalI制限酵素部位によって3’を区切られている。ITR5’はpBCKS+プラスミドのSacI制限酵素部位によって5’を、NotI制限酵素部位によって3’を区切られている。pBC3T5プラスミドのITR5’はNotIおよびSacIによる二重消化後にITRSelexで置換され、pBC3TSelexプラスミドを生成した。ITRSelexはMWG Biotech(ドイツ)により1本鎖オリゴヌクレオチドの形態で合成された。2本鎖ITRSelexの形成は、付着性(cohesive)NotIおよびSacIハーフサイト(half-site)を生成するようにしてハイブリダイゼーションにより行った。付着性オリゴヌクレオチドは、5’でITRSelexに隣接するTAジヌクレオチドがシュードエレメントの外側に配置されるように設計した。pBC3TSelexプラスミドを生成するため、前記のリン酸化2本鎖オリゴヌクレオチドを、前記の2つの酵素で方向付けられたベクターにT4リガーゼDNAにより結合した。以下、該プラスミドを、pBC3TsまたはpBC3TSelexの後にITRSelex番号を付記した名称でいう。
【0147】
f)転移試験
実験プロトコルの詳細な説明を上記第I部の段落I−Bに示す。
これらの試験は10ngのトランスポゼースドナープラスミド(pKK−TnpまたはpKK)および10ngのシュードトランスポゾンドナープラスミド(pBC3TSelex)で同時形質転換したJM109 E. coliバクテリアにおいて行った。これらのバクテリアをアンピシリンおよびクロラムフェニコールを含有する培地上で選択した。これらの試験(「方法I」)の操作条件を図10に記載する。
【0148】
I−2− 結果
a)SELEXで得られたITR候補配列のスクリーニング
本発明者らによって開発されたSELEX法では79bpを有するオリゴヌクレオチドの混合物が用いられ;該オリゴヌクレオチドは29bpを有するITRから形成され;該ITRは14または21箇所のポジション(ITR14およびITR21)において変性されており、かつその末端において25bpを有するRおよびFプライマー(配列番号35および36)が隣接している。これにはMos1トランスポゼース(基準Tnp)およびMBPを融合した組換えタンパク質も用いられる。
【0149】
2種のSELEX法を開発した。これら2種の方法の一般的な原理は同一である。SELEX法1では、オリゴヌクレオチド、タンパク質およびマルトース樹脂を同時にインキュベートする。SELEX法2においては、鋳型をタンパク質と5分間4℃でインキュベートし、その後マルトース樹脂と接触させる。
【0150】
SELEX法1のラウンド7およびSELEX法2のラウンド8において選択されたITR14およびITR21の配列をクローニングした。各方法において、ITR14に対応する20個のクローンとITR21に対応する20個のクローンとを単離し、シークエンシングした。これら80個の配列を、その性質:すなわち14箇所のポジションで変性されているITR14からなっているか、21箇所のポジションで変性されているITR21からなっているか;およびそれらが得られた方法(SELEX法1またはSELEX法2);により分析した。結果は、用いた方法が、行う選択の種類に対して影響を有しうることを示した(不掲載データ)。
【0151】
80個の配列をゲルリターデーションにより試験し、トランスポゼースとのその結合能を試験した。結果は、ITR1、6、9、40、46、49、60および69(ITRSelex;図11;配列番号38ないし45)のクローンがこのタンパク質と複合体を形成しうることを示した。これらがITRとしてトランスポゼースに認識されるのか、それとも標的として認識されるのかを決定するため、これらの陽性クローンをゲルリターデーションにより試験した。結果は、クローン1、40、46、49および69がITRであることを示した(図11および不掲載データ)。結果からは、クローン6および9については何ら結論を得られなかった(図11)。
【0152】
b)競合試験
結果は、上記ゲルリターデーション実験に基づいて選択された8個のITRのうち、ITR40および46のみが放射標識ITR3’に対するトランスポゼースの結合を阻害しうることを示した。
ITR40 5’−TCAGGTGTACAAGTATGTAATGTCGTTA−3’(配列番号39);
ITR46 5’−TCAGGTGTACAAGTATGAGATGTCGTTT−3’(配列番号38)。
【0153】
図12に示すとおり、ITR40および46のみがITR3’と競合し、放射標識ITR3’のトランスポゼース結合をシフトすることができる。
【0154】
c)転移試験
ITR40および46は競合試験に基づくと最良の候補と思われるが、前記8個のITRの挙動について、該ITRが転移全体を媒介する能力を有するか、およびそれがどの程度なのかを確認するために、バクテリアにおけるイン・ビボの転移試験において評価した。
【0155】
得られた結果を図13AおよびBに示す。ITR40および46のみが実際に試験条件下において転移を向上させうると思われる。基準(または対照)の場合、方法Iの実験条件下では、pBC3T3の転移効率はpBC3T5プラスミドで得られたものに対して10倍上昇した(図13A)。
【0156】
最終的に、図13Bに示すように、シュードトランスポゾン3T30および3T36が高活性である。
【0157】
II− UTR(非翻訳末端反復配列)
最適なMos−1エレメントの転移のための最小限の核酸構造は、ITRに加え、UTRの少なくとも一部を含んでいるようである。実際、イン・ビトロでは、Mos−1 ITR5’および3’のみに隣接された耐性マーカーは転移しないが、UTR5’の最初の38bpおよびUTR3’の最初の5bpをそれぞれのITRの配列に付加すると、野生型の活性が十分に回復する(Tosi et al., 2000)。
【0158】
ITRの近傍にUTRが存在することの必要性を、多くの考え得る構造を構築することにより評価した:5’または3’のUTR、ITR3’と組み合わせたUTR5’、またはその逆。
【0159】
手短に述べると、得られた結果により、UTRの存在が転移に好都合であることが示された(具体的には、少なくともおよそ5に等しい倍率の向上)。
【0160】
II−1− 材料および方法
a)ITR−UTR構造の構築
A1)プラスミド
ITR/UTRプラスミドは全て、同一の操作方法を用いてpBC3T5プラスミドから構築された。ITR3’は、KpnIおよびSalI酵素による二重消化後に置き換えた。ITR5’は、NotIおよびSacIの二重消化により置き換えた。ATG biosynthetics(ドイツ)により、各種ITR/URT33および55配列が合成され、pCR4−TOPO(invitrogen)へクローニングされた。Intelechon(ドイツ)により、ITR/UTR35−MCS−UTR/ITR35配列、すなわちITR3’/UTR5;−マルチクローニング部位(MCS)−UTR3’/ITR5’が合成され、pCR−Script AmpSK(+)(Stratagene)にクローニングされた。この配列をKpnIおよびSacIの二重消化によりpBCに導入した。これらの配列は、5’のITR/UTRに隣接するTAジヌクレオチドがシュードエレメントの外側に配置されるように設計された。約15種の構造が生成され、方法2によるバクテリア内での転移試験において評価された。結果は、pBC ITR/UTR−T−UTR/ITRとして参照される次のプラスミド:pBC33T33、pBC33T55およびpBC35T35について示される。
【0161】
pKKTnpトランスポゼースドナープラスミドはpKK233−2プラスミド(Clontech;Amp’)の誘導体であり、Ncol部位において、Mos−1トランスポゼースORF基準Tnpがクローニングされている。その発現はPtrc IPTG誘導性プロモーターの調節下にある(しかし、該プロモーターは誘導因子不在下における基本的な転写活性を含んでなる;不掲載データ)。以下、トランスポゼースORFが存在しない場合に前記pKK233−2プラスミドを単にpKKという。
【0162】
A2)転移試験のためのJM109 E. coli系統の形質転換
コンピテントなJM109バクテリアを、プラスミドpBC33T3、pBC3T5、pBC3T3、pBC33T55、pBC35T35、pBC3T33を含むトランスポゾンドナープラスミドと、pKKTnp Tnpドナープラスミドとにより同時形質転換した。対照系統を、同一のトランスポゾンドナープラスミドとpKK対照プラスミドとにより同時形質転換した。
【0163】
b)転移試験
実験プロトコルの詳細な説明を上記第I部の段落I−Bに示す。
【0164】
約15種の構造が、図14に図解される方法IIによるバクテリア内でのイン・ビボ転移について試験された。
【0165】
II−2− 結果
生じたTetRクローンの数を、pKK−Tnpトランスポゼースドナープラスミドの存在下で分析されたバクテリアの数で割り、ここからpKK対照プラスミドの存在下で得られた実験のバックグラウンドノイズを除いて、転移効率を算出した。最も有意な結果は、構築物3T33、33T33および35T35において、対照構築物3T3、3T5および33T55との比較で得られた。転移効率は、pBC33T33およびpBC3T33構築物において、対照構築物bBC3T3に対して5および20の倍率で上昇した。pBC33T33構築物においては、bBC3T5プラスミドおよびpBC35T35プラスミドで得られる転移効率に対して300倍優れた転移効率が観察されることから、これらの結果は、UTR配列の存在が転移反応にとって極めて重要であることを示している。最良の結果はpBC35T35構築物において得られ、これはbBC3T5に対して54,000倍の倍率で、またpBC3T3に対して1000倍の倍率で転移効率を上昇させる。
【0166】
図15Aによると、pBC35T35、pBC3T33およびpBC33T33の有利な構築物。
【0167】
図15Bは、シュードトランスポゾン3T33、33T33および35T35が高活性であることを示す。
【0168】
それに加え、本願発明者らは構築物53T35、53T33、35T33、55T35、53T55、55T55、5T35、5T33、3T55、3T53を試験した。ここでは、これらの構築物が高活性をもたらさないことが観察された;その効率は3T5または3T3のものと等価であるか、それよりも低いか、またはゼロであった(不掲載データ)。
【0169】
第III部:高活性変異型Mos−1トランスポゼースと高活性組換えMos−1シュードトランスポゾンとを含んでなる高活性組換え転移システム
高活性トランスポゼースと、同様に高活性なシュードトランスポゾンとを組み合わせたシステムの転移効率を評価するため、各種組み合わせを上記第I部の段落I−Bに記載したバクテリア中での転移試験において試験した。
【0170】
この試験においては、pBC3T3プラスミドを、高活性シュードトランスポゾンpBC3T33、pBC3T40、pBC3T46で置き換えた。野生型pKK−Tnpプラスミドは、それぞれが固有の高活性の変異型トランスポゼースを発現するpKK型ベクターで置き換えた。
【0171】
下記の表3に、高活性トランスポゼース(FETY、FQETY、FTY、FT、TY、ET、FQ、FQET、QY)とシュードトランスポゾン3T33、3T40、3T36、33T55(これは対象として用いられる)とを組み合わせて得られた結果を示す。
【表3】
【0172】
驚くべきことに、また意外なことに、試験した組み合わせで得られた結果は、高活性Mos−1トランスポゼースと高活性Mos−1シュードトランスポゾンとの全ての組み合わせが必ずしも高活性ではないということを示している。
【0173】
ここで得られた結果により、本発明の目的に有利な組み合わせとして、次の組み合わせ:
− シュードトランスポゾン3T40+トランスポゼースTY;
− シュードトランスポゾン3T46+トランスポゼースTYまたはETまたはFTY;
− シュードトランスポゾン3T33+トランスポゼースTYまたはETまたはFQまたはFQET;
を選択することが可能である。
【0174】
ここで報告されるバクテリア中における転移試験の条件のもとでは、シュードトランスポゾン3T33+トランスポゼースETの組み合わせが最も有利であり、シュードトランスポゾン3T3+トランスポゼースWT(200倍)、シュードトランスポゾン3T3+トランスポゼースFETY(3.5倍)、およびシュードトランスポゾン3T33+トランスポゼースWT(10倍)のそれぞれの組み合わせよりも効率的である。
【0175】
トランスポゼース+ITRまたはトランスポゼース+ITR/UTR複合体の安定性を測定するため、生化学的リターデーションゲル分析を上記の[具体的には、2004年9月16日公開のWO2004/078981、およびAuge-Gouillou et al. (2001b)中の]手順により行った。
【0176】
この研究は、ITR3’をTUR3’と、およびITR3’をUTR5’と組み合わせたDNA断片が、ITRのみ、または他の組み合わせで形成されたDNA断片よりもずっと安定である(4倍)ことを示した(図16)。この、より高い複合体安定性は、観察された高活性の原因でありうる。
【0177】
文献
【0178】
以下の図面は純粋に例証を目的として示されるものであり、本発明の主題を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0179】
【図1】mos−1トランスポゾンのトランスポゼース遺伝子の塩基配列(配列番号1)および該Mos−1トランスポゼースのタンパク質配列(配列番号2)。高活性部位(特異的突然変異誘発(directed mutagenesis)標的部位)は灰色の背景の残基周辺の1本線の枠で位置を示す。推定上のリン酸化部位は以下のように位置している: − 2本線の枠:ATMキナーゼによりリン酸化可能なアミノ酸; − 太い斜線の枠:プロテインキナーゼC(pKc)によりリン酸化可能なアミノ酸; − 太い薄い灰色の枠:cAMP依存性プロテインキナーゼ(pKa)によりリン酸化可能なアミノ酸; − 太い黒色の枠:pKaおよびcGMP依存性プロテインキナーゼ(pKg)によりリン酸化可能なアミノ酸; − 1本線の斜線の枠:カゼインキナーゼII(CKII)によりリン酸化可能なアミノ酸。 残基QTQ(配列番号2のタンパク質配列におけるポジション87ないし89)はATMキナーゼファミリーによる推定上のリン酸化部位に相当する。点を打った背景の円は高度にリン酸化可能な残基を示す印である。 灰色の背景の円はMLEトランスポゼースの特徴的な触媒トライアッド(D,D34−35[D/E])に関わり、DNAの切断に関与する残基を示す。 縦方向の矢印はタンパク質分解による切断部位を示す。
【図2】Mos−1エレメントトランスポゼースの構造を表す図である。 N−term:ITRとの結合に関与するN末端ドメイン; C−term:DNA鎖転移触媒作用に関与するC末端ドメイン;NLS:推定上の核移行(核インターナショナライゼーション(nuclear internationalisation))シグナル;HTH:ヘリックス・ターン・ヘリックスパターン;aa:アミノ酸。 数字はアミノ酸のポジションを表す。 特徴的な触媒トライアッド(D,D34−35[D/E])を示す。
【図3A】pBC SK+プラスミド(Stratagene)から構築されたpBC3Neo3プラスミドの模式図(A)である。
【図3B】pBC SK+プラスミド(Stratagene)から構築されたpBC3Neo3プラスミドの誘導体(B)の模式図である。
【図4A】pCMV−Tnpプラスミド(A)の模式図である。
【図4B】pCMV−Tnpプラスミドの誘導体(B)の模式図である。
【図5】転移試験の模式図である。 A):トランスポゼース(Tnp)をコードした発現ベクターおよび転移レポーターベクターで同時形質転換されたバクテリア。 B):発現ベクター誘導後の転移イベント。 C):転移頻度の決定。
【図6A】変異型トランスポゼースの転移効率:高活性倍率および変異体転移頻度。 i)単独変異体: − 誘導後、t=0時間における:A)高活性倍率 WT(53):野生型トランスポゼース。
【図6B】変異型トランスポゼースの転移効率:高活性倍率および変異体転移頻度。 i)単独変異体: − 誘導後、t=0時間における:B)転移頻度 WT(53):野生型トランスポゼース。
【図6C】変異型トランスポゼースの転移効率:高活性倍率および変異体転移頻度。 i)単独変異体: − 誘導後、t=5時間における:C)高活性倍率 WT(53):野生型トランスポゼース。
【図6D】変異型トランスポゼースの転移効率:高活性倍率および変異体転移頻度。 i)単独変異体: − 誘導後、t=5時間における:D)転移頻度 WT(53):野生型トランスポゼース。
