説明

N−アシルトランスフェラーゼ酵素活性が増強された微生物を用いたN−アシル化硫黄含有アミノ酸の生産

本発明は、L−アミノ酸−N−アシルトランスフェラーゼ酵素活性を有する単離されたポリペプチド、およびこの酵素が過剰発現される改変微生物を提供する。この酵素の基質は主としてメチオニンおよびそれらの誘導体または類似体を含む。硫黄含有アミノ酸生産微生物における過剰発現は、多量のN−アシル化硫黄含有アミノ酸の生産を可能とする。発酵培地からのN−アシル化硫黄含有アミノ酸の単離も提供される。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、L−アミノ酸−N−アシルトランスフェラーゼ酵素活性を有する単離されたポリペプチド、およびこの酵素が過剰発現される改変微生物を提供する。該酵素の基質としては、メチオニンおよびその誘導体または類似体が含まれる。硫黄含有アミノ酸生産微生物における過剰発現は、大量のN−アシル化硫黄含有アミノ酸の生産を可能とする。また、N−アシル化硫黄含有アミノ酸の発酵媒体からの単離も提供される。
【0002】
発明の背景
N−アシルトランスフェラーゼは、通常アシル供与アシル−補酵素Aから、アミノ基へのアシル基の転位を触媒する。アシル基はRC O OH型のカルボン酸に由来する官能基である。それは式RC(=O)−を有し、炭素原子と酸素原子の間に二重結合を(すなわち、カルボニル基)、そしてRと炭素の間に一重結合を有する。アシル基の例としては、ホルミル(CH2=O)、アセチル(C2H4=O)、プロピオニル(C3H6=O)およびブチリル(C4H8=O)基である。
【0003】
N−アシルトランスフェラーゼは原核生物および真核生物の重要な酵素であり、生物学的なタイミング(Klein DC, 2007, J Biol Chem, 282(7):4233-7)、抗生物質耐性(Zahringer et al, 1993, FEMS Microbiol Lett., 110(3), 331-4; Lacalle RA, et al., 1989, Gene 79(2):375-80)および除草剤耐性などのプロセスに関与する。植物では、遺伝子産物「Bar」および「Pat」により触媒されるホスフィノトリシンのアシル化はグルフォシネート耐性をもたらす(Tan W. et al., 2006, Amino Acids, 30(2): 195-204)。
【0004】
いくつかのN−アシル−トランスフェラーゼは、ホルミルまたはアセチルなどの基の転位を特異的に触媒し、いわゆる「N−ホルミル−トランスフェラーゼ」または「N−アセチル−トランスフェラーゼ」である。他のトランスフェラーゼはより全般的な触媒活性を有し、単に「N−アシル−トランスフェラーゼ」と呼ばれている。
【0005】
同時翻訳プロセスとしてのメチオニンのN末端アセチル化は、真核生物において最も一般的なタンパク質修飾の1つである。しかしながら、ポリペプチドのN末端を認識するアセチラーゼは、遊離アミノ酸としてのメチオニンを認識しない(総説としては、Polevoda & Sherman 2000 JBC 275, 47, pp 36479-36482を参照)。原核生物では、同時翻訳プロセスとしてのメチオニンアセチル化はまれである(Driessen et al. 1985, CRC Crit. Rev. Biochem. 18, 281-325)。
【0006】
遊離アミノ酸としてのメチオニンをアシル化できる可能性のあるN−アシル化酵素が記載されている。例えば、ArgAは、大腸菌においてN−アセチル−グルタミン酸シンターゼをコードしている(Marvil & Leisinger 1977 JBC 252, 10 pp. 3295-3303)。メチオニンスルフォキシミンおよびメチオニンスルホンなどのメチオニン誘導体のN−アセチル化が記載されている(Davies et al, 2007, Biochemistry, 46(7), pp 1829-39)が、遊離メチオニンに対して有意なアシル化活性を有する酵素は現在知られてない。
【0007】
N−アセチル−L−メチオニン(NAM)は、アミノ基でアセチル化されたメチオニンの誘導体である。NAMは、純粋なメチオニンと同じメチオニン節約価を有することが示されている(Baker, 2006, Journal of Nutrition 136, pp. 16705-55)。それはまた、大豆パンまたは豆乳にも含まれており、感覚検出に関しては純粋なメチオニンよりも良好な性能を示す(Hippe & Warthesen, 1978, Journal of food science 43(3) pp 793-6)。
【0008】
N−アセチルメチオニンの化学的生合成ではD−およびL−立体異性体のラセミ体が生成し、N−アセチル−D−メチオニンならびにそのL−異性体は動物によっては組み込まれないことが知られている。脱ラセミ化は高コストのプロセスであり、NAMの生産を利益のないものとする。よって、食品/飼料および医薬品適用のための純粋なN−アセチル−L−メチオニンの発酵生産は経済的に価値あるプロセスとなろう。
【0009】
メチオニンのもう1つの重要な誘導体は、メチオニンがそのアミノ基でプロピオニル化されたN−プロピオニル−L−メチオニン(以下、NPM)である。
【0010】
L−メチオニンのアシル化から生じた産物は、羊毛生産("Propionyl-methionine: Fodder for ruminants"と題された米国特許第4,093,740号)および化粧品生産("Fatty Acid Amido-Methionine Products"と題された米国特許第3,624,114号)に有利であることが示されている。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、配列番号1の配列、その断片または相同配列を含んでなり、L−アミノ酸−N−アシルトランスフェラーゼ酵素活性を有する単離されたポリペプチドに関する。より具体的には、この単離されたポリペプチドは、基質メチオニン、リシンおよびグルタミン酸塩、それらの誘導体および類似体に対してL−アミノ酸−N−アシルトランスフェラーゼ活性を有する。
