説明

NT−proBNPおよびproBNPの免疫アッセイに用いるための抗体と標準物質

本発明は、特定の形態のproBNPおよびNT−proBNPに対する抗体を提供する。このような抗体は、ヒト血液中の上記タンパク質の詳細な免疫検出に適している。上記の特定の形態のproBNPおよびNT−proBNPは、抗体産生用の抗原のみならず、種々の免疫アッセイにおける検量物質または免疫標準物質としても使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新たに発見された形態のproBNPおよびNT−proBNPに対する抗体を提供する。これらタンパク質に存在する特定のエピトープも開示する。上記特定のエピトープに特異的な抗体は、正確な免疫検出法、即ち、ヒト血液中の2種のタンパク質の存在および/またはその量の検出に適している。新規形態の該タンパク質は、抗体産生用の抗原としてのみならず、種々の免疫アッセイにおける検量物質や免疫標準物質としての有用性が示唆されている。
【背景技術】
【0002】
プロ型の脳性ナトリウム利尿ペプチド(proBNP)のみならず、BNPとproBNPのN末端断片(NT−proBNP)は、心不全(HF)および左室機能障害のマーカーとして知られている。これらは、種々の心臓病を患う患者のリスクの層別化や、HF患者の治療のモニタリングにも使用されている。BNPは、ナトリウム利尿作用、血管拡張作用およびレニン阻害作用を有するペプチドホルモンである(文献1〜3に概説有り)。BNPは構造的に類似したペプチドホルモンのファミリーに属す。このファミリーには、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)およびウロジラチンも含まれる。BNPとANPは広いスペクトルにわたる生物学的特性を共有し、共に心筋由来であるが、一方、CNPは内皮由来である。これらペプチドは、2つのシステイン残基の間にジスルフィド結合を有する、17個のアミノ酸からなる環状構造によって特徴付けられる。環状構造は、異なるナトリウム利尿ペプチドの間で高い同一性レベルを示す(各グループの代表間で、17個のアミノ酸残基(aar)の内、11個が同一である)。BNP分子は32アミノ酸残基からなり、Cys10とCys26の間にジスルフィド結合が存在する。
【0003】
NT−proBNPとBNPは、前駆体分子であるプレproBNPのタンパク分解性プロセシング産物である。プレproBNPは134アミノ酸残基からなり、心筋細胞によって合成される。シグナルペプチド(アミノ酸残基1〜26)の除去は、proBNP分子(アミノ酸残基27〜134)の出現をもたらす。続いて、proBNP(108アミノ酸残基)が未知のプロテアーゼによって開裂され、2つのペプチド、即ち、BNP(アミノ酸残基77〜108)とNT−proBNP(アミノ酸残基1〜76)、が形成される。BNP(生物学的に活性な分子)とNT−proBNP(生理活性は明らかではない)の両方が、プロセシングを受けていないproBNPと共に血流に分泌され、ヒト血液を循環する。
【0004】
proBNP合成は、心臓の自動的な刺激または神経ホルモンによる刺激に応答して増加し、その結果、血液中のBNP濃度およびNT−proBNP濃度が上昇することは事実として確立されている。上昇したBNPレベルとNT−proBNPレベルは、種々の心血管病(心不全、左室機能障害、不安定狭心症および心筋梗塞)の患者について報告されている。HF患者における両検体の血中濃度は、疾患の重症度と相関する。心不全の非常に初期の段階(ニューヨーク心臓協会による、NYHAの第Iステージ)にある無症候性の患者において、既にペプチド濃度が上昇しているという報告がある。重度のHF(NYHAクラスIIIまたはIV)および心筋の機能不全の兆候を示す患者においては、BNPの値は著しく増加している。従って、ヒト血液のBNPおよびNT−proBNPの測定は、HFが疑われる患者の評価および疾患の重症度の特定のために広く使用されている。
【0005】
ヒト血漿中のNT−proBNPを測定するための種々の免疫アッセイ方法が文献に記載されている。免疫アッセイは、ヒトNT−proBNP分子の種々の部位、即ち、エピトープ1〜13(文献4)、65〜76(文献5)、1〜12と65〜76(文献6)、8〜29(Biomedica assay)、1〜21と39〜50(Roche Elecsys)、に特異的なモノクローナル抗体のみならず、ポリクローナル抗体を使用する。近年、proBNPの開裂部位に特異的な抗体とBNP特異的抗体を使用する新しいproBNP免疫アッセイが報告された(文献7)。
【0006】
アッセイに使用する抗体について未だコンセンサスは得られていない。しかし、いくつかの出版済みのデータは、NT−proBNP分子の中央領域に特異的な抗体は、ヒト血液中の検体を認識することができないことを示している。Hughes(文献5)は、アミノ酸残基65〜76に特異的な抗体とは異なり、アミノ酸残基37〜49に特異的なウサギポリクローナル抗体は患者血液中のNT−proBNPを認識しないことを示した。ヒト血液中を循環しているNT−proBNPの生化学的性質に関して入手可能な情報の量が少ないため、ここでシグナルが観察されなかった理由は明確ではない。
【0007】
未変性条件下で行うゲル濾過(GF)による研究によって、NT−proBNPとproBNPの免疫反応性は、見かけの分子量が予想値よりも3倍〜4倍高いタンパク質の画分に存在することが判明した。Seidler et al.(文献8)は、種々の条件下におけるクロマトグラフィーによって観察される分子量の差は、ヒト血液中のNT−proBNP分子およびproBNP分子のオリゴマー化によるものと仮定した。しかし、この仮定は、合成したNT−proBNPはin vitroでオリゴマーを形成しないことを明らかにしたCrimmins(文献9)によって否定された。その結果、今のところ、ヒト血液中を循環しているNT−proBNPの形態は未だ特定されておらず、観察される異常に対する説明も存在しない。
【0008】
ヒト血液中のNT−proBNPの生化学的性質に関する情報は、NT−proBNP測定に関する近年のアプローチに重大な影響を与える可能性がある。現存する方法、即ち、分子の中央部分に特異的な抗体を使用する方法によって、サンプル中に存在する全てのNT−proBNP(proBNP)を検出することができるのかは不明である。従って、ヒト血液中を循環しているNT−proBNPおよびproBNPを正確に特徴付ける必要がある。
【0009】
発明の概要
