説明

PARP阻害剤を使用した遺伝的形質転換

【課題】PARP阻害剤を使用した遺伝的形質転換
【解決手段】本発明は、非形質転換細胞の培養物を、ストレスに対する応答を低減させるのに充分であって、尚且つ該培養細胞の代謝を低減させるのに充分な期間だけ、ポリ−(ADP−リボ−ス)ポリメラ−ゼの阻害剤に接触させる工程を具備する、トランスジェニックな真核細胞、特に植物を産生させる方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真核細胞の組織培養に関し、また、外来DNAと接触させる前に培養している真核細胞のストレス反応を低減させることにより、特にポリ−(ADP−リボース)ポリメラーゼを特異的に阻害することにより、トランスジェニック植物細胞やトランスジェニック植物のような、遺伝的に形質転換された真核細胞や生物体を得るための改良された技術に関する。
【背景技術】
【0002】
高等生物体(動物及び植物)の遺伝的形質転換に関する多くの技術が、過去に開発されている。これらの技術では、興味ある遺伝子(いわゆる導入遺伝子)を具備した外来DNAが、全ての細胞においてそのゲノム、特に核ゲノムに安定に組み込まれている、トランスジェニックな生物体(例えば植物)を得るのが最終的な目標である。
【0003】
形質転換は、常に開始時の細胞をDNA、通常は興味ある外来遺伝子を具備するDNAに接触させることが必要な、複雑なプロセスである。細胞のDNAへの接触は、細胞によるDNAの取り込みと、興味ある遺伝子を含む該DNAの、細胞ゲノムへの組み込みが促進されるような条件下で行なわれる。
【0004】
形質転換用の、開始時の細胞は通常、ある期間だけ試験管内で培養される。DNAとの接触後に、形質転換した細胞は通常、形質転換された細胞と形質転換されなかった細胞とを分離するために、また植物の場合には、形質転換された細胞より形質転換された植物を再生するために、一定期間だけ試験管内で培養される。実際に、個々の形質転換細胞より、完全な植物を再生することが可能であり、よって再生された植物の全ての細胞は導入遺伝子を含むことを保証している。
【0005】
多くの植物では、アグロバクテリウムのある種の株が有する、Ti-プラスミド(すなわちT-DNA)の一部を植物細胞内へ導入して、このT-DNAが該細胞内のゲノムに組込まれる自然な能力により、遺伝的形質転換を行うことが可能である。導入されて組み込まれたこのTi-プラスミドの一部は、特異的DNA配列、いわゆる右及び左のT-DNA境界配列で表され、またこれらの境界配列の間の自然なT-DNAは、外来DNAで置換されうることが明らかになった(ヨーロッパ特許公報EP116718;Deblaere et al.,1987 Meth.Enzymol.153:277-293)。
【0006】
ある植物種はアグロバクテリウム仲介性の形質転換が行いにくいことが証明されており、これらの種では動物と同様に、遺伝的形質転換はDNAを直接細胞内へ、物理的及び/又は化学的方法(例えば電気穿孔法、ポリエチレングリコール(PEG)による細胞処理、DNAでコーティングされたミクロ発射体による細胞への砲撃等)の直接的遺伝子導入方法により成し遂げられている(WO92/09696; Potrykus et al.,1991,Annu.Rev.Plant Physiol.Plant Mol.Biol.42:205-225)。
【0007】
真核細胞の遺伝的形質転換は通常、ランダムに起き、すなわち導入遺伝子がゲノム内でランダムな位置で組み込まれることになる。形質転換用のDNAが、複数コピーで(または複数コピーの部分)、単一の場所、及び/または異なる場所で組み込まれて、導入遺伝子の複数コピーを有する形質転換細胞が得られる。
【0008】
導入遺伝子の発現はゲノム内でのその位置により影響を受けることが知られている。例えば、外来性DNAは、植物細胞へ導入されると、植物ゲノム内でランダムに組み込まれる。独立した形質転換済み植物を調べると、導入遺伝子の発現レベルに関しての高い多様性度(最高で100倍もの)が示された。幾つかの研究により、形質転換体間での多様性と、一定の遺伝子座での導入DNAのコピー数との間には、相関関係がないことが示されている。トランスジェニック植物内での導入遺伝子の発現に関する多様性の中には、近傍の植物ゲノムDNAの影響により引き起こされる「位置効果」の結果であるものがある。発現に与えるその他の因子には、植物物質の生理学的多様性、異なる形質転換体において独立したT-DNA遺伝子座の差異、またはある種のT-DNAの構造が遺伝子発現に与える阻害性の効果がある。形質転換体間での発現の多様性は、トランスジェニック植物の多くの導入遺伝子に対して見られている。独立したトランスジェニック植物における、多くの導入遺伝子の発現には多様性があるので、多数のトランスジェニック植物を使ってアッセイを行い、正確に該遺伝子の発現を定量する必要が生じる。形質転換体間の多様性の度合いが低減されうるかどうかは、非常に重要であろう(Dean et al.,1988,NAR 16:9267-9283)。
【0009】
形質転換した生物体内で組織特異的に発現するという期待のもとに、導入遺伝子を組織特異的プロモータの制御下におくならば、位置効果により、少なくともある種の形質転換体において、プロモータの特異性喪失と、望まない組織、例えば試験管内で培養されている組織での導入遺伝子の発現が起きてしまう。遺伝的形質転換方法の効率と質に影響を与えることが知られている因子には、DNAの運搬方法、特異的組織培養条件、標的細胞の生理学的及び代謝的状態等がある。例えば直接的遺伝子導入法は、一般的には高コピー数の導入遺伝子を有する形質転換生物体生じさせるものと知られている。このような多くの因子は、人間の制御下にない。
【発明の開示】
【発明の概要】
【0010】
本発明は、トランスジェニックな真核細胞、特に植物細胞を産生する方法を提供する。本方法は、培養細胞のストレスに対する応答を低減させるのに充分であって、尚且つ該培養細胞の代謝、特にミトコンドリアの電子伝達鎖における電子のながれを低減させるのに充分な期間だけ、非形質転換細胞をポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼの阻害剤に、接触させることを具備している。非形質転換細胞を次いで、少なくとも一つの興味ある遺伝子を具備したDNAと、当該外来DNAが該非形質転換細胞により取り込まれて、前記の興味ある遺伝子が安定に該非形質転換細胞の核ゲノムに安定に組み込まれる条件下で接触させて、培養物より回収できるトランスジェニック細胞を産生させる。
【0011】
本方法は好ましくは、例えば非形質転換真核細胞と、少なくとも一つの興味ある遺伝子を具備した外来DNAとの接触を、前記外来DNAが該非形質転換細胞により取り込まれて、前記の興味ある遺伝子が安定に該非形質転換細胞の核ゲノムに安定に組み込まれる条件下で行い、トランスジェニック細胞を産生させることを具備している。非形質転換細胞を前記外来DNAと接触させる前に該非形質転換細胞を、ポリ−(ADP−リボース)ポリメラーゼの阻害剤、好ましくはナイアシンアミドを含む培養液で、好ましくは少なくとも2から3日間、特には少なくとも4日間(4から5日間)試験管内で培養する。該阻害剤は更にまた、外来DNAと接触されているが、すでに接触された培養細胞にも適用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、ポリ−(ADP−リボース)ポリメラーゼ(PARPと略記)が、真核細胞の一般的代謝状態を制御するのに関わる酵素であり、またこの酵素の阻害は、形質転換の標的になる細胞(または形質転換されつつある細胞)の代謝状態に影響を与えて、形質転換の効率及び/または質を上昇させるのに使用できるという知見に基づいてなされている。
【0013】
哺乳類においてPARPは、核DNA、特に活発に転写される真性染色質の領域と深く関わる、約116kDの単量体の核内Zn−フィンガータンパク質である(Shah et al.,1995,Anal.Biochem.227:1-13)。該タンパク質は通常、不活性な酵素であるが、ニックの入った、あるいは損傷したDNAにより活性化されることが知られている。活性型のPARPは、NAD+のADP−リボース部分を、種々の核タンパク質へ転移させて、PARP自身、ポリメラーゼ、ヒストン、エンドヌクレアーゼ等を含む上記タンパク質に結合するADP−リボースのポリマーを合成する。このようなADP−リボースポリマーが表面に合成される上記のタンパク質は、生物学的に不活性になる(de Murcia et al.,1994,TIBS 19:172-176;Cleaver et al.,1991,Mutation Res.257:1-18)。
【0014】
PARPの生物学的機能はほとんど知られていないが、この酵素は以下のものに関わっている:・DNA修復の促進(Satoh et al.,1992,Nature 356:356-358;Satoh et al.,1993,J.Biol.Chem.268:5480-5487);
・組み換え:通常はPARPの阻害は、非適格な組み換えを阻害し、また染色体内の組み換えを増大することが観察されているが、見たところ染色体外の組み換えには影響しない(Farzaneh et al.,1988,NAR 16:11319-11326; Waldman and Waldman,1990,NAR 18:5981-5988; Waldman and Waldman,1991,NAR,19:5943-5947);