【0012】
本発明はまた、改変された、特に増強されたL−アミノ酸−N−アシルトランスフェラーゼ活性を有する改変微生物に関する。該微生物は、非改変微生物で見られる生産と比較してN−アシル化アミノ酸生産の増大を示す。
【発明の具体的説明】
【0013】
本発明は、配列番号1の配列、その断片または相同配列を含んでなり、L−アミノ酸−N−アシルトランスフェラーゼ酵素活性を有する単離されたポリペプチドに関する。
【0014】
単離されたポリペプチドは、基質メチオニン、リシン、グルタミン酸塩、それらの誘導体および類似体に対するL−アミノ酸−N−アシルトランスフェラーゼ活性を呈することが示された。
【0015】
本明細書において、特許請求の範囲および明細書の説明には、以下の用語を使用することができる。
【0016】
本発明によれば、「ポリペプチド」とは、ペプチド結合で連結された2以上のアミノ酸の配列を含んでなるペプチドまたはタンパク質を意味する。
【0017】
「単離された」とは、天然に会合している少なくとも1つの成分から取り出されたタンパク質またはDNA配列を意味する。
【0018】
「酵素活性」および「酵素的活性」は互換的に用いられ、特定の化学反応、例えば、メチオニンN−アセチルトランスフェラーゼ酵素活性では、メチオニンのNAMへの変換を触媒する酵素の力を意味する。
【0019】
「L−アミノ酸N−トランスアシラーゼ酵素活性またはL−アミノ酸−N−アシルトランスフェラーゼ活性」は、基質のアミノ基へのアシル基の付加、例えば、アミノ酸メチオニンのアミノ基へのアシル基の付加(図1参照)を表す。好適には、アシル基はブチリルであり、より好適にはプロピオニルであり、いっそうより特定の実施態様ではアセチル基である。
【0020】
メチオニン、リシンまたはグルタミン酸塩の誘導体または類似体は、メチオニンスルフォキシミン、ホモシステイン、メチオニンスルホン、メチオニンスルフォキシミングルタミンまたはホスフィノトリシン(グルフォサート(glufosate))として定義される。
【0021】
本発明の単離されたポリペプチドは、例えば、以下の実施例で記載されているような精製手順を使用することにより、メチオニンN−アシルトランスフェラーゼ活性を有する微生物から得ることができる。該ポリペプチドを単離するために使用可能な微生物としては、限定されるものではないが、大腸菌が挙げられる。
【0022】
「配列番号1の配列を含んでなる」とは、そのポリペプチドのアミノ酸配列が配列番号1に厳密に限定されるものではなく、付加的なアミノ酸を含み得ることを意味する。「配列番号1の断片」とは、そのポリペプチドの配列が配列番号1よりも少ないアミノ酸を含み得るが、なお、L−アミノ酸−N−アシルトランスフェラーゼ活性を付与するに十分なアミノ酸を含み得ることを意味する。ポリペプチドは、その酵素活性を保持しつつ、1以上のアミノ酸の置換、挿入、欠失および/または付加によって改変され得ることは、当技術分野でよく知られている。例えば、所定の位置の1つのアミノ酸を、タンパク質の機能的特性に影響を及ぼさない化学的に等価なアミノ酸で置換するのが一般的である。本発明の目的では、置換は、下記群の1つの中での交換として定義される。
・小さな脂肪族、非極性またはやや極性のある残基:Ala、Ser、Thr、Pro、GLy
・極性、負電荷を有する残基およびそれらのアミド:Asp、Asn、Glu、Gln
・極性、正電荷を有する残基:His、Arg、Lys
・大きな脂肪族、非極性残基:Met、Leu、Ile、Val、Cys
・大きな芳香族残基:Phe、Tyr、Trp
【0023】
よって、負電荷を有するある残基から別の残基への(例えば、グルタミン酸とアスパラギン酸の)置換または正電荷を有するある残基から別の残基への(例えば、リシンとアルギニンの)置換をもたらす変化は、機能的に等価な産物を生じると考えることができる。アミノ酸が改変される位置およびアミノ酸配列において改変を受けるアミノ酸の数は特に限定されない。当業者ならば、タンパク質の活性に影響を及ぼさずに導入することができる改変を認識することができる。例えば、タンパク質のN末端またはC末端部分における改変は、ある特定の状況下では、タンパク質の活性を変化させないと考えられる。
【0024】
「相同」とは、元の酵素活性をなお保持しつつ、上記で定義されたものなどの改変を受けたポリペプチドを意味する。
【0025】
本発明によれば、L−アミノ酸−N−アシルトランスフェラーゼ酵素活性を有するポリペプチドは、配列番号1に示される配列と少なくとも70%の同一性、好適には少なくとも80%の同一性、より好適には少なくとも90%の同一性を有する配列を含んでなり得る。
【0026】
2つのタンパク質配列間の同一性%を決定するための方法は当業者に公知である。例えば、それは、ウェブサイトhttp ://www.ebi.ac.uk/clustalw/で入手可能なソフトウエアCLUSTALWをこのウェブサイトに示されているデフォルトパラメーターとともに使用することによって配列を整列した後に行うことができる。このアライメントから、全残基数と比較して同じ位置に同じ残基がある番号を記録することにより、同一性%の計算を容易に行うことができる。あるいは、例えば、ウェブサイトhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/で入手可能なBLASTプログラムをこのウェブサイトに示されているデフォルトパラメーターとともに使用することによって、芳香族算出を行うこともできる。
【0027】
本発明によれば、アミノ酸N−アシルトランスフェラーゼ酵素活性を有するポリペプチドは、配列番号1の配列に由来する少なくとも100個の連続するアミノ酸、好適には、配列番号1に示される配列の少なくとも120、少なくとも140、少なくとも160またはそれを超える、好適には、少なくとも172の連続するアミノ酸を含んでなり得る。
【0028】
本発明の別の実施態様では、L−アミノ酸N−アシルトランスフェラーゼ酵素活性を有するポリペプチドは、配列番号1の配列と厳密に同じポリペプチド配列を有する。
