説明

N−ホルミル−メチオニン残基および腫瘍標的化ペプチドを含む化合物

本発明は、ヒトがん細胞を標的とする新規の化合物、そのような化合物の合成のための方法、および、がんを処置する際のそのような化合物の使用に関する。例えば、免疫グロブリンの構造に関連する、合成非免疫グロブリン抗腫瘍化合物であって、(a)それぞれ腫瘍細胞マーカーに結合することが可能な配列を含む、バインダーとしての2つまたはそれより多くのペプチド;(b)エフェクターとしての少なくとも1つのペプチドであって、配列:fML;fMLP;fMLFのうちの1つを含むペプチド;および(c)ポリペプチドから構成されるか、ポリエチレングリコールから構成されるか、またはそれらの組み合わせから構成される、2つまたはそれより多くのリンカー分子を含み、リンカー分子が2つまたはそれより多くのバインダーを少なくとも1つのエフェクターへと共有結合的に連結し、免疫グロブリン分子の構造に関連させる化合物が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍マーカーを標的とする新規の化合物;そのような化合物の合成のための方法;および、がんを処置する際のそのような化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
新しい抗がん療法の開発についての、特に、がん細胞を特異的に標的とする化学療法剤についての強い必要性が存在する。
【0003】
いくつかのそのような療法は、イムノトキシン、すなわち、ヒトがん細胞上の受容体に対する抗体分子またはタンパク質リガンドへの毒性薬物の結合体である化合物に依存する。例えば、非病原性細胞への毒素のあらゆる送達を最小限にする試みにおいて、がん細胞に結合する抗体が毒素との結合体として使用される。イムノトキシンは、例えば、リシン、シュードモナス外毒素、ジフテリア(Diptheria)外毒素、および腫瘍壊死因子α(TNF−α)へと腫瘍特異的抗体を連結することにより開発された。
【0004】
記載されたアプローチは(例えば、非特異的な毒性、低い効力、および高い製造コストの点から)顕著に不都合なことがある。その結果、腫瘍細胞に対して特異的であって、かつより低コストで製造され得る抗腫瘍化合物を提供する必要性が存在する。特に、標準化学構築ブロックからの化学合成により完全に製造され得る、抗腫瘍効力および特異性を有する化合物を提供する必要性が存在する。
【0005】
抗腫瘍効力および特異性を有するそのような合成化合物は、一般的な形式で特許文献1において記載されており、特許文献1は、ここで参考として含まれる。そのような化合物をさらに改善する必要性が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2008/000517号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
腫瘍細胞の効果的な処置を可能にする新規の合成化合物を提供することが本発明の目的である。この目的は、構造および機能が免疫グロブリンの構造および機能に基づく化学的に合成された単純な化合物を提供するというアイディアによって達成される。本発明は、特許請求の範囲において明記されるような化合物および方法を特に提供する。
【0008】
特に、本発明は、抗腫瘍効力を有する化合物を提供し、この化合物は、骨格構造および1つまたはそれより多くの合成バインダーから構成される結合体である。ここで、その骨格構造は、1つまたはそれより多くの、エフェクター機能、可撓性リンカー構造、およびそのバインダーに対する1つまたはそれより多くのカップリング部位を含む合成化学構造である。好ましくは、その骨格構造内のエフェクター機能は、病原体パターン認識受容体(PRR)に対するリガンド(特に病原体関連分子パターン(PAMPS)を含む)として働き、そして/または、PRRを活性化する。
【0009】
本発明の好ましい実施形態において、上記骨格構造は、免疫グロブリンのY構造に似ており、上記化合物の基部でのエフェクター機能と、上記バインダーが位置する2つの可撓性の腕とを伴う(図1を参照のこと)。従って、上記化合物は、免疫グロブリンにおいてのように可撓性リンカー構造(上記腕)間に1つの分岐点を含むが、またはさらなる実施形態においては追加の分岐点を含む。上記バインダーに対する上記カップリング部位は、そのような可撓性リンカー構造の端に位置する。
【0010】
さらなる実施形態において、本発明は、腫瘍細胞マーカーを特異的に標的とする化合物を提供する。好ましくは、そのような腫瘍細胞マーカーとしては、ヒト上皮増殖因子受容体(EGFR);ヒト血管内皮増殖因子受容体(VEGFR);ErbB−2受容体(Her−2);繊維芽細胞増殖因子受容体(FGFR);インテグリン(α3β1インテグリンおよびα4β1インテグリンが挙げられる);レクチン(ヒトβ−ガラクトシド結合レクチン3(ガレクチン−3、すなわちGal−3)が挙げられる);c−Met(肝細胞増殖因子受容体HGFRまたは細胞分散因子(scatter factor)SF)が挙げられる。
【0011】
特に本発明は、化合物を提供し、この化合物は、
(a)2つまたはそれより多くのバインダー(免疫グロブリン構造の頭部部分に似ている):
(b)そのバインダーに対する少なくとも1つのカップリング部位、少なくとも1つのリンカー構造、および少なくとも1つのエフェクター(免疫グロブリン構造の基部に似ている)を含む骨格構造
を含み、
ここで、そのエフェクターは以下の配列:fML(N−ホルミル−Met−Leu);fMLP(N−ホルミル−Met−Leu−Pro);fMLF(N−ホルミル−Met−Leu−Phe)のうちの1つを含み、そのリンカー構造は、ポリペプチドから構成されるか、ポリエチレングリコールから構成されるか、またはそれらの組み合わせから構成される。
【0012】
(定義)
本発明中で用いられる場合、用語「バインダー」は、好ましくは、第二の分子構造(特に標的腫瘍細胞上の腫瘍マーカー)と相互作用/結合する任意の分子構造を指す。本発明のバインダーは、天然または合成由来のバインダーであり得、改変されていてもよく、または改変されていなくてもよい。本発明のバインダーとしては、低分子、ペプチド、ペプチド模倣体、改変されたアミノ酸または改変されていないアミノ酸、オリゴヌクレオチド、および前述されたもののフラグメント、誘導体、類似体、キメラ、またはポリマーが挙げられる。バインダーの他の例としては、合成により生成された低分子が挙げられる。好ましくは、用語、低分子は、好ましくは500Da未満の分子量を有する生物活性分子を指す。低分子は、ペプチド、タンパク質、DNAまたはRNA以外の分子である。
【0013】
本発明中で用いられる場合、用語「腫瘍マーカー」は、がん細胞に対して十分に特異的であって、それをもって宿主の他の構造からそのがん細胞の区別を可能にする任意の構造を指す。量的にか、または質的にかのいずれかでがん細胞から宿主の構造を見分けることが可能である任意の構造は、腫瘍マーカーとして(例えば、宿主の他の細胞上にもまた、より低い量だが存在する、過剰発現された細胞表面タンパク質の場合のように)働き得る。バインダーと腫瘍マーカーとの間の相互作用は、任意の種類の化学的または物理的相互作用(例えば、水素結合、ファンデルワールス力または疎水性相互作用)を含み得る。そのマーカーの特異性は、がん細胞中、またはがん細胞上、またはがん細胞の近傍での、その選択的発現か、またはその増強した発現のいずれかに起因し得る。腫瘍マーカーの例としては、受容体、イオンチャネルおよび他の細胞表面タンパク質が挙げられる。
【0014】
好ましくは、用語「エフェクター」は、PRRを介してシグナル伝達を調節する任意の分子構造を指す。本発明のエフェクターとしては、低分子、サッカリド、ペプチド、ペプチド模倣体、天然または他のアミノ酸、オリゴヌクレオチド、およびこれらのフラグメント、誘導体、類似体、キメラ、またはポリマーが挙げられる。エフェクターとしては、リポ多糖類、テイコ酸、メチル化していないCpGモチーフを有するヌクレオチド、二本鎖RNA、マンナン、およびホルミルペプチドが挙げられる。エフェクターの1つの重要な機能は、免疫細胞の活性化であり得る。好ましくは、エフェクターは、PRRのアゴニストである。すなわち、受容体のシグナル伝達活性を誘導するか、またはそうでなければ増強する。エフェクターは、直接または間接の、刺激性、改変性または活性化の影響を先天性免疫系に及ぼす分子構造を特に含む。先天性免疫系の細胞は、病原体および罹病した組織または細胞を破壊および除去することにおいて有効である。エフェクターによって活性化される先天性免疫系の細胞としては、マクロファージ、好中球(多形核好中球、リンパ球、およびナチュラルキラー細胞が挙げられる)が挙げられる。
