説明

NOTCH3タンパク質発現および/またはNOTCH3のコード領域を調節するための手段および方法;CADASILの処置におけるその組成物および使用

本発明はとりわけ、NOTCH3の発現および/またはタンパク質コードドメインを調節するための手段および方法を提供する。1つの局面において、本発明はNOTCH3を発現する細胞内またはそのすぐ近くのNOTCH3タンパク質の上昇したレベルを少なくとも低減させるための方法を提供し、前記方法は、NOTCH3 mRNAまたはプレmRNAに対して特異的なアンチセンスオリゴヌクレオチドを前記細胞に提供することによって、前記NOTCH3タンパク質の生成を減少させるか、または前記NOTCH3 mRNAもしくはプレmRNAのタンパク質コード領域を変えるステップを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学および医学の分野に関する。特に、本発明はEGF反復を含有するタンパク質、たとえばNOTCH3など、その中の突然変異、および突然変異を克服する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮質下梗塞および白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症(Cerebral autosomal dominant arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy:CADASIL)は、NOTCH3の突然変異によってもたらされる成人発症性(14〜86歳)の優性遺伝性の疾患であり、再発性の皮質下梗塞、認知症、ならびにより低頻度の偏頭痛および精神症状を特徴とする。NOTCH3は33個のエクソンを有し、CADASILに関連するNOTCH3突然変異によって、所与の細胞外上皮成長因子(epidermal growth factor:EGF)様(−like)の反復(EGFL反復)ドメイン内のシステイン残基の数が不均一となり、それは最初の5個のEGFL反復をコードするエクソン3から6における強力なクラスター化を伴う。CADASILにおける典型的なMRI特徴は、多巣性ラクナ梗塞、および前部側頭葉の関与する大脳白質のびまん性T2強調超強度を含む。電子顕微鏡観察(Electronmicroscopy:EM)では、平滑筋細胞の基底膜のすぐ近くの細動脈の媒質中に顆粒状オスミウム酸親和性材料(granular osmiophilic material:GOM)が存在することが示され、これはCADASILに特徴的なものである。
【0003】
この顆粒状オスミウム酸親和性材料の同一性は部分的にしか知られていないが、変異型NOTCH3タンパク質を含有することが示されている。
【0004】
本発明のCADASIL表現型は、NOTCH3遺伝子の突然変異によってもたらされる。この遺伝子は血管平滑筋細胞(vascular smooth muscle cells:VSMC)および周皮細胞で発現され、細胞シグナル伝達機能を有する膜貫通型受容体であるNOTCH3タンパク質をコードしている。CADASILの患者においては、変性したVSMCの表面上にNOTCH3外部ドメインが蓄積しており、加えてVSMCの近くに顆粒状オスミウム酸親和性堆積物(GOM)が蓄積している。VSMC変性は血管の反応性の障害および大脳の血流の減少をもたらすことによって、再発する脳梗塞および進行性の認知低下をもたらす。CADASILは身体全体の動脈に影響するにもかかわらず、未知の理由からこの疾患は特に中枢神経系に現れる。
【0005】
分子および細胞レベルでのこの疾患の病原性はまだわずかしか分かっていないが、タンパク質の34個のEGFL反復の1つ(EGFL反復)における不等数のシステイン残基をもたらす特徴的な突然変異によって、タンパク質のミスフォールディングが起こることが示されている。典型的に、各EGFL反復は6つのシステイン残基を含有する。不均一な数のシステイン残基(通常5残基または7残基のいずれか)をもたらすようなNOTCH3の突然変異がCADASILの原因となる。いくつかの研究から、研究されたほぼすべての突然変異について、変異体NOTCH3の存在下でNOTCH3シグナル伝達は変化しないことが示された。問題の核心は、VSMCにおける変異型NOTCH3および、またはGOMの蓄積の毒性効果であることが推測される。VSMCにおけるNOTCH3およびGOMの蓄積はCADASILに特徴的なものであり、NOTCH3トランスジェニックマウスおよび細胞モデルにおいても観察されている。
【0006】
本発明においては、より短いmRNA産物を生成するか、および/または変異体NOTCH3 mRNAの発現を減らすことによって、NOTCH3タンパク質の所与の変異型EGFL反復における同数のシステイン残基を再確立することで、VSMCの表面におけるNOTCH3外部ドメインの蓄積が低減および/または遅延することが見出された。すべてのEGFL反復に同数のシステインを有するNOTCH3 mRNA、および/または変異体NOTCH3 mRNA発現の低減によっても、CADASILに罹患した対象またはCADASILに罹患する危険性のある対象におけるVSMCの変性が低減および/または遅延する。本発明においては、所与の変異型EGFL反復における同数のシステインの再確立、および/またはNOTCH3 mRNA発現の低減によって、疾患をもたらす突然変異によって生成される不対のシステイン残基の毒性効果が低減されることが見出された。NOTCH3遺伝子中の突然変異のほとんどはエクソン4に存在する。mRNAからエクソン4およびエクソン5を排除することによって、残りのEGFL反復のすべてが均一な数のシステインを有するコード領域が生じることが見出された。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって本発明は、不均一な数のシステインを有するEGFL反復を有する変異体NOTCH3タンパク質をコードするプレmRNAから、均一な数のシステインを有するEGFL反復を有するNOTCH3タンパク質をコードするmRNAを生成するための方法を提供する。これは、前記プレmRNAを発現する細胞に、前記プレmRNAと相補的であって前記プレmRNAとハイブリダイズすることによって、前記プレmRNAから生成されるmRNAからのエクソン4およびエクソン5の排除を誘導するアンチセンスオリゴヌクレオチドを提供することによって達成される。好ましくは、不均一な数のシステインを有する前記EGFL反復は、エクソン4および/またはエクソン5にコードされる。本発明は、不均一な数のシステインをもたらすエクソン4または5のあらゆる突然変異に対して有用である。突然変異のリストは、新たな患者が同定されて配列決定されることに伴って連続的に増加している。本発明が有用であることが実証された突然変異は、前記プレmRNAが、突然変異Arg133Cys、Cys134Trp、Arg141Cys、Cys144Phe、Arg153Cys、Cys162Trp、Arg182Cys、Tyr189Cys、Arg207Cys、Cys224Tyr、Arg207Cys、Cys224Tyr、またはその組み合わせを有するNOTCH3タンパク質をコードするものである。
