説明

MRIにおいて見える医療用デバイスを製造するための疎水性ポリマー

疎水性ポリマー、特に医療用デバイス、特に移植可能であり、磁気共鳴画像において見える医療用デバイスを製造及び/又はコーティングするのに特に有用である疎水性ポリマーにおいて、該ポリマーが少なくとも1のモノマー単位を含み、該モノマー単位に、常磁性イオンと錯体化された、該常磁性イオンのキレート化する配位子がグラフト化され、該モノマー単位は少なくとも1のカルボニル基を有し、該モノマー基はグラフト化前に、該少なくとも1のカルボニル基のα位に少なくとも1の水素原子を有し、該キレート化配位子の該グラフト化は、該少なくとも1のカルボニル基のα位における該少なくとも1の水素原子のレベルにおいて起きることを特徴とする前記ポリマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用デバイス、移植可能であり、かつ磁気共鳴画像において見える医療用デバイス、の分野に特に関する。
【0002】
本発明は、疎水性でありかつ生物学的な流動体に不溶である性質を有し、特に移植可能である医療用デバイスを製造及び/又はコーティングするために使用されることができ、かつ磁気共鳴画像において一時的又は永久に見える新規なポリマーにより特に関する。
【0003】
本発明は、該ポリマーの製造方法及び特に移植可能でありかつ医療用デバイスのバルク中に及び/又はコーティングとして該ポリマーを含む、気共鳴画像において検出可能である医療用デバイスの製造方法にさらに関する。
【0004】
最後に、本発明は、結果として生じる医療用デバイス、特に移植可能なもの、に関する。
【0005】
磁気共鳴画像(MRI)は、水素原子の存在のために、ヒトの体の画像を得ることを可能にする医療用画像ツールである。
【0006】
シグナルの強度及び得られる画像の質を増加させるために、非常に多くのコントラスト剤が使用され、それらのほとんどは、生物学的流体物に可溶であり、有機体における次に起きる、よりよい可視化を許す。
【0007】
しかし、MRIは、ある種の病気を緩和する目的で体に移植され、その結果として、有機体における病気の運命を監視する、ポリマーをベースとする人工器官又は医療用デバイスの大部分を可視化することを可能にしない。
【0008】
今、これらの人工器官又は移植された医療用デバイスの運命を監視して、固定の品質及び耐用期間、例えば細胞集積並びに該人工器官の任意の分解、を評価することができることが必要である。
【背景技術】
【0009】
移植可能な医療用デバイスは、国際特許出願公開第03/045457号パンフレットから公知であり、該デバイスは、基体及び該基体の表面の少なくとも一部上で該基体をコーティングするハイドロゲルポリマーコーティングを含み、該デバイスがひとたび患者に埋め込まれると、該医療用デバイスを磁共鳴画像において見えるようにすることができる。
【0010】
しかし、該ハイドロゲルポリマーは親水性であり、該ハイドロゲルポリマー上に捕捉される検出可能な種(species)が該医療用デバイスに永久的に結合されるわけではなく、従って、ひとたび移植されれば、長期間見えることはできない。
【0011】
多糖類に結合されたキレート化剤を含む、磁気共鳴画像における使用のためのコントラスト剤は、書類米国特許第4822594号明細書からもまた公知である。
【0012】
しかし、これらは親水性の化合物である。さらに、キレート化剤の−COOH又はカルボニル基と多糖類のヒドロキシル基即ち−OH基との直接的な反応から生じるエステル結合の生成により該キレート化剤と多糖類との間のグラフト化が起きる。
【0013】
即ち、本発明に従うグラフトの位置は、下記において示されるように、上記書類において使用されるものと異なる。
【0014】
さらに、国際特許出願公開第99/60920号パンフレットから、磁気共鳴画像を使用する診断又は治療方法、例えば血管内治療、の間に医療用デバイスをコーティングするために使用されることのできる常磁性金属イオンの存在のために、磁気共鳴により検出可能なシグナルを放出することができるコーティングが公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】国際特許出願公開第03/045457号パンフレット
【特許文献2】米国特許第4822594号明細書
【特許文献3】国際特許出願公開第99/60920号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかし、記載された該方法は、特に産業上の利用可能性に関する大きな欠点を有する。第一に、該方法は表面を前処理するためのプラズマ反応器における段階を採用することである。該書類の実施例に記載されているように、ポリエチレンの表面は常磁性金属を含む錯体化剤のグラフト化の前に、まず遊離のNH基を与えるヒドラジンに基づくプラズマで処理される。
さらに、プラズマ処理は、反応し、かつ錯体化剤に結合されることのできる遊離のNH基の数の正確な評価を許さないので、この方法は、また、常磁性イオンの量を決定することを困難にするという欠点を有する。
【0017】
従って、磁気共鳴画像において見え、医療用デバイスのバルク中で又は移植可能な表面上のいずれかにおいて使用されることのできる疎水性ポリマーであって、該ポリマーを製造する関連する方法は、簡単であり、実行するのが容易であり、及び/又は該医療用デバイス上で検出可能な常磁性イオンの量を制御することを可能にするところの疎水性ポリマーを見つける必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
第一の特徴に従うと、本発明は、医療用デバイス、特に移植可能であり、磁気共鳴画像において見え、より特に永久に見える医療用デバイスを製造及び/又はコーティングするのに特に有用である疎水性ポリマーにおいて、該ポリマーは少なくとも1のモノマー単位を含み、該モノマー単位に常磁性イオンをキレート化する配位子がグラフト化され、該常磁性イオンと錯体化され、該モノマー単位は少なくとも1のカルボニル基を有し、該モノマー単位はグラフト化前に、該少なくとも1のカルボニル基のα位に少なくとも1の水素原子を有し、該キレート化配位子の該グラフト化は、該少なくとも1のカルボニル基のα位における該少なくとも1の水素原子のレベルにおいて起きることを特徴とする前記ポリマーに関する。
【0019】
その別の特徴に従うと、本発明は、疎水性ポリマー、特に医療用デバイス、特に移植可能であり、磁気共鳴画像において見え、より特に永久に見える医療用デバイスを製造及び/又はコーティングするのに有用である疎水性ポリマーにおいて、該ポリマーは少なくとも1のモノマー単位を含み、常磁性イオンをキレート化する配位子が該モノマー単位上においてグラフト化され、該常磁性イオンと錯体化され、該モノマー単位は少なくとも1のカルボニル基を有し、該モノマー基はグラフト化前に、該少なくとも1のカルボニル基のα位に少なくとも1の水素原子を有することを特徴とする前記ポリマーに関する。
【0020】
また、上で定義された該ポリマーを製造する方法において、(i)少なくとも1のカルボニル基を有し、かつ該少なくとも1のカルボニル基のα位に少なくとも1の水素原子を含む少なくとも1のモノマー単位を含む疎水性ポリマーを活性化して、該少なくとも1のカルボニル基のα位における炭素上に位置するプロトンの脱離によりカルバニオンを保持する少なくとも1のモノマー単位を有するポリマー鎖を形成する少なくとも1の段階、(ii)カルバニオンを有する少なくとも1のモノマー単位を有する該ポリマー上で常磁性イオンのキレート化配位子とグラフト化させる少なくとも1の段階、及び(iii)例えば、前の段階において得られたポリマーの、少なくとも1の常磁性イオンを含む溶媒中における溶解により、常磁性イオンと該キレート化剤との錯体化の少なくとも1の段階を含む、該方法にもまた関する。
【0021】
また、そのバルク中に及び/又はコーティングとして及び/又はマーカーとして、特に下記において記載されるような追跡性の目的のために、上記の少なくとも1のポリマーを含むことを特徴とする、医療用デバイスにも関する。
【0022】
本発明は、医療用デバイス、特に、移植可能であり、磁気共鳴画像において検出可能であるもの、を製造する方法において、特に本発明に従う該ポリマーを含む溶液中に浸漬すること又は噴霧することにより、上で定義されたポリマーでコーティングする少なくとも1の段階を含むことを特徴とする該方法にもまた関する。
【0023】
本発明の文脈において、以下の定義が使用される。
【0024】
該ポリマーを「そのバルク中に」含む、は、問題の物体がその中に該ポリマーを含む、例えば、実質的に又は部分的に該ポリマーから構成されていることを意味する。
【0025】
用語「ポリマー鎖」は、2つの制限的な連続単位、それらのうちのそれぞれは末端基、分岐点、又は巨大分子の特徴であることができる、の間に位置する連続単位の直線的又は分岐状の配列(sequence)を有する巨大分子又は巨大分子の一部を意味する。
【0026】
用語「主ポリマー鎖」は、上で定義されたポリマーの直線部分を意味する。
【0027】
用語「モノマー」は、それ自身と又は同じタイプの他の分子と組み合わせることによりポリマーに転化されることのできる分子を包含する。
【0028】
「モノマー単位」又は「モノマー状単位」は、繰り返しが通常の巨大分子をもたらす最小の構成単位を意味する。
【0029】
「加水分解的に分解可能」である物質は、加水分解によるエステル結合の切断に従って、水の存在において分解し、そのことについて、該物質の分解の生成物は、出発物質のポリマー鎖の数平均分子量より低い数平均分子量を有するという証拠がある物質である。
【0030】
「生体吸収性」又は「吸収性」物質は、酵素的又は加水分解的に分解し、分解の生成物が、バイオマスに統合される及び/又は代謝又は腎臓ろ過により体から除去されるという証拠がある物質である。
【0031】
「ブロック」は、複数の同一又は異なる成分単位を含む巨大分子の一部であり、該単位は、構造(constitution)又は構成(configuration)の少なくとも1の特徴的な特色を有しており、あるブロックが、該ブロックに隣接する部分から区別されることを可能にする。
【0032】
用語「常磁性イオンの錯体化剤」、「常磁性イオンのキレート化剤」又は「常磁性イオンのキレート化配位子」は、同じである。
【0033】
用語「〜」及び「〜から〜まで変化する」は、範囲の限界点が含まれることを意味する。
【0034】
「疎水性ポリマー」は、例えば下記において記載される測定プロトコルに従うと、40°〜180°、より好ましくは50°〜150°の、測定された接触角を有するポリマーを意味する。
【0035】
言い換えると、本発明に従うポリマーは生物学的流体物には不溶である。
【0036】
接触角を測定するためのプロトコル
接触角は、表面張力計、例えばKRUSS社により販売されているKRUSS K100で測定されることができる。
【0037】
Wihelmyの方法に従って、清浄な乾燥した顕微鏡のスライドガラスが、テトラヒドロフラン(THF)に溶解された5g/Lの濃度を有する置換されたポリマーの溶液に浸され(水において1cmの液浸に相当する)、該操作は20℃において行われる。
【0038】
表面張力計は、水とポリマーでコーティングされたスライドガラスとの間の表面張力を測定し、得られる、水との接触角を計算する。
【0039】
新規な疎水性ポリマー
本発明に従う疎水性ポリマーは、少なくとも1のモノマー単位を有し、該単位上には常磁性イオンと錯体化された常磁性イオンのキレート化配位子がグラフト化されており、該モノマー単位は、少なくとも1の、特に1〜3の、カルボニル基を有し、該モノマー単位は、グラフト化の前に、少なくとも1の水素化原子を該少なくとも1のカルボニル基のα位に有していることを特徴とする。
【0040】
本発明は、種々の分解プロフィールを有することができる、上で定義された疎水性ポリマーに関する。言い換えると、想定されるポリマーの性質に依存して、下記において詳細が述べられるように、それは生体吸収性又は加水分解的に分解性であってもなくてもよい。即ち、この性質は、想定される用途に依存して容易に調節されることができ、このことは本発明の利点の一つを構成する。有利に、この性質は以下の分解試験を使用して評価されることができる。
【0041】
分解試験
この試験は、あるポリマーが、上に与えられた定義に従って生体吸収性又は加水分解的に分解性であるか否かを決定することを可能にする。この試験は、例えばサイズ排除クロマトグラフィーにより、生理学的な状況を模倣する条件(pH7.4におけるPBSバッファー、37℃における機械的撹拌)における数平均分子量の変化を調査することからなる。
【0042】
異なる時における数平均分子量の減少の百分率は以下の式により表わされる。
【0043】