【図6E】変異型トランスポゼースの転移効率:高活性倍率および変異体転移頻度。 ii)多重変異体: − 誘導後、t=0時間における:E)高活性倍率 WT(53):野生型トランスポゼース。
【図6F】変異型トランスポゼースの転移効率:高活性倍率および変異体転移頻度。 ii)多重変異体: − 誘導後、t=0時間における:F)転移頻度 WT(53):野生型トランスポゼース。
【図6G】変異型トランスポゼースの転移効率:高活性倍率および変異体転移頻度。 ii)多重変異体: − 誘導後、t=5時間における:G)高活性倍率 WT(53):野生型トランスポゼース。
【図6H】変異型トランスポゼースの転移効率:高活性倍率および変異体転移頻度。 ii)多重変異体: − 誘導後、t=5時間における:H)転移頻度 WT(53):野生型トランスポゼース。
【図7】SELEX法の一般的原理を説明する図である。
【図8】SELEX法1の原理を説明する図である。
【図9】競合試験(competition test)を示す図である。
【図10】方法Iによるバクテリアにおけるイン・ビボ転移試験の操作条件を表す図である。
【図11A】ITR(本発明者らによって開発されたSELEX法を用いて選択されたITRSelex)を示す。
【図11B】(A)に示すITR(本発明者らによって開発されたSELEX法を用いて選択されたITRSelex)で行ったリターデーションゲル(B)の結果である。
【図12】競合試験の結果である。
【図13A】ITRで得られた転移試験の結果である。
【図13B】ITRSelexおよび野生型Mos−1トランスポゼースを用いたバクテリアにおける転移試験の補足的な結果である。
【図14】バクテリアにおいてイン・ビボで転移させるための方法IIの操作条件を説明する図である。
【図15A】ITR/UTRで得られた転移試験の結果である。
【図15B】ITR/UTRの組み合わせおよび野生型Mos−1トランスポゼースを用いたバクテリアにおける転移試験の補足的な結果である。
【図16】ITR/UTRの組み合わせで形成された[野生型Mos−1トランスポゼース + ITR]複合体の量をグラフで示したものである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、転移因子と関連した分子生物学の分野に関する。より具体的には、本発明は、バイオテクノロジーにおけるその利用目的のため、マリナー可動遺伝因子(mariner mobile genetic elements)由来の天然転移システムの特性を強化することに関する。
【0002】
本発明は、Mos−1トランスポゾンの高活性組換え誘導体の転移のためのシステムであって、少なくとも以下の2つのパートナー:
a)目的外来塩基配列が本来のMos−1トランスポゼースをコードする塩基配列を置換している、Mos−1シュードトランスポゾン(pseudo-transposon)、および
b)前記シュードトランスポゾンにイン・トランス(in trans)で提供されるMos−1トランスポゼース
を含んでなり、前記パートナーの少なくとも1つが前記目的外来塩基配列の転移頻度を向上させるように適切に遺伝的に改変されているシステムに関する。
【0003】
このようなシステムに加え、本発明は高活性Mos−1トランスポゾン、高活性Mos−1トランスポゼース、キットに関する。
【0004】
本発明はさらに、配列の転移、およびより具体的には効率的な遺伝子導入を行うための、1つまたは2つ以上の上記手段の使用に関する。
【0005】
転移因子(TE)または可動遺伝因子(MGE)は、ある染色体部位から他の部位へ移動しうる短いDNA断片である(Renault et al., 1997)。該DNA断片は5’および3’末端部位に位置する逆方向反復配列(ITR)によって特徴付けられる。TE自身によりコードされる酵素であるトランスポゼースは、その転移プロセスを触媒する。
【0006】
TEは原核生物および真核生物の両者において同定されている(この分野の参考文献を参照のこと:Craig et al., 2002)。
【0007】
TEはその転移機構により2種類に分けられる。第1に、クラスIエレメント、すなわちレトロトランスポゾンは、RNA中間体の逆転写を介して転移する。第2に、クラスIIエレメントは、DNA中間体を介してある染色体部位から他の部位へ「カットアンドペースト」型の機構により直接転移する。
【0008】
原核生物においては、これまでに数多くのTEが報告されてきた。それらの中には、例えばIS1等の挿入配列、およびTn5等のトランスポゾンが含まれる。
【0009】
真核生物においては、クラスIIエレメントは2つのファミリーを含んでなる:P、PiggyBac、hAT、ヘリトロン(helitron)、Harbinger、En/Spm、ミューテーター(Mutator)、Transib、PogoおよびTc1−マリナー。
【0010】
マリナー可動遺伝因子(またはマリナー様エレメント、MLE)はクラスIIのTEの主要なグループを形成しており、Tc−1マリナースーパーファミリーに属している(Plasterk et al., 1999)。
【0011】
標的核酸、具体的には宿主の染色体中の標的核酸に挿入するために、目的の配列を含んでなる、多かれ少なかれ長く、相同または非相同なDNA断片を可動化するTEトランスポゼースの能力は、これまでに、および現在でも、バイオテクノロジーの分野、特に遺伝子工学の分野において広く利用されている。
【0012】
TEの中でも、MLEはバイオテクノロジー、特に遺伝子工学および機能ゲノミクスにおける利用に対して特に有利な特性を示す。例えば、限定されない態様において、以下の特性を挙げることができる:
(i)MLEは短く扱いやすいトランスポゾンである。
(ii)MLEの転移機構は単純である。事実上、トランスポゼースは単独でMLE転移の全工程を触媒することができる。さらに、これは宿主因子の非存在下でMLEの可動性を保証するのに必要かつ十分である(Lampe et al., 1996)。
(iii)MLEは原核生物および真核生物における極めて広範な遍在性により特徴付けられる。Mos−1とも呼ばれる最初のMLEであるDmmar1は、JacobsonおよびHartl (1985)によりDrosphila mauritianaにおいて発見された。続いて、多数の関連するエレメントが、特にバクテリア、原生動物、菌類、植物、無脊椎動物、変温脊椎動物および哺乳類に属するゲノムにおいて同定された。
(iv)MLEの転移活性は高度に特異的であり、メチル化干渉現象(methylation interference phenomena)[MIP;Jeong et al. (2002); Martienssen and Colot (2001)]のような、またはRNA[RNAi;Ketting et al. (1999); Tabara et al. (1999) ]による、宿主ゲノムの「耐性」機構を誘発しない。転移事象は温度、特定の2価陽イオンの存在およびpH等の各種要因により制御されうる。
【0013】
構造的には、マリナーMos−1エレメントは354アミノ酸のトランスポゼースをコードする単一のオープンリーディングフレーム(ORF)を含む、コンパクトな1286bpのエレメントである。該トランスポゼースは、DNAとの結合、2量体形成および4量体形成に関わるN末端ドメインと、DDE(D)パターンが触媒金属イオンに配位する活性部位を含むC末端ドメインとからなる。リーディングフレームには28±2bpの2つの逆方向末端配列(ITR)が隣接する。ITRとORFとの間に位置する2つの領域は翻訳されず、UTR(「非翻訳末端領域」)と呼ばれる。Mos−1の2つのITRは4個のヌクレオチドで配列が相違しており、これは本エレメントの天然の構造が転移に対して最適ではないことを示している。さらにこれは、Mos−1の3’側のITRが2つ隣接したシュードトランスポゾンでは、天然の構造であって5’側および3’側のITRが隣接したものよりも、イン・ビボでバクテリアにて10,000倍良好に転移することを示す実験によって確認されている(Auge-Gouillou et al., 2001b)。
【0014】
バイオテクノロジー、特に非ウイルスの遺伝子組み換えツールにおけるMLEの潜在的用途は注目に値する。
【0015】
典型的には、イン・ビトロでの挿入突然変異の用途においては、トランスポゼースをコードするトランスポゾンの遺伝子が、「標識された」DNAに置き換えられる。トランスポゼースはイン・トランスでタンパク質の形態で提供される。イン・ビボまたはイン・ビトロでの遺伝子導入用途においては、トランスポゼースをコードする遺伝子は導入されるべき外来DNAに置き換えられる(このようにして「シュードトランスポゾン」が得られる)。この場合、トランスポゼースはイン・トランスで発現プラスミド、メッセンジャーRNAまたはタンパク質そのものを介して供給される。しかし、現存の手段を用いた、すなわちマリナーシュードトランスポゾンを用いた外来DNAの導入には困難が伴い、特にこれは導入遺伝子の組み込み効率および特異性が極めて限定的であることによるものである。
【0016】
しかし、これら用途のそれぞれにおいては効率的な転移システムを有することが不可欠である。
【0017】
しかし、天然MLEの転移効率は他のTEと比べて低いままである。特に、MLEは他のクラスII MGEよりも真核生物において活性が低いと思われる。製造業者または研究者にとっては必要な転移を行うのに要する手順の数、費用および時間を減らすような効率的な転移ツールを有することが重要であるため、今日まで天然MLEに対する実際的な関心は非常に限られたものであった。利用可能な転移システムでは十分な効率が得られず、MLEトランスポゾンを用いて構築された組換え転移システムには不利益に鑑み、製造業者または研究者は現在のところ可能な限りウイルスによる遺伝子導入システムをその欠点にも関わらず利用することを優先する傾向がある。
【0018】
従って、現在、(i)遺伝子を効率的に導入することができ、(ii)宿主に対する免疫原性において十分な安全性を示し、(iii)宿主および環境の安全性を保証し(コンタミネーション、特に組換えウイルスの発生が起こらないこと)、(iV)作成が容易である、システムが必要とされている。
【0019】
本発明は、具体的には、Mos−1エレメントの利点(遍在性、転移活性、作成および使用の容易さ等)を利用し、同時に野生型の状態の該エレメントの低い転移効率と関連する欠点を改善した組換え転移システムを提供することにより、この要求を満たすことを可能にする。
【0020】
このように、現存する要求を十分な方法で満たすため、本発明者らは、ファミリー内で特に特徴が明らかになっているメンバーであり、唯一天然で活性のある、Drosophila mauritianaのMos−1 MLEエレメントに着目した。さらに、該Mos−1エレメントは真核細胞およびバクテリアの両者において活性があるという注目すべき利点を示しており、従って、効率的で遍在性の転移システムの開発におけるその重要性は明らかである。
【0021】
以下の詳細に記載される本発明の各種態様から明らかになるように、本発明者らは天然のMos−1転移システムを改善するいくつかのツールを提供する。これらのツールは単独で、または予想される用途に応じて組み合わせて用いてもよく、
i)高活性変異型Mos−1トランスポゼース、
ii)高活性組換えMos−1シュードトランスポゾン
を含んでなる。
【0022】
ここで、「シュードトランスポゾン」とは、トランスポゼースをコードする遺伝子が外来の塩基配列により置換されたトランスポゾンと定義される。従って、シュードトランスポゾンはITRおよびUTR末端を含んでなるがトランスポゼース活性を欠く。その結果、これには外部のトランスポゼースを伴わない限り転移の能力が無い。
【0023】
このように、本発明者らは、Mos−1トランスポゾンの高活性組換え誘導体の転移のためのシステムであって、少なくとも以下の2つのパートナー:
a)目的外来塩基配列が本来のMos−1トランスポゼースをコードする塩基配列を置換しているMos−1シュードトランスポゾン、および
b)上記シュードトランスポゾンにイン・トランスで提供されるMos−1トランスポゼース
を含んでなり、上記パートナーの少なくとも1つが目的外来塩基配列の転移頻度を少なくとも5に等しい倍率、好ましくは少なくとも10に等しい倍率で向上させるように適切に遺伝的に改変されているシステムに着目した。
【0024】
提供された組換え転移システムにおいて、2つのパートナー、すなわちシュードトランスポゾンおよびトランスポゼースは、遺伝的に改変されてもよい。このように、これらパートナーのどちらか、または両パートナーは、遺伝的に改変され、高活性であってもよい。
【0025】
本発明の「塩基配列」または「核酸」は、生物学分野における通常の意味に従ったものである。これら2つの表現はDNAまたはRNAのどちらも包含し、前者は例えばゲノムDNA、プラスミドDNA、組換えDNA、相補的DNA(cDNA);後者はメッセンジャーRNA(mRNA)、リボソームRNA(rRNA)、トランスファーRNA(tRNA)でありうる。好ましくは、本発明の塩基配列および核酸はDNAである。
【0026】
「活性」「機能」「生物活性」および「生物学的機能」という語および表現は同等であり、本発明の技術分野における通常の意味に従ったものである。本発明の範囲内において、問題となる活性は転移活性である。
【0027】
ここで、「高活性」とは、
a)目的外来塩基配列が本来のMos−1トランスポゼースをコードする塩基配列を置換しているMos−1シュードトランスポゾン、および
b)前記シュードトランスポゾンにイン・トランスで提供される野生型のMos−1トランスポゼース
を含んでなる天然のMos−1転移システムを用いて観察されるものよりも高い活性に相当する。
【0028】
さらに、本発明の「高活性」とは、
a)Mos−1シュードトランスポゾンであって、
(i)目的外来塩基配列が本来のMos−1トランスポゼースをコードする塩基配列を置換しており、
(ii)野生型の5’側に位置する逆方向末端反復配列(ITR 5’)が、3’側に位置する野生型の逆方向末端反復配列(ITR 3’)の完全なコピーであるように変異しているもの、および
b)上記シュードトランスポゾンにイン・トランスで提供される野生型のMos−1トランスポゼース
を含んでなる組換えMos−1を転移させるためのシステムを用いて観察されるものよりも高い転移活性を意味する。
【0029】
従って、前記シュードトランスポゾンは2つのITR 3’に境される(「シュードトランスポゾン 2 ITR 3’」または「シュードトランスポゾン3T3」)。ITR 3’の存在は天然のMos−1トランスポゾンに対して転移効率を向上させうることが既に報告されており(Auge-Gouillou et al., 2001b)、そのため、ある組換え転移システムが本発明による「高活性」であるかどうかを決定するための基準として、上記の組換えシステムがここで用いられる。以下、上記の基準組換えシステムを「基準(転移)システム」または「3T3(転移)システム」という。
【0030】
「転移効率」は転移頻度に従って決定される。転移効率は従って転移頻度が増加すると向上する。以下、「(転移)活性の向上」「転移の向上」または「(転移)効率の向上」という語は互換的に用いられ、これら全ての表現が「転移頻度の向上」、すなわちその増加を表す。
【0031】
「高活性」を定量するために、「倍率」又は「高活性倍率」がここでは用いられ、それは次の式に従った転移頻度の割合に等しい:
【0032】
高活性倍率(F)=(任意の組換え転移システムで観察された転移頻度)/(上記定義された3T3基準転移システムで観察された転移頻度)。
【0033】
すなわち、イン・トランスで提供されたMos−1トランスポゼースの存在下における、Mos−1シュードトランスポゾンに含まれる外来塩基配列の転移頻度と、イン・トランスで提供されたMos−1トランスポゼースの存在下における、基準Mos−1シュードトランスポゾンに含まれる場合の上記外来塩基配列の転移頻度(3T3システム)とが比較される。この転移活性の評価方法はこの分野における最も一般的な実践の一つである。
【0034】
本発明の範囲の目的とする組換え転移システムは、従って、転移を少なくとも5に等しい倍率で向上させうる。好ましくは、高活性倍率は少なくとも10に等しく、また好ましくは、それは少なくとも15に等しい。さらに好ましくは、それは少なくとも20、25、30、35、40、45、55、60およびそれ以上に等しい。
【0035】
以下の実施例から明らかになるように、シュードトランスポゾンおよび/またはトランスポゼースの遺伝的改変は、転移の高活性を誘導するその能力のために特異的に選択される。トランスポゼースおよび/またはシュードトランスポゾンおよび/または転移システムを高活性にする変異および組み合わせまたは変異はランダムでも予測可能でもない。適した変異の選択のため、本発明者らは当該分野において周知の転移試験を用いた。この試験は既に文献に(具体的にはAuge-Gouillou et al., 2001bにおいて)開示されており、所望により任意の他の好適な試験を適宜用いうる当業者の一般的な知識に属する。
