MRIプローブ
【課題】合成及び精製を簡便に行なうことができる新規なMRIプローブを提供すること。
【解決手段】MRIプローブは、GdPO4・1.5H2Oのような、一般式AmBn(Aは、特定の金属、Bは特定の陰イオン)で表される金属塩の粒子、又はこの粒子を親水性物質でコーティングして成る粒子から成る。
【効果】MRIプローブは、容易に入手できる出発材料から簡便に合成、精製することができるので、低コストで製造することができる。また、金属塩又はその水和物から成る粒子を親水性物質でコーティングして成る粒子は、水中での分散性が特に優れ、緩和度が大きくなり、陽性造影剤としても利用可能な優れたMRIプローブとして利用可能である。
【解決手段】MRIプローブは、GdPO4・1.5H2Oのような、一般式AmBn(Aは、特定の金属、Bは特定の陰イオン)で表される金属塩の粒子、又はこの粒子を親水性物質でコーティングして成る粒子から成る。
【効果】MRIプローブは、容易に入手できる出発材料から簡便に合成、精製することができるので、低コストで製造することができる。また、金属塩又はその水和物から成る粒子を親水性物質でコーティングして成る粒子は、水中での分散性が特に優れ、緩和度が大きくなり、陽性造影剤としても利用可能な優れたMRIプローブとして利用可能である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MRI(magnetic resonance imaging、磁気共鳴イメージング)に用いるプローブに関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野における画像診断法は、病巣の早期発見、術前診断、術後の追跡診断などの観点から、必要不可欠な医療技術となっている。現在、医療現場で汎用されている画像診断法として、CT (computed tomography) 、MRI (magnetic resonance imaging) 、PET (positron emission tomography) が挙げられる。しかし、CTにおいてはX線による被爆が、PETにおいてはγ線による被爆を避けることがでず、また、近年装置の高機能化が進んだことにより多断面の撮像が可能になったが、それによる被爆量の増加が患者へのさらなる負担となっている。一方、MRIは、放射線被爆のない非侵襲な画像診断法であって、任意の断面画像を得られる利点がある。
【0003】
MRIの感度を向上させるためにMRI造影剤が広く使用されている。現在、医療現場で日常的に用いられているMRI用造影剤としてはガドリニウム錯体型のMagnevist(登録商標)やProHance(登録商標)、また、酸化鉄(Fe2O3)m(FeO)nから成る超磁性粒子型のResovist(登録商標)やFeridex(登録商標)などが挙げられる。超磁性粒子は静注などにより体内に投与されると、代謝経路の関係で肝臓に特異的に蓄積され、そのままグルクロン酸抱合などを受け、胆汁排泄される。
【0004】
近年、MRI用造影剤の緩和度(relaxivity) Rを大きくすることにより、より優れた造影能力を持つ造影剤の開発が行われている。陽性造影剤については、従来から用いられているDTPAなどの多座配位子とガドリニウムイオンによるガドリニウム錯体をデンドリマー、ミセル、リポソーム、各種ポリマーの主鎖や側鎖に導入することによって、高いR1値を出すことが研究されている。これらは、「一分子中に数多くのガドリニウム錯体が存在することで一分子当たりのR1値が大きくなる」ということに加え、「ポリマーなどの巨大分子にガドリニウム錯体が結合していることにより、ガドリニウム錯体と水分子との相関時間が増加し、その結果ガドリニウム錯体一分子当たりのR1が増大する」という理由により、高いR1値が達成されている。一方、陰性造影剤については、主に酸化鉄粒子が用いられている。この酸化鉄粒子は超磁性としての性質を持っており、外部磁場が存在する環境下において大きな磁性を持ち、この磁性により酸化鉄粒子周辺の磁場が乱され、大きなR2値を得ることができる。水への分散性と生体適合性を確保するために、超磁性粒子はしばしば水溶性高分子類でコーティングされている。
【0005】
あるMRI用造影剤を陽性造影剤として用いるか、または陰性造影剤として用いるかはR2/R1の値がしばしば用いられ、大まかには「R2/R1>5〜3」ならば陰性造影剤として、「R2/R1<5〜3」ならば陽性造影剤として用いられる。酸化鉄粒子の場合は、AMI-25 (Advanced Magnetics, Cambridge, Mass.) は4.0、SH U 555 A (Schering, Berlin, Germany)は6.0であり、陰性造影剤となる。例外として、粒子径の小さい酸化鉄粒子(Ultrasmall Paramagnetic Iron Oxides)であるAMI-227(Advanced Magnetics) は2.2であり陽性造影剤としても用いられている(Eur. Radiol. 8, 1198-1204 (1998))。
【0006】
血中へ外因性の粒子を投与すると、一般的にその薬物動態は、粒径と親水性の度合いによって決定される。粒径が大きいものは貪食細胞系に異物認識されて主に肝臓から排泄される。一方で、分子量の小さな薬物や親水性の高い薬物については主に肝臓から排泄される。粒径が100nm前後の粒径についてはEPR(Enhanced Permeability and Retention)効果と呼ばれるがん組織集積効果が現れる。これは、がん組織は、正常な細胞よりも急激に増殖するために常に血管の新生が起こっており、このため血管壁組織の構築性が悪く〜数百nmの隙間が開いていて、さらに、がん組織では排泄機能を持つリンパ管が未発達なため、通常であればここから排泄されるものが結果として長時間残存する、と言われているためである。
【0007】
現在、陽性造影剤として用いられているのはガドリニウム錯体が主であり、R1や分子量を大きくするためにはデンドリマー、ミセル、リポソーム、ポリマーなどに結合させる手法がとられている。それによって合成・精製が煩雑となり、さらに高分子量を構成する多くの有機分子を薬剤として使用しなければないというデメリットがあった。一方で、MRIによる画像診断を行なっていくにあたり、病変部位が特異的に白くなるようなコントラストを生み出す陽性造影剤のほうが明らかに診断は容易であり、陰性造影剤を使用した場合、その部位が特異的に暗くなっているのか、または偶然にその部位のMRシグナル強度が低くて画像上で暗くなっているのか、という判別が必要になる。
【0008】
一方、無機化合物を主体とする公知のMRI用陽性造影剤は、主として金属の酸化物から成る。このような無機化合物を主体とする公知のMRI用陽性造影剤は、粒子が磁性を持ち、それによりR2値が大きくなるため、R2/R1値が大きくなり、陽性造影剤としての使用が困難となってくるという問題点を有する。また、R2/R1値が2.2という値を持つ粒子(AMI-227(Advanced Magnetics))が存在するが、超磁性粒子であるため、外部静磁場下においては粒子が磁性を持つため、R2値を抑えることが困難であり、本発明に見られるR2/R1値が極めて1に近い粒子を作成することは困難であると考えられる。
【0009】
【特許文献1】特公昭62-42934号公報
【特許文献2】特公昭63-290832号公報
【特許文献3】EP0210043 A2
【特許文献4】US 2005/0260137 A1
【特許文献5】US006638494 B1
【特許文献6】US 2004/0101564 A1
【特許文献7】US005698271 A
【特許文献8】US006120856 A
【特許文献9】WO96/02235
【特許文献10】US2005/0220714 A1
【特許文献11】WO99/06849
【特許文献12】WO98/11922
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、合成及び精製を簡便に行なうことができる新規なMRIプローブを提供することである。また、本発明の目的は、合成及び精製を簡便に行なうことができ、緩和度が高く、陽性造影剤として利用可能な新規なMRIプローブを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、容易に調製可能な、金属塩又はその水和物から構成される粒子、又は該粒子を親水性物質でコーティングした粒子が、MRIプローブとして利用可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で示される化合物又はその水和物で構成された粒子から成るMRIプローブを提供する。
【0013】
AmBn (1)
(ただし、AはLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Y、Mn、Cr、Fe、Co、Ni及びCuから成る群より選ばれる少なくとも1種の金属のイオンを表し、Bはリン酸イオン、スルホン酸イオン、カルボン酸イオン、ホウ酸イオン、クエン酸イオン、硝酸イオン及びハロゲン化物イオンから成る群より選ばれる少なくとも1種の陰イオンを表し、m及びnは互いに独立して正の数を表す)。
【0014】
さらに、本発明は、上記粒子を、親水性物質でコーティングした粒子から成るMRIプローブを提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、合成及び精製を簡便に行なうことができる新規なMRIプローブが提供された。本発明のMRIプローブは、容易に入手できる出発材料から簡便に合成、精製することができるので、低コストで製造することができる。また、金属塩又はその水和物から成る粒子を親水性物質でコーティングして成る粒子は、水中での分散性が特に優れ、緩和度が大きくなり、陽性造影剤としても利用可能な優れたMRIプローブとして利用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
上記の通り、本発明のMRIプローブは、上記一般式(1)で示される金属塩若しくはその水和物から成る粒子又は該粒子から成る。
【0017】
上記一般式(1)中、Aは、上記の通りの金属のイオンであるが、これらのうち、緩和度の観点から、好ましい金属イオンとして、Gd、Fe、Mn、Cuイオンを挙げることができ、特にGdイオンが好ましい。Aは、1種類の金属イオンであってもよいし、複数の金属イオンの組合せであってもよい。
【0018】
上記一般式(1)中、Bは、上記の通りの陰イオンであるが、これらのうち、緩和度や粒子形成の容易さの観点から、好ましい陰イオンとして、リン酸イオン、スルホン酸イオンを挙げることができ、特にリン酸イオンが好ましい。Bは1種類の陰イオンであってもよいし、複数の陰イオンの組合せであってもよい。
【0019】
上記一般式(1)中、m及びnは互いに独立して正の数を表す。この正の数は、整数又は半整数(0.5、1.5、2.5等のように、小数第1位が5である、小数第1位までで終わる小数)であることが多いが、整数及び半整数以外の小数であってもよく、小数の場合は、通常、小数第1位までの小数である。調製の容易さの観点から、mは、0.5〜2.0の範囲の数であることが好ましく、0.8〜1.2の範囲の数であることがさらに好ましい。また、nは、0.5〜2.0の範囲の数であることが好ましく、0.8〜1.2の範囲の数であることがさらに好ましい。ただし、金属塩は、実質的に電気的に中性であるので、金属イオンの価数とmの積と、陰イオンの価数とnの積との比は、実質的に1:1である。
【0020】
上記一般式(1)中で表される金属塩は、水和していてもよい。水和している場合、金属塩に結合する水の分子数は通常、0.1〜5.0の範囲の数である。この数も、上記m及びnと同様、通常、整数又は半整数であるが、整数及び半整数以外の小数であってもよく、小数の場合は、通常、小数第1位までの小数である。なお、金属塩は必ずしも水和している必要はない。
【0021】
上記一般式(1)で表される金属塩又はその水和物から成る粒子の平均粒径は、MRIプローブとして用いた場合に容易に組織内に拡散し、また、造影剤として優れた性能を発揮することから、0.3nm以上5000nm以下であることが好ましく、0.5nm以上500nm以下であることがさらに好ましく、1nm以上150nm以下であることがさらに好ましく、4nm以上100nm以下であることがさらに好ましい。なお、粒子は、円柱状や楕円球状等、球状以外の場合も少なくないが、球状以外の場合には長径(最も長い径)の平均を意味する。なお、ここでの平均粒径は、粒子を電子顕微鏡で観察し、算術平均をとることにより測定したものである。
【0022】
上記一般式(1)で表される金属塩又はその水和物から成る粒子自体は公知であり、以下に記載する公知の方法により製造することができる。また、市販されているものも少なくなく、市販品が存在する場合には市販品を利用することができる。
【0023】
上記一般式(1)で表される金属塩中の金属イオンAの原料としては、金属Aのアルコキシド、アセチルアセトナート及びオキシン錯体等の金属錯体;酢酸塩、シュウ酸塩及びカルボン酸塩等の有機酸塩;硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩及び塩化物等の無機酸塩;金属酸化物;並びにその他各種の金属化合物を使用することができる。一方、陰イオンBの原料としては、Bを含む、又は反応してBを放出することが可能な有機酸、無機酸、エステル化合物(例えば、メトキシ化物、エトキシ化物、tert-ブトキシ化物等)、アンモニウム塩、水素アンモニウム塩、各種金属との塩、その他各種化合物を使用することができる。
【0024】
上記一般式(1)で表される金属塩又はその水和物は、上記したA及びBの原料を公知の水熱合成法又はソルボサーマル法に付すことにより製造することができる。以下、これらについて説明する。
【0025】
水熱合成法
水熱合成法は、一般式(1)中の金属イオンAと陰イオンBの混合水溶液を作製する工程、その混合液のpHを、例えば、水酸化ナトリウム水溶液等により塩基性に調整して水酸化物を形成する工程、この水酸化物を含む混合液を所定の温度及び圧力下で水熱合成する工程からなる方法である。また、水熱合成法は、水酸化物等に由来する析出物を形成させない場合もあり、この場合には、一般式(1)中の金属イオンAと陰イオンBの混合水溶液を作製する工程、その混合液のpHを調整する工程、この混合液を所定の温度及び圧力下で水熱合成する工程からなる方法である。金属イオンAはその種類によって水酸化物等の析出物を形成するpHは異なるが、一般には9.0以下であり、好ましくは6.0以下、さらに好ましくは5.0以下である。原料混合物の水溶液のpHは任意の値に設定することができるが、水酸化物を析出させて水熱処理を行なう場合、金属イオンAはその種類によって水酸化物を形成するpHは異なるが、原料溶液のpHは、一般には9.0以上であり、好ましくは10.0以上、さらに好ましくは11.0から13.0であり、最も好ましくは12.0から12.9である。なお、水酸化物等に由来する析出物を形成させない場合の、上記pH調整工程では、pHは、通常、1.0〜5.0の範囲に調整される。また、金属イオンAと陰イオンBの混合水溶液の金属イオンAの濃度は、通常、1〜3000mM程度であり、陰イオンBの濃度は、金属Aに対する化学量論量の0.8倍〜1.2倍程度である。
【0026】
次に、pH調整を行なった原料混合液に水熱処理を施す。水熱処理方法は、原料溶液を一定時間高温、高圧処理することにより、高温高圧下での溶液の高い反応性及び溶解・析出作用を利用して化合物を合成し、結晶成長させる方法である。具体的には、原料溶液を耐食、耐熱性の反応容器に入れ、これをオートクレーブ等の高圧容器に装填し、電気炉、あるいはオイルバスを用いて水熱処理を行なう。また、具体的には、原料溶液を耐食、耐熱、耐圧性の反応容器に入れ、これを電気炉、あるいはオイルバスを用いて水熱処理を行なっても良い。水熱処理温度は、一般には100℃から500℃の範囲にある。100℃未満では生成物の収率が非常に低く、120℃未満においても生成物の収率が悪い。500℃を超えると非常に高圧になるために反応装置のサイズが限定される。好ましくは、120℃から300℃の範囲にある。さらに好ましくは、140℃から250℃の範囲にある。最も好ましくは180℃から220℃の範囲にある。処理時間は、一般には0.1から100時間の範囲にあり、好ましくは0.1から24時間の範囲にある。さらに好ましくは0.5から6時間の範囲にあり、最も好ましくは1.5から3時間の範囲にある。