【0008】
本発明はさらに、変異体NOTCH3タンパク質をコードするプレmRNAを発現する細胞によって生成される前記変異体NOTCH3タンパク質の量を低減させるための方法を提供し、ここで前記変異体NOTCH3タンパク質は不均一な数のシステインを有するEGFL反復を含む。前記方法は、NOTCH3遺伝子のエクソン4および/またはエクソン5における前記EGFL反復の不均一な数のシステインの原因である突然変異をコードするヌクレオチド配列と相補的であってそれにハイブリダイズできるアンチセンスオリゴヌクレオチドを前記細胞に提供するステップを含む。好ましい実施形態において、前記方法は、NOTCH3遺伝子のエクソン5における前記EGFL反復の不均一な数のシステインの原因である突然変異をコードするヌクレオチド配列と相補的であってそれにハイブリダイズできるアンチセンスオリゴヌクレオチドを前記細胞に提供するステップを含む。別の好ましい実施形態において、前記方法は、変異体NOTCH3タンパク質をコードするプレmRNAと相補的であってそれに特異的にハイブリダイズできるアンチセンスオリゴヌクレオチドを前記細胞に提供するステップを含む。変異体NOTCH3タンパク質をコードするプレmRNAへの特異的ハイブリダイゼーションは、CADASILの原因となる突然変異に対して特異的なオリゴヌクレオチドを用いて達成されることが好ましい。CADASILの原因となる突然変異はエクソン4またはエクソン5にあることが多いが、NOTCH3プレmRNA中のその他のCADASIL原因突然変異も本発明の範囲内にある。言換えると、このオリゴヌクレオチドは、CADASILの原因となる突然変異と相補的であり、かつそれに重複している。この点に関して、オリゴヌクレオチドはエクソン2〜32のいずれか1つに対して特異的であってもよく、好ましくはオリゴヌクレオチドはエクソン2〜23のいずれか1つに対して特異的である。好ましくは、オリゴヌクレオチドはNOTCH3のエクソン4および/またはエクソン5における前記EGFL反復の不均一な数のシステインの原因である突然変異をコードするヌクレオチド配列に対して特異的である。
【0009】
NOTCH3タンパク質をコードする遺伝子は多形性である。正常な機能を有するNOTCH3タンパク質をコードするさまざまなNOTCH3対立遺伝子が同定されている。変異体CADASIL原因対立遺伝子に対してヘテロ接合性である細胞において、変異体対立遺伝子がその細胞中の正常な対立遺伝子と異なる点は、疾患の原因となる突然変異が存在することだけでなく、多形性部位に異なる配列が存在することでもあり得る。よって、この多形性部位もこのヘテロ接合体の変異体対立遺伝子を特徴付ける。
【0010】
よって別の好ましい実施形態において、本発明は、変異体NOTCH3タンパク質をコードする第1のプレmRNAと、正常なNOTCH3タンパク質をコードする第2のプレmRNAとを発現する細胞によって生成される前記変異体NOTCH3タンパク質の量を低減させるための方法を提供し、ここで前記第1および前記第2のプレmRNAは、変異体対立遺伝子におけるCADASIL原因突然変異の存在と、部位突然変異とは異なる多形性部位における異なる配列の存在とが互いに異なっており、変異体NOTCH3タンパク質の量を低減させるための前記方法は、変異体NOTCH3タンパク質をコードするプレmRNA上に存在する多形性部位の配列と相補的であってそれに特異的にハイブリダイズできるアンチセンスオリゴヌクレオチドを前記細胞に提供するステップを含む。変異体NOTCH3タンパク質をコードする第1のプレmRNAと、正常なNOTCH3タンパク質をコードする第2のプレmRNAとを発現する細胞によって生成される前記変異体NOTCH3タンパク質の量を低減させるための方法がさらに提供され、ここで前記第1および前記第2のプレmRNAは、変異体対立遺伝子におけるCADASIL原因突然変異の存在と、前記突然変異の部位とは異なる多形性部位における異なる配列の存在とが互いに異なっており、前記方法は、変異体NOTCH3タンパク質をコードするプレmRNA上に存在する多形性部位の配列と相補的であってそれにハイブリダイズできるアンチセンスオリゴヌクレオチドを前記細胞に提供するステップを含む。
【0011】
好ましい実施形態において、前記オリゴヌクレオチドは、エクソン2〜32のいずれか1つにおける多形性部位の配列に対して特異的である。好ましい実施形態において、CADASIL原因変異体をコードするプレmRNAの量は、エクソンスキッピングによって低減される。好ましくは、変異体対立遺伝子のタンパク質コードドメインにフレームシフトを導入するエクソンスキッピングによる。好ましくは、前記フレームシフトはタンパク質の中途終止を導入する。この実施形態において、オリゴヌクレオチドは、エクソン2、3、4、5、13、14、17、18、19、20、21、23、24、26、27、28、29、30、31、および32のうち1つのエクソンに対して特異的であることが好ましい。
【0012】
別の好ましい実施形態において、オリゴヌクレオチドは、エクソン2〜23のうち1つのエクソン、好ましくはエクソン2、3、4、5、13、14、17、18、19、20、21、および23のうち1つのエクソンに対して特異的である。別の好ましい実施形態において、オリゴヌクレオチドは、エクソン2〜10のうち1つのエクソンに対して特異的である。特に好ましい実施形態において、前記オリゴヌクレオチドは、エクソン2〜5のうち1つのエクソンに対して特異的である。好ましい実施形態において、前記アンチセンスオリゴヌクレオチドは、本明細書の上記において同定されるエクソンのいずれか1つにおけるCADASIL原因突然変異または多形性部位に対して特異的である。特に好ましい実施形態において、前記アンチセンスオリゴヌクレオチドは、エクソン2、3、4もしくは5におけるCADASIL原因突然変異に対して特異的であるか、および/またはエクソン2、3、4もしくは5における多形性部位に対して特異的である。
【0013】
実施形態の好ましい局面において、前記アンチセンスオリゴヌクレオチドは化学的に修飾されたアンチセンスヌクレオチドである(ホスホロチオエート主鎖を有するかまたは有さない2’−O−メチルRNA、ロックド核酸(locked nucleic acids:LNA)、ペプチド核酸(peptide nucleic acids:PNA)、ホスホロジアミデートモルホリノオリゴマー(phosphorodiamidate morpholino oligomers:PMO)、ホスホロチオエート主鎖を有するかまたは有さない2’−O−メトキシエチルRNA、および1つまたはそれ以上の異なる化学修飾ヌクレオチドの組み合わせからなるキメラオリゴ(chimeric oliogos)を含むがそれに限定されない)。別の好ましい実施形態において、前記オリゴヌクレオチドはSiRNAまたはmiRNAである。
