説明

OPCドラムの製造方法

【課題】 電解複合研磨後のアルミニウム合金円筒管1の表面に付着した異物を除去し、感光膜を塗工したときに塗工欠陥が発生するのを防止し、OPCドラム製品の歩留まりを向上させる。
【解決手段】 円筒管1の抜き出し経路の近傍に払拭体15を配置し、電解複合研磨後に円筒管1を装置から抜き出す際、柔軟で吸水性のある払拭体15を円筒管1の表面に接触させ、円筒体1の軸方向全長にわたって異物を払拭する。払拭体15は一対の分割体16,17からなり、各分割体16,17は集合及び分離可能で、集合したとき円弧状のくぼみ面16a,17aが合わさって円形の払拭穴を構成する。円筒体1の外周面は払拭穴の内周面に接触した状態で、該払拭穴を通過する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定寸法に押し出し及び抽伸したアルミニウム合金円筒管の外周面をセンタレス研磨した後、電解複合研磨し、続いて洗浄及び乾燥を行うOPC(Organic photo conductor)ドラムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記非特許文献1には、アルミニウム合金円筒管をセンタレス研磨した後、電解複合研磨することにより、表面特性に優れたOPCドラムを製造できることが記載されている。
センタレス研磨(心なし研磨)では、ブレード上にアルミニウム合金円筒管を配置し、該円筒管の両側を研削砥石(ロール)と調整砥石(ロール)で挟みつつ、研削砥石と調整砥石を互いに反対方向に、かつ研削砥石のロール表面における回転速度が調整砥石のそれより大きくなるように回転させる。アルミニウム合金円筒管は研削砥石と同じ速度で回転しようとするが、低速回転の調整砥石とブレードにより制動されて、結局調整砥石の回転速度に略等しい速度で回転し、研削砥石と円筒管の接触面における速度差により、該研削砥石により円筒管表面が研磨される。
【0003】
電解複合研磨では、アルミニウム合金円筒管の両端をホルダーで支持して回転させ、円筒管の周囲に砥石を配置して該円筒管の表面に所定の圧力で押し付け、一方、円筒管の周囲の砥石の近傍に陰極電極を配置し、円筒管を陽極とし、円筒管の周囲に電解液を流して通電する。これにより、アルミニウム合金円筒管の外周面は、電気的溶解作用と研磨材による擦過作用が複合して研磨仕上げされる。
なお、アルミニウム合金のセンタレス研磨及び電解複合研磨自体は周知の技術であり、これをOPCドラム等のアルミニウム合金円筒管の外周面の研磨に適用したものも、前記非特許文献1のほか、特許文献1〜5に記載されている。
【0004】
【非特許文献1】神戸製鋼技報/vol.54,No.1,p.25−28「新高機能OPCドラムの開発と当社の加工技術」
【特許文献1】特開2001−125293号公報
【特許文献2】特開2000−122310号公報
【特許文献3】特開2000−117544号公報
【特許文献4】特開平11−347843号公報
【特許文献5】特許第2818630号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電解複合研磨後の円筒管は、続いて洗浄及び乾燥され、その表面に感光膜が塗工されるが、このとき、感光膜に塗工欠陥(感光膜の盛り上がり)が生じることがある。この塗工欠陥の原因は、本願発明者らの研究により、円筒管の表面に付着した異物(カーボン粒子、フィルターのけば、ゴミ、研磨くず、水酸化アルミニウム片等が考えられる)であることが分かったが、超音波洗浄や洗浄剤等を組み合わせるなど、様々な洗浄方法を試しても、この塗工欠陥を低減する上で十分な効果をあげることができなかった。
