説明

Mg−Co系合金及びその製造方法

【課題】 実用温度においても水素吸蔵および水素放出を行い得るMg−Co系合金およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 体心立方結晶構造を構成するMg−Co系金属間化合物を含有するMg−Co系合金であって、上記体心立方結晶構造中に、Pd及びCuの少なくとも一方を更に含有して成ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水素吸蔵合金として使用可能なMg−Co(マグネシウム−コバルト)系合金、及びかかる合金を製造する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、いわゆる水素吸蔵合金は、水素ガス中で、ガス圧を上げるか又は温度を下げると発熱を伴って水素を吸蔵し、逆にガス圧を下げるか又は温度を上げると吸熱を伴って水素を放出する特性を一般に有しており、水素の吸蔵と放出とを可逆的に行えることから、水素の貯蔵および輸送用途に加えて、高機能材料として、種々のエネルギ貯蔵・変換システムに利用されつつある。
【0003】
そして、特に近年では、新たな水素吸蔵合金の研究開発が活発に行われ、多種多様なものが提案されている。
例えば、特許文献1には、Mg−Ni−Ti系の水素吸蔵合金が開示されている。また、例えば、特許文献1には、Mg−Xa−Vb系合金(a及びbは、0.2≦a≦5及び0.2≦b≦5であり、Xは、Cr,Mn,Fe,Co,Cu及びNiから成る群から選択される1又は2以上の金属である)の組成の体心立方格子構造を有する水素吸蔵合金が開示されている。この場合には、Mg系3元合金を構成する元素の一つとして、Mg(マグネシウム)以外にV(バナジウム)が必ず添加される。
【0004】
しかしながら、本願発明者は、上述のような従来の合金では、水素吸蔵量(合金に対する質量比)を高めるに限度があると判断し、今までにない新規な軽量合金を作り出すべく、鋭意、研究を重ねた結果、MgとTiとを所謂メカニカルアロイング法により合金化することにより、従来のMg−Ti系状態図には存在しない体心立方構造を有する新規な相(Mg−Ti系金属間化合物)を生成することができ、この金属間化合物の金属結晶の格子間位置に水素原子が侵入・固溶することで、水素吸蔵を行える可能性(理論的には、5.5質量%以上の水素吸蔵量)があることを見出し、かかる金属間化合物を有するMg−Ti系合金を特許文献3において提案した。
【特許文献1】特開2000−219927号公報
【特許文献2】特開2002−241884号公報
【特許文献3】特開2003−253360号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
更に、本願発明者は、上記Mg−Ti系金属間化合物の格子定数(0.34nm)が、体心立方構造を有するV(バナジウム)を含有する合金の格子定数に比して大きいことに着目し、Mg−Ti系金属間化合物のTi(チタン)を、より原子半径が小さいCo(コバルト)に置き換えれば、格子定数をより小さくできると考え、Mg−Ti系合金と同様に、MgとCoとをメカニカルアロイング法により合金化することにより、従来のMg−Co系状態図には存在しない体心立方構造を有する新規な相(Mg−Co系金属間化合物)を生成でき、上記Mg−Ti系合金と同等またはそれ以上の水素吸蔵が可能な軽量合金が得られることを見出し、かかる金属間化合物を有するMg−Co系合金について、特許出願を行った(特願2003−140900号参照)。
【0006】
しかしながら、従来のMg系合金では、水素吸蔵放出温度が約523K以上であり、実用温度(約373K以下)よりもかなり高く、上述のMg−Co系合金においても、373Kの温度条件下では、水素吸蔵能力は発現するものの、水素放出能力が十分に発現しない、などの難点があった。
【0007】
この発明は、かかる技術的課題に鑑みてなされたもので、実用温度においても水素吸蔵および水素放出を行い得るMg−Co系合金およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