【0014】
本発明はさらに、NOTCH3を発現する細胞内またはそのすぐ近くのNOTCH3タンパク質のレベルを少なくとも低減させるための方法を提供する。前記方法は、NOTCH3 mRNAまたはプレmRNAに対して特異的なアンチセンスオリゴヌクレオチドを前記細胞に提供することによって、前記NOTCH3タンパク質の生成を減少させるか、または前記NOTCH3 mRNAもしくはプレmRNAのタンパク質コード領域を変えるステップを含む。後者の実施形態においては、アンチセンスオリゴヌクレオチドがNOTCH3プレmRNAのスプライシングの変化をもたらすことによって、代替的にスプライシングされたmRNAが得られることが好ましい。アンチセンスオリゴヌクレオチドによって誘導される代替的スプライシングは典型的に、標的となるエクソンの排除に向かう。しかしながら、いわゆるエクソン包含(exon inclusion)も可能である。代替的にスプライシングされたmRNAは、好ましくは少なくとも部分的に機能するNOTCH3タンパク質をコードする。必然的ではないが典型的に、mRNAに通常存在するエクソンがスキップされる。変異体NOTCH3タンパク質をコードするプレmRNAのエクソンの特異的スキッピングは、2通りに有益である。好ましい実施形態において、前記細胞は、健康な個体のNOTCH3コード遺伝子と比べたときに表1に示されるとおりの突然変異を有するNOTCH3コード遺伝子を含む。エクソン4およびエクソン5をともにスキップすることによってもたらされるエクソン3〜6の連結はインフレームであって、残りのEGFL反復すべてが均一な数のシステイン残基を有するようなNOTCH3タンパク質をコードする。よって、本発明の好ましい実施形態においては、エクソン4およびエクソン5の両方がスキップされる。変異型エクソン4のみ、または変異型エクソン5のみの特異的スキッピングでは、結果としてエクソン4スキッピングに対しては連結エクソン3〜5が、エクソン5スキッピングに対しては連結エクソン4〜6が得られる。これら後者の連結の結果、アウトオブフレームのタンパク質コードドメインがもたらされ、それによって中途終止が導入されて、切断型の非機能性タンパク質が得られる。このスキッピングによって、元の変異タンパク質の生成が減少することにより、CADASIL患者の症状が緩和されると推定される。
【0015】
好ましい実施形態において、処置されるべき細胞は、不均一な数のシステイン残基を有するEGFL反復を含むNOTCH3タンパク質を発現する。前記突然変異は、好ましくは表1に列挙されるとおりの突然変異である。前記突然変異は、好ましくは表1のArg141Cys;Arg153Cys;Arg182CysおよびArg207Cysである。
【0016】
罹患ファミリー内で多数の異なるNOTCH3突然変異が同定されている。無関係の個体における研究から、突然変異の強力なクラスター化が明らかとなり、それらの最大70%がエクソン4および5で起こっている。この突然変異は個体内で自発的に起こり得ることも見出され、その観察はより広範囲の脳卒中集団におけるNOTCH3突然変異の診断テストに関する重要な問題を提起する。これまでに記述されたほとんどすべての症例はNOTCH3突然変異に対してヘテロ接合性である個体におけるものであるが、ホモ接合性の突然変異を有する患者も記述されている。
【0017】
突然変異は、タンパク質のEGFL反復の1つにおけるシステイン残基の減少または増加をもたらすという特徴を有する。こうした突然変異はタンパク質の高次構造を変化させるため、NOTCH3タンパク質が血管平滑筋細胞膜に蓄積し、これは前記細胞にとって有毒であり得る。
【0018】
Notch3遺伝子は、上皮成長因子様の反復(EGFL反復)のいくつかの縦列反復コピーを含有して、隣接する細胞間にシグナルを伝達する役割をする膜貫通型受容体をコードする。Notchシグナル伝達は、血管発生の多くの局面を含む胚発生の際の細胞シグナル伝達および運命に関与する高度に保存された経路であるが、正常な成体の血管平滑筋細胞の生理学におけるNotch3の役割は未知の点が多い。最近の研究では、Notch3が血管の損傷に関わっており、血管平滑筋細胞の生存決定因子であることが示唆されている。
【0019】
本発明のCADASIL表現型は、本明細書の上記において言及したとおり、変異体NOTCH3タンパク質の発現に関連している。ヒトにおける病原性は主に、血管平滑筋細胞(VSMC)における変異タンパク質の発現に関連している。したがって、この種の細胞における発現が低減および/または変更されることが好ましい。本発明の特に好ましい実施形態においては、CADASILに関連する変異タンパク質が修飾されることによって、均一な数のシステインを有するEGFL反復を有する修飾変異体CADASILタンパク質の生成を可能にする。言換えると、不均一な数のシステインを有するEGFL反復の存在をもたらすNOTCH3のCADASIL突然変異が、本発明の修飾によって打ち消されて、均一な数のシステインを有するEGFL反復のみを有する新たなNOTCH3変異体がもたらされる(NOTCH3変異体が修復される)ことが好ましい。理論に結び付けられることなく、均一な数に修復することで、少なくとも部分的に機能するNOTCH3変異タンパク質が生成されると考えられる。さらに、修復NOTCH3変異体は蓄積しないか、少なくともCADASIL表現型をもたらすNOTCH3変異体よりも少ない程度に蓄積すると考えられる。修復NOTCH3変異体の生成は、さらにGOMの量の減少をもたらす。それはさらにVSMC変性の低減をもたらし、最終的にはCADASILに罹患しているかまたは罹患する危険性のある個体における虚血性脳卒中および認知症の危険性を低減させる。
【0020】
修復NOTCH3変異体は、好ましくはエクソンスキッピングを起こさせることによって生成される。エクソンスキッピングの結果、NOTCH3をコードするmRNAからエクソンが排除される。エクソンスキッピングは典型的に、そのエクソンに隣接するスプライス部位に向けられたオリゴヌクレオチドによって誘導されるか、またはエクソン内部のオリゴヌクレオチドによって誘導される。NOTCH3は33個のエクソンを含有しており、そのエクソン1〜33がタンパク質の部分をコードする。エクソン1およびエクソン33は、それぞれ開始コドンおよび終止コドンを含有する。エクソン2から23は、タンパク質のEGFL反復をコードする。好ましい実施形態において、前記アンチセンスオリゴヌクレオチドは、NOTCH3タンパク質のEGFLをコードするエクソンのスキッピングを誘導する。
【0021】