【0015】
好ましくは、用語「リンカー構造」は、2つの分子的実体を物理的に連結することが可能であって、これによりこれらの実体が、その意図される機能を示し得る任意の構造を指す。リンカーは、多様な化学構造(例えば、ポリエチレングリコール、ペプチド、エーテル、エステル)から構成され得る。
【0016】
細胞または受容体(およびその定量測定または定性評価)と組み合わせて使用される場合、用語「活性化」は、好ましくは、任意の直接または間接の免疫応答を指す。この免疫応答としては、例えば、浸潤、脱顆粒、ローリング、走化性、食作用、エンドサイトーシス、さまざまな異化酵素または分解酵素(例えば、エラスターゼ)の増加した発現または活性、酸化的バースト、過酸化水素および他の反応性の高い酸素種の産生または放出、細胞内のカルシウムの流れ、細胞極性化(cell polarization)、ならびにイノシトール代謝およびイノシトールシグナリングにおける変化が挙げられる。活性化の他の決定要素としては、ロイコトリエン、補体、ケモカイン、サイトカイン、化学誘引物質因子、インターロイキン、またはインターフェロンの増加した発現および産生が挙げられる。これらの活性を測定するための方法は、当業者に周知である。(例えば、William E.Paul、Fundamental Immunology、Lippincott Williams and Wilking Publishers.1999;John E.Coligen et al.、Current Protocols in Immunology、John Wiley & Sons、New York、N.Y.、1999を参照のこと)。
【0017】
アミノ酸配列と組み合わせて使用される場合、用語「実質的に相同な」は、好ましくは、配列が実質的に同一または類似する配列であって、コンフォメーションにおける相同性を生じ、従って、類似の生物学的活性を生じる配列を指す。この用語は、共通の配列進化を意味することを意図しない。代表的に「実質的に相同な」配列は、少なくとも所望する活性に関係することが知られる任意の領域にわたって、配列が、少なくとも50%同一、より好ましくは、少なくとも80%同一である。最も好ましくは、末端以外では5以下の残基が異なる。好ましくは、配列の不一致は、少なくとも前述の領域において、「保存的改変」の形式である。一般的に、2つの配列の相同性百分率を決定するためには、それらの配列は、最適の比較を目的として整列させられる(例えば、最適な整列のために第一の配列および第二の配列のうちの一方または両方においてギャップが導入され得、非相同配列は、比較目的のために無視され得る)。好ましい実施形態において、比較目的のために整列される参照配列の長さは、その参照配列の長さの、少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、さらにより好ましくは少なくとも60%、そしてさらにより好ましくは少なくとも70%、80%、または、90%である(例えば、第二の配列を、例えば、100残基を有する第一の配列へ整列させる場合、少なくとも30、好ましくは少なくとも40、より好ましくは少なくとも50、さらにより好ましくは少なくとも60、そしてさらにより好ましくは少なくとも70、80または90残基が整列される)。
【0018】
用語「非免疫グロブリン」は、天然の免疫グロブリンではない合成分子、または合成部分を有する天然の免疫グロブリンを指す。しかしながら、本発明によると、その分子は、多かれ少なかれ免疫グロブリンの一般構造に似ている。
【0019】
用語「好ましくは」は、本発明に対する選択物を示唆することを意図し、本発明をどんな様式でも限定または制限することを意図しない。
【0020】
アミノ酸略語:A:Ala、アラニン;C:Cys、システイン;D:Asp、アスパラギン酸;E:Glu、グルタミン酸;F:Phe、フェニルアラニン;G:Gly、グリシン;H:His、ヒスチジン;I:Ile、イソロイシン;K:Lys、リジン;L:Leu、ロイシン;M:Met、メチオニン;N:Asn、アスパラギン;P:Pro、プロリン;Q:Gln、グルタミン;R:Arg、アルギニン;S:Ser、セリン;T:Thr、トレオニン;V:Val、バリン;W:Trp、トリプトファン;Y:Tyr、チロシン;X:任意のアミノ酸。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1。免疫グロブリンの構造を有する本発明の化合物についての機能性、大きさおよび分子内の距離の比較。
【図2】図2。ペプチド配列YHWYGYTPQNVIを含む2つのバインダーペプチド、ペプチド配列fMLPを含む1つのエフェクター、およびリンカーとしてPEGを有する、本発明の好ましい実施形態に従う構造1。
【図3】図3。ペプチド配列YHWYGYTPQNVIを含む2つのバインダーペプチド、ペプチド配列fMLFを含む1つのエフェクター、およびリンカーとしてPEGを有する、本発明の好ましい実施形態に従う構造2。
【図4】図4。バインダーを可撓性リンカー構造にカップリングするための異なる化学構造を有する構造2のバリエーション。バインダーのペプチド配列YHWYGYTPQNVIは、(切断された、または1アミノ酸残基が置き換えられた(replaced))そのバリエーションによって、および腫瘍マーカーに対する結合能力を提供する他のペプチド配列によって置き換えられ得る。そのバインダーは、そのC末端を介して(構造BおよびEにおけるように)、またはそのN末端を介して(構造A、CおよびDにおけるように)結合され得る。
【図5】図5。EGFR、および構造1に従う化合物を用いた結合試験。
【図6】図6。構造2に従う化合物を用いた走化性アッセイ。「SAB」は、構造2を指し、「fMLF」は、コントロールとして用いられるfMLFペプチドのみを指す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(発明の詳細な説明)
上記で概説されるように、本発明は、腫瘍細胞の有効な処置を可能にする新規の化合物を提供する。
【0023】
この目的は、骨格構造、および1つまたはそれより多くの合成バインダーから構成される結合体である抗腫瘍化合物を提供することにより達成され、ここで、その骨格構造は1つまたはそれより多くのエフェクター、1つまたはそれより多くの可撓性リンカー構造、およびバインダーに対する1つまたはそれより多くのカップリング部位を含む合成化学構造である。
【0024】
本発明の化合物の骨格構造は、この化合物の基本的な機能を提供する。すなわち、(i)エフェクター機能、(ii)バインダーがカップリングし得る部位、および(iii)先天性免疫系の細胞および腫瘍マーカーを持つ標的細胞の両方とこの化合物との相互作用を可能にする可撓性フレームワークである。これらの機能の他に上記骨格構造は、好ましくは、他の副次的な活性を有さないように選択される。
【0025】
好ましくは、上記骨格構造は、大きさおよび機能が免疫グロブリンGの構造に似ている。すなわち、(i)そのエフェクター機能は、免疫グロブリンGのFc部分のように、Yの形をした構造の基部に位置し;(ii)2つ(またはそれより多く)の可撓性リンカー構造は、免疫グロブリンGにおけるFabフラグメントのように、分岐点を介して基部に結合され;(iii)上記バインダーは、免疫グロブリンGにおけるFabフラグメントの先端に位置するCDRのように、その可撓性リンカー構造の末端に結合される。完全に伸ばされる場合のその可撓性リンカーの長さは、約8nmであり得る。これは、Fabフラグメントの長さと同じ範囲内にあり、その結果、免疫グロブリンと同じ距離内に位置する2つの結合部位(例えば、細胞の表面上の受容体)に結合する能力を提供する(図1を参照のこと)。
【0026】
上記骨格構造内の少なくとも1つのエフェクターは、病原体パターン認識受容体(PRR)に対するリガンドとして働き得る任意の物質、特に病原体関連分子パターン(PAMPS)を含む物質であって、かつ/またはPRRを活性化し、先天性免疫系における、それらの生物学的機能のうちの少なくとも1つを示す物質である。その先天性免疫系は、多くの異なる病原体に存在する少数の高度に保存された構造を認識する防衛機構を表す。そのような病原体関連分子パターンとしては、グラム陰性細菌の細胞壁由来のLPS、ペプチドグリカン、グラム陽性細菌の細胞壁由来のリポテイコ酸(lipotechoic acid)、多くの微生物の糖脂質および糖タンパク質に共通する糖マンノース、フコース、N−アセチルグルコサミン、細菌性DNA、細菌性タンパク質に見出されるN−ホルミルメチオニン、ウイルス由来の2本鎖RNA、および真菌細胞壁由来のグルカンが挙げられる。