そこで、本願発明者は、水素吸蔵放出特性を向上させるべく、新規な構造を有するMg−Co系合金の開発に取り組む中で、Mg−Co二元系合金のCoの一部を第3の元素で置き換え、Mg−Co−X系合金とすることで、水素吸蔵放出特性の向上を図ることを着想した。そして、鋭意、研究開発を重ねた結果、第3の元素としてPd(パラジウム)或いはCu(銅)を用い、これら元素でMg−Co二元系合金のCoの一部を置換することにより、実用温度条件下でも水素放出能力が発現することを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願請求項1の発明(以下、第1の発明という)に係るMg−Co系合金は、体心立方結晶構造を構成するMg−Co系金属間化合物を含有するMg−Co系合金であって、上記体心立方結晶構造中に、Pd及びCuの少なくとも一方を更に含有して成ることを特徴としたものである。
【0010】
ここに、「Mg−Co系金属間化合物」とは、Mg原子とCo原子とが結合した化合物であって、固有の結晶構造を有するものを言う。そして、このMg−Co系金属間化合物の体心立方構造は、結晶格子の4隅にMgかCoの何れか一方が配位し、それら4つの原子の中心に他方の元素の原子が配位したCsCl(塩化セシウム)型構造か、結晶格子の4隅と中心にそれらの元素の原子がランダムに配位したW(タングステン)型構造の何れか一方である。金属間化合物が何れの結晶構造をとる場合であっても、金属結晶の格子間位置にH(水素)原子が侵入・固溶することにより、水素吸蔵能力を発現する。
【0011】
また、本願請求項2の発明(以下、第2の発明という)は、上記第1の発明において、上記金属間化合物は式Mg50Co50−xPdで表され、この式中のxの値は0<x<14の範囲に設定されていることを特徴としたものである。
【0012】
ここに、上記式中のxの値を0<x<14の範囲としたのは、xが0であれば、Mg−Co二元系合金のままであるので実用温度下での水素放出が期待し難いからであり、一方、xが14以上になると、やはり実用温度下で水素放出特性が得難くなるからである。
【0013】
更に、本願請求項3の発明(以下、第3の発明という)は、上記第1の発明において、上記金属間化合物は式Mg50Co50−xCuで表され、この式中のxの値は0<x<10の範囲に設定されていることを特徴としたものである。
【0014】
ここに、上記式中のxの値を0<x<10の範囲としたのは、xが0であれば、Mg−Co二元系合金のままであるので実用温度下での水素放出が期待し難いからであり、一方、xが10以上になると、やはり実用温度下で水素放出特性が得難くなるからである。
【0015】
また、更に、本願請求項4の発明(以下、第4の発明という)に係るMg−Co系合金の製造方法は、体心立方結晶構造を構成するMg−Co系金属間化合物を含有するMg−Co系合金の製造方法であって、MgとCoとPd及びCuの少なくとも何れか一方と、をメカニカルアロイング法で合金化することにより、上記第1〜第3の発明の何れか一に係るMg−Co系合金を得ることを特徴としたものである。
【0016】
ここに、「メカニカルアロイング法」とは、従来公知のものであり、例えば、ステンレス製円筒型ポットに、合金化する原料金属粉末と所定の大きさのステンレス製ボールとを適量投入し、それらを強制的に撹拌することにより、原料どうしを固相状態のままで合金化する方法である。この撹拌により、原料が、ボールどうしの間またはボールとポット壁面との間に挟まれて、粉砕され、圧縮され、練り合わされることにより、合金化が進む。この合金化のプロセス中に、Mg原子とCo原子とが結合し、体心立方構造を有するMg−Co系金属間化合物が生成するものと考えられる。
従って、MgとCoとをメカニカルアロイング法で合金化することにより、体心立方構造のMg-Co系金属間化合物を含有するMg-Co系合金が容易に得られ、この結果、所要の水素吸蔵能力を有する水素吸蔵合金を低コストで製造することができる。尚、溶解法では、このような金属間化合物の生成は非常に困難である。
【発明の効果】
【0017】
本願の第1の発明によれば、体心立方結晶構造を構成するMg−Co系金属間化合物を含有するMg−Co系合金において、上記体心立方結晶構造中にPd及びCuの少なくとも一方を更に含有させたことにより、従前のMg−Ti系合金等に比して、格子定数がより小さく、理論的な水素吸蔵量が5.5質量%以上と非常に高く、また、機械的特性に優れたMg−Co系の3元系または4元系の合金を得ることができる。
【0018】
また、本願の第2の発明によれば、基本的には、上記第1の発明と同様の効果を奏することができる。特に、Mg−Co系金属間化合物のCoの一部をPdで置換して、式Mg50Co50−xPdで表される(但し、0<x<14)金属間化合物としたことにより、実用温度で水素吸蔵放出能力を有するMg−Co系水素吸蔵合金を得ることができる。
【0019】