指針として、本発明に従うと
T=2月の場合、数平均分子量における減少の百分率は、0〜50%、好ましくは0〜25%であることができ、
T=6月の場合、数平均分子量における減少の百分率は、0〜75%、好ましくは5〜50%であることができ、
T=1年の場合、数平均分子量における減少の百分率は、5〜100%、好ましくは10〜80%であることができ、
T=2年の場合、数平均分子量における減少の百分率は、10〜100%、好ましくは20〜90%であることができる。
【0044】
該試験の適用の説明は、本発明に従うポリマーについての以下の実施例において与えられる。
【0045】
出発ポリマー
本発明に従うポリマーを与えることのできるポリマー鎖は、以下に記載される。
【0046】
本発明の一つの変形に従うと、少なくとも1のカルボニル基を有し、かつ該カルボニル基のα位に少なくとも1の水素原子を有するモノマー単位は、2〜12の炭素原子、特に2〜7の炭素原子を有する。
【0047】
別の変形に従うと、該モノマー単位は一つのカルボニル基を有する。
【0048】
第一の実施態様に従うと、カルボニル基は主ポリマー鎖の外に位置する。そのようなポリマーの例として、同一又は異なるモノマー単位から全体的に又は部分的になり、該単位のそれぞれは以下の式(I)
【化1】

