説明

N−(トランス−4−イソプロピルシクロヘキシルカルボニル)−D−フェニルアラニンの結晶形

【課題】ナテグリニドの異なる結晶形の製造方法を提供する。
【解決手段】N−(トランス−4−イソプロピルシクロヘキシルカルボニル)−D−フェニルアラニン(ナテグリニドとしても知られる)の新規結晶形が、任意の形態のナテグリニド(溶媒和物を含む)を有機溶媒に溶かして溶液を形成させ、次いで、その溶液からナテグリニドの結晶を形成させ、そして沈澱したナテグリニドの結晶形を単離および乾燥することにより製造され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N−(トランス−4−イソプロピルシクロヘキシルカルボニル)−D−フェニルアラニン(ナテグリニドとしても知られる)の異なる結晶形の製造方法に関する。特に、本発明は、本明細書においてナテグリニドの結晶形のR’−型結晶と称されるナテグリニドの結晶を形成させること、またはナテグリニドの結晶形に関する。
【背景技術】
【0002】
式(I)のナテグリニドは、血中グルコースレベルを抑制する治療的有用性を有する既知物質である。
【化1】

【0003】
ナテグリニドは、米国特許第4,816,484号において開示され、そのすべての内容を、出典明示により明確に本明細書の一部とする。
【0004】
ナテグリニドは、いくつかの結晶形を有することが知られている。かかる結晶形の例としては、B−型およびH−型結晶として知られる形態が挙げられる。B−型およびH−型結晶ならびにそれらの製造方法は、米国特許第5,463,116号において記載され、そのすべての内容を、出典明示により本明細書の一部とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第4,816,484号
【特許文献2】米国特許第5,463,116号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の1つの態様にしたがって、本明細書において、ナテグリニドの異なる結晶形の製造方法であって、任意の形態のナテグリニド(水和物、メタノラート、エタノラートおよびアセトナートのような溶媒和物を含む)を、溶媒(混合溶媒を含む)に溶かすこと、ナテグリニドの結晶を形成させること、沈澱したナテグリニドの結晶形を単離および乾燥することを含む方法が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの実施態様において、R’−型のナテグリニドの結晶形は、ナテグリニドが周囲温度で容易に溶ける溶媒にナテグリニドを溶かして溶液を形成させること、該溶液を、第1の溶媒と混和可能であり、かつ、ナテグリニドが僅かにしか溶けない別の溶媒で処理し、ナテグリニドのR’−型結晶の沈澱を生じさせること、ナテグリニド(水和物、メタノラート、エタノラートおよびアセトナートのような溶媒和物を含む)の沈澱した結晶形を単離および乾燥することを含む方法により製造され得る。
【0008】
本発明の他の目的、特性、利点および態様は、以下の記載、添付の特許請求の範囲および添付の図面から当業者に明らかである。しかしながら、以下の記載、添付の特許請求の範囲、図面および特定の実施例は、本発明の好適な実施態様を示しているが、説明のためにのみ与えられていると理解されるべきである。開示された発明の精神および適用範囲(scope)の範囲内のさまざまな変形および修飾は、以下を読むことにより当業者にとって容易に明らかなこととなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、N−(トランス−4−イソプロピル−シクロヘキシルカルボニル)−D−フェニルアラニンのB−型結晶の粉末X線の回折パターンを示す。
【図2】図2は、N−(トランス−4−イソプロピル−シクロヘキシルカルボニル)−D−フェニルアラニンのB−型結晶の赤外吸収スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
示したように、本発明の1つの実施態様は、R’−型結晶形のナテグリニドを提供する。B−型およびR’−型のナテグリニドの結晶形の物理的特性の例は、以下の通りである:
B−型のナテグリニド結晶形の融点(mp)は、128〜131℃の範囲にあることがDSC法により測定された。
【0011】
DSC法により測定されたR’−型のナテグリニドの結晶形の融点の例は、約108℃であることが判明した。
【0012】
B−型のナテグリニドの結晶形の粉末X線回折パターンの例は、図1において見いだされ得る。B−型のナテグリニドの結晶形の回折パターンは、3.9、5.0、5.2および14.1の2θ値で極大を示す。
【0013】
KBr法により得られるB−型のナテグリニドの結晶形の赤外吸収スペクトルの例を、図2において示す。B−型のナテグリニドの結晶形の赤外吸収スペクトルは、3291、2955、1737、1642および1210cm−1付近の吸収により特徴づけられる。
【0014】
上で要約したように、本発明の1つの態様は、ナテグリニドの異なる結晶形の製造方法であって、任意の形態のナテグリニド(水和物、メタノラート、エタノラートおよびアセトナートのような溶媒和物を含む)を、溶媒(混合溶媒を含む)に溶かし、ナテグリニドの結晶を形成させ、沈澱したナテグリニドの結晶形を単離および乾燥することを含む方法を提供する。
【0015】
1つの実施態様において、R’−型のナテグリニドの結晶形は、ナテグリニドが周囲温度で容易に溶ける溶媒(本明細書において第1の溶媒という)にナテグリニドを溶かして溶液を形成させ、この溶液を、第1の溶媒と混和可能であり、かつ、ナテグリニドが僅かにしか溶けない別の溶媒(本明細書において第2の溶媒という)で処理して、ナテグリニドのR’−型結晶の沈澱を生じさせ、沈澱したナテグリニドの結晶形(水和物、メタノラート、エタノラートおよびアセトナートのような溶媒和物を含む)を単離および乾燥することを含んでなる方法により製造され得る。
【0016】
ナテグリニドが容易に溶ける、すなわち周囲温度にて少なくとも1重量%の量で溶ける第1の溶媒としては、低級アルコール、たとえばメタノール、エタノールおよびイソプロパノールが挙げられる。アセトン、テトラヒドロフラン、ジオキサンおよびジクロロメタンのような極性溶媒も、第1の溶媒として使用される場合には有効であり得る。ナテグリニドが僅かにしか溶けない、すなわち0.01重量%またはそれ以下の量でしか溶けない第2の溶媒としては、水、ヘキサン、ヘプタンおよびジエチルエーテルが挙げられる。混合溶媒が第1の溶媒として使用される場合、エタノールおよびトルエンの混合物またはメタノールおよび酢酸エチルの混合物が、好ましくは第2の溶媒としての水との組合せ、およびさらに好ましくは約0.5〜約3重量%のヒドロキシプロピルメチルセルロースを含有する水との組合せにおいて有効である。溶媒中のナテグリニドの量は、好ましくは得られる混合物の1〜50重量%の範囲である。ナテグリニドの量が50重量%を超える場合、最初の懸濁液のスラリー特性が不十分になり、そして混合物を撹拌しそして固体を溶かすことが困難であろう。
【0017】
他方、1重量%未満のナテグリニドを用いることは、必要とされる溶媒の容積の観点から有効ではない。周囲温度、すなわちナテグリニドが第1の溶媒に溶解している温度は、好ましくは室温からおおよそ溶媒の沸点まで、そしてさらに好ましくは室温から約70℃の範囲である。第1の溶媒に溶解しているナテグリニドの量は、好ましくは得られる溶液の5〜40重量%の範囲である。第1の溶媒中のナテグリニドの溶液を、第2の溶媒に添加してもよいし、または第2の溶媒を、第1の溶媒中のナテグリニドの溶液に添加してもよい。得られる混合物における第1の溶媒と第2の溶媒の容積比は、好ましくは約1:3から約1:9の範囲である。所望のナテグリニドの結晶形の沈澱を促進するために、混合物に種晶、好ましくはB−型のナテグリニドの種晶を添加することが有利であり得る。得られたナテグリニドを含有する混合物を、撹拌するか、または所望のナテグリニドの結晶の完全な沈澱を保証するのに十分な時間低温に冷却してもよい。
【0018】
