Nε−アシル−L−リジン特異的アミノアシラーゼ
【課題】Nε-アシル-L-リジンを効率よく合成するNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼを提供すること、およびNε-アシル-L-リジンを効率よく合成する。
【解決手段】ストレプトミセス・モバラエンシス由来の特定のアミノ酸配列を有するNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ、それらをコードするDNA、または、それらの変種、および、それらのいずれかのDNAを含む組換えDNA分子を保持する形質転換体。
【解決手段】ストレプトミセス・モバラエンシス由来の特定のアミノ酸配列を有するNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ、それらをコードするDNA、または、それらの変種、および、それらのいずれかのDNAを含む組換えDNA分子を保持する形質転換体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放線菌由来の新規なNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼをコードするDNA、前記DNAを含有する組換え発現ベクター、前記組換え発現ベクターにより形質転換された形質転換体並びに形質転換体を用いたNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼの製造方法、ならびにNε-アシル-L-リジンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Nε-アシル-L-リジンは、その構造からくる特性や自然界に排出された後の安全性、無公害性の面より、両性界面活性剤原料として一般洗浄剤はもとより、殺菌消毒剤、繊維柔軟材、防錆剤、浮遊選鉱剤、接着剤、清澄剤、染料固着剤、帯電防止剤、乳化剤、化粧品用界面活性剤などの広範な産業用途を有するものである。特に、水や通常の有機溶剤に極めて溶けにくく、かつ、撥水性、抗酸化性、滑沢性などの特長を活かして、有機系の新しい粉黛素材として、化粧品、潤滑剤などの分野での活用が拡大している(特開昭61-10503)。
このNε-アシル-L-リジンの製造には、従来、アミノ酸のアルカリ水溶液中にアシルハライドを滴下させるいわゆるショッテン・バウマン法が採用されてきた。しかしながら、リジンのような塩基性アミノ酸は、α−位及びε−位にアミノ基を有するために、このショッテン・バウマン法ではジアルキル塩基性アミノ酸が主生成物となり、ε−アシル塩基性アミノ酸は副生成物として少量でしか得られない。そのため、ε−アシル塩基性アミノ酸を製造するには、塩基性アミノ酸を塩基性アミノ酸銅塩とし、これをアシルクロライドにてアシル化した後、銅を脱離させる方法が知られている(薬学雑誌、89、531(1969))。これらの方法においては、製造工程、製造作業が煩雑であり、重金属である銅が使用され、脱銅工程で大量の硫化水素ガスが必要とされる。
それ故、酵素を使用したより温和な条件でNε-アシル-L-リジンを特異的かつ効率良く加水分解及び合成する酵素の存在とその工業的製造方法の開発が志向されている。
【0003】
従来、Nε-アシル-L-リジン類を特異的に加水分解することができる酵素に関する報告は少なく、アクロモバクター・ペスチフェル(Achromobacter pestifer)(A.ペスチフェル)由来の酵素、ラット腎由来の酵素、シュードモナス(Pseudomonas) sp. KT-83由来の酵素などが報告されているが、それらの酵素によるNε-アシル-L-リジンの合成反応については報告はなされていない。
また、従来の酵素によるNε-アシル-L-リジンの合成については、例えば、特開2003-210164記載のカプサイシン分解合成酵素がNε-アシル-L-リジンの合成反応をも触媒するとの報告がある。
特開2004-81107に記載されているように、特開2003-210164記載のカプサイシン分解合成酵素により収率95%でNε-ラウロイル-L-リジンが生成するという報告がある。しかし、反応時間が2日間という長時間を要し、また、このカプサイシン分解合成酵素はε−アミノ基のみならずα−アミノ基に対しても高い反応性を示すため、最終的には、Nα-ラウロイル-L-リジンとNε-ラウロイル-L-リジンの混合物が生成する。
一方、本発明者等は、ストレプトミセス・モバラエンシスがリジンのε−アミノ基を特異的かつ効率的にアシル化する酵素を産生することを見出し、その酵素を精製し、特性の一部を報告した(WO 2006/088199)。さらに、本発明者等は、前述のストレプトミセス・モバラエンシス由来の酵素により、L-リジン塩酸塩とラウリン酸からNε-ラウロイル-L-リジンを特異的に合成し得ることも確認した(WO 2006/088199)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61-10503号公報
【特許文献2】特開2003-210164号公報
【特許文献3】特開2004-81107号公報
【特許文献4】国際公開公報 WO 2006/088199
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】薬学雑誌、89、531(1969)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼをコードするDNAを提供する。また、本発明は、粉薫素材などに活用されているNε-アシル-L-リジンを、L-リジンを出発原料にして効率よく合成するNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼを高効率で生産する方法を提供する。さらに本発明は、Nε-アシル-L-リジンを効率よく生産する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下を含む。
(1)配列番号2に記載されるアミノ酸配列を有するNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ、またはこれをコードするDNA;
(2)配列番号2に記載されるアミノ酸配列に於いて、1もしくは複数のアミノ酸残基が挿入、付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列を有し、かつ、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有するタンパク質またはこれをコードするDNA;
(3)配列番号1または3に記載されるヌクレオチド配列を有するDNA;
(4)配列番号1または3に記載されるヌクレオチド配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(5)配列番号1または3に記載されるヌクレオチド配列と95%以上の相同性のあるヌクレオチド配列を有し、かつ、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有するタンパク質、またはこれをコードするDNA;
(6)上記(1)〜(5)のいずれかのDNAを含有する組換えDNA;
(7)上記(6)の組換えDNAで形質転換された形質転換体;
(8)(a)配列番号2または5に記載されるアミノ酸配列を有するNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼをコードするDNA;
(b)配列番号2または5に記載されるアミノ酸配列に於いて、1もしくは複数のアミノ酸残基が挿入、付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列を有し、かつ、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(c)配列番号1、3または4に記載されるヌクレオチド配列を有するDNA;
(d)配列番号1、3または4に記載されるヌクレオチド配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA;または、
(e)配列番号1、3または4に記載されるヌクレオチド配列と95%以上の相同性のあるヌクレオチド配列を有し、かつ、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA、
のいずれかを含む組換えDNAで形質転換された形質転換体を培養し、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有するタンパク質を生産させ、これを回収することを特徴とするNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有するタンパク質の製造方法。;および、
(9)L-リジンとラウリン酸を、下記(a)〜(e)のいずれかのDNAで形質転換した細胞、前記細胞の処理物または前記細胞の培養液の存在下で反応せしめ、生成するNε-ラウロイル-L-リジンを単離することを含む、Nε-ラウロイル-L-リジンを製造する方法;
(a)配列番号2または5に記載されるアミノ酸配列を有するNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼをコードするDNA;
(b)配列番号2または5に記載されるアミノ酸配列に於いて、1もしくは複数のアミノ酸残基が挿入、付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列を有し、かつ、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(c)配列番号1、3または4に記載されるヌクレオチド配列を有するDNA;
(d)配列番号1、3または4に記載されるヌクレオチド配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA;または、
(e)配列番号1、3または4に記載されるヌクレオチド配列と95%以上の相同性を有し、かつ、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、放線菌由来のNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼをコードするcDNA、そのヌクレオチド配列および全アミノ酸配列が提供される。したがって、本発明により、放線菌由来のNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼを遺伝子組換え技術を用いて大量生産することが可能となり、容易に大量の前記Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼを取得することが可能となる。また本発明により、効率的にNε−アシル-L−リジン、特にNε-ラウロイル-L-リジンを得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1A】図1A−EはSm-ELAをコードするS.モバラエンスゲノム領域ならびにその上流および下流のヌクレオチド配列をSm-ELAのアミノ酸配列と共に示す。
【図1B】図1A続き。
【図1C】図1B続き。
【図1D】図1C続き。
【図1E】図1D続き。
【図2A】図2A−EはSc-ELAをコードするS.セリカラーゲノム領域のヌクレオチド配列をSc-ELAのアミノ酸配列と共に示す。開始コドンはATGではなくGTGである。
【図2B】図2A続き。
【図2C】図2B続き。
【図2D】図2C続き。
【図2E】図2D続き。
【図3】図3は、Sm-ELA遺伝子のクローニングに用いたプライマーとSm-ELA遺伝子との位置関係を示す。
【図4】図4は、Sm-ELAを産生するS.リビダンス洗浄菌体および菌体抽出物によるNε-ラウロイル-L-リジン合成の経時変化を示す。横軸は反応時間、縦軸はラウリン酸を基準としたNε-ラウロイル-L-リジンの収率を示す。黒い四角は洗浄菌体を用いた反応を表し、黒い三角は菌体抽出物を用いた反応を示す。
【図5】図5は、Nε-ラウロイル-L-リジンの合成反応における反応収率の経時変化を示す。横軸は反応時間を表し、縦軸は残存ラウリン酸と残リジンから計算した、Nε-ラウロイル-L-リジンの対ラウリン酸収率を表す。白抜きの記号はリジンの残存量から計算したNε-ラウロイル-L-リジン収率、黒い記号はラウリン酸の残存量から計算したNε-ラウロイル-L-リジン収率を示す。黒い丸および白い丸は50 mM ラウリン酸を用いた場合の反応、黒い三角および白い三角は100 mM ラウリン酸を用いた場合の反応、黒い四角および白い四角は250 mM ラウリン酸を用いた場合の反応を表す。反応収率は、ラウリン酸の生成量およびリジンの残存量を基準として算出した。
【図6】図6は、Sm-ELAを産生するコリネバクテリウム・グルタミカムYDK010によるNε-ラウロイル-L-リジン合成の経時変化を示す。横軸は反応時間、縦軸はリジン消費量を示す。黒い丸は反応条件1、白い丸は反応条件2で行った反応を表す。
【図7】図7は、Sm-ELAを分泌産生するコリネバクテリウム・グルタミカムWDK010を培養し、得られた培養上清によるNε-ラウロイル-L-リジン合成の経時変化を示す。横軸は反応時間、縦軸は生成されたNε-ラウロイル-L-リジンを示す(LL:Nε-ラウロイル-L-リジン)。
【図8】図8は、Sm-ELAまたはSc-ELAを産生するコリネバクテリウム・グルタミカムYDK01によるNε-ラウロイル-L-リジン合成の経時変化を示す。横軸は反応時間、縦軸は生成されたNε-ラウロイル-L-リジン(白い丸および黒い丸)または消費されたラウリン酸(白い三角および黒い三角)を表す(LL:Nε-ラウロイル-L-リジン、LA:ラウリン酸)。黒い丸および黒い三角はSm-ELAによる反応、白い丸および白い三角はSc-ELAによる反応を表す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは、L-リジンのε-アミノ基を特異的にアシル化してNε-アシル-L-リジンを生成する新規なNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼがストレプトミセス属微生物の培養物に存在することを明らかにした。さらに、本発明者らは、ストレプトミセス(Streptomyces)属に属する微生物、特に、ストレプトミセス・モバラエンシス(Streptomyces mobaraensis)(S.モバラエンシス)を培養し、それらの培養物から前記酵素を分離および/または回収することのできる本発明の酵素を製造し、Nε-アシル-L-リジンを効率良く合成することにも成功した。しかしながら、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼの放線菌における分泌量は極微量であるため、前記Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼを大量に調製するための方法が更に望まれていた。さらに、本発明者等はまたはストレプトミセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor、S.セリカラー)由来のNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼおよびそれをコードする遺伝子を明らかにした。本発明により、これらのNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼをコードするDNAおよび前記アミノアシラーゼを大量に調製する方法が提供される。さらに、本発明によりNε-ラウロイル-リジンを効率的に生成する方法が提供される。
【0011】
放線菌由来Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼを大量に得るための方法の1つとしては、前記Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ遺伝子を遺伝子組換え技術を用いて大量生産させることにより、大量の前記Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼを取得する方法が挙げられる。この方法を確立するために、この放線菌由来のNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼをコードするcDNAを取得し、ヌクレオチド配列を解析し、前記Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼの全アミノ酸配列に関する情報を得ることができる。更に、前記Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼをコードするDNAを適当な発現ベクターに組み込み、目的物を大量に生産する形質転換体を得ることができる。
本発明は、放線菌に由来するNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼを天然から単離する方法に代えて、遺伝子組換え技術を用いて効率的な遺伝子発現並びに前記Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼの大量生産を成しえる為の技術を提供する。したがって、本発明の一態様において、リジンのε-アミノ基を特異的にアシル化してNε-アシル-L-リジンを生成するNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼをコードするDNAが提供される。また本発明の別の態様において、前記DNAが適切な宿主で発現されて、それにより前記アミノアシラーゼが製造される。本発明のまた別の態様において、前記アミノアシラーゼがカルボン酸およびL-リジンに作用してNε-アシル-L-リジンが製造される。
【0012】
本発明において、放線菌由来Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ、または、同等の活性を有するタンパク質をコードするDNAが取得される。この放線菌由来Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼをコードするDNAは、例えば、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼのアミノ酸配列およびそれをコードするヌクレオチド配列情報に基づいたプライマーを用いることにより、S.モバラエンシスまたはS.セリカラーmRNAより調製したcDNAライブラリーをスクリーニングすることによって得ることができる。さらに、この得られたcDNAを用いて、前記Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼを生産する形質転換体を得、これにより前記Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有するタンパク質を得ることができる。
本発明のDNAはcDNAであってもよく、ゲノムDNAであってもよく、また、それらは上述した以外の方法によっても、例えば全合成によっても取得することができる。
さらに、本発明により、L-リジンとラウリン酸を、前記Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼを生産する形質転換体または前記形質転換体の処理物、例えば細胞抽出物の存在下で反応させることにより、効率的にNε-ラウロイル-L-リジンを得ることが出来る。また、前記Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼを発現させて細胞外に分泌(分泌発現)させた場合には、前記形質転換体を培養して得られた培養液の存在下で、L-リジンとラウリン酸とを反応させることにより、効率的にNε-ラウロイル-L-リジンを得ることが出来る。
【0013】
以下、本発明の態様をより具体的に記載する。本明細書では、以後、文脈上明らかな場合には放線菌由来Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼを単に「アミノアシラーゼ」と記載することがある。
【0014】
1.本発明のDNAの取得
本発明のDNAは例えば以下のように取得することができる。本発明DNAの取得方法の具体例としては、例えば、本発明者らにより決定されたアミノアシラーゼのアミノ酸配列に基づいてオリゴDNAを合成し、放線菌もしくは他の部位から抽出したmRNAを鋳型にRT−PCR法で遺伝子断片を得、それをプローブに放線菌もしくは他の部位のmRNAを鋳型に作製したcDNAライブラリーから、ハイブリダイゼーションによりアミノアシラーゼのcDNAを釣り上げるなど、従来、慣用的に行われている方法が挙げられる。
また、すでに決定されているアミノアシラーゼのアミノ酸配列と相同性の高いヌクレオチド配列を適当なDNAデータベース(例えばDDBJ、EMBL、GenBank)中で検索し、見いだされた配列をプローブとして、放線菌もしくは他の部位から抽出したmRNAを鋳型に作製したcDNAライブラリーをスクリーニングし、アミノアシラーゼのcDNAを取得する方法も考えられる。
【0015】
cDNAのプローブは、すでに決定されているアミノ酸配列を基に、放線菌もしくは他の部位から抽出したmRNAを鋳型に、RT-PCR法等によって作製してもよく、あるいはアミノ酸配列を基に化学合成しても良い。アミノ酸配列と相同性の高いヌクレオチド配列をプローブに用いる場合、そのプローブの起源、すなわちそのプローブがどのような種のどのような遺伝子の断片であるかは問わない。すなわち、プローブは既知のNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ遺伝子由来である必要は無く、また、機能が未知の遺伝子産物をコードする遺伝子の一部であってもよく、EST(Expression Sequence Tag)でもかまわない。後述の実施例においては、BLAST search検索によりS.モバラエンシスやS.セリカラーと良く似た配列を有するストレプトミセス・アベルミチリス(S. avermitilis)などの仮想的酵素とアノテーションされているアミノ酸配列に基づいてプライマーを構築し、そのプライマーとアミノアシラーゼのN末端アミノ酸配列から構築したプライマーを用いてPCRを行い、そのPCR産物のアミノ酸配列を解析するという手法で、アミノ酸配列を解析している。なお、cDNAライブラリーの作製は、常法により行うことができる。
【0016】
かくして配列番号2に記載されるアミノ酸配列を有するS.モバラエンシス由来のNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ(以後、本明細書中でSm-ELAと略すことがある)および配列番号5に記載されるアミノ酸配列を有するS.セリカラー由来のNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ(以後、本明細書中でSc-ELAと略すことがある)をコードするDNAが得られる(それぞれ配列番号3および4)。なお、本発明のDNAは、それがコードする蛋白質がNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有する限り、配列番号2または5に記載されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸残基が挿入、付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列(変種配列)を有するタンパク質(変種タンパク質)をコードするDNAであってもよい。また、本発明のDNAには、配列番号3または4に記載の配列を有するDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA、または、配列番号3または4に記載の配列を有するDNAと80%以上、好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の相同性を有するDNAであって、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA、そのDNAを含む組換えDNA分子、前記組換えDNAを保持する宿主、前記宿主を培養することを含むNε-アシル-L-リジン特異的酵素の製造方法、および、Nε-アシル-L-リジンの製造方法も本発明に含まれる。相同性はNCBI Blast Ver.2.0のような標準的なプログラムをデフォルトパラメーターを使用して判定することができる。本明細書において、放線菌由来のNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼのアミノ酸配列が配列番号2および5に、それをコードするヌクレオチド配列が配列番号3および4に記載されており、さらにSm-ELAについてはコード領域の上流および下流を含むヌクレオチド配列も配列番号1に記載されているので、このような変種タンパク質をコードするDNAを取得することは当業者であれば可能である。このような相同性は、例えばBLAST等の当業者によく知られたプログラムを標準的なパラメーターと共に用いて計算することができる。
【0017】
本明細書において、「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば80、90、95、97または99%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼ−ションの洗浄条件である60℃、1xSSC,0.1%SDS、好ましくは、0.1xSSC、0.1%SDSさらに好ましくは、68℃、0.1xSSC、0.1%SDSに相当する塩濃度、温度で、少なくとも1回、好ましくは2〜3回洗浄する条件が挙げられる。これらと同等な条件も当業者には容易に理解できるであろう。そのような条件に関する記載は、例えば、Sambrookら、1989, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版 (1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York、Ausubelら, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc. (1994)などに見ることができる。
さらに、配列番号1、3および4に本発明に含まれるDNAのヌクレオチド配列の一例が示されているので、配列番号1、3または4記載の配列を有するDNAおよびその変種配列を有するDNA、これらと相同な配列を有するDNA、これらとストリンジェントな条件でハイブリダイズし得るDNAを完全に化学合成することもできる。DNAの化学合成法も当業者にはよく知られており、そのための自動化された装置も商業的に入手可能である。
【0018】
2.本発明の組換えDNAの構築
次に、このようにして得たcDNAを発現ベクターに組み込んで組換えDNAを作製することができる。用いるベクターは、特に限定されるものではないが、宿主細胞内で自立複製可能なものでも、染色体に1コピーもしくは複数のコピーが挿入されるものでも良く、上記DNAすなわちアミノアシラーゼ遺伝子を組み込みうる挿入部位を持ち、更にこの組み込んだDNAを宿主細胞内で発現せしめることを可能とする領域が必要である。なお、ベクターに組み込むアミノアシラーゼ遺伝子としては、cDNAだけでなく、cDNAから予想されるアミノアシラーゼのアミノ酸配列をコードするように設計して合成されたDNAでも良い。このようなDNAには、発現させる宿主のコドン使用頻度に応じて同じアミノ酸をコードする別のコドンへの置換が行われているDNAが含まれる。例えば、大腸菌(E.coli)ではAUA、AGG、AGA、CGG、GGA、CUA、CCC、CGA等のコドン使用頻度は低いことが知られているので、大腸菌を宿主とする場合にはこれらのコドンの少なくとも一つがより使用頻度の高いコドンになるように対応するDNA配列を改変することもできる。このような遺伝子の合成は、DNA自動合成機を利用して合成したオリゴヌクレオチドをアニール後に連結することなどにより、容易に行うことができる。また、アミノアシラーゼを発現、異種タンパク質との融合タンパク質として生産させる方法もある。これは例えば、pGEXシステム(アマシャム・ファルマシアバイオテック社製)などを用いることで、アミノアシラーゼをグルタチオン-S-トランスフェラーゼとの融合タンパク質として大腸菌(エシェリヒア・コリ)(E.coli)に生産させることが可能である。また、ストレプトミセス・リビダンス(Streptomyces lividans, S.リビダンス)のような放線菌を発現宿主として選択する場合は、高コピーベクターであるpIJ702などを利用することが出来る。さらに、コリネバクテリウム・グルタミカムのようなコリネ型細菌を発現宿主として選択する場合は、高コピーベクターであるpPK4などを利用することができる。
【0019】
アミノアシラーゼ遺伝子を発現させるプロモーターとしては、通常異種タンパク質の発現に用いられるプロモーターを用いることができる。例えば、trp、tac、lac、trc、λPL、T7等のプロモーターを利用することが出来る。また、アミノアシラーゼ遺伝子の下流にはターミネーターを挿入することもできる。例えば、tpA、lpp、T4等のターミネーターが挙げられる。発現宿主として放線菌を選択する場合は、SSIプロモーターや、本発明のNεアシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ遺伝子の天然のプロモーター、SD配列およびターミネーターを利用することも出来る。発現宿主としてコリネ型細菌を選択する場合は、cspBプロモーターなどを利用することができる。また、翻訳の効率化のために、SD配列の種類、数、SD配列と開始コドンの間の領域の塩基組成、配列、長さをアミノアシラーゼ遺伝子の発現に最適になるようにすることもできる。アミノアシラーゼ発現に必要なプロモーターから翻訳開始点までの領域は、公知のPCR法や化学合成法などにより調整することができる。さらに、開始コドンの下流にシグナルペプチド配列を挿入し、分泌タンパクとしてアミノアシラーゼを発現させることも可能である。本発明の組換えDNAは、所望の発現系に応じた公知の発現ベクターに、前記アミノアシラーゼ遺伝子を含むDNAを公知の方法によって挿入することにより得ることが可能である。用いる発現ベクターは多コピーのものであることが望ましい。
【0020】
3.本発明の形質転換体
次に、本発明のDNAまたは組換えDNAが挿入されて得られる種々の形質転換体について説明する。本発明のDNAまたは組換えDNAを導入する細胞としては、大腸菌(E.coli)、放線菌およびコリネ型細菌を含む種々の微生物細胞が挙げられる。本発明のDNAまたは組換えDNAが導入されるE.coliには一般にクローニングや異種タンパク質の発現によく利用される菌株、例えば、HB101、MC1061、JM109、CJ236、MV1184が含まれる。本発明のDNAまたは組換えDNAが導入される放線菌には一般に異種タンパク質の発現によく利用される菌株、例えば、S.リビダンス TK24やS.セリカラー A3(2)が含まれる。本発明のDNAまたは組換えDNAが導入されるコリネ型細菌とは好気性のグラム陽性桿菌であり、従来ブレビバクテリウム属に分類されていたが現在コリネバクテリウム属に統合された細菌を含み(Int. J. Syst. Bacteriol., 41, 255(1981))、またコリネバクテリウム属と非常に近縁なブレビバクテリウム属細菌を含む。コリネ型細菌を使用することの利点には、これまでにタンパク質の分泌に好適とされてきたカビ、酵母やBacillus属細菌と比べて本来的に菌体外に分泌されるタンパク質が極めて少なく、目的タンパク質を分泌生産した場合にその精製過程が簡略化、省略化できること、分泌生産した酵素を用いて酵素反応を行う場合には、培養上清を酵素源として用いることができるため、菌体成分、夾雑酵素等による不純物、副反応を低減させることができること、糖、アンモニアや無機塩等を含む単純な培地で容易に生育するため、培地代や培養方法、培養生産性の点で優れていることが含まれる。また、Tat系分泌経路を利用することにより、これまでに知られていたSec系分泌経路では分泌生産が困難なタンパク質であったイソマルトデキストラナーゼやプロテイングルタミナーゼ等産業上有用なタンパク質も効率良く分泌させることが可能である[WO2005/103278]。本発明の、または本発明において使用する放線菌由来のNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼもTat系分泌経路等の適切な分泌経路を利用することにより菌体外に分泌させることができる。特にS.モバラエンシス由来のNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼはTat系分泌経路により効率的に菌体外に分泌させることができる。「Tat系」とは、「ツイン・アルギニン移行経路」(Twin-arginine-translocation-pathway)とも呼ばれる経路であり、シグナルペプチド中に保存されたアルギニン−アルギニンの保存領域を認識して、TatA、B、C、Eを含む膜タンパク質によりタンパク質を分泌する機構あるいは経路を意味する。Tat系シグナルペプチドとしては、E.coli由来トリメチルアミンN-オキシドレダクターゼ(TorA)のシグナルペプチド等が挙げられる。コリネ型細菌の例としては以下のものが挙げられる。
【0021】
コリネバクテリウム・アセトアシドフィラム、
コリネバクテリウム・アセトグルタミカム、
コリネバクテリウム・アルカノリティカム、
コリネバクテリウム・カルナエ、
コリネバクテリウム・グルタミカム、
コリネバクテリウム・リリウム、
コリネバクテリウム・メラセコーラ、
コリネバクテリウム・サーモアミノゲネス、
コリネバクテリウム・ハーキュリス、
ブレビバクテリウム・ディバリカタム、
ブレビバクテリウム・フラバム、
ブレビバクテリウム・インマリオフィラム、
ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム、
ブレビバクテリウム・ロゼウム、
ブレビバクテリウム・サッカロリティカム、
ブレビバクテリウム・チオゲニタリス、
コリネバクテリウム・アンモニアゲネス、
ブレビバクテリウム・アルバム、
ブレビバクテリウム・セリヌム、
ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム。
【0022】
具体的には、下記のような菌株を例示することができる。
コリネバクテリウム・アセトアシドフィラム ATCC13870、
コリネバクテリウム・アセトグルタミカム ATCC15806、
コリネバクテリウム・アルカノリティカム ATCC21511、
コリネバクテリウム・カルナエ ATCC15991、
コリネバクテリウム・グルタミカム ATCC13020, ATCC13032, ATCC13060,ATCC13869,FERM BP-734、