ヒト血液中を循環しているProBNPとNT−proBNPは、それぞれ108アミノ酸残基と76アミノ酸残基(分子量は約12kDaと8.6kDa)からなるポリペプチドであると文献に記載されている。患者血液のproBNP濃度は、NT−proBNP濃度よりも著しく低い。我々の最近の研究によると、血中proBNP濃度は、NT−proBNP濃度の約10〜20%である。Seidler et al.(文献8)はゲル濾過による研究(未変性条件下)によって、NT−proBNPとproBNPは変則的な移動度を示し、これらの見かけの分子量は30〜40kDaであると報告している。上記文献の著者らは、ヒト血液においてどちらのタンパク質もホモオリゴマーの形で存在することを示唆している。我々の研究においては、血液中に存在する両方のタンパク質の見かけの分子量(ゲル濾過による研究、スーパーデックス75 10/300 GLカラム)は約30kDaであることを明らかにした(図4)。
【0010】
我々は、NT−proBNPのエピトープに特異的な(proBNPとも交差反応する)タンパク質の全長配列をカバーする、高親和性モノクローナル抗体(MAb)のパネル(図1)を作製した。全てのMAbを、NT−proBNP分子の種々の断片に対応する合成ペプチドでマウスを免疫した後に作製した。全てのMAbについて、2つの部位を組み合わせた試験(サンドイッチ免疫蛍光アッセイ)を組み換えタンパク質のみならず、患者血液から単離した内因性タンパク質を用いて行った。これらの研究によって、NT−proBNPの中央部分(領域28〜60に位置するエピトープ)に特異的な抗体は、ヒト血液中の抗原を正しく認識しないことが明らかとなった(図2)。一方、ペプチド5〜27および61〜76に位置するエピトープに対する抗体の大部分が、ヒト血液中の抗原を組み換えタンパク質と同等の効率で認識した。
【0011】
アフィニティークロマトグラフィー(NT−proBNPの種々の領域に特異的なモノクローナル抗体を固定したアフィニティーカラム)の使用によって、ヒト血液から内因性の抗原を精製し、ウエスタンブロッティングで解析した。NT−proBNP分子とproBNP分子を、いくつかのNT−proBNP特異的モノクローナル抗体で染色した(図5)。試験したモノクローナル抗体の中には、内因性タンパク質を含むトラックから組み換えNT−proBNPと同じ分子量のタンパク質バンドを検出するものはなかった。主要な免疫活性は、より高い分子量(15〜70kDa)のタンパク質に対応する範囲内の拡散ゾーンに集中していた。
【0012】
ウエスタンブロッティング研究において観察されたこのようなNT−proBNPとproBNPの広範囲わたる多様な形態(図5)は、ヒト血液中を循環しているNT−proBNP分子とproBNP分子のグリコシル化によって説明することができる。
【0013】
従って、本発明の1つの態様は、内因性のグリコシル化NT−proBNPまたはグリコシル化proBNP、もしくはそれらの断片を特異的に認識するが、脱グリコシル化NT−proBNPまたは脱グリコシル化proBNP、もしくはそれらの断片を認識しない抗体またはその断片に関する。更に本発明は、内因性のグリコシル化NT−proBNPまたはグリコシル化proBNP、もしくはそれらの断片を認識し、該認識における親和性は対応する脱グリコシル化タンパク質もしくはその断片に対する親和性よりも高いことを特徴とする、抗体またはその断片を提供する。これに関連する本発明の別の態様においては、上記抗体と同じ特異性を示すアプタマーを提供する。更に上記抗体には、モノクローナル抗体またはモノクローナル抗体断片のみならず、ポリクローナル抗体またはポリクローナル抗体断片も含まれる。また、上記抗体は、組み換え抗体または組み換え抗体断片でもよい。
【0014】
本発明の別の態様においては、NT−proBNPまたはproBNP、もしくはそれらの断片の定性的または定量的な検出のために、上記抗体または抗体断片を用いる診断的免疫アッセイ方法を提供する。これに関連して、患者から得たサンプル中のNT−proBNPまたはproBNP、もしくはそれらの断片をアッセイするための診断方法であって、本明細書に記載した抗体あるいはアプタマーを用いて、サンプルのNT−proBNP含量またはproBNP含量を定量的または半定量的に決定することを包含する方法も提供する。該診断方法は、脊椎動物の血液から単離した、内因性のグリコシル化NT−proBNP標品またはグリコシル化proBNP標品を標準物質として検量曲線を作製することを更に包含してもよい。また該診断方法は、標準曲線を作製し、決定したNT−proBNP含量値またはproBNP含量値を標準曲線と比較することを更に包含してもよい。本発明の診断方法の例としては、免疫アッセイ方法が挙げられる。診断免疫アッセイの1例として、第1の捕捉抗体と第2の検出抗体を使用するサンドイッチ免疫アッセイ方法を挙げることができる。
【0015】
本発明の別の態様は、患者から得たサンプル中のNT−proBNPまたはproBNPをアッセイするための診断方法であって、(a)サンプルに含まれる内因性のNT−proBNPまたはproBNPを脱グリコシル化し、そして(b)NT−proBNPまたはproBNPに特異的な抗体またはアプタマーを用いて、サンプルのNT−proBNP含量またはproBNP含量を決定することを包含する方法に関する。
【0016】
更に別の態様は、グリコシル化NT−proBNPまたはグリコシル化proBNP、もしくはそれらの断片を含む、NT−proBNPまたはproBNPの標準物質または検量物質に関する。この中のいくつかの態様においては、グリコシル化NT−proBNPまたはグリコシル化proBNP、もしくはそれらの断片は、内因性のNT−proBNPまたはproBNPであり、別の態様においては、NT−proBNPまたはproBNPは、脊椎動物の血液から単離されたものである。これに関連した本発明の別の態様においては、グリコシル化した組み換えNT−proBNPまたは組み換えproBNP、もしくはそれらの断片を単離したものを提供する。この中の更に具体的な態様においては、グリコシル化した組み換えNT−proBNPまたは組み換えproBNP、もしくはそれらの断片は、in vitroでグリコシル化したものである。いくつかの更に他の具体的な態様においては、グリコシル化した組み換えNT−proBNPまたは組み換えproBNP、もしくはそれらの断片は、培養細胞系または細胞を含まない翻訳系によって製造したものである。
【0017】
本発明の更に別の態様は、上記分子を抗原として用いた、上記抗体と同じ特異性を有する抗体を製造するための方法に関する。
【0018】