ここで、Rは、任意的に(C〜C)アルキル基で置換されていてもよい、(C〜C12)のアルキル基又は(C〜C)の環状アルキル基を表わす、
を有する、ポリアクリレートを挙げ得る。
【0049】
該ポリアクリレートはアクリレートモノマーから形成される。
【0050】
該アクリレートモノマーの中で、特にブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、メチルアクリレート及びエチルアクリレートを挙げ得る。
【0051】
これらのポリマーは、非吸収性及び非加水分解性とみなされる性質を有する。言い換えると、それらはヒトの体の中にそのままに留まることができ、生物学的環境との接触において分解しない。
【0052】
一般的に、式(I)のポリアクリレートは、上で定義されたアクリレートモノマーの重合により得られることができる。
【0053】
第二の実施態様に従うと、カルボニル基は、主ポリマー鎖中に位置する。この実施態様の例として、同一又は異なるモノマー単位から全体的に又は部分的になり、該単位のそれぞれは以下の式(II)
【化2】

ここで、
、R、及びRは、独立して水素原子、任意的に(C〜C12)アルキル基で置換されていてもよい、(C〜C12)のアルキル基又は(C〜C)の環状アルキル基を表わし
xは、0〜12の整数、例えば0〜6の整数を表わし、かつ
yは0〜8の整数、例えば0〜6の整数を表わし、x及びyは同時にゼロではないことが理解される、
を有するポリエステルポリマーを特に挙げ得る。
【0054】
一般的に、式(II)のポリエステルは、
a)ヒドロキシ酸自身の重縮合により又は
b)ラクトンの開環重合により
得られることができる。
【0055】
式(II)のモノマー単位を有するこれらのポリマーの中で、同一又は異なるモノマー単位から全体的に又は部分的になり、該単位のそれぞれは以下の式(III)
【化3】

ここでRは、(C〜C12)のアルキル基である、
を有するポリエステルを特に挙げ得る。
【0056】
ポリエステルを製造するために使用されることのできるモノマーの中で、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシヘキサン酸及びヒドロキシオクタン酸を特に挙げることができる。
【0057】
以下の表は、R基の意味と式(III)のポリマーの完全な名前との間の対応を示す。

【0058】
式(II)のモノマー単位を含む他のポリエステルの例として、式(IV)
【化4】

ここで、
qは、2〜9で変化する整数を表わし、
は、(C〜C12)のアルキル基を表わし、かつ
nは0〜2の整数を表わし、nか2に等しいとき、二つのR基は異なることができるだけでなく、同じ又は2つの異なる炭素原子上に位置することができる、
のラクトン環の開環によって得られるポリエステルを挙げ得る。
【0059】
qが5に等しく、かつnが0に等しいとき、それはカプロラクトン又はε―カプロラクトンである。
【0060】
即ち、該ポリエステルは、ポリカプロラクトン又はポリ(ε−カプロラクトン)である。本発明に適切であることができる式(IV)のラクトンの中では、δ−バレロラクトン、γ−ブチロラクトン、ε−デカラクトン、ピバロラクトン及びジエチルプロピオラクトンをさらに挙げ得る。
【0061】
式(II)のモノマー単位を含む他のポリエステルの例として、同一又は異なるモノマー単位から全体的に又は部分的になり、該単位のそれぞれは以下の式:
【化5】

を有する、乳酸のポリマー(PLA)を挙げ得る。
【0062】
一般的に、乳酸のポリマーは、ラクチドモノマーから、例えば開環重合により、又は乳酸又は乳酸の誘導体から重縮合により得られる。乳酸の対掌性のために、ポリ−L−ラクチド(PLLA)及びポリ−D−ラクチド(PDLA),ポリ(D、Lラクチド)、ポリ−メソ−ラクチド及び本発明に従うポリマーの一部を形成する全ての立体異性体がある。
【0063】
式(II)のさらに他のポリエステルの例として、同一又は異なるモノマー単位から全体的に又は部分的になり、該単位のそれぞれは以下の式
【化6】

