説明

PCグラウト材の寒中養生施工システム及び施工方法

【課題】寒中でしかも高橋脚長大橋等をプレストレスコンクリートを使用して建設する場合において、コストがかからず簡単に、該コンクリート中に埋設されたシース内に充填されたグラウト材の凍結を防止するためのグラウト材養生システムおよび養生方法を提供する。
【解決手段】グラウト材Gの温度を測定するための温度測定装置10と、該グラウト材Gの温度を所定の温度以上に保つための加温装置12と、該温度測定装置10によって測定された温度に基づいて、前記加温装置12を制御する制御装置11とを備え、該加温装置12をプレストレスコンクリート箱桁(コンクリート構造体)2の内側の空洞部に設け、該コンクリート構造体の内部から加温することにより、該コンクリート構造体の外部に防寒部材等を設けることなくグラウト材Gの凍結を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造体中に埋設され、PC鋼材が挿入されるシース内に充填されたPCグラウト材の養生システム及び養生方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、コンクリート構造体中に埋設されたシース内にPC鋼材を通し、PC鋼材の緊張によって該構造体にプレストレスをかけた後にシース内にPCグラウト材を充填することにより、橋梁等の構造体を建設する方法が知られている。
この場合、PCグラウト材は充填時には流動性が必要であるが、充填後は十分に強度を発現させる必要がある。例えば、厳冬時期における橋梁等の構造体を建設する場合、一般的にPCグラウト材の十分な強度を発現させるためには、PCグラウト材を充填後5℃以上で5日間、耐寒性のPCグラウト材を用いた場合でも0℃以上で一週間養生させることが必要となる。ここで、PCグラウト材の十分な強度を発現させるための温度、すなわち前述した所定の温度、0〜5℃を強度発現最低温度(以下「養生時最低温度」という)といい、厳冬時期におけるPCグラウト材の養生施工には、この養生時最低温度の管理が重要になる。
【0003】
そして、厳冬時期において橋梁等の構造体を建設する場合には、気温が低いために養生時最低温度が保てず、PCグラウト材が凍結し所定の強度が得られなかったり、凍結したためにPCグラウト材が膨張してシースに沿って周囲のプレストレスコンクリートにひび割れが生じる等のおそれがあった。そのため、PCグラウト材の養生時最低温度を保つために、PCグラウト材が充填されたシース周辺部分のコンクリート温度を養生時最低温度に保つ必要があった。
【0004】
そこで、図6に示したようにシース3内にグラウト材を充填する際に、PCグラウト材が充填されたシース3が埋設されたプレストレスコンクリート箱桁2(コンクリート構造体)全体を防寒部材4で囲い(覆い工)、プレストレスコンクリート箱桁2の外周に加温装置12(ジェットヒータ等)を設けて、プレストレスコンクリート箱桁2全体を保温するとともにシース周辺部分のコンクリートも保温し、その保温温度を確認しながら、PCグラウト材の養生時最低温度を保ちつつ橋梁等の構造体を建設していた。
【0005】
しかし、厳冬時期に高橋脚長大橋を建設する場合においては、上述したPCグラウト材の養生時最低温度を保ちながら橋梁等を施工する場合は、高い場所に長い距離で防寒部材4を設けることとなるため(覆い工)、大規模で手間のかかる作業が必要で、現実的には、高橋脚長大橋を建設する場合、橋梁全体を防寒部材で覆うことは不可能であった。また仮に覆うとしても莫大なコストと手間がかかることとなる。そのため厳冬時期には高橋脚長大橋の橋梁等を施工することを避けざるを得なかった。
【0006】
そこで、厳冬時期においてもPCグラウト材の養生時最低温度を保ちながら橋梁等を建設できるようにするため、特許文献1および特許文献2のようにシースの外周に電熱線を螺旋状に巻き付けたり、シースに対して平行に鉄筋を配設し該鉄筋の下部に電熱線を設けたりして、電熱線に通電することにより、シース内を加温してPCグラウト材の凍結を防止する技術が提案されている。
【0007】
ところが、特許文献1および特許文献2に記載された技術では、シース自体に電熱線を巻き付けたり、シースに対して平行に鉄筋を配設し鉄筋の下部に電熱線を設けたりするため、コンクリート構造体の中に連続的に電熱線という異物を配置することとなり、管理方法も複雑で手間とコストがかかる上に、電熱線に近い場所と遠い場所とに温度勾配が生じ必ずしも均一にPCグラウト材を加温することができないという欠点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−332746号公報
