説明

NDフィルター

【課題】光束の透過量を調節するためのNDフィルターであって、安価、均一な品質、高耐久性であり、かつ、低へイズ値のNDフィルターを得る。
【解決手段】透明基板11上に、版とインキを用いる印刷方法によりインキ膜12を形成したNDフィルター1であって、インキは黒色の色材を含むものであり、黒色の色材は黒色顔料であることを特徴とする。黒色顔料はカーボン粒凝集体からなるカーボン粒子であり、個々のカーボン粒凝集体の最長長さをliとしたとき、liの算術平均値が15nm以下であることが好ましく、また、版は凹版であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静止像カメラ、動画像カメラなどに用いるNDフィルター(Neutral Density Filter)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カメラなどの光学系に光束の透過量を調節するためにNDフィルターが使用されている。従来のNDフィルターは、プラスチックシートの表面に多層の金属薄膜を形成している(例えば、特許文献1参照。)。また、従来のNDフィルターは、透明基板上にインクジェット記録により色材膜を形成しているものもある(例えば、特許文献2参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−37545号公報
【特許文献2】特開2003−240917号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のプラスチックシートに多層の金属薄膜を形成するNDフィルターは、蒸着法やスパッタリング法により金属薄膜を形成するものであり、製造工程が多工程となり、製造に長時間を必要とする。また、製造装置も高価、大型である。このため、製造価格が高額となる。
【0005】
従来のインクジェット記録により色材膜を形成するNDフィルターは染料インキを使用するものであり、NDフィルターの耐久性に疑問が残る。また、透明基板に予め着色液であるインキ受容層を形成する必要がある。さらに、前記特許文献2に解決策が提案されてはいるものの、インクジェット記録特有のすじむらが発生し、高品質化、複数製造品の均質化を企図すれば、インクジェット記録装置が高価になる問題点もある。
【0006】
一方、NDフィルターには、低へイズ(Haze)値が要求される。ヘイズ値はNDフィルターを透過した光の濁りの指標であり、NDフィルターを直進光が入光する場合に出光する光束に関して[拡散光]/[直進光+拡散光]×100で表される。
【0007】
そこで、本発明の課題は、安価、均一な品質、高耐久性であり、かつ、低へイズ値のNDフィルターを得ることを課題とする。
【0008】
本発明のその他の課題は、本発明の説明により明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一の態様にかかるNDフィルターは、
光束の透過量を調節するためのNDフィルターにおいて、
透明基板上に、版とインキを用いる印刷方法によりインキ膜を形成したNDフィルターであって、前記インキは黒色の色材を含むものであり、前記黒色の色材は黒色顔料であることを特徴とする。
【0010】
発明者らは、版とインキを用いる印刷により形成されるインキ膜に、新規な観点から検討を加え本発明に想到したものである。すなわち、従来の印刷技術は、インキ膜により反射される光が視認されるという観点で用いられる技術であり、当該観点から技術的改良がなされてきた。本発明にあっては、インキ膜は透過光と相互作用することにより、NDフィルターとしての機能を発揮するものである。そして、特にインキ膜に関し透過光という観点から最適化を企図したものである。
【0011】
本発明にかかる印刷方法は、版とインキを用いるものである。版は、活版、平版、凹版及び孔版を含む。
【0012】
本発明の好ましい態様にあっては、前記黒色顔料がカーボン粒凝集体からなるカーボン粒子であり、個々の前記カーボン粒凝集体の最長長さをliとしたとき、liの算術平均値が15nm以下のカーボン粒子であってもよい。
本好ましい態様によれば、黒色顔料として微粒のカーボン粒子を用いるので、NDフィルターが低へイズ値となる効果を有する。
【0013】
本発明の好ましい態様にあっては、前記版が凹版であってもよい。
本好ましい態様によれば、印刷後乾燥までの間にインキがレベリングし、インキ膜の表面が平滑化する。このため、インキ膜表面での光の拡散などが減少し、NDフィルターのヘイズ値をより一層小さくすることができる。
【0014】
本発明の他の好ましい態様にあっては、前記インキ膜の表面に低反射層を形成してもよい。