からなるグリコール酸又はポリ(グリコリド)のポリマーを挙げ得る。
【0064】
本発明の文脈において使用可能な、式(II)のモノマー単位を含むポリエステルの中で、p−ジオキサノン(1,4−ジオキサン−2−オン);1,4−ジオキセパン−2−オン(その1,5,8,1ダイマー2−テトラオキサシクロテトラデカン−7,1 4−ジオンを含む),1,4−ジオキセパン−5−オン;1,5−ジオキセパン−2−オン;6,6−ジメチル−1;4−ジオキサン−2−オン;2,5−ジケトモルホリン;3−メチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン;3,3−ジエチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン;6,6−ジメチル−ジオキセパン−2−オン及びそれらのポリマー混合物のホモポリマー及びコポリマーを挙げ得る。
【0065】
その特徴の一つに従うと、本発明は、疎水性ポリマー、特に医療用デバイス、特に移植可能であり、磁気共鳴画像において見える医療用デバイスを製造及び/又はコーティングするのに有用である疎水性ポリマーにおいて、該ポリマーは少なくとも1のモノマー単位を含み、該モノマー単位上で常磁性イオンと錯体化された常磁性イオンのキレート化配位子がグラフト化され、該モノマー単位は少なくとも1のカルボニル基を有し、該モノマー基はグラフト化前に、該カルボニル基のα位に少なくとも1の水素原子を有することを特徴とし、それはヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシヘキサン酸、及びヒドロキシオクタン酸、δ−バレロラクトン、γ―ブチロラクトン、ε−デカラクトン、ピバロラクトン、ジエチルプロピオラクトン、グリコール酸、p−ジオキサノン(1,4−ジオキサン−2−オン);1,4−ジオキセパン−2−オン;1,4−ジオキセパン−5−オン;1,5−ジオキセパン−2−オン;6,6−ジメチル−1;4−ジオキサン−2−オン;2,5−ジケトモルホリン;3−メチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン;3,3−ジエチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン;6,6−ジメチル−ジオキセパン−2−オン及びそれらの混合物から選択された少なくとも1のモノマーの重合から生じることを特徴とする前記疎水性ポリマーに関する。
【0066】
式(II)のポリマーは、吸収性又は加水分解的に分解性であるとみなされるが、長期にわたった場合である。即ち、上記の分解試験に従うと、数平均分子量の変化は1週〜10年の期間に観察可能である。
【0067】
実際には、ポリエステルの性質に依存して、吸収は1月〜10年かかることができる。本発明は、1月超又は6月超さえの、上に示されたプロトコルに従って測定された吸収時間を有するポリエステルに、より特に関する。
【0068】
主ポリマー鎖においてカルボニル基を有する他のポリマーとしてポリエーテルケトン及びポリアミドエステルを挙げ得る。
【0069】
本発明の文脈において、カルボニル基は二価の−CO−基を意味する。
(C−C)、ここでt及びzは2〜12の値を取ることができる、は、t〜zの炭素原子を有することができる炭素含有単位を意味し、例えば(C〜C)は、2〜3の炭素原子を有することができる、炭素含有単位を意味する。
アルキル基は、飽和、直鎖又は分岐状の脂肪族基である。例として、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tertブチル、ペンチル基等を挙げ得、及び
シクロアルキル基は、環状アルキル基であり、例として、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル基等を挙げ得る。
【0070】
特定の実施態様に従うと、ラクチド、グリコリド、及びε−カプロラクトンホモポリマー及びコポリマーが出発ポリマーとして使用される。
【0071】
さらにより特定の実施態様に従うと、本発明の文脈において使用可能なポリマーは、ε−カプロラクトンのホモポリマー又はコポリマー、より特に、ε―カプロラクトンのホモポリマー、特に、5000〜500000、特に5000〜100000の数平均分子量を有するε−カプロラクトンのホモポリマーである。
【0072】
本発明の意味において、該疎水性ポリマーは、ホモポリマー以外にコポリマー(ランダム、くし型配列又は交互のブロック、グラフト)をもまた含む。
【0073】
特に、本発明は、本発明に従う、つまり上で定義されたようにカルボニル基を有する、少なくとも1のモノマー単位を含む少なくとも1のブロック、並びに種々のタイプの生体適合性ブロック(以降、便宜のため、追加のブロックと呼ぶ)から選択されることのできる少なくとも1の他のブロックを含むジー、トリ−、又はマルチブロックポリマーに関する。
【0074】
定義により、これらの追加のブロックは、α位にHを有するカルボニル基を有するモノマー単位を必ずしも有しない。後者の中では、以下のポリマーブロックを挙げ得る。
−ポリ(エチレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)又はポロクサマー。
【0075】
本発明の変形に従うと、該追加のブロックは、ポリ(エチレングリコール)又は式H(OCHCHOHのPEGブロックであり、pは10〜600で変化する。
【0076】
本発明に従うポリマー
【0077】
本発明の文脈において、本発明に従うポリマーは、1000〜500000、特に5000〜100000、例えば10000〜50000の数平均分子量を有することができる。
【0078】
本発明の文脈において使用される錯体化剤は少なくとも1のカルボン酸官能基を有する。これに関連して、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA),テトラアザシクロドダカンテトラ酢酸(DOTA)及びテトラアザシクロテトラデカンテトラ酢酸(TETA)を挙げ得る。
【0079】
本発明に適切である常磁性イオンは、多価常磁性金属であって、例えばランタニド、遷移金属、例えば鉄、マンガン、クロム、コバルト及びニッケルを包含するがこれらに制限されない。
【0080】
好ましくは、該常磁性イオンは、非常に常磁性であるランタニド、さらにより好ましくはそれはガドリニウム(III)イオンである。
【0081】
第一の変形に従うと、キレート化配位子は、ポリマー上において直接グラフト化されることができる。
【0082】
第二の変形に従うと、グラフト化はポリマーを結合するリンカー及びキレート化剤上で実行されることができる。本発明に従う文脈において使用されることのできるリンカーの中で、錯体化剤のカルバニオン及び酸塩化物と反応することができる少なくとも2の官能基を含む誘導体を特に挙げ得る。例えば、錯体化剤上で反応するためのアルコール、アミン、又はチオール官能基及びカルバニオン上で反応するためのハロゲン化物又は酸ハロゲン化物を挙げ得る。
【0083】
常磁性のキレート化配位子をグラフト化する方法
製造方法は、一般的に、非救核的な塩基でのアニオン性活性化による主ポリマー鎖の官能化からなる。
【0084】
より特に、本発明に従うポリマーを製造する方法は、
(i)少なくとも1のカルボニル基を有し、かつ該少なくとも1のカルボニル基のα位に少なくとも1の水素原子を含む少なくとも1のモノマー単位を含む疎水性ポリマーを活性化して、該少なくとも1のカルボニル基のα位における炭素上に位置するプロトンの脱離によりカルバニオンを保持する少なくとも1のモノマー単位を有するポリマー鎖を形成する少なくとも1の段階、
(ii)カルバニオンを有する少なくとも1のモノマー単位を有する該ポリマー上において、常磁性のキレート化配位子でグラフト化する少なくとも1の段階、及び
(iii)例えば、前の段階において得られたポリマーの、少なくとも1の常磁性イオンを含む溶媒中における溶解により、常磁性イオンのキレート化剤による錯体化の少なくとも1の段階
を含む。
【0085】
式(I)又は(II)のモノマー単位をそれぞれ含む、上で定義された出発ポリマーから出発する一般的なスキームが、以下のスキーム1により示されることができる。
【化7】