【特許文献1】特開2006−159447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような背景技術及び背景技術が有する問題点を踏まえてなされたものであって、その目的は、特に、寒中でしかも高橋脚長大橋等をプレストレスコンクリートを使用して建設する場合において、コストがかからず簡単に、PCグラウト材の養生時最低温度を管理しながら、シース内に充填されたPCグラウト材の凍結を防止するためのPCグラウト材寒中養生施工システムおよび施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る第1の態様は、コンクリート構造体中に埋設され、PC鋼材が挿入されるシース内に充填されたPCグラウト材の寒中養生施工システムであって、前記PCグラウト材を充填した前記シース周辺のコンクリート部分の温度を測定するための温度測定装置と、前記グラウト材の温度を所定の温度以上に保つための加温装置と、を備え、前記温度測定装置によって測定された温度に基づいて、前記加温装置を制御するように構成され、前記加温装置がコンクリート構造体内側の空洞部のみに設けられていることを特徴とするグラウト材の寒中養生システムに関するものである。
【0011】
本態様によれば、PCグラウト材を充填した前記シース周辺のコンクリート部分の温度を測定することにより、充填されたPCグラウト材の養生温度を的確に把握することができ、その測定された温度に基づいて、PCグラウト材の温度を所定の温度以上に保つための加温装置がコンクリート構造体内側の空洞部に設けられているため、コンクリート構造体内部から加温するだけで、PCグラウト材の温度を所定の温度以上に保つことができる。
さらに、加温装置を制御するように構成されているので、確実にPCグラウト材の温度を所定の温度以上に加温し、PCグラウト材の凍結を確実に防止することができる。
【0012】
本発明に係る第2の態様は、コンクリート構造体中に埋設され、PC鋼材が挿入されるシース内に充填されたPCグラウト材の寒中養生施工システムであって、前記PCグラウト材を充填した前記シース周辺のコンクリート部分、前記コンクリート構造体の外側部分およびコンクリート構造体の内側に設けられた空洞部の温度をそれぞれ測定するための温度測定装置と、前記グラウト材の温度を所定の温度以上に保つための加温装置と、を備え、前記温度測定装置によって測定されたそれぞれの温度に基づいて、前記加温装置を制御するように構成され、前記加温装置がコンクリート構造体内側の空洞部のみに設けられていることを特徴とするグラウト材の寒中養生施工システムに関するものである。
【0013】
本態様によれば、PCグラウト材を充填した前記シース周辺のコンクリート部分の温度を測定するとともに、コンクリート構造体の外側部分(外気)と加温するコンクリート構造体内側の空洞部の温度との関係を事前に把握し、その値に基づいてPCグラウト材の充填位置の温度を所定の温度以上に保つための加温装置を有しているため、確実にPCグラウト材の凍結を防止することができる。
【0014】
また、本態様によれば、該コンクリート構造体の内側の空洞部に加温装置を設けることで、シース内に電熱線等を設ける必要もなく、そして、コンクリート構造体の内側から加温するのでコンクリート構造体を通じてシース内に充填されたPCグラウト材全体に熱が均一に行き渡る効果を有している。
【0015】
本発明に係る第3の態様は、コンクリート構造体中に埋設され、PC鋼材が挿入されるシース内に充填されたPCグラウト材の寒中養生施工システムであって、前記PCグラウト材を充填した前記シース周辺のコンクリート部分、前記コンクリート構造体の外側部分およびコンクリート構造体の内側に設けられた空洞部の温度を測定するための温度測定装置と、前記グラウト材の温度を所定の温度以上に保つための加温装置と、を備え、前記温度測定装置によって測定されたそれぞれの温度に基づいて、前記加温装置を制御するように構成され、前記コンクリート構造体外側部分に防寒部材が設けられていない状態において、前記加温装置がコンクリート構造体内側の空洞部のみに設けられていることを特徴とするグラウト材の寒中養生施工システムに関するものである。
【0016】
