説明

NiTi合金のESR溶解法

高純度NiTi合金を形成する方法。介在物を含有する一般的な方法で形成したNiTi合金が、介在物と化学反応するスラグ形成材と共に溶解される。そのスラグ形成材は、好ましくは、CaF及び何らかの遊離カルシウムであるか、又はそれらを含有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NiTi合金を作製する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ニチノール合金(ニチノール(登録商標)及び形状記憶合金としても知られている)は、ニッケル及びチタンからなる形状回復可能な合金であり、(考慮している特定のニチノール合金に応じて)加熱又は冷却の後に、熱処理を逆にすると(すなわち、加熱した金属を冷却又は冷却した金属を加熱すると)、元の形状を回復する。この合金は、多くの重要な医療用途で使用されている。通常、閉塞した動脈又は部分的に閉塞した動脈を開く、介入カテーテル並びに心臓及び末梢のステントのための微細なガイド・ワイヤとして使用され、関連の用途に使用される。これらの用途では全て、ワイヤ又は管類は微細な断面を必要とする。場合によっては、ワイヤの直径は0.0025〜0.0038cm(1000分の10〜1000分の15インチ)しかないことがあり、管類の厚さも同様であるか又はそれよりも薄い。
【0003】
こうした器具の疲労寿命を制限する主な要因は、金属中の耐熱性介在物である。耐熱性介在物は、酸化物、窒化物、炭化物、金属酸窒化物、及び関連の化合物であり得る。これらの介在物は小さいが、微細ワイヤの直径又はステントを作製するのに使用される壁の薄いチューブの厚さのうちの大部分又は多くの割合を占めることがある。それらの介在物は、介在物がなければ延性があった合金における硬点として作用する。心臓又は他の体外で使用する際に湾曲される場合に、より軟らかい金属は湾曲するが、その金属中の硬い介在物の周りでは事実上破損又は疲労する虞がある。
【0004】
さらに、それらの介在物により、微細な寸法に設定されたワイヤ又はチューブ自体を作製することが難しくなる。微細ワイヤ又はチューブをその極限の寸法又は厚さまで90〜95%延伸させる場合に、介在物のために完了できないと多大な経済的損失を招く。さらに、介在物又は任意の理由による疲労破壊が患者に植え込んだ合金に起きることは全く望ましいものではない。
【0005】
介在物は、典型的には、3つの原因のうちの1つにより生成される。1つ目は、合金の生産に使用される原材料の表面、又はその原材料上若しくは原材料内の溶解ガス中にある。ニチノールの場合は、原材料は、ニッケル及びチタン、並びにそれ程ではないがクロム、ニオブ、銅、鉄、白金、及び他の金属である。それらのガスは、元素の形態の酸素、窒素若しくは炭素であり、又はそうでない場合は金属中で何らかの化合物として結合していてもよい。2つ目の可能な介在物源は、溶解中に金属を含む耐熱材と接触することによるものである。ニチノールの場合は、これは、ほぼ黒鉛である。黒鉛との接触により、ニチノール合金に炭化物の介在物が発生することがある。
【0006】
ニチノールの3つ目の介在物源は、溶解炉の真空雰囲気に残された残気からのものである。こうした残気は、窒素ガス、酸素ガス、及び場合によっては少量の炭素として存在し、溶解中に溶解金属と反応し、有害な酸化物、炭化物、金属酸窒化物及び窒化物を生成するために使用され得る。さらに、それらは金属中の介在物として、硬点として疲労限界への上述の影響を与える。
【0007】
現在までの努力により、一次インゴットの生産又は合金の一次溶解の技術によって介在物を減らしてきた。こうした努力は、酸素及び窒素をできるだけ低くした原材料を使用することを含む。それらはさらに、排出された空気の残留空気からガス元素を導入しないようにするために、最も厳しい真空状態で溶解炉を動作させることを含む。
【0008】