【0029】
本発明はまた、本発明のポリペプチドをコードする配列を含んでなるポリヌクレオチドに関連する。発明者らは、基質メチオニン、リシン、グルタミン酸塩、メチオニンスルホキシド、メチオニンスルホン、メチオニンスルフォキシミン、アスパラギン酸塩およびアスパラギンに対してL−アミノ酸−N−アシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードする大腸菌由来遺伝子の同定結果を報告する。この遺伝子は、大腸菌の完全なゲノム分析の際に同定されたもので、大腸菌においてこれまでにyncAとして知られていた。この遺伝子はすでに推定アシルトランスフェラーゼとして報告されているが、特定の機能はまだ証明されていない(http://ecogene.org/)。それはまた、多剤耐性に関与することが知られているMarにより調節される遺伝子の発現を調整する化合物を同定する方法においてMarにより調節される遺伝子として報告されている(WO01/70776)。
【0030】
「ポリヌクレオチド」とは、場合により合成、非天然または改変ヌクレオチド塩基を含んでもよい一本鎖または二本鎖の、リボヌクレオチドのポリマー(またはRNA)またはデオキシリボヌクレオチドのポリマー(またはDNA)を意味する。DNAの形の単離されたポリヌクレオチドは合成DNA、ゲノムDNAまたはcDNAの1以上のセグメントを含んでもよい。
【0031】
ポリヌクレオチドの起源は、必ずしも、その酵素活性が始めに評価された生物でなくてもよい。当業者ならば、配列番号2のヌクレオチド配列を含んでなるプローブとの、種々のストリンジェンシー条件下でのハイブリダイゼーションを用いて、このようなポリヌクレオチドの遺伝子ライブラリーをスクリーニングすることができる。ハイブリダイゼーションの詳細なプロトコールはSambrook et al. (1989)に開示されている。
【0032】
このようなポリヌクレオチドの配列は、例えば上記で定義されたBLASTプログラムを用いてデータベースから抽出し、配列番号2のヌクレオチド配列との相同性を検索するか、または配列番号1のポリペプチド配列を用いて検索し、対応するポリヌクレオチド配列を引き出すことができる。
【0033】
本発明の好ましいポリヌクレオチドは、配列番号2のヌクレオチド配列と少なくとも60%同一のポリヌクレオチドである。本発明のより好ましいポリヌクレオチドは、配列番号2のヌクレオチド配列と少なくとも80%同一のポリヌクレオチドである。より好ましいヌクレオチドは、配列番号2のヌクレオチド配列と少なくとも90%同一である。本発明のいっそうより好ましいポリヌクレオチドは、配列番号2のヌクレオチド配列と少なくとも95%同一のポリヌクレオチドである。
【0034】
特に、配列番号2のヌクレオチド配列を含んでなるポリヌクレオチドが本発明に含まれる。
【0035】
「コードする("encoding" or "coding")」とは、ポリヌクレオチドが転写および翻訳の機構を介してアミノ酸配列を生成するプロセスを意味する。このプロセスは、DNAにおける塩基の配列とタンパク質におけるアミノ酸の配列との関係である遺伝コードにより可能とされる。遺伝コードの1つの主要な特徴は縮重していることであり、これは、1つのアミノ酸が2以上の塩基のトリプレット(1つの「コドン」)によってコードされ得ることを意味する。この直接的な結果は、同じアミノ酸配列が異なるポリヌクレオチドによりコードされ得るということである。一例として、遺伝コードの縮重により、配列番号2に由来するポリヌクレオチド配列はまた、配列番号1のポリペプチド配列をコードすることもでき、従って、本発明により意図される。コドンの利用は生物によって異なり得ることは、当業者によく知られている。同じアミノ酸をコードするコドンの中から、いくつかがある微生物によって優先的に用いられる場合がある。よって、特定の微生物において対応するタンパク質の発現を至適化するために、この生物のコドン利用に適合したポリヌクレオチドを設計することに着目することができる。
【0036】
本発明はまた、宿主微生物において機能的な調節エレメントの制御下に本発明のポリヌクレオチドを含んでなる発現カセットに関する。
【0037】
「発現」とは、遺伝子の産物である対応するタンパク質の生成をもたらす、遺伝子配列の転写および翻訳を意味する。
【0038】
「発現カセット」とは、好ましくは、好適な宿主生物内のポリヌクレオチドに含まれる遺伝子の発現を可能とする、プロモーター、エンハンサー、リボソーム結合部位またはターミネーターなどの調節エレメントと連結されたポリヌクレオチドを意味する。このような調節エレメントは、その遺伝子の固有の調節エレメントであってもよいが、その遺伝子の強い発現を可能とするために改変してもよいし、または合成エレメントであってもよい。例えば、より強い発現は、その遺伝子の天然プロモーターをより強力なプロモーターで置換することによって得ることができる。大腸菌では、これらのプロモーターは例えば、lacプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーターおよびλ cIプロモーターである。他の生物でも、当業者ならば最も適切なものを選択できるであろう。
【0039】
「宿主微生物」とは、外来もしくは異種遺伝子、またはその固有の遺伝子の余分なコピーを受容することができ、かつ、これらの遺伝子を発現させて活性なタンパク質産物を生成することができる微生物を意味する。
【0040】
本発明はまた、本発明による発現カセットまたは本発明のポリヌクレオチドを含んでなる形質転換ベクターに関する。
【0041】
「形質転換」とは、DNA、例えば、新たな遺伝子または既存の遺伝子の余分なコピーの、宿主生物への導入を意味する。これらの獲得遺伝子は染色体DNAに組み込むか、または染色体外エレメントとして導入することができる。一例として、大腸菌では、DNAを宿主生物に導入するための方法はエレクトロポレーションである。
【0042】