本態様によれば、高橋脚長大橋を建設する場合などのようにコンクリート構造体外側部分に防寒部材が設けらない時であっても、つまり、この様な原因でコンクリート構造体外側部分に防寒部材が設けられていない状態でも、第3の態様と同様の効果を得ることができる。さらに、コンクリート構造体の外側を防寒部材等で覆う手間が省け、その結果、建設コストを抑えることができる。
【0017】
本発明に係る第4の態様は、第1から第3の態様のいずれか1つにおいて、前記コンクリート構造体の外側部分に防寒部材が設けられていることを特徴とするグラウト材の寒中養生施工システムに関するものである。
本態様によれば、第1から第3の態様のいずれか1つの態様において、コンクリート構造体内部の空洞部側からコンクリート構造体を暖めているので、コンクリート構造体の外側部分にわざわざ加温装置を設けなくても、防寒部材を設けるだけでコンクリート構造体全体を保温することができ、PCグラウト材の凍結を防止することができる。
【0018】
本発明に係る第5の態様は、コンクリート構造体中に埋設され、PC鋼材が挿入されるシース内に充填されたPCグラウト材の寒中養生施工方法であって、前記PCグラウト材を充填した前記シース周辺のコンクリート部分、前記コンクリート構造体外側部分およびコンクリート構造体の内側に設けられた空洞部の温度をそれぞれ測定し、前記測定した各温度の温度変化に基づいて、前記シース内に充填されたPCグラウト材が所定の養生時最低温度以上に保たれるように、コンクリート構造体内側に設けられた空洞部の温度を調整することを特徴とするPCグラウト材の寒中養生施工方法に関するものである。
【0019】
本態様によれば、PCグラウト材を充填した前記シース周辺のコンクリート部分、コンクリート構造体の外側部分(外気)及び加温するコンクリート構造体内側の空洞部のそれぞれ温度の関係を事前に把握し、その値に基づいてPCグラウト材の充填位置の温度を所定の温度以上に保つための加温装置を有しているため、確実にPCグラウト材の凍結を防止することができる。
【0020】
本発明に係る第6の態様は、第5の態様において、前記測定した各温度の温度変化と予め測定されたシース周辺のコンクリート部分、コンクリート構造体外側部分およびコンクリート構造体の内側に設けられた空洞部の各温度の温度変化の傾向とに基づいて、前記シース内に充填されたPCグラウト材が所定の養生時最低温度以上に保たれるように、コンクリート構造体内側に設けられた空洞部の温度を調整することを特徴とするPCグラウト材の寒中養生施工方法に関するものである。
【0021】
本態様によれば、現在PCグラウト材の養生施工を行っている現場のシース周辺のコンクリート部分、コンクリート構造体外側部分およびコンクリート構造体の内側に設けられた空洞部の各温度を測定し、該測定された温度の変化と予め他の現場(例えば現在の現場と近い気象条件の現場)で測定されたシース周辺のコンクリート部分、コンクリート構造体外側部分およびコンクリート構造体の内側に設けられた空洞部の各温度の温度変化の傾向とに基づいて、コンクリート構造体内側に設けられた空洞部の温度を調整することが可能となるので、空洞部の温度調整の判断がし易くなり適切にPCグラウト材が所定の養生時最低温度以上に保たれるようすることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、寒中でコンクリート構造体中に埋設されたシース内にPC鋼材を通し、PC鋼材の緊張によってプレストレスをかけた後にシース内にグラウト材を充填するに際して、コストがかからず簡単に、PCグラウト材養生時最低温度を管理しながら、グラウト材の凍結を防止し、且つグラウト材を養生することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明を実施して完成した橋梁の側面図。
【図2】本発明を実施して完成した橋梁の一部拡大図及びPC鋼材が固定具でコンクリートブロックの突起部に固定されている状態の拡大図。
【図3】本発明に係る第1の実施態様を適用した橋梁を構成するプレストレスコンクリート箱桁の断面図およびプレストレスコンクリート箱桁の一部拡大図。
【図4】本発明の第2の実施態様を表した概念図。
【図5】本発明をプレストレスコンクリート箱桁の上部の横に張り出した部分に適用した場合のプレストレスコンクリート箱桁の断面図。
【図6】グラウト材を養生するための従来の実施態様を表した断面図。
【図7】外気温度とプレストレスコンクリート箱桁内のシース周辺のコンクリート部分の温度との関係を示すグラフ。
【図8】外気温度、プレストレスコンクリート箱桁内のシース周辺のコンクリート部分およびプレストレスコンクリート箱桁の内部空間の温度との関係を示すグラフ