現在までは、介在物を減少させるための上記の努力を全て最終的に合わせると、今日実施されているような現行の技術にとって十分なものになる。デバイスの疲労寿命を長くできる、より清浄で欠陥のないニチノール合金を作製するという医療業界からの需要は継続している。手ごろな価格のより清浄な合金を開発するための研究が進められている。しかし、本発明よりも前には、当技術分野で、介在物レベルを大幅に低減させた高純度ニチノール合金を常に確実に作製する方法は見つかっていない。
【0009】
ニチノール粉砕製品を生産するためのニチノールのインゴットは、いくつかの方式のうちの1つで溶解する。
【0010】
第1の溶解法は、合金成分を全て組み合わせ、それらを2回以上、5回又は6回程度、真空アーク再溶解(VAR)炉中で溶解させる。この技術では、現世代のニチノール製デバイスの使用に適した製品が作製される。しかし、溶解を繰り返すことにより、有害な2つの作用が生じ得る。インゴットが溶解される毎に、わずかな量の酸素及び窒素がインゴット中に添加される。これらのガス元素は、合金中で酸化物、又は窒化物、又は金属酸窒化物として現れる虞がある。或いは溶質になり、合金中に格子間ガスとして発生する虞がある。前者の酸化物、窒化物、及び金属酸窒化物が直接形成されることは、既に望ましくないものとして確認されている。最近の研究により実証されたところでは、ニチノール合金に侵入型元素としてガスが生じることで、インプラントに使用する最終的なワイヤ及び管類を生産するのに必要な多くの熱間加工及び熱処理のサイクル中に、それらのガスによって酸化物又は窒化物が生成されるか又は成長する可能性がある。
【0011】
第2の溶解法は、黒鉛るつぼを用いて真空誘導炉(VIM)中で合金成分を溶解することである。次いで、その一次VIMインゴットを、VAR中で少なくとも1回再溶解させて、より大きいインゴットを形成する。上記に複数のVAR溶解の第1の技術で言及した介在物形成の原理に加えて、黒鉛るつぼ中のVIM溶解により、合金中で多くの炭化物介在物が形成される可能性がある。この方法に関連して2つ以上最終溶解されたVARインゴットが使用されるときに、介在物は、溶解中に塊状化してより大きくなる傾向があり、したがって、言及した最終用途にはさらに非常に望ましくない。
【0012】
第3の方法は、水冷銅誘導加熱るつぼで誘導スカル溶解して、初期のインゴットを生産することである。上記の2つの方法のように、次にこのインゴットを再溶解してより大きいVARインゴットにする。この技術は、2つの方法で言及したように、黒鉛炭化ケイ素介在物の生成がより少ないか生成しない。3つの方法によるインゴットに見られる介在物は、原材料及び真空状態の不適切さにさらに関係している。
【0013】
場合によっては、黒鉛るつぼで溶解してVIM溶解インゴットとして直接作製する第4の方法も使用される。小型のインゴットはこの技術を用いて作製される。この技術によれば、複数の炭化物介在物が生成される可能性がある。
【0014】
ESR溶解法は、1930年代に開発されたが、工具鋼、超合金、及び数種のニッケル基合金を大量生産するためのプロセスとして一般に認められるまでに約30年かかった。そのプロセスは、化学的に活性のスラグを生成する。そのスラグは、雰囲気中の成分による汚染から溶解物を保護すると共に、金属中に既に存在する介在物を落とすか、捕捉するか、又は別法で除去するのに効果的である。航空機のジェット・エンジン用の重要な回転部材の場合には、以下の仕様が必要とされる。すなわち、VIMでの合金の一次溶解と、それに続く、VIMで生成された介在物を除去するように設計された保護スラグ下でのESRによる合金の再溶解と、次いで、後続の熱間加工を行うためにインゴットを準備するための適切な冶金学的構造を形成するためのVARでの最後の溶解である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