「形質転換ベクター」とは、ポリヌクレオチドを宿主生物に導入するために用いられる任意のビヒクルを意味する。このようなビヒクルは例えば、使用する生物に応じてプラスミド、ファージまたは当業者に公知のその他のエレメントであり得る。ポリヌクレオチドまたは発現カセットに加え、形質転換ベクターは通常、特定の宿主細胞の形質転換を助けるための他のエレメントを含む。発現ベクターは、カセットにより担持された遺伝子の好適な発現を可能とする発現カセットと宿主生物においてベクターの複製を可能とする付加的なエレメントを含んでなる。発現ベクターは宿主生物に1つのコピーまたは複数のコピーで存在することができる。
【0043】
本発明の特定の実施態様では、ベクターまたは単離されたDNA断片が微生物に導入され、該ベクターまたは断片は本発明によるカセットまたはポリヌクレオチドの染色体への組込みを可能とする。当業者ならば、遺伝子の染色体への組込みのための有用な種々のベクターを知っている。
【0044】
本発明はまた、調整されたL−アミノ酸−N−アシルトランスフェラーゼ酵素活性を有する改変微生物も提供し、ここで、本発明によるL−アミノ酸−N−アシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドの活性は増強されている。
【0045】
「改変微生物」とは、発酵液におけるN−アシル化産物の蓄積を増大させる目的で遺伝的に改変された微生物を表す。当業者ならば、どのようにして特定の遺伝子の発現を調整すればよいかが分かる。通常の改変としては、遺伝子の欠失、遺伝子置換、プロモーターの改変および異種遺伝子の発現のためのベクターの導入を含む、遺伝エレメントで微生物を形質転換することを含む。
【0046】
「ポリペプチドの活性」とは、基質の、測定可能であり、かつ、反応を触媒するL−アミノ酸−N−アシルトランスフェラーゼの活性と直接相関する最終産物への変換を特徴とする酵素活性を表す。
【0047】
本発明のN−アシルトランスフェラーゼポリペプチドの「増強された活性」とは、形質転換微生物を用いたN−アシル化産物、特に硫黄含有アミノ酸の生産が、改変前の同じ微生物と比較して増大されていることを意味する。
【0048】
本発明のN−アシルトランスフェラーゼポリペプチドの増強された活性は、増強された活性を有する変異体を作製および発現させる、またはより詳しくは、該ポリペプチドを過剰発現させるなどの任意の手段によって得ることができる。過剰発現は、存在すれば、該ポリペプチドをコードする天然遺伝子の発現に影響を及ぼす因子の発現を調整するなどの当技術分野で公知の種々の手段によって得ることができる。それはまた、存在すれば、該天然遺伝子のプロモーターを、エンハンサーなどの遺伝子産物のより強い発現を可能とする調節エレメント(このようなエレメントは当技術分野で公知である)で改変することによって、または結局のところ、既知の強力なプロモーターを用いて、得ることができる。過剰発現はまた、強力なプロモーターの制御下に、本発明のポリペプチドをコードする配列、結局のところ該遺伝子の複数コピー、を有する新たな遺伝子を導入することによっても得ることができる。
【0049】
微生物を形質転換するための総ての技術、および本発明のタンパク質の生産を増大させるために用いられる調節エレメントは当技術分野で周知であり、引用することにより本明細書の一部とされるWO2008/052973、WO2008/052595、WO2008/040387、WO2007/144346、WO2007/141316、WO2007/077041、WO2007/017710、WO2006/082254、WO2006/082252、WO2005/111202、WO2005/073364、WO2005/047498、WO2004/076659など、種々の微生物における生合成経路の改変に関する出願者所有の特許出願を含む文献で入手可能である。
【0050】
より詳しくは、N−アシル化産物の生産の増大レベルは培養培地で測定することができる。
【0051】
培地におけるN−アシル化産物の生産/蓄積レベルがアッセイされる。N−アシル化産物の蓄積は、非改変生物を用いた同じプロセスで蓄積される量の少なくとも20%、好適には50%、より好適には75%、いっそうより好適には95%増大される。
【0052】
蓄積されたNAMの量は、標品としてNAM(Sigma, Ref 01310)を用い、屈折率測定HPLCを用いて発酵液で測定される。N−プロピオニル−メチオニンの量は、標品としてNAM(Sigma, Ref 01310)を用い、GC−MS用いて発酵液で測定される。
【0053】
本発明の特定の実施態様では、本発明の改変微生物において、少なくとも1つの他のアシルトランスフェラーゼの発現が増強される。このような酵素およびそれらのコード配列は当技術分野で公知であり、ArgA(N−アセチルグルタミン酸シンターゼ)、YjdJ、YfaP、YedL、YjhQが含まれる。少なくともこれらの遺伝子の1つの発現が増強され、これは本発明の微生物において、これらの遺伝子の組合せの増強も意図されることを意味する。
【0054】
本発明の別の実施態様では、アシル化アミノ酸の脱アシル化を触媒する遺伝子の活性が減衰される。当技術分野で公知の該遺伝子の活性の減衰は、好ましくはそれらの発現を減衰させることにより得られる。特に、NAM脱アセチル化を触媒する酵素をコードするargE遺伝子の発現が減衰される。
【0055】
本発明の別の特定の実施態様では、メチオニン生合成に関与する少なくとも1つの遺伝子の発現が増強される。メチオニン生合成に関与する遺伝子は、引用することにより本明細書の一部とされるWO2007/077041およびWO2005/108561などの特許出願に包括的に記載されている。
【0056】