【図9】外気温度、プレストレスコンクリート箱桁内のシース周辺のコンクリート部分およびプレストレスコンクリート箱桁の内部空間の温度との関係を示すグラフ(測定した位置が2箇所の場合)
【図10】PCグラウト材の加熱養生終了後の外気温度、プレストレスコンクリートのシース周辺のコンクリート部分およびプレストレスコンクリートの内部空間の温度との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本願発明を実施するための形態について、図面を参照にしながら詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0025】
図1は、一例として本発明を実施して完成した橋梁1(Pの範囲)の側面図、図2は、橋梁1の領域Pの中間部分までの範囲P1の部分を拡大した拡大図である。
【0026】
図3は本発明に係る第1の実施態様である。
図3(A)には、本発明を適用した、橋梁1を構成するプレストレスコンクリート箱桁2(箱型桁コンクリート構造体)の断面図が、図3(B)には、シース3部分の一部拡大図が示されている。なお本発明に使用されるプレストレスコンクリート箱桁2は、内部に空洞部Sが設けられたものである。
【0027】
図3より、プレストレスコンクリート箱桁2は、コンクリート中に埋め込まれたシース3内にPC鋼材31を通してPC鋼材31の緊張によってプレストレスをかけた後、シース3内にグラウト材Gを充填することにより、図1に示したように橋梁1(P)を構成している。
【0028】
図3(A)において、空洞部Sには加温装置12が設けられている。加温装置12としてはジェットヒーター、ストーブ等の既存の装置が使用できる。また加温装置12は、グラウト材Gの周辺温度を測定するためにシース3周辺のコンクリート部分に設けられた温度測定装置10(図3(B))によって測定された温度に基づき、加温装置12を制御する自動または手動の制御装置11と繋げることができる。
【0029】
温度測定装置10は、図3(B)に示すようにシース3周辺のコンクリート部分に埋め込まれており、シース3周辺のコンクリート部分の温度を測定できるようになっている。温度測定装置10としては例えば熱電対とその自動記録装置等が挙げられるが、温度測定ができるものであれば特に限定されない。シース3周辺のコンクリート部分の温度を測定することにより、PCグラウト材の養生時最低温度を管理することが可能になる。
さらに、図3(A)に示すように温度測定装置10は、空洞部S内及びプレストレスコンクリート箱桁2の外側部分にも設置されている。温度測定装置10は、プレストレスコンクリート箱桁2の上部より横に張り出した一方の部分の上床面側に設けられているが、この場所に限定されずプレストレスコンクリート箱桁2の外側部分の温度が測定できるところであれば何処でもよい。
【0030】
図7には、PCグラウト材の養生を行わない状態での、外気温度(図3(A)において、プレストレスコンクリート箱桁2の上部より横に張り出した一方の部分の上床面側にて測定)とコンクリート温度(シース3の周辺部分のコンクリート部分にて測定)との関係が示されている。図7より、外気温度の変化は激しいが、それに比べてコンクリート温度の変化は比較的穏やかな変化をしている。つまり、コンクリート温度は日中の温度と夜間の温度の平均的な温度を保ちながら変化する特性がある。また、コンクリート温度の変化は外気温度より若干遅れながら変化する傾向があることがわかる。このような特性を知るためにも、外気温度とコンクリート温度を測定するのは重要であり、さらにこのようなデータを予め測定し保存しておくことにより、同じような気象条件で後日施工を行う際に参考とすることで、空洞部の温度調整の判断がし易くなり、的確にPCグラウト材を養生することができる。
【0031】
次に、実際にPCグラウト材(耐寒性のPCグラウト材を使用)の養生を行ったときの結果を示したのが図8である。
図8は、PCグラウト材の養生時最低温度を0℃以上に保つため、プレストレスコンクリート箱桁2の外側部分温度変化に合わせて加温装置12を作動させた際の、プレストレスコンクリート箱桁2の内側の空洞部分S内の温度の変化を示したグラフである。
【0032】
グラフより、プレストレスコンクリート箱桁2の外側部分、空洞部S内の温度およびコンクリート温度(シース3の周辺部分のコンクリート部分の温度)を測定し、その温度変化を管理することで、加温装置12の作動を制御して空洞部S内の温度を調整し、PCグラウト材の養生時最低温度を0℃以上に保っている。つまり、本発明は、PCグラウト材の養生時最低温度を適切な温度に保つために、外気温度、コンクリート温度およびプレストレスコンクリート箱桁2の内側の空洞部分S内の温度をそれぞれ観測管理している。
