説明

NMR測定用サンプルの製造方法、NMR測定方法、NMR測定用サンプルの製造装置、及び、分析システム

【課題】 NMR測定に必要な量の高極性の成分のサンプルを製造可能なNMR測定用サンプルの製造方法、該製造方法で製造されたサンプルのNMR測定方法、NMR測定に必要な量の高極性の成分のサンプルを製造するNMR測定用サンプルの製造装置、及び、該装置で製造されたサンプルをNMR測定する分析システムを提供すること。
【解決手段】 溶媒に溶解した試料を構成する複数の成分を分離カラム4で分離して溶媒に溶出し、各成分が溶出した溶媒毎に異なるトラップカラム14a〜14eの一端側から他端側に流し込んで各成分を各トラップカラムに吸着させ、各トラップカラムに吸着した各成分を重溶媒で溶出するNMR測定用サンプルを製造する方法であって、高極性の成分のトラップカラムに活性炭カラムを用い、活性炭カラムの他端側から一端側に重溶媒を流すことにより、高極性の成分のNMR測定用サンプルを製造する製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高極性の成分のNMR(Nuclear Magnetic Resonance)測定用サンプルの製造が可能なNMR測定用サンプルの製造方法、該製造方法で製造されたサンプルのNMR測定方法、高極性の成分のNMR測定用サンプルを製造するNMR測定用サンプルの製造装置、及び、該装置で製造されたサンプルをNMR測定する分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
LC−NMR(liquid chromatography-Nuclear Magnetic Resonance)装置は、高速液体クロマトグラフフィー(HPLC)で試料を分離しながら、単離することなく試料の各成分のNMRスペクトルを測定することが可能な装置であり、医薬品の開発において繁用されている。LC−NMRは、極めて豊富な構造情報を与えることから、未知の不純物、副生成物、あるいは代謝物等の構造決定に大きな威力を発揮する。しかし、LC−NMR装置による構造解析(NMR測定)は、一般に、他の分析機器と比べて感度が低いのが弱点である。例えば、LC−MS(Liquid Chromatography-Mass Spectrometry)装置による構造解析と比べた場合は、感度が2−3桁低いといわれている。そのため、上述のLC−NMR装置による構造解析では、構造解析そのものより、むしろ、解析対象の試料が微量、即ち、該試料の成分が微量であることにより解析が困難になることが多い。
【0003】
これを解決する手段の一つとして、HPLCによって試料を各成分に分離し、分離した各成分を成分毎にトラップカラムに吸着するカラムスイッチング法が考案されている(例えば、非特許文献1〜3参照)。具体的には、溶媒に溶解した試料を構成する複数の成分を分離カラムで分離して、該分離カラムから順次溶媒に溶出させる。そして、溶出する成分に応じて、複数のトラップカラムの中から分離カラムと連通するトラップカラムを切り替えて、各成分が溶出した溶媒をトラップカラムの一端側から他端側に流し込むことにより、各成分を成分毎にトラップカラムに吸着させる方法である。
【0004】
この方法によれば、各成分を分離カラムから繰り返し溶出させ、トラップカラムへの吸着量が適正なNMR測定に必要な量(以下、単に「NMR測定に必要な量」という。)となった成分から順にトラップカラムから溶出させることで、各成分についてNMR測定に必要な量を得ることができる。しかし、高極性の成分は、従来用いられてきたトラップカラム(逆相カラムなど)に吸着し難い。このため、上述の方法では、高極性の成分については、NMR測定に必要な量を得ることは困難であり、NMR測定は事実上不可能であった。
【0005】
グラファイトカーボンなどを充填剤とするカラムを用いてダイオキシン等の低極性成分を分離させることが特許文献1に開示されている。また、該カラムを用いて芳香族スルホン酸化合物を分離させることが非特許文献4に開示されている。グラファイトカーボンなどを充填剤とするカラムは、比較的吸着力が高いものとして知られている。しかし、このようなカラムであっても、高極性の成分、特に、芳香族スルホン酸化合物よりも極性の高い成分を充分に吸着することができない。従って、グラファイトカーボンなどを充填剤とするカラムをトラップカラムとして用いても、高極性の成分については、NMR測定に必要な量を得ることは困難であり、NMR測定は事実上不可能で有ることに変わりがない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−028598号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】中村洋監修、「分析試料前処理ハンドブック」、丸善株式会社、2003年1月10日、P.14-17、P.205-209
【非特許文献2】工藤正純、大久保正、菅原和信、「カラムスイッチング法を用いたHPLCによる生体試料中ニューキノロン系抗菌剤の測定法の開発と薬物相互作用への応用に関する研究」、薬学雑誌、日本薬学会、2001年、第121巻、第5号、P.319-326
【非特許文献3】一ノ木進、滝戸奈津子、藤井洋一、森田俊博、家入一郎、大坪健司、斉藤憲輝、「カラムスイッチング法を用いた自動逆相HPLCによる血清中および尿中のカルバリルとプロパニルの同時定量」、中毒研究、へるす出版、2003年、第16巻、P.171-178