好適には、本発明の微生物は細菌、酵母および真菌からなる群から選択される。より好適には、細菌は、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)、バチルス科(Bacillaceae)、ストレプトミセス科(Streptomycetaceae)およびコリネバクテリウム科(Corynebacteriaceae)からなる群から選択される。より好適には、微生物は、エシェリキア属(Escherichia)、クレブシェラ属(Klebsiella)、パンテア属(Pantoea)、サルモネラ菌属(Salmonella)、バチルス属(Bacillus)またはコリネバクテリウム属(Corynebacterium)の種である。いっそうより好適には、細菌は、大腸菌(Escherichia coli)およびコリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)からなる種の中から選択される。
【0057】
本発明はまた、培地においてN−アシル化アミノ酸を生産するための方法であって、該アミノ酸を、アシル−補酵素Aの存在下で上記または下記で開示されるL−アミノ酸−N−アシルトランスフェラーゼ酵素活性を有するポリペプチドと接触させること、およびN−アシル化アミノ酸を回収することを含んでなる方法に関する。培地は、酵素活性が起こり得る任意の培地として定義される。それは一般に、最適な酵素活性のために適合されたpHを有する水溶液からなる。
【0058】
当業者ならば、この触媒的変換を可能とするのに最も適切な条件を選択することができる。
【0059】
本発明はまた、本発明による微生物を、炭素源、硫黄源および窒素源を含む適切な培養培地で培養すること、およびその培養培地からN−アシル化硫黄含有アミノ酸を回収することによる、N−アシル硫黄含有アミノ酸の生産方法に関する。
【0060】
本発明の特定の実施態様では、生産されるN−アシル化硫黄含有アミノ酸はN−アセチル−メチオニンである。本発明の別の実施態様では、生産されるN−アシル化アミノ酸はN−プロピオニル−メチオニンである。
【0061】
「適切な培養培地」とは、微生物の培養および増殖に適切な培地であり、該培地は炭素源、硫黄源および窒素源を含んでなる。このような培地は、培養する微生物に応じて、微生物発酵の分野の熟練者に周知のものである。
【0062】
本発明による「炭素源」とは、微生物の正常な増殖を支持するために当業者が使用可能ないずれの炭素源も表し、ヘキソース(グルコース、ガラクトースまたはラクトースなど)、五炭糖、単糖類、二糖類(スクロース、セロビオースまたはマルトースなど)、オリゴ糖、糖蜜、デンプンまたはその誘導体、ヘミセルロース、グリセロールおよびそれらの組合せであり得る。特に好ましい炭素源はグルコースである。別の好ましい単純炭素源はスクロースである。
【0063】
本発明の特定の実施態様では、炭素源は再生可能な供給原料に由来する。再生可能な供給原料は、短い遅滞内で、目的産物へのその変換を可能とするのに十分な量で再生することができる、ある特定の工業プロセスに必要な原料として定義される。
【0064】
特に、窒素源は、アンモニウム塩またはアンモニアガスのいずれかである。窒素源はアンモニウムまたはアンモニアの形態で供給することができる。
【0065】
L−メチオニン、その前駆体またはそれに由来する化合物の発酵生産に用いられる硫黄源は下記:硫酸塩、チオ硫酸塩、硫化水素、ジチオン酸塩、亜ジチオン酸塩、亜硫酸塩、メチルメルカプタン、二硫化ジメチルまたはそれらの組合せのいずれであってもよい。
【0066】
本発明の好ましい実施態様では、硫黄源は硫酸塩および/またはチオ硫酸塩である。
【0067】
発酵は一般に、使用する微生物に適合した、少なくとも1つの単純炭素源、および必要であれば代謝産物の生産に必要な補助基質を含有する適切な培養培地を用いるファーメンターで行う。
【0068】
大腸菌の既知の培養培地の例として、培養培地は、M9培地(Anderson, 1946, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 32:120-128)、M63培地(Miller, 1992; A Short Course in Bacterial Genetics: A Laboratory Manual and Handbook for Escherichia coli and Related Bacteria, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York)またはSchaefer et al. (1999, Anal. Biochem. 270: 88-96)によって定義されているような培地と同じまたは類似の組成のものであり得る。
【0069】
C.グルタミクムの既知の培養培地の例として、培養培地は、BMCG培地(Liebl et al., 1989, Appl. Microbiol. Biotechnol. 32: 205-210)またはRiedel et al. (2001, J. Mol. Microbiol. Biotechnol. 3: 573-583)によって記載されているものなどの培地と同じまたは類似の組成のものであり得る。
【0070】
当業者ならば、本発明による微生物の培養条件を定義することができる。特に、細菌を20℃〜55℃の間、好適には25℃〜40℃の間、より具体的には、C.グルタミクムでは約30℃、大腸菌では約37℃の温度で発酵させる。
【0071】
本発明の特定の実施態様では、該方法は、さらなる工程として反応媒体、発酵液の構成要素および/またはバイオマスから、所望により最終産物の一部または全量(0〜100%)に留まっている目的のアシル化アミノ酸を単離することを含んでなる。
【0072】
本発明の特定の実施態様では、該方法は、微生物を、リン酸塩および/またはカリウムに対して制限するまたは飢餓状態にすることを含んでなる。
【0073】
本発明の特定の実施態様では、回収されるアシル化アミノ酸はN−アセチル−メチオニンおよびN−プロピオニル−メチオニンの中から選択される。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】補因子としてアセチル−補酵素Aを用い、酵素YncAにより触媒される場合の、L−メチオニンからN−アセチル−L−メチオニンへのN−アセチル化を表す。
【実施例】
【0075】
実施例1:MNAT(メチオニンN−アシルトランスフェラーゼ)活性の精製