【0033】
よって、温度測定装置10を設置する場所は、上述したように、PCグラウト材が充填されたシース3周辺のコンクリート部分、プレストレスコンクリート箱桁2の外側部分およびプレストレスコンクリート箱桁2の空洞部S内の3ヶ所が好ましい。そして、本発明は前述した3ヶ所の温度を測定し管理することにより、PCグラウト材の養生時最低温度を適正な温度に保持することができる。
【0034】
なお図9は、図8とは違う日にPCグラウト材の養生を行った際、別々位置(2箇所)のプレストレスコンクリート箱桁2において、温度測定装置10をシース3周辺のコンクリート部分、該コンクリート箱桁2の外側部分および空洞部S内に設置して、それぞれの温度を測定しその変化を示したものである。
図9は、一般のPCグラウト材の養生を行ったときの結果であり、PCグラウト材の養生時最低温度を5℃以上に保つようにしたものである。
また、図10は、PCグラウト材の養生が終了し、その後空洞部S内の加温装置12を停止した後の、外気温度、空洞部S内の温度およびコンクリート温度(3箇所)の関係を示したグラフである。
【0035】
図7から図10に示したように、予め他の現場(施工時期や場所が異なる)で施工されたPCグラウト材の養生時のデータを保存することにより、例えば、現場と同様の気象条件でPCグラウト材の養生を行う場合、保存したデータを現在の現場で利用することで、空洞部の温度調整の判断がし易くなり、より一層適切にPCグラウト材の養生時最低温度を管理することが可能となる。又、同一現場で施工する前の同様気象条件でのデータを利用して管理することも可能である。
ここで、気象条件は、厳冬期の期間(例えば12月〜3月)、天気(晴れ、曇り、雨、雪等)、風等の状況により、全く同様の条件は存在しない。しかし、施工現場の状況と近い条件になるものは存在し、保存してある複数のPCグラウト材の養生時のデータから、ある程度のパターン(PCグラウト材養生時に測定した各温度の温度変化の傾向)を知ることができるので、その結果、本発明は空洞部の温度調整の判断がし易くなり適切にPCグラウト材の養生を行うことができるという効果を有している。
【0036】
上述した温度測定装置10によって測定されたそれぞれの測定値は、信号等によって制御装置11に送られる。そして、制御装置11によって、所定の温度以下であれば加温装置12が作動し、所定の温度以上であれば加温装置12が停止する。なお、制御装置11の設置場所は特に限定されないが、空洞部S内に設けるのが好ましい。
【0037】
なお、制御装置11の代わりに、温度測定装置10によって測定されたそれぞれの測定値に基づいて、作業者が加温装置12の制御を行っても良い。
【0038】
ここで、一般的なPCグラウト材Gの養生について説明する。
【0039】
日中平均気温が4℃以下となる寒中に、PCグラウト材Gをシース3内に充填すると、PCグラウト材Gが凍結し所定の強度が得られなかったり、凍結の結果PCグラウト材Gが膨張してシース3に沿って周囲のプレストレスコンクリート2にひび割れが発生する場合がある。
【0040】
そこで、PCグラウト材Gの注入時のシース3(ダクトの部分)の温度が5℃以上で、PCグラウト材Gを注入し充填した時のPCグラウト材の温度が10〜25℃の範囲にあり、その後PCグラウト材Gの温度を5日間、5℃以上に保つこと(養生すること)ができれば水和反応が進んで、所定の硬化したPCグラウトが得られることが知られている。なお、高性能減水剤を用いたPCグラウト材(耐寒性グラウト材)を使用すれば、グラウト材Gの温度を1週間、0℃以上に保てば(養生すれば)同様の効果が得られる。
【0041】
本発明では、シース3周辺のコンクリート部分、プレストレスコンクリート2箱桁の外側部分およびプレストレスコンクリート2箱桁の空洞部S内の温度を温度測定装置10によって測定し、測定されたそれぞれの温度に基づき、加温装置12の作動を制御する制御装置11を備えているので、PCグラウト材(一般のグラウト材)Gを充填後、PCグラウト材Gの温度を5日間5℃以上、あるいは高性能減水剤を用いたPCグラウト材(耐寒性グラウト材)では1週間0℃以上、に保つこと(養生すること)を容易実行することができる。