この塗工欠陥が発生すると、その分、製品の歩留りが低下し、これはコストアップ要因となる。そこで、本発明は、円筒管の表面に付着した異物を除去し、感光膜を塗工したときに塗工欠陥が発生するのを抑えて、OPCドラム製品の歩留まりを向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、所定寸法に押し出し及び抽伸したアルミニウム合金円筒管の外周面をセンタレス研磨した後、電解複合研磨し、続いて洗浄及び乾燥を行うOPCドラムの製造方法において、電解複合研磨と洗浄工程の間又は洗浄工程の途中で、前記円筒管の外周面に吸水した柔軟な払拭体を接触させ、その接触状態で前記払拭体を前記円筒管に対し相対的に移動させ、前記円筒管の外周面に付着した異物を払拭することを特徴とする。
上記発明において、柔軟な払拭体とは、この払拭体が柔らかく円筒管の外周面に接触させたとき該外周面を傷つけない材質からなることを意味する。この払拭体は吸水性を有し、払拭時には吸水させる。一方、円筒管についても、電解複合研磨後、外周面を乾燥させることなく払拭しなくてはならない。
【0007】
上記発明において、前記払拭体を前記円筒管に対して相対的に移動させるとは、払拭体を固定して円筒管を移動させること、円筒管を固定して払拭体を移動させること、及び両者を同時に移動させることを含む。前記払拭体を前記円筒管に対し相対的に移動させる際、前記円筒管の軸方向に沿って一方向に移動させることが望ましい。その場合、前記払拭体が前記円筒管が通る払拭穴を有し、前記払拭穴の内周面を前記円筒管の外周面の全周に接触させることが望ましい。これにより円筒管の外周面全体を一拭きで払拭することができる。
【0008】
また、本発明は、所定寸法に押し出し及び抽伸したアルミニウム合金円筒管の外周面をセンタレス研磨した後、電解複合研磨し、電解複合研磨後に前記円筒管を電解複合研磨装置から軸方向に抜き出し、続いて洗浄及び乾燥を行うOPCドラムの製造方法において、前記円筒管の抜き出し経路の近傍に、前記円筒管が通る払拭穴を有する吸水した柔軟な払拭体が配置され、前記払拭体は複数個の分割体からなり、各分割体は集合及び分離可能で集合したとき前記払拭穴の内周面を構成する円弧状のくぼみ面を有し、前記円筒管を抜き出すとき前記分割体を集合させ、前記払拭穴の内周面を前記円筒管の外周面の全周に接触させ、その接触状態で前記円筒管を軸方向に抜き出し、前記円筒管の外周面に付着した異物を払拭することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、OPCドラムの表面に感光膜を塗工したときの塗工欠陥の発生を抑えて歩留まりを向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図1〜図3を参照して、本発明に係るOPCドラムの製造方法について説明する。図1,2は電解複合研磨装置の一例を示すもので、1は被研磨材であるアルミニウム合金円筒管であり、その前後端部はコレット2,3より内周側を支持され、陽極に帯電されて軸線周りに高速回転する。
円筒管1の周囲には、円周方向に沿って三方向から中心に向けて砥石4が放射状に配置されている。砥石4はそれぞれ砥石ホルダー5に着脱可能に取り付けられ、砥石ホルダー5はハウジング6に設けられたアクチュエータ7に連結されている。砥石ホルダー5の両側には、ハウジング6に固定された保持枠9が配置され、ガラス板等からなる滑部材8がその内側に設置されている。砥石ホルダー5は滑部材8に沿って進退可能とされ、砥石4はアクチュエータ7により円筒管1の外周面に一定の圧力で押し付けられる。なお、砥石4の前後方向(円筒管1の軸方向)長さは、円筒管1の長さより大きく設定されている。また、ハウジング6は図示しない往復動機構により前後方向(円筒管1の軸方向)に往復動可能とされている。
【0011】
保持枠9の内側には、砥石4が進退し得る開口部を有する円筒枠11が円筒管1と同心状に所要の隙間をあけて配設されている。この円筒枠11と円筒管1との隙間に電解液通路Aが形成され、図1に示すように、電解液通路Aの前端はハウジング6の電解液供給口12に連通し、後端は電解液排出口13に連通している。さらに、図2に示すように、円筒枠11の内部の電解液通路A内には、各砥石4に隣接して電極14がそれぞれ取り付けられている。
【0012】