コリネバクテリウム・リリウム ATCC15990、
コリネバクテリウム・メラセコーラ ATCC17965、
コリネバクテリウム・エッフィシエンス AJ12340(FERM BP-1539)、
コリネバクテリウム・ハーキュリス ATCC13868、
ブレビバクテリウム・ディバリカタム ATCC14020、
ブレビバクテリウム・フラバム ATCC13826, ATCC14067, AJ12418(FERM BP-2205)、
ブレビバクテリウム・インマリオフィラム ATCC14068、
ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム ATCC13869、
ブレビバクテリウム・ロゼウム ATCC13825、
ブレビバクテリウム・サッカロリティカム ATCC14066、
ブレビバクテリウム・チオゲニタリス ATCC19240、
コリネバクテリウム・アンモニアゲネス ATCC6871、ATCC6872、
ブレビバクテリウム・アルバム ATCC15111、
ブレビバクテリウム・セリヌム ATCC15112、
ミクロバクテリウム・アンモニアフィラス ATCC15354。
【0023】
とりわけ、野生株コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum、C.グルタミカム)ATCC13869よりストレプトマイシン(Sm)耐性変異株として分離したコリネバクテリウム・グルタミカムAJ12036(WO 02/081694参照)はその親株(野生株)に比べ、タンパク質の分泌に関わる機能遺伝子に変異が存在することが予測され、タンパク質の分泌生産能が至適培養条件下での蓄積量としておよそ2〜3倍と極めて高いため、宿主菌として好適である。
さらに、このような菌株から細胞表層タンパク質を生産しないように改変した菌株を宿主として使用すれば、培地中に分泌された目的タンパク質の精製が容易となり、特に好ましい。そのような改変は、突然変異または遺伝子組換え法により染色体上の細胞表層タンパク質またはその発現調節領域に変異を導入することにより行うことができる。細胞表層タンパク質を生産しないように改変されたコリネ型細菌としては、AJ12036の細胞表層タンパク質(PS2)破壊株であるC.グルタミカムYDK010株が挙げられる(WO 01/23491参照)。
【0024】
この他の形質転換体となりうる細胞には、枯草菌、酵母、麹菌等があり、これらのタンパク質分泌能を利用して、アミノアシラーゼを培地中に生産させる方法も考えられる。上記のような微生物の他、カイコ培養細胞などの培養細胞を用いてもよい。これらの宿主細胞に、上記組換えベクターを宿主細胞内に導入して形質転換体を得ることができる。組換え発現ベクターの宿主細胞内への導入方法は、従来の慣用的に用いられている方法により行うことができる。コンピテントセル法、プロトプラスト法、リン酸カルシウム共沈法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、リポソーム融合法等、種々のものが挙げられる。コリネ型細菌への導入方法としては具体的には例えば、プロトプラスト法(Gene, 39, 281-286(1985))、エレクトロポレーション法(Bio/Technology, 7, 1067-1070)(1989))等を使用することができるが、これらに限定されない。
【0025】
4.Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼの製造法
このようにして得られた形質転換体を培養することにより、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼが産生される。産生されたアミノアシラーゼを公知の方法で単離し、場合によっては更に精製することにより、目的とする酵素が得られる。E.coliを宿主とした場合には、不活性なアミノアシラーゼ会合体、すなわちタンパク質封入体としてアミノアシラーゼ遺伝子産物を得た後、これを適当な方法で活性化することも可能である。活性化後、活性型タンパク質を公知の方法で分離精製することにより目的の酵素を得てもよい。
形質転換体を培養するための培地は公知であり、例えば、E.coliの培養にはLB培地などの栄養培地や、M9培地などの最小培地に炭素源、窒素源、ビタミン源等を添加して用いることができる。形質転換体は宿主に応じて、通常、16〜42℃、好ましくは25〜37℃で5〜168時間、好ましくは8〜72時間培養される。宿主に依存して、振盪培養と静置培養のいずれも可能であるが、必要に応じて攪拌を行ってもよく、通気を行ってもよい。放線菌を発現宿主として選択する場合は、本発明の酵素を生産させるために使用し得る条件、例えばWO 2006/088199記載の条件を用いることが出来る。また、アミノアシラーゼ発現のために誘導型プロモーターを用いた場合は、培地にプロモーター誘導剤を添加して培養をおこなうこともできる。
【0026】
産生されたアミノアシラーゼは、形質転換体の抽出物から公知の塩析、等電点沈殿法もしくは溶媒沈殿法等の沈殿法、透析、限外濾過もしくはゲル濾過等の分子量差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィー等の特異的親和性を利用する方法、疎水クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー等の疎水度の差を利用する方法やその他アフィニティークロマトグラフィー、SDSポリアクリルアミド電気泳動法、等電点電気泳動法等、またはこれらの組み合わせにより、精製および単離することが可能である。アミノアシラーゼを分泌発現させた場合には、形質転換体を培養して得られた培養液から、菌体を遠心分離等で除くことで目的とする酵素を含む培養上清が得られる。この培養上清からもアミノアシラーゼを精製および単離することが可能である。
【0027】
例えば、形質転換体の培養終了後、遠心により集菌した菌体を菌体破砕用バッファー(20〜100 mM Tris-HCl(pH8.0)、5mM EDTA)に懸濁し、超音波破砕をBranson MODEL-Sonifier 250のマイクロチップを用い、output control 7,duty cycle 50%で約10分間行うことにより菌体を破砕することができる。菌体破砕は、トルエン等の溶媒を培養液に加え行うこともできる。この破砕処理液を12000rpmで10分間遠心して上清を上述した精製操作をすることができる。また、前記遠心後の沈殿について必要に応じて塩酸グアニジウムまたは尿素などで可溶化したのち更に精製することもできる。アミノアシラーゼを分泌発現させた場合には、形質転換体の培養終了後、培養液を12000rpmで10分間遠心して上清を上述した精製操作をすることができる。
具体的には、本発明のDNAによってコードされるアミノアシラーゼ酵素の精製は例えば以下のように行うことができる。宿主の培養終了後、培養上清または細胞抽出物に硫酸アンモニウム(2.8M)を加えて沈殿分画後、更に、CM セファデックス C-50、DEAE-セファデックスA-50イオン交換カラムクロマトグラフィー、オクチルセファロースCL-4BおよびフェニルセファロースCL-4Bカラムクロマトグラフィー等の操作を行うことによって、ポリアクリルアミドゲル電気泳動した場合にゲル上で単一バンドを呈する程度にまで精製することができる。
【0028】
得られたアミノアシラーゼ酵素の活性は、Nε-アセチル-L-リジン加水分解活性を測定することにより測定することが出来る。なお、本発明の酵素1U(ユニット)は、Nε-アセチル-L-リジン溶液を基質として37℃にてインキュベート(50 mMトリス塩酸緩衝液、pH8.0)し、遊離したL-リジンを定量した場合に、1時間あたり1マイクロモルのNε-アセチル-L-リジンを加水分解するのに必要な酵素量と定義する。
本発明のDNAによってコードされるアミノアシラーゼは、Nε-アシル-L-リジンに作用し、Nε-アシル-D-リジンに対する反応性は非常に低い。アシル基に対する特異性は広く、飽和または不飽和脂肪酸アシル、更には芳香族基を含有するカルボン酸アシルからなるNε-アシル-L-リジンを加水分解し、その逆反応も触媒する。逆反応については、D-リジンのε-アミノ基に対する反応性は非常に低く、L-リジンのε-アミノ基に優先的に作用する。
【0029】
本発明の別の側面はNε-アシル-L-リジンの製造方法である。この側面における一つの実施様態では、本発明の酵素または本発明のDNAによってコードされる酵素がL-リジンまたはその塩がカルボン酸またはその塩に作用し、それによって、Nε-アシル-L-リジンが生成される。この側面において、酵素は精製された酵素でも粗精製酵素でもよく、また本発明の酵素を発現する形質転換体の細胞破砕物、細胞抽出物、粗精製酵素でもよく、場合により酵素の供給源として上述の形質転換体を破砕せずに使用することも出来る。適切なシグナル配列を利用することにより培地中に本発明の酵素が分泌される場合は、培養上清またはその濃縮物を酵素の供給源として利用することも出来る。この実施態様における酵素反応の条件は、本酵素の特性、特に至適温度および安定温度、並びに、至適pHおよび安定pHを含む適切な条件に従って決定することができる。例えば、S.モバラエンス由来の本発明の酵素(配列番号2のアミノ酸配列を有する)の場合、以下の性質を有する。
【0030】
1)Nε-アシル-L-リジンに作用し、カルボン酸とリジンを遊離させる反応、および、その逆反応を触媒する;
2)L-Lysのε−アミノ基に作用する;
3)Nε-アセチル-L-リジンを基質とした場合に、加水分解反応の至適pHは、37℃ においてトリス−塩酸緩衝液中で、8.0〜9.0の範囲にある;
4)トリス−塩酸緩衝液中で、37℃、1時間のインキュベートした場合、pH 6.5〜10.5の範囲で安定である;
5)Nε-アセチル-L-リジンを基質としたときの加水分解反応における至適温度が、トリス−塩酸緩衝液(pH8.2)中で、55℃付近である;
6)トリス−塩酸緩衝液(pH8.2)中、40℃、60分処理において失活せず、55℃、60分処理後の残存活性は75〜85%である;
7)o-フェナンスロリンにより阻害を受ける。
8)コバルト、亜鉛、マンガン、カルシウム、カリウム、マグネシウムなどの金属イオンによって活性が上昇し、特にコバルトイオンにより活性が上昇する;
【0031】
また、前記S.モバラエンス由来の酵素はNε-アセチル-L-リジンに高い加水分解活性を示すが、Nα-アセチル-L-リジンを除くNα-アセチル-L-アミノ酸には一般に活性を示さない。さらに、前記S.モバラエンス由来の酵素はNε-アセチル-L-リジンに対して最も高い比活性を有し,クロロアセチル基やベンゾイル基を有する他のNε-アシル-L-リジンなどに対しても高い活性を示す。これらの性質の詳細はWO 2006/088199に記載されている。
【0032】
特に、前記カルボン酸が比較的長鎖であって、前記反応が水溶性溶媒中で行われる場合、生成するNε-アシル-L-リジンは水に不溶性または難溶性であるため析出して反応系から容易に除去され、従って、ε-アシル-L-リジンの合成反応がその逆反応であるNε-アシル-L-リジンの分解反応よりも顕著に優先的かつ効率よく進む。また、このような場合、合成反応生成物であるNε-アシル-L-リジンは速やかに水相から分離してくるので非常に容易に回収することができる。例えば、分離したNε-アシル-L-リジンを直接回収する、または、有機溶媒によって容易にNε-アシル-L-リジンを水性反応系から抽出して回収することができる。本発明によってNε-アシル-L-リジンを製造する場合、前記比較的長鎖のカルボン酸は、例えば使用する水溶性溶媒に対する溶解性を基準として選択することができる。なお、本明細書において“水溶性溶媒”には勿論水自身も含まれる。また、反応を水溶性溶媒中で行う場合であっても、別途油層(有機溶媒層)を重層し、水溶性溶媒/有機溶媒の2相反応とすることもできる。
【0033】
本発明の方法に従ってNε-アシル-L-リジン製造を行う本発明の一態様においては、本発明のDNAによってコードされる酵素1U〜500U/ml、好ましくは10U〜300U/mlと、L-リジンまたはその塩50mM〜2M、好ましくは100mM〜1.0M、および、カルボン酸またはその塩5mM〜2M、好ましくは10mM〜300mMとを、適切な緩衝液、例えばトリス-塩酸緩衝液中、pH6.5〜10.5、好ましくはpH7.0〜10.0、特に好ましくはpH7.0〜8.0のpH範囲、30℃〜70℃、好ましくは45℃〜70℃の温度範囲にて、1〜48時間、好ましくは2〜24時間、特に好ましくは4〜24時間反応させる。適切な条件下では約80%またはそれ以上の収率でNε-アシル-L-リジンを得ることが出来る。基質であるL-リジンまたはカルボン酸の一方が反応系に過剰量存在していてもよく、必要に応じて不足している基質を反応中に追加してもよい。
【0034】
本発明のNε-アシル-L-リジンの製造方法においては前述したように、本発明のDNAによってコードされる酵素によりL-リジンとカルボン酸、またはそれらの塩との反応が触媒される。反応に使用されるカルボン酸には、直鎖又は分枝した、飽和又は不飽和の脂肪酸、飽和または不飽和の側鎖を有する芳香族カルボン酸が含まれ、それらのカルボン酸は好ましくは炭素数が5以上、より好ましくは炭素数が8以上のアシル基を有するカルボン酸である。より具体的には、本発明のNε-アシル-L-リジンの製造方法において使用し得るカルボン酸は、オクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレン酸、安息香酸、ケイ皮酸などが好ましく、オクタン酸、ラウリン酸が特に好ましい。
【0035】
以下の参考例および実施例により本発明を更に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を制限するものと解してはならない。なお、下記参考例および実施例におけるパーセンテージは、文脈上明らかでない場合を除いて「質量%」を意味する。
【実施例1】
【0036】
放線菌S.モバラエンシス由来のアミノアシラーゼ(Sm-ELA)DNAのクローニング
1.アミノアシラーゼの部分アミノ酸配列の決定
WO 2006/088199、実施例1に記載されている方法に従って放線菌S.モバラエンシスIFO13819株培養物からNε-アシル-リジン特異的アミノアシラーゼタンパク(Sm-ELA)を精製し、そのN末端アミノ酸配列をプロテインシークエンサーで解析した。
簡単にいえば、可溶性澱粉4.0%、ポリペプトン2.0%、肉エキス 4.0%、リン酸水素カリウム 0.2%、硫酸マグネシウム 2.0%、pH7を含む培地2L(リットル)を5L容量のバッフル付き坂口フラスコに入れ、S.モバラエンシスの胞子溶液0.1mlを接種し、30℃で3日から7日間培養した。培養終了後、遠心して(10000 x g、30分間)除菌し、上清を回収した。
【0037】
得られた培養上清に最終濃度60%になるように硫酸アンモニウム、DEAE-セファデックスA-50カラム、オクチルセファロースCL-4Bカラム(φ16 X 300 mm)、フェニルセファロースCL-4B カラム(φ16 x 150 mm)で精製を行った。
精製されたアミノアシラーゼをプロテインシークエンサーに供したところ、N末端アミノ酸配列としてSERPXTTLLRNGDVHSPADPF(Xは不明)(配列番号6)が得られた。得られたN末端アミノ酸配列の21残基についてNCBI protein-protein BLASTを用いて相同性検索を行ったところ、仮想タンパク質SCO1424 (S.セリカラー A3 (2), NP_625706)のN末端アミノ酸配列と81%の相同性を有することが明らかとなった。
【0038】
2.Sm-ELA遺伝子のクローニング
N末端アミノ酸解析で得られた配列LLRNGDVHSに基づき、プライマー1(5’-CTGCTGCGCAACGGCGACGTCCACA-3’)(配列番号7)を設計した。また、SCO1424の内部配列(443-467 bp)より、プライマー2(5’-ACGACGGCCGAGTGGACGTCGATCC-3’)(配列番号8)を設計した。
S.モバラエンシスIFO13819株のゲノムDNAを鋳型にし、プライマー1および2を用いてPCR増幅を行った。
【0039】
PCRの条件は以下の通り
<PCR 溶液の調製>
Advantage-GC 2 PCR Kit(Clontech)を使用。
H2O 12 μl, PCRバッファー 4 μl, GC Melt 2 μl, dNTPs 0.4 μl,Taq ポリメラーゼ 0.4 μl, 10 μM の各プライマー 0.4 μl、 10 μg/ml 鋳型DNA 0.4μl, 総量 20μl
<PCR 反応条件>
Cycle 1 (x1) 95℃; 5 分間
Cycle 2 (x30) 95℃; 0.5分間, 60℃; 1分間, 72℃; 1分間
Cycle 3 (x1) 72℃; 10分間, 4℃; ∞
(総量 20 μL)
【0040】
得られたDNA断片0.43 kbpとpUC118 HincII/BAP(TAKARA) とをライゲーションし、E.coli DH5αを形質転換した。形質転換体は40 mg/l X-gal、0.1 mM IPTG、50 mg/l アンピシリンを含むLB寒天培地上で選択した。目的のDNA断片を保有する形質転換体からプラスミドを抽出し、挿入されたDNA断片のヌクレオチド配列を確認した。
プライマー1、2を用いたPCR増幅で得られたヌクレオチド配列より、プライマー3(5’-ACGAGGTGATCGACCTCCAGGGCGC-3’)(配列番号9)を設計した。また、SCO1424の内部配列 (1142-1166 bp)より、プライマー4(5’-TACATGCCGTCCTCGCCGCCCCAGA-3’)(配列番号10)を設計した。
S.モバラエンシスIFO13819株のゲノムDNAを鋳型にし、プライマー3、4を用いてPCR増幅を行った。PCRの条件はプライマー1および2を使用したPCR条件と同じである。得られたDNA断片1.1 kbpとpUC118 HincII/BAPとをライゲーションし、E.coli DH5αを形質転換した。形質転換体は40 mg/l X-gal、0.1 mM IPTG、50 mg/l アンピシリンを含むLB寒天培地上で選択した。目的のDNA断片を保有する形質転換体からプラスミドを抽出し、挿入されたDNA断片のヌクレオチド配列を確認した。
プライマー3および4を用いたPCR増幅で得られたヌクレオチド配列より、プライマー5(5’-TCTCGCTGGGCATCGGCTCGGTGCA-3’)(配列番号11)及びプライマー6(5’-CAGGCCGGTGGCAGTGGTGTGCACA-3’)(配列番号12) を設計した。また、抽出したプラスミドとプライマー3および4、及びPCR DIG Labeling Mix (Roche)を用いてPCR増幅を行い、1.1 kbpのDIG標識されたDNAプローブを得た。
【0041】
PCRの条件は以下の通り。
<PCR 溶液の調製>
Advantage-GC 2 PCR Kit (Clontech) を使用。
H2O 52.5 μl, PCR バッファー20 μl, GC Melt 10 μl, PCR DIG Labeling Mix (Roche) 10 μl,Taq ポリメラーゼ 2 μl, 10 μM の各プライマー 2 μl, , 100 ng/μl 鋳型 1.5 μl, 総量 100 μl
<PCR 反応条件>
Cycle 1 (x1) 95℃; 5 分間
Cycle 2 (x30) 95℃; 0.5分間, 60℃; 1分間, 72℃; 1分間
Cycle 3 (x1) 72℃; 10分間, 4℃; ∞
【0042】
S.モバラエンシス IFO13819株のゲノムDNAをNdeI, SpeI, XbaI, BssHII及びMluIでそれぞれ処理し、1.4%のアガロースゲルを用いて電気泳動を行った。これをHybond-N+(GE Healthcare)に転写し、DIG標識したプローブを用いてサザンハイブリダイゼーションを行った。その結果、MluIで断片化したゲノムDNAにおいて、およそ2 kbpに強いシグナルが見られた。そこで、ゲノムDNAをMluIで処理し得られたDNA断片2 kbpをセルフライゲーションし、そのライゲーション溶液を鋳型にし、プライマー5および6を用いてPCR増幅を行った。
【0043】
PCRの条件は以下の通り。
<PCR 溶液の調製>
AdvantageTM-GC 2 PCR Kit(Clontech)を使用。
H2O 25μl, PCR バッファー 10μl, GC Melt 5 μl, dNTPs 1 μl, Taq ポリメラーゼ 1 μl, 10 μMの各プライマー 1 μl 鋳型 6 μl
(総量 50 μL)
<PCR 反応条件>
Cycle 1 (x1) 95 ℃; 5 分間
Cycle 2 (x5) 95 ℃; 0.5 分間, 72 ℃; 3 分間
Cycle 3 (x5) 95 ℃; 0.5 分間, 65 ℃; 1 分間, 72 ℃; 3 分間
Cycle 4 (x25) 95 ℃; 0.5 分間, 60 ℃; 1 分間, 72 ℃; 3 分間
Cycle 5 (x1) 72 ℃; 10 分間, 4 ℃; ∞
【0044】
得られた約2 kbpのDNA断片とpT7Blue T-vector(Novagen)とをライゲーションし、E.coli DH5αを形質転換した。形質転換体は40 mg/l X-gal、0.1 mM IPTG、50 mg/l アンピシリンを含むLB寒天培地上で選択した。目的のDNA断片を保有する形質転換体からプラスミドを抽出し、挿入されたDNA断片のヌクレオチド配列を確認した。
【0045】
プライマー5および6を用いたPCR増幅で得られたヌクレオチド配列より、プライマー7(5’-AACGCGGCGATGTGCTCGGGCGTGA-3’)(配列番号13)及びプライマー8(5’-CGCGTCTCGGTGCGTGCGGCCTTCA-3’)(配列番号14)を設計した。さらに、抽出したプラスミドとプライマー5、7及びPCR DIG Labeling Mix(Roche)を用いてPCR増幅を行い、0.5 kbpのDIG標識されたDNAプローブを得た。PCR条件はプライマー3および4を用いた場合と同じである 上記と同様にして、S.モバラエンシス IFO13819株のゲノムDNA をNcoIで処理し、0.5 kbpのDIG標識されたプローブを用いてサザンハイブリダイゼーションを行った。その結果、およそ1.8 kbpに強いシグナルが見られた。そこで、ゲノムDNAをNcoIで処理し得られた1.8 kbpのDNA断片をセルフライゲーションし、そのライゲーション溶液を鋳型にして、プライマー7、8を用いてPCR増幅を行った。PCRの条件はプライマー5と6の組合せで用いたものと同じである。得られた約1.5 kbpのDNA断片とpT7Blue T-vectorとでライゲーションを行い、E.coli DH5αを形質転換した。形質転換体は40 mg/l X-gal、0.1 mM IPTG、50 mg/l アンピシリンを含むLB寒天培地上で選択した。目的のDNA断片を保有する形質転換体からプラスミドを抽出し、挿入されたDNA断片のヌクレオチド配列を確認した。
これらの結果より、Sm-ELA遺伝子のORF全長及び周辺のヌクレオチド配列が明らかとなったので、ORF上流領域の配列よりプライマー9(5’-GCGCCGCACGGGCTGGATCAACCAC-3’)(配列番号15)を、下流領域の配列よりプライマー10(5’-TCAGTGCGGAGGGGGTGACGCAGCG-3’)(配列番号16)を設計した。S.モバラエンシス IFO13819株のゲノムDNAを鋳型にして、プライマー9および10を用いてPCR増幅を行い、得られた1.6 kbpのDNA断片とpUC118 HincII/BAPとをライゲーションし、E.coli DH5αを形質転換した。PCRの条件は以下の通り。
【0046】
<PCR 溶液の調製>
KOD plus DNA ポリメラーゼ(Toyobo)を使用。
H2O 51.6 μl, PCRバッファー 10 μl, dNTPs 10μl, MgSO4 8μl, KOD plus 2 μl, 10 μM の各プライマー6 μl、鋳型 1.4 μl, DMSO 5 μl, 総量100μl
<PCR 反応条件>
Cycle 1 (x1) 95 ℃; 5 分間
Cycle 2 (x5) 95 ℃; 0.5分間, 72 ℃; 2分間
Cycle 3 (x5) 95 ℃; 0.5分間, 65 ℃; 1分間, 72 ℃; 2分間
Cycle 4 (x25) 95 ℃; 0.5分間, 60 ℃; 1分間, 72 ℃; 2分間
Cycle 5 (x1) 72 ℃; 10分間, 4℃; ∞
【0047】
形質転換体は40 mg/l X-gal、0.1 mM IPTG、50 mg/l アンピシリンを含むLB寒天培地上で選択した。目的のDNA断片を保有する形質転換体からプラスミドを抽出し、挿入されたDNA断片のヌクレオチド配列を確認した。このヌクレオチド配列を配列番号1に示す。このDNA断片はSm-ELA遺伝子のオープンリーディングフレーム全長を含んでいた。この断片にコードされるSm-ELAのアミノ酸配列を配列番号2に示す。オープンリーディングフレーム(ORF)のヌクレオチド配列は配列番号番号3に示す。得られたプラスミドをpUC118-SmELAと命名した。
用いたプライマーとSm-ELA遺伝子との位置関係は図3に示すとおり。
【実施例2】
【0048】
Sm-ELAのE.coliにおける生産
1.Sm-ELA E.coli発現株の作製
Sm-ELA遺伝子のヌクレオチド配列より、プライマーSmELA-Nde-f(5’-catATGAGCGAGCGCCCCCGAACCACCC-3’)(配列番号17)及びプライマーSmELA-Hind-r(5’-aagctTCAGGCGGCGTACACGGTGCGTCCG-3’)(配列番号18)を設計した。pUC118-SmELAを鋳型として、これらのプライマーを用いてPCR増幅を行った。
【0049】
PCRの条件は以下の通り。
<PCR 溶液の調製>
KOD -Plus- Ver.2(Toyobo)を使用。
H2O 32 μl, PCR バッファー 5 μl, dNTPs 5 μl, MgSO4 3 μl, KOD-Plus- 1 μl, 10 μMの各プライマー1.5μl, 100 ng/μl DNA (鋳型) 1 μl, 総量50 μl
<PCR 反応条件>
Cycle 1 (x1) 94 ℃; 2 分間
Cycle 2 (x25) 98 ℃; 10秒間, 55 ℃; 10秒間、68℃:2分間、
Cycle 3 (x1) 68 ℃; 2分間,4℃;∞
【0050】
得られた1.6 kbpのDNA断片とpTA2(TArget Clone -Plus-, Toyobo)とをライゲーションし、E.coli JM109を形質転換した。形質転換体は40 mg/l X-gal、0.1 mM IPTG、100 mg/l アンピシリンを含むLB寒天培地上で選択した。目的のDNA断片を保有する形質転換体からプラスミドを抽出し、挿入されたDNA断片のヌクレオチド配列を確認したところ、Sm-ELA遺伝子のORF全長及び付与したNdeI、HindIII認識部位が含まれていた。得られたプラスミドをNdeI、HindIIIで処理し、Sm-ELA遺伝子を含む1.6 kbpのDNA断片を得た。JP 2005278468 A(特開2005-278468)、光学活性アミノ酸の製造方法、実施例1、第0064欄に記載のベクターpTrp2をNdeI、HindIIIで処理し、これとSm-ELA遺伝子を含むDNA断片とをライゲーションし、E.coli JM109を形質転換した。形質転換体は100 mg/lアンピシリンを含むLB寒天培地上で選択した。pTrp2にSm-ELA遺伝子が挿入された構成のプラスミドをpTrp2-SmELAと命名し、このプラスミドを保持する形質転換体をE.coli JM109/pTrp2-SmELA株とした。
【0051】
2.E.coliを用いたSm-ELAの発現
100 mg/lアンピシリンを含むTB培地50 mlを入れた500 ml容坂口フラスコにE.coli JM109/pTrp2-SmELA株を1白金耳分植菌し、37℃で16時間振とう培養した。遠心分離により培養液から菌体を回収し、20 mM Tris-HCl(pH 7.6)で洗浄し、20 mM Tris-HCl(pH 7.6) 10mlに懸濁し、洗浄菌体として使用した。この洗浄菌体を破砕せずにそのまま用いてNε-アセチル-L-リジンの分解活性を測定したところ、培養液1mlに相当する洗浄菌体量あたり約6.0 Uの活性を有しており、WO2006/088199 A1で報告された、S.モバラエンシスIFO13819株の培養上清1 mlに含まれる活性1.4 Uの約4.3倍に達することが明らかとなった。E.coli JM109/pUC18株の洗浄菌体を用いた場合には活性は検出されなかった。
活性測定は、Nε-アセチル-L-リジン 4 mM、Tris-HCl 50 mM(pH 8.0)、37℃で行い、Nε-アセチル-L-リジンの分解に伴い生成するリジンの濃度を測定した。リジンの測定にはWO2006/088199に記載されている酸性ニンヒドリン法を用いた。1 Uは、1時間あたり1 μmolのリジンをNε-アセチル-L-リジンより遊離させる酵素量と定義した。
【実施例3】
【0052】
E.coli JM109/pTrp2-SmELA株の洗浄菌体によるNε-ラウロイル-L-リジンの合成
100 mg/l アンピシリンを含むTB培地50 mlを張り込んだ500 ml容坂口フラスコにE.coli JM109/pTrp2-SmELA株を1白金耳分植菌し、37℃で16時間振とう培養した。遠心分離により、培養液から菌体を回収し、20 mM Tris-HCl(pH 7.6) 10 mlに懸濁した。
終濃度がラウリン酸10 mM、L-リジン塩酸塩100 mM、Tris-HCl50 mM、洗浄菌体6.0 U/mlとなるよう反応溶液50 mlを調製し、200 ml容ミニジャーファーメンターを用いて500 rpmにて攪拌し、Nε-ラウロイル-L-リジン合成反応を行った。pHは7.0となるよう2N NaOHで調整し、反応液の温度は37℃となるよう調整した。
24時間後に反応液を全量回収し、遠心分離を行った。上清を除去した後、沈殿にメタノールと6N HClを加え、沈殿を溶解させた。この溶液を遠心分離し、上清を回収した。上清に6N NaOHを加え、pH 6.5-7.5となるよう調整してNε-ラウロイル-L-リジンを析出させた。反応液を遠心分離し、上清を除去した後、沈殿に水を加え懸濁した。懸濁物を遠心分離し、上清を除去した後、沈殿にメタノールを加え懸濁した。ろ紙を用いてこの懸濁液を吸引ろ過した。ろ紙上の粉体を乾燥させ重量を測定したところ93.3 mgであった。この粉体中のNε-ラウロイル-L-リジン純度をHPLCで測定したところ92.1%であった。従ってNε-ラウロイル-L-リジンが85.9 mg(0.262 mmol)得られていることが明らかとなった。収率はラウリン酸を基準として52.3%であった。
HPLC分析は、カラムYMC-Pack A-312 ODS、6.0 x 150 mm(YMC)、移動層0.1 M NaH2PO4/MeOH = 2/8、UV 210 nmで行った。
【実施例4】
【0053】
S.リビダンスにおけるSm-ELAの生産
1.Sm-ELAを発現するS.リビダンスの作製
放線菌高コピーベクターpIJ702(Cloning and expression of the tyrosinase gene from Streptomyces antibioticus in Streptomyces lividans. Katz E, Thompson CJ, Hopwood DA. J Gen Microbiol. 1983, 129, 2703-14.)と大腸菌(E.coli)高コピーベクターpUC19を連結させて放線菌-大腸菌シャトルベクターpUC702を構築した。まず、pIJ702をPstI、SacIで処理し、さらに平滑化した。次に、pUC19をNdeIで処理し、さらに平滑化した。これらのDNA断片をライゲーションし、ライゲーション溶液を用いてE.coli JM109を形質転換した。形質転換体は100 mg/l アンピシリンを含むLB寒天培地上で選択した。形質転換体からプラスミドを抽出し、pUC19のマルチクローニングサイトがpIJ702のPstI認識部位側に存在するプラスミドを取得し、これをpUC702と命名した。
S.リビダンスにおけるSm-ELA発現のために、SSIプロモーターの利用を試みた。ストレプトミセス・アルボグリセオルスS-3253株由来SSI遺伝子を含む約1.8 kbpのDNA断片がpBR322に挿入されたプラスミドであるpSI30(High-level expression in Streptomyces lividans 66 of a gene encoding Streptomyces subtilisin inhibitor from Streptomyces albogriseolus S-3253. Obata S, Furukubo S, Kumagai I, Takahashi H, Miura K. J Biochem. 1989, 105, 372-6.)を鋳型にして、プライマーSSIHindF(5’-CGAAGCTTGCGGGGTGTTCGGAGATGA-3’)(配列番号19)とプライマーSSIMTGR(5’- CGTTGAACGCGGCCGTGCGGCCCGTGCTCGGTGTGT-3’)(配列番号20)を用いてPCR増幅を行った。PCR条件は以下の通りである。
【0054】
<PCR 溶液の調製>
Pyrobest DNA ポリメラーゼ (TAKARA) を使用。
H2O 18.8 μl, PCR バッファー 5 μl, dNTPs 4 μl, Pyrobest DNA ポリメラーゼ0.2 μl, 1 mMの各プライマー10 μl, 20 ng/μl DNA (鋳型) 2 μl, 総量50 μl
<PCR 反応条件>
Cycle 1 (x1) 94℃; 5 分間
Cycle 2 (x25) 98℃; 10 秒間, 60℃; 0.5分間, 72℃; 3 分間
Cycle 3 (x1) 4℃; ∞
【0055】
得られた0.3 kbpのDNA断片にはSSIプロモーター領域が含まれる。次に、pUMTG5(Secretion of active-form Streptoverticillium mobaraense transglutaminase by Corynebacterium glutamicum: processing of the pro-transglutaminase by a cosecreted subtilisin-Like protease from Streptomyces albogriseolus. Kikuchi Y, Date M, Yokoyama K, Umezawa Y, Matsui H. Appl Environ Microbiol. 2003, 69, 358-66.)を鋳型にして、S.モバラエンシス 由来PMTG(microbial pro-transglutaminase)遺伝子の一部をPCR増幅した。
