説明

MgIn2O4の製造方法およびMgIn2O4材料

【課題】より簡便な方法で、波長が400nm以上の可視光領域において、有機物の分解を有意に行うことが可能な、MgIn材料を製造するための方法を提供することを目的とする。
【解決手段】MgInの製造方法であって、(1)MgCOおよびInCOを、MgCOとInCOのモル比が1.05:1.0〜1.2:1.0の間の範囲になるように混合して、混合物を得るステップと、(2)前記混合物を800℃〜1000℃の温度範囲で、6時間以上焼成して、第1の焼成体を得るステップと、(3)前記第1の焼成体を、1300℃〜1450℃の温度範囲で、12時間〜24時間焼成して、MgInを得るステップと、を有する製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒材料に関し、特に、可視光で作動する光触媒材料に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、地球上では、二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスの増加に伴う温暖化や、窒素酸化物による酸性雨、ハロンなどのフロンガスによるオゾンホールの拡大など、様々な有害化学物質による環境汚染が進んでおり、大きな問題となっている。特に有機物は、このような有害化学物質のうちの多くの割合を占め、有機物の浄化が大きな課題となっている。
【0003】
そこで、このような有機物を、光触媒を使用して分解することが検討されている。光触媒は、バンドギャップエネルギーを超える光エネルギーを吸収した際に、励起電子(価電子帯から伝導帯に励起した電子)、およびこの電子に対応する正孔を生成する。従って、この励起電子および/または正孔で有機物を還元/酸化することにより、有機物を分解することができる。
【0004】
このような光触媒の代表的な例は、二酸化チタン(TiO)であり、この材料は、波長が約380nm〜約390nm以下の光を吸収して、光触媒特性を示すことが知られている(例えば、非特許文献1)。
【0005】
しかしながら、二酸化チタン(TiO)が光触媒作用を発揮するようになる光の波長は、紫外線領域に近く、可視光領域(約360nm〜約830nm)の光は、ごく僅かしか使用できない。換言すれば、二酸化チタン(TiO)を使用して、有機物を分解する際に、可視光を利用した場合、有機物の分解効率が極めて効率が悪くなるという問題がある。従って、実際には、二酸化チタン(TiO)を使用して有機物を分解する場合、紫外線領域の光を光触媒に照射する必要がある。しかしながら、紫外線領域の光の使用する方法では、可視光を使用する方法に比べて、煩雑な操作が必要となり、装置が複雑化し、有機物の分解処理コストが上昇するという問題がある。また、紫外線の使用は、安全面でも問題がある。
【0006】
一方、最近では、光触媒材料として、CaIn、SrIn、およびBaInを使用することにより、可視光領域で、より有効に有機物の分解が生じ得ることが報告されている(非特許文献2)。
【0007】
また、これまで、インジウムスズ酸化物(ITO)に代わる透明電子伝導体として、MgIn材料を合成することに関する文献がある(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「可視光応答型光触媒開発の最前線」、発行所NTS、2002年
【非特許文献2】J.Tang,Z.Zou,M.Katagiri,T.Kako,Y.Ye,Catalysis Today,93−95,885−889頁,2004年
【非特許文献3】Naoyuki Ueda,Takahisa Omata,Naoko Hikuma,Kazushige Ueda,Hiroshi MIzoguchi,Takuya Hashimoto,Hiroshi Kawazoe,"New oxide phase with wide band gap and high electroconductivity,MgIn2O4",Appl.Phys.Lett.,61巻,(16),19,Oct.1992
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前述の非特許文献3では、原料粉を800℃で16時間一次熱処理した後、さらに1400℃で、72時間以上保持しなければ、MgInを合成することはできない。また、この文献は、インジウムスズ酸化物(ITO)に代わる透明電子伝導体材料の探索を主眼としている。このため、この方法で得られたMgIn材料が、可視光領域(約360nm〜約830nm)、特に、波長が400nm以上の可視光領域において、光触媒特性を示すかどうかは不明である。
【0010】
従って、波長が400nm以上の可視光領域において、良好な光触媒特性を示すMgInを、より簡便な方法で合成する方法が、今もなお必要となっている。
【0011】
本発明は、このような問題に鑑みなされたものであり、本発明では、より簡便な方法で、波長が400nm以上の可視光領域において、有機物の分解を有意に行うことが可能な、MgIn材料を製造するための方法を提供することを目的とする。また、波長が400nm以上の可視光領域において、有機物の分解を有意に行うことが可能な、MgIn材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明では、MgInの製造方法であって、
(1)MgCOおよびInCOを、MgCOとInCOのモル比が1.05:1.0〜1.2:1.0の間の範囲になるように混合して、混合物を得るステップと、
(2)前記混合物を800℃〜1000℃の温度範囲で、6時間以上焼成して、第1の焼成体を得るステップと、
(3)前記第1の焼成体を、1300℃〜1450℃の温度範囲で、12時間〜24時間焼成して、MgInを得るステップと、
を有する製造方法が提供される。
【0013】
ここで、本発明による方法において、前記ステップ(2)は、前記混合物を850℃〜950℃の温度範囲で、6時間〜12時間焼成して、第1の焼成体を得るステップであっても良い。
【0014】
また本発明による方法において、前記ステップ(3)は、前記第1の焼成体を、1350℃〜1450℃の温度範囲で、12時間〜24時間焼成して、MgInを得るステップであっても良い。
【0015】
また本発明による方法において、
前記MgInは、量子収率F(%)を
【0016】
【数1】