【非特許文献4】グラファイトカーボンHPLCカラム:Hypercarb、[online]、[平成21年3月19日検索]インターネット<URL:http://www.chemco.jp/cn10/pg68.html〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、NMR測定に必要な量の高極性の成分のサンプルを製造可能なNMR測定用サンプルの製造方法、該製造方法で製造されたサンプルのNMR測定方法、NMR測定に必要な量の高極性の成分のサンプルを製造するNMR測定用サンプルの製造装置、及び、該装置で製造されたサンプルをNMR測定する分析システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、溶媒に溶解した試料を構成する複数の成分を分離カラムで分離して、各成分を該分離カラムから順次前記溶媒に溶出し、溶出した各成分に応じて、複数のトラップカラムの中から前記分離カラムと連通するトラップカラムを切り替えて、各成分が溶出した前記溶媒を前記各トラップカラムの一端側から他端側に流し込むことにより、各成分を前記各トラップカラムに吸着させ、前記各トラップカラムに吸着した各成分を重溶媒で溶出して、各成分のNMR測定用サンプルを製造する方法であって、前記分離カラムから溶出する成分のうち、高極性の成分を吸着する前記トラップカラムに活性炭カラムを用い、前記活性炭カラムの前記他端側から前記一端側に前記重溶媒を流すことにより、前記高極性の成分を前記活性炭カラムから溶出させることを特徴とするNMR測定用サンプルの製造方法を提供する。
【0010】
本発明に係るNMR測定用サンプルの製造方法は、背景技術に記載のカラムスイッチング法と同様に、溶媒に溶解した試料を構成する複数の成分を成分毎にトラップカラムに吸着させ、トラップカラムに吸着した成分を重溶媒で溶出することによりNMR測定用サンプルを製造するものである。本発明に係るNMR測定用サンプルの製造方法においては、高極性の成分を吸着するトラップカラムに活性炭カラムを用いている。活性炭カラムは吸着力が非常に高いため、高極性の成分であっても充分に吸着することができる。従って、本発明に係るNMR測定用サンプルの製造方法によれば、高極性の成分について、NMR測定に必要な量を活性炭カラムに吸着することができる。
また、本発明に係るNMR測定用サンプルの製造方法においては、分離カラムから高極性の成分が溶出した溶媒をトラップカラムの一端側から他端側に流し込むことにより、該成分をトラップカラムに吸着させる。活性炭カラムは吸着力が非常に高いため、分離カラムから溶出した高極性の成分は、活性炭カラムの一端側に主として吸着する。本発明に係るNMR測定用サンプルの製造方法においては、重溶媒を活性炭カラムの他端側から一端側に流して高極性の成分を溶出させる。上述のように、高極性の成分は活性炭カラムの一端側に主として吸着しているため、活性炭カラムの他端側から一端側に重溶媒を流すと、少量の重溶媒で活性炭カラムに吸着した高極性の成分を溶出させることができる。従って、本発明に係るNMR測定用サンプルの製造方法によれば、少量の重溶媒でNMR測定に必要な量の高極性の成分のサンプルを製造することができる。
また、少量の重溶媒でNMR測定に必要な量の高極性の成分を溶出できるため、高極性の成分の濃度が高い重溶媒を得ることができる。従って、例え、LC−NMR装置のNMR測定用のプローブの容積が小さい場合であっても、NMR測定に必要な量の高極性の成分をLC−NMR装置に収容できる。このため、本発明に係るNMR測定用サンプルの製造方法によれば、このような場合であっても、高極性の成分について適正なNMR測定が可能である。
【0011】
また、本発明は、上述のNMR測定用サンプルの製造方法によって製造されたNMR測定用サンプルをNMR測定することを特徴とするNMR測定方法を提供する。
【0012】
本発明は、溶媒に溶解した試料を構成する複数の成分を分離して、順次前記溶媒に溶出させる分離カラムと、前記分離カラムから溶出する各成分をぞれぞれ吸着する複数のトラップカラムと、重溶媒を供給する重溶媒供給部と、第1流路と、前記各トラップカラムがそれぞれ連通可能に取り付けられる複数の第2流路と、前記分離カラム及び前記重溶媒供給部の何れか一方を切替可能に前記第1流路の一端側に連通させる第1切替部と、前記第2流路の何れか1つを切替可能に前記第1流路の他端側に連通させる第2切替部とを備え、前記分離カラムを前記第1流路に前記第1切替部によって連通させ、前記分離カラムから前記溶媒に溶出する各成分に応じて、前記第1流路に連通させる前記トラップカラムを前記第2切替部によって切り替えて、各成分が溶出した前記溶媒を前記各トラップカラムに流し込むことにより各成分を前記トラップカラムに吸着させ、更に、前記重溶媒供給部を前記第1流路に前記第1切替部によって連通させ、前記第1流路に連通させる前記トラップカラムを前記第2切替部によって切り替えて、前記各トラップカラムに吸着した各成分を前記重溶媒供給部が供給する重溶媒で溶出させて、各成分のNMR測定用サンプルを製造するNMR測定用サンプルの製造装置であって、前記分離カラムから溶出する成分のうち、高極性の成分を吸着する前記トラップカラムが、活性炭カラムであり、前記活性炭カラムは、前記溶媒及び前記重溶媒の流れる向きが互いに逆になるように、一端側及び他端側のそれぞれが前記第2流路に着脱可能な構成とされていることを特徴とするNMR測定用サンプルの製造装置(以下、適宜、「第1のNMR測定用サンプルの製造装置」という。)を提供する。
【0013】
第1のNMR測定用サンプルの製造装置においても、高極性の成分を吸着するトラップカラムに活性炭カラムが用いられている。従って、第1のNMR測定用サンプルの製造装置は、NMR測定に必要な量の高極性の成分を活性炭カラムに吸着することができる。
また、活性炭カラムは、分離カラムから高極性の成分が溶出した溶媒及び活性炭カラムに吸着した該成分を溶出させる重溶媒の流れる向きが互いに逆になるように、一端側及び他端側のそれぞれが第2流路に着脱可能な構成とされている。例えば、活性炭カラムに溶媒を流すときは一端側を第2流路に取り付け、活性炭カラムに重溶媒を流すときは他端側を第2流路に取り付けると、溶媒及び重溶媒の流れる向きを互いに逆にすることができる。このように、溶媒を流すときに一端側を第2流路に取り付けていると、溶媒に溶出した高極性の成分は活性炭カラムの一端側に主として吸着される。このため、他端側を第2流路に取り付けて重溶媒を流せば、少量の重溶媒で活性炭カラムに吸着した高極性の成分を溶出させることができる。従って、第1のNMR測定用サンプルの製造装置は、少量の重溶媒でNMR測定に必要な量の高極性の成分のサンプルを製造することができる。