【0027】
上記水熱処理により、金属塩又はその水和物の粒子が形成される。粒子に付着している未反応の原料や、粒子への成長が不十分な塩等の不純物を除去するために、粒子をさらに精製することが好ましい。この精製は、例えば硝酸のような強酸でpHを1程度にして12時間〜48時間程度撹拌することにより不純物をイオン化させ、次いで粒子を水で洗浄後、遠心分離で粒子を回収することにより行なうことができる。
【0028】
ソルボサーマル法
ソルボサーマル法は、有機溶媒を含む溶媒中に出発物質を溶解し、溶媒の沸点以上の温度で反応させることによって、結晶性の高い目的物質を合成する技術である。この方法では、一般には100℃から1000℃の温度と1atmから10,000atmの中から高程度の圧力の下で溶媒を用いる。ここで、水を溶媒として用いる場合は特に水熱合成法、グリコールを溶媒として用いる場合は特にグリコサーマル法と呼ばれる。なお、水熱合成法は上記したので、この項では水以外の溶媒を用いるソルボサーマル法について記載する。
【0029】
ソルボサーマル法は、一般式(1)中の金属イオンAと陰イオンBと溶媒の混合液を作製する工程、この混合液を所定の温度及び圧力下で合成する工程からなる方法である。ここで、混合液を室温、大気圧下で作成するに当たり、一般式(1)中の金属イオンAと陰イオンBは必ずしも全てが溶解している必要はない。ソルボサーマル法における溶媒としては、一般には各種アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール等)、アセトン、ヘキサン、各種エーテル類を用いたもの、またそれぞれの群から選ばれた少なくとも2つ以上の溶媒を混合したものを反応溶媒として用いたもの、また、上記有機溶媒と水を混合させたものを反応溶媒として用いたものがある。好ましくはエタノール、メタノール、グリコールを用いたもの、あるいはそれらと水との混合溶媒を用いたソルボサーマル法、さらに好ましくはエタノールを用いたもの、あるいはそれと水との混合溶媒を用いたソルボサーマル法、最も好ましくは体積比1対1で水とエタノールの混合溶媒を用いるソルボサーマル法である。なお、金属イオンAと陰イオンBの混合水溶液の金属イオンAの濃度は、通常、1〜3000mM程度であり、陰イオンBの濃度は、金属Aに対する化学量論量の0.8倍〜1.2倍程度である。
【0030】
次いで、原料混合液に熱処理を施す。熱処理方法は、原料溶液を一定時間高温、高圧処理することにより、高温高圧下での溶液の高い反応牲およぴ溶解・析出作用を利用して化合物を合成し、結晶成長させる方法である。具体的には、原料溶液を耐食、耐熱性の反応容器に入れ、これをオートクレーブ等の高圧容器に装填し、電気炉、あるいはオイルバスを用いて熱処理を行なう。また、具体的には、原料溶液を耐食、耐熱、耐圧性の反応容器に入れ、これを電気炉、あるいはオイルバスを用いて熱処理を行なっても良い。熱処理温度は、一般には100℃から500℃の範囲にある。100℃未満では生成物の収率が非常に低く、120℃未満においても生成物の収率が悪い。500℃を超えると非常に高圧になるために反応装置のサイズが限定される。好ましくは、120℃から300℃の範囲にある。さらに好ましくは、130℃から170℃の範囲にある。最も好ましくは131℃から149℃の範囲にある。処理時間は、一般には0.1から300時間の範囲にあり、好ましくは0.1から24時間の範囲にある。さらに好ましくは0.5から6時間の範囲にあり、最も好ましくは1.5から3時間の範囲にある。
【0031】
得られた金属塩又はその水和物の粒子は、水熱合成法の場合と同様な方法により精製することが好ましい。
【0032】
上記方法により得られた粒子は、そのままでMRIプローブとして利用可能であるが、水(体液)中での分散性や生体適合性をより高めるために、親水性物質で粒子をコーティングすることが好ましい。水中での分散性を高めることにより緩和度がより大きくなり、MRIプローブとしてさらに優れた性能を発揮することができる。また、生体適合性を高めることにより血中に長く留まることができるようになる。なお、上記方法により得られる粒子は、基本的に電気的に中性であるが、表面の金属イオン又は陰イオンの一部が欠落して帯電している場合がある(下記実施例3参照)。水は極性が大きいので、粒子が帯電している場合には、水中での分散性が高く、親水性物質でコーティングしなくても良好な分散性が得られる。粒子が電気的に中性で水中での分散性が低い場合には、親水性物質でコーティングすることが特に好ましい。なお、ここで、「親水性物質」とは、水に可溶な物質であり、これで電気的に中性な粒子をコーティングすることにより、粒子の水中での分散性が、コーティングしない場合よりも増大する物質である。親水性物質の水に対する溶解度(水100g、20℃)は、0.01g以上、さらには1g以上のものが好ましい。粒子の水中での分散性は、水中存在する粒子の平均粒径を粒度分布測定装置や電子顕微鏡観察等により測定することにより調べることができる。
【0033】
上記親水性物質の例として、以下のものを挙げることができる。二価や多価の無機イオンおよびアルギニン酸などの有機酸との縮合生成物。リン酸基を有するオルトリン酸あるいはメタリン酸、また、ピロリン酸、ポリリン酸、シクロリン酸およびそれらのヘテロ縮合生成物といったそれらの縮合生成物。リン酸基、ジリン酸基、ポリリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、チオホスホン酸基、カルボキシル基、スルホ基、スルホン酸基、チオール基、メルカプト基、シラントリオール基を有する炭水化物より成る有機物質とその誘導体。リン酸基、ジリン酸基、ポリリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、チオホスホン酸基、カルボキシル基、スルホ基、スルホン酸基、メルカプト基、チオール基、シラントリオール基を有する単糖やオリゴ糖や多糖類より成る有機物質とその誘導体。ポリアルキレングリコール、アルキルポリエチレングリコール、アリールポリエチレングリコール、アルキルアリールポリエチレングリコール等のオリゴマーおよびポリマーとその誘導体。リン酸基を有するヌクレオチドとそのオリゴマーやポリマー。ムコポリサッカライド、グリコプロタイド、チティンといった窒素含有ポリサッカライドとその誘導体。リボ核酸、デオキシリボ核酸等。また、これらの混合物。
【0034】
具体的には、アスコルビン酸、アスコルビン酸-2-リン酸エステル等のリン酸エステル体、アスパラギン酸、ピルビン酸、グルタミン酸、グリシン、アラニン、セリン、トレオニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、システイン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、プロリン、トリプトファン、リシン、アルギニン、ヒスチジン、酒石酸、乳酸、酪酸、リンゴ酸、クエン酸等とその誘導体、また、その形態は単量体や二量体やオリゴ体や多量体のいずれでも良い。フィチン酸、フィチン、ノイラミン酸、N-アセチルノイラミン酸、N-グライコリルノイラミン酸、ガラクツロン酸、ウロン酸、アルダル酸、アルドン酸、アルジトール等とその誘導体、また、その形態は単量体や二量体やオリゴ体や多量体のいずれでも良い。グルコース-6-リン酸、グルコース-1-リン酸、 フラクトース-6-リン酸、フラクトース-1,6-ビスリン酸等とその誘導体、また、その形態は単量体や二量体やオリゴ体や多量体のいずれでも良い。リボース、デオキシリボース、キシロース、アラビノース、グルコース、フルクトース(果糖)、ガラクトース、マンノース、マルトース(麦芽糖)、ラクトース(乳糖)、スクロース(ショ糖)等とその誘導体、また、その形態は単量体や二量体やオリゴ体や多量体のいずれでも良く、その分子量もいずれでも良い。デキストラン、硫酸化デキストラン、カルボン酸化デキストラン、デキストリン、硫酸化デキストリン、カルボン酸化デキストリン、シクロデキストリン、硫酸化シクロデキストリン、カルボン酸化シクロデキストリン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、セルロース、デンプン、グリコーゲン、イヌリン、ヘパリン、ペクチン、スターチ等とその誘導体、また、その形態は単量体や二量体やオリゴ体や多量体のいずれでも良く、その分子量もいずれでも良い。ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール-4-ノニルフェニル-3-スルホプロピルエーテル等のポリエチレングリコール誘導体、ポリアクリル酸、ポリ(4-スチレン硫酸)、ポリ(4-スチレン硫酸-co-マレイン酸)、ポリジアリルヂメチルアンモニウム、ポリリン酸等とその誘導体、また、その分子量もいずれでも良い。アルブミン、グロブリン等のたんぱく質とその誘導体、また、その分子量もいずれでも良い。
【0035】
これらの親水性物質のうち、水中での分散性及び生体適合性の観点から、デキストランのような多糖類が好ましい。多糖類の場合、分子量は特に限定されないが、通常、1000〜10万程度であり、1000〜3万程度が好ましい。
【0036】
親水性物質によるコーティングは、粒子の水分散液に親水性物質を添加し、又は親水性物質の水溶液に粒子若しくは粒子の水分散液を加えること等により、粒子と親水性物質を接触させ、接触後の粒子を遠心分離等により回収することにより容易に行なうことができる。この場合、接触は室温でよく、撹拌下に行なうことが好ましい。接触時間は、特に限定されないが、通常、1分間〜60分間程度でよい。また、接触の際の親水性物質の終濃度は、通常、0.001〜5重量%、好ましくは、0.01〜0.5重量%程度であり、粒子と親水性物質の重量比は、粒子1に対して親水性物質が通常、0.0001〜100、好ましくは0.001〜10程度である。
【0037】
あるいは、デキストランのように、親水性物質が熱並びに酸及び塩基に対してに安定なものである場合には、上記した水熱合成法又はソルボサーマル法を親水性物質の共存下で行なうことにより粒子を親水性物質でコーティングすることも可能である。すなわち、水熱合成法又はソルボサーマル法に用いる、金属イオンAと陰イオンBを含む混合水溶液に親水性物質を共存させ、以下、上記の通りに水熱合成法又はソルボサーマル法を行なうことができる。この場合、前記混合水溶液中の親水性物質の終濃度は、通常、0.001〜90重量%、好ましくは、1〜50重量%程度である。
【0038】
本発明のMRIプローブは、従来から用いられている通常のMRIプローブと同様に用いることができる。すなわち、映像化に有効な量の本発明のMRIプローブを生体に投与し、これを造影剤として利用してMRI装置により画像を撮像する。通常、100 mM〜1000 mM程度の濃度の水溶液又は水分散液を、0.01 mL/kg〜1 mL/kg程度、静脈注射したり観察する器官又は組織に注射し、これを造影剤として利用してMRI装置により画像を撮像する。
【0039】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0040】
1. GdPO4・1.5H2O粒子の調製
硝酸ガドリニウム六水和物1.35gを水5mLに溶かし、そこへ1M水酸化ナトリウム水溶液10mLを加えた。さらに、リン酸水素アンモニウム0.356gと水10mLの溶液をを加えた。この白濁液のpHを4M水酸化ナトリウム水溶液で12.5に調整した。これをガラスチューブに移し、密閉し、200℃で2時間、600rpmで攪拌した。反応後室温に戻し、3200rpmで10分遠心した。上澄み液を除き、沈殿物に0.1M硝酸水溶液10mLを加えて、1M硝酸水溶液でpHを1に保ちながら1日攪拌した。1日後、3200rpmで5分遠心し、上澄み液を除いた。沈殿物に純水(商品名milli Q水)を加え、3200rpmで5分遠心し、上澄み液を回収する作業を4回行ない、回収した上澄み液をまとめて、5500rpmで20分遠心した。沈殿物を回収し、縦緩和時間T1測定、横緩和時間T2測定、透過型電子顕微鏡TEM観察、XRD測定を行なった。
【0041】
2. 粒子の形態及び大きさ
本実施例の上記1で合成した微粒子について、透過型電子顕微鏡による形状観察を行なった。その結果を図1に示す。図1より、これより、長径約50 nm程度の微粒子が生成していることが分かる。
【0042】
3. 粒子の理化学的性質及び組成
本実施例の上記1で合成した微粒子について、XRD(X線回折)測定を行なった。その結果を図2に示す。測定結果は下記の通りである。
粒子組成:GdPO4・1.5H2O
【0043】
4. MRIプローブとしての性能
本実施例の上記1で合成した微粒子について、縦緩和時間T1と横緩和時間T2を測定した。測定条件は次の通りであった。
・ 粒子濃度(ガドリニウム濃度):26.6 mM
・ 溶媒:0.5%アガロースゲル水溶液
・ 測定装置:BRUKER社製NMS 120 minispec NMR ANALYZER(永久磁石による外部静磁場は40MHz、縦緩和・横緩和時間測定装置)
・ 測定温度 : 40℃
【0044】
結果は下記の通りであった。
T1:370 msec
T2:92.7 msec
【0045】
縦緩和時間及び横緩和時間が測定可能であったことから、得られた粒子はMRIプローブとして利用可能であることがわかった。なお、本実施例の上記1で合成した微粒子の縦緩和時間、横緩和時間を測定するにあたり、微粒子の水への分散性が良くないため、アガロースゲルを水に添加した溶液を用いた。
【実施例2】
【0046】
1. デキストランでコーティングしたGdPO4・1.5H2O粒子の調製
硝酸ガドリニウム六水和物0.675gを水3mLに溶かし、そこへ1M水酸化ナトリウム水溶液5mLを加えた。さらに、リン酸水素アンモニウム0.178gと水5mLの溶液を加えた。そこへ、Dextran-40を3.90g加えた。この白濁液のpHを4M水酸化ナトリウム水溶液で12.5に調整した。これをガラスチューブに移し、密閉し、200℃で2時間、600rpmで攪拌した。反応後室温に戻し、3200rpmで10分遠心した。上澄み液を除き、沈殿物に0.1M硝酸水溶液10mLを加えて、1M硝酸水溶液でpHを1に保ちながら1日攪拌した。1日後、3200rpmで5分遠心し、上澄み液を除いた。沈殿物に純水(商品名milli Q水)を加え、3200rpmで5分遠心し、上澄み液を回収する作業を4回行ない、回収した上澄み液をまとめて、5500rpmで20分遠心した。その上澄み液を回収し、縦緩和時間T1測定、横緩和時間T2測定、透過型電子顕微鏡TEM観察、誘導結合高周波プラズマ発光分光分析(ICP-AES)、動的光散乱式粒度分布測定、ゼータ電位測定、MRI撮像を行なった。
【0047】
2. 粒子の形態及び大きさ
実施例2の上記1で合成した粒子について、透過型電子顕微鏡による形状観察を行なった。その結果を図3に示す。これより、実施例2で合成した微粒子は、長径約20〜40 nm、短径約5〜10 nmの棒状粒子であり、粒径や粒子形状のそろった粒子が生成していることが分かる。なお、実施例2で合成した粒子についてはX線解析を行なっていないが、デキストランの共存下で実施例1と同様な水熱合成法を行なっているだけであるので、実施例1と同様、GdPO4・1.5H2Oの粒子が生成し、該粒子がデキストランによりコーティングされていると考えられる。
【0048】
3. 粒度分布
実施例2の上記1で合成した粒子の分散した透明溶液について、粒度分布測定をした。測定条件は次の通りであった。
