説明

N−複素環式カルベン配位子を含むルテニウムのホモバイメタル及びヘテロバイメタルアルキリデン錯体及びオレフィンメタセシスのための高活性の選択的触媒としてのそれらの使用

【課題】オレフィンメタセシスの選択的触媒の提供。
【解決手段】


を有するルテニウム錯体、そしてまた2個又はそれ以上の炭素原子を有する非環式オレフィン又は/及び3個又はそれ以上の炭素原子を有する環式オレフィンの製造方法並びにオレフィンメタセシスにおける式Iの少なくとも1種の錯体の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N−複素環式カルベン配位子を含むルテニウムのホモバイメタル(homobimetallic)及びヘテロバイメタル(heterobimetallic)アルキリデン錯体並びに2個又はそれ以上の炭素原子を有する非環式オレフィンから又は/及び3個又はそれ以上の炭素原子を有する環式オレフィンからオレフィンメタセシスによりオレフィンの製造方法に関し、その方法においてこれらのバイメタルアルキリデン錯体の少なくとも1種を触媒として用いる。
【従来の技術】
【0002】
遷移金属を触媒にしたC−C結合の形成は、有機合成化学の最も重要な反応の内のものである。オレフィンメタセシスは、そのような反応の重要の例である;何故ならば、それは副生物のないオレフィンの製造を可能にするからである。オレフィンメタセシスは、例えば閉環メタセシス(RCM)、エテノリシス又は非環式オレフィンのメタセシスに対する、調製、有機合成の分野において非常に可能性を有するのみならず、例えば開環メタセシス重合(ROMP)、非環式ジエンメタセシス(ADMET)又はアルキン重合に対して、高分子化学においても高い可能性を有する。
【0003】
1950年代にそれが発見されて以来、多数の工業的プロセスが実現可能となってきている。それにもかかわらず、オレフィンメタセシスは、新規な触媒の開発の結果進歩してごく最近において幅広い適用可能な合成法を提供するようになった(参考文献として:J.C. Mol in:B.Cornils,W.A. Herrmann, Applied Homogeneous Catalysis with Organometallic Compounds, VCH, Weinheim, 1996, p.318-332; M. Schuser, S. Blechert, Angew. Chem. 1997, 109, 2124-2144; Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 1997, 36, 2036-2056; R. H. Grubbs, S. Chang, Tetrahedron 1998, 54, 4413-4450を参照のこと)。
【0004】
多数の基本的研究が、オレフィン間でアルキリデン単位の交換が起こるこの遷移金属触媒反応の理解に著しく寄与してきている。一般に受け入れられている機構は、活性種として金属−アルキリデン錯体を含む。これらは、オレフィンと反応して金属非シクロブタン中間体を形成し、そしてその中間体は環への逆戻り(cycloreversion)を受けて再びオレフィンとアルキリデン錯体を生ずる。メタセシス−活性アルキリデン及び金属非シクロブタン錯体の単離は、これらの機構の仮定を支持する。
【0005】
多数の例が、特にモリブデン及びタングステンの錯体化学において見出される。特に、Schrockの研究は、反応性が制御できる明確なアルキリデン錯体を明らかにした(J. S. Murdzek, R. R. Schrock, Organometallics 1987, 6, 1373-1374)。これらの錯体へのキラル配位子圏(ligand sphere)の導入は、高い立体規則性を有するポリマーの合成を可能にする(K. M. Totland, T. J. Boyd, G. C. Lavoie, W.M. Davis, R. R. Schrock, Macromolecules 1996, 29, 6114-6125)。同じ構造タイプのキラル錯体は、また閉環メタセシスにおいてうまく用いられた(O. Fujimura, F. J. d. l. Mata, R H. Grubbs, Organometallics 1996, 15, 1865-1871; J. B. Alexander, D. S. La, D. R. Cefalo, A.H. Hoveyda, R.