【0027】
本発明の標的化されたPRRとしては、特にマンノース受容体(MR)、ホルミルペプチド受容体(FPR)、toll様受容体(TLR)、CD14、およびヌクレオチド結合オリゴマー化ドメインタンパク質(NOD)が挙げられる。これらの受容体へのリガンドの結合はまた、先天性免疫および適応免疫を開始する上で欠くことのできないサイトカインのような、細胞内制御分子(免疫調節シグナル)の合成および分泌を促進する。本発明のエフェクターの例は、ペプチド、ホルミル化ペプチド、特にN−ホルミルメチオニンペプチド、ペプチドグリカン、アシル化リポペプチド(例えば、ジアシル化マイコプラズマリポペプチドまたはトリアシル化細菌リポペプチドおよびトリアシル化リポペプチド(tryacyl lipopeptide)(Pam3CSSNA))、ジアミノピメリン酸含有デスムラミルペプチド(γ−D−グルタミル−メソ−DAP;iE−DAP)、およびムラミルジペプチド(MDP)、CpG含有ヌクレオチド、dsRNA、マンノース、フコース、ラクト−N−フコペンタオースIII(LNFPIII)を含むオリゴ−またはポリカーボハイドレート、イミダゾキノリン、ホスホコリンである。
【0028】
本発明の1つの実施形態において、少なくとも1つのエフェクターは、ホルミルペプチド受容体(FPR)を活性化する。FPRの活性化は、数段階の好中球の応答および活性化につながる。その段階としては、化学誘引、免疫シグナリング分子(例えば、インターロイキン、サイトカインなど)の産生および放出への刺激、ならびに外来性の物質または病原体の破壊を媒介することが可能な化学物質(例えば、過酸化水素水および他の反応性酸素ラジカル種)および酵素物質(例えば、エラスターゼおよび他の消化酵素)の両方の産生および放出を含む細胞プロセスである脱顆粒が挙げられる。ヒトにおいて、3つの関係するFPRファミリーメンバーが同定されている:同名のホルミルペプチド受容体(FPR)、ならびに2つの他の受容体、FPRL1およびFPRL2である。FPRL1およびFPRL2は、配列相同性によりFPRに関係するが、機能的に異なるようである。ホルミルペプチド受容体(FPR)によって媒介される細胞応答としては、細胞極性化(cellular polarization)、および遊出、呼吸バーストオキシダーゼを介するスーパーオキシドO2ラジカルの生成、脱顆粒、および多様な種々の分解酵素の放出、および食作用が挙げられる。本発明によると、そのエフェクターは、FPRと相互作用し、FPRとともに上で言及した細胞応答のうち少なくとも1つを誘導する。
【0029】
この実施形態の好ましい局面において、そのエフェクターは、N−ホルミルメチオニン残基を含む。より好ましくは、そのエフェクターは、以下のN末端アミノ酸配列のうちの1つを含む:N−ホルミル−メチオニン−ロイシン(fML);N−ホルミル−メチオニン−ロイシン−フェニルアラニン(fMLF);N−ホルミル−メチオニン−ロイシン−プロリン(fMLP)。特に好ましいエフェクターは、ペプチドの、ホルミル−メチオニルロイシン(N−ホルミル−Met−Leu;fML)、ホルミル−メチオニルロイシルフェニルアラニン(N−ホルミル−Met−Leu−Phe;fMLF)、およびホルミル−メチオニルロイシルプロリン(N−ホルミル−Met−Leu−Pro;fMLP)。ホルミルメチオニルペプチドは、多くの白血球機能を刺激することが可能な炎症促進性ペプチドである。これらは、好中球の走化性、リソソームの酵素の放出、酸素のフリーラジカル産生、Ca++の流れ、好中球によるロイコトリエンの放出、および平滑筋収縮を刺激する。好中球のホルミルメチオニン刺激は、接着受容体の発現における、すばやい変更を誘導する。さらに、ホルミルメチオニルペプチドは、スーパーオキシドの産生および細胞内のCa++レベルの増加を誘導することが示されている。ホルミルメチオニルペプチドは、多くの細胞において走化性を誘導することが示されている。その細胞としては、肺胞マクロファージ、好中球、樹状細胞(DC)および単球が挙げられる。実際、ホルミルメチオニルペプチドの走化性活性または化学誘導物質活性は、fMLFが走化性アッセイにおけるポジティブコントロールとしてしばしば用いられるほど十分よく確立されている。ホルミル化ペプチドアンタゴニストのホルミルペプチド受容体(FPR)への結合を介した細胞応答としては、細胞極性化、および遊出、呼吸バーストオキシダーゼを介するスーパーオキシドO2ラジカルの生成、脱顆粒、および多様な種々の分解酵素の放出、および食作用が挙げられる。
【0030】
本発明の化合物の骨格構造内の可撓性リンカーは、好ましくは、その化合物が異なる細胞表面タンパク質と相互作用できるように選択される。さらに、その骨格構造の化学的性質は、好ましくは、ヒトの身体において、免疫原性を有さないか、または非常に低い免疫原性しか有さないように選択される。さらに、その骨格構造の大きさは、好ましくは、そのリンカーの長さによって調整される。好ましくは、本発明の化合物の大きさは、その化合物の組織浸透を容易にするための範囲、および/または、その治療上の効力に対してヒトの身体からのその化合物のクリアランスを調整するための範囲において選択される。
【0031】
そのようなリンカーの例としては、エチレングリコール(PEG)のオリゴマーおよびポリマー、ペプチド、デンドリマー(例えば、ポリリジン)、リボ核酸(RNA)、デオキシリボ核酸(desoxynucleic acid)(DNA)、ペプチド核酸(PNA)から構成されるオリゴヌクレオチド、多糖類(例えば、ヒドロキシエチルセルロース(hydroyethylcellulose)またはヒドロキシエチルデンプン)、デキストラン、アミノデキストラン、ポリエーテル、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタンが挙げられる。
【0032】
本発明の好ましい実施形態において、骨格構造内の1つまたはそれより多くの可撓性リンカーは、エチレングリコールのオリゴマーおよびポリマーから構成される。ポリエチレングリコールは、ヒトの身体において、免疫原性を有さないか、または非常に低い免疫原性しか有さないことが知られている。その骨格構造の大きさは、ポリエチレングリコールのリンカーを合成するために使用されるエチレン単位の数を選択することにより調整される。好ましくは、その骨格構造内のエチレングリコール単位の数は、1個と250個との間、より好ましくは1個と100個との間の範囲にある。この実施形態の特に好ましい局面において、エチレングリコール単位の数は、20個と80個との間の範囲にある。
【0033】
本発明の別の好ましい実施形態において、骨格構造内の1つまたはそれより多くの可撓性リンカーは、ペプチド配列、すなわちアミノ酸のオリゴマーから構成される。そのようなオリゴマーは、ホモオリゴマー(例えば、ポリリジン、ポリグリシンなど)であってもよいし、または標準および非標準アミノ酸を含む異なるアミノ酸から構成されてもよい。好ましくは、可撓性リンカー単位を形成する骨格構造内のアミノ酸残基の数は、1個と100個との間、より好ましくは、1個と50個との間の範囲にある。特に好ましい実施形態において、アミノ酸残基の数は、10個と25個との間の範囲にある。さらなる特に好ましい実施形態において、そのペプチドオリゴマーは、配列(GGGGS)2−4を有する。すなわち、配列GGGGSが、2回〜4回繰り返される。そのようなリンカーは、代表的に、水溶液中において可撓性構造を形成する。別の特に好ましい実施形態において、そのペプチドオリゴマーは、配列(EAAAK)2−5を有する。すなわち、配列EAAAKが、2回〜5回繰り返される。そのようなリンカーは、代表的に、水溶液中においてαへリックス構造を形成する。
【0034】
さらに、本発明の化合物の骨格構造は、バインダー部分をその骨格構造へと共有結合するために用いられ得るカップリング部位を含む。その骨格構造への、バインダー部分の部位特異的共有結合的な連結を可能にする任意の化学残基が、カップリング部位として使用され得る。そのような化学残基の例としては、カルボン酸基、活性化されたカルボキシル基(例えば、活性エステル)、アミノ基、アルデヒド、イソシアネート、チオール基、マレイミド、スクシンイミジルエステルが挙げられる。
【0035】
本発明の好ましい実施形態において、そのカップリング部位はアミノ基であり、1つまたはそれより多くのバインダー部分は、活性化されたカルボキシル基を介して骨格構造へと共有結合的にカップリングされる。特に好ましい実施形態において、そのカップリング部位はアミノ基であり、1つまたはそれより多くのバインダー部分は、C末端のαカルボキシル基を用いて、カップリング部位のアミノ基に対して共有結合的にカップリングされるペプチドであり、それによりフリーのN末端を伴う1つまたはそれより多くのペプチドバインダーを含む化合物を提供する。