・ 溶媒;純水(商品名milli Q)
・ 測定装置:大塚エレクトロニクス社製 PAR-3 動的光散乱式粒度分布測定装置
・ 測定温度:19.9℃
【0049】
結果は下記の通りであった。
・ 平均粒径:236.8 nm
この結果はTEM観察像による「5〜10 nmの微粒子」という結果よりも大きな値となった。これは、生成した5〜10 nmの微粒子が水中で集まり、動的光散乱式粒度分布測定装置で求めた平均粒径程度の大きさの粒子を形成しているためであると考えられる。
【0050】
4. 粒子組成
実施例2の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液について、ガドリニウムの濃度を測定した。前処理として、実施例2の上記1で合成した粒子の分散した透明溶液0.1mLと王水(濃塩酸:濃硝酸 = 3:1)0.9mLを混合し、冷却管を装着したガラス製容器中100℃で12時間攪拌しながら加熱した。この溶液を常温に戻し、さらに王水で1000倍希釈したものをICP-AES測定の試料として用いた。測定条件は次の通りであった。
・ 溶媒:王水
・ 検出波長:Gd:342.247nm
・ 装置:島津社製ICPS-8000 ICP-AES装置
【0051】
結果は下記の通りであった。
Gd:3.43 μM
【0052】
実施例2の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液について、ガドリニウムの濃度が分かり、実施例2で合成した粒子についてはX線解析を行なっていないが、デキストランの共存下で実施例1と同様な水熱合成法を行なっているだけであるので、実施例1と同様、GdPO4・1.5H2Oの粒子が生成し、該粒子がデキストランによりコーティングされていると考えられる。
【0053】
5. MRIプローブとしての性能
実施例2の上記1で合成した粒子について、縦緩和時間T1と横緩和時間T2を測定した。測定条件は次の通りであった。
・ 粒子濃度(ガドリニウム濃度):3.43 mM(この濃度はICP-AES測定により求めた)
・ 溶媒:純水(商品名milli Q)
・ 測定装置:BRUKER社製NMS 120 minispec NMR ANALYZER(永久磁石による外部静磁場は40MHz、縦緩和・横緩和時間測定装置)
・ 測定温度 : 40℃
【0054】
結果は下記の通りであった。
T1:39.0 msec
T2:34.4 msec
【0055】
この結果から明らかなように、デキストランで粒子をコーティングすることにより、縦緩和時間T1及び横緩和時間T2の両方とも実施例1に比べて大幅に短縮され、MRIプローブとして用いた場合により大きなコントラストが得られ、鮮明な画像が得られることがわかる。また、この結果から、R1=7.48、R2=8.48というMRI用造影剤として非常に大きな値を有しており、実施例2の上記1で合成した微粒子はMRI用造影剤として有効であることが確認された。さらに、R1/R2値はR1/R2=1.13となり、非常に1に近い値をとっており、実施例2の上記1で合成した微粒子は陰性造影剤だけではなく、陽性造影剤として非常に優れていることが分かる。
【0056】
6. ゼータ電位
実施例2の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液について、ゼータ電位測定をした。測定条件は次の通りであった。
・ 溶媒;純水(商品名milli Q)
・ 測定装置:大塚電子(株)社製 ELS-6000
【0057】
結果は下記の通りであった。
ゼータ電位:4.35 mV
この結果より、実施例2の上記1で合成した微粒子は若干正に帯電していることが分かる。
【0058】
7. MRI撮像
(1) スピンエコー法T1強調画像
ガラスチューブに下記の通り調製したサンプル溶液入れ、寒天の入ったタッパーに立て、1.5T MRスキャナ(Signa Horzon LX, GE Yokogawa Medical Systems社製)を用いてスピンエコー法T1強調画像を得た。上から一段目は左からMagnevist(登録商標)のみ1.0, 0.1, 0.01mM、二段目は左から実施例2の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液のみ2, 0.4, 0.08mM(Gd濃度)、三段目は左からResovist(登録商標)のみ1.0, 0.1, 0.01mM、四段目は全て純水(商品名milli Q水)である。なお、一段目から三段目までの溶液の希釈は純水(商品名milli Q水)を用いて行なった。
【0059】
結果を図4に示す。図4の一段目は、Magnevist(登録商標)の濃度を0.01〜1.0mMに変化させたものであるが、濃度の増加にともない、T1強調画像において画像が白くなり、Magnevist(登録商標)がMRI用の陽性造影剤として働いていることが分かる。図4の二段目は、実施例2の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液の濃度を0.08〜2mMに変化させたものであるが、濃度の増加にともない、T1強調画像において画像が白くなり、実施例2の上記1で合成した微粒子がMRI用の造影剤として有効であることが確認され、また、一段目のMagnevist(登録商標)と同様に陽性造影剤として働いていることが分かる。
【0060】
(2) ファストスピンエコー法T2強調画像
ガラスチューブに下記の通り調製したサンプル溶液入れ、寒天の入ったタッパーに立て、1.5T MRスキャナ(Signa Horzon LX, GE Yokogawa Medical Systems社製)を用いてファストスピンエコー法T2強調画像を得た。上から一段目は左からMagnevist(登録商標)のみ1.0, 0.1, 0.01mM、二段目は左から実施例2の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液のみ2, 0.4, 0.08mM(Gd濃度)、三段目は左からResovist(登録商標)のみ1.0, 0.1, 0.01mM、四段目は全て純水(商品名milli Q水)である。なお、一段目から三段目までの溶液の希釈は純水(商品名milli Q水)を用いて行なった。
【0061】
結果を図5に示す。図5の上から三段目は、Resovist(登録商標)の濃度を0.01〜1.0mMに変化させたものであるが、濃度の増加にともない、T2 強調画像において画像が暗くなり、Resovist(登録商標)がMRI用の陰性造影剤として働いていることが分かる。図5の二段目は、実施例2の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液の濃度を0.08〜2mMに変化させたものであるが、濃度の増加にともない、T2強調画像において画像が暗くなり、実施例2の上記1で合成した微粒子がMRI用の造影剤として有効であることが確認され、また、三段目のResovist(登録商標)と同様に陰性造影剤としても働いていることが分かる。しかし、三段目のResovist(登録商標)と比べて陰性造影剤としての働きは弱く、陽性造影剤としての働きの方が強いことが分かる。これは、実施例2の上記1で合成した微粒子のR2/R1値が1に極めて近い値を取っていることと一致する。
【実施例3】
【0062】
1. GdPO4粒子の調製
酢酸ガドリニウム四水和物4.06gとリン酸トリメチル1.40gと水:エタノール = 1 : 1溶液40mLをガラスチューブに取り、密閉して135〜140℃で2時間攪拌した。得られたコロイド状溶液を孔径5nmの透析用セルロースチューブに移し、透析用セルロースチューブの外液を常に交換しながら1日透析した。得られた透明溶液を用いて、透過型電子顕微鏡TEM観察、誘導結合高周波プラズマ発光分光分析(ICP-AES)、縦緩和時間T1測定、横緩和時間T2測定、動的光散乱式粒度分布測定、ゼータ電位測定、MRI撮像を行なった。
【0063】
2. 粒子の形態及び大きさ
実施例3の上記1で合成した粒子について、透過型電子顕微鏡による形状観察を行なった。その結果を図6に示す。これより、直径5〜7 nm程度の粒子が生成しており、これらが寄り集まっている様子が分かる。
【0064】
3. 粒度分布
実施例3の上記1で合成した粒子の分散した透明溶液について、粒度分布測定をした。測定条件は次の通りであった。
・ 溶媒;純水(商品名milli Q)
・ 測定装置:大塚エレクトロニクス社製 PAR-3 動的光散乱式粒度分布測定装置
・ 測定温度:19.9℃
【0065】
結果は下記の通りであった。
・ 平均粒径:167.4 nm
この結果はTEM観察像による「5〜7 nmの微粒子」という結果よりも大きな値となった。これは、生成した5〜7 nmの微粒子が水中で集まり、動的光散乱式粒度分布測定装置で求めた平均粒径程度の大きさの粒子を形成しているためであると考えられる。
【0066】
4. 粒子組成
実施例3の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液について、ガドリニウムとリンの濃度を測定した。前処理として、実施例3の上記1で合成した粒子の分散した透明溶液0.1mLと王水(濃塩酸:濃硝酸 = 3:1)0.9mLを混合し、冷却管を装着したガラス製容器中100℃で12時間攪拌しながら加熱した。この溶液を常温に戻し、さらに王水で1000倍希釈したものをICP-AES測定の試料として用いた。測定条件は次の通りであった。
・ 溶媒:王水
・ 検出波長:Gd:342.247nm
P:178.287nm
・ 装置:島津社製ICPS-8000 ICP-AES装置
【0067】
結果は下記の通りであった。
Gd:3.278μM
P:2.967μM
【0068】
GdとPの比率がほぼ1:1である点及び上記合成方法から、粒子の組成はGdPO4又はその水和物であると考えられる。なお、Gdの濃度がPの濃度よりも若干大きくなっているのは、粒子表面のPO4の一部が欠落したためであると考えられ、このため、後述のように粒子のゼータ電位がプラスになっている。
【0069】
5. ゼータ電位
実施例3の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液について、ゼータ電位測定をした。測定条件は次の通りであった。
・ 溶媒;純水(商品名milli Q)
・ 測定装置:大塚電子(株)社製 ELS-6000
【0070】
結果は下記の通りであった。
ゼータ電位:10.67 mV
この結果より、実施例3の上記1で合成した微粒子は正に帯電していることが分かる。
【0071】
6. MRIプローブとしての性能
実施例3の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液について、縦緩和時間T1と横緩和時間T2を測定した。測定条件は次の通りであった。
・ 粒子濃度(ガドリニウム濃度):1.6 mM(この濃度はICP-AES測定により求めた)
・ 溶媒:純水(商品名milli Q)
・ 測定装置:BRUKER社製NMS 120 minispec NMR ANALYZER(永久磁石による外部静磁場は40MHz、縦緩和・横緩和時間測定装置)
・ 測定温度 : 40℃
【0072】
結果は下記の通りであった。
・ T1:68.0 msec
・ T2:67.2 msec
【0073】
この結果から、R1=9.0、R2=9.1というMRI用造影剤として非常に大きな値を有しており、実施例3の上記1で合成した微粒子はMRI用造影剤として有効であることが確認された。また、R1/R2値はR1/R2=1.01となり、非常に1に近い値をとっており、実施例3の上記1で合成した微粒子は陰性造影剤だけではなく、陽性造影剤として非常に優れていることが分かる。
【0074】
7. MRI撮像
(1) スピンエコー法T1強調画像
ガラスチューブに下記の通り調製したサンプル溶液入れ、寒天の入ったタッパーに立て、1.5T MRスキャナ(Signa Horzon LX, GE Yokogawa Medical Systems社製)を用いてスピンエコー法T1強調画像を得た。一段目は左からMagnevist(登録商標)のみ1.0, 0.1, 0.01mM、二段目は左から実施例3の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液のみ2.3, 0.23, 0.046mM(Gd濃度)、三段目は左からResovist(登録商標)のみ1.0, 0.1, 0.01mM、四段目は全て純水(商品名milli Q水)である。なお、一段目から三段目までの溶液の希釈は純水(商品名milli Q水)を用いて行なった。
【0075】
結果を図7に示す。図7の上から一段目は、Magnevist(登録商標)の濃度を0.01〜1.0mMに変化させたものであるが、濃度の増加にともない、T1強調画像において画像が白くなり、Magnevist(登録商標)がMRI用の陽性造影剤として働いていることが分かる。図7の二段目は、実施例3の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液の濃度を0.046〜2.3mMに変化させたものであるが、濃度の増加にともない、T1強調画像において画像が白くなり、実施例3の上記1で合成した微粒子がMRI用の造影剤として有効であることが確認され、また、一段目のMagnevist(登録商標)と同様に陽性造影剤として働いていることが分かる。
【0076】
(2) ファストスピンエコー法T2強調画像
ガラスチューブに下記の通り調整したサンプル溶液入れ、寒天の入ったタッパーに立て、1.5T MRスキャナ(Signa Horzon LX, GE Yokogawa Medical Systems社製)を用いてファストスピンエコー法T2強調画像を得た。一段目は左からMagnevist(登録商標)のみ1.0, 0.1, 0.01mM、二段目は左から実施例3の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液のみ2.3, 0.23, 0.046mM(Gd濃度)、三段目は左からResovist(登録商標)のみ1.0, 0.1, 0.01mM、四段目は全て純水(商品名milli Q水)である。なお、一段目から三段目までの溶液の希釈は純水(商品名milli Q水)を用いて行なった。
【0077】
結果を図8に示す。図8の上から三段目は、Resovist(登録商標)の濃度を0.01〜1.0mMに変化させたものであるが、濃度の増加にともない、T2強調画像において画像が暗くなり、Resovist(登録商標)がMRI用の陰性造影剤として働いていることが分かる。図8の二段目は、実施例3の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液の濃度を0.046〜2.3mMに変化させたものであるが、濃度の増加にともない、T2 強調画像において画像が暗くなり、実施例3の上記1で合成した微粒子がMRI用の造影剤として有効であることが確認され、また、三段目のResovist(登録商標)と同様に陰性造影剤としても働いていることが分かる。しかし、三段目のResovist(登録商標)と比べて陰性造影剤としての働きは弱く、陽性造影剤としての働きの方が強いことが分かる。これは、実施例3の上記1で合成した微粒子のR2/R1値が1に極めて近い値を取っていることと一致する。
【実施例4】
【0078】
実施例3で合成した微粒子のコーティングを行なった。コーティング剤としてまずポリリン酸ナトリウム、デキストラン硫酸ナトリウム(m.w.25000)、デキストラン硫酸ナトリウム(m.w.4000)、デキストラン-40を用いた。ポリリン酸ナトリウム、デキストラン硫酸ナトリウム(m.w.25000)、デキストラン硫酸ナトリウム(m.w.4000)を実施例3で合成した微粒子の分散している水に対してそれぞれ0.1 wt%加えた。
【実施例5】
【0079】
1. デキストランでコーティングしたGdPO4・1.5H2O粒子の調製