本好ましい態様によれば、インキ膜を透過する光の界面での反射などをより一層減少することができる。よって、NDフィルターのヘイズ値をより一層小さくすることができる。
【0015】
以上説明した本発明、本発明の好ましい実施態様、これらに含まれる構成要素は可能な限り組み合わせて実施することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明にかかるNDフィルターは、版とインキを用いる印刷により製造される。よって本発明にかかるNDフィルターは安価に製造でき、また、均一な品質で製造できる。また、既存の印刷設備をそのまま使用して製造できるので、製造設備調達費用を節約できる。
【0017】
インキは黒色の色材として黒色顔料を用いるので、本発明にかかるNDフィルターは耐久性に優れる。
【0018】
また、インキを用いるので、各色の顔料の混合が容易であり、かつ、混合後のインキにおける透過光の波長依存性を容易に予測できる。このため、色味の無い、換言すれば、設計波長領域において、光束の減衰割合が一定したNDフィルターを容易に得ることができる。この効果は、特に多層薄膜による従来のNDフィルターに比較して顕著な効果である。なぜなら、多層薄膜NDフィルターは、机上設計において実際製造品の光学特性を完全に予測することが困難だからである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施例にかかるNDフィルターをさらに説明する。本発明の実施例に記載した部材や部分の寸法、材質、形状、その相対位置などは、とくに特定的な記載のない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではなく、単なる説明例にすぎない。
【0020】
図1は個別のNDフィルターを複数含む印刷体の平面説明図であり、図2は個別のNDフィルターの断面説明図である。図1と図2は、発明を説明するための説明図であり、理解を容易にするなどの目的で、縦横の縮尺、構成部分の長さ比率は実際の製造品と異なる。
【0021】
図1に図示した印刷体10は、個別のNDフィルター1を6個含むものである。印刷体10を、例えばプレスによる打ち抜きにより、個別のNDフィルターに切り離して使用される。
【0022】
図2を参照して、NDフィルターは透明基板11の一方表面にインキ膜12を形成したものである。
【0023】
透明基板11としては、ポリエチレンテレフタレート(以下PETという)、ジアセテート、トリアセテート、ポリプロピレンなどのフィルムを例示することができる。また、ガラス板を使用してもよい。PETは透明基板自体のヘイズ値が小さく、製造されるNDフィルター全体のヘイズ値を小さくすることができるので好ましい材料である。
【0024】
透明基板の厚さはヘイズ値を小さくするなどの光学特性上からできるだけ薄いことが好ましい。しかし、カメラなどに実装することを考慮すると強度など取り扱いの容易性も必要である。このため、例えば、PETフィルムであれば、通常50μm〜150μm、より好ましくは80μm〜120μmの厚さが好ましい。
【0025】
透明基板の印刷面は、インキの接着性向上、付着密度向上のために、コロナ処理や易接着加工をすることが好ましい。
【0026】
インキ膜12は版とインキを用いる印刷方法により形成される。版は、活版、平版、凹版及び孔版を含む。平版を用いる印刷方法には、オフセット印刷を含む。凹版を用いる印刷方法には、グラビア印刷を含む。これらの中では、凹版、孔版、平板を用いる印刷方法が好ましく、凹版、孔版を用いる印刷方法が次に好ましく、凹版を用いる印刷方法が特に好ましい。より詳述すれば、グラビアインキを使用し、凹版を用いる印刷方法が特に好ましい。
【0027】
インキ膜表面の平滑性が良好であれば、当該表面を界面とする光の散乱が少なくなり、NDフィルターのヘイズ値が小さくなる。粘性の乏しいインキを用いてインキ膜を形成すると、印刷後乾燥までにインキのレベリングが起こり、インキ膜表面の平滑性が増す。ドクターを用いてインキを掻き落とす操作を行うため、粘性の乏しいインキを用いる凹版(グラビア印刷を含む)を用いる印刷方法は、特に好ましい印刷方法である。
【0028】
インキは、色材、ビヒクル、助剤からなる。本発明において、インキは黒色の色材を含むものである。そして、黒色の色材として黒色顔料を用いる。NDフィルターの耐久性を増すためである。
【0029】
黒色顔料としては、例えば、カーボン粒子、ブラック酸化チタン、アイボリーブラック、ピーチブラック、ランプブラック、ビチューム、アニリン黒などを挙げることができる。これらの中では、粒子の大きさ、成分などが制御された物が入手容易であること、安価であることなどから、カーボン粒子が好ましい。
