説明

Ni基合金フラックス入りワイヤ

【課題】 アークを安定させて溶接作業性を改善し、しかも低温靭性、耐割れ性を高めることができるNi基合金フラックス入りワイヤを提供する。
【解決手段】 Ni基合金からなる外皮内にフラックス粉末を充填し、フラックス粉末にワイヤ全重量に対し4〜10重量%の非金属粉末を含有する。非金属粉末中に非金属粉末に対して10〜37重量%のTiOと、20〜65重量%のフッ化物と、0.1〜15重量%のMgTiOと、1〜30重量%のKTiOまたはCaTiOと、アークの安定とスラグの流動性を高める役割を果たすその他の酸化金属と、不可避不純物とを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐食、耐熱が要求される構造物及びLNGタンク等の極低温構造物の溶接に多用されるNi基合金フラックス入りワイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特開平8−309583号(特許文献1)、特開平10−180486号(特許文献2)、特開平10−296486号(特許文献3)には、Ni基合金からなる外皮内に、非金属粉末を含むフラックス粉末が充填されたNi基合金フラックス入りワイヤが示されている。この種のワイヤは、Ni鋼からなる極低温構造物の溶接に用いられることが多い。これらのワイヤにおいては、フラックス粉末の非金属粉末として、TiO等の金属酸化物やフッ化物が用いられている。TiOはアークを安定させて溶接作業性を改善する役割を果たしている。しかしながら、TiOが用いられると、溶接金属の低温靭性、耐割れ性等の機械的性質が低下する。そこで、CaOやMgOを含む複酸化物等を加えて溶接金属の低温靭性、耐割れ性を高めている。
【特許文献1】特開平8−309583号
【特許文献1】特開平10−180486号
【特許文献1】特開平10−296486号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来のNi基合金フラックス入りワイヤでは、CaOやMgOを加えても低温靭性、耐割れ性を十分に高めることはできなかった。特に外皮としてNi基合金を用いた場合には、溶融金属の湯流れが悪くなり、低温靭性、耐割れ性を十分に高めるには限界があった。
【0004】
本発明の目的は、アークを安定させて溶接作業性を改善し、しかも低温靭性、耐割れ性を高めることができるNi基合金フラックス入りワイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のNi基合金フラックス入りワイヤは、Ni基合金からなる外皮内にフラックス粉末が充填され、フラックス粉末にワイヤ全重量に対し4〜10重量%の非金属粉末が含有されている。そして、非金属粉末は、非金属粉末全量を100重量%とした場合における10〜37重量%のTiOと、20〜65重量%のフッ化物と、0.1〜15重量%のMgTiOと、1〜30重量%のKTiOまたはCaTiOと、アークの安定とスラグの流動性を高める役割を果たすその他の酸化金属と、不可避不純物とを含有する。本発明によれば、特に、MgTiO(チタン酸マグネシウム)の量がフラックス粉末に対して0.1〜15重量%であり、KTiO(チタン酸カリウム)またはCaTiO(チタン酸カルシウム)の量がフラックス粉末に対して1〜30重量%であるため、溶接金属の低温靭性、耐割れ性を高めることができる。これは、CaO成分やMgO成分がチタン酸マグネシウムや他のチタン酸塩により安定して存在し、溶接金属中の酸素量を低下できるためであると考えられる。このため、TiO成分の量を高くしてアークを安定させて溶接作業性を改善し、しかも低温靭性、耐割れ性を高めることができるNi基合金フラックス入りワイヤを得ることができる。MgTiO(チタン酸マグネシウム)のフラックス粉末に対する量が0.1重量%を下回ったり、15重量%を上回る場合や、KTiO(チタン酸カリウム)またはCaTiO(チタン酸カルシウム)のフラックス粉末に対する量が1重量%を下回ったり、30重量%を上回る場合は、溶接金属の低温靭性、耐割れ性を十分に高めることができない。
【0006】