で表したとき、
波長が400nm〜490nmの範囲の可視光の照射により、メチレンブルー試薬の分解に対して、0.02%以上の量子収率が得られても良い:
ここで、Np(個)は、前記可視光に含まれる光子の数であり、n(個)は、前記メチレンブルー試薬の分解された分子数である。
【0017】
さらに、本発明では、量子収率F(%)を
【0018】
【数2】

で表したとき、
波長が400nm〜490nmの範囲の可視光の照射により、メチレンブルー試薬の分解に対して、0.02%以上の量子収率が得られることを特徴とするMgIn材料が提供される:
ここで、Np(個)は、前記可視光に含まれる光子の数であり、n(個)は、前記メチレンブルー試薬の分解された分子数である。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、より簡便な方法で、波長が400nm以上の可視光領域において、有機物の分解を有意に行うことが可能な、MgIn材料を製造するための方法を提供することができる。また、波長が400nm以上の可視光領域において、有機物の分解を有意に行うことが可能な、MgIn材料を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明によるMgInの製造方法のフローの一例を概略的に示した図である。
【図2】実施例1に係る試料サンプルのX線回折測定結果を、MgInの標準ピークと合わせて示した図である。
【図3】メチレンブルー試薬の吸収スペクトルの一例を示した図である。
【図4】サンプルの光触媒特性を評価するための試験装置を概略的に示した図である。
【図5】Hg−Xe光源から放射される光のスペクトルを示した図である。
【図6】サンプルの光触媒特性を評価するための別の試験装置を概略的に示した図である。
【図7】実施例1に係る試料サンプルの連続光照射試験における測定結果を示した図である。
【図8】実施例1に係る試料サンプルの光照射試験の途中で、光照射を中断させ、その後再度光照射を開始した際の試験結果を示した図である。
【図9】メチレンブルー試薬の濃度Mと吸光度Aの関係を示したグラフである。
【図10】比較例1に係る試料サンプルのX線回折測定結果を、Inの標準ピークと合わせて示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について、詳しく説明する。
【0022】
前述のように、光触媒の代表的な材料である二酸化チタン(TiO)は、紫外線領域に近い波長(約380nm以下)の光でなければ、光触媒特性を発揮しない。従って、通常の場合、二酸化チタン(TiO)に照射される励起光線には、紫外線が使用される。しかしながら、このような紫外線領域の光の使用する方法では、可視光を使用する方法に比べて、煩雑な操作が必要となり、装置が複雑化し、有機物の分解処理コストが上昇するという問題がある。また、紫外線の使用は、安全面でも問題がある。
【0023】
一方、最近では、光触媒材料として、CaIn、SrIn、およびBaInを使用することにより、可視光領域で、有機物の分解が生じ得ることが報告されている(非特許文献2)。しかしながら、この文献には、MgIn材料に関する記載は、ない。
【0024】
一方、別の文献には、高温でMgCOとInの混合物を焼成することにより、MgIn材料が得られたことが示されている(非特許文献3)。しかしながら、この方法では、原材料を800℃で16時間一次熱処理した後、さらに1400℃で、72時間以上保持しなければ、MgInを合成することはできない。すなわち、この方法は、1400℃という高温で、72時間、すなわち3日以上、原材料を高温焼成する必要があり、材料の合成方法としては、あまり効率的な方法ではない。また、この方法で得られたMgIn材料が、可視光領域(約360nm〜約830nm)、特に、波長が400nm以上の可視光領域において、良好な光触媒特性を示すかどうかは不明である。
【0025】
