OFケーブル線路のtanδ分布の推定方法および誘電発熱特性の推定方法
【課題】極度劣化油tanδを有するOFケーブル線路のtanδ分布及び発熱特性を、線路から採取される絶縁油tanδをベースに的確な方法で推定すること。
【解決手段】経年OFケーブル線路から絶縁油を採取しtanδを測定する。そして、測定した絶縁油のtanδからケーブル絶縁体1b、補強絶縁紙2aと絶縁油(ボックス油)が流動接触する所定部位のtanδを求める。ついで、劣化絶縁油と流動接触する所定部位のtanδを起点として、ケーブル絶縁紙1b、補強絶縁紙2aの積層方向と、該積層方向に直交する油浸紙の沿間方向への劣化絶縁油の浸透厚さtに応じた基準電界におけるtanδ(t)を求め、OFケーブル線路の絶縁体各部の電界分布と、基準電界における所定部位のtanδおよびtanδ(t)とに基づき、絶縁体各部のtanδ分布を求める。またこの結果を用いて誘電発熱シミュレーションを行うこともできる。
【解決手段】経年OFケーブル線路から絶縁油を採取しtanδを測定する。そして、測定した絶縁油のtanδからケーブル絶縁体1b、補強絶縁紙2aと絶縁油(ボックス油)が流動接触する所定部位のtanδを求める。ついで、劣化絶縁油と流動接触する所定部位のtanδを起点として、ケーブル絶縁紙1b、補強絶縁紙2aの積層方向と、該積層方向に直交する油浸紙の沿間方向への劣化絶縁油の浸透厚さtに応じた基準電界におけるtanδ(t)を求め、OFケーブル線路の絶縁体各部の電界分布と、基準電界における所定部位のtanδおよびtanδ(t)とに基づき、絶縁体各部のtanδ分布を求める。またこの結果を用いて誘電発熱シミュレーションを行うこともできる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁油の誘電正接(tanδ)の劣化した経年OFケーブル線路のtanδ分布の推定方法および誘電発熱破壊可能性有無を判定する誘電発熱特性の推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年ではCVケーブル(架橋ポリエチレン絶縁ケーブル)が電力ケーブルの主流であるが、OFケーブルは従来から広く使われてきたものであり、10年〜数10年を経過した経年線路が多い。
このため、ケーブル線路施工時の不具合や経年劣化による絶縁性能の低下度合を的確に診断する必要がある。
OFケーブルの絶縁劣化診断技術としては、例えば特許文献1に記載のものが提案されている。特許文献1に記載のものは、絶縁油中から採取した絶縁油中の溶存ガスを分離抽出して、その分析値から絶縁劣化状況を診断するものである。
また、通常、OFケーブル線路から絶縁油を採取して、絶縁油の劣化程度からOFケーブルの絶縁劣化を診断することも行なわれている。
OFケーブル線路から絶縁油を採取したとき、接続部などで絶縁油tanδの極度に劣化している場合(例えば,絶縁油tanδ=数十%レベル、at80℃(JIS C2101による測定))がしばしばある。
絶縁油tanδの暫定基準例としてtanδ=2%以下(例えば非特許文献1参照)があるが、根拠は明確でなく、上述のtanδ極度劣化油ではこの値を大きく上回る実情がある。
【0003】
OFケーブル絶縁体は絶縁紙に絶縁油が含浸された油浸紙であり、油と紙の単純複合モデルによる絶縁油tanδと油浸紙tanδの関係は次の式であり(例えば非特許文献2参照)、その計算結果例を図14に示す。
tanδ=(θf εf k tanδf +θo εo k tanδo )/εk
ここで、ε,tanδは油浸紙の値を示し、添え字fは紙、oは油、θ体積分率を表し、εk =θf εf k +θo εo k 、k=−0.5(絶縁紙構造に対する値)である。
紙繊維のεf 、tanδf の温度特性はtを温度(℃)として、εf =6.25+0.005t=6.65(at80℃)、
tanδf (%)=(0.62−0.006t)+(0.055×100.01t )=0.49(at80℃)、である。
例えば、絶縁油tanδ=10%では油浸紙tanδ=約5.5%、絶縁油tanδ=50%では油浸紙tanδ=約30%となる。
【0004】
一方、tanδ誘電発熱によるケーブル絶縁体の熱暴走限界tanδ計算例が非特許文献3に示されており、「66kVクラスOFケーブル→tanδ=3.95%、154kVクラスOFケーブル→tanδ=0.60%、275kVクラスOFケーブル→tanδ=0.38%」の計算結果がある。
【特許文献1】特開平5−252632号公報
【非特許文献1】電気協同研究「地中送電設備とその保守点検技術」、第40巻第3号、昭和59年3月、p18
【非特許文献2】斉藤、武、電気絶縁紙、コロナ社、昭和44年12月20日、p144〜p153
【非特許文献3】電気協同研究「OFケーブルの保守技術」、第55巻第2号、平成11年10月、p116〜117
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、絶縁油tanδが極度に悪い場合は、当然、油浸紙tanδも極度に大きくなり、誘電発熱による熱破壊を起こすことになる。
所が現実には、線路から採取した絶縁油tanδが極めて大きい場合(tanδ=数十%レベル)でもtanδ誘電発熱破壊の事例は今の所殆どなく、前記の計算は実態を反映していない。
このことは、tanδ極度悪化油が含浸された油浸紙では、なんらかのtanδ抑制効果が作用していることを示唆している。
そこで、本発明者が極度にtanδの悪い絶縁油を含浸した油浸紙のtanδ特性を詳細に調べた結果、次の2つの理由による注目すべきtanδ抑制効果の作用していることが判った。
(1) 所謂ガルトン効果による(運転電界域を含む)高電界域でのtanδ減少。
(2) 油中イオンの絶縁紙への吸着によるtanδ減少。
これらの効果は実機OFケーブル接続箱を用いた悪化油流動実験においても確認され、さらに、接続部絶縁体の場合はtanδ悪化部位がケーブル紙/ ジョイント紙境界部などに限定されることが判明した。
以上のことから、tanδ劣化した絶縁油の場合の実態を反映した誘電発熱推定法が必要となる。
本発明は、このように事情に鑑みなされたものであって、その目的は、極度劣化油tanδを有するOFケーブル線路のtanδ分布及び発熱特性を、線路から採取される絶縁油tanδをベースに的確な方法で推定する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は極度劣化油tanδを有するOFケーブル線路のtanδ発熱特性を線路から採取される絶縁油tanδをベースに的確な方法で推定する方法を提供する。
そのために、tanδ極度劣化油を用いた油浸紙tanδ特性の詳細な検討を行い、(a)tanδ極度劣化油含浸紙のtanδ−電界&温度特性、(b)tanδ劣化油を充分接触流動させた場合の油浸紙tanδとの平衡関係、(c)劣化油流動後の接続部tanδ分布の特徴、を明らかにし、これに基づき、経年OFケーブル線路から採取した劣化絶縁油の誘電正接(tanδ)からOFケーブル線路のtanδ分布を精度よく推定することを可能とした。
すなわち、本発明においては、次のようにして前記課題を解決する。
(1)経年OFケーブル線路から採取した劣化絶縁油の誘電正接(tanδ)からOFケーブル線路のtanδ分布を以下の(イ)〜(ニ)のようにして推定する。
(イ)油浸紙と絶縁油が流動接触することにより、絶縁油と油浸紙の接触部位のtanδが平衡状態となった経年OFケーブル線路から絶縁油を採取し、tanδを測定する。
(ロ)上記測定した絶縁油のtanδと、予め求めた絶縁油tanδと油浸紙平衡tanδとの関係から、上記油浸紙と絶縁油が流動接触する所定部位のtanδを求める。なお、このtanδは予め設定した基準電界における値である。
上記絶縁油tanδと油浸紙平衡tanδとの関係は、以下に示す油/紙の単純複合モデルによる関係式に対して、tanδo を[tanδo→K×tanδo] (Kはtanδ抑制係数でありK=0.1〜0.5)で置き換えて求めたものである。