【0036】
その骨格構造は、好ましくは、1つより多くのエフェクターか、もしくは1つより多くのカップリング部位のいずれか、またはその両方の導入を可能にする分岐点をさらに含む。本発明の好ましい実施形態において、その骨格構造は少なくとも1つの分岐点および少なくとも2つのカップリング部位を含み、可撓性リンカーは、その少なくとも1つの分岐点とその少なくとも2つのカップリング部位との間に含まれる。
【0037】
分岐点の例としては、三官能性のモノマー(例えば、アミノ酸の、リジン、オルニチンおよびシトルリン(1つのカルボキシル基および2つのアミノ基)、アスパラギン酸およびグルタミン酸(2つのカルボキシル基および1つのアミノ基)、システイン(1つのカルボキシル基、1つのアミノ基および1つのチオール基)、またはトリカルボン酸(例えば、クエン酸、イソクエン酸、またはアコニット酸)(3つのカルボキシル基))、ならびに四官能性のモノマー(例えば、ランチオニン(2つのカルボキシル基および2つのアミノ基))が挙げられる。
【0038】
本発明の特に好ましい実施形態において、その骨格構造は、分岐点として、さらなるアミノ側基を有する2つまたはそれより多くのアミノ酸(例えば、リジン、オルニチンまたはシトルリン)を含む。ここで、これらのアミノ酸は、ペプチド結合により互いに連結され、かつ結果として生じる3つまたはそれより多くのアミノ基(1つのαアミノ基および2つまたはそれより多くの他のアミノ基)のうちの1つは、エフェクターに対するカップリング部位として働き、残りの2つまたはそれより多くのアミノ基は、バインダーに対するカップリング部位として働く。この実施形態のさらなる特に好ましい局面において、結果として生じる1つのαアミノ基は、エフェクターに対するカップリング部位として働き、その2つまたはそれより多くのアミノ基は、バインダーに対するカップリング部位として働く。好ましくは、1つまたはそれより多くの、エフェクター、分岐点および/またはバインダーの間で可撓性リンカーが合成される。
【0039】
従って、本発明の特に好ましい実施形態において、その骨格構造は、以下の組成物のうちの1つを有する:
【0040】
【化1】

ここで、「エフェクター」はエフェクター部分であり、「CO−NH」または「NH−CO」はペプチド結合を表し、「LM」はリンカーモノマー(例えば、エチレングリコール、またはアミノ酸)であり、「BP」は分岐点(例えば、リジン残基)であり、「NH2」はアミノ基であり、「OH」はヒドロキシル基であり、ならびに「n」および「m」は整数である。アステリスク「*」は、バインダーが骨格構造へと共有結合的にカップリングするカップリング部位の印である。
【0041】
この実施形態の好ましい局面において、nは1と100との間、より好ましくは10と50との間、そして、さらにより好ましくは15と35との間である。特に好ましい実施形態において、nは27である。好ましくは、mは10より低いか、または10と等しく、より好ましくは5より低いか、または5と等しく、そして、さらにより好ましくは、mは2または3である。特に好ましい実施形態において、mは2である。
【0042】
その骨格構造は、化学合成により完全に製造され得る。本発明の1つの実施形態において、その骨格構造は、固相合成により完全に合成される。ペプチドの固相合成のための標準プロトコルは、本発明の化合物の骨格構造を合成するために使用され得る。本発明の好ましい実施形態において、その骨格構造は、2つのアミノ酸基(分岐点、例えば、リジン)を有するアミノ酸から開始して合成され、そのアミノ酸はカルボキシル基を用いて固相支持体(例えば、ポリスチレン)へとカップリングされる。それにより、リンカー構造およびエフェクターは、活性化されたカルボキシル基を介してその分子にカップリングされ得る。この実施形態のさらなる好ましい局面において、1つもしくはそれより多くのエフェクターおよび/または1つもしくはそれより多くのリンカー構造は、ペプチドであり、活性化されたカルボキシルエステルを介してそれぞれのアミノ酸残基をその分子へとカップリングすることによって合成される。
【0043】
バインダーは、カップリング部位を介して合成骨格構造へと共有結合的に連結される。1つの実施形態において、本発明の化合物は固相合成を介して骨格構造を合成後、その骨格構造へとバインダー部分をカップリングすることにより製造される。本発明の別の好ましい実施形態において、1つまたはそれより多くのバインダーはペプチドであり、本発明の化合物は固相合成により完全に合成される。
【0044】
本発明に従うバインダーの例は、ペプチド(直線状、環状、または分枝状)、ペプチド模倣体、ペプチドリピート(peptide repeat)、オリゴヌクレオチド(例えば、DNA、RNA)、オリゴヌクレオチド類似体(例えば、PNA、DNA/RNAキメラなど)または低分子である。
【0045】
本発明の特定の実施形態において、そのバインダーはペプチドである。好ましくは、そのペプチドの長さは、1アミノ酸残基と75アミノ酸残基との間、より好ましくは3アミノ酸残基と25アミノ酸残基との間である。本発明の好ましい実施形態において、そのバインダーは、特定のアミノ酸配列を含むペプチドである。そのような配列は、20個の標準アミノ酸、非標準アミノ酸、および化学的に改変されたアミノ酸を含み得る。非標準アミノ酸の例としては、カルニチン、シトルリン、ホモアルギニン、ホモシトルリン、ホモシステイン、ホモフェニルアラニン、ホモプロリン、ヒドロキシプロリン、アロイソロイシン、イソセリン、オルニチン、フェニルグリシン、フェニルイソセリン、アロトレオニン、セレノシステイン、ピロリジン(pyrrolysine)、ランチオニン、2−アミノイソ酪酸、γ−アミノ酪酸、デヒドロアラニン(2−アミノアクリル酸)、βアラニン(3−アミノプロパン酸)、またはこの立体異性体が挙げられる。そのペプチド配列はL−アミノ酸およびD−アミノ酸の両方を含み得る。
【0046】
本発明のさらなる好ましい実施形態において、1つまたはそれより多くのバインダーは、環状構造である。特に好ましい実施形態において、そのバインダーは、環状ペプチドである。30アミノ酸残基またはそれより少ないアミノ酸残基のペプチドは、しばしば水溶液中で無構造である。これらのペプチドは、受容体のようなパートナー分子との複合体形成の際のみに規定のコンフォメーションを取る。無構造ペプチド(unstructured peptide)は、哺乳動物の身体からのより速いクリアランスに起因して代謝的に不安定であり得る。安定性、バイオアベイラビリティ、および受容体との相互作用についての選択性は、そのようなペプチドの環化により増大され得る。
【0047】
1つの実施形態において、環状ペプチドは分子内ジスルフィド架橋により生成される。分子内ジスルフィド架橋を有するペプチドは、コンフォメーション的に安定であり、それにより、例えば、受容体に対して、高度に選択的なバインダーであり得ることが示されている。そのようなペプチドの例は、ディフェンシン(脊椎動物および無脊椎動物における病原体制御)である。
【0048】
別の実施形態において、環状ペプチドは、アミノ末端とカルボシキル末端との間でアミド結合を形成することによってペプチドのN末端とC末端とを安定して連結することにより生成される(頭−尾環化)。この結合形成により、ホモデティック環状ペプチドになる。従って、使用されるカップリングの化学的結合は、固相ペプチド合成の間に適用される化学的結合と同様に活性化されたエステルに基づく。
【0049】
本発明のさらなる実施形態において、環状ペプチドは、側鎖−側鎖環化により生成される。これは、適切な官能基間で反応すると、チオエーテル、ラクタム、ラクトンまたは炭素−炭素連結を伴う大環状構造になる。この実施形態の特に好ましい局面において、(例えば、システイン残基の)チオール側鎖は、(例えば、2−アミノアクリル酸残基の)C−C二重結合と反応し、チオエーテル結合を形成する。この実施形態の別の特に好ましい局面において、(例えば、2−アミノアクリル酸残基の)2つのC−C二重結合は、反応して、2つのアミノ酸残基間で炭素−炭素二重結合連結を形成する。そのようなホモデティックペプチド大環状分子およびヘテロデティックペプチド大環状分子は、骨格構造におけるカップリング部位への共有結合的な連結のためのハンドルとして、アルデヒド、ケトンおよびアミノオキシ基のようなさらなる官能基を備え得る。
【0050】