【0056】
プライマーはSSIMTGF(5’-GCACCACCGAGCACGGGCCGCACGGCCGCGTTCAACG-3’)(配列番号21)及びMTGSACR(5’-GACGAGAGCTCTCCGGCGTATGCGCATGGA-3’)(配列番号22)を用いた。PCR条件はプライマーSSIHindF, SSIMTGRを用いたPCRと同じである。
得られた90 bpのDNA断片には、PMTG遺伝子の開始コドンから50 bp程度上流〜開始コドンから20 bp程度下流までが含まれる。このようにして得られた0.3 kbpと90 bpのDNA断片を鋳型にして、クロスオーバーPCRをプライマーSSIHindFとプライマーMTGSACRを用いて行った。PCR条件は以下の通りである。
【0057】
Pyrobest DNAポリメラーゼ(TAKARA)を使用。
H2O 18.8 μl, PCR バッファー 5 μl, dNTPs 4 μl, Pyrobest DNA ポリメラーゼ 0.2 μl, 1 mM の各プライマー10 μl, 20 ng/μl DNA (鋳型) それぞれ1μl, 総量50 μl
<PCR 反応条件>
Cycle 1 (x1) 94℃; 5 分間
Cycle 2 (x25) 98℃; 10 秒間, 60℃; 0.5分間, 72℃; 3分間
Cycle 3 (x1) 4℃; ∞
【0058】
得られたDNA断片をHindIII、SacIで処理し、HindIII、SacIで処理しておいたpUC19とライゲーションを行った。このライゲーション溶液を用いてE.coli JM109を形質転換し、100 mg/lアンピシリンを含むLB寒天培地上で形質転換体を選択した。形質転換体からSSIプロモーターとPMTG遺伝子の一部が連結したDNA断片がpUC19に挿入された目的のプラスミドを抽出した。
PMTG遺伝子の開始コドンから20 bp下流以降の配列は、S.モバラエンシスIFO13819ゲノムDNAのSacI断片が挿入されているpUITG (WO/2002/081694) から得られる。pUITGをSacIで処理し、同様にSacIで処理した上述のプラスミドとのライゲーションを行った。このライゲーション溶液を用いてE.coli JM109を形質転換し、100 mg/lアンピシリンを含むLB寒天培地上で形質転換体を選択した。形質転換体からSSIプロモーターとPMTG遺伝子全長が連結したDNA断片がpUC19に挿入された目的のプラスミドを抽出した。このプラスミドをpSSI-PMTG19と命名し、HindIII、EcoRIで処理、同様にHindIII、EcoRIで処理したpUC702とのライゲーションを行った。このライゲーション溶液を用いてE.coli JM109を形質転換し、100 mg/lアンピシリンを含むLB寒天培地上で形質転換体を選択した。形質転換体から、SSIプロモーターとPMTG遺伝子全長とが連結したDNA断片がpUC702に挿入された構成のプラスミドを抽出した。このプラスミドをpUC702-PMTGと命名し、S.リビダンスTK21を形質転換した。形質転換体S.リビダンス TK21/pUC702-PMTGを、チオストレプトン20 mg/lを含むTSB (Tryptic Soy Broth)培地で培養することによりS.モバラエンシス由来PMTGの発現が可能である(Unpublished)。
S.リビダンスTK24においてSm-ELAを発現させるため、SSIプロモーターとSm-ELA遺伝子が連結したDNA断片をpUC702に挿入してpUC702-SmELAを構築した。まず、pSSI-PMTG19を鋳型とし、プライマーHind-SSI-f(5’-agcccAAGCTTgcggggtgttcggagatgac-3’)(配列番号23)及びプライマーSSI-SmELA-r(5’-GGAGGGTGGTTCGGGGGCGCTCGCTCATggaaacctgcaactcctttgtc-3’)(配列番号24)を用いてPCR増幅を行い、SSIプロモーターが含まれる0.4 kbpのDNA断片を得た。PCRの条件は以下の通り。
【0059】
KOD -Plus- Ver.2 (Toyobo) を使用。
H2O 32 μl, PCR バッファー5 μl, dNTPs 5 μl, MgSO4 3 μl, KOD-Plus- 1 μl, 10 μMの各プライマー1.5 μl, 100 ng/μl DNA (鋳型) 1 μl, 総量50 μl
<PCR 反応条件>
Cycle 1 (x1) 94℃; 2 分間
Cycle 2 (x25) 98℃; 10 秒間, 55℃; 10秒間, 68℃; 0.5分間
Cycle 3 (x1) 68℃; 0.5分間, 4℃; ∞
【0060】
次に、pUC118-SmELAを鋳型にして、プライマーSSI-SmELA-f (5’-gacaaaggagttgcaggtttccATGAGCGAGCGCCCCCGAACCACCCTCC-3’)(配列番号25)及びプライマーSmELA-EcoRI-r (5’-CGGAATTCTCAGGCGGCGTACACGGTGCGTCCG-3’)(配列番号26) を用いてPCR増幅を行い、Sm-ELA遺伝子が含まれる1.6 kbpのDNA断片を得た。PCR条件は以下の通りである。
【0061】
<PCR 溶液の調製>
KOD -Plus- Ver.2 (Toyobo) を使用。
H2O 32 μl, PCR バッファー 5 μl, dNTPs 5 μl, MgSO4 3 μl, KOD-Plus- 1 μl, 10 μMの各プライマー 1.5 μl, 100 ng/μl DNA (鋳型) 1 μl, 総量50 μl
<PCR 反応条件>
Cycle 1 (x1) 94℃; 2 分間
Cycle 2 (x25) 98℃; 10 秒間, 55℃; 10 秒間, 68℃; 2 分間
Cycle 3 (x1) 68℃; 2 分間, 4℃; ∞
【0062】
このようにして得られた0.4 kbp、1.6 kbpのDNA断片を鋳型として、クロスオーバーPCRをプライマーHind-SSI-f及びプライマーSmELA-EcoRI-rを用いて行った。PCR条件は以下の通りである。
【0063】
KOD -Plus- Ver.2 (Toyobo)を使用。
H2O 32 μl, PCRバッファー 5 μl, dNTPs 5 μl, MgSO4 3 μl, KOD-Plus- 1 μl, 10 μMの各プライマー1.5 μl, 100 ng/μl DNA (鋳型) それぞれ0.5 μl, 総量50 μl
<PCR 反応条件>
Cycle 1 (x1) 94℃; 2分間
Cycle 2 (x25) 98℃; 10 秒間, 55℃; 10 秒間, 68℃; 2 分間
Cycle 3 (x1) 68℃; 2 分間, 4℃; ∞
【0064】
得られた2.0 kbpのDNA断片には、SSIプロモーター、PMTG遺伝子の上流部分及びSm-ELA遺伝子が連結した配列が含まれる。このDNA断片とpTA2(TArget Clone -Plus-, Toyobo) とをライゲーションし、ライゲーション溶液を用いてE.coli JM109を形質転換した。形質転換体は40 mg/l X-gal、0.1 mM IPTG、100 mg/l アンピシリンを含むLB寒天培地上で選択した。目的のDNA断片を保有する形質転換体からプラスミドを抽出し、挿入されたDNA断片のヌクレオチド配列を確認したところ、SSIプロモーター、PMTG遺伝子の上流部分及びSm-ELA遺伝子が含まれていた。得られたプラスミドをHindIII、EcoRIで処理し、Sm-ELA遺伝子を含む2.0 kbpのDNA断片を得た。このDNA断片とHindIII、EcoRIで処理したpUC702とをライゲーションし、ライゲーション溶液を用いてE.coli JM109を形質転換した。アンピシリン100 mg/lを含むLB寒天培地上で形質転換体を選択し、目的のプラスミドpUC702-SmELAを抽出した。
S.リビダンス TK24をpUC702-SmELAを用いて形質転換した。形質転換体はチオストレプトン耐性を指標として、R2YE寒天培地(DNA cloning in Streptomyces : resistance genes from antibiotic-producing species. Thompson CJ, Ward JM, and Hopwood DA. Nature, 1980, 286, 525-27.)上で選択した。pUC702-SmELAを保持する株をS.リビダンス TK24/pUC702-SmELA株と命名した。同様にしてpUC702を用いて形質転換を行い、得られた株をS.リビダンス TK24/pUC702株と命名した。
【0065】
2.S.リビダンスによるSm-ELAの発現
チオストレプトンを20 mg/l含むTSB培地30 mlにS.リビダンスTK24/pUC702-SmELA株を接種し、30℃で3日間振とう培養を行った。得られた培養液1 mlを、チオストレプトン20 mg/lを含むTSB培地75 mlに添加し、30℃で振とうしながら本培養を行った。同様にしてS.リビダンスTK24/pUC702株の培養を行った。本培養開始6日後に培養液を取り出し、遠心分離により培養液から菌体を回収した。得られた湿菌体6 gを10 mM Tris-HCl(pH 7.5)で洗浄後、80 mlの50 mM Tris-HCl(pH 8.0) に懸濁した。得られた菌体を超音波破砕後、遠心分離を行い、可溶性画分と不溶性画分を得た。得られた可溶性画分と不溶性画分をSDS-PAGEに供した。その結果、S.リビダンスTK24/pUC702-SmELA株の可溶性画分にSm-ELAの分子量に相当するバンドが検出された。可溶性画分のNε-アセチル-L-リジンの分解活性を測定したところ、培養液1 mlに相当する可溶性画分量あたり210 Uの活性を有していた。
また、培養上清に含まれるNε-アセチル-L-リジン分解活性を測定したところ、培養液1 mlあたり200 Uの活性を有していた。S.モバラエンシスIFO13819株を培養した場合も、培養上清にSm-ELA活性が検出された(WO2006/088199 A1)。今回、Sm-ELA遺伝子の配列を決定したところシグナル配列の存在が認められなかったため、S.モバラエンシスIFO13819株を培養した場合に確認された培養上清中のSm-ELAは、分泌されたのではなく菌体外に漏出したものである可能性が考えられる。S.リビダンスTK24/pUC702-SmELA株の培養上清pHを測定したところ、培養が進むにつれpHの上昇がみられたため(表1)、溶菌によりSm-ELAが培養液に漏出した可能性が示唆された。
【0066】
表1.S.リビダンスTK24/pUC702-SmELA株の培養上清のpH変化
【0067】
菌体内、培養上清に含まれるNε-アセチル-L-リジン分解活性を合計すると、培養液1 mlあたりの活性は410 Uとなり、WO2006/088199 A1で報告されたS.モバラエンシスIFO13819株の培養液1 mlに含まれる活性1.4 Uの約300倍に達することが明らかとなった。S.リビダンスTK24/pUC702株の可溶性画分及び培養上清を用いた場合には、活性は検出されなかった。
活性測定は、Nεアセチル-L-リジン 4 mM、Tris-HCl 50 mM(pH 8.0)、37℃で行い、Nε-アセチル-L-リジンの分解に伴い生成するリジンの濃度を測定した。リジンの測定にはWO2006/088199 A1で用いられている酸性ニンヒドリン法を用いた。1 Uは、1時間あたり1 μmolのリジンをNεアセチル-L-リジンより遊離させる酵素量と定義した。
【実施例5】
【0068】
S. リビダンスTK24/pUC702-SmELA株からのSm-ELAの精製
S.リビダンスTK24/pUC702-SmELA株を培養して得られた菌体抽出液を0.22 mmフィルターを用いてろ過し、250 mM NaClを含む50 mM Tris-HCl(pH 8.0) に対して透析を行った。得られた溶液をPhenyl Sepharose CL-4Bカラム(15 x 1.6 cm)に供し、NaCl濃度を250 mMから0 mMまで直線的に変化させて、0.25 ml/minの流速でSm-ELAを溶出させた。Nε-アセチル-L-リジン分解活性を有する画分を回収し、50 mM Tris-HCl(pH 8.0) に対して透析を行った。
S.リビダンスTK24/pUC702-SmELA株を培養して得られた培養上清をVivaspin 20(Sartorius AG, Goettingen, Germany)を用いて濃縮した。得られた溶液を250 mM NaClを含む25 mM Tris-HCl(pH 8.0)に対して透析後、Phenyl Sepharose CL-4Bカラム(15 x 1.6 cm)に供し、菌体抽出液からのSm-ELA精製と同様にして精製を行った。
得られた精製Sm-ELAのNε-アセチル-L-リジン分解活性を測定したところ、菌体抽出液からの精製Sm-ELAは2800 U/mg、培養上清からの精製Sm-ELAは2500 U/mgの活性を示した。今回の結果は、WO2006/088199 A1で報告されたS.モバラエンシス IFO13819株培養液から得られた精製Sm-ELAの活性 3370 U/mg とほぼ同様な結果を示した。
活性測定は、Nε-アセチル-L-リジン4 mM、Tris-HCl 50 mM(pH 8.0)、37℃で行い、Nε-アセチル-L-リジンの分解に伴い生成するリジンの濃度を測定した。リジンの測定にはWO2006/088199 A1で用いられている酸性ニンヒドリン法を用いた。1 Uは、1時間あたり1 μmolのリジンをNε-アセチル-L-リジンより遊離させる酵素量と定義した。
また、菌体抽出液から精製したSm-ELAのN末端アミノ酸配列を解析した結果、SERPRの配列が得られ、S.モバラエンシス IFO13819株培養液からの精製Sm-ELAのN末端アミノ酸配列と一致した。
【実施例6】
【0069】
Sm-ELAを発現するS.リビダンスの菌体抽出物および洗浄菌体によるNε-ラウロイル-L-リジンの合成
チオストレプトンを20 mg/l含むTSB培地30 mlにS.リビダンスTK24/pUC702-SmELA株を接種し、30℃で3日間振とう培養を行った。得られた培養液1.5 mlを、チオストレプトン20 mg/lを含むTSB培地75 mlに添加し、30℃で振とうして本培養を行った。本培養開始6日後に培養液を取り出し、遠心分離により培養液から菌体を回収し、10 mM Tris-HCl(pH 7.5) で洗浄した。得られた菌体を最終的に100 mM Tris-HCl(pH 8.0)15 mlに懸濁して洗浄菌体として使用した。また、得られた洗浄菌体を超音波破砕後に、遠心分離を行い、上清を得た。この上清を菌体抽出液とした。菌体抽出液に含まれるNε-アセチル-L-リジン分解活性を測定したところ、培養液1 mlに相当する菌体抽出液量あたり284 Uの活性を有していた。また、洗浄菌体を用いて活性測定を行ったところ、培養液1 mlに相当する洗浄菌体量あたり53 Uの活性が検出された。
100 mM Tris-HCl(pH 7.0)20 ml中に、終濃度でラウリン酸を25 mM、L-リジン塩酸塩を500 mM、菌体抽出液を200 U/mlとなるように添加し、攪拌しながらNε-ラウロイル-L-リジン合成反応を行った。pHは7.0となるよう4 N NaOHで調整し、反応液の温度は37℃となるよう調整した。この反応溶液には、培養液14 ml分の菌体抽出液が含まれる。洗浄菌体を酵素源として用いた合成反応は、培養液14 mlから得られる洗浄菌体を反応液に添加して反応を行った。
反応中、経時的に反応液のサンプリングを行い、反応液中のラウリン酸濃度をHPLCで定量、反応率を算出した。その結果、菌体抽出液を用いた場合には2時間後、洗浄菌体を用いた場合には4時間後にラウリン酸がすべて消費されており、Nε-ラウロイル-L-リジン合成が行われたと考えられた(図4)。
HPLC分析は、カラムYMC-Pack C-8 A-202(4.6 x 150 mm, YMC)、移動相0.075% H3PO4を含む80% MeOH、UV 210 nmで行った。
【実施例7】
【0070】
Sm-ELAを発現するS.リビダンスの菌体抽出液によるNε-ラウロイル-L-リジンの高濃度合成反応
先ず、チオストレプトンを20 mg/l含むTSB培地30 mlにS.リビダンス TK24/pUC702-SmELA株を接種し、30℃で3日間振とう培養を行った。得られた培養液1.5 mlを、チオストレプトン20 mg/lを含むTSB培地75 mlに添加し、30℃で振とうしながら本培養を行った。本培養開始6日後に培養液を取り出し、遠心分離により培養液から菌体を回収した。回収した菌体を10 mM Tris-HCl(pH 7.5)で洗浄した。得られた菌体 (湿重量7.2 g)を100 mM Tris-HCl (pH 8.0)40 mLに懸濁し、超音波破砕を行った。その後、遠心分離を行い、得られた上清を菌体抽出液とした。菌体抽出液のNε-アセチル-L-リジンの分解活性を測定したところ、培養液1 mlに相当する可溶性画分量あたり153 Uの活性を示した。
100 mM Tris-HCl(pH 7)バッファー25 mL中に、終濃度でL-リジン塩酸塩を500 mM、ラウリン酸を50, 100及び250 mM、菌体抽出液を200 U/mLとなるように添加し、攪拌しながらNε-ラウロイル-L-リジン合成反応を行った。反応中、pHは7.0となるよう4 N NaOHで調整した。反応液の温度は37℃に調節した。
反応液を経時的にサンプリングした。反応液中のラウリン酸濃度をHPLC分析により、リジン濃度を酸性ニンヒドリン法により定量し、反応率を算出した。その結果、50 mM および100 mM ラウリン酸を用いた場合、それぞれ反応6時間および9時間で反応収率がほぼ100% に達した。また、250 mMラウリン酸を用いた場合、反応24時間でおよそ90%の収率でNε-ラウロイル-L-リジンが得られた(図5)。
HPLC分析は、カラムとしてYMC-Pack C-8 A-202 、4.6 x 150 mm(YMC)、移動相として0.075% H3PO4を含む80% MeOH、UV 210 nmで行った。
【実施例8】
【0071】
コリネバクテリウム・グルタミカム(C.グルタミカム)によるSm-ELAの生産
1.Sm-ELAを発現するC.グルタミカムYDK010株の作製
pUC118-SmELAを鋳型として、プライマーCspB-SmELA-f(5’-tattcaaggagccttcgcctctATGAGCGAGCGCCCCCGAACCACCCTCC-3’)(配列番号27)及びプライマーSmELA-delBam-r(5’-GTGCCCCAGCAGGATgCGGTCACCCGGCCG-3’)(配列番号28)を用いてPCR増幅を行い、0.3 kbpのDNA断片を得た。PCRの条件は以下の通りである。
【0072】
<PCR 溶液の調製>
KOD -Plus- Ver.2 (Toyobo)を使用。
H2O 32 μl, PCRバッファー 5 μl, dNTPs 5 μl, MgSO4 3 μl, KOD-Plus- 1 μl, 10 μMの各プライマー1.5 μl, 100 ng/μl DNA (鋳型) 1 μl, 総量50 μl
<PCR 反応条件>
Cycle 1 (x1) 94℃; 2 分間
Cycle 2 (x25) 98℃; 10 秒間, 55℃; 10 秒間, 68℃; 0.5 分間
Cycle 3 (x1) 68℃; 0.5 分間, 4℃; ∞
【0073】
同様にして、プライマーSmELA-delBam-f(5’- CGGCCGGGTGACCGcATCCTGCTGGGGCAC-3’)(配列番号29)及びプライマーSmELA-Bam-r(5’- cgcggatccTCAGGCGGCGTACACGGTGCGTCCG-3’)(配列番号30)を用いてPCR増幅を行い、1.3 kbpのDNA断片を得た。PCRの条件は以下の通りである。
【0074】
<PCR 溶液の調製>
KOD -Plus- Ver.2 (Toyobo) を使用。
H2O 32 μl, PCR バッファー 5 μl, dNTPs 5 μl, MgSO4 3 μl, KOD-Plus- 1 μl, 10 μMの各プライマー 1.5 μl, 100 ng/μl DNA (鋳型) 1 μl, 総量50 μl
<PCR 反応条件>
Cycle 1 (x1) 94℃; 2 分間
Cycle 2 (x25) 98℃; 10 秒間, 55℃; 10 秒間, 68℃; 1.5 分間
Cycle 3 (x1) 68℃; 0.5 分間, 4℃; ∞
【0075】
次に、これら2つのDNA断片を鋳型にしてクロスオーバーPCRを、プライマーCspB-SmELA-f及びプライマーSmELA-Bam-rを用いて行い、BamHI認識部位を消去したSm-ELA遺伝子を含む1.6 kbpのDNA断片を得た。PCRの条件は以下の通りである。
【0076】
<PCR 溶液の調製>
KOD -Plus- Ver.2 (Toyobo)を使用。
H2O 32 μl, PCR バッファー5 μl, dNTPs 5 μl, MgSO4 3 μl, KOD-Plus- 1 μl, 10 μMの各プライマー1.5 μl, 100 ng/μl DNA (鋳型) それぞれ0.5 μl, 総量 50 μl
<PCR 反応条件>
Cycle 1 (x1) 94℃; 2 分間
Cycle 2 (x25) 98℃; 10 秒間, 55℃; 10 秒間, 68℃; 2 分間
Cycle 3 (x1) 68℃; 2 分間, 4℃; ∞
【0077】
Sm-ELAの発現ベクターとしては、pPK4(特開平9-322774) を用いた。まず、pPK4にcspBプロモーター及びSec系分泌シグナル配列であるCspAシグナル配列を持つプロ構造部付きプロテイングルタミナーゼ遺伝子が挿入された構成のpPKSPTG1 (WO 01/23591)を鋳型にし、プライマーScaI-CspB-f(5’-attagctgatttagtacttttcggaggtgt-3’)(配列番号31) 及びプライマーCspB-r(5’-agaggcgaaggctccttgaataggtatcga-3’)(配列番号32)を用いてPCR増幅を行った。PCRの条件はプライマーCspB-SmELA-f, SmELA-delBam-rを用いたPCRと同じである。得られた0.6 kbpのDNA断片にはC.グルタミカムATCC 13869由来cspB遺伝子のプロモーター領域が含まれる。
このようにして得られた1.6 kbp、0.6 kbpのDNA断片2つを鋳型にしてクロスオーバーPCRを、プライマーScaI-CspB-f及びプライマーSmELA-Bam-rを用いて行い、2.2 kbpのDNA断片を得た。PCRの条件は、プライマーCspB-SmELA-f, SmELA-Bam-rを用いたPCRと同じである。このDNA断片とpTA2 (TArget Clone -Plus-, Toyobo)とをライゲーションし、E.coli JM109を形質転換した。形質転換体は40 mg/l X-gal、0.1 mM IPTG、100 mg/l アンピシリンを含むLB寒天培地上で選択した。目的のDNA断片を保有する形質転換体からプラスミドを抽出し、挿入されたDNA断片のヌクレオチド配列を確認したところ、目的どおりcspB遺伝子プロモーター領域とSm-ELA遺伝子が連結していた。得られたプラスミドをScaI、BamHIで処理し、同様にScaI、BamHIで処理したpPKSPTG1とライゲーションした。このライゲーション溶液を用いてE.coli JM109を形質転換し、形質転換体は25 mg/l カナマイシンを含むLB寒天培地上で選択した。目的の2.2 kbpのDNA断片が挿入された構成のプラスミドを抽出し、これをpPK-SmELAと命名した。pPK-SmELAは、pPK4にcspBプロモーター及びSm-ELA遺伝子が挿入された構成のプラスミドである。
【0078】
同様にして、pPK4にcspBプロモーター及びコリネバクテリウム・アンモニアゲネス(C. アンモニアゲネス) ATCC 6872 由来CspAシグナル配列が付与されたSm-ELA遺伝子が挿入された構成のプラスミドを構築した。まずBamHI認識部位を消去したSm-ELA遺伝子を含む1.6 kbpのDNA断片を鋳型にし、プライマーCspAsig-SmELA-f(5’-GCTGGCCGCACCTGTGGCAACGGCAAGCGAGCGCCCCCGAACCACCCTCC-3’)(配列番号33)及びプライマーSmELA-Bam-rを用いてPCR増幅を行った。PCRの条件は、プライマーCspB-SmELA-f, SmELA-Bam-rを用いたPCRと同じである。その結果、1.6 kbpのDNA断片が得られた。次に、pPKSPTG1を鋳型にし、プライマーScaI-CspB-f及びプライマーCspA-r(5’-TGCCGTTGCCACAGGTGCGGCCAGCATGGC-3’)(配列番号34)を用いてPCR増幅を行った。PCRの条件は、プライマーCspB-SmELA-f, SmELA-delBam-rを用いたPCRと同じである。
【0079】
得られた0.65 kbpのDNA断片にはC.グルタミカムATCC 13869由来cspB遺伝子のプロモーター領域及びC.アンモニゲネスATCC 6872 由来CspAシグナル配列が含まれる。
このようにして得られた1.6 kbp、0.65 kbpのDNA断片2つを鋳型にしてクロスオーバーPCRを、プライマーScaI-CspB-f及びプライマーSmELA-Bam-rを用いて行い、2.2 kbpのDNA断片を得た。PCRの条件はプライマーCspB-SmELA-f, SmELA-Bam-rを用いたPCRと同じである。
【0080】
このDNA断片とpTA2(TArget Clone -Plus-, Toyobo)とをライゲーションし、E.coli JM109を形質転換した。形質転換体は40 mg/l X-gal、0.1 mM IPTG、100 mg/l アンピシリンを含むLB寒天培地上で選択した。目的のDNA断片を保有する形質転換体からプラスミドを抽出し、挿入されたDNA断片のヌクレオチド配列を確認した。その結果、意図したとおりにcspB遺伝子プロモーター領域、CspAシグナル配列及びSm-ELA遺伝子が連結していることが確認された。得られたプラスミドをScaI、BamHIで処理し、同様にScaI、BamHIで処理したpPKSPTG1とライゲーションした。このライゲーション溶液を用いてE.coli JM109を形質転換し、形質転換体は25 mg/lカナマイシンを含むLB寒天培地上で選択した。目的の2.2 kbpのDNA断片が挿入された構成のプラスミドを抽出し、これをpPKS-SmELAと命名した。pPKS-SmELAでは、Sm-ELA遺伝子にSec系分泌シグナル配列であるCspAシグナル配列が付与されている。
同様にして、pPK4にcspBプロモーター及びE.coli W3110由来TorAシグナル配列が付与されたSm-ELA遺伝子が挿入された構成のプラスミドを構築した。まずBamHI認識部位を消去したSm-ELA遺伝子を含む1.6 kbpのDNA断片を鋳型にし、プライマーTorAsig-SmELA-f(5’-GTTAACGCCGCGACGTGCGACTGCGAGCGAGCGCCCCCGAACCACCCTCC-3’)(配列番号35)及びプライマーSmELA-Bam-r を用いてPCR増幅を行った。PCRの条件はプライマーCspB-SmELA-f, SmELA-Bam-rを用いたPCRと同じである。
その結果、1.6 kbpのDNA断片が得られた。次に、WO 02/081694記載の、TorAシグナル配列を持つプロ構造部付きプロテイングルタミナーゼの分泌発現プラスミドpPKT-PPGを鋳型にし、プライマーScaI-CspB-f及びプライマーTorAsig-r(5’-CGCAGTCGCACGTCGCGGCGTTAAC-3’)(配列番号36)を用いてPCR増幅を行った。PCRの条件は、プライマーCspB-SmELA-f, SmELA-delBam-rを用いたPCRと同じである。
【0081】
得られた0.65 kbpのDNA断片にはC.グルタミカム ATCC 13869由来cspB遺伝子のプロモーター領域及びE.coli W3110由来TorAシグナル配列が含まれる。
このようにして得られた1.6 kbp、0.65 kbpのDNA断片2つを鋳型にしてクロスオーバーPCRを、プライマーScaI-CspB-f及びプライマーSmELA-Bam-rを用いて行い、2.2 kbpのDNA断片を得た。PCRの条件は、CspB-SmELA-f, SmELA-Bam-rを用いたPCRと同じである。
【0082】
このDNA断片とpTA2(TArget Clone-Plus-, Toyobo)とをライゲーションし、E.coli JM109を形質転換した。形質転換体は40 mg/l X-gal、0.1 mM IPTG、100 mg/l アンピシリンを含むLB寒天培地上で選択した。目的のDNA断片を保有する形質転換体からプラスミドを抽出し、挿入されたDNA断片のヌクレオチド配列を確認した。その結果、意図したとおりにcspB遺伝子プロモーター領域、TorAシグナル配列及びSm-ELA遺伝子が連結しているのが確認された。得られたプラスミドをScaI、BamHIで処理し、同様にScaI、BamHIで処理したpPKSPTG1とライゲーションした。このライゲーション溶液を用いてE.coli JM109を形質転換し、形質転換体は25 mg/lカナマイシンを含むLB寒天培地上で選択した。目的の2.2 kbpのDNA断片が挿入された構成のプラスミドを抽出し、これをpPKT-SmELAと命名した。pPKT-SmELAでは、Sm-ELA遺伝子にTat系分泌シグナル配列であるTorAシグナル配列が付与されている。
構築した3種のプラスミドpPK-SmELA、pPKS-SmELA及びpPKT-SmELAを用いて、C.グルタミカムATCC13869由来の変異株より取得したYDK010株(WO 01/23591)を形質転換し、カナマイシンを25 mg/l含むCM2G寒天培地(酵母エキストラクト 10 g、ポリペプトン 10 g、グルコース 5 g、塩化ナトリウム 5 g、DL-メチオニン 0.2 g、寒天 15 g、pH 7.2、水で1Lにする)で形質転換体を選択した。得られた形質転換体を、それぞれYDK010/pPK-SmELA株、YDK010/pPKS-SmELA株、YDK010/pPKT-SmELA株と命名した。
【0083】
2.Sm-ELAを発現するC.グルタミカムWDK010株の作製
2.1.C.グルタミカムWDK010株の作製
WO02/081694記載のAJ12036株からゲノムDNAを抽出した。このAJ12036株のゲノムDNAを鋳型として、プライマーYSrpsL5(5’-AGGTCAGTGGCGAGTTTCTT-3’)(配列番号37)とプライマーYSrpsL3(5’-GGTAGGTAGCGCCACCAACA-3’)(配列番号38)を用いてPCR増幅を行い、1 kbpの断片を得た。PCRの条件は以下の通りである。
【0084】
Pyrobest DNA ポリメラーゼ(TAKARA) を使用。
H2O 37.8 μl, PCR バッファー5 μl, dNTPs 4 μl, Pyrobest DNA ポリメラーゼ 0.2 μl, 10 μMの各プライマー1 μl, 100 ng/μl DNA (鋳型) 1 μl, 総量50 μl
<PCR 反応条件>
Cycle 1 (x1) 98℃; 5 分間
Cycle 2 (x30) 98℃; 10 秒間, 57℃; 0.5 分間, 72℃; 1 分間
Cycle 3 (x1) 4℃; ∞
【0085】
このDNA断片とCorynebacterium glutamicum ATCC13869株を用いて、WO02/081694の実施例9に記載されている方法と同様にして遺伝子置換株を作成した。得られた遺伝子置換株が100 mg/Lストレプトマイシンを含むCM2G寒天培地で生育する事を確認した。更にこの遺伝子置換株を用いて、WO02/081694の実施例9に記載されている方法と同様にして細胞表層タンパク質(PS2)遺伝子完全破壊株を作成し、本菌株をWDK010株と命名した。
【0086】
2.2.C.グルタミカムWDK010株へのSm-ELA発現ベクターの導入
構築したプラスミドpPKT-SmELAを用いてWDK010株を形質転換し、カナマイシンを25 mg/l含むCMDXB寒天培地 (酵母エキストラクト 10 g、ポリペプトン 10 g、グルコース 5 g、尿素 3 g、大豆加水分解物 窒素量として 1.2 g、リン酸二水素カリウム 1 g、硫酸マグネシウム七水和物 0.4 g、硫酸鉄(II)七水和物 0.01 g、硫酸マンガン(II)五水和物 0.01 g、ビオチン 10 mg、寒天 15 g、pH 7.0、水で1 Lにする)上で形質転換体を選択し、得られた形質転換体をWDK010/pPKT-SmELA株と命名した。
WO05/103278記載のプラスミドpVtatABCを用いてWDK010株を形質転換し、クロラムフェニコール5 mg/l含むCMDXB寒天培地上で形質転換体を選択、得られた形質転換体をWDK010/pVtatABC株と命名した。
pPKT-SmELAを用いてWDK010/pVtatABC株を形質転換し、カナマイシン25 mg/l、クロラムフェニコール5 mg/lを含むCMDXB寒天培地上で形質転換体を選択、得られた形質転換体をWDK010/pPKT-SmELA + pVtatABC株と命名した。
【0087】
3.C.グルタミカムにおけるSm-ELAの発現
YDK010/pPK-SmELA株、YDK010/pPKS-SmELA株、YDK010/pPKT-SmELA株およびWDK010/pPKT-SmELA株をそれぞれ、カナマイシン25 mg/lを含むCMDXB液体培地 (酵母エキストラクト 10 g、ポリペプトン 10 g、グルコース 5 g、尿素 3 g、大豆加水分解物 窒素量として 1.2 g、リン酸二水素カリウム 1 g、硫酸マグネシウム七水和物 0.4 g、硫酸鉄(II)七水和物 0.01 g、硫酸マンガン(II)五水和物 0.01 g、ビオチン 10 mg、pH 7.0、水で1 Lにする) 3 mlを入れた試験管に1白金耳分接種し、30℃で16時間振とう培養した。得られた培養液0.15 mlを、 カナマイシン 25 mg/lを含むMMM液体培地(グルコース 60 g、硫酸アンモニウム 30 g、リン酸二水素カリウム 1.5 g、大豆加水分解物 窒素量として 0.1 g、硫酸マグネシウム七水和物 1 g、DL-メチオニン 0.15 g、硫酸鉄(II)七水和物 0.01 g、硫酸マンガン(II)五水和物 0.008 g、チアミン塩酸塩 0.45 mg、ビオチン 0.45 mg、炭酸カルシウム 50 g、pH 7.5、水で1Lにする)3 mlを入れた試験管に添加し、30℃で72時間振とう培養した。
【0088】
WDK010/pPKT-SmELA + pVtatABC株を、カナマイシン25 mg/lおよびクロラムフェニコール5 mg/lを含むCMDXB液体培地3 mlを入れた試験管に1白金耳分接種し、30℃で16時間培養した。得られた培養液0.15 mlを、カナマイシン25 mg/lおよびクロラムフェニコール5 mg/lを含むMMM液体培地3 mlを入れた試験管に添加し、30℃で72時間振とう培養した。