tanδ=(θf εf k tanδf +θo εo k tanδo )/εk …(1)
ここでε,tanδは油浸紙の値を示し、添え字fは紙、oは油、θは体積分率を表し、εk =θf εf k +θo εo k 、k=−0.5(絶縁紙構造に対する値)である。
(ハ)上記劣化絶縁油と流動接触する所定部位のtanδ(基準電界における値)を起点として、油浸紙の積層方向と、該積層方向に直交する油浸紙の沿間方向への劣化絶縁油の浸透厚さtに応じた基準電界におけるtanδ(t)を求める。
ここで、上記油浸紙の積層方向と、該積層方向に直交する油浸紙の沿間方向への劣化絶縁油の浸透厚さに応じたtanδ(t)は、以下の(2)式で求められる。
(tanδ(t)−tanδs )/(tanδ(t=0)−tanδs )=exp(−αt)…(2)
ここで、tanδ(t=0)は、劣化絶縁油流動接触部位の起点tanδ、tanδS は劣化絶縁油未浸透部のtanδ、αは浸透度係数であり、浸透度係数αはラジアル方向(油浸紙の積層方向)の浸透度係数αr =0.7〜3.0(mm-1)、沿層方向(積層方向に直交する油浸紙の沿間方向)の浸透度係数αl =0.02〜0.10(mm-1)である。
(ニ)OFケーブル線路の絶縁体各部の電界分布と、上記所定の部位における基準電界におけるtanδおよび上記基準電界における各浸透厚さのtanδとに基づき、OFケーブル線路の絶縁体各部のtanδ分布を求める。
上記において、絶縁体各部のtanδ分布は、以下の(3)式により基準電界におけるtanδ分布を、電界EにおけるOFケーブル線路の絶縁体各部のtanδ分布に換算したものである。
tanδ(E)=(E0 /E)×tanδ(E0 )…(3)
ここで、tanδ(E)は求めた絶縁体各部のtanδ、tanδ(E0 )は基準電界でのtanδである。
(2)上記手法により、OFケーブル線路の接続部、ケーブル部、終端部のtanδ分布の推定する。
(3)上記のようにして推定したOFケーブル線路絶縁体各部位のtanδ値と、電界から誘電発熱と熱放散特性に基づき、OFケーブル線路の誘電発熱特性を推定する。
【発明の効果】
【0007】
本発明においては、経年OFケーブルの接続箱の劣化絶縁油を採取することにより、tanδ劣化油含浸紙の特異なtanδ現象を反映させたOFケーブル線路絶縁体のtanδ分布を推定することができ、これに基づき、tanδ劣化油OFケーブル線路の実態を反映した適切な誘電発熱推定が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
極度劣化油tanδを有するOFケーブル線路のtanδ発熱特性を、線路から採取される絶縁油tanδを基に推定するため、本発明者等はtanδ極度劣化油を用いた油浸紙tanδ特性の詳細な検討を行なった。その結果、以下(1)〜(3)の事項が明らかとなった。
(1)tanδ極度劣化油含浸紙のtanδ−電界&温度特性
tanδ極度悪化油を含浸した油浸紙tanδの特異な電界特性を見出した。
図10はtanδ=約50%のOFケーブル用アルキルベンゼン油(JISC2320の2種1号油)を含浸した油浸紙tanδの電界特性例である。なお、(a)は温度特性を示し、(b)はガルトン効果によるtanδの低下を示す。
【0009】
同図に示すように、油浸紙tanδは、OFケーブル運転電界域(5〜15kV/mm)を含む高電界域で著しいtanδ低下の現象が認められる。電界増加でtanδ低下する現象は数μmオーダの紙繊維間を油中イオンがAC半サイクルより短い時間で移動を完了するために生じる所謂ガルトン効果として古くから知られている(C. G. Garton, 「Dielectric Loss in Thin Film of Insulation Liquids」, JIEE (II),1941, 88G, p103〜120)。
しかし、本発明者等は、この現象の発現がOFケーブル運転電界付近で最も顕著に顕れることを見出している。また、油浸紙tanδの低下効果(抑制効果)には上述のガルトン効果に加え、絶縁紙へのtanδ悪化成分(油中イオン)の吸着効果も寄与していることを見出している。さらに、図10の例から判るように、次の特徴を明らかにした。
(i) ガルトン効果の表れる領域では油浸紙tanδは電界にほぼ逆比例して低下する。
(ii)OFケーブル運転電界付近のtanδ−温度特性は小さい。
【0010】
(2)tanδ劣化油を充分接触流動させた場合の油浸紙tanδとの平衡関係
前述のように絶縁紙にはtanδ悪化成分(油中イオン)の吸着効果があることから、tanδ劣化油と油浸紙を長時間接触させて両者(絶縁油と油浸紙)の平衡tanδの関係を求めた。
なお、平衡tanδとはtanδ劣化油と油浸紙を長時間接触させ平衡状態に達したtanδのことである。油のtanδ悪化成分(油中イオン)は絶縁紙に吸着される性質があるので、接触時間と共に油のtanδは(見掛上)徐々に小さくなり、油浸紙tanδ徐々に増大する。両者のtanδ関係の時間変化がなくなった状態を平衡tanδとしている。
【0011】
OFケーブルの接続箱の断面構成を図1に示す。なお、本発明は接続部に限らず、OFケーブルのケーブル部、終端部等にも同様に適用できるが、ここでは、主としてOFケーブルの接続部を対象として本発明を説明する。
図1において、1はOFケーブルであり、OFケーブル1は、ケーブル導体1a、絶縁のためのケーブル絶縁紙1b、防食層からなり、ケーブル導体1aはスリーブ1dにより図示しない他のOFケーブルのケーブル導体と接続される。
上記接続箱におけるケーブル導体1a、ケーブル絶縁紙1b上には、補強絶縁紙2aが巻きつけられ、ケーブル絶縁紙1b、補強絶縁紙2aは銅管などからなるジョイントボックス2bに収納され、ジョイントボックス2b中にはボックス油3が充填される。また、ケーブル導体1aには油通路が設けられ、導体油4が充填されている。
ジョイントボックス2bとOFケーブル1上には、鉛工部2c、防食層2dが設けられ、さらに、スリーブ1d上のジョイントボックス2b上には、絶縁接続箱の場合には遮蔽層の縁切りのためエポキシ絶縁層5が設けられる。
【0012】
図2は、図1に示した接続箱における劣化絶縁油の流動接触を概念的に示した図である。
経年OFケーブル線路においては、接続箱のボックス油は劣化絶縁油となるが、ケーブル運転中、油の熱膨張収縮により「ボックス油⇔導体油」間で劣化油の流動がある。
この場合、劣化絶縁油のtanδを反映するケーブル絶縁体の油浸紙tanδは、劣化絶縁油が直接流動接触する部位であり、図2において、この流動接触部位とは「ケーブル絶縁紙1bの表層および補強絶縁紙2aの表層、ケーブル絶縁紙1bと補強絶縁紙2aの境界、導体油と接触するケーブル絶縁紙1b」となる。
上記流動接触部位について、劣化絶縁油tanδと油浸紙tanδの関係は劣化絶縁油が油浸紙に充分に流動接触した後の両者の平衡関係式を採用する。なお、劣化油浸紙tanδには顕著な電界依存性があることから、油浸紙tanδは所定の基準電界E0 でのtanδ値(以下、「基準電界におけるtanδ」という)とする。
【0013】
ここで、前述したようにtanδ劣化油と油浸紙を長時間接触させると、油のtanδは(見掛上)徐々に小さくなり、油浸紙tanδ徐々に増大し、両者のtanδ関係の時間変化がなくなるが、この平衡状態に達するに要する期間は数年程度である。現在使用されているOFケーブルは10年以上経過しているものがほとんどであり、大部分のOFケーブルのtanδは平衡状態に達しているものと考えられる。
なお、文献(Tohru Takahashi,Takenori Nakajima,Masahiko Nakade and Kenichi Ide:「Remarkable Tanδ Suppressin of Oil Filled Cable Insulation with Extremely Degraded Tanδ Oil」,Jicable07,A5−2,Versailles,France(2007.6))のFig. 9には、長時間流動実験中のボックス油(接続箱油)と導体油のtanδ変化が示されている。