・遺伝子発現の制御:PARPの阻害により、遺伝子発現が減少することが観察されている(Girod et al.,1991,Plant Cell,Tissue and Organ Culture 25:1-12);
・利用できるNAD+の量を低減させる(及び、その結果としてそのATPも):この結果は通常の細胞代謝の低下をまねく(Lazebnik et al.,1994,371:346-347;Gaal et al.,1987,TIBS 12:129-130;Cleaver et al.,前出)。
【0015】
数多くの化合物により、PARPが効率的に阻害されることが知られている(Durkacz et al.,1980,Nature 283:593-596;Sims et al.,1982,Biochmistry 21:1813-1821)。このような化合物の例には、ニコチンアミド類縁体(ナイアシンアミド、ピコリンアミド、及び5−メチルニコチンアミドが含まれる)、メチルキサンチンのようなプリン類縁体、チミジン、ピラジンアミド類縁体、及び多くの芳香性アミド(例えばベンズアミド類縁体(ベンズアミド、3−メトキシベンズアミド、及び3−アミノベンズアミドが含まれる))のような、ある種のピリジン類縁体がある。本発明の目的に対しては、PARP阻害剤は通常、真核細胞、特に植物細胞により取り込まれ、1X10-5より低い、特には1X10-6阻害定数(Ki)を有する、ポリ−(ADP−リボース)ポリメラーゼの阻害剤の何れかであると理解される。一般に、本発明で使用するPARP阻害剤は、2mMの濃度の該阻害剤を含む培地で培養すると、ヒトのリンパ球内において80−90%のPARP阻害を起こす化合物であることが望ましい(Sims et al.,前出)。通常、PARP阻害剤を含む培地で培養される細胞は、DNA修復能が保持されているものであることが望ましい。
【0016】
特に好ましいPARP阻害剤は、上に挙げたもの、及び特にはナイアシンアミド(ニコチンアミド)、ピコリンアミド、5−メチルニコチンアミド、2−アミノベンズアミド、ピラジンアミド、テオブロミン、及びテオフィリンである。特にナイアシンアミドは、本発明の目的にとって有益な阻害剤であると考えられている。
【0017】
基本的に本発明は、真核細胞、特に植物細胞の遺伝的形質転換に関しての、すでにある方法において、該細胞を培養するための培地に、ナイアシンアミドのようなPARP阻害剤を加えて、決められた時間だけ培養するように改変したものを提供している。特にPARP阻害剤は、一つ以上の興味ある遺伝子を具備した外来DNAと細胞を接触させる時(接触時)よりも、少なくとも1日以上前に培地に加えられる。しかしながら、その目的に応じて、PARP阻害剤は接触時の間、及び/またはその後、あるいは接触時の後のみに加えてもよい。
【0018】
本発明の一つの側面において、培養した細胞、組織、または器官をPARP阻害剤で処理することは、形質転換した細胞及び形質転換した細胞より得た生物体の中において、導入遺伝子のコピー数と、導入遺伝子発現の多様性(質と量)によって測定したときの形質転換の質を改善することが可能である。
【0019】
真核細胞、特に植物細胞の遺伝的形質転換に関しての通常の多くの方法では、培養した細胞、組織、または器官は開始時物質として使用され、またそのような培養物中の細胞を、外来DNAが細胞内に取り込まれて最終的にその外来DNAが該細胞のゲノムに組み込まれるような条件下で、少なくとも一つの興味ある遺伝子を具備したDNAと接触させる。
【0020】
本発明の一つの態様においては、細胞を外来DNAと接触させる前に、PARP阻害剤を少なくとも2−3日間、好ましくは約3日間、培地に加えることが好ましい。培養細胞が、PARPを含む培地でインキュベーションされる正確な期間は、クリティカルであるとは考えられていないが、おそらくは4週間を越えてはならないはずである。2−14日、特には3−10日が最適な期間であり、また最良の結果は接触前、約4から5日間のインキュベーション期間で得られた。一般的に言って、接触前にPARP阻害剤を培地に加えるのは、4日間が有益な期間であると考えられている。
【0021】
培地中のPARP阻害剤の濃度はまた、PARPの阻害へ影響すると考えられていて、これは細胞の性質(種、組織の移植、一般的培養の条件等)により変化する。しかしながら、ある一定の濃度範囲内では、この効果は、特に培養細胞が14日よりも長期間インキュベーションされないときには最小限である。培地中のPARP阻害剤の最適な濃度域は、組織、細胞、または培養細胞が由来した種によって変化するが、250mg/l(約2mM)が多くの目的(例えばコムギ由来の物質での使用)にとって適切な濃度であると考えられている。しかしながら、ニコチンアミドがイネ由来の植物性物質と組み合わされて使用されるときには、ニコチンアミドの濃度は、好ましくは500mg/l(約4mM)から1000mg/l(約8mM)の間である。一方、ニコチンアミドがトウモロコシ由来の植物性物質と組み合わされて使用されるときには、ニコチンアミドの濃度は、好ましくは100mg/lであるはずである。同様に、100mg/lの濃度でも、コムギ由来の植物性物質に対しては効果的であるが、より高い濃度を使用してもよい。最適な濃度は、使用する特異的PARP阻害剤の性質、特にその阻害強度(Ki、及び/または標準的な条件下でのPARPの阻害率で測定される)に依存するであろう。例えば、ニコチンアミドの最適な濃度は、約250mg/l(すなわち約2mM)であることが判明したが、1000mg/l(約8mM)までの濃度、及び150mg/l(約1.25mM)の低い濃度、更には100mg/lの低い濃度で使用して、良い効果がでると考えられている。好ましくは、ニコチンアミド濃度は200から300mg/l、すなわち約1.5mMから2.5mMの間である。同様の条件において、例えば3−メトキシベンズアミドのような、より強力なPARP阻害剤最適な濃度は、約0.5mMであるが、2mMまでの高い濃度、及び0.1mMの低い濃度で使用して、良い効果がでると考えられている。同様の濃度がその他のPARP阻害剤に対しても適用できる。
【0022】
仮に14日間よりも長いインュベーション時間の場合には、PARP阻害剤濃度は、2mM未満(例えば、0.5mMから1.5mM、特には約0.8mM)まで低減させるべきであると考えられている。
【0023】
その他のPARP阻害剤に対しての最適な濃度は、本発明にそって実験を行って、容易に決めることが可能である。
【0024】
形質転換中に、細胞のゲノム内へのDNAの組み込みが、細胞によるDNA取り込みのすぐ後に起こるかどうかは知られていない。外来DNAが接触後に、遊離DNAとして細胞内にある一定期間存在する可能性は高い。よって、培養した細胞は更にPARP阻害剤を含む培地とともに、外来DNAとの接触の後で、ある一定の限られた時間だけ、インキュベーションしてもよい。繰り返すが、インキュベーションの時間はクリティカルではないが、好ましくは2−10日間、特には約4日間である。接触後の培地中のPARP阻害剤の濃度は、2mM未満0.8から1mMの間であることが好ましい。仮に形質転換される細胞が細胞培養、または組織培養から由来したものでないとき(例えば完全な組織または器官を、たとえばWO92/09696に記載されている例のようにして、DNAと直接接触させるとき)には、PARP阻害剤はなおも、接触前に標的細胞に適用させることが可能であるが、PARP阻害剤を形質転換した細胞の培養物へ、接触時、または接触後に付加することが好ましい。
【0025】
上記したように、培養細胞をPARPで少なくとも2−3日間処理すると、形質転換の質が上昇する。実際に、外来DNAのコピー数は、一般的により低く、また外来DNA中の興味ある遺伝子の発現の性質(レベル、すなわち発現の、量及び時間的空間的分布、すなわちトランスジェニック生物体での発現の質)の多様性は、位置効果のために低減されている。しかしながら、少なくとも本発明のこの側面においては、形質転換の効率は減少していてもよい。本願で言う形質転換の効率とは、標準的な実験条件下(すなわち、外来DNAと接触した細胞の量、運搬されたDNAの量、DNA運搬のタイプと条件、一般的な培養条件等に関して標準化または規格化したもの)で再現性のある、形質転換した細胞(または個々の形質転換細胞より増殖させたトランスジェニックな生物体)の数により計測されうるものでもよい。
【0026】
よって、本発明ではすでに効率が高いことが知られている形質転換方法(例えばアグロバクテリウム仲介性の双子葉植物の形質転換、及び単子葉植物、特に穀類の直接的遺伝子導入(穀類のコンパクトな胚発生カルスの、粒子砲撃法または電気穿孔法(WO92/09696を参照))を使用することが好ましい。実際に、これらの形質転換方法は一般的に効率が高いが、形質転換の質が一般的には低い。位置効果は、特に直接的遺伝子導入法では大きくて、導入遺伝子のコピー数はしばしば非常に高くて、最適な形質転換体の分析と選択が、該形質転換体の繁殖と同様に難しい。
【0027】