【0036】
本発明の第1の態様は、Mos−1トランスポゾンの高活性組換え誘導体を転移させるためのシステムに関するものであり、該システムは少なくとも1つのMos−1シュードトランスポゾンと、イン・トランスで提供される1つのMos−1トランスポゼースとを含んでなる。
【0037】
第1の態様によれば、Mos−1トランスポゾンの高活性組換え誘導体を転移させるためのシステムは以下の2つのパートナー:
a)高活性Mos−1シュードトランスポゾンであって、
i)2つの非翻訳末端反復配列(UTR)のうちの少なくとも1つおよび/または2つの逆方向末端反復配列(ITR)のうちの少なくとも1つが遺伝的に改変されており、かつ
ii)目的外来塩基配列が本来のMos−1トランスポゼースをコードする塩基配列を置換しているものであり、
上記シュードトランスポゾンが、以下のシュードトランスポゾン:
α)ITR3’−UTR3’−目的外来塩基配列−UTR3’−ITR3’(シュードトランスポゾン33seq33)、
β)ITR3’−目的外来塩基配列−UTR3’−ITR3’(シュードトランスポゾン3seq33)、
γ)ITR3’−UTR5’−目的外来塩基配列−UTR3’−ITR5’(シュードトランスポゾン35seq35)、
δ)配列番号39の配列を有する少なくとも1つのITR40を含んでなるシュードトランスポゾン、および
ε)配列番号38の配列を有する少なくとも1つのITR46を含んでなるシュードトランスポゾン
から選択される、シュードトランスポゾン、
b)上記シュードトランスポゾンにイン・トランスで提供されるMos−1トランスポゼース
を含んでなり、上記システムの目的外来塩基配列の転移頻度が少なくとも5に等しい倍率、好ましくは少なくとも10に等しい倍率で向上する。
【0038】
本発明の範囲において、シュードトランスポゾンは次のように記載される:ITR−UTR−目的外来塩基配列−UTR−ITR。ITR3’−UTR3’−目的外来塩基配列−UTR3’−ITR3’という具体例の場合、33seq33または33T33という省略形となる。より具体的には、33T33という用語は、目的外来塩基配列がテトラサイクリン耐性遺伝子であるシュードトランスポゾンを指してもよい(具体的には下記実施例を参照)。必然的に、これは文脈から明瞭に明らかになるであろう。
【0039】
上記された通り、前記システムにおいてイン・トランスで提供されるMos−1トランスポゼースは、変異型Mos−1トランスポゼース、特に高活性変異型Mos−1トランスポゼースであってよい。例えば、好適な高活性変異型Mos−1トランスポゼースは、配列番号2の配列の以下の残基:F53、Q91、E137、T126およびY237から選択される少なくとも1つの残基における少なくとも1つの変異を含んでなる。
【0040】
ここで、本発明の好ましい転移システムは少なくとも2つの以下のパートナーを含んでなる:
a)配列番号39の配列を有する少なくとも1つのITR40を含んでなる高活性Mos−1シュードトランスポゾン、ならびに変異T216AおよびY237Cを含んでなる高活性変異型Mos−1トランスポゼース、
b)配列番号38の配列を有する少なくとも1つのITR46を含んでなる高活性Mos−1シュードトランスポゾン、ならびに変異T216AおよびY237C、または、E137KおよびT216A、または、F53YおよびT216AおよびY237Cを含んでなる高活性変異型Mos−1トランスポゼース、
c)高活性Mos−1シュードトランスポゾン3seq33、ならびに変異T216AおよびY237C、または、E137KおよびT216A、または、F53YおよびQ91R、または、F53YおよびQ91RおよびE137KおよびT216Aを含んでなる高活性変異型Mos−1トランスポゼース。
【0041】
第2の態様によれば、本発明の高活性組換え体を転移させるためのシステムは少なくとも2つの次のパートナー:
a)目的外来塩基配列が本来のMos−1トランスポゼースをコードする塩基配列を置換しているMos−1シュードトランスポゾン、および、
b)前記シュードトランスポゾンにイン・トランスで提供され、少なくとも:
配列番号2の配列における以下の残基:F53、Q91およびY237から選択される少なくとも1つの残基における1つの変異、および/または
変異T216A
を含んでなる高活性Mos−1トランスポゼース
を含んでなり、上記システムの目的外来塩基配列の転移頻度が少なくとも5に等しい倍率、好ましくは少なくとも10に等しい倍率で向上するものである。
【0042】
好ましくは、高活性Mos−1トランスポゼースは、変異F53Y、Q91R、T216A、Y237C、およびこれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの変異を含んでなる。さらに、残基E137において変異、具体的には変異E137Kを含んでいてもよいが、変異Q91R+E137K+T216AまたはF53Y+E137K+T216Aの組み合わせは除外される。
【0043】
有利には、このようなシステムにおいて、Mos−1シュードトランスポゾンの2つの非翻訳末端反復配列(UTR)のうち少なくとも1つ、および/または2つの逆方向末端反復配列(ITR)のうち少なくとも1つは遺伝的に改変されていてもよい。
【0044】
本発明の転移システムにおいて、野生型または遺伝的に改変されたMos−1トランスポゼースはイン・トランスでシュードトランスポゾンに提供される。この方法では、それは、発現調節エレメントの制御下で、ベクター上に配置された塩基配列にコードされてもよい。その結果、有利には、トランスポゼースの発現が誘導可能となる。このために、当業者は従来のプロモーターを用いることができる。例えば、周知のIPTG誘導性プロモーターpLacを用いてもよい。または、トランスポゼースはタンパク質または精製された機能性タンパク質画分の形態で転移システムに添加されてもよい。また、これはメッセンジャーRNAの形態で供給されてもよい。この場合、トランスポゼースの発現はメッセンジャーRNAの不安定性のため時間的に制限(数時間まで)がある。
【0045】
特に有利には、Mos−1シュードトランスポゾンに含まれる目的外来塩基配列は機能遺伝子である。本発明によれば、遺伝子は、対応する塩基配列が、オープンリーディングフレーム(ORF)、すなわち、野生型遺伝子産物の活性を示すアミノ酸配列を産生しうるコード配列を少なくとも含んでなる場合に「機能」的であるという。好ましくは、機能遺伝子は野生型遺伝子である。それにも関わらず、これは、変異遺伝子の産物が活性を維持していれば(該変異遺伝子の産物の活性が天然の遺伝子産物のものよりも低かったとしても)、1つまたは2つ以上の変異を含んでなる遺伝子からなっていてもよい。ここで「機能遺伝子」の定義は、それに対するプロモーターを欠いたコード配列も包含する。例えば、目的外来塩基配列は、それに対するプロモーターを欠く、もしくは欠いていない、抗生物質耐性遺伝子(例えばテトラサイクリン耐性遺伝子)または他の任意の適した選択マーカーであってよい。
【0046】
本発明によれば、「変異」とはバイオテクノロジーにおける通常の意味に従ったものである。ここで、変異は塩基配列中の1つもしくは2つ以上の塩基の、またはタンパク質配列中の1つもしくは2つ以上のアミノ酸の、置換、挿入または欠失でありうる。「変異」は特に塩基配列のコドンの少なくとも1つの塩基の置換を意味してもよく、該置換は例えば問題の塩基配列の翻訳の際に、結果として生ずるタンパク質配列中に天然のアミノ酸とは異なったアミノ酸の組み込みを誘導することを包含する。原則として、変異は変異産物の生物学的機能の喪失を誘発しないものであることが好ましい。一方、活性の低下については、変異エレメント(例えばシュードトランスポゾンおよび/またはトランスポゼース)が「高活性」(活性が対応する野生型エレメントよりも高くあるべき場合)でない限りは許容されうる。
【0047】
ここで、トランスポゼースが「高活性」であるとみなされ、またはシュードトランスポゾンが「高活性」であるとみなされるのは、これらを用いた際に観察される転移効率が上昇する場合である。問題のエレメント(シュードトランスポゾンまたはトランスポゼース)の活性の上昇は、本発明の組換え体を転移させるためのシステムにおいてそれらが用いられる際に測定される。高活性倍率がこのように測定され、得られた転移活性の水準が本発明の範囲で定義された基準値に達した場合にそのエレメントが「高活性」であると称される。
【0048】
原則的に「遺伝的改変」はこの場合1つまたは2つ以上の変異に相当すると理解されるべきである。コード配列が遺伝的に改変される場合、典型的には、そこに1つまたは2つ以上の変異が含まれる。しかし、これらの変異はコードされた産物の機能の喪失をもたらさないものである必要がある。一方、例えば遺伝的に改変されたMos−1トランスポゼースの場合、好ましくは、その活性の上昇(すなわち、高活性組換えトランスポゼース)が必要である。非コード配列(例えばITRまたはUTR)が遺伝的に改変される場合、1つまたは2つ以上の変異が含まれるか;または、個々の配列それ自体は改変されないが、この配列の反復数および/または配列のつながりにおける順番および/または前記配列の他の配列に対する向きが通常の構造に対して(例えば野生型Mos−1トランスポゾンに対して)改変されるか;のいずれかである。ITRまたはUTR等の非コード配列の遺伝的改変の例としては、特に、該配列の全体または一部の欠失、その環境中に存在する他の配列による置換等が挙げられる。つまり、配列の配置が異なることは、それらがコード配列であるか否かに関わらず、本発明の「遺伝的改変」の定義に含まれる。
【0049】
上記記載に従い、本発明の組換え体を転移させるためのシステムにおいて、Mos−1シュードトランスポゾンの2つの非翻訳末端反復配列(UTR)のうちの少なくとも1つおよび/または2つの逆方向末端反復配列(ITR)のうちの少なくとも1つが遺伝的に改変されている高活性Mos−1シュードトランスポゾンを用いることが可能である。
【0050】
好ましくは、シュードトランスポゾン 2 ITR 3’は、本発明の範囲で用いられる対象のMos−1トランスポゾンから除外される。先に明記したとおり、このシュードトランスポゾンは本発明の転移システムの高活性を測定するための基準として用いられる。
【0051】
一部の例では、高活性Mos−1シュードトランスポゾンの2つの非翻訳末端反復配列(UTR)のうちの少なくとも1つは遺伝的に改変されている。代わりに、またはそれに加えて、該高活性Mos−1シュードトランスポゾンの2つの逆方向末端反復配列(ITR)のうちの少なくとも1つは遺伝的に改変されている。
【0052】
上記に従い、そして、以下の実施例に例証されるように、高活性組換えMos−1シュードトランスポゾンの遺伝的に改変されたITRは、ITR40(配列番号39)およびITR46(配列番号38)と称されるITRSelex配列から有利に選択されうる。
【0053】
または、高活性組換えMos−1シュードトランスポゾンは特に以下の組み合わせから選択されるITRおよびUTRの組み合わせを含んでなっていてもよい:ITR 3’ + UTR 3’ / UTR 3’ + ITR 3’(33T33または33seq33という)、ITR 3’ / UTR 3’ + ITR 3’(3T33または3seq33という)。
【0054】
一部の態様においては、組換え体を転移させるためのシステムにおいてイン・トランスで提供されるMos−1トランスポゼースは、配列番号2の配列の以下の残基:F53、Q91、E137、T126およびY237から選択される少なくとも1つの残基における少なくとも1つの変異を含んでなるが、変異Q91R+E137K+T216AまたはF53Y+E137K+T216Aの組み合わせは除外される、高活性トランスポゼースである。本発明者らにより行われた実験の結果は、Mos−1トランスポゼースにどのような変異または変異の組み合わせを与えても高活性トランスポゼースを得ることは不可能であるということを示している。特に、今回除外された2つの変異の組み合わせでは転移が起こらなくなることが明らかである(下記の実験セクションを参照のこと)。従って、上記の除外された組み合わせにおいては、変異は拮抗的であると考えられうる。
【0055】
有利には、高活性Mos−1トランスポゼースは、変異F53Y、Q91R、E137K、T216A、Y237C、およびこれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの変異を含んでいてよく、変異Q91R+E137K+T216AまたはF53Y+E137K+T216Aの組み合わせは除外される。
【0056】
好ましくは、高活性Mos−1トランスポゼースは、T216残基における少なくとも1つの変異を含んでいてもよい。より好ましくは、少なくとも変異T216Aを含んでいてもよい。有利には、このような高活性トランスポゼースは、変異F53Y、Q91R、E137K、Y237Cおよびこれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの変異も含んでなっていてよく、変異Q91R+E137K+T216AまたはF53Y+E137K+T216Aの組み合わせは除外される。
【0057】
下記実験部分から明らかなように、特に有利な高活性Mos−1トランスポゼースは、以下の変異の組み合わせのうち少なくとも1つを含んでなる:
T216A+Y237C;F53Y+T216A+Y237C:少なくとも20に等しい高活性倍率;
F53Y+Q91R+E137K+T216A+Y237C:少なくとも30に等しい高活性倍率;
F53Y+E137K+T216A+Y237C:少なくとも45に等しい高活性倍率。
【0058】
別の態様、あるいはさらなる態様によれば、本発明の組換え体を転移させるためのシステムにおいてイン・トランスで供給されるMos−1トランスポゼースは、リン酸化可能な残基における少なくとも1つの変異を含んでなる高活性トランスポゼースであり、該変異は真核細胞(例えば植物、脊椎動物または無脊椎動物細胞)におけるリン酸化部位を抑制するものである。ここでまた、真核細胞において1つまたは2つ以上のリン酸化部位を抑制する、想定される変異は、明らかにタンパク質酵素機能に対し保存的である。好適な高活性変異型トランスポゼースが2003年1月28日付のフランス特許出願第03 00905号に記載されている。具体的には、前記トランスポゼースでは変異したリン酸化可能な残基が、配列番号2の以下の残基から選択される:T11、T24、S28、T42、T88、S99、S104、T135、S147、T154、S170、T181、S200、T216、T255およびS305。好ましくは、高活性トランスポゼースは、リン酸化可能残基T88における少なくとも1つの変異を含んでなる。有利には、リン酸化可能残基T11、T24、S28、T42、S99、S104、T135、S147、T154、S170、T181、S200、T216、T255およびS305における少なくとも1つの変異も含んでなる。具体的には、上記リン酸化可能な残基が、ここで真核細胞における1つまたは2つ以上の非リン酸化可能残基で置換される。
【0059】
原則として、本発明の範囲において、高活性組換え体または野生型Mos−1トランスポゼースは、安定に、原核細胞において有利に産生されうる。この場合、活性(または高活性)Mos−1および安定なトランスポゼースの原核宿主細胞による産生に適した方法は、少なくとも以下の工程を含んでなる:
a)活性トランスポゼースをコードする塩基配列の、発現ベクターへのクローニング、
b)cAMP依存性プロテインキナーゼ(pKa)の活性触媒サブユニットをコードする塩基配列の、発現ベクターへのクローニング;
c)上記発現ベクターによる上記宿主細胞の形質転換;
d)上記宿主細胞による上記塩基配列の発現;および
e)pKaによるリン酸化によって安定化された活性トランスポゼースの入手。
【0060】
または、工程a)およびb)のクローニングは単一の発現ベクターにおいて行われる。
【0061】
興味深いことに、このような方法はトランスポゼース精製工程も含んでなる。
【0062】
上記方法と関連するさらなる詳細については、当業者は2005年11月30日付のフランス特許出願第0512180号を参照してもよい。
【0063】
本発明の第2の態様は、高活性Mos−1シュードトランスポゾンに関するものであり、該高活性Mos−1シュードトランスポゾンは、
a)2つの非翻訳末端反復配列(UTR)のうちの少なくとも1つおよび/または2つの逆方向末端反復配列(ITR)のうち少なくとも1つが遺伝的に改変され、