図11に、上記Fig.9に示される流動回数と、ボックス油(接続箱油)と導体油のtanδ変化を示す。
ここに示されるものは、絶縁層を介した「ボックス油←→導体油」の流動であり、ボックス油tanδと導体油tanδが同じ位になる時間(回数)がほぼ平衡時間と解釈できる。この実験は「日間変動分の絶縁油の膨張収縮による流動量(油量の3%)」として実験したものであり、この実験データの例えば1000回は1000日(約3年)相当し、約1000回で、ボックス油tanδと導体油tanδが同じ位になっている。したがって、この実験から平衡tanδに達する時間は、少なくとも3年程度と考えられる。
【0014】
図12に絶縁油tanδと油浸紙tanδの平衡関係の測定結果例を示す。同図において、黒四角、三角、×等は、平衡状態に達した絶縁油tanδと油浸紙tanδをプロットした点であり、実線は前記図14に示した油/紙単純複合モデルによる曲線であり、点線は、抑制係数k=0.25として複合モデルによる曲線である。
同図に示されるように、tanδ極度劣化油含浸紙では、比較的バラツキの大きい現象となるが、平衡後の油/紙の単純複合モデルから求まる油浸紙tanδ(前記(1)式および図14)よりも大きく抑制されたtanδとなる。
油tanδをtanδoとすると、「tanδo→k×tanδo(k:tanδ抑制係数)」に置き換えると単純複合モデルのtanδ式が適用でき、バラツキの範囲を考慮するとk=0.1` 0.5となる(図12では中央値としてk=0.25の曲線で示してある)。
図12に示す関係から、経年OFケーブル線路から採取した劣化絶縁油のtanδから上記流動接触部位における油浸紙平衡tanδを求めることができる。
【0015】
(3)実機接続箱による劣化油流動後の接続部tanδ分布
154kVクラスOFケーブル接続箱を用いて、接続箱油(ボックス油)にtanδ極度劣化油を充填し、導体側にピストンシリンダーを取付けて、ボックス油と導体油間の流動実験を行った。
図3にOFケーブルの接続箱における油の流れを示し、図4に実験装置の全体構成を示す。
図3において、前述したように、1aはケーブル導体1a、1bはケーブル絶縁紙、2aは補強絶縁紙、2bはジョイントボックス、3はボックス油、4は導体油である。
同図に示すように、図示しないピストンシリンダにより導体側から油を出し入れすると、ケーブル導体1aには油通路があるので油が流動し、さらに同図の矢印に示すように、ケーブル絶縁紙1bと補強絶縁紙2aの境界、およびケーブル絶縁紙1bを通って、導体油4←→ボックス油3が流動する。
【0016】
図4は実験装置の全体の構成を示す。上記接続箱10のOFケーブルの導体油通路に、接続された管路11に差圧計12、圧力計13を介して油注入シリンダ14を接続し、制御装置によりシリンダ14を制御し、導体油4を流動させた。また、この管路11に導体油用の採油口18−1を設けた。
一方、ジョイントボックス2bに管路15を介してバッファ用油留め16を設け、ボックス油用の採油口18−2を設けた。
なお、同図では、接続箱10に接続された一方のOFケーブル1の長さを10mとし、その端部にPT17を接続している場合を示しているが、接続箱10のみの実験の場合は、OFケーブルを短くしてもよい。
【0017】
図3、図4に示したものは、ケーブル実使用時の負荷変動による絶縁油の熱膨張収縮による絶縁油流動を模擬したものであり、前記図11に示したように、ボックス油と導体油のtanδが同程度の値となる平衡状態までの流動回数を実施後、接続絶縁体各部の油浸紙tanδを詳細に測定した。そのプロフィールから次の特徴が明らかになった。
(i) 接続部絶縁体のtanδ劣化部位の特徴
図5に示すように、劣化油の流動は通常部より層間の緩いと考えられるケーブル紙と補強紙の境界に沿って大きく、各部のtanδは一様ではなく、次の順となる。
[ケーブル/補強紙境界部]>[補強紙スロープ部]>[ケーブルラジアル方向]>[補強紙ラジアル方向]
・ケーブル/補強紙境界部:ケーブル絶縁紙1bと補強絶縁紙2aの境界部、図5の(1) ・補強紙スロープ部:補強絶縁紙2aのスロープ部、図5の(2)
・ケーブルラジアル方向:ケーブル絶縁紙1bの積層方向(ラジアル方向)、図5の(3) ・補強紙ラジアル方向:補強絶縁紙2aの積層方向(ラジアル方向)、図5の(4)
なお、劣化絶縁油の流動接触部位を起点として、図2の場合では縦矢印の積層方向がラジアル方向、横矢印の層間方向が沿層方向となる。OFケーブル絶縁層はテープ巻き積層されているので、劣化絶縁油の浸透度はテープ層間流となる沿層方向がラジアル方向より大きい。
【0018】
(ii)ラジアル(積層)方向と層間(沿層)方向のtanδ分布
上記接続絶縁体各部の油浸紙tanδの測定結果から、劣化絶縁油が直接流動接触する部位のtanδ(例えば、ケーブル/補強紙境界部や補強紙スロープ表層)を起点(浸透厚さt=0位置)として浸透厚さ方向(前記図2の矢印参照) へのtanδ変化は、規格化したtanδで示すと、前述した次の(2)式に示すように指数関数的な減少で表示できることが分かった。
(tanδ(t)−tanδs )/(tanδ(t=0)−tanδs )=exp(αt)…(2)
ここで、tanδ(t=0)は、劣化絶縁油流動接触部位の起点tanδ、tanδS は劣化絶縁油未浸透部のtanδである。
αは浸透度係数であり、浸透度係数αはラジアル方向浸透度係数αr =0.7〜3.0(mm-1)、沿層方向浸透度係数αl =0.02〜0.10(mm-1)の範囲であることが判った。
図13に浸透厚(mm)と規格化したtanδの変化を示す。同図は、ラジアル方向浸透度係数αr =1.49(cm-1)、沿層方向浸透度係数αl =0.049(cm-1)の場合である。
【0019】
以上の本発明者等が明らかにしたtanδ劣化油含浸OFケーブル絶縁体の特異なtanδ現象を考慮することにより、絶縁体各部のtanδ分布を求めることができる。
図6、図7により、tanδ分布の求め方について説明する。
(1)前記したように、経年OFケーブル線路から絶縁油を採取しtanδo を測定する(図7(1) )。そして、測定した絶縁油のtanδo と、図12に示した絶縁油tanδと油浸紙平衡tanδとの関係から、上記絶縁油と流動接触する部位の基準電界における油浸紙平衡tanδを定める(図7(2) )。なお、図12は油浸tanδの測定電界が約10kV/mmであるので、ここでは基準電界を10kV/mmとする。
【0020】
(2)一方、前記ボックス油と導体油間の流動実験後の接続絶縁体各部の油浸紙tanδを詳細に測定した結果に基づき、流動接触部位の各部位におけるtanδを求める。
すなわち、図6において、補強絶縁紙2a(ストレスコーン)の立上部近傍のA部位、ケーブル絶縁紙1bと補強絶縁紙2aの界面中央点であるB部位、ケーブル導体1aの直上点であるC部位、補強絶縁紙2aのスロープ表層であるD部位についてtanδを得る。ここで、A部位のtanδA が最大tanδであるとして(劣化油の流動の際の入口点相当であるので最大tanδになるとしている)、この部位のtanδA を上記油浸紙平衡tanδとする。
そして、流動実験後に測定した接続絶縁体各部の油浸紙tanδの分布に基づき、上記A部位のtanδA を起点として例えばAB間の距離比例値、BC間の距離比例値としてB〜D部位の最大tanδであるtanδB 、tanδC 、tanδD を求める(図7(3) )。
(3)以上のようにしてA〜D部位のtanδが定まったら、上記tanδB 、tanδC 、tanδD を起点として、前記(2)式に基づき、ラジアル方向浸透度係数αr 、沿層方向浸透度係数αl により、ラジアル方向と沿層方向の浸透厚さtにおける絶縁体のtanδ(t)を求める(図7(4) )。
【0021】
(4)上記のようにして求めたtanδ分布は、基準電界(約10kV/mm)における値なので、接続部絶縁体の電界分布を求め、この電界分布に基づき、前述した以下の(3)式により、各部のtanδを求める(図7(5) )。
tanδ(E)=(E0 /E)×tanδ(E0 )…(3)
