説明

Oリング挿入治具

【課題】Oリングを拡張し均等に押し出すことで捻れなく取付対象箇所に取り付けることができ、且つ、Oリング拡張時の治具との擦れが小さく、取り付け後の捻れ確認・修正を必要としないOリング挿入治具を提供する。
【解決手段】貫通穴20が形成された金属板2と、貫通穴20を貫通すると共にOリング4の内側に挿入され、放射状に移動可能な複数の拡張爪3とを有し、複数の拡張爪3を放射状に移動させることでOリング4を拡張し、複数の拡張爪3を貫通方向に移動させて拡張したOリング4を金属板2に引っ掛けてOリング4を取付対象物5に取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気密・水密を必要とする部品、例えば自動車用センサなどへOリングを取り付ける作業に用いるOリング挿入治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、気密・水密を必要とする部品にOリングを取り付ける方法には、手作業による方法と、手作業ではあるが補助具を介して取り付ける方法とがある。
【0003】
補助具を介してOリングを取り付ける方法としては、図6に示すようにリング状パッキン51のリング内に挿入される挿入部52を一端に形成し、リング状パッキン51を装着する装着部(図示せず)の面積よりも大きな断面積を有してリング状パッキン51を拡張する拡張部53を他端に形成した装着用治具50を用い、リング状パッキン51を拡張部53に向けて移動させることで均一に拡張し、拡張したリング状パッキン51を装着部の外側に収縮させて装着する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、補助具を介してOリングを取り付ける他の方法としては、図7に示すようにワークSの所定部位に当接して位置決めされる治具本体61と、この治具本体61に対して多段式に位置変更可能なガイド部材62とを備え、このガイド部材62の外面がOリング取り付け用のガイド面63,64となったOリング取付治具60を用いる方法がある(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
このOリング取付治具60によれば、図7(a)に示すようにガイド部材62の上方からOリングrをガイド面63,64に沿って下方に押し下げてOリングrをワークSの下方の溝nに装着し、次いで、図7(b)に示すようにガイド部材62を押し上げ、位置決めピン65をL字型孔66の折れ曲がり部に係合させ、同様にガイド部材62の上方からOリングrをガイド面63,64に沿って下方に押し下げてOリングrをワークSの上方の溝mに装着することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−6421号公報
【特許文献2】特開2003−39257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、手作業によりOリングを挿入すると、Oリングが取り付けられる対象物表面を擦りながら移動することになり、且つ、移動の仕方に偏りが生じるため、Oリングに捻れが発生する。
【0008】
また、図6、図7に示す従来技術の治具を使用した場合、一度、Oリング内径を多角形或いは円形の断面を有する構造を介して拡張する。しかし、結果的にはOリングを治具表面全周を擦りながら手で移動させるため、移動の仕方に偏りが生じてOリングに捻れが発生する。
【0009】
したがって、いずれの方法もOリングを取り付けた後、捻れを確認し、これを修正する行為が必要となる。
【0010】
本発明は、前記問題を解決するべく案出されたものであり、その目的とするところは、捻れなく取付対象箇所に取り付けることができ、且つ、Oリング拡張時の治具との擦れが小さく、取り付け後の捻れ確認・修正を必要としないOリング挿入治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために本発明のOリング挿入治具は、貫通穴が形成された金属板と、前記貫通穴を貫通すると共にOリングの内側に挿入され、放射状に移動可能な複数の拡張爪とを有し、前記複数の拡張爪を放射状に移動させることで前記Oリングを拡張し、前記複数の拡張爪を貫通方向に移動させて拡張したOリングを前記金属板に引っ掛けてOリングを取付対象物に取り付けることを特徴とする。
【0012】
また、前記複数の拡張爪の一つは前記貫通穴の内側に向かって延びる突出部を有し、該突出部が前記取付対象物によって押圧されることで、前記複数の拡張爪が貫通方向に移動されるのが好ましい。
【0013】
