説明

MR流体ダンパ用ピストン

【課題】 MR流体ダンパのピストンの構造を簡易にし、加工組付性を向上すること。
【解決手段】 ダンパチューブ11に挿入されるピストンロッド12に設けられ、ダンパチューブ11の内部にMR流体を収容する上下の2室22A、22Bを区画するとともに、上下の2室22A、22Bを連通するMR流体用流路61を備えるMR流体ダンパ用ピストン21において、ピストンロッド12に固定され、磁場発生装置41を形成するピストン本体40と、ピストン本体40の外周の一部を覆うように設けられる非磁性部50と、ピストン本体40に結合され、ピストン本体40の外周の非磁性部50に嵌合するとともに、ピストン本体40の非磁性部50が設けられない外周との間にMR流体用流路61を形成する磁性体のカバー60とを有してなるもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はMR流体ダンパ用ピストンに関する。
【背景技術】
【0002】
MR流体ダンパ用ピストンとして、特許文献1、2に記載の如く、ダンパチューブに挿入されるピストンロッドに設けられ、ダンパチューブの内部にMR流体を収容する上下の2室を区画するとともに、上下の2室を連通するMR流体用流路を備えるものがある。
【特許文献1】特表2000-514161
【特許文献2】US6260675
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1、2のMR流体ダンパ用ピストンは、ピストンロッドに固定され、磁場発生装置を形成するピストン本体と、ピストン本体の外側に設けられる磁性体のピストン外筒との間に、MR流体用流路となる間隙を形成する必要から、ピストン本体とピストン外筒を非磁性体のエンドキャップや溶接等のブリッジ部品で接合している。このため、ピストンの構造が複雑で、加工組付工数が多大になる。
【0004】
本発明の課題は、MR流体ダンパのピストンの構造を簡易にし、加工組付性を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明は、ダンパチューブに挿入されるピストンロッドに設けられ、ダンパチューブの内部にMR流体を収容する上下の2室を区画するとともに、上下の2室を連通するMR流体用流路を備えるMR流体ダンパ用ピストンにおいて、ピストンロッドに固定され、磁場発生装置を形成するピストン本体と、ピストン本体の外周の一部を覆うように設けられる非磁性部と、ピストン本体に結合され、ピストン本体の外周の非磁性部に嵌合するとともに、ピストン本体の非磁性部が設けられない外周との間にMR流体用流路を形成する磁性体のカバーとを有してなるようにしたものである。
【0006】
請求項2の発明は、請求項1の発明において更に、前記ピストン本体が、芯金にコイルが巻き付けられた磁場発生装置を形成し、芯金及びコイルをモールドした樹脂により非磁性部を形成し、芯金の樹脂によりモールドされない外周をカバーに相対する突出部とし、カバーと芯金の突出部との間にMR流体用流路を形成するようにしたものである。
【0007】
請求項3の発明は、請求項1又は2の発明において更に、前記カバーがプレス成形品であり、ピストンロッドに螺着されるピストン本体とともにピストンロッドに結合されるようにしたものである。
【0008】
請求項4の発明は、請求項2又は3の発明において更に、前記ピストン本体における芯金の突出部を一部切欠き、溝状のMR流体用流路を形成するようにしたものである。
【0009】
請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載のピストンを用いたMR流体ダンパである。
【発明の効果】
【0010】
(請求項1)
(a)ピストン本体に結合した磁性体カバーにより、該ピストン本体の外周との間にMR流体用流路となる間隙を形成したから、ピストンの構造を簡易にし、加工組付性を向上できる。このとき、ピストン本体の外周の一部に設けた非磁性部に、磁性体カバーを嵌合したから、ピストン本体とカバーを確実に同軸化し、MR流体用流路となる間隙を簡易に一定保持し、減衰力特性の安定を図ることができる。
【0011】
(請求項2)
(b)ピストン本体が芯金とコイルを樹脂によりモールドし、この樹脂を上述(a)の非磁性部としたから、樹脂によるコイルの保護、MR流体用流路となる間隙の一定保持を簡易に実現できる。
【0012】
(請求項3)
(c)カバーをプレス成形品にし、ピストン本体とともにピストンロッドに結合したから、カバーの作成、ピストン本体への結合を簡易に実現できる。
【0013】
(請求項4)
(d)ピストン本体における芯金の突出部に設けた溝状のMR流体用流路が、MR流体の流れ易い二乗孔(オリフィス)となり、低速域での減衰力を調整できる。