また、TiOとTiOを含む複酸化物中のTiOとを合わせたTiO成分、フッ化物、CaOを含む複酸化物中のCaOからなるCaO成分、MgOを含む複酸化物中のMgOからなるMgO成分の非金属粉末に対する重量%を、それぞれTiO成分重量%、フッ化物重量%、CaO成分重量%及びMgO重量%と定義したときに、Aeq=TiO成分重量%、Beq=フッ化物成分重量%+0.7×CaO成分重量%+0.98×MgO成分重量%の式で算出されるAeq、Beqが、Aeq≦60、Beq≧35となるように、TiO成分、フッ化物、CaO成分及びMgO成分の量を定めるのが好ましい。
【0007】
また、その他の酸化金属に、SiOと、SiOを含む複酸化物と、ZrOと、ZrOを含む複酸化物と、Alと、Alを含む複酸化物と、CaOと、CaOを含む複酸化物と、MgOと、MgOを含む複酸化物との少なくとも一つを含む場合は、SiOとSiOを含む複酸化物中のSiOとを合わせたSiO成分、ZrOとZrOを含む複酸化物中のZrOとを合わせたZrO成分、AlとAlを含む複酸化物中のAlとを合わせたAl成分、CaOとCaOを含む複酸化物中のCaOとを合わせたCaO成分、MgOとMgOを含む複酸化物中のMgOとを合わせたMgO成分の非金属粉末に対する重量%を、それぞれSiO成分重量%、ZrO成分重量%、Al成分重量%、CaO成分重量%及びMgO成分重量%と定義したときに、Aeq=TiO成分重量%+1.3×SiO成分重量%+0.65×ZrO成分重量%+0.78×Al成分重量%、Beq=フッ化物重量%+0.7×CaO成分重量%+0.98×MgO成分重量%の式で算出されるAeq、Beqが、Aeq≦60、Beq≧35となるように、TiO成分、SiO成分、ZrO成分、Al成分、フッ化物、CaO成分及びMgO成分の量が定めるのが好ましい。なお、ここでいう複酸化物とは、複数の金属と酸素との化合物である。
【0008】
TiOを含む複酸化物としては、KTiO,CaTiO,MgTiO等がある。SiOを含む複酸化物としては、CaSiO,MgSiO,KAlSi12・2HO,NaSiO,ZrSiO4,KAlSi12,NaAlSi12等がある。ZrOを含む複酸化物としては、ZrSiO等がある。Alを含む複酸化物としては、KAlSi12・2HO,KAlSi12,NaAlSi12等がある。フッ化物としては、CaF、NaF、MgF、BaF、LiF、NaAlF等がある。CaOを含む複酸化物としては、CaCO、CaSiO、CaTiO等がある。MgOを含む複酸化物としては、MgCO、MgSiO、MgTiO等がある。
【0009】
このようにすれば、通常のフラックス入りワイヤによる溶接金属中の酸素量が0.1重量%程度であるのに対し、0.07重量%以下に低減できる。フッ化物、CaO、MgOは、溶接金属中の酸素量を減少させるように作用し、TiO、SiO、ZrO、Alは、溶接金属中の酸素量を増加させるように作用するためであると考えられる。そのため、Aeq≦60、Beq≧35と設定することにより、溶接金属中の酸素量を低減して、溶接金属の低温靭性、耐割れ性を高めることができる。Aeqが60を上回ったり、Beqが35を下回ると、溶接金属中の酸素量を低減させることができない。
【0010】
TiO及び/またはフッ化物が天然原料からなるTiO結晶及び/またはフッ化物結晶から生成されている場合、TiO及び/またはフッ化物は、TiO結晶及び/またはフッ化物結晶が650℃〜1,000℃の温度で焼成されて生成されているのが好ましい。天然原料から生成したTiO結晶及び/またはフッ化物結晶は、地殻内で液相(マグマ)から晶出し、結晶内にHOを含んでいる。このHOは、そのままでは溶接時アーク熱により溶接金属に放出され、溶接金属の機械的性質の悪化や、溶接割れの原因となる。そのため、本発明によれば、650℃〜1,000℃の温度での焼成により、結晶内のHOが除去されて、溶接金属の機械的性質が良好になり、溶接割れを防ぐことができる。650℃を下回ると十分にHOを除去することができない。1,000℃を上回ると、HOがほとんど無くなり、焼結等の生じる。
【0011】
フラックス粉末内にはワイヤ全重量に対し2重量%〜20重量%のNi基合金からなる芯線を配置することができる。このような芯線を配置すれば、アークをさらに安定させることができ、耐割れ性を改善できる。
【0012】
