説明

MnZnフェライトの製造方法

【課題】飽和磁束密度Bsの高いMnZnフェライトであって、かつ、コアロスの少ないMnZnフェライトを提供することにある。
【解決手段】酸化鉄がFe23換算で55.1〜60.0モル%、酸化マンガンがMnO換算で30.0〜39.0モル%、酸化ニッケルがNiO換算で1.0〜5.0モル%、酸化亜鉛がZnO換算で残部含有されてなるMnZnフェライトの主成分に対して、添加成分として酸化ケイ素、酸化カルシウム、および酸化ニオブを含有してなる方法であって、前記添加成分の添加物原料は、いずれも、添加時の添加物形態における比表面積が10.0m2/g以上の物性を備えてなる粒状物であるように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電源用トランス等に好適に用いられるMnZnフェライトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
MnZnフェライトは他のフェライトの比べ固有抵抗が低いため、比較的低周波領域(数百kHz以下)でその特徴を発揮する。
【0003】
フェライトのコアロスは、ヒステリシス損、渦電流損、残留損などに分けられるが、比抵抗の小さいMnZnフェライトでは渦電流損失の占める割合が大きいといわれている。
【0004】
渦電流損失を低減するには、材質の高抵抗化が特に有効であり、コアロスを小さくするためにCaO−SiO2を複合して添加させることが知られている。これらの酸化物の添加により、粒界相に硝子相を形成させることができ、より粒界相の抵抗を高めることができる。
【0005】
電源用フェライト材料では、飽和磁束密度Bsが高く、コアロスの低い特性が求められている。飽和磁束密度Bsを高くするためには、含有させるFe23量をより多くすれば有利になると考えられるが、従来の提案(例えば、特開2004−10440号公報)では、SiO、CaO、Nb25等の添加物を添加してもFe23量が55モル%を超えるとFe2+の増大により、比抵抗が小さくなり、渦電流損失の増大によりコアロスの劣化を招くと報告されている。
【0006】
【特許文献1】特開2004−10440号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような実状のもとに本発明は創案されたものであって、その目的は、飽和磁束密度Bsの高いMnZnフェライトであって、かつ、コアロスの少ないMnZnフェライトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するために、本発明は、酸化鉄がFe23換算で55.1〜60.0モル%、酸化マンガンがMnO換算で30.0〜39.0モル%、酸化ニッケルがNiO換算で1.0〜5.0モル%、酸化亜鉛がZnO換算で残部含有されてなるMnZnフェライトの主成分に対して、添加成分として酸化ケイ素、酸化カルシウム、および酸化ニオブを含有してなるMnZnフェライトの製造方法であって、前記添加成分の添加物原料は、いずれも、添加時の添加物形態における比表面積が10.0m2/g以上の物性を備えてなる粒状物であるように構成される。
【0009】
また、本発明の好ましい態様として、前記添加成分の添加物原料は、いずれも、添加時の添加物形態における比表面積が10.0〜40.0m2/g物性を備えてなる粒状物から構成される。
【0010】
また、本発明の好ましい態様として、前記MnZnフェライトにおける添加物成分として酸化ケイ素がSiO2換算で100ppm以上300ppm以下、酸化カルシウムがCaO換算で100ppm以上1500ppm以下、および酸化ニオブがNb25換算で100ppm以上1000ppm以下含有されてなるように構成される。
【0011】
また、本発明の好ましい態様として、前記主成分となる主成分原料を混合して仮焼きした後に、前記添加成分の添加物原料を添加してなるように構成される。
【0012】
また、本発明の好ましい態様として、前記主成分となる主成分原料と、前記添加成分の添加物原料とを同時に混合してなるように構成される。
【0013】
また、本発明の好ましい態様として、前記添加成分の添加物原料同士を予め混合した後、次いで、前記主成分となる主成分原料に添加してなるように構成される。
【発明の効果】
【0014】
本発明のMnZnフェライトの製造方法は、酸化鉄がFe23換算で55.1〜60.0モル%、酸化マンガンがMnO換算で30.0〜39.0モル%、酸化ニッケルがNiO換算で1.0〜5.0モル%、酸化亜鉛がZnO換算で残部含有されてなるMnZnフェライトの主成分に対して、添加成分として酸化ケイ素、酸化カルシウム、および酸化ニオブを含有してなる方法であって、前記添加成分の添加物原料は、いずれも、添加時の添加物形態における比表面積が10.0m2/g以上の物性を備えてなる粒状物であるように構成されているので、飽和磁束密度Bsの高いMnZnフェライトであって、かつ、コアロスの少ないMnZnフェライトを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0016】
本発明はMnZnフェライトの製造方法であって、その発明要部は、製造対象となるMnZnフェライトの主成分および添加成分の組成の設定と、当該組成設定されたMnZnフェライトの形成に際して添加される添加物原料の粒状物の比表面積を規定している点にある。これにより従来には見られなかった顕著な効果が発現する。
【0017】
まず、製造対象となるMnZnフェライトについて説明する。
【0018】