更に、本願の第3の発明によれば、基本的には、上記第1の発明と同様の効果を奏することができる。特に、Mg−Co系金属間化合物のCoの一部をCuで置換して、式Mg50Co50−xCuで表される(但し、0<x<10)金属間化合物としたことにより、実用温度で水素吸蔵放出能力を有するMg−Co系水素吸蔵合金を得ることができる。
【0020】
また更に、本願の第4の発明方法によれば、メカニカルアロイング法を採用したことにより、水素吸蔵能力の向上に寄与する体心立方結晶構造を有する、上記第1〜第3の発明の何れか一に係るMg−Co系金属間化合物の含有率が極めて高いMg−Co系合金を、低コストで製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
体心立方結晶構造を有するMg−Co系金属間化合物を含有した本発明に係るMg−Co系合金を得るに際して、まず、Mg−Co系の2元系金属間化合物のCoの一部を第3元素Aで置換して、式Mg50Co50−xで表される3元系のMg−Co系金属間化合物を含有したMg−Co系合金を検討した。
【0022】
上記式中における第3元素Aの含有量の目標値を5及び10重量%とし(つまり、式中のxの値の目標値を5として)、上記第3元素を、B(ボロン),Ni(ニッケル),Fe(鉄),Pd(パラジウム),Cu(銅)とした場合について、試料を調製した。かかる試料合金は、所謂、メカニカルアロイング法にて調製した。
【0023】
すなわち、遊星型ボールミル(Fritsch社製P5型)を用いて、メカニカルアロイング処理を行い、式Mg50Co50−xで表されるMg−Co系金属間化合物を含有する8種類のMg−Co系合金を得た。
メカニカルアロイング法では、ステンレス製円筒型ポットに、Mg粉末,Co粉末および第3元素Aの粉末、所定の大きさのステンレス製ボールを適量投入した。そして、ポット内を密閉状態にして真空引きした後、アルゴンガスをポット内に充填し、このアルゴン雰囲気下で、回転数200rpm,遠心加速度5Gとして、ボールミルを所定時間(メカニカルアロイング時間という)駆動した。このメカニカルアロイング時間は、7.2×10秒間(200時間)とした。
【0024】
以上のようにして得られた各試料について、メカニカルアロイング処理後のICP発光分析を行った。第3元素Aを、B,Ni,Cu,Pdとし、その含有量の目標値を5重量%とした各試料を例にとって、その分析結果を表1に示す。尚、メカニカルアロイング処理中に、ポットの成分であるFeが、0〜3重量%程度混入することが分かった。
【0025】
【表1】

【0026】
次に、上記各試料について、メカニカルアロイング処理後のX線回折測定を行った。
第3元素Aを、B,Ni,Fe,Pdとし、その含有量の目標値を5及び10重量%とした各試料を例にとって、その回折結果をそれぞれ図1〜図4に示す。
第3元素をB,Ni,Pdとした場合には、体心立方結晶構造の相(以下、適宜、「BCC相」と略称する)に起因するピークが見られ、一方、Mg単一相やCo単一相に起因するピークは見られないので、殆どBCC相のみであると考えられる。これに対して、第3元素をFeとした場合には、BCC相に起因するピークが比較的小さく、しかもMg単一相に起因するピークが認められることから、BCC相とMg単一相とが混在した多相構造となっているものと考えられる。
【0027】
また、上記各試料について、上記X線回折結果に基づいた所謂リートベルト解析を行った。第3元素Aを、B,Ni,Fe,Pdとし、その含有量の目標値を5及び10重量%とした各試料を例にとって、その解析結果を表2に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
B(原子半径:0.0920nm)及びNi(原子半径:0.1246nm)は、その原子半径がCo(原子半径:0.1252nm)に比して小さいので、第3元素をB,NiとしてCoの一部を置換した場合には、Mg50Co50−xの格子定数は、Mg−Co系の2元系合金Mg50Co50の格子定数よりも小さくなっている。一方、Fe(原子半径:0.1274nm)は、その原子半径がCoに比して大きいにも拘わらず、Mg50Co50−xFeの格子定数はMg50Co50の格子定数よりも小さくなっている。これは、Mgが完全に合金化しなかったことによるものではないかと推定される。また、Pd(原子半径:0.137nm)は、その原子半径がCoに比して大きいので、Mg50Co50−xPdの格子定数はMg50Co50の格子定数よりも大きくなっている。
【0030】