Dextran-40を加え、水酸化ナトリウム水溶液でpHを12.5に調製した後の、密閉ガラスチューブ内での200℃、600rpmにおける撹拌時間を2.5時間に変更したこと以外は実施例2と同じ操作を行い、デキストランでコーティングしたGdPO4・1.5H2O粒子を調製した。5500rpmで20分遠心後の上澄み液を回収し、透過型電子顕微鏡TEM観察、XRD(X線回折)測定、動的光散乱式粒度分布測定、フーリエ変換赤外(FT-IR)分光測定、誘導結合高周波プラズマ発光分光分析(ICP-AES)、縦緩和時間T1測定、横緩和時間T2測定、SQUID(磁化率)測定、MRIによる撮像を行なった。
【0080】
2. 粒子の形態及び大きさ
実施例5の上記1で合成した粒子について、透過型電子顕微鏡による形状観察を行なった。その結果を図9に示す。測定装置:FEI Company製 TECNAI F20(加速電圧:200 kV)、TECNAI 12(加速電圧:120 kV)。なお、図9中、大きな写真は加速電圧200kVの写真であり、右下挿入図は、加速電圧120kVによる写真である。
【0081】
加速電圧200kVの写真より、実施例5で合成した微粒子は、長径約20〜40 nm、短径約5〜15 nmの棒状粒子であり、粒径や粒子形状のそろった粒子が生成していることが分かる。また、加速電圧120kVの写真より、棒状粒子表面には加速電圧200kVでは見えない、つまり、X線回折しにくい物質が存在していることが分かる。これは、200kVで見えないことから、この物質は有機物質であることが考えられ、棒状粒子をコーティングしているデキストランであると考えられる。このことは、下記5のフーリエ変換赤外(FT-IR)分光測定の結果からも支持される。
【0082】
3. 粒子の理化学的性質及び組成
本実施例の上記1で合成した微粒子について、XRD(X線回折)測定を行なった。その結果を図10に示す。測定結果は下記の通りである。これより、GdPO41.5H2OにGdPO4H2Oが混在していることが分かる。粒子組成:GdPO4・1.5H2O+GdPO4・H2O
【0083】
4. 粒度分布
実施例5の上記1で合成した粒子の分散した透明溶液について、粒度分布測定をした。測定条件は次の通りであった。
・ 溶媒;純水(商品名milli Q)
・ 測定装置:大塚エレクトロニクス社製 PAR-3 動的光散乱式粒度分布測定装置
・ 測定温度:25.2℃
【0084】
結果は下記の通りであった。
・ 平均粒径:23.2±7.8 nm
この結果は「長径約20〜40 nm、短径約5〜15 nmの棒状粒子」というTEM観察像による結果と同じスケールとなった。これより、実施例5の上記1で合成した粒子が単分散しており、凝集が起こっていないことが分かる。
【0085】
5. フーリエ変換赤外(FT-IR)分光測定
実施例5の上記1で合成・精製した粒子の分散した透明溶液について、溶媒の水を減圧除去し、白色粉末を得た。この白色粉末をフーリエ変換赤外(FT-IR)分光測定した。測定条件は次の通りであった。
・ 方法;KBr法
・ 測定装置:JASCO製 FT/IR-600 plus
【0086】
これより、実施例5の上記1で合成・精製した粒子にはデキストランが含まれていることが分かる。実施例5の上記1で合成・精製した粒子は遠心による精製を行なっていることから、このデキストランは粒子と一体となっていると考えられる。また、上記2の加速電圧120kVの透過型電子顕微鏡写真より、デキストランは粒子表面に存在しており、実施例5の上記1で合成した粒子をコーティングしていることを示唆している。
【0087】
6. ガドリニウムイオン濃度
実施例5の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液について、ガドリニウムの濃度を測定した。前処理として、実施例5の上記1で合成した粒子の分散した透明溶液0.1mLと王水(濃塩酸:濃硝酸 = 3:1)0.9mLを混合し、冷却管を装着したガラス製容器中100℃で12時間攪拌しながら加熱した。この溶液を常温に戻し、さらに王水で1000倍希釈したものをICP-AES測定の試料として用いた。測定条件は次の通りであった。
・ 溶媒:王水
・ 検出波長:Gd:342.247nm
・ 装置:島津社製ICPS-8000 ICP-AES装置
【0088】
結果は下記の通りであった。
Gd:2.17 mM(実施例5の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液のガドリニウムイオン濃度)
【0089】
7. MRIプローブとしての性能
実施例5の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液について、縦緩和時間T1と横緩和時間T2を測定した。測定条件は次の通りであった。
・ 粒子濃度(ガドリニウム濃度):2.17 mM(この濃度はICP-AES測定により求めた)
・ 溶媒:純水(商品名milli Q)
・ 測定装置:BRUKER社製NMS 120 minispec NMR ANALYZER(永久磁石による外部静磁場は40MHz、縦緩和・横緩和時間測定装置)
・ 測定温度 : 40℃
【0090】
結果は下記の通りであった(図13)。
R1:13.9 mM-1sec-1
R2:15.0 mM-1sec-1
【0091】
この結果から、実施例5の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液は、R1=13.9、R2=15.0というMRI用造影剤として非常に大きな値を有しており、実施例5の上記1で合成した微粒子はMRI用造影剤として有効であることが確認された。実施例2の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液よりも大きな縦緩和時間短縮効果R1と横緩和時間短縮効果R2を持つことが分かり、MRIプローブとして用いた場合により大きなコントラストが得られ、鮮明な画像が得られることがわかる。これは、反応時間を長くすることにより粒子の形成が十分に進んだためであると考えられる。
【0092】
また、R2/R1値はR2/R1=1.08となり、実施例2の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液よりさらに1に近い値をとっており、実施例5の上記1で合成した微粒子は、陽性造影剤として非常に優れていることが分かる。
【0093】
8. SQUID(磁化率)測定
実施例5の上記1で合成した粒子の分散した透明溶液について、溶媒の水を減圧除去し、白色粉末を得た。この白色粉末についてSQUID(磁化率)測定した。測定条件は次の通りであった。
・ 測定装置:Quantum Design Japan製 7 T Quantum Design SQUID magnetometer
・ 測定温度:300 K
【0094】
結果を図14に示す。これより、実施例5の上記1で合成した粒子は常磁性であることが分かった。これは、実施例5の上記1で合成した粒子が、実施例5の上記7で示したようにR2/R1値が極めて1に近い値を取ることを証明している。それは、粒子が常磁性ではなく強磁性や超常磁性であった場合、強い外部磁場が存在するMRIにおいてはR2が大きくなり、R2/R1値が大きくなるからである。R2/R1値が大きい場合は陰性造影剤として有効となる。実施例5の上記1で合成した微粒子は、陽性造影剤として非常に優れていることが分かる。
【0095】
9. MRI撮像
(1) スピンエコー法T1強調画像
ガラスチューブに下記の通り調製したサンプル溶液入れ、寒天の入ったタッパーに立て、1.5T MRスキャナ(Signa Horzon LX, GE Yokogawa Medical Systems社製)を用いてスピンエコー法T1強調画像を得た。上から一段目は左からMagnevist(登録商標)のみ5.0, 1.0, 0.5, 0.1, 0.01 mM、二段目は左から実施例5の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液のみ2.2, 1.1, 0.5, 0.2, 0.04 mM(Gd濃度)、三段目は左からResovist(登録商標)のみ5.0, 1.0, 0.5, 0.1, 0.01 mM(Fe濃度)、四段目は全て純水(商品名milli Q水)である。なお、一段目から三段目までの溶液の希釈は純水(商品名milli Q水)を用いて行なった。
【0096】
結果を図15に示す。図15の一段目は、Magnevist(登録商標)の濃度を0.01〜5.0 mMに変化させたものであるが、濃度の増加にともない、T1強調画像において画像が白くなり、Magnevist(登録商標)がMRI用の陽性造影剤として働いていることが分かる。図15の二段目は、実施例5の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液の濃度を0.04〜2.2 mMに変化させたものであるが、濃度の増加にともない、T1強調画像において画像が白くなり、実施例5の上記1で合成した微粒子がMRI用の造影剤として有効であることが確認され、また、一段目のMagnevist(登録商標)と同様に陽性造影剤として働いていることが分かる。
【0097】
(2) ファストスピンエコー法T2強調画像
ガラスチューブに下記の通り調製したサンプル溶液入れ、寒天の入ったタッパーに立て、1.5T MRスキャナ(Signa Horzon LX, GE Yokogawa Medical Systems社製)を用いてファストスピンエコー法T2強調画像を得た。上から一段目は左からのみ5.0, 1.0, 0.5, 0.1, 0.01 mM、二段目は左から実施例5の上記1で合成した微粒子Magnevist(登録商標)の分散した透明溶液のみ2.2, 1.1, 0.5, 0.2, 0.04 mM(Gd濃度)、三段目は左からResovist(登録商標)のみ5.0, 1.0, 0.5, 0.1, 0.01 mM(Fe濃度)、四段目は全て純水(商品名milli Q水)である。なお、一段目から三段目までの溶液の希釈は純水(商品名milli Q水)を用いて行なった。
【0098】
結果を図16に示す。図16の上から三段目は、Resovist(登録商標)の濃度を0.01〜5.0mMに変化させたものであるが、濃度の増加にともない、T2 強調画像において画像が暗くなり、Resovist(登録商標)がMRI用の陰性造影剤として働いていることが分かる。図16の二段目は、実施例5の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液の濃度を0.04〜2.2 mMに変化させたものであるが、濃度の増加にともない、T2強調画像において画像が暗くなり、実施例5の上記1で合成した微粒子がMRI用の造影剤として有効であることが確認され、また、三段目のResovist(登録商標)と同様に陰性造影剤としても働いていることが分かる。しかし、三段目のResovist(登録商標)と比べて陰性造影剤としての働きは弱く、一段目のMagnevist(登録商標)と同様に、陽性造影剤としての働きの方が強いことが分かる。これは、実施例5の上記1で合成した微粒子のR2/R1値が1に極めて近い値を取っていることと一致する。
【0099】
10. MRI撮像(in vivo)
担癌動物としてVX2担癌ウサギを用い、実施例5の上記1で合成した微粒子を後耳介静脈より投与した。左から、投与前、投与後5分、投与後10分、投与後30分、投与後24時間のT1強調画像である。
【0100】
結果を図17に示す。投与後時間の経過と共に画像中央部の癌組織が白く描出されていることが分かる。これは、癌組織では血管新生が盛んに行なわれ、血中マクロ分子が癌組織に漏れ出し、さらに排出経路が未発達のため、癌組織に漏れ出したマクロ分子が癌組織に留まるというEPR(Enhanced Permeation and Retention)効果が起こっているため、直径100 nm以下の微粒子である実施例5の上記1で合成した微粒子が癌組織に集積した結果であると考えられる。実施例5の上記1で合成した微粒子は通常のMRI用造影剤としてだけではなく、癌組織を特異的に写し出す造影剤としても有効であることが示された。
【0101】
担癌動物としてVX2担癌ウサギを用い、Magnevist(登録商標)を後耳介静脈より投与した。左から、投与前、投与後5分、投与後10分、投与後30分、投与後24時間のT1強調画像である。
【0102】
結果を図18に示す。Magnevist(登録商標)を用いた場合、画像中央部の癌組織の特異的なコントラストの増加が起こっていないことが分かる。これは、Magnevist(登録商標)は分子サイズが小さく、実施例5の上記1で合成した微粒子のようにEPR効果を利用して癌組織に集積することができないためであると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】実施例1で作製した粒子の透過型電子顕微鏡写真である。スケールバーは10nmである。
【図2】実施例1で作製した粒子のXRD(X線回折)測定の結果を示す図である。
【図3】実施例2で作製した粒子の透過型電子顕微鏡写真である。スケールバーは20nmである。
【図4】実施例2で作製した粒子の分散液をMRI撮像して得られたT1強調画像である。
【図5】実施例2で作製した粒子の分散液をMRI撮像して得られたT2強調画像である。
【図6】実施例3で作製した粒子の透過型電子顕微鏡写真である。スケールバーは0.1μmである。
【図7】実施例3で作製した粒子の分散液をMRI撮像して得られたT1強調画像である。
【図8】実施例3で作製した粒子の分散液をMRI撮像して得られたT2強調画像である。
【図9】実施例5で作製した粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
【図10】実施例5で作製した粒子のXRDパターンを示す図である。
【図11】実施例5で作製した粒子の動的光散乱式粒度分布測定の結果を示す図である。
【図12】実施例5で作製した粒子とデキストランのの赤外スペクトルを示す図である。
【図13】実施例5で作製した粒子の縦緩和時間T1と横緩和時間T2を測定した結果を示す図である。
【図14】実施例5で作製した粒子のSQUID(磁化率)を測定した結果を示す図である。
【図15】実施例5で作製した粒子のスピンエコー法T1強調画像である。
【図16】実施例5で作製した粒子のスピンエコー法T2強調画像である。
【図17】実施例5で作製した粒子を投与したVX2担癌ウサギのT1強調画像である。
【図18】Magnevist(登録商標)を投与したVX2担癌ウサギのT1強調画像である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、MRI(magnetic resonance imaging、磁気共鳴イメージング)に用いるプローブに関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野における画像診断法は、病巣の早期発見、術前診断、術後の追跡診断などの観点から、必要不可欠な医療技術となっている。現在、医療現場で汎用されている画像診断法として、CT (computed tomography) 、MRI (magnetic resonance imaging) 、PET (positron emission tomography) が挙げられる。しかし、CTにおいてはX線による被爆が、PETにおいてはγ線による被爆を避けることがでず、また、近年装置の高機能化が進んだことにより多断面の撮像が可能になったが、それによる被爆量の増加が患者へのさらなる負担となっている。一方、MRIは、放射線被爆のない非侵襲な画像診断法であって、任意の断面画像を得られる利点がある。
【0003】