[MnZnフェライト]
本発明の製造対象となるMnZnフェライトは、酸化鉄がFe23換算で55.1〜60.0モル%(好ましくは、55.5〜58.0モル%)、酸化マンガンがMnO換算で30.0〜39.0モル%(好ましくは、32.0〜38.0モル%)、酸化ニッケルがNiO換算で1.0〜5.0モル(好ましくは、1.5〜4.5モル%)、酸化亜鉛がZnO換算で残部含有されてなるMnZnフェライトの主成分と、酸化ケイ素、酸化カルシウム、および酸化ニオブの添加成分を含有してなるMnZnフェライトである。
【0019】
添加物成分である酸化ケイ素は、SiO2換算で100ppm以上300ppm以下、酸化カルシウムがCaO換算で100ppm以上1500ppm以下、および酸化ニオブがNb25換算で100ppm以上1000ppm以下含有される。なお、本発明において記載されているppmは重量基準である。
【0020】
主成分における酸化鉄がFe23換算で55.1モル%未満となると、飽和磁束密度が低くなってしまうという不都合が生じる傾向がある。この一方で、酸化鉄がFe23換算で60.0モル%を超えると、コアロスが高くなってしまうという不都合が生じる傾向がある。
【0021】
また、酸化マンガンがMnO換算で30.0モル%未満となると、コアロスが高くなってしまうという不都合が生じる傾向がある。この一方で、酸化マンガンがMnO換算で39.0モル%を超えると、コアロスが高くなってしまうという不都合が生じる傾向がある。
【0022】
また、酸化ニッケルがNiO換算で1.0モル未満となると、飽和磁束密度が低くなってしまうという不都合が生じる傾向がある。この一方で、5.0モルを超えるとコアロスが高くなってしまうという不都合が生じる傾向がある。
【0023】
添加物成分である酸化ケイ素が、SiO2換算で100ppm未満となると比抵抗が低くなりコアロスが高くなるという不都合が生じる傾向がある。この一方で、酸化ケイ素が、SiO2換算で300ppmを超えると、不連続粒成長が起こりコアロスが高くなるという不都合が生じる傾向がある。
【0024】
また、添加物成分である酸化カルシウムがCaO換算で100ppm未満となると、比抵抗が低くなり、コアロスが高くなるという不都合が生じる傾向がある。この一方で、酸化カルシウムがCaO換算で1500ppmを超えると、不連続粒成長が起こりコアロスが高くなるという不都合が生じる傾向がある。
【0025】
また、添加物成分である酸化ニオブがNb25換算で100ppm未満となると、コアロスが高くなるという不都合が生じる傾向がある。この一方で、酸化ニオブがNb25換算で1000ppmを超えると、コアロスが高くなるという不都合が生じる傾向がある。
【0026】
その他の添加成分として、コアロスを低減させるという目的で、酸化ジルコニウムをZrO2換算で、50ppm以上200ppm以下含有させることも好ましい態様である。この場合も表面積は上記の範囲を満足させることが望ましい。
【0027】
次いで、本発明のMnZnフェライトの製造方法について説明する。
【0028】
[MnZnフェライトの製造方法]
本発明の要部は上述のごとく組成設定されたMnZnフェライトの形成に際して添加される添加成分の添加物原料粒状物の比表面積を規定している点にある。添加物原料は、Si、Ca、Nb、Zrの酸化物、炭酸塩、塩化物塩や硫酸塩という化合物で用いられ、秤量された後、添加される。
【0029】
このようにフェライトの添加成分を含有させるために用いられる添加物原料は、いずれも、秤量した後、添加時の添加物形態における比表面積が10.0m2/g以上、特に、10.0〜40.0m2/gの物性を備えてなる粒状物から構成されている。
【0030】
比表面積が10.0m2/g未満の添加物原料を用いると、酸化鉄をFe23換算で55.1モル%以上とした場合に、コアロスが大きくなってしまう。この一方で、比表面積が40.0m2/gを越える添加物原料を用いる場合には、凝集が起こりやすくなり分散混合が困難となる傾向が生じるという不都合がある。
【0031】
秤量された添加物原料の添加時期は特に限定されるものではないが、以下の態様で添加されることが望ましい。
【0032】
すなわち、(1)成分となる主成分原料を混合して仮焼きした後に、添加成分の添加物原料を添加する態様である。主成分となる主成分原料は、一般に、秤量された後、混合、造粒工程を経て仮焼きされる。この仮焼き物に、上記所定の比表面積を備える添加物原料が秤量され添加される。その後、一般的には、粉砕工程、結合剤添加工程、造粒工程、成形工程、焼成工程が設けられる。
【0033】
(2)秤量された主成分となる主成分原料と、秤量された添加成分の添加物原料とを同時に混合してなる態様である。その後、一般的には造粒工程を経て仮焼きされる。その後、粉砕工程、水・結合剤添加工程、造粒工程、成形工程、焼成工程が設けられる。
【0034】
(3)秤量された添加成分の添加物原料同士を予め混合した後、次いで、主成分となる主成分原料に添加してなる態様である。その後、一般的には造粒工程を経て仮焼きされる。その後、粉砕工程、水・結合剤添加工程、造粒工程、成形工程、焼成工程が設けられる。
【0035】
このような一連の製造工程の詳細は、後述する実施例を参考されたい。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の具体的な実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。
〔実施例1〕