NiTi合金のうちチタン部分は非常に反応し易い性質を有するために、ESRはNiTi合金の作製への使用に適しているとは決して考えられていなかった。初期のニチノール合金の開発には、既に検討した厳しい真空技術が必要であった。ニチノール業界の成長は、既存の溶解法に追従しているが、ESRは含まれていなかった。しかし、次に、フッ化カルシウム(CaF又はCaFlと書くこともある)スラグが、非常に首尾よく他のチタン合金を溶解及び溶接するために使用された。チタンは、ニチノール合金の最も反応し易い成分である。これは、最終合金の介在物形成成分の大部分に寄与している。したがって、チタンが不釣合いに高い反応性を有するという問題は、合金システム中の介在物の生成に関する問題のほとんどに対処している。それでも、当業者はなおESRがニチノール合金を溶解するのに有効であるとは考えていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0016】
ここでは、ニチノール合金中の介在物を減少させるコスト効率の良いNiTi合金溶解プロセスを提供する。それにより、その合金から作製されたインプラントデバイスの耐用年数が延びる。ESRを用いて、フッ化カルシウムのスラグと、一般的な方法で形成されたNiTi合金を溶解する。わずかに過剰にカルシウム金属を増量したスラグが好ましい。この技術は、一連のニチノール溶解のうちの二次溶解又は最終溶解として、或いは最終のVAR溶解の前の中間の「介在物を減少及び静浄化させる溶解」として使用して、使用可能な最終インゴットを作製することができる。
【実施例】
【0017】
本方法は、上記で検討した技術を含む、NiTi合金を作製する任意の既知の溶解プロセスによって作られたNiTi合金を利用する。従来のNiTi合金は、特定の条件下で特定のスラグ又はフラックスと共に溶解し、一次インゴットの凝固の後にニチノール合金中に残っている耐熱性介在物を除去するか、溶液化するか、又は減少させるように設計されている。ESRは、上記で言及した理由から、最終の溶解のために、又は中間の溶解として使用できる。最終の溶解インゴットは、全ての溶解加工段階が完了し、高温処理して利用可能な粉砕形状にする準備ができたインゴットである。
【0018】
ここで説明したような介在物を除去するためにのみESRが中間の溶解として使用される場合は、次の最終溶解はVAR溶解により行うことができる。
【0019】
ESR、すなわちエレクトロスラグ再溶解は、特別設計のスラグを使用して、再溶解すべき溶解金属を覆う。そのスラグは溶解金属中の介在物と反応して、介在物を分解するか又はスラグ中に機械的に閉じ込めて除去することによって、再溶解すべき金属中の介在物を化学的に無くすか又は減少させることができる。カルシウムを含有するスラグを提供することが好ましい。さらに、カルシウムのうちの少なくとも一部がCaFの形態であることが好ましい。本発明方法の最も好ましい実施例によれば、CaF及び遊離(free)カルシウムの両方を含有するスラグを提供する。
【0020】
スラグ中の過剰なカルシウム金属は、溶液中の一次溶解金属の酸素を低減させ、さらにNiTi合金中に既に形成されたチタン酸化物を減少させ無くすために必要なカルシウム量であるべきである。過剰なカルシウム金属と共にスラグを使用することは、溶液中で酸素を除去し、それにより、VARでの最終溶解中に酸素が介在物を形成するか、又は合金の冷間加工及び熱処理中に析出物として生じる可能性を低減させることを助ける。
【0021】
「例」
最初に、チタン粒子又はスポンジチタンの組み合わせを、ニッケル粒子又はニッケル・ペレット及び任意の少量の第3若しくは第4の元素と混合する。この金属粒子の混合物を、既に記述した3つの溶解方法(VIM VAR、VAR VAR、又はISM VAR)のうちの1つを用いて真空雰囲気で溶解し、チル鋳型に注いで、一次又は第1の溶解ニチノールのインゴットを作製する。次いで、一般の化学成分のニチノール合金の要件、及び他のパラメータに確実に合うかインゴットを試験する。
【0022】