特に、非金属粉末中に非金属粉末に対して14〜30重量%のTiOと、26〜44重量%のCaFと、8〜10重量%のMgTiOと、13〜28重量%のCaTiOと、0.9〜16重量%のCaSiOと、0.1〜3.0重量%のFe酸化物と、0.1〜3.0重量%のMn酸化物と、0.1〜4重量%のNaOと、0.1〜1.2重量%のKOと、不可避不純物とを含有すれば、上向きの溶接姿勢が可能になることが確認された。
【0013】
この場合、TiOとMgTiO及びCaTiO中のTiOとを合わせたTiO成分、CaSiO中のSiOからなるSiO成分、フッ化物、CaTiO及びCaSiO中のCaOからなるCaO成分、MgTiO中のMgOからなるMgO成分の非金属粉末に対する重量%を、それぞれTiO成分重量%、SiO成分重量%、フッ化物重量%、CaO成分重量%及びMgO成分重量%と定義したときに、Aeq=TiO成分重量%+1.3×SiO成分重量%、Beq=フッ化物重量%+0.7×CaO成分重量%+0.98×MgO成分重量%の式で算出されるAeq、Beqが、Aeq≦60、Beq≧35となるように、TiO成分、SiO成分、フッ化物、CaO成分及びMgO成分の量を定めればよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のNi基合金フラックス入りワイヤを用いて溶接を行えば、溶接金属中の酸素量を低下させることができる。これは、チタン酸マグネシウムと、1重量%以上のチタン酸マグネシウム以外のチタン酸塩1種以上が安定しているためであると考えられる。また、Aeq=TiO成分重量%+1.3×SiO成分重量%+0.65×ZrO成分重量%+0.78×Al成分重量%、Beq=フッ化物成分重量%+0.7×CaO成分重量%+0.98×MgO成分重量%で算出される式で算出されるAeq、Beqが、Aeq≦60、Beq≧35であるため、通常のフラックス入りワイヤによる溶接金属中の酸素量が0.1重量%程度であるのに対し、0.07重量%以下に低減できる。そのため、溶接金属の低温靭性、耐割れ性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の一実施の形態のNi基合金フラックス入りワイヤの断面図である。本例のNi基合金フラックス入りワイヤは、外皮1と、外皮1内に配置されたフラックス粉末3とを有している。外皮1は、表2に示すようなNiまたはNiを主とする合金(Ni基合金)からなり、厚み約0.2mmの管状の形状を有している。外皮1は、細長い外皮用金属板が成形されて構成されており、相互に重なる外皮1の合わせ目1c,1dを有している。
【0016】
フラックス粉末3は、ワイヤ全重量に対し10〜30重量%であり、非金属粉末と金属粉末とが混合されている。非金属粉末は、平均粒子径10μm〜80μmであり、ワイヤ全重量に対し4〜10重量%である。非金属粉末の内訳は、下記の表1の実施例1〜12,14,17〜22に示される。その他はアークの安定とスラグの流動性を高める役割を果たす酸化金属と、不可避不純物とを含んでいる。非金属粉末中のTiO及びCaFが天然原料から生成したTiO結晶及びCaF結晶からなる場合、TiO及びCaFは、TiO結晶及びCaF結晶を650℃〜1,000℃の温度で焼成している。焼成により結合して固まりになった場合は、粉砕を行えばよい。金属粉末は、Ni,Ni合金,Cr,Cr合金,Mn,Mn合金等が用いられている。
【0017】
図2は、本発明の他の実施の形態のNi基合金フラックス入りワイヤの断面図である。本例のNi基合金フラックス入りワイヤは、外皮11と、外皮11内に配置されたフラックス粉末13と、フラックス粉末13内に配置された芯線15とを有している。芯線15を有している点以外は、図1に示す実施例と同じ構造である。芯線15は、NiまたはNi合金からなり、約0.3mmの径寸法を有している。外皮11の内周面と芯線15の外周面とは部分的に接触していてもよい。
【0018】
なお、後述する下記の表1の実施例13,15及び16は、本例のワイヤの仕様の例を示している。
【0019】
また、上記図1及び図2に示すワイヤは、合わせ目を有する外皮を用いた例を示したが、合わせ目を持たない外皮(シームレス)を用いたワイヤにも本発明を適用できるのは勿論である。
【0020】
図1及び図2に示すNi基合金フラックス入りワイヤは、例えば、特開2003−103394号公報等に示される公知の方法により製造することができる。
【0021】