なお、PCグラウト材の温度を直接測定せずにPCグラウト材が充填されたシース3周辺のコンクリート部分の温度を測定するのは、PCグラウト材の温度がこの部分の温度の影響を受け易いからである。例えば、PCグラウト材の温度は周囲のコンクリート部分の温度が低下することにより低下する。よって、PCグラウト材が充填されたシース3周辺のコンクリート部分の温度を測定することでPCグラウト材の温度を管理することができる。
【0042】
また、プレストレスコンクリート箱桁2の内側にある空洞部Sに、加温装置12を設けているので、シース3内に電熱線等の加温手段を設ける必要もなく、プレストレスコンクリート箱桁2の外側を防寒部材等で覆う手間が省け、大幅に建設コストを抑えることができる。
さらに、プレストレスコンクリート箱桁2の内側にある空洞部Sは周囲がほとんど閉ざされた密閉状態にあるため、外気からも遮断され、内部を効率的に保温(加熱暖房)することができるので、プレストレスコンクリート箱桁2を全体的に均一に加温することが可能となる。
【0043】
図2(A)には、図1の領域P1の部分(橋梁1の領域Pの中間部分までの範囲)を拡大した状態が示されている。橋梁P1は、前述したプレストレスコンクリート箱桁2が連結して架設されることにより構築されている。
また、図2(B)には、PC鋼材31が固定具22でコンクリートブロックの突起部21に固定された状態の拡大図が示されている。
プレストレスコンクリート2箱桁は、各コンクリートブロックを連結し、各コンクリートブロック中に埋め込まれたシース3内にPC鋼材31を通し、該PC鋼材の一端をコンクリートブロックの突起部21を通じコンクリートブロックの内部にある定着具22で固定し、他端は図示しないジャッキ等に接続して、ジャッキを締めることによりPC鋼材31を緊張させてプレストレスをかけた後、シース3内にPCグラウト材Gを充填することにより完成する。
【0044】
図2において、各プレストレスコンクリート箱桁2の内側には空洞部Sがあり、空洞部Sには加温装置12および制御装置11が設けられている(図2の斜線部分)。また、プレストレスコンクリート箱桁2のシース3周辺のコンクリート部分、外側部分および空洞部S内には温度測定装置10が設けられ、制御装置11に繋がっている。なお、加温装置12、制御装置11および温度測定装置10を設置するプレストレスコンクリート箱桁2内での位置は適宜決めることができ、また各装置はプレストレスコンクリート箱桁2の内部空間を移動させる構成としても良い(図2の点線部分)。
また、シース3の埋め込み位置によっては外気の影響を受ける場合があるが、その場合は加温手段4のパワーを上げて内部からの加温を強めればよい。
さらに、本発明は、空洞部Sを有するプレストレスコンクリート箱桁2が連結して架設されるような場合、橋梁の内側部分から加温装置12によってシース3を加温することができるので、橋梁が高橋脚長大橋であっても、橋梁全体を防寒部材で覆う必要はない。
【0045】
図4は本発明にかかる第3の実施態様である。
本態様は第1の実施態様にプレストレスコンクリート箱桁2全体を防寒部材4で覆う構成とした態様である。
本態様においても、加温装置12をプレストレスコンクリート箱桁2の空洞部S内のみに設けるだけで、わざわざプレストレスコンクリート箱桁2の外部に加温装置12を何台も設けることなく、PCグラウト材Gの養生時最低温度を保つことが可能となる。
【0046】
図5は本発明にかかる第4の実施態様である。
図5に示された態様は、プレストレスコンクリート箱桁2の上部より横に張り出した一方の部分Xの上床面側にも防寒部材5を設け、その中に温度測定装置100、加温手段制御装置110及び加温手段120を設置した態様である。
【0047】
本態様では、温度測定装置100、加温手段制御装置110及び加温手段120を、プレストレスコンクリート箱桁2の上部より横に張り出した一方の部分Xの上床面側にも設けることで、このX部分のPCグラウト材に対しても養生を実行することができる。なお、X部分の上床面側のみ、すなわち防寒部材5を架設しやすい上床面側一面だけを防寒部材5で覆えばよいので、X部分の全体を覆うのに比べて作業の手間を著しく軽減することが可能となる。
なお、横に張り出した他方の部分Yの上床面側にもXの上床面側と同様に、防寒部材5を設け、その中に温度測定装置100、加温手段制御装置110及び加温手段120を設置することとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0048】