in vitroにおけるMNAT活性試験
メチオニンL−アミノ酸−N−アシルトランスフェラーゼ活性を、マイクロタイタープレートにて、HS−CoAの出現をDTNBでモニタリングすることにより追跡した。反応溶液は200mM Tris−HCl、pH9.0、100μM DTNB、3mMアセチル−coAおよび20mMメチオニンを含み、これにサンプルを加えた。DTNB−CoA複合体の形成を、μQuantマイクロタイタープレートリーダー(BioTek Instruments, Inc., USA)を用いて408nmでモニタリングした。
【0076】
MNATの精製
乾重〜3gの細胞を抽出バッファー(EB)(50mMリン酸塩、pH7.0、50μM PLP、500μM DTT)で3回すすぎ、70mLのEBに懸濁させた。RosetセルをUW2070プローブおよびSH70Gチップを備えたBandelin Sonoplus超音波ホモジナイザー(Bandelin Electronic, Germany)とともに用いた音波処理によって細胞を破砕した(バースト6回、30秒、効率100%、75W)。この粗抽出物を遠心分離し(30分、12.000g、4℃)、上清に固体硫酸アンモニウムを終濃度が2.3Mとなるように加え、氷上で30分間インキュベートした。この溶液を遠心分離し(15分、15.000g、4℃)、ペレットを40mLのリン酸バッファー(50mMリン酸塩、pH7.0)に懸濁させた。固体硫酸アンモニウムを終濃度が1.5Mとなるように加え、この溶液を氷上で30分間インキュベートし、その後、遠心分離した(15分、15.000g、4℃)。上清を、AKTA精製ユニット(Amersham Biosciences, USA)とそのソフトウエア(Unicorn software, Amersham Biosciences, USA)を用いてさらに処理した。次に、この溶液を10ベッド容量のリン酸バッファーで予め平衡化したフェニル−HPカラム(GE Healthcare Bio-Sciences AB, Sweden)に付した。タンパク質を、流速1mL/分で、リン酸バッファー中、1.5〜0mM硫酸アンモニウム勾配で溶出させた。最大活性を有する画分が〜0.5mM硫酸アンモニウムで得られ、4℃にて20mM Tris pH7.0バッファーに対して一晩透析した。次にこれを、10ベッド容量の20mM Tris pH7.0で平衡化したResourceQカラム(GE Healthcare Bio-Sciences AB, Sweden)を用いて、陰イオンクロマトグラフィーに付し、流速2mL/分にて、0〜0.5M NaClの範囲の20mM Tris pH7.0 NaCl勾配バッファーで溶出させた。最大活性を有する画分がNaCl濃度〜0.25Mで溶出した。ゲル濾過工程の前に、タンパク質溶液をAmiconウルトラ15フィルター(Millipore Corporation, USA)を用いて濃縮した。この濃縮抽出液を2ベッド容量の20mM tris、150mM NaClバッファーで平衡化したSuperdex 200カラム(GE Healthcare Bio-Sciences AB, Sweden)に通した。最大MNAT活性を含む画分が、分子量36kDaに相当する溶出容量〜15.3mLで得られた。最後に、タンパク質溶液を、製造業者の説明書に従って平衡化したBio−scaleセラミックヒドロキシルアパタイトカラム(Bio-Rad Laboratories, USA)に適用し、流速2mL/分で、10〜500mMのリン酸バッファー勾配(pH6.8)を用いて溶出させた。最大活性を有する画分は、溶出濃度〜130mMリン酸で得られた。種々の画分の変性SDSゲル電気泳動によれば、精製中、〜17kDaバンドが富化されたことを示した。
【0077】
【表1】

【0078】
バンドの分析
SDSゲル電気泳動後、17kDa領域のバンドを切り取り、トリプシン消化を施した。消化されたタンパク質をCapLC−Q−TOF2(Waters Corporation, USA)にてnanoLC−MS/MSで分析し、結果をProteinLynx Global Server(Waters Corporation, USA)およびMascot(Matrix Science)で処理した。精製タンパク質は、GCN5関連アシルトランスフェラーゼのYncAとして同定された。配列を配列番号1に示す。YncAは、N−アセチル−メチオニンスルフォキシミントランスフェラーゼである緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)由来のPA4688と63%の同一性を有する。緑膿菌PA4866タンパク質はL−メチオニンをアセチル化しなかったことが示されている(Davies et al., Biochemistry, 2007)。
【0079】
実施例2:YncA基質特異性の決定
基質特異性試験
基質特異性はDTNBに基づくアッセイを用いて試験した(上記参照)。
【0080】
基質特異性
メチオニンスルホン、メチオニンスルホキシド、メチオニンスルフォキシミンおよびメチオニンでそれぞれ強い活性が得られた。リシン、グルタミン酸塩、グルタミン、アスパラギン酸塩およびアスパラギンでは、弱い活性が得られた。
【0081】
基質としてメチオニンを用いる場合の好ましいアシル供与体はプロピオニル−CoAであった。アセチル−CoAもこれらの条件でアシル供与体として適切に働いたが、基質としてメチオニンを用いる場合、ブチリル−CoAは弱い活性を示した。
【0082】
【表2】

【0083】
【表3】

【0084】
実施例3:yncAの過剰発現
プラスミドpSCB−CI857−PλR−yncAの構築
プラスミドpSCB−CI857−PλR−yncAはベクターpSCB(Stratagene)に由来するものである。pSCB−CI857−PλR−yncAベクターの構築のために、まず、pSCB−CI857−PλRおよびpSCB−yncAプラスミドを構築する。CI857−PλR断片を、以下のオリゴヌクレオチド、CI857−PλR−FとCI857−PλR−Rを用いて、pFC1プラスミド(Mermet-Bouvier and Chauvat, 1994)からPCR増幅した。