更に別の態様においては、本発明は、患者から得たサンプル中のNT−proBNPまたはproBNP、もしくはそれらの断片の診断アッセイを行うための免疫アッセイ用キットであって、以下の(a)〜(c)を包含するキットを提供する。(a)上記抗体と同じ特異性を有するモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体、(b)検出可能な標識、および(c)本明細書に記載する標準物質または検量物質。代表的なキットは、患者から得たサンプル中のNT−proBNPまたはproBNP、もしくはそれらの断片の診断アッセイを行うための免疫アッセイ用キットであって、以下の(a)〜(c)を包含するキットである。(a)上記抗体と同じ特異性を有する、第1のモノクローナル捕捉抗体、(b)請求項1または2の抗体と同じ特異性を有し、蛍光標識されている第2のモノクローナル検出抗体、および(c)請求項14の標準物質または検量物質。
【0019】
本明細書において、タンパク質、抗体やその他の物質の断片とは、該物質の構造的および/または機能的な断片であって、所望の活性を保持するものである。
【0020】
本発明のその他の特徴および利点については、添付の図面や実施例を含む以下の詳細な説明によってより明確に理解されるであろう。
【0021】
発明の詳細の説明
我々は単離したNT−proBNPおよびproBNPを脱グリコシル化酵素で処理し、得られたタンパク質標品をサンドイッチ免疫アッセイ、ゲル濾過HPLCおよびウエスタンブロッティングで解析した。後述する実施例で詳細に説明するこれらの実験では、次の結果が得られた。
【0022】
サンドイッチ免疫アッセイ: 脱グリコシル化後には、NT−proBNP分子の中央領域に特異的なモノクローナル抗体(天然の内因性抗原を認識しない抗体)は、組み換え(非グリコシル化)型と同等の効率で内因性タンパク質を認識することができた(図6)。
【0023】
HPLCゲル濾過クロマトグラフィー: 脱グリコシル化後には、免疫活性を示すピークの組み換えタンパク質側(即ち、より低い分子量のタンパク質側)へのシフトが観察された(図7)。
【0024】
ウエスタンブロッティング
1)脱グリコシル化後には、組み換えNT−proBNPと同レベルのNT−proBNP免疫活性を示すタンパク質バンドが出現した。
2)NT−proBNP分子の中央部分に特異的な抗体(天然の内因性抗原を認識しない抗体)がこのバンド(脱グリコシル化後の内因性タンパク質)を認識することができた(図8)。
【0025】
まとめ
本明細書においては、ヒト血液中のNT−proBNPおよびproBNPは、過去に考えられていたような単純なポリペプチド鎖としては存在しておらず、糖タンパク質として存在することを明確に開示した。これは、ヒト血液中の一方または両方の分子を検出するように設計したアッセイに使用するモノクローナルまたはポリクローナル抗体は、グリコシル化の影響を受けない分子内の部分を認識するか、あるいは分子のグリコシル化された部分を認識しなければならないことを意味する。
【0026】
このようなアッセイに用いる標準物質および検量物質の調製には、両方のタンパク質のグリコシル化型を用いるべきである。
【0027】
分子のグリコシル化された部分に特異的な抗体を得るためには、グリコシル化型の抗原を動物の免疫に使用すべきである。
【実施例】
【0028】
実施例1: ヒトNT−proBNP分子に特異的なモノクローナル抗体(MAb)の調製と特徴づけ
ヒトNT−proBNP分子の配列1〜24、13〜27、28〜45、46〜60および61〜76に対応する合成ペプチド(フィンランド国、HyTest製)を、ウシ血清アルブミン(BSA)に結合し、マウスの免疫に使用した。小さなペプチドを担体タンパク質分子と結合することで、動物の免疫応答を増強することができる。
【0029】
6〜12週令のメスのBalb/cマウスを免疫に使用した。
【0030】
NT−proBNP分子に特異的なモノクローナル抗体(MAb)を産生するハイブリドーマ細胞系は、マウス脾臓細胞とミエローマSP2/0細胞とのハイブリダイゼーションの後に得た。
【0031】
培養上清の全長組み換えNT−proBNP分子(大腸菌で発現したもの)に対する反応性を試験し、84株の陽性培養細胞を更なる研究のために選択した。この内、14株は領域1〜24、24株は領域13〜27、19株は領域28〜45、13株は領域46〜60、そして15株は領域61〜76にそれぞれ特異的な抗体を産生した。選択した培養細胞は、限界希釈法によってサブクローニングを2回行い、増殖後に凍結した。
【0032】
モノクローナル抗体を含有する腹水をBalb/Cマウスで作製した。
【0033】
タンパク質A−セファロース(GE Healthcare製)によるアフィニティークロマトグラフィーで抗体を腹水から単離した。
【0034】
精製した抗体のアイソタイプをモノクローナル抗体アイソタイピングキット(Pierce製)で決定した。全てのMAbがIgGと特定された。
【0035】
実施例2: エピトープ解析
新たに産生した全ての抗体について、合成ペプチド1〜12、5〜20、1〜24、13〜27、28〜45、31〜39、34〜42、37〜45、48〜56、50〜58、52〜60、46〜60、63〜71、65〜73、67〜76と61〜76からなる、重複する配列を含むライブラリーを用いて、詳細なエピトープマッピングを行った。合成ペプチドは、担体タンパク質(オブアルブミン)と結合させた。1μg/ml(ウェル当たり100μl)の濃度のペプチド結合体でプレートを被覆した。洗浄後、PBSTで復元したモノクローナル抗体をウェルに加えた。室温で30分のインキュベーションの後、プレートを洗浄し、HRP結合ウサギ抗マウスFc特異的ポリクローナル抗体を各ウェルに添加した。30分のインキュベーションの後、プレートをPBSTで洗浄し、o−フェニレンジアミン基質系によって発色させた。ビクター1420マルチラベルカウンター(Victor 1420 Multilabel Counter)を用い、492nmで吸光度を測定した。領域1〜24に特異的なMAbは、エピトープが領域1〜12、5〜12、5〜20および13〜24にそれぞれ位置する4つの抗体群に分けられた。領域13〜27に特異的な抗体は、エピトープが領域13〜20と13〜24にそれぞれ位置する2つの抗体群に分けられ、領域28〜45に特異的な抗体は、エピトープが領域31〜39と34〜39にそれぞれ位置する2つの抗体群に分けられた。ペプチド46〜60に特異的な抗体は、エピトープが領域46〜56、48〜56、46〜60および52〜58にそれぞれ位置する4つの抗体群に分けられ、ペプチド61〜76に特異的な抗体は、エピトープが領域63〜71、67〜73および67〜76にそれぞれ位置する3つの抗体群に分けられた。