ハウジング6の前方側近傍に、払拭体15が配置されている。払拭体15は円筒管1の軸の左右(図2において)に対向配置された2つの分割体16,17からなる。分割体16,17はそれぞれブラケット18に固定され、図示しない移動手段により、円筒管1の軸に垂直な面内で互いに内向きに並進移動(集合)し、又は互いに外向きに並進移動(分離)することができる。分割体16,17は、プラスチック(例えばポリビニルアルコール)の連続気泡発泡体のように柔軟で吸水性のある素材からなり、図3に示すように、それぞれの分割面の中央に略円弧(半円)状のくぼみ面16a,17aを有し、このくぼみ面16a,17aは、分割体16,17が集合したとき、円筒管1が通る払拭穴19の円筒状の内周面を構成する。また、くぼみ面16a,17aの両側の分割面16b,16c,17b,17cは、払拭穴19の軸に対して傾斜し、その傾斜は上部と下部で逆向きとされ、かつ対向する分割面16bと17b、16cと17cは互いに平行とされ、分割体16,17が集合したとき、これらが互いに当接して払拭穴19を閉じるようになっている。
分割体16,17が集合して払拭穴19が構成されたとき、該払拭穴19の中心が円筒管1の軸に一致するように、各分割体16,17の集合位置が設定されている。
【0013】
次に上記電解複合研磨装置の作動について説明する。
(1)電解複合研磨装置の外部(図1でいえばハウジング6の左側)で、コレット2,3により円筒管1を内周側から保持し、円筒管1の軸に沿ってコレット2,3及び該円筒管1を電解複合研磨装置内の所定位置に移動する。
(2)コレット2,3を回転させて円筒管1を軸回りに高速回転させ、電解液供給口12から電解液(硝酸ナトリウム水溶液)を電解液通路A内に圧送する。電解液は、電解液通路Aを通過し、電解液排出口13から排出される。なお、電解液排出口13を出た電解液は沈殿槽及びフィルターを通され、研磨スラッジ等を沈殿分離、濾過された後、再び電解液注入口12から供給される。
【0014】
(3)アクチュエータ7により砥石ホルダー5を円筒管1に向けて前進させ、砥石4を円筒管1の外周面に一定の圧力で押し付ける。同時に図示しない往復動機構によりハウジング6を往復動させる。また、電極14及び回転軸21(及びコレット2)に通電し、円筒管1を陽極とし、電極14を陰極とする。これにより円筒管1の外周面が電解複合研磨される。図1及び図2はこのときの状態を示す。
(4)所定時間経過後、アクチュエータ7により砥石ホルダー5を後退させ、砥石4を円筒管1の外周面から離し、通電を止め、ハウジング6の往復動を止める。続いて、円筒管1の回転を止め、電解液の圧送を止める。これにより電解研磨工程が終わる。
【0015】
(5)コレット2,3とともに円筒管1を、電解複合研磨装置からその抜き出し経路に沿って(円筒管1の軸に沿って)、図1でいえば左方向に抜き出す。このとき、分割体16,17が図示しない移動手段により内側に集合し、円弧状のくぼみ面16a,17aが払拭穴19の内周面を構成する。円筒管1は抜き出されるとき払拭穴19内を通り、その外周面の全周が払拭穴19の内周面の全周に接触する。円筒管1はその接触状態を保って払拭穴19を通過し、円筒管1の外周面に付着した異物が払拭される。
(6)払拭後、円筒管1をコレット2,3から外し、洗浄工程及び乾燥工程に移る。その後、感光膜が塗工される。
【0016】
なお、上記の例では、電解複合研磨工程が終わって、電解複合研磨装置から円筒管を抜き出す際に払拭を行ったが、抜き出した後、別の場所で改めて払拭することもできる。また、洗浄工程の途中で払拭することもできる。しかし、払拭までに円筒管1の外周面を一度でも乾燥させると、異物が強く付着して払拭できなくなるので、電解複合研磨後乾燥させないようにする。払拭体については吸水させておく必要がある。
【実施例】
【0017】
押し出し及び抽伸後の長さ357.5mmのアルミニウム合金円筒管の外周面を、センタレス研磨で約100μm研磨後、図1,2に示すタイプの電解複合研磨装置により、約40μm電解複合研磨し、外径30mm、厚さ0.75mm、表面粗さRmax<0.8μmのOPCドラムを製造した。電解液は硝酸ナトリウムの5.2%水溶液、印加電圧5V、円筒管の回転速度1300rpmとした。