R. Schrock, J. Am. Chem. Soc. 1998, 120, 4041-4042)。しかしながら、官能基、空気及び水に対する高い感受性が、欠点である。
【0006】
最近、ルテニウムのホスフィン含有錯体が、確立された(R. H. Grubbs, S. T. Nguyen, L. K. Johnson, M. A. Hillmyer, G. C. Fu, WO 96/04289, 1994; P.
Schwab, M. B. France, J. W. Ziller, R. H. Grubbs, Angew. Chem., 1995, 107, 2179-2181; Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 1995, 34, 2039-2041; R. H. Grubbs, E. L. Dias, Organometallics, 1998, 17 2758)。後者の遷移金属の電子過剰の、“ソフト(soft)”性のために、これらの錯体は、ハード(hard)な官能基に対して高い許容性(high tolerance)を持つ。このことは、例えば、天然物化学におけるそれらの使用により実証される(ジエンのRCM)(Z. Yang,
Y. He, D. Vourloumis, H. Vallberg, K. C. Nicolaou, Angew. Chem. 1997, 109, 170-172; Angew. Chem., Int. Ed. Engl. 1997, 36, 166-168; D. Meng, P.
Bertinato, A. Balog, D. S. Su, T. Kamenecka, E. J. Sorensen, S. J. Danishefsky, J. Am. Chem. Soc. 1997, 119, 2733-2734; D. Schizer, A. Limberg,
A. Bauer, O. M. Boehm, M. Cordes, Angew. Chem. 1997, 109, 543-544; Angew. Chem., Int. Ed. Engl. 1997, 36, 523-524; A. Fuerstner, K. Langemann, J. Am. Chem. Soc. 1997, 119, 9130-9136)。
【0007】
しかしながら、用いられるホスフィン配位子を変える機会は、立体的因子及び電子的因子のために非常に制限されている。トリシクロヘキシルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン及びトリシクロペンチルホスフィンのようなただ単に強塩基の、嵩高いアルキルホスフィンは、非環式オレフィン及び比較的ひずみのない環系のメタセシスに対して好適である。従って、これらの触媒の反応性は、調節できない。更に、この構造タイプのキラル錯体は、得ることができない。
【0008】
本発明の発明者により以下の内容が既に明らかにされている;即ち、配位子としてN−複素環式カルベンの導入は、これらの系の活性を増加させるだけでなく、著しくより可変性の配位子圏のために、例えばキラリティ−、立体規則性又は活性の調節に関して、新規な制御の可能性を達成することを可能ならしめる(T.
Weskarmp, W. C. Schattenmann, M. Spiegler, W. A. Herrmann, Angew. chem.
1988, 110, 2631-2633; Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 1998, 37, 2490-2493)。
【0009】
しかしながら、それらが官能基に対して許容性を持つとき、全てのルテニウム系はモリブデン及びタングステンの活性よりも著しくより低い活性を今でもなお有している。
【発明の概要】
【0010】
これらの理由のために、本発明の目的は、官能基に対して高い許容性及びより可変性の配位子圏を有するだけでなく、著しく増加した活性をも有する目的に合わせて製造されたメタセシス触媒を開発することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、次の構造式I:
【0012】
【化4】