このような背景の下、本願発明者らは、波長が400nm以上の可視光領域において、良好な光触媒特性を示す材料について、鋭意研究開発を進めてきた。そして、光触媒材料として、特徴的かつ斬新な方法で製作されたMgInを使用した場合、波長が400nm以上の可視光領域において、有機物の分解が生じ得ることを見出し、本願発明に至った。
【0026】
すなわち、本発明では、
MgInの製造方法であって、
(1)MgCOおよびInCOを、MgCOとInCOのモル比が1.05:1.0〜1.2:1.0の間の範囲になるように混合して、混合物を得るステップと、
(2)前記混合物を800℃〜1000℃の温度範囲で、6時間以上焼成して、第1の焼成体を得るステップと、
(3)前記第1の焼成体を、1300℃〜1450℃の温度範囲で、12時間〜24時間焼成して、MgInを得るステップと、
を有する製造方法が提供される。
【0027】
本発明による方法では、ステップ(3)における焼成時間は、24時間(すなわち最大1日)以内である。従って、本発明による方法では、従来に比べて、より簡便に、MgInを製造することができる。
【0028】
また、本発明により製造されたMgInは、以降に詳しく示すように、波長が400nm以上の可視光領域においても、十分な光触媒特性を示す。従って、本発明により製造されたMgInは、可視光領域の光を使用した、有機物の分解用の光触媒として使用することができる。
【0029】
なお、本発明による方法を採用したときに、従来に比べて、より簡便に、MgInを製造することができる明確な理由については、今のところ不明である。
【0030】
しかしながら、分析の結果によれば、ステップ(2)の直後の段階では、まだMgInは、生成されていないと考えられることから、本発明による方法の効果として、以下のことが考察される。
【0031】
本発明による方法では、原料として、MgCOおよびInCOを利用する。この際、本発明による方法では、MgCOおよびInCOを、MgCOとInCOのモル比が1.05:1.0〜1.2:1.0の間の範囲になるように混合して、混合物を得る。また、本発明による方法は、この混合物を高温で反応させるステップ、すなわちステップ(3)の前に、より低い温度で、MgCOおよびInCOを熱処理を行うステップ(2)を有する。
【0032】
従って、本発明では、モル比でより多く含まれるMgCOと、InCOとを含む混合物に対して、このステップ(2)を介在させることにより、以降のステップ(3)において、両者の間の反応が促進されている可能性がある。
【0033】
例えば、ステップ(2)において、MgCO(の少なくとも一部)が酸化物に変化することが考えられる。この場合、MgCOとInCOの混合物において、MgCOの割合が多いほど、より多くのMgCOが分解して、酸化物に変化する。従って、以降のステップ(3)での反応は、MgCOが分解して酸化物に変化するために必要なエネルギーが減少するため、投入されたエネルギーが、より優先的に酸化物同士の焼結反応に有効に利用されるようになることが考えられる。
【0034】
あるいはステップ(2)の熱処理において、MgCOとInCO混合物において、より多く含まれるMgCOが分解し、COが生じやすい状態となり、これにより、その後の複合酸化物の生成反応が容易化されることも考えられる。
【0035】
なお、以上の記載は、現在存在する測定結果等を利用した考察に基づくものであり、本発明による方法を実施した際に、その他の機構により、MgInが生成されても良い。すなわち、MgInの実際の生成機構は、本発明の範囲には、何ら影響しないことに留意する必要がある。
【0036】
図1には、本発明によるMgInの製造方法のフローの一例を模式的に示す。図1に示すように、本発明によるMgInの製造方法は、少なくとも、
(1)MgCOおよびInCOを、MgCOとInCOのモル比が1.05:1.0〜1.2:1.0の間の範囲になるように混合して、混合物を得るステップと、
(2)前記混合物を800℃〜1000℃の温度範囲で、6時間以上焼成して、第1の焼成体を得るステップ(S120)と、