ここで、tanδ(E)は求めた絶縁体各部のtanδであり、tanδ(E0 )は基準電界でのtanδである。
【0022】
上記のようにして求めたtanδ分布に基づき、誘電発熱シミュレーションを行い、OFケーブル線路の誘電発熱特性を推定した。
誘電発熱シミュレーションは、通常行われているのと同様な方法であり、以下のようにして行った。
OFケーブルの接続部をメッシュに分割して、接続部絶縁体各部の電界解析を行い、電界に応じたtanδにより、各部位での発生熱(W)を計算する。
発生熱は「誘発熱+通電電流による導体発熱熱」であり、絶縁体部の単位体積当りの誘電発熱量は次式となる。
W=ωε0 εs E2 ×tan δ×10-5(W/cm3 )
ε0 (真空の誘電率):8.855×10-10 (F/cm)
εs (油浸紙の比誘電率)(=3.4)
E(電界):(V/cm)
また、熱放散は布設環境、各部の材料熱抵抗、形状に依存する。発熱量と熱放散のバランスをメッシュ分割各部で計算することにより、誘電発熱特性を的確に推定することができる。
【実施例】
【0023】
154kVクラスOFケーブル接続部に次の条件を与えた場合の誘電発熱シミュレーションを行った。
(条件)
・OFケーブル接続部:154kV絶縁型接続部、導体サイズ1200mm2
・敷設条件:管路区間内入孔部設置(入孔温度30°C一定)
・通電電流:875A(敷設条件を考慮した送電時許容電流)
・接続部絶縁油tanδ:tanδ=50%
ここで、接続部絶縁体のtanδ分布は上述した方法で求め、使用定数は上述した実験に基づく平均的な値として次の値を用いた。
・tanδ平衡式(前記(1)式)のtanδ抑制係数k=0.25とした。
・前記(2)式の悪化油浸透度係数をラジアル方向αr =1.49mm-1、沿層方向αl =0.049cm-1 とした。
・基準電界=10kV/mmとした。
【0024】
接続絶縁体各部の運転電界でのtanδ分布を図8に示す。前述したガルトン効果tanδ電界特性(高電界域でのtanδ減少)を反映して低電界域となる補強紙表層の一部で大きいtanδ値となるが、それ以外ではtanδ値が抑制されることが判る。
図8の各部の電界を考慮したtanδによる誘電発熱並びに通電電流による発熱と接続部構造と敷設条件による熱放散から温度解析した結果を図9に示す。
図9では最大温度は導体部であり44.35°Cの結果となっているが、この大部分は通電電流による導体発熱によるものであり、tanδ発熱による温度上昇寄与は0.33°Cでしかない。tanδ発熱の寄与が小さいのは「誘電発熱∝tanδ×E2 (E:電界)」であり、tanδ絶対値の大きい部位が図8に示すように低電界の補強紙表層部に局在しているためとなる。
すなわち、本ケース(入孔敷設の154kV接続箱で絶縁油tanδ=50%レベル)では誘電発熱による熱暴走の発生は考え難い結果であり、現実にそのような事例がない事実とも一致する。このことから、本発明の誘電発熱シミュレーションが的確なものであることがわかる
他のケースの場合(電圧クラス、敷設条件(管路、直埋、洞道)、ケーブル部&終端部)に対しても同様のシミュレーションを適用できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】OFケーブルの接続箱の断面構成を示す図である。
【図2】図1に示した接続箱における劣化絶縁油の流動接触を概念的に示した図である。
【図3】OFケーブルの接続箱における油の流れを示す図である。
【図4】実験装置の全体構成を示す図である。
【図5】接続部における絶縁体各部のtanδ劣化プロフィールを説明する図である。
【図6】tanδ分布の求め方を説明する図である。
【図7】tanδ分布を求める際の定数例を示す図である。
【図8】接続絶縁体各部の運転電界でのtanδ分布を示す図である。
【図9】誘電発熱シミュレーション結果を示す図である。
【図10】tanδ=約50%のOFケーブル用アルキルベンゼン油(JISC2320の2種1号油)を含浸した油浸紙tanδの電界特性例を示す図である。
【図11】流動回数と、ボックス油(接続箱油)と導体油のtanδ変化を示す図である。
【図12】絶縁油tanδと油浸紙tanδの平衡関係の測定結果例を示す図である。
【図13】浸透厚(mm)と規格化したtanδの変化を示す図である。
【図14】油と紙の単純複合モデルによる絶縁油tanδと油浸紙tanδの関係を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1 OFケーブル
1a ケーブル導体
1b ケーブル絶縁紙
1c 防食層
1d スリーブ
2a 補強絶縁紙
2b ジョイントボックス
2c 鉛工部
2d 防食層
4 導体油
5 エポキシ絶縁層
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁油の誘電正接(tanδ)の劣化した経年OFケーブル線路のtanδ分布の推定方法および誘電発熱破壊可能性有無を判定する誘電発熱特性の推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年ではCVケーブル(架橋ポリエチレン絶縁ケーブル)が電力ケーブルの主流であるが、OFケーブルは従来から広く使われてきたものであり、10年〜数10年を経過した経年線路が多い。
このため、ケーブル線路施工時の不具合や経年劣化による絶縁性能の低下度合を的確に診断する必要がある。
OFケーブルの絶縁劣化診断技術としては、例えば特許文献1に記載のものが提案されている。特許文献1に記載のものは、絶縁油中から採取した絶縁油中の溶存ガスを分離抽出して、その分析値から絶縁劣化状況を診断するものである。
また、通常、OFケーブル線路から絶縁油を採取して、絶縁油の劣化程度からOFケーブルの絶縁劣化を診断することも行なわれている。
OFケーブル線路から絶縁油を採取したとき、接続部などで絶縁油tanδの極度に劣化している場合(例えば,絶縁油tanδ=数十%レベル、at80℃(JIS C2101による測定))がしばしばある。
絶縁油tanδの暫定基準例としてtanδ=2%以下(例えば非特許文献1参照)があるが、根拠は明確でなく、上述のtanδ極度劣化油ではこの値を大きく上回る実情がある。
【0003】
OFケーブル絶縁体は絶縁紙に絶縁油が含浸された油浸紙であり、油と紙の単純複合モデルによる絶縁油tanδと油浸紙tanδの関係は次の式であり(例えば非特許文献2参照)、その計算結果例を図14に示す。
tanδ=(θf εf k tanδf +θo εo k tanδo )/εk
ここで、ε,tanδは油浸紙の値を示し、添え字fは紙、oは油、θ体積分率を表し、εk =θf εf k +θo εo k 、k=−0.5(絶縁紙構造に対する値)である。
紙繊維のεf 、tanδf の温度特性はtを温度(℃)として、εf =6.25+0.005t=6.65(at80℃)、
tanδf (%)=(0.62−0.006t)+(0.055×100.01t )=0.49(at80℃)、である。
例えば、絶縁油tanδ=10%では油浸紙tanδ=約5.5%、絶縁油tanδ=50%では油浸紙tanδ=約30%となる。
【0004】
一方、tanδ誘電発熱によるケーブル絶縁体の熱暴走限界tanδ計算例が非特許文献3に示されており、「66kVクラスOFケーブル→tanδ=3.95%、154kVクラスOFケーブル→tanδ=0.60%、275kVクラスOFケーブル→tanδ=0.38%」の計算結果がある。
【特許文献1】特開平5−252632号公報
【非特許文献1】電気協同研究「地中送電設備とその保守点検技術」、第40巻第3号、昭和59年3月、p18
【非特許文献2】斉藤、武、電気絶縁紙、コロナ社、昭和44年12月20日、p144〜p153
【非特許文献3】電気協同研究「OFケーブルの保守技術」、第55巻第2号、平成11年10月、p116〜117