【0014】
(請求項5)
(e)MR流体ダンパにおいて上述(a)〜(d)を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1はMR流体ダンパを示す断面図、図2はピストンを示す断面図、図3は図2のIII−III線に沿う断面図である。
【実施例】
【0016】
MR流体ダンパ10は、シングルチューブ分離加圧型ダンパであり、図1に示す如く、ダンパチューブ11とピストンロッド12と懸架スプリング13を有し、ダンパチューブ11の外周部に下スプリングシート14を取着し、ピストンロッド12に上スプリングシート(不図示)を取着し、懸架スプリング13を下スプリングシート14と上スプリングシートの間に介装している。
【0017】
ダンパ10は、ダンパチューブ11の下部に車軸側取付部15を備え、ピストンロッド12に取着してある上スプリングシートに車体側取付部(不図示)を備える。そして、懸架スプリング13により路面からの衝撃を吸収し、ダンパチューブ11が内蔵する減衰装置により懸架スプリング13の伸縮振動を制振させる。
【0018】
ダンパ10は、ダンパチューブ11にMR流体(磁気レオロジカル流体)を収容するとともに、ピストン21を摺動自在に配置している。ピストン21は、ダンパチューブ11の内部にMR流体を収容する上下の2室、換言すれば、MR流体を充填し且つピストンロッド12を収容するロッド側室22Aと、MR流体を充填し且つピストンロッド12を収容しないピストン側室22Bとを区画形成する。
【0019】
ダンパ10は、前述した如く、シングルチューブ分離加圧型であるから、ダンパチューブ11の内部に、フリーピストン23を摺動自在に配置し、このフリーピストン23により区画される加圧ガス室24とリザーバ室25とを設け、リザーバ室25とピストン側室22Bとの間にフリーピストンストッパ26をダンパチューブ11の外周側から加締め固定し、ストッパ26の内径部によりピストン側室22Bとリザーバ室25とを連通している。リザーバ室25は、ダンパ10の圧縮行程と伸長行程で、ダンパチューブ11に進入もしくは退出するピストンロッド12の容積変化分の作動油及び温度変化による作動油の体積変化分を補償する。
【0020】
ダンパ10は、ダンパチューブ11の一端軸封部31にロッドガイド32をかしめ固定し、このロッドガイド32にピストンロッド12を貫通支持するとともに、該軸封部31にオイルシール33を備えている。そして、この軸封部31は、チューブ11の開口部に固定されたバンプストッパキャップ35(もしくはチューブ11の開口部の加締め加工)により、オイルシール33の外側に設けたエンドプレート34を保持している。
【0021】
ダンパ10は、ダンパチューブ11の前述した軸封部31まわりの開口部に前述のバンプストッパキャップ35を固定し、ダンパ10の最圧縮時に、ピストンロッド12の外端側に設けてあるバンプラバー(不図示)がバンプストッパキャップ35に当接して圧縮変形し、最圧縮ストロークを規制する。
【0022】
ダンパ10は、ダンパチューブ11のロッド側室22Aに位置するピストンロッド12まわりに、リバウンドストッパ36にバックアップ支持されるリバウンドラバー37を設けている。ダンパ10の最伸張時に、リバウンドラバー37が前述のロッドガイド32に当接し、ダンパ10の最伸張ストロークを規制する。
【0023】
しかるに、ダンパ10においてダンパチューブ11に内蔵される減衰装置は、ダンパチューブ11の上下の2室22A、22Bに前述の如くにMR流体を収容し、それらの2室22A、22Bを連通するMR流体用流路61をピストン21に形成するとともに、ピストン21に形成した磁場発生装置41により流路61に印加される磁場を調整し、この流路61を通過するMR流体の粘度、ひいては流れ抵抗を変化させることにて減衰力を調節可能にする。
【0024】
尚、MR流体は、一定の粘度をもつ易流動性である。磁場にさらされると、液体から瞬間的に固体に近い状態になり、磁場がなくなると、速やかに液体状態に戻る。MR流体の粘度変化は、磁場の大きさ(磁力)に比例する。MR流体は、球形の軟常磁性粒子、例えばマグネタイト、カルボニル鉄粉末、鉄合金、窒化鉄、炭化鉄、二酸化クローム、低炭素鋼、ケイ素鋼、ニッケル、コバルト等、できれば約1〜6ミロクンの公称直径を有し、シリコーン油、炭化水素油、パラフィン油、鉱油、塩化及びフッ化流体、ケロシン、グリコール、又は水等の低い粘度の液体に配合されて懸濁される。
【0025】
ピストン21は以下の如くに構成される。ピストン21は、図2、図3に示す如く、ピストン本体40と、非磁性部50と、磁性体カバー60とを有する。
【0026】
