説明

N,N−ジメチルシクロヘキシルアミンの製造法

【課題】 ポリウレタンフォーム製造用触媒、エポキシ硬化剤、レジスト剥離剤、鋼用腐食防止剤として有用なN,N−ジメチルシクロヘキシルアミンを効率的に経済性良く製造する方法を提供する。
【解決手段】 不純物としてホルムアルデヒド及びN,N−ジメチルシクロヘキシルアミンを含有する粗製N,N−ジメチルアニリン(例えば、ホルムアルデヒド誘導体とアニリンを還元触媒及び水素存在下で反応させて得られる反応液)を、180℃以上の温度で加熱処理した後、還元触媒、及び水素の存在下で核水添反応する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミンの製造法に関する。
【0002】
N,N−ジメチルシクロヘキシルアミンは、ポリウレタンフォーム製造用触媒、エポキシ硬化剤、レジスト剥離剤、鋼用腐食防止剤等として有用な化合物である。
【背景技術】
【0003】
従来、アニリンを原料とするN,N−ジメチルシクロヘキシルアミンの製造法としては、まず、アニリンを核水添しシクロヘキシルアミンとし(例えば、特許文献1、2参照)、次いで、得られたシクロヘキシルアミンを還元メチル化することによる製造法が一般的に知られている(例えば、特許文献3、4参照)。
【0004】
しかしながら、中間体であるシクロヘキシルアミンを得るためには、高温高圧条件下でのアニリンの核水添が必要であり、高度な技術及び装置が必要となるため、より簡便な工業的製造法が求められている。
【0005】
一方、パラジウム触媒により芳香族アミン化合物を穏和な条件で還元メチル化できることは知られている(例えば、非特許文献1参照)。また、N,N−ジメチルアニリンが穏和な条件でN,N−ジメチルシクロヘキシルアミンに核水添できることも知られている(例えば、特許文献5参照)。
【0006】
この場合、N,N−ジメチルアニリンは、ホルムアルデヒド又はパラホルムアルデヒド等のホルムアルデヒド誘導体と還元触媒及び水素でアニリンを還元メチル化することにより調製されるが、得られる粗製N,N−ジメチルアニリンを単離精製することなく、すなわち、アニリンの還元メチル化反応液のまま連続して核水添反応を行った例は知られていない。例えば、特許文献5に記載の方法においても、実際の核水添反応には、単離精製されたN,N−ジメチルアニリンが用いられている。
【0007】
粗製N,N−ジメチルアニリンから連続して核水添反応を行うことを困難にしている要因としては、粗製N,N−ジメチルアニリンには未反応のホルムアルデヒドが残存していることが考えられる。一般に、還元メチル化反応の際でも過剰のホルムアルデヒドは触媒の活性を低下させることが知られている(例えば、特許文献6、非特許文献1参照)。
【0008】
【特許文献1】特開平10−72377号公報
【特許文献2】特開平10−101584号公報
【特許文献3】特許昭60−130551号公報
【特許文献4】特開昭62−10047号公報
【特許文献5】ドイツ国特許第297399号明細書
【特許文献6】特開昭52−71424号公報
【非特許文献1】A.P.Bonds,H.Greenfield,W.E.Pascoe(Ed)「Catalysis of Organic Reactions」Dekker,New York,1992,p.65
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、ホルムアルデヒドを含有する粗製N,N−ジメチルアニリンを単離精製することなく、連続して核水添反応することができる、経済的に有利な穏和な条件下でのN,N−ジメチルシクロヘキシルアミンの製造法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、ホルムアルデヒドを含有する粗製N,N−ジメチルアニリンを核水添反応するに際し、得られた反応液を180℃以上の温度で加熱処理することにより、粗製N,N−ジメチルアニリンを単離精製することなく連続して、核水添反応を行うことができること見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下に示すとおりのN,N−ジメチルシクロヘキシルアミンの製造法である。
【0012】