また、少量の重溶媒でNMR測定に必要な量の高極性の成分を溶出できるため、第1のNMR測定用サンプルの製造装置によって製造されたサンプルによれば、例え、LC−NMR装置のNMR測定用プローブの容積が小さくても、高極性の成分について適正なNMR測定が可能である。
【0014】
本発明は、溶媒に溶解した試料を構成する複数の成分を分離して、順次前記溶媒に溶出させる分離カラムと、前記分離カラムから溶出する各成分をぞれぞれ吸着する複数のトラップカラムと、重溶媒を供給する重溶媒供給部と、第1流路と、前記各トラップカラムがそれぞれ連通可能に取り付けられる複数の第2流路と、前記分離カラム及び前記重溶媒供給部の何れか一方を切替可能に前記第1流路の一端側に連通させる第1切替部と、前記第2流路の何れか1つを切替可能に前記第1流路の他端側に連通させる第2切替部とを備え、前記分離カラムを前記第1流路に前記第1切替部によって連通させ、前記分離カラムから前記溶媒に溶出する各成分に応じて、前記第1流路に連通させる前記トラップカラムを前記第2切替部によって切り替えて、各成分が溶出した前記溶媒を前記各トラップカラムに流し込むことにより各成分を前記トラップカラムに吸着させ、更に、前記重溶媒供給部を前記第1流路に前記第1切替部によって連通させ、前記第1流路に連通させる前記トラップカラムを前記第2切替部によって切り替えて、前記各トラップカラムに吸着した各成分を前記重溶媒供給部が供給する重溶媒で溶出させて、各成分のNMR測定用サンプルを製造するNMR測定用サンプルの製造装置であって、前記分離カラムから溶出する成分のうち、高極性の成分を吸着する前記トラップカラムが、活性炭カラムであり、更に、前記活性炭カラムの一端側及び他端側の何れか一方を切替可能に前記第2流路に連通させる第3切替部を備えることを特徴とするNMR測定用サンプルの製造装置(以下、適宜、「第2のNMR測定用サンプルの製造装置」という。)を提供する。
【0015】
第2のNMR測定用サンプルの製造装置においても、高極性の成分を吸着するトラップカラムに活性炭カラムが用いられている。また、第2のNMR測定用サンプルの製造装置は、活性炭カラムの一端側及び他端側の何れか一方を切替可能に第2流路に連通させる第3切替部を備える。例えば、分離カラムから高極性の成分が溶出した溶媒を活性炭カラムに流すときは一端側を第2流路に連通させ、活性炭カラムに吸着した成分を溶出させる重溶媒を活性炭カラムに流すときは他端側を第2流路に連通させることで、溶媒及び重溶媒が流れる向きを互いに逆にすることができる。
従って、第2のNMR測定用サンプルの製造装置は、第1のNMR測定用サンプルの製造装置と同様に、少量の重溶媒でNMR測定に必要な量の高極性の成分を得ることができ、第1のNMR測定用サンプルの製造装置と同様の効果を奏する。
【0016】
本発明は、請求項3又は4に記載のNMR測定用サンプルの製造装置と、請求項3又は4に記載のNMR測定用サンプルの製造装置と、該NMR測定用サンプルの製造装置が製造したNMR測定用サンプルをNMR測定するNMR測定装置とを備える分析システムを提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、NMR測定に必要な量の高極性の成分のサンプルを製造可能なNMR測定用サンプルの製造方法、該製造方法で製造されたサンプルのNMR測定方法、NMR測定に必要な量の高極性の成分のサンプルを製造するNMR測定用サンプルの製造装置、及び、該装置で製造されたサンプルをNMR測定する分析システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本実施形態の分析システムの模式図である。
【図2】図2は、第2流路、トラップカラム、第4流路の着脱構造を示す模式図である。
【図3】図3は、本実施形態の分析システムの模式図である。
【図4】図4は、成分が主としてトラップカラムの一端側に吸着した状態を示す模式図である。
【図5】図5は、本実施形態の分析システムの模式図である。
【図6】図6は、第3切替部の模式図である。
【図7】図7は、実施例1における化合物Aの測定結果を示すグラフである。
【図8】図8は、実施例2における化合物Aの測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を用いて、本実施形態の分析システムを説明する。図1は、本実施形態の分析システムの模式図である。本実施形態の分析システムは、NMR測定用サンプルの製造装置100(以下、単に「製造装置100」という)とNMR測定装置200とを備える。製造装置100は、高速液体クロマトグラフィー装置(以下、「HPLC装置」という。)110を備える。
【0020】
HPLC装置110は、溶媒タンク1と、第1ポンプ2と、インジェクター3と、分離カラム4と、第1検出器5とを有する。溶媒タンク1には、溶媒が貯留される。該溶媒には、軽溶媒や重溶媒を用いることができる。該溶媒として、経済的な観点から軽溶媒が好ましい。軽溶媒とは、分子中の水素原子が天然存在比以上に重水素で置換されていない溶媒である。軽溶媒の具体例として、アセトニトリル、水、メタノール等が挙げられる。また、溶媒タンク1に貯留される溶媒として、軽溶媒を複数混合したものを用いることもできる。
【0021】