【0013】
[式中、Xは、アニオン配位子であり、
Zは、金属を含有しそしてルテニウム中心に非イオン的に結合する単座ないし三座配位子であり、
1及びR2は、同一であるか又は異なっておりそして環を形成することもでき、R1及びR2は各々水素又は/及び炭化水素基であり、ここでその炭化水素基は同一であるか又は異なっていてもよくそして各々1〜50個の炭素原子を有するアルキル基、2〜50個の炭素原子を有するアルケニル基、2〜50個の炭素原子を有するアルキニル基、6〜30個の炭素原子を有するアリール基及びシリル基から選択される直鎖のもしくは分岐又は/及び環式の基であってよく、ここで炭化水素基又は/及びシリル基中の1個又はそれ以上の水素原子は、同一の又は独立に異なるアルキル、アリール、アルケニル、アルキニル、メタロセニル、ハロゲン、ニトロ、ニトロソ、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、アミノ、アミド、カルボキシル、カルボニル、チオ又は/及びスルホニル基により置換されていてもよく、
配位子Lは、下記式II−V:
【0014】
【化5】

【0015】
(ここで、式II、III、IV及びV中のR1、R2、R3及びR4は、同一であるか又は異なっておりそして各々水素又は/及び炭化水素基であり、ここでその炭化水素基は同一であるか又は異なっておりそして1〜50個の炭素原子を有するアルキル基、2〜50個の炭素原子を有するアルケニル基、2〜50個の炭素原子を有するアルキニル基、6〜30個の炭素原子を有するアリール基から成る群から選択される独立に環式の、直鎖又は/及び分岐の基であり、ここにおいて少なくとも1個の水素は官能基により置換されていてもよく、そしてここでR3及びR4は、同一であるか又は異なっていてもよくそして各々独立にハロゲン、ニトロ、ニトロソ、アルコキシ、アリールオキシ、アミド、カルボキシル、カルボニル、チオ,シリル又は/及びスルホニル基であってよい)で表されるものを有するN−複素環式カルベンである]
を有するルテニウム錯体により本発明に従って達成される。
【0016】
本発明に係る構造を有しそして二座ないし三座配位子Zと組み合わせたN−複素環式カルベン配位子を含有するアルキリデン錯体は、オレフィンメタセシスに対して高度に活性な触媒である。それらは、特に安価である。本発明に係る触媒を用いるオレフィンメタセシスは、多様の官能基に対して高い許容性及び配位子圏の変化に対して多くの可能性を示すばかりでなく、特に高い活性も示す。
【0017】
N−複素環式カルベン配位子Lを簡易に製造しうるバリエイションのために、目的とする方法で活性及び選択性を制御可能となり、更に加えてキラリティーを簡単な方法で導入できる。従って、式II、III、IV及びV中において、炭化水素基R1、R2、R3及びR4中の幾つかの又は全ての水素は、同一の又は独立に異なるハロゲン原子、特に塩素、臭素もしくは沃素、又は/及びニトロ、ニトロソ、ヒドロキシ、アリールオキシ、アミノ、アミド、カルボキシル、カルボニル、チオ、スルホニル、又は/及びメタロセニル基により置換できる。
【0018】
置換基R1、R2、R3及びR4としての官能基の例は、ヒドロキシメチル、2−ヒドロキシエチル、3−ヒドロキシプロピル、アミノメチル、2−アミノエチル、3−アミノプロピル、2−アセチルエチルアミノエチル、エトキシエチル、ポリエーテル、エトキシアセチル、メトキシカルボニルエチル、エトキシカルボニルエチル、カリウムカルボキシラートメチル及びイソプロピルアミノカルボニルメチルである。
【0019】
1及びR2は、例えばメチル、エチル、イソプロピル、シクロプロピル、シクロヘキシル、1−フェニルエチル、1−ナフチルエチル、1−tert−ブチルエチル、tert−ブチル、フェニル(これらの基は、ニトロ、アミノ、ヒドロキシ又は/及びカルボキシル基により置換されていてもよい)、メシチル、トリル及びナフチル基の中から選択できる。もしもそれらが、キラルである場合、基はまた(R)及び(S)形で存在できる。
【0020】
3及びR4の例は、水素、メチル、エチル及びフェニル(これらの基は、所望によりニトロ、アミノ、ヒドロキシ又は/及びカルボキシル基により置換される)である。これらの式中のR3及びR4は、縮合環系も形成できる。
【0021】