(3)前記第1の焼成体を、1300℃〜1450℃の温度範囲で、12時間〜24時間焼成して、MgInを得るステップ(S130)と、
を有する。以下、各ステップについて、説明する。
【0037】
(ステップS110)
まず最初に、原料となるMgCOと、InCOとが混合される。これらの原料は、粉末状態であっても、その他の状態であっても良い。
【0038】
ここで、MgCOとInCOの混合割合は、モル比で、幾分MgCOが多くなるように調製される。すなわち、MgCOとInCOのモル比は、1.05:1.0〜1.2:1.0の間の範囲にあり、両者のモル比は、例えば、1.1:1.0であっても良い。
【0039】
また、このステップS110において、混合を容易にするため、分散剤が使用されても良い。分散剤は、特に限られないが、例えば、エタノール等のアルコール、または水等が使用される。
【0040】
(ステップS120)
次に、前記混合物は、大気中で、800℃〜1000℃の温度範囲で、6時間以上、焼成される(第1の焼成)。この第1の焼成の温度は、特に、850℃〜950℃の範囲であることが好ましい。また、第1の焼成の時間は、6時間〜12時間の範囲であることが好ましい。
【0041】
これにより、MgCOの一部または全部が酸化物に変化し、あるいはこれらの化合物において、COが発生して、MgCOが分解されやすい状態となる。ただし、分析の結果によれば、このステップでは、まだ十分な量のMgInは、生成されていないものと思われる。
【0042】
第1の焼成後に、焼成体は、炉冷等により冷却される。
【0043】
その後、得られたサンプルは、粉砕されても良い。これにより、最終的に得られる材料の均一性がより一層、高まる。
【0044】
(ステップS130)
次に、得られた焼成体は、1300℃〜1450℃の温度範囲で、6時間以上焼成される(第2の焼成)。
【0045】
この第2の焼成の温度は、特に、1350℃〜1450℃の範囲であることが好ましい。また、第2の焼成の時間は、12時間〜24時間の範囲であることが好ましい。
【0046】
その後、焼成体は、炉冷等により冷却される。
【0047】
以上の工程を経て、本発明によるMgIn化合物を得ることができる。
【0048】
以下、本発明による実施例について、説明する。
【実施例】
【0049】
(実施例1)
(試料サンプルの合成)
まず、MgCOの粉末(純度99%、和光純薬株式会社製)とInCOの粉末(純度99.99%、ニラコ株式会社製)とを、エタノール中で混合した。MgCOのInCOのモル比は、1.1:1.0とした。
【0050】
次に、混合試料を約80℃の乾燥機(ISUZU DRYING OVEN MODEL 2−2045)中に入れ、5時間保持し、混合試料を乾燥させた。さらに、乾燥混合試料を粉砕して、ペレットを調製した。
【0051】
次に、このペレットを、電気炉(YAMATO FO510)内に入れ、大気下、約900℃で12時間焼成した(第1の焼成)。
【0052】
得られた焼成体を、室温まで冷却し、再度粉砕した後、この粉末を、電気炉(TSR−430、ヤマダ電機株式会社)内に入れ、大気下、約1400℃で24時間焼成した(第2の焼成)。得られた試料サンプルは、赤みのあるグレー色であった。このサンプルを、実施例1に係る試料サンプルと称する。
【0053】
(分析結果)
実施例1に係る試料サンプルを用いて、X線回折測定を行った。得られた回折ピークを図2に示す。図2において、上段は、測定結果であり、下段は、MgInの標準回折ピークである。試料サンプルの回折ピークは、MgInの標準回折ピークに一致することがわかる。
【0054】
(光触媒特性の評価)
実施例1に係る試料サンプルを用いて、有機物の分解試験を行い、実施例1に係る試料サンプルの光触媒特性を評価した。
【0055】
有機物には、以下の分子構造で表される、メチレンブルー(C1618S・Cl)試薬(MERCK株式会社)を使用した。
【0056】
【化1】