第1ポンプ2は、溶媒タンク1に貯留された溶媒をインジェクター3側に送液する。第1ポンプ2は、1個に限定されず、複数個であってもよい。インジェクター3は、第1ポンプ2で送液された溶媒に試料を注入する。分離カラム4は、インジェクター3によって溶媒に注入され、該溶媒に溶解した試料を構成する複数の成分を分離して、分離した各成分を順次(時間差をおいて)溶媒に溶出する。本実施形態では、分離カラム4には逆相カラムが用いられている。第1検出器5は、分離カラム4を通過した溶媒に試料を構成する成分が含まれているか否かに基づいて、分離カラム4から成分が溶出しているか否かを検出する。本実施形態では、第1検出器5には、紫外線検出器が用いられている。尚、第1検出器5は、紫外線検出器に限定されず、例えば、示差屈折計検出器や熱伝導度検出器等を用いることもできる。
【0022】
また、製造装置100は、重溶媒供給部6を備える。重溶媒供給部6は、重溶媒が貯留される重溶媒タンク7と、該重溶媒を送液する第2ポンプ8とを有する。第2ポンプ8は、1個に限定されず、複数個であってもよい。重溶媒とは、分子に含まれる水素原子の一部または全部を重水素に置き換えた溶媒である。重溶媒の具体例として、重水(DO)、重メタノール(メタノール−d)、重アセトニトリル(アセトニトリル−d)等が挙げられる。また、重溶媒タンク7に貯留される重溶媒として、重溶媒を複数混合したものを用いることもできる。
【0023】
また、製造装置100は第1切替部9を備え、第1切替部9は、第1検出器5を及び重溶媒供給部6の何れか一方を切替可能に第1流路10の一端側に連通させる。また、第1流路10の他端側は、第2切替部11によって、各第2流路12a〜12e及び第3流路13の何れか1つの一端側と、切替可能に連通している。
【0024】
各第2流路12a〜12eの他端側には、複数の各トラップカラム14a〜14eの一端側Aがそれぞれ連通可能に取り付けられている。尚、本実施形態では、トラップカラムの数は5であるが、トラップカラムの数は限定されるものでなく、試料を構成する成分の数に応じて変更することができる。図2に示す第2流路12aのように、各第2流路12a〜12eの他端側は、外周面にネジ溝21が形成されている。
【0025】
各トラップカラム14a〜14eは、分離カラム4から溶出する各成分を吸着する。各トラップカラム14a〜14eのうち少なくとも1つのトラップカラムには、空カラムに充填される充填剤が活性炭である活性炭カラムが用いられている(本実施形態では、トラップカラム14aが活性炭カラムであり、適宜、トラップカラム14aを「活性炭カラム14a」という。)。充填剤として用いられる活性炭には、木材、褐炭、泥炭などを活性化剤としての薬品(塩化亜鉛、リン酸など)で処理して乾留した炭、あるいは木炭などを水蒸気で活性化された炭を用いることができる。このような炭は、吸着力が強く、大部分が炭素質で形成されている。充填剤として用いられる活性炭は、細孔径が250Åよりも小さいか、比表面積が120m/gよりも大きいことが好ましく、細孔径が12〜200Å及び/または比表面積が500〜2500 m/gであることが更に好ましい。活性炭の細孔径及び比表面積は、例えば、JIS規格のK1474の方法で測定することができる。尚、本実施形態では、他のトラップカラム14b〜14eの充填剤は、特に限定されず、公知の物を用いることができる。
【0026】
図2に示すトラップカラム14aのように、各トラップカラム14a〜14eは、一端側A及び他端側Bのそれぞれに接続部31a、31bが設けられている。接続部31a、31bは、トラップカラム14aの一端側A及び他端側Bに設けられたトラップカラム14aの内部と外部とを連通させる連通孔32a、32bから、トラップカラム14aの内側に延びるように形成されている。接続部31a、31bの内側には、各第2流路12a〜12eに形成されたネジ溝21と対応するネジ溝(図示しない)が形成されている。このような接続部31a、31bにより、各トラップカラム14a〜14eは、一端側A及び他端側Bのそれぞれが各第2流路12a〜12eの他端側に着脱可能とされている。
【0027】
図1に示すように、各トラップカラム14a〜14eの他端側Bには、複数の各第4流路15a〜15eの一端側がそれぞれ連通可能に取り付けられている。図2に示す第4流路15aのように、各第4流路15a〜15eの一端側には、各トラップカラム14a〜14eの接続部31a、31bに形成されたネジ溝に対応するネジ溝41が外周面に形成されている。このようなネジ溝41により、各第4流路15a〜15eは、各トラップカラム14a〜14eの一端側A及び他端側Bのそれぞれに着脱可能とされている。
【0028】
図1に示すように、各第4流路15a〜15e及び第3流路13の何れか1つの他端側が、第4切替部16によって、切替可能に第5流路17の一端側に連通している。第5流路17の他端側は、第5切替部18によって、廃液口19及び第2検出器20を介してNMR測定装置200の何れか一方と切替可能に連通している。第2検出器20は、第5流路17から流れて来た溶媒に試料を構成する成分が含まれているか否かを検出する。NMR測定装置200は、第2検出器20の検出タイミングに基づいてNMR測定を行う。本実施形態では、第2検出器20には、紫外線検出器が用いられている。尚、第2検出器20は、紫外線検出器に限定されず、例えば、示差屈折計検出器や熱伝導度検出器等を用いることもできる。
【0029】
以上に説明した分析システムを用いて、NMR測定を行うことについて説明する。まず、図1に示すように、第1切替部9によって第1検出器5と第1流路10とを連通させ、第2切替部11によって第1流路10と第3流路13とを連通させ、第4切替部16によって第3流路13と第5流路17とを連通させ、第5切替部18によって第5流路17と廃液口19とを連通させる。次に、第1ポンプ2で溶媒タンク1に貯留されている溶媒を送液し、インジェクター3で試料を該溶媒に注入する。注入された試料は、溶媒に溶解した状態で分離カラム4に送られる。送られた試料の各成分が分離カラム4から溶出するまでの間は、第1ポンプ2で送液された溶媒は、第1検出器5、第1流路10、第3流路13、及び、第5流路17を介して廃液口19に排出される。