式II、III、IV又は/及びVの配位子Lは、中心性、軸性又は/及び面性キラリティーを有することができる。
【0022】
式Iにおいて、Zは、単座ないし三座配位子L’nMX’m(式中、nは0〜4であり、mは0〜6でありそしてm+nは零でなく、そしてL’は、同一であるか又は異なることができそしてπ結合した、不飽和の炭素環式炭化水素及び非荷電電子供与体から選択され、X’は同一又は異なることができそして各々ハライド、擬ハライド、テトラフェニルボレート、過ハロゲン化テトラフェニルボレート、テトラハロボレート、ヘキサハロホスフェート、ヘキサハロアンチモネート、トリハロメタンスルホネ−ト、アルコキシド、チオレート、カルボキシレート、テトラハロアルミネート、テトラカルボニルコバルテート、ヘキサハロフェレート(III)、テトラハロフェレート(III)又は/及びテトラハロパラデート(II)から成る群から選択されるアニオン配位子でありそしてMは、金属である。
【0023】
L’の好ましい例は、シクロペンタジエニル、ペンタメチルシクロペンタジエニル又はさもなければ置換シクロペンタジエニル基、ベンゼン及び置換ベンゼン、例えばシメン、そして又ホスフィン、ホスファイト、アミン、イミン、ニトリル、N−複素環式カルベン及びカルボニルである。
【0024】
X’の好ましい例は、ハライド、特にクロリド、ブロミド又はヨード、擬ハライド、アルコキシド、チオレート、アミド及びカルボキシレートである。もしも、ハライドが前記化合物の1つにおける置換基である場合、クロリドが好ましい。
【0025】
金属Mは、遷移族IないしVIII及び主族IないしIVの金属、特に遷移族I、II、VI、VII及びVIII並びに主族IないしIVの金属の中から選択でき、特に遷移族VIIIの金属が好ましい。好ましい例は、遷移族VIIIに対してOs、Ru、Ir、Rh、Fe及びPdであり、遷移族VIIに対してReであり、遷移族VIに対してMo及びWであり、そして主族III及びIVに対してB、Al及びSiである。
【0026】
本発明の錯体中のアニオン配位子Xは、好ましくはハライド、擬ハライド、テトラフェニルボレート、過ハロゲン化テトラフェニルボレート、テトラハロボレート、ヘキサハロホスフェート、ヘキサハロアンチモネート、トリハロメタンスルホネート、アルコキシド、フェノキシド、チオレート、カルボキシレート、テトラハロアルミネート、テトラカルボニルコバルテート、ヘキサハロフェレート(III)、テトラハロフェレート(III)、又は/及びテトラハロパラデート(II)であり、ハライド、擬ハライド、テトラフェニルボレート、過フッ化テトラフェニルボレート、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、ヘキサフルオロアンチモネート、トリフルオロメタンスルホネート、アルコキシド、フェノキシド、カルボキシレート、テトラクロロアルミネート、テトラカルボニルコバルテート、ヘキサフルオロフェレート(III)、テトラクロロフェレート(III)又は/及びテトラクロロパラデート(II)が好ましい。擬ハライドの中で、シアニド、チオシアネート、シアネート、イソシアネート及びイソチオシアネートが好ましく、ハライドの中でクロリド、ブロミド又はヨードを用いるのが好ましい。
【0027】
式IないしVI中のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基又はアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基は、1又は2〜20個の炭素原子、特に好ましくは1又は2〜12個の炭素原子を有する。
【0028】
錯体の構造式Iにおいて、R1ないしR2は、好ましくは水素、置換又は/及び未置換アルキル、アルケニル又は/及びアリール基であり、Xは好ましくはハライド、アルコキシド又は/及びカルボキシレートイオンでありそしてLは、好ましくは式IIのN−複素環式カルベンである。
【0029】
錯体は、通常対応するホスフィン錯体中の配位子置換により合成される。これらは、反応式に対応して、第1の工程において選択的にモノ置換されるか又はさもなければジ置換されることができそして引き続き第2の工程でZの適当なダイマーと反応して本発明の錯体を与える:
【0030】
【化6】