図3には、メチレンブルー試薬の吸収スペクトルの一例を示す。メチレンブルーの最大吸収強度が得られる波長は、約660nm〜665nmの範囲である。
【0057】
有機物の分解試験には、図4に示す試験装置100を使用した。
【0058】
試験装置100は、光源120と、赤外光遮断フィルタ130と、紫外光遮断フィルタ140と、プラスチックセル160とを有する。
【0059】
光源120には、水銀キセノン(Hg−Xe)ランプ(浜松ホトニクス社製)を使用した。光源の定格電圧/電流は、約20〜30kV/7.5Aである。図5には、光源120によって放射される光のスペクトルを示す。この光源120から放射される光は、紫外線領域から赤外線領域までの、幅広い波長を有する。また、特に、波長約405nm、約450nm、約550nm、および約580nmの4領域に、大きなピークを有する。
【0060】
赤外光遮断フィルタ130には、Edmund社製のCOMMERICAL IRカットフィルタを使用した。赤外光遮断フィルタ130は、光源120から放射される光の波長のうち、赤外線領域の波長(約830nm以上の波長)を遮断することができる。
【0061】
紫外光遮断フィルタ140には、縦10cm×横10cm×厚さ5mmのアクリル板を使用した。紫外光遮断フィルタ140は、赤外光遮断フィルタ130を通過した光のうち、紫外線領域の波長(約380nm以下の波長)を遮断することができる。従って、プラスチックセル160に照射される光は、400nm〜830nmの範囲の波長のみを有する。
【0062】
プラスチックセル160は、縦10mm×横10mm×高さ45mmの外寸法であり、肉厚が1mmのものを使用した。プラスチックセル160の底部には、前述の方法で作製した実施例1に係るMgInの試料サンプル170を0.1g敷き詰めた。また、プラスチックセル160の内部には、濃度が1.0×10−5mol/lのメチレンブルー試薬180を、約3.6ml充填した。試料サンプル170の光照射面積は、81mmである。
【0063】
光源120から、プラスチックセル160までの距離は、11cmとした。光源120のパワーは、7.0mWとした。
【0064】
また、別の構成として、図6に示すような試験装置200を使用した。この試験装置200は、前述の試験装置100と同様の構成である。ただし、試験装置200は、さらに、紫外光遮断フィルタ140とプラスチックセル160との間に、バンドパスフィルタ150を備える。
【0065】
バンドパスフィルタ150には、Edmund社製のCOM狭帯域干渉フィルタ(商品番号43104、および43116)を使用した。バンドパスフィルタ150は、紫外光遮断フィルタ140を通過した光のうち、特定の選定波長を有する光のみを、プラスチックセル160の方に通過させることができる。例えば、商品番号43104のバンドパスフィルタの場合、波長405nmの光のみを通過させることができる。また、商品番号43116のバンドパスフィルタの場合、波長488nmの光のみを通過させることができる。
【0066】
なお、試験装置200を使用した場合、プラスチックセル160、すなわち試料サンプル170に照射される光のパワーPは、波長が405nmの場合、0.414mW/cmであった。一方、波長が488nmの場合、試料サンプル170に照射される光のパワーPは、0.796mW/cmであった。
【0067】
このような試験装置100または200を用いて、プラスチックセル160の上部から、試料サンプル170に光を照射した。試料サンプル170は、実質的に、長手方向が光源220の方を向くようにして配置した(図4および図6参照)。なお、実験は、暗室で行った。
【0068】
図7および図8には、試験装置100を用いて得られた光照射試験の結果を示す。すなわち、この試験結果は、試料サンプルに、波長が400nm〜830nmの範囲の光を照射したときの結果である。図7および図8において、横軸は、照射時間(Hour)であり、縦軸は、メチレンブルー試薬の吸光度Aである。図7は、連続光照射試験における結果を示しており、図8は、試験の途中で、光照射を中断させ、その後再度光照射を開始した際の試験結果を示している。
【0069】
図7から、光照射時間の増加に伴い、メチレンブルー試薬の吸光度が低下して行くことがわかる。また、図8から、光を照射しない時間域では、メチレンブルー試薬の吸光度が変化していないことがわかる。これらの結果は、実施例1に係る試料サンプルが、波長400nm〜830nmの範囲の光の照射により、光触媒特性を示すことを示唆するものである。
【0070】
次に、試験装置200を用いて得られた光照射試験の結果をまとめて表1に示す。
【0071】
表1には、波長405nmおよび488nmの各光を連続照射(4.5時間)した後のメチレンブルー試薬の吸光度の減少量ΔAがまとめて示されている。
【0072】
【表1】

