説明

OLED用ドナー・シートの取り付け

可撓性のあるドナー・シートを、有機材料をそのシートに転写する前、または転写した後に容易に取り付ける方法であって、該シート内にそのシートの対向する縁部に隣接する位置に複数の開口部を間隔を置いて形成し、該シートを受け入れるための、複数のタブを有する堅固なフレームを用意する工程を含み、該複数のタブの各々は、該シートの1つの開口部に対応すると共に、該シートの該開口部に隣接する縁部が対応するタブの下方に位置するように配置されることを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、OLEDデバイスを製造する際に用いるフレームに可撓性のあるドナー・シート取り付ける方法に関する。
【背景技術】
【0002】
色の着いた画素(例えば赤色画素、緑色画素、青色画素で、一般にRGB画素と呼ばれる)のアレイを有するカラーまたはフル-カラーの有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイでは、色を出すEL媒体を正確にパターニングしてRGB画素を作る必要がある。基本的なELデバイスは、アノードと、カソードと、アノードとカソードに挟まれた有機EL媒体とを共通に備えている。有機EL媒体は、有機薄膜からなる1つ以上の層を含むことができ、そのうちの1つの層が、または1つの層内の領域が、光の発生、すなわちエレクトロルミネッセンスにとって主要な役割を果たしている。この特定の層は、一般に、有機EL媒体の発光層と呼ばれる。有機EL媒体に存在する他の有機層は、一般に電子の輸送を容易にすることから、(正孔伝導のための)正孔輸送層または(電子伝導のための)電子輸送層と呼ばれる。フル-カラー有機ELディスプレイ・パネルにRGB画素を形成するには、有機EL媒体の発光層に、または有機EL媒体全体に、正確にパターニングする方法を考え出す必要がある。
【0003】
一般にEL画素は、例えばアメリカ合衆国特許第5,742,129号に示してあるように、シャドウ・マスキング法によってディスプレイに形成される。この方法は有効であるが、欠点がいくつかある。シャドウ・マスキングを利用して画素のサイズを正確にすることは難しいた。さらに、基板とシャドウ・マスクを揃えるという問題があるため、画素が適切な位置に形成されるように注意せねばならない。基板のサイズを大きくすることが望ましい場合には、シャドウ・マスクを操作して適切な位置に画素を形成することは難しい。シャドウ・マスク法のさらに別の欠点は、マスクの穴が時間経過とともに詰まる可能性がある。マスクに目詰まりした穴があると、ELディスプレイ上に機能しない画素ができるという望ましくない結果になる。
【0004】
シャドウ・マスク法にはさらに別の問題がある。それは、一辺が数インチよりも大きなサイズのELデバイスを製造するときに特に明らかになる。正確なELデバイスの製造に要求される精度(穴の位置が±5μm)でより大きなシャドウ・マスクを製造することは極めて難しい。
【0005】
有機ELディスプレイを高精度でパターニングする方法が、Grandeらのアメリカ合衆国特許第5,851,709号に開示されている。この方法は、以下の一連のステップからなる。すなわち、1)対向する第1の面と第2の面を有するドナー基板を用意するステップと;2)ドナー基板の第1の面上に透光性かつ断熱性の層を形成するステップと;3)この断熱層の上に光吸収層を形成するステップと;4)第2の面から断熱層へと延びる開口部のアレイをドナー基板に設けるステップと;5)光吸収層の上に転写可能な色形成有機ドナー層を設けるステップと;6)基板の開口部とデバイス上の対応するカラー画素が方向上関係しているようにしてドナー基板をディスプレイ基板と正確に揃えるステップと;7)照射源を用いて開口部の上にある光吸収層に十分な熱を発生させ、ドナー基板上の有機層をディスプレイ基板に転写するステップからなる。Grandeらの方法における1つの問題は、ドナー基板に開口部アレイをパターニングせねばならないことである。これは、シャドウ・マスク法と同じ多くの問題を発生させる。例えばドナー基板とディスプレイ基板を機械で正確に揃える必要があるといった問題である。さらに別の問題は、ドナーのパターンが固定されていて、容易に変えられないことである。
【0006】
パターニングされていないドナー・シートと精密光源(例えばレーザー)を利用すると、パターニングされたドナーで見られる問題点のいくつかをなくすことができる。そのような1つの方法が、Littmanらのアメリカ合衆国特許第5,688,551号と、Wolkらの一連の特許文書(アメリカ合衆国特許第6,114,088号、第6,140,009号、第6,214,520号、第6,221,553号)に開示されている。
【0007】
Tangは、譲受人に譲渡されたアメリカ合衆国特許第5,937,272号において、EL材料の蒸着によって薄膜トランジスタ(TFT)アレイの上にマルチカラー画素(例えば、赤色サブ画素、緑色サブ画素、青色サブ画素)をパターニングする方法を提示している。このようなEL材料をドナー支持材料の一方の表面にあらかじめコーティングし、蒸着によって選択したパターンで基板に転写することができる(上記のアメリカ合衆国特許第5,937,272号にある図4、図5、図6)。
【0008】