エクソン4および5のスキッピングは、インフレーム変異体NOTCH3タンパク質をもたらす。特に好ましいのはエクソン4およびエクソン5のスキッピングである。なぜならこれらのエクソンは、現在同定されているすべてのCADASIL突然変異の約70%を含むためである。これらのエクソンのスキッピングは、タンパク質レベルでEGFL反復3、4および5を完全に失ったインフレーム生成物をもたらすが、EGFL反復2および6は正確に6個のシステイン残基を有する機能性融合EGFL反復を形成することが予測される。このスキッピングは、内部エクソン4および5の配列を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチド(antisense oligonucleotides:AONs)を生成することによって誘導される。エクソン特異的なAONに加えて、好ましくは突然変異特異的なAONが用いられる。所与のEGFL反復における突然変異をスキップするためにAONを用いてEGFL反復をスキップするというこの技術は、EGFL反復の反復配列を有する他の細胞表面受容体、たとえばNOTCH3のDSLリガンドであるデルタ様1、3および4などにも適用されてもよい。
【0022】
エクソン4のスキッピングは、表1の突然変異Arg141Cys;Arg153Cys;Arg182CysおよびArg207Cysに対して好ましい。エクソン5のスキッピングは、表1の突然変異Cys233TrpおよびTyr258Cysに対して好ましい。結果として得られる修復NOTCH3変異タンパク質は、均一な数のシステインを有するEGFL反復を有する。
【0023】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、好ましくは前記NOTCH3プレmRNAの13ヌクレオチドから50ヌクレオチドの間の連続した部分に対して相補的である。好ましくは、前記アンチセンスオリゴヌクレオチドは、前記NOTCH3プレmRNAの16ヌクレオチドから50ヌクレオチドの間の連続した部分に対して相補的である。好ましい実施形態において、前記アンチセンスオリゴヌクレオチドは、前記NOTCH3 mRNAまたはプレmRNAに対して特異的な15〜40ヌクレオチドを含む。エクソンスキッピングを誘導するために十分および/または最適な塩基の数は、いくつかの因子によって決まる。いくつかのタイプのオリゴヌクレオチドは通常いくらか長いオリゴヌクレオチドを必要とし、たとえばモルホリノは典型的に約25〜30個の連続した塩基を有するが、2’O−メチルホスホロチオエートオリゴヌクレオチドは典型的に約20〜25個の塩基にその活性最適値を有する。したがって本発明に対しては、前記アンチセンスオリゴヌクレオチドは約15ヌクレオチドから35ヌクレオチドの間の連続した部分に対して相補的であることが好ましい。より好ましくは、前記オリゴヌクレオチドは約20ヌクレオチドから30ヌクレオチドの間の連続した部分に対して相補的である。
【0024】
オリゴヌクレオチドを生成するために異なるタイプの核酸が用いられてもよい。好ましくは、オリゴヌクレオチドはRNAを含む。なぜならRNA/RNAハイブリッドは非常に安定だからである。エクソンスキッピング技術の目的の1つは、対象におけるスプライシングを指示することであるため、オリゴヌクレオチドRNAはRNAに付加的な特性を与える修飾を含むことが好ましい。いくつかのタイプのアンチセンスオリゴヌクレオチドは、標的(プレmRNA)をRNAseHなどのヌクレアーゼに対して感受性にする。アンチセンスオリゴヌクレオチドと標的プレmRNAとによって形成される二本鎖をRNAseH分解に対して感受性にするようなオリゴヌクレオチドは、変異体をコードする(プレ)mRNAの分解によって変異体NOTCH3タンパク質の量を低減させるような実施形態に対して好ましい。エクソンスキッピングのみが意図されるときは、アンチセンスオリゴヌクレオチドがこの特性を有さずに、アンチセンスオリゴヌクレオチドと標的プレmRNAとによって形成される二本鎖をRNAseHに対して抵抗性にするような修飾を含むことが好ましい。さまざまなオリゴヌクレオチドならびにその修飾および変形は、標的(プレ)mRNAのヌクレアーゼ分解を促進しない。こうしたタイプのオリゴヌクレオチドの例は、2’O−メチルホスホロチオエートオリゴヌクレオチドおよびモルホリノである。前記アンチセンスオリゴヌクレオチドに付加または強化されてもよいその他の特徴は、(たとえば体液などにおける)安定性の増加、柔軟性の増加または減少、毒性の低減、細胞内輸送の増加、組織特異性などである。好ましくは、前記修飾は2’−O−メチルホスホロチオエートオリゴリボヌクレオチド修飾を含む。好ましくは、前記修飾は2’−O−メチルホスホロチオエートオリゴデオキシリボヌクレオチド修飾を含む。実施形態の1つにおいて、本発明は、2’−O−メチルホスホロチオエートオリゴ(デオキシ)リボヌクレオチド修飾およびロックド核酸を含むオリゴヌクレオチドを含むハイブリッドオリゴヌクレオチドを提供する。この特定の組み合わせは、ロックド核酸からなる同等物よりも良好な配列特異性を含み、2’−O−メチルホスホロチオエートオリゴ(デオキシ)リボヌクレオチド修飾からなるオリゴヌクレオチドよりも改善された有効性を含む。
【0025】
核酸模倣技術の出現によって、必ずしも核酸自体ほどの量ではない、類似または好ましくは同じ種類のハイブリダイゼーション特性を有する分子を生成することが可能になった。こうした同等物ももちろん本発明の部分である。こうした模倣同等物の例は、ペプチド核酸、ロックド核酸および/またはモルホリノホスホロジアミデートである。本発明のオリゴヌクレオチドの同等物の好適だが限定的でない例は、以下に見出すことができる(ワールステッド(Wahlestedt),C.ら、「ロックド核酸を含有する強力で無毒性のアンチセンスオリゴヌクレオチド(Potent and non−toxic antisense oligonucleotides containing locked nucleic acids)。」Proc Natl Acad Sci USA 97,5633−8.(2000)。エラヤディ(Elayadi),A.N.およびコーレイ(Corey),D.R.「PNAおよびLNAオリゴマーの化学療法への適用(Application of PNA and LNA oligomers to chemotherapy)。」Curr Opin Investig Drugs 2,558−61.(2001)。ラーセン(Larsen),H.J.,ベンティン(Bentin),T.およびニールセン(Nielsen),P.E.「ペプチド核酸のアンチセンス特性(Antisense properties of peptide nucleic acid)。」Biochim Biophys Acta 1489,159−66.(1999)。ブラーシュ(Braasch),D.A.およびコーレイ,D.R.「遺伝子発現を調節するための新規のアンチセンスおよびペプチド核酸戦略(Novel antisense and peptide nucleic acid strategies for controlling gene expression)。」Biochemistry 41,4503−10.(2002)。サマートン(Summerton),J.