ピストン本体40は、ピストンロッド12のダンパチューブ11への挿入端(図2の上下方向に沿う下端部)に螺着される等にて固定され、磁場発生装置41を形成する。非磁性部50は、ピストン本体40の外周の一部を覆うように設けられる。磁性体カバー60は、ピストン本体40に結合され、ピストン本体40の外周の非磁性部50に嵌合するとともに、ピストン本体40の非磁性部50が設けられない外周との間に、MR流体用流路61を形成する。
【0027】
具体的には、ピストン本体40は、芯金42の小径部42Aの中心孔をピストンロッド12の挿入端にOリング12Aを介して挿着するとともに、該中心孔をピストンロッド12の挿入端の外周ねじ部12Bに螺着する。ピストン本体40は、芯金42の小径部42Aの周囲にコイル43を巻き付けて磁場発生装置41を形成する。
【0028】
ピストン本体40は、芯金42のコイル43を巻き付けた小径部42A及び該コイル43を樹脂51によりモールドし、樹脂51の小径部42A及びコイル43に沿う円環状樹脂部51Aを形成するとともに、円環状樹脂部51Aの下端の周方向複数部位(本実施例では4部位)を下方に延長かつ外方に拡径した十字状樹脂部51Bとし、十字状樹脂部51Bをカバー60の筒部60Bに嵌合せしめられる前述の非磁性部50とする。ピストン本体40は、芯金42の小径部42Aの下端の周方向複数部位(本実施例では4部位)から下方に延長した部分の外周であって、樹脂51によりモールドされない外周、換言すれば十字状樹脂部51Bの相隣る外周に挟まれる外周を、カバー60の筒部60Bに間隙を介して相対する突出部42Bとする。カバー60の筒部60Bと芯金42の突出部42Bとの間隙によりMR流体用流路61を形成する。
【0029】
尚、ピストン本体40は、芯金42の小径部42Aの中心孔に接続ピン44の先端部を同軸的に突設し、コイル43と接続ピン44をリード線45により接続し、接続ピン44の基端部及びリード線45を円環状樹脂部51Aに連続する中心樹脂部51Cによりモールドしている。ピストン本体40がピストンロッド12に固定されたとき、ピストンロッド12の中空部に外部から導入されているコネクタ46の電気的接続部を接続ピン44の先端部に嵌合状態で接続可能にする。コネクタ46からコイル43に電流が印加されると、コイル43の中の鉄心42に磁場を生ずる(図2の矢印)。
【0030】
カバー60は鉄板等の磁性体のプレス成形品であり、天面部60Aと筒部60Bを有する下端開口のカップ状をなす。カバー60は、天面部60Aの中心孔をピストンロッド12の挿入端に挿着され、ピストンロッド12の挿入端に前述の如くに螺着される芯金42の小径部42Aの上端面によりバックアップされてピストンロッド12の段差部12Cに係止され、結果としてピストン本体40とともにピストンロッド12に結合される。ピストン本体40とともにピストンロッド12に結合されたカバー60は、ピストン本体40の外周の非磁性部50たる十字状樹脂部51Bに筒部60Bを嵌合し、天面部60Aの一部を切欠いた回り止め片62をピストンロッド12の外周の平面部12Dに係合し、天面部60Aの他の一部を切欠いた回り止め片63を芯金42の小径部42Aの外周の平面部12Eに係合する。
【0031】
そして、カバー60は、前述の如く、ピストン本体40の芯金42の突出部42Bと筒部60Bとの間隙によりMR流体用流路61を形成するとともに、天面部60Aの一部に切欠開口64を形成し、筒部60Bが囲む芯金42の小径部42Aとの間にスペース65を形成する。ピストン本体40は芯金42の複数の突出部42Bのうちの少なくとも1つの突出部42Bを一部上下方向に切欠き、溝状のMR流体用流路61Aを形成する。
【0032】
従って、ダンパ10のピストン21にあっては、磁場発生装置41のコイル43への電流の印加によりコイル43に磁場(磁界)を生ずると、この磁場はコイル43の一端から芯金42の突出部42Bを通り、流路61のギャップを飛びこえてカバー60の筒部60Bに入り、カバー60の天面部60Aから芯金42の小径部42A経由でコイル43の他端に戻る閉磁気回路を形成する。磁場発生装置41がMR流体用流路61に及ぼす磁場の大きさはコイル43への印加電流の変更により調整される。
【0033】
他方、ダンパ10の伸張行程では、ピストン21がダンパチューブ11の内周を上方へ向けて摺動するに際し、ロッド側室22AのMR流体がピストン21を構成するカバー60における天面部60Aの開口64、筒部60Bが画成するスペース65、前述の流路61を通ってピストン側室22Bに流れる。また、ダンパ10の圧縮行程では、ピストン21がダンパチューブ11の内周を下方向に向かって摺動するに際し、ピストン側室22BのMR流体が流路61、スペース65、開口64を通ってロッド側室22Aに流れる。