【0036】
実施例3: ヒトNT−proBNPの定量的測定のための、サンドイッチ免疫蛍光アッセイ(IFA)の開発
本発明において、ヒト血液中のNT−proBNPを定量するためのサンドイッチ型の免疫蛍光アッセイを確立した。このアッセイ法は、プレート表面に吸着させたモノクローナル抗体に対する抗原の結合による一次免疫複合体の形成と、安定なユーロピウム(III)キレートで標識された別のモノクローナル抗体による一次免疫複合体の検出に基づくものである。
【0037】
実施例4: 抗体と安定なユーロピウムキレートとの結合
セファデックスG25カラム(NAP−5)によるゲル濾過を用いて、抗体を予備的にNaClの0.9%水溶液に移した。2,2’,2”,2’”;−[[4−[(4−イソチオシアナトフェニル)エチニル]ピリジン−2,6−ジイル]ビス(メチレンニトリロ)]テトラキス(酢酸)の安定なユーロピウム(III)キレートによる抗体の標識は、200倍モル量過剰なユーロピウム(III)キレートを含有する50mmol/LのNa−カーボネート緩衝液(pH9.8)中、+4°Cで一晩インキュベートすることで行った。0.01mol/LのTris−HCl(pH7.8)、0.15mol/LのNaClおよび0.1%のNaN3を含有する緩衝液を用いた、セファデックスG25カラム(NAP−5)によるゲル濾過で標識抗体を未反応キレートと分離した。
【0038】
実施例5: 患者と血液サンプル
HFを患う患者の診断は、呼吸困難、起座呼吸、肺の水泡音および下肢浮腫という症状に基づいて行い、心エコーとX線検査によって確認した。予備診断は心臓病専門医によって行われ、HFの専門医によって更に確認された。血液サンプルは、左室駆出分画率が30%未満で、左室収縮終末期容積が90ml超の患者から収集した。静脈血はEDTAを含有するVacuetteチューブ(Greiner Bio-One製)に回収し、3000g(15分、+4℃)で遠心分離した。血清サンプルは、プラスチックチューブに回収した血液を室温で30分インキュベートし、5000g(30分、+20℃)で遠心分離して得た。血漿と血清のサンプルは使用するまで−70℃で保存した。MAbの試験においては、プールした血清(重度HF患者39人)またはプールした血漿(HF患者10人)を内因性抗原の供給源として使用した。陰性の対照(HFではないサンプル)としては、10人の健常ドナーからプールした血清または血漿を使用した。
【0039】
実施例6: サンドイッチIFA
作製した全てのMAbについて、2つの部位に対するMAb(捕捉用および検出用)を組み合わせた試験を、組み換えNT−proBNP、および内因性抗原の供給源となるHF患者からプールした血清または血漿を用いて実施した。濃度が10μg/mlの捕捉抗体をEIAプレート(ウェル当たり100μl)に添加し、リン酸生理食塩緩衝液中、室温で30分間、ゆっくりと振とうさせながらインキュベートした。0.01mol/LのTris−HCl(pH7.8)、0.15mol/LのNaCl、0.025%のTween20および0.05%のNaN3を含む緩衝液(バッファーA)を用いてタイタープレートを2回洗浄した後、抗原(プールした正常ヒト血漿で復元した組み換えNT−proBNP、またはHF血漿または血清由来の内因性抗原、50μl)と検出抗体(4μg/ml、50μl)の混合物を0.05mol/LのTris−HCl(pH7.7)、0.9%のNaCl、0.01%のTween20、0.5%のBSAおよび0.05%のNaN3を含有する緩衝液(バッファーB)に溶解したものをウェルに添加した。プレートを室温で30分間、ゆっくりと振とうさせながらインキュベートし、バッファーAを用いて6回洗浄した。増強溶液(1.75mol/L NaSCN、1mol/L NaCl、50ml/L グリセリン、200ml/L 1−プロパノール、0.005mol/L Na2CO3、0.05mol/L グリシン−NaOH、pH10.0)の添加後、混合物を同じ条件下で3分間インキュベートした。ビクター1420マルチラベルカウンターで蛍光を測定した。
【0040】
実施例7: 種々の免疫アッセイ法による血液サンプルの試験
2つの部位を組み合わせた試験(サンドイッチ免疫アッセイ)に使用した、個別のエピトープに対するMAbの全てが、組み換えNT−proBNPおよび組み換えproBNPを低い検出限界(10〜100ng/L)で検出することができた。同時に、わずかなMAbの組み合わせのみがHF患者の血清と血漿から抗原を認識することができた。領域13〜27に特異的なMAbと領域61〜76に特異的な別のMAbとの組み合わせのみが、内因性抗原を高感度で検出した。
【0041】
領域46〜60に特異的な13種のMAbは、いかなる別の抗体と共に2つの部位を組み合わせた試験に使用しても、内因性抗原を認識することはできなかった。最もN末端側の領域に特異的なMAbまたは領域28〜45に特異的なMAbを配列61〜76を認識する抗体とペアにして試験すると、内因性ペプチドと組み換えペプチドのシグナル比は、エピトープ13〜27に特異的なMAbを用いるアッセイよりも著しく低かった。ペプチド5〜12に特異的なMAb 29D12のみが、ペプチド67〜76に特異的なMAbとペアにして試験した際に、血清サンプルまたは血漿サンプルとの相互作用によって高いシグナルをもたらした。
【0042】
NT−proBNP分子の種々の領域に特異的な抗体を用いたサンドイッチ免疫アッセイによる、組み換え型および内因性(心不全対象者からプールした血漿)のNT−proBNPの試験結果を図2に示した。
【0043】
組み換え抗原と天然抗原を同じ効率で認識できることから、更なる研究には、アッセイ15C463-71−13G1213-20を選択し、使用した。
【0044】
この結果、我々は、NT−proBNP分子の中央部分(領域28〜60)に特異的なMAbは、ヒト血液中の抗原をほとんど認識することができないことを示した。
【0045】
実施例8: 15C4−13G12免疫アッセイの特徴づけ
MAb 15C4−13G12を使用するサンドイッチ免疫蛍光アッセイを実施例6と同様に実施した。
【0046】
このアッセイに使用した抗体の特異性は、ウエスタンブロッティング解析で確認した(データは示さない)。両方の抗体が大腸菌に発現させた組み換えproBNPと組み換えNT−proBNPを検出した。
【0047】