更に、上記各試料について、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた微細構造の観察及び相の同定を行った。何れの試料についても、TEM像および電子線回折測定により、BCC相の存在が確認された。
【0031】
また更に、上記各試料について熱分析(DSC測定)を行った。
このDSC測定は、4MPaの水素中で、室温から573Kまで温度を上昇させて熱流(ヒートフロー)を測定した後、測定容器内を真空にし、その真空状態で573Kから773Kまで温度を上昇させて熱流測定を行った。
【0032】
Mg50Co45Fe合金の場合を例にとって、DSC測定結果(DSC曲線)の一例を図5に示す。この例では、503Kに水素吸蔵による発熱ピークが認められ、643Kに水素放出による吸熱ピークが観察された。このように、BCC相とMg単一相とが混在したMg50Co45Fe合金の水素放出開始温度は、水素放出による吸熱反応が始まる温度である623Kであると認められる。
【0033】
また更に、上記各試料について、373K(100℃)における水素吸蔵時および水素放出時のPCT測定を行い、PCT線図(圧力・組成・等温線図)を得た。
第3元素Aを、B,Ni,Fe,Pdとし、その含有量の目標値を5及び10重量%とした各試料を例にとって、そのPCT線図をそれぞれ図6〜図9に示す。尚、Mg−Co系の2元系合金Mg50Co50の373Kにおける水素吸蔵量は2.7重量%である。
従って、Coの一部を第3元素で置換した場合、373Kでの水素吸蔵量は減少している。また、Coの一部を第3元素B,Ni,Feで置換した場合には、373Kで水素の放出は認められなかったが、Pdで置換した場合には、約0.25重量%の水素放出が認められた。
【0034】
以上のように、各試料について、ICP発光分析による化学分析、水素吸蔵放出特性評価のためのPCT測定,熱分析(DSC)、及び微細構造解析のためのXRD解析,TEM解析を行い、これらの結果に基づき、Mg−Co系合金の水素放出特性について考察した。
尚、373K以下の実用温度で水素を吸蔵放出可能な体心立方結晶構造を有するMg−V(バナジウム)系合金の格子定数は、0.3020〜0.3040nmである。
【0035】
以上の測定および解析から、Mg−Co系の2元系合金Mg50Co50が、373Kで水素を放出しない理由の一つとして、格子定数(0.3199nm)が大きいことが考えられる。しかしながら、Coの一部をBで置換した3元系合金Mg50Co45の場合には、格子定数が0.3015(7)nmであり、Mg−V系合金の格子定数に非常に近いが、373Kでは水素の放出は認められなかった。
一方、Coの一部をPdで置換した3元系合金Mg50Co50−XPdの場合には、格子定数が0.317nmであり、Mg−V系合金の格子定数に比して大きいが、373Kにおいて水素の放出が認められた。この理由の一つとしては、BCC構造を有するMg系合金は、水素放出の反応速度が非常に遅いためであると推定される。
【0036】
Mg−Co系の2元系合金Mg50Co50に対して、Coの一部を第3元素Aで置換した3元系合金Mg50Co50−Xの水素吸蔵放出特性を検討するに際して、以上のように実用温度(例えば373K)において水素放出が認められなかったB,Ni,Feを除外し、残りの元素Cu及び水素放出が認められたPdを第3元素Aとして用いた合金Mg50Co50−Xについて、メカニカルアロイングによるBCC相生成可能な組成範囲および水素吸蔵放出可能な組成範囲をより詳細に検討した。
【0037】
3元系合金Mg50Co50−X(但し、AはCu又はPd)の検討では、上記式中における第3元素Aの含有量の目標値を、Cuについては、2,5,7,9,10及び15重量%とし(つまり、式中のxの値の目標値を2,5,7,9,10及び15とし)、また、Pdについては、2,5,10,12,14及び15重量%として(つまり、式中のxの値の目標値を2,5,10,12,14及び15として)、試料を調製し、それぞれ試料1〜試料6及び試料7〜試料12を得た。かかる試料合金は、前述のメカニカルアロイング法を用い、同様の条件にて調製した。
【0038】
これら各試料について、メカニカルアロイング処理後のX線回折測定を行った測定結果を、図10及び図11に示す。また、このX線回折結果に基づいて行ったリートベルト解析結果を表3及び表4に示す。
【0039】
【表3】

【0040】
【表4】

【0041】