別の好ましい実施形態において、バインダーペプチドおよび/もしくはエフェクターペプチドの安定性は増大され、ならびに/またはそのペプチドは、アミノ末端および/もしくはカルボキシ末端をブロッキングすることによってタンパク分解性分解から保護される。用語ブロッキングは、共有結合的な改変を介してそのペプチドの末端へとブロッキング基を導入することを指す。適切なブロッキング基は、そのペプチドの生物学的活性を妨げない。そのペプチドのアミノ末端のアセチル化は、タンパク分解性分解からそのペプチドを保護する好ましい方法である。好ましいブロッキング部分としては、以下のアシル部分が挙げられる(疎水性が上がる順に):ホルミル、アセチル、プロパノイル、ヘキサノイル。そのペプチドのカルボキシ末端のアミド化は、タンパク分解性分解からペプチドを保護するさらなる好ましい方法である。
【0051】
本発明の好ましい実施形態において、1つまたはそれより多くのバインダーを含む化合物が提供され、ここでそのバインダーは以下の腫瘍マーカーのうちの1つに結合する:ヒト上皮増殖因子受容体(EGFR);ヒト血管内皮増殖因子受容体(VEGFR);ErbB−2受容体(Her−2);繊維芽細胞増殖因子受容体(FGF受容体);インテグリン(α3β1インテグリンおよびα4β1インテグリンが挙げられる);ヒトβ−ガラクトシド結合レクチン ガレクチン−3(Gal−3);c−Met(ヒト肝細胞増殖因子HGFまたは細胞分散因子SFに対する受容体)。
【0052】
そのようなバインダーは、好ましくは、以下の配列:YHWYGYTPQNVI;CSDSWHYWC;CSDHWHYWC;CSDYNHHWC;CSDWQHPWC;KCCYSL;MQLPLAT;CDGLGDDC;CDGWGPNC;CLDWDLIC;SWKLPPS;CPLDIDFYC;ANTPCGPYTHDCPVKR;YLFSVHWPPLKA;または、少なくとも4アミノ酸残基の長さを有するこれらのフラグメントのうちの1つを含む。好ましくは、そのペプチドバインダーは、フリーのN末端を有するバインダーを伴う化合物を提供するために、C末端を介して骨格構造へと共有結合的に連結される。
【0053】
本発明のこの実施形態の別の好ましい局面において、そのバインダーは、チオエーテルまたはC−C二重結合を介して形成されるホモデティックペプチド大環状分子またはヘテロデティックペプチド大環状分子において、以下の配列:DSWHYW;SDHWHYW;SDYNHHW;SDWQHPW;DGLGDD;DGWGPN;LDWDLI;PLDIDFY;GPYTHDのうちの1つを含む。
【0054】
この実施形態の特定の局面において、本発明は、構造タイプ:(バインダー−リンカー1)n−リンカー2−エフェクターの化合物を提供し、ここで、
(a)そのバインダーはペプチドであり、以下の配列:YHWYGYTPQNVI;CSDSWHYWC;CSDHWHYWC;CSDYNHHWC;CSDWQHPWC;KCCYSL;MQLPLAT;CDGLGDDC;CDGWGPNC;CLDWDLIC;SWKLPPS;CPLDIDFYC;ANTPCGPYTHDCPVKR;YLFSVHWPPLKA;または少なくとも4アミノ酸残基の長さを有するこれらのフラグメントのうちの1つを含み;
(b)そのエフェクターはペプチドであり、以下の配列:fML(N−ホルミル−Met−Leu);fMLP(N−ホルミル−Met−Leu−Pro);fMLF(N−ホルミル−Met−Leu−Phe)のうちの1つを含み;
(c)リンカー1およびリンカー2は、ポリペプチド、ポリエチレングリコール構造、もしくはそれらの組み合わせ、または1つの共有結合であり;
(d)nは少なくとも2である。
【0055】
本発明のさらなる好ましい実施形態において、少なくとも1つのエフェクターへと作動可能に連結する1つまたはそれより多くのバインダーを含む化合物が提供され、そのバインダーは、ヒト上皮増殖因子受容体(EGFR)および/または腫瘍細胞上の関連するマーカーに結合し、その少なくとも1つのエフェクターは、病原体パターン認識受容体(PRR)に対するリガンドとして働き得る任意の物質、特に病原体関連分子パターン(PAMPS)を含む物質であって、かつ/またはPRRを活性化し得る物質である。そのような化合物は、好ましくは、固形腫瘍の処置、特に結腸がん、乳がん、前立腺がん、頭部および頸部のがん、NSCLC、卵巣がん、膀胱がん、ならびに/または食道がん(esopheageal cancer)の処置において使用され得る。
【0056】
特に本発明は、以下
(a)それぞれが以下の配列:YHWY;HWYG;WYGY;YGYT;GYTP;YTPQ;TPQN;PQNV;QNVIのうちの1つを含む、バインダーとしての2つまたはそれより多くのペプチド;
(b)以下の配列:fML(N−ホルミル−Met−Leu);fMLP(N−ホルミル−Met−Leu−Pro);fMLF(N−ホルミル−Met−Leu−Phe)のうちの1つを含む、エフェクターとしての少なくとも1つのペプチド;および
(c)ポリペプチドから構成されるか、ポリエチレングリコールから構成されるか、もしくはそれらの組み合わせから構成されるか、または1つの共有結合から構成される、リンカー分子、
を含む化合物であって、
ここでそのリンカー分子は、上記2つまたはそれより多くのバインダーを上記少なくとも1つのエフェクターへと共有結合的に連結する化合物を提供する。
【0057】
好ましい実施形態において、本発明は、以下
(a)配列:YHWYGYTPQNVI(Tyr−His−Trp−Tyr−Gly−Tyr−Thr−Pro−Gln−Asn−Val−Ile)または、少なくとも4アミノ酸残基の長さを有するそのフラグメントを含む、バインダーとしての2つまたはそれより多くのペプチド;
(b)以下の配列:fML(N−ホルミル−Met−Leu);fMLP(N−ホルミル−Met−Leu−Pro);fMLF(N−ホルミル−Met−Leu−Phe)のうちの1つを含む、エフェクターとしての少なくとも1つのペプチド;
(c)ポリペプチドから構成されるか、ポリエチレングリコールから構成されるか、もしくはそれらの組み合わせから構成されるか、または1つの共有結合から構成される、オリゴマーリンカー
を含む化合物を提供する。
【0058】
あるいは、そのバインダーペプチド配列:YHWYGYTPQNVIは、(切断された、または1アミノ酸残基が置き換えられた)そのバリエーションによって、およびEGFRに対する結合能力を提供する他のペプチド配列によって置き換えられ得る。
【0059】
そのバインダーペプチド配列は、二者択一的にそのN末端またはそのC末端を介して連結され得る。
【0060】
さらに本発明は、構造タイプ:(バインダー−リンカー1)n−リンカー2−エフェクターの化合物を提供し、ここで、
(a)そのバインダーはペプチドであり、配列:YHWYGYTPQNVI(Tyr−His−Trp−Tyr−Gly−Tyr−Thr−Pro−Gln−Asn−Val−Ile)または少なくとも4アミノ酸残基の長さを有するそのフラグメントを含み;
(b)そのエフェクターはペプチドであり、以下の配列:fML(N−ホルミル−Met−Leu);fMLP(N−ホルミル−Met−Leu−Pro);fMLF(N−ホルミル−Met−Leu−Phe)のうちの1つを含み;
(c)リンカー1およびリンカー2は、ポリペプチド、ポリエチレングリコール構造、もしくはそれらの組み合わせ、または1つの共有結合であり;
(d)nは、少なくとも2であり、そのエフェクターに結合されるバインダー分子の数を示す。
【0061】
好ましくは、そのような化合物は、3アミノ酸残基と75アミノ酸残基との間、より好ましくは、4アミノ酸残基と25アミノ酸残基との間の長さを有するペプチドであるバインダーであって、配列:YHWYGYTPQNVI(Tyr−His−Trp−Tyr−Gly−Tyr−Thr−Pro−Gln−Asn−Val−Ile)または少なくとも4アミノ酸残基の長さを有するそのフラグメント、好ましくは、YGYTPQ;WYGYTPQN;もしくはHWYGYTPQNV、または配列:YHWYGYTPQNVIもしくはそのフラグメントと実質的に相同であるペプチドを含むバインダーを含む。従って、そのような化合物におけるバインダーは、少なくとも以下の配列:YHWY;HWYG;WYGY;YGYT;GYTP;YTPQ;TPQN;PQNV;QNVIまたはこれらの配列のうちの1つと実質的に相同である配列のうちの1つを含むペプチドである。
【0062】
この実施形態の特定の局面において、そのペプチドは、ヒトEGFR(上皮増殖因子受容体)および/またはその改変体、誘導体もしくは相同体に対する結合親和性を有する。例えば、オリゴペプチドは、全長EGFRもしくは切断された受容体EGFRvIII(上皮増殖因子受容体改変体III)またはその両方に対する結合親和性を有する。EGFRは、結腸がん、頭部および頸部のがん、卵巣がん、膵がん、非小細胞肺がん、乳がん、およびグリア芽細胞腫においてのような多くの病原性細胞集団において過剰発現される。