【0030】
本発明の好ましい実施態様に用いるカーボン粒子を説明する。カーボンを細かく砕くとカーボン粒子単体で存在できなくなり、微細な粒体同士が凝集してカーボン粒凝集体となる。したがって、カーボン粒子は、カーボン粒凝集体の集合体である。
【0031】
以下に、カーボン粒凝集体の形状、大きさを説明するが、カーボン粒子がそれ自体で存在する状態での、カーボン粒凝集体の形状、大きさを述べる。すなわち、カーボン粒子が油や水など他の液体、あるいはその他の流動体と混合されることなく、空気中にカーボン粒子として存在している状態での、カーボン粒凝集体の形状、大きさである。
【0032】
カーボン粒凝集体の形状は、円板、平面形状が正多角形の平板、平面形状が不定多角形の平板(以上の平板状には厚さが均一である平板と厚さが不均一である平板を含む)、球、楕円球、正多面体、不定多面体、針状体、円柱、多角柱、円錐、多角錐など、いずれであってもよい。また、前述の形状の2種、3種以上の混合物であってもよい。混合物とは、例えば、円板状のカーボン粒凝集体と多角柱状のカーボン粒凝集体が混ざり合った物をいう。
【0033】
カーボン粒凝集体の大きさは算術平均値で表すことができる。すなわち、個々の前記カーボン粒凝集体の最長長さをliとする。例えば、凝集体の形状が球状であれば、その直径がliであり、針状体状であればその長さがliであり、楕円球状であれば長軸の長さがliであり、円板状であれば平面の直径がliである。そして、カーボン粒子全体についてliの算術平均値を算出する。
【0034】
通常、カーボン粒凝集体の算術平均値が15nm以下のカーボン粒子を用いる。より好ましくは、前記算術平均値が5nm以上15nm以下、さらに好ましくは6nm以上12nm以下、もっとも好ましくは8nmである。この点、従来の印刷インキに用いられているカーボン粒子は、そのカーボン粒凝集体の算術平均値が一般に30nm、小さなものであっても算術平均値が20nmのものであることと相違する。カーボン粒子の大きさが、上記の範囲にあると、ヘイズ値を小さくすることができる。
【0035】
カーボン粒凝集体の最長長さliは、例えば、電子顕微鏡を用いてカーボン粒凝集体を観察・測定することにより計測される。そして、カーボン粒凝集体の単一体をランダムに50回サンプリングして、計測をし、算術平均値を計算すれば、カーボン粒子全体を代表する算術平均値を求めることができる。
【0036】
NDフィルターの色味調整のために、インキの色材として、黒色の色材である黒色顔料に加えて、その他の複数の顔料を混合する。例えば、レッド系顔料、ブルー系顔料、グリーン系顔料を混合する。例えば、レッド系顔料としてPVファストピンクBG(クライアント・ジャパン)、ブルー系顔料としてPVファストブルーE(クライアント・ジャパン)、グリーン系顔料としてフタロシアニングリーン6Y(AQYLA)を例示することができる。なお、上記例示した顔料に関して、前が製品名、括弧内が製造会社名である。
【0037】
インキを用いるので、各色の顔料の混合が容易であり、かつ、混合後のインキにおける透過光の波長依存性を容易に予測できる。このため、色味の無い、換言すれば、設計波長領域において、光束の減衰割合が一定したNDフィルターを容易に得ることができる。
【0038】
本発明にかかるNDフィルターは黒色顔料を用いるものであり、主として可視光領域での使用を企図するものである。このため、レッド系顔料、ブルー系顔料とグリーン系顔料などを混合して、概略400nm〜700nmの波長範囲の光の均一な減光を行うものである。しかし、黒色顔料に付加して混合する顔料を適宜変更することにより、赤外線、紫外線の領域で用いるNDフィルターとすることもできる。
【0039】
インキのビヒクル、助剤は、従来の印刷インキに用いられているものと同様である。
【0040】
インキ膜12は、一層であってもよく、多層であってもよい。NDフィルターの製造工程、時間を節約する観点から、また、複数の顔料を混合した単一インキを作成し、望むインキ膜を一層で容易に実現できることから一層であることが好ましい。
【0041】
インキ膜12の厚さは、通常、3〜10μmである。
【0042】
図2を参照して、インキ膜12の表面に低反射層13を設けてもよい。界面での光の散乱などを抑制し、NDフィルターのヘイズ値を小さくするためである。また、透明基板の裏面すなわち、インキ膜12を形成したと反対側の面に低反射層14を設けてもよい。低反射層は、どちらか一方であってもよく、両方設けてもよい。好ましくは、図示したように両面に設けることである。
【0043】