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、絶縁油tanδが極度に悪い場合は、当然、油浸紙tanδも極度に大きくなり、誘電発熱による熱破壊を起こすことになる。
所が現実には、線路から採取した絶縁油tanδが極めて大きい場合(tanδ=数十%レベル)でもtanδ誘電発熱破壊の事例は今の所殆どなく、前記の計算は実態を反映していない。
このことは、tanδ極度悪化油が含浸された油浸紙では、なんらかのtanδ抑制効果が作用していることを示唆している。
そこで、本発明者が極度にtanδの悪い絶縁油を含浸した油浸紙のtanδ特性を詳細に調べた結果、次の2つの理由による注目すべきtanδ抑制効果の作用していることが判った。
(1) 所謂ガルトン効果による(運転電界域を含む)高電界域でのtanδ減少。
(2) 油中イオンの絶縁紙への吸着によるtanδ減少。
これらの効果は実機OFケーブル接続箱を用いた悪化油流動実験においても確認され、さらに、接続部絶縁体の場合はtanδ悪化部位がケーブル紙/ ジョイント紙境界部などに限定されることが判明した。
以上のことから、tanδ劣化した絶縁油の場合の実態を反映した誘電発熱推定法が必要となる。
本発明は、このように事情に鑑みなされたものであって、その目的は、極度劣化油tanδを有するOFケーブル線路のtanδ分布及び発熱特性を、線路から採取される絶縁油tanδをベースに的確な方法で推定する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は極度劣化油tanδを有するOFケーブル線路のtanδ発熱特性を線路から採取される絶縁油tanδをベースに的確な方法で推定する方法を提供する。
そのために、tanδ極度劣化油を用いた油浸紙tanδ特性の詳細な検討を行い、(a)tanδ極度劣化油含浸紙のtanδ−電界&温度特性、(b)tanδ劣化油を充分接触流動させた場合の油浸紙tanδとの平衡関係、(c)劣化油流動後の接続部tanδ分布の特徴、を明らかにし、これに基づき、経年OFケーブル線路から採取した劣化絶縁油の誘電正接(tanδ)からOFケーブル線路のtanδ分布を精度よく推定することを可能とした。
すなわち、本発明においては、次のようにして前記課題を解決する。
(1)経年OFケーブル線路から採取した劣化絶縁油の誘電正接(tanδ)からOFケーブル線路のtanδ分布を以下の(イ)〜(ニ)のようにして推定する。
(イ)油浸紙と絶縁油が流動接触することにより、絶縁油と油浸紙の接触部位のtanδが平衡状態となった経年OFケーブル線路から絶縁油を採取し、tanδを測定する。
(ロ)上記測定した絶縁油のtanδと、予め求めた絶縁油tanδと油浸紙平衡tanδとの関係から、上記油浸紙と絶縁油が流動接触する所定部位のtanδを求める。なお、このtanδは予め設定した基準電界における値である。
上記絶縁油tanδと油浸紙平衡tanδとの関係は、以下に示す油/紙の単純複合モデルによる関係式に対して、tanδo を[tanδo→K×tanδo] (Kはtanδ抑制係数でありK=0.1〜0.5)で置き換えて求めたものである。
tanδ=(θf εf k tanδf +θo εo k tanδo )/εk …(1)
ここでε,tanδは油浸紙の値を示し、添え字fは紙、oは油、θは体積分率を表し、εk =θf εf k +θo εo k 、k=−0.5(絶縁紙構造に対する値)である。
(ハ)上記劣化絶縁油と流動接触する所定部位のtanδ(基準電界における値)を起点として、油浸紙の積層方向と、該積層方向に直交する油浸紙の沿間方向への劣化絶縁油の浸透厚さtに応じた基準電界におけるtanδ(t)を求める。
ここで、上記油浸紙の積層方向と、該積層方向に直交する油浸紙の沿間方向への劣化絶縁油の浸透厚さに応じたtanδ(t)は、以下の(2)式で求められる。
(tanδ(t)−tanδs )/(tanδ(t=0)−tanδs )=exp(−αt)…(2)
ここで、tanδ(t=0)は、劣化絶縁油流動接触部位の起点tanδ、tanδS は劣化絶縁油未浸透部のtanδ、αは浸透度係数であり、浸透度係数αはラジアル方向(油浸紙の積層方向)の浸透度係数αr =0.7〜3.0(mm-1)、沿層方向(積層方向に直交する油浸紙の沿間方向)の浸透度係数αl =0.02〜0.10(mm-1)である。
(ニ)OFケーブル線路の絶縁体各部の電界分布と、上記所定の部位における基準電界におけるtanδおよび上記基準電界における各浸透厚さのtanδとに基づき、OFケーブル線路の絶縁体各部のtanδ分布を求める。
上記において、絶縁体各部のtanδ分布は、以下の(3)式により基準電界におけるtanδ分布を、電界EにおけるOFケーブル線路の絶縁体各部のtanδ分布に換算したものである。
tanδ(E)=(E0 /E)×tanδ(E0 )…(3)
ここで、tanδ(E)は求めた絶縁体各部のtanδ、tanδ(E0 )は基準電界でのtanδである。
(2)上記手法により、OFケーブル線路の接続部、ケーブル部、終端部のtanδ分布の推定する。
(3)上記のようにして推定したOFケーブル線路絶縁体各部位のtanδ値と、電界から誘電発熱と熱放散特性に基づき、OFケーブル線路の誘電発熱特性を推定する。
【発明の効果】
【0007】
本発明においては、経年OFケーブルの接続箱の劣化絶縁油を採取することにより、tanδ劣化油含浸紙の特異なtanδ現象を反映させたOFケーブル線路絶縁体のtanδ分布を推定することができ、これに基づき、tanδ劣化油OFケーブル線路の実態を反映した適切な誘電発熱推定が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
極度劣化油tanδを有するOFケーブル線路のtanδ発熱特性を、線路から採取される絶縁油tanδを基に推定するため、本発明者等はtanδ極度劣化油を用いた油浸紙tanδ特性の詳細な検討を行なった。その結果、以下(1)〜(3)の事項が明らかとなった。
(1)tanδ極度劣化油含浸紙のtanδ−電界&温度特性
tanδ極度悪化油を含浸した油浸紙tanδの特異な電界特性を見出した。
図10はtanδ=約50%のOFケーブル用アルキルベンゼン油(JISC2320の2種1号油)を含浸した油浸紙tanδの電界特性例である。なお、(a)は温度特性を示し、(b)はガルトン効果によるtanδの低下を示す。
【0009】
同図に示すように、油浸紙tanδは、OFケーブル運転電界域(5〜15kV/mm)を含む高電界域で著しいtanδ低下の現象が認められる。電界増加でtanδ低下する現象は数μmオーダの紙繊維間を油中イオンがAC半サイクルより短い時間で移動を完了するために生じる所謂ガルトン効果として古くから知られている(C. G. Garton, 「Dielectric Loss in Thin Film of Insulation Liquids」, JIEE (II),1941, 88G, p103〜120)。
しかし、本発明者等は、この現象の発現がOFケーブル運転電界付近で最も顕著に顕れることを見出している。また、油浸紙tanδの低下効果(抑制効果)には上述のガルトン効果に加え、絶縁紙へのtanδ悪化成分(油中イオン)の吸着効果も寄与していることを見出している。さらに、図10の例から判るように、次の特徴を明らかにした。
(i) ガルトン効果の表れる領域では油浸紙tanδは電界にほぼ逆比例して低下する。
(ii)OFケーブル運転電界付近のtanδ−温度特性は小さい。
【0010】
(2)tanδ劣化油を充分接触流動させた場合の油浸紙tanδとの平衡関係
前述のように絶縁紙にはtanδ悪化成分(油中イオン)の吸着効果があることから、tanδ劣化油と油浸紙を長時間接触させて両者(絶縁油と油浸紙)の平衡tanδの関係を求めた。
なお、平衡tanδとはtanδ劣化油と油浸紙を長時間接触させ平衡状態に達したtanδのことである。油のtanδ悪化成分(油中イオン)は絶縁紙に吸着される性質があるので、接触時間と共に油のtanδは(見掛上)徐々に小さくなり、油浸紙tanδ徐々に増大する。両者のtanδ関係の時間変化がなくなった状態を平衡tanδとしている。