【0031】
本発明の錯体は、オレフィンメタセシスにおいて極めて有効な触媒であることが見出されている。非常によいメタセシス活性は、実施例における種々のメタセシス反応の多数の例により実証される。
【0032】
従って、本発明は、開環メタセシス重合(ROMP)、非環式オレフィンのメタセシス、エタノリシス、閉環メタセシス(RCM)、非環式ジエンメタセシス重合(ADMET)及びオレフィンポリマーの解重合のような全てのオレフィンメタセシス反応のプロセスも包含する。官能基、特にアルコール、アミン、チオール、ケトン、アルデヒド、カルボン酸、エステル、アミド、エーテル、シラン、スルフィド及びハロゲンの基に対する本発明の錯体の高い安定性及び許容性は、メタセシス反応中にそのような官能基の存在を可能にする。
【0033】
本発明の目的は、また 少なくとも1種の前記錯体の存在下、オレフィンメタセシス反応により、各々の場合において式VIに対応する2個又はそれ以上の炭素原子を有する非環式オレフィンから又は/及び3個又はそれ以上の炭素原子を有する環式オレフィンから、各々の場合において式VI:
【0034】
【化7】

【0035】
に対応する2個又はそれ以上の炭素原子を有する非環式オレフィン又は/及び3個又はそれ以上の炭素原子を有する環式オレフィンを製造する方法によって達成され、そして式VI中のR'1、R'2、R'3及びR'4は、水素又は/及び炭化水素基であり、ここでその炭化水素基は同一であるか又は異なっており、そして所望により少なくとも1個の水素が官能基により置換されていてもよい、1〜50個の炭素原子を有するアルキル基、2〜50個の炭素原子を有するアルケニル基、2〜50個の炭素原子を有するアルキニル基、6〜30個の炭素原子を有するアリール基、メタロセニル又は/及びシリル基から独立に選択される直鎖の、分岐又は/及び環式の基であり、そして所望により、R'1、R'2、R'3及びR'4の1種又はそれ以上が、同一であるか又は異なるハロゲン、ニトロ、ニトロソ、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、アミノ、アミド、カルボキシル、カルボニル、チオ、スルホニル又は/及びメタロセニル基である。
【0036】
使用され又は/及び製造されるべきオレフィンは、1個又はそれ以上の二重結合を有する。特に、式VIのオレフィン中のR'1、R'2、R'3及びR'4は、ペアを組んで環を形成することができる。
【0037】
式VIのオレフィンにおいて、炭化水素基R'1、R'2、R'3及びR'4の幾つか又は全ての水素は、1種又はそれ以上の同一の又は独立に異なるハロ、シリル、ニトロ、ニトロソ、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、アミノ、アミド、カルボキシル、カルボニル、チオ、スルホニル又は/及びメタロセニル基により置換できる。
【0038】
R'1、R'2、R'3及びR'4の例及び水素の代わりの置換基の例は、式IないしVに関して前記したものと同じである。
【0039】
本発明の方法は、溶媒と共に又は溶媒なしで行うことができるが、しかし好ましくは有機溶媒を用いる。本発明の方法は、ブレンステッド酸、好ましくは、HCl、HBr、HI、HBF4、HPF6又は/及びトリフルオロ酢酸を添加して、ルイス酸、好ましくはBF3、AlCl3、又は/及びZnCl2を添加して行うことができる。
【0040】
驚くべきことに、このことにより初めて以下の内容が可能となる;即ち、高い触媒活性で、触媒条件又は/及び触媒の簡易なバリエイションにより、種々の性質を有するように個々に目的に合わせて製造された多様のオレフィンを得ることができる;このことは特にオレフィンを製造するための本発明の方法が、意外なことに官能基に対して高い許容性を有しているからである。
【実施例】
【0041】
次の実施例は、本発明を説明するものであるが、その範囲を制限するものではない。
【0042】
1)本発明の錯体の製造
一般的手順:
1mmolのRuCl2(ジ−R−イミダゾリン−2−イリデン)2(CHPh)又はRuCl2(ジ−R−イミダゾリン−2−イリデン)(PCy3)(CHPh)(式中、Rはあらゆる基である)を、5mlの塩化メチレンに溶解し次いで5mlの塩化メチレンに溶解した1mmolの[L'MX'2]2の溶液と混合する。反応溶液を室温(RT)で約15〜180分間撹拌し次いで溶媒を引き続き除去し、錯体をトルエン/ペンタン混合物で洗浄し次いで高真空下で多くの時間乾燥する。反応は、示した時間で定量的に進行する。
【0043】
記載した一般的手順を用いて次の化合物を製造した:
(触媒1)
【0044】
【化8】

【0045】
出発物質:RuCl2(ジ−シクロヘキシル−イミダゾリンー2−イリデン)(PCy3)(CHPh)及び[(p−シメン)RuCl2]2
反応時間:2時間
3244Cl42Ru2に対する元素分析:
計算値C48.00;H5.54;N3.50
実測値C48.11;H5.61;N3.52。
1H NMR(CD2Cl2/25℃):δ=21.14(1H,s,Ru=CH),7.89(2H,d,3HH=7.8Hz,C65のo−H),7.67(1H,t,3HH=7.8Hz,C65のp−H),7.22(2H、t、3HH=7.8Hz,C65のm−H),7.09(1H,s,NCH),6.65(1H,s,NCH),5.70(1H,m,NC611のCH),5.53,5.50,5.43及び5.28(全て1H,d,3HH=5.7Hz,p−シメンのCH)3.05(1H,m,NC611のCH),2.85(1H,m,p−シメンのC(CH32),2.34(3H,s,p−シメンのCH3),1.82−0.91(20H,全てm,NC611のCH2),1.41(3H,d,3HH=7.0Hz,p−シメンのCH(C32),1.27(3H,d,3HH=7.0Hz,p−シメンのCH(C32)。13C NMR(CD2Cl2/25℃):δ=319.4(Ru=CH),165.2(NCN),154.0(C65のipso−C),131.4,130.7,及び128.7(C65のo−C,m−C及びp−C),119.1及び118.0(NCH),101.3,96.8,81.3,80.6,79.7及び79.4(p−シメン),58.9及び56.7(NC611のCH),36.0,34.9,31.3,25.8,25.4及び22.3(NC611のCH2),30.8(p−シメンのH(CH32),22.2及び21.9(p−シメンのCH(CH32),18.8(p−シメンのCH3)。
【0046】
(触媒2)
【0047】
【化9】