上述したように本発明は、特に、寒中でしかも高橋脚長大橋等をプレストレスコンクリート箱桁を使用して建設する場合において、該コンクリート中に埋設されたシース内に充填されたPCグラウト材の養生時最低温度を保つために利用することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 橋梁 2 プレストレスコンクリート箱桁(コンクリート構造体) 3 シース 4、5 防寒部材 10、100 温度測定装置 11、110 段制御装置 12、120 加温装置 21 突起部 22定着具 31 PC鋼材 G PCグラウト材 S空洞部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造体中に埋設され、PC鋼材が挿入されるシース内に充填されたPCグラウト材の寒中養生施工システムであって、
前記PCグラウト材を充填した前記シース周辺のコンクリート部分の温度を測定するための温度測定装置と、
前記グラウト材の温度を所定の温度以上に保つための加温装置と、を備え、
前記温度測定装置によって測定された温度に基づいて、前記加温装置を制御するように構成され、
前記加温装置がコンクリート構造体内側の空洞部のみに設けられていることを特徴とするグラウト材の寒中養生施工システム。
【請求項2】
コンクリート構造体中に埋設され、PC鋼材が挿入されるシース内に充填されたPCグラウト材の寒中養生施工システムであって、
前記PCグラウト材を充填した前記シース周辺のコンクリート部分、前記コンクリート構造体の外側部分およびコンクリート構造体の内側に設けられた空洞部の温度をそれぞれ測定するための温度測定装置と、
前記グラウト材の温度を所定の温度以上に保つための加温装置と、を備え、
前記温度測定装置によって測定されたそれぞれの温度に基づいて、前記加温装置を制御するように構成され、
前記加温装置がコンクリート構造体内側の空洞部のみに設けられていることを特徴とするグラウト材の寒中養生施工システム。
【請求項3】
コンクリート構造体中に埋設され、PC鋼材が挿入されるシース内に充填されたPCグラウト材の寒中養生施工システムであって、
前記PCグラウト材を充填した前記シース周辺のコンクリート部分、前記コンクリート構造体の外側部分およびコンクリート構造体の内側に設けられた空洞部の温度を測定するための温度測定装置と、
前記グラウト材の温度を所定の温度以上に保つための加温装置と、を備え、
前記温度測定装置によって測定されたそれぞれの温度に基づいて、前記加温装置を制御するように構成され、
前記コンクリート構造体外側部分に防寒部材が設けられていない状態において、前記加温装置がコンクリート構造体内側の空洞部のみに設けられていることを特徴とするグラウト材の寒中養生施工システム。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載されたグラウト材の寒中養生施工システムにおいて、
前記コンクリート構造体の外側部分に防寒部材が設けられていることを特徴とするグラウト材の寒中養生施工システム。
【請求項5】
コンクリート構造体中に埋設され、PC鋼材が挿入されるシース内に充填されたPCグラウト材の寒中養生施工方法であって、
前記PCグラウト材を充填した前記シース周辺のコンクリート部分、前記コンクリート構造体外側部分およびコンクリート構造体の内側に設けられた空洞部の温度をそれぞれ測定し、前記測定した各温度の温度変化に基づいて、前記シース内に充填されたPCグラウト材が所定の養生時最低温度以上に保たれるように、コンクリート構造体内側に設けられた空洞部の温度を調整することを特徴とするPCグラウト材寒中養生施工方法。
【請求項6】
請求項5に記載されたPCグラウト材の寒中養生施工方法において、
前記測定した各温度の温度変化と予め測定されたシース周辺のコンクリート部分、コンクリート構造体外側部分およびコンクリート構造体の内側に設けられた空洞部の各温度の温度変化の傾向とに基づいて、前記シース内に充填されたPCグラウト材が所定の養生時最低温度以上に保たれるように、コンクリート構造体内側に設けられた空洞部の温度を調整することを特徴とするPCグラウト材の寒中養生施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−32843(P2011−32843A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183191(P2009−183191)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(000148346)株式会社錢高組 (67)
【Fターム(参考)】