【0011】
OFケーブルの接続箱の断面構成を図1に示す。なお、本発明は接続部に限らず、OFケーブルのケーブル部、終端部等にも同様に適用できるが、ここでは、主としてOFケーブルの接続部を対象として本発明を説明する。
図1において、1はOFケーブルであり、OFケーブル1は、ケーブル導体1a、絶縁のためのケーブル絶縁紙1b、防食層からなり、ケーブル導体1aはスリーブ1dにより図示しない他のOFケーブルのケーブル導体と接続される。
上記接続箱におけるケーブル導体1a、ケーブル絶縁紙1b上には、補強絶縁紙2aが巻きつけられ、ケーブル絶縁紙1b、補強絶縁紙2aは銅管などからなるジョイントボックス2bに収納され、ジョイントボックス2b中にはボックス油3が充填される。また、ケーブル導体1aには油通路が設けられ、導体油4が充填されている。
ジョイントボックス2bとOFケーブル1上には、鉛工部2c、防食層2dが設けられ、さらに、スリーブ1d上のジョイントボックス2b上には、絶縁接続箱の場合には遮蔽層の縁切りのためエポキシ絶縁層5が設けられる。
【0012】
図2は、図1に示した接続箱における劣化絶縁油の流動接触を概念的に示した図である。
経年OFケーブル線路においては、接続箱のボックス油は劣化絶縁油となるが、ケーブル運転中、油の熱膨張収縮により「ボックス油⇔導体油」間で劣化油の流動がある。
この場合、劣化絶縁油のtanδを反映するケーブル絶縁体の油浸紙tanδは、劣化絶縁油が直接流動接触する部位であり、図2において、この流動接触部位とは「ケーブル絶縁紙1bの表層および補強絶縁紙2aの表層、ケーブル絶縁紙1bと補強絶縁紙2aの境界、導体油と接触するケーブル絶縁紙1b」となる。
上記流動接触部位について、劣化絶縁油tanδと油浸紙tanδの関係は劣化絶縁油が油浸紙に充分に流動接触した後の両者の平衡関係式を採用する。なお、劣化油浸紙tanδには顕著な電界依存性があることから、油浸紙tanδは所定の基準電界E0 でのtanδ値(以下、「基準電界におけるtanδ」という)とする。
【0013】
ここで、前述したようにtanδ劣化油と油浸紙を長時間接触させると、油のtanδは(見掛上)徐々に小さくなり、油浸紙tanδ徐々に増大し、両者のtanδ関係の時間変化がなくなるが、この平衡状態に達するに要する期間は数年程度である。現在使用されているOFケーブルは10年以上経過しているものがほとんどであり、大部分のOFケーブルのtanδは平衡状態に達しているものと考えられる。
なお、文献(Tohru Takahashi,Takenori Nakajima,Masahiko Nakade and Kenichi Ide:「Remarkable Tanδ Suppressin of Oil Filled Cable Insulation with Extremely Degraded Tanδ Oil」,Jicable07,A5−2,Versailles,France(2007.6))のFig. 9には、長時間流動実験中のボックス油(接続箱油)と導体油のtanδ変化が示されている。
図11に、上記Fig.9に示される流動回数と、ボックス油(接続箱油)と導体油のtanδ変化を示す。
ここに示されるものは、絶縁層を介した「ボックス油←→導体油」の流動であり、ボックス油tanδと導体油tanδが同じ位になる時間(回数)がほぼ平衡時間と解釈できる。この実験は「日間変動分の絶縁油の膨張収縮による流動量(油量の3%)」として実験したものであり、この実験データの例えば1000回は1000日(約3年)相当し、約1000回で、ボックス油tanδと導体油tanδが同じ位になっている。したがって、この実験から平衡tanδに達する時間は、少なくとも3年程度と考えられる。
【0014】
図12に絶縁油tanδと油浸紙tanδの平衡関係の測定結果例を示す。同図において、黒四角、三角、×等は、平衡状態に達した絶縁油tanδと油浸紙tanδをプロットした点であり、実線は前記図14に示した油/紙単純複合モデルによる曲線であり、点線は、抑制係数k=0.25として複合モデルによる曲線である。
同図に示されるように、tanδ極度劣化油含浸紙では、比較的バラツキの大きい現象となるが、平衡後の油/紙の単純複合モデルから求まる油浸紙tanδ(前記(1)式および図14)よりも大きく抑制されたtanδとなる。
油tanδをtanδoとすると、「tanδo→k×tanδo(k:tanδ抑制係数)」に置き換えると単純複合モデルのtanδ式が適用でき、バラツキの範囲を考慮するとk=0.1` 0.5となる(図12では中央値としてk=0.25の曲線で示してある)。
図12に示す関係から、経年OFケーブル線路から採取した劣化絶縁油のtanδから上記流動接触部位における油浸紙平衡tanδを求めることができる。
【0015】
(3)実機接続箱による劣化油流動後の接続部tanδ分布
154kVクラスOFケーブル接続箱を用いて、接続箱油(ボックス油)にtanδ極度劣化油を充填し、導体側にピストンシリンダーを取付けて、ボックス油と導体油間の流動実験を行った。
図3にOFケーブルの接続箱における油の流れを示し、図4に実験装置の全体構成を示す。
図3において、前述したように、1aはケーブル導体1a、1bはケーブル絶縁紙、2aは補強絶縁紙、2bはジョイントボックス、3はボックス油、4は導体油である。
同図に示すように、図示しないピストンシリンダにより導体側から油を出し入れすると、ケーブル導体1aには油通路があるので油が流動し、さらに同図の矢印に示すように、ケーブル絶縁紙1bと補強絶縁紙2aの境界、およびケーブル絶縁紙1bを通って、導体油4←→ボックス油3が流動する。
【0016】
図4は実験装置の全体の構成を示す。上記接続箱10のOFケーブルの導体油通路に、接続された管路11に差圧計12、圧力計13を介して油注入シリンダ14を接続し、制御装置によりシリンダ14を制御し、導体油4を流動させた。また、この管路11に導体油用の採油口18−1を設けた。
一方、ジョイントボックス2bに管路15を介してバッファ用油留め16を設け、ボックス油用の採油口18−2を設けた。
なお、同図では、接続箱10に接続された一方のOFケーブル1の長さを10mとし、その端部にPT17を接続している場合を示しているが、接続箱10のみの実験の場合は、OFケーブルを短くしてもよい。
【0017】
図3、図4に示したものは、ケーブル実使用時の負荷変動による絶縁油の熱膨張収縮による絶縁油流動を模擬したものであり、前記図11に示したように、ボックス油と導体油のtanδが同程度の値となる平衡状態までの流動回数を実施後、接続絶縁体各部の油浸紙tanδを詳細に測定した。そのプロフィールから次の特徴が明らかになった。
(i) 接続部絶縁体のtanδ劣化部位の特徴
図5に示すように、劣化油の流動は通常部より層間の緩いと考えられるケーブル紙と補強紙の境界に沿って大きく、各部のtanδは一様ではなく、次の順となる。
[ケーブル/補強紙境界部]>[補強紙スロープ部]>[ケーブルラジアル方向]>[補強紙ラジアル方向]
・ケーブル/補強紙境界部:ケーブル絶縁紙1bと補強絶縁紙2aの境界部、図5の(1) ・補強紙スロープ部:補強絶縁紙2aのスロープ部、図5の(2)
・ケーブルラジアル方向:ケーブル絶縁紙1bの積層方向(ラジアル方向)、図5の(3) ・補強紙ラジアル方向:補強絶縁紙2aの積層方向(ラジアル方向)、図5の(4)
なお、劣化絶縁油の流動接触部位を起点として、図2の場合では縦矢印の積層方向がラジアル方向、横矢印の層間方向が沿層方向となる。OFケーブル絶縁層はテープ巻き積層されているので、劣化絶縁油の浸透度はテープ層間流となる沿層方向がラジアル方向より大きい。
【0018】
(ii)ラジアル(積層)方向と層間(沿層)方向のtanδ分布
上記接続絶縁体各部の油浸紙tanδの測定結果から、劣化絶縁油が直接流動接触する部位のtanδ(例えば、ケーブル/補強紙境界部や補強紙スロープ表層)を起点(浸透厚さt=0位置)として浸透厚さ方向(前記図2の矢印参照) へのtanδ変化は、規格化したtanδで示すと、前述した次の(2)式に示すように指数関数的な減少で表示できることが分かった。