第3元素AをCuとした場合には、図10に示されるように、X線回折測定においては、Cu含有量が15重量%になっても、BCC相に起因するピークが見られ、一方、Mg相やCo相に起因するピークは見られないので、殆どBCC相のみであると考えられる。また、表3に示されるように、リートベルト解析においても、MgやCo等の金属相の混在は認められず、BCC相のみであると考えられる。
【0042】
これに対して、第3元素AをPdとした場合には、図11及び表4に示されるように、Pd含有量が10重量%までは殆どBCC相のみであると考えられるが、Pd含有量が12重量%になるとBCC相とMg相やPd相の混在が見られ、Pd含有量が14重量%になるとBCC相,Mg相,Pd相に加えてMgCo相の混在が見られる。更に、Pd含有量が15重量%になると、BCC相が消失し、Mg相,Pd相およびMgCo相が混在した構造となる。
【0043】
第3元素AをCuとした場合およびPdとした場合の何れについても、Mg−Co系の2元系合金Mg50Co50(格子定数:0.3199nm)よりも格子定数は小さくなっている。
また、373K以下の実用温度で水素を吸蔵放出可能な体心立方結晶構造を有するMg−V系合金(格子定数:0.3020〜0.3040nm)との比較では、第3元素AをCuとした場合については、Cu含有量が7重量%以下になると、Mg−V系合金よりも格子定数が大きくなる。一方、第3元素AをPdとした場合については、Pd含有量が10重量%以下になると、Mg−V系合金よりも格子定数が大きくなる。
【0044】
更に、上記各試料(試料1〜試料6及び試料7〜試料12)について、373K(100℃)における水素吸蔵時および水素放出時のPCT測定を行い、図12及び図13に示すPCT線図(圧力・組成・等温線図)を得た。
また、このPCT測定結果および上述の微細構造解析結果を、表5及び表6にまとめて示す。
【0045】
【表5】

【0046】
【表6】

【0047】
図12及び表5から分かるように、第3元素AをCuとした場合(3元系合金Mg50Co50−XCu)については、Cu含有量が15重量%(x=15)になってもBCC相を形成し水素吸蔵を行い、また、Cu含有量が9重量%(x=9)までは水素放出も行う。しかし、Cu含有量が10重量%(x=10)以上になると、水素放出を行わなくなる。尚、Cu含有量が0(x=0)でMg−Co二元系合金のままでは、実用温度下での水素放出が期待し難いことは前述の通りである。
【0048】
従って、Mg−Co系の3元系合金Mg50Co50−XCuにおけるxの値の範囲としては、3元系合金を構成し、且つ、実用温度373Kにおいて水素吸蔵および水素放出を行い得る範囲として、0<x<10に設定すれば良い。
【0049】
また、図13及び表6から分かるように、第3元素AをPdとした場合(3元系合金Mg50Co50−XPd)については、Pd含有量が14重量%(x=14)まではBCC相を形成し水素吸蔵を行い、また、Pd含有量が12重量%(x=12)までは水素放出も行う。しかし、Pd含有量が14重量%(x=14)以上になると、水素放出を行わなくなる。尚、Pd含有量が0(x=0)でMg−Co二元系合金のままでは、実用温度下での水素放出が期待し難いことは前述の通りである。
【0050】
従って、Mg−Co系の3元系合金Mg50Co50−XPdにおけるxの値の範囲としては、3元系合金を構成し、且つ、実用温度373Kにおいて水素吸蔵および水素放出を行い得る範囲として、0<x<14に設定すれば良い。
【0051】
以上、説明したように、本実施形態によれば、体心立方結晶構造を構成するMg−Co系金属間化合物を含有するMg−Co系合金において、上記体心立方結晶構造中にPd又はCuを更に含有させたことにより、従前のMg−Ti系合金等に比して、格子定数がより小さく、理論的な水素吸蔵量が5.5質量%以上と非常に高く、また、機械的特性に優れたMg−Co系の3元系の合金を得ることができる。
【0052】
特に、Mg−Co系金属間化合物について、そのCoの一部をPdで置換して、式Mg50Co50−xPdで表される(但し、0<x<14)金属間化合物としたことにより、或いは、Coの一部をCuで置換して、式Mg50Co50−xCuで表される(但し、0<x<10)金属間化合物としたことにより、実用温度で水素吸蔵放出能力を有するMg−Co系水素吸蔵合金を得ることができるのである。
【0053】