【0085】
CI857−PλR−F:
・CI857領域と相同な領域(小文字)
・余分な塩基(大文字)を有する、ApaI制限部位(下線を付した大文字)の付加のための領域
を有する
ACCTTGCCGAGGGCCCTAAAAATAAGAGTTACCTTAAATGGTAACTCTTATTTTTTTTAtcagccaaacgtctcttcaggcc(配列番号03)
【0086】
CI857−PλR−R:
・余分な塩基(大文字)を有する、NdeI制限部位を包含するPλR領域に相同な領域(小文字)
を有する
GCATTTGCCACTGATGTACCGCCGAACTTCAACACTCTcatatgacctccttagtacatgc(配列番号04)
【0087】
PCR増幅断片をpSCBベクター(Stratagene)にクローニングした。組換えプラスミドをDNA配列決定により確認し、pSCB−CI857−PλRプラスミドを得る。
【0088】
次に、ync断片(配列番号2)を、以下のオリゴヌクレオチドYncAFとYncAR(ウェブサイトhttp://ecogene.org/に参照配列)を用いて、大腸菌MG1655のゲノムDNAからPCR増幅した。
【0089】
YncAF:
・yncA領域1516870〜1516850に相同な領域(小文字)
・yncA遺伝子のATGを重複するNdeI制限部位の付加のための領域(下線)
を有する
TCCCCCGGGGAGCTGTTGACAATTAATCATCCGGCTCGTATAATGTGTGGAATTGTGAGCGGATAACAATTTCACACTAAGGAGGTATCATatgtccatccgttttgcccgc(配列番号05)
【0090】
YncAR:
・yncA領域1516352〜1516372に相同な領域(小文字)
・余分な塩基(大文字)を有するBamHI制限部位(下線を付した大文字)
を有する
CGGGATCCtcatccaatcgcgtccggttc(配列番号06)
【0091】
PCR増幅断片をpSCBベクター(Stratagene)にクローニングする。組換えプラスミドをDNA配列決定により確認し、pSCB−yncAプラスミドを得る。pSCB−CI857−PλRおよびpSCB−yncAプラスミドを制限酵素NdeIおよびBamHIで切断し、yncAを含む断片をpSCB−CI857−PλRプラスミドのNdeI/BamHI部位にクローニングし、プラスミドpSCB−CI857−PλR−yncAを得る。
【0092】
MG1655 metA11 ΔmetJ Ptrc−metH Ptrc36−ARNmst17−metF PtrcF−cysPUWAM PtrcF−cysJIH ΔpykA ΔpykF Ptrc09−gcvTHP ΔpurU(pME101−thrA1−cysE−PgapA−metA11)(pCC1BAC−serB−serA−serC)(pSCB−CI857−PλR−yncA)株の構築
プラスミドpSCB−CI857−PλR−yncAを、特許出願PCT/EP2007/060433にすでに記載されているメチオニン生産株、MG1655 metA11 ΔmetJ Ptrc−metH Ptrc36−ARNmst17−metF PtrcF−cysPUWAM PtrcF−cysJIH Ptrc09−gcvTHP ΔpykA ΔpykF ΔpurU(pME101−thrA1−cysE−PgapA−metA11)(pCC1BAC−serB−serA−serC)株に導入し、MG1655 metA11 ΔmetJ Ptrc−metH Ptrc36−ARNmst17−metF PtrcF−cysPUWAM PtrcF−cysJIH Ptrc09−gcvTHP ΔpykA ΔpykF ΔpurU(pME101−thrA1−cysE−PgapA−metA11)(pCC1BAC−serB−serA−serC)(pSCB−CI857−PλR−yncA)を得る。
【0093】
実施例4:NAMまたはNPMの蓄積の増大したメチオニン生産株の評価
生産株を小エルレンマイヤーフラスコで評価する。5.5mL前培養物を、30℃にて、混合培地(2.5g/Lグルコースおよび90%最小培地PC1を含む10%LB培地(Sigma 25%)−WO2007/077041)で増殖させ、これを用いて、50mL培養に、37℃で培養した最少培地PC1中、OD600が0.2となるように植菌する。必要であれば、カナマイシンおよびスペクチノマイシンを50mg/Lの濃度で、アンピシリンを100mg/Lで、クロラムフェニコールを30mg/Lで加える。培養物のOD600が6〜7に達したところで、細胞外アミノ酸をOPA/Fmoc誘導体化の後にHPLCにより定量し、他の関連の代謝産物を、屈折率測定検出を用いたHPLC(有機酸およびグルコース)およびシリル化後のGC−MSを用いて分析する。試験は3回繰り返す。
【0094】
非特許参照文献
- Klein DC, 2007, J Biol Chem, 282(7):4233-7),
- Zahringer et al, 1993, FEMS Microbiol Lett., 110(3), 331-4,
- Lacalle RA, et al., 1989, Gene 79(2):375-80),
- Tan W. et al., 2006, Amino Acids, 30(2): 195-204),
- Polevoda & Sherman 2000 JBC 275, 47, pp 36479-36482),
- Driessen et al. 1985, CRC Crit. Rev. Biochem. 18, 281-325,
- Marvil & Leisinger 1977 JBC 252, 10 pp. 3295-3303,
- Davies et al., 2007, Biochemistry, 46(7), pp 1829-39,
- Baker, 2006, Journal of Nutrition 136, pp. 16705-55,