得られた培養液を遠心分離し、上清を回収し、菌体を20 mM Tris-HCl (pH 7.6) で洗浄した。菌体を最終的に3mlの20 mM Tris-HCl (pH 7.6)に懸濁して洗浄菌体として使用した。菌体抽出物は、この洗浄菌体をマルチビーズショッカー(安井器械)で破砕、遠心分離により調製した。これらの培養上清、洗浄菌体及び菌体抽出物を用いてNε-アセチル-L-リジンの分解活性を測定した。YDK010/pPKS-SmELA株の菌体抽出物に、培養液1 mlに相当する菌体抽出物あたり1030 Uの活性が確認された。これは、WO2006/088199 A1で報告された、S.モバラエンシスIFO13819株の培養上清1 mlに含まれる活性1.4 Uの約740倍に達する。また、WDK010/pPKT-SmELA + pVtatABC株の培養上清からは1 mlあたり69.8 Uの活性が検出され、Tat分泌系によってSm-ELAが分泌されていると考えられた。これらの結果を表2にまとめた。
【0089】
表2.培養上清、洗浄菌体及び菌体抽出物におけるNε-アセチル-L-リジンの分解活性
N.D. 検出限界未満
【0090】
活性測定は、Nε-アセチル-L-リジン4 mM、Tris-HCl 50 mM (pH 8.0)、CoCl2 0.1 mM、37℃で行い、Nε-アセチル-L-リジンの分解に伴い生成するリジンの濃度を測定した。リジンの測定にはBF-5 及びリジン電極(王子計測機器)を用いた。1 Uは、1時間あたり1 μmolのリジンをNε-アセチル-L-リジンより遊離させる酵素量と定義した。
【0091】
4.Sm-ELA及びTatABCを共発現するC.グルタミカムWDK010株の作製
C.グルタミカムATCC13032株由来のtatA遺伝子(cg1685、GeneID:3343772)、tatC遺伝子(cg1684、GeneID:3343771)、およびtatB遺伝子(cg1273、GeneID:3345252)配列より、プライマーXbaI-TatA-f(5’-gctctagaTTTGGAGTAGACCACATGTCCCTCG-3’)(配列番号39)、プライマーTatC-TatB-r(5’-TAGAAAACATCAGACCGGTCTTTCACTAGAGCACGTCACCGAAGTCGGCG-3’)(配列番号40)、プライマーTatC-TatB-f(5’-CGCCGACTTCGGTGACGTGCTCTAGTGAAAGACCGGTCTGATGTTTTCTA-3’)(配列番号41)、およびプライマーTatB-Xba-r(5’-gctctagaCTAAATAATATCGGTCCAAGAGACG-3’)(配列番号42)を設計した。
【0092】
C.グルタミカム ATCC13869株のゲノムDNAを鋳型にし、プライマーXbaI-TatA-f、およびプライマーTatC-TatB-rを用いてPCR増幅を行い、1.5 kbpのDNA断片を得た。このDNA断片にはtatA遺伝子およびtatC遺伝子の配列が含まれる。PCRの条件は以下の通りである。
<PCR 溶液の調製>
KOD -Plus- Ver.2 (Toyobo) を使用。
H2O 32 μl, PCRバッファー 5 μl, dNTPs 5 μl, MgSO4 3 μl, KOD-Plus- 1 μl, 10 μMの各プライマー1.5 μl, 100 ng/μl DNA (鋳型) 1 μl, 総量50 μl
<PCR 反応条件>
Cycle 1 (x1) 94℃; 2 分間
Cycle 2 (x25) 98℃; 10 秒間, 55℃; 10 秒間, 68℃; 1.5 分間
Cycle 3 (x1) 68℃; 1.5 分間, 4℃; ∞
【0093】
C.グルタミカム ATCC13869株のゲノムDNAを鋳型にし、プライマーTatC-TatB-f、およびプライマーTatB-Xba-rを用いてPCR増幅を行い、0.5 kbpのDNA断片を得た。このDNA断片にはtatB遺伝子の配列が含まれる。PCRの条件は以下の通りである。
<PCR 溶液の調製>
KOD -Plus- Ver.2(Toyobo)を使用。
H2O 32 μl, PCRバッファー 5 μl, dNTPs 5 μl, MgSO4 3 μl, KOD-Plus- 1 μl, 10 μMの各プライマー1.5 μl, 100 ng/μl DNA(鋳型)1 μl, 総量50 μl
<PCR 反応条件>
Cycle 1 (x1) 94℃; 2 分間
Cycle 2 (x25) 98℃; 10 秒間, 55℃; 10 秒間, 68℃; 0.5 分間
Cycle 3 (x1) 68℃; 0.5 分間, 4℃; ∞
【0094】
このようにして得られた1.5 kbp、0.5 kbpのDNA断片2つを鋳型にしてクロスオーバーPCRを、プライマーXbaI-TatA-f及びプライマーTatB-Xba-rを用いて行い、2 kbpのDNA断片を得た。このDNA断片にはtatA遺伝子、tatC遺伝子、及びtatB遺伝子の配列が含まれる。PCRの条件は以下の通りである。
<PCR 溶液の調製>
KOD -Plus- Ver.2(Toyobo)を使用。
H2O 32 μl, PCRバッファー 5 μl, dNTPs 5 μl, MgSO4 3 μl, KOD-Plus- 1 μl, 10 μMの各プライマー1.5 μl, 100 ng/μl DNA (鋳型) それぞれ0.5 μl, 総量50 μl
<PCR 反応条件>
Cycle 1 (x1) 94℃; 2 分間
Cycle 2 (x25) 98℃; 10 秒間, 55℃; 10 秒間, 68℃; 2 分間
Cycle 3 (x1) 68℃; 2 分間, 4℃; ∞
【0095】
クロスオーバーPCRによって得られた2 kbpのDNA断片をXbaIで処理した。プラスミドpPKT-SmELAも同様にXbaI処理を行い、さらにBAP処理を行った。この2つのDNA断片をライゲーションし、E.coli JM109を形質転換した。形質転換体は25 mg/l カナマイシンを含むLB寒天培地上で選択した。目的の2 kbpのDNA断片がSm-ELAと同じ向きに挿入された構成のプラスミドを抽出し、これをpPKT-SmELA-tatABCと命名した。pPKT-SmELA-tatABCは、cspBプロモーター、TorAシグナル配列、Sm-ELA遺伝子、tatA遺伝子、tatC遺伝子、tatB遺伝子の順に連結したDNA断片がpPK4に挿入された構成のプラスミドである。
【0096】
構築したプラスミドpPKT-SmELA-tatABCを用いてC. グルタミカムWDK010株を形質転換し、カナマイシンを25 mg/l含むCMDXB寒天培地 (酵母エキストラクト 10 g、ポリペプトン 10 g、グルコース 5 g、尿素 3 g、大豆加水分解物 窒素量として 1.2 g、リン酸二水素カリウム 1 g、硫酸マグネシウム七水和物 0.4 g、硫酸鉄(II)七水和物 0.01 g、硫酸マンガン(II)五水和物 0.01 g、ビオチン 10 mg、寒天 15 g、pH 7.0、水で1 Lにする)上で形質転換体を選択し、得られた形質転換体をWDK010/pPKT-SmELA-tatABC株と命名した。
【0097】
5.C.グルタミカムWDK010株におけるSm-ELAとTatABCの共発現
WDK010/pPKT-SmELA株、WDK010/pPKT-SmELA + pVtatABC株、およびWDK010/pPKT-SmELA-tatABC株をそれぞれ、CMDXB液体培地 (酵母エキストラクト 10 g、ポリペプトン 10 g、グルコース 5 g、尿素 3 g、大豆加水分解物 窒素量として 1.2 g、リン酸二水素カリウム 1 g、硫酸マグネシウム七水和物 0.4 g、硫酸鉄(II)七水和物 0.01 g、硫酸マンガン(II)五水和物 0.01 g、ビオチン 10 mg、pH 7.0、水で1 Lにする)3 mlを入れた試験管に1白金耳分接種し、25℃で16時間振とう培養した。WDK010/pPKT-SmELA株およびWDK010/pPKT-SmELA-tatABC株を培養する際にはカナマイシン25 mg/lを培地に添加し、WDK010/pPKT-SmELA + pVtatABC株を培養する際にはカナマイシン25 mg/lおよびクロラムフェニコール5 mg/lを培地に添加した。
【0098】
得られた培養液をそれぞれ遠心分離し、上清を回収した。これらの培養上清を用いてNε-アセチル-L-リジンの分解活性を測定した。WDK010/pPKT-SmELA株の培養上清からは1 mlあたり0.751 Uの活性が検出され、WDK010/pPKT-SmELA + pVtatABC株の培養上清からは1 mlあたり73.6 Uの活性が検出された。WDK010/pPKT-SmELA-tatABC株の培養上清からは1 mlあたり125 Uの活性が検出された。このことから、Sm-ELAとTatABCを1つのプラスミド上で発現させることは可能であり、共発現させたTatABCによりSm-ELAのTat系分泌発現が効率的に行われたと考えられた。
活性測定は、Nε-アセチル-L-リジン4 mM、Tris-HCl 50 mM(pH 8.0)、CoCl2 0.1 mM、37℃で行い、Nε-アセチル-L-リジンの分解に伴い生成するリジンの濃度を測定した。
リジンの測定にはBF-5 及びリジン電極(王子計測機器)を用いた。1 Uは、1時間あたり1 μmolのリジンをNε-アセチル-L-リジンより遊離させる酵素量と定義した。
【実施例9】
【0099】
Sm-ELAを発現するC.グルタミカムの菌体抽出物によるNε-ラウロイル-L-リジンの合成
カナマイシン25 mg/lを含むCMDXB液体培地3 mlを入れた試験管にYDK010/pPKS-SmELA株を1白金耳分接種し、30℃で16時間振とう培養した。このようにして得られた培養液10 mlを、カナマイシン25 mg/lを含むMMM液体培地200 mlを入れた500 ml容坂口フラスコに添加し、30℃で48時間振とう培養した。遠心分離により得られた培養液から菌体を回収し、20mM Tris-HCl(pH 7.6)で洗浄した。菌体を最終的に20 mM Tris-HCl(pH 7.6)50 mlに懸濁して洗浄菌体として使用した。この洗浄菌体を破砕し、遠心分離を行い、上清を菌体抽出液とした。
終濃度が、ラウリン酸250 mmol/l(反応条件1)あるいは500 mmol/l(反応条件2)、L-リジン塩酸塩500 mM、Tris-HCl 50 mM、CoCl2 1 mM、菌体抽出液180 U/mlとなるよう反応溶液60 mlを調製し、200 ml容ミニジャーファーメンターを用いて2000 rpmにて攪拌し、Nε-ラウロイル-L-リジン合成反応を行った。pHは7.0となるよう1 N NaOHで調整し、反応液の温度は37℃となるよう調整した。
反応液から経時的にサンプリングを行い、反応液中のリジン濃度をBF-5 及びリジン電極(王子計測機器)を用いて測定した(図6)。反応開始時のリジン濃度を100%とした。
24時間後に反応液を全量回収し、遠心分離を行った。上清を除去した後、沈殿にメタノール、水及び6 N NaOHを加え、沈殿を溶解させた。この溶液に6N HClを加え、pH 6.5-7.5となるよう調整しNε-ラウロイル-L-リジンを析出させた。この懸濁液を、ろ紙を用いて吸引ろ過した。ろ紙上の粉体を乾燥させ重量を測定したところ、反応条件1では5.44 g、反応条件2では9.82 gであった。これら粉体中のNε-ラウロイル-L-リジン純度をHPLCで測定したところ、それぞれ76.4%、80.9%であったため、Nε-ラウロイル-L-リジンがそれぞれ4.16 g (12.7 mmol)、7.94 g (24.2 mmol)得られていることが明らかとなった。収率はラウリン酸を基準としてそれぞれ84.4%、80.6%の収率であった。
HPLC分析は、カラムYMC-Pack A-312 ODS、6.0 x 150 mm(YMC)、移動層0.1 M NaH2PO4/MeOH = 2/8、UV 210 nmで行った。
【実施例10】
【0100】
Sm-ELAを分泌発現するC.グルタミカムの培養上清によるNε-ラウロイル-L-リジンの合成
カナマイシン25 mg/lを含むプレシード液体培地(酵母エキストラクト 10 g、ポリペプトン 10 g、グルコース 5 g、大豆加水分解物 窒素量として 0.1 g、DL-メチオニン 0.02 g、pH 7.2、水で1 Lにする)50 mlを入れた全容500 ml坂口フラスコ試験管にWDK010/pPKT-SmELA-tatABC株を1白金耳分接種し、30℃で16時間振とう培養した。このようにして得られた培養液0.3 mlを、カナマイシン25 mg/lを含むシード液体培地(グルコース 20 g、硫酸アンモニウム 3 g、リン酸二水素カリウム 1.5 g、大豆加水分解物 窒素量として 0.2 g、硫酸マグネシウム七水和物 1 g、DL-メチオニン 0.15 g、硫酸鉄(II)七水和物 0.01 g、硫酸マンガン(II)五水和物 0.01 g、チアミン塩酸塩 0.45 mg、ビオチン 0.45 mg、ディスホームGD-113K(日本油脂株式会社) 0.1 ml、pH 6.2、水で1Lにする)300 mlを入れた1000 ml容ジャーファーメンターに添加し、シード培養を開始した。シード培養は31℃、通気1/1 vvm、攪拌500 rpm、アンモニアでpHを6.2に制御し、グルコースが消費されるまで行った。このようにして得られた培養液15 mlを、カナマイシン 25 mg/lを含むメイン液体培地(グルコース 120 g、硫酸アンモニウム 3 g、リン酸二水素カリウム 1.5 g、大豆加水分解物 窒素量として 0.2 g、硫酸マグネシウム七水和物 3 g、DL-メチオニン 0.15 g、硫酸鉄(II)七水和物 0.03 g、硫酸マンガン(II)五水和物 0.03 g、硫酸亜鉛七水和物 0.02 g、塩化コバルト(II)六水和物 0.008 g、塩化カルシウム 2 g、チアミン塩酸塩 0.45 mg、ビオチン 0.45 mg、ディスホームGD-113K(日本油脂株式会社)0.1 ml、pH 6.2、水で0.95 Lにする)285 mlを入れた1000 ml容ジャーファーメンターに添加し、メイン培養を開始した。メイン培養は26℃、通気1/1 vvm、アンモニアでpHを6.9に制御し、グルコースが消費されるまで行った。溶存酸素濃度が5%以上になるよう攪拌を500 rpm以上で制御した。
【0101】
得られた培養液を遠心分離し、上清を回収した。この培養上清中のNε-アセチル-L-リジンの分解活性を測定した。その結果、培養上清1 mlあたり3640 Uの活性が検出された。これは、WO2006/088199 A1で報告された、S.モバラエンシスIFO13819株の培養上清1 mlに含まれる活性1.4 Uの約2600倍に達する。
活性測定は、Nε-アセチル-L-リジン 40 mM、Tris-HCl 50 mM (pH 8.0)、CoCl2 0.1 mM、37℃で行い、Nε-アセチル-L-リジンの分解に伴い生成するリジンの濃度を測定した。
リジンの測定にはBF-5 及びリジン電極(王子計測機器)を用いた。1 Uは、1時間あたり1 μmolのリジンをNε-アセチル-L-リジンより遊離させる酵素量と定義した。
終濃度が、ラウリン酸ナトリウム300 mmol/l、L-リジン塩酸塩300 mM、CoCl2 0.1 mM、メタノール10%、培養上清300 U/mlとなるよう反応溶液100 mlを調製し、200 ml容ミニジャーファーメンターを用いて800 rpmにて攪拌し、Nε-ラウロイル-L-リジン合成反応を行った。pHは7.0となるよう1 N NaOHで調整し、反応液の温度は45℃となるよう調整した。
反応液から経時的(0.5、1、2時間後)にサンプリングを行い、反応液中のNε-ラウロイル-L-リジン濃度をHPLCにより測定した(図7)。
10時間後に析出したNε-ラウロイル-L-リジンと共に反応液を全量回収した。反応液に6 N HCl 20 mlとメタノールを加え500mlへメスアップし、析出したNε-ラウロイル-L-リジンを溶解させた。この溶液中のNε-ラウロイル-L-リジン濃度をHPLCにより測定した(図7、10時間後)。
その結果、反応開始10時間後の反応液中には291 mmol/lのNε-ラウロイル-L-リジンが生成しており、培養上清を酵素源として用いた場合でもNε-ラウロイル-L-リジン合成を効率的に行えることが明らかとなった。収率はラウリン酸を基準として97%であった。
HPLC分析は、カラムYMC-Pack A-312、6.0 x 150 mm、S-5、12 nm(YMC)、移動層0.1 M NaH2PO4/MeOH = 2/8、UV 210 nmで行った。
【実施例11】
【0102】
S.セリカラーのNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ(Sc-ELA)遺伝子のクローニング
Sm-ELAのアミノ酸配列は、NCBI protein-protein BLASTを用いて相同性検索を行ったところhypothetical protein SCO1424 (S.coelicolor A3 (2), NP_625706)と80%、hypothetical protein SAV_6922(S.avermitilis MA-4680, NP_828098) と80%、conserved hypothetical protein(S. ambofaciens ATCC 23877, CAJ90369) と79%、conserved hypothetical protein(S.griseus subsp. griseus NBRC 13350, YP_001827620)と78%の相同性を有することが明らかとなった。そこで、S. セリカラーA3 (2)由来仮想タンパク質SCO1424がSm-ELAと同様にNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有するか検討した。
YMPG寒天培地 (グルコース 10 g、ポリペプトン 5 g、酵母エキストラクト 3 g、モルトエキストラクト 3 g、寒天 15 g、pH 7.0、水で1 Lにする) で生育したS.セリカラーsA3 (2)菌体を鋳型にして、プライマーNde-ScELA-f(5’- catATGTCCATGAGTGAGTCCACCACCCCG-3’)(配列番号43)とプライマーScELA-Hind-r(5’- aagctTCACTCGCCCGGCCGTACGAAGACC-3’)(配列番号44)を用いてPCR増幅を行った。PCRの条件は以下の通り。
【0103】
<PCR 溶液の調製>
KOD -Plus- Ver.2 (Toyobo) を使用。
H2O 33 μl, PCR バッファー 5 μl, dNTPs 5 μl, MgSO4 3 μl, KOD-Plus- 1 μl, 10 μMの各プライマー1.5 μl, 総量 50 μl
<PCR 反応条件>
Cycle 1 (x1) 94℃; 5 分間
Cycle 2 (x25) 98℃; 10 秒間, 55℃; 10 秒間, 68℃; 2 分間
Cycle 3 (x1) 68℃; 2 分間, 4℃; ∞
【0104】
その結果得られた1.6 kbpのDNA断片とpTA2(TArget Clone -Plus-, Toyobo)とをライゲーションし、E.coli JM109を形質転換した。形質転換体は40 mg/l X-gal、0.1 mM IPTG、100 mg/l アンピシリンを含むLB寒天培地上で選択した。目的のDNA断片を保有する形質転換体からプラスミドを抽出し、挿入されたDNA断片のヌクレオチド配列を確認したところ、Sc-ELA遺伝子のORF全長及び付与したNdeI、HindIII認識部位が含まれていることが明らかになった。得られたプラスミドをpTA2-ScELAと命名した。Sc-ELAをコードするORFのヌクレオチド配列を配列番号4、およびコードされるSc-ELAのアミノ酸配列を配列番号5に示す。
【0105】
pTA2-ScELAをNdeI、HindIIIで処理し、Sc-ELA遺伝子を含む1.6 kbpのDNA断片を得た。JP 2005278468 A(特開2005-278468)、光学活性アミノ酸の製造方法、実施例1、第0064欄に記載のベクターpTrp2をNdeI、HindIIIで処理し、これとSc-ELA遺伝子を含むDNA断片とをライゲーションし、E.coli JM109を形質転換した。形質転換体は100 mg/lアンピシリンを含むLB寒天培地上で選択した。pTrp2にSc-ELA遺伝子が挿入された構成のプラスミドをpTrp2-ScELAと命名し、このプラスミドを保有する形質転換体をE.coli JM109/pTrp2-ScELA株と命名した。
【実施例12】
【0106】
大腸菌によるSc-ELAの生産
100 mg/l アンピシリンを含むTB培地50 mlを入れた500 ml容坂口フラスコにE.coli JM109/pTrp2-ScELA株を1白金耳分植菌し、37℃で16時間振とう培養した。
得られた培養液から遠心分離により菌体を回収し、20 mM Tris-HCl (pH 7.6)で洗浄した。この菌体を最終的に20 mM Tris-HCl(pH 7.6)10mlに懸濁して洗浄菌体として使用した。この洗浄菌体を用いてNε-アセチル-L-リジンの分解活性を測定したところ、培養液1 mlに相当する洗浄菌体あたり1.2 Uの活性を有していた。同様にしてE.coli JM109/pTrp2-SmELA株の洗浄菌体を用いた場合では、培養液1 mlに相当する洗浄菌体あたり10 Uの活性が確認された。E.coliを用いたSm-ELAの発現と比べ高い活性が確認されたが、CoCl2を0.1 mM添加したことによる活性向上効果と考えられる(Sm-ELAはCoCl2により活性が向上することが分かっている。WO2006/088199)。E.coli JM109/pUC18株の洗浄菌体を用いた場合には活性は検出されなかった。
活性測定は、Nε-アセチル-L-リジン 4 mM、Tris-HCl 50 mM (pH 8.0)、CoCl2 0.1 mM、37℃で行い、Nε-アセチル-L-リジンの分解に伴い生成するリジンの濃度を測定した。リジンの測定にはBF-5 及びリジン電極(王子計測機器)を用いた。1 Uは、1時間あたり1 μmolのリジンをNε-アセチル-L-リジンより遊離させる酵素量と定義した。
【実施例13】
【0107】
C.グルタミカムによるSc-ELAの生産
pTA2-ScELAを鋳型として、プライマーCspB-ScELA-f(5’-ttcaaggagccttcgcctctATGTCCATGAGTGAGTCCAC-3’)(配列番号45)及びプライマーScELA-Bam-r(5’-CGACtctagaggatccTCACTCGCCCGGCCGTACGA-3’)(配列番号46)を用いてPCR増幅を行い、Sc-ELA遺伝子を含む1.6 kbpのDNA断片を得た。PCRの条件は以下の通り。
【0108】
<PCR 溶液の調製>
KOD -Plus- Ver.2 (Toyobo) を使用。
H2O 32 μl, PCR バッファー 5 μl, dNTPs 5 μl, MgSO4 3 μl, KOD-Plus- 1 μl, 10 μMの各プライマー 1.5 μl, 100 ng/μl DNA (鋳型) 1 μl, 総量 50 μl
<PCR 反応条件>
Cycle 1 (x1) 94℃; 2 分間
Cycle 2 (x25) 98℃; 10 秒間, 55℃; 10 秒間, 68℃; 2 μ
Cycle 3 (x1) 68℃; 2 分間, 4℃; ∞
【0109】
得られたDNA断片を用い、pPK-SmELAの構築と同様にしてcspBプロモーターとSc-ELA遺伝子とをクロスオーバーPCRにより連結、2.2 kbpのDNA断片を得た。これをScaI、BamHIで処理し、同様にScaI、BamHIで処理したpPKSPTG1とライゲーションした。このライゲーション溶液を用いてE.coli JM109を形質転換し、形質転換体は25 mg/lカナマイシンを含むLB寒天培地上で選択した。目的の2.2 kbpのDNA断片が挿入された構成のプラスミドを抽出し、これをpPK-ScELAと命名した。pPK-ScELAにおいては、pPK4にcspBプロモーター及びSc-ELA遺伝子が挿入されている。
同様にして、pPK4にcspBプロモーター及びコリネバクテリウム・アンモニアゲネス(C.アンモニアゲネス)ATCC 6872由来CspAシグナル配列が付与されたSc-ELA遺伝子が挿入された構成のプラスミドを構築した。まずpTA2-ScELAを鋳型にし、プライマーCspAsig-ScELA-f(5’-CCGCACCTGTGGCAACGGCATCCATGAGTGAGTCCACCAC-3’)(配列番号47)及びプライマーScELA-Bam-rを用いてPCR増幅を行った。PCRの条件の条件は、CspB-ScELA-f, ScELA-Bam-rを用いたPCRと同じである。
【0110】
その結果、1.6 kbpのDNA断片が得られた。得られたDNA断片を用い、pPKS-SmELAの構築と同様にしてcspBプロモーター、CspAシグナル配列、Sc-ELA遺伝子が連結した2.2 kbpのDNA断片を、クロスオーバーPCRにて得た。PCRの条件の条件は、CspB-ScELA-f, ScELA-Bam-rを用いたPCRと同じである。
【0111】
このDNA断片をScaI、BamHIで処理し、pPK-ScELAの構築と同様にしてpPKS-ScELAを構築した。pPKS-ScELAでは、Sc-ELA遺伝子にSec系分泌シグナル配列であるCspAシグナル配列が付与されている。
同様にして、pPK4にcspBプロモーター及びE.coli W3110由来TorAシグナル配列が付与されたSc-ELA遺伝子が挿入された構成のプラスミドを構築した。まずpTA2-ScELAを鋳型にし、プライマーTorAsig-ScELA-f(5’-CGCCGCGACGTGCGACTGCGTCCATGAGTGAGTCCACCAC-3’)(配列番号48)及びプライマーScELA-Bam-rを用いてPCR増幅を行った。PCRの条件は、CspB-ScELA-f, ScELA-Bam-rを用いたPCRと同じである。
【0112】
その結果、1.6 kbpのDNA断片が得られた。得られたDNA断片を用い、pPKT-SmELAの構築と同様にしてcspBプロモーター、TorAシグナル配列、Sc-ELA遺伝子が連結した2.2 kbpのDNA断片を、クロスオーバーPCRにて得た。PCRの条件はCspB-ScELA-f、ScELA-Bam-rを用いた場合と同じである。
【0113】
このDNA断片をScaI、BamHIで処理し、pPK-ScELAの構築と同様にしてpPKT-ScELAを構築した。pPKT-ScELAでは、Sc-ELA遺伝子にTat系分泌シグナル配列であるTorAシグナル配列が付与されている。
構築した3種のプラスミドpPK-ScELA、pPKS-ScELA及びpPKT-ScELAを用いて、C.グルタミカムATCC13869由来の変異株より取得したYDK010株(WO 01/23591)を形質転換し、カナマイシンを25 mg/l含むCM2G寒天培地上で形質転換体を選択した。得られた形質転換体を、それぞれYDK010/pPK-ScELA株、YDK010/pPKS-ScELA株、YDK010/pPKT-ScELA株と命名した。また、pPKT-ScELAを用いてWDK010株を形質転換し、カナマイシンを25 mg/l含むCMDXB寒天培地上で形質転換体を選択し、得られた形質転換体をWDK010/pPKT-SmELA株と命名した。さらに、WDK010/pVtatABC株をpPKT-ScELAで形質転換し、カナマイシン25 mg/l、クロラムフェニコール5 mg/lを含むCMDXB寒天培地上で形質転換体を選択、得られた形質転換体をWDK010/pPKT-ScELA + pVtatABC株と命名した。
【0114】
2.C.グルタミカムにおけるSc-ELAの発現
上述したC.グルタミカムを用いたSm-ELAの発現と同様にして、YDK010/pPK-ScELA株、YDK010/pPKS-ScELA株、YDK010/pPKT-ScELA株、WDK010/pPKT-ScELA株およびWDK010/pPKT-ScELA + pVtatABC株の培養を行い、Nε-アセチル-L-リジンの分解活性を測定した。その結果、YDK010/pPKS-ScELA株の菌体抽出液から、培養液1 mlに相当する菌体抽出液あたり272 Uの活性が確認された(表3)。
また、YDK010/pPKS-ScELA株の菌体抽出液を用いてNα-アセチル-L-リジンの分解活性を測定した。その結果、Nε-アセチル-L-リジンの分解活性と比較しNα-アセチル-L-リジン分解活性はSm-ELAと同程度に低く、Sc-ELAはSm-ELAと同様にNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼであると考えられた。
【0115】
表3.C.グルタミカムの各菌株によるSc-ELAの産生
N.D. 検出限界未満
【実施例14】
【0116】
Sc-ELAを発現するC.グルタミカムの菌体抽出物によるNε-ラウロイル-L-リジンの合成
上述したYDK010/pPKS-ScELA株の菌体抽出液を用いて、Nε-ラウロイル-L-リジン合成反応を行った。また、YDK010/pPKS-SmELAの菌体抽出液を用いて、Nε-ラウロイル-L-リジン合成反応を行った。
終濃度が、ラウリン酸25 mM、L-リジン塩酸塩500 mM、Tris-HCl 50 mM、CoCl2 1 mM、菌体抽出液30 U/mlとなるよう反応溶液60 mlを調製し、200 mlミニジャーファーメンターを用いて攪拌1000 rpmでNε-ラウロイル-L-リジン合成反応を行った。pHは7.0となるよう1 N NaOHで調整し、反応液の温度は37℃となるよう調整した。
反応液から経時的にサンプリングを行い、反応液中のラウリン酸およびNεラウロイル-L-リジンをHPLCで定量した。その結果、ラウリン酸の減少に伴ってNε-ラウロイル-L-リジンの生成が確認された(図8)。このことから、Sc-ELAはSm-ELAと同様に、Nε-ラウロイル-L-リジンの合成に利用できることが明らかとなった。
HPLC分析は、カラムYMC-Pack C-8、4.6 x 150 mm(YMC)、移動層0.1 M NaH2PO4/MeOH = 2/8、UV 210 nmで行った。
【配列表フリーテキスト】
【0117】
配列番号6〜48:PCRプライマー
【技術分野】
【0001】
本発明は、放線菌由来の新規なNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼをコードするDNA、前記DNAを含有する組換え発現ベクター、前記組換え発現ベクターにより形質転換された形質転換体並びに形質転換体を用いたNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼの製造方法、ならびにNε-アシル-L-リジンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Nε-アシル-L-リジンは、その構造からくる特性や自然界に排出された後の安全性、無公害性の面より、両性界面活性剤原料として一般洗浄剤はもとより、殺菌消毒剤、繊維柔軟材、防錆剤、浮遊選鉱剤、接着剤、清澄剤、染料固着剤、帯電防止剤、乳化剤、化粧品用界面活性剤などの広範な産業用途を有するものである。特に、水や通常の有機溶剤に極めて溶けにくく、かつ、撥水性、抗酸化性、滑沢性などの特長を活かして、有機系の新しい粉黛素材として、化粧品、潤滑剤などの分野での活用が拡大している(特開昭61-10503)。
このNε-アシル-L-リジンの製造には、従来、アミノ酸のアルカリ水溶液中にアシルハライドを滴下させるいわゆるショッテン・バウマン法が採用されてきた。しかしながら、リジンのような塩基性アミノ酸は、α−位及びε−位にアミノ基を有するために、このショッテン・バウマン法ではジアルキル塩基性アミノ酸が主生成物となり、ε−アシル塩基性アミノ酸は副生成物として少量でしか得られない。そのため、ε−アシル塩基性アミノ酸を製造するには、塩基性アミノ酸を塩基性アミノ酸銅塩とし、これをアシルクロライドにてアシル化した後、銅を脱離させる方法が知られている(薬学雑誌、89、531(1969))。これらの方法においては、製造工程、製造作業が煩雑であり、重金属である銅が使用され、脱銅工程で大量の硫化水素ガスが必要とされる。
それ故、酵素を使用したより温和な条件でNε-アシル-L-リジンを特異的かつ効率良く加水分解及び合成する酵素の存在とその工業的製造方法の開発が志向されている。
【0003】
従来、Nε-アシル-L-リジン類を特異的に加水分解することができる酵素に関する報告は少なく、アクロモバクター・ペスチフェル(Achromobacter pestifer)(A.ペスチフェル)由来の酵素、ラット腎由来の酵素、シュードモナス(Pseudomonas) sp. KT-83由来の酵素などが報告されているが、それらの酵素によるNε-アシル-L-リジンの合成反応については報告はなされていない。
また、従来の酵素によるNε-アシル-L-リジンの合成については、例えば、特開2003-210164記載のカプサイシン分解合成酵素がNε-アシル-L-リジンの合成反応をも触媒するとの報告がある。
特開2004-81107に記載されているように、特開2003-210164記載のカプサイシン分解合成酵素により収率95%でNε-ラウロイル-L-リジンが生成するという報告がある。しかし、反応時間が2日間という長時間を要し、また、このカプサイシン分解合成酵素はε−アミノ基のみならずα−アミノ基に対しても高い反応性を示すため、最終的には、Nα-ラウロイル-L-リジンとNε-ラウロイル-L-リジンの混合物が生成する。
一方、本発明者等は、ストレプトミセス・モバラエンシスがリジンのε−アミノ基を特異的かつ効率的にアシル化する酵素を産生することを見出し、その酵素を精製し、特性の一部を報告した(WO 2006/088199)。さらに、本発明者等は、前述のストレプトミセス・モバラエンシス由来の酵素により、L-リジン塩酸塩とラウリン酸からNε-ラウロイル-L-リジンを特異的に合成し得ることも確認した(WO 2006/088199)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61-10503号公報
【特許文献2】特開2003-210164号公報
【特許文献3】特開2004-81107号公報
【特許文献4】国際公開公報 WO 2006/088199
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】薬学雑誌、89、531(1969)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼをコードするDNAを提供する。また、本発明は、粉薫素材などに活用されているNε-アシル-L-リジンを、L-リジンを出発原料にして効率よく合成するNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼを高効率で生産する方法を提供する。さらに本発明は、Nε-アシル-L-リジンを効率よく生産する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下を含む。