MRIの感度を向上させるためにMRI造影剤が広く使用されている。現在、医療現場で日常的に用いられているMRI用造影剤としてはガドリニウム錯体型のMagnevist(登録商標)やProHance(登録商標)、また、酸化鉄(Fe2O3)m(FeO)nから成る超磁性粒子型のResovist(登録商標)やFeridex(登録商標)などが挙げられる。超磁性粒子は静注などにより体内に投与されると、代謝経路の関係で肝臓に特異的に蓄積され、そのままグルクロン酸抱合などを受け、胆汁排泄される。
【0004】
近年、MRI用造影剤の緩和度(relaxivity) Rを大きくすることにより、より優れた造影能力を持つ造影剤の開発が行われている。陽性造影剤については、従来から用いられているDTPAなどの多座配位子とガドリニウムイオンによるガドリニウム錯体をデンドリマー、ミセル、リポソーム、各種ポリマーの主鎖や側鎖に導入することによって、高いR1値を出すことが研究されている。これらは、「一分子中に数多くのガドリニウム錯体が存在することで一分子当たりのR1値が大きくなる」ということに加え、「ポリマーなどの巨大分子にガドリニウム錯体が結合していることにより、ガドリニウム錯体と水分子との相関時間が増加し、その結果ガドリニウム錯体一分子当たりのR1が増大する」という理由により、高いR1値が達成されている。一方、陰性造影剤については、主に酸化鉄粒子が用いられている。この酸化鉄粒子は超磁性としての性質を持っており、外部磁場が存在する環境下において大きな磁性を持ち、この磁性により酸化鉄粒子周辺の磁場が乱され、大きなR2値を得ることができる。水への分散性と生体適合性を確保するために、超磁性粒子はしばしば水溶性高分子類でコーティングされている。
【0005】
あるMRI用造影剤を陽性造影剤として用いるか、または陰性造影剤として用いるかはR2/R1の値がしばしば用いられ、大まかには「R2/R1>5〜3」ならば陰性造影剤として、「R2/R1<5〜3」ならば陽性造影剤として用いられる。酸化鉄粒子の場合は、AMI-25 (Advanced Magnetics, Cambridge, Mass.) は4.0、SH U 555 A (Schering, Berlin, Germany)は6.0であり、陰性造影剤となる。例外として、粒子径の小さい酸化鉄粒子(Ultrasmall Paramagnetic Iron Oxides)であるAMI-227(Advanced Magnetics) は2.2であり陽性造影剤としても用いられている(Eur. Radiol. 8, 1198-1204 (1998))。
【0006】
血中へ外因性の粒子を投与すると、一般的にその薬物動態は、粒径と親水性の度合いによって決定される。粒径が大きいものは貪食細胞系に異物認識されて主に肝臓から排泄される。一方で、分子量の小さな薬物や親水性の高い薬物については主に肝臓から排泄される。粒径が100nm前後の粒径についてはEPR(Enhanced Permeability and Retention)効果と呼ばれるがん組織集積効果が現れる。これは、がん組織は、正常な細胞よりも急激に増殖するために常に血管の新生が起こっており、このため血管壁組織の構築性が悪く〜数百nmの隙間が開いていて、さらに、がん組織では排泄機能を持つリンパ管が未発達なため、通常であればここから排泄されるものが結果として長時間残存する、と言われているためである。
【0007】
現在、陽性造影剤として用いられているのはガドリニウム錯体が主であり、R1や分子量を大きくするためにはデンドリマー、ミセル、リポソーム、ポリマーなどに結合させる手法がとられている。それによって合成・精製が煩雑となり、さらに高分子量を構成する多くの有機分子を薬剤として使用しなければないというデメリットがあった。一方で、MRIによる画像診断を行なっていくにあたり、病変部位が特異的に白くなるようなコントラストを生み出す陽性造影剤のほうが明らかに診断は容易であり、陰性造影剤を使用した場合、その部位が特異的に暗くなっているのか、または偶然にその部位のMRシグナル強度が低くて画像上で暗くなっているのか、という判別が必要になる。
【0008】
一方、無機化合物を主体とする公知のMRI用陽性造影剤は、主として金属の酸化物から成る。このような無機化合物を主体とする公知のMRI用陽性造影剤は、粒子が磁性を持ち、それによりR2値が大きくなるため、R2/R1値が大きくなり、陽性造影剤としての使用が困難となってくるという問題点を有する。また、R2/R1値が2.2という値を持つ粒子(AMI-227(Advanced Magnetics))が存在するが、超磁性粒子であるため、外部静磁場下においては粒子が磁性を持つため、R2値を抑えることが困難であり、本発明に見られるR2/R1値が極めて1に近い粒子を作成することは困難であると考えられる。
【0009】
【特許文献1】特公昭62-42934号公報
【特許文献2】特公昭63-290832号公報
【特許文献3】EP0210043 A2
【特許文献4】US 2005/0260137 A1
【特許文献5】US006638494 B1
【特許文献6】US 2004/0101564 A1
【特許文献7】US005698271 A
【特許文献8】US006120856 A
【特許文献9】WO96/02235
【特許文献10】US2005/0220714 A1
【特許文献11】WO99/06849
【特許文献12】WO98/11922
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、合成及び精製を簡便に行なうことができる新規なMRIプローブを提供することである。また、本発明の目的は、合成及び精製を簡便に行なうことができ、緩和度が高く、陽性造影剤として利用可能な新規なMRIプローブを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、容易に調製可能な、金属塩又はその水和物から構成される粒子、又は該粒子を親水性物質でコーティングした粒子が、MRIプローブとして利用可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で示される化合物又はその水和物で構成された粒子から成るMRIプローブを提供する。
【0013】
AmBn (1)
(ただし、AはLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Y、Mn、Cr、Fe、Co、Ni及びCuから成る群より選ばれる少なくとも1種の金属のイオンを表し、Bはリン酸イオン、スルホン酸イオン、カルボン酸イオン、ホウ酸イオン、クエン酸イオン、硝酸イオン及びハロゲン化物イオンから成る群より選ばれる少なくとも1種の陰イオンを表し、m及びnは互いに独立して正の数を表す)。
【0014】
さらに、本発明は、上記粒子を、親水性物質でコーティングした粒子から成るMRIプローブを提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、合成及び精製を簡便に行なうことができる新規なMRIプローブが提供された。本発明のMRIプローブは、容易に入手できる出発材料から簡便に合成、精製することができるので、低コストで製造することができる。また、金属塩又はその水和物から成る粒子を親水性物質でコーティングして成る粒子は、水中での分散性が特に優れ、緩和度が大きくなり、陽性造影剤としても利用可能な優れたMRIプローブとして利用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
上記の通り、本発明のMRIプローブは、上記一般式(1)で示される金属塩若しくはその水和物から成る粒子又は該粒子から成る。
【0017】
上記一般式(1)中、Aは、上記の通りの金属のイオンであるが、これらのうち、緩和度の観点から、好ましい金属イオンとして、Gd、Fe、Mn、Cuイオンを挙げることができ、特にGdイオンが好ましい。Aは、1種類の金属イオンであってもよいし、複数の金属イオンの組合せであってもよい。
【0018】
上記一般式(1)中、Bは、上記の通りの陰イオンであるが、これらのうち、緩和度や粒子形成の容易さの観点から、好ましい陰イオンとして、リン酸イオン、スルホン酸イオンを挙げることができ、特にリン酸イオンが好ましい。Bは1種類の陰イオンであってもよいし、複数の陰イオンの組合せであってもよい。
【0019】
上記一般式(1)中、m及びnは互いに独立して正の数を表す。この正の数は、整数又は半整数(0.5、1.5、2.5等のように、小数第1位が5である、小数第1位までで終わる小数)であることが多いが、整数及び半整数以外の小数であってもよく、小数の場合は、通常、小数第1位までの小数である。調製の容易さの観点から、mは、0.5〜2.0の範囲の数であることが好ましく、0.8〜1.2の範囲の数であることがさらに好ましい。また、nは、0.5〜2.0の範囲の数であることが好ましく、0.8〜1.2の範囲の数であることがさらに好ましい。ただし、金属塩は、実質的に電気的に中性であるので、金属イオンの価数とmの積と、陰イオンの価数とnの積との比は、実質的に1:1である。
【0020】
上記一般式(1)中で表される金属塩は、水和していてもよい。水和している場合、金属塩に結合する水の分子数は通常、0.1〜5.0の範囲の数である。この数も、上記m及びnと同様、通常、整数又は半整数であるが、整数及び半整数以外の小数であってもよく、小数の場合は、通常、小数第1位までの小数である。なお、金属塩は必ずしも水和している必要はない。
【0021】
上記一般式(1)で表される金属塩又はその水和物から成る粒子の平均粒径は、MRIプローブとして用いた場合に容易に組織内に拡散し、また、造影剤として優れた性能を発揮することから、0.3nm以上5000nm以下であることが好ましく、0.5nm以上500nm以下であることがさらに好ましく、1nm以上150nm以下であることがさらに好ましく、4nm以上100nm以下であることがさらに好ましい。なお、粒子は、円柱状や楕円球状等、球状以外の場合も少なくないが、球状以外の場合には長径(最も長い径)の平均を意味する。なお、ここでの平均粒径は、粒子を電子顕微鏡で観察し、算術平均をとることにより測定したものである。
【0022】
上記一般式(1)で表される金属塩又はその水和物から成る粒子自体は公知であり、以下に記載する公知の方法により製造することができる。また、市販されているものも少なくなく、市販品が存在する場合には市販品を利用することができる。
【0023】
上記一般式(1)で表される金属塩中の金属イオンAの原料としては、金属Aのアルコキシド、アセチルアセトナート及びオキシン錯体等の金属錯体;酢酸塩、シュウ酸塩及びカルボン酸塩等の有機酸塩;硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩及び塩化物等の無機酸塩;金属酸化物;並びにその他各種の金属化合物を使用することができる。一方、陰イオンBの原料としては、Bを含む、又は反応してBを放出することが可能な有機酸、無機酸、エステル化合物(例えば、メトキシ化物、エトキシ化物、tert-ブトキシ化物等)、アンモニウム塩、水素アンモニウム塩、各種金属との塩、その他各種化合物を使用することができる。
【0024】
上記一般式(1)で表される金属塩又はその水和物は、上記したA及びBの原料を公知の水熱合成法又はソルボサーマル法に付すことにより製造することができる。以下、これらについて説明する。
【0025】
水熱合成法
水熱合成法は、一般式(1)中の金属イオンAと陰イオンBの混合水溶液を作製する工程、その混合液のpHを、例えば、水酸化ナトリウム水溶液等により塩基性に調整して水酸化物を形成する工程、この水酸化物を含む混合液を所定の温度及び圧力下で水熱合成する工程からなる方法である。また、水熱合成法は、水酸化物等に由来する析出物を形成させない場合もあり、この場合には、一般式(1)中の金属イオンAと陰イオンBの混合水溶液を作製する工程、その混合液のpHを調整する工程、この混合液を所定の温度及び圧力下で水熱合成する工程からなる方法である。金属イオンAはその種類によって水酸化物等の析出物を形成するpHは異なるが、一般には9.0以下であり、好ましくは6.0以下、さらに好ましくは5.0以下である。原料混合物の水溶液のpHは任意の値に設定することができるが、水酸化物を析出させて水熱処理を行なう場合、金属イオンAはその種類によって水酸化物を形成するpHは異なるが、原料溶液のpHは、一般には9.0以上であり、好ましくは10.0以上、さらに好ましくは11.0から13.0であり、最も好ましくは12.0から12.9である。なお、水酸化物等に由来する析出物を形成させない場合の、上記pH調整工程では、pHは、通常、1.0〜5.0の範囲に調整される。また、金属イオンAと陰イオンBの混合水溶液の金属イオンAの濃度は、通常、1〜3000mM程度であり、陰イオンBの濃度は、金属Aに対する化学量論量の0.8倍〜1.2倍程度である。
【0026】
次に、pH調整を行なった原料混合液に水熱処理を施す。水熱処理方法は、原料溶液を一定時間高温、高圧処理することにより、高温高圧下での溶液の高い反応性及び溶解・析出作用を利用して化合物を合成し、結晶成長させる方法である。具体的には、原料溶液を耐食、耐熱性の反応容器に入れ、これをオートクレーブ等の高圧容器に装填し、電気炉、あるいはオイルバスを用いて水熱処理を行なう。また、具体的には、原料溶液を耐食、耐熱、耐圧性の反応容器に入れ、これを電気炉、あるいはオイルバスを用いて水熱処理を行なっても良い。水熱処理温度は、一般には100℃から500℃の範囲にある。100℃未満では生成物の収率が非常に低く、120℃未満においても生成物の収率が悪い。500℃を超えると非常に高圧になるために反応装置のサイズが限定される。好ましくは、120℃から300℃の範囲にある。さらに好ましくは、140℃から250℃の範囲にある。最も好ましくは180℃から220℃の範囲にある。処理時間は、一般には0.1から100時間の範囲にあり、好ましくは0.1から24時間の範囲にある。さらに好ましくは0.5から6時間の範囲にあり、最も好ましくは1.5から3時間の範囲にある。
【0027】
上記水熱処理により、金属塩又はその水和物の粒子が形成される。粒子に付着している未反応の原料や、粒子への成長が不十分な塩等の不純物を除去するために、粒子をさらに精製することが好ましい。この精製は、例えば硝酸のような強酸でpHを1程度にして12時間〜48時間程度撹拌することにより不純物をイオン化させ、次いで粒子を水で洗浄後、遠心分離で粒子を回収することにより行なうことができる。
【0028】
ソルボサーマル法
ソルボサーマル法は、有機溶媒を含む溶媒中に出発物質を溶解し、溶媒の沸点以上の温度で反応させることによって、結晶性の高い目的物質を合成する技術である。この方法では、一般には100℃から1000℃の温度と1atmから10,000atmの中から高程度の圧力の下で溶媒を用いる。ここで、水を溶媒として用いる場合は特に水熱合成法、グリコールを溶媒として用いる場合は特にグリコサーマル法と呼ばれる。なお、水熱合成法は上記したので、この項では水以外の溶媒を用いるソルボサーマル法について記載する。
【0029】
ソルボサーマル法は、一般式(1)中の金属イオンAと陰イオンBと溶媒の混合液を作製する工程、この混合液を所定の温度及び圧力下で合成する工程からなる方法である。ここで、混合液を室温、大気圧下で作成するに当たり、一般式(1)中の金属イオンAと陰イオンBは必ずしも全てが溶解している必要はない。ソルボサーマル法における溶媒としては、一般には各種アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール等)、アセトン、ヘキサン、各種エーテル類を用いたもの、またそれぞれの群から選ばれた少なくとも2つ以上の溶媒を混合したものを反応溶媒として用いたもの、また、上記有機溶媒と水を混合させたものを反応溶媒として用いたものがある。好ましくはエタノール、メタノール、グリコールを用いたもの、あるいはそれらと水との混合溶媒を用いたソルボサーマル法、さらに好ましくはエタノールを用いたもの、あるいはそれと水との混合溶媒を用いたソルボサーマル法、最も好ましくは体積比1対1で水とエタノールの混合溶媒を用いるソルボサーマル法である。なお、金属イオンAと陰イオンBの混合水溶液の金属イオンAの濃度は、通常、1〜3000mM程度であり、陰イオンBの濃度は、金属Aに対する化学量論量の0.8倍〜1.2倍程度である。