- Hippe & Warthesen, 1978, Journal of food science 43(3) pp 793-6,
- Anderson, 1946, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 32:120-128,
- Miller, 1992; A Short Course in Bacterial Genetics: A Laboratory Manual and Handbook for Escherichia coli and Related Bacteria, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York),
- Schaefer et al. (1999, Anal. Biochem. 270: 88-96,
- Liebl et al., 1989, Appl. Microbiol. Biotechnol. 32: 205-210,
- Riedel et al. (2001, J. MoI. Microbiol. Biotechnol. 3: 573-583,
- Davies et al., Biochemistry, 2007.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1の配列、その断片または相同配列を含んでなる、L−アミノ酸−N−アシルトランスフェラーゼ酵素活性を有する、単離されたポリペプチド。
【請求項2】
請求項1に記載のポリペプチドをコードする配列を含んでなる、ポリヌクレオチド。
【請求項3】
請求項1に記載のポリペプチドの活性が増強されている、L−アミノ酸−N−アシルトランスフェラーゼ酵素活性が調整された改変微生物。
【請求項4】
少なくとも1つの他のアシルトランスフェラーゼの発現が増強されている、請求項3に記載の微生物。
【請求項5】
前記の他のアシル−トランスフェラーゼが、argA、yjdJ、yfaP、yedL、yjhQおよびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項4に記載の微生物。
【請求項6】
アシル化アミノ酸の脱アシル化を触媒する遺伝子の活性が減衰されている、請求項3に記載の微生物。
【請求項7】
アシル化アミノ酸の脱アシル化を触媒する前記遺伝子がargEである、請求項6に記載の微生物。
【請求項8】
メチオニン生合成に関与する少なくとも1つの遺伝子の発現が増強されている、請求項3に記載の微生物。
【請求項9】
細菌、酵母および真菌からなる群から選択される、請求項3に記載の微生物。
【請求項10】
細菌が、腸内細菌科、バチルス科、ストレプトミセス科およびコリネバクテリウム科からなる群から選択される、請求項9に記載の微生物。
【請求項11】
大腸菌およびコリネバクテリウム・グルタミクム種からなる群から選択される、請求項10に記載の微生物。
【請求項12】
アシル−補酵素Aの存在下で、硫黄含有アミノ酸を請求項1に記載のポリペプチドと接触させること、およびN−アシル化アミノ酸を回収することを含んでなる、培地においてN−アシル化硫黄含有アミノ酸を生産するための方法。
【請求項13】
請求項3に記載の微生物を、炭素源、硫黄源および窒素源を含む適切な培養培地で培養すること、およびその培養培地からN−アシル化硫黄含有アミノ酸を回収することを含んでなる、N−アシル化硫黄含有アミノ酸の生産方法。
【請求項14】
請求項3に記載の微生物を、炭素源、硫黄源および窒素源を含む適切な培養培地で培養すること、およびその培養培地からN−プロピオニル化硫黄含有アミノ酸を回収することを含んでなる、N−プロピオニル化アミノ酸の生産方法。
【請求項15】
請求項3に記載の微生物を、炭素源、硫黄源および窒素源を含む適切な培養培地で培養すること、およびその培養培地からN−アセチル化硫黄含有アミノ酸を回収することを含んでなる、N−アセチル化アミノ酸の生産方法。
【請求項16】
硫黄源が、硫酸塩、チオ硫酸塩、硫化水素、ジチオン酸塩、亜ジチオン酸塩、亜硫酸塩、メチルメルカプタン、二硫化ジメチルおよびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
硫黄源が、硫酸塩またはチオ硫酸塩およびその混合物である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
炭素源が再生可能な供給原料に由来する、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
炭素源がグルコースまたはスクロースである、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
窒素源がアンモニウムまたはアンモニアの形態で供給される、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
さらなる工程として、反応媒体、発酵液および/またはバイオマスからの目的のアシル化アミノ酸の単離を含んでなる、請求項12または13に記載の方法。
【請求項22】
回収されるアシル化アミノ酸がN−アセチル−メチオニンおよびN−プロピオニル−メチオニンの中から選択される、請求項12または13に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2012−500623(P2012−500623A)
【公表日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−523427(P2011−523427)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【国際出願番号】PCT/EP2009/060812
【国際公開番号】WO2010/020682
【国際公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(505311917)メタボリック エクスプローラー (26)
【Fターム(参考)】