【0048】
出発物質:RuCl2(ジ−シクロヘキシル−イミダゾリンー2−イリデン)2(CHPh)及び[(p−シメン)OsCl2]2
反応時間:3時間
3244Cl42OsRuに対する元素分析:
計算値C43.14;H4.98;N3.15
実測値C43.31;H5.11;N3.13。
1H NMR(CD2Cl2/25℃):δ=21.21(1H,s,Ru=CH),7.91(2H,d,3HH=6.4Hz,C65のo−H),7.72(1H,t,3HH=6.4Hz,C65のp−H),7.24(2H、t、3HH=6.4Hz,C65のm−H),7.04(1H,s,NCH),6.69(1H,s,NCH),5.70(1H,m,NC611のCH),6.08(1H,d,3HH=5.9Hz,p−シメンのCH),5.95(1H,d,3HH=5.9Hz,p−シメンのCH),5.75(2H,おおよそt,3HH=5.9Hz,p−シメンのCH),3.07(1H,m,NC611のCH),2.83(1H,m,p−シメンのC(CH32),2.34(3H,s,p−シメンのCH3),1.90−0.85(20H,全てm,NC611のCH2),1.39(3H,d,3HH=6.8Hz,p−シメンのCH(C32),1.33(3H,d,3HH=6.8Hz,p−シメンのCH(C3213C NMR(CD2Cl2/25℃):δ=319.7(Ru=CH),165.0(NCN),153.9(C65のipso−C),131.2,130.7,及び128.6(C65のo−C,m−C,及びp−C)、119.3及び118.1(NCH),96.5,91.5,71.6,71.4,70.4及び69.7(p−シメン),58.8及び56.5(NC611のCH),35.8,35.3,31.2,25.9,25.2及び22.7(NC611のCH2),31.2(p−シメンのH(CH32),22.2及び22.1(p−シメンのCH(32),18.7(p−シメンのCH3)。
【0049】
(触媒3)
【0050】
【化10】

【0051】
出発物質:RuCl2(ジ−シクロヘキシル−イミダゾリンー2−イリデン)2(CHPh)及び[Cp*RuCl2]2
反応時間:15分
4546Cl24RhRuに対する元素分析:
計算値C47.88;H5.65;N3.49
実測値C47.99;H5.70;N3.45。
1H NMR(CD2Cl2/25℃):δ=21.20(1H,s,Ru=CH),7.95(2H,d,3HH=7.2Hz,C65のo−H),7.67(1H,t,3HH=7.2Hz,C65のp−H),7.25(2H,t,3HH=7.8Hz,C65のm−H),7.09(1H,s,NCH),6.68(1H,s,NCH),6.57(1H,m,NC611のCH),2.97(1H,m,NC611のCH),1.85−0.86(20H,全てm,NC611のCH2),1.74(15H,s,Cp*のCH3)。13C NMR(CD2Cl2/25℃):δ=319.3(Ru=CH),164.4(NCN),153.5(C65のipso−C),131.2,130.4,及び128.7(C65のo−C,m−C,p−C),118.9及び118.3(NCH),94.3(d,JRhC=7.5Hz,Cp*CH3)58.3及び56.4(NC611のCH),35.2,34.1,33.3,25.8,22.4,21.2(NC611のCH2),9.31(Cp*のCH3)。
【0052】
2−4)オレフィンメタセシスにおける本発明の錯体の使用
下記に記載した実施例は、オレフィンメタセシスにおける本発明の錯体の可能性を実証する。既知のホスフィン含有系に比較した新規な錯体の利点は、特に開環メタセシス重合におけるそれらの著しく増加した活性にある。その結果、単に困難性を伴ってメタセシス反応を受けるオレフィンであるとしても、メタセシス反応において反応できる。
【0053】
2)開環メタセシス重合
ノルボルネン、官能化ノルボルネン、1,5−シクロオクタジエン及びシクロペンテンは、実施例として役立つ。
【0054】
2a)ノルボルネンの開環メタセシス重合
活性を実証するために、ノルボルネンを開環メタセシス重合に委ねた。
典型的反応バッチ:
フラスコ中で、1.0μmolの各々の錯体を30mlの塩化メチレンに溶解する。20.0mmolのノルボルネンを添加して反応を開始し次いで反応液を500mlのメタノール中に注加することにより特定時間後に停止する(ポリノルボルネンの沈殿が形成した)。沈殿したポリノルボルネンを、濾過により単離し、次いで塩化メチレン/メタノール又はトルエン/メタノールから繰り返し再沈殿した後、高真空下で一定重量まで乾燥する。重量を測定して収率を求める。
【0055】
触媒、反応時間、収率及び代謝回転頻度(turnover frequence、TOF)を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
2b)官能化ノルボルネン誘導体の開環メタセシス重合
活性及び官能基に対する許容性を実証するために、5−ノルボルネンー2−イルアセテートを開環メタセシス重合に委ねた。
典型的な反応バッチ:
フラスコ中で、1.0μmolの各々の錯体を2mlの塩化メチレンに溶解する。5.0mmolの5−ノルボルネンー2−イルアセテートを添加して反応を開始し次いで反応液を500mlのメタノール中に注加することにより特定時間後に停止する(ポリノルボルネンの沈殿が形成した)。沈殿したポリノルボルネンを、濾過により単離し、次いで塩化メチレン/メタノール又はトルエン/メタノールから繰り返し再沈殿した後、高真空下で一定重量まで乾燥する。重量を測定して収率を求める。
【0058】
触媒、反応時間、収率及びTOFを表2に示す。
【0059】
【表2】