なお、この表1には、各波長における分解試験で得られた、メチレンブルー試薬の分解された分子数nd、光子数Np、および量子収率Fの値についても示されている。
【0073】
ここで、量子収率F(%)とは、光触媒に照射された光に含まれる光子1個で分解することのできる有機物分子数を意味する。量子収率は、サンプルの光触媒特性を評価する指標として使用することができる。
【0074】
なお、量子収率F(%)は、以下の手順1〜手順2から算出することができる。
【0075】
(手順I)メチレンブルー試薬の分解に使用された光子の数Npの算出
光子1個あたりのエネルギーE(J)は、cを光速(3.0×10m/s)とし、hをプランク定数(6.626×10−34Js)とし、λを光の波長としたとき、
【0076】
【数3】

で表される。
【0077】
また、実験中に光源からサンプルに照射された全エネルギーはEALL(J)は、Pを光源のパワーとし、tを照射時間としたとき、
【0078】
【数4】

で表される。
【0079】
従って、式(3)、(4)より、実験中にサンプルに照射された光子の数Np(個)は、
【0080】
【数5】

となる。
【0081】
(手順2)メチレンブルー試薬の分解分子数nの算出
一方、実験中に分解されたメチレンブルー試薬の分子数n(個)は、以下の手順により算出することができる。
【0082】
まず、メチレンブルー試薬の分子数n(個)と吸光度Aの関係を算出する。
【0083】
メチレンブルー試薬のモル濃度M(mol/L)は、メチレンブルー試薬の吸光度Aと比例関係にあり、
【0084】
【数6】

で表される。ここで、a((mol/L)−1)は、メチレンブルー試薬の濃度Mと吸光度Aの関係を表す検量線の傾きであり、bは、同じ検量線の切片である。
【0085】
メチレンブルー試薬の体積をv(mL)とすると、メチレンブルー試薬のモル数m(mol)は、
【0086】
【数7】

で求められる。また、メチレンブルー試薬の分子は、1mol当たり、6.02×1023個存在するので、メチレンブルー試薬の分子数n(個)は、
【0087】
【数8】

で表される。
【0088】
式(6)〜式(8)から、メチレンブルー試薬の分子数n(個)は、メチレンブルー試薬の吸光度Aを用いて、
【0089】
【数9】

で表される。
【0090】
従って、実験中に分解されたメチレンブルー試薬の分子数n(個)は、メチレンブルー試薬の吸光度の変化量をΔA(すなわち、光照射前の吸光度A0と、光照射後の吸光度Aの差、ΔA=A0−A)としたとき、
【0091】
【数10】