およびウェラー(Weller),D.「モルホリノアンチセンスオリゴマー:設計、調製および特性(Morpholino antisense oligomers:design,preparation,and properties)。」Antisense Nucleic Acid Drug Dev 7,187−95.(1997))。1つまたはそれ以上の同等物が互いに、および/または核酸とともにハイブリッドになったものも、もちろん本発明の部分である。好ましい実施形態において、同等物はロックド核酸を含む。なぜならロックド核酸はより高い標的親和性およびより低い毒性を示すために、より高いエクソンスキッピング効率を示すからである。本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、好ましくはヌクレオチドの連続した一続きにおいて相補的である。しかし典型的には、標的RNAのスキッピングまたは低減の効率を過度に低くすることなく、1つまたは2つのミスマッチが許容される。よって、こうした1つまたは2つのミスマッチを有するオリゴヌクレオチドも本発明において使用され得る。現在、その天然の対応物と同種の塩基対形成を示す塩基の類似物が利用可能である。したがって、こうした類似物も本発明のオリゴヌクレオチドに含まれてもよい。天然の対応物とは異なる態様で対形成するいくつかの塩基類似物が利用可能である。たとえば、イノシンは対向する塩基と対形成しない。こうした塩基類似物も本発明のオリゴヌクレオチドに含まれてもよい。非塩基対形成類似物は、典型的にオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーション強度を低減させる。このため、オリゴヌクレオチドはこの低減を補償するための付加的なヌクレオチドを含むことが好ましい。本発明のオリゴヌクレオチドは、典型的にエクソンのスプライス供与体またはスプライス受容体と重複する必要はない。
【0026】
本発明のオリゴヌクレオチドは、それ自体として、または核酸送達媒体と関連して細胞に与えられてもよい。オリゴヌクレオチドは、たとえばリポソームまたはPEIなどの形質移入剤を用いて細胞に形質移入されてもよい。代替的には、オリゴヌクレオチドはウイルス性またはウイルスに基づく遺伝子送達媒体によって細胞に導入される。加えて、オリゴヌクレオチドは前記細胞に与えられる発現カセットにコードされてもよい。典型的に、オリゴヌクレオチドは前記ウイルス性またはウイルスに基づく遺伝子送達媒体中の発現カセットにコードされる。次いでオリゴヌクレオチドは前記オリゴヌクレオチドを含む転写物に含まれてもよい。よって好ましくは、前記発現カセットは前記アンチセンスオリゴヌクレオチドを含むRNAをコードする。よって、遺伝子送達媒体は発現カセットを含有してもよい。発現カセットは発現されるべき配列を、たとえば好適なプロモーターおよび転写終止配列など、その配列の発現のために必要なすべての配列と一緒に含有する。発現ベクターは、好ましくは遺伝子送達媒体を介して細胞に導入される。好ましい送達媒体はウイルスベクター、たとえばアデノウイルスベクター、およびより好ましくはアデノ随伴ウイルスベクターなどである。よって本発明は、こうした発現ベクターおよび送達媒体をも提供する。好適な転写物を設計することは当業者の技術の範囲内である。本発明に対して好ましいのはPolIII駆動転写物である。好ましくはU1またはU7転写物との融合転写物の形である。こうした融合物は、ゴーマン(Gorman)L,スーター(Suter)D,エメリック(Emerick)Vら「修飾されたU7低分子核内RNAによるプレmRNAスプライシングパターンの安定な変更(Stable alteration of pre mRNA splicing patterns by modified U7 small nuclear RNAs)。」Proc Natl Acad Sci USA 1998;95:4929 4934、およびスーターD,トマシーニ(Tomasini)R,レーバー(Reber)Uら「二重標的アンチセンスU7snRNAは、3つのヒトベータサラセミア突然変異における異常なエクソンの効率的なスキッピングを促進する(Double target antisense U7 snRNAs promote efficient skipping of an aberrant exon in three human beta thalassemic mutations)。」Hum Mol Genet 1999;8:2415 2423に記載されるとおりに生成されてもよい。
【0027】
本発明はさらに、皮質下梗塞および白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症(CADASIL)の処置のための、本発明のNOTCH3 mRNAもしくはプレmRNAに対するアンチセンスオリゴヌクレオチド、発現カセットおよび/または遺伝子送達媒体の使用を提供する。CADASILの処置のための薬物の調製のための、本発明のNOTCH3 mRNAもしくはプレmRNAに対するアンチセンスオリゴヌクレオチド、発現カセットおよび/または遺伝子送達媒体の使用も提供される。本発明はさらに、細胞中の変異体NOTCH3タンパク質の量を低減させるために、NOTCH3タンパク質をコードするプレmRNA上の多形性部位の特異的配列と相補的であってそれに特異的にハイブリダイズできるアンチセンスオリゴヌクレオチドを使用することも提供し、ここで前記細胞は前記変異タンパク質をコードして前記多形性部位の前記特異的配列を含む第1のプレmRNAを含み、前記細胞は正常なNOTCH3タンパク質をコードして前記多形性部位の異なる配列を含む第2のプレmRNAを含む。
【0028】
本発明はさらに、CADASILに罹患しているかまたは罹患する危険性のある個体におけるVSMC変性および/または顆粒状オスミウム酸親和性堆積物のレベルを減少させるための方法を提供し、この方法は、本発明の、本発明に従うNOTCH3 mRNAもしくはプレmRNAに対するオリゴヌクレオチド、発現カセットまたは遺伝子送達媒体を前記個体に提供するステップを含む。
【0029】
本発明はさらに、34個未満のEGFL反復を有するNOTCH3タンパク質をコードする、NOTCH3コード核酸を提供する。22個またはそれ以上のEGFL反復を有するNOTCH3タンパク質をコードする、NOTCH3コード核酸がさらに提供される。好ましくは、NOTCH3タンパク質をコードする前記核酸は30個のEGFL反復を有する。エクソン4および5のNOTCH3コード配列を失ったNOTCH3タンパク質をコードする、NOTCH3コード核酸がさらに提供される。本発明に従うNOTCH3変異体をコードするNOTCH3コード核酸は、好ましくは均一な数のシステインを有するEGFL反復を含む。好ましくは、前記変異体NOTCH3タンパク質に存在する本質的にすべてのEGFL反復が、均一な数のシステインを有する。この段落に詳述されるとおりの核酸にコードされるアミノ酸配列を含む単離および/または組み換えNOTCH3タンパク質がさらに提供される。