(tanδ(t)−tanδs )/(tanδ(t=0)−tanδs )=exp(αt)…(2)
ここで、tanδ(t=0)は、劣化絶縁油流動接触部位の起点tanδ、tanδS は劣化絶縁油未浸透部のtanδである。
αは浸透度係数であり、浸透度係数αはラジアル方向浸透度係数αr =0.7〜3.0(mm-1)、沿層方向浸透度係数αl =0.02〜0.10(mm-1)の範囲であることが判った。
図13に浸透厚(mm)と規格化したtanδの変化を示す。同図は、ラジアル方向浸透度係数αr =1.49(cm-1)、沿層方向浸透度係数αl =0.049(cm-1)の場合である。
【0019】
以上の本発明者等が明らかにしたtanδ劣化油含浸OFケーブル絶縁体の特異なtanδ現象を考慮することにより、絶縁体各部のtanδ分布を求めることができる。
図6、図7により、tanδ分布の求め方について説明する。
(1)前記したように、経年OFケーブル線路から絶縁油を採取しtanδo を測定する(図7(1) )。そして、測定した絶縁油のtanδo と、図12に示した絶縁油tanδと油浸紙平衡tanδとの関係から、上記絶縁油と流動接触する部位の基準電界における油浸紙平衡tanδを定める(図7(2) )。なお、図12は油浸tanδの測定電界が約10kV/mmであるので、ここでは基準電界を10kV/mmとする。
【0020】
(2)一方、前記ボックス油と導体油間の流動実験後の接続絶縁体各部の油浸紙tanδを詳細に測定した結果に基づき、流動接触部位の各部位におけるtanδを求める。
すなわち、図6において、補強絶縁紙2a(ストレスコーン)の立上部近傍のA部位、ケーブル絶縁紙1bと補強絶縁紙2aの界面中央点であるB部位、ケーブル導体1aの直上点であるC部位、補強絶縁紙2aのスロープ表層であるD部位についてtanδを得る。ここで、A部位のtanδA が最大tanδであるとして(劣化油の流動の際の入口点相当であるので最大tanδになるとしている)、この部位のtanδA を上記油浸紙平衡tanδとする。
そして、流動実験後に測定した接続絶縁体各部の油浸紙tanδの分布に基づき、上記A部位のtanδA を起点として例えばAB間の距離比例値、BC間の距離比例値としてB〜D部位の最大tanδであるtanδB 、tanδC 、tanδD を求める(図7(3) )。
(3)以上のようにしてA〜D部位のtanδが定まったら、上記tanδB 、tanδC 、tanδD を起点として、前記(2)式に基づき、ラジアル方向浸透度係数αr 、沿層方向浸透度係数αl により、ラジアル方向と沿層方向の浸透厚さtにおける絶縁体のtanδ(t)を求める(図7(4) )。
【0021】
(4)上記のようにして求めたtanδ分布は、基準電界(約10kV/mm)における値なので、接続部絶縁体の電界分布を求め、この電界分布に基づき、前述した以下の(3)式により、各部のtanδを求める(図7(5) )。
tanδ(E)=(E0 /E)×tanδ(E0 )…(3)
ここで、tanδ(E)は求めた絶縁体各部のtanδであり、tanδ(E0 )は基準電界でのtanδである。
【0022】
上記のようにして求めたtanδ分布に基づき、誘電発熱シミュレーションを行い、OFケーブル線路の誘電発熱特性を推定した。
誘電発熱シミュレーションは、通常行われているのと同様な方法であり、以下のようにして行った。
OFケーブルの接続部をメッシュに分割して、接続部絶縁体各部の電界解析を行い、電界に応じたtanδにより、各部位での発生熱(W)を計算する。
発生熱は「誘発熱+通電電流による導体発熱熱」であり、絶縁体部の単位体積当りの誘電発熱量は次式となる。
W=ωε0 εs E2 ×tan δ×10-5(W/cm3 )
ε0 (真空の誘電率):8.855×10-10 (F/cm)
εs (油浸紙の比誘電率)(=3.4)
E(電界):(V/cm)
また、熱放散は布設環境、各部の材料熱抵抗、形状に依存する。発熱量と熱放散のバランスをメッシュ分割各部で計算することにより、誘電発熱特性を的確に推定することができる。
【実施例】
【0023】
154kVクラスOFケーブル接続部に次の条件を与えた場合の誘電発熱シミュレーションを行った。
(条件)
・OFケーブル接続部:154kV絶縁型接続部、導体サイズ1200mm2
・敷設条件:管路区間内入孔部設置(入孔温度30°C一定)
・通電電流:875A(敷設条件を考慮した送電時許容電流)
・接続部絶縁油tanδ:tanδ=50%
ここで、接続部絶縁体のtanδ分布は上述した方法で求め、使用定数は上述した実験に基づく平均的な値として次の値を用いた。
・tanδ平衡式(前記(1)式)のtanδ抑制係数k=0.25とした。
・前記(2)式の悪化油浸透度係数をラジアル方向αr =1.49mm-1、沿層方向αl =0.049cm-1 とした。
・基準電界=10kV/mmとした。
【0024】
接続絶縁体各部の運転電界でのtanδ分布を図8に示す。前述したガルトン効果tanδ電界特性(高電界域でのtanδ減少)を反映して低電界域となる補強紙表層の一部で大きいtanδ値となるが、それ以外ではtanδ値が抑制されることが判る。
図8の各部の電界を考慮したtanδによる誘電発熱並びに通電電流による発熱と接続部構造と敷設条件による熱放散から温度解析した結果を図9に示す。
図9では最大温度は導体部であり44.35°Cの結果となっているが、この大部分は通電電流による導体発熱によるものであり、tanδ発熱による温度上昇寄与は0.33°Cでしかない。tanδ発熱の寄与が小さいのは「誘電発熱∝tanδ×E2 (E:電界)」であり、tanδ絶対値の大きい部位が図8に示すように低電界の補強紙表層部に局在しているためとなる。
すなわち、本ケース(入孔敷設の154kV接続箱で絶縁油tanδ=50%レベル)では誘電発熱による熱暴走の発生は考え難い結果であり、現実にそのような事例がない事実とも一致する。このことから、本発明の誘電発熱シミュレーションが的確なものであることがわかる
他のケースの場合(電圧クラス、敷設条件(管路、直埋、洞道)、ケーブル部&終端部)に対しても同様のシミュレーションを適用できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】OFケーブルの接続箱の断面構成を示す図である。
【図2】図1に示した接続箱における劣化絶縁油の流動接触を概念的に示した図である。
【図3】OFケーブルの接続箱における油の流れを示す図である。
【図4】実験装置の全体構成を示す図である。
【図5】接続部における絶縁体各部のtanδ劣化プロフィールを説明する図である。
【図6】tanδ分布の求め方を説明する図である。
【図7】tanδ分布を求める際の定数例を示す図である。
【図8】接続絶縁体各部の運転電界でのtanδ分布を示す図である。
【図9】誘電発熱シミュレーション結果を示す図である。
【図10】tanδ=約50%のOFケーブル用アルキルベンゼン油(JISC2320の2種1号油)を含浸した油浸紙tanδの電界特性例を示す図である。
【図11】流動回数と、ボックス油(接続箱油)と導体油のtanδ変化を示す図である。
【図12】絶縁油tanδと油浸紙tanδの平衡関係の測定結果例を示す図である。
【図13】浸透厚(mm)と規格化したtanδの変化を示す図である。
【図14】油と紙の単純複合モデルによる絶縁油tanδと油浸紙tanδの関係を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1 OFケーブル
1a ケーブル導体
1b ケーブル絶縁紙
1c 防食層
1d スリーブ
2a 補強絶縁紙
2b ジョイントボックス
2c 鉛工部
2d 防食層
4 導体油
5 エポキシ絶縁層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
経年OFケーブル線路から採取した劣化絶縁油の誘電正接(tanδ)からOFケーブル線路のtanδ分布を推定する方法であって、