本発明の別の側面においては、培養した植物細胞を、DNAとの接触前、または接触後に短期間(すなわち1日から最大で2日)で処理して、多くの単子葉植物、特にコムギやトウモロコシのような主要な穀類のような植物種で、通常はこの方法が非能率的である植物種に関しての、アグロバクテリウム仲介性形質転換の効率を上昇させるのに使用することが可能である。接触時に、培養した植物細胞を処理すると、形質転換効率が低下し、よって本発明の側面に対してそぐわないかもしれず、PARP阻害剤での最適な処理は、接触前1日から最大で2日、あるいは接触後1日から最大で2日と考えられている。本発明のこの態様において、植物細胞とDNAとの接触はもちろん、興味ある遺伝子を有する外来DNA有して人工的なT-DNAを保持した、適切なアグロバクテリウムで細胞を接触させることであると理解されなくてはならない。本発明のこの態様において、形質転換質は影響を受けないと期待されているが、これは一般的にはより重要ではないと考えられている。それはアグロバクテリウム仲介性の形質転換は生物学プロセスであって、一般的に、形質転換植物細胞内で低コピー数の導入遺伝子が得られるからである。
【0028】
本発明によれば、試験管内で培養されて、外来DNAと接触させる、細胞、組織、または器官を開始細胞として要求する、既知の如何なる形質転換方法と組み合わせて、ナイアシンアミドのようなPARP阻害剤の、真核細胞用の培地への付加を行うことが可能である。よって本発明のこの方法は、細胞の培養時の間にPARP阻害剤が培地へ加えられること以外は、概して既存の形質転換方法と同一である。
【0029】
植物、特に多くの双子葉植物(例:ブラッシカ・ナパス(Brassica napus))や、幾つかの単子葉植物のような、アグロバクテリウムに感染可能なものの細胞は、興味ある遺伝子を含み、アームがなく、アグロバクテリウムにより運搬されるTi-プラスミドベクタを使用して、形質転換を行うことが可能である。この形質転換は通常の方法(EP 0,116,718;Deblaere et al.,前出;Chang et al.,1994,The Plant Journal 5:551-558)を使用して実施することが可能である。好ましいT-プラスミドは、Ti-プラスミドのT-DNAに関しての、境界配列間に外来DNAを含んでいるか、または少なくとも右側の境界配列の左側に、該DNAが位置している。もちろん、その他のタイプのベクタも、直接的遺伝子導入(例えば、EP 0,233,247で記載されているもの)、花粉仲介性形質転換(例えば、EP 0,270,356、PCT特許公報WO85/01856、及びUS特許4,684,611で記載されているもの)、植物RNAウイルス仲介性形質転換(例えば、EP 0,067,553、及びUS特許4,407,956に記載されているもの)、及びリポソーム仲介性形質転換(例えば、US特許4,536,475に記載されているもの)のような方法を利用して、植物細胞を形質転換するのに使用することが可能である。主要な穀類(トウモロコシ、イネ、コムギ、オオムギ、ライムギを含む)のような、単子葉植物の細胞は、WO92/09696に記載されているように、コンパクトな胚発生性のカルス(例えば未成熟なトウモロコシの胚)、または胚発生性カルス(例えばトウモロコシのI型カルス)を形成することが可能で、無傷の組織に傷を付けたもの、または酵素で処理したもの、またはそれより得られる胚発生性カルスを使用して形質転換(例えば電気穿孔法)させることが可能である。形質転換させる植物がトウモロコシの場合には、例えばある種のトウモロコシ株に対して最近開発され、記載されているその他の方法(Fromm et al.,1990,Bio/Technology 8:833;Grodon-Kamm et al.,1990,Bio/Technology 2:603;Gould et al.,1991,Plant Phy
siol.95:426)を利用することが可能である。形質転換する植物がイネの場合には、例えばある種のイネ株に対して最近開発され、記載されているその他の方法(Shimamoto et al.,1989,Nature 338:274;Datta et al.,1990,Bio/Technology 8:736;Hayashimoto et al.,1990,Plant Physiol.93:857;Hiei et al.,1994,The Plant Journal6:271-282)を利用することが可能である。
【0030】
形質転換された細胞は、成熟した植物へと再生させることができ、得られる形質転換済み植物は、通常の繁殖計画に使用して、同じ特徴の、より多くの形質転換済み植物を産生させるか、または興味ある遺伝子を、同様の関連した植物種のその他の変異体へ導入させることができる。このような形質転換済みの植物から得られる種子には、安定なゲノム挿入物としての、本発明のキメラ遺伝子が含まれている。故に、興味ある遺伝子は、植物種の特定の株へ導入されると、常に戻し交配によりその他の株に導入することができる。
【0031】
動物の多能性胚細胞、または体細胞は、形質転換の標的細胞として使用することが可能である(Capecchi et al.,1989,TIG:5:70-76)。
【0032】
本発明の方法により産生された、如何なる植物種、または動物種の、形質転換済み細胞及び生物体には、そのゲノム内、特に、本発明にそってPARP阻害剤に対して露出された非形質転換細胞内で、転写活性を保持しているゲノム領域に安定に挿入された外来DNAが含まれている。上記のようにして、PARP阻害剤で少なくとも3日間、特には4日間処理した細胞においては、ゲノムの限られた領域のみが転写的に活性を保持するであろう。この点に関して、本発明の本方法により得られた形質転換済み細胞は、ゲノムの限られた領域に組み込まれた外来DNAを有することにより特徴付けられるであろう。よって、形質転換済みの細胞、または生物体が本発明の本方法により得られるということは、次のことより容易に確かめられる:1)前記の外来DNAがゲノムに組み込まれる前に、非形質転換細胞または組織を培養したのと同様の条件下で、形質転換済み細胞、または組織を培養する(すなわち、250mg/lのナイアシンアミドを含む培地で、接触前に4−5日間インキュベーションする);2)外来DNA中の少なくとも一つの導入遺伝子で、正常な組織培養条件下で発現することが期待されるものの発現をモニターする(すなわち、組織培養中で発現を行わせるプロモータの制御下にある、選択性標識遺伝子)。上記の条件下では、形質転換した本発明の細胞、または組織は、PARP阻害剤が培地中に存在するかどうかに関わらず、必須的に同じレベルで組織培養中で、関連する導入遺伝子を発現する。よって、例えば、PARP阻害剤を含む培地中で、形質転換済み細胞を4−5日間培養した後では、mRNAのレベルは顕著には低下せず、すなわち該阻害剤を含まない培地中で倍移用したときと比較して、75%未満、好ましくは90%未満にはならない。実際に、関連した導入遺伝子が、ゲノム中のその他の領域(すなわち、本発明の態様のようにしてPARP阻害剤で処理をされた細胞内で、通常は転写活性のない領域)に組み込まれるならば、PARP阻害剤を含む培地中で少なくとも3日間、例えば4−5日間、細胞を培養した後では、この関連した導入遺伝子の発現はかなり減少する(すなわち、該阻害剤を含まない培地中で細胞を培養したときのmRNAレベルと比較して、mRNAのレベルは75%未満、特には50%未満、より特には30%未満に減少する)。
【0033】
本発明の方法は原則として、真核細胞を外来DNAで形質転換するのに使用することが可能である。一般に、外来DNAは少なくとも一つの興味ある遺伝子で、1)真核細胞内でDNAをRNAに転写させることができるプロモータを含むプロモータ領域と、2)RNAmまたはタンパク質をコードするコード領域とを具備したものを具備している。最も頻繁には、興味ある遺伝子はさらに、3)ポリアデニレーションシグナルを含んだ、真核性遺伝子の3’の非翻訳領域を具備している。このプロモータは、真核生物体の組織中で発現を行わせるように選択することが可能である。このような組織選択性プロモータはその他の非選択組織中では発現を行わせないと考えられる。例えば、植物の雄しべ組織内で選択的に発現を行わせるプロモータが知られているが、このようなプロモータは、ハイブリッドを産生するのに有益な、不稔性のオスの植物とその他の植物を産生させるのに使用されている(EO 344029;EP 412911;WO 9213956;WO9213957;Mariani et al.,1990,Nature 347:737-741; Mariani et al.,1992,Nature 357:384-387)。
【0034】
本発明の方法は、組織選択的なプロモータ、例えば雄しべ特異的プロモータを具備する少なくとも一つの興味ある遺伝子で真核細胞を形質転換するのに特に有益であるが、生物体(例えば植物)内での興味ある遺伝子の発現が、選択した組織(組織特異的プロモータが活性である、すなわち発現を行わせる)の外側での発現が、例えば遺伝子産物(例:barnaseのようなリボヌクレアーゼ等のタンパク質)を産生する細胞を殺傷するか不具にすることが可能であるために望ましくない場合には特に、有益である。このような場合には、興味ある遺伝子の培養組織、または生物体の非選択組織での発現は、形質転換の見かけ上の効率と同様に、その質に対しても負の影響を与える。本発明の方法を使用するときには、形質転換の全体の効率は低下するかもしれないが、形質転換の質は、形質転換済み細胞内での低コピー数のためと、低減された位置効果、すなわち導入遺伝子のプロモータの性質への影響が最小であるゲノム中の位置に、興味ある遺伝子の組み込みが起こるために、形質転換の平均的な質は顕著に良くなると考えられる。