大腸菌で発現したヒト組み換えNT−proBNPを正常ヒト血漿で復元し、サンドイッチIFAの検量物質として使用した。検出限界は、検体を含まない検量物質の平均シグナル値に標準偏差の2倍を足した値のシグナルを産生する濃度(1つの実験で20回測定)と定義した。組み換えNT−proBNPの典型的な検量曲線と、ヒト血漿サンプルの段階希釈系列を図3に示した。検出限界は10ng/Lであり、免疫アッセイは15〜100,000ng/Lの範囲で直線的だった。
【0048】
実施例9: 組み換えおよび内因性のNT−proBNPのゲル濾過による研究
Seidler et al.(文献8)は、(非変性条件下の)ゲル濾過による研究において、NT−proBNPおよびproBNPは変則的な移動度を示し、それらの見かけの分子量は約30〜40kDaであると報告した。著者らは、ヒト血液においていずれのタンパク質もホモ型−オリゴマー型であることを示唆している。我々の研究では、HF患者の血漿を内因性NT−proBNPの原料として用い、ゲル濾過による研究を実施した。
【0049】
個別の患者血漿サンプルを10,000gで10分間遠心分離し、上清(150μl)を、0.1mol/L リン酸ナトリウム(pH7.4)、0.3mol/L NaClおよび0.005mol/L EDTAを含む緩衝液で平衡化したスーパーデックス75 10/300 GLゲル濾過カラムにアプライした。タンパク質を流速0.8ml/分で溶出し、容積0.7mlの画分を回収した。続いて、NT−proBNP免疫活性を15C463-71−13G1213-20サンドイッチ免疫アッセイで測定した。
【0050】
以下の一群の標準タンパク質(GE Healthcare製)を用いて、カラムを校正した: アルブミン(Mr 67000Da)、オブアルブミン(Mr 43000Da)、キモトリプシノーゲン(Mr 25000Da)、リボヌクレアーゼA(Mr 13700Da)およびアプロチニン(Mr 6517.5Da、Sigma製)。スーパーデックス75カラムにロードする前に、組み換えNT−proBNPを健康なドナーからプールした血漿で復元した。
【0051】
NT−proBNPアッセイによる画分解析によって、ヒト血漿サンプルから1つの免疫反応性のピーク(約30kDa)が見出された(図4)。最大NT−proBNP活性の位置は、組み換えNT−proBNP(約16kDa)および組み換えproBNP(約21kDa)について確立されたものと一致しなかった。従って我々は、GFにおいて内因性NT−proBNPは、組み換えタンパク質よりも顕著に高い見かけの分子量を示すことを観察した。内因性タンパク質と組み換えタンパク質の間で観察された見かけの分子量の差は、内因性NT−proBNPの(分子の中央部分における)翻訳後修飾によって説明することができる。このような修飾の存在は、分子の中央領域に特異的な抗体が内因性抗原を認識することができないという事実も説明することができる。
【0052】
実施例10: 内因性NT−proBNPのウエスタンブロッティングによる研究
NT−proBNPをプールしたHF患者の血漿からアフィニティークロマトグラフィーによって精製した。アフィニティーマトリクスを得るために、NT−proBNP分子の種々の領域に特異的な抗体(15C4、24E11、18H5、15F11)の混合物を、標準的なプロトコルに従ってBrCN活性化セファロースCL−4B(GE Healthcare製)に固定した。上述した実験(実施例8を参照)によって、上記MAbは内因性抗原を高い効率で認識しうることが示されている。抗体が固定されたアフィニティーマトリクスを0.1mol/Lのグリシン(pH2.0)で洗浄し、0.15mol/LのNaClを含む0.02mol/L Tris−HCl(pH7.5)で平衡化した。HF患者のプールした血漿を、+4℃、流速1ml/分の条件で抗NT−proBNP−セファロースにロードした。ペプチドは0.1mol/L HClの水溶液で溶出した。溶出物を2mol/LのTris−HClで中和した。アフィニティークロマトグラフィー後の回収率は88%だった。
【0053】
次に溶出物を、NT−proBNPと相互作用しないMAbを固定化したセファロースCL−4B(陰性クロマトグラフィー)にロードし、アフィニティーマトリクスに非特異的に結合するタンパク質を除去した。
【0054】
続いて、2回目のアフィニティークロマトグラフィーによってNT−proBNPを濃縮した。NT−proBNPを含有する溶液を、+4℃、流速1ml/分の条件で抗NT−proBNP−セファロース(抗体量は、NT−proBNP濃度に対して10倍モル量過剰)にロードした。ペプチドを0.1mol/L HClで溶出し、凍結乾燥し、水で復元し、使用するまで−70℃で保存した。
【0055】
NT−proBNP標品へのproBNPの混入をproBNP特異的免疫アッセイで検出したところ、NT−proBNPの全量に対して9%未満だった。
【0056】
内因性NT−proBNPのサンプルのみならず、組み換えNT−proBNPと組み換えproBNPも0.25mol/L Tris−HCl(pH6.8)、10ml/L 2−メルカプトエタノール、20g/L ドデシル硫酸ナトリウムと100ml/L グリセリン中で5分間煮沸し、Schagger and von Jagow(文献10)に記載のトリシン電気泳動によるタンパク質分離のためのゲルにロードした。電気泳動は一定電圧(150V)、+4℃の条件下で4時間行い、ゲルは16.5% T,3% C分離ゲルを使用した。プールしたHF患者の血漿から抽出した200ngのNT−proBNP(濃度は15C463-71−13G1213-20免疫アッセイで決定した)、または50ngの組み換えNT−proBNP(proBNP)を各トラックにロードした。
【0057】
電気泳動の後、ペプチドをニトロセルロースメンブラン(Trans-BlotR転写メンブラン、0.2μm、BioRad製)に転写した。転写は、一定電圧(100V)で40分間行った。非特異的な結合は、メンブランを無脂肪乾燥ミルクの10%PBST溶液中でインキュベートすることでブロックした。西洋ワサビパーオキシダーゼに結合したNT−proBNP特異的MAbによるペプチドの免疫化学染色は、無脂肪乾燥ミルクの10%PBST溶液中、+4℃で12時間行った。免疫複合体は、ジアミノベンジジンと塩化ニッケルを含む基質溶液とインキュベートすることで可視化した。
【0058】