[1]不純物としてホルムアルデヒド及びN,N−ジメチルシクロヘキシルアミンを含有する粗製N,N−ジメチルアニリンを、180℃以上の温度で加熱処理した後、還元触媒、及び水素の存在下で核水添反応するN,N−ジメチルシクロヘキシルアミンの製造法。
【0013】
[2]不純物としてホルムアルデヒド及びN,N−ジメチルシクロヘキシルアミンを含有する粗製N,N−ジメチルアニリンが、ホルムアルデヒド誘導体とアニリンを還元触媒及び水素存在下で反応させて得られる反応液である上記[1]に記載のN,N−ジメチルシクロヘキシルアミンの製造法。
【0014】
なお、本発明において用いる「還元メチル化(反応)」という用語は、カルボニル化合物とアンモニア又はアミンを縮合させ、生成するイミン又はイミニウムイオンを還元剤で還元してアミン類を得る方法を意味し(「第4版実験化学講座20 有機合成II」p.302〜303(日本化学会編、丸善、1992年)参照)、具体的には、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド等のホルムアルデヒド誘導体とアニリンを、還元触媒及び水素存在下で反応させ、還元的にアニリンのアミノ基をメチル化してN,N−ジメチルアニリンとする反応を指す。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、アニリンの還元メチル化反応で得られる、不純物としてホルムアルデヒド及びN,N−ジメチルシクロヘキシルアミンを含有する粗製N,N−ジメチルアニリンを核水添反応するに際し、180℃以上の温度で加熱処理することにより、粗製N,N−ジメチルアニリンを単離精製することなく連続して、核水添反応を行うことができる。
【0016】
本発明の方法は、触媒活性の低下の問題もなく、経済的に有利な温和な条件下で実施できるため、工業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明は、不純物としてホルムアルデヒド及びN,N−ジメチルシクロヘキシルアミンを含有する粗製N,N−ジメチルアニリンを、180℃以上の温度で加熱処理した後、還元触媒、及び水素の存在下で核水添反応することをその特徴とする。
【0019】
本発明において、不純物としてホルムアルデヒド及びN,N−ジメチルシクロヘキシルアミンを含有する粗製N,N−ジメチルアニリンとしては、ホルムアルデヒド誘導体とアニリンを還元触媒及び水素存在下で反応させて得られる、アニリンの還元メチル化反応液を使用することができる。
【0020】
本発明において、アニリンの還元メチル化反応に用いられるホルムアルデヒドの量は一般に理論量が適当であるが(例えば、特許文献6参照)、ほぼ当量のホルムアルデヒドを用いた場合でも還元メチル化反応後、反応液中にホルムアルデヒドが少量残存する可能性がある。本発明において、アニリンの還元メチル化反応液中のホルムアルデヒドの含有量は、特に限定するものではないが、あまり多いと加熱処理によりホルマリン由来の重合不純物を副生し、目的物の単離処理に多大の負担を要することが考えられため、1000ppm以下であることが好ましく、350ppm以下にすることがさらに好ましい。
【0021】
本発明において、不純物としてホルムアルデヒド及びN,N−ジメチルシクロヘキシルアミンを含有する粗製N,N−ジメチルアニリンは、180℃以上の温度で加熱処理される。加熱処理温度の上限としては、特に限定するものではないが、工業的に蒸気加熱が可能な250℃以下の範囲で実施すれば十分に本発明の効果が達成される。また、加熱処理時間としては、特に限定するものではないが、30分以上実施すれば十分に本発明の効果が達成され、長時間の加熱処理は必要ではない。
【0022】
本発明において、N,N−ジメチルアニリンの核水添反応は、アニリンの還元メチル化反応液を180℃以上の温度で加熱処理した後、その反応液をそのまま用いて行うことができるため、反応に使用される溶媒としては、通常、還元メチル化反応の溶媒をそのまま用いることができる。このような溶媒としては、具体的には、メタノール、エタノール、1−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール等の脂肪族アルコール類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、N、N−ジメチルホルムアルデヒド、N、N−ジメチルアセトアルデヒド、ジメチルスルホキシド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等の非プロトン性極性溶媒等が使用できる。また、これらの溶媒は単独で又は混合して使用しても良い。これらのうち、脂肪族アルコール類が経済性及び操作性から反応溶媒として特に好ましい。