【0086】
活性化の第一の段階(i)は、強塩基、例えばリチウムジイソプロピルアミド(LDA)を例えば無水の有機溶媒中で使用することにより得られる。中間体例えばカルバニオン及び/又はエノレートが主ポリマー鎖上に得られる。例えば上記スキーム(I)に従う式(I’)又は(II’)のこれらの中間体は以降、カルバニオンと呼ばれる。
【0087】
この第一の段階(i)は、上記の記載から明らかなように、エステル官能基が主ポリマー鎖にあろうとなかろうと又は側鎖にあろうとなかろうと、同じ方法で使用されることができる。
【0088】
典型的には、上記の反応の第一の段階(i)は、5〜60分、例えば15〜45分、かかることができる
【0089】
この第一の段階(i)に従う反応は、−70〜30℃、例えば−60〜0℃の範囲の温度において行われることができる。
【0090】
本発明に従うポリマーの製造のこの第一の段階(i)は、特に、論文、S.Ponsartら、「アニオン性誘導体を介するポリ(ε−カプロラクトン)をベースとするコポリマーへの新規なルート」、Biomacromolecules、2000年、第1巻、275〜281頁に記載された手順に従って行われることができる。
【0091】
キレート化配位子によるポリマーの置換の程度又は範囲は、この第一の段階(i)に大きく依存することを理解されたい。特に導入された強塩基の量はこの、置換の程度に影響を及ぼす。しかし、強塩基が過剰に導入されたときでさえ、該置換の程度は出発ポリマーに依存してある値において天井に到達する。
【0092】
同様に、この第一段階(i)の反応温度もまた、該置換の程度に影響を及ぼす。上記の天井値より下のままで、反応温度が高められれば高められるほど、置換の程度もまた増加する。
【0093】
他のパラメーター、特に塩基の性質及び反応時間、もまた置換の程度に影響を及ぼし得る。
【0094】
第二段階(ii)に従って、我々は、カルバニオンの形の少なくとも1のポリマー単位を含むポリマー上で錯体化剤のグラフト化を続ける。
【0095】
この錯体化剤は、ポリマーと同じ溶媒中に可溶であり、グラフト化のための反応性官能基を有する生成物を得るように、前もって化学的に変性されていることができる。
【0096】
この方法に従って、次にグラフト化は、カルバニオンの形の少なくとも1のポリマー単位を含むポリマー間で得られることができる。グラフト化は、例えば溶媒例えばテトラヒドロフラン、トルエン、ベンゼンの芳香族誘導体、ジオキサン及び、−70℃〜30℃、例えば−40℃において、5〜60分間、例えば30分間、反応のために選択された塩基又はカルバニオンと反応しない任意の溶媒において一般的に行われることができる。
【0097】
第三の段階(iii)に従って、本発明に従うポリマーは、前の段階に従って得られた生成物の、常磁性イオン例えばガドリニウム三塩化物を含む溶媒、例えばDMSO又は溶媒の混合物例えば水/アセトン中での、1時間〜10日間、例えば2日間の、例えば室温においての撹拌する反応により最終的に得られることができる。
【0098】
この方法の最後に得られるポリマーは、疎水性であり、水性溶媒、例えば生物学的流動体に不溶であるという特徴を有する。このようにして得られたポリマーは、MRIにおいて該ポリマーを見えるようにする置換基(錯体化剤+常磁性イオン)をその鎖上に有している。
【0099】
一般的に、キレート化剤の置換の程度は0.01〜40%の範囲で変化する。
【0100】
より特に、ポリマーが少なくとも1のカルボニル基を主ポリマー鎖に有しているときに得られる置換の程度は、0.01〜10%の範囲であることができ、例えば10%未満であり得る。
【0101】
さらに、置換の程度は、少なくとも1のカルボニル基が主ポリマー鎖の外にあるとき、言い換えるとカルボニル基が主ポリマー鎖に対する側鎖に含まれるときは、0.01〜40%の範囲、例えば30%未満であることができる。
【0102】
医療用デバイス
本発明は、本発明に従う少なくとも1のポリマーを含む医療用デバイスを包含する。
【0103】
本発明に従うポリマーは、医療用デバイス自体の完全な部分を形成することができる。言い換えると、本発明に従うポリマーは、そのバルクに含まれ又はそうでなければ該医療用デバイスを磁気共鳴画像において見えるようにするような厚さのコーティングの形で該デバイスの表面に位置する。
【0104】
典型的には、コーティングは、1〜1000μmの厚さ、例えば10〜100μmの厚さを形成することができる。
【0105】
医療用デバイスをコーティングすることからなる変形において、当業者に自体公知である種々の方法が使用されることができる。これに関連して、エレクトロスピニング、ディッピング、スプレー乾燥又はアエログラフィ又は噴霧の使用を挙げ得る。
【0106】
もちろん、本出願は、本発明において考慮されたのとは異なる種類のバルク及び/又は表面処理の他のタイプを受けた医療用デバイスに及ぶ。例として、バクテリア及び菌の抗付着処理、活性成分例えば抗生物質、抗細菌性物質、抗菌性物質、抗炎症剤、及びインシチューで放出されることのできる活性成分の全ての種類の放出を許す処理を挙げ得る。
【0107】
本発明に特に適切である医療用デバイスとして、例えば生殖脱肛(genital prolapse)のためのメッシュ又は人工器官のために、婦人科の分野において用途をより特に見出す医療用デバイスを挙げ得る。
【0108】
他の特徴に従うと、本発明は、医療用デバイスに印をつける方法において、本発明に従うポリマーを材料の表面、特に医療用デバイスのターゲット領域の上に付着させる少なくとも1の段階を含むことを特徴とする該方法にまで及ぶ。
【0109】
この特徴に従うと、即ち、本発明に従うポリマーは、手術後の監視が材料上の直接の印に基づいて行われることができるように、特に記入の形で人工器官上に付着される。
【0110】
より特に、印づけは該医療用デバイスの追跡可能性のために意図されることができる。即ち、該医療用デバイスは、製造、頒布の間、又はひとたび本来の場所に置かれたであろうとなかろうと、その寿命を通して識別され得る。即ち、印づけは該医療用デバイス上の如何なる形又は表面を受け入れる。
【0111】
さらにより特に、記入は数字、文字、又は追跡可能性に有用である文字の任意のタイプの形をとることができる。
【0112】
例として、印づけは以下の方法の一つに従って行われることができる。
− 文字が記された、材料の表面への、本発明に従うポリマーの均一な表面の付着。