【0063】
本発明の好ましい実施形態において、式:(バインダー−リンカー)n−エフェクターを有する化合物が提供され、ここで
(a)そのバインダーは、配列:YHWYGYTPQNVI(Tyr−His−Trp−Tyr−Gly−Tyr−Thr−Pro−Gln−Asn−Val−Ile)または少なくとも4アミノ酸残基の長さを有するそのフラグメントを含むペプチドであり;
(b)そのエフェクターは、そのN末端における以下の配列:fML(N−ホルミル−Met−Leu);fMLP(N−ホルミル−Met−Leu−Pro);fMLF(N−ホルミル−Met−Leu−Phe)のうちの1つおよびnリジン残基を含むペプチドであり;
(c)そのnリンカー分子は、ポリエチレングリコールオリゴマーであり;
(d)上記エフェクターは、nリジン残基のεアミノ基を介して、上記nリンカー分子の末端のカルボキシ基へのアミド結合によって共有結合的に連結され;
(e)上記バインダー分子は、カルボキシ末端を介して、ポリエチレングリコールリンカーの末端のカルボキシ基へのアミド結合によって共有結合的に連結され;
(f)nは、2と10との間の整数である。
【0064】
本発明の別の好ましい実施形態において、式:(バインダー−リンカー)2−エフェクターを有する化合物が提供され、ここで
(a)そのバインダーは、配列:YHWYGYTPQNVI(Tyr−His−Trp−Tyr−Gly−Tyr−Thr−Pro−Gln−Asn−Val−Ile)を有するペプチドであり;
(b)そのエフェクターは、そのN末端における以下の配列:fML(N−ホルミル−Met−Leu);fMLP(N−ホルミル−Met−Leu−Pro);fMLF(N−ホルミル−Met−Leu−Phe)のうちの1つおよび2つのリジン残基を含むペプチドであり;
(c)その2つのリンカー分子は、ポリエチレングリコールオリゴマーであり;
(d)上記エフェクターは、上記2つのリジン残基のεアミノ基を介して、上記2つのリンカー分子の末端のカルボキシ基へのアミド結合によって共有結合的に連結され;
(e)上記バインダー分子は、カルボキシ末端を介して、ポリエチレングリコールリンカー分子の末端のカルボキシ基へのアミド結合によって共有結合的に連結される。
【0065】
本発明の別の好ましい実施形態において、式:(バインダー−リンカー)2−エフェクターを有する化合物が提供され、ここで
(a)そのバインダーは、配列:YHWYGYTPQNVI(Tyr−His−Trp−Tyr−Gly−Tyr−Thr−Pro−Gln−Asn−Val−Ile)を有するペプチドであり;
(b)そのエフェクターは、配列:fMLPKK(N−formyl−Met−Leu−Pro−Lys−Lys)を含むペプチドであり;
(c)その2つのリンカー分子は、2個と100個との間のエチレングリコール単位の長さを有するポリエチレングリコールオリゴマーであり;
(d)上記エフェクターは、2つのリジン残基のεアミノ基を介して、上記2つのリンカー分子の末端のカルボキシ基へのアミド結合によって共有結合的に連結され;
(e)上記バインダー分子は、カルボキシ末端を介して、ポリエチレングリコールリンカー分子の末端のカルボキシ基へのアミド結合によって共有結合的に連結される。
【0066】
本発明の別の実施形態において、図2(図2:本発明の好ましい実施形態に従う構造1)に示されるような構造1を有する化合物が提供される。
【0067】
本発明の別の実施形態において、図3(図3:本発明の好ましい実施形態に従う構造2)に示されるような構造2を有する化合物が提供される。
【0068】
本発明の別の実施形態において、図4(図4A〜E)に示される構造のうちの1つを有する化合物が提供される。
【0069】
本発明のさらなる好ましい実施形態において、ヒト血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)および/または腫瘍細胞上の関連するマーカーに対するバインダーを含む化合物が提供される。そのような化合物は、VEGFRまたは関連するマーカーを有する、多様な、ヒトのがんの処置に使用され得る。
【0070】
本発明のさらなる好ましい実施形態において、そのバインダーは、ヒト血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)および/または腫瘍細胞上の関連するマーカーに結合し、以下の配列CSDSWHYWC;CSDHWHYWC;CSDYNHHWC;CSDWQHPWC;または少なくとも4アミノ酸残基の長さを有するこれらのフラグメントのうちの1つを含む。
【0071】
好ましい実施形態において、本発明は、以下
(d)配列:CSDSWHYWC;CSDHWHYWC;CSDYNHHWC;CSDWQHPWC;または少なくとも4アミノ酸残基の長さを有するこれらのフラグメントを含む、バインダーとしての2つまたはそれより多くのペプチド;
(e)以下の配列:fML(N−ホルミル−Met−Leu);fMLP(N−ホルミル−Met−Leu−Pro);fMLF(N−ホルミル−Met−Leu−Phe)のうちの1つを含む、エフェクターとしての少なくとも1つのペプチド;
(f)ポリペプチドから構成されるか、ポリエチレングリコールから構成されるか、もしくはそれらの組み合わせから構成されるか、または1つの共有結合から構成される、オリゴマーリンカー
を含む化合物を提供する。
【0072】
さらなる好ましい実施形態において、そのバインダーは、配列:SDSWHYW SDHWHYW;SDYNHHW;またはSDWQHPWを含み、側鎖−側鎖環化は、適切な官能基間で反応の際に、チオエーテル、ラクタム、ラクトンまたは炭素−炭素連結を介して実施される。特に好ましい連結は、チオエーテル結合の形成および炭素−炭素二重結合の形成を含む。そのようなペプチド大環状分子は、リンカー分子への共有結合的な連結のためのハンドルとして、アルデヒド、ケトンおよびアミノオキシ基のようなさらなる官能基を備え得る。
【0073】
本発明のさらなる好ましい実施形態において、ヒトErbB−2受容体(Her−2)および/または腫瘍細胞上の関連するマーカーに対するバインダーを含む化合物が提供される。そのような化合物は、好ましくは、乳がん、膵がん、卵巣がん、NSCLC、および/またはリンパ腫の処置において使用され得る。
【0074】
本発明のさらなる好ましい実施形態において、そのバインダーは、ヒトErbB−2受容体(Her−2)および/または腫瘍細胞上の関連するマーカーに結合し、以下の配列:KCCYSLまたは少なくとも4アミノ酸残基の長さを有するそのフラグメントのうちの1つを含む。
【0075】
好ましい実施形態において、本発明は、以下
(g)配列:KCCYSLまたは少なくとも4アミノ酸残基の長さを有するそのフラグメントを含む、バインダーとしての2つまたはそれより多くのペプチド;
(h)以下の配列:fML(N−ホルミル−Met−Leu);fMLP(N−ホルミル−Met−Leu−Pro);fMLF(N−ホルミル−Met−Leu−Phe)のうちの1つを含む、エフェクターとしての少なくとも1つのペプチド;
(i)ポリペプチドから構成されるか、ポリエチレングリコールから構成されるか、もしくはそれらの組み合わせから構成されるか、または1つの共有結合から構成される、オリゴマーリンカー
を含む化合物を提供する。
【0076】
本発明のさらなる好ましい実施形態において、ヒト繊維芽細胞増殖因子受容体(FGF受容体)および/または腫瘍細胞上の関連するマーカーに対するバインダーを含む化合物が提供される。そのような化合物は、好ましくは、卵巣がんの処置において使用され得る。
【0077】
本発明のさらなる好ましい実施形態において、そのバインダーは、ヒト繊維芽細胞増殖因子受容体(FGF受容体)および/または腫瘍細胞上の関連するマーカーに結合し、以下の配列:MQLPLATまたは少なくとも4アミノ酸残基の長さを有するそのフラグメントのうちの1つを含む。
【0078】
好ましい実施形態において、本発明は、
(j)配列:MQLPLATまたは少なくとも4アミノ酸残基の長さを有するそのフラグメントを含む、バインダーとしての2つまたはそれより多くのペプチド;
(k)以下の配列:fML(N−ホルミル−Met−Leu);fMLP(N−ホルミル−Met−Leu−Pro);fMLF(N−ホルミル−Met−Leu−Phe)のうちの1つを含む、エフェクターとしての少なくとも1つのペプチド;
(l)ポリペプチドから構成されるか、ポリエチレングリコールから構成されるか、もしくはそれらの組み合わせから構成されるか、または1つの共有結合から構成される、オリゴマーリンカー
を含む化合物を提供する。
【0079】