(1)配列番号2に記載されるアミノ酸配列を有するNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ、またはこれをコードするDNA;
(2)配列番号2に記載されるアミノ酸配列に於いて、1もしくは複数のアミノ酸残基が挿入、付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列を有し、かつ、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有するタンパク質またはこれをコードするDNA;
(3)配列番号1または3に記載されるヌクレオチド配列を有するDNA;
(4)配列番号1または3に記載されるヌクレオチド配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(5)配列番号1または3に記載されるヌクレオチド配列と95%以上の相同性のあるヌクレオチド配列を有し、かつ、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有するタンパク質、またはこれをコードするDNA;
(6)上記(1)〜(5)のいずれかのDNAを含有する組換えDNA;
(7)上記(6)の組換えDNAで形質転換された形質転換体;
(8)(a)配列番号2または5に記載されるアミノ酸配列を有するNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼをコードするDNA;
(b)配列番号2または5に記載されるアミノ酸配列に於いて、1もしくは複数のアミノ酸残基が挿入、付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列を有し、かつ、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(c)配列番号1、3または4に記載されるヌクレオチド配列を有するDNA;
(d)配列番号1、3または4に記載されるヌクレオチド配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA;または、
(e)配列番号1、3または4に記載されるヌクレオチド配列と95%以上の相同性のあるヌクレオチド配列を有し、かつ、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA、
のいずれかを含む組換えDNAで形質転換された形質転換体を培養し、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有するタンパク質を生産させ、これを回収することを特徴とするNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有するタンパク質の製造方法。;および、
(9)L-リジンとラウリン酸を、下記(a)〜(e)のいずれかのDNAで形質転換した細胞、前記細胞の処理物または前記細胞の培養液の存在下で反応せしめ、生成するNε-ラウロイル-L-リジンを単離することを含む、Nε-ラウロイル-L-リジンを製造する方法;
(a)配列番号2または5に記載されるアミノ酸配列を有するNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼをコードするDNA;
(b)配列番号2または5に記載されるアミノ酸配列に於いて、1もしくは複数のアミノ酸残基が挿入、付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列を有し、かつ、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(c)配列番号1、3または4に記載されるヌクレオチド配列を有するDNA;
(d)配列番号1、3または4に記載されるヌクレオチド配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA;または、
(e)配列番号1、3または4に記載されるヌクレオチド配列と95%以上の相同性を有し、かつ、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、放線菌由来のNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼをコードするcDNA、そのヌクレオチド配列および全アミノ酸配列が提供される。したがって、本発明により、放線菌由来のNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼを遺伝子組換え技術を用いて大量生産することが可能となり、容易に大量の前記Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼを取得することが可能となる。また本発明により、効率的にNε−アシル-L−リジン、特にNε-ラウロイル-L-リジンを得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1A】図1A−EはSm-ELAをコードするS.モバラエンスゲノム領域ならびにその上流および下流のヌクレオチド配列をSm-ELAのアミノ酸配列と共に示す。
【図1B】図1A続き。
【図1C】図1B続き。
【図1D】図1C続き。
【図1E】図1D続き。
【図2A】図2A−EはSc-ELAをコードするS.セリカラーゲノム領域のヌクレオチド配列をSc-ELAのアミノ酸配列と共に示す。開始コドンはATGではなくGTGである。
【図2B】図2A続き。
【図2C】図2B続き。
【図2D】図2C続き。
【図2E】図2D続き。
【図3】図3は、Sm-ELA遺伝子のクローニングに用いたプライマーとSm-ELA遺伝子との位置関係を示す。
【図4】図4は、Sm-ELAを産生するS.リビダンス洗浄菌体および菌体抽出物によるNε-ラウロイル-L-リジン合成の経時変化を示す。横軸は反応時間、縦軸はラウリン酸を基準としたNε-ラウロイル-L-リジンの収率を示す。黒い四角は洗浄菌体を用いた反応を表し、黒い三角は菌体抽出物を用いた反応を示す。
【図5】図5は、Nε-ラウロイル-L-リジンの合成反応における反応収率の経時変化を示す。横軸は反応時間を表し、縦軸は残存ラウリン酸と残リジンから計算した、Nε-ラウロイル-L-リジンの対ラウリン酸収率を表す。白抜きの記号はリジンの残存量から計算したNε-ラウロイル-L-リジン収率、黒い記号はラウリン酸の残存量から計算したNε-ラウロイル-L-リジン収率を示す。黒い丸および白い丸は50 mM ラウリン酸を用いた場合の反応、黒い三角および白い三角は100 mM ラウリン酸を用いた場合の反応、黒い四角および白い四角は250 mM ラウリン酸を用いた場合の反応を表す。反応収率は、ラウリン酸の生成量およびリジンの残存量を基準として算出した。
【図6】図6は、Sm-ELAを産生するコリネバクテリウム・グルタミカムYDK010によるNε-ラウロイル-L-リジン合成の経時変化を示す。横軸は反応時間、縦軸はリジン消費量を示す。黒い丸は反応条件1、白い丸は反応条件2で行った反応を表す。
【図7】図7は、Sm-ELAを分泌産生するコリネバクテリウム・グルタミカムWDK010を培養し、得られた培養上清によるNε-ラウロイル-L-リジン合成の経時変化を示す。横軸は反応時間、縦軸は生成されたNε-ラウロイル-L-リジンを示す(LL:Nε-ラウロイル-L-リジン)。
【図8】図8は、Sm-ELAまたはSc-ELAを産生するコリネバクテリウム・グルタミカムYDK01によるNε-ラウロイル-L-リジン合成の経時変化を示す。横軸は反応時間、縦軸は生成されたNε-ラウロイル-L-リジン(白い丸および黒い丸)または消費されたラウリン酸(白い三角および黒い三角)を表す(LL:Nε-ラウロイル-L-リジン、LA:ラウリン酸)。黒い丸および黒い三角はSm-ELAによる反応、白い丸および白い三角はSc-ELAによる反応を表す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは、L-リジンのε-アミノ基を特異的にアシル化してNε-アシル-L-リジンを生成する新規なNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼがストレプトミセス属微生物の培養物に存在することを明らかにした。さらに、本発明者らは、ストレプトミセス(Streptomyces)属に属する微生物、特に、ストレプトミセス・モバラエンシス(Streptomyces mobaraensis)(S.モバラエンシス)を培養し、それらの培養物から前記酵素を分離および/または回収することのできる本発明の酵素を製造し、Nε-アシル-L-リジンを効率良く合成することにも成功した。しかしながら、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼの放線菌における分泌量は極微量であるため、前記Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼを大量に調製するための方法が更に望まれていた。さらに、本発明者等はまたはストレプトミセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor、S.セリカラー)由来のNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼおよびそれをコードする遺伝子を明らかにした。本発明により、これらのNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼをコードするDNAおよび前記アミノアシラーゼを大量に調製する方法が提供される。さらに、本発明によりNε-ラウロイル-リジンを効率的に生成する方法が提供される。
【0011】
放線菌由来Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼを大量に得るための方法の1つとしては、前記Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ遺伝子を遺伝子組換え技術を用いて大量生産させることにより、大量の前記Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼを取得する方法が挙げられる。この方法を確立するために、この放線菌由来のNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼをコードするcDNAを取得し、ヌクレオチド配列を解析し、前記Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼの全アミノ酸配列に関する情報を得ることができる。更に、前記Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼをコードするDNAを適当な発現ベクターに組み込み、目的物を大量に生産する形質転換体を得ることができる。
本発明は、放線菌に由来するNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼを天然から単離する方法に代えて、遺伝子組換え技術を用いて効率的な遺伝子発現並びに前記Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼの大量生産を成しえる為の技術を提供する。したがって、本発明の一態様において、リジンのε-アミノ基を特異的にアシル化してNε-アシル-L-リジンを生成するNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼをコードするDNAが提供される。また本発明の別の態様において、前記DNAが適切な宿主で発現されて、それにより前記アミノアシラーゼが製造される。本発明のまた別の態様において、前記アミノアシラーゼがカルボン酸およびL-リジンに作用してNε-アシル-L-リジンが製造される。
【0012】
本発明において、放線菌由来Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ、または、同等の活性を有するタンパク質をコードするDNAが取得される。この放線菌由来Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼをコードするDNAは、例えば、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼのアミノ酸配列およびそれをコードするヌクレオチド配列情報に基づいたプライマーを用いることにより、S.モバラエンシスまたはS.セリカラーmRNAより調製したcDNAライブラリーをスクリーニングすることによって得ることができる。さらに、この得られたcDNAを用いて、前記Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼを生産する形質転換体を得、これにより前記Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有するタンパク質を得ることができる。
本発明のDNAはcDNAであってもよく、ゲノムDNAであってもよく、また、それらは上述した以外の方法によっても、例えば全合成によっても取得することができる。
さらに、本発明により、L-リジンとラウリン酸を、前記Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼを生産する形質転換体または前記形質転換体の処理物、例えば細胞抽出物の存在下で反応させることにより、効率的にNε-ラウロイル-L-リジンを得ることが出来る。また、前記Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼを発現させて細胞外に分泌(分泌発現)させた場合には、前記形質転換体を培養して得られた培養液の存在下で、L-リジンとラウリン酸とを反応させることにより、効率的にNε-ラウロイル-L-リジンを得ることが出来る。
【0013】
以下、本発明の態様をより具体的に記載する。本明細書では、以後、文脈上明らかな場合には放線菌由来Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼを単に「アミノアシラーゼ」と記載することがある。
【0014】
1.本発明のDNAの取得
本発明のDNAは例えば以下のように取得することができる。本発明DNAの取得方法の具体例としては、例えば、本発明者らにより決定されたアミノアシラーゼのアミノ酸配列に基づいてオリゴDNAを合成し、放線菌もしくは他の部位から抽出したmRNAを鋳型にRT−PCR法で遺伝子断片を得、それをプローブに放線菌もしくは他の部位のmRNAを鋳型に作製したcDNAライブラリーから、ハイブリダイゼーションによりアミノアシラーゼのcDNAを釣り上げるなど、従来、慣用的に行われている方法が挙げられる。
また、すでに決定されているアミノアシラーゼのアミノ酸配列と相同性の高いヌクレオチド配列を適当なDNAデータベース(例えばDDBJ、EMBL、GenBank)中で検索し、見いだされた配列をプローブとして、放線菌もしくは他の部位から抽出したmRNAを鋳型に作製したcDNAライブラリーをスクリーニングし、アミノアシラーゼのcDNAを取得する方法も考えられる。
【0015】
cDNAのプローブは、すでに決定されているアミノ酸配列を基に、放線菌もしくは他の部位から抽出したmRNAを鋳型に、RT-PCR法等によって作製してもよく、あるいはアミノ酸配列を基に化学合成しても良い。アミノ酸配列と相同性の高いヌクレオチド配列をプローブに用いる場合、そのプローブの起源、すなわちそのプローブがどのような種のどのような遺伝子の断片であるかは問わない。すなわち、プローブは既知のNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ遺伝子由来である必要は無く、また、機能が未知の遺伝子産物をコードする遺伝子の一部であってもよく、EST(Expression Sequence Tag)でもかまわない。後述の実施例においては、BLAST search検索によりS.モバラエンシスやS.セリカラーと良く似た配列を有するストレプトミセス・アベルミチリス(S. avermitilis)などの仮想的酵素とアノテーションされているアミノ酸配列に基づいてプライマーを構築し、そのプライマーとアミノアシラーゼのN末端アミノ酸配列から構築したプライマーを用いてPCRを行い、そのPCR産物のアミノ酸配列を解析するという手法で、アミノ酸配列を解析している。なお、cDNAライブラリーの作製は、常法により行うことができる。
【0016】
かくして配列番号2に記載されるアミノ酸配列を有するS.モバラエンシス由来のNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ(以後、本明細書中でSm-ELAと略すことがある)および配列番号5に記載されるアミノ酸配列を有するS.セリカラー由来のNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ(以後、本明細書中でSc-ELAと略すことがある)をコードするDNAが得られる(それぞれ配列番号3および4)。なお、本発明のDNAは、それがコードする蛋白質がNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有する限り、配列番号2または5に記載されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸残基が挿入、付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列(変種配列)を有するタンパク質(変種タンパク質)をコードするDNAであってもよい。また、本発明のDNAには、配列番号3または4に記載の配列を有するDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA、または、配列番号3または4に記載の配列を有するDNAと80%以上、好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の相同性を有するDNAであって、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA、そのDNAを含む組換えDNA分子、前記組換えDNAを保持する宿主、前記宿主を培養することを含むNε-アシル-L-リジン特異的酵素の製造方法、および、Nε-アシル-L-リジンの製造方法も本発明に含まれる。相同性はNCBI Blast Ver.2.0のような標準的なプログラムをデフォルトパラメーターを使用して判定することができる。本明細書において、放線菌由来のNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼのアミノ酸配列が配列番号2および5に、それをコードするヌクレオチド配列が配列番号3および4に記載されており、さらにSm-ELAについてはコード領域の上流および下流を含むヌクレオチド配列も配列番号1に記載されているので、このような変種タンパク質をコードするDNAを取得することは当業者であれば可能である。このような相同性は、例えばBLAST等の当業者によく知られたプログラムを標準的なパラメーターと共に用いて計算することができる。
【0017】
本明細書において、「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば80、90、95、97または99%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼ−ションの洗浄条件である60℃、1xSSC,0.1%SDS、好ましくは、0.1xSSC、0.1%SDSさらに好ましくは、68℃、0.1xSSC、0.1%SDSに相当する塩濃度、温度で、少なくとも1回、好ましくは2〜3回洗浄する条件が挙げられる。これらと同等な条件も当業者には容易に理解できるであろう。そのような条件に関する記載は、例えば、Sambrookら、1989, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版 (1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York、Ausubelら, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc. (1994)などに見ることができる。
さらに、配列番号1、3および4に本発明に含まれるDNAのヌクレオチド配列の一例が示されているので、配列番号1、3または4記載の配列を有するDNAおよびその変種配列を有するDNA、これらと相同な配列を有するDNA、これらとストリンジェントな条件でハイブリダイズし得るDNAを完全に化学合成することもできる。DNAの化学合成法も当業者にはよく知られており、そのための自動化された装置も商業的に入手可能である。
【0018】
2.本発明の組換えDNAの構築
次に、このようにして得たcDNAを発現ベクターに組み込んで組換えDNAを作製することができる。用いるベクターは、特に限定されるものではないが、宿主細胞内で自立複製可能なものでも、染色体に1コピーもしくは複数のコピーが挿入されるものでも良く、上記DNAすなわちアミノアシラーゼ遺伝子を組み込みうる挿入部位を持ち、更にこの組み込んだDNAを宿主細胞内で発現せしめることを可能とする領域が必要である。なお、ベクターに組み込むアミノアシラーゼ遺伝子としては、cDNAだけでなく、cDNAから予想されるアミノアシラーゼのアミノ酸配列をコードするように設計して合成されたDNAでも良い。このようなDNAには、発現させる宿主のコドン使用頻度に応じて同じアミノ酸をコードする別のコドンへの置換が行われているDNAが含まれる。例えば、大腸菌(E.coli)ではAUA、AGG、AGA、CGG、GGA、CUA、CCC、CGA等のコドン使用頻度は低いことが知られているので、大腸菌を宿主とする場合にはこれらのコドンの少なくとも一つがより使用頻度の高いコドンになるように対応するDNA配列を改変することもできる。このような遺伝子の合成は、DNA自動合成機を利用して合成したオリゴヌクレオチドをアニール後に連結することなどにより、容易に行うことができる。また、アミノアシラーゼを発現、異種タンパク質との融合タンパク質として生産させる方法もある。これは例えば、pGEXシステム(アマシャム・ファルマシアバイオテック社製)などを用いることで、アミノアシラーゼをグルタチオン-S-トランスフェラーゼとの融合タンパク質として大腸菌(エシェリヒア・コリ)(E.coli)に生産させることが可能である。また、ストレプトミセス・リビダンス(Streptomyces lividans, S.リビダンス)のような放線菌を発現宿主として選択する場合は、高コピーベクターであるpIJ702などを利用することが出来る。さらに、コリネバクテリウム・グルタミカムのようなコリネ型細菌を発現宿主として選択する場合は、高コピーベクターであるpPK4などを利用することができる。
【0019】
アミノアシラーゼ遺伝子を発現させるプロモーターとしては、通常異種タンパク質の発現に用いられるプロモーターを用いることができる。例えば、trp、tac、lac、trc、λPL、T7等のプロモーターを利用することが出来る。また、アミノアシラーゼ遺伝子の下流にはターミネーターを挿入することもできる。例えば、tpA、lpp、T4等のターミネーターが挙げられる。発現宿主として放線菌を選択する場合は、SSIプロモーターや、本発明のNεアシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ遺伝子の天然のプロモーター、SD配列およびターミネーターを利用することも出来る。発現宿主としてコリネ型細菌を選択する場合は、cspBプロモーターなどを利用することができる。また、翻訳の効率化のために、SD配列の種類、数、SD配列と開始コドンの間の領域の塩基組成、配列、長さをアミノアシラーゼ遺伝子の発現に最適になるようにすることもできる。アミノアシラーゼ発現に必要なプロモーターから翻訳開始点までの領域は、公知のPCR法や化学合成法などにより調整することができる。さらに、開始コドンの下流にシグナルペプチド配列を挿入し、分泌タンパクとしてアミノアシラーゼを発現させることも可能である。本発明の組換えDNAは、所望の発現系に応じた公知の発現ベクターに、前記アミノアシラーゼ遺伝子を含むDNAを公知の方法によって挿入することにより得ることが可能である。用いる発現ベクターは多コピーのものであることが望ましい。
【0020】
3.本発明の形質転換体
次に、本発明のDNAまたは組換えDNAが挿入されて得られる種々の形質転換体について説明する。本発明のDNAまたは組換えDNAを導入する細胞としては、大腸菌(E.coli)、放線菌およびコリネ型細菌を含む種々の微生物細胞が挙げられる。本発明のDNAまたは組換えDNAが導入されるE.coliには一般にクローニングや異種タンパク質の発現によく利用される菌株、例えば、HB101、MC1061、JM109、CJ236、MV1184が含まれる。本発明のDNAまたは組換えDNAが導入される放線菌には一般に異種タンパク質の発現によく利用される菌株、例えば、S.リビダンス TK24やS.セリカラー A3(2)が含まれる。本発明のDNAまたは組換えDNAが導入されるコリネ型細菌とは好気性のグラム陽性桿菌であり、従来ブレビバクテリウム属に分類されていたが現在コリネバクテリウム属に統合された細菌を含み(Int. J. Syst. Bacteriol., 41, 255(1981))、またコリネバクテリウム属と非常に近縁なブレビバクテリウム属細菌を含む。コリネ型細菌を使用することの利点には、これまでにタンパク質の分泌に好適とされてきたカビ、酵母やBacillus属細菌と比べて本来的に菌体外に分泌されるタンパク質が極めて少なく、目的タンパク質を分泌生産した場合にその精製過程が簡略化、省略化できること、分泌生産した酵素を用いて酵素反応を行う場合には、培養上清を酵素源として用いることができるため、菌体成分、夾雑酵素等による不純物、副反応を低減させることができること、糖、アンモニアや無機塩等を含む単純な培地で容易に生育するため、培地代や培養方法、培養生産性の点で優れていることが含まれる。また、Tat系分泌経路を利用することにより、これまでに知られていたSec系分泌経路では分泌生産が困難なタンパク質であったイソマルトデキストラナーゼやプロテイングルタミナーゼ等産業上有用なタンパク質も効率良く分泌させることが可能である[WO2005/103278]。本発明の、または本発明において使用する放線菌由来のNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼもTat系分泌経路等の適切な分泌経路を利用することにより菌体外に分泌させることができる。特にS.モバラエンシス由来のNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼはTat系分泌経路により効率的に菌体外に分泌させることができる。「Tat系」とは、「ツイン・アルギニン移行経路」(Twin-arginine-translocation-pathway)とも呼ばれる経路であり、シグナルペプチド中に保存されたアルギニン−アルギニンの保存領域を認識して、TatA、B、C、Eを含む膜タンパク質によりタンパク質を分泌する機構あるいは経路を意味する。Tat系シグナルペプチドとしては、E.coli由来トリメチルアミンN-オキシドレダクターゼ(TorA)のシグナルペプチド等が挙げられる。コリネ型細菌の例としては以下のものが挙げられる。
【0021】
コリネバクテリウム・アセトアシドフィラム、
コリネバクテリウム・アセトグルタミカム、
コリネバクテリウム・アルカノリティカム、
コリネバクテリウム・カルナエ、
コリネバクテリウム・グルタミカム、
コリネバクテリウム・リリウム、
コリネバクテリウム・メラセコーラ、
コリネバクテリウム・サーモアミノゲネス、
コリネバクテリウム・ハーキュリス、
ブレビバクテリウム・ディバリカタム、
ブレビバクテリウム・フラバム、
ブレビバクテリウム・インマリオフィラム、
ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム、
ブレビバクテリウム・ロゼウム、
ブレビバクテリウム・サッカロリティカム、
ブレビバクテリウム・チオゲニタリス、
コリネバクテリウム・アンモニアゲネス、
ブレビバクテリウム・アルバム、
ブレビバクテリウム・セリヌム、
ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム。
【0022】
具体的には、下記のような菌株を例示することができる。
コリネバクテリウム・アセトアシドフィラム ATCC13870、
コリネバクテリウム・アセトグルタミカム ATCC15806、
コリネバクテリウム・アルカノリティカム ATCC21511、
コリネバクテリウム・カルナエ ATCC15991、
コリネバクテリウム・グルタミカム ATCC13020, ATCC13032, ATCC13060,ATCC13869,FERM BP-734、
コリネバクテリウム・リリウム ATCC15990、
コリネバクテリウム・メラセコーラ ATCC17965、
コリネバクテリウム・エッフィシエンス AJ12340(FERM BP-1539)、
コリネバクテリウム・ハーキュリス ATCC13868、
ブレビバクテリウム・ディバリカタム ATCC14020、
ブレビバクテリウム・フラバム ATCC13826, ATCC14067, AJ12418(FERM BP-2205)、
ブレビバクテリウム・インマリオフィラム ATCC14068、
ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム ATCC13869、
ブレビバクテリウム・ロゼウム ATCC13825、
ブレビバクテリウム・サッカロリティカム ATCC14066、
ブレビバクテリウム・チオゲニタリス ATCC19240、
コリネバクテリウム・アンモニアゲネス ATCC6871、ATCC6872、
ブレビバクテリウム・アルバム ATCC15111、
ブレビバクテリウム・セリヌム ATCC15112、
ミクロバクテリウム・アンモニアフィラス ATCC15354。
【0023】
とりわけ、野生株コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum、C.グルタミカム)ATCC13869よりストレプトマイシン(Sm)耐性変異株として分離したコリネバクテリウム・グルタミカムAJ12036(WO 02/081694参照)はその親株(野生株)に比べ、タンパク質の分泌に関わる機能遺伝子に変異が存在することが予測され、タンパク質の分泌生産能が至適培養条件下での蓄積量としておよそ2〜3倍と極めて高いため、宿主菌として好適である。
さらに、このような菌株から細胞表層タンパク質を生産しないように改変した菌株を宿主として使用すれば、培地中に分泌された目的タンパク質の精製が容易となり、特に好ましい。そのような改変は、突然変異または遺伝子組換え法により染色体上の細胞表層タンパク質またはその発現調節領域に変異を導入することにより行うことができる。細胞表層タンパク質を生産しないように改変されたコリネ型細菌としては、AJ12036の細胞表層タンパク質(PS2)破壊株であるC.グルタミカムYDK010株が挙げられる(WO 01/23491参照)。
【0024】
この他の形質転換体となりうる細胞には、枯草菌、酵母、麹菌等があり、これらのタンパク質分泌能を利用して、アミノアシラーゼを培地中に生産させる方法も考えられる。上記のような微生物の他、カイコ培養細胞などの培養細胞を用いてもよい。これらの宿主細胞に、上記組換えベクターを宿主細胞内に導入して形質転換体を得ることができる。組換え発現ベクターの宿主細胞内への導入方法は、従来の慣用的に用いられている方法により行うことができる。コンピテントセル法、プロトプラスト法、リン酸カルシウム共沈法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、リポソーム融合法等、種々のものが挙げられる。コリネ型細菌への導入方法としては具体的には例えば、プロトプラスト法(Gene, 39, 281-286(1985))、エレクトロポレーション法(Bio/Technology, 7, 1067-1070)(1989))等を使用することができるが、これらに限定されない。
【0025】
4.Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼの製造法
このようにして得られた形質転換体を培養することにより、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼが産生される。産生されたアミノアシラーゼを公知の方法で単離し、場合によっては更に精製することにより、目的とする酵素が得られる。E.coliを宿主とした場合には、不活性なアミノアシラーゼ会合体、すなわちタンパク質封入体としてアミノアシラーゼ遺伝子産物を得た後、これを適当な方法で活性化することも可能である。活性化後、活性型タンパク質を公知の方法で分離精製することにより目的の酵素を得てもよい。
形質転換体を培養するための培地は公知であり、例えば、E.coliの培養にはLB培地などの栄養培地や、M9培地などの最小培地に炭素源、窒素源、ビタミン源等を添加して用いることができる。形質転換体は宿主に応じて、通常、16〜42℃、好ましくは25〜37℃で5〜168時間、好ましくは8〜72時間培養される。宿主に依存して、振盪培養と静置培養のいずれも可能であるが、必要に応じて攪拌を行ってもよく、通気を行ってもよい。放線菌を発現宿主として選択する場合は、本発明の酵素を生産させるために使用し得る条件、例えばWO 2006/088199記載の条件を用いることが出来る。また、アミノアシラーゼ発現のために誘導型プロモーターを用いた場合は、培地にプロモーター誘導剤を添加して培養をおこなうこともできる。
【0026】
産生されたアミノアシラーゼは、形質転換体の抽出物から公知の塩析、等電点沈殿法もしくは溶媒沈殿法等の沈殿法、透析、限外濾過もしくはゲル濾過等の分子量差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィー等の特異的親和性を利用する方法、疎水クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー等の疎水度の差を利用する方法やその他アフィニティークロマトグラフィー、SDSポリアクリルアミド電気泳動法、等電点電気泳動法等、またはこれらの組み合わせにより、精製および単離することが可能である。アミノアシラーゼを分泌発現させた場合には、形質転換体を培養して得られた培養液から、菌体を遠心分離等で除くことで目的とする酵素を含む培養上清が得られる。この培養上清からもアミノアシラーゼを精製および単離することが可能である。
【0027】