【0030】
次いで、原料混合液に熱処理を施す。熱処理方法は、原料溶液を一定時間高温、高圧処理することにより、高温高圧下での溶液の高い反応牲およぴ溶解・析出作用を利用して化合物を合成し、結晶成長させる方法である。具体的には、原料溶液を耐食、耐熱性の反応容器に入れ、これをオートクレーブ等の高圧容器に装填し、電気炉、あるいはオイルバスを用いて熱処理を行なう。また、具体的には、原料溶液を耐食、耐熱、耐圧性の反応容器に入れ、これを電気炉、あるいはオイルバスを用いて熱処理を行なっても良い。熱処理温度は、一般には100℃から500℃の範囲にある。100℃未満では生成物の収率が非常に低く、120℃未満においても生成物の収率が悪い。500℃を超えると非常に高圧になるために反応装置のサイズが限定される。好ましくは、120℃から300℃の範囲にある。さらに好ましくは、130℃から170℃の範囲にある。最も好ましくは131℃から149℃の範囲にある。処理時間は、一般には0.1から300時間の範囲にあり、好ましくは0.1から24時間の範囲にある。さらに好ましくは0.5から6時間の範囲にあり、最も好ましくは1.5から3時間の範囲にある。
【0031】
得られた金属塩又はその水和物の粒子は、水熱合成法の場合と同様な方法により精製することが好ましい。
【0032】
上記方法により得られた粒子は、そのままでMRIプローブとして利用可能であるが、水(体液)中での分散性や生体適合性をより高めるために、親水性物質で粒子をコーティングすることが好ましい。水中での分散性を高めることにより緩和度がより大きくなり、MRIプローブとしてさらに優れた性能を発揮することができる。また、生体適合性を高めることにより血中に長く留まることができるようになる。なお、上記方法により得られる粒子は、基本的に電気的に中性であるが、表面の金属イオン又は陰イオンの一部が欠落して帯電している場合がある(下記実施例3参照)。水は極性が大きいので、粒子が帯電している場合には、水中での分散性が高く、親水性物質でコーティングしなくても良好な分散性が得られる。粒子が電気的に中性で水中での分散性が低い場合には、親水性物質でコーティングすることが特に好ましい。なお、ここで、「親水性物質」とは、水に可溶な物質であり、これで電気的に中性な粒子をコーティングすることにより、粒子の水中での分散性が、コーティングしない場合よりも増大する物質である。親水性物質の水に対する溶解度(水100g、20℃)は、0.01g以上、さらには1g以上のものが好ましい。粒子の水中での分散性は、水中存在する粒子の平均粒径を粒度分布測定装置や電子顕微鏡観察等により測定することにより調べることができる。
【0033】
上記親水性物質の例として、以下のものを挙げることができる。二価や多価の無機イオンおよびアルギニン酸などの有機酸との縮合生成物。リン酸基を有するオルトリン酸あるいはメタリン酸、また、ピロリン酸、ポリリン酸、シクロリン酸およびそれらのヘテロ縮合生成物といったそれらの縮合生成物。リン酸基、ジリン酸基、ポリリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、チオホスホン酸基、カルボキシル基、スルホ基、スルホン酸基、チオール基、メルカプト基、シラントリオール基を有する炭水化物より成る有機物質とその誘導体。リン酸基、ジリン酸基、ポリリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、チオホスホン酸基、カルボキシル基、スルホ基、スルホン酸基、メルカプト基、チオール基、シラントリオール基を有する単糖やオリゴ糖や多糖類より成る有機物質とその誘導体。ポリアルキレングリコール、アルキルポリエチレングリコール、アリールポリエチレングリコール、アルキルアリールポリエチレングリコール等のオリゴマーおよびポリマーとその誘導体。リン酸基を有するヌクレオチドとそのオリゴマーやポリマー。ムコポリサッカライド、グリコプロタイド、チティンといった窒素含有ポリサッカライドとその誘導体。リボ核酸、デオキシリボ核酸等。また、これらの混合物。
【0034】
具体的には、アスコルビン酸、アスコルビン酸-2-リン酸エステル等のリン酸エステル体、アスパラギン酸、ピルビン酸、グルタミン酸、グリシン、アラニン、セリン、トレオニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、システイン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、プロリン、トリプトファン、リシン、アルギニン、ヒスチジン、酒石酸、乳酸、酪酸、リンゴ酸、クエン酸等とその誘導体、また、その形態は単量体や二量体やオリゴ体や多量体のいずれでも良い。フィチン酸、フィチン、ノイラミン酸、N-アセチルノイラミン酸、N-グライコリルノイラミン酸、ガラクツロン酸、ウロン酸、アルダル酸、アルドン酸、アルジトール等とその誘導体、また、その形態は単量体や二量体やオリゴ体や多量体のいずれでも良い。グルコース-6-リン酸、グルコース-1-リン酸、 フラクトース-6-リン酸、フラクトース-1,6-ビスリン酸等とその誘導体、また、その形態は単量体や二量体やオリゴ体や多量体のいずれでも良い。リボース、デオキシリボース、キシロース、アラビノース、グルコース、フルクトース(果糖)、ガラクトース、マンノース、マルトース(麦芽糖)、ラクトース(乳糖)、スクロース(ショ糖)等とその誘導体、また、その形態は単量体や二量体やオリゴ体や多量体のいずれでも良く、その分子量もいずれでも良い。デキストラン、硫酸化デキストラン、カルボン酸化デキストラン、デキストリン、硫酸化デキストリン、カルボン酸化デキストリン、シクロデキストリン、硫酸化シクロデキストリン、カルボン酸化シクロデキストリン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、セルロース、デンプン、グリコーゲン、イヌリン、ヘパリン、ペクチン、スターチ等とその誘導体、また、その形態は単量体や二量体やオリゴ体や多量体のいずれでも良く、その分子量もいずれでも良い。ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール-4-ノニルフェニル-3-スルホプロピルエーテル等のポリエチレングリコール誘導体、ポリアクリル酸、ポリ(4-スチレン硫酸)、ポリ(4-スチレン硫酸-co-マレイン酸)、ポリジアリルヂメチルアンモニウム、ポリリン酸等とその誘導体、また、その分子量もいずれでも良い。アルブミン、グロブリン等のたんぱく質とその誘導体、また、その分子量もいずれでも良い。
【0035】
これらの親水性物質のうち、水中での分散性及び生体適合性の観点から、デキストランのような多糖類が好ましい。多糖類の場合、分子量は特に限定されないが、通常、1000〜10万程度であり、1000〜3万程度が好ましい。
【0036】
親水性物質によるコーティングは、粒子の水分散液に親水性物質を添加し、又は親水性物質の水溶液に粒子若しくは粒子の水分散液を加えること等により、粒子と親水性物質を接触させ、接触後の粒子を遠心分離等により回収することにより容易に行なうことができる。この場合、接触は室温でよく、撹拌下に行なうことが好ましい。接触時間は、特に限定されないが、通常、1分間〜60分間程度でよい。また、接触の際の親水性物質の終濃度は、通常、0.001〜5重量%、好ましくは、0.01〜0.5重量%程度であり、粒子と親水性物質の重量比は、粒子1に対して親水性物質が通常、0.0001〜100、好ましくは0.001〜10程度である。
【0037】
あるいは、デキストランのように、親水性物質が熱並びに酸及び塩基に対してに安定なものである場合には、上記した水熱合成法又はソルボサーマル法を親水性物質の共存下で行なうことにより粒子を親水性物質でコーティングすることも可能である。すなわち、水熱合成法又はソルボサーマル法に用いる、金属イオンAと陰イオンBを含む混合水溶液に親水性物質を共存させ、以下、上記の通りに水熱合成法又はソルボサーマル法を行なうことができる。この場合、前記混合水溶液中の親水性物質の終濃度は、通常、0.001〜90重量%、好ましくは、1〜50重量%程度である。
【0038】
本発明のMRIプローブは、従来から用いられている通常のMRIプローブと同様に用いることができる。すなわち、映像化に有効な量の本発明のMRIプローブを生体に投与し、これを造影剤として利用してMRI装置により画像を撮像する。通常、100 mM〜1000 mM程度の濃度の水溶液又は水分散液を、0.01 mL/kg〜1 mL/kg程度、静脈注射したり観察する器官又は組織に注射し、これを造影剤として利用してMRI装置により画像を撮像する。
【0039】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0040】
1. GdPO4・1.5H2O粒子の調製
硝酸ガドリニウム六水和物1.35gを水5mLに溶かし、そこへ1M水酸化ナトリウム水溶液10mLを加えた。さらに、リン酸水素アンモニウム0.356gと水10mLの溶液をを加えた。この白濁液のpHを4M水酸化ナトリウム水溶液で12.5に調整した。これをガラスチューブに移し、密閉し、200℃で2時間、600rpmで攪拌した。反応後室温に戻し、3200rpmで10分遠心した。上澄み液を除き、沈殿物に0.1M硝酸水溶液10mLを加えて、1M硝酸水溶液でpHを1に保ちながら1日攪拌した。1日後、3200rpmで5分遠心し、上澄み液を除いた。沈殿物に純水(商品名milli Q水)を加え、3200rpmで5分遠心し、上澄み液を回収する作業を4回行ない、回収した上澄み液をまとめて、5500rpmで20分遠心した。沈殿物を回収し、縦緩和時間T1測定、横緩和時間T2測定、透過型電子顕微鏡TEM観察、XRD測定を行なった。
【0041】
2. 粒子の形態及び大きさ
本実施例の上記1で合成した微粒子について、透過型電子顕微鏡による形状観察を行なった。その結果を図1に示す。図1より、これより、長径約50 nm程度の微粒子が生成していることが分かる。
【0042】
3. 粒子の理化学的性質及び組成
本実施例の上記1で合成した微粒子について、XRD(X線回折)測定を行なった。その結果を図2に示す。測定結果は下記の通りである。
粒子組成:GdPO4・1.5H2O
【0043】
4. MRIプローブとしての性能
本実施例の上記1で合成した微粒子について、縦緩和時間T1と横緩和時間T2を測定した。測定条件は次の通りであった。
・ 粒子濃度(ガドリニウム濃度):26.6 mM
・ 溶媒:0.5%アガロースゲル水溶液
・ 測定装置:BRUKER社製NMS 120 minispec NMR ANALYZER(永久磁石による外部静磁場は40MHz、縦緩和・横緩和時間測定装置)
・ 測定温度 : 40℃
【0044】
結果は下記の通りであった。
T1:370 msec
T2:92.7 msec
【0045】
縦緩和時間及び横緩和時間が測定可能であったことから、得られた粒子はMRIプローブとして利用可能であることがわかった。なお、本実施例の上記1で合成した微粒子の縦緩和時間、横緩和時間を測定するにあたり、微粒子の水への分散性が良くないため、アガロースゲルを水に添加した溶液を用いた。
【実施例2】
【0046】
1. デキストランでコーティングしたGdPO4・1.5H2O粒子の調製
硝酸ガドリニウム六水和物0.675gを水3mLに溶かし、そこへ1M水酸化ナトリウム水溶液5mLを加えた。さらに、リン酸水素アンモニウム0.178gと水5mLの溶液を加えた。そこへ、Dextran-40を3.90g加えた。この白濁液のpHを4M水酸化ナトリウム水溶液で12.5に調整した。これをガラスチューブに移し、密閉し、200℃で2時間、600rpmで攪拌した。反応後室温に戻し、3200rpmで10分遠心した。上澄み液を除き、沈殿物に0.1M硝酸水溶液10mLを加えて、1M硝酸水溶液でpHを1に保ちながら1日攪拌した。1日後、3200rpmで5分遠心し、上澄み液を除いた。沈殿物に純水(商品名milli Q水)を加え、3200rpmで5分遠心し、上澄み液を回収する作業を4回行ない、回収した上澄み液をまとめて、5500rpmで20分遠心した。その上澄み液を回収し、縦緩和時間T1測定、横緩和時間T2測定、透過型電子顕微鏡TEM観察、誘導結合高周波プラズマ発光分光分析(ICP-AES)、動的光散乱式粒度分布測定、ゼータ電位測定、MRI撮像を行なった。
【0047】
2. 粒子の形態及び大きさ
実施例2の上記1で合成した粒子について、透過型電子顕微鏡による形状観察を行なった。その結果を図3に示す。これより、実施例2で合成した微粒子は、長径約20〜40 nm、短径約5〜10 nmの棒状粒子であり、粒径や粒子形状のそろった粒子が生成していることが分かる。なお、実施例2で合成した粒子についてはX線解析を行なっていないが、デキストランの共存下で実施例1と同様な水熱合成法を行なっているだけであるので、実施例1と同様、GdPO4・1.5H2Oの粒子が生成し、該粒子がデキストランによりコーティングされていると考えられる。
【0048】
3. 粒度分布
実施例2の上記1で合成した粒子の分散した透明溶液について、粒度分布測定をした。測定条件は次の通りであった。
・ 溶媒;純水(商品名milli Q)
・ 測定装置:大塚エレクトロニクス社製 PAR-3 動的光散乱式粒度分布測定装置
・ 測定温度:19.9℃
【0049】
結果は下記の通りであった。
・ 平均粒径:236.8 nm
この結果はTEM観察像による「5〜10 nmの微粒子」という結果よりも大きな値となった。これは、生成した5〜10 nmの微粒子が水中で集まり、動的光散乱式粒度分布測定装置で求めた平均粒径程度の大きさの粒子を形成しているためであると考えられる。
【0050】
4. 粒子組成
実施例2の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液について、ガドリニウムの濃度を測定した。前処理として、実施例2の上記1で合成した粒子の分散した透明溶液0.1mLと王水(濃塩酸:濃硝酸 = 3:1)0.9mLを混合し、冷却管を装着したガラス製容器中100℃で12時間攪拌しながら加熱した。この溶液を常温に戻し、さらに王水で1000倍希釈したものをICP-AES測定の試料として用いた。測定条件は次の通りであった。
・ 溶媒:王水
・ 検出波長:Gd:342.247nm
・ 装置:島津社製ICPS-8000 ICP-AES装置
【0051】
結果は下記の通りであった。
Gd:3.43 μM
【0052】
実施例2の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液について、ガドリニウムの濃度が分かり、実施例2で合成した粒子についてはX線解析を行なっていないが、デキストランの共存下で実施例1と同様な水熱合成法を行なっているだけであるので、実施例1と同様、GdPO4・1.5H2Oの粒子が生成し、該粒子がデキストランによりコーティングされていると考えられる。
【0053】
5. MRIプローブとしての性能
実施例2の上記1で合成した粒子について、縦緩和時間T1と横緩和時間T2を測定した。測定条件は次の通りであった。
・ 粒子濃度(ガドリニウム濃度):3.43 mM(この濃度はICP-AES測定により求めた)
・ 溶媒:純水(商品名milli Q)
・ 測定装置:BRUKER社製NMS 120 minispec NMR ANALYZER(永久磁石による外部静磁場は40MHz、縦緩和・横緩和時間測定装置)
・ 測定温度 : 40℃
【0054】
結果は下記の通りであった。
T1:39.0 msec
T2:34.4 msec
【0055】