内因性タンパク質を含むトラックにおいては、試験したいかなるモノクローナル抗体も、組み換えNT−proBNPと同じ分子量を有するタンパク質バンドを認識することはなかった(図5)。MAb 15F11(エピトープ13〜24)で試験すると、15kDa以上の分子量を有するタンパク質に対応する範囲内のいくつかの拡散ゾーンにおいて免疫反応性タンパク質が検出された。MAb 15F11とは対照的に、内因性NT−proBNPは、アミノ酸残基31〜39領域に特異的なMAb 11D1では染色されなかった。これらのデータは、11D1はヒト血漿中のNT−proBNPを稀にしか検出しないという実施例7に記載したIFAの結果と一致する。
【0059】
ウエスタンブロッティング研究における、MAb 15F11によって染色される種々の拡散NT−proBNPゾーンの存在は、ヒト血液中を循環しているNT−proBNP分子のグリコシル化によって説明することができる。
【0060】
実施例11: 脱グリコシル化内因性NT−proBNPのサンドイッチIFAによる試験
プールしたヒト血漿から抽出したNT−proBNPを、脱グリコシル化酵素であるO−グリコシダーゼ(S. pneumoniae)およびシアリダーゼ(A. ureafaciens)(米国、QA-Bio製)で処理した。処理は、0.075mol/Lのリン酸ナトリウム(pH5.0)を含む緩衝液中、+37℃で1時間行った。陰性の対照としては、酵素を含まない0.075mol/Lのリン酸ナトリウム(pH5.0)水溶液を検討するペプチドに添加した。
【0061】
脱グリコシル化後、実施例7と同様に、分子の異なる部分に特異的なMAbを使用した免疫アッセイで内因性NT−proBNPを試験した。
【0062】
分子の中央部分に特異的なMAbを用いるアッセイで測定した免疫活性は、脱グリコシル化後に顕著に増加した(図6)。MAb 5D328-45、11D131-39、5E231-39、16E634-39を使用したアッセイにおいて、シグナル値は7.5〜10倍に増加した。NT−proBNPの領域46〜56に特異的なMAb 15D748-56と16D1048-56については、免疫活性は約50倍に増加した。図6に示した結果は、内因性NT−proBNP(処理済または未処理)/組み換えNT−proBNPのシグナル比(%)で表されており、MAb 15C4−13G12を用いたアッセイで得られた内因性脱グリコシル化体/組み換え体のシグナル比を100%とした値である。
【0063】
この結果、我々はNT−proBNP分子の中央部分がグリコシル化されており、多糖残基が抗体と内因性抗原との相互作用を妨げていることを示した。NT−proBNP分子の中央部分に特異的な抗体は内因性抗原を認識することができないので、グリコシル化による影響を受けない他の領域に特異的なMAbをNT−proBNPおよびproBNPのアッセイに使用すべきである。
【0064】
実施例12: 脱グリコシル化前後の内因性NT−proBNPのゲル濾過による研究
O−グリコシダーゼおよびシアリダーゼで処理済および未処理のNT−proBNPをゲル濾過(GF)法で研究した。プールしたHF患者の血漿から抽出したNT−proBNPを酵素で処理し、その後、画分中の免疫活性を免疫アッセイ15C4−13G12と11D1−13G12の2種で決定した。実施例11に示したデータによると、アッセイ15C4−13G12はグリコシル化に対して非感受性であり、一方、11D1−13G12アッセイは、炭水化物構造の除去後にのみ内因性NT−proBNPを検出することができる。
【0065】
以下のa)〜d): a)プールしたHF患者の血漿から抽出した内因性NT−proBNP、b)プールしたHF患者の血漿から、脱グリコシル化後に抽出した内因性NT−proBNP、c)組み換えNT−proBNPおよびd)組み換えproBNPのそれぞれのサンプルを、同じ濃度(330ng/ml)となるように、0.7mol/LのNaCl、0.005mol/LのEDTAおよび5g/Lのウシ血清アルブミンを含有する0.1mol/L リン酸ナトリウム(pH7.4)を150μl用いて復元した。0.7mol/L NaClおよび0.005mol/L EDTAを含む0.1mol/L リン酸ナトリウム(pH7.4)で平衡化したスーパーデックス75 10/300 GLゲル濾過カラムにサンプルをアプライした。タンパク質を流速0.7ml/分で溶出し、容積0.5mlの画分を回収した。NT−proBNPの免疫活性を、グリコシル化に非感受性のモノクローナル抗体を使用したサンドイッチ免疫アッセイ15C5−13G12、およびグリコシル化内因性NT−proBNPと相互作用しない11D1−13G12アッセイで測定した。
【0066】
以下の一群の標準タンパク質を用いて、カラムを校正した: アルブミン(Mr 67000Da)、オブアルブミン(Mr 43000Da)、キモトリプシノーゲン(Mr 25000Da)、リボヌクレアーゼA(Mr 13700Da)およびアプロチニン(Mr 6517.5Da)。スーパーデックス75カラムにロードする前に、組み換えNT−proBNPと組み換えproBNPは健康なドナーからプールした血漿で復元した。
【0067】
15C4−13G12免疫アッセイで測定したところ、内因性NT−proBNPは2つの免疫反応性のピークを示し(図7)、主要なものは分子量が約28kDaのピークであり、小さなものは分子量が約51kDaのピークだった。脱グリコシル化後には、免疫活性を示す両方のピークがより低い分子量のタンパク質側にシフトするのが観察された。主要なピークは分子量が約18kDaのタンパク質に相当し、小さなピークは分子量が約51kDaのタンパク質に相当した。
【0068】
11D1−13G12免疫アッセイ(グリコシル化に感受性の抗体11D1を使用)で測定したところ、内因性のNT−proBNPはほとんど応答しなかったものの、脱グリコシル化タンパク質については、顕著な応答が観察された。免疫反応性のプロファイルは、15C4−13G12免疫アッセイで測定したプロファイルと非常に類似していた。
【0069】
実施例13: ウエスタンブロッティングにおける、アフィニティ精製した(脱グリコシル化前後の)内因性NT−proBNPのNT−proBNP特異的モノクローナル抗体による免疫化学染色
電気泳動とウエスタンブロッティングを実施例10の記載と同様に実施した。
【0070】
ここでは、脱グリコシル化前のサンプル中のタンパク質の可視化に、MAb 15F11(エピトープ13〜24)を使用した。主要な免疫活性は、約15kDa以上の分子量を有するタンパク質に対応する範囲内のいくつかの拡散ゾーンから検出された。MAb 15F11とは異なり、内因性NT−proBNPは、アミノ酸残基31〜39領域に特異的なMAb 11D1では染色されなかった。脱グリコシル化後には、両方の抗体が見かけの分子量が約13kDaのペプチドを検出することができた。このバンドが組み換えNT−proBNPバンドの少し上に位置することは、脱グリコシル化が不完全であったという事実によって説明することができる。