【0030】
NOTCH3遺伝子の突然変異に対して特異的であるアンチセンスオリゴヌクレオチドがさらに提供され、前記突然変異はEGFL反復に不均一な数のシステインを含むNOTCH3タンパク質をもたらす。CADASILは優性遺伝性の疾患であるため、CADASILに罹患しているかまたは罹患する危険性のあるほとんどの個体は、冒された対立遺伝子に対してヘテロ接合性である。よって一方の対立遺伝子は正常なNOTCH3タンパク質を生成する。したがって、本発明のオリゴヌクレオチドは変異体対立遺伝子に対して特異的であることが好ましい。このやり方で、冒された(プレ)mRNAのみが標的にされる。好ましくは、前記アンチセンスオリゴヌクレオチドはNOTCH3遺伝子中の一般的な反復性の突然変異に対して特異的である。好ましくは、前記アンチセンスオリゴヌクレオチドはエクソン4またはエクソン5に対して特異的である。好ましい実施形態において、前記アンチセンスオリゴヌクレオチドは表1のCADASIL突然変異、好ましくはNOTCH3遺伝子のArg207Cys、Arg141Cys、Arg182CysまたはArg153Cys突然変異に対して特異的である。別の好ましい実施形態において、本発明は、エクソン2〜32のいずれか1つにおける多形性部位中の配列に対して特異的なアンチセンスオリゴヌクレオチドを提供する。好ましくは、前記アンチセンスオリゴヌクレオチドは、NOTCH3のエクソンのスキッピングをもたらすオリゴヌクレオチドである。オリゴヌクレオチドは、好ましくはエクソン2、3、4、5、13、14、17、18、19、20、21、23、24、26、27、28、29、30、31、および32のうち1つのエクソンに対して特異的である。
【0031】
別の好ましい実施形態において、オリゴヌクレオチドは、エクソン2〜23のうち1つのエクソン、好ましくはエクソン2、3、4、5、13、14、17、18、19、20、21、および23のうち1つのエクソンに対して特異的である。別の好ましい実施形態において、オリゴヌクレオチドは、エクソン2〜10のうち1つのエクソンに対して特異的である。特に好ましい実施形態において、前記オリゴヌクレオチドは、エクソン2〜5のうち1つのエクソンに対して特異的である。好ましい実施形態において、前記アンチセンスオリゴヌクレオチドは、本明細書の上記において同定されるエクソンのいずれか1つにおけるCADASIL原因突然変異または多形性部位中の配列に対して特異的である。特に好ましい実施形態において、前記アンチセンスオリゴヌクレオチドは、エクソン2、3、4もしくは5におけるCADASIL原因突然変異に対して特異的であるか、および/またはエクソン2、3、4もしくは5における多形性部位中の配列に対して特異的である。
【0032】
本発明はさらに、CADASILに罹患しているかまたは罹患する危険性のある個体におけるVSMC変性および/または顆粒状オスミウム酸親和性堆積物のレベルを減少させるための方法を提供し、この方法は、VMSC中のNOTCH3タンパク質の量を減少させるための核酸、または前記個体のVMSC中の変異体NOTCH3タンパク質を修飾するための核酸を前記個体に提供するステップを含む。特定のmRNAの量またはその翻訳を低減させるためのさまざまな方法が当該技術分野において利用可能である。その例は、siRNA、miRNA、アンチセンスRNAおよびDNA分子ならびにその類似物を含むがそれに限定されない。好ましいアンチセンスオリゴヌクレオチドは、必ずしも非修飾アンチセンスオリゴヌクレオチドほどの量ではない、同じ種類のハイブリダイゼーション特徴を有するモルホリンである。本発明においては、これらがCADASILに関連するNOTCH3突然変異に対して特異的であることが好ましい。別の好ましい実施形態において、VMSC中のNOTCH3タンパク質の量を減少させるための前記核酸は、NOTCH3に対して特異的な抗体またはその断片もしくは類似物をコードする。好ましくは、前記抗体はCADASILに関連するNOTCH3タンパク質変異体に対して特異的である。
【0033】
標的配列との単一のミスマッチは、このミスマッチが標的配列の中央に位置するときにはAON有効性を(ほぼ)完全に失わせ得ることが公知である。突然変異特異的AONの利点は、それらが野生型対立遺伝子の転写を顕著に妨げないことである。不利な点は、多様なNOTCH3突然変異を標的とするために複数のAONを設計する必要が出てくることである。エクソン特異的AONの利点は、標的とされる突然変異ホットスポットエクソン4または5の単一または複数エクソンのスキッピングが、CADASIL患者における突然変異の最大70%に利益を与え得ることである。このアプローチの欠点は、野生型対立遺伝子も標的にされて修飾されることである。しかしながら、本発明において修飾されたタンパク質は正常な機能を保持するため、このことは問題を有さないはずである。しかし、好ましい実施形態においては、SNP特異的AONを用いて、エクソン特異的スキッピングにおいて野生型対立遺伝子の望ましくないターゲティングを回避できた。Notch3コード領域は多形性を示す。個体は2つの異なる多形性対立遺伝子を有することができ、CADASIL患者においてこれらを特異的に標的にすることによって、変異型対立遺伝子を標的にしてもよい。よって、この対立遺伝子に排他的に存在するSNPを標的にすることによって変異型対立遺伝子に特異的にハイブリダイズさせるために、異なるAONが設計されてもよい。NOTCH3には多くの記述された共通のSNPが存在するため、標的エクソンに異なる突然変異を有するが、共通のSNPをシスで有する患者を処置するために、同じAONまたはAONキットを用いることが可能である。
【0034】
NOTCH3ダウンレギュレーション
NOTCH3システイン量の修正(タンパク質の修飾)に対する代替案として、本発明はエクソンスキッピングを用いて変異タンパク質の発現をダウンレギュレートする。このやり方で、正常なVSMCのホメオスタシスのために十分な野生型(wild−type)NOTCH3(wtNOTCH3)発現を維持しながら、VSMC膜におけるNOTCH3蓄積の低減が達成される。これを達成するために、誘導されるスキップがアウトオブフレーム転写物およびナンセンス変異依存mRNA分解機構をもたらすようにAONが設計されている。AONは突然変異またはSNPに特異的になるように設計されることによって、wtNOTCH3が標的にされないようにする。このAONに誘導されるNOTCH3発現の「ヘミ接合性」は、NOTCH3の機能を損なわない。ヒトwtNOTCH3またはヒト変異体NOTCH3をヘミ接合性で発現するトランスジェニックマウス系統は生存可能であって、Notch3−/−マウスの構造的な動脈の欠陥を救出でき、発明者らはあるCADASIL患者において、一方の対立遺伝子上の原型システインを変更する突然変異と、他方の対立遺伝子上のNOTCH3の欠失とを確認した。この患者はミスセンス突然変異に起因し得るCADASILだが、その他の明らかな医学的問題または血管の問題は有さない。よって、NOTCH3発現の低減は生命および正常な血管機能と両立できる。この実施形態において、AONは、突然変異および/または正常な対立遺伝子には存在しない対立遺伝子特異的SNPを標的にする。