【0030】
分離カラム4から試料の成分が溶出し、第1検出器5が分離カラム4から成分が溶出していることを最初に検出すると、第2切替部11は第1流路10と第2流路12aとを連通させ、第4切替部16は第4流路15aと第5流路17とを連通させる。これにより、第1ポンプ2で送液された溶媒は、第1検出器5、第1流路10、第2流路12a、活性炭カラム14aの一端側A、活性炭カラム14aの他端側B、第4流路15a、及び、第5流路17を介して廃液口19に排出される。このように、活性炭カラム14aを溶媒が流れることで、最初に溶出した成分の吸着が活性炭カラム14aで行われることになる。
【0031】
その後、最初に溶出した成分が分離カラム4から溶出しなくなり、第1検出器5が分離カラム4から成分が溶出していないことを検出すると、第2切替部11は第1流路10と第3流路13とを連通させ、第4切替部16は第3流路13と第5流路17とを連通させる。これにより、第1ポンプ2で送液された溶媒は、再び、第1検出器5、第1流路10、第3流路13、及び、第5流路17を介して廃液口19に排出される。
【0032】
その後、再び第1検出器5が分離カラム4から成分が溶出したことを検出すると、この2回目の検出時においては、第2切替部11は第1流路10と第2流路12bとを連通させ、第4切替部16は第4流路15bと第5流路17とを連通させる。これにより、第1ポンプ2で送液された溶媒は、第1検出器5、第1流路10、第2流路12b、活性炭カラム14bの一端側A、活性炭カラム14bの他端側B、第4流路15b、及び、第5流路17を介して廃液口19に排出される。これにより、2番目に溶出した成分の吸着はトラップカラム14bで行われることになる。
【0033】
その後、2番目に溶出した成分が分離カラム4から溶出しなくなり、第1検出器5が分離カラム4から成分が溶出していないことを検出すると、第2切替部11は第1流路10と第3流路13とを連通させ、第4切替部16は第3流路13と第5流路17とを連通させる。
【0034】
以上のように、分離カラム4から各成分が溶出すると、溶媒が流れる流路が第2切替部11及び第4切替部16によって切り替えられ、各成分の吸着が異なるトラップカラム14a〜14eで行われる。
【0035】
上述のように、本実施形態では、分離カラム4に逆相カラムが用いられているため、極性が高い順で、各成分が分離カラム4から溶媒に溶出する。また、上述のように、本実施形態では、最初に溶出した成分の吸着が活性炭カラム14aで行われる。このため、試料において最も極性の高い成分の吸着が活性炭カラム14aで行われることになる。活性炭カラム14aは吸着力が非常に高いため、高極性の成分でも充分に吸着する。このため製造装置100によれば、試料において最も極性の高い高極性の成分も充分に吸着することができる。
【0036】
以上のように、各トラップカラム14a〜14eで各成分を吸着させると、再び、上記においてインジェクター3で注入した試料と同種の試料を再びインジェクター3で注入し、該試料を構成する各成分の吸着を上記のように行う。このような各成分の吸着は繰り返し行うことができ、例えば、1回当りの吸着量が1μgであり、NMR測定に必要な量が10μgである場合は、10回以上行うことが好ましい。
【0037】
次に、各トラップカラム14a〜14eに残留している溶媒、即ち、各成分をトラップカラム14a〜14eに吸着させる際に第1ポンプ2で送液された溶媒を重溶媒に置換する。具体的には、図3に示すように、第1切替部9によって重溶媒供給部6と第1流路10とを連通させ、第2切替部11によって第1流路10と第2流路12aとを連通させ、第4切替部16によって第4流路15aと第5流路17とを連通させ、第5切替部18によって第5流路17と廃液口19とを連通させる。そして、重溶媒供給部6の第2ポンプ8によって重溶媒タンク7に貯留された重溶媒を第1流路10側に送液する。これにより、重溶媒が第1流路10、第2流路12aを通って、活性炭カラム14aに流れ込み、活性炭カラム14aに残留している溶媒が活性炭カラム14aの他端側から流出し、該溶媒が重溶媒に置換される。このように、活性炭カラム14aについて溶媒の置換を行った後、第2切替部11、及び、第4切替部16によって、重溶媒が供給されるトラップカラム14b〜14eを切り替えて、他のトラップカラム14b〜14eについても溶媒の置換を行う。
【0038】
次に、各トラップカラム14a〜14eのうち、一端側Aに成分が主として吸着しているトラップカラムについて、一旦、第2流路、及び、第4流路から取り外し、該トラップカラムの一端側Aを第4流路に装着し、他端側Bを第2流路に装着する。例えば、活性炭カラム14aの場合は、吸着力が非常に高いため、高極性の成分は、図4(a)に示すように活性炭カラム14aの一端側Aに主として吸着する。このため、活性炭カラム14aについては、上述のように、一旦、第2流路12a、及び、第4流路15aから取り外し、図4(b)に示すように、一端側Aを第4流路15aに装着し、他端側Bを第2流路12aに装着する。尚、図5に示すように、本実施形態では、活性炭カラム14a〜14eのうち、活性炭カラム14aのみ、一端側Aを第4流路に装着し、他端側Bを第2流路に装着したものとする。
【0039】
次に、図5に示すように、第1切替部9によって重溶媒供給部6と第1流路10とを連通させ、第2切替部11によって第1流路10と第2流路12aとを連通させ、第4切替部16によって第4流路15aと第5流路17とを連通させ、第5切替部18によって第5流路17とNMR測定装置200とを第2検出器20を介して連通させる。次に、重溶媒供給部6の第2ポンプ8で重溶媒タンク7に貯留された重溶媒を第1流路10側に送液する。これにより、重溶媒が第1流路10、第2流路12a、活性炭カラム14aの他端側B、活性炭カラム14aの一端側A、第4流路15a、第5流路17、及び、第2検出器20を介してNMR測定装置200に送液される。図4(b)に示すように、高極性の成分は一端側Aに吸着しているので、少量の重溶媒で高極性の成分を活性炭カラム14aから溶出させることができる。