【0023】
本発明において、核水添反応に用いられる還元触媒としては、例えば、ロジウム、ルテニウム、白金、パラジウム、ニッケル等の芳香族化合物の核水添用触媒が好適なものとして挙げられるが、還元メチル化反応にも使用でき経済的である活性炭担持のパラジウム触媒が特に好ましい。
【0024】
還元触媒の使用量は、基質であるN,N−ジメチルアニリンの仕込量に対して0.5重量%以上が好ましく、更に好ましくは5重量%以上である。但し、触媒が10重量%を超えても特別の効果は認められず、経済的にも不利となる。
【0025】
水素化反応温度は、60℃から180℃、好ましくは120℃から160℃の範囲である。また、反応圧力は、0.4MPa以上であり、好ましくは0.8MPa以上である。
【0026】
本発明においては、不純物としてホルムアルデヒド及びN,N−ジメチルシクロヘキシルアミンを含有する粗製N,N−ジメチルアニリン反応液を、180℃以上の温度で加熱処理した後、更に新たな還元触媒を追加することで特別な処理をすることなく続けて水素加圧条件で核水添反応を行うことができる。又は、180℃以上の温度で加熱処理した粗製N,N−ジメチルアニリン反応液を新たな還元触媒を入れた容器へ移液することで特別の処理をすることなく続けて水素加圧条件で核水添反応を行うことができる。
【実施例】
【0027】
以下に、本発明の詳細について実施例を用いて説明するが、それらは本発明を限定するものではない。なお、本実施例における生成物とその収率は、ガスクロマトグラフィーにて確認した。また、アニリンの還元メチル化反応液中に含まれるホルムアルデヒドの濃度は、ガスクロマトグラフ質量分析計−選択イオンモニター法(GCMS−SIM)での定量分析により測定した。
【0028】
ガスクロマトグラフィー:(島津製作所製 GC−17A、測定条件 キャピラリーカラム(J&WScience社製 DB−5)、昇温、検出器FID)。
【0029】
GCMS−SIM:(日本電子(株)製 GC−MSJMS−K9 測定条件 キャピラリーカラム(J&WScience社製 DB−5)、昇温)。
【0030】
まず、反応原料であるN,N−ジメチルアニリンのアニリンからの還元メチル化反応の例を示す。
【0031】
調製例1:
1000mLの攪拌機付きオートクレーブにアニリン130.0g(1.40mol)、メタノール226.2g、及び活性炭にパラジウムが5wt%担持されたパラジウム触媒13.0g(デグサ社製、57%含水品)を仕込んだ。オートクレーブを密閉し、窒素置換及び水素置換後、水素圧を0.5MPaまで昇圧して、撹拌条件下で150℃まで昇温した。0.9MPa程度の水素加圧条件下、オートクレーブ内に37wt%ホルムアルデヒド水溶液226.2g(2.79mol、工業薬品JIS K 1502規格品、メタノール6.0wt%含有品でメタノール付加物を含むと思われる)を10時間かけてポンプで供給し、更に3時間加熱撹拌したところ、水素吸収がなくなったので反応を終了し、冷却、脱圧後、反応液を濾過してパラジウム触媒を除去した。
【0032】
得られた反応液についてガスクロマトグラフィー分析を行った結果、N,N−ジメチルアニリンを収率85%、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミンを収率5%でそれぞれ得たことを確認した。また、反応液中のホルムアルデヒド濃度は、GCMS−SIM分析の結果、350ppmであった。
【0033】
次に、得られた粗製N,N−ジメチルアニリンを用いた核水添反応の例を示す。
【0034】
実施例1:
200mLの攪拌器付きオートクレーブに、調製例1に記載の方法に準じて得られた反応液80.0g(N,N−ジメチルアニリン11.0g、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン0.6g、及びホルムアルデヒド28mgをそれぞれ含有する。)を180℃で1時間加熱処理を行った後、室温まで冷却した。