例えば、形質転換体の培養終了後、遠心により集菌した菌体を菌体破砕用バッファー(20〜100 mM Tris-HCl(pH8.0)、5mM EDTA)に懸濁し、超音波破砕をBranson MODEL-Sonifier 250のマイクロチップを用い、output control 7,duty cycle 50%で約10分間行うことにより菌体を破砕することができる。菌体破砕は、トルエン等の溶媒を培養液に加え行うこともできる。この破砕処理液を12000rpmで10分間遠心して上清を上述した精製操作をすることができる。また、前記遠心後の沈殿について必要に応じて塩酸グアニジウムまたは尿素などで可溶化したのち更に精製することもできる。アミノアシラーゼを分泌発現させた場合には、形質転換体の培養終了後、培養液を12000rpmで10分間遠心して上清を上述した精製操作をすることができる。
具体的には、本発明のDNAによってコードされるアミノアシラーゼ酵素の精製は例えば以下のように行うことができる。宿主の培養終了後、培養上清または細胞抽出物に硫酸アンモニウム(2.8M)を加えて沈殿分画後、更に、CM セファデックス C-50、DEAE-セファデックスA-50イオン交換カラムクロマトグラフィー、オクチルセファロースCL-4BおよびフェニルセファロースCL-4Bカラムクロマトグラフィー等の操作を行うことによって、ポリアクリルアミドゲル電気泳動した場合にゲル上で単一バンドを呈する程度にまで精製することができる。
【0028】
得られたアミノアシラーゼ酵素の活性は、Nε-アセチル-L-リジン加水分解活性を測定することにより測定することが出来る。なお、本発明の酵素1U(ユニット)は、Nε-アセチル-L-リジン溶液を基質として37℃にてインキュベート(50 mMトリス塩酸緩衝液、pH8.0)し、遊離したL-リジンを定量した場合に、1時間あたり1マイクロモルのNε-アセチル-L-リジンを加水分解するのに必要な酵素量と定義する。
本発明のDNAによってコードされるアミノアシラーゼは、Nε-アシル-L-リジンに作用し、Nε-アシル-D-リジンに対する反応性は非常に低い。アシル基に対する特異性は広く、飽和または不飽和脂肪酸アシル、更には芳香族基を含有するカルボン酸アシルからなるNε-アシル-L-リジンを加水分解し、その逆反応も触媒する。逆反応については、D-リジンのε-アミノ基に対する反応性は非常に低く、L-リジンのε-アミノ基に優先的に作用する。
【0029】
本発明の別の側面はNε-アシル-L-リジンの製造方法である。この側面における一つの実施様態では、本発明の酵素または本発明のDNAによってコードされる酵素がL-リジンまたはその塩がカルボン酸またはその塩に作用し、それによって、Nε-アシル-L-リジンが生成される。この側面において、酵素は精製された酵素でも粗精製酵素でもよく、また本発明の酵素を発現する形質転換体の細胞破砕物、細胞抽出物、粗精製酵素でもよく、場合により酵素の供給源として上述の形質転換体を破砕せずに使用することも出来る。適切なシグナル配列を利用することにより培地中に本発明の酵素が分泌される場合は、培養上清またはその濃縮物を酵素の供給源として利用することも出来る。この実施態様における酵素反応の条件は、本酵素の特性、特に至適温度および安定温度、並びに、至適pHおよび安定pHを含む適切な条件に従って決定することができる。例えば、S.モバラエンス由来の本発明の酵素(配列番号2のアミノ酸配列を有する)の場合、以下の性質を有する。
【0030】
1)Nε-アシル-L-リジンに作用し、カルボン酸とリジンを遊離させる反応、および、その逆反応を触媒する;
2)L-Lysのε−アミノ基に作用する;
3)Nε-アセチル-L-リジンを基質とした場合に、加水分解反応の至適pHは、37℃ においてトリス−塩酸緩衝液中で、8.0〜9.0の範囲にある;
4)トリス−塩酸緩衝液中で、37℃、1時間のインキュベートした場合、pH 6.5〜10.5の範囲で安定である;
5)Nε-アセチル-L-リジンを基質としたときの加水分解反応における至適温度が、トリス−塩酸緩衝液(pH8.2)中で、55℃付近である;
6)トリス−塩酸緩衝液(pH8.2)中、40℃、60分処理において失活せず、55℃、60分処理後の残存活性は75〜85%である;
7)o-フェナンスロリンにより阻害を受ける。
8)コバルト、亜鉛、マンガン、カルシウム、カリウム、マグネシウムなどの金属イオンによって活性が上昇し、特にコバルトイオンにより活性が上昇する;
【0031】
また、前記S.モバラエンス由来の酵素はNε-アセチル-L-リジンに高い加水分解活性を示すが、Nα-アセチル-L-リジンを除くNα-アセチル-L-アミノ酸には一般に活性を示さない。さらに、前記S.モバラエンス由来の酵素はNε-アセチル-L-リジンに対して最も高い比活性を有し,クロロアセチル基やベンゾイル基を有する他のNε-アシル-L-リジンなどに対しても高い活性を示す。これらの性質の詳細はWO 2006/088199に記載されている。
【0032】
特に、前記カルボン酸が比較的長鎖であって、前記反応が水溶性溶媒中で行われる場合、生成するNε-アシル-L-リジンは水に不溶性または難溶性であるため析出して反応系から容易に除去され、従って、ε-アシル-L-リジンの合成反応がその逆反応であるNε-アシル-L-リジンの分解反応よりも顕著に優先的かつ効率よく進む。また、このような場合、合成反応生成物であるNε-アシル-L-リジンは速やかに水相から分離してくるので非常に容易に回収することができる。例えば、分離したNε-アシル-L-リジンを直接回収する、または、有機溶媒によって容易にNε-アシル-L-リジンを水性反応系から抽出して回収することができる。本発明によってNε-アシル-L-リジンを製造する場合、前記比較的長鎖のカルボン酸は、例えば使用する水溶性溶媒に対する溶解性を基準として選択することができる。なお、本明細書において“水溶性溶媒”には勿論水自身も含まれる。また、反応を水溶性溶媒中で行う場合であっても、別途油層(有機溶媒層)を重層し、水溶性溶媒/有機溶媒の2相反応とすることもできる。
【0033】
本発明の方法に従ってNε-アシル-L-リジン製造を行う本発明の一態様においては、本発明のDNAによってコードされる酵素1U〜500U/ml、好ましくは10U〜300U/mlと、L-リジンまたはその塩50mM〜2M、好ましくは100mM〜1.0M、および、カルボン酸またはその塩5mM〜2M、好ましくは10mM〜300mMとを、適切な緩衝液、例えばトリス-塩酸緩衝液中、pH6.5〜10.5、好ましくはpH7.0〜10.0、特に好ましくはpH7.0〜8.0のpH範囲、30℃〜70℃、好ましくは45℃〜70℃の温度範囲にて、1〜48時間、好ましくは2〜24時間、特に好ましくは4〜24時間反応させる。適切な条件下では約80%またはそれ以上の収率でNε-アシル-L-リジンを得ることが出来る。基質であるL-リジンまたはカルボン酸の一方が反応系に過剰量存在していてもよく、必要に応じて不足している基質を反応中に追加してもよい。
【0034】
本発明のNε-アシル-L-リジンの製造方法においては前述したように、本発明のDNAによってコードされる酵素によりL-リジンとカルボン酸、またはそれらの塩との反応が触媒される。反応に使用されるカルボン酸には、直鎖又は分枝した、飽和又は不飽和の脂肪酸、飽和または不飽和の側鎖を有する芳香族カルボン酸が含まれ、それらのカルボン酸は好ましくは炭素数が5以上、より好ましくは炭素数が8以上のアシル基を有するカルボン酸である。より具体的には、本発明のNε-アシル-L-リジンの製造方法において使用し得るカルボン酸は、オクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレン酸、安息香酸、ケイ皮酸などが好ましく、オクタン酸、ラウリン酸が特に好ましい。
【0035】
以下の参考例および実施例により本発明を更に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を制限するものと解してはならない。なお、下記参考例および実施例におけるパーセンテージは、文脈上明らかでない場合を除いて「質量%」を意味する。
【実施例1】
【0036】
放線菌S.モバラエンシス由来のアミノアシラーゼ(Sm-ELA)DNAのクローニング
1.アミノアシラーゼの部分アミノ酸配列の決定
WO 2006/088199、実施例1に記載されている方法に従って放線菌S.モバラエンシスIFO13819株培養物からNε-アシル-リジン特異的アミノアシラーゼタンパク(Sm-ELA)を精製し、そのN末端アミノ酸配列をプロテインシークエンサーで解析した。
簡単にいえば、可溶性澱粉4.0%、ポリペプトン2.0%、肉エキス 4.0%、リン酸水素カリウム 0.2%、硫酸マグネシウム 2.0%、pH7を含む培地2L(リットル)を5L容量のバッフル付き坂口フラスコに入れ、S.モバラエンシスの胞子溶液0.1mlを接種し、30℃で3日から7日間培養した。培養終了後、遠心して(10000 x g、30分間)除菌し、上清を回収した。
【0037】
得られた培養上清に最終濃度60%になるように硫酸アンモニウム、DEAE-セファデックスA-50カラム、オクチルセファロースCL-4Bカラム(φ16 X 300 mm)、フェニルセファロースCL-4B カラム(φ16 x 150 mm)で精製を行った。
精製されたアミノアシラーゼをプロテインシークエンサーに供したところ、N末端アミノ酸配列としてSERPXTTLLRNGDVHSPADPF(Xは不明)(配列番号6)が得られた。得られたN末端アミノ酸配列の21残基についてNCBI protein-protein BLASTを用いて相同性検索を行ったところ、仮想タンパク質SCO1424 (S.セリカラー A3 (2), NP_625706)のN末端アミノ酸配列と81%の相同性を有することが明らかとなった。
【0038】
2.Sm-ELA遺伝子のクローニング
N末端アミノ酸解析で得られた配列LLRNGDVHSに基づき、プライマー1(5’-CTGCTGCGCAACGGCGACGTCCACA-3’)(配列番号7)を設計した。また、SCO1424の内部配列(443-467 bp)より、プライマー2(5’-ACGACGGCCGAGTGGACGTCGATCC-3’)(配列番号8)を設計した。
S.モバラエンシスIFO13819株のゲノムDNAを鋳型にし、プライマー1および2を用いてPCR増幅を行った。
【0039】
PCRの条件は以下の通り
<PCR 溶液の調製>
Advantage-GC 2 PCR Kit(Clontech)を使用。
H2O 12 μl, PCRバッファー 4 μl, GC Melt 2 μl, dNTPs 0.4 μl,Taq ポリメラーゼ 0.4 μl, 10 μM の各プライマー 0.4 μl、 10 μg/ml 鋳型DNA 0.4μl, 総量 20μl
<PCR 反応条件>
Cycle 1 (x1) 95℃; 5 分間
Cycle 2 (x30) 95℃; 0.5分間, 60℃; 1分間, 72℃; 1分間
Cycle 3 (x1) 72℃; 10分間, 4℃; ∞
(総量 20 μL)
【0040】
得られたDNA断片0.43 kbpとpUC118 HincII/BAP(TAKARA) とをライゲーションし、E.coli DH5αを形質転換した。形質転換体は40 mg/l X-gal、0.1 mM IPTG、50 mg/l アンピシリンを含むLB寒天培地上で選択した。目的のDNA断片を保有する形質転換体からプラスミドを抽出し、挿入されたDNA断片のヌクレオチド配列を確認した。
プライマー1、2を用いたPCR増幅で得られたヌクレオチド配列より、プライマー3(5’-ACGAGGTGATCGACCTCCAGGGCGC-3’)(配列番号9)を設計した。また、SCO1424の内部配列 (1142-1166 bp)より、プライマー4(5’-TACATGCCGTCCTCGCCGCCCCAGA-3’)(配列番号10)を設計した。
S.モバラエンシスIFO13819株のゲノムDNAを鋳型にし、プライマー3、4を用いてPCR増幅を行った。PCRの条件はプライマー1および2を使用したPCR条件と同じである。得られたDNA断片1.1 kbpとpUC118 HincII/BAPとをライゲーションし、E.coli DH5αを形質転換した。形質転換体は40 mg/l X-gal、0.1 mM IPTG、50 mg/l アンピシリンを含むLB寒天培地上で選択した。目的のDNA断片を保有する形質転換体からプラスミドを抽出し、挿入されたDNA断片のヌクレオチド配列を確認した。
プライマー3および4を用いたPCR増幅で得られたヌクレオチド配列より、プライマー5(5’-TCTCGCTGGGCATCGGCTCGGTGCA-3’)(配列番号11)及びプライマー6(5’-CAGGCCGGTGGCAGTGGTGTGCACA-3’)(配列番号12) を設計した。また、抽出したプラスミドとプライマー3および4、及びPCR DIG Labeling Mix (Roche)を用いてPCR増幅を行い、1.1 kbpのDIG標識されたDNAプローブを得た。
【0041】
PCRの条件は以下の通り。
<PCR 溶液の調製>
Advantage-GC 2 PCR Kit (Clontech) を使用。
H2O 52.5 μl, PCR バッファー20 μl, GC Melt 10 μl, PCR DIG Labeling Mix (Roche) 10 μl,Taq ポリメラーゼ 2 μl, 10 μM の各プライマー 2 μl, , 100 ng/μl 鋳型 1.5 μl, 総量 100 μl
<PCR 反応条件>
Cycle 1 (x1) 95℃; 5 分間
Cycle 2 (x30) 95℃; 0.5分間, 60℃; 1分間, 72℃; 1分間
Cycle 3 (x1) 72℃; 10分間, 4℃; ∞
【0042】
S.モバラエンシス IFO13819株のゲノムDNAをNdeI, SpeI, XbaI, BssHII及びMluIでそれぞれ処理し、1.4%のアガロースゲルを用いて電気泳動を行った。これをHybond-N+(GE Healthcare)に転写し、DIG標識したプローブを用いてサザンハイブリダイゼーションを行った。その結果、MluIで断片化したゲノムDNAにおいて、およそ2 kbpに強いシグナルが見られた。そこで、ゲノムDNAをMluIで処理し得られたDNA断片2 kbpをセルフライゲーションし、そのライゲーション溶液を鋳型にし、プライマー5および6を用いてPCR増幅を行った。
【0043】
PCRの条件は以下の通り。
<PCR 溶液の調製>
AdvantageTM-GC 2 PCR Kit(Clontech)を使用。
H2O 25μl, PCR バッファー 10μl, GC Melt 5 μl, dNTPs 1 μl, Taq ポリメラーゼ 1 μl, 10 μMの各プライマー 1 μl 鋳型 6 μl
(総量 50 μL)
<PCR 反応条件>
Cycle 1 (x1) 95 ℃; 5 分間
Cycle 2 (x5) 95 ℃; 0.5 分間, 72 ℃; 3 分間
Cycle 3 (x5) 95 ℃; 0.5 分間, 65 ℃; 1 分間, 72 ℃; 3 分間
Cycle 4 (x25) 95 ℃; 0.5 分間, 60 ℃; 1 分間, 72 ℃; 3 分間
Cycle 5 (x1) 72 ℃; 10 分間, 4 ℃; ∞
【0044】
得られた約2 kbpのDNA断片とpT7Blue T-vector(Novagen)とをライゲーションし、E.coli DH5αを形質転換した。形質転換体は40 mg/l X-gal、0.1 mM IPTG、50 mg/l アンピシリンを含むLB寒天培地上で選択した。目的のDNA断片を保有する形質転換体からプラスミドを抽出し、挿入されたDNA断片のヌクレオチド配列を確認した。
【0045】
プライマー5および6を用いたPCR増幅で得られたヌクレオチド配列より、プライマー7(5’-AACGCGGCGATGTGCTCGGGCGTGA-3’)(配列番号13)及びプライマー8(5’-CGCGTCTCGGTGCGTGCGGCCTTCA-3’)(配列番号14)を設計した。さらに、抽出したプラスミドとプライマー5、7及びPCR DIG Labeling Mix(Roche)を用いてPCR増幅を行い、0.5 kbpのDIG標識されたDNAプローブを得た。PCR条件はプライマー3および4を用いた場合と同じである 上記と同様にして、S.モバラエンシス IFO13819株のゲノムDNA をNcoIで処理し、0.5 kbpのDIG標識されたプローブを用いてサザンハイブリダイゼーションを行った。その結果、およそ1.8 kbpに強いシグナルが見られた。そこで、ゲノムDNAをNcoIで処理し得られた1.8 kbpのDNA断片をセルフライゲーションし、そのライゲーション溶液を鋳型にして、プライマー7、8を用いてPCR増幅を行った。PCRの条件はプライマー5と6の組合せで用いたものと同じである。得られた約1.5 kbpのDNA断片とpT7Blue T-vectorとでライゲーションを行い、E.coli DH5αを形質転換した。形質転換体は40 mg/l X-gal、0.1 mM IPTG、50 mg/l アンピシリンを含むLB寒天培地上で選択した。目的のDNA断片を保有する形質転換体からプラスミドを抽出し、挿入されたDNA断片のヌクレオチド配列を確認した。
これらの結果より、Sm-ELA遺伝子のORF全長及び周辺のヌクレオチド配列が明らかとなったので、ORF上流領域の配列よりプライマー9(5’-GCGCCGCACGGGCTGGATCAACCAC-3’)(配列番号15)を、下流領域の配列よりプライマー10(5’-TCAGTGCGGAGGGGGTGACGCAGCG-3’)(配列番号16)を設計した。S.モバラエンシス IFO13819株のゲノムDNAを鋳型にして、プライマー9および10を用いてPCR増幅を行い、得られた1.6 kbpのDNA断片とpUC118 HincII/BAPとをライゲーションし、E.coli DH5αを形質転換した。PCRの条件は以下の通り。
【0046】
<PCR 溶液の調製>
KOD plus DNA ポリメラーゼ(Toyobo)を使用。
H2O 51.6 μl, PCRバッファー 10 μl, dNTPs 10μl, MgSO4 8μl, KOD plus 2 μl, 10 μM の各プライマー6 μl、鋳型 1.4 μl, DMSO 5 μl, 総量100μl
<PCR 反応条件>
Cycle 1 (x1) 95 ℃; 5 分間
Cycle 2 (x5) 95 ℃; 0.5分間, 72 ℃; 2分間
Cycle 3 (x5) 95 ℃; 0.5分間, 65 ℃; 1分間, 72 ℃; 2分間
Cycle 4 (x25) 95 ℃; 0.5分間, 60 ℃; 1分間, 72 ℃; 2分間
Cycle 5 (x1) 72 ℃; 10分間, 4℃; ∞
【0047】
形質転換体は40 mg/l X-gal、0.1 mM IPTG、50 mg/l アンピシリンを含むLB寒天培地上で選択した。目的のDNA断片を保有する形質転換体からプラスミドを抽出し、挿入されたDNA断片のヌクレオチド配列を確認した。このヌクレオチド配列を配列番号1に示す。このDNA断片はSm-ELA遺伝子のオープンリーディングフレーム全長を含んでいた。この断片にコードされるSm-ELAのアミノ酸配列を配列番号2に示す。オープンリーディングフレーム(ORF)のヌクレオチド配列は配列番号番号3に示す。得られたプラスミドをpUC118-SmELAと命名した。
用いたプライマーとSm-ELA遺伝子との位置関係は図3に示すとおり。
【実施例2】
【0048】
Sm-ELAのE.coliにおける生産
1.Sm-ELA E.coli発現株の作製
Sm-ELA遺伝子のヌクレオチド配列より、プライマーSmELA-Nde-f(5’-catATGAGCGAGCGCCCCCGAACCACCC-3’)(配列番号17)及びプライマーSmELA-Hind-r(5’-aagctTCAGGCGGCGTACACGGTGCGTCCG-3’)(配列番号18)を設計した。pUC118-SmELAを鋳型として、これらのプライマーを用いてPCR増幅を行った。
【0049】
PCRの条件は以下の通り。
<PCR 溶液の調製>
KOD -Plus- Ver.2(Toyobo)を使用。
H2O 32 μl, PCR バッファー 5 μl, dNTPs 5 μl, MgSO4 3 μl, KOD-Plus- 1 μl, 10 μMの各プライマー1.5μl, 100 ng/μl DNA (鋳型) 1 μl, 総量50 μl
<PCR 反応条件>
Cycle 1 (x1) 94 ℃; 2 分間
Cycle 2 (x25) 98 ℃; 10秒間, 55 ℃; 10秒間、68℃:2分間、
Cycle 3 (x1) 68 ℃; 2分間,4℃;∞
【0050】
得られた1.6 kbpのDNA断片とpTA2(TArget Clone -Plus-, Toyobo)とをライゲーションし、E.coli JM109を形質転換した。形質転換体は40 mg/l X-gal、0.1 mM IPTG、100 mg/l アンピシリンを含むLB寒天培地上で選択した。目的のDNA断片を保有する形質転換体からプラスミドを抽出し、挿入されたDNA断片のヌクレオチド配列を確認したところ、Sm-ELA遺伝子のORF全長及び付与したNdeI、HindIII認識部位が含まれていた。得られたプラスミドをNdeI、HindIIIで処理し、Sm-ELA遺伝子を含む1.6 kbpのDNA断片を得た。JP 2005278468 A(特開2005-278468)、光学活性アミノ酸の製造方法、実施例1、第0064欄に記載のベクターpTrp2をNdeI、HindIIIで処理し、これとSm-ELA遺伝子を含むDNA断片とをライゲーションし、E.coli JM109を形質転換した。形質転換体は100 mg/lアンピシリンを含むLB寒天培地上で選択した。pTrp2にSm-ELA遺伝子が挿入された構成のプラスミドをpTrp2-SmELAと命名し、このプラスミドを保持する形質転換体をE.coli JM109/pTrp2-SmELA株とした。
【0051】
2.E.coliを用いたSm-ELAの発現
100 mg/lアンピシリンを含むTB培地50 mlを入れた500 ml容坂口フラスコにE.coli JM109/pTrp2-SmELA株を1白金耳分植菌し、37℃で16時間振とう培養した。遠心分離により培養液から菌体を回収し、20 mM Tris-HCl(pH 7.6)で洗浄し、20 mM Tris-HCl(pH 7.6) 10mlに懸濁し、洗浄菌体として使用した。この洗浄菌体を破砕せずにそのまま用いてNε-アセチル-L-リジンの分解活性を測定したところ、培養液1mlに相当する洗浄菌体量あたり約6.0 Uの活性を有しており、WO2006/088199 A1で報告された、S.モバラエンシスIFO13819株の培養上清1 mlに含まれる活性1.4 Uの約4.3倍に達することが明らかとなった。E.coli JM109/pUC18株の洗浄菌体を用いた場合には活性は検出されなかった。
活性測定は、Nε-アセチル-L-リジン 4 mM、Tris-HCl 50 mM(pH 8.0)、37℃で行い、Nε-アセチル-L-リジンの分解に伴い生成するリジンの濃度を測定した。リジンの測定にはWO2006/088199に記載されている酸性ニンヒドリン法を用いた。1 Uは、1時間あたり1 μmolのリジンをNε-アセチル-L-リジンより遊離させる酵素量と定義した。
【実施例3】
【0052】
E.coli JM109/pTrp2-SmELA株の洗浄菌体によるNε-ラウロイル-L-リジンの合成
100 mg/l アンピシリンを含むTB培地50 mlを張り込んだ500 ml容坂口フラスコにE.coli JM109/pTrp2-SmELA株を1白金耳分植菌し、37℃で16時間振とう培養した。遠心分離により、培養液から菌体を回収し、20 mM Tris-HCl(pH 7.6) 10 mlに懸濁した。
終濃度がラウリン酸10 mM、L-リジン塩酸塩100 mM、Tris-HCl50 mM、洗浄菌体6.0 U/mlとなるよう反応溶液50 mlを調製し、200 ml容ミニジャーファーメンターを用いて500 rpmにて攪拌し、Nε-ラウロイル-L-リジン合成反応を行った。pHは7.0となるよう2N NaOHで調整し、反応液の温度は37℃となるよう調整した。
24時間後に反応液を全量回収し、遠心分離を行った。上清を除去した後、沈殿にメタノールと6N HClを加え、沈殿を溶解させた。この溶液を遠心分離し、上清を回収した。上清に6N NaOHを加え、pH 6.5-7.5となるよう調整してNε-ラウロイル-L-リジンを析出させた。反応液を遠心分離し、上清を除去した後、沈殿に水を加え懸濁した。懸濁物を遠心分離し、上清を除去した後、沈殿にメタノールを加え懸濁した。ろ紙を用いてこの懸濁液を吸引ろ過した。ろ紙上の粉体を乾燥させ重量を測定したところ93.3 mgであった。この粉体中のNε-ラウロイル-L-リジン純度をHPLCで測定したところ92.1%であった。従ってNε-ラウロイル-L-リジンが85.9 mg(0.262 mmol)得られていることが明らかとなった。収率はラウリン酸を基準として52.3%であった。
HPLC分析は、カラムYMC-Pack A-312 ODS、6.0 x 150 mm(YMC)、移動層0.1 M NaH2PO4/MeOH = 2/8、UV 210 nmで行った。
【実施例4】
【0053】
S.リビダンスにおけるSm-ELAの生産
1.Sm-ELAを発現するS.リビダンスの作製
放線菌高コピーベクターpIJ702(Cloning and expression of the tyrosinase gene from Streptomyces antibioticus in Streptomyces lividans. Katz E, Thompson CJ, Hopwood DA. J Gen Microbiol. 1983, 129, 2703-14.)と大腸菌(E.coli)高コピーベクターpUC19を連結させて放線菌-大腸菌シャトルベクターpUC702を構築した。まず、pIJ702をPstI、SacIで処理し、さらに平滑化した。次に、pUC19をNdeIで処理し、さらに平滑化した。これらのDNA断片をライゲーションし、ライゲーション溶液を用いてE.coli JM109を形質転換した。形質転換体は100 mg/l アンピシリンを含むLB寒天培地上で選択した。形質転換体からプラスミドを抽出し、pUC19のマルチクローニングサイトがpIJ702のPstI認識部位側に存在するプラスミドを取得し、これをpUC702と命名した。
S.リビダンスにおけるSm-ELA発現のために、SSIプロモーターの利用を試みた。ストレプトミセス・アルボグリセオルスS-3253株由来SSI遺伝子を含む約1.8 kbpのDNA断片がpBR322に挿入されたプラスミドであるpSI30(High-level expression in Streptomyces lividans 66 of a gene encoding Streptomyces subtilisin inhibitor from Streptomyces albogriseolus S-3253. Obata S, Furukubo S, Kumagai I, Takahashi H, Miura K. J Biochem. 1989, 105, 372-6.)を鋳型にして、プライマーSSIHindF(5’-CGAAGCTTGCGGGGTGTTCGGAGATGA-3’)(配列番号19)とプライマーSSIMTGR(5’- CGTTGAACGCGGCCGTGCGGCCCGTGCTCGGTGTGT-3’)(配列番号20)を用いてPCR増幅を行った。PCR条件は以下の通りである。
【0054】
<PCR 溶液の調製>
Pyrobest DNA ポリメラーゼ (TAKARA) を使用。
H2O 18.8 μl, PCR バッファー 5 μl, dNTPs 4 μl, Pyrobest DNA ポリメラーゼ0.2 μl, 1 mMの各プライマー10 μl, 20 ng/μl DNA (鋳型) 2 μl, 総量50 μl
<PCR 反応条件>
Cycle 1 (x1) 94℃; 5 分間
Cycle 2 (x25) 98℃; 10 秒間, 60℃; 0.5分間, 72℃; 3 分間
Cycle 3 (x1) 4℃; ∞
【0055】
得られた0.3 kbpのDNA断片にはSSIプロモーター領域が含まれる。次に、pUMTG5(Secretion of active-form Streptoverticillium mobaraense transglutaminase by Corynebacterium glutamicum: processing of the pro-transglutaminase by a cosecreted subtilisin-Like protease from Streptomyces albogriseolus. Kikuchi Y, Date M, Yokoyama K, Umezawa Y, Matsui H. Appl Environ Microbiol. 2003, 69, 358-66.)を鋳型にして、S.モバラエンシス 由来PMTG(microbial pro-transglutaminase)遺伝子の一部をPCR増幅した。
【0056】
プライマーはSSIMTGF(5’-GCACCACCGAGCACGGGCCGCACGGCCGCGTTCAACG-3’)(配列番号21)及びMTGSACR(5’-GACGAGAGCTCTCCGGCGTATGCGCATGGA-3’)(配列番号22)を用いた。PCR条件はプライマーSSIHindF, SSIMTGRを用いたPCRと同じである。
得られた90 bpのDNA断片には、PMTG遺伝子の開始コドンから50 bp程度上流〜開始コドンから20 bp程度下流までが含まれる。このようにして得られた0.3 kbpと90 bpのDNA断片を鋳型にして、クロスオーバーPCRをプライマーSSIHindFとプライマーMTGSACRを用いて行った。PCR条件は以下の通りである。
【0057】
Pyrobest DNAポリメラーゼ(TAKARA)を使用。
H2O 18.8 μl, PCR バッファー 5 μl, dNTPs 4 μl, Pyrobest DNA ポリメラーゼ 0.2 μl, 1 mM の各プライマー10 μl, 20 ng/μl DNA (鋳型) それぞれ1μl, 総量50 μl
<PCR 反応条件>
Cycle 1 (x1) 94℃; 5 分間
Cycle 2 (x25) 98℃; 10 秒間, 60℃; 0.5分間, 72℃; 3分間
Cycle 3 (x1) 4℃; ∞
【0058】
得られたDNA断片をHindIII、SacIで処理し、HindIII、SacIで処理しておいたpUC19とライゲーションを行った。このライゲーション溶液を用いてE.coli JM109を形質転換し、100 mg/lアンピシリンを含むLB寒天培地上で形質転換体を選択した。形質転換体からSSIプロモーターとPMTG遺伝子の一部が連結したDNA断片がpUC19に挿入された目的のプラスミドを抽出した。
PMTG遺伝子の開始コドンから20 bp下流以降の配列は、S.モバラエンシスIFO13819ゲノムDNAのSacI断片が挿入されているpUITG (WO/2002/081694) から得られる。pUITGをSacIで処理し、同様にSacIで処理した上述のプラスミドとのライゲーションを行った。このライゲーション溶液を用いてE.coli JM109を形質転換し、100 mg/lアンピシリンを含むLB寒天培地上で形質転換体を選択した。形質転換体からSSIプロモーターとPMTG遺伝子全長が連結したDNA断片がpUC19に挿入された目的のプラスミドを抽出した。このプラスミドをpSSI-PMTG19と命名し、HindIII、EcoRIで処理、同様にHindIII、EcoRIで処理したpUC702とのライゲーションを行った。このライゲーション溶液を用いてE.coli JM109を形質転換し、100 mg/lアンピシリンを含むLB寒天培地上で形質転換体を選択した。形質転換体から、SSIプロモーターとPMTG遺伝子全長とが連結したDNA断片がpUC702に挿入された構成のプラスミドを抽出した。このプラスミドをpUC702-PMTGと命名し、S.リビダンスTK21を形質転換した。形質転換体S.リビダンス TK21/pUC702-PMTGを、チオストレプトン20 mg/lを含むTSB (Tryptic Soy Broth)培地で培養することによりS.モバラエンシス由来PMTGの発現が可能である(Unpublished)。
S.リビダンスTK24においてSm-ELAを発現させるため、SSIプロモーターとSm-ELA遺伝子が連結したDNA断片をpUC702に挿入してpUC702-SmELAを構築した。まず、pSSI-PMTG19を鋳型とし、プライマーHind-SSI-f(5’-agcccAAGCTTgcggggtgttcggagatgac-3’)(配列番号23)及びプライマーSSI-SmELA-r(5’-GGAGGGTGGTTCGGGGGCGCTCGCTCATggaaacctgcaactcctttgtc-3’)(配列番号24)を用いてPCR増幅を行い、SSIプロモーターが含まれる0.4 kbpのDNA断片を得た。PCRの条件は以下の通り。
【0059】
KOD -Plus- Ver.2 (Toyobo) を使用。
H2O 32 μl, PCR バッファー5 μl, dNTPs 5 μl, MgSO4 3 μl, KOD-Plus- 1 μl, 10 μMの各プライマー1.5 μl, 100 ng/μl DNA (鋳型) 1 μl, 総量50 μl
<PCR 反応条件>
Cycle 1 (x1) 94℃; 2 分間
Cycle 2 (x25) 98℃; 10 秒間, 55℃; 10秒間, 68℃; 0.5分間
Cycle 3 (x1) 68℃; 0.5分間, 4℃; ∞
【0060】
次に、pUC118-SmELAを鋳型にして、プライマーSSI-SmELA-f (5’-gacaaaggagttgcaggtttccATGAGCGAGCGCCCCCGAACCACCCTCC-3’)(配列番号25)及びプライマーSmELA-EcoRI-r (5’-CGGAATTCTCAGGCGGCGTACACGGTGCGTCCG-3’)(配列番号26) を用いてPCR増幅を行い、Sm-ELA遺伝子が含まれる1.6 kbpのDNA断片を得た。PCR条件は以下の通りである。
【0061】
<PCR 溶液の調製>
KOD -Plus- Ver.2 (Toyobo) を使用。
H2O 32 μl, PCR バッファー 5 μl, dNTPs 5 μl, MgSO4 3 μl, KOD-Plus- 1 μl, 10 μMの各プライマー 1.5 μl, 100 ng/μl DNA (鋳型) 1 μl, 総量50 μl
<PCR 反応条件>
Cycle 1 (x1) 94℃; 2 分間
Cycle 2 (x25) 98℃; 10 秒間, 55℃; 10 秒間, 68℃; 2 分間
Cycle 3 (x1) 68℃; 2 分間, 4℃; ∞
【0062】