(イ)油浸紙と絶縁油が流動接触することにより、絶縁油と油浸紙の接触部位のtanδが平衡状態となった経年OFケーブル線路から絶縁油を採取し、tanδを測定するステップと、
(ロ)上記測定した絶縁油のtanδと、予め求めた絶縁油tanδと油浸紙平衡tanδとの関係から、上記油浸紙と絶縁油が流動接触する所定部位の基準電界におけるtanδを求めるステップと、
(ハ)上記劣化絶縁油と流動接触する所定部位の基準電界におけるtanδを起点として、油浸紙の積層方向と、該積層方向に直交する油浸紙の沿間方向への劣化絶縁油の浸透厚さtに応じたtanδ(t)を求めるステップと、
(ニ)OFケーブル線路の絶縁体各部の電界分布と、上記所定の部位における基準電界におけるtanδおよび上記基準電界における各浸透厚さのtanδとに基づき、OFケーブル線路の絶縁体各部のtanδ分布を求めるステップ
からなることを特徴とするOFケーブル線路のtanδ分布の推定方法。
【請求項2】
上記(ロ)のステップの絶縁油tanδと油浸紙平衡tanδとの関係は、以下に示す劣化絶縁油tanδと油浸紙基準電界tanδの平衡関係式において、tanδo を[tanδo→K×tanδo] (kはtanδ抑制係数でありK=0.1〜0.5)で置き換えて求めたものである。
tanδ=(θf εf k tanδf +θo εo k tanδo )/εk
(ε,tanδは油浸紙の値を示し、添え字fは紙、oは油、θ体積分率を表し、εk =θf εf k +θo εo k 、k=−0.5)
ことを特徴とする請求項1に記載のOFケーブル線路のtanδ分布の推定方法。
【請求項3】
上記(ハ)のステップの、油浸紙の積層方向と、該積層方向に直交する油浸紙の沿間方向への劣化絶縁油の浸透厚さに応じたtanδ(t)を、以下の式で求める
(tanδ(t)−tanδs )/(tanδ(t=0)−tanδs )=exp(αt)
(tanδ(t=0)は、劣化絶縁油流動接触部位の起点tanδ、tanδS →劣化絶縁油未浸透部のtanδ、αは浸透度係数であり、浸透度係数αはラジアル方向浸透度係数αr =0.7〜3.0(mm-1)、沿層方向浸透度係数αl =0.02〜0.10(mm-1)
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のOFケーブル線路のtanδ分布の推定方法。
【請求項4】
上記(ニ)のステップの、上記所定の部位の基準電界E0 におけるtanδおよび上記基準電界E0 における各浸透厚さのtanδとに基づき、以下の式により電界EにおけるOFケーブル線路の絶縁体各部のtanδ分布を求める
tanδ(E)=(E0 /E)×tanδ(E0 )
(tanδ(E)は求めた絶縁体各部のtanδ、tanδ(E0 )は基準電界でのtanδ)、
ことを特徴とする請求項1,2または請求項3に記載のOFケーブル線路のtanδ分布の推定方法。
【請求項5】
OFケーブル線路の接続部、ケーブル部、終端部について、請求項1,2,3または請求項4に記載の方法で、tanδ分布の推定する
ことを特徴とするOFケーブル線路のtanδ分布の推定方法。
【請求項6】
請求項1,2,3,4または請求項5で推定したOFケーブル線路絶縁体各部位のtanδ値と、電界から誘電発熱と熱放散特性に基づき、OFケーブル線路の誘電発熱特性を推定する
ことを特徴とするOFケーブル線路の誘電発熱特性の推定方法。
【請求項1】
経年OFケーブル線路から採取した劣化絶縁油の誘電正接(tanδ)からOFケーブル線路のtanδ分布を推定する方法であって、
(イ)油浸紙と絶縁油が流動接触することにより、絶縁油と油浸紙の接触部位のtanδが平衡状態となった経年OFケーブル線路から絶縁油を採取し、tanδを測定するステップと、
(ロ)上記測定した絶縁油のtanδと、予め求めた絶縁油tanδと油浸紙平衡tanδとの関係から、上記油浸紙と絶縁油が流動接触する所定部位の基準電界におけるtanδを求めるステップと、
(ハ)上記劣化絶縁油と流動接触する所定部位の基準電界におけるtanδを起点として、油浸紙の積層方向と、該積層方向に直交する油浸紙の沿間方向への劣化絶縁油の浸透厚さtに応じたtanδ(t)を求めるステップと、
(ニ)OFケーブル線路の絶縁体各部の電界分布と、上記所定の部位における基準電界におけるtanδおよび上記基準電界における各浸透厚さのtanδとに基づき、OFケーブル線路の絶縁体各部のtanδ分布を求めるステップ
からなることを特徴とするOFケーブル線路のtanδ分布の推定方法。
【請求項2】
上記(ロ)のステップの絶縁油tanδと油浸紙平衡tanδとの関係は、以下に示す劣化絶縁油tanδと油浸紙基準電界tanδの平衡関係式において、tanδo を[tanδo→K×tanδo] (kはtanδ抑制係数でありK=0.1〜0.5)で置き換えて求めたものである。
tanδ=(θf εf k tanδf +θo εo k tanδo )/εk
(ε,tanδは油浸紙の値を示し、添え字fは紙、oは油、θ体積分率を表し、εk =θf εf k +θo εo k 、k=−0.5)
ことを特徴とする請求項1に記載のOFケーブル線路のtanδ分布の推定方法。
【請求項3】
上記(ハ)のステップの、油浸紙の積層方向と、該積層方向に直交する油浸紙の沿間方向への劣化絶縁油の浸透厚さに応じたtanδ(t)を、以下の式で求める
(tanδ(t)−tanδs )/(tanδ(t=0)−tanδs )=exp(αt)
(tanδ(t=0)は、劣化絶縁油流動接触部位の起点tanδ、tanδS →劣化絶縁油未浸透部のtanδ、αは浸透度係数であり、浸透度係数αはラジアル方向浸透度係数αr =0.7〜3.0(mm-1)、沿層方向浸透度係数αl =0.02〜0.10(mm-1)
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のOFケーブル線路のtanδ分布の推定方法。
【請求項4】
上記(ニ)のステップの、上記所定の部位の基準電界E0 におけるtanδおよび上記基準電界E0 における各浸透厚さのtanδとに基づき、以下の式により電界EにおけるOFケーブル線路の絶縁体各部のtanδ分布を求める
tanδ(E)=(E0 /E)×tanδ(E0 )
(tanδ(E)は求めた絶縁体各部のtanδ、tanδ(E0 )は基準電界でのtanδ)、
ことを特徴とする請求項1,2または請求項3に記載のOFケーブル線路のtanδ分布の推定方法。
【請求項5】
OFケーブル線路の接続部、ケーブル部、終端部について、請求項1,2,3または請求項4に記載の方法で、tanδ分布の推定する
ことを特徴とするOFケーブル線路のtanδ分布の推定方法。
【請求項6】
請求項1,2,3,4または請求項5で推定したOFケーブル線路絶縁体各部位のtanδ値と、電界から誘電発熱と熱放散特性に基づき、OFケーブル線路の誘電発熱特性を推定する
ことを特徴とするOFケーブル線路の誘電発熱特性の推定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−65747(P2009−65747A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−229827(P2007−229827)
【出願日】平成19年9月5日(2007.9.5)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(502308387)株式会社ビスキャス (205)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月5日(2007.9.5)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(502308387)株式会社ビスキャス (205)
【Fターム(参考)】
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