本発明のさらなる好ましい実施形態において、ヒトインテグリン(α3β1インテグリンおよびα4β1インテグリンが挙げられる)および/または腫瘍細胞上の関連するマーカーに対するバインダーを含む化合物が提供される。そのような化合物は、好ましくは、胃がんの複数の腹膜腫瘍の処置において使用され得る。
【0080】
本発明のさらなる好ましい実施形態において、そのバインダーは、ヒトインテグリン(α3β1インテグリンおよびα4β1インテグリンが挙げられる)および/または腫瘍細胞上の関連するマーカーに結合し、以下の配列:CDGLGDDC;CDGWGPNC;CLDWDLIC;SWKLPPS;CPLDIDFYCまたは少なくとも4アミノ酸残基の長さを有するそれらのフラグメントのうちの1つを含む。
【0081】
好ましい実施形態において、本発明は、以下
(m)配列:CDGLGDDC;CDGWGPNC;CLDWDLIC;SWKLPPS;CPLDIDFYC;または少なくとも4アミノ酸残基の長さを有するそれらのフラグメントを含む、バインダーとしての2つまたはそれより多くのペプチド;
(n)以下の配列:fML(N−ホルミル−Met−Leu);fMLP(N−ホルミル−Met−Leu−Pro);fMLF(N−ホルミル−Met−Leu−Phe)のうちの1つを含む、エフェクターとしての少なくとも1つのペプチド;
(o)ポリペプチドから構成されるか、ポリエチレングリコールから構成されるか、もしくはそれらの組み合わせから構成されるか、または1つの共有結合から構成される、オリゴマーリンカー
を含む化合物を提供する。
【0082】
さらなる好ましい実施形態において、そのバインダーは、配列:DGLGDD、DGWGPN;LDWDLI;SWKLPPS;またはPLDIDFYを含み、側鎖−側鎖環化は、適切な官能基間で反応の際に、チオエーテル、ラクタム、ラクトンまたは炭素−炭素連結を介して実施される。特に好ましい連結は、チオエーテル結合の形成および炭素−炭素二重結合の形成を含む。そのようなペプチド大環状分子は、リンカー分子への共有結合的な連結のためのハンドルとして、アルデヒド、ケトンおよびアミノオキシ基のようなさらなる官能基を備え得る。
【0083】
本発明のさらなる好ましい実施形態において、ヒトβ−ガラクトシド結合レクチン ガレクチン−3(Gal−3)および/または腫瘍細胞上の関連するマーカーに対するバインダーを含む化合物が提供される。そのような化合物は、好ましくは、乳がんの処置において使用され得る。
【0084】
本発明のさらなる好ましい実施形態において、そのバインダーは、ヒトインテグリン(α3β1インテグリンおよびα4β1インテグリンが挙げられる)および/または腫瘍細胞上の関連するマーカーに結合し、以下の配列:ANTPCGPYTHDCPVKRまたは少なくとも4アミノ酸残基の長さを有するそのフラグメントのうちの1つを含む。
【0085】
好ましい実施形態において、本発明は、以下
(p)配列:ANTPCGPYTHDCPVKR;または少なくとも4アミノ酸残基の長さを有するそのフラグメントを含む、バインダーとしての2つまたはそれより多くのペプチド;
(q)以下の配列:fML(N−ホルミル−Met−Leu);fMLP(N−ホルミル−Met−Leu−Pro);fMLF(N−ホルミル−Met−Leu−Phe)のうちの1つを含む、エフェクターとしての少なくとも1つのペプチド;
(r)ポリペプチドから構成されるか、ポリエチレングリコールから構成されるか、もしくはそれらの組み合わせから構成されるか、または1つの共有結合から構成される、オリゴマーリンカー
を含む化合物を提供する。
【0086】
さらなる好ましい実施形態において、そのバインダーは、配列:GPYTHDを含み、側鎖−側鎖環化は、適切な官能基間で反応の際に、チオエーテル、ラクタム、ラクトンまたは炭素−炭素連結を介して実施される。特に好ましい連結は、チオエーテル結合の形成および炭素−炭素二重結合の形成を含む。そのようなペプチド大環状分子は、リンカー分子への共有結合的な連結のためのハンドルとして、アルデヒド、ケトンおよびアミノオキシ基のようなさらなる官能基を備え得る。
【0087】
本発明のさらなる好ましい実施形態において、c−Met(ヒト肝細胞増殖因子HGFまたは細胞分散因子SFに対する受容体)および/または腫瘍細胞上の関連するマーカーに対するバインダーを含む化合物が提供される。そのような化合物は、好ましくは、多様なヒトの腫瘍の処置において使用され得る。
【0088】
本発明のさらなる好ましい実施形態において、そのバインダーは、c−Met(ヒト肝細胞増殖因子HGFまたは細胞分散因子SFに対する受容体)および/または腫瘍細胞上の関連するマーカーに結合し、以下の配列:YLFSVHWPPLKAまたは少なくとも4アミノ酸残基の長さを有するそのフラグメントのうちの1つを含む。
【0089】
好ましい実施形態において、本発明は、以下
(s)配列:YLFSVHWPPLKA;または少なくとも4アミノ酸残基の長さを有するそのフラグメントを含む、バインダーとしての2つまたはそれより多くのペプチド;
(t)以下の配列:fML(N−ホルミル−Met−Leu);fMLP(N−ホルミル−Met−Leu−Pro);fMLF(N−ホルミル−Met−Leu−Phe)のうちの1つを含む、エフェクターとしての少なくとも1つのペプチド;
(u)ポリペプチドから構成されるか、ポリエチレングリコールから構成されるか、もしくはそれらの組み合わせから構成されるか、または1つの共有結合から構成される、オリゴマーリンカー
を含む化合物を提供する。
【実施例】
【0090】
(実施例1:EGFRおよびEGFR発現細胞への構造1の結合試験)
腫瘍マーカーErb−B1/EGFRへの特異的な結合活性を示すペプチドYHWYGYTPQNVIをバインダーとして、およびマクロファージ活性化ペプチドであるホルミル−MLPをエフェクターとして選び、構造1を合成した。その構造を、当該分野において公知の標準方法により化学的に合成し、イオン交換クロマトグラフィーにより精製した。質量分析法によって化学的アイデンティティ(chemical identity)を確認した。免疫グロブリンおよび他の公知の抗腫瘍化合物と違って、構造1はpH7で高い可溶性(10mg/mlまで)を示した。サイズ排除クロマトグラフィーおよび動的光散乱分析によって、オリゴマーも大きな凝集体も示されず、約6kDaの分子について予想されるよりわずかに大きい流体力学的半径が示された。
【0091】
ヒトEGFR/Erb−B1への構造1の結合親和性を、蛍光標識された改変体EGFR調製物および蛍光標識された市販されているEGFR調製物を用い、蛍光分光法を用いて試験した。これらの実験において、複合体を形成するために、蛍光標識されたYHWYGYTPQNVI 12マー(図5a)をEGFRとともにインキュベートした。前もって形成された複合体へ構造1を添加すると、EGFRとの複合体から蛍光ペプチドを取り外すこと(displacement)に起因した蛍光強度の減少が観察された(図5b)。構造1とEGFRとの相互作用について低いnM範囲でのKD値が見積られた。この知見によって、多価であることによりそれぞれの受容体へのバインダーの親和性が増すという考えが確かめられた。この効果は、細胞表面上の受容体を標的にする場合に適切であると予想される。
【0092】
結果を図5に示す。図5aは、取り外し(displacement)実験において蛍光トレーサーとして使用された12マーEGFR結合ペプチドのNBD標識された改変体についてのHPLCおよびMSデータを示す。1703.4Daの観察されたモル質量は、計算された質量によく合致している。図5bは、NBD標識されたトレーサーペプチドのEGFRへの結合を示す。50nMのトレーサー(灰色の線)を50nMのEGFRと混合した。混合により、蛍光強度の増加という結果となった(黒色の線)。図5cは、標識されていないペプチドの添加後に、EGFR複合体から蛍光トレーサーペプチドが取り外されることを示す。EGFRトレーサー複合体を、pH7.5のPBS緩衝液中で、50nMで前もって形成した(黒色の線、460nmで励起)。10倍過剰の標識されていないペプチドを添加し、観察される蛍光強度の減少(灰色の線)は、トレーサー分子の放出を反映する。図5dは、漸増する濃度の構造1による取り外しを示す。EGFRおよびNBD−12マーペプチド複合体の1μM溶液のタイターを、蛍光トレーサーの取り外しにつながる漸増する濃度の構造1で決定した。
【0093】
(実施例2:走化性アッセイにおけるマクロファージの活性化)
走化性アッセイ(マクロファージを移動させること(mobilization)についてのトランスウェルアッセイ)において、構造1および構造2ならびにN−ホルミルペプチド配列を含むこれらの前駆体についてのマクロファージ活性化プロフィールが示された。