次に、表1〜表5に示すように1.2mm径のNi基合金フラックス入りワイヤを作り、本発明のNi基合金フラックス入りワイヤの効果を確認する試験を行った。表1は、本発明の実施例のワイヤの非金属粉末に関する仕様であり、表2は比較例のワイヤの非金属粉末に関する仕様であり、表3は、表1及び表2のワイヤのその他の仕様を示す表である。表3に示す金属粉末は、溶接金属の性能を高められるように、外皮や非金属粉末の成分に合わせて調整した。表4は、表1及び表2に示す各ワイヤに用いた外皮の成分表であり、表5は、表1の内、実施例17〜実施例20のワイヤの成分の表である。なお、実施例1〜3及び18〜22は耐食、耐熱に主な作用を有するワイヤであり、実施例4〜17はLNGタンク等の極低温用途に用いるのに好適なワイヤである。また、表1において、TiO成分とは、TiOと、TiOを含む複酸化物(KTiO,CaTiO,MgTiO等)中のTiOとを合わせた成分である。SiO成分とは、SiOと、SiOを含む複酸化物(CaSiO,MgSiO,KAlSi12・2HO,NaSiO,ZrSiO4,KAlSi12,NaAlSi12等)中のSiOとを合わせた成分である。ZrO成分とは、ZrOと、ZrOを含む複酸化物(ZrSiO等)中のZrOとを合わせた成分である。Al成分とは、Alと、Alを含む複酸化物(KAlSi12・2HO,KAlSi12,NaAlSi12等)中のAlとを合わせた成分である。フッ化物成分とは、フッ化物(CaF、NaF、MgF、BaF、LiF、NaAlF等)の成分である。CaO成分とは、CaOと、CaOを含む複酸化物(CaCO、CaSiO、CaTiO等)中CaOとを合わせた成分である。MgO成分とは、MgOと、MgOを含む複酸化物(MgCO、MgSiO、MgTiO等)中のMgOとを合わせた成分である。以上の各成分の量は非金属粉末に対する重量%である。また、チタン酸マグネシウム(MgTiO)、チタン酸マグネシウム以外のチタン酸塩1種以上(KTiO,CaTiO)の量はフラックス粉末に対する重量%である。
【0022】
また、Aeqとは、Aeq=TiO成分重量%+1.3×SiO成分重量%+0.65×ZrO成分重量%+0.78×Al成分重量%の式から算出した値であり、Beqとは、Beq=フッ化物成分重量%+0.7×CaO成分重量%+0.98×MgO成分重量%の式から算出した値である。なお、ZrO成分、Al成分、CaO成分が含まれていない場合は、それらの成分を0重量%として算出した。また、表1及び表2に示すワイヤにおいては、TiO及び/またはCaF(フッ化物)が天然原料からなるTiO結晶及び/またはCaF(フッ化物)結晶から生成されている場合は、TiO結晶及び/またはCaF結晶を650℃〜1,000℃の温度で焼成してTiO及び/またはCaF(フッ化物)を生成した。即ち、表1及び表2において、「焼成した非金属結晶」に記載されているTiO及び/またはCaFが記載されている場合は、TiO及び/またはCaFは、天然原料からなるTiO結晶及び/またはCaF(フッ化物)結晶を焼成した生成したものである。
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【0023】
なお、表5におけるFe酸化物、Mn酸化物は、スラグの流動性を高める役割を果たし、NaO及びKOは、アークの安定性を高める役割を果たす。これらの非金属粉末は、母材(Ni鋼)に合わせて調合されている。
【0024】
次に、各ワイヤを80%Ar+20%COのシールドガスを用いて、200A−30V−30cpm(DCRP)の条件で溶接を行った。そして、溶接金属中の酸素量と、溶接作業性と割れ試験とを行った。溶接作業性及び割れ試験結果を表5に示す。表5の溶接作業性の評価は、◎:非常に良い、○:良い、△:やや劣る、×:劣るにより行った。溶接作業性の総合の評価は、◎:3点、○:2点、△:1点、×:0点の合計点から求めた。割れ試験は、T字割れ試験とビード縦曲げ試験を行った。T字割れ試験は、JIS・Z・3153:1993に準拠して行った。ただし、T字型に配置した2つの板材は1mmの間隔をあけて配置した。具体的には、図3に示すように、間隙Gを隔ててT字形に配置された2つの板材21,23を試験ビード25と拘束ビード27により接合し、試験ビード25のクレータ部以外での割れの有無を染色浸透探傷試験方法により調べた。ビード縦曲げ試験は、JIS・Z・3122に準拠して行った。ただし曲げ半径は3+(1/3)t(tは試験片の厚み)とした。具体的には、図4(A)及び(B)に示すように、2つの板材31,33の側面が溶接金属35により結合された試験片を作り、縦曲げを行って割れの有無を調べた。さらに、各ワイヤを80%Ar+20%COのシールドガスを用いて、150A−28V(DCRP)の条件で、半自動溶接により立向上進姿勢の溶接を行い、立向上進姿勢溶接の難易度を判定した。