【0035】
次いで、得られた反応液に活性炭にパラジウムが5wt%担持されたパラジウム触媒3.0g(デグサ社製、57%含水品)を仕込んだ。オートクレーブを密閉し、窒素置換及び水素置換後、水素圧を0.4MPaまで昇圧して、撹拌条件下で150℃まで昇温した。密閉状態で水素加圧条件下、5時間加熱撹拌して反応を終了したところ、水素吸収がなくなったので反応を終了し、冷却、脱圧後、反応液を濾過してパラジウム触媒を除去した。
【0036】
得られた反応液についてガスクロマトグラフィー分析を行った結果、N,N−ジメチルアニリンは3%の回収率であり、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミンを収率80%で得たことを確認した。
【0037】
実施例2:
200mLの攪拌器付きオートクレーブに、調製例1に記載の方法に準じて得られた反応液80.0g(N,N−ジメチルアニリン11.0g、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン0.6g、及びホルムアルデヒド28mgをそれぞれ含有する。)を200℃で0.5時間加熱処理を行った後、室温まで冷却した。
【0038】
次いで、得られた反応液に活性炭にパラジウムが5wt%担持されたパラジウム触媒3.0g(デグサ社製、57%含水品)を仕込んだ。オートクレーブを密閉し、窒素置換及び水素置換後、水素圧を0.4MPaまで昇圧して、撹拌条件下で150℃まで昇温した。密閉状態で水素加圧条件下、5時間加熱撹拌して反応を終了したところ、水素吸収がなくなったので反応を終了し、冷却、脱圧後、反応液を濾過してパラジウム触媒を除去した。
【0039】
得られた反応液についてガスクロマトグラフィー分析を行った結果、N,N−ジメチルアニリンは認められず、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミンを収率81%で得たことを確認した。
【0040】
比較例1:
200mLの攪拌器付きオートクレーブに、実施例1と同様に、調製例1に記載の方法に準じて得られた反応液80.0g(N,N−ジメチルアニリン11.0g、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン0.6g、及びホルムアルデヒド28mgをそれぞれ含有する。)を160℃で2時間加熱処理を行った後、室温まで冷却した。
【0041】
次いで、得られた反応液に活性炭にパラジウムが5wt%担持されたパラジウム触媒3.0g(デグサ社製、57%含水品)を仕込んだ。オートクレーブを密閉し、窒素置換及び水素置換後、水素圧を0.4MPaまで昇圧して、撹拌条件下で150℃まで昇温した。密閉状態で水素加圧条件下3時間加熱撹拌して反応したが、水素吸収は全く見られなかったため反応を終了し、冷却、脱圧後、反応液を濾過してパラジウム触媒を除去した。
【0042】
得られた反応液についてガスクロマトグラフィー分析を行った結果、N,N−ジメチルアニリンは100%回収され、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン量の増加は認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物としてホルムアルデヒド及びN,N−ジメチルシクロヘキシルアミンを含有する粗製N,N−ジメチルアニリンを、180℃以上の温度で加熱処理した後、還元触媒、及び水素の存在下で核水添反応することを特徴とするN,N−ジメチルシクロヘキシルアミンの製造法。
【請求項2】
不純物としてホルムアルデヒド及びN,N−ジメチルシクロヘキシルアミンを含有する粗製N,N−ジメチルアニリンが、ホルムアルデヒド誘導体とアニリンを還元触媒及び水素存在下で反応させて得られる反応液であることを特徴とする請求項1に記載のN,N−ジメチルシクロヘキシルアミンの製造法。

【公開番号】特開2009−91278(P2009−91278A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−261924(P2007−261924)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】