【0060】
2c)1,5−シクロオクタジエンの開環メタセシス重合
本発明の錯体の活性を実証するために、1,5−シクロオクタジエンの開環メタセシス重合の動力学を、NMR分光法によりモニターした。ノルボルネンに比較してその著しく小さな環の歪みのために、1,5−シクロオクタジエンは、著しく重合の困難な基質である。
典型的な反応バッチ:
1.8μmolの本発明の各々の錯体を、NMR管に入れ次いで0.55mlのCD2Cl2(あるいは、標準液を用いる)に溶解する。引き続き、重合反応を、55μlの1,5−シクロオクタジエン(モノマー:触媒=250:1)を添加することにより開始する。反応の過程を、1H−NMRスペクトルを記録することにより追跡する。生成物(ポリシクロオクタジエン)及び出発物質(シクロオクタジエン)の時間依存性シグナルの統合により、図1に示すようなポリシクロオクタジエンの時間依存性収率及び表3に報告するような代謝回転頻度(TOF)を得る。
【0061】
【表3】

【0062】
ここで達成されたTOFは、既知の系のそれよりも著しくより大きい。従って、類似のホスフィン系(これは、同時に文献から既知の最も活性なルテニウムをベースとする系である)は、同じ条件下で200h-1から最大1000h-1までのTOFを示す。
【0063】
2d)シクロペンテンの開環メタセシス重合
1,5−シクロオクタジエンと同様に、シクロペンテンは、極めて重合が困難な基質である。
典型的な実験バッチ:
フラスコ中で、1.0μmolの各々の錯体を1mlの塩化メチレンに溶解する。5.0mmolのシクロペンテンを添加して反応を開始し次いで反応液を500mlのメタノール中に注加することにより特定時間後に停止する(ポリシクロペンテンの沈殿が形成した)。沈殿したポリシクロペンテンを、濾過により単離し、次いで塩化メチレン/メタノール又はトルエン/メタノールから繰り返し再沈殿した後、高真空下で一定重量まで乾燥する。重量を測定して収率を求める。結果を、表4に要約する。
【0064】
【表4】

【0065】
3)閉環メタセシス
閉環メタセシスにおける本発明の錯体の可能性を、エチレンを放出してシクロヘキセンを形成するための1,7−オクタジエンの反応により説明する(表5)典型的な反応バッチ:
6.3μmolの各々の錯体を2mlの1,2−ジクロロエタンに溶解した溶液を、0.45mmolの1,7−オクタジエンと混合した。60℃で10分後に、反応混合物をGC/MSにより分析した。
【0066】
【表5】

【0067】
4)非環式オレフィンのメタセシス
非環式オレフィンのメタセシスにおける本発明の錯体の可能性を、エチレンを放出して7−テトラデセンを形成するための1−オクテンのホモメタセシスにより説明する(表6)。
典型的な反応バッチ:
6.0μmolの各々の錯体を1mlの1,2−ジクロロエタンに溶解した溶液を、3.0mmolの1−オクテンと混合した。45℃で3時間後に、反応混合物をGS/MSにより分析した。
【0068】
【表6】

【0069】
本発明の錯体を用いた1,5−シクロオクタジエンのROMP:
◆錯体3;◆錯体1;及び●RuCl2(PCy3)(CHPh)(P. Schwab,
M. B. Frnce, J. W. Ziller, R. H. Grubbs, Angew. Chem., 1995, 107,2179 -2181; Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 1995, 34, 2039-2041)
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】ポリシクロオクタジエンの時間と収率の相関図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の構造式I:
【化1】

[式中、Xはアニオン配位子であり、
Zは、金属を含有しそしてルテニウム中心に非イオン的に結合する単座ないし三座配位子であり、
Zは、L’nMX’m(式中、nは0〜4であり、mは0〜6でありそしてm+nは零でなく、そしてL’は、同一であるか又は異なりそしてシクロペンタジエニル、ペンタメチルシクロペンタジエニル又はさもなければ置換シクロペンタジエニル基、ベンゼン、置換ベンゼン及びホスフィンの中から選択され、X’は同一又は異なりそしてハライドから選択され、そしてMは、オスミウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウムの中から選択され、
1及びR2は、同一であるか又は異なっておりそして環を形成することもでき、R1及びR2は各々水素又は/及び炭化水素基であり、ここでその炭化水素基は同一であるか又は異なっていてもよくそして各々1〜50個の炭素原子を有するアルキル基、2〜50個の炭素原子を有するアルケニル基、2〜50個の炭素原子を有するアルキニル基、6〜30個の炭素原子を有するアリール基及びシリル基から選択される直鎖もしくは分岐又は/及び環式の基であってよく、ここで炭化水素基又は/及びシリル基中の1個又はそれ以上の水素原子は、同一の又は独立に異なるアルキル、アリール、アルケニル、アルキニル、メタロセニル、ハロゲン、ニトロ、ニトロソ、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、アミノ、アミド、カルボキシル、カルボニル、チオ又は/及びスルホニル基により置換されていてもよく、
配位子Lは、下記式II−V:
【化2】