− 本発明に従うポリマーがインクであるマイクロ印刷の技術による、材料の表面への文字の付着。

【0113】
本発明のこの特徴は通常そうであるように、すなわち、印づけがそのパッケージとよりもむしろ医療用デバイスと統合される点において特に有利である。
【0114】
本発明は、本発明に従うポリマーにより作られた印を備えられた医療用デバイスまでもまた及ぶ。
【0115】
本発明に従うポリマーは、MRIが使用される内科(medicine)の分野においてもまた用途を見出すことができる。
【0116】
これらの種々の分野は、外科の分野又は材料のタイプ、特に内科の複数の分野において使用される特に移植可能なものにより分類されることができる。
【0117】
内科−外科分野による分類
婦人科
・泌尿生殖器及び直腸脱肛の処置における支持メッシュ(膣及び腹部手術)
・避妊術のためのクリップ
・腔内のルートによる卵管閉塞のためのデバイス
・頸管縫縮術のためのリング
・腹腔及び子宮内の抗付着デバイス
【0118】
泌尿器学
・人工尿括約筋
・人工陰茎
・海綿体の補強のためのパッチ(陰茎の湾曲の処置、ラペロニー病)
・尿道周囲バルーン
・尿道周囲注入デバイス
・尿道下バンド
・尿道内ステント、人工器官
・尿道バイパスカテーテル(経皮的及び自然のルート)
【0119】
整形外科
・合成靭帯
・新軟骨又は関節
・合成椎間板
・大腿骨頭
・臼蓋窩(大腿骨及び上腕)
・脛骨プラトー
・上腕頭
【0120】
耳鼻咽喉科学
・人工内耳
・内耳人工器官、骨の代替物
内分泌学
・移植可能なポンプ
【0121】
血管
・血管内人工器官
・動脈及び静脈人工器官
・閉鎖及び止血、肝動脈血管アクセスのためのデバイス
・チャンバーのケース及びカテーテル、移植可能な血管アクセス
【0122】
神経学
・血管ステント
・動脈瘤の閉塞及び動脈の血管の切開のためのデバイス
・電気刺激プローブ
・硬膜及び髄膜のパッチ及び補強
【0123】
眼科学
・合成角膜
【0124】
消化管手術
・ヘルニア補強板(メッシュ)(隔膜、体腔壁、鼠径、脚)
・胃バンディング
・脾臓の糸
・食道の人工器官
・胆管及び消化管(小腸、大腸、直腸)のためのステント
内人工器官
・非経口の栄養のためのチューブ
・人口肛門括約筋
【0125】
心臓学
・冠状動脈ステント
・ペースメーカーのケース及びチューブ
・収縮のペーシングカテーテル
【0126】
放射線学
・末梢血管塞栓、血管閉塞のための剤(動脈又は静脈の)(一時的又は永久)
【0127】
複数の医療分野において使用される移植可能な材料
・外科縫合糸
・静脈及び動脈カテーテル(中枢及び末梢)
・体内の熱プローブ
・外科用ドレーン、管状及び板、ドレナージチャンネル
・消化吻合及び人工器官固定のための近似、配置のための合成クランプ
・再生医療:再建手術において幹細胞を支持するためのマトリックス
【0128】
本発明に従うポリマーは、MRI装置の実際の筺体において、用途を最終的に見出すことができる。
【0129】
MRI室における作業環境は、MRIの磁場を撹乱することのできる金属の不存在を要求する。この環境は換気及び蘇生のために、金属フリーである、MRIと両立する装置の開発を特に要求する。これに関連して、以下の装置を挙げ得る:テーブル、ヘッドレスト、首支え、添え木、とじ金、MRIに配置及び設置するための支持物及び固定する物。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】DTPA−Ph、ベンジルアルコール及びDTPAのクロマトグラムを示す。
【図2】DTPA二無水物(A)及びジフェニル化DTPA(B)の赤外スペクトルを示す。
【図3】PCL−DTPA−ジPhのλ=292nmにおけるクロマトグラムを示す。
【図4】種々のグラフト化されたポリマー及び負及び正のMRI対照のMRI画像を示す。
【図5】210日間の数平均分子量(Mn)及びピークの頂点における分子量(Mp)の変化を示す。
【図6】(i)左側の2つの画像に関して負の対照としてのメッシュ、つまりガドリニウムなしのPCL−DTPAでコーティングされたメッシュ及び(ii)右側の2つのイメージに関して、実施例1において製造されたPCL−DTPA−Gdでコーティングされた試料を示す。
【図7】勾配3Dのエコー系列におけるラット(A)及び可変のフリップ角(VFA)を有するFLASHタイプの勾配3Dのエコー系列におけるラット(B)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0131】
以下に与えられる実施例は、本発明の範囲を制限することなく本発明を説明する。
【実施例】
【0132】
実施例
実施例1:ポリε−カプロラクトンポリマーに基づく製造
生成物の同定は添付の図面により説明される。
合成スキームは以下の通りである:
【化8】

【0133】
ジフェニル化DTPA[2]の合成(M=550g/モル)
730μlのベンジルアルコール(2.5当量)が1gのDTPA二無水物[1]のDMSO中の懸濁物に添加される(室温において不溶)。該混合物は、室温において5時間放置され、反応の進行が赤外線分光計により監視される(1800cm−1における二無水物に特徴的なピークの消失)。
【0134】
処理:
過剰のDMSO及びベンジルアルコールが羽根ポンプにより2日間で蒸発される。得られる生成物はエチルエーテルから再結晶化される。白色の粉末が回収される。
【0135】
同定
− HPLC:溶出液としてHO/アセトニトリル(65/35)で定組成モードでHPLCを使用し、257nmの波長においてUVにより検出し、新しい構造(ジフェニル化DTPA)の存在を明らかにする。図1は、定組成モード、65/35の比のHO/ACN、DTPA−Ph、ベンジルアルコール及びDTPAで得られたクロマトグラムを示す。
保持時間(ジフェニル化DTPA)=6.75 分
保持時間(ベンジルアルコール)=3.7分
保持時間(DTPA)=1.9 分
【0136】
− 赤外線分光計:赤外分析は、1800cm−1における無水物に特徴的なピークの消失を明らかにする。図2は、DTPA二無水物(A)及びジフェニル化DTPA(B)の赤外スペクトルを示す。
【0137】
H核磁気共鳴(DMSO D6):プロトンNMRは生成物の構造について及びDTPA上の2つの芳香族基の存在についての情報を提供する。
【0138】
2.9ppm(m、8H,H1)、3.4ppm(m、6H、H2)、3.6ppm(m、4H、H4)、5.1ppm(m、2H、H5)、7.3ppm(m、10H、芳香族H6)
ベンジルアルコールとの比較:
アルコール:4.3ppm(d、CH2);5.2ppm(t、OH);7.15ppm(芳香族)
【0139】
1.2. DTPA−ジPH−Cl[3]の合成:
【0140】
1gのジフェニル化DTPAが8mlのSOClに溶解される。該混合物は室温において2時間放置され、過剰のSOClの蒸発後、濃い茶色の油が回収され、次にTHFに溶解される。粗生成物は直接、次の段階において使用される。
【0141】
1.3. PCL−DTPA−ジPh[5]の合成
2gのPCLが−40℃において200mlのTHFに溶解され、17.5mlの2NのLDA溶液[リチウムジイソプロピルアミド](2当量)が撹拌しながら一滴ずつ添加される。反応は−40℃において30分間続けられ、PCLのカルバニオン[4]を得ることを可能にする。DTPA−ジPh−Clが20mlのTHFに希釈され、次に−40℃において30分間で該カルバニオンに一滴ずつ添加される。
【0142】
処理
それは、150mlのHO/HClでpH4〜5に中和され、続いて塩化メチレンによる3回の液体抽出、その後有機相の水による洗浄、最後にデカント、有機相の回収が行われ、該有機相は蒸発される。得られる製品はMeOH中で沈殿され、その後ろ過される。
【0143】
同定
−サイズ排除クロマトグラフィー(SEC):SECのために使用された検出器はダイオードアレー付きのUV可視検出器(PDA)である。SECは292nmの波長において吸収するポリマーの存在を示す。PCLはこの波長においては吸収しないので、この新しい生成物は修飾されたPCLに相当し、該PCLはPCL−ジフェニル化DTPAに相当する。図3は、ダイオードアレー検出器に接続されたサイズ排除クロマトグラフィーにより得られたPCL−DTPA−ジPhのλ=292nmにおけるクロマトグラムを示す。
【0144】
1HNMR:プロトンNMRは、置換を明らかにし、PCL上でのDTPAのグラフト化の程度を測定することを可能にする。芳香族プロトンの積分の強度:PCLのカプロラクトン単位のプロトンの強度の比の比較は、置換の程度を与え、それは2%に近い。
【0145】
4.0ppm(t、CH−O);2.2 ppm(t,CH−CO−O);1.5ppm(m,ガンマ及びイプシロンにおける2CH);1.3ppm(m、CH中央);5.1ppm(CH芳香族)。
【0146】
−酸−塩基分析:これは、グラフト化されたDTPA上に存在するカルボン酸官能基を決定することからなり、従って、PCL上での置換の程度を決定することを可能にする。
【0147】
この分析は、PCLがジフェニル化DTPAにより2.5%まで置換されたことを示す。
【0148】
1.4. PCL−DTPA[6]の合成
この段階は、ポリマー上にグラフトされたDTPAの脱ベンジル化による脱保護からなる。
【0149】
PCL−DTPA−Ph(1g)が80mlのTHFに溶解される。Pd/Cの10%懸濁物50mgが該溶液に添加される。混合物は4バールのHの圧力において3日間室温において放置される。
【0150】
処理
ろ過そしてTHFの蒸発後、ポリマーはメタノール中で再沈殿される。
【0151】
同定
PDA検出器によるSEC:得られたポリマーのクロマトグラムはポリマーがもはや芳香族を含んでおらず、ベンジルアルコールが除去されたことを示す。
【0152】
HNMR:NMRスペクトル上において、我々は、PCL−ジフェニル化DTPAに対して、芳香族プロトンに対応するピークの消失を観察した。
【0153】
1.5. PCL−DTPA−Gd[7]の合成
100mgの修飾されたポリマーがDMSOに溶解され、10mlのDMSO中のGdClの溶液(グラフト化されたDTPAに対して10当量)30mgと混合される。該混合物は、室温において2日間撹拌され、錯体化を完了させる。
【0154】
処理
DMSOの蒸発及びCHCl/HO抽出。CHClの蒸発及びMeOH中での再沈殿。
【0155】
同定
− PCLのプロトンの緩和時間:
下に与えられた結果は、置換された又はされていないPCL鎖のプロトンの緩和時間に対応する。それらは、PCL−DTPA−GdにおけるGd3+の存在を示す。