b)目的外来塩基配列が本来のMos−1トランスポゼースをコードする塩基配列を置換してなり、
上記シュードトランスポゾンは、以下のシュードトランスポゾンから選択される:
α)ITR3’−UTR3’−目的外来塩基配列−UTR3’−ITR3’(シュードトランスポゾン33seq33)、
β)ITR3’−目的外来塩基配列−UTR3’−ITR3’(シュードトランスポゾン3seq33)、
γ)ITR3’−UTR5’−目的外来塩基配列−UTR3’−ITR3’(シュードトランスポゾン35seq35)、
δ)配列番号39の配列を有する、少なくとも1つのITR40を含んでなるシュードトランスポゾン、および
ε)配列番号38の配列を有する、少なくとも1つのITR46を含んでなるシュードトランスポゾン。
【0064】
このようなシュードトランスポゾンは、上記の高活性組換え体を転移させるためのシステムにおいて特に有用である。
【0065】
本発明の第3の態様は、本発明のシュードトランスポゾンを少なくとも1つ含んでなるベクターに関する。
【0066】
第4の態様においては、本発明は、
a)上記の組換え体を転移させるための1つのシステム、または
b)本発明の1つのシュードトランスポゾン、または
c)本発明の1つのベクター、または
d)それらの組み合わせ
を少なくとも含んでなる宿主細胞に関する。
【0067】
このような宿主細胞は原核細胞(例えばバクテリア、特にEscherichia coli)および真核細胞(特に植物、脊椎動物および無脊椎動物細胞)から選択される。
【0068】
本発明の第5の態様は、
a)本発明の1つの転移システム、または
b)本発明の1つのシュードトランスポゾン、または
c)本発明の1つのベクター、または
d)本発明の1つの宿主細胞、または
e)それらの組み合わせ
を少なくとも含んでなるキットに関する。
【0069】
例えば、このようなキットは特に、トランスポゼースに適合する緩衝液、転移反応を停止する「停止」緩衝液、1または2つ以上の対照DNA(反応対照)、反応後のシークエンシングに有用なオリゴヌクレオチド、コンピテントバクテリア、使用説明書等から選択される1つまたは2つ以上のエレメントも含んでいてもよい。
【0070】
第6の態様において、本発明は、上記手段、すなわち少なくとも:
a)1つの転移システム、または
b)1つのシュードトランスポゾン、または
c)1つのベクター、または
d)1つの宿主細胞、または
e)1つのキット、または
f)それらの組み合わせ
のうち少なくとも1つを用いることに関する。
【0071】
1つの態様において、これらの手段のうち少なくとも1つは、目的外来塩基配列の効率的なイン・ビトロまたはイン・ビボ(特に植物宿主細胞)またはエクス・ビボでの転移のために用いられる。
【0072】
他の態様によれば、これら手段のうち少なくとも1つは、目的外来塩基配列の効率的なイン・ビボでの転移を可能にすることを意図した医薬品の製造のために用いられる。
【0073】
または、これら手段のうち少なくとも1つは、目的転移性DNA配列(目的外来塩基配列)のイン・ビトロまたはエクス・ビボによる標的DNA配列内への転移により産生される医薬品の製造のために用いられる。例えば、本発明は、目的転移性DNA配列を標的DNA配列中に(例えばイン・ビトロまたはエクス・ビボで)転移させるすくなくとも1つの工程を含んでなり、該転移が本発明の少なくとも1つの手段により媒介される、医薬品の製造方法を提供する。従って、該医薬品は、転移がイン・ビトロで行われる場合はエクス・ビボで、または転移がイン・ビボで起こる場合はin situで製造されてもよい。
【0074】
本発明の範囲内で提供される手段は、例えば細胞を医薬品タンパク質(すなわち、治療的または予防的関心の対象であるタンパク質、例えばインシュリン、特定の抗体等)を発現するように改変しうるようにするものであってよい。上記手段は、欠損した生体機能を回復させるために細胞を「矯正(correct)」しうるようにするものであってもよい。さらなる態様によれば、これらの手段のうち少なくとも1つは、挿入突然変異のため、または核酸のシークエンシングおよび/もしくはクローニングのために用いられる。
【0075】
これらの用途は、原則的に(特に植物宿主細胞において)イン・ビトロまたはイン・ビボでの転移を利用することを伴うものであり、これは本発明の分野の当業者における一般的な知識の範囲内に含まれる(Ausubel et al., 1994; Craig et al., 2002)。イン・ビボ転移に関して、より具体的には、標的DNA配列は典型的には宿主のゲノムであり、該宿主は真核生物(例えば植物宿主細胞)もしくは原核生物といった生物、または、生物由来の組織、または、生物もしくは組織由来の細胞であってよい。
【0076】
いずれの場合も、本発明の手段が重要であると認められる多くの用途において、当業者に周知の従来の分子生物学的手法が利用される。
【0077】
本発明の第7の態様は、
配列番号2の配列の以下の残基:F53、Q91およびY237、から選択される少なくとも1つの残基における1つの変異、および/または
変異T216
を少なくとも含んでなる、高活性Mos−1トランスポゼースの使用であって、Mos−1シュードトランスポゾンに含まれる目的外来塩基配列の転移頻度を少なくとも5に等しい倍率、好ましくは少なくとも10に等しい倍率で向上し、上記Mos−1シュードトランスポゾンにおいて、上記目的外来塩基配列が本来のMos−1トランスポゼースをコードする塩基配列を置換している、使用に関する
【0078】
このようなトランスポゼースの使用は、具体的には上記の高活性組換え体を転移させるためのシステムにおいて行われる。
【0079】
具体的には、上記高活性Mos−1トランスポゼースは、変異F53Y、Q91R、T216A、Y237C、およびこれらの組み合わせから選択される、少なくとも1つの変異を含んでなる。さらに、残基E137における変異、具体的には変異E137Kを含んでいてもよいが、変異Q91R+E137K+T216AまたはF53Y+E137K+T216Aの組み合わせは除外される。
【0080】
実際には、高活性Mos−1トランスポゼースは一般的に発現調節エレメントの制御下の、ベクター上に配置された塩基配列によりコードされる。トランスポゼースの発現はこのように有利に誘導可能である。
【0081】
上記に従えば、高活性Mos−1トランスポゼースは、好ましくは高活性組換え転移システムに属し、ここで上記Mos−1シュードトランスポゾンにイン・トランスで提供される。具体的には、Mos−1シュードトランスポゾンに含まれる目的外来塩基配列は機能遺伝子である。さらに、Mos−1シュードトランスポゾンの2つの非翻訳末端反復配列(UTR)のうち少なくとも1つ、および/または2つの逆方向末端反復配列(ITR)のうち少なくとも1つは遺伝的に改変されている。実際には、ベクターに含まれるMos−1シュードトランスポゾンを用いるのが有利である。
【0082】
下記の実験部分において、本発明を、実施例および図面を用いて説明するが、これらに限定されない。
【実施例】
【0083】
第I部:高活性変異型Mos−1トランスポゼース(Tnp)
I− 材料および方法
I−A− 用いたベクター
I−A−1− 用いたプラスミドの記載
pGEM−T−Easyベクター(3.1kb)(Promega Charbonnieres France; cat. #A1360)は、PuおよびPrevシークエンシングプライマー(Ausubel et al., 1994)ならびにアンピシリン耐性遺伝子を含んでなる。これは、X−GalおよびIPTGの存在下、LBアンピシリンプレート上に得られたバクテリアのコロニーの青/白スクリーニングを可能にするLacZ遺伝子中に、PCR産物をクローニングするように考案されたものである。これを用いてpGEM−T(Tnp)(Auge-Gouillou et al, 2001)を生じさせた。これはpKK−233−2およびpCS2+ベクターにそれをサブクローニングする前にトランスポゼース突然変異生成のための鋳型として働く。
【0084】
pKK−Tnpベクター(5.6kb)は、IPTG誘導性Placプロモーターによりトランスポゼースの強い発現を可能にする。該プロモーターは調節不可能であり、天然の発現リーク(expression leakage)を示す。pKK−TnPはアンピシリン耐性遺伝子も含んでなる。このプラスミドはpKK−233−2ベクターから得られる(Clontech, Ozyme, Saint Quentin en Yvelines、フランス)。
【0085】
pMalC2x−TnpベクターはpMalC2x(New England Biolabs, Ozyme, Saint Quentin en Yvelines、フランス)から得られ、N末端でMBPタンパク質(マルトース結合タンパク質)と融合したトランスポゼースの発現を可能にする。これはアンピシリン耐性遺伝子を含んでなる。
【0086】
pCS2+−TnpベクターはpCS2+ベクター(Turner DL et al., 1994)から得られ、CMVieプロモーターの調節下で真核細胞においてトランスポゼースの発現を可能にする。このベクターはトランスポゼースをコードするメッセンジャーRNAに相当するイン・ビトロRNAを合成することも可能にする。転写はSP6プロモーターの調節下で行われ、RNAはポリアデニル化されている。
【0087】
pBC 3T3はMos−1マリナー様ドナープラスミドである(Auge-Gouillou et al, 2001)。これは2つのITR3’が隣接する「OFF」(すなわちプロモーターの無い)テトラサイクリン耐性遺伝子を有する。このため、転移したシュードトランスポゾンをプロモーター(「タギング(tagging)」プロモーター)下流に有するバクテリアのみがLBテトラサイクリンプレート上で選択される。該ベクターはクロラムフェニコール耐性遺伝子を含んでなる。
【0088】
pBC3Neo3(図3)はMos−1マリナー様ドナープラスミドである。これは2つのITR3’が隣接するSV40プロモーターの調節下のネオマイシン耐性遺伝子を有する。これは細胞ゲノム中にネオマイシン耐性遺伝子が組み込まれた真核細胞の選択を可能にする。この選択はG418(800μg/ml)を2週間用いて行われる。該ベクターはクロラムフェニコール耐性遺伝子を含んでなる。
【0089】
従って、プラスミドpBC 3T3およびpBC3Neo3は、5’に位置する野生型逆方向末端反復配列(ITR 5’)を、それが3’に位置する野生型逆方向末端反復配列(ITR 3’)の完全なコピーとなるように変異させたMos−1シュードトランスポゾンを有する。従って、このシュードトランスポゾンは2つのITR3’により境されている(「シュードトランスポゾン 2 ITR3’」)。該シュードトランスポゾンは野生型Mos−1トランスポゼースとともに基準転移頻度を決定するために用いられ、ここから本発明のシステムの使用と関連した高活性倍率が決定された。
【0090】
一般に、このタイプの構築物(シュードトランスポゾン)においては、「T」という文字がテトラサイクリン耐性をもたらすレポーター遺伝子を表す。
【0091】
pBC KS NeoはSV40プロモーター調節下のネオマイシン耐性遺伝子を有するプラスミドである。該ベクターはクロラムフェニコール耐性遺伝子を含んでなる。
【0092】
pGL3−Controlベクター(Promega;Cat.#E1741)はSV40プロモーター調節下のルシフェラーゼをコードする遺伝子を有するプラスミドである。これはアンピシリン耐性遺伝子も含んでなる。
【0093】
I−A−2− ベクターの構築
I−A−2−1− ベクターDNAの製造
各種構築物に対し、全てのアガロースゲルからのDNA溶出をWizard SV Gel and PCR Clean−Up system kit(Promega、フランス)を用いて行った。バクテリア培養液を用いたプラスミド少量調製を全てWizard Plus miniprep kit(Promega)を用いて行った。大量DNA調製をPureyield plasmid midiprep system(Promega)またはMidiprepもしくはMaxiprep kit(Qiagen)を用いて行った。
【0094】
I−A−2−2− 変異体を得るための特異的突然変異誘発
特異的突然変異誘発を、Quikchange site directed mutagenesis kit(Stratagene)のプロトコルに従って行った。変異を導入するのに用いたオリゴヌクレオチドはMWG Biotech(Roissy CDG)により合成された。PfuポリメラーゼおよびDpn1酵素はPromega(フランス)より供給された。手短に述べると、導入すべき変異は2つの相補的なオリゴヌクレオチドに含まれている。プラスミド全体をPCR(95℃1分の後、16サイクルの95℃30秒間、55℃1分間、68℃2分間/プラスミドkb)によって増幅した。PCRの鋳型として用いたプラスミドをDpn1で消化した(37℃1時間、2−3u/50μlのPCR)。次いで、Dpn1処理後の2−3μlのPCRでケモコンピテントXL1BlueまたはエレクトロコンピテントJM109バクテリアを形質転換した。
【0095】
特異的突然変異誘発に用いたオリゴヌクレオチド配列を下の表1に示し、該変異を太字のヌクレオチドで明示する。
【表1】
【0096】
I−A−2−3− トランスポゼース配列の確認
pGEM−T−easyプラスミドにクローニングされたトランスポゼースへの変異の導入をシークエンシングによって確認した。このために、10マイクロリットルのDNA少量調製物をシークエンシングのためにMWG Biotechに送付した。用いたプライマー(Puniv −21およびPrev −49)はこの会社により供給された。
【0097】
I−A−2−4 pKK−233−2プラスミドへの変異型トランスポゼースのサブクローニング
野生型または変異型トランスポゼース(Tnp)をコードする断片をpGEM−Tベクター(Tnp)からNco1/HindIII消化により調製し、0.8%アガロースゲル(TAE1X:0.04M Tris−アセテート、1mM EDTA pH8)上で溶出した。pKK−233−2プラスミドをHindIII/Nco1により消化し、アガロースゲル上に置き、溶出し、Mos−1トランスポゼース(Tnpと呼ぶ)をコードする断片と16℃で一晩ライゲートした。トランスポゼースをコードする断片の非存在下で該プラスミドのライゲーションを行うことにより、プラスミド再環状化セルフチェックを行った。
【0098】
ライゲーション産物を用いて、E. coli JM109バクテリアを転換し、次いで該バクテリアをLB−アンピシリンプレート(100μg/ml)上で選択した。4個のアンピシリン耐性クローンを培養にかけ、プラスミド抽出を行った。DNA少量調製物をEcoR1/HindIII消化後0.8%アガロースゲル(TAE 1X)上で電気泳動することにより試験し、それらがトランスポゼースをコードする遺伝子を組み込んだことを確かめた。
【0099】
I−A−2−5− 変異型トランスポゼースのpMalC2Xプラスミドへのサブクローニング
pMalC2Xへのサブクローニングのため、トランスポゼースをコードする遺伝子を、MTP upおよび3’ HindIIIプライマー:
MTP up:5’−TACGTAATGTCGAGTTTCGTGCCG(配列番号33)
3’HindIII:5’−CCCAAGCTTATTCAAAGTATTTGC(配列番号34)
を用いたPCRによって再増幅する必要があった。
【0100】
サイクル条件:95℃5分間に続き、20サイクルの(95℃30秒間、50℃1分間、72℃1分間)の後、72℃5分間。
【0101】
次にPCR産物をゲル上に置き、50μlに溶出し、pGEM−T easy plasmidにクローニングした(1μlのベクター+2μlの溶出したPCR産物)。16℃での一晩のライゲーションの後、該ライゲーション産物をJM109細胞にエレクトロポレーションで転換し、該バクテリアを、1mM IPTG 2% X−Galを含んだLBアンピシリンプレート(100μg/ml)上で選択した。2つのアンピシリン耐性ブランククローンを培養にかけ、プラスミドDNAを抽出した。EcoR1消化および0.8%アガロースゲル(TAE 1X)上での電気泳動によりクローニングを試験後、該プラスミドをシークエンシングのためにMWG Biotechに送付した。
【0102】
配列の確認後、トランスポゼースをコードする断片をSnaB1/HindIII消化により調製し、ゲル上で溶出した。これをXmn1/HindIIIで切断したpMalC2Xプラスミドにライゲートした。JM109バクテリアを次に該ライゲーション産物で転換し、LBアンピシリンプレート(100μg/ml)上に塗布した。
【0103】
I−A−2−6− pCS2+プラスミドへの変異型トランスポゼースのサブクローニング