また、前記金属板は前記Oリングが拡張されたときにOリングの内側に突出する複数の引掛部を有し、前記複数の拡張爪を貫通方向に移動させたとき、前記複数の引掛部に前記Oリングが引っ掛かるのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のOリング挿入治具によれば、Oリングを拡張し均等に押し出すことで捻れなく取付対象箇所に取り付けることができ、且つ、Oリング拡張時の治具との擦れが小さく、取り付け後の捻れ確認・修正を必要としない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係るOリング挿入治具に取付対象物をセットした状態を示す側面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】Oリング拡張時の正面図である。
【図4】Oリング挿入治具における金属板の正面図である。
【図5】Oリング挿入治具における拡張爪の正面図である。
【図6】従来技術の治具構造を示す斜視図である。
【図7】従来技術の他の治具構造を示す断面図で、(a)はOリングをワークの下方の溝に装着する状態を示し、(b)はOリングをワークの上方の溝に装着する状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0017】
図1〜図3に示すようにOリング挿入治具1は、貫通穴20が形成された金属板2と、この貫通穴20を貫通すると共にOリング4の内側に挿入され、放射状(Oリング4を拡張する方向)に移動可能な複数の拡張爪3とを有し、拡張爪3を放射状に移動させることでOリング4を拡張し、拡張爪3を貫通方向に移動させて拡張したOリング4を金属板2に引っ掛けてOリング4を取付対象物5に取り付けるものである。
【0018】
金属板2は、図4に示すように円板状に形成され、中央部に貫通穴20が形成される。また金属板2には、貫通穴20の周辺に等間隔を隔てて金属板2の外周側に向けて放射状に切り込まれた拡張爪先端部収納溝(収納溝)21が複数形成される(図4では、3箇所)。収納溝21には、後述するように拡張爪3の爪本体30が収納される。収納溝21は、爪本体30が収納溝21に沿って放射状に移動するストローク分の長さを有する。
【0019】
金属板2は、Oリング4が拡張されたときにOリング4の内側に突出する複数の引掛部2a,2b,2cを有し、拡張爪3を貫通方向に移動させたとき、引掛部2a,2b,2cにOリング4が引っ掛かるようになっている。この引掛部2a,2b,2cは、貫通穴20の周辺に収納溝21を形成することで、隣り合う収納溝21間に形成される。
【0020】
金属板2の外周付近には、固定ボルト6で金属板2を固定するための固定ボルト用通し穴22が複数形成される(図4では、3箇所)。
【0021】
拡張爪3は、図1〜図3に示すようにL字状の形状を有しており、垂直方向に延びる爪本体30と水平方向に延びる水平部31とからなる。爪本体30はOリング4を拡張するものであり、Oリング4の内側に挿入される。爪本体30がOリング4の内側と当接する箇所には、丸み部32が形成される。
【0022】
L字状に形成された拡張爪3は3本備えられており、これら3本の拡張爪3は、図5に示すように爪本体30の丸み部32を外方に向け、固定された金属板2の貫通穴20を貫通して配置される。具体的には、3本の拡張爪3が金属板2の下側から貫通穴20に挿入され、これら拡張爪3の各爪本体30が金属板2に切り込まれた各収納溝21を貫通し、爪本体30の先端部が収納溝21から上方へ突出して配置される。図1、図2から分かるように、爪本体30の突出した先端部は、先端部から押し出されるOリング4が取付対象物5の溝5aに丁度装着されるように、溝5a付近の位置となっている。
【0023】
これら3本の拡張爪3は、図示していない駆動手段または手動により、3本同時に放射状に移動可能となっている。拡張爪3の放射状の移動は、一つの拡張爪3が移動することで、他の2つの拡張爪3が追従して移動するようにしてもよい。
【0024】
複数の拡張爪3の一つは、貫通穴20の内側に向かって延びる突出部31aを有し、この突出部31aが取付対象物5によって押圧されることで、図示しない連結手段により連結された3本の拡張爪3が、同時に貫通方向に移動されるようになっている。
【0025】
次に、Oリング挿入治具1を用いて、取付対象物5(例えば、自動車用センサ)へOリング4を取り付ける作業について説明する。
【0026】
先ず始めに、Oリング4をセットしない状態では、3本の拡張爪3は、爪本体30が収納溝21に沿って内側に移動して内方向へ閉じられた状態になっている。このとき、3本の拡張爪3は、固定された金属板2に開けられた貫通穴20の周辺の収納溝21から爪本体30の各先端部が突出した状態で配置されている。
【0027】
次に、突出している爪本体30の先端部からOリング4を挿入し、Oリング4を拡張爪3(爪本体30)にセットする。
【0028】