【0040】
よって、製造装置100によれば、少量の重溶媒で活性炭カラム14aに吸着したNMR測定に必要な量の高極性の成分を製造することができる。また、少量の重溶媒でNMR測定に必要な量の高極性の成分を溶出できるため、高極性の成分の濃度が高い重溶媒を得ることができる。従って、たとえ、NMR装置200のNMR測定用のプローブの容積が小さい場合であっても、NMR測定に必要な量の高極性の成分を該プローブに収容できる。このため、製造装置100によれば、このような場合であっても、高極性の成分について適正なNMR測定が可能である。
【0041】
高極性の成分のNMR測定が終了すると、第2切替部11、及び、第4切替部16によって、重溶媒が供給されるトラップカラム14b〜14eを切り替えて、他のトラップカラム14b〜14eに吸着した成分についても、同様に溶出させてNMR測定を行う。これによりNMR測定が終了する。
【0042】
また、上述のように、各トラップカラム14a〜14eを第2流路12a〜12e及び第4流路15a〜15eに対して着脱すること無く、各トラップカラム14a〜14eの一端側Aに主として吸着した成分を少量の重溶媒で溶出させる構成として、例えば、図6に示す第3切替部50を備えた構成を挙げることができる。図6に示すように、第3切替部50は、第1切替弁51と第2切替弁52とを備える。第1切替弁51の第1流入出口51aは、第2流路12aに連通している。第2流入出口51bは、活性炭カラム14aの一端側Aに連通している。第3流入出口51cは、第2切替弁52の第1流入出口52aに連通している。第4流入出口51dは、第2切替弁52の第3流入出口52cに連通している。第2切替弁52の第2流入出口52bは、活性炭カラム14aの他端側Bに連通している。第4流入出口52dは、第4流路15aに連通している。図6(a)に示すように、第1切替弁51の第1流入出口51aと第2流入出口51bとが連通し、第1切替弁51の第3流入出口51cと第4流入出口51dとが連通し、第2切替弁52の第1流入出口52aと第3流入出口52cとが連通し、第2切替弁52の第2流入出口52bと第4流入出口52dとが連通した状態では、活性炭カラム14aの一端側Aが第2流路12aに連通し、活性炭カラム14aの他端側Bが第4流路15aに連通している。即ち、この状態では、溶媒又は重溶媒は、活性炭カラム14aの一端側Aから他端側Bに流れ込む。一方、図6(b)に示すように、第1切替弁51の第1流入出口51aと第3流入出口51cとが連通し、第1切替弁51の第2流入出口51bと第4流入出口51dとが連通し、第2切替弁52の第1流入出口52aと第2流入出口52bとが連通し、第2切替弁52の第3流入出口52cと第4流入出口52dとが連通した状態では、活性炭カラム14aの他端側Bが第2流路12aに連通し、活性炭カラム14aの一端側Aが第4流路15aに連通している。即ち、この状態では、溶媒又は重溶媒は、活性炭カラム14aの他端側Bから一端側Aに流れる。よって、図6に示す第3切替部50によれば、活性炭カラム14aにおける溶媒及び重溶媒の流れる向きを他端側Bから一端側Aにすることができるので、活性炭カラム14aを第2流路12a及び第4流路15aに対して着脱すること無く、活性炭カラム14aの一端側Aに主として吸着した成分を少量の重溶媒で溶出させることができる。
【0043】
尚、各トラップカラム14a〜14eに残留している溶媒を重溶媒に置換する置換用の重溶媒と、各トラップカラム14a〜14eに吸着した成分を溶出させる重溶媒は、同じ種類のものであっても異なる種類のものであってもよい。置換用の重溶媒には、置換の際にトラップカラム14a〜14eに吸着した成分が溶出し難い重溶媒を用いることが好ましい。また、各トラップカラム14a〜14eに吸着した成分を溶出させる重溶媒には、溶出させる成分が溶解し易い重溶媒を用いることが好ましい。
【実施例】
【0044】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0045】
溶媒タンク1から第1流路10、第3流路13、第5流路17を介して廃液口19に下記溶媒が排出されるようにした状態で、第1ポンプ2で下記流速で下記溶媒を送液すると共に、高極性の化合物Aを含む試料をインジェクター3で注入した。尚、活性炭カラム14aの一端側Aが第2流路12aに、活性炭カラム14aの他端側Bが第4流路15aに取り付けられていた。実施例1におけるHPLC装置110等の詳細について下記に示す。
HPLC装置110:(株)島津製作所製、製品名「Shimadzu LC-10A CLASS-vp」
分離カラム4:ジーエルサイエンス(株)製、製品名「Inertsil(登録商標)3 series」、粒子径5μm、内径4.6mm、長さ250mm
溶媒:5 mmol/l AcONH4:CH3CN=9:1(isocratic)
溶媒の流速:1.0 mL/min
分離カラム4の温度:40℃
試料における化合物Aの濃度:10 mg/mL(溶媒:水)
化合物Aの注入量:10 μL
また、化合物Aは、(4R、5S、6S)−6−[(1R)−1−ヒドロキシエチル]−4−メチル−3−({4−[(5S)−5−メチル−2、5−ジヒドロ−1H−ピロール−3−イル]−1、3−チアゾール−2−イル}スルファニル)−7−オキソ−1−アザビシクロ[3.2.0]ヘプト−2−エン−2−カルボン酸である(化合物Aの製造については、国際公開番号WO02/38564号公報参照)。また、実施例1及び下記実施例2〜4においては、内径4.6mm、長さ30mmのHPLC用空カラムに、約500mgの活性炭(細孔径12〜200Å、比表面積500〜2500m/g)を充填して作製したものを活性炭カラム14aとして用いた。