野生型または変異型トランスポゼース(Tnp)をコードする断片をEcoR消化によりpGEM−T(Tnp)ベクターから調製し、0.8%アガロースゲル(TAE1X:0.04M Tris−アセテート、1mM EDTA pH8)上で溶出した。pCS2+プラスミドをEcoR1で切断し、脱リン酸化し、トランスポゼースを含んだ断片とライゲートした。該ライゲーション産物をJM109バクテリアで形質転換し、クローンをLBアンピシリンプレート(100μg/ml)上で選択した。8個のクローンを培養にかけ、プラスミドDNAを抽出した。インサートの存在およびその向きを、Pvull/BamH1またはPvull単独による消化と、TAE 1X中の0.8%アガロースゲル上での電気泳動とにより判断した。該クローンは、遺伝子がセンス(sense)に挿入され、SP6プロモーターの調節下でトランスポゼースに対応するmRNAの転写が可能である際に+senseと示される。該クローンは、該遺伝子がSP6プロモーター調節下における転写とは反対のセンスに挿入される際に−senseと示される。
【0104】
I−B− バクテリアにおける変異型トランスポゼースの活性の分析:バクテリア転移試験
Escherichia coli JM109バクテリアを、pBC 3T3プラスミド(転移レポーター 2 ITR 3’マリナー様エレメントおよびクロラムフェニコール耐性遺伝子を含んでなる)、ならびにアンピシリン耐性遺伝子を含んでなりトランスポゼースをコードする誘導可能なベクター(pKK−TnpまたはpMal−Tnp)で、同時形質転換した。バクテリアの選択をアンピシリン(100μg/ml)およびクロラムフェニコールで行い、該2つのプラスミドの存在を確認した。
【0105】
pBC 3T3プラスミドおよびpKK−Tnp(またはpMalC2X−Tnp)プラスミドの両者を含んだJM109バクテリアを250μlのLB中、1時間37℃で培養にかけた。次いでこの種菌を、1mM IPTGを補った5mlのLBに注いだ。該培養物をLBプレート上(100μlの1/1000希釈物)およびLB−Tetプレート上(12.5μg/ml)(250μlの無希釈培養液)でタイター測定(titrate)した。次に、IPTGで誘導された培養物を、撹拌下(250rpm)、5時間32℃(トランスポゼースの至適温度)で培養した。次いでバクテリア懸濁液をLBプレート上(100μlの1/250,000希釈物)およびLB−tetプレート上(100μlの無希釈バクテリア懸濁液)でタイター測定した。該プレートを37℃に一晩置いた。次の日、LBおよびLB−Tetプレート上でコロニーを計数し、転移頻度(1mlの無希釈バクテリア懸濁液あたり、テトラサイクリンバクテリアの数をバクテリアの数で割ったものに等しい)を算出した。
【0106】
I−C− 真核細胞における変異型トランスポゼースの活性の分析
I−C−1− 細胞トランスフェクション
トランスフェクションの前日、6ウェルプレートにウェルあたり2.105個のHeLa細胞を分配した。次の日、該細胞を3μgのDNA(750ngのpGL3−Control、750ngのpCS2/Tnp、1500ngのpBC3T3)およびPEI(1/10比)(Eurogentec)でトランスフェクトした。各条件を二重に試験した。
【0107】
トランスフェクションの2日後、細胞を溶解してルシフェラーゼ活性を評価することにより、トランスフェクション効率を評価した。第2のウェルの細胞をトリプシン処理し、2つの10cm径の培養皿中、G418選択剤(800μg/ml)の存在下で培養にかけた。培地を2日ごとに交換し、15日間選択圧を維持した。条件当たり5個のクローンを単離し、選択圧(200μg/mlのG418)のもと15日間増やした。
【0108】
I−C−2− クローンの分子分析
各種クローンのゲノムDNAを抽出し、制限酵素処理後にサザンブロット分析にかける。この方法は各種G418抵抗性カセット挿入部位を分析するために用いられる。シークエンシング分析により、実際の転移イベントを示すジヌクレオチドTAの重複の存在を確認することができ、ランダムな、およびトランスポゼース依存の、組換え事象の頻度を評価することができる。
【0109】
II− 結果
Mos−1マリナー転移の全工程を真核細胞よりも単純なシステムにおいて分析できるように、バクテリア分析モデルを開発した。このシステムを使用することにより、様々な時点において、各種変異型トランスポゼースの転移効率を評価することが可能になった。
【0110】
単純な変異で得られた結果を、誘導後の転移時間T0について図6Aおよび6Bに示す。これらの結果は野生型トランスポゼースに対するメジアン増加倍率(median increase factor)として表されている。最も有利な変異はポジションE137、Q91、Y237、T216に位置する変異である。同様な分析を誘導後の転移時間T=5時間について行ったものは、図6Cおよび6Dに図示される結果を示した。
【0111】
最も有望な変異を組み合わせて多重変異体を作成した。7つの2重、3つの3重、2つの4重、および1つの5重の変異体を下記の表2のようにして得た。
【表2】
【0112】
多重変異体で行った転移試験の結果を図6Eないし6Hに記録する。
【0113】
一部の組み合わせ(Q91E E137K T216A;F53Y E137K T216A)においては転移の完全な喪失が引き起こされた。他の組み合わせではT0の時点で少なくとも6倍に転移が向上した(図6E)。最も有利な組み合わせはF53Y Q91R E137K T216A、F53Y E137K T216A Y237Cおよび5重の変異体の組み合わせである(図6Eおよび6F)。
同様の結果が5時間の転移時間で得られた(図6Gおよび6H)。
【0114】
留意すべきは、Mos−1トランスポゼースの一部の特性に対して効果を有するとして文献にも記載されている変異は、高活性変異型Mos−1トランスポゼースを同定する必要がある場合においてほとんど有利ではないことである。例えば、Mos−1トランスポゼースのタンパク質相互作用生成能力を改変するとしてZhang et al. (2001)に示されている変異S104Pの場合がそうである。彼らの研究の範囲内において、本願発明者らは実際に、この変異が、バクテリアにおける転移試験を用いた際に、Mos−1トランスポゼースの転移活性の完全な消滅をもたらすことを観察した(不掲載データ)。
【0115】
第II部:高活性組換えMos−1シュードトランスポゾン
I− ITR(逆方向末端反復配列)
簡単に述べると、組み合わせ法によって1組のITRを得ることからなるSELEX法を用いて、最適化されたITR配列の検出を行った(図7)。トランスポゼースが適切に機能することに対して重要であることが公知の、一部のポジションのみを維持した。従って、他のヌクレオチドの性質はランダムに変化した。各種ITRを選択し、トランスポゼースを固定する能力を向上させた。選択されたITRの中でも、一部のみがリターデーションゲル(EMSA technique)内でトランスポゼースを遅延させることができた。改変したITRと結合したトランスポゼースをバクテリア中での転移試験において試験し、転移効率に対するITR配列の変化の影響を評価した。(例えば野生型配列に対して1または2つのヌクレオチドに影響する)一部の構成に関して、有意な倍率、具体的には少なくとも5に等しい倍率で転移効率が向上した。
【0116】
I−1− 材料および方法
a)SELEX法の開発
本発明の組換えMos−1シュードトランスポゾンおよび転移システムの性能を向上させるため、SELEX法の使用により、本発明者らはトランスポゼースに対して野生型ITRよりもより高い親和性を示すITRを選択することができた。
【0117】
1990年に記載されたSELEX法(Ellington et al., 1990; Tuerk et al., 1990)は、特異的性質、例えばタンパク質に結合する能力によって、1015超の異なる分子を含んだ混合物中の核酸を選択することを可能にする。この方法の一般的原理は、特異的な標的分子を異なる配列(RNA、1本鎖または2本鎖DNA)の混合物とともにインキュベートすることからなる。標的分子と結合しうる画分を、クロマトグラフィーカラム、免疫沈降または他の任意の適した精製法により、残りの核酸から単離する。続いて、濃縮された画分をPCRまたはRT−PCRにより増幅し、別の選択ラウンドに用いる。選択および増幅のサイクルの反復により、初期の混合物を「アプタマー」とも称される機能性オリゴヌクレオチドで富ませることが可能である。選択および増幅のサイクルの数の増加が大きくなるほど、アプタマーの量の増加が大きくなり、ひいてはオリゴヌクレオチド集団中でそれらが優勢になる(Selex法に関する概説はKlug et al., 1994を参照のこと)。
【0118】
下記の2つのSELEX法が本発明者らにより開発された。
A1)トランスポゼースの調達
トランスポゼース(Tnp)によるITR結合特性とマルトース結合タンパク質(MBP)によるマルトース結合特性とを結びつけた組換えタンパク質を用いた。バクテリアで産生され、MBP−Tnpと称されるこの組換えタンパク質は、N末端に位置するトランスポゼースの特異的結合ドメインを介してITRに結合し、MBPがマルトースカラム上でITR/トランスポゼース複合体を精製することを可能にする。
【0119】
A2)変性配列(degenerated sequence)ITRの性質
SELEXを行うため、79塩基を有するオリゴヌクレオチドの混合物がMWG Biotechにより合成された。これらオリゴヌクレオチドの一般的な構造は、各25塩基を有するRおよびFプライマー配列が各末端に隣接した、29塩基を有する変性ITRの配列を含んでなる。5’−CAGGTCAGTTCAGCGGATCCTGTCG−3’(配列番号35)および5’−GAGGCGAATTCAGTGCAACTGCAGC−3’(配列番号36)の配列をそれぞれ有するこれらのプライマーにより、SELEXの次の工程において、選択されたITR配列のPCRによる増幅が可能になった。
【0120】
2つの別々のオリゴヌクレオチド混合物を合成した;29塩基を有するITRが14箇所のポジションで変性されているもの(ITR14)、およびITRが21箇所のポジションで変性されているもの(ITR21)である。全てのマリナーサブファミリーエレメントにおいて100%保持されているポジションはITR14およびITR21において維持されたが、60/80%保持されているポジションはITR14においてのみ維持された。ITR14は2.7x108種類の配列に相当し、ITR21は4.4x1012種類の配列に相当した。
【0121】
この方法の有効性を実証するため、Mos−1 ITR3’を対照として用いた。
トランスポゼースは2本鎖DNAに結合することから、第1のSELEXラウンドの前にITR14およびITR21のそれぞれをPCRにより2本鎖にした。
【0122】
A3)SELEX法1の原理
この方法を図8に図解する。ここでは、14または21箇所のポジションが変性されている29ヌクレオチド(nt)を有するITRと、ITR14およびITR21の末端に隣接する、25ヌクレオチドを有する2つのRおよびFプライマーとから形成される、1本鎖DNA鋳型(ss)のプールが用いられる(a)。鋳型をPCRにより2本鎖(ds)にする(b)。次いで、これらを放射標識し(c)、樹脂およびMBP−Tnp融合タンパク質(図を簡単にするためにTnpという)またはMBPとともに溶液中でインキュベートする(d)。相互作用反応(interaction reaction)を24時間4℃で行う。カラムを洗浄後、マルトース溶液を用いてDNA/タンパク質複合体を精製する(e)。回収された溶出液は、鋳型がMBP−Tnpとともにインキュベートされた場合はTnp/ITR溶出液と呼び、鋳型がMBPとインキュベートされた場合はMBP溶出液という。各SELEXラウンド後の選択をモニターするために、各溶出液の一部をナイロンメンブレン上に置き、カウントする(f)。各SELEXラウンドにおいて選択された鋳型をPCRにより増幅する(g)。次いで、増幅産物をアガロース上で試験する。目的とする断片を精製し(h)、別の選択ラウンドで用いる。
【0123】
* DNA/タンパク質結合工程:
各SELEXラウンドにおけるITRの選択をモニターするため、T4ポリヌクレオチドキナーゼを用いて、またはPCRにより、塩基配列を放射標識した。MBP−Tnp、放射標識したITR14またはITR21、およびマルトース樹脂の溶液中でのインキュベーションにより、標的配列を選択した。
【0124】
並行して2つの対照実験を行った。DNAに対して特異的親和性を有しないMBPをITR14またはITR21とインキュベートすることにより、ネガティブコントロールでDNA/タンパク質相互作用の特異性が保証されうるようにした。ポジティブコントロールはITR3’を、一方でMBP−Tnpとともに、他方でMBPとともに、インキュベートすることからなった。
【0125】
*洗浄工程および溶出:
タンパク質をその標的配列に結合した後、複合体を分離させることなく全ての未結合オリゴヌクレオチドを除くために洗浄工程を行った。樹脂をマルトースで飽和させることにより、維持されている複合体の溶出を行った。2種類の溶出液を得た。Tnp/ITR溶出液は、MBP−Tnp組換えタンパク質とともに標的オリゴヌクレオチドをインキュベートする実験のシリーズを溶出することにより生成された。MBP溶出液は、前記標的ITRをMBPと相互作用させるカラムを溶出することにより生成された。
【0126】
*選択された配列の増幅工程:
ITR配列に隣接するRおよびFプライマー(配列番号35および36)の存在により、選択されたITRの増幅をTnp/ITR溶出液およびMBP溶出液に対して直接行った。選択が有効であった場合、Tnp/ITR溶出液に含まれる鋳型の増幅に対して、(79bpを有する)特異的PCRシグナルが認められるが、MBP溶出液の鋳型に対しては認められない(MBPはITRに対して親和性を有しないため)必要があった。この陽性の断片をアガロースゲルから溶出し、T4ポリヌクレオチドキナーゼで放射標識した。一部のPCRサイクルで増幅工程中に直接標識を行った。
【0127】
その後、このアンプリマ−(amplimer)を、Tnp純化配列(Tnp refined sequence)に富む標的として次のSELEXラウンドで用いた。
【0128】
A4)SELEX法2の原理
本発明者らによって行われた研究により、ITR3’およびITR5’は同一の解離定数を有するが、トランスポゼースに結合するその能力は異なっていることが証明された。ITR5’存在下における活性タンパク質の量はITR3’の存在下で観察されるものよりも10倍低い。これは、ITR3’がITRと結合するトランスポゼースの能力の活性化因子として働くことを示している。従って、情報の2つのアイテムがITRに含まれている。第1のアイテムはタンパク質活性化の効果(Bmaxに対する影響)を有しており、第2のアイテムはITRに対するトランスポゼースの親和性(Kdに対する影響)を調節する。これらのデータを説明するため、SELEX法2が本発明者らにより開発された。この方法の原理はSELEX法1のものと同一である。しかし、マルトースカラムへの結合の前に、DNA鋳型がタンパク質とともに5分間4℃でインキュベートされる。この方法はこのように、トランスポゼースを活性化し、それと結合する能力を有するITRを選択することを可能にするはずである。
【0129】
A5)プロトコル
原則として、本発明者らによって用いられる実験手順は当業者に周知の常法を基盤としている(Ausubel et al., 1994; Sambrook and Russel, 2001)。
【0130】
(i)鋳型調製
* 追加の鎖(Supplementary strand)の合成
トランスポゼースは2本鎖の形態のDNAにのみ結合する。標的オリゴヌクレオチドであるITR14およびITR21の追加の鎖の合成を、プライマー伸長法により行った。反応はSELEX法1および2について行った。
【0131】
* DNA断片の精製
PCR産物を1XTAE緩衝液中の3%Nusieveアガロースゲル(FMC)上で分析した。次いであらゆる微量のコンカテマーを除去するために、DNA断片をアガロースゲルを用いて精製した。
【0132】
* ITR14およびITR21の放射標識
配列の放射標識により、各SELEXサイクルで選択の進行をモニターすることが可能になった。[γ32 P]ATP(4500Ci/mmol超の比放射能)による標識を、T4ファージポリヌクレオチドキナーゼ(PNK)を用いて行い、[α32 P]ATP(3000Ci/mmol超の比放射能)による標識を、RおよびFプライマー(配列番号35および36)の存在下でPCRによって行った。
【0133】
(ii)トランスポゼースによる標的の選択
* DNA/タンパク質結合工程