Oリング4を爪本体30にセットした後、拡張爪3を図示していない駆動手段または手動によって放射状に拡げる。爪本体30が収納溝21に沿って放射状に外方向へ移動することで、爪本体30にセットしたOリング4を拡張することができる。放射状に配置された拡張爪3(爪本体30)により、むらのない状態で均一にOリング4を拡張することができる。
【0029】
このとき、Oリング4は金属板2と平行方向にあり、金属板2の貫通穴20(収納溝21)から突出した爪本体30は、Oリング4と金属板2に対して垂直方向の相対関係にある。
【0030】
爪本体30によって拡張されたOリング4の内側へ、取付対象物5をセットする。すなわち、取付対象物5の下方先端部5bを、任意の1本の拡張爪3の突出部31aに載せてセットする。このとき、爪本体30によってOリング4の内径は拡張されているので、取付対象物5を簡単にセットすることができる。
【0031】
しかる後、取付対象物5を爪本体30と同じ垂直方向(貫通方向)、且つ、下方向へ押しながら移動させると、取付対象物5の下方先端部5bが任意の1本の拡張爪3の突出部31aを押圧することになり、結局、取付対象物5と、Oリング4がセットされた拡張爪3全体が同時に下方向に移動することになる。
【0032】
このとき、金属板2の引掛部2a,2b,2cは、拡張されたOリング4の内径よりも内方向に向かって突出しているため、Oリング4は、引掛部2a,2b,2cに引っ掛かって均一に支持される。この引掛部2a,2b,2cは、Oリング4を取り付けた拡張爪3が貫通方向に移動したとき、Oリング4が引掛部2a,2b,2cに引っ掛かって金属板2に当接したまま移動しないように作用し、Oリング4は、取付対象物5と拡張爪3の移動方向とは相対的に反対方向へ均一に押し出される。つまり、Oリング4が金属板2の引掛部2a,2b,2cにより均一に押し出され、拡張爪3の先端部(爪本体30)から取り外され、Oリング4は収縮しながら取付対象物5の溝5aに収められる。
【0033】
最後に、Oリング4が溝5aに装着された取付対象物5を、Oリング挿入治具1から取り外してOリング4の取付作業が完了する。
【0034】
以上から、Oリング4を取付対象物5の溝5aに取り付けるとき、拡張爪3(爪本体30)の表面を擦りながらOリング4が押し出されているが、Oリング4は金属板2の引掛部2a,2b,2cにより均一に支持されているため、捻れを発生させることなく、Oリング4を取付対象物5の溝5aへ取り付けることができる。
【0035】
このように本発明のOリング挿入治具1によれば、Oリング4挿入時の捻れを発生させないため、挿入後のOリング4の捻れ確認が不要となる。
【0036】
また、Oリング4の捻れがなくなることで、取付対象物5のシール性を向上させることができる。
【0037】
以上、本発明の一実施例を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、Oリング4を拡張し均等に押し出すことで捻れなく対象箇所へ取り付けることができるものであればよい。例えば、拡張爪3は4本以上であってもよく、また金属板2は円板状でなく、矩形や多角形状でもよく、貫通穴20は中央部に形成されていなくてもよい。
【0038】
また、拡張爪3のサイズ・拡張ストロークはOリング4のサイズに合わせた構造であるため、容易に脱着可能な拡張爪3、拡張ストロークが任意に調整可能な構造が考えられる。
【0039】
また、外形が多角形・円をなす管状・柱状の端部にOリングを挿入する場合にも使用することができ、応用範囲が広い。
【符号の説明】
【0040】
1 Oリング挿入治具
2 金属板
2a,2b,2c 引掛部
3 拡張爪
4 Oリング
5 取付対象物(自動車用センサ)
20 貫通穴
31a 突出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通穴が形成された金属板と、
前記貫通穴を貫通すると共にOリングの内側に挿入され、放射状に移動可能な複数の拡張爪とを有し、
前記複数の拡張爪を放射状に移動させることで前記Oリングを拡張し、
前記複数の拡張爪を貫通方向に移動させて拡張したOリングを前記金属板に引っ掛けてOリングを取付対象物に取り付けることを特徴とするOリング挿入治具。
【請求項2】
前記複数の拡張爪の一つは前記貫通穴の内側に向かって延びる突出部を有し、該突出部が前記取付対象物によって押圧されることで、前記複数の拡張爪が貫通方向に移動される請求項1記載のOリング挿入治具。
【請求項3】
前記金属板は前記Oリングが拡張されたときにOリングの内側に突出する複数の引掛部を有し、前記複数の拡張爪を貫通方向に移動させたとき、前記複数の引掛部に前記Oリングが引っ掛かる請求項1又は2記載のOリング挿入治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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