次いで、一次溶解したインゴットを、ESR溶解炉でスラグ形成材と共に再溶解する。一実施例では、スラグ形成材は、通常蛍石と呼ばれる高純度CaFから構成される。代替の実施例では、過剰な金属カルシウムをCaFスラグ/フラックスに加える。その過剰なカルシウムは、スラグ/フラックスの全重量の2〜5%にすべきである。そのCaF−Caスラグを、水冷るつぼの底部に導入し、ニチノールの溶解の開始前に、通常ESR溶解で低温始動法と称される技術を用いて溶解する。こうしたESR装置は、実際の溶解を開始する前に、密封、排気、正圧のアルゴンによるバック・パージが可能でなければならない。溶解の開始時にスラグが溶解金属を連続的に覆っていない場合は、アルゴンパージによりニチノール合金の再酸化が防止される。
【0023】
ESR溶解中に、CaF−Caフラックスは、既に実行された一次溶解からニチノールに存在していた介在物を捕捉するか、再度溶液化するか、又はその他の手法で分解若しくは減少させる。
【0024】
NiTi合金を作製するプロセスの現在好ましい実施例を説明してきたが、本発明の原理及び範囲から逸脱することなしに様々な変更形態で実行できることを理解されたい。本開示の教示全体に鑑みて他の様々な変更形態が可能であることを、当業者は理解するであろう。本明細書で説明した現在好ましい実施例は、単に例示的なものであり、本発明の範囲に関して限定的でなく、本発明の範囲は、添付の請求項の全範囲並びにその任意の及び全ての均等物に対して与えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高純度NiTi合金を作製する方法において、
一般的な方法で形成した介在物を有するNiTi合金を、前記NiTi合金が溶解される際に前記介在物と化学反応するスラグ形成材と共に炉に装入する段階と、
前記NiTi合金を前記スラグ形成材と共に溶解させて、溶解したNiTi合金及びスラグを形成する段階と、
前記スラグを前記溶解したNiTi合金から分離する段階と
を含む、高純度NiTi合金を作製する方法。
【請求項2】
前記介在物が、金属酸化物、金属窒化物、及び金属酸窒化物からなる群から選択される、請求項1に記載された高純度NiTi合金を作製する方法。
【請求項3】
前記スラグ形成材がCaFである、請求項1に記載された高純度NiTi合金を作製する方法。
【請求項4】
前記スラグ形成材が遊離カルシウムも含有する、請求項3に記載された高純度NiTi合金を作製する方法。
【請求項5】
前記スラグ形成材がカルシウムを含有する、請求項1に記載された高純度NiTi合金を作製する方法。
【請求項6】
前記NiTi合金及びスラグ形成材を、エレクトロスラグ再溶解によって溶解する、請求項1に記載された高純度NiTi合金を作製する方法。
【請求項7】
溶解された前記NiTi合金を冷却及び再溶解させる段階をさらに含む、請求項1に記載された高純度NiTi合金を作製する方法。
【請求項8】
前記NiTi合金が冷却された後で介在物を含み、前記NiTi合金が、溶解NiTi合金及びスラグを形成するために再溶解される際に前記介在物と化学反応するスラグ形成材と共に再溶解され、
前記方法が、前記スラグを前記溶解したNiTi合金から分離させる段階をさらに含む、請求項7に記載された高純度NiTi合金を作製する方法。
【請求項9】
一般的な方法で形成したNiTi合金をカルシウム存在下で溶解させる段階を含む、高純度NiTi合金を作製する方法。
【請求項10】
前記カルシウムの少なくとも一部がCaFの形態で存在する、請求項9に記載された高純度NiTi合金を作製する方法。

【公表番号】特表2012−526202(P2012−526202A)
【公表日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−510007(P2012−510007)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【国際出願番号】PCT/US2010/034027
【国際公開番号】WO2010/129862
【国際公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(511267860)
【Fターム(参考)】