この結果から明らかなように、デキストランで粒子をコーティングすることにより、縦緩和時間T1及び横緩和時間T2の両方とも実施例1に比べて大幅に短縮され、MRIプローブとして用いた場合により大きなコントラストが得られ、鮮明な画像が得られることがわかる。また、この結果から、R1=7.48、R2=8.48というMRI用造影剤として非常に大きな値を有しており、実施例2の上記1で合成した微粒子はMRI用造影剤として有効であることが確認された。さらに、R1/R2値はR1/R2=1.13となり、非常に1に近い値をとっており、実施例2の上記1で合成した微粒子は陰性造影剤だけではなく、陽性造影剤として非常に優れていることが分かる。
【0056】
6. ゼータ電位
実施例2の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液について、ゼータ電位測定をした。測定条件は次の通りであった。
・ 溶媒;純水(商品名milli Q)
・ 測定装置:大塚電子(株)社製 ELS-6000
【0057】
結果は下記の通りであった。
ゼータ電位:4.35 mV
この結果より、実施例2の上記1で合成した微粒子は若干正に帯電していることが分かる。
【0058】
7. MRI撮像
(1) スピンエコー法T1強調画像
ガラスチューブに下記の通り調製したサンプル溶液入れ、寒天の入ったタッパーに立て、1.5T MRスキャナ(Signa Horzon LX, GE Yokogawa Medical Systems社製)を用いてスピンエコー法T1強調画像を得た。上から一段目は左からMagnevist(登録商標)のみ1.0, 0.1, 0.01mM、二段目は左から実施例2の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液のみ2, 0.4, 0.08mM(Gd濃度)、三段目は左からResovist(登録商標)のみ1.0, 0.1, 0.01mM、四段目は全て純水(商品名milli Q水)である。なお、一段目から三段目までの溶液の希釈は純水(商品名milli Q水)を用いて行なった。
【0059】
結果を図4に示す。図4の一段目は、Magnevist(登録商標)の濃度を0.01〜1.0mMに変化させたものであるが、濃度の増加にともない、T1強調画像において画像が白くなり、Magnevist(登録商標)がMRI用の陽性造影剤として働いていることが分かる。図4の二段目は、実施例2の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液の濃度を0.08〜2mMに変化させたものであるが、濃度の増加にともない、T1強調画像において画像が白くなり、実施例2の上記1で合成した微粒子がMRI用の造影剤として有効であることが確認され、また、一段目のMagnevist(登録商標)と同様に陽性造影剤として働いていることが分かる。
【0060】
(2) ファストスピンエコー法T2強調画像
ガラスチューブに下記の通り調製したサンプル溶液入れ、寒天の入ったタッパーに立て、1.5T MRスキャナ(Signa Horzon LX, GE Yokogawa Medical Systems社製)を用いてファストスピンエコー法T2強調画像を得た。上から一段目は左からMagnevist(登録商標)のみ1.0, 0.1, 0.01mM、二段目は左から実施例2の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液のみ2, 0.4, 0.08mM(Gd濃度)、三段目は左からResovist(登録商標)のみ1.0, 0.1, 0.01mM、四段目は全て純水(商品名milli Q水)である。なお、一段目から三段目までの溶液の希釈は純水(商品名milli Q水)を用いて行なった。
【0061】
結果を図5に示す。図5の上から三段目は、Resovist(登録商標)の濃度を0.01〜1.0mMに変化させたものであるが、濃度の増加にともない、T2 強調画像において画像が暗くなり、Resovist(登録商標)がMRI用の陰性造影剤として働いていることが分かる。図5の二段目は、実施例2の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液の濃度を0.08〜2mMに変化させたものであるが、濃度の増加にともない、T2強調画像において画像が暗くなり、実施例2の上記1で合成した微粒子がMRI用の造影剤として有効であることが確認され、また、三段目のResovist(登録商標)と同様に陰性造影剤としても働いていることが分かる。しかし、三段目のResovist(登録商標)と比べて陰性造影剤としての働きは弱く、陽性造影剤としての働きの方が強いことが分かる。これは、実施例2の上記1で合成した微粒子のR2/R1値が1に極めて近い値を取っていることと一致する。
【実施例3】
【0062】
1. GdPO4粒子の調製
酢酸ガドリニウム四水和物4.06gとリン酸トリメチル1.40gと水:エタノール = 1 : 1溶液40mLをガラスチューブに取り、密閉して135〜140℃で2時間攪拌した。得られたコロイド状溶液を孔径5nmの透析用セルロースチューブに移し、透析用セルロースチューブの外液を常に交換しながら1日透析した。得られた透明溶液を用いて、透過型電子顕微鏡TEM観察、誘導結合高周波プラズマ発光分光分析(ICP-AES)、縦緩和時間T1測定、横緩和時間T2測定、動的光散乱式粒度分布測定、ゼータ電位測定、MRI撮像を行なった。
【0063】
2. 粒子の形態及び大きさ
実施例3の上記1で合成した粒子について、透過型電子顕微鏡による形状観察を行なった。その結果を図6に示す。これより、直径5〜7 nm程度の粒子が生成しており、これらが寄り集まっている様子が分かる。
【0064】
3. 粒度分布
実施例3の上記1で合成した粒子の分散した透明溶液について、粒度分布測定をした。測定条件は次の通りであった。
・ 溶媒;純水(商品名milli Q)
・ 測定装置:大塚エレクトロニクス社製 PAR-3 動的光散乱式粒度分布測定装置
・ 測定温度:19.9℃
【0065】
結果は下記の通りであった。
・ 平均粒径:167.4 nm
この結果はTEM観察像による「5〜7 nmの微粒子」という結果よりも大きな値となった。これは、生成した5〜7 nmの微粒子が水中で集まり、動的光散乱式粒度分布測定装置で求めた平均粒径程度の大きさの粒子を形成しているためであると考えられる。
【0066】
4. 粒子組成
実施例3の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液について、ガドリニウムとリンの濃度を測定した。前処理として、実施例3の上記1で合成した粒子の分散した透明溶液0.1mLと王水(濃塩酸:濃硝酸 = 3:1)0.9mLを混合し、冷却管を装着したガラス製容器中100℃で12時間攪拌しながら加熱した。この溶液を常温に戻し、さらに王水で1000倍希釈したものをICP-AES測定の試料として用いた。測定条件は次の通りであった。
・ 溶媒:王水
・ 検出波長:Gd:342.247nm
P:178.287nm
・ 装置:島津社製ICPS-8000 ICP-AES装置
【0067】
結果は下記の通りであった。
Gd:3.278μM
P:2.967μM
【0068】
GdとPの比率がほぼ1:1である点及び上記合成方法から、粒子の組成はGdPO4又はその水和物であると考えられる。なお、Gdの濃度がPの濃度よりも若干大きくなっているのは、粒子表面のPO4の一部が欠落したためであると考えられ、このため、後述のように粒子のゼータ電位がプラスになっている。
【0069】
5. ゼータ電位
実施例3の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液について、ゼータ電位測定をした。測定条件は次の通りであった。
・ 溶媒;純水(商品名milli Q)
・ 測定装置:大塚電子(株)社製 ELS-6000
【0070】
結果は下記の通りであった。
ゼータ電位:10.67 mV
この結果より、実施例3の上記1で合成した微粒子は正に帯電していることが分かる。
【0071】
6. MRIプローブとしての性能
実施例3の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液について、縦緩和時間T1と横緩和時間T2を測定した。測定条件は次の通りであった。
・ 粒子濃度(ガドリニウム濃度):1.6 mM(この濃度はICP-AES測定により求めた)
・ 溶媒:純水(商品名milli Q)
・ 測定装置:BRUKER社製NMS 120 minispec NMR ANALYZER(永久磁石による外部静磁場は40MHz、縦緩和・横緩和時間測定装置)
・ 測定温度 : 40℃
【0072】
結果は下記の通りであった。
・ T1:68.0 msec
・ T2:67.2 msec
【0073】
この結果から、R1=9.0、R2=9.1というMRI用造影剤として非常に大きな値を有しており、実施例3の上記1で合成した微粒子はMRI用造影剤として有効であることが確認された。また、R1/R2値はR1/R2=1.01となり、非常に1に近い値をとっており、実施例3の上記1で合成した微粒子は陰性造影剤だけではなく、陽性造影剤として非常に優れていることが分かる。
【0074】
7. MRI撮像
(1) スピンエコー法T1強調画像
ガラスチューブに下記の通り調製したサンプル溶液入れ、寒天の入ったタッパーに立て、1.5T MRスキャナ(Signa Horzon LX, GE Yokogawa Medical Systems社製)を用いてスピンエコー法T1強調画像を得た。一段目は左からMagnevist(登録商標)のみ1.0, 0.1, 0.01mM、二段目は左から実施例3の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液のみ2.3, 0.23, 0.046mM(Gd濃度)、三段目は左からResovist(登録商標)のみ1.0, 0.1, 0.01mM、四段目は全て純水(商品名milli Q水)である。なお、一段目から三段目までの溶液の希釈は純水(商品名milli Q水)を用いて行なった。
【0075】
結果を図7に示す。図7の上から一段目は、Magnevist(登録商標)の濃度を0.01〜1.0mMに変化させたものであるが、濃度の増加にともない、T1強調画像において画像が白くなり、Magnevist(登録商標)がMRI用の陽性造影剤として働いていることが分かる。図7の二段目は、実施例3の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液の濃度を0.046〜2.3mMに変化させたものであるが、濃度の増加にともない、T1強調画像において画像が白くなり、実施例3の上記1で合成した微粒子がMRI用の造影剤として有効であることが確認され、また、一段目のMagnevist(登録商標)と同様に陽性造影剤として働いていることが分かる。
【0076】
(2) ファストスピンエコー法T2強調画像
ガラスチューブに下記の通り調整したサンプル溶液入れ、寒天の入ったタッパーに立て、1.5T MRスキャナ(Signa Horzon LX, GE Yokogawa Medical Systems社製)を用いてファストスピンエコー法T2強調画像を得た。一段目は左からMagnevist(登録商標)のみ1.0, 0.1, 0.01mM、二段目は左から実施例3の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液のみ2.3, 0.23, 0.046mM(Gd濃度)、三段目は左からResovist(登録商標)のみ1.0, 0.1, 0.01mM、四段目は全て純水(商品名milli Q水)である。なお、一段目から三段目までの溶液の希釈は純水(商品名milli Q水)を用いて行なった。
【0077】
結果を図8に示す。図8の上から三段目は、Resovist(登録商標)の濃度を0.01〜1.0mMに変化させたものであるが、濃度の増加にともない、T2強調画像において画像が暗くなり、Resovist(登録商標)がMRI用の陰性造影剤として働いていることが分かる。図8の二段目は、実施例3の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液の濃度を0.046〜2.3mMに変化させたものであるが、濃度の増加にともない、T2 強調画像において画像が暗くなり、実施例3の上記1で合成した微粒子がMRI用の造影剤として有効であることが確認され、また、三段目のResovist(登録商標)と同様に陰性造影剤としても働いていることが分かる。しかし、三段目のResovist(登録商標)と比べて陰性造影剤としての働きは弱く、陽性造影剤としての働きの方が強いことが分かる。これは、実施例3の上記1で合成した微粒子のR2/R1値が1に極めて近い値を取っていることと一致する。
【実施例4】
【0078】
実施例3で合成した微粒子のコーティングを行なった。コーティング剤としてまずポリリン酸ナトリウム、デキストラン硫酸ナトリウム(m.w.25000)、デキストラン硫酸ナトリウム(m.w.4000)、デキストラン-40を用いた。ポリリン酸ナトリウム、デキストラン硫酸ナトリウム(m.w.25000)、デキストラン硫酸ナトリウム(m.w.4000)を実施例3で合成した微粒子の分散している水に対してそれぞれ0.1 wt%加えた。
【実施例5】
【0079】
1. デキストランでコーティングしたGdPO4・1.5H2O粒子の調製
Dextran-40を加え、水酸化ナトリウム水溶液でpHを12.5に調製した後の、密閉ガラスチューブ内での200℃、600rpmにおける撹拌時間を2.5時間に変更したこと以外は実施例2と同じ操作を行い、デキストランでコーティングしたGdPO4・1.5H2O粒子を調製した。5500rpmで20分遠心後の上澄み液を回収し、透過型電子顕微鏡TEM観察、XRD(X線回折)測定、動的光散乱式粒度分布測定、フーリエ変換赤外(FT-IR)分光測定、誘導結合高周波プラズマ発光分光分析(ICP-AES)、縦緩和時間T1測定、横緩和時間T2測定、SQUID(磁化率)測定、MRIによる撮像を行なった。
【0080】
2. 粒子の形態及び大きさ
実施例5の上記1で合成した粒子について、透過型電子顕微鏡による形状観察を行なった。その結果を図9に示す。測定装置:FEI Company製 TECNAI F20(加速電圧:200 kV)、TECNAI 12(加速電圧:120 kV)。なお、図9中、大きな写真は加速電圧200kVの写真であり、右下挿入図は、加速電圧120kVによる写真である。
【0081】
加速電圧200kVの写真より、実施例5で合成した微粒子は、長径約20〜40 nm、短径約5〜15 nmの棒状粒子であり、粒径や粒子形状のそろった粒子が生成していることが分かる。また、加速電圧120kVの写真より、棒状粒子表面には加速電圧200kVでは見えない、つまり、X線回折しにくい物質が存在していることが分かる。これは、200kVで見えないことから、この物質は有機物質であることが考えられ、棒状粒子をコーティングしているデキストランであると考えられる。このことは、下記5のフーリエ変換赤外(FT-IR)分光測定の結果からも支持される。
【0082】
3. 粒子の理化学的性質及び組成
本実施例の上記1で合成した微粒子について、XRD(X線回折)測定を行なった。その結果を図10に示す。測定結果は下記の通りである。これより、GdPO41.5H2OにGdPO4H2Oが混在していることが分かる。粒子組成:GdPO4・1.5H2O+GdPO4・H2O
【0083】
4. 粒度分布
実施例5の上記1で合成した粒子の分散した透明溶液について、粒度分布測定をした。測定条件は次の通りであった。
・ 溶媒;純水(商品名milli Q)
・ 測定装置:大塚エレクトロニクス社製 PAR-3 動的光散乱式粒度分布測定装置
・ 測定温度:25.2℃
【0084】
結果は下記の通りであった。
・ 平均粒径:23.2±7.8 nm
この結果は「長径約20〜40 nm、短径約5〜15 nmの棒状粒子」というTEM観察像による結果と同じスケールとなった。これより、実施例5の上記1で合成した粒子が単分散しており、凝集が起こっていないことが分かる。