ナテグリニドの溶解のために、慣用的方法、たとえば加熱および撹拌を使用してもよい。任意の形態のナテグリニド(水和物、メタノラート、エタノラートおよびアセトナートのような溶媒和物を含む)を溶媒に添加してもよいし、または溶媒をナテグリニドに添加し、撹拌し、そして室温からおおよそ溶媒の沸点までの範囲の周囲温度まで加熱して溶液を形成させてもよい。撹拌、冷却および種晶の添加を用いて、さらに、所望のナテグリニドの結晶形の沈澱を生じさせてもよい。沈澱した結晶を、慣用的方法、たとえば真空濾過または遠心分離により単離してもよい。結晶は、好ましくは、溶媒、または結晶化において使用された溶媒からなる溶媒混合物で洗浄してもよい。単離および洗浄の間、冷却、所望により、好ましくは約20〜約0℃の範囲の温度の結晶の冷却を適用してもよい。単離したナテグリニドの結晶を、大気圧または減圧下で、好ましくは約20〜約0.1mmHgの範囲の減圧下で、室温から約80℃の範囲の温度にて乾燥してもよい。
【0019】
別の態様において、本発明は、上記の方法により入手可能な結晶、特にR’−型結晶、および医薬上許容される賦形剤、希釈剤または担体を含んでなる医薬組成物を提供する。
【0020】
さらなる態様において、本発明は、医薬組成物の製造方法であって、本発明の第1の態様の方法により入手可能な結晶、特にR’−型結晶の有効量、および医薬上許容される賦形剤、希釈剤または担体を混合することを含んでなる方法を提供する。
【0021】
いっそうさらなる態様において、本発明は、血中グルコースレベルを低下させるためのヒトまたは別の哺乳類の処置方法であって、本発明の方法により入手可能なナテグリニドの結晶形、特にR’−型結晶形の有効量を投与することを含んでなる方法を提供する。
【0022】
本発明は、さらに、以下の実施例により説明される。当該実施例は、特定の実施態様を言及することにより本発明を説明するためにのみ提供される。当該実施例は、本発明のある特定の態様を説明するが、制限を表現するものでなく、開示された発明の範囲を制限するものでもない。
【0023】
実施例
R’−型のナテグリニド結晶は、以下のように製造され得る:
H−型のナテグリニド結晶を、エタノールおよびトルエン(50%(容積)のエタノールおよび50%(容積)のトルエン;160mg/mLのナテグリニド)の混合物中で室温にて撹拌しながら溶かす。すべての固体が溶けた後に、1%ヒドロキシプロピルメチルセルロースを含有する水を添加して、沈澱を生じさせる(使用されたエタノール−トルエンの容積の約7倍)。さらに2時間撹拌した後、沈澱した固体を真空濾過により集め、洗浄し、そして減圧下で50℃にて一夜乾燥するとR’−型の結晶を得る:融点108℃。
【0024】
本発明を、一定の好適な態様を参照してかなり詳細に説明したが、本明細書に包含される好適な態様の精神および範囲から逸脱することなく、他の態様もあり得る。本明細書で言及したすべての参考文献および特許(米国およびその他の国)を、出典明示により、それらの全体が本明細書に記載されているが如くそれらの全体を本明細書の一部とする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナテグリニドの結晶形の製造方法であって;
(a)ナテグリニドが周囲温度で容易に溶ける第1の溶媒に任意の形態のナテグリニドを溶かして溶液を形成させること;
(b)該溶液を、第1の溶媒と混和可能であり、かつ、ナテグリニドが僅かにしか溶けない第2の溶媒で処理し、ナテグリニドの結晶の沈澱を生じさせること;ならびに
(c)沈澱したナテグリニドの結晶形を単離および乾燥すること
を含み、
ここで、第1の溶媒がメタノールおよび酢酸エチルの混合物であり、第2の溶媒が0.5〜3重量%のヒドロキシプロピルメチルセルロースを含有する水である方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−265295(P2010−265295A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156749(P2010−156749)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【分割の表示】特願2003−583994(P2003−583994)の分割
【原出願日】平成15年4月14日(2003.4.14)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】