EL材料の転写は、Tangが上記の特許文書に記載しているように、真空チェンバーの中で実施することが好ましく、特にドナーと基板の間を真空に維持することが好ましい。ドナーと基板は、EL材料を転写している間は非常に近くにある状態(Tangによると、コーティングと基板の持ち上がった部分の間が250μm未満)を維持する必要もある。さらに、ドナーは基板の持ち上がった部分と接触することができ、そのことによってコーティングと基板の引っ込んだ部分の間に十分な空間が維持され、そこにEL材料が堆積される。真空チェンバーの中でドナーと基板を接触させつつ、ドナーと基板の間を真空に維持する方法が必要とされる。
【0009】
Isbergらは、譲受人に譲渡されたヨーロッパ特許出願第1,028,001 A1号に、ドナー層と基板の間に付着促進層を追加して用いることを開示している。このようにするとTangが要求する密な接触は促進されるであろうが、この付着促進層は接着剤の形態で不純物を導入する可能性があるため望ましくなかろう。物理的圧力(例えば手でプレートを押しつけることによって加えられる圧力)を利用できるが、必要とされるマイクロメートルのオーダーの許容度で面全体に均等な圧力を維持することは難しい。空気または他の流体からの圧力のほうがうまく作用するであろうが、真空チェンバー内の状態が乱されないままになっている必要があるため、このような圧力を利用することは難しい。また、密な接触の維持に流体の圧力を利用するにあたって、ドナー・シートには可撓性がないため、基板の表面に合わせて密に接触させることができない可能性があり、それに対して可撓性のあるドナー・シートは、取り扱いや取り付けが難しい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって本発明の1つの目的は、有機材料をOLEDデバイスに転写する前に可撓性のあるドナー・シートを堅固なフレームに取り付ける簡単な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、可撓性のあるドナー・シートを、有機材料をそのシートに転写する前、または転写した後に容易に取り付ける方法であって、
a)該シート内にそのシートの対向する縁部に隣接する位置に複数の開口部を間隔を置いて形成し;そして
b)該シートを受け入れるための、複数のタブを有する堅固なフレームを用意する工程を含み、該複数のタブの各々は、該シートの1つの開口部に対応すると共に、該シートの該開口部に隣接する縁部が対応するタブの下方に位置するように配置されることを特徴とする方法によって達成される。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、可撓性のあるドナー・シートに開口部を設けることで、タブの形態になった対応する突起を有する堅固なフレームにそのドナー・シートを簡単に取り付けられるようにする。このようにすることで、OLEDデバイスの製造プロセスにおいて可撓性のあるドナー・シートを強固に支持し、その後の取り扱いと取り付けができるようにするためにする簡単な方法が提供される。本発明では、処理やデバイスを汚染させる元になる可能性のある追加の部品や材料が処理環境に導入されることが制限される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
ここで図1を参照すると、ドナー・シート3が示してあることがわかる。ドナー・シート3は、その表面にあらかじめ有機材料が形成されているか、その表面に有機材料を受け入れうることが理解されよう。ドナー・シート3はOLEDの製造工程において取り付けられるため、その後の処理(例えば電極や保護層の形成)が可能になる。有機材料を堆積させる前にドナー・シート3を形成する場合には、有機材料をドナー・シート3の上に形成した後に製造工程を実施せねばならないことが理解されよう。これは、一般にレーザー・ビームからの熱を吸収することによって有機材料をOLEDデバイスに転写することで実現できる。ドナー・シート3は、熱を発生させることを目的として、有機材料を受け入れる前に光吸収層を受け入れることができる。ドナー・シート3は、一般に可撓性のある薄いポリマー材料(例えばKapton(登録商標)、Estar(登録商標))でできている。有機材料を転写している間を通じてドナー・シート3がOLEDデバイスの表面により容易に合うようにするには可撓性が重要である。可撓性によってドナー材料をウェブの形態にできるため、保管(ロールとして保管する)と上流での取り扱いおよび処理がより容易になる。ドナー・シート3を用いて有機材料を熱転写する場合には、レーザー・ビームをシートに当てると熱を吸収する層がレーザーのエネルギーを熱に変換し、そのことによってOLED材料の転写が起こる。
【0014】