【0094】
構造2での走化性アッセイの結果を図6に示す。N−ホルミルペプチド結合体の濃度依存的顆粒球活性化をそのペプチドのみの活性化と比較した。各200,000個の顆粒球を用いて各シリーズの実験を3回繰り返した。構造2の化合物は、(刺激に応答して遊走した細胞を数えることにより測定し)同じ濃度の参照N−ホルミルペプチドと同様の(わずかに高い)走化性挙動を誘導した。
【0095】
別個の実験において、どちらの選択肢でも顆粒球の走化性が刺激され得、fMLFの走化性応答がfMLPと比較してわずかに高いこともまた、示されている。従って、ホルミルペプチドアミノ酸組成のバリエーション(例えば、構造1および構造2におけるような3位での異なるアミノ酸残基(フェニルアラニン、プロリン))は、免疫応答を調整するさらなる手段を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫グロブリンの構造に関連した、合成非免疫グロブリン抗腫瘍化合物であって、該化合物は、
(a)それぞれ腫瘍細胞マーカーに結合することが可能な配列を含む、バインダーとしての2つまたはそれより多くのペプチドであって、該腫瘍細胞マーカーは、ヒト上皮増殖因子受容体(EGFR);ヒト血管内皮増殖因子受容体(VEGFR);ErbB−2受容体(Her−2);繊維芽細胞増殖因子受容体(FGFR);インテグリン(α3β1インテグリンおよびα4β1インテグリンが挙げられる);レクチン(ヒトβ−ガラクトシド結合レクチン3(ガレクチン−3、すなわちGal−3)が挙げられる)またはc−Met(肝細胞増殖因子受容体HGFRまたは細胞分散因子SF)を含む、ペプチド;
(b)エフェクターとしての少なくとも1つのペプチドであって、以下の配列:fML(N−ホルミル−Met−Leu);fMLP(N−ホルミル−Met−Leu−Pro);fMLF(N−ホルミル−Met−Leu−Phe)のうちの1つを含むペプチド;および
(c)ポリペプチドから構成されるか、ポリエチレングリコールから構成されるか、またはそれらの組み合わせから構成される、2つまたはそれより多くのリンカー分子を含み、
該リンカー分子が該2つまたはそれより多くのバインダーを該少なくとも1つのエフェクターへと共有結合的に連結することにより、免疫グロブリン分子の構造に関連させる合成非免疫グロブリン抗腫瘍化合物。
【請求項2】
請求項1に記載の合成非免疫グロブリン抗腫瘍化合物であって、該化合物は、
(a)それぞれ以下の配列:YHWYGYTPQNVI;CSDSWHYWC;CSDHWHYWC、CSDYNHHWC、CSDWQHPWC;KCCYSL;MQLPLAT;CDGLGDDC;CDGWGPNC;CLDWDLIC;SWKLPPS;CPLDIDFYC;ANTPCGPYTHDCPVKR;YLFSVHWPPLKA;またはそれらの誘導体もしくはバリエーション(部分配列、付加、欠失および置換が挙げられる)のうちの1つを含み、該誘導体もしくはバリエーションは、ヒト上皮増殖因子受容体(EGFR);ヒト血管内皮増殖因子受容体(VEGFR);ErbB−2受容体(Her−2);繊維芽細胞増殖因子受容体(FGFR);インテグリン(α3β1インテグリンおよびα4β1インテグリンが挙げられる);レクチン(ヒトβ−ガラクトシド結合レクチン3(ガレクチン−3、すなわちGal−3)が挙げられる);c−Met(肝細胞増殖因子受容体HGFRまたは細胞分散因子SF)に結合することが可能である、バインダーとしての2つまたはそれより多くのペプチド;
(b)以下の配列:fML(N−ホルミル−Met−Leu);fMLP(N−ホルミル−Met−Leu−Pro);fMLF(N−ホルミル−Met−Leu−Phe)のうちの1つを含む、エフェクターとしての少なくとも1つのペプチド;および
(c)ポリペプチドから構成されるか、ポリエチレングリコールから構成されるか、またはそれらの組み合わせから構成される、2つまたはそれより多くのリンカー分子を含み、
該リンカー分子が該2つまたはそれより多くのバインダーを該少なくとも1つのエフェクターへと共有結合的に連結する合成非免疫グロブリン抗腫瘍化合物。
【請求項3】
式:(バインダー−リンカー)2−エフェクターを有する、請求項1または2に記載の抗腫瘍化合物であって、ここで、
(a)該バインダーペプチドは、配列:YHWYGYTPQNVI(Tyr−His−Trp−Tyr−Gly−Tyr−Thr−Pro−Gln−Asn−Val−Ile)またはEGFRに結合することが可能な、そのバリエーションもしくは誘導体を含み;
(b)該エフェクターペプチドは、N末端における以下の配列:fML(N−ホルミル−Met−Leu);fMLP(N−ホルミル−Met−Leu−Pro);fMLF(N−ホルミル−Met−Leu−Phe)のうちの1つおよび2つのリジン残基を含み;
(c)前記リンカー分子は、ポリエチレングリコールオリゴマーであり;
(d)前記エフェクターは、該2つのリジン残基のεアミノ基を介して、前記2つのリンカー分子の末端のカルボキシ基へのアミド結合によって共有結合的に連結され;
(e)該バインダー分子は、カルボキシ末端を介して、該ポリエチレングリコールリンカー分子の末端のカルボキシ基へのアミド結合によって共有結合的に連結される、
抗腫瘍化合物。
【請求項4】
請求項1に記載の抗腫瘍化合物であって、ここで、
(a)前記バインダーペプチドは、配列:YHWYGYTPQNVI(Tyr−His−Trp−Tyr−Gly−Tyr−Thr−Pro−Gln−Asn−Val−Ile)を有し;
(b)前記エフェクターペプチドは、以下の配列:fMLKK(N−ホルミル−Met−Leu−Lys−Lys);fMLPKK(N−ホルミル−Met−Leu−Pro−Lys−Lys);fMLFKK(N−ホルミル−Met−Leu−Phe−Lys−Lys)のうちの1つを有し;
(c)前記2つのリンカー分子は、2個と100個との間のエチレングリコール単位の長さを有するポリエチレングリコールオリゴマーである、
抗腫瘍化合物。
【請求項5】
図2に記載の構造を有する抗腫瘍化合物。
【請求項6】
図3に記載の構造を有する抗腫瘍化合物。
【請求項7】
図4の化合物から選択される構造を有する抗腫瘍化合物。
【請求項8】
前述の請求項のいずれか1項に記載の抗腫瘍化合物であって、該化合物は、前記バインダーの前記ペプチド配列のアミノ末端側の末端が、安定性を増大するためにアセチル化される抗腫瘍化合物。
【請求項9】
前述の請求項のいずれか1項に記載の化合物を含む、薬学的組成物。
【請求項10】
結腸がん、頭部および頸部のがん、卵巣がん、膵がん、非小細胞肺がん、乳がん、もしくはグリア芽細胞腫、またはEGFRマーカーを持つ他の病原性細胞の処置における、請求項9に記載の薬学的組成物の使用。
【請求項11】
乳がん、膵がん、卵巣がん、NSCLC、もしくはリンパ腫、またはErbB−2受容体(Her−2)を持つ他の病原性細胞の処置における、請求項9に記載の薬学的組成物の使用。
【請求項12】
卵巣がんまたは繊維芽細胞増殖因子受容体(FGF受容体)を持つ他の病原性細胞の処置における、請求項9に記載の薬学的組成物の使用。
【請求項13】
胃がんの複数の腹膜腫瘍またはインテグリン(α3β1インテグリンおよびα4β1インテグリンが挙げられる)を持つ他の病原性細胞の処置における、請求項9に記載の薬学的組成物の使用。
【請求項14】
乳がんまたはヒトβ−ガラクトシド結合レクチン ガレクチン−3(Gal−3)を持つ他の病原性細胞の処置における、請求項9に記載の薬学的組成物の使用。
【請求項15】
VEGFRを有するヒトのがんの処置における、請求項9に記載の薬学的組成物の使用。

【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図6】
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【図1】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−515144(P2012−515144A)
【公表日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−544849(P2011−544849)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際出願番号】PCT/EP2010/000162
【国際公開番号】WO2010/089019
【国際公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(511170191)エスカーウー アセット マネジメント ゲーエムベーハー (1)
【Fターム(参考)】