【0071】
我々は、NT−proBNP分子の中央領域に特異的な抗体を用いたウエスタンブロッティング実験では内因性タンパク質を検出することはできないが、脱グリコシル化後には、このような抗体によって「可視化」できると結論付けた。
【0072】
参考文献

1. Mair J, Hammerer-Lercher A, Puschendorf B. The impact of cardiac natriuretic peptide determination on the diagnosis and management of heart failure. Clin. Chem. Lab. Med. 2001; 39:571-88.

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4. Hunt PJ, Espiner EA, Nicholls MG, Richards AM, Yandle TG. The role of the circulation in processing pro-brain natriuretic peptide (proBNP) to amino-terminal BNP and BNP-32. Peptides 1997; 18:1475-1481.

5. Hughes D, Talwar S, Squire IB, Davies JE, Ng LL. An immunoluminometric assay for N-terminal pro-brain natriuretic peptide: development of a test for left ventricular dysfunction. Clin. Sci. (Lond) 1999; 96:373-380.

6. Karl J, Borgya A, Gallusser A, et al. Development of a novel, N-terminal-proBNP (NT-proBNP) assay with a low detection limit. Scand. J. Clin. Lab. Invest. Suppl. 1999; 230:177-181.

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10. Schagger H, von Jagow G. Tricine-sodium dodecyl sulfate-polyacrylamide gel electrophoresis for the separation of proteins in the range from 1 to 100 kDa. Anal. Biochem. 1987; 166:368-379.
【0073】
添付の図面は本発明の説明を容易にするために提供するものであり、それは以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本願で使用したNT−proBNP特異的モノクローナル抗体のエピトープマップ。
【図2】内因性NT−proBNP(HF患者の血漿由来の抗原)に対する種々のMAbの特異性。結果は、2つの部位に対するMAbの種々の組み合わせにおける、血漿シグナル値と組み換えNT−proBNP標準物質のシグナル値の比として表した。このような組み合わせにおいては、1種のMAbを内因性NT−proBNPと効果的に相互作用することができるもの(MAb 24E11、エピトープ67〜76またはMAb 13G12、エピトープ13〜20)とし、もう1種のMAbを、NT−proBNP分子の異なる領域に特異的な一群の抗体から選んだものとした。組み換えNT−proBNPの濃度は、15C4−13G12アッセイで決定したHF患者血漿の内因性抗原濃度と同じだった。
【図3】アッセイ15C4−13G12の検量曲線と、2つの個別の血漿サンプルの希釈曲線。組み換えNT−proBNP(大腸菌で発現、HyTest製)をプールした正常ヒト血漿で復元したものを検量物質として用いた。
【図4】HF患者の4つの血漿サンプルのゲル濾過(スーパーデックス75 10/300 GLカラム)による研究結果。画分中のNT−proBNP免疫反応性は、内因性NT−proBNPを認識するモノクローナル抗体である15C4(エピトープ63〜71)と13G12(エピトープ13〜20)を用いたサンドイッチ免疫アッセイで定量した。
【図5】アフィニティ精製した内因性NT−proBNPのウエスタンブロッティング研究の結果。トラック1,4: 組み換えNT−proBNP(50ng/トラック)、トラック2,5: 組み換えproBNP(50ng/トラック)、トラック3,6: ヒト血漿から精製した内因性NT−proBNP(200ng/トラック)。免疫染色には、MAb 15F11(エピトープ13〜24)をトラック1〜3に、MAb 11D1(エピトープ31〜39)をトラック4〜6に使用した。
【図6】内因性NT−proBNP(黒いカラム)または脱グリコシル化(O−グリコシダーゼとシアリダーゼ処理)後の内因性NT−proBNP(灰色のカラム)に対する、種々のモノクローナル抗体の特異性。結果は、2つの部位に対するMAbの種々の組み合わせで得られるシグナル比(内因性/組み換え体)で表した。3つの型のNT−proBNP、即ち、a)組み換え体(非グリコシル化)、b)HF患者血漿から抽出した内因性のもの、およびc)血漿から抽出し、酵素処理した内因性のもの、を同じ濃度で使用し、種々のモノクローナル抗体を用いたサンドイッチ免疫アッセイで試験した。この免疫アッセイにおいては、1種のMAbをグリコシル化の影響を受けないエピトープに特異的なもの(MAb 24E11,エピトープ67〜76またはMAb 13G12,エピトープ13〜20)とし、もう1種は、NT−proBNP分子の他の領域に特異的な一群の抗体から選んだものとした。
【図7】血漿から抽出した内因性NT−proBNP(実線)とO−グリコシダーゼおよびシアリダーゼで処理した内因性NT−proBNP(点線)のゲル濾過(スーパーデックス75 10/300 GLカラム)による研究の結果。画分中のNT−proBNPの免疫反応性は、2種のサンドイッチ免疫アッセイ、即ち、15C4−13G12(黒い三角)および11D1−13G12(黒い四角)で定量した。免疫アッセイ15C4−13G12はグリコシル化に感受性ではない。免疫アッセイ11D1−13G12はグリコシル化に感受性である。