ドナー・シート3は、そのシートの対向する縁部に沿って複数の開口部4を互いに離して配置した状態が示してある。堅固なフレーム1にタブ2の形態になった複数の突起が備わっている状態も示してある。堅固なフレーム1は、ステンレス鋼または適切な他の堅固な材料(他の金属やプラスチック)で作ることができ、加工または成形によって製造することが可能である。開口部4はパンチングその他の方法で形成することができ、対応するタブ2と揃った位置にする。ドナー・シート3は、そのドナー・シート3を堅固なフレーム1に十分に固定できるよう、開口部4をタブ2と噛み合わせることによって堅固なフレーム1に取り付ける。より詳細には、ドナー・シート3の1つの縁部に沿った開口部4を、堅固なフレーム1の1つの縁部に沿った対応するタブ2と揃える。ドナー・シート3で開口部4に隣接する縁部を対応するタブ2の下に位置させ、ドナー・シート3のその縁部を堅固なフレーム1に固定する。次にドナー・シート3に関して堅固なフレーム1の反対側の縁部に移ると、ドナー・シート3の反対側の縁部を同様にして堅固なフレーム1に固定できる。このようにして、ドナー・シート3が堅固なフレーム1に完全に固定される。開口部4とタブ2は、図示したように形成すること、または容易な組み立てと信頼性のある保持に適したさまざまな形状およびサイズにすることができる。ドナー・シート3の対向する縁部には、堅固なフレーム1のタブ2に対応する互いに離れた少なくとも2つの開口部4が存在していることが好ましい。
【0015】
図2は、開口部4とタブ2によって堅固なフレーム1に取り付けられたドナー・シート3を示している。図3は図2の詳細図であり、開口部4がいかにしてタブ2と噛み合い、ドナー・シート3が信頼性よく堅固なフレーム1に固定されているかを示している。
【0016】
図4には、タブ6を備える堅固なワイヤ・フレーム5が示してある。このワイヤ・フレームも、ドナー・シート3の堅固な支持体として用いることができる。ワイヤ・フレーム5は、ストックされている細いステンレス鋼製ロッド(または適切な他のストック材料)から作ることができる。ワイヤの直径は適切な値になっている(例えば直径が0.060インチ)。このストック材料をある長さに切断し、ドナー・シート3で使用するサイズの閉じた長方形の形状にする。ワイヤ・フレーム5の接合される端部は、適切な方法(溶接、ハンダ付け、接着剤など)で接合することができる。タブ6は、第1の実施態様(図1〜図3)に示したタブ2と実質的に同じ形状にすることができる。ワイヤ・フレーム5へのドナー・シート3の取り付けは、第1の実施態様に関して上に説明したのと同じ方法で行なう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】対向する縁部に沿って互いに離して設けられた開口部を備える可撓性のあるドナー・シートと、対応するタブを有する堅固なフレームが組み立てられる前の状態の斜視図である。
【図2】互いに離して設けられた開口部が堅固なフレームのタブと噛み合った状態の斜視図である。
【図3】互いに離して設けられた開口部が堅固なフレームのタブと噛み合った状態をより詳細に示す斜視図である。
【図4】本発明による別の一実施態様の斜視図であり、図1〜図3に示した実施態様と似ているが、フレームが、タブを用いて形成された堅固なワイヤ・フレームである点が異なっている。
【符号の説明】
【0018】
1 堅固なフレーム
2 タブ
3 ドナー・シート
4 開口部
5 ワイヤ・フレーム
6 タブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性のあるドナー・シートを、有機材料をそのシートに転写する前、または転写した後に容易に取り付ける方法であって、
a)該シート内にそのシートの対向する縁部に隣接する位置に複数の開口部を間隔を置いて形成し;そして
b)該シートを受け入れるための、複数のタブを有する堅固なフレームを用意する工程を含み、該複数のタブの各々は、該シートの1つの開口部に対応すると共に、該シートの該開口部に隣接する縁部が対応するタブの下方に位置するように配置されることを特徴とする方法。
【請求項2】
該シートの対向する縁部に、該堅固なフレームのタブに対応する2以上の開口部が間隔を置いて配置されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
可撓性のあるドナー・シートを、有機材料をそのシートに転写する前、または転写した後に容易に取り付ける方法であって、
a)該シート内にそのシートの対向する縁部に隣接する位置に複数の開口部を間隔を置いて形成し;そして
b)該シートを受け入れるための、複数のタブを有する堅固なワイヤ・フレームを用意する工程を含み、該複数のタブの各々は、該シートの1つの開口部に対応すると共に、該シートの該開口部に隣接する縁部が対応するタブの下方に位置するように配置されることを特徴とする方法。
【請求項4】
該シートの対向する縁部に、該堅固なワイヤ・フレームのタブに対応する2以上の開口部が間隔を置いて配置されている、請求項3に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−526612(P2007−526612A)
【公表日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−501808(P2007−501808)
【出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【国際出願番号】PCT/US2005/004928
【国際公開番号】WO2005/093873
【国際公開日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(590000846)イーストマン コダック カンパニー (1,594)
【Fターム(参考)】