【0035】
本発明の方法に使用される外来DNAは一般に、選択性標識遺伝子を具備していて、その発現により、形質転換していない細胞(生物体)と、形質転換した細胞(生物体)の選択が可能となる。このような選択性標識遺伝子は一般的に、通常は細胞に対して毒性のある抗生物質やその他の化合物に対する抵抗性を与えるタンパク質をコードしている。よって植物において選択性標識遺伝子は、さらに、活性成分としてグルタミンシンセターゼ阻害剤(例:ホスフィノトリシン(phosphinothricin))を具備した除草剤のような、除草剤に対する抵抗性を与えるタンパク質をコードしてもよい。このような遺伝子の例は、例えばsfrやsfrv遺伝子のようなホスフィノトリシンアセチルトランスフェラーゼがある(EP 242236; EP 242246; De Block et al.,1987 EMBO J 6:2513-2518)。
【0036】
発明者は更に、細胞、特にPARP阻害剤と接触させた細胞の初期反応はストレス反応であり、細胞によるフリーラジカルの産生を促進することを発見した。しかしながら、このストレスは、限られた期間しか続かなく、その後でさらにPARP阻害剤と接触させると細胞代謝、特にミトコンドリアでの電子伝達鎖における、電子の流れの低減を引き起こす。よって本発明は更に、形質転換した植物のポピュレーションに関する農学的な適性を調べて、また、農学的なできばえに影響しないか、または実質的に影響しないようにして、どの株において該植物がそのゲノムに外来DNAを組み込んでいるかを決定する、新規の方法に関する。このアッセイは、トランスジェニック細胞と、それに対応した非形質転換対照のストレス条件に対する比較反応に基づいている。
【0037】
本方法は、トランスジェニック細胞を、組織または細胞内でフリーラジカルの産生を誘導するようなストレス条件に対して露出して、該トランスジェニック細胞内で産生されたフリーラジカルの量と、同様のストレスに対して露出された対照細胞内で産生されたフリーラジカルの量とを測定することを具備している。好ましくは、アッセイするトランスジェニック生物体は、細胞に浸透圧性、及び/または塩性のストレスを誘導する物質で細胞を処理することにより、ストレス条件に露出する。
【0038】
ナイアシンアミドのようなPARP阻害剤で、2日間未満、好ましくは1日間インキュベーションして処理した細胞内でフリーラジカルの産生を促進する、該阻害剤の性質は、トランスジェニックな真核生物体、好ましくは植物のポピュレーションの(相対的)適性をアッセイするのに使用することができる。
【0039】
本願で使用する、適性という用語は農学的なできばえを意味し、例えば、ある一定の参照用ポピュレーションに比較したときの収量(例えば種子の収量)で測定される。農学的できばえは、栽培の場所において、通常の増殖で経験するある範囲のストレス条件に対しての、植物の一般的な耐性と相関関係にあると考えられている。どのようなポピュレーションの形質転換済み植物(すなわちトランスジェニクな株)に対しても、相対的参照用ポピュレーションは、同じ種類の非形質転換植物である。
【0040】
形質転換済みの植物、及びその他の生物体においては、導入遺伝子の発現は定性的、及び定量的に、導入遺伝子が組み込まれているゲノムの領域により影響を受けるということと、望ましくない導入遺伝子発現は、細胞代謝(例えば導入遺伝子が細胞障害性タンパク質をコードする場合)を阻害する可能性があるということ、形質転換した生物体内で、細胞体クローン変異、または導入遺伝子による内在性遺伝子の挿入不活化のどちらかによる変異が誘導される可能性があるということ、または内在性の遺伝子が外来DNA内の配列により制御の解除を受けるということが知られている。結果として、多くの形質転換済み株は農学的に有益ではない。本発明のアッセイによって、例えば、植物の適応への影響が最小である領域に組み込まれた導入遺伝子を有する、形質転換植物株を同定することができ、そのため最善の農学的性質を有する形質転換体を同定するために必要な、実験室、温室、及び、またはフィールドでの広範な評価を避けることができる。
【0041】
特定のトランスジェニック株の、形質転換した植物の細胞または組織(例:カルス、胚軸外植体、芽、葉盤(leaf disks)、全葉)を、好ましくはPARP阻害剤とともに(ある植物種に対してはこれは必要ではないが)、該組織中での異なる量のフリーラジカル産生誘導を含む、ある範囲の条件下でインキュベーションすることを、本発明のアッセイは必須的に具備している。約1日のインキュベーション時間は、所望の量のフリーラジカルを生成するのに、通常は充分である。適切な対照、すなわち非形質転換植物より得た非形質転換組織で同じ発生期にあって、また形質転換組織を得るための形質転換植物と同じ条件で増殖したものを同じ処理にかける。好ましくは、非形質転換株は、導入遺伝子の存在以外はトランスジェニックな株と同等である。
【0042】
それぞれの植物株(対照または形質転換体)に対しては、多くの植物をアッセイすることが好ましい。
【0043】
非形質転換、及び形質転換済み組織のインキュベーションに有益な条件には、インキュベーションしている細胞または組織の浸透圧性及び塩性ストレスを増大させることが含まれる。例えば、PARP阻害剤を含む、異なる塩濃度の一連の緩衝液を調製することができる。有益な緩衝液シリーズは2%のショ糖と250mg/lのナイアシンアミドを含むK-リン酸塩緩衝液があり、このK-リン酸塩濃度は10から80mMの間で増大されている(例えば、5mM刻みで、すなわち、10、20、25、30、35、40、45、50、55、60mM)。このK-リン酸塩濃度は、植物細胞において温和であるが、塩および浸透圧の増大するストレスを誘導する。培地中のナイアシンアミドは更に、ラジカルの産生と植物細胞へのストレスを促進する。使用するK-リン酸塩濃度の範囲は、塩及び浸透圧のストレスに対する、植物種(必要であれば植物株)の天然の感受性に依存するであろう。感受性のある植物種で、高い塩ストレスを許容しないものでは、最大K-リン酸塩濃度は、例えば50mMであり、より感受性のない種では、この最大K-リン酸塩濃度は70若しくは80mM、またはそれ以上にまで増大させることができる。それぞれの植物種に対しては、最小、及び特に最大の塩濃度(例:K-リン酸塩)は、非形質転換株に対して実験により決定することができ、唯一の必要条件は、使用する全ての濃度で植物組織は生存しているということである。ナイアシンアミドのような、PARP阻害剤を培地へ加えることは好ましいが、塩及び/または浸透圧に対して非常に感受性のある植物種をアッセイすることは必要ではない。
【0044】
1日間のインキュベーション後に、形質転換済み、及び対照の組織が、2,3,5-トリフェニルテトラゾリウム塩化物(TTC)を低減させる能力を、例えばトウィルとマズール(Towill and Mazur)(前出)が改変した、以下の方法により測定することができる:
・組織を、10mM TTCと0.1%Tween 20を含むK-リン酸塩緩衝液(pH7.4)中で、1から4時間インキュベーションする。対照としては同様の植物性物質、TTCを含まない同じ緩衝液でインキュベーションする
・低減されたTTCの抽出(例:-70℃で凍結し、次いで40℃で解凍し、植物性物質をエタノール中で45から60分震盪する)
・低減されたTTCの量を、485nm(光学密度OD485;クロロフィルに乏しい植物部物質に対して)、または545nm(光学密度OD545;クロロフィルが豊富な植物物質に対して)で分光学的に測定する。対照の抽出物のO.D.を、TTC−反応済み抽出物のODより差し引く。上記した条件では、0.1mMのTTCの低減は、0.214のOD485、または1.025のOD545に対応する(光路1cm)
・形質転換植物株の低減能を対照株のそれと比較する。
【0045】
低減したTTCの量を、チトクローム性、及び代替の呼吸経路の強度、並びに組織中のラジカルの濃度により決定し、次いでこれらを、変異の存在、植物細胞の代謝活性に影響する遺伝子の発現、発生期、およびストレス因子のような外部の因子に対する組織の反応により決定する。
【0046】
高塩濃度(高TTC)でインキュベーションした組織に対する、TTC低減能(例えば485nmで測定できるO.D.のようなもの)は、低塩濃度(低TTC)でインキュベーションした組織のTTC低減能の割合で表現されるが、これは言い換えると、TTC−比の値が以下のようにして計算されるということである:
TTC比=TTC/high.100/TTC.low。
【0047】
TTC比の値は対照株と比較したときの植物株の適応の尺度である。
【0048】