【表6】

【0025】
表6より、実施例1〜22のワイヤを用いた溶接では、比較例1〜20のワイヤを用いた場合に比べて、溶接金属中の酸素量を少なくでき、しかも溶接作業性が向上しているのが分かる。表1及び表6からBeqと溶接金属中の酸素量とをプロットした関係を図5に示し、Aeqと溶接金属中の酸素量とをプロットした関係を図6に示す。なお、溶接金属中の酸素量は、JIS・Z・2613の金属材料の酸素定量方法通則に従い測定した。図5及び図6より、Beqが35以上でAeqが60以下であれば、溶接金属中の酸素量が0.07重量%以下になるのが分かる。これは、フッ化物、CaO、MgOは、溶接金属中の酸素量を減少させるように作用し、TiO、SiO、ZrO、Alは、溶接金属中の酸素量を増加させるように作用するからである。なお、比較材1は、Beqが35以上でAeqが60以下であるが、溶接金属中の酸素量が0.09重量%と高くなっている。これは、チタン酸マグネシウムを含まないことに起因していると考えられる。また、MgTiOが0.09重量%の比較例19のワイヤでは、2種の割れ試験いずれでも割れが生じてい、17.14重量%の比較例20のワイヤでは、T字割れ試験において割れが生じている。これより、MgTiOは0.1〜15重量%が必要なのが分かる。
【0026】
また、表6より、実施例1〜22のワイヤを用いた溶接では、比較例1〜20のワイヤを用いた場合に比べて、割れが生じにくいのが分かる。
【0027】
次にLNGタンク等への溶接を想定して、極低温における溶接金属中の酸素量と靭性との関係を調べた。靭性は、JIS・Z・3111の溶着金属の引張及び衝撃試験方法に準じ、−196℃で衝撃試験を行い、その吸収エネルギ値(vE−196)で評価した。図7はその測定結果を示している。図7より、酸素量が0.07重量%以下の溶接金属は、89J以上の良好な低温靭性を有しているのが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施の形態のNi基合金フラックス入りワイヤの断面図である。
【図2】本発明の他の実施の形態のNi基合金フラックス入りワイヤの断面図である。
【図3】試験に用いたNi基合金フラックス入りワイヤによる溶接のT字割れ試験の態様を説明するための図である。
【図4】(A)及び(B)は、試験に用いたNi基合金フラックス入りワイヤによる溶接のビード縦曲げ試験の態様を説明するための図である。
【図5】Beqと溶接金属中の酸素量との関係を示す図である。
【図6】Aeqと溶接金属中の酸素量との関係を示す図である。
【図7】低温における溶接金属中の酸素量と靭性との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
1,11 外皮
3,13 フラックス粉末
15 芯線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni基合金からなる外皮内にフラックス粉末が充填され、前記フラックス粉末にワイヤ全重量に対し4〜10重量%の非金属粉末が含有され、
前記非金属粉末は、前記非金属粉末全量を100重量%とした場合における10〜37重量%のTiOと、20〜65重量%のフッ化物と、0.1〜15重量%のMgTiOと、1〜30重量%のKTiOまたはCaTiOと、アークの安定とスラグの流動性を高める役割を果たすその他の酸化金属と、不可避不純物とを含有することを特徴とするNi基合金フラックス入りワイヤ。
【請求項2】
前記TiOとTiOを含む複酸化物中のTiOとを合わせたTiO成分、前記フッ化物、CaOを含む複酸化物中のCaOからなるCaO成分、MgOを含む複酸化物中のMgOからなるMgO成分の前記非金属粉末に対する重量%を、それぞれTiO成分重量%、フッ化物重量%、CaO成分重量%及びMgO成分重量%と定義したときに、
Aeq=TiO成分重量%