【0156】
− MRI:図4に示された添付の画像の分析後、2%において置換されたPCL−DTPA−Gdによく対応するNo.3が、明白な正のシグナルを与える。比較において、Magnevist(市販のMRI対比物質)と混合されたPCLによく対応するNo.12もまた明白な正のシグナルを与える。図4はグラフト化された種々のポリマー及び負及び正のMRI対照(3テスラ)のMRI画像を示す。図4は、種々の程度の置換及び種々の錯体化の方法での種々のグラフト化されたポリマーを示す(図4−A;シーケンス2D強調されたT2)負の対照(8〜11)及び正の対照(12)(図4−B:シーケンス2D強調されたT1)。
【0157】
実施例2
MRIで見えるコーティングを製造するためのスプレー方法
MRIにおける可視性の特徴を有するメッシュタイプの医療用デバイスを提供するために、エアログラフによりスプレーする方法がこの用途のために開発された(0.15mmのノズル及び5mLのカップを装備された、HarderアンドSteenbeckにより製造されたInfinity(商標)エアログラフ)。
【0158】
これのために、該ポリマーを容易に蒸発可能な有機溶媒(例えば、アセトン、クロロホルム、塩化メチレン)に溶解させることが必要である。該溶媒中の該ポリマーの濃度は、容易に、均一に、かつ連続的に噴霧されることができる透明な溶液を得るために、1〜5(体積)%でなければならない。
【0159】
ポリマーの溶液は、2.5バールの圧力下、メッシュから5cmの距離で、直接その表面において、局所的又は表面全体において噴霧される。該移植物の固有の性質を保ちながら移植物のMRI可視化を許すためには、移植物の表面においてポリマーの20〜50μmの付着物が必要である。
【0160】
該メッシュは、溶媒の完全な蒸発のために真空下で、12時間乾燥される。移植物に付着されたポリマーの量は、噴霧の前及び後の移植物の重さを比較することにより決定される。
【0161】
接触角
接触角は、下記のプロトコルに従って測定される。
− スライドガラスのみ:31°
− PCL−DPTA−Gdを含むスライドガラス:80°
− PCLを含むスライドガラス: 82°
この試験は、得られたポリマーが疎水性であることを明確に示している。
【0162】
分解試験
定義された量の置換されたポリマーが30本のチューブ、例えばチューブ1本当たり50mg、に付着され、5mlのPBSが添加される。次に、生理学的条件をシミュレーションするために、該チューブは、撹拌しながら37℃における恒温室(stove)に入れられる。
3本のチューブが、分解時間:

に対応する。
【0163】
次に各試料はろ過され、サイズ排除クロマトグラフィーにより分析される。出発ポリマーの最初の分子量に関する分解を追跡するために、数平均分子量及び各試料のピークの頂点における分子量が比較される。
【0164】
図5は、210日間の数平均分子量(Mn)及びピークの頂点における分子量(Mp)の変化を示す。分子量のタイプに拘わらず、分子量の顕著な減少が観察される(210日間で約20%)。
【0165】
試験管内での該メッシュの可視化
該メッシュは、装置7TブルッカーDRX300SWB撮像装置(imager)、「ミニ画像」構成(勾配144mT/m、鳥かご共鳴装置64mm)を使用して可視化される。
【0166】
図6は、(i)左側の2つの画像に関して負の対照としてのメッシュ、つまりガドリニウムなしのPCL−DTPAでコーティングされたメッシュ及び(ii)右側の2つのイメージに関して、実施例1において製造されたPCL−DTPA−Gdでコーティングされた試料を示す。
【0167】
さらに、この図6は、以下のように補足される。
a/光学顕微鏡において見られたコーティングを有するメッシュ(倍率×20)
b/反転単位(inversion unit)を用いるスピン2DのエコーにおけるMRI分析、従って、強調されたシーケンスT2感度を高められたT1(weighted sequence T2 sensitized T1)。
【0168】
生体内での該メッシュの可視化
ラットがメッシュタイプの4つの人工器官(1×3cm)の背中への移植を受けた(2つは、MRIで見えるポリマーで覆われ、2つは、MRIで見えないポリマーで覆われていた)。移植物は、皮下かつ筋肉内にある。該メッシュは装置7TブルッカーDRX300SWB撮像装置(imager)、「ミニ画像」構成(勾配144mT/m、表面−アンテナ装置1H/31P)を使用して可視化された。図7は、勾配3Dのエコー系列(A)及び可変のフリップ角(VFA)を有するFLASHタイプの勾配3Dのエコー系列(B)におけるラットを示す。
【0169】
これらの写真は、該メッシュは、移植3週後に、よく可視化されることができることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用デバイス、特に移植可能であり、磁気共鳴画像において見える医療用デバイスを製造及び/又はコーティングするのに特に有用である疎水性ポリマーにおいて、該ポリマーが少なくとも1のモノマー単位を含み、該モノマー単位に、常磁性イオンと錯体化された該常磁性イオンのキレート化配位子がグラフト化されており、該モノマー単位は少なくとも1のカルボニル基を有し、該モノマー単位はグラフト化前に、該少なくとも1のカルボニル基のα位に少なくとも1の水素原子を有し、かつ該キレート化配位子のグラフト化は、該少なくとも1のカルボニル基のα位における該少なくとも1の水素原子のレベルにおいて起きることを特徴とする前記ポリマー。
【請求項2】
少なくとも1のカルボニル基を有し、かつグラフト化の前に、該少なくとも1のカルボニル基のα位に水素原子を有する該モノマー単位が、2〜12の炭素原子、特に2〜7の炭素原子を有することを特徴とする、請求項1に記載のポリマー。
【請求項3】
少なくとも1のカルボニル基を有し、かつグラフト化の前に、該少なくとも1のカルボニル基のα位に少なくとも1の水素原子を有する該モノマー単位が、主ポリマー鎖の外に位置するか、又は該少なくとも1のカルボニル基が主ポリマー鎖中に位置する、請求項1又は2に記載のポリマー。
【請求項4】
該ポリマーが、同一又は異なるモノマー単位から全体的に又は部分的になるポリアクリレートであり、該単位のそれぞれは以下の式(I)