低TTC、及び高TTCの決定は、塩ストレスをかける植物種の感受性に依存するであろう。通常は、低TTCは10から25mM、例えば20mMのK-リン酸塩の塩濃度に対応し、一方、高TTCは50から80mMの間のK-リン酸塩の塩濃度に対応する。唯一の必要条件としては、高TTCは低TTCよりも顕著に低いはずであり、好ましくは高TTCは低TCCの50%未満、特には低TTCの30%未満であるはずであるということである。例えば、ブラッシカ・ナパス(Brassica napus)に対しては、低TTCおよび高TTCは、典型的にはそれぞれ20mM、及び60mMのK-リン酸塩緩衝液(250mg/lのナイアシンアミド含有)でインキュベーションした組織より得られる。形質転換済み及び非形質転換株に対する、高TTC及び低TTCは通常、それぞれの株の多くの植物由来の多くの組織片を使用した複数の測定で得られる平均値である。例えば、ブラッシカ・ナパス(Brassica napus)のそれぞれの株に対して、8つの異なる植物からとった約32の葉盤(直径1cm)(すなわち各植物当たり4葉)をアッセイして、それぞれ32の高TTC値と低TTC値を決定し、これらを平均して高TTCと低TTCを得て、これを使用してTTC比を計算することが可能である。使用した試料サイズのその他の例は、アラビドプシス・タリアナ(Arabidopsis thaliana)由来の35の芽、またはブラッシカ・ナパス(Brassica napus)の25の苗木由来の150の胚軸外植体である。対照株のTTC比の値から20%以上、好ましくは10%以上ずれていないTTC比の値を有する形質転換株を選択する。これらの株は、植物の適応性への影響が最小であるような領域に組み込まれた導入遺伝子を有すると考えられる。
【0049】
研究する植物物質の適応性に関する付加的な情報は、上記したそれぞれの緩衝液シリーズのそれぞれの実験点に対して、PARP阻害剤非存在下、及びPARP阻害剤存在下での、該植物物質のTTC低減能を比較することで得られることは明らかである。
【0050】
TTC低減アッセイは特に、植物の適応性への影響が最小であるように導入遺伝子が組み込まれているトランスジェニックな植物の同定に適しているが、この試験はまた変異した細胞、または細胞株を野生型より識別するのにうまく適用することが可能である。
【0051】
このTTC低減アッセイは更に改変して、植物物質、例えば形質転換実験に用いられる植物物質の質と適応性とを決定するため(すなわち特定の植物物質、例えば外植体が開始物質として適するかどうかを決定するため)に使用することが可能である。この目的のため、例えば以下のようにしてTTC低減アッセイを改変させることができる:
1.形質転換の適性に関しての試験を行う植物物質の試料を一日間、植物培地、または緩衝液(2%ショ糖、及び10から80mM、典型的には25mM位のK-リン酸塩を含むもの)であって、ナイアシンアミドのような適切な量のPARP阻害剤が加えられているものでインキュベーションする。ナイアシンアミドに関しては、100mg/l程度の低い濃度や、1000mg/lの高い濃度でも使用することが可能であるが、使用する好ましい濃度は、250mg/lである。同じ植物物質の、比較対照用の試料は、PARP阻害剤非存在下で同様の条件でインキュベーションされる。
【0052】
2.一日のインキュベーション後、上記の、PARP阻害剤とともにインキュベーションした植物物質、及び対照用植物物質に関する、TTC低減能は、上記した方法により測定される。
【0053】
PARP阻害剤とともにインキュベーションされた植物物質(TTC-INH)に対するTTC低減能(例えば485nmで測定されるもの)を、PARP阻害剤なしでインキュベーションした植物物質(TTC-CON)のTTC低減能と比較して、比(E)を以下のようにして計算する:
E=TTC-INH/TTC-CON
Eの値は植物物質、例えば形質転換される外植体の適応及び質の尺度である。Eの値が1以上である組織は、健常な組織であって、これは特に形質転換用の開始物質として適していると考えられている。
【0054】
よって、改変したTTC法は、(培養した)植物物質の選択、特に形質転換法、特に本発明の方法であってPARP阻害剤の利用を含むものに適したもののタイプを選択することを可能にする。
【0055】
形質転換前の特定の培養条件により、植物物質(特に形質転換しにくい植物由来の、細胞、組織、または外植体)の質もまた影響されるので、本発明のアッセイは更に、適切な開始用植物物質を得るのに適切な培養条件を同定するのに有益である。よって本発明者は、トウモロコシ由来の植物物質を培養するときには、プロリンを好ましくは約8mMの濃度で、PARP阻害剤と一緒に培地中に含ませることが好ましいことを見出した。
【0056】
すでに述べたように、1から2日間より長い期間にわたって、PARP阻害剤存在下において細胞または組織をインキュベーションすると、細胞代謝の総体的な減少、特にミトコンドリア電子伝達鎖における電子の流れの減少が(健常な細胞または組織の特徴である初期的上昇の後の一日目に)起きる。代謝を(形質転換体の定性的側面を改善するための)最適なレベルにまで減少させるのに必要な期間は、その期間の後で20%から50%の間、好ましくは30%から40%の間、特には35%のTTC低減能の減少が、PARP阻害剤なしでインキュベーションされる対照植物物質と比較したときに、PARP阻害剤(例えばナイアシンアミド)とともにインキュベーションした植物物質に対して成し遂げられる期間である(すなわち該期間後のEの値が0.5から0.8間、好ましくは0.6から0.7の間、特には約0.65であるような期間)。
【0057】
本発明のアッセイは、当業者ならば、例えば特定の細胞種、組織、外植体、または細胞、組織、若しくは外植体を誘導するための特定の種の必要性に適するように、すぐに適応させることが可能である。更に本アッセイを適応させて、細胞、組織、外植体、または生物体の適応性の特殊な側面をアッセイすることも可能である。例えば、浸透圧や塩によるストレスとは異なったタイプのストレス、例えば極端な温度、化合物による亜致死性の処理(例:除草剤、重金属)、またはUV照射により引き起こされるストレスなどを適用することが可能である。更に、その他のタイプのPARP阻害剤は、示した濃度の範囲内で、上記したように使用することが可能である。本願で定義されるアッセイの目的のためには、TTCが最も適した基質であると考えられているが、MTT(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5ジフェニル-2H-テトラゾリウム)のようなその他の指示分子を使用して、「ユビキノン・プール」の下流にある、ミトコンドリアの電子伝達鎖の電子流動を測定することができる。
【0058】
特に示さない限り、組み換えDNAの操作に関する全ての実験方法は、記載されている標準的な方法にそって行った(Sambrook et al.,1989,MolecularCloning:a laboratory manual,Cold Spring Harbor Laboratory;Ausubel et al.,1994,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons)。
【0059】
ポリメラーゼ鎖反応(PCR)を使用して、DNA断片のクローニング、及びまたは増幅を行った。伸長部が重なり合ったPCRを利用して、キメラ遺伝子の構築を行った(Horton et al.,1989,Gene 77:61-68; Ho et al.,1989,Gene77:51-59)。
【0060】
PCR反応は全て、サーモコッカス・リトラリス(Thermococus litoralis)より単離した、VentTMポリメラーゼ(Biolabs New England,Beverley,MA 01915,カタログ#254L)を使用して、通常の条件で行った(Neuner et al.,1990,Arch.Micorbiol.153:205-207)。例えばクラマーとフリッツ(Kramer and Fritz、1968,Methods in Enzymology 154:350)による例で概略が示されている既知のルールに従って、オリゴヌクレオチドを設計し、アプライド・バイオシステム社の380ADNA合成機(Applied Biosystems B.V.Maarssen,Netherlands)を使用して、ホスホラミダイト法により合成した(Beaucage and Coruthers,1981,TetrahedronLetters22:1859)。例の中では、MSはMurashige and Skoogの培地を意味する(Murashige and Skoog,1962,Physiol.Plant 15:473-479)。
【0061】
以下の例では、以下の配列リストと、図を参照している。
配列リスト
配列認識番号1:プラスミドpTHW107のT-DNA
配列認識番号2:ブラスミドpTS172
配列認識番号3:プラスミドpTS772に含まれるPT72プロモータ
配列認識番号4:プラスミドpVE136
配列認識番号5:プラスミドpTHW142のT-DNA
【0062】