(ここで、式II、III、IV及びV中のR1、R2、R3及びR4は、同一であるか又は異なっておりそして各々水素又は/及び炭化水素基であり、ここでその炭化水素基は同一であるか又は異なっておりそして1〜50個の炭素原子を有するアルキル基、2〜50個の炭素原子を有するアルケニル基、2〜50個の炭素原子を有するアルキニル基、6〜30個の炭素原子を有するアリール基から成る群から選択される独立に環式の、直鎖又は/及び分岐の基であり、ここにおいて少なくとも1個の水素は官能基により置換されていてもよく、そしてここでR3及びR4は、同一であるか又は異なっていてもよくそして各々独立にハロゲン、ニトロ、ニトロソ、アルコキシ、アリールオキシ、アミド、カルボキシル、カルボニル、チオ又は/及びスルホニル基であってよい)の1つを有するN−複素環式カルベンである]
を有するルテニウム錯体。
【請求項2】
アニオン配位子Xが、ハライド、擬ハライド、テトラフェニルボレート、過ハロゲン化テトラフェニルボレート、テトラハロボレート、ヘキサハロホスフェート、ヘキサハロアンチモネート、トリハロメタンスルホネート、アルコキシド、チオレート、カルボキシレート、テトラハロアルミネート、テトラカルボニルコバルテート、ヘキサハロフェレート(III)、テトラハロフェレート(III)及びテトラハロパラデート(II)から成る群から選択される請求項1記載の錯体。
【請求項3】
下記式の構造を有する請求項1又は2記載の錯体。
【化3】

【請求項4】
下記式の構造を有する請求項1又は2記載の錯体。
【化4】

【請求項5】
下記式の構造を有する請求項1又は2記載の錯体。
【化5】

【請求項6】
少なくとも1種の触媒の存在下、オレフィンメタセシス反応により、各々の場合において式VIに対応する2個又はそれ以上の炭素原子を有する非環式オレフィンから、又は/及び3個又はそれ以上の炭素原子を有する環式オレフィンから、
式VIに対応する2個又はそれ以上の炭素原子を有する非環式オレフィン、又は/及び3個又はそれ以上の炭素原子を有する環式オレフィンを製造する方法であって、
【化6】

請求項1〜5のいずれか1項に記載の触媒を用い、そして式VI中のR'1、R'2、R'3及びR'4は、水素又は/及び炭化水素基であり、ここで炭化水素基は同一であるか又は異なっておりそして1〜50個の炭素原子を有するアルキル基、2〜50個の炭素原子を有するアルケニル基、2〜50個の炭素原子を有するアルキニル基、6〜30個の炭素原子を有するアリール基、所望により少なくとも1個の水素が官能基により置換されているメタロセニル又は/及びシリル基から独立に選択される直鎖の、分岐又は/及び環式の基であり、そして所望により、R'1、R'2、R'3及びR'4の1種又はそれ以上は、同一であるか又は異なるハロ、ニトロ、ニトロソ、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、アミノ、アミド、カルボキシル、カルボニル、チオ、スルホニル又は/及びメタロセニル基である、
前記製造方法。
【請求項7】
式VIのオレフィン中のR'1、R'2、R'3及びR'4が、独立にかつペアを組んで環を形成する請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
式VIのオレフィンにおいて、炭化水素基R'1、R'2、R'3及びR'4中の水素の幾つか又は全てが1種又はそれ以上の、同一の又は独立に異なるハロ、シリル、ニトロ、ニトロソ、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、アミノ、アミド、カルボキシル、カルボニル、チオ、スルホニル又は/及びメタロセニル基により置換されていてもよい、請求項6又は7に記載の製造方法。
【請求項9】
オレフィンメタセシスにおける請求項1〜8のいずれか1項に記載の錯体の使用。

【図1】
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【公開番号】特開2011−1367(P2011−1367A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144923(P2010−144923)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【分割の表示】特願2000−14388(P2000−14388)の分割
【原出願日】平成12年1月24日(2000.1.24)
【出願人】(501073862)エボニック デグサ ゲーエムベーハー (837)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1−11, D−45128 Essen, Germany
【Fターム(参考)】