ここで、Rは、任意的に(C〜C)アルキル基で置換されていてもよい、(C〜C12)のアルキル基又は(C〜C)の環状アルキル基を表わす、
を有し、該モノマー単位は特にブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、メチルアクリレート及びエチルアクリレートから選択されたモノマーから誘導されることができる、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリマー。
【請求項5】
該ポリマーが、同一又は異なるモノマー単位から全体的に又は部分的になるポリエステルから誘導され、該単位のそれぞれは以下の式(II)

ここで、
、R、及びRは独立して、水素原子、任意的に(C〜C12)アルキル基で置換されていてもよい、(C〜C12)のアルキル基又は(C〜C)の環状アルキル基を表わし、
xは、0〜12、例えば0〜6、の整数を表わし、かつ
yは、0〜8、例えば0〜6、の整数を表わし、x及びyは同時にゼロではない、
を有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリマー。
【請求項6】
該ポリマーが、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシヘキサン酸、及びヒドロキシオクタン酸;δ−バレロラクトン;γ―ブチロラクトン;ε−デカラクトン;ピバロラクトン;ジエチルプロピオラクトン;グリコール酸;p−ジオキサノン(1,4−ジオキサン−2−オン);1,4−ジオキセパン−2−オン;1,4−ジオキセパン−5−オン;1,5−ジオキセパン−2−オン;6,6−ジメチル−1;4−ジオキサン−2−オン;2,5−ジケトモルホリン;3−メチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン;3,3−ジエチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン;6,6−ジメチル−ジオキセパン−2−オン及びそれらの混合物から選択された少なくとも1のモノマーの重合から誘導されたものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリマー。
【請求項7】
該ポリマーがポリ(ε−カプロラクトン)から誘導されたものである、請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリマー。
【請求項8】
該ポリマーがホモポリマー又はコポリマー、特にランダム又はくし型又は交互型のブロック、グラフト化(コ)ポリマーである、請求1〜7のいずれか1項に記載のポリマー。
【請求項9】
該ポリマーが、1000〜500000、特に5000〜100000、例えば10000〜50000の数平均分子量を有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリマー。
【請求項10】
該キレート化配位子が、少なくとも1のカルボン酸官能基を有すること、特にジエチレントリアミン五酢酸(DTPA),テトラアザシクロドダカン四酢酸(DOTA)及びテトラアザシクロテトラデカン四酢酸(TETA)から特に選択されることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載のポリマー。
【請求項11】
該キレート化剤の置換の程度が、少なくとも1のカルボニル基が主ポリマー鎖中に位置するときは、0.01〜40%、特に0.01〜10%、例えば10%未満であり、少なくとも1のカルボニル基が主ポリマー鎖の外に位置するときは、0.01〜40%、例えば30%未満であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載のポリマー。
【請求項12】
請求項1〜11に記載のポリマーを製造する方法において、(i)少なくとも1のカルボニル基を有し、かつ該少なくとも1のカルボニル基のα位に少なくとも1の水素原子を含む少なくとも1のモノマー単位を含む疎水性ポリマーを活性化して、該少なくとも1のカルボニル基のα位における炭素上に位置するプロトンの脱離によりカルバニオンを保持する少なくとも1のモノマー単位を有するポリマー鎖を形成する少なくとも1の段階、(ii)カルバニオンを有する少なくとも1のモノマー単位を有する該ポリマー上で常磁性イオンのキレート化配位子でグラフト化する少なくとも1の段階、及び(iii)例えば、前の段階において得られたポリマーの、少なくとも1の常磁性イオンを含む溶媒中における溶解により、常磁性イオンと該キレート化剤との錯体化の少なくとも1の段階を含むことを特徴とする、前記方法。
【請求項13】
医療用デバイス、特に移植可能であり、磁気共鳴画像において検出可能である医療用デバイス、において、請求項1〜11のいずれか1項に記載のポリマーをそのバルク中に及び/又はコーティングとして及び/又は印として含む、前記医療用デバイス。
【請求項14】
医療用デバイス、特に移植可能であり、磁気共鳴画像において検出可能である医療用デバイス、を製造する方法において、特に、該ポリマーを含む溶液に浸漬すること又は噴霧することにより、請求項1〜11のいずれか1項に記載のポリマーでコーティングする少なくとも1の段階を含むことを特徴とする、前記方法。
【請求項15】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のポリマーを物質の表面の上へ、特に医療用デバイスの目標領域の上へ、付着させる少なくとも1の段階を含むことを特徴とする、医療用デバイスの印づけの方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−532654(P2012−532654A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−519109(P2012−519109)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【国際出願番号】PCT/IB2010/053111
【国際公開番号】WO2011/004332
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(500531141)セントレ・ナショナル・デ・ラ・レシェルシェ・サイエンティフィーク (84)
【出願人】(512005900)ユニヴェルシテ ド モンペリエ 2 (1)
【出願人】(512005748)ユニヴェルシテ ド モンペリエ 1 (1)
【出願人】(512005759)サントル ホスピタリエ ユニベルシテール ド ニーム (1)
【Fターム(参考)】