なお、本発明の一つの側面から、形質転換していない細胞の培養物を、形質転換前に、培養細胞のストレスに対する応答を低減させるのに充分であって、尚且つ該培養細胞の代謝、特にミトコンドリアの電子伝達鎖における電子の流れを低減させるのに充分な期間だけ、ポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼの阻害剤に接触させる工程;少なくとも一つの興味ある遺伝子を具備する外来DNAが、上記非形質転換細胞によって取り込まれて、興味有る該遺伝子が、上記非形質転換細胞の核ゲノムに安定に組み込まれて、上記のトランスジェニック細胞を産生させるような条件下で、該非形質転換細胞を、該外来DNAに接触させる工程;及び、 適宜上記トランスジェニック細胞を該培養物より回収する工程を具備する、トランスジェニックな真核細胞を産生させる方法が提供される。
【0063】
一つの態様において、前記の阻害剤が、ナイアシンアミドで、好ましくは約150mg/lから1000mg/lの濃度であり、より好ましくは約200mg/lから50mg/lの濃度であり、特には約250mg/lの濃度である。
【0064】
一つの態様において、前記の非形質転換細胞を前記外来DNAと接触させる前に、前記の阻害剤を含む培地で約2から28日間、好ましくは約3から14日間、特には約4日間だけ培養することを特徴とする方法が提供される。
【0065】
一つの態様において、前記の外来DNAと接触させた前記の細胞が接触後に更に、前記の阻害剤を含む培地で、約1から14日間、好ましくは2から4日間培養される。
【0066】
また他の側面から、少なくとも一つの興味ある遺伝子を具備する外来DNAが、非形質転換細胞によって取り込まれて、興味有る該遺伝子が、上記非形質転換細胞の核ゲノムに安定に組み込まれて、上記トランスジェニック細胞を産生させるような条件下で、該非形質転換細胞を、該外来DNAに接触させる工程;ポリ(ADP−リボース)の阻害剤に細胞を接触させる工程;及び、 更に前記外来DNAとの接触後に、上記の培養細胞を、該阻害剤が含まれる培地で約1から14日間、好ましくは1から4日間、特には1日間、培養する工程を具備する、トランスジェニックな植物細胞が得られる頻度を増大させる方法が提供される。
【0067】
一つの態様において、前記の興味ある遺伝子が、真核生物の特定の細胞又は組織で選択的に発現するように制御するプロモータが具備される。一つの態様において、前記の興味ある遺伝子が、雄しべ細胞、特に植物の葯細胞で選択的に発現を制御するプロモータが具備される。他の態様において、前記の興味ある遺伝子が、真核生物の細胞内で発現されたときに、当該細胞を死滅させるか無能にするタンパク質をコードする。一つの態様において、前記の興味ある遺伝子が、リボヌクレアーゼ、特にバーナーゼ(barnase)をコードする。
【0068】
一つの態様において、前記の少なくとも一つの興味ある遺伝子を有する前記の外来DNAが、安定にゲノムに組み込まれた前記のトランスジェニック生物が、前記の形質転換された真核細胞より得られる。他の態様において、前記の生物が、形質転換された植物細胞の再生により得られる。
【0069】
本発明の一つの側面から、上記の方法で得られるトランスジェニック生物が提供される。
【0070】
本発明の他の側面から、自身の細胞の核DNAに外来DNAが組み込まれているを有する植物であって、細胞の代謝を低減して、遺伝子発現が必然的に、細胞の分化や生理学的状況に関わらずに発現する遺伝子に限られるのに十分な期間だけ、効果的な量のPARP阻害剤による処理を細胞に行ったときに、上記植物内の該細胞内で転写的に活性である、上記核DNA内の領域のみに、上記外来DNAが組み込まれている植物が提供される。
【0071】
一つの態様において、前記の細胞がPARP−阻害剤を含む培地でインキュベーションされるときに、該外来DNAに相当するmRNAの発現を測定することにより、前記の転写活性のある領域への、前記の外来DNAの挿入が確認される。一つの態様において、前記植物のゲノム中の転写的に活性な前記の領域内に、細胞分化により受ける影響、または環境的条件、特にストレス条件のような外来性因子により引き起こされる細胞の生理学的、若しくは生化学的変化により受ける影響が最小限である領域が含まれる。
【0072】
一つの態様において、前記の植物、又は前記の植物細胞が、単子葉性の植物、または植物細胞である。他の態様において、前記の植物、または植物細胞が穀類植物、または穀類植物細胞である。他の態様において、前記の植物、または植物細胞が、コムギ、またはコムギ細胞である。他の態様において、前記の外来性DNAが、前記の植物の特定の組織で選択的に発現されるDNA配列を具備している。他の態様において、前記の外来DNAが、細胞障害性分子をコードしたDNAを具備している。一つの態様において、前記の外来DNAが、バーナーゼ(barnase)をコードしている。
【0073】
他の側面から、自身の核DNAに外来DNA組み込まれている真核細胞であって、細胞の代謝を低減して、遺伝子発現が必然的に、細胞の分化や生理学的状況に関わらずに発現する遺伝子に限られるのに十分な期間だけ、効果的な量のPARP阻害剤による処理を細胞に行ったときに、前記細胞内で転写的に活性である、上記核DNA内の領域のみに、上記外来DNAが組み込まれている細胞が提供される。
【例】
【0074】
例1:PARP阻害剤を含んだ培地中での、コムギ胚発生性カルス及びブラッシカ・ナパス(Brassica napus)胚軸外植体の組織培養。
【0075】
コムギ胚発生性カルスをW2培地で培養した(例2を参照)。ナイアシンアミドを250mg/lの濃度(約2mM)でPARP阻害剤として培地に加えると、4日後に組織の増殖が顕著に遅くなったが(4週間後には通常の速度の約30%にまでなった)、長期間(すなわち少なくとも1ケ月)にわたり該組織の生存度は維持された。その後ナイアシンアミドを培地より除去すると、該組織は再び正常に増殖し始めた。更に、該植物組織をナイアシンアミドで4−5日インキュベーションした後には、該組織のTTC低減能(Towill and Mazur,1975,Can J.Bot.53:1097-1102)が実質的に減少したが、これはおそらくフリーラジカルの産生の減少と、ミトコンドリアの電子伝達の減少とを示している。
【0076】
ブラッシカ・ナパス(Brassica napus)を250mg/lのナイアシンアミドを含んだA5培地(例3を参照)で培養したときにも、同様の知見が得られた。更に、ナイアシンアミドを含んだ培地での、ブラッシカ・ナパス(Brassica napus)の組織培養において、アントシアニンは一切産生されないことが観察された(アントシアニンは通常、組織培養中においてストレス環境下で産生される。)。更に、該植物組織をナイアシンアミドとともに4から5日インキュベーションした後には、外植体中の水酸基フリーラジカル、及びデヒドロアスコルビン酸の濃度が劇的に減少していたことが観察された。
【0077】
更にまた、ナイアシンアミドを含んだ培地で4日間インキュベーションした後には、細胞周期のG2期にある培養細胞の割合が顕著に増加したことも観察された(培養中の全ての細胞の45%まで)。
【0078】
上記の観察は、PARP阻害剤で4−5日間処理すると、概して次のような結果を招くことを示すと解釈される:
1)例えばフリーラジカル及び/またはアントシアニン産生により測定される、細胞のストレスに対する応答が顕著に減少する;そして
2)組織の増殖が遅くなり、また組織が生きている間にもTTC低減能が減少するという事実により示されるように、培養細胞の一般的代謝が非常に基礎的なレベルにまで減少する。上記した条件下では、細胞内では、ストレス(例えば形質転換中)に対する応答でスイッチが入る多くの遺伝子は、実際にはもはや誘導されなくなることが推量される。非常に基本的な代謝しか示さないこのような細胞では、主に一般的な「ハウスキーピング遺伝子」、すなわちその分化の状態、または代謝若しくは生理学的条件に関わらずどのような細胞でも発現するような遺伝子が発現していると期待される。外来DNAは、好ましくは転写的に活性な部分に組み込まれていると考えられているため、PARP阻害剤での処理は、好ましくはある特定の条件下、すなわちストレス条件下や分化中においてのみ転写されるゲノム領域内ではなくて、どの細胞においても転写されるゲノム領域内で、どのような外来DNAをも組み込ませるように真核細胞をならしめる。これは外来DNAが組み込まれる位置の数、及び組み込みに伴っておきる導入遺伝子の発現の特徴の変化が、ともに減少することを意味している。更にこれは、興味ある外来遺伝子の、上記のような位置への組み込みを促進し、これによって細胞分化や、例えば環境的条件に起因する細胞の生理学的及び生化学的変化によってはあまり影響されない上記遺伝子の発現が、より高い信頼性と正確性をもって起きると考えられている。
【0079】
例2:粒子砲撃を利用した、雄しべ−特異的プロモータ制御下にあるbarnase遺伝子による、コムギの形質転換。
【0080】
コムギの春変異種パボン(Pavon)を温室内、または調節した部屋で、日中23から24℃、夜間18から20℃、16時間の光と8時間の暗がりとからなる光周期で増殖させる。発生しつつある種子(半液状の胚乳を有する緑白色のもの)を回収して、70%エタノールによる1分間のインキュベーション後にさらに、1.3%NaOCl+0.1%Tween 20による15分間のインキュベーションによって滅菌して、ついで滅菌水で洗浄した。滅菌済みの種子をすぐに使用するかまたは4から7℃で一日間貯蔵した。
【0081】