【0046】
化合物Aが分離カラム4で分離された後、第1流路10と第2流路12aと、第4流路15aと第5流路17を連通させて、化合物Aを活性炭カラム14aに吸着させた。その後、溶媒を第1ポンプ2で約1時間送液し続けたが、この間に活性炭カラム14aの他端側Bから化合物Aが溶出していることは確認できなかった。その後、活性炭カラム14aの一端側Aを第4流路15aに、他端側Bを第2流路12aに取り付け、更に、第1切替部9によって重溶媒供給部6と第1流路10とを連通させ、第5切替部18によって、第5流路17と検出器20を介してNMR測定装置200と連通させた。そして、重溶媒供給部6から重メタノールを活性炭カラム14aに供給し、活性炭カラム14aの他端側Bから一端側Aに重メタノールを流し、活性炭カラム14aの一端側Aから流出する化合物Aを第2検出器20で確認した(図7参照)。尚、第2検出器20には紫外線検出器を用い、検出波長を254nmとした。図7の縦軸は紫外線強度、横軸は時間である。紫外線強度のピークが現れた時間は、化合物Aに対応するものであった。また、強度は、NMR測定に必要な量に対応するものであった。よって、実施例1により、高極性の化合物AのNMR用サンプルを製造することができたことが確認できた。尚、実施例1では、化合物Aを活性炭カラム14aから溶出させる重溶媒として重メタノールを用いたが、活性炭カラム14aから溶出させる重溶媒は化合物の物性に応じて選択でき、本発明においては、活性炭カラム14aに吸着した成分を溶出させる重溶媒は、重メタノールに限定されない。
【実施例2】
【0047】
実施例2において、溶媒を第1ポンプ2で約1時間送液し続けるまでは、実施例1と同様である。実施例2では、この後、活性炭カラム14aの一端側Aを第4流路15aに、他端側Bを第2流路12aに取り付けることをせず、第1切替部9によって、重溶媒供給部6と第1流路10とを連通させ、第5切替部18によって、第5流路17と検出器20を介してNMR測定装置200と連通させた。その後、重溶媒供給部6から重水を活性炭カラム14aに供給して、活性炭カラム14aに残留した溶媒を重水で置換した。尚、置換は18分行った。置換中、活性炭カラム14aの他端側Bから化合物Aが溶出していることは第2検出器20により確認できなかった(図8参照)。第2検出器20には、実施例1と同様に、紫外線検出器を用い、検出波長を254nmとした。図8の縦軸は紫外線強度、横軸は時間である。このことから、置換用の重溶媒として重水を用いれば、活性炭カラム14aに吸着した化合物Aを溶出させることなく置換ができることが分かった。
【実施例3】
【0048】
リン酸緩衝液(pH 7.4)10mLに溶解した化合物A(100mg)とシステイン塩酸塩(148mg)の混合物を37℃で44時間加熱攪拌して得られた化合物のうち任意の1つの化合物Bを含む試料を作製した。溶媒タンク1から第1流路10、第3流路13、第5流路17を介して廃液口19に下記溶媒が排出されるようにした状態で、第1ポンプ2で下記流速で下記溶媒を送液し、作製した試料をインジェクター3で注入した。実施例3におけるHPLC装置等の詳細について下記に示す。
HPLC装置110:(株)島津製作所製、製品名「Shimadzu LC-10A CLASS-vp」
分離カラム4:(株)資生堂、製品名「SHISEIDO CAPCELL PAK C18 UG」、内径20 mm、長さ250 mm
溶媒:10 mmol/l AcONH4(pH 7.0):CH3CN=9:1
溶媒の流速:2.0 mL/min
分離カラム4の温度:25℃
試料における化合物Bの濃度:20 mg/mL(溶媒:水)
化合物Bの注入量 :200 μL
【0049】
分離カラム4における保持時間が約40分経過した段階で、第1流路10と第2流路12aと、第4流路15aと第5流路17を連通させて、分離カラム4における保持時間が40分程度の化合物Bを活性炭カラム14aに吸着させた。該吸着時においては、活性炭カラム14aの一端側Aが第2流路12aに、他端側Bが第4流路15aに取り付けられていた。その後、活性炭カラム14aの一端側Aを第4流路15aに、他端側Bを第2流路12aに取り付け、重溶媒供給部6と第1流路10とを連通させ、第5流路17とNMR測定装置200とを第2検出器20を介して連通させた。その後、重溶媒供給部6から重アセトニトリルを活性炭カラム14aに供給し、活性炭カラム14aに吸着した化合物Bを活性炭カラム14aから溶出させ、化合物Bが溶出した重溶媒を第2検出器20で検出して、NMR装置200のNMR測定用のプローブに送液した。その結果、化合物BのNMR測定を適正に行うことができた。
【実施例4】
【0050】
リン酸緩衝液(pH 7.4)10mLに溶解した化合物A(100mg)とシステイン塩酸塩(148mg)の混合物を37℃で44時間加熱攪拌して得られた化合物のうち化合物Bと異なる任意の1つの化合物Cを含む試料を作製した。化合物Bに代えて化合物Cが試料に含まれている点、分離カラム4における保持時間が約50分経過した段階で、第1流路10と第2流路12aを連通させ、第4流路15aと第5流路17とを連通させた点を除いて、実施例3と同条件で、化合物CのNMR測定を行った。実施例4においても、化合物CのNMR測定を適正に行うことができた。
【比較例】
【0051】
実施例1〜4でトラップカラムとして用いた活性炭カラムを表1に示す種々のカラムに変更し、実施例1と同様の条件でそれぞれのカラムについて化合物Aの吸着を試みた。
【表1】