【0034】
そして、ダンパ10にあっては、伸張行程や圧縮行程で、MR流体が上述の如くに流路61を通るときに、磁場発生装置41が流路61に及ぼす磁場の大きさを調整することにより、流路61を通過するMR流体の粘度を変化させ、結果として流路61におけるMR流体の流れ抵抗に起因して生ずる減衰力を調整可能にする。
【0035】
更に、ピストン本体40における芯金42の突出部42Bに設けた溝状のMR流体用流路61Aにより、磁性体カバー60と芯金42の距離が一部離れ、このMR流体用流路61Aの溝部では磁場が弱く、溝状のMR流体用流路61AがMR流体の流れ易い二乗孔(オリフィス)となり、流体圧の上がらない低速時でも流体が流れ易く、低速域での減衰力を調整できる。
【0036】
本実施例によれば以下の作用効果を奏する。
(a)ピストン本体40に結合した磁性体カバー60により、該ピストン本体40の外周との間にMR流体用流路61となる間隙を形成したから、ピストン21の構造を簡易にし、加工組付性を向上できる。このとき、ピストン本体40の外周の一部に設けた非磁性部50に、磁性体カバーを嵌合したから、ピストン本体40とカバー60を確実に同軸化し、MR流体用流路61となる間隙を簡易に一定保持し、減衰力特性の安定を図ることができる。
【0037】
(b)ピストン本体40が芯金42とコイル43を樹脂51によりモールドし、この樹脂51を上述(a)の非磁性部50としたから、樹脂51によるコイル43の保護、MR流体用流路61となる間隙の一定保持を簡易に実現できる。
【0038】
(c)カバー60をプレス成形品にし、ピストン本体40とともにピストンロッド12に結合したから、カバー60の作成、ピストン本体40への結合を簡易に実現できる。
【0039】
(d)ピストン本体40における芯金42の突出部42Bに設けた溝状のMR流体用流路61Aが、MR流体の流れ易い二乗孔(オリフィス)となり、低速域での減衰力を調整できる。
【0040】
(e)MR流体ダンパ10において上述(a)〜(d)を実現できる。
以上、本発明の実施例を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。例えば、非磁性部50はアルミにて構成されるものでも良い。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1はMR流体ダンパを示す断面図である。
【図2】図2はピストンを示す断面図である。
【図3】図3は図2のIII−III線に沿う断面図である。
【符号の説明】
【0042】
10 ダンパ
11 ダンパチューブ
12 ピストンロッド
21 ピストン
22A、22B 上下の2室
40 ピストン本体
41 磁場発生装置
42 芯金
42B 突出部
43 コイル
50 非磁性部
51 樹脂
60 カバー
61、61A 流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダンパチューブに挿入されるピストンロッドに設けられ、ダンパチューブの内部にMR流体を収容する上下の2室を区画するとともに、上下の2室を連通するMR流体用流路を備えるMR流体ダンパ用ピストンにおいて、
ピストンロッドに固定され、磁場発生装置を形成するピストン本体と、
ピストン本体の外周の一部を覆うように設けられる非磁性部と、
ピストン本体に結合され、ピストン本体の外周の非磁性部に嵌合するとともに、ピストン本体の非磁性部が設けられない外周との間にMR流体用流路を形成する磁性体のカバーとを有してなることを特徴とするMR流体ダンパ用ピストン。
【請求項2】
前記ピストン本体が、芯金にコイルが巻き付けられた磁場発生装置を形成し、芯金及びコイルをモールドした樹脂により非磁性部を形成し、芯金の樹脂によりモールドされない外周をカバーに相対する突出部とし、カバーと芯金の突出部との間にMR流体用流路を形成する請求項1に記載のMR流体ダンパ用ピストン。
【請求項3】
前記カバーがプレス成形品であり、ピストンロッドに螺着されるピストン本体とともにピストンロッドに結合される請求項1又は2に記載のMR流体ダンパ用ピストン。
【請求項4】
前記ピストン本体における芯金の突出部を一部切欠き、溝状のMR流体用流路を形成する請求項2又は3に記載のMR流体ダンパ用ピストン。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のピストンを用いたMR流体ダンパ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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