下記表1のサンプルNo.1に示されるように、最終組成における酸化鉄がFe23換算で56モル%、酸化マンガンがMnO換算で34モル%、酸化ニッケルがNiO換算で4モル%、酸化亜鉛がZnO換算で6モル%となるように主成分となる主成分原料を秤量した。この秤量物をアトライターで湿式混合した。この混合物をスプレードライヤーで乾燥させた後、ロータリーキルンで仮焼きした。
【0037】
この仮焼き物に、最終組成における添加成分の含有率が下記表1となるようにSiO2、CaCO3、Nb25、ZrO2を所定量秤量して添加した。なお、添加の際のSiO2の比表面積は33.2m2/g、CaCO3の比表面積は20.4m2/g、Nb25の比表面積は25.6m2/g、ZrO2の比表面積は15.1m2/gであった。
【0038】
このような添加物原料を添加した後、ボールミルで湿式粉砕した。このスラリーにポリビニルアルコール(PVA)を混合した後、スプレードライヤーで噴霧造粒した。これをトロイダル形状に成形し、1300℃で酸素分圧を制御しつつ焼成して表1に示されるNo.1サンプルを作製した。
【0039】
このサンプルの作製手法をベースとし、これに準じて下記表1に示される種々のサンプルを作製した。
【0040】
これら各サンプルについて、下記の要領で(1)焼結密度、(2)飽和磁束密度Bs、(3)コアロスを測定した。
【0041】
(1)焼結密度
サンプルの重量および水中におけるサンプルの重量とを測定しアルキメデスの原理に基づき計算により求めた。
【0042】
(2)飽和磁束密度Bs(T)
トロイダル形状試料にワイヤを二重に20回巻線した後に印加磁界1192A/mに設定し、直流磁化特性試験装置(メトロン技研製 SY110)で測定した。
【0043】
(3)コアロス
100kHz−200mT−100℃における磁芯損失を求めた。
【0044】
結果を下記表1中に示した。
なお、表1中の添加成分における数値欄の上段が添加成分の添加物原料の添加量ppmを示し、下段の[ ]内が添加成分の添加物原料の比表面積をm2/gを示している。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
表1の結果より本発明の効果は明らかである。
すなわち、本発明のMnZnフェライトの製造方法は、酸化鉄がFe23換算で55.1〜60.0モル%、酸化マンガンがMnO換算で30.0〜39.0モル%、酸化ニッケルがNiO換算で1.0〜5.0モル%酸化亜鉛がZnO換算で残部含有されてなるMnZnフェライトの主成分に対して、添加成分として酸化ケイ素、酸化カルシウム、および酸化ニオブを含有してなる方法であって、前記添加成分の添加物原料は、いずれも、添加時の添加物形態における比表面積が10.0m2/g以上の物性を備えてなる粒状物であるように構成されているので、飽和磁束密度Bsの高いMnZnフェライトであって、かつ、コアロスの少ないMnZnフェライトを提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のMnZnフェライトの製造方法は、電源用トランス等に好適に用いられ、幅広く各種の電気部品産業に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化鉄がFe23換算で55.1〜60.0モル%、酸化マンガンがMnO換算で30.0〜39.0モル%、酸化ニッケルがNiO換算で1.0〜5.0モル%、酸化亜鉛がZnO換算で残部含有されてなるMnZnフェライトの主成分に対して、添加成分として酸化ケイ素、酸化カルシウム、および酸化ニオブを含有してなるMnZnフェライトの製造方法であって、
前記添加成分の添加物原料は、いずれも、添加時の添加物形態における比表面積が10.0m2/g以上の物性を備えてなる粒状物であることを特徴とするMnZnフェライトの製造方法。
【請求項2】
前記添加成分の添加物原料は、いずれも、添加時の添加物形態における比表面積が10.0〜40.0m2/g物性を備えてなる粒状物である請求項1に記載のMnZnフェライトの製造方法。
【請求項3】
前記MnZnフェライトにおける添加物成分として酸化ケイ素がSiO2換算で100ppm以上300ppm以下、酸化カルシウムがCaO換算で100ppm以上1500ppm以下、および酸化ニオブがNb25換算で100ppm以上1000ppm以下含有されてなる請求項1または請求項2に記載のMnZnフェライトの製造方法。
【請求項4】
前記主成分となる主成分原料を混合して仮焼きした後に、前記添加成分の添加物原料を添加してなる請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のMnZnフェライトの製造方法。
【請求項5】
前記主成分となる主成分原料と、前記添加成分の添加物原料とを同時に混合してなる請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のMnZnフェライトの製造方法。
【請求項6】
前記添加成分の添加物原料同士を予め混合した後、次いで、前記主成分となる主成分原料に添加してなる請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のMnZnフェライトの製造方法。

【公開番号】特開2007−197254(P2007−197254A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−17516(P2006−17516)
【出願日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】