【0035】
CADASILは全身性動脈疾患であり、つまり特定の口径のすべての動脈がCADASILに典型的な壁在性の変化を示す。しかし、理由は不明だが、小さいサイズから中程度のサイズの大脳動脈がこの病理の主力を担う。これらの動脈および特定的にはVSMCがAONの標的となる。AONは静脈内に注射されてもよいし、脳脊髄液に直接注射されてもよい。本発明において用いられるAONは、好ましくは2’−O−メチル修飾RNAのものであり(RNA:RNAハイブリッドのRNaseH誘導性ノックダウンを防ぐため)、これは安定性の改善のためにホスホロチオエート主鎖を有する。ホスホロチオエート修飾の付加的な利益は、細胞膜を越えるAONの取込みが改善されることである。加えてこの修飾は血清タンパク質への低親和性結合をもたらし、血清タンパク質は血流におけるAONの担体の働きをして、腎臓によるAONの排除を防ぐ。よってAONの血清半減期が増加することにより、より良好な組織分布が可能になる。
【0036】
デュシェンヌ型筋ジストロフィーのマウスモデルにおいては、静脈内、皮下および腹腔内注射の後にAONを全身的に送達できることが示されている。加えて、それらは表皮の平滑筋細胞に吸収される(投稿中の原稿および印刷中の原稿)。よってAONはVSMCにも吸収される。
【0037】
この化学のAONによる、高用量(最高600mg/kg)での最長6ヵ月間の局部的および全身的処置は、癌、慢性免疫疾患、アテローム性動脈硬化およびデュシェンヌ型筋ジストロフィーに対する臨床試験中の患者によって、よく許容される。
【0038】
NOTCH3特異的配列に対して設計されたAONは、インフレームのリーディングフレームを維持しながら所与のEGFLドメインにおいて均一な数の6個のシステイン残基を再確立するような態様で、プレmRNAスキッピングをもたらすことができる。これは突然変異特異的AONおよびエクソン特異的AONの両方、ならびにSNP特異的AONを含む。その目的は、好ましくはエクソン3、4および5のホットスポットに対するNOTCH3突然変異を標的とするAONを設計して、各AONが最大数の突然変異を標的にできるようにすることである。NOTCH3特異的配列に対して設計されるAONは、プレmRNAスキッピングがアウトオブフレーム産物をもたらして、ナンセンス変異依存mRNA分解機構が誘導されるように作製されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】第19番染色体の短腕上のNOTCH3遺伝子のエクソン4およびエクソン5のスキッピングによって、EGFL反復3〜5ならびにEGFL反復2および6の部分の排除がもたらされる様子を示す図である。EGFL反復2および6は、同数のシステイン残基を有する融合EGFL反復産物を形成する。よって修飾されたNOTCH3タンパク質は30個のEGFL反復を有し、各EGFL反復は同数のシステイン残基を有する。
【図2】AON h5CAD1で処理した細胞培養液のNOTCH3 mRNA断片のRT−PCRおよび配列分析を、エクソン5を含む領域に焦点を当てて示す図である。形質移入なしの細胞培養液(レーン2)およびAONなしで形質移入された細胞培養液(レーン3)と比べて、より短い新規の転写物が観察された(290bp、レーン4)。レーン1はサイズマーカー(size marker:SM)を含む。290bp断片の配列分析によって、エクソン5の正確なスキッピングが確認された。
【発明を実施するための形態】
【0040】
表1は、CADASILをもたらすNOTCH3遺伝子のエクソン4およびエクソン5における一般的な突然変異を列挙するものである。このリストは一般的な突然変異を選択したものであり、NOTCH3遺伝子のエクソン4およびエクソン5に見出される突然変異の完全なリストではない。左の列は、右側の列のDNA突然変異によってもたらされるアミノ酸置換を示す。
【0041】
実験セクション
AON h5CAD1に対する組織培養、形質移入およびRT−PCR分析。
Notch3を発現する細胞系HCC2429を、ダン(Dang)ら(1)に記載されるとおりに培養した。形質移入に対しては、HCC2429細胞を6ウェル培養皿中で60〜70%の培養密度まで生育させた。形質移入は、デュプロ(duplo)中で、900pmolのAON h5CAD1と、10μlのポリエチレンイミン(polyethylenimine:PEI、ExGen500、MBIフェルメンタス(Fermentas))との組み合わせによって、製造者の指示に従って行なわれた。各AONに対して、AON−PEI複合体の別々の溶液を調製した。対照として蛍光標識したAONを用いた核蛍光シグナルの存在に基づくと、形質移入効率は概して80%より高かった。形質移入の24時間後にRNAを単離し、過去の記載(2)のとおりにRT−PCR分析を行なった。標的となったエクソン5に隣接するエクソン4および6におけるプライマー(4F:caacacacctggctccttc;6R:gactgcagctctcacctgtc)によるRT−PCR分析によって、AON h5CAD1によるスキッピングの成功が確認された。エクソン5が正しくスキップされたかどうかを確認するために、アガロースゲルから予想サイズ(290bp)のPCR断片を単離し、過去の記載(3)のとおりにシーケンシング分析を行なった。
【0042】
引用文献
1.ダン(Dang)T Pら(2000)。「第19番染色体の転位、Notch3の過剰発現、およびヒト肺癌(Chromosome 19 translocation,overexpression of Notch3,and human lung cancer)。」Journal of the National Cancer Institute 92(16):1355−1357。
2.アールツマ−ルス(Aartsma−Rus)A、ブレマー−ボウト(Bremmer−Bout)M、ヤンソン(Janson)A、デン・ダンネン(Den Dunnen)J、ファン・オメン(van Ommen)G、およびファン・デートコム(van Deutekom)J。(2002)。「デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対する潜在的遺伝子修正療法としての標的エクソンスキッピング(Targeted exon skipping as a potential gene correction therapy for Duchenne muscular dystrophy)。」Neuromuscul Disord 12:S71−S77。