サイズが約1mmの未成熟の胚を単離して、胚盤を上にしてカルス誘導培地W1(MS培地を3%ショ糖、40mg/lアデニン.SO4、0.5mg/lチアミン.HCL、0.5g/l 2-[N-モルフォリノ]エタンスルホン酸(Mes)pH 5.8、0.5%アガロース、0.5〜2.5mg/lのCuSO4.5H2O、25mg/lアセチルサリチル酸、及び2mg/l 2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)で補充したもの)に静置して、暗がり中で27℃で3週間インキュベーションした。
【0082】
発生中のカルスの胚切片を単離してカルス維持培地W2(W1培地からアセチルサリチル酸を取り除き、0.5mg/lのみのCuSO4・5H2Oと1mg/lの2,4-Dを含むもの)におき、24−25℃で3週間、光をあてて(約20m Einstein/s/m2、16時間の光照射と8時間の暗がりの光周期)インキュベーションした。
【0083】
砲撃の約2週間前に、非形態形成性部(すなわち非胚発生性、及び非成長性の部分)を除去して、カルスを洗浄し、W2培地で継代した。
【0084】
砲撃用に、カルスを直径の平均が約2−3mmの小片にした。この小片を、9cmのペトリ皿の中心の、直径が約0.5cmの環状のW2培地においた。
【0085】
必要時にはナイアシンアミド(250mg/l)をW2培地に加えて、組織片を上記の条件下で、砲撃後に4日間維持した。
【0086】
砲撃は、バイオリスチックPDS-1000/He装置(BioRad)を使用して行った。マイクロキャリアー(0.4−1.2m)の調製、及びマイクロキャリアーのDNAによるコーティングは、必須的には製造業社推奨の方法で行った。カルスを含むペトリ皿を該装置のレベル2に置いて、1550psiで砲撃を行った。
【0087】
形質移入実験には、以下のプラスミドを使用した:
・プラスミドpVE136,この配列は配列認識番号4に記載されている。このプラスミドは以下のキメラ遺伝子を含む:P35S-bar-3'nos,PCA55-barnase-3'nos(ここでP35Sはカリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモータであり、barはホスフィノトリシントランスフェラーゼ(EP242236)をコードするDNAであり、3'nosはアグロバクテリウムT-DNAノパリンシンセターゼ遺伝子の3'非翻訳末端である;またPCA55はトウモロコシのCA55遺伝子の雄しべ特異的プロモータ(WO92 13957)であり、barnaseはbarnase(Hartley,1988,J.Mol.Biol.202.913-915)をコードするDNAである)。
・プラスミドpTS172,この配列は配列認識番号2に記載されている。このプラスミドは以下のキメラ遺伝子を含む:P35S-bar-3'g7,PE1-barnase-3'nos(ここでP35Sはカリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモータであり、barはホスフィノトリシントランスフェラーゼ(EP242236)をコードするDNAであり、3'g7はアグロバクテリウムT-DNA遺伝子7の3'非翻訳末端である;またPE1はイネのE1遺伝子の雄しべ特異的プロモータ(WO92 13956)であり、barnaseはbarnase(Hartley,1988,J.Mol.Biol.202.913-915)をコードするDNAであり、3'nosはアグロバクテリウムT-DNAノパリンシンセターゼ遺伝子の3'非翻訳末端である)。
・プラスミドpTS772,これは、PE1を含んでいる、pTS172のヌクレオチド2625-4313の間の領域以外において、pTS772と相同であり、このPE1が配列認識番号3の配列で置換されている。よって、プラスミドpTS772には以下のキメラ遺伝子が含まれる:P35S-bar-3'g7,PT72-barnase-3'nos(ここでPT72はイネの遺伝子72(WO92 13956)由来の雄しべ特異的プロモータである)。
【0088】
砲撃したカルスを、2.5mg/mlのホスホトリシン(PPT)と、必要であれば100mg/lのナイアシンアミドを含有するW2選択性培地に移した。ナイアシンアミドを含有する培地へ移したカルスを4日後に、ナイアシンアミドを含まず、2.5mg/lのPPTを含有するW2培地に移した。細胞を24−25℃で培養した。
【0089】
2週間後、カルスをW2培地で継代し、更に2週間後、該カルスの増殖部分を再生培地W4(アセチルサリチル酸を含まず、0.5mg/lのみのCuSO4・5H2Oと1mg/lの2,4-Dを含むW1培地)に移した。カルスを2週間毎に継代して、その度に該カルスの非形態形成性部を除去した。このカルスが芽を形成し始めたときに、2.5mg/lのPPTを含むW5培地(半分に濃縮したMS培地と0.5mg/lのみのCuSO4・5H2Oを含み、アセチルサリチル酸と2,4-Dは含まないが50mg/lのミオイノシトール、0.25mg/lのピリドキシン.HCl、及び0.25mg/lのニコチン酸で補充されたW1培地)に移した。これ以後の方法では、温度は最高で24℃で維持した。カルスは3−4週間毎に継代した。芽が伸長し、小さい根が形成し始めたら、カルス全体(または、可能ならば単一の芽)を、2.5mgのPPTを含有するW6培地(半分に濃縮されたMS培地を、1.5%ショ糖、50mg/lミオ−イノシト−ル、0.25mg/lピリドキシン.HCl、0.25mg/lニコチン酸、0.5mg/lチアミン.HCl、0.7%アガ−(DIFCO)pH5.8、0.5mg/l CuSO4・5H2Oで補充したもの)が入った1リットルの容器へ移した。芽と根が増殖しはじめたら、それぞれの芽を互いに分離して、2.5mg/lのPPTを含有するW6培地が入った1リットルの容器へ移した。充分に発生した芽を、TLCアッセイ(De Block et al.,EMBO 6:2513-2518)によりPPT抵抗性を試験するか、または直接的アッセイにより組織中でのアンモニウム産生を試験した(例えばDe Block et al.,1995,Planta 197:619-626を参照)。形質転換した芽を、最終的には温室内の土に移した。
【0090】
結果の分析のために、形質転換した植物は、組織培養中の親カルスのナイアシンアミド処理により細分化してもよい。よって、以下のグループを区別する。
【表A】

この実験の結果を表1、2、及び3に表示してある。植物は、ナイアシンアミドで処理したカルスを砲撃したもののみより得られる。
【0091】
プラスミドpTS172で形質転換した植物では、外来DNA(キメラのPE1-barnase-3'nos、及びP35S-bar-3'g7を具備するもの)が、平均して2から3コピーでコムギゲノムに安定に組み込まれることが論証された。形質転換細胞内における導入遺伝子、特にキメラのbarnase遺伝子の発現性質(例えば組織特異性)に関しての変動が減少するという事実は、不稔性であること以外は完全に健常な植物が、ナイアシンアミドで処理した砲撃済みカルスより得られるという事実から明らかである。これは、カルス、及びそのカルスより再生された芽における、組み込まれた雄しべ選択的barnase遺伝子のより忠実な発現の特徴(すなわち発現の喪失)のためであると考えられている。対照のカルスでは、培養細胞中のbarnase遺伝子の望まない発現により、これらのカルスからの形質転換植物の再生を阻害する可能性がある。対照カルスより同じ数の不稔性コムギ植物を得るためには、かなり多数のカルスを砲撃する必要があると予想される。
【表1】

【表2】

【表3】

【0092】
例3:アグロバクテリウム仲介性形質転換を使用した、雄しべ特異的プロモータ制御下のbarnase遺伝子によるアブラナの形質転換。
【0093】
以下の修飾をのぞき、De Blockらが記載した方法(Plant Physiol.914:694-701,1989)と必須的に同様にしてブラッシカ・ナパス(Brassica napus)の胚軸外植体を得て、培養し、形質転換した:
・胚軸外植体を3日間、A2培地(MS, 0.5g/l Mes(pH 5.7), 1.2%グルコース,0.5%アガロース,1mg/l 2,4-D,0.25mg/lナフタレン酢酸(NAA),1mg/l 6-ベンジルアミノプリン(BAP))で前培養し、次いでナイアシンアミド含有、または非含有A2培地に移して更に4日間培養した。
・感染培地A3は、MS, 0.5g/l Mes(pH 5.7), 1.2%グルコース, 0.1mg/l NAA, 0.75mg/l BAP, 0.01mg/l ジベレリン酸(GA3)であった。
・選択培地A5は、0.5g/l(pH 5.7),1.2%グルコース, 40mg/lアデニン, SO4,0.5g/lポリビニル−ポリピロリドン(PVP),0.5%アガロース,0.1mg/l NAA, 0.75mg/l BAP, 0.01mg/l GA3, 250mg/l カルベニシリン, 250mg/lトリアシリン(triacillin), 5mg/l AgNO3であった。
・再生培地A6は、MS, 0.5g/l Mes(pH 5.7), 2%ショ糖, 40mg/l アデニン, SO4, 0.5g/l PVP, 0.5%アガロ−ス, 0.0025mg/l BAP, 250mg/lトリアシリン。