【図8】脱グリコシル化前後のNT−proBNPのアフィニティ精製標品に関するウエスタンブロッティング研究の結果。トラック1,5: 組み換えNT−proBNP(大腸菌,トラック当たり50ng)、トラック2,6: 組み換えproBNP(大腸菌,トラック当たり50ng)、トラック3,7: アフィニティ精製した内因性NT−proBNP(トラック当たり200ng)、トラック4,8: 脱グリコシル化後にアフィニティ精製した内因性NT−proBNP(トラック当たり200ng)。MAb 15F11(エピトープ13〜24)をトラック1〜4、またはMAb 11D1(エピトープ31〜39)をトラック5〜8の抗原免疫染色に使用した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内因性のグリコシル化NT−proBNPまたはグリコシル化proBNP、もしくはそれらの断片を特異的に認識するが、脱グリコシル化NT−proBNPまたは脱グリコシル化proBNP、もしくはそれらの断片は認識しない抗体またはその断片。
【請求項2】
内因性のグリコシル化NT−proBNPまたはグリコシル化proBNP、もしくはそれらの断片を認識し、該認識における親和性は、対応する脱グリコシル化タンパク質もしくはその断片に対する親和性よりも高いことを特徴とする、抗体またはその断片。
【請求項3】
請求項1または2の抗体と同じ特異性を有するアプタマー。
【請求項4】
モノクローナル抗体またはモノクローナル抗体断片であることを特徴とする、請求項1または2に記載の抗体またはその断片。
【請求項5】
ポリクローナル抗体またはポリクローナル抗体断片であることを特徴とする、請求項1または2に記載の抗体またはその断片。
【請求項6】
組み換え抗体または組み換え抗体断片であることを特徴とする、請求項1または2に記載の抗体またはその断片。
【請求項7】
NT−proBNPまたはproBNP、もしくはそれらの断片の定性的または定量的な検出のために、請求項1〜6のいずれかに記載の抗体またはその断片を用いる診断的免疫アッセイ方法。
【請求項8】
患者から得たサンプル中のNT−proBNPまたはproBNP、もしくはそれらの断片をアッセイするための診断方法であって、請求項1または2の抗体あるいは請求項3のアプタマーを用いて、サンプルのNT−proBNP含量またはproBNP含量を定量的または半定量的に決定することを包含する方法。
【請求項9】
脊椎動物の血液から単離した内因性のグリコシル化NT−proBNP標品またはグリコシル化proBNP標品を標準物質として用いて検量曲線を作製することを更に包含する、請求項8に記載の診断方法。
【請求項10】
標準曲線を作製し、決定したNT−proBNP含量値またはproBNP含量値を標準曲線と比較することを更に包含する、請求項9に記載の診断方法。
【請求項11】
診断方法が免疫アッセイ方法であることを特徴とする、請求項8に記載の診断方法。
【請求項12】
免疫アッセイ方法が、第1の捕捉抗体と第2の検出抗体を使用するサンドイッチ免疫アッセイ方法であることを特徴とする、請求項11に記載の診断方法。
【請求項13】
患者から得たサンプル中のNT−proBNPまたはproBNPをアッセイするための診断方法であって、
(a) サンプルに含まれる内因性のNT−proBNPまたはproBNPを脱グリコシル化し、そして
(b) NT−proBNPまたはproBNPに特異的な抗体またはアプタマーを用いて、サンプルのNT−proBNP含量またはproBNP含量を決定する
ことを包含する方法。
【請求項14】
グリコシル化NT−proBNPまたはグリコシル化proBNP、もしくはそれらの断片を含む、NT−proBNPまたはproBNPの標準物質または検量物質。
【請求項15】
脊椎動物の血液から単離した、内因性のグリコシル化NT−proBNPまたはグリコシル化proBNP、もしくはそれらの断片。
【請求項16】
グリコシル化した組み換えNT−proBNPまたは組み換えproBNP、もしくはそれらの断片。
【請求項17】
該グリコシル化がin vitroでのグリコシル化であることを特徴とする、請求項16に記載のグリコシル化した組み換えNT−proBNPまたは組み換えproBNP、もしくはそれらの断片。
【請求項18】
培養細胞系または細胞を含まない翻訳系で製造したことを特徴とする、請求項16に記載のグリコシル化した組み換えNT−proBNPまたは組み換えproBNP、もしくはそれらの断片。
【請求項19】
請求項15〜18のいずれかの分子を抗原として用いることを包含する、請求項1または2の抗体と同じ特異性を有する抗体を製造するための方法。
【請求項20】
患者から得たサンプル中のNT−proBNPまたはproBNP、もしくはそれらの断片の診断アッセイを行うための免疫アッセイ用キットであって、以下の(a)〜(c)を含むキット。
(a) 請求項1または2の抗体と同じ特異性を有するモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体、
(b) 検出可能な標識、および
(c) 請求項14の標準物質または検量物質。
【請求項21】
患者から得たサンプル中のNT−proBNPまたはproBNP、もしくはそれらの断片の診断アッセイを行うための免疫アッセイ用キットであって、以下の(a)〜(c)を含むキット。
(a) 請求項1または2の抗体と同じ特異性を有する第1のモノクローナル捕捉抗体、
(b) 請求項1または2の抗体と同じ特異性を有し、蛍光標識されている第2のモノクローナル検出抗体、および
(c) 請求項14の標準物質または検量物質。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−538288(P2009−538288A)
【公表日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−511539(P2009−511539)
【出願日】平成19年5月25日(2007.5.25)
【国際出願番号】PCT/FI2007/050298
【国際公開番号】WO2007/138163
【国際公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(508347579)
【氏名又は名称原語表記】HYTEST LTD.
【出願人】(508347580)
【出願人】(508347591)
【出願人】(508347605)
【出願人】(508347616)
【出願人】(508347627)
【Fターム(参考)】