Beq=フッ化物重量%+0.7×CaO成分重量%+0.98×MgO成分重量%
の式で算出されるAeq、Beqが、Aeq≦60、Beq≧35となるように、前記TiO成分、前記フッ化物、前記CaO成分及び前記MgO成分の量が定められていることを特徴とする請求項1に記載のNi基合金フラックス入りワイヤ。
【請求項3】
前記その他の酸化金属には、SiOと、SiOを含む複酸化物と、ZrOと、ZrOを含む複酸化物と、Alと、Alを含む複酸化物と、CaOと、CaOを含む複酸化物と、MgOと、MgOを含む複酸化物との少なくとも一つが含まれており、
前記TiOとTiOを含む複酸化物中のTiOとを合わせたTiO成分、前記SiOとSiOを含む複酸化物中のSiOとを合わせたSiO成分、前記ZrOとZrOを含む複酸化物中のZrOとを合わせたZrO成分、前記AlとAlを含む複酸化物中のAlとを合わせたAl成分、前記フッ化物、前記CaOとCaOを含む複酸化物中のCaOとを合わせたCaO成分、前記MgOとMgOを含む複酸化物中のMgOとを合わせたMgO成分の前記非金属粉末に対する重量%を、それぞれTiO成分重量%、SiO成分重量%、ZrO成分重量%、Al成分重量%、フッ化物重量%、CaO成分重量%及びMgO成分重量%と定義したときに、
Aeq=TiO成分重量%+1.3×SiO成分重量%+0.65×ZrO成分重量%+0.78×Al成分重量%
Beq=フッ化物重量%+0.7×CaO成分重量%+0.98×MgO成分重量%
の式で算出されるAeq、Beqが、Aeq≦60、Beq≧35となるように、前記TiO成分、前記SiO成分、前記ZrO成分、前記Al成分、前記フッ化物、前記CaO成分及び前記MgO成分の量が定められていることを特徴とする請求項1に記載のNi基合金フラックス入りワイヤ。
【請求項4】
前記TiO及び/または前記フッ化物は、天然原料からなるTiO結晶及び/またはフッ化物結晶が650℃〜1,000℃の温度で焼成されてそれぞれ生成されていることを特徴とする請求項1に記載のNi基合金フラックス入りワイヤ
【請求項5】
前記フラックス粉末内にはワイヤ全重量に対し2重量%〜20重量%のNi基合金からなる芯線が配置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のNi基合金フラックス入りワイヤ
【請求項6】
Ni基合金からなる外皮内にフラックス粉末が充填され、前記フラックス粉末にワイヤ全重量に対し4〜10重量%の非金属粉末が含有され、
前記非金属粉末中に前記非金属粉末に対して14〜30重量%のTiOと、26〜44重量%のCaFと、8〜10重量%のMgTiOと、13〜28重量%のCaTiOと、0.9〜16重量%のCaSiOと、0.1〜3.0重量%のFe酸化物と、0.1〜3.0重量%のMn酸化物と、0.1〜4重量%のNaOと、0.1〜1.2重量%のKOと、不可避不純物とを含有することを特徴とするNi基合金フラックス入りワイヤ。
【請求項7】
前記TiOと前記MgTiO及び前記CaTiO中のTiOとを合わせたTiO成分、前記CaSiO中のSiOからなるSiO成分、前記フッ化物、前記CaTiO及びCaSiO中のCaOからなるCaO成分、前記MgTiO中のMgOからなるMgO成分の前記非金属粉末に対する重量%を、それぞれTiO成分重量%、SiO成分重量%、フッ化物重量%、CaO成分重量%及びMgO成分重量%と定義したときに、
Aeq=TiO成分重量%+1.3×SiO成分重量%
Beq=フッ化物重量%+0.7×CaO成分重量%+0.98×MgO成分重量%
の式で算出されるAeq、Beqが、Aeq≦60、Beq≧35となるように、前記TiO成分、前記SiO成分、前記フッ化物、前記CaO成分及び前記MgO成分の量が定められていることを特徴とする請求項6に記載のNi基合金フラックス入りワイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−56478(P2009−56478A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−224879(P2007−224879)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(000227962)日本ウエルディング・ロッド株式会社 (11)
【Fターム(参考)】