また特に、これらの合金を得るに際して、メカニカルアロイング法を採用したことにより、水素吸蔵能力の向上に寄与する体心立方結晶構造を有するMg−Co系金属間化合物の含有率が極めて高いMg−Co系合金を、低コストで製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、水素吸蔵合金として使用可能なMg−Co系合金、及びかかる合金を製造する製造方法に関し、実用温度においても水素吸蔵および水素放出を行い得るMg−Co系合金およびその製造方法を提供するもので、水素の貯蔵および輸送用途、更には種々のエネルギ貯蔵・変換システムに利用可能である。
【0055】
尚、以上の実施形態では、Mg−Co系金属間化合物について、そのCoの一部をPd又はCuで置換して、3元系のMg−Co系金属間化合物としたものであったが、Coの一部をPd及びCuの両元素で置換して、4元系のMg−Co系金属間化合物とすることも可能である。
このように、本発明は、以上の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々の変更あるいは修正が行いうるものであることは、言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】メカニカルアロイング処理により得られたMg50Co50−x合金のX線回折図である。
【図2】メカニカルアロイング処理により得られたMg50Co50−xNi合金のX線回折図である。
【図3】メカニカルアロイング処理により得られたMg50Co50−xFe合金のX線回折図である。
【図4】メカニカルアロイング処理により得られたMg50Co50−xPd合金のX線回折図である。
【図5】メカニカルアロイング処理により得られたMg50Co45Fe合金のDSC特性を示す線図である。
【図6】上記Mg50Co50−x合金の373Kにおける水素吸蔵時および水素放出時のPCT線図である。
【図7】上記Mg50Co50−xNi合金の373Kにおける水素吸蔵時および水素放出時のPCT線図である。
【図8】上記Mg50Co50−xFe合金の373Kにおける水素吸蔵時および水素放出時のPCT線図である。
【図9】上記Mg50Co50−xPd合金の373Kにおける水素吸蔵時および水素放出時のPCT線図である。
【図10】メカニカルアロイング処理により得られたMg50Co50−xCu合金(x=2〜15)のX線回折図である。
【図11】メカニカルアロイング処理により得られたMg50Co50−xPd合金(x=2〜15)のX線回折図である。
【図12】上記Mg50Co50−xCu合金(x=2〜15)の373Kにおける水素吸蔵時および水素放出時のPCT線図である。
【図13】上記Mg50Co50−xPd合金(x=2〜15)の373Kにおける水素吸蔵時および水素放出時のPCT線図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体心立方結晶構造を構成するMg−Co系金属間化合物を含有するMg−Co系合金であって、
上記体心立方結晶構造中に、Pd及びCuの少なくとも一方を更に含有して成ることを特徴とするMg−Co系合金。
【請求項2】
上記金属間化合物は式Mg50Co50−xPdで表され、この式中のxの値は0<x<14の範囲に設定されていることを特徴とする請求項1記載のMg−Co系合金。
【請求項3】
上記金属間化合物は式Mg50Co50−xCuで表され、この式中のxの値は0<x<10の範囲に設定されていることを特徴とする請求項1記載のMg−Co系合金。
【請求項4】
体心立方結晶構造を構成するMg−Co系金属間化合物を含有するMg−Co系合金の製造方法であって、
MgとCoとPd及びCuの少なくとも一方と、をメカニカルアロイング法で合金化することにより、請求項1〜3の何れか一に記載のMg−Co系合金を得ることを特徴とするMg−Co系合金の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−70334(P2006−70334A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−256636(P2004−256636)
【出願日】平成16年9月3日(2004.9.3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成16年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「水素安全利用等基盤技術開発−水素に関する共通基盤技術開発−高容量水素吸蔵合金と貯蔵タンクの開発」に係る委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】