このようにして得られた0.4 kbp、1.6 kbpのDNA断片を鋳型として、クロスオーバーPCRをプライマーHind-SSI-f及びプライマーSmELA-EcoRI-rを用いて行った。PCR条件は以下の通りである。
【0063】
KOD -Plus- Ver.2 (Toyobo)を使用。
H2O 32 μl, PCRバッファー 5 μl, dNTPs 5 μl, MgSO4 3 μl, KOD-Plus- 1 μl, 10 μMの各プライマー1.5 μl, 100 ng/μl DNA (鋳型) それぞれ0.5 μl, 総量50 μl
<PCR 反応条件>
Cycle 1 (x1) 94℃; 2分間
Cycle 2 (x25) 98℃; 10 秒間, 55℃; 10 秒間, 68℃; 2 分間
Cycle 3 (x1) 68℃; 2 分間, 4℃; ∞
【0064】
得られた2.0 kbpのDNA断片には、SSIプロモーター、PMTG遺伝子の上流部分及びSm-ELA遺伝子が連結した配列が含まれる。このDNA断片とpTA2(TArget Clone -Plus-, Toyobo) とをライゲーションし、ライゲーション溶液を用いてE.coli JM109を形質転換した。形質転換体は40 mg/l X-gal、0.1 mM IPTG、100 mg/l アンピシリンを含むLB寒天培地上で選択した。目的のDNA断片を保有する形質転換体からプラスミドを抽出し、挿入されたDNA断片のヌクレオチド配列を確認したところ、SSIプロモーター、PMTG遺伝子の上流部分及びSm-ELA遺伝子が含まれていた。得られたプラスミドをHindIII、EcoRIで処理し、Sm-ELA遺伝子を含む2.0 kbpのDNA断片を得た。このDNA断片とHindIII、EcoRIで処理したpUC702とをライゲーションし、ライゲーション溶液を用いてE.coli JM109を形質転換した。アンピシリン100 mg/lを含むLB寒天培地上で形質転換体を選択し、目的のプラスミドpUC702-SmELAを抽出した。
S.リビダンス TK24をpUC702-SmELAを用いて形質転換した。形質転換体はチオストレプトン耐性を指標として、R2YE寒天培地(DNA cloning in Streptomyces : resistance genes from antibiotic-producing species. Thompson CJ, Ward JM, and Hopwood DA. Nature, 1980, 286, 525-27.)上で選択した。pUC702-SmELAを保持する株をS.リビダンス TK24/pUC702-SmELA株と命名した。同様にしてpUC702を用いて形質転換を行い、得られた株をS.リビダンス TK24/pUC702株と命名した。
【0065】
2.S.リビダンスによるSm-ELAの発現
チオストレプトンを20 mg/l含むTSB培地30 mlにS.リビダンスTK24/pUC702-SmELA株を接種し、30℃で3日間振とう培養を行った。得られた培養液1 mlを、チオストレプトン20 mg/lを含むTSB培地75 mlに添加し、30℃で振とうしながら本培養を行った。同様にしてS.リビダンスTK24/pUC702株の培養を行った。本培養開始6日後に培養液を取り出し、遠心分離により培養液から菌体を回収した。得られた湿菌体6 gを10 mM Tris-HCl(pH 7.5)で洗浄後、80 mlの50 mM Tris-HCl(pH 8.0) に懸濁した。得られた菌体を超音波破砕後、遠心分離を行い、可溶性画分と不溶性画分を得た。得られた可溶性画分と不溶性画分をSDS-PAGEに供した。その結果、S.リビダンスTK24/pUC702-SmELA株の可溶性画分にSm-ELAの分子量に相当するバンドが検出された。可溶性画分のNε-アセチル-L-リジンの分解活性を測定したところ、培養液1 mlに相当する可溶性画分量あたり210 Uの活性を有していた。
また、培養上清に含まれるNε-アセチル-L-リジン分解活性を測定したところ、培養液1 mlあたり200 Uの活性を有していた。S.モバラエンシスIFO13819株を培養した場合も、培養上清にSm-ELA活性が検出された(WO2006/088199 A1)。今回、Sm-ELA遺伝子の配列を決定したところシグナル配列の存在が認められなかったため、S.モバラエンシスIFO13819株を培養した場合に確認された培養上清中のSm-ELAは、分泌されたのではなく菌体外に漏出したものである可能性が考えられる。S.リビダンスTK24/pUC702-SmELA株の培養上清pHを測定したところ、培養が進むにつれpHの上昇がみられたため(表1)、溶菌によりSm-ELAが培養液に漏出した可能性が示唆された。
【0066】
表1.S.リビダンスTK24/pUC702-SmELA株の培養上清のpH変化
【0067】
菌体内、培養上清に含まれるNε-アセチル-L-リジン分解活性を合計すると、培養液1 mlあたりの活性は410 Uとなり、WO2006/088199 A1で報告されたS.モバラエンシスIFO13819株の培養液1 mlに含まれる活性1.4 Uの約300倍に達することが明らかとなった。S.リビダンスTK24/pUC702株の可溶性画分及び培養上清を用いた場合には、活性は検出されなかった。
活性測定は、Nεアセチル-L-リジン 4 mM、Tris-HCl 50 mM(pH 8.0)、37℃で行い、Nε-アセチル-L-リジンの分解に伴い生成するリジンの濃度を測定した。リジンの測定にはWO2006/088199 A1で用いられている酸性ニンヒドリン法を用いた。1 Uは、1時間あたり1 μmolのリジンをNεアセチル-L-リジンより遊離させる酵素量と定義した。
【実施例5】
【0068】
S. リビダンスTK24/pUC702-SmELA株からのSm-ELAの精製
S.リビダンスTK24/pUC702-SmELA株を培養して得られた菌体抽出液を0.22 mmフィルターを用いてろ過し、250 mM NaClを含む50 mM Tris-HCl(pH 8.0) に対して透析を行った。得られた溶液をPhenyl Sepharose CL-4Bカラム(15 x 1.6 cm)に供し、NaCl濃度を250 mMから0 mMまで直線的に変化させて、0.25 ml/minの流速でSm-ELAを溶出させた。Nε-アセチル-L-リジン分解活性を有する画分を回収し、50 mM Tris-HCl(pH 8.0) に対して透析を行った。
S.リビダンスTK24/pUC702-SmELA株を培養して得られた培養上清をVivaspin 20(Sartorius AG, Goettingen, Germany)を用いて濃縮した。得られた溶液を250 mM NaClを含む25 mM Tris-HCl(pH 8.0)に対して透析後、Phenyl Sepharose CL-4Bカラム(15 x 1.6 cm)に供し、菌体抽出液からのSm-ELA精製と同様にして精製を行った。
得られた精製Sm-ELAのNε-アセチル-L-リジン分解活性を測定したところ、菌体抽出液からの精製Sm-ELAは2800 U/mg、培養上清からの精製Sm-ELAは2500 U/mgの活性を示した。今回の結果は、WO2006/088199 A1で報告されたS.モバラエンシス IFO13819株培養液から得られた精製Sm-ELAの活性 3370 U/mg とほぼ同様な結果を示した。
活性測定は、Nε-アセチル-L-リジン4 mM、Tris-HCl 50 mM(pH 8.0)、37℃で行い、Nε-アセチル-L-リジンの分解に伴い生成するリジンの濃度を測定した。リジンの測定にはWO2006/088199 A1で用いられている酸性ニンヒドリン法を用いた。1 Uは、1時間あたり1 μmolのリジンをNε-アセチル-L-リジンより遊離させる酵素量と定義した。
また、菌体抽出液から精製したSm-ELAのN末端アミノ酸配列を解析した結果、SERPRの配列が得られ、S.モバラエンシス IFO13819株培養液からの精製Sm-ELAのN末端アミノ酸配列と一致した。
【実施例6】
【0069】
Sm-ELAを発現するS.リビダンスの菌体抽出物および洗浄菌体によるNε-ラウロイル-L-リジンの合成
チオストレプトンを20 mg/l含むTSB培地30 mlにS.リビダンスTK24/pUC702-SmELA株を接種し、30℃で3日間振とう培養を行った。得られた培養液1.5 mlを、チオストレプトン20 mg/lを含むTSB培地75 mlに添加し、30℃で振とうして本培養を行った。本培養開始6日後に培養液を取り出し、遠心分離により培養液から菌体を回収し、10 mM Tris-HCl(pH 7.5) で洗浄した。得られた菌体を最終的に100 mM Tris-HCl(pH 8.0)15 mlに懸濁して洗浄菌体として使用した。また、得られた洗浄菌体を超音波破砕後に、遠心分離を行い、上清を得た。この上清を菌体抽出液とした。菌体抽出液に含まれるNε-アセチル-L-リジン分解活性を測定したところ、培養液1 mlに相当する菌体抽出液量あたり284 Uの活性を有していた。また、洗浄菌体を用いて活性測定を行ったところ、培養液1 mlに相当する洗浄菌体量あたり53 Uの活性が検出された。
100 mM Tris-HCl(pH 7.0)20 ml中に、終濃度でラウリン酸を25 mM、L-リジン塩酸塩を500 mM、菌体抽出液を200 U/mlとなるように添加し、攪拌しながらNε-ラウロイル-L-リジン合成反応を行った。pHは7.0となるよう4 N NaOHで調整し、反応液の温度は37℃となるよう調整した。この反応溶液には、培養液14 ml分の菌体抽出液が含まれる。洗浄菌体を酵素源として用いた合成反応は、培養液14 mlから得られる洗浄菌体を反応液に添加して反応を行った。
反応中、経時的に反応液のサンプリングを行い、反応液中のラウリン酸濃度をHPLCで定量、反応率を算出した。その結果、菌体抽出液を用いた場合には2時間後、洗浄菌体を用いた場合には4時間後にラウリン酸がすべて消費されており、Nε-ラウロイル-L-リジン合成が行われたと考えられた(図4)。
HPLC分析は、カラムYMC-Pack C-8 A-202(4.6 x 150 mm, YMC)、移動相0.075% H3PO4を含む80% MeOH、UV 210 nmで行った。
【実施例7】
【0070】
Sm-ELAを発現するS.リビダンスの菌体抽出液によるNε-ラウロイル-L-リジンの高濃度合成反応
先ず、チオストレプトンを20 mg/l含むTSB培地30 mlにS.リビダンス TK24/pUC702-SmELA株を接種し、30℃で3日間振とう培養を行った。得られた培養液1.5 mlを、チオストレプトン20 mg/lを含むTSB培地75 mlに添加し、30℃で振とうしながら本培養を行った。本培養開始6日後に培養液を取り出し、遠心分離により培養液から菌体を回収した。回収した菌体を10 mM Tris-HCl(pH 7.5)で洗浄した。得られた菌体 (湿重量7.2 g)を100 mM Tris-HCl (pH 8.0)40 mLに懸濁し、超音波破砕を行った。その後、遠心分離を行い、得られた上清を菌体抽出液とした。菌体抽出液のNε-アセチル-L-リジンの分解活性を測定したところ、培養液1 mlに相当する可溶性画分量あたり153 Uの活性を示した。
100 mM Tris-HCl(pH 7)バッファー25 mL中に、終濃度でL-リジン塩酸塩を500 mM、ラウリン酸を50, 100及び250 mM、菌体抽出液を200 U/mLとなるように添加し、攪拌しながらNε-ラウロイル-L-リジン合成反応を行った。反応中、pHは7.0となるよう4 N NaOHで調整した。反応液の温度は37℃に調節した。
反応液を経時的にサンプリングした。反応液中のラウリン酸濃度をHPLC分析により、リジン濃度を酸性ニンヒドリン法により定量し、反応率を算出した。その結果、50 mM および100 mM ラウリン酸を用いた場合、それぞれ反応6時間および9時間で反応収率がほぼ100% に達した。また、250 mMラウリン酸を用いた場合、反応24時間でおよそ90%の収率でNε-ラウロイル-L-リジンが得られた(図5)。
HPLC分析は、カラムとしてYMC-Pack C-8 A-202 、4.6 x 150 mm(YMC)、移動相として0.075% H3PO4を含む80% MeOH、UV 210 nmで行った。
【実施例8】
【0071】
コリネバクテリウム・グルタミカム(C.グルタミカム)によるSm-ELAの生産
1.Sm-ELAを発現するC.グルタミカムYDK010株の作製
pUC118-SmELAを鋳型として、プライマーCspB-SmELA-f(5’-tattcaaggagccttcgcctctATGAGCGAGCGCCCCCGAACCACCCTCC-3’)(配列番号27)及びプライマーSmELA-delBam-r(5’-GTGCCCCAGCAGGATgCGGTCACCCGGCCG-3’)(配列番号28)を用いてPCR増幅を行い、0.3 kbpのDNA断片を得た。PCRの条件は以下の通りである。
【0072】
<PCR 溶液の調製>
KOD -Plus- Ver.2 (Toyobo)を使用。
H2O 32 μl, PCRバッファー 5 μl, dNTPs 5 μl, MgSO4 3 μl, KOD-Plus- 1 μl, 10 μMの各プライマー1.5 μl, 100 ng/μl DNA (鋳型) 1 μl, 総量50 μl
<PCR 反応条件>
Cycle 1 (x1) 94℃; 2 分間
Cycle 2 (x25) 98℃; 10 秒間, 55℃; 10 秒間, 68℃; 0.5 分間
Cycle 3 (x1) 68℃; 0.5 分間, 4℃; ∞
【0073】
同様にして、プライマーSmELA-delBam-f(5’- CGGCCGGGTGACCGcATCCTGCTGGGGCAC-3’)(配列番号29)及びプライマーSmELA-Bam-r(5’- cgcggatccTCAGGCGGCGTACACGGTGCGTCCG-3’)(配列番号30)を用いてPCR増幅を行い、1.3 kbpのDNA断片を得た。PCRの条件は以下の通りである。
【0074】
<PCR 溶液の調製>
KOD -Plus- Ver.2 (Toyobo) を使用。
H2O 32 μl, PCR バッファー 5 μl, dNTPs 5 μl, MgSO4 3 μl, KOD-Plus- 1 μl, 10 μMの各プライマー 1.5 μl, 100 ng/μl DNA (鋳型) 1 μl, 総量50 μl
<PCR 反応条件>
Cycle 1 (x1) 94℃; 2 分間
Cycle 2 (x25) 98℃; 10 秒間, 55℃; 10 秒間, 68℃; 1.5 分間
Cycle 3 (x1) 68℃; 0.5 分間, 4℃; ∞
【0075】
次に、これら2つのDNA断片を鋳型にしてクロスオーバーPCRを、プライマーCspB-SmELA-f及びプライマーSmELA-Bam-rを用いて行い、BamHI認識部位を消去したSm-ELA遺伝子を含む1.6 kbpのDNA断片を得た。PCRの条件は以下の通りである。
【0076】
<PCR 溶液の調製>
KOD -Plus- Ver.2 (Toyobo)を使用。
H2O 32 μl, PCR バッファー5 μl, dNTPs 5 μl, MgSO4 3 μl, KOD-Plus- 1 μl, 10 μMの各プライマー1.5 μl, 100 ng/μl DNA (鋳型) それぞれ0.5 μl, 総量 50 μl
<PCR 反応条件>
Cycle 1 (x1) 94℃; 2 分間
Cycle 2 (x25) 98℃; 10 秒間, 55℃; 10 秒間, 68℃; 2 分間
Cycle 3 (x1) 68℃; 2 分間, 4℃; ∞
【0077】
Sm-ELAの発現ベクターとしては、pPK4(特開平9-322774) を用いた。まず、pPK4にcspBプロモーター及びSec系分泌シグナル配列であるCspAシグナル配列を持つプロ構造部付きプロテイングルタミナーゼ遺伝子が挿入された構成のpPKSPTG1 (WO 01/23591)を鋳型にし、プライマーScaI-CspB-f(5’-attagctgatttagtacttttcggaggtgt-3’)(配列番号31) 及びプライマーCspB-r(5’-agaggcgaaggctccttgaataggtatcga-3’)(配列番号32)を用いてPCR増幅を行った。PCRの条件はプライマーCspB-SmELA-f, SmELA-delBam-rを用いたPCRと同じである。得られた0.6 kbpのDNA断片にはC.グルタミカムATCC 13869由来cspB遺伝子のプロモーター領域が含まれる。
このようにして得られた1.6 kbp、0.6 kbpのDNA断片2つを鋳型にしてクロスオーバーPCRを、プライマーScaI-CspB-f及びプライマーSmELA-Bam-rを用いて行い、2.2 kbpのDNA断片を得た。PCRの条件は、プライマーCspB-SmELA-f, SmELA-Bam-rを用いたPCRと同じである。このDNA断片とpTA2 (TArget Clone -Plus-, Toyobo)とをライゲーションし、E.coli JM109を形質転換した。形質転換体は40 mg/l X-gal、0.1 mM IPTG、100 mg/l アンピシリンを含むLB寒天培地上で選択した。目的のDNA断片を保有する形質転換体からプラスミドを抽出し、挿入されたDNA断片のヌクレオチド配列を確認したところ、目的どおりcspB遺伝子プロモーター領域とSm-ELA遺伝子が連結していた。得られたプラスミドをScaI、BamHIで処理し、同様にScaI、BamHIで処理したpPKSPTG1とライゲーションした。このライゲーション溶液を用いてE.coli JM109を形質転換し、形質転換体は25 mg/l カナマイシンを含むLB寒天培地上で選択した。目的の2.2 kbpのDNA断片が挿入された構成のプラスミドを抽出し、これをpPK-SmELAと命名した。pPK-SmELAは、pPK4にcspBプロモーター及びSm-ELA遺伝子が挿入された構成のプラスミドである。
【0078】
同様にして、pPK4にcspBプロモーター及びコリネバクテリウム・アンモニアゲネス(C. アンモニアゲネス) ATCC 6872 由来CspAシグナル配列が付与されたSm-ELA遺伝子が挿入された構成のプラスミドを構築した。まずBamHI認識部位を消去したSm-ELA遺伝子を含む1.6 kbpのDNA断片を鋳型にし、プライマーCspAsig-SmELA-f(5’-GCTGGCCGCACCTGTGGCAACGGCAAGCGAGCGCCCCCGAACCACCCTCC-3’)(配列番号33)及びプライマーSmELA-Bam-rを用いてPCR増幅を行った。PCRの条件は、プライマーCspB-SmELA-f, SmELA-Bam-rを用いたPCRと同じである。その結果、1.6 kbpのDNA断片が得られた。次に、pPKSPTG1を鋳型にし、プライマーScaI-CspB-f及びプライマーCspA-r(5’-TGCCGTTGCCACAGGTGCGGCCAGCATGGC-3’)(配列番号34)を用いてPCR増幅を行った。PCRの条件は、プライマーCspB-SmELA-f, SmELA-delBam-rを用いたPCRと同じである。
【0079】
得られた0.65 kbpのDNA断片にはC.グルタミカムATCC 13869由来cspB遺伝子のプロモーター領域及びC.アンモニゲネスATCC 6872 由来CspAシグナル配列が含まれる。
このようにして得られた1.6 kbp、0.65 kbpのDNA断片2つを鋳型にしてクロスオーバーPCRを、プライマーScaI-CspB-f及びプライマーSmELA-Bam-rを用いて行い、2.2 kbpのDNA断片を得た。PCRの条件はプライマーCspB-SmELA-f, SmELA-Bam-rを用いたPCRと同じである。
【0080】
このDNA断片とpTA2(TArget Clone -Plus-, Toyobo)とをライゲーションし、E.coli JM109を形質転換した。形質転換体は40 mg/l X-gal、0.1 mM IPTG、100 mg/l アンピシリンを含むLB寒天培地上で選択した。目的のDNA断片を保有する形質転換体からプラスミドを抽出し、挿入されたDNA断片のヌクレオチド配列を確認した。その結果、意図したとおりにcspB遺伝子プロモーター領域、CspAシグナル配列及びSm-ELA遺伝子が連結していることが確認された。得られたプラスミドをScaI、BamHIで処理し、同様にScaI、BamHIで処理したpPKSPTG1とライゲーションした。このライゲーション溶液を用いてE.coli JM109を形質転換し、形質転換体は25 mg/lカナマイシンを含むLB寒天培地上で選択した。目的の2.2 kbpのDNA断片が挿入された構成のプラスミドを抽出し、これをpPKS-SmELAと命名した。pPKS-SmELAでは、Sm-ELA遺伝子にSec系分泌シグナル配列であるCspAシグナル配列が付与されている。
同様にして、pPK4にcspBプロモーター及びE.coli W3110由来TorAシグナル配列が付与されたSm-ELA遺伝子が挿入された構成のプラスミドを構築した。まずBamHI認識部位を消去したSm-ELA遺伝子を含む1.6 kbpのDNA断片を鋳型にし、プライマーTorAsig-SmELA-f(5’-GTTAACGCCGCGACGTGCGACTGCGAGCGAGCGCCCCCGAACCACCCTCC-3’)(配列番号35)及びプライマーSmELA-Bam-r を用いてPCR増幅を行った。PCRの条件はプライマーCspB-SmELA-f, SmELA-Bam-rを用いたPCRと同じである。
その結果、1.6 kbpのDNA断片が得られた。次に、WO 02/081694記載の、TorAシグナル配列を持つプロ構造部付きプロテイングルタミナーゼの分泌発現プラスミドpPKT-PPGを鋳型にし、プライマーScaI-CspB-f及びプライマーTorAsig-r(5’-CGCAGTCGCACGTCGCGGCGTTAAC-3’)(配列番号36)を用いてPCR増幅を行った。PCRの条件は、プライマーCspB-SmELA-f, SmELA-delBam-rを用いたPCRと同じである。
【0081】
得られた0.65 kbpのDNA断片にはC.グルタミカム ATCC 13869由来cspB遺伝子のプロモーター領域及びE.coli W3110由来TorAシグナル配列が含まれる。
このようにして得られた1.6 kbp、0.65 kbpのDNA断片2つを鋳型にしてクロスオーバーPCRを、プライマーScaI-CspB-f及びプライマーSmELA-Bam-rを用いて行い、2.2 kbpのDNA断片を得た。PCRの条件は、CspB-SmELA-f, SmELA-Bam-rを用いたPCRと同じである。
【0082】
このDNA断片とpTA2(TArget Clone-Plus-, Toyobo)とをライゲーションし、E.coli JM109を形質転換した。形質転換体は40 mg/l X-gal、0.1 mM IPTG、100 mg/l アンピシリンを含むLB寒天培地上で選択した。目的のDNA断片を保有する形質転換体からプラスミドを抽出し、挿入されたDNA断片のヌクレオチド配列を確認した。その結果、意図したとおりにcspB遺伝子プロモーター領域、TorAシグナル配列及びSm-ELA遺伝子が連結しているのが確認された。得られたプラスミドをScaI、BamHIで処理し、同様にScaI、BamHIで処理したpPKSPTG1とライゲーションした。このライゲーション溶液を用いてE.coli JM109を形質転換し、形質転換体は25 mg/lカナマイシンを含むLB寒天培地上で選択した。目的の2.2 kbpのDNA断片が挿入された構成のプラスミドを抽出し、これをpPKT-SmELAと命名した。pPKT-SmELAでは、Sm-ELA遺伝子にTat系分泌シグナル配列であるTorAシグナル配列が付与されている。
構築した3種のプラスミドpPK-SmELA、pPKS-SmELA及びpPKT-SmELAを用いて、C.グルタミカムATCC13869由来の変異株より取得したYDK010株(WO 01/23591)を形質転換し、カナマイシンを25 mg/l含むCM2G寒天培地(酵母エキストラクト 10 g、ポリペプトン 10 g、グルコース 5 g、塩化ナトリウム 5 g、DL-メチオニン 0.2 g、寒天 15 g、pH 7.2、水で1Lにする)で形質転換体を選択した。得られた形質転換体を、それぞれYDK010/pPK-SmELA株、YDK010/pPKS-SmELA株、YDK010/pPKT-SmELA株と命名した。
【0083】
2.Sm-ELAを発現するC.グルタミカムWDK010株の作製
2.1.C.グルタミカムWDK010株の作製
WO02/081694記載のAJ12036株からゲノムDNAを抽出した。このAJ12036株のゲノムDNAを鋳型として、プライマーYSrpsL5(5’-AGGTCAGTGGCGAGTTTCTT-3’)(配列番号37)とプライマーYSrpsL3(5’-GGTAGGTAGCGCCACCAACA-3’)(配列番号38)を用いてPCR増幅を行い、1 kbpの断片を得た。PCRの条件は以下の通りである。
【0084】
Pyrobest DNA ポリメラーゼ(TAKARA) を使用。
H2O 37.8 μl, PCR バッファー5 μl, dNTPs 4 μl, Pyrobest DNA ポリメラーゼ 0.2 μl, 10 μMの各プライマー1 μl, 100 ng/μl DNA (鋳型) 1 μl, 総量50 μl
<PCR 反応条件>
Cycle 1 (x1) 98℃; 5 分間
Cycle 2 (x30) 98℃; 10 秒間, 57℃; 0.5 分間, 72℃; 1 分間
Cycle 3 (x1) 4℃; ∞
【0085】
このDNA断片とCorynebacterium glutamicum ATCC13869株を用いて、WO02/081694の実施例9に記載されている方法と同様にして遺伝子置換株を作成した。得られた遺伝子置換株が100 mg/Lストレプトマイシンを含むCM2G寒天培地で生育する事を確認した。更にこの遺伝子置換株を用いて、WO02/081694の実施例9に記載されている方法と同様にして細胞表層タンパク質(PS2)遺伝子完全破壊株を作成し、本菌株をWDK010株と命名した。
【0086】
2.2.C.グルタミカムWDK010株へのSm-ELA発現ベクターの導入
構築したプラスミドpPKT-SmELAを用いてWDK010株を形質転換し、カナマイシンを25 mg/l含むCMDXB寒天培地 (酵母エキストラクト 10 g、ポリペプトン 10 g、グルコース 5 g、尿素 3 g、大豆加水分解物 窒素量として 1.2 g、リン酸二水素カリウム 1 g、硫酸マグネシウム七水和物 0.4 g、硫酸鉄(II)七水和物 0.01 g、硫酸マンガン(II)五水和物 0.01 g、ビオチン 10 mg、寒天 15 g、pH 7.0、水で1 Lにする)上で形質転換体を選択し、得られた形質転換体をWDK010/pPKT-SmELA株と命名した。
WO05/103278記載のプラスミドpVtatABCを用いてWDK010株を形質転換し、クロラムフェニコール5 mg/l含むCMDXB寒天培地上で形質転換体を選択、得られた形質転換体をWDK010/pVtatABC株と命名した。
pPKT-SmELAを用いてWDK010/pVtatABC株を形質転換し、カナマイシン25 mg/l、クロラムフェニコール5 mg/lを含むCMDXB寒天培地上で形質転換体を選択、得られた形質転換体をWDK010/pPKT-SmELA + pVtatABC株と命名した。
【0087】
3.C.グルタミカムにおけるSm-ELAの発現
YDK010/pPK-SmELA株、YDK010/pPKS-SmELA株、YDK010/pPKT-SmELA株およびWDK010/pPKT-SmELA株をそれぞれ、カナマイシン25 mg/lを含むCMDXB液体培地 (酵母エキストラクト 10 g、ポリペプトン 10 g、グルコース 5 g、尿素 3 g、大豆加水分解物 窒素量として 1.2 g、リン酸二水素カリウム 1 g、硫酸マグネシウム七水和物 0.4 g、硫酸鉄(II)七水和物 0.01 g、硫酸マンガン(II)五水和物 0.01 g、ビオチン 10 mg、pH 7.0、水で1 Lにする) 3 mlを入れた試験管に1白金耳分接種し、30℃で16時間振とう培養した。得られた培養液0.15 mlを、 カナマイシン 25 mg/lを含むMMM液体培地(グルコース 60 g、硫酸アンモニウム 30 g、リン酸二水素カリウム 1.5 g、大豆加水分解物 窒素量として 0.1 g、硫酸マグネシウム七水和物 1 g、DL-メチオニン 0.15 g、硫酸鉄(II)七水和物 0.01 g、硫酸マンガン(II)五水和物 0.008 g、チアミン塩酸塩 0.45 mg、ビオチン 0.45 mg、炭酸カルシウム 50 g、pH 7.5、水で1Lにする)3 mlを入れた試験管に添加し、30℃で72時間振とう培養した。
【0088】
WDK010/pPKT-SmELA + pVtatABC株を、カナマイシン25 mg/lおよびクロラムフェニコール5 mg/lを含むCMDXB液体培地3 mlを入れた試験管に1白金耳分接種し、30℃で16時間培養した。得られた培養液0.15 mlを、カナマイシン25 mg/lおよびクロラムフェニコール5 mg/lを含むMMM液体培地3 mlを入れた試験管に添加し、30℃で72時間振とう培養した。
得られた培養液を遠心分離し、上清を回収し、菌体を20 mM Tris-HCl (pH 7.6) で洗浄した。菌体を最終的に3mlの20 mM Tris-HCl (pH 7.6)に懸濁して洗浄菌体として使用した。菌体抽出物は、この洗浄菌体をマルチビーズショッカー(安井器械)で破砕、遠心分離により調製した。これらの培養上清、洗浄菌体及び菌体抽出物を用いてNε-アセチル-L-リジンの分解活性を測定した。YDK010/pPKS-SmELA株の菌体抽出物に、培養液1 mlに相当する菌体抽出物あたり1030 Uの活性が確認された。これは、WO2006/088199 A1で報告された、S.モバラエンシスIFO13819株の培養上清1 mlに含まれる活性1.4 Uの約740倍に達する。また、WDK010/pPKT-SmELA + pVtatABC株の培養上清からは1 mlあたり69.8 Uの活性が検出され、Tat分泌系によってSm-ELAが分泌されていると考えられた。これらの結果を表2にまとめた。
【0089】
表2.培養上清、洗浄菌体及び菌体抽出物におけるNε-アセチル-L-リジンの分解活性
N.D. 検出限界未満
【0090】
活性測定は、Nε-アセチル-L-リジン4 mM、Tris-HCl 50 mM (pH 8.0)、CoCl2 0.1 mM、37℃で行い、Nε-アセチル-L-リジンの分解に伴い生成するリジンの濃度を測定した。リジンの測定にはBF-5 及びリジン電極(王子計測機器)を用いた。1 Uは、1時間あたり1 μmolのリジンをNε-アセチル-L-リジンより遊離させる酵素量と定義した。
【0091】
4.Sm-ELA及びTatABCを共発現するC.グルタミカムWDK010株の作製
C.グルタミカムATCC13032株由来のtatA遺伝子(cg1685、GeneID:3343772)、tatC遺伝子(cg1684、GeneID:3343771)、およびtatB遺伝子(cg1273、GeneID:3345252)配列より、プライマーXbaI-TatA-f(5’-gctctagaTTTGGAGTAGACCACATGTCCCTCG-3’)(配列番号39)、プライマーTatC-TatB-r(5’-TAGAAAACATCAGACCGGTCTTTCACTAGAGCACGTCACCGAAGTCGGCG-3’)(配列番号40)、プライマーTatC-TatB-f(5’-CGCCGACTTCGGTGACGTGCTCTAGTGAAAGACCGGTCTGATGTTTTCTA-3’)(配列番号41)、およびプライマーTatB-Xba-r(5’-gctctagaCTAAATAATATCGGTCCAAGAGACG-3’)(配列番号42)を設計した。
【0092】
C.グルタミカム ATCC13869株のゲノムDNAを鋳型にし、プライマーXbaI-TatA-f、およびプライマーTatC-TatB-rを用いてPCR増幅を行い、1.5 kbpのDNA断片を得た。このDNA断片にはtatA遺伝子およびtatC遺伝子の配列が含まれる。PCRの条件は以下の通りである。
<PCR 溶液の調製>
KOD -Plus- Ver.2 (Toyobo) を使用。
H2O 32 μl, PCRバッファー 5 μl, dNTPs 5 μl, MgSO4 3 μl, KOD-Plus- 1 μl, 10 μMの各プライマー1.5 μl, 100 ng/μl DNA (鋳型) 1 μl, 総量50 μl
<PCR 反応条件>
Cycle 1 (x1) 94℃; 2 分間
Cycle 2 (x25) 98℃; 10 秒間, 55℃; 10 秒間, 68℃; 1.5 分間
Cycle 3 (x1) 68℃; 1.5 分間, 4℃; ∞
【0093】
C.グルタミカム ATCC13869株のゲノムDNAを鋳型にし、プライマーTatC-TatB-f、およびプライマーTatB-Xba-rを用いてPCR増幅を行い、0.5 kbpのDNA断片を得た。このDNA断片にはtatB遺伝子の配列が含まれる。PCRの条件は以下の通りである。
<PCR 溶液の調製>
KOD -Plus- Ver.2(Toyobo)を使用。
H2O 32 μl, PCRバッファー 5 μl, dNTPs 5 μl, MgSO4 3 μl, KOD-Plus- 1 μl, 10 μMの各プライマー1.5 μl, 100 ng/μl DNA(鋳型)1 μl, 総量50 μl
<PCR 反応条件>
Cycle 1 (x1) 94℃; 2 分間
Cycle 2 (x25) 98℃; 10 秒間, 55℃; 10 秒間, 68℃; 0.5 分間
Cycle 3 (x1) 68℃; 0.5 分間, 4℃; ∞
【0094】
このようにして得られた1.5 kbp、0.5 kbpのDNA断片2つを鋳型にしてクロスオーバーPCRを、プライマーXbaI-TatA-f及びプライマーTatB-Xba-rを用いて行い、2 kbpのDNA断片を得た。このDNA断片にはtatA遺伝子、tatC遺伝子、及びtatB遺伝子の配列が含まれる。PCRの条件は以下の通りである。
<PCR 溶液の調製>
KOD -Plus- Ver.2(Toyobo)を使用。
H2O 32 μl, PCRバッファー 5 μl, dNTPs 5 μl, MgSO4 3 μl, KOD-Plus- 1 μl, 10 μMの各プライマー1.5 μl, 100 ng/μl DNA (鋳型) それぞれ0.5 μl, 総量50 μl
<PCR 反応条件>
Cycle 1 (x1) 94℃; 2 分間
Cycle 2 (x25) 98℃; 10 秒間, 55℃; 10 秒間, 68℃; 2 分間
Cycle 3 (x1) 68℃; 2 分間, 4℃; ∞
【0095】