・健常な芽を、根付かせ用培地(A8、またはA9)を含む1リットルの容器へ移した;A8は、半分に濃縮したMS(100−130ml),1%ショ糖(pH5.0),1mg/lイソブチル酸(IBA),100mg/lトリアシリン,を300mlのパ−ライト(perlite)に加えたものからなっている;A9は、半分に濃縮したMS,1.5%ショ糖(pH 5.8)をアガ−(0.6%)で固形化したもの。
【0094】
胚軸外植体(ナイアシンアミド処理を受けたもの、または受けていないもの)を、T-DNAベクタpTHW107及びヘルパ−のTi-プラスミドpMP90(Koncz and Schell,1986,Mol.Gen.Genet.204:383-396)(またはその誘導体)を有する、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)のC58CRif株で感染させた。
【0095】
プラスミドpTHW107は、以下のキメラ遺伝子を具備したT-DNAを有するベクタである:
・PTA29-barnase-3'g7
・PSSU-bar-3'nos
ここでPTA29は、タバコのTA29遺伝子(EP344029)のプロモータであり、PSSUは、アラビドシス・タリアナ(Arabidosis thaliana)のRubsicoのスモールサブユニットをコードする遺伝子のプロモータである。pTHW107のT-DNAの完全な配列は、配列認識番号1に示してある。
【0096】
必要時には、ナイアシンアミド(250mg/l)を、アグロバクテリウム感染前に、培地中に最後の4日間だけ加えた。形質転換細胞から再生された植物で、ナイアシンアミドで培養した細胞より得られたものは、導入遺伝子の発現の特徴に関しての変動がより少ないのと同様に、コピ−数が低いということが観察された(結果は表4に要約してある)。ナイアシンアミド存在下での形質転換により得たカルスより再生された5つの植物、及びナイアシンアミド非存在下の形質転換により得たカルスより再生された5つの植物を、サザンハイブリダイゼーションにより分析して、導入遺伝子のコピ−数を決定し、更に繁殖性の表現形を分析した。非処理グル−プにおいて、がなりの数の再生植物がその核内DNAに導入遺伝子が組み込まれていないことが証明された。
【表4】

【0097】
例4:培地中にナイアシンアミドを使用して行った、アブラナの、アグロバクテリウム仲介性形質転換
ブラッシカ・ナパス(Brassica napus)の胚軸外植体を、例3に記載されているようにして得た。それぞれが200の胚軸外植体を有する4つのグループを次のように処理した:
ナイアシンアミド無処理(この場合は表4中で「なし」と表示);
アグロバクテリウム感染の1日前に250mg/lのナイアシンアミドで処理(この場合には「前」と表示);
感染中に250mg/lのナイアシンアミドで2日間処理(最中);
アグロバクテリウム感染後に250mg/lのナイアシンアミドで1日間処理(後)。
【0098】
胚軸外植体は全て、T-DNAベクタpTHW142と、Ti-プラスミドpMP90(Koncz and Shell,1986,上記)(またはその誘導体)、を有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスのC58C1Rif株で感染させた。
【0099】
プラスミドpTHW142は、以下のキメラ遺伝子を具備したT-DNAを有するベクタである:
・PSSU-bar-3'g7
・p35S-uidA-3'35S
ここでuidAは、b-グルクロニダ−ゼ(Jefferson et al.,1986,Proc.Natl.Acad.Sci.USA83:8447-8451)をコードするDNAであり、3'35Sは、カリフラワ−モザイクウイルスの35S転写物の3'非翻訳末端である。
【0100】
pTHW142のT-DNAの完全な配列は、配列認識番号5に記載されている。
【0101】
アグロバクテリウム感染の後に、胚軸外植体を選択培地A5、もし適切であれば250mg/lのナイアシンアミドを有するA5に移した。ナイアシンアミドを有する培地に置かれた胚軸外植体を、1日後にナイアシンアミドフリ−選択培地A5に移した。選択培地上で5週間の後に、形質転換したカルスの数を計測した。得られたカルス内でのb-グルクロニダ−ゼ発現が、確立されているプロトコ−ルにより確認された(Jefferson et al.,1986)。結果は、表5に要約した。アグロバクテリウム感染前、または後でのナイアシンアミド処理は、形質転換効率に顕著に影響した。
【表5】

【0102】
本願で引用した発行物は全て、参照することにより本願に援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物のインビトロでの農学的適性(agronomical fitness)を評価する方法であって、以下の工程を具備する方法:
a)前記植物の細胞又は組織をストレス条件に供すること;
b)前記植物の前記細胞又は前記組織において、農学的適性を評価するために、ミトコンドリアの電子伝達鎖における電子の流れを測定すること;
c)前記測定値を、対照植物の移植片又は対照植物物質のものと、前記植物の移植片と同じ条件下で比較すること、ここにおいて、電子の流れの値が大きいほど前記植物に適する。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記ミトコンドリアの電子伝達鎖における前記電子の流れが、前記ストレス条件に供された前記細胞又は前記組織の、塩化2,3,5-トリフェニルテトラゾリウムを減少させる能力を測定することによって決定されることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、前記ミトコンドリアの電子伝達鎖における電子の流れが、前記ストレス条件に供された前記細胞又は組織の、3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5ジフェニル-2H-テトラゾリウムを減少させる能力を測定することによって決定されることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載の方法であって、前記ストレス条件が、塩性ストレス、浸透圧性ストレス、ポリ-ADP-リボースポリメラーゼの阻害剤の存在下におけるインキュベーションによるストレス、極度な温度によるストレス、化学薬品の致死量以下の投与量での処理によるストレス、除草剤の致死量以下の投与量での処理によるストレス、重金属の致死量以下の投与量での処理によるストレス、又はUV照射によるストレスから選択される方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、前記ストレス条件が塩性ストレスである方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法であって、前記塩性ストレスが、10 mM〜80 mMのK-リン酸を含有するK-リン酸バッファー中でのインキュベーションによって誘導されることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法であって、前記ストレス条件が浸透圧性ストレスである方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、前記浸透圧性ストレスが、約2%のスクロースを含有するバッファー中でのインキュベーションによって誘導されることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法であって、前記ストレス条件がポリ-ADP-リボースポリメラーゼの阻害剤の存在下におけるインキュベーションである方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法であって、前記ポリ-ADP-リボースポリメラーゼの阻害剤が、ナイアシンアミド、ピコリンアミド、5-メチルニコチンアミド、メチルキサンチン、チミジン、ベンズアミド、3-メトキシベンズアミド、3-アミノベンズアミド、2-アミノベンズアミド、ピラジンアミド、テオブロミン及びテオフィリンから選択される方法。
【請求項11】
請求項9に記載の方法であって、前記阻害剤が、約100 mg/L〜約1,000 mg/Lの濃度で存在することを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法であって、前記細胞または組織が、カルス、胚軸移植片、シュート(shoots)、葉ディスク又は全葉(whole leaves)から選択される方法。
【請求項13】
請求項1に記載の方法であって、前記植物がトランスジェニック植物である方法。
【請求項14】
請求項1に記載の方法であって、前記植物がアブラナ属の植物である方法。

【公開番号】特開2007−89587(P2007−89587A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−309591(P2006−309591)
【出願日】平成18年11月15日(2006.11.15)
【分割の表示】特願平9−508093の分割
【原出願日】平成8年7月31日(1996.7.31)
【出願人】(506382688)バイエル・バイオサイエンス・エヌ・ブイ (1)
【Fターム(参考)】