電解複合研磨後は、払拭を行い又は行わず、洗剤を用いて超音波洗浄を行い、水洗後、乾燥させた。払拭を行う場合は、電解複合研磨装置の円筒管抜き出し側にポリビニルアルコールスポンジからなる払拭体を配置し(図1,2参照)、円筒管の抜き出し時に外周面を払拭した。
製造したOPCドラムについて、払拭を行ったものと行わないものの塗工不良率をそれぞれ下記要領で求めた。
【0018】
塗工不良率;溶剤洗浄及び乾燥後直ちに、塗工液(銅フタロシアニン:2.5%、ポリビニルブチラール樹脂:2.5%、メチルエチルケトン(2−ブタノン):57.0%、シクロヘキサノン:38.0%)を塗工し、乾燥後、焼き付ける。異物が付着した箇所には青ブツ(濃い青のブツブツ)ができるので、青ブツができたものは塗工不良(感光膜を塗工した場合はミクロ的な塗工欠陥となる)と判定し、払拭を行ったものと行わないもの、各100本についてそれぞれの塗工不良率を求めた。
払拭を行わなかったOPCドラムの塗工不良率は7%であり、払拭を行ったOPCドラムについては塗工不良は全く発生しなかった(0%)。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る電解複合研磨装置の断面図である。
【図2】そのI−I断面図である。
【図3】払拭体の斜視図で、(a)は離間状態、(b)は集合状態を示す。
【符号の説明】
【0020】
1 円筒管
2,3 コレット
4 砥石
5 砥石ホルダー
7 アクチュエータ
11 円筒枠
12 電解液供給口
13 電解液排出口
14 電極
15 払拭体
16,17 分割体
A 電解液通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定寸法に押し出し及び抽伸したアルミニウム合金円筒管の外周面をセンタレス研磨した後、電解複合研磨し、続いて洗浄及び乾燥を行うOPCドラムの製造方法において、電解複合研磨と洗浄工程の間又は洗浄工程の途中で、前記円筒管の外周面に吸水性した柔軟な払拭体を接触させ、その接触状態で前記払拭体を前記円筒管に対し相対的に移動させ、前記円筒管の外周面に付着した異物を払拭することを特徴とするOPCドラムの製造方法。
【請求項2】
前記払拭体を前記円筒管に対し相対的に移動させる際、前記円筒管の軸方向に沿って一方向に移動させることを特徴とする請求項1に記載されたOPCドラムの製造方法。
【請求項3】
前記払拭体が前記円筒管が通る払拭穴を有し、前記払拭穴の内周面を前記円筒管の外周面の全周に接触させることを特徴とする請求項2に記載されたOPCドラムの製造方法。
【請求項4】
所定寸法に押し出し及び抽伸したアルミニウム合金円筒管の外周面をセンタレス研磨した後、電解複合研磨し、電解複合研磨後に前記円筒管を電解複合研磨装置から軸方向に抜き出し、続いて洗浄及び乾燥を行うOPCドラムの製造方法において、前記円筒管の抜き出し経路の近傍に、前記円筒管が通る払拭穴を有する吸水した柔軟な払拭体が配置され、前記払拭体は複数個の分割体からなり、各分割体は集合及び分離可能で集合したとき前記払拭穴の内周面を構成する略円弧状のくぼみ面を有し、前記円筒管を抜き出すとき前記分割体を集合させ、前記払拭穴の内周面を前記円筒管の外周面の全周に接触させ、その接触状態で前記円筒管を軸方向に抜き出し、前記円筒管の外周面に付着した異物を払拭することを特徴とするOPCドラムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−71845(P2006−71845A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−253404(P2004−253404)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(595016152)日新運輸工業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】