マルトース樹脂(New−England Biolabs)を緩衝液1(20 mM Tris pH9、50mM NaCl、1mM DTT)で平衡化した。溶液中でのインキュベーションを、最終容量1mlの緩衝液1中で、200μlの樹脂とともに、50μgのMBP−TnpまたはMBPタンパク質;200ngのITR14、ITR21またはITR3’;競合物としての2μgのITR5’;5mMのMgCl2および2μgのサケ精子DNAを順次加えて行った。SELEX法1の相互作用反応を、24時間4℃において持続的な撹拌(300rpm)の下で維持した。SELEX法2においては、DNA鋳型およびMBP−TnpまたはMBPタンパク質を、マルトースカラムに通す前に、5分間4℃でインキュベートし、相互作用反応を1時間だけ4℃で維持した。
【0134】
* 樹脂洗浄工程および複合体溶出
インキュベーションの終わりに、樹脂を洗浄し、タンパク質/ITR複合体を溶出した。全ての複合体を回収するため、2回の連続した溶出を行った。
【0135】
(iii)選択された配列の増幅工程
各SELEXラウンドの後、次のSELEXラウンドで用いる前に、Tnp/ITRおよびMBP溶出液中に含まれる選択された鋳型を増幅した。
【0136】
PCR反応は15ないし30サイクル、典型的には20サイクル(寄生的な(parasitic)断片増幅の場合は15サイクル)を含んでなった。
【0137】
ITR14およびITR21の増幅のために用いられた反応媒質は、50μlの最終容量中に、鋳型:10μlのTnp/ITR溶出液または10μlのMBP溶出液、5μlの10X緩衝液の存在下;200μMのdNTP;2.5mMのMgCl2;1μMのRおよびFプライマーならびに5Taqポリメラーゼユニットを含んでいた。アガロースゲル上では、Tnp/ITR溶出液を用いた増幅は79bp、およびITR3’(ポジティブコントロール)については300bpのバンドを生成する必要がある。PCR産物を、アガロースゲルを用いて精製し、PNKを用いて標識し、別のSELEXラウンドに用いた。
【0138】
第5のSELEXラウンドにおいて、[α32 P]ATPによる標識のために放射性物質の存在下でPCRを行った。
【0139】
b)選択された配列のクローニングおよびシークエンシング
SELEX法1のラウンド数7およびSELEX法2のラウンド数8からの精製されたPCR産物を、供給業者が推薦する条件下でpGEMT−Easyプラスミド(pGEMT−Easy Vector system kit、Promega)中にクローニングした。pGEMT−easyへのライゲーションを、SELEX法1のITR14断片、SELEX法2のITR14断片、SELEX法1のITR21断片およびSELEX法2のITR21断片を用いて生成した。このライゲーションを用いてDH5αコンピテントバクテリアを形質転換した。各ライゲーションの20個の組換えクローンのプラスミドDNAを1本鎖シークエンシングにより分析した。配列のアラインメントはwww.infobiogen.frのサイトで入手可能なCLUSTALWソフトウェアを用いて行った。
【0140】
c)クローン配列の迅速なスクリーニング
潜在的なITRのそれぞれを、トランスポゼースへの結合の能力について、ゲルリターデーションにより試験した。そのために、ITRをMBP−Tnp存在下でインキュベートした。これはトランスポゼースがITRに結合している場合に移動の遅延をもたらすはずである。第1に、PCRによって放射標識されたDNAを、精製することなく、タンパク質の存在下でインキュベートすることにより、迅速ITRスクリーニングを行った。第2に、人為的な配列増幅によって生ずるバックグラウンドノイズを除くためにゲルリターデーションを行った。
【0141】
C1)クローニングした配列の放射標識
(i)PCR標識
80個のITRを選択した。これらのITRを、[α32 P]ATPおよびpUおよびpREVユニバーサルプライマーの存在下で、プラスミドDNA少量調製物を用いて、PCRにより標識した。
期待される増幅断片の長さは79bpであった。
【0142】
(ii)Klenowフィル(Klenow fill)標識
迅速スクリーニング後の陽性ITRを、EcoRI酵素による消化後にアガロースゲル上で精製した。これによりRおよびFプライマーを除くことができた。ITR3’をpBluescript−ITR3’プラスミドのEcoRIおよびBamHI酵素による消化後に精製した。前記の精製断片を、Klenowサイトフィル(Klenow site fill)法を用いて[α32 P]ATPで放射標識した。
【0143】
C2)DNA/タンパク質複合体形成
(i)迅速スクリーニング
迅速スクリーニングを行うため、ITR/タンパク質複合体を、最後のSELEX反応サイクル後にPCRにより標識された配列を用いて、あらかじめ精製することなく、形成させた。該配列はRおよびFプライマーにより隣接されたITRを含んでいた。相互作用反応は、最終容量20μlで:40μgのMBP−TnpまたはMBPタンパク質;1μlの放射性PCR反応;1μgのサケ精子DNA;2μlの50%グリセロール;5mMのMgCl2および0.5μMのpRevを含んでいた。遊離プローブを1μlの放射性PCR、2μlの50%グリセロールおよび17μlの緩衝液を用いて調製した。相互作用反応を15分間4℃で維持した後、ポリアクリルアミド上での分析を行った。
【0144】
(ii)精製したプローブに対するゲルリターデーション
Tnpとのインキュベーション後に移動の遅延が生ずる配列(陽性ITR)を、精製DNA断片を用いたさらなるゲルリターデーションにかけた。ITR/タンパク質複合体を:40μgのMBP−Tnpタンパク質;1nMのITRプローブ;1μgのサケ精子DNA;2μlの50%グリセロール;5mMのMgCl2および0.5μMのpRevを含んだ最終容量20μl中で形成した。ITRのみのものは2μlの50%グリセロールおよび17μlの緩衝液を含んだ混合物中で1nMの最終濃度で用いた。相互作用反応を15分間4℃で維持した後、ポリアクリルアミドゲル上での分析を行った。
【0145】
d)競合試験
これらの試験の原理を図9に図解する。この試験により、放射標識ITR3’のトランスポゼース結合をシフトさせるITRSelexの能力が証明されうる。シフトが大きいほど、ITR3’に対するITRSelex配列の「向上」も大きい。実際には、トランスポゼース結合反応は、10 mMのTris pH9緩衝液、0.5mMのDTT、5mMのMgCl2、5%(容量/容量)のグリセロール、1μgのニシン精子DNAおよび100ngのBSAを含んだ20μl中で、15nMの放射標識ITR3’および非放射標識ITRSelexの存在下で行う。試験した非放射標識ITRSelexの濃度は、0nM、15nM、75nM、150nM、300nM、750nM、1500nMであった。
【0146】
e)pBC3TSelexプラスミド構築
8個のSelex ITRの挙動をバクテリア中でイン・ビボで分析するため、pBC3T5プラスミドから一連の8個のプラスミドを構築した。pBC3T5プラスミドは、Mos−1 ITR3’および5’が隣接する、プロモーターの無いTet(テトラサイクリン耐性遺伝子)ORFを含んでいる。このTet遺伝子(Xba1およびHindIII制限酵素部位の間にクローニングされている)は、クロラムフェニコール耐性遺伝子およびLacZタンパク質をコードする遺伝子に対して逆方向となっている。ITR3’はpBCKS+プラスミドのKpnI制限酵素部位によって5’を、SalI制限酵素部位によって3’を区切られている。ITR5’はpBCKS+プラスミドのSacI制限酵素部位によって5’を、NotI制限酵素部位によって3’を区切られている。pBC3T5プラスミドのITR5’はNotIおよびSacIによる二重消化後にITRSelexで置換され、pBC3TSelexプラスミドを生成した。ITRSelexはMWG Biotech(ドイツ)により1本鎖オリゴヌクレオチドの形態で合成された。2本鎖ITRSelexの形成は、付着性(cohesive)NotIおよびSacIハーフサイト(half-site)を生成するようにしてハイブリダイゼーションにより行った。付着性オリゴヌクレオチドは、5’でITRSelexに隣接するTAジヌクレオチドがシュードエレメントの外側に配置されるように設計した。pBC3TSelexプラスミドを生成するため、前記のリン酸化2本鎖オリゴヌクレオチドを、前記の2つの酵素で方向付けられたベクターにT4リガーゼDNAにより結合した。以下、該プラスミドを、pBC3TsまたはpBC3TSelexの後にITRSelex番号を付記した名称でいう。
【0147】
f)転移試験
実験プロトコルの詳細な説明を上記第I部の段落I−Bに示す。
これらの試験は10ngのトランスポゼースドナープラスミド(pKK−TnpまたはpKK)および10ngのシュードトランスポゾンドナープラスミド(pBC3TSelex)で同時形質転換したJM109 E. coliバクテリアにおいて行った。これらのバクテリアをアンピシリンおよびクロラムフェニコールを含有する培地上で選択した。これらの試験(「方法I」)の操作条件を図10に記載する。
【0148】
I−2− 結果
a)SELEXで得られたITR候補配列のスクリーニング
本発明者らによって開発されたSELEX法では79bpを有するオリゴヌクレオチドの混合物が用いられ;該オリゴヌクレオチドは29bpを有するITRから形成され;該ITRは14または21箇所のポジション(ITR14およびITR21)において変性されており、かつその末端において25bpを有するRおよびFプライマー(配列番号35および36)が隣接している。これにはMos1トランスポゼース(基準Tnp)およびMBPを融合した組換えタンパク質も用いられる。
【0149】
2種のSELEX法を開発した。これら2種の方法の一般的な原理は同一である。SELEX法1では、オリゴヌクレオチド、タンパク質およびマルトース樹脂を同時にインキュベートする。SELEX法2においては、鋳型をタンパク質と5分間4℃でインキュベートし、その後マルトース樹脂と接触させる。
【0150】
SELEX法1のラウンド7およびSELEX法2のラウンド8において選択されたITR14およびITR21の配列をクローニングした。各方法において、ITR14に対応する20個のクローンとITR21に対応する20個のクローンとを単離し、シークエンシングした。これら80個の配列を、その性質:すなわち14箇所のポジションで変性されているITR14からなっているか、21箇所のポジションで変性されているITR21からなっているか;およびそれらが得られた方法(SELEX法1またはSELEX法2);により分析した。結果は、用いた方法が、行う選択の種類に対して影響を有しうることを示した(不掲載データ)。
【0151】
80個の配列をゲルリターデーションにより試験し、トランスポゼースとのその結合能を試験した。結果は、ITR1、6、9、40、46、49、60および69(ITRSelex;図11;配列番号38ないし45)のクローンがこのタンパク質と複合体を形成しうることを示した。これらがITRとしてトランスポゼースに認識されるのか、それとも標的として認識されるのかを決定するため、これらの陽性クローンをゲルリターデーションにより試験した。結果は、クローン1、40、46、49および69がITRであることを示した(図11および不掲載データ)。結果からは、クローン6および9については何ら結論を得られなかった(図11)。
【0152】
b)競合試験
結果は、上記ゲルリターデーション実験に基づいて選択された8個のITRのうち、ITR40および46のみが放射標識ITR3’に対するトランスポゼースの結合を阻害しうることを示した。
ITR40 5’−TCAGGTGTACAAGTATGTAATGTCGTTA−3’(配列番号39);
ITR46 5’−TCAGGTGTACAAGTATGAGATGTCGTTT−3’(配列番号38)。
【0153】
図12に示すとおり、ITR40および46のみがITR3’と競合し、放射標識ITR3’のトランスポゼース結合をシフトすることができる。
【0154】
c)転移試験
ITR40および46は競合試験に基づくと最良の候補と思われるが、前記8個のITRの挙動について、該ITRが転移全体を媒介する能力を有するか、およびそれがどの程度なのかを確認するために、バクテリアにおけるイン・ビボの転移試験において評価した。
【0155】
得られた結果を図13AおよびBに示す。ITR40および46のみが実際に試験条件下において転移を向上させうると思われる。基準(または対照)の場合、方法Iの実験条件下では、pBC3T3の転移効率はpBC3T5プラスミドで得られたものに対して10倍上昇した(図13A)。
【0156】
最終的に、図13Bに示すように、シュードトランスポゾン3T30および3T36が高活性である。
【0157】
II− UTR(非翻訳末端反復配列)
最適なMos−1エレメントの転移のための最小限の核酸構造は、ITRに加え、UTRの少なくとも一部を含んでいるようである。実際、イン・ビトロでは、Mos−1 ITR5’および3’のみに隣接された耐性マーカーは転移しないが、UTR5’の最初の38bpおよびUTR3’の最初の5bpをそれぞれのITRの配列に付加すると、野生型の活性が十分に回復する(Tosi et al., 2000)。
【0158】
ITRの近傍にUTRが存在することの必要性を、多くの考え得る構造を構築することにより評価した:5’または3’のUTR、ITR3’と組み合わせたUTR5’、またはその逆。
【0159】
手短に述べると、得られた結果により、UTRの存在が転移に好都合であることが示された(具体的には、少なくともおよそ5に等しい倍率の向上)。
【0160】
II−1− 材料および方法
a)ITR−UTR構造の構築
A1)プラスミド
ITR/UTRプラスミドは全て、同一の操作方法を用いてpBC3T5プラスミドから構築された。ITR3’は、KpnIおよびSalI酵素による二重消化後に置き換えた。ITR5’は、NotIおよびSacIの二重消化により置き換えた。ATG biosynthetics(ドイツ)により、各種ITR/URT33および55配列が合成され、pCR4−TOPO(invitrogen)へクローニングされた。Intelechon(ドイツ)により、ITR/UTR35−MCS−UTR/ITR35配列、すなわちITR3’/UTR5;−マルチクローニング部位(MCS)−UTR3’/ITR5’が合成され、pCR−Script AmpSK(+)(Stratagene)にクローニングされた。この配列をKpnIおよびSacIの二重消化によりpBCに導入した。これらの配列は、5’のITR/UTRに隣接するTAジヌクレオチドがシュードエレメントの外側に配置されるように設計された。約15種の構造が生成され、方法2によるバクテリア内での転移試験において評価された。結果は、pBC ITR/UTR−T−UTR/ITRとして参照される次のプラスミド:pBC33T33、pBC33T55およびpBC35T35について示される。
【0161】
pKKTnpトランスポゼースドナープラスミドはpKK233−2プラスミド(Clontech;Amp’)の誘導体であり、Ncol部位において、Mos−1トランスポゼースORF基準Tnpがクローニングされている。その発現はPtrc IPTG誘導性プロモーターの調節下にある(しかし、該プロモーターは誘導因子不在下における基本的な転写活性を含んでなる;不掲載データ)。以下、トランスポゼースORFが存在しない場合に前記pKK233−2プラスミドを単にpKKという。
【0162】
A2)転移試験のためのJM109 E. coli系統の形質転換
コンピテントなJM109バクテリアを、プラスミドpBC33T3、pBC3T5、pBC3T3、pBC33T55、pBC35T35、pBC3T33を含むトランスポゾンドナープラスミドと、pKKTnp Tnpドナープラスミドとにより同時形質転換した。対照系統を、同一のトランスポゾンドナープラスミドとpKK対照プラスミドとにより同時形質転換した。
【0163】
b)転移試験
実験プロトコルの詳細な説明を上記第I部の段落I−Bに示す。
【0164】
約15種の構造が、図14に図解される方法IIによるバクテリア内でのイン・ビボ転移について試験された。
【0165】
II−2− 結果
生じたTetRクローンの数を、pKK−Tnpトランスポゼースドナープラスミドの存在下で分析されたバクテリアの数で割り、ここからpKK対照プラスミドの存在下で得られた実験のバックグラウンドノイズを除いて、転移効率を算出した。最も有意な結果は、構築物3T33、33T33および35T35において、対照構築物3T3、3T5および33T55との比較で得られた。転移効率は、pBC33T33およびpBC3T33構築物において、対照構築物bBC3T3に対して5および20の倍率で上昇した。pBC33T33構築物においては、bBC3T5プラスミドおよびpBC35T35プラスミドで得られる転移効率に対して300倍優れた転移効率が観察されることから、これらの結果は、UTR配列の存在が転移反応にとって極めて重要であることを示している。最良の結果はpBC35T35構築物において得られ、これはbBC3T5に対して54,000倍の倍率で、またpBC3T3に対して1000倍の倍率で転移効率を上昇させる。