クロスオーバーPCRによって得られた2 kbpのDNA断片をXbaIで処理した。プラスミドpPKT-SmELAも同様にXbaI処理を行い、さらにBAP処理を行った。この2つのDNA断片をライゲーションし、E.coli JM109を形質転換した。形質転換体は25 mg/l カナマイシンを含むLB寒天培地上で選択した。目的の2 kbpのDNA断片がSm-ELAと同じ向きに挿入された構成のプラスミドを抽出し、これをpPKT-SmELA-tatABCと命名した。pPKT-SmELA-tatABCは、cspBプロモーター、TorAシグナル配列、Sm-ELA遺伝子、tatA遺伝子、tatC遺伝子、tatB遺伝子の順に連結したDNA断片がpPK4に挿入された構成のプラスミドである。
【0096】
構築したプラスミドpPKT-SmELA-tatABCを用いてC. グルタミカムWDK010株を形質転換し、カナマイシンを25 mg/l含むCMDXB寒天培地 (酵母エキストラクト 10 g、ポリペプトン 10 g、グルコース 5 g、尿素 3 g、大豆加水分解物 窒素量として 1.2 g、リン酸二水素カリウム 1 g、硫酸マグネシウム七水和物 0.4 g、硫酸鉄(II)七水和物 0.01 g、硫酸マンガン(II)五水和物 0.01 g、ビオチン 10 mg、寒天 15 g、pH 7.0、水で1 Lにする)上で形質転換体を選択し、得られた形質転換体をWDK010/pPKT-SmELA-tatABC株と命名した。
【0097】
5.C.グルタミカムWDK010株におけるSm-ELAとTatABCの共発現
WDK010/pPKT-SmELA株、WDK010/pPKT-SmELA + pVtatABC株、およびWDK010/pPKT-SmELA-tatABC株をそれぞれ、CMDXB液体培地 (酵母エキストラクト 10 g、ポリペプトン 10 g、グルコース 5 g、尿素 3 g、大豆加水分解物 窒素量として 1.2 g、リン酸二水素カリウム 1 g、硫酸マグネシウム七水和物 0.4 g、硫酸鉄(II)七水和物 0.01 g、硫酸マンガン(II)五水和物 0.01 g、ビオチン 10 mg、pH 7.0、水で1 Lにする)3 mlを入れた試験管に1白金耳分接種し、25℃で16時間振とう培養した。WDK010/pPKT-SmELA株およびWDK010/pPKT-SmELA-tatABC株を培養する際にはカナマイシン25 mg/lを培地に添加し、WDK010/pPKT-SmELA + pVtatABC株を培養する際にはカナマイシン25 mg/lおよびクロラムフェニコール5 mg/lを培地に添加した。
【0098】
得られた培養液をそれぞれ遠心分離し、上清を回収した。これらの培養上清を用いてNε-アセチル-L-リジンの分解活性を測定した。WDK010/pPKT-SmELA株の培養上清からは1 mlあたり0.751 Uの活性が検出され、WDK010/pPKT-SmELA + pVtatABC株の培養上清からは1 mlあたり73.6 Uの活性が検出された。WDK010/pPKT-SmELA-tatABC株の培養上清からは1 mlあたり125 Uの活性が検出された。このことから、Sm-ELAとTatABCを1つのプラスミド上で発現させることは可能であり、共発現させたTatABCによりSm-ELAのTat系分泌発現が効率的に行われたと考えられた。
活性測定は、Nε-アセチル-L-リジン4 mM、Tris-HCl 50 mM(pH 8.0)、CoCl2 0.1 mM、37℃で行い、Nε-アセチル-L-リジンの分解に伴い生成するリジンの濃度を測定した。
リジンの測定にはBF-5 及びリジン電極(王子計測機器)を用いた。1 Uは、1時間あたり1 μmolのリジンをNε-アセチル-L-リジンより遊離させる酵素量と定義した。
【実施例9】
【0099】
Sm-ELAを発現するC.グルタミカムの菌体抽出物によるNε-ラウロイル-L-リジンの合成
カナマイシン25 mg/lを含むCMDXB液体培地3 mlを入れた試験管にYDK010/pPKS-SmELA株を1白金耳分接種し、30℃で16時間振とう培養した。このようにして得られた培養液10 mlを、カナマイシン25 mg/lを含むMMM液体培地200 mlを入れた500 ml容坂口フラスコに添加し、30℃で48時間振とう培養した。遠心分離により得られた培養液から菌体を回収し、20mM Tris-HCl(pH 7.6)で洗浄した。菌体を最終的に20 mM Tris-HCl(pH 7.6)50 mlに懸濁して洗浄菌体として使用した。この洗浄菌体を破砕し、遠心分離を行い、上清を菌体抽出液とした。
終濃度が、ラウリン酸250 mmol/l(反応条件1)あるいは500 mmol/l(反応条件2)、L-リジン塩酸塩500 mM、Tris-HCl 50 mM、CoCl2 1 mM、菌体抽出液180 U/mlとなるよう反応溶液60 mlを調製し、200 ml容ミニジャーファーメンターを用いて2000 rpmにて攪拌し、Nε-ラウロイル-L-リジン合成反応を行った。pHは7.0となるよう1 N NaOHで調整し、反応液の温度は37℃となるよう調整した。
反応液から経時的にサンプリングを行い、反応液中のリジン濃度をBF-5 及びリジン電極(王子計測機器)を用いて測定した(図6)。反応開始時のリジン濃度を100%とした。
24時間後に反応液を全量回収し、遠心分離を行った。上清を除去した後、沈殿にメタノール、水及び6 N NaOHを加え、沈殿を溶解させた。この溶液に6N HClを加え、pH 6.5-7.5となるよう調整しNε-ラウロイル-L-リジンを析出させた。この懸濁液を、ろ紙を用いて吸引ろ過した。ろ紙上の粉体を乾燥させ重量を測定したところ、反応条件1では5.44 g、反応条件2では9.82 gであった。これら粉体中のNε-ラウロイル-L-リジン純度をHPLCで測定したところ、それぞれ76.4%、80.9%であったため、Nε-ラウロイル-L-リジンがそれぞれ4.16 g (12.7 mmol)、7.94 g (24.2 mmol)得られていることが明らかとなった。収率はラウリン酸を基準としてそれぞれ84.4%、80.6%の収率であった。
HPLC分析は、カラムYMC-Pack A-312 ODS、6.0 x 150 mm(YMC)、移動層0.1 M NaH2PO4/MeOH = 2/8、UV 210 nmで行った。
【実施例10】
【0100】
Sm-ELAを分泌発現するC.グルタミカムの培養上清によるNε-ラウロイル-L-リジンの合成
カナマイシン25 mg/lを含むプレシード液体培地(酵母エキストラクト 10 g、ポリペプトン 10 g、グルコース 5 g、大豆加水分解物 窒素量として 0.1 g、DL-メチオニン 0.02 g、pH 7.2、水で1 Lにする)50 mlを入れた全容500 ml坂口フラスコ試験管にWDK010/pPKT-SmELA-tatABC株を1白金耳分接種し、30℃で16時間振とう培養した。このようにして得られた培養液0.3 mlを、カナマイシン25 mg/lを含むシード液体培地(グルコース 20 g、硫酸アンモニウム 3 g、リン酸二水素カリウム 1.5 g、大豆加水分解物 窒素量として 0.2 g、硫酸マグネシウム七水和物 1 g、DL-メチオニン 0.15 g、硫酸鉄(II)七水和物 0.01 g、硫酸マンガン(II)五水和物 0.01 g、チアミン塩酸塩 0.45 mg、ビオチン 0.45 mg、ディスホームGD-113K(日本油脂株式会社) 0.1 ml、pH 6.2、水で1Lにする)300 mlを入れた1000 ml容ジャーファーメンターに添加し、シード培養を開始した。シード培養は31℃、通気1/1 vvm、攪拌500 rpm、アンモニアでpHを6.2に制御し、グルコースが消費されるまで行った。このようにして得られた培養液15 mlを、カナマイシン 25 mg/lを含むメイン液体培地(グルコース 120 g、硫酸アンモニウム 3 g、リン酸二水素カリウム 1.5 g、大豆加水分解物 窒素量として 0.2 g、硫酸マグネシウム七水和物 3 g、DL-メチオニン 0.15 g、硫酸鉄(II)七水和物 0.03 g、硫酸マンガン(II)五水和物 0.03 g、硫酸亜鉛七水和物 0.02 g、塩化コバルト(II)六水和物 0.008 g、塩化カルシウム 2 g、チアミン塩酸塩 0.45 mg、ビオチン 0.45 mg、ディスホームGD-113K(日本油脂株式会社)0.1 ml、pH 6.2、水で0.95 Lにする)285 mlを入れた1000 ml容ジャーファーメンターに添加し、メイン培養を開始した。メイン培養は26℃、通気1/1 vvm、アンモニアでpHを6.9に制御し、グルコースが消費されるまで行った。溶存酸素濃度が5%以上になるよう攪拌を500 rpm以上で制御した。
【0101】
得られた培養液を遠心分離し、上清を回収した。この培養上清中のNε-アセチル-L-リジンの分解活性を測定した。その結果、培養上清1 mlあたり3640 Uの活性が検出された。これは、WO2006/088199 A1で報告された、S.モバラエンシスIFO13819株の培養上清1 mlに含まれる活性1.4 Uの約2600倍に達する。
活性測定は、Nε-アセチル-L-リジン 40 mM、Tris-HCl 50 mM (pH 8.0)、CoCl2 0.1 mM、37℃で行い、Nε-アセチル-L-リジンの分解に伴い生成するリジンの濃度を測定した。
リジンの測定にはBF-5 及びリジン電極(王子計測機器)を用いた。1 Uは、1時間あたり1 μmolのリジンをNε-アセチル-L-リジンより遊離させる酵素量と定義した。
終濃度が、ラウリン酸ナトリウム300 mmol/l、L-リジン塩酸塩300 mM、CoCl2 0.1 mM、メタノール10%、培養上清300 U/mlとなるよう反応溶液100 mlを調製し、200 ml容ミニジャーファーメンターを用いて800 rpmにて攪拌し、Nε-ラウロイル-L-リジン合成反応を行った。pHは7.0となるよう1 N NaOHで調整し、反応液の温度は45℃となるよう調整した。
反応液から経時的(0.5、1、2時間後)にサンプリングを行い、反応液中のNε-ラウロイル-L-リジン濃度をHPLCにより測定した(図7)。
10時間後に析出したNε-ラウロイル-L-リジンと共に反応液を全量回収した。反応液に6 N HCl 20 mlとメタノールを加え500mlへメスアップし、析出したNε-ラウロイル-L-リジンを溶解させた。この溶液中のNε-ラウロイル-L-リジン濃度をHPLCにより測定した(図7、10時間後)。
その結果、反応開始10時間後の反応液中には291 mmol/lのNε-ラウロイル-L-リジンが生成しており、培養上清を酵素源として用いた場合でもNε-ラウロイル-L-リジン合成を効率的に行えることが明らかとなった。収率はラウリン酸を基準として97%であった。
HPLC分析は、カラムYMC-Pack A-312、6.0 x 150 mm、S-5、12 nm(YMC)、移動層0.1 M NaH2PO4/MeOH = 2/8、UV 210 nmで行った。
【実施例11】
【0102】
S.セリカラーのNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ(Sc-ELA)遺伝子のクローニング
Sm-ELAのアミノ酸配列は、NCBI protein-protein BLASTを用いて相同性検索を行ったところhypothetical protein SCO1424 (S.coelicolor A3 (2), NP_625706)と80%、hypothetical protein SAV_6922(S.avermitilis MA-4680, NP_828098) と80%、conserved hypothetical protein(S. ambofaciens ATCC 23877, CAJ90369) と79%、conserved hypothetical protein(S.griseus subsp. griseus NBRC 13350, YP_001827620)と78%の相同性を有することが明らかとなった。そこで、S. セリカラーA3 (2)由来仮想タンパク質SCO1424がSm-ELAと同様にNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有するか検討した。
YMPG寒天培地 (グルコース 10 g、ポリペプトン 5 g、酵母エキストラクト 3 g、モルトエキストラクト 3 g、寒天 15 g、pH 7.0、水で1 Lにする) で生育したS.セリカラーsA3 (2)菌体を鋳型にして、プライマーNde-ScELA-f(5’- catATGTCCATGAGTGAGTCCACCACCCCG-3’)(配列番号43)とプライマーScELA-Hind-r(5’- aagctTCACTCGCCCGGCCGTACGAAGACC-3’)(配列番号44)を用いてPCR増幅を行った。PCRの条件は以下の通り。
【0103】
<PCR 溶液の調製>
KOD -Plus- Ver.2 (Toyobo) を使用。
H2O 33 μl, PCR バッファー 5 μl, dNTPs 5 μl, MgSO4 3 μl, KOD-Plus- 1 μl, 10 μMの各プライマー1.5 μl, 総量 50 μl
<PCR 反応条件>
Cycle 1 (x1) 94℃; 5 分間
Cycle 2 (x25) 98℃; 10 秒間, 55℃; 10 秒間, 68℃; 2 分間
Cycle 3 (x1) 68℃; 2 分間, 4℃; ∞
【0104】
その結果得られた1.6 kbpのDNA断片とpTA2(TArget Clone -Plus-, Toyobo)とをライゲーションし、E.coli JM109を形質転換した。形質転換体は40 mg/l X-gal、0.1 mM IPTG、100 mg/l アンピシリンを含むLB寒天培地上で選択した。目的のDNA断片を保有する形質転換体からプラスミドを抽出し、挿入されたDNA断片のヌクレオチド配列を確認したところ、Sc-ELA遺伝子のORF全長及び付与したNdeI、HindIII認識部位が含まれていることが明らかになった。得られたプラスミドをpTA2-ScELAと命名した。Sc-ELAをコードするORFのヌクレオチド配列を配列番号4、およびコードされるSc-ELAのアミノ酸配列を配列番号5に示す。
【0105】
pTA2-ScELAをNdeI、HindIIIで処理し、Sc-ELA遺伝子を含む1.6 kbpのDNA断片を得た。JP 2005278468 A(特開2005-278468)、光学活性アミノ酸の製造方法、実施例1、第0064欄に記載のベクターpTrp2をNdeI、HindIIIで処理し、これとSc-ELA遺伝子を含むDNA断片とをライゲーションし、E.coli JM109を形質転換した。形質転換体は100 mg/lアンピシリンを含むLB寒天培地上で選択した。pTrp2にSc-ELA遺伝子が挿入された構成のプラスミドをpTrp2-ScELAと命名し、このプラスミドを保有する形質転換体をE.coli JM109/pTrp2-ScELA株と命名した。
【実施例12】
【0106】
大腸菌によるSc-ELAの生産
100 mg/l アンピシリンを含むTB培地50 mlを入れた500 ml容坂口フラスコにE.coli JM109/pTrp2-ScELA株を1白金耳分植菌し、37℃で16時間振とう培養した。
得られた培養液から遠心分離により菌体を回収し、20 mM Tris-HCl (pH 7.6)で洗浄した。この菌体を最終的に20 mM Tris-HCl(pH 7.6)10mlに懸濁して洗浄菌体として使用した。この洗浄菌体を用いてNε-アセチル-L-リジンの分解活性を測定したところ、培養液1 mlに相当する洗浄菌体あたり1.2 Uの活性を有していた。同様にしてE.coli JM109/pTrp2-SmELA株の洗浄菌体を用いた場合では、培養液1 mlに相当する洗浄菌体あたり10 Uの活性が確認された。E.coliを用いたSm-ELAの発現と比べ高い活性が確認されたが、CoCl2を0.1 mM添加したことによる活性向上効果と考えられる(Sm-ELAはCoCl2により活性が向上することが分かっている。WO2006/088199)。E.coli JM109/pUC18株の洗浄菌体を用いた場合には活性は検出されなかった。
活性測定は、Nε-アセチル-L-リジン 4 mM、Tris-HCl 50 mM (pH 8.0)、CoCl2 0.1 mM、37℃で行い、Nε-アセチル-L-リジンの分解に伴い生成するリジンの濃度を測定した。リジンの測定にはBF-5 及びリジン電極(王子計測機器)を用いた。1 Uは、1時間あたり1 μmolのリジンをNε-アセチル-L-リジンより遊離させる酵素量と定義した。
【実施例13】
【0107】
C.グルタミカムによるSc-ELAの生産
pTA2-ScELAを鋳型として、プライマーCspB-ScELA-f(5’-ttcaaggagccttcgcctctATGTCCATGAGTGAGTCCAC-3’)(配列番号45)及びプライマーScELA-Bam-r(5’-CGACtctagaggatccTCACTCGCCCGGCCGTACGA-3’)(配列番号46)を用いてPCR増幅を行い、Sc-ELA遺伝子を含む1.6 kbpのDNA断片を得た。PCRの条件は以下の通り。
【0108】
<PCR 溶液の調製>
KOD -Plus- Ver.2 (Toyobo) を使用。
H2O 32 μl, PCR バッファー 5 μl, dNTPs 5 μl, MgSO4 3 μl, KOD-Plus- 1 μl, 10 μMの各プライマー 1.5 μl, 100 ng/μl DNA (鋳型) 1 μl, 総量 50 μl
<PCR 反応条件>
Cycle 1 (x1) 94℃; 2 分間
Cycle 2 (x25) 98℃; 10 秒間, 55℃; 10 秒間, 68℃; 2 μ
Cycle 3 (x1) 68℃; 2 分間, 4℃; ∞
【0109】
得られたDNA断片を用い、pPK-SmELAの構築と同様にしてcspBプロモーターとSc-ELA遺伝子とをクロスオーバーPCRにより連結、2.2 kbpのDNA断片を得た。これをScaI、BamHIで処理し、同様にScaI、BamHIで処理したpPKSPTG1とライゲーションした。このライゲーション溶液を用いてE.coli JM109を形質転換し、形質転換体は25 mg/lカナマイシンを含むLB寒天培地上で選択した。目的の2.2 kbpのDNA断片が挿入された構成のプラスミドを抽出し、これをpPK-ScELAと命名した。pPK-ScELAにおいては、pPK4にcspBプロモーター及びSc-ELA遺伝子が挿入されている。
同様にして、pPK4にcspBプロモーター及びコリネバクテリウム・アンモニアゲネス(C.アンモニアゲネス)ATCC 6872由来CspAシグナル配列が付与されたSc-ELA遺伝子が挿入された構成のプラスミドを構築した。まずpTA2-ScELAを鋳型にし、プライマーCspAsig-ScELA-f(5’-CCGCACCTGTGGCAACGGCATCCATGAGTGAGTCCACCAC-3’)(配列番号47)及びプライマーScELA-Bam-rを用いてPCR増幅を行った。PCRの条件の条件は、CspB-ScELA-f, ScELA-Bam-rを用いたPCRと同じである。
【0110】
その結果、1.6 kbpのDNA断片が得られた。得られたDNA断片を用い、pPKS-SmELAの構築と同様にしてcspBプロモーター、CspAシグナル配列、Sc-ELA遺伝子が連結した2.2 kbpのDNA断片を、クロスオーバーPCRにて得た。PCRの条件の条件は、CspB-ScELA-f, ScELA-Bam-rを用いたPCRと同じである。
【0111】
このDNA断片をScaI、BamHIで処理し、pPK-ScELAの構築と同様にしてpPKS-ScELAを構築した。pPKS-ScELAでは、Sc-ELA遺伝子にSec系分泌シグナル配列であるCspAシグナル配列が付与されている。
同様にして、pPK4にcspBプロモーター及びE.coli W3110由来TorAシグナル配列が付与されたSc-ELA遺伝子が挿入された構成のプラスミドを構築した。まずpTA2-ScELAを鋳型にし、プライマーTorAsig-ScELA-f(5’-CGCCGCGACGTGCGACTGCGTCCATGAGTGAGTCCACCAC-3’)(配列番号48)及びプライマーScELA-Bam-rを用いてPCR増幅を行った。PCRの条件は、CspB-ScELA-f, ScELA-Bam-rを用いたPCRと同じである。
【0112】
その結果、1.6 kbpのDNA断片が得られた。得られたDNA断片を用い、pPKT-SmELAの構築と同様にしてcspBプロモーター、TorAシグナル配列、Sc-ELA遺伝子が連結した2.2 kbpのDNA断片を、クロスオーバーPCRにて得た。PCRの条件はCspB-ScELA-f、ScELA-Bam-rを用いた場合と同じである。
【0113】
このDNA断片をScaI、BamHIで処理し、pPK-ScELAの構築と同様にしてpPKT-ScELAを構築した。pPKT-ScELAでは、Sc-ELA遺伝子にTat系分泌シグナル配列であるTorAシグナル配列が付与されている。
構築した3種のプラスミドpPK-ScELA、pPKS-ScELA及びpPKT-ScELAを用いて、C.グルタミカムATCC13869由来の変異株より取得したYDK010株(WO 01/23591)を形質転換し、カナマイシンを25 mg/l含むCM2G寒天培地上で形質転換体を選択した。得られた形質転換体を、それぞれYDK010/pPK-ScELA株、YDK010/pPKS-ScELA株、YDK010/pPKT-ScELA株と命名した。また、pPKT-ScELAを用いてWDK010株を形質転換し、カナマイシンを25 mg/l含むCMDXB寒天培地上で形質転換体を選択し、得られた形質転換体をWDK010/pPKT-SmELA株と命名した。さらに、WDK010/pVtatABC株をpPKT-ScELAで形質転換し、カナマイシン25 mg/l、クロラムフェニコール5 mg/lを含むCMDXB寒天培地上で形質転換体を選択、得られた形質転換体をWDK010/pPKT-ScELA + pVtatABC株と命名した。
【0114】
2.C.グルタミカムにおけるSc-ELAの発現
上述したC.グルタミカムを用いたSm-ELAの発現と同様にして、YDK010/pPK-ScELA株、YDK010/pPKS-ScELA株、YDK010/pPKT-ScELA株、WDK010/pPKT-ScELA株およびWDK010/pPKT-ScELA + pVtatABC株の培養を行い、Nε-アセチル-L-リジンの分解活性を測定した。その結果、YDK010/pPKS-ScELA株の菌体抽出液から、培養液1 mlに相当する菌体抽出液あたり272 Uの活性が確認された(表3)。
また、YDK010/pPKS-ScELA株の菌体抽出液を用いてNα-アセチル-L-リジンの分解活性を測定した。その結果、Nε-アセチル-L-リジンの分解活性と比較しNα-アセチル-L-リジン分解活性はSm-ELAと同程度に低く、Sc-ELAはSm-ELAと同様にNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼであると考えられた。
【0115】
表3.C.グルタミカムの各菌株によるSc-ELAの産生
N.D. 検出限界未満
【実施例14】
【0116】
Sc-ELAを発現するC.グルタミカムの菌体抽出物によるNε-ラウロイル-L-リジンの合成
上述したYDK010/pPKS-ScELA株の菌体抽出液を用いて、Nε-ラウロイル-L-リジン合成反応を行った。また、YDK010/pPKS-SmELAの菌体抽出液を用いて、Nε-ラウロイル-L-リジン合成反応を行った。
終濃度が、ラウリン酸25 mM、L-リジン塩酸塩500 mM、Tris-HCl 50 mM、CoCl2 1 mM、菌体抽出液30 U/mlとなるよう反応溶液60 mlを調製し、200 mlミニジャーファーメンターを用いて攪拌1000 rpmでNε-ラウロイル-L-リジン合成反応を行った。pHは7.0となるよう1 N NaOHで調整し、反応液の温度は37℃となるよう調整した。
反応液から経時的にサンプリングを行い、反応液中のラウリン酸およびNεラウロイル-L-リジンをHPLCで定量した。その結果、ラウリン酸の減少に伴ってNε-ラウロイル-L-リジンの生成が確認された(図8)。このことから、Sc-ELAはSm-ELAと同様に、Nε-ラウロイル-L-リジンの合成に利用できることが明らかとなった。
HPLC分析は、カラムYMC-Pack C-8、4.6 x 150 mm(YMC)、移動層0.1 M NaH2PO4/MeOH = 2/8、UV 210 nmで行った。
【配列表フリーテキスト】
【0117】
配列番号6〜48:PCRプライマー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)〜(e)のいずれかのDNA:
(a)配列番号2に記載されるアミノ酸配列を有するNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼをコードするDNA;
(b)配列番号2に記載されるアミノ酸配列に於いて、1もしくは複数のアミノ酸残基が挿入、付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列を有し、かつ、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼを活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(c)配列番号1または3に記載されるヌクレオチド配列を有するDNA;
(d)配列番号1または3に記載されるヌクレオチド配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA;または、
(e)配列番号1または3に記載されるヌクレオチド配列と95%以上の相同性のあるヌクレオチド配列を有し、かつ、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼを活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項2】
請求項1記載のDNAを含有する組換えDNA。
【請求項3】
請求項2記載の組換えDNAで形質転換された形質転換体。
【請求項4】
請求項3記載の形質転換体を培養し、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有するタンパク質を生産させ、これを回収することを特徴とするNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有するタンパク質の製造方法。
【請求項5】
(a)配列番号2または5に記載されるアミノ酸配列を有するNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼをコードするDNA;
(b)配列番号2または5に記載されるアミノ酸配列に於いて、1もしくは複数のアミノ酸残基が挿入、付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列を有し、かつ、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼを活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(c)配列番号1、3または4に記載されるヌクレオチド配列を有するDNA;
(d)配列番号1、3または4に記載されるヌクレオチド配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼを活性を有するタンパク質をコードするDNA;または、
(e)配列番号1、3または4に記載されるヌクレオチド配列と95%以上の相同性のあるヌクレオチド配列を有し、かつ、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA、
のいずれかを含む組換えDNAで形質転換された形質転換体を培養し、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有するタンパク質を生産させ、これを回収することを特徴とするNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有するタンパク質の製造方法。
【請求項6】
L-リジンとラウリン酸を、下記(a)〜(e)のいずれかのDNAで形質転換した細胞または前記細胞の処理物または前記細胞の培養液の存在下で反応せしめ、生成するNε-ラウロイル-L-リジンを単離することを含む、Nε-ラウロイル-L-リジンを製造する方法:
(a)配列番号2または5に記載されるアミノ酸配列を有するNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼをコードするDNA;
(b)配列番号2または5に記載されるアミノ酸配列に於いて、1もしくは複数のアミノ酸残基が挿入、付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列を有し、かつ、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(c)配列番号1、3または4に記載されるヌクレオチド配列を有するDNA;
(d)配列番号1、3または4に記載されるヌクレオチド配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼを活性を有するタンパク質をコードするDNA;または、
(e)配列番号1、3または4に記載されるヌクレオチド配列と95%以上の相同性を有し、かつ、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項1】
下記(a)〜(e)のいずれかのDNA:
(a)配列番号2に記載されるアミノ酸配列を有するNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼをコードするDNA;
(b)配列番号2に記載されるアミノ酸配列に於いて、1もしくは複数のアミノ酸残基が挿入、付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列を有し、かつ、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼを活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(c)配列番号1または3に記載されるヌクレオチド配列を有するDNA;
(d)配列番号1または3に記載されるヌクレオチド配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA;または、
(e)配列番号1または3に記載されるヌクレオチド配列と95%以上の相同性のあるヌクレオチド配列を有し、かつ、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼを活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項2】
請求項1記載のDNAを含有する組換えDNA。
【請求項3】
請求項2記載の組換えDNAで形質転換された形質転換体。
【請求項4】
請求項3記載の形質転換体を培養し、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有するタンパク質を生産させ、これを回収することを特徴とするNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有するタンパク質の製造方法。
【請求項5】
(a)配列番号2または5に記載されるアミノ酸配列を有するNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼをコードするDNA;
(b)配列番号2または5に記載されるアミノ酸配列に於いて、1もしくは複数のアミノ酸残基が挿入、付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列を有し、かつ、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼを活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(c)配列番号1、3または4に記載されるヌクレオチド配列を有するDNA;
(d)配列番号1、3または4に記載されるヌクレオチド配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼを活性を有するタンパク質をコードするDNA;または、
(e)配列番号1、3または4に記載されるヌクレオチド配列と95%以上の相同性のあるヌクレオチド配列を有し、かつ、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA、
のいずれかを含む組換えDNAで形質転換された形質転換体を培養し、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有するタンパク質を生産させ、これを回収することを特徴とするNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有するタンパク質の製造方法。
【請求項6】
L-リジンとラウリン酸を、下記(a)〜(e)のいずれかのDNAで形質転換した細胞または前記細胞の処理物または前記細胞の培養液の存在下で反応せしめ、生成するNε-ラウロイル-L-リジンを単離することを含む、Nε-ラウロイル-L-リジンを製造する方法:
(a)配列番号2または5に記載されるアミノ酸配列を有するNε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼをコードするDNA;
(b)配列番号2または5に記載されるアミノ酸配列に於いて、1もしくは複数のアミノ酸残基が挿入、付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列を有し、かつ、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(c)配列番号1、3または4に記載されるヌクレオチド配列を有するDNA;
(d)配列番号1、3または4に記載されるヌクレオチド配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼを活性を有するタンパク質をコードするDNA;または、
(e)配列番号1、3または4に記載されるヌクレオチド配列と95%以上の相同性を有し、かつ、Nε-アシル-L-リジン特異的アミノアシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2012−39878(P2012−39878A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207086(P2009−207086)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】
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