【0085】
5. フーリエ変換赤外(FT-IR)分光測定
実施例5の上記1で合成・精製した粒子の分散した透明溶液について、溶媒の水を減圧除去し、白色粉末を得た。この白色粉末をフーリエ変換赤外(FT-IR)分光測定した。測定条件は次の通りであった。
・ 方法;KBr法
・ 測定装置:JASCO製 FT/IR-600 plus
【0086】
これより、実施例5の上記1で合成・精製した粒子にはデキストランが含まれていることが分かる。実施例5の上記1で合成・精製した粒子は遠心による精製を行なっていることから、このデキストランは粒子と一体となっていると考えられる。また、上記2の加速電圧120kVの透過型電子顕微鏡写真より、デキストランは粒子表面に存在しており、実施例5の上記1で合成した粒子をコーティングしていることを示唆している。
【0087】
6. ガドリニウムイオン濃度
実施例5の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液について、ガドリニウムの濃度を測定した。前処理として、実施例5の上記1で合成した粒子の分散した透明溶液0.1mLと王水(濃塩酸:濃硝酸 = 3:1)0.9mLを混合し、冷却管を装着したガラス製容器中100℃で12時間攪拌しながら加熱した。この溶液を常温に戻し、さらに王水で1000倍希釈したものをICP-AES測定の試料として用いた。測定条件は次の通りであった。
・ 溶媒:王水
・ 検出波長:Gd:342.247nm
・ 装置:島津社製ICPS-8000 ICP-AES装置
【0088】
結果は下記の通りであった。
Gd:2.17 mM(実施例5の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液のガドリニウムイオン濃度)
【0089】
7. MRIプローブとしての性能
実施例5の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液について、縦緩和時間T1と横緩和時間T2を測定した。測定条件は次の通りであった。
・ 粒子濃度(ガドリニウム濃度):2.17 mM(この濃度はICP-AES測定により求めた)
・ 溶媒:純水(商品名milli Q)
・ 測定装置:BRUKER社製NMS 120 minispec NMR ANALYZER(永久磁石による外部静磁場は40MHz、縦緩和・横緩和時間測定装置)
・ 測定温度 : 40℃
【0090】
結果は下記の通りであった(図13)。
R1:13.9 mM-1sec-1
R2:15.0 mM-1sec-1
【0091】
この結果から、実施例5の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液は、R1=13.9、R2=15.0というMRI用造影剤として非常に大きな値を有しており、実施例5の上記1で合成した微粒子はMRI用造影剤として有効であることが確認された。実施例2の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液よりも大きな縦緩和時間短縮効果R1と横緩和時間短縮効果R2を持つことが分かり、MRIプローブとして用いた場合により大きなコントラストが得られ、鮮明な画像が得られることがわかる。これは、反応時間を長くすることにより粒子の形成が十分に進んだためであると考えられる。
【0092】
また、R2/R1値はR2/R1=1.08となり、実施例2の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液よりさらに1に近い値をとっており、実施例5の上記1で合成した微粒子は、陽性造影剤として非常に優れていることが分かる。
【0093】
8. SQUID(磁化率)測定
実施例5の上記1で合成した粒子の分散した透明溶液について、溶媒の水を減圧除去し、白色粉末を得た。この白色粉末についてSQUID(磁化率)測定した。測定条件は次の通りであった。
・ 測定装置:Quantum Design Japan製 7 T Quantum Design SQUID magnetometer
・ 測定温度:300 K
【0094】
結果を図14に示す。これより、実施例5の上記1で合成した粒子は常磁性であることが分かった。これは、実施例5の上記1で合成した粒子が、実施例5の上記7で示したようにR2/R1値が極めて1に近い値を取ることを証明している。それは、粒子が常磁性ではなく強磁性や超常磁性であった場合、強い外部磁場が存在するMRIにおいてはR2が大きくなり、R2/R1値が大きくなるからである。R2/R1値が大きい場合は陰性造影剤として有効となる。実施例5の上記1で合成した微粒子は、陽性造影剤として非常に優れていることが分かる。
【0095】
9. MRI撮像
(1) スピンエコー法T1強調画像
ガラスチューブに下記の通り調製したサンプル溶液入れ、寒天の入ったタッパーに立て、1.5T MRスキャナ(Signa Horzon LX, GE Yokogawa Medical Systems社製)を用いてスピンエコー法T1強調画像を得た。上から一段目は左からMagnevist(登録商標)のみ5.0, 1.0, 0.5, 0.1, 0.01 mM、二段目は左から実施例5の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液のみ2.2, 1.1, 0.5, 0.2, 0.04 mM(Gd濃度)、三段目は左からResovist(登録商標)のみ5.0, 1.0, 0.5, 0.1, 0.01 mM(Fe濃度)、四段目は全て純水(商品名milli Q水)である。なお、一段目から三段目までの溶液の希釈は純水(商品名milli Q水)を用いて行なった。
【0096】
結果を図15に示す。図15の一段目は、Magnevist(登録商標)の濃度を0.01〜5.0 mMに変化させたものであるが、濃度の増加にともない、T1強調画像において画像が白くなり、Magnevist(登録商標)がMRI用の陽性造影剤として働いていることが分かる。図15の二段目は、実施例5の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液の濃度を0.04〜2.2 mMに変化させたものであるが、濃度の増加にともない、T1強調画像において画像が白くなり、実施例5の上記1で合成した微粒子がMRI用の造影剤として有効であることが確認され、また、一段目のMagnevist(登録商標)と同様に陽性造影剤として働いていることが分かる。
【0097】
(2) ファストスピンエコー法T2強調画像
ガラスチューブに下記の通り調製したサンプル溶液入れ、寒天の入ったタッパーに立て、1.5T MRスキャナ(Signa Horzon LX, GE Yokogawa Medical Systems社製)を用いてファストスピンエコー法T2強調画像を得た。上から一段目は左からのみ5.0, 1.0, 0.5, 0.1, 0.01 mM、二段目は左から実施例5の上記1で合成した微粒子Magnevist(登録商標)の分散した透明溶液のみ2.2, 1.1, 0.5, 0.2, 0.04 mM(Gd濃度)、三段目は左からResovist(登録商標)のみ5.0, 1.0, 0.5, 0.1, 0.01 mM(Fe濃度)、四段目は全て純水(商品名milli Q水)である。なお、一段目から三段目までの溶液の希釈は純水(商品名milli Q水)を用いて行なった。
【0098】
結果を図16に示す。図16の上から三段目は、Resovist(登録商標)の濃度を0.01〜5.0mMに変化させたものであるが、濃度の増加にともない、T2 強調画像において画像が暗くなり、Resovist(登録商標)がMRI用の陰性造影剤として働いていることが分かる。図16の二段目は、実施例5の上記1で合成した微粒子の分散した透明溶液の濃度を0.04〜2.2 mMに変化させたものであるが、濃度の増加にともない、T2強調画像において画像が暗くなり、実施例5の上記1で合成した微粒子がMRI用の造影剤として有効であることが確認され、また、三段目のResovist(登録商標)と同様に陰性造影剤としても働いていることが分かる。しかし、三段目のResovist(登録商標)と比べて陰性造影剤としての働きは弱く、一段目のMagnevist(登録商標)と同様に、陽性造影剤としての働きの方が強いことが分かる。これは、実施例5の上記1で合成した微粒子のR2/R1値が1に極めて近い値を取っていることと一致する。
【0099】
10. MRI撮像(in vivo)
担癌動物としてVX2担癌ウサギを用い、実施例5の上記1で合成した微粒子を後耳介静脈より投与した。左から、投与前、投与後5分、投与後10分、投与後30分、投与後24時間のT1強調画像である。
【0100】
結果を図17に示す。投与後時間の経過と共に画像中央部の癌組織が白く描出されていることが分かる。これは、癌組織では血管新生が盛んに行なわれ、血中マクロ分子が癌組織に漏れ出し、さらに排出経路が未発達のため、癌組織に漏れ出したマクロ分子が癌組織に留まるというEPR(Enhanced Permeation and Retention)効果が起こっているため、直径100 nm以下の微粒子である実施例5の上記1で合成した微粒子が癌組織に集積した結果であると考えられる。実施例5の上記1で合成した微粒子は通常のMRI用造影剤としてだけではなく、癌組織を特異的に写し出す造影剤としても有効であることが示された。
【0101】
担癌動物としてVX2担癌ウサギを用い、Magnevist(登録商標)を後耳介静脈より投与した。左から、投与前、投与後5分、投与後10分、投与後30分、投与後24時間のT1強調画像である。
【0102】
結果を図18に示す。Magnevist(登録商標)を用いた場合、画像中央部の癌組織の特異的なコントラストの増加が起こっていないことが分かる。これは、Magnevist(登録商標)は分子サイズが小さく、実施例5の上記1で合成した微粒子のようにEPR効果を利用して癌組織に集積することができないためであると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】実施例1で作製した粒子の透過型電子顕微鏡写真である。スケールバーは10nmである。
【図2】実施例1で作製した粒子のXRD(X線回折)測定の結果を示す図である。
【図3】実施例2で作製した粒子の透過型電子顕微鏡写真である。スケールバーは20nmである。
【図4】実施例2で作製した粒子の分散液をMRI撮像して得られたT1強調画像である。
【図5】実施例2で作製した粒子の分散液をMRI撮像して得られたT2強調画像である。
【図6】実施例3で作製した粒子の透過型電子顕微鏡写真である。スケールバーは0.1μmである。
【図7】実施例3で作製した粒子の分散液をMRI撮像して得られたT1強調画像である。
【図8】実施例3で作製した粒子の分散液をMRI撮像して得られたT2強調画像である。
【図9】実施例5で作製した粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
【図10】実施例5で作製した粒子のXRDパターンを示す図である。
【図11】実施例5で作製した粒子の動的光散乱式粒度分布測定の結果を示す図である。
【図12】実施例5で作製した粒子とデキストランのの赤外スペクトルを示す図である。
【図13】実施例5で作製した粒子の縦緩和時間T1と横緩和時間T2を測定した結果を示す図である。
【図14】実施例5で作製した粒子のSQUID(磁化率)を測定した結果を示す図である。
【図15】実施例5で作製した粒子のスピンエコー法T1強調画像である。
【図16】実施例5で作製した粒子のスピンエコー法T2強調画像である。
【図17】実施例5で作製した粒子を投与したVX2担癌ウサギのT1強調画像である。
【図18】Magnevist(登録商標)を投与したVX2担癌ウサギのT1強調画像である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される化合物又はその水和物で構成された粒子から成るMRIプローブ。
AmBn (1)
(ただし、AはLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Y、Mn、Cr、Fe、Co、Ni及びCuから成る群より選ばれる少なくとも1種の金属のイオンを表し、Bはリン酸イオン、スルホン酸イオン、カルボン酸イオン、ホウ酸イオン、クエン酸イオン、硝酸イオン及びハロゲン化物イオンから成る群より選ばれる少なくとも1種の陰イオンを表し、m及びnは互いに独立して正の数を表す)。
【請求項2】
前記m及びnは互いに独立してそれぞれ0.5〜2.0の数を表す請求項1記載のMRIプローブ。
【請求項3】
前記AがGdイオンであり、前記Bがリン酸イオンである請求項1又は2記載のMRIプローブ。
【請求項4】
前記粒子の平均粒径が0.3nm以上5000nm以下である請求項1ないし3のいずれか1項に記載のMRIプローブ。
【請求項5】
前記粒子の平均粒径が0.5nm以上500nm以下である請求項4記載のMRIプローブ。
【請求項6】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の粒子を、親水性物質でコーティングした粒子から成るMRIプローブ。
【請求項7】
前記親水性物質が多糖類である請求項6記載のMRIプローブ。
【請求項8】
前記多糖類がデキストランである請求項7記載のMRIプローブ。
【請求項9】
前記コーティング後の粒子の平均粒径が0.3nm以上500nm以下である請求項6ないし8のいずれか1項に記載のMRIプローブ。
【請求項10】
前記コーティング後の粒子の平均粒径が0.5nm以上500nm以下である請求項9記載のMRIプローブ。
【請求項1】
下記一般式(1)で示される化合物又はその水和物で構成された粒子から成るMRIプローブ。
AmBn (1)
(ただし、AはLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Y、Mn、Cr、Fe、Co、Ni及びCuから成る群より選ばれる少なくとも1種の金属のイオンを表し、Bはリン酸イオン、スルホン酸イオン、カルボン酸イオン、ホウ酸イオン、クエン酸イオン、硝酸イオン及びハロゲン化物イオンから成る群より選ばれる少なくとも1種の陰イオンを表し、m及びnは互いに独立して正の数を表す)。
【請求項2】
前記m及びnは互いに独立してそれぞれ0.5〜2.0の数を表す請求項1記載のMRIプローブ。
【請求項3】
前記AがGdイオンであり、前記Bがリン酸イオンである請求項1又は2記載のMRIプローブ。
【請求項4】
前記粒子の平均粒径が0.3nm以上5000nm以下である請求項1ないし3のいずれか1項に記載のMRIプローブ。
【請求項5】
前記粒子の平均粒径が0.5nm以上500nm以下である請求項4記載のMRIプローブ。
【請求項6】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の粒子を、親水性物質でコーティングした粒子から成るMRIプローブ。
【請求項7】
前記親水性物質が多糖類である請求項6記載のMRIプローブ。
【請求項8】
前記多糖類がデキストランである請求項7記載のMRIプローブ。
【請求項9】
前記コーティング後の粒子の平均粒径が0.3nm以上500nm以下である請求項6ないし8のいずれか1項に記載のMRIプローブ。
【請求項10】
前記コーティング後の粒子の平均粒径が0.5nm以上500nm以下である請求項9記載のMRIプローブ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2008−37856(P2008−37856A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−293310(P2006−293310)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]