3.ファン・デートコムJCら(2001)。「アンチセンス誘導性エクソンスキッピングは、DMD患者由来筋細胞におけるジストロフィン発現を修復する(Antisense−induced exon skipping restores dystrophin expression in DMD patient derived muscle cells)。」Hum Mol Genet 10:1547−1554。
【0043】
表1。NOTCH3のエクソン4およびエクソン5における突然変異
エクソン4
・Arg133Cys;475 CGC>TGC
・Cys134Trp;480 TGC>TGG
・Arg141Cys;499 CGC>TGC
・Cys144Phe;509 TGC>TTC
・Arg153Cys;535 CGC>TGC
・Cys162Trp;564 TGC>TGG
・Arg182Cys;622 CGC>TGC
・Tyr189Cys;644 TAC>TGC
・Arg207Cys;697 CGT>TGT
・Cys224Tyr;749 TGT>TAT
エクソン5
・Cys233Trp;777 TGT>TGG
・Tyr258Cys;851 TAT>TGT
【0044】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
不均一な数のシステイン残基を有するEGFL反復を有する変異体NOTCH3タンパク質をコードするプレmRNAから、均一な数のシステイン残基を有するEGFL反復を有するNOTCH3タンパク質をコードするmRNAを生成するための方法であって、前記プレmRNAを発現する細胞に、前記プレmRNAと相補的であって前記プレmRNAとハイブリダイズすることによって、前記プレmRNAから生成されるmRNAからのエクソン4およびエクソン5の排除を誘導するアンチセンスオリゴヌクレオチドを提供するステップを含む、方法。
【請求項2】
不均一な数のシステインを有する前記EGFL反復は、エクソン4および/またはエクソン5にコードされる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記プレmRNAは、突然変異Arg133Cys、Cys134Trp、Arg141Cys、Cys144Phe、Arg153Cys、Cys162Trp、Arg182Cys、Tyr189Cys、Arg207Cys、Cys224Tyr、Arg207Cys、Cys224Tyr、またはその組み合わせを有するNOTCH3タンパク質をコードする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記アンチセンスオリゴヌクレオチドは、前記アンチセンスオリゴヌクレオチドと前記標的プレmRNAとによって形成される二本鎖をRNAseHに対して抵抗性にするような修飾を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
変異体NOTCH3タンパク質をコードするプレmRNAを発現する細胞によって生成される前記変異体NOTCH3タンパク質の量を低減させるための方法であって、前記変異体NOTCH3タンパク質は不均一な数のシステインを有するEGFL反復を含み、前記方法は、前記NOTCH3遺伝子のエクソン4および/またはエクソン5における前記EGFL反復の前記不均一な数のシステインの原因である突然変異をコードするヌクレオチド配列と相補的であって前記ヌクレオチド配列にハイブリダイズできるアンチセンスオリゴヌクレオチドを前記細胞に提供するステップを含む、方法。
【請求項6】
変異体NOTCH3タンパク質をコードする第1のプレmRNAと、正常なNOTCH3タンパク質をコードする第2のプレmRNAとを発現する細胞によって生成される前記変異体NOTCH3タンパク質の量を低減させるための方法であって、前記第1および前記第2のプレmRNAは、前記変異体の対立遺伝子におけるCADASIL原因突然変異の存在、および/または前記突然変異の部位とは異なる多形性部位における異なる配列の存在が互いに異なっており、前記方法は、前記変異体NOTCH3タンパク質をコードする前記プレmRNA上に存在する前記突然変異および/または前記多形性部位の配列と相補的であって前記配列にハイブリダイズできるアンチセンスオリゴヌクレオチドを前記細胞に提供するステップを含む、方法。
【請求項7】
前記細胞は血管平滑筋細胞(VSMC)である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記オリゴヌクレオチドは、前記NOTCH3 mRNAまたはプレmRNAに対して特異的な15〜40個のヌクレオチドを含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
皮質下梗塞および白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症(CADASIL)の処置のための、NOTCH3 mRNAまたはプレmRNAに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドの使用。
【請求項10】
CADASILの処置のための薬物の調製のための、NOTCH3 mRNAまたはプレmRNAに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドの使用。
【請求項11】
NOTCH3 mRNAまたはプレmRNAに対して特異的な15〜40個のヌクレオチドを含む、アンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項12】
非修飾オリゴヌクレオチドと比べたときに、RNAseHの作用に対する抵抗性の増加をもたらす化学修飾を含む、請求項11に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項13】
34個未満のEGFL反復を有するNOTCH3タンパク質をコードする、NOTCH3コード核酸。
【請求項14】
請求項13に記載の核酸によってコードされるアミノ酸配列を含む、NOTCH3タンパク質。
【請求項15】
EGFL反復に不均一な数のシステインを含むNOTCH3タンパク質をもたらすNOTCH3遺伝子の突然変異に対して特異的である、アンチセンスオリゴヌクレオチド。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−515547(P2012−515547A)
【公表日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−547840(P2011−547840)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【国際出願番号】PCT/NL2010/050036
【国際公開番号】WO2010/085151
【国際公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(511181533)
【Fターム(参考)】