標準となる粒子径5μm のC18逆相カラム(比較例1)に比べて、粒子径が小さいカラム(比較例2、3)および固定相のアルキル鎖が長いカラム(比較例4)は保持能力が高いので、高極性化合物をトラップするには適したカラムであると考えられるが、何れのカラムにおいても化合物Aは吸着されなかった。高極性化合物の分離に有用であるとされるグラファイトカーボンカラム(比較例5)においても化合物Aはトラップされなかった。グラファイトカーボンは、活性炭よりも細孔径が大きく比表面積が小さいことから、吸着力の差が影響したと考えられる。高極性化合物の分離に有用であると考えられるその他のカラム(比較例6、7)も化合物Aはトラップされなかった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明に係るNMR測定用サンプルの製造方法、NMR測定方法、NMR測定用サンプルの製造装置、及び、分析システムを用いると、今まで困難であった高極性の成分のNMR測定が容易に実施できるようになる。すなわち、本発明は、高極性の医薬品または医薬品候補化合物の代謝混合物の構造解析が可能になる。従って、本発明は、創薬研究に大きな貢献を成し得る。
【符号の説明】
【0053】
2…第1ポンプ、8…第1ポンプ、9…第1切替部、10…第1流路、11…第2切替部、12a〜12e…第2流路、13…第3流路、15a〜15e…第4流路、16…第4切替部、17…第5流路、A…一端側、B…他端側

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒に溶解した試料を構成する複数の成分を分離カラムで分離して、各成分を該分離カラムから順次前記溶媒に溶出し、溶出した各成分に応じて、複数のトラップカラムの中から前記分離カラムと連通するトラップカラムを切り替えて、各成分が溶出した前記溶媒を前記各トラップカラムの一端側から他端側に流し込むことにより、各成分を前記各トラップカラムに吸着させ、前記各トラップカラムに吸着した各成分を重溶媒で溶出して、各成分のNMR測定用サンプルを製造する方法であって、
前記分離カラムから溶出する成分のうち、高極性の成分を吸着する前記トラップカラムに活性炭カラムを用い、
前記活性炭カラムの前記他端側から前記一端側に前記重溶媒を流すことにより、前記高極性の成分を前記活性炭カラムから溶出させることを特徴とするNMR測定用サンプルの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法で製造されたNMR測定用サンプルをNMR測定することを特徴とするNMR測定方法。
【請求項3】
溶媒に溶解した試料を構成する複数の成分を分離して、順次前記溶媒に溶出させる分離カラムと、
前記分離カラムから溶出する各成分をぞれぞれ吸着する複数のトラップカラムと、
重溶媒を供給する重溶媒供給部と、
第1流路と、
前記各トラップカラムがそれぞれ連通可能に取り付けられる複数の第2流路と、
前記分離カラム及び前記重溶媒供給部の何れか一方を切替可能に前記第1流路の一端側に連通させる第1切替部と、
前記第2流路の何れか1つを切替可能に前記第1流路の他端側に連通させる第2切替部とを備え、
前記分離カラムを前記第1流路に前記第1切替部によって連通させ、前記分離カラムから前記溶媒に溶出する各成分に応じて、前記第1流路に連通させる前記トラップカラムを前記第2切替部によって切り替えて、各成分が溶出した前記溶媒を前記各トラップカラムに流し込むことにより各成分を前記トラップカラムに吸着させ、更に、前記重溶媒供給部を前記第1流路に前記第1切替部によって連通させ、前記第1流路に連通させる前記トラップカラムを前記第2切替部によって切り替えて、前記各トラップカラムに吸着した各成分を前記重溶媒供給部が供給する重溶媒で溶出させて、各成分のNMR測定用サンプルを製造するNMR測定用サンプルの製造装置であって、
前記分離カラムから溶出する成分のうち、高極性の成分を吸着する前記トラップカラムが、活性炭カラムであり、
前記活性炭カラムは、前記溶媒及び前記重溶媒の流れる向きが互いに逆になるように、一端側及び他端側のそれぞれが前記第2流路に着脱可能な構成とされていることを特徴とするNMR測定用サンプルの製造装置。
【請求項4】
溶媒に溶解した試料を構成する複数の成分を分離して、順次前記溶媒に溶出させる分離カラムと、
前記分離カラムから溶出する各成分をぞれぞれ吸着する複数のトラップカラムと、
重溶媒を供給する重溶媒供給部と、
第1流路と、
前記各トラップカラムがそれぞれ連通可能に取り付けられる複数の第2流路と、
前記分離カラム及び前記重溶媒供給部の何れか一方を切替可能に前記第1流路の一端側に連通させる第1切替部と、
前記第2流路の何れか1つを切替可能に前記第1流路の他端側に連通させる第2切替部とを備え、
前記分離カラムを前記第1流路に前記第1切替部によって連通させ、前記分離カラムから前記溶媒に溶出する各成分に応じて、前記第1流路に連通させる前記トラップカラムを前記第2切替部によって切り替えて、各成分が溶出した前記溶媒を前記各トラップカラムに流し込むことにより各成分を前記トラップカラムに吸着させ、更に、前記重溶媒供給部を前記第1流路に前記第1切替部によって連通させ、前記第1流路に連通させる前記トラップカラムを前記第2切替部によって切り替えて、前記各トラップカラムに吸着した各成分を前記重溶媒供給部が供給する重溶媒で溶出させて、各成分のNMR測定用サンプルを製造するNMR測定用サンプルの製造装置であって、
前記分離カラムから溶出する成分のうち、高極性の成分を吸着する前記トラップカラムが、活性炭カラムであり、
更に、前記活性炭カラムの一端側及び他端側の何れか一方を切替可能に前記第2流路に連通させる第3切替部を備えることを特徴とするNMR測定用サンプルの製造装置。
【請求項5】
請求項3又は4に記載のNMR測定用サンプルの製造装置と、
該NMR測定用サンプルの製造装置が製造したNMR測定用サンプルをNMR測定するNMR測定装置とを備える分析システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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