低反射層13、14は、低屈折材料を塗布したり、印刷したり、反射防止フィルムや低反射フィルムを貼りつけて形成してもよい。
【0044】
低反射層に用いる低屈折材料としては、フッ化マグネシウム、酸化ケイ素などの金属酸化物を用いることができる。また、シリカあるいはオルガノポリシロキサンの少なくとも1種を含む有機金属化合物を用いることもできる。また、これらの有機金属化合物の多孔体を用いることもできる。また、フッ素系合成樹脂などの有機化合物を用いることも可能である。
【0045】
低反射層の構成としては、微細孔を有する酸化ケイ素あるいは酸化アルミウムを、酸化ケイ素に分散し単層として使用したり、フッ化マグネシウムを単層として用いるほか、酸化チタン層/酸化ケイ素層の2層構成の低反射層として使用したり、酸化チタン層/酸化ケイ素層/酸化チタン層/酸化ケイ素層のように4層構成の低反射層など多重干渉を利用した多層構成の低反射層としてもよい。
【0046】
これらの低反射層の製造方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などがある。あるいは金属アルコラート、金属キレートなどの有機金属化合物を浸積法あるいは印刷法、コーティング法などにより基体シート上に塗布し、その後、光照射あるいは乾燥により金属酸化物皮膜を形成して低反射層を得る方法もある。
【0047】
低反射層の厚さは、0.01〜2μmの範囲で適宜選択するとよい。これらの膜厚は、低屈折材料の屈折率により、一般式n×d=λ/4または一般式n×d=3λ/4(ただし、nは低屈折材料の屈折率、dは低屈折材料の膜厚、λは低反射中心波長をそれぞれ示す)を満たすように適宜選択するとよい。
【0048】
反射防止フィルムは、ポリエチレンテレフタレートなどの光透過性に優れたフィルムの表面に上記方法により低反射層を形成したものを例示することができる。低反射フィルムは、ポリエチレンテレフタレートなどの光透過性に優れたフィルムの表面に、フッ化マグネシウム、酸化ケイ素などの低屈折材料からなる金属酸化物を単体または高屈折材料からなる金属酸化物とともに蒸着して積層したものや、フッ素樹脂などの低屈折材料をコーティングしたものなどを例示することができる。
【0049】
インキ膜は、単一のNDフィルター1の全面に同一の濃度、同一の厚さで設けてもよく、異なる濃度あるいは異なる厚さで設けてもよい。異なる濃度などで設ける場合には、漸次増加する態様、線で区切られる態様などで設けることができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明にかかるNDフィルターは、単体のカメラ、ビデオカメラなどに利用できる他、携帯電話に一体化された静止画カメラ、動画カメラなどに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】個別のNDフィルターを複数含む印刷体の平面説明図である。
【図2】個別のNDフィルターの断面説明図である。
【符号の説明】
【0052】
1 個別のNDフィルター
10 印刷体
11 透明基板
12 インキ膜
13 低反射層
14 低反射層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光束の透過量を調節するためのNDフィルターにおいて、
透明基板上に、版とインキを用いる印刷方法によりインキ膜を形成したNDフィルターであって、前記インキは黒色の色材を含むものであり、前記黒色の色材は黒色顔料であることを特徴とするNDフィルター。
【請求項2】
前記黒色顔料がカーボン粒凝集体からなるカーボン粒子であり、個々の前記カーボン粒凝集体の最長長さをliとしたとき、liの算術平均値が15nm以下のカーボン粒子であることを特徴とする請求項1に記載したNDフィルター。
【請求項3】
前記版が凹版であることを特徴とする請求項1乃至2いずれかに記載したNDフィルター。
【請求項4】
前記インキ膜の表面に低反射層を形成したことを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載したNDフィルター。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−299136(P2008−299136A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−146004(P2007−146004)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(000231361)日本写真印刷株式会社 (477)
【Fターム(参考)】