で表される。
【0092】
よって、式(5)と式(10)から、量子収率F(%)は、
【0093】
【数11】

として算出することができる。
【0094】
なお、表1に示す量子収率F(%)の算出に当たっては、各パラメータの値として、以下のものを使用した:
光の波長λは、405nmまたは488nmのいずれかとした。照射時間tは、16200秒(4.5時間)とした。パワーPの値は、波長λが405nmの場合は、0.414mW/cmとし、波長λが488nmの場合は、0.796mW/cmとした。また、メチレンブルー試薬の濃度Mおよび体積vは、それぞれ、1.0×10−5mol/Lおよび3.6mLとした。
【0095】
図9には、メチレンブルー試薬の濃度Mと吸光度Aの関係を示す。この図から得られた検量線において、傾きaは、0.938×10(mol/L)−1であり、切片bは、−0.0075であった。
【0096】
以上の値を用いて量子収率F(%)を算出したところ、波長405nmの光照射の場合、量子収率F(%)は、0.0452%であり、波長488nmの光照射の場合、量子収率F(%)は、0.0219%であった。
【0097】
(比較例1)
実施例1と同様の方法により、MgInの合成を試みた。ただし比較例1では、混合試料を乾燥後、粉砕して得られたペレットを、電気炉(YAMATO FO510)内に入れ、大気下、約900℃で12時間焼成した(第1の焼成)。また、得られた焼成体を、室温まで冷却し、再度粉砕した後、この粉末を、電気炉(TSR−430、ヤマダ電機株式会社)内に入れ、大気下、約1160℃で60時間焼成した(第2の焼成)。
【0098】
得られた試料サンプルは、黄色であった。このサンプルを、比較例1に係る試料サンプルと称する。
【0099】
図10には、比較例1に係る試料サンプルのX線回折測定結果を示す。図10において、上段は、測定結果であり、下段は、Inの標準回折ピークである。試料サンプルの回折ピークは、Inの標準回折ピークに一致しており、比較例1では、MgInは、生成されていないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は、光触媒の製造方法等に適用することができる。
【符号の説明】
【0101】
100、200 試験装置
120 光源
130 赤外光遮断フィルタ
140 紫外光遮断フィルタ
150 バンドパスフィルタ
160 プラスチックセル
170 サンプル
180 メチレンブルー試薬。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MgInの製造方法であって、
(1)MgCOおよびInCOを、MgCOとInCOのモル比が1.05:1.0〜1.2:1.0の間の範囲になるように混合して、混合物を得るステップと、
(2)前記混合物を800℃〜1000℃の温度範囲で、6時間以上焼成して、第1の焼成体を得るステップと、
(3)前記第1の焼成体を、1300℃〜1450℃の温度範囲で、12時間〜24時間焼成して、MgInを得るステップと、
を有する製造方法。
【請求項2】
前記ステップ(2)は、前記混合物を850℃〜950℃の温度範囲で、6時間〜12時間焼成して、第1の焼成体を得るステップであることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ステップ(3)は、前記第1の焼成体を、1350℃〜1450℃の温度範囲で、12時間〜24時間焼成して、MgInを得るステップであることを特徴とする請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記MgInは、量子収率F(%)を
【数1】

で表したとき、
波長が400nm〜490nmの範囲の可視光の照射により、メチレンブルー試薬の分解に対して、0.02%以上の量子収率が得られることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載の製造方法:
ここで、Np(個)は、前記可視光に含まれる光子の数であり、n(個)は、前記メチレンブルー試薬の分解された分子数である。
【請求項5】
量子収率F(%)を
【数2】

で表したとき、
波長が400nm〜490nmの範囲の可視光の照射により、メチレンブルー試薬の分解に対して、0.02%以上の量子収率が得られることを特徴とするMgIn材料:
ここで、Np(個)は、前記可視光に含まれる光子の数であり、n(個)は、前記メチレンブルー試薬の分解された分子数である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−1208(P2011−1208A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143576(P2009−143576)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(504133110)国立大学法人電気通信大学 (383)
【Fターム(参考)】