【0166】
図15Aによると、pBC35T35、pBC3T33およびpBC33T33の有利な構築物。
【0167】
図15Bは、シュードトランスポゾン3T33、33T33および35T35が高活性であることを示す。
【0168】
それに加え、本願発明者らは構築物53T35、53T33、35T33、55T35、53T55、55T55、5T35、5T33、3T55、3T53を試験した。ここでは、これらの構築物が高活性をもたらさないことが観察された;その効率は3T5または3T3のものと等価であるか、それよりも低いか、またはゼロであった(不掲載データ)。
【0169】
第III部:高活性変異型Mos−1トランスポゼースと高活性組換えMos−1シュードトランスポゾンとを含んでなる高活性組換え転移システム
高活性トランスポゼースと、同様に高活性なシュードトランスポゾンとを組み合わせたシステムの転移効率を評価するため、各種組み合わせを上記第I部の段落I−Bに記載したバクテリア中での転移試験において試験した。
【0170】
この試験においては、pBC3T3プラスミドを、高活性シュードトランスポゾンpBC3T33、pBC3T40、pBC3T46で置き換えた。野生型pKK−Tnpプラスミドは、それぞれが固有の高活性の変異型トランスポゼースを発現するpKK型ベクターで置き換えた。
【0171】
下記の表3に、高活性トランスポゼース(FETY、FQETY、FTY、FT、TY、ET、FQ、FQET、QY)とシュードトランスポゾン3T33、3T40、3T36、33T55(これは対象として用いられる)とを組み合わせて得られた結果を示す。
【表3】
【0172】
驚くべきことに、また意外なことに、試験した組み合わせで得られた結果は、高活性Mos−1トランスポゼースと高活性Mos−1シュードトランスポゾンとの全ての組み合わせが必ずしも高活性ではないということを示している。
【0173】
ここで得られた結果により、本発明の目的に有利な組み合わせとして、次の組み合わせ:
− シュードトランスポゾン3T40+トランスポゼースTY;
− シュードトランスポゾン3T46+トランスポゼースTYまたはETまたはFTY;
− シュードトランスポゾン3T33+トランスポゼースTYまたはETまたはFQまたはFQET;
を選択することが可能である。
【0174】
ここで報告されるバクテリア中における転移試験の条件のもとでは、シュードトランスポゾン3T33+トランスポゼースETの組み合わせが最も有利であり、シュードトランスポゾン3T3+トランスポゼースWT(200倍)、シュードトランスポゾン3T3+トランスポゼースFETY(3.5倍)、およびシュードトランスポゾン3T33+トランスポゼースWT(10倍)のそれぞれの組み合わせよりも効率的である。
【0175】
トランスポゼース+ITRまたはトランスポゼース+ITR/UTR複合体の安定性を測定するため、生化学的リターデーションゲル分析を上記の[具体的には、2004年9月16日公開のWO2004/078981、およびAuge-Gouillou et al. (2001b)中の]手順により行った。
【0176】
この研究は、ITR3’をTUR3’と、およびITR3’をUTR5’と組み合わせたDNA断片が、ITRのみ、または他の組み合わせで形成されたDNA断片よりもずっと安定である(4倍)ことを示した(図16)。この、より高い複合体安定性は、観察された高活性の原因でありうる。
【0177】
文献
【0178】
以下の図面は純粋に例証を目的として示されるものであり、本発明の主題を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0179】
【図1】mos−1トランスポゾンのトランスポゼース遺伝子の塩基配列(配列番号1)および該Mos−1トランスポゼースのタンパク質配列(配列番号2)。高活性部位(特異的突然変異誘発(directed mutagenesis)標的部位)は灰色の背景の残基周辺の1本線の枠で位置を示す。推定上のリン酸化部位は以下のように位置している: − 2本線の枠:ATMキナーゼによりリン酸化可能なアミノ酸; − 太い斜線の枠:プロテインキナーゼC(pKc)によりリン酸化可能なアミノ酸; − 太い薄い灰色の枠:cAMP依存性プロテインキナーゼ(pKa)によりリン酸化可能なアミノ酸; − 太い黒色の枠:pKaおよびcGMP依存性プロテインキナーゼ(pKg)によりリン酸化可能なアミノ酸; − 1本線の斜線の枠:カゼインキナーゼII(CKII)によりリン酸化可能なアミノ酸。 残基QTQ(配列番号2のタンパク質配列におけるポジション87ないし89)はATMキナーゼファミリーによる推定上のリン酸化部位に相当する。点を打った背景の円は高度にリン酸化可能な残基を示す印である。 灰色の背景の円はMLEトランスポゼースの特徴的な触媒トライアッド(D,D34−35[D/E])に関わり、DNAの切断に関与する残基を示す。 縦方向の矢印はタンパク質分解による切断部位を示す。
【図2】Mos−1エレメントトランスポゼースの構造を表す図である。 N−term:ITRとの結合に関与するN末端ドメイン; C−term:DNA鎖転移触媒作用に関与するC末端ドメイン;NLS:推定上の核移行(核インターナショナライゼーション(nuclear internationalisation))シグナル;HTH:ヘリックス・ターン・ヘリックスパターン;aa:アミノ酸。 数字はアミノ酸のポジションを表す。 特徴的な触媒トライアッド(D,D34−35[D/E])を示す。
【図3A】pBC SK+プラスミド(Stratagene)から構築されたpBC3Neo3プラスミドの模式図(A)である。
【図3B】pBC SK+プラスミド(Stratagene)から構築されたpBC3Neo3プラスミドの誘導体(B)の模式図である。
【図4A】pCMV−Tnpプラスミド(A)の模式図である。
【図4B】pCMV−Tnpプラスミドの誘導体(B)の模式図である。
【図5】転移試験の模式図である。 A):トランスポゼース(Tnp)をコードした発現ベクターおよび転移レポーターベクターで同時形質転換されたバクテリア。 B):発現ベクター誘導後の転移イベント。 C):転移頻度の決定。
【図6A】変異型トランスポゼースの転移効率:高活性倍率および変異体転移頻度。 i)単独変異体: − 誘導後、t=0時間における:A)高活性倍率 WT(53):野生型トランスポゼース。
【図6B】変異型トランスポゼースの転移効率:高活性倍率および変異体転移頻度。 i)単独変異体: − 誘導後、t=0時間における:B)転移頻度 WT(53):野生型トランスポゼース。
【図6C】変異型トランスポゼースの転移効率:高活性倍率および変異体転移頻度。 i)単独変異体: − 誘導後、t=5時間における:C)高活性倍率 WT(53):野生型トランスポゼース。
【図6D】変異型トランスポゼースの転移効率:高活性倍率および変異体転移頻度。 i)単独変異体: − 誘導後、t=5時間における:D)転移頻度 WT(53):野生型トランスポゼース。
【図6E】変異型トランスポゼースの転移効率:高活性倍率および変異体転移頻度。 ii)多重変異体: − 誘導後、t=0時間における:E)高活性倍率 WT(53):野生型トランスポゼース。
【図6F】変異型トランスポゼースの転移効率:高活性倍率および変異体転移頻度。 ii)多重変異体: − 誘導後、t=0時間における:F)転移頻度 WT(53):野生型トランスポゼース。
【図6G】変異型トランスポゼースの転移効率:高活性倍率および変異体転移頻度。 ii)多重変異体: − 誘導後、t=5時間における:G)高活性倍率 WT(53):野生型トランスポゼース。
【図6H】変異型トランスポゼースの転移効率:高活性倍率および変異体転移頻度。 ii)多重変異体: − 誘導後、t=5時間における:H)転移頻度 WT(53):野生型トランスポゼース。
【図7】SELEX法の一般的原理を説明する図である。
【図8】SELEX法1の原理を説明する図である。
【図9】競合試験(competition test)を示す図である。
【図10】方法Iによるバクテリアにおけるイン・ビボ転移試験の操作条件を表す図である。
【図11A】ITR(本発明者らによって開発されたSELEX法を用いて選択されたITRSelex)を示す。
【図11B】(A)に示すITR(本発明者らによって開発されたSELEX法を用いて選択されたITRSelex)で行ったリターデーションゲル(B)の結果である。
【図12】競合試験の結果である。
【図13A】ITRで得られた転移試験の結果である。
【図13B】ITRSelexおよび野生型Mos−1トランスポゼースを用いたバクテリアにおける転移試験の補足的な結果である。
【図14】バクテリアにおいてイン・ビボで転移させるための方法IIの操作条件を説明する図である。
【図15A】ITR/UTRで得られた転移試験の結果である。
【図15B】ITR/UTRの組み合わせおよび野生型Mos−1トランスポゼースを用いたバクテリアにおける転移試験の補足的な結果である。
【図16】ITR/UTRの組み合わせで形成された[野生型Mos−1トランスポゼース + ITR]複合体の量をグラフで示したものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高活性Mos−1シュードトランスポゾンであって、
a)2つの非翻訳末端反復配列(UTR)のうち少なくとも1つおよび/または2つの逆方向末端反復配列(ITR)のうち少なくとも1つが遺伝的に改変され、かつ
b)目的外来塩基配列が本来のMos−1トランスポゼースをコードする塩基配列を置換するものであって、ここで:
以下のシュードトランスポゾンから選択されるものであることを特徴とする、高活性Mos−1シュードトランスポゾン:
α)ITR3’−UTR3’−目的外来塩基配列−UTR3’−ITR3’(シュードトランスポゾン33seq33)、
β)ITR3’−目的外来塩基配列−UTR3’−ITR3’(シュードトランスポゾン3seq33)、
γ)ITR3’−UTR5’−目的外来塩基配列−UTR3’−ITR5’(シュードトランスポゾン35seq35)、
δ)配列番号39の配列を有する少なくとも1つのITR40を含んでなる、シュードトランスポゾン、および
ε)配列番号38の配列を有する少なくとも1つのITR46を含んでなる、シュードトランスポゾン。
【請求項2】
Mos−1トランスポゾンの高活性組換え誘導体を転移させるためのシステムであって、少なくとも以下の2つのパートナー:
a)請求項1に記載の高活性Mos−1シュードトランスポゾン、および
b)前記シュードトランスポゾンにイン・トランスで提供される、Mos−1トランスポゼース
を含んでなり、
目的外来塩基配列の転移頻度が、少なくとも5に等しい倍率、好ましくは少なくとも10に等しい倍率で向上する、システム。
【請求項3】
前記イン・トランスで提供される前記Mos−1トランスポゼースが、変異型トランスポゼースである、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記変異型Mos−1トランスポゼースが高活性である、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記高活性変異型Mos−1トランスポゼースが、配列番号2の配列における以下の残基:F53、Q91、E137、T126およびY237から選択される少なくとも1つの残基における、少なくとも1つの変異を含んでなる、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
少なくとも2つの以下のパートナーを含んでなる、請求項5に記載のシステム:
a)配列番号39の配列を有する少なくとも1つのITR40を含んでなる高活性Mos−1シュードトランスポゾン、ならびに変異T216AおよびY237Cを含んでなる高活性変異型Mos−1トランスポゼース、
b)配列番号38の配列を有する少なくとも1つのITR46を含んでなる高活性Mos−1シュードトランスポゾン、ならびに変異T216AおよびY237C、または、E137KおよびT216A、または、F53YおよびT216AおよびY237Cを含んでなる高活性変異型Mos−1トランスポゼース、
c)高活性Mos−1シュードトランスポゾン3seq33、ならびに変異T216AおよびY237C、または、E137KおよびT216A、または、F53YおよびQ91R、または、F53YおよびQ91RおよびE137KおよびT216Aを含んでなる高活性変異型Mos−1トランスポゼース。
【請求項7】
Mos−1トランスポゾンの高活性組換え誘導体を転移させるためのシステムであって、少なくとも2つの以下のパートナー:
a)目的外来塩基配列が本来のMos−1トランスポゼースをコードする塩基配列を置換している、Mos−1シュードトランスポゾン、および
b)前記シュードトランスポゾンにイン・トランスで提供される、高活性Mos−1トランスポゼースであって、
配列番号2の配列のうち以下の残基:F53、Q91およびY237から選択される少なくとも1つの残基における1つの変異、および/または
変異T216A
を少なくとも含んでなる、高活性Mos−1トランスポゼース
を含んでなり、
目的外来塩基配列の転移頻度が、少なくとも5に等しい倍率、好ましくは少なくとも10に等しい倍率で向上する、システム。
【請求項8】
前記高活性Mos−1トランスポゼースが、変異F53Y、Q91R、T216A、Y237C、およびこれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの変異を含んでなる、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記高活性Mos−1トランスポゼースが、残基E137における変異も含んでなる、請求項7または8に記載のシステム。
【請求項10】
前記高活性Mos−1トランスポゼースが、変異E137Kも含んでなり、Q91R+E137K+T216AまたはF53Y+E137K+T216Aの変異の組み合わせは除外されることを特徴とする、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記Mos−1シュードトランスポゾンにおける2つの非翻訳末端反復配列(UTR)のうち少なくとも1つおよび/または2つの逆方向末端反復配列(ITR)のうち少なくとも1つが、遺伝的に改変されている、請求項7〜10のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項12】
前記イン・トランスで提供されるMos−1トランスポゼースが、発現調節エレメントの制御下の、ベクター上に配置された塩基配列によりコードされてなる、請求項2〜11のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項13】
前記トランスポゼースの発現が誘導可能である、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記目的外来塩基配列が機能遺伝子である、請求項1に記載のシュードトランスポゾンまたは請求項2〜13のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項15】
少なくとも1つの請求項1に記載のシュードトランスポゾンを含んでなる、ベクター。
【請求項16】
a)請求項1〜14に記載の1つのシュードトランスポゾン、または
b)請求項2〜14のいずれか一項に記載の1つのシステム、または
c)請求項15に記載の1つのベクター、または
d)これらの組み合わせ
を少なくとも含んでなる、宿主細胞。
【請求項17】
a)請求項1〜14に記載の1つのシュードトランスポゾン、または
b)請求項2〜14のいずれか一項に記載の1つのシステム、または
c)請求項15に記載の1つのベクター、または
d)請求項16に記載の1つの宿主細胞、または
e)これらの組み合わせ
を少なくとも含んでなる、キット。
【請求項18】
イン・ビトロまたはイン・ビボまたはエクス・ビボでの目的外来塩基配列の効率的な転移のための、少なくとも:
a)請求項1〜14に記載の1つのシュードトランスポゾン、または
b)請求項2〜14のいずれか一項に記載の1つのシステム、または
c)請求項15に記載の1つのベクター、または
d)請求項16に記載の1つの宿主細胞、または
e)請求項17に記載の1つのキット、または
f)これらの組み合わせ
の使用。
【請求項19】
挿入突然変異のための、少なくとも:
a)請求項1〜14に記載の1つのシュードトランスポゾン、または
b)請求項2〜14のいずれか一項に記載の1つのシステム、または
c)請求項15に記載の1つのベクター、または
d)請求項16に記載の1つの宿主細胞、または
e)請求項17に記載の1つのキット、または
f)これらの組み合わせ
の使用。
【請求項20】
核酸のシークエンシングおよび/またはクローニングのための、少なくとも:
a)請求項1〜14に記載の1つのシュードトランスポゾン、または
b)請求項2〜14のいずれか一項に記載の1つのシステム、または
c)請求項15に記載の1つのベクター、または
d)請求項16に記載の1つの宿主細胞、または
e)請求項17に記載の1つのキット、または
f)これらの組み合わせ
の使用。
【請求項21】
イン・ビトロまたはエクス・ビボで目的転移性DNA配列を標的DNA配列中へ転移する、少なくとも1つの工程を含んでなる、医薬品の製造方法であって、
前記転移が、以下の手段のうちの少なくとも1つによって媒介される、方法:
a)請求項1〜14に記載の1つのシュードトランスポゾン、または
b)請求項2〜14のいずれか一項に記載の1つのシステム、または
c)請求項15に記載の1つのベクター、または
d)請求項16に記載の1つの宿主細胞、または
e)請求項17に記載の1つのキット、または
f)これらの組み合わせ。
【請求項22】
Mos−1シュードトランスポゾンに含まれる目的外来塩基配列の転移頻度を少なくとも5に等しい倍率、好ましくは少なくとも10に等しい倍率で、向上させるための、少なくとも:
配列番号2の配列の以下の残基:F53、Q91およびY237から選択される少なくとも1つの残基における1つの変異、および/または
変異T216A
を含んでなる高活性Mos−1トランスポゼースの使用であって、
前記目的外来塩基配列が、本来のMos−1トランスポゼースをコードする塩基配列を置換している、高活性Mos−1トランスポゼースの使用。
【請求項23】
前記高活性Mos−1トランスポゼースが、変異F53Y、Q91R、T216A、Y237C、およびこれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの変異を含んでなる、請求項22に記載の使用。
【請求項24】
前記高活性Mos−1トランスポゼースが、残基E137における変異も含んでなる、請求項22または23に記載の使用。
【請求項25】
前記高活性Mos−1トランスポゼースが、変異E137Kも含んでなり、Q91R+E137K+T216AまたはF53Y+E137K+T216Aの変異の組み合わせは除外される、請求項24に記載の使用。
【請求項26】
前記高活性Mos−1トランスポゼースが、発現調節エレメントの制御下の、ベクター上に配置された塩基配列によりコードされてなる、請求項22〜25のいずれか一項に記載の使用。
【請求項27】
前記トランスポゼースの発現が誘導可能である、請求項26に記載の使用。
【請求項28】
前記高活性Mos−1トランスポゼースが、前記Mos−1シュードトランスポゾンにイン・トランスで提供される、請求項22〜27のいずれか一項に記載の使用。
【請求項29】
前記目的外来塩基配列が機能遺伝子である、請求項22〜28のいずれか一項に記載の使用。
【請求項30】
前記Mos−1シュードトランスポゾンにおける2つの非翻訳末端反復配列(UTR)のうち少なくとも1つおよび/または2つの逆方向末端反復配列(ITR)のうち少なくとも1つが、遺伝的に改変されてなる、請求項22〜29のいずれか一項に記載の使用。
【請求項1】
高活性Mos−1シュードトランスポゾンであって、
a)2つの非翻訳末端反復配列(UTR)のうち少なくとも1つおよび/または2つの逆方向末端反復配列(ITR)のうち少なくとも1つが遺伝的に改変され、かつ
b)目的外来塩基配列が本来のMos−1トランスポゼースをコードする塩基配列を置換するものであって、ここで:
以下のシュードトランスポゾンから選択されるものであることを特徴とする、高活性Mos−1シュードトランスポゾン:
α)ITR3’−UTR3’−目的外来塩基配列−UTR3’−ITR3’(シュードトランスポゾン33seq33)、
β)ITR3’−目的外来塩基配列−UTR3’−ITR3’(シュードトランスポゾン3seq33)、
γ)ITR3’−UTR5’−目的外来塩基配列−UTR3’−ITR5’(シュードトランスポゾン35seq35)、
δ)配列番号39の配列を有する少なくとも1つのITR40を含んでなる、シュードトランスポゾン、および
ε)配列番号38の配列を有する少なくとも1つのITR46を含んでなる、シュードトランスポゾン。
【請求項2】
Mos−1トランスポゾンの高活性組換え誘導体を転移させるためのシステムであって、少なくとも以下の2つのパートナー:
a)請求項1に記載の高活性Mos−1シュードトランスポゾン、および
b)前記シュードトランスポゾンにイン・トランスで提供される、Mos−1トランスポゼース
を含んでなり、
目的外来塩基配列の転移頻度が、少なくとも5に等しい倍率、好ましくは少なくとも10に等しい倍率で向上する、システム。
【請求項3】
前記イン・トランスで提供される前記Mos−1トランスポゼースが、変異型トランスポゼースである、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記変異型Mos−1トランスポゼースが高活性である、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記高活性変異型Mos−1トランスポゼースが、配列番号2の配列における以下の残基:F53、Q91、E137、T126およびY237から選択される少なくとも1つの残基における、少なくとも1つの変異を含んでなる、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
少なくとも2つの以下のパートナーを含んでなる、請求項5に記載のシステム:
a)配列番号39の配列を有する少なくとも1つのITR40を含んでなる高活性Mos−1シュードトランスポゾン、ならびに変異T216AおよびY237Cを含んでなる高活性変異型Mos−1トランスポゼース、
b)配列番号38の配列を有する少なくとも1つのITR46を含んでなる高活性Mos−1シュードトランスポゾン、ならびに変異T216AおよびY237C、または、E137KおよびT216A、または、F53YおよびT216AおよびY237Cを含んでなる高活性変異型Mos−1トランスポゼース、
c)高活性Mos−1シュードトランスポゾン3seq33、ならびに変異T216AおよびY237C、または、E137KおよびT216A、または、F53YおよびQ91R、または、F53YおよびQ91RおよびE137KおよびT216Aを含んでなる高活性変異型Mos−1トランスポゼース。
【請求項7】
Mos−1トランスポゾンの高活性組換え誘導体を転移させるためのシステムであって、少なくとも2つの以下のパートナー:
a)目的外来塩基配列が本来のMos−1トランスポゼースをコードする塩基配列を置換している、Mos−1シュードトランスポゾン、および
b)前記シュードトランスポゾンにイン・トランスで提供される、高活性Mos−1トランスポゼースであって、
配列番号2の配列のうち以下の残基:F53、Q91およびY237から選択される少なくとも1つの残基における1つの変異、および/または
変異T216A
を少なくとも含んでなる、高活性Mos−1トランスポゼース
を含んでなり、
目的外来塩基配列の転移頻度が、少なくとも5に等しい倍率、好ましくは少なくとも10に等しい倍率で向上する、システム。
【請求項8】
前記高活性Mos−1トランスポゼースが、変異F53Y、Q91R、T216A、Y237C、およびこれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの変異を含んでなる、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記高活性Mos−1トランスポゼースが、残基E137における変異も含んでなる、請求項7または8に記載のシステム。
【請求項10】
前記高活性Mos−1トランスポゼースが、変異E137Kも含んでなり、Q91R+E137K+T216AまたはF53Y+E137K+T216Aの変異の組み合わせは除外されることを特徴とする、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記Mos−1シュードトランスポゾンにおける2つの非翻訳末端反復配列(UTR)のうち少なくとも1つおよび/または2つの逆方向末端反復配列(ITR)のうち少なくとも1つが、遺伝的に改変されている、請求項7〜10のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項12】
前記イン・トランスで提供されるMos−1トランスポゼースが、発現調節エレメントの制御下の、ベクター上に配置された塩基配列によりコードされてなる、請求項2〜11のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項13】
前記トランスポゼースの発現が誘導可能である、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記目的外来塩基配列が機能遺伝子である、請求項1に記載のシュードトランスポゾンまたは請求項2〜13のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項15】
少なくとも1つの請求項1に記載のシュードトランスポゾンを含んでなる、ベクター。
【請求項16】
a)請求項1〜14に記載の1つのシュードトランスポゾン、または
b)請求項2〜14のいずれか一項に記載の1つのシステム、または
c)請求項15に記載の1つのベクター、または
d)これらの組み合わせ
を少なくとも含んでなる、宿主細胞。
【請求項17】
a)請求項1〜14に記載の1つのシュードトランスポゾン、または
b)請求項2〜14のいずれか一項に記載の1つのシステム、または
c)請求項15に記載の1つのベクター、または
d)請求項16に記載の1つの宿主細胞、または
e)これらの組み合わせ
を少なくとも含んでなる、キット。
【請求項18】
イン・ビトロまたはイン・ビボまたはエクス・ビボでの目的外来塩基配列の効率的な転移のための、少なくとも:
a)請求項1〜14に記載の1つのシュードトランスポゾン、または
b)請求項2〜14のいずれか一項に記載の1つのシステム、または
c)請求項15に記載の1つのベクター、または
d)請求項16に記載の1つの宿主細胞、または
e)請求項17に記載の1つのキット、または
f)これらの組み合わせ
の使用。
【請求項19】
挿入突然変異のための、少なくとも:
a)請求項1〜14に記載の1つのシュードトランスポゾン、または
b)請求項2〜14のいずれか一項に記載の1つのシステム、または
c)請求項15に記載の1つのベクター、または
d)請求項16に記載の1つの宿主細胞、または
e)請求項17に記載の1つのキット、または
f)これらの組み合わせ
の使用。
【請求項20】
核酸のシークエンシングおよび/またはクローニングのための、少なくとも:
a)請求項1〜14に記載の1つのシュードトランスポゾン、または
b)請求項2〜14のいずれか一項に記載の1つのシステム、または
c)請求項15に記載の1つのベクター、または
d)請求項16に記載の1つの宿主細胞、または
e)請求項17に記載の1つのキット、または
f)これらの組み合わせ
の使用。
【請求項21】
イン・ビトロまたはエクス・ビボで目的転移性DNA配列を標的DNA配列中へ転移する、少なくとも1つの工程を含んでなる、医薬品の製造方法であって、
前記転移が、以下の手段のうちの少なくとも1つによって媒介される、方法:
a)請求項1〜14に記載の1つのシュードトランスポゾン、または
b)請求項2〜14のいずれか一項に記載の1つのシステム、または
c)請求項15に記載の1つのベクター、または
d)請求項16に記載の1つの宿主細胞、または
e)請求項17に記載の1つのキット、または
f)これらの組み合わせ。
【請求項22】
Mos−1シュードトランスポゾンに含まれる目的外来塩基配列の転移頻度を少なくとも5に等しい倍率、好ましくは少なくとも10に等しい倍率で、向上させるための、少なくとも:
配列番号2の配列の以下の残基:F53、Q91およびY237から選択される少なくとも1つの残基における1つの変異、および/または
変異T216A
を含んでなる高活性Mos−1トランスポゼースの使用であって、
前記目的外来塩基配列が、本来のMos−1トランスポゼースをコードする塩基配列を置換している、高活性Mos−1トランスポゼースの使用。
【請求項23】
前記高活性Mos−1トランスポゼースが、変異F53Y、Q91R、T216A、Y237C、およびこれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの変異を含んでなる、請求項22に記載の使用。
【請求項24】
前記高活性Mos−1トランスポゼースが、残基E137における変異も含んでなる、請求項22または23に記載の使用。
【請求項25】
前記高活性Mos−1トランスポゼースが、変異E137Kも含んでなり、Q91R+E137K+T216AまたはF53Y+E137K+T216Aの変異の組み合わせは除外される、請求項24に記載の使用。
【請求項26】
前記高活性Mos−1トランスポゼースが、発現調節エレメントの制御下の、ベクター上に配置された塩基配列によりコードされてなる、請求項22〜25のいずれか一項に記載の使用。
【請求項27】
前記トランスポゼースの発現が誘導可能である、請求項26に記載の使用。
【請求項28】
前記高活性Mos−1トランスポゼースが、前記Mos−1シュードトランスポゾンにイン・トランスで提供される、請求項22〜27のいずれか一項に記載の使用。
【請求項29】
前記目的外来塩基配列が機能遺伝子である、請求項22〜28のいずれか一項に記載の使用。
【請求項30】
前記Mos−1シュードトランスポゾンにおける2つの非翻訳末端反復配列(UTR)のうち少なくとも1つおよび/または2つの逆方向末端反復配列(ITR)のうち少なくとも1つが、遺伝的に改変されてなる、請求項22〜29のいずれか一項に記載の使用。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図6E】
【図6F】
【図6G】
【図6H】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図16】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図6E】
【図6F】
【図6G】
【図6H】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図16】
【公表番号】特表2009−537130(P2009−537130A)
【公表日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−510498(P2009−510498)
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【国際出願番号】PCT/FR2007/000823
【国際公開番号】WO2007/132096
【国際公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(594016872)サントル、ナショナール、ド、ラ、ルシェルシュ、シアンティフィク、(セーエヌエルエス) (83)
【出願人】(505285157)ユニベルシテ、フランソワ、ラブレ、ド、トゥール (3)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE FRANCOIS RABELAIS DE TOURS
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【国際出願番号】PCT/FR2007/000823
【国際公開番号】WO2007/132096
【国際公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(594016872)サントル、ナショナール、ド、ラ、ルシェルシュ、シアンティフィク、(セーエヌエルエス) (83)
【出願人】(505285157)ユニベルシテ、フランソワ、ラブレ、ド、トゥール (3)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE FRANCOIS